特許第6048562号(P6048562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6048562
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】フラックス残渣の接着強度測定方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20161212BHJP
   G01N 19/04 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B23K35/363 E
   G01N19/04 Z
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-207324(P2015-207324)
(22)【出願日】2015年10月21日
【審査請求日】2015年12月21日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 善範
(72)【発明者】
【氏名】北▲沢▼ 和哉
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−039718(JP,A)
【文献】 特開2007−121241(JP,A)
【文献】 特開2006−194608(JP,A)
【文献】 特開2001−219294(JP,A)
【文献】 特開2005−059028(JP,A)
【文献】 特表2008−510621(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/018288(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/22、35/363
G01N 3/00− 3/62
G01N 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性を有すると共に熱で硬化する熱硬化性の樹脂、樹脂を硬化させる硬化剤、活性剤、及びチキソ剤とを少なくとも含むフラックスと、はんだ合金が混合されたソルダペーストを、測定対象の基板の非金属箇所に塗布する工程と、
測定対象の基板の非金属箇所に塗布されたソルダペーストを、はんだ溶融温度域で加熱する工程と、
樹脂が硬化することで生成されたフラックス残渣と、測定対象の基板の非金属箇所との接着強度を測定する工程と
を有することを特徴とするフラックス残渣の接着強度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品を基板に固着する機能を持たせたフラックス残渣の接着強度を測定するフラックス残渣の接着強度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、はんだ付けに用いられるフラックスは、はんだ合金及びはんだ付け対象の金属表面に存在する金属酸化物を化学的に除去し、両者の境界で金属元素の移動を可能にする効能を持つ。このため、フラックスを使用してはんだ付けを行うことで、はんだ合金とはんだ付け対象の金属表面との間に金属間化合物が形成できるようになり、強固な接合が得られる。
【0003】
また、はんだ付けによる接合を強化する部品固着手段として、アンダーフィルや樹脂モールドによって、はんだ付け部位の周囲を覆うことにより、部品を固着する技術が提案されている。
【0004】
一方、フラックスの成分には、はんだ付けの加熱によって分解、蒸発しない成分が含まれており、はんだ付け後にフラックス残渣としてはんだ付け部位の周辺に残留する。
【0005】
ここで、はんだ付け部位の周囲にフラックス残渣が残留していると、フラックス残渣がはんだ付け部位と樹脂との固着を阻害するので、接着強度を確保することができない。このため、はんだ付け部位の周囲を樹脂で覆うためには、フラックス残渣を洗浄する必要がある。しかし、フラックス残渣を洗浄するには、時間とコストが掛かる。
【0006】
