(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の位相調整部の入力端子に接続され、前記所定の周波数帯域の上限周波数の4分の1波長の長さの1/4波長伝送線路をさらに備える、請求項1に記載のフィルター回路。
【背景技術】
【0002】
移動体基地局などにおいては、マイクロ波が電力増幅されて送信される場合がある。移動体通信に使用される周波数に着目すると、LTE(Long Term Evolution)や3GPP(3rd Generation Partnership Project)などの各規格ごとに、また、各国ごとに、異なる周波数が使用される。そのため、最近は、運用コストや製造コストの低減のために、複数の周波数帯域に対応する広帯域のマイクロ波回路素子が求められている。
【0003】
マイクロ波回路素子の中でも、特に、電力増幅器は、増幅素子の非線形性により生じる入力信号の基本波周波数の整数倍の高次高調波の信号をフィルタリングするフィルター回路を導入することがある。このような電力増幅器に導入されるフィルター回路には、広帯域特性を有することが望まれている。
【0004】
ところで、マイクロ波の電力増幅に用いられる電力増幅器としては、A級電力増幅器、AB級電力増幅器などが知られている。しかし、AB級電力増幅器は、大きな電力を消費するため、省エネルギーの観点から電力変換効率の改善が望まれている。
【0005】
電力変換効率が高い電力増幅器としては、F級電力増幅器、逆F級電力増幅器などが知られている。逆F級(F級)電力増幅器では、消費電力を削減するために、偶数次(奇数次)高調波の信号に対しては開放状態となり、奇数次(偶数次)高調波の信号に対しては短絡状態となるようにインピーダンス整合を行うことが必要である。以下、このようなインピーダンス整合を「逆F級(F級)のインピーダンス条件を満たす」と称する。
【0006】
図1は、特許文献1に記載のF級電力増幅器の構成を示す回路図である。
【0007】
図1に示すように、特許文献1に記載のF級電力増幅器においては、トランジスタ1の出力端子6に、長さ1/4波長、特性インピーダンスZ
To(≒(Z
TrZ
O)
1/2)の4分の1波長線路2が直列に接続されている。また、特性インピーダンスZ
Oの伝送路7と4分の1波長線路2とが接続される接続点5には、長さ1/8波長、特性インピーダンスZ
T1(=60Ω)の8分の1波長線路3と、長さ1/12波長、特性インピーダンスZ
T2(=60Ω)の12分の1波長線路4と、が設けられている。
【0008】
なお、特許文献1に記載のF級電力増幅器においては、4分の1波長線路2と、8分の1波長線路3と、12分の1波長線路4と、によりフィルター回路が構成されている。
【0009】
8分の1波長線路3により接続点5において、第2高調波は短絡となり、12分の1波長線路4により接続点5において、第3高調波も短絡となる。4分の1波長線路2は、第2高調波に対して2分1の波長となるため、トランジスタ1の出力端子6において、第2高調波のインピーダンスは零である。また、4分の1波長線路2は、第3高調波に対して4分の3波長線路となるため、出力端子6における第3高調波のインピーダンスは無限大となっている。
【0010】
このように、上記のフィルター回路により、2次高調波、3次高調波に対するインピーダンスを設定することで、F級のインピーダンス条件を満たし、電力変換効率の高効率化を図ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、特許文献1に記載のF級電力増幅器においては、フィルター回路により、8分の1波長線路3での2次高調波の短絡状態、12分の1波長線路4での3次高調波の短絡状態、4分の1波長線路2での2次高調波の短絡状態へのインピーダンス変換、および、3次高調波の開放状態へのインピーダンス変換を行うことが可能である。
【0013】
しかし、特許文献1に記載のF級電力増幅器においては、短絡状態、開放状態へのインピーダンス変換が可能な周波数が、2次高調波、3次高調波の近傍の周波数のみであり、狭帯域なF級電力増幅器となってしまうという問題がある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、広帯域に渡って、高調波の信号に対して短絡状態または開放状態となるフィルター回路、これを用いたF級電力増幅器および逆F級電力増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のフィルター回路は、
所定の周波数帯域の入力信号をフィルタリングするフィルター回路であって、
前記所定の周波数帯域の上限周波数の4分の1波長の長さの1/4波長オープンスタブと、
前記1/4波長オープンスタブの入力端子に接続され、負の群遅延特性を有する第1の位相調整部と、を備える。
【0016】
本発明の第1のF級電力増幅器は、
前記フィルター回路と、
前記入力信号の基本波周波数帯域の信号成分と、前記基本波周波数帯域の整数倍の高調波周波数帯域の信号成分と、を含む信号を出力する増幅素子と、を備え、
前記フィルター回路は、前記増幅素子の出力端子に前記第1の位相調整部の入力端子が接続され、前記増幅素子から出力された信号が前記入力信号として入力され、
