(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる金属板を接合して回路層を形成するとともに、前記セラミックス基板の他方の面に銅又は銅合金からなる金属板を接合して第1金属層を形成する第1接合工程と、
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる0.1mm〜1.0mmの厚みの金属板と前記第1金属層とを固相拡散接合により接合して第2金属層を形成する第2接合工程と、
前記第2金属層にアルミニウム合金からなる冷却器をMg含有Al系ろう材を用いてろう付け接合する第3接合工程と
を有し、
前記第2接合工程において、前記第1金属層と前記第2金属層との間にチタン箔を介在させ、前記第1金属層と前記チタン箔および前記第2金属層と前記チタン箔をそれぞれ固相拡散接合し、
前記第3接合工程において、前記第2金属層と前記冷却器とをAl−Si−Mg系ろう材を用いてろう付け接合することを特徴とする冷却器付パワーモジュール用基板の製造方法。
セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる金属板を接合して回路層を形成するとともに、前記セラミックス基板の他方の面に銅又は銅合金からなる金属板を接合して第1金属層を形成する第1接合工程と、
ニッケル又はニッケル合金からなる金属板と前記第1金属層とを固相拡散接合により接合して第2金属層を形成する第2接合工程と、
前記第2金属層にアルミニウム合金からなる冷却器をMg含有Al系ろう材を用いてろう付け接合する第3接合工程と
を有し、
前記第1接合工程および前記第2接合工程を同時に行うことを特徴とする冷却器付パワーモジュール用基板の製造方法。
前記第2接合工程において、前記第2金属層にアルミニウム板をさらに積層して前記第1金属層と前記第2金属層および前記第2金属層と前記アルミニウム板をそれぞれ固相拡散接合により接合し、
前記第3接合工程においては、前記第2金属層に代えて、前記第2金属層に接合された前記アルミニウム板に、前記冷却器をろう付け接合することを特徴とする請求項3記載の冷却器付パワーモジュール用基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、金属層とヒートシンクとを接合しているはんだ層は熱抵抗が大きく、半導体素子からヒートシンクへの熱伝達を妨げ、また、熱伸縮によりはんだ層にクラックが入ってはんだ層が破壊するおそれがある。このため、熱抵抗が小さく、接合信頼性も高いろう付け接合が注目されている。
【0007】
しかしながら、ろう付け工程は、ろう材を介して積層した金属板どうしを積層方向に加圧して加熱することにより行われるものであるため、ヒートシンクとして、内部に冷却流路を形成したアルミニウム製冷却器をろう付けによりパワーモジュール用基板に接合する場合、その加圧力によってアルミニウム製冷却器が変形するおそれがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、銅又は銅合金からなる金属層をアルミニウム製冷却器にろう付けする際の変形の発生を防止し、熱抵抗が小さく、接合信頼性の高い冷却器付パワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の冷却器付パワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる金属板を接合して回路層を形成するとともに、前記セラミックス基板の他方の面に銅又は銅合金からなる金属板を接合して第1金属層を形成する第1接合工程と、アルミニウム又はアルミニウム合
金からなる
0.1mm〜1.0mmの厚みの金属板と前記第1金属層とを固相拡散接合により接合して第2金属層を形成する第2接合工程と、前記第2金属層にアルミニウム合金からなる冷却器をMg含有Al系ろう材を用いてろう付け接合する第3接合工程とを有
し、前記第2接合工程において、前記第1金属層と前記第2金属層との間にチタン箔を介在させ、前記第1金属層と前記チタン箔および前記第2金属層と前記チタン箔をそれぞれ固相拡散接合し、 前記第3接合工程において、前記第2金属層と前記冷却器とをAl−Si−Mg系ろう材を用いてろう付け接合する。
【0010】
本発明の製造方法は、銅又は銅合金からなる第1金属層にアルミニウム又はアルミニウム合
金からなる第2金属層を固相拡散接合によって接合することにより、アルミニウム合金からなる冷却器をMg含有Al系ろう材を用いてろう付け接合することが可能である。このろう付けは、窒素又はアルゴン等の雰囲気中で低荷重(例えば0.001MPa〜0.5MPa)で行うことができ、剛性の低いアルミニウム製冷却器でも変形させることなく確実に接合できる。