そこで、フラックスに熱硬化性の樹脂を含有させることにより、はんだ付け時の加熱で樹脂が硬化することで生成されたフラックス残渣で、部品を固着する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−219294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、近年の電子部品の小型化の進展につれて、電子部品のはんだ付け部位である電極も小さくなってきているため、はんだ合金で接合できる面積が小さくなり、はんだ合金だけでの接合強度では、不十分な場合もある。そこで、熱硬化性の樹脂が硬化することで生成されるフラックス残渣で部品を確実に固着するため、より強固な接着強度が求められるようになった。
【0009】
そのため、熱硬化性の樹脂が硬化することで生成されるフラックス残渣で、基板に部品が固定できることを確認するため、フラックス残渣と基板との接着強度をより正確に評価する必要がでてきた。
【0010】
しかし、ソルダペーストを電極に塗布してはんだ付けを行うと、はんだ合金と電極が接合されることで、はんだ合金と金属との接合強度の影響を排除して、フラックス残渣と基板との接着強度を評価することができなかった。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためなされたもので、はんだ合金と金属との接合強度の影響を排除して、樹脂と基板との接着強度を評価することが可能なフラックス残渣の接着強度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、接着性を有すると共に熱で硬化する熱硬化性の樹脂、樹脂を硬化させる硬化剤、活性剤、及びチキソ剤とを少なくとも含むフラックスと、はんだ合金が混合されたソルダペーストを、測定対象の基板の非金属箇所に塗布する工程と、測定対象の基板の非金属箇所に塗布されたソルダペーストを、はんだ溶融温度域で加熱する工程と、樹脂が硬化することで生成されたフラックス残渣と、測定対象の基板の非金属箇所との接着強度を測定する工程とを有するフラックス残渣の接着強度測定方法である。
【0016】
本発明では、熱硬化性の樹脂が含有されたフラックスと、はんだ合金が混合されたソルダペーストを、測定対象の基板の非金属箇所に塗布して加熱することで、はんだ合金と金属との接合は起こらず、樹脂が硬化することで生成されたフラックス残渣と基板が樹脂で接着される。
【0017】
これにより、フラックス残渣の接着強度を測定するため、ソルダペーストの加熱後の残渣物であるフラックス残渣及びはんだ合金の硬化物と基板の非金属箇所との接着箇所を破壊する試験を行い、接着箇所の破壊に必要な力を測定することで、はんだ合金と金属との接合強度を排除して、フラックス残渣と基板の非金属箇所との接着強度が測定される。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、樹脂のみでの接着強度ではなく、はんだ合金の混合で変化するフラックス残渣の接着強度を、はんだ合金と金属との接合強度を排除して測定することができる。これにより、熱硬化性の樹脂が硬化することで生成されるフラックス残渣で、基板に部品が固定できることを確認することができたソルダペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法の一例を示す動作説明図である。
図2】硬化剤種類とエポキシ樹脂の硬化温度の関係を示すグラフである。
図3】はんだ合金の有無とエポキシ樹脂の硬化の関係を示すグラフである。
図4】はんだ合金の有無とフラックス残渣の接着強度の関係を示すグラフである。
図5】実施例と比較例の接着強度を示すグラフである。
図6】実施例と比較例の接着強度を示すグラフである。
図7】実施例と比較例の接着強度を示すグラフである。
図8】実施例と比較例の接着強度を示すグラフである。
図9】実施例と比較例の温度プロファイルを示すグラフである。
図10】実施例と比較例の温度プロファイルを示すグラフである。
図11】実施例と比較例の温度プロファイルを示すグラフである。
図12】実施例と比較例の温度プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明のフラックス残渣の接着強度測定方法の実施の形態について説明する。

【0021】
<本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法の一例>
図1は、本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法の一例を示す動作説明図である。
【0022】