前記所定の周波数帯域は、前記入力信号の基本波周波数帯域の2次高調波周波数帯域である。
【0017】
本発明の第2のF級電力増幅器は、
前記フィルター回路と、
前記入力信号の基本波周波数帯域の信号成分と、前記基本波周波数帯域の整数倍の高調波周波数帯域の信号成分と、を含む信号を出力する増幅素子と、を備え、
前記フィルター回路は、前記増幅素子の出力端子に前記1/4波長伝送線路の入力端子が接続され、前記増幅素子から出力された信号が前記入力信号として入力され、
前記所定の周波数帯域は、前記入力信号の基本波周波数帯域の3次高調波周波数帯域である。
【0018】
本発明の第1の逆F級電力増幅器は、
前記フィルター回路と、
前記入力信号の基本波周波数帯域の信号成分と、前記基本波周波数帯域の整数倍の高調波周波数帯域の信号成分と、を含む信号を出力する増幅素子と、を備え、
前記フィルター回路は、前記増幅素子の出力端子に前記第1の位相調整部の入力端子が接続され、前記増幅素子から出力された信号が前記入力信号として入力され、
前記所定の周波数帯域は、前記入力信号の基本波周波数帯域の3次高調波周波数帯域である。
【0019】
本発明の第2の逆F級電力増幅器は、
前記フィルター回路と、
前記入力信号の基本波周波数帯域の信号成分と、前記基本波周波数帯域の整数倍の高調波周波数帯域の信号成分と、を含む信号を出力する増幅素子と、を備え、
前記フィルター回路は、前記増幅素子の出力端子に前記1/4波長伝送線路の入力端子が接続され、前記増幅素子から出力された信号が前記入力信号として入力され、
前記所定の周波数帯域は、前記入力信号の基本波周波数帯域の2次高調波周波数帯域である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフィルター回路は、1/4波長オープンスタブの正の群遅延特性を、位相調整部の負の群遅延特性によって打ち消し合うことで、広帯域に渡って1/4波長のオープンスタブとして機能する。
【0021】
そのため、本発明のフィルター回路は、広帯域に渡って、高調波の信号に対して短絡状態になるという効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
(1)第1の実施形態
図2は、本実施形態のフィルター回路100の構成を示す回路図である。
【0024】
本実施形態のフィルター回路100は、所定の周波数帯域の入力信号をフィルタリングするフィルター回路であり、
図2に示すように、所定の周波数帯域の上限周波数の1/4波長の長さの1/4波長オープンスタブ11と、1/4波長オープンスタブ11の入力端子に接続され、負の群遅延特性を有する位相調整部(第1の位相調整部)12と、を備える。
【0025】
位相調整部12は、強磁性体(パーマロイなど)で形成した細線、あるいは、そのような複数の細線を伝送線路上に配列した配列体を想定している。この配列体の例として、例えば、非特許文献(Pingshan Wang et al., "Tailoring High-Frequency Properties of Permalloy Films by Submicrometer Patterning", IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL. 45, NO. 1, pp.71-74, JANUARY 2009. Fig.1)には、伝送線路上の長軸方向および短軸方向に複数の細線を配列した配列体が図示されている。
【0026】
なお、
図2においては、本実施形態のフィルター回路100の効果を示すため、フィルター回路100の入力部分に信号源13を、出力部分に負荷14を、それぞれ接続している。
【0027】
ここで、位相調整部12を構成する強磁性体では、特定の周波数の入力信号のマイクロ波によって磁化の歳差運動が励起される、強磁性共鳴(FMR:Ferromagnetic Resonance)と呼ばれる現象が生じる。
【0028】
この際、強磁性体の透磁率の実部μ
Reは、
図3に示すように、周波数が高くなるにしたがって一旦増大するが、その後に減少するという振る舞いを示す。FMRを生じる周波数は、強磁性体の材質、形状、異方性磁場(結晶磁気異方性)、印加する外部磁場の強度や方向に応じて変化する。
【0029】
以下では、簡易的な動作を示すため、μ
Reが低下する領域では、
図3の近似直線のように、μ
Reを線形的に近似できるものとし、また、強磁性体の透磁率の虚部μ
Imは無視するものとする。
【0030】
また、以下では、入力信号の基本波周波数帯域の上限周波数をf
0、下限周波数を(f
0−Δf)とし、フィルター回路100がフィルタリングする所定の周波数帯域を、基本波周波数帯域の2次高調波周波数帯域2(f
0−Δf)〜2f
0とし、μ
Re=0となる周波数(後述の強磁性共鳴周波数)が2f
0であるものとする。
【0031】
また、以下では、強磁性体細線で形成された位相調整部12のインダクタンスは、2f
0を中心に周波数に対して線形で変化するモデルとして取り扱う。すなわち、位相調整部12のインダクタンスL