【0012】
チタン箔を介して第1金属層と第2金属層とを固相拡散接合により接合することにより、両金属層にチタン原子を拡散させるとともに、チタン箔にアルミニウム原子及び銅原子を拡散させて、これら第1金属層、チタン箔、第2金属層を確実に接合できる。
【0013】
この場合、第2金属層を接合した後、冷却器をろう付けする際に加熱されるが、チタン箔が介在しているので、このろう付けの際にアルミニウムと銅とに拡散が生じることが防止される。
【0014】
この製造方法において、前記チタン箔は前記第1金属層よりも面積が大きいことが好ましい。この場合、銅又は銅合金からなる第1金属層の銅と、冷却器を接合するMg含有Al系ろう材のアルミニウムとの接触を、より確実に防止できる。
【0015】
この製造方法において、前記第2金属層をアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる前記金属板を用いて形成する場合、冷却器を接合するろう材にアルミニウム酸化膜に対する濡れ性の低いMgが含有されているので、溶融したMg含有Al系ろう材が、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第2金属層の側面の酸化膜に弾かれ、第1金属層まで到達しない。これにより、銅又は銅合金からなる第1金属層と接触せず、第1金属層を変形させることが無い。
【0016】
あるいは
本発明の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる金属板を接合して回路層を形成するとともに、前記セラミックス基板の他方の面に銅又は銅合金からなる金属板を接合して第1金属層を形成する第1接合工程と、ニッケル又はニッケル合金からなる金属板と前記第1金属層とを固相拡散接合により接合して第2金属層を形成する第2接合工程と、前記第2金属層にアルミニウム合金からなる冷却器をMg含有Al系ろう材を用いてろう付け接合する第3接合工程とを有し、前記第1接合工程および前記第2接合工程を同時に行
う。この場合、第2金属層がニッケル又はニッケル合金であることにより、第1接合工程と第2接合工程とを同時に行うことができる。第1接合工程には、例えばAg−Cu−Ti系ろう材を用いたろう付け接合が採用できる。
【0017】
この場合、ニッケル又はニッケル合金からなる前記第2金属層が前記第1金属層よりも面積が大きいと、銅又は銅合金からなる第1金属層の銅と冷却器を接合するろう材のアルミニウムとの接触をより確実に防止できるので好ましい。
【0018】
さらにこの場合、前記第2接合工程において、前記第2金属層にアルミニウム板をさらに積層して前記第1金属層と前記第2金属層および前記第2金属層と前記アルミニウム板をそれぞれ固相拡散接合により接合
し、前記第3接合工程においては、前記第2金属層に代えて、前記第2金属層に接合された前記アルミニウム板に、前記冷却器をろう付け接合してもよい。
【0023】
本発明の冷却器付パワーモジュール用基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に接合された銅又は銅合金からなる回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に接合された銅又は銅合金からなる第1金属層と、前記第1金属層に接合されたニッケル又はニッケル合金からなる第2金属層と、前記第2金属層に接合されたアルミニウム合金からなる冷却器とを備え、前記第1金属層中に、その表面に接合された部材中の金属原子が拡散した状態で存在しているとともに、前記第2金属層中に、その表面に接合された部材中の金属原子が拡散した状態で存在している。
【0024】
この場合、ニッケル又はニッケル合金からなる前記第2金属層は前記第1金属層よりも面積が大きいことが好ましい。
【0025】
また、ニッケル又はニッケル合金からなる前記第2金属層と前記冷却器との間に介在するアルミニウム層をさらに有してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、パワーモジュール用基板の銅又は銅合金からなる第1金属層に、アルミニウム合金からなる冷却器を窒素又はアルゴン雰囲気で低荷重でろう付けでき、剛性の低い冷却器でも、変形させることなく確実に接合できる。また、Mg含有Al系ろう材を用いてろう付けを行っているが、冷却器との間に第2金属層が介在することにより、溶融したMg含有Al系ろう材が銅又は銅合金からなる第1金属層と接触することが無く、第1金属層を変形させることが無い。しかも、ろう付けであるので、熱抵抗が小さく、接合信頼性の高い冷却器付パワーモジュール用基板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る冷却器付パワーモジュール用基板及びその製造方法の各実施形態について説明する。