接着性を有すると共に熱で硬化する熱硬化性樹脂と、硬化剤と、活性剤と、チキソ剤とを少なくとも含むフラックスと、粉末状のはんだ合金が混合されたソルダペーストを使用してはんだ付けが行われると、はんだ合金が溶融して基板と部品の電極が電気的に接合されると共に、樹脂が硬化してフラックス残渣が形成され、樹脂が持つ接着性でフラックス残渣により基板と部品が固着される。
【0023】
このように、樹脂の持つ接着力を利用して、フラックス残渣で基板と部品の固着が行われる構成では、はんだ合金と樹脂の組み合わせで、樹脂の接着強度が向上することが見出された。一方、ソルダペーストを使用してはんだ付けが行われると、はんだ合金と電極が接合される。これにより、フラックス残渣及びはんだ合金の硬化物と基板との接合箇所の強度を測定するため、例えばシェア強度試験でせん断破壊に必要な力の測定を行った場合、フラックス残渣と基板との接着強度のみを測定することができない。
【0024】
そこで、本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法では、測定対象の基板とフラックス残渣の接着強度を、はんだ合金と金属との接合強度を排除して測定できるようにした。
【0025】
本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法は、図1(1)に示す工程で、接着性を有すると共に熱で硬化する熱硬化性樹脂と、硬化剤と、活性剤と、チキソ剤とを少なくとも含むフラックスと、粉末状のはんだ合金が混合されたソルダペースト1を、測定対象の基板の非金属箇所、本例では、ガラスエポキシ基板2の基材20の表面に形成されたソルダレジスト22に塗布する。
【0026】
ソルダペーストの加熱後の残渣物であるフラックス残渣及びはんだ合金の硬化物と基板との接合箇所の強度を測定するシェア強度試験で、フラックス残渣と基板との接着強度のみを測定するためには、はんだ合金の硬化物と基板が金属的に接合してはならないため、ソルダペーストを塗布する箇所が非金属である必要がある。このため、本実施例と比較例においては、電極21が設けられたガラスエポキシ基板2のソルダレジスト22にソルダペースト1を塗布した。測定対象のガラスエポキシ基板2としては、シェア強度試験を実施できるものならば、使用する材質、形状、大きさ等に制限はない。但し、シェア強度試験で基板のソルダレジスト22が破壊されると、フラックス残渣とガラスエポキシ基板2との接着強度を測定できない。そこで、ソルダレジスト22の破壊強度がシェア強度試験でソルダレジスト22に掛けられる力より強いガラスエポキシ基板2が使用される。
【0027】
次に、ソルダペースト1が塗布されたガラスエポキシ基板2を図示しないリフロー炉等で加熱して、ガラスエポキシ基板2のソルダレジスト22に塗布されたソルダペースト1を、はんだ溶融温度域で加熱する。ソルダペースト1をはんだ溶融温度域で加熱することで、はんだ合金が溶融する。また、フラックス中の樹脂が、硬化剤との反応と、所定の温度、本例では、はんだ溶融温度域での加熱に加えて、はんだ合金との組み合わせによって硬化を開始する。
【0028】
次に、ガラスエポキシ基板2を冷却して、溶融したはんだ合金11を凝固させる。これにより、図1(2)に示すように、溶融したはんだ合金11が表面張力によってボール状の形態に凝固すると共に、凝固したはんだ合金11の周囲に、フラックス中の主に樹脂が硬化することによるフラックス残渣が生成される。上述したように、ソルダペースト1は、ガラスエポキシ基板2においてソルダレジスト22に塗布されているので、溶融したはんだ合金11が凝固しても、はんだ合金11と金属との接合は起こらない。
【0029】
次に、図1(3)に示す工程で、フラックスに含有された樹脂が硬化することで生成されたフラックス残渣10と、ガラスエポキシ基板2との接着強度を測定する。図1(3)に示す測定工程は、フラックス残渣10と、凝固したはんだ合金11を、測定用工具3を使用してガラスエポキシ基板2からせん断するシェア強度試験と称される試験を行い、せん断破壊に必要な力を測定することで行う。
【0030】
ガラスエポキシ基板2のソルダレジスト22に塗布されたソルダペースト1をはんだ溶融温度域で加熱することで得られたフラックス残渣10と、凝固したはんだ合金11は、凝固したはんだ合金11と金属との接合は起こっておらず、樹脂の持つ接着性で、フラックス残渣10がガラスエポキシ基板2に固着した状態である。