6を以下の数式1のように取り扱う。
【0033】
数式1において、Lmagは、
図3におけるμ
Reの最大値μ
maxに比例定数Aを乗算したA×μ
maxである。数式1において、Lは、f=2f
0のときに0となり、f=2(f
0−Δf)のときにLmagとなる。
【0034】
ここで、強磁性共鳴周波数ω
Fは、位相調整部12が強磁性体細線で形成される場合、以下の数式2のように表すことができ、また、数GHzオーダーの共鳴周波数となることが非特許文献(A. Yamaguchi et al., "Broadband ferromagnetic resonance of Ni
81Fe
19 wires using a rectifying effect", Physical Review B 78, 104401(2008))に示されている。
【0036】
数式2において、γ
0は磁気回転比である。また、H
b,H
Cは、それぞれ、以下の数式3,4のように表される。
【0039】
数式3,4において、N
x,N
y,N
zは、それぞれ、強磁性体細線の長軸方向、短軸方向、膜厚方向成分の反磁界係数である。また、H
extは、強磁性体細線に印加した外部磁界の大きさである。また、M
sは、強磁性体細線に用いた強磁性体の飽和磁化である。また、θは、強磁性体細線の長軸方向と外部磁界とのなす角度(ただし、外部磁界は膜面内に印加されているものとする)である。また、Ψは、強磁性体細線の長軸方向と強磁性体細線中の磁化とがなす角度である。
【0040】
図4は、本実施形態のフィルター回路100の位相特性のシミュレーション結果を示し、
図5は、本実施形態のフィルター回路100の透過特性のシミュレーション結果を示している。
【0041】
なお、
図4および
図5においては、信号源13を構成する抵抗と負荷14とを共に50Ω、Lmag=0.66nH、入力信号の基本波周波数帯域の上限周波数f
0を2.14GHz、2Δf=2×(2.14−1.75)GHzに設定している。
【0042】
また、
図4においては、破線は、位相調整部12の周波数特性を示し、2点鎖線は、1/4波長オープンスタブ11の周波数特性を示し、実線は、本実施形態のフィルター回路100の周波数特性を示している。
【0043】
また、
図5においては、実線は、本実施形態のフィルター回路100の透過特性を示し、破線は、本実施形態のフィルター回路100から位相調整部12を取り除き、1/4波長オープンスタブ11のみで構成したフィルター回路の透過特性を示している。
【0044】
図4の破線に示すように、位相調整部12は、数式1に示した周波数依存性(負の群遅延特性)を有しているため、
図4の2点鎖線に示すような1/4波長オープンスタブ11の正の群遅延特性と打ち消し合う。
【0045】
その結果、
図4に実線で示すように、両者を直列に接続した本実施形態のフィルター回路100の群遅延特性は、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って、ほぼ90度にフラット化できる。
【0046】
そのため、本実施形態のフィルター回路100は、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って1/4波長のオープンスタブとして機能する。
【0047】
これにより、
図5に実線で示すように、本実施形態のフィルター回路100は、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って入力信号を透過させることができ、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って短絡状態となる。
【0048】
これに対して、
図5に破線で示すように、1/4波長オープンスタブ11のみで構成したフィルター回路は、4.28GHz付近でのみ短絡状態となる。
【0049】
上述したように本実施形態のフィルター回路100においては、フィルタリングする所定の周波数帯域の上限周波数を4.28GHzとしたとき、1/4波長オープンスタブ11の正の群遅延特性を、位相調整部12の負の群遅延特性によって打ち消し合うことで、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って回路全体の群遅延特性をほぼ90度にフラット化できるため、1/4波長のオープンスタブとして機能する。
【0050】
これにより、本実施形態のフィルター回路100は、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って短絡状態となり、広帯域短絡フィルター回路として機能する。
(2)第2の実施形態
図6は、本実施形態のフィルター回路200の構成を示す回路図である。
【0051】
本実施形態のフィルター回路200は、所定の周波数帯域の入力信号をフィルタリングするフィルター回路であり、
図6に示すように、
図2に示した第1の実施形態のフィルター回路100と、フィルター回路100の入力端子に接続され、所定の周波数帯域の上限周波数の1/4波長の長さの1/4波長伝送線路15と、を有している。
【0052】