【0029】
(第1実施形態)
図1に示す冷却器付パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、そのセラミックス基板11の一方の面に接合された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に接合された第1金属層13と、この第1金属層13のセラミックス基板11とは反対側の面に接合された第2金属層14と、この第2金属層14に接合された冷却器20と、第1金属層13と第2金属層14との間に介在するチタン層42とを有している。
図1中符号48は後述する接合層である。そして、回路層12の上に
図1の二点鎖線で示すように半導体素子30がはんだ材により接合されて、パワーモジュールを構成する。
【0030】
セラミックス基板11は、回路層12と第1金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、窒化アルミニウム(AlN),窒化ケイ素(Si
3N
4),酸化アルミニウム(Al
2O
3)等を用いることができるが、そのうち、窒化ケイ素が高強度であるため、好適である。このセラミックス基板11の厚みは0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定される。
【0031】
回路層12は、電気特性に優れる銅又は銅合金から構成される。また、第1金属層13も銅又は銅合金から構成される。これら回路層12及び第1金属層13は、例えば、純度99.96質量%以上の無酸素銅の銅板がセラミックス基板11に例えば活性金属ろう材にてろう付け接合されることにより形成される。この回路層12及び第1金属層13の厚みは0.1mm〜1.0mmの範囲内に設定される。
【0032】
第1金属層13は、銅又は銅合金からなる金属板13′がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。この第1金属層13中には、その表面に接合された部材中の金属原子が拡散した状態で存在している。
【0033】
第2金属層14は、アルミニウム又はアルミニウム合金,あるいはニッケル又はニッケル合金(本実施形態ではアルミニウム)からなる金属板14′が第1金属層13に固相拡散接合により接合されることにより形成される。金属板14′の厚みは、材質がアルミニウム又はアルミニウム合金の場合は0.1mm〜1.0mmの範囲内、ニッケル又はニッケル合金の場合は50μm以上に設定される。この第2金属層14中には、その表面に接合された部材中の金属原子が拡散した状態で存在している。
【0034】
冷却器20は、半導体素子30の熱を放散するためのものであり、本実施形態では、水等の冷却媒体が流通する偏平な筒体21内に、内部の流路22を区画する複数の仕切り壁23が偏平な筒体21の厚さ方向に沿って形成されている。この冷却器20は例えばアルミニウム合金(例えばA3003、A6063等)の押出成形によって形成される。そして、パワーモジュール用基板10の第2金属層14に、冷却器20の筒体21の上側に位置する天板21aがろう付け接合により固定されている。
【0035】
半導体素子30は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の種々の半導体素子が選択される。
【0036】
この半導体素子30は回路層12にはんだ付けにより接合され、そのはんだ材は、例えばSn‐Sb系、Sn‐Ag系、Sn‐Cu系、Sn‐In系、もしくはSn‐Ag‐Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)が用いられる。
【0037】
このように構成される冷却器付パワーモジュール用基板10の製造方法について
図2A〜
図2Cを参照しながら説明する。
【0038】
(第1接合工程)
まず、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる金属板12′を接合して回路層12を形成するとともに、セラミックス基板11の他方の面に銅又は銅合金からなる金属板13′を接合して第1金属層13を形成する。すなわち、