【0031】
これにより、シェア強度試験でフラックス残渣10及び凝固したはんだ合金11とガラスエポキシ基板2のせん断破壊を行うことで、凝固したはんだ合金11と金属との接合強度を排除して、フラックス残渣10とガラスエポキシ基板2との接着強度を測定することができる。
【0032】
<本実施の形態のソルダペースト及びフラックスの組成例>
次に、測定対象であるソルダペースト及びフラックスの組成例について説明する。ソルダペーストは、はんだ合金の粉末とフラックスを混合して構成され、はんだ合金の粉末の含有量を86〜88%、フラックスの含有量を12〜14%とした。はんだ合金の組成は、例えば、Sn-3Ag-0.5Cu(Sn:96.5%,Ag:3.0%,Cu: 0.5%)とした。はんだ合金(Sn-3Ag-0.5Cu)のはんだ溶融温度域は、217〜219℃である。
【0033】
フラックスは、熱硬化性の樹脂であるエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、フラックス中の固形成分を溶かす溶剤と、活性剤と、チキソ剤を含む。フラックスは、エポキシ樹脂の含有量を25〜80%、硬化剤の含有量1〜45%、溶剤の含有量を0〜20%、活性剤の含有量を1〜10%、チキソ剤の含有量を1〜10%とした。なお硬化促進剤を任意に添加してもよい。
【0034】
エポキシ樹脂は接着性を有し、硬化剤との反応、温度及びはんだ合金との組み合わせで硬化物となってフラックス残渣を生成する。エポキシ樹脂は、はんだ付け性には寄与しない。硬化剤はエポキシ樹脂と反応し、硬化物となる。硬化剤としては、本例では酸無水物が使用される。硬化剤は、粘度が低く、溶解性に優れ、溶剤としても機能し、はんだ付け性にも寄与する。
【0035】
上述した組成のソルダペーストは、表面実装を想定して、粘度が150〜200Pa・s程度となるように調整され、所定の保存期間の間、上述した粘度が保たれるように、特に、エポキシ樹脂が硬化しないように組成が決定される。しかし、本発明に係るソルダペーストの粘度は上述した数値に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
<硬化剤の種類と樹脂の硬化温度の関係>
測定対象のソルダペースト及びフラックスで、フラックスに添加する硬化剤がエポキシ樹脂の硬化に及ぼす影響について測定した。
【0037】
図2は、硬化剤の種類とエポキシ樹脂の硬化温度の関係を示すグラフである。図2では、示差走査熱量測定によって、エポキシ樹脂の硬化や溶融といった状態の変化に伴う熱量を測定した。ここで、図2の縦軸は熱量、横軸は温度を示す。
【0038】
エポキシ樹脂の硬化剤としてアミン系の硬化剤を使用した場合、図2に破線で示すように、50℃付近から硬化による発熱が見られ、90℃程度で硬化のピーク温度t1となった。一方、エポキシ樹脂の硬化剤として酸無水物系の硬化剤を使用した場合、図2に実線で示すように、硬化反応が見られなかった。
【0039】
アミン系の硬化剤を使用した例では、はんだ溶融温度域、例えば、はんだ合金がSn-3Ag-0.5Cuである場合のはんだ溶融温度域である217〜219℃に対して、硬化のピーク温度が低く、常温でも硬化が進行することが判る。
【0040】
これに対して、酸無水物系の硬化剤を使用した例では、常温域での硬化は見られず、はんだ溶融温度域での硬化も見られなかった。このため、硬化剤としては、常温域での硬化の進行を考慮して、本例では酸無水物系の硬化剤が使用される。
【0041】
アミン系の硬化剤を使用した例では、1級アミン、2級アミン、3級アミンが挙げられる。
【0042】
酸無水物系の硬化剤の一例としては、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメット酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセリンビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、脂肪族二塩基酸ポリ無水物等のいずれか、または組み合わせが使用される。
【0043】
<はんだ合金の有無と樹脂の硬化の関係>