位相調整部12は、第1の実施形態と同様に、強磁性体(パーマロイなど)で形成した細線、あるいは、そのような複数の細線を伝送線路上に配列した配列体を想定し、位相調整部12のインダクタンスの周波数依存性は、数式1のように取り扱う。
【0053】
また、
図6においては、本実施形態のフィルター回路200の効果を示すため、第1の実施形態と同様に、フィルター回路200の入力部分に信号源13を、出力部分に負荷14を、それぞれ接続している。
【0054】
図7は、本実施形態のフィルター回路200の透過特性のシミュレーション結果を示し、
図8は、本実施形態のフィルター回路200のインピーダンスの周波数特性のシミュレーション結果を示している。
【0055】
なお、
図7および
図8においては、信号源13を構成する抵抗と負荷14とを共に50Ω、Lmag=0.66nH、入力信号の基本波周波数帯域の上限周波数f
0を2.14GHz、2Δf=2×(2.14−1.75)GHzに設定している。
【0056】
また、
図7および
図8においては、実線は、本実施形態のフィルター回路200の特性を示し、破線は、本実施形態のフィルター回路200から位相調整部12を取り除き、1/4波長伝送線路15と1/4波長オープンスタブ11のみで構成したフィルター回路の特性を示している。
【0057】
図7に示すように、第1の実施形態のフィルター回路100は、上述の通り、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って広帯域短絡フィルター回路として機能する。
【0058】
そのため、フィルター回路100の入力端子部分のa点から負荷14側を見たインピーダンスZ
aは、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って短絡状態になっている。
【0059】
ただし、本実施形態のフィルター回路200においては、1/4波長伝送線路15を設けており、フィルター回路100の入力端子部分で3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って短絡状態になったインピーダンスZ
aは、1/4波長伝送線路15によってインピーダンス変換されることになる。
【0060】
その結果、
図8に実線で示すように、信号源13の出力端子部分のb点から負荷14側を見たインピーダンスZ
loadは、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って、高いインピーダンスを維持し、開放状態となる。
【0061】
これに対して、
図8に破線で示すように、1/4波長伝送線路15と1/4波長オープンスタブ11のみで構成したフィルター回路においては、インピーダンスZ
loadは、4.28GHz付近でのみ開放状態となる。
【0062】
上述したように本実施形態のフィルター回路200においては、フィルター回路100の入力端子部分で3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って短絡状態になったインピーダンスが、1/4波長伝送線路15によって開放状態にインピーダンス変換される。
【0063】
これにより、本実施形態のフィルター回路100は、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って開放状態となり、広帯域開放フィルター回路として機能する。
(3)第3の実施形態
図9は、本実施形態のフィルター回路300の構成を示す回路図である。
【0064】
本実施形態のフィルター回路300は、所定の周波数帯域の入力信号をフィルタリングするフィルター回路であり、
図9に示すように、
図2に示した第1の実施形態のフィルター回路100と、フィルター回路100の入力端子に接続され、負の群遅延特性を有する位相調整部(第2の位相調整部)16と、位相調整部16の入力端子に接続され、所定の周波数帯域の上限周波数の1/4波長の長さの1/4波長伝送線路15と、を有している。
【0065】
位相調整部12,16は、第1および第2の実施形態と同様に、強磁性体(パーマロイなど)で形成した細線、あるいは、そのような複数の細線を伝送線路上に配列した配列体を想定し、位相調整部12,16のインダクタンスの周波数依存性は、数式1のように取り扱う。
【0066】
また、
図9においては、本実施形態のフィルター回路300の効果を示すため、第1および第2の実施形態と同様に、フィルター回路300の入力部分に信号源13を、出力部分に負荷14を、それぞれ接続している。
【0067】
本実施形態のフィルター回路300においては、1/4波長伝送線路15だけでなく、位相調整部16も用いてインピーダンス変換を行う。以下、この動作の効果を説明する。
【0068】
位相調整部16は、数式1に示した周波数依存性(負の群遅延特性)を有しているため、1/4波長伝送線路15の正の群遅延特性と打ち消し合う。そのため、位相調整部16と1/4波長伝送線路15とを直列に接続した回路全体の群遅延特性は、位相調整部12と1/4波長オープンスタブ11とを直列に接続した回路と同様に、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って、ほぼ90度にフラット化できる(