図2Aに示すように、セラミックス基板11の両面に銀チタン(Ag−Ti)系又は銀銅チタン(Ag−Cu−Ti)系の活性金属ろう材、例えばAg−27.4質量%Cu−2.0質量%Tiのろう材のペーストを塗布してろう材塗布層40を形成し、これらろう材塗布層40の上に回路層12及び第1金属層13となる銅板(金属板)12′、13′をそれぞれ積層する。
【0039】
そして、その積層体Sを
図3に示す加圧装置110によって積層方向に加圧した状態とする。
【0040】
この加圧装置110は、ベース板111と、ベース板111の上面の四隅に垂直に取り付けられたガイドポスト112と、これらガイドポスト112の上端部に固定された固定板113と、これらベース板111と固定板113との間で上下移動自在にガイドポスト112に支持された押圧板114と、固定板113と押圧板114との間に設けられて押圧板114を下方に付勢するばね等の付勢手段115とを備えている。
【0041】
固定板113および押圧板114は、ベース板111に対して平行に配置されており、ベース板111と押圧板114との間に前述の積層体Sが配置される。積層体Sの両面には加圧を均一にするためにクッションシート116が配設される。クッションシート116は、カーボンシートとグラファイトシートの積層板で形成されている。
【0042】
この加圧装置110により積層体Sを加圧した状態で、加圧装置110ごと図示略の加熱炉内に設置し、真空雰囲気下で接合温度に加熱してセラミックス板11に銅板12′(回路層12)と銅板13′(第1金属層13)をろう付け接合する。この場合の接合条件としては、例えば0.05MPa以上1.0MPa以下の加圧力で、800℃以上930℃以下の接合温度で、1分〜60分の加熱とする。
【0043】
このろう付けは、活性金属ろう付け法であり、ろう材中の活性金属であるTiがセラミックス基板11に優先的に拡散して窒化チタン(TiN)を形成し、銀銅(Ag−Cu)合金を介して銅板12′,13′とセラミックス基板11とを接合する。これにより、セラミックス基板11の両面に回路層12及び第1金属層13を形成する。
【0044】
(第2接合工程)
次に、アルミニウム又はアルミニウム合金,あるいはニッケル又はニッケル合金からなる金属板14′と第1金属層13とを固相拡散接合により接合して第2金属層14を形成する。すなわち、第1金属層13のセラミックス基板11とは反対側の面に第2金属層14を形成する。
【0045】
この場合、第2金属層14となるアルミニウム又はアルミニウム合金,あるいはニッケル又はニッケル合金(本実施形態ではアルミニウム)の金属板14′を第1金属層13に積層し、これらの積層体を前述と同様の加圧装置110により積層方向に加圧し、真空雰囲気下で所定の接合温度に加熱し、第1金属層13に固相拡散接合により接合された第2金属層14を形成する。
【0046】
図2Bは、第2金属層14としてアルミニウム又はアルミニウム合金,あるいはニッケル又はニッケル合金(本実施形態ではアルミニウム)からなる金属板14′を用いる場合を示しており、その金属板14′と第1金属層13との間にチタン箔41を介在させて固相拡散接合する。このチタン箔41は3μm以上40μm以下の厚みに設定される。そして、0.1MPa以上3.4MPa以下に加圧し、真空雰囲気下で接合温度580℃以上640℃以下に1分以上120分以下加熱する。これにより、チタン箔41と第1金属層13との間、及びチタン箔41と第2金属層14との間でそれぞれ拡散接合される。そして、第1金属層13と第2金属層14との間にはチタン層42が形成される。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属板14′には、例えば、純度99%以上、純度99.9%以上、純度99.99%以上の純アルミニウムや、A3003、A6063等のアルミニウム合金を用いることができる。
【0047】
この工程において第1金属層13と金属板14′(第2金属層14)とがチタン箔41を介して固相拡散接合により接合された結果、第1金属層13中にはその表面に接合されたチタン層42中のTiが拡散した状態で存在するとともに、第2金属層14中にもその表面に接合されたチタン層42中のTiが拡散した状態で存在する。
【0048】
(第3接合工程)
次に、第2金属層14にアルミニウム合金からなる冷却器20をMg含有Al系ろう材を用いてろう付け接合する。
【0049】
このMg含有Al系ろう材としては、Al−Si−Mg箔、Al−Cu−Mg箔やAl−Ge−Cu−Si−Mg箔等を用いることができる。また、
図2Cに示すように、芯材の両面にMg含有Al系ろう材が設けられた両面ろうクラッド材45を用いることもできる。