図4参照)。
【0069】
図10は、信号源13の出力端子部分のb点から負荷14側を見たインピーダンスZ
loadの周波数特性を示している。
【0070】
ただし、
図10においては、フィルター回路100の部分を取り除いた状態とし、信号源13を構成する抵抗を50Ω、負荷14を25Ωに設定している。また、実線は、位相調整部16および1/4波長伝送線路15でインピーダンス変換を行う場合の周波数特性を示し、破線は、1/4波長伝送線路15のみでインピーダンス変換を行う場合の周波数特性を示している。
【0071】
図10に破線で示すように、1/4波長伝送線路15のみでインピーダンス変換を行う場合は、25Ωの負荷14のインピーダンスは、4.28GHz付近でのみ100Ωに変換されている。
【0072】
これに対して、
図10に実線で示すように、位相調整部16および1/4波長伝送線路15でインピーダンス変換を行う場合、上述のように、両者を直列に接続した回路全体の群遅延特性は、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡ってほぼ90度にフラット化されるため、25Ωの負荷14のインピーダンスは、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って、略同様に100Ωに変換されている。
【0073】
図11は、本実施形態のフィルター回路300の透過特性のシミュレーション結果を示し、
図12は、本実施形態のフィルター回路300のインピーダンスの周波数特性のシミュレーション結果を示している。
【0074】
なお、
図11および
図12においては、信号源13を構成する抵抗と負荷14とを共に50Ω、Lmag=0.66nH、入力信号の基本波周波数帯域の上限周波数f
0を2.14GHz、2Δf=2×(2.14GHz−1.75)GHzに設定している。
【0075】
また、
図11および
図12においては、実線は、本実施形態のフィルター回路300の特性を示し、破線は、本実施形態のフィルター回路300から位相調整部12,16を取り除き、1/4波長伝送線路15と1/4波長オープンスタブ11のみで構成したフィルター回路の特性を示している。
【0076】
図11に示すように、第1の実施形態のフィルター回路100は、上述の通り、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って広帯域短絡フィルター回路として機能する。
【0077】
そのため、フィルター回路100の入力端子部分のa点から負荷14側を見たインピーダンスZ
aは、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って短絡状態になっている。
【0078】
ただし、本実施形態のフィルター回路300においては、位相調整部16および1/4波長伝送線路15を設けており、フィルター回路100の入力端子部分で3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って短絡状態になったインピーダンスZ
aは、位相調整部16および1/4波長伝送線路15によってインピーダンス変換されることになる。
【0079】
また、
図10に示したように、位相調整部16および1/4波長伝送線路15によってインピーダンス変換を行う場合、インピーダンスZ
aは、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って、略同様にインピーダンス変換されることになる。
【0080】
その結果、
図12に実線で示すように、信号源13の出力端子部分のb点から負荷14側を見たインピーダンスZ
loadは、
図11に示す透過特性に対応するものとなり、3.5GHz付近と4.28GHz付近で特に高くなり、3.5GHz〜4.28GHzよりもさらに広帯域に渡って、高いインピーダンスを維持し、開放状態となる。
【0081】
これに対して、
図12に破線で示すように、1/4波長伝送線路15と1/4波長オープンスタブ11のみで構成したフィルター回路においては、インピーダンスZ
loadは、4.28GHz付近でのみ開放状態となる。
【0082】
上述したように本実施形態のフィルター回路300においては、フィルター回路100の入力端子部分で3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って短絡状態になったインピーダンスが、位相調整部16および1/4波長伝送線路15によって開放状態にインピーダンス変換される。また、このとき、位相調整部16の効果により、さらに広帯域に渡って開放状態にインピーダンス変換される。
【0083】
これにより、本実施形態のフィルター回路300は、3.5GHz〜4.28GHzよりもさらに広帯域に渡って開放状態となり、広帯域開放フィルター回路として機能する。
(4)第4の実施形態
図13は、本実施形態の逆F級電力増幅器400の構成を示す回路図である。
【0084】
図13に示すように、本実施形態の逆F級電力増幅器400は、FET(Field Effect Transistor)で構成した増幅素子17と、
図9に示した第3の実施形態のフィルター回路300と、を有している。
【0085】
位相調整部12,16は、第1〜第3の実施形態と同様に、強磁性体(パーマロイなど)で形成した細線、あるいは、そのような複数の細線を伝送線路上に配列した配列体を想定し、位相調整部12,16のインダクタンスの周波数依存性は、数式1のように取り扱う。
【0086】
フィルター回路300においては、増幅素子17の出力端子に1/4波長伝送線路15の入力端子が接続され、増幅素子17の出力信号が入力される。増幅素子17の出力信号には、基本波周波数帯域の信号成分と、基本波周波数帯域の整数倍の周波数成分である高調波周波数帯域の信号成分と、が含まれる。
【0087】
また、
図13においては、本実施形態の逆F級電力増幅器400の効果を示すため、第1〜第3の実施形態と同様に、逆F級電力増幅器400の出力部分に負荷14を接続している。
【0088】
また、本実施形態の逆F級電力増幅器400の効果を確かめるため、フィルター回路300がフィルタリングする所定の周波数帯域は、増幅素子17の出力する2次高調波周波数帯域に対応するものとする。
【0089】
以下では、具体例として、入力信号の基本波周波数帯域を1.75GHz〜2.14GHzとし、2次高調波周波数帯域を3.5GHz〜4.28GHzとする。
【0090】
ここで、フィルター回路300においては、Lmag=0.66nHに設定すると、増幅素子17の出力端子部分のb点から負荷14側を見たインピーダンスZ
loadは、2次高調波周波数帯域である3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って開放状態となり、逆F級のインピーダンス条件を満たす。
【0091】
図14は、本実施形態の逆F級電力増幅器400の電力変換効率(ドレイン効率)の周波数特性を示している。
【0092】
なお、
図14においては、実線は、本実施形態の逆F級電力増幅器400の電力変換効率の周波数特性を示し、破線は、本実施形態の逆F級電力増幅器400から位相調整部12,16を取り除いた逆F級電力増幅器の電力変換効率の周波数特性を示している。
【0093】
図14に破線で示すように、位相調整部12,16を取り除いた逆F級電力増幅器においては、2.14GHz付近では高い電力変換効率を示すが、周波数がずれると急激に電力変換効率が劣化する。
【0094】
これに対して、本実施形態の逆F級電力増幅器400においては、3.5GHz〜4.28GHzの広帯域に渡って逆F級のインピーダンス条件を満たすため、広帯域に渡って高い電力変換効率を保つことが可能となる。
【0095】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0096】
例えば、第4の実施形態においては、第3の実施形態のフィルター回路300を用いて逆F級電力増幅器を構成したが、第1または第2の実施形態のフィルター回路100または200を用いて逆F級電力増幅器を構成しても良い。なお、第1の実施形態のフィルター回路100を用いて逆F級電力増幅器を構成する場合、基本波周波数の3次高調波周波数帯域に渡って短絡状態にすれば良い。
【0097】
また、第4の実施形態においては、逆F級電力増幅器を構成したが、第1、第2または第3の実施形態のフィルター回路100、200または300を用いてF級電力増幅器を構成しても良い。なお、第2または第3の実施形態のフィルター回路200または300を用いてF級電力増幅器を構成する場合、基本波周波数の3次高調波周波数帯域に渡って開放状態にすれば良い。
【0098】
なお、第1の実施形態のフィルター回路100を用いて逆F級電力増幅器またはF級電力増幅器を構成する場合には、増幅素子17の出力端子に位相調整部12の入力端子を接続することになる。
【0099】
また、第1〜第4の実施形態においては、位相調整部12,16は、強磁性体細線を用いて形成したが、負の群遅延特性を有する、CRLH(Composite Right /Left Handed;右手左手系複合)伝送線路を用いて形成してもよい。
【0100】
また、第4の実施形態においては、逆F級電力増幅器の増幅素子17として、FETを用いたが、HBT(Heterojunction Bipolar Transistor)などを用いても良く、増幅素子17の具体的な構造や材料は特に限定されない。
【0101】
また、逆F級電力増幅器あるいはF級電力増幅器に用いる増幅素子は、増幅素子の有する寄生回路を考慮して外部の整合回路を設計する場合がある。その場合、各実施形態において、1/4波長伝送線路の長さを変更するなどして、寄生回路を考慮した設計に対応することも可能である。
【0102】
また、第1〜第4の実施形態の各々は、E級増幅器など他の高調波インピーダンス制御型の電力増幅器、ドハティー電力増幅器のように、複数の電力増幅器を用いる回路に対し、適宜組み合わせて適用することができる。
【0103】
本出願は、2012年4月19日に出願された日本出願特願2012−95629を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。