【0050】
本実施形態の両面ろうクラッド材45は、アルミニウム合金(例えばA3003材)からなる芯材46の両面にAl−Si−Mg系のろう材層47が形成されたクラッド材であり、芯材46の両面にろう材を重ねて圧延することにより形成される。芯材46の厚みは0.05mm以上0.6mm以下であり、両面のろう材層47は5μm以上100μm以下の厚みである。
【0051】
この両面ろうクラッド材45を第2金属層14と冷却器20との間に介在させてこれらを積層し、
図3と同様の加圧装置110を用いて積層方向に加圧した状態で、加圧装置110ごと窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気下で加熱してろう付けする。加圧力としては、例えば0.001MPa以上0.5MPa以下とされ、接合温度としてはAlとCuの共晶温度よりも高い580℃以上630℃以下とされる。
【0052】
この第3接合工程ではろう付けの接合温度がAlとCuの共晶温度よりも高いので、もしもAlを含んだ溶融ろう材が銅又は銅合金からなる第1金属層13と接触すると、銅又は銅合金からなる第1金属層13が浸食され、第1金属層13の変形等が生じる。
【0053】
しかしながら本実施形態では、アルミニウムからなる第2金属層14の側面にろう材に濡れにくいアルミ酸化物が存在するため、溶融したMg含有Al系ろう材(本実施形態においてはAl−Si−Mg系のろう材)はこの第2金属層14の側面を越えて第1金属層13と接触することが無く、第1金属層13を変形させることが無い。
【0054】
これは、溶融したMg含有Al系ろう材が第2金属層14及び第1金属層13へ這い上がろうとした際に、第2金属層14の側面に存在する酸化物がろう材をはじくバリアとしての効果が生じるためである。
【0055】
また、本実施形態では、第2金属層14に冷却器20をろう付けする第3接合工程時の接合温度がアルミニウムと銅との共晶温度よりも高いが、第2金属層14と第1金属層13との界面部分にはチタン層42が介在しているので、第3接合工程のろう付け時にも第2金属層14のアルミニウムと第1金属層13の銅との間で液相が生じず、第1金属層13が溶融することが防止される。
【0056】
なお、このろう付けの後、第2金属層14と冷却器20との間には、両面ろうクラッド材45の芯材46であったアルミニウム合金からなる接合層48が薄く介在する。
【0057】
以上のように製造される冷却器付パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11の両面に回路層12、第1金属層13を形成して、その第1金属層13にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2金属層14を介してアルミニウム合金製の冷却器20をろう付けするので、Mg含有Al系ろう材を用いて低荷重でろう付けできる。また、Mg含有Al系ろう材を用いて冷却器20のろう付けを行っているが、溶融したMg含有Al系ろう材は第2金属層14の側面で弾かれるので、銅又は銅合金からなる第1金属層13と接触することが無く、第1金属層13を変形させることが無い。この冷却器20は、アルミニウム合金製で内部に流路22を有するため、比較的剛性が低いが、このろう付けが低荷重であるので、冷却器20を変形させることなく確実に接合できる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0059】
上記実施形態では、AlとCuの共晶温度以上の融点を持つAl−Si−Mgろう材を用いているために第1金属層13と第2金属層14との間にチタン層42が介在する構造としたが、AlとCuの共晶温度未満の融点を持つMg含有Al系ろう材(例えばAl−15Ge−12Si−5Cu−1Mg:融点540℃)を用いる場合、チタン層を介在させることなく第1金属層13と第2金属層14とを直接固相拡散接合することも可能である。この場合、第1金属層13中には接合された第2金属層中の金属原子が拡散した状態で存在するとともに、第2金属層中には第1金属層中の金属原子が拡散した状態で存在する。
【0060】
また、この場合、第2金属層14に冷却器20をろう付けする時の温度がAlとCuの共晶温度未満となるので、第2金属層14のアルミニウムと第1金属層13の銅との間で液相が生じず、第1金属層13が変形することが防止される。
【0061】
冷却器としては、上述のような構造に限らず平板材を用いてもよく、材質はアルミニウム合金に限らずAl系またはMg系の低熱線膨張材(例えばAlSiC等)を用いることができる。
【0062】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る冷却器付パワーモジュール用基板210は、
図4に示すように、セラミックス基板211と、セラミックス基板211の一方の面に接合された銅又は銅合金からなる回路層212と、セラミックス基板211の他方の面に接合された銅又は銅合金からなる第1金属層213と、第1金属層213に接合されたニッケル又はニッケル合金からなる第2金属層214と、第2金属層214に接合されたアルミニウム合金からなる冷却器20とを備える。また、第1実施形態と同様に、冷却器20をろう付け接合するのに用いられた両面クラッド材の一部が、接合層48として第2金属層214と冷却器20との間に残存している。
【0063】
この冷却器付パワーモジュール用基板210では、第1金属層213中に、その表面に接合された第2金属層214中のNiが拡散した状態で存在しているとともに、第2金属層214中に、その表面に接合された第1金属層213中のCuが拡散した状態で存在している。
【0064】
また、この冷却器付パワーモジュール用基板210では、第2金属層214は第1金属層213よりも面積が大きい。これにより、冷却器20を接合する際に溶融したろう材が第1金属層213に到達するのが防止されている。
【0065】
この冷却器付パワーモジュール用基板210は、上述した第1実施形態と同様の製造方法により製造されるが、第2金属層214がニッケルであることにより、第1接合工程および第2接合工程を同時に行うことが可能である。この場合、回路層212および第1金属層211となる各金属板をセラミックス基板211に、銀チタン(Ag−Ti)系又は銀銅チタン(Ag−Cu−Ti)系の活性金属ろう材を用いてろう付け接合するのと同時に、第1金属層211となる金属板に第2金属層214となる金属板を固相拡散接合する。
【0066】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る冷却器付パワーモジュール用基板310は、
図5に示すように、セラミックス基板311と、セラミックス基板311の一方の面に接合された銅又は銅合金からなる回路層312と、セラミックス基板311の他方の面に接合された銅又は銅合金からなる第1金属層313と、第1金属層313に接合されたニッケル又はニッケル合金からなる第2金属層314と、第2金属層314に接合されたアルミニウム合金からなる冷却器20とを備え、さらに、第2金属層314と冷却器20との間に介在するアルミニウム層315を有する。また、上記各実施形態と同様に、冷却器20をろう付け接合するのに用いられた両面クラッド材の一部が、接合層48としてアルミニウム層315と冷却器20との間に残存している。
【0067】
この冷却器付パワーモジュール用基板310では、第1金属層313中に、その表面に接合された第2金属層314中のNiが拡散した状態で存在しているとともに、第2金属層314中に、その一方の表面に接合された第1金属層313中のCuと、他方の表面に接合されたアルミニウム層315中のAlが拡散した状態で存在している。
【0068】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態に係る冷却器付パワーモジュール用基板410は、
図6に示すように、セラミックス基板411と、セラミックス基板411の一方の面に接合された銅又は銅合金からなる回路層412と、セラミックス基板411の他方の面に接合された銅又は銅合金からなる第1金属層413と、第1金属層413に接合されたアルミニウムまたはアルミニウム合金、あるいはニッケル又はニッケル合金からなる第2金属層414と、第2金属層414に接合されたアルミニウム合金からなる冷却器20とを備え、さらに、第1金属層413と第2金属層414との間に介在するチタン層415を有する。また、上記各実施形態と同様に、冷却器20をろう付け接合するのに用いられた両面クラッド材の一部が、接合層48として第2金属層414と冷却器20との間に残存している。
【0069】
この冷却器付パワーモジュール用基板410では、第1金属層413および第2金属層414中に、その表面に接合されたチタン層415中のTiが拡散した状態で存在している。
【0070】
また、この冷却器付パワーモジュール用基板410では、第2金属層414およびチタン層415の少なくともいずれかが、第1金属層413よりも面積が大きい。これにより、冷却器20を接合する際に溶融したろう材が第1金属層413に到達するのが防止されている。