上述したように、エポキシ樹脂の硬化剤として、酸無水物系の硬化剤を使用したフラックスでは、常温域でのエポキシ樹脂の硬化の進行が抑えられる一方、フラックスのみを加熱しても、エポキシ樹脂の硬化が促進されないことが判った。そこで、測定対象のソルダペースト及びフラックスで、はんだ合金がエポキシ樹脂の硬化に及ぼす影響について測定した。
【0044】
図3は、はんだ合金の有無とエポキシ樹脂の硬化の関係を示すグラフである。エポキシ樹脂及び硬化剤が添加された上述した組成のフラックスのみでは、リフローはんだ付けの工程と同条件で加熱をしても、図3に破線で示すように、硬化による発熱が見られなかった。これにより、はんだ合金と混合されていないフラックスのみでは、硬化剤が添加されていても、エポキシ樹脂が加熱で硬化しないことが判った。
【0045】
一方、エポキシ樹脂及び硬化剤が添加されたフラックスと、本例では組成がSn-3Ag-0.5Cuであるはんだ合金が混合されたソルダペーストでは、図3に実線で示すように、183℃付近からエポキシ樹脂の硬化による発熱が見られ、202℃付近で硬化のピーク温度となり、その後、はんだ合金の溶融による吸熱が見られた。
【0046】
上述したように、フラックスのみではエポキシ樹脂が硬化せず、はんだ合金との組み合わせでエポキシ樹脂が硬化していることから、はんだ合金がエポキシ樹脂の硬化を促進していることが判った。
【0047】
<はんだ合金の有無とフラックス残渣の接着強度の関係>
測定対象のソルダペースト及びフラックスで、はんだ合金がフラックス残渣の接着強度に及ぼす影響について測定した。
【0048】
図4は、はんだ合金の有無とフラックス残渣の接着強度の関係を示すグラフである。エポキシ樹脂及び硬化剤が添加された上述した組成のフラックスのみで、リフローはんだ付けの工程と同条件で加熱を行って生成したフラックス残渣の接着強度をシェア強度試験で測定した結果は、図4に破線で示すように、3.0(N)前後であった。
【0049】
フラックス残渣を形成し得るロジンを含有した従前のソルダペーストによるフラックス残渣の接着強度が4.5(N)程度であるのに対し、エポキシ樹脂及び硬化剤が添加されたフラックスのみによるフラックス残渣は、上述したように加熱をしてもエポキシ樹脂が硬化しないことから、従前のソルダペーストによるフラックス残渣より接着強度が低いことが判った。
【0050】
一方、エポキシ樹脂及び硬化剤が添加されたフラックスと、本例では組成がSn-3.0Ag-0.5Cuであるはんだ合金が混合されたソルダペーストによるフラックス残渣は、図4に実線で示すように、接着強度が9.0〜20.0(N)前後あり、本例では250℃までのリフロー時間で接着強度が上がることが判った。
【0051】
<はんだ合金の種類とフラックス残渣の接着強度の関係>
以下に示す組成のはんだ合金と上述した組成のフラックスを混合して実施例のソルダペーストを作成し、各実施例のソルダペーストをガラスエポキシ基板2のソルダレジスト22に塗布して、温度プロファイルを変えてフラックス残渣を生成し、本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法で接着強度をシェア強度試験で測定した。比較例として、各実施例のソルダペーストを使用して形成されるはんだボールと全く同じ大きさ、同じ組成のはんだボールを準備し、ソルダレジスト22にフラックスのみを塗布し、フラックスにはんだボールを載せ、その後、各実施例と同じ条件でフラックス残渣を生成し、本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法で接着強度を測定した。
【0052】
実施例1のはんだ合金の組成は、Sn-3Ag-0.5Cu、実施例2のはんだ合金の組成は、Sn-3Ag-3Bi-3Inである。実施例1のはんだ溶融温度域は217〜219℃程度、実施例2のはんだ溶融温度域は198〜214℃程度である。
【0053】
実施例3のはんだ合金の組成は、Sn-10Sbである。実施例3のはんだ溶融温度域は245〜266℃程度である。
【0054】
実施例4のはんだ合金の組成は、Sn-58Bi、実施例4のはんだ溶融温度域は139〜141℃程度である。上述した実施例1から実施例4のはんだ合金は、鉛(Pb)を含まない、所謂鉛フリーはんだである。
【0055】
実施例5のはんだ合金の組成は、Sn-37Pbであり、鉛を含む。実施例5のはんだ溶融温度は183℃程度である。
【0056】
図5図8は、実施例と比較例の接着強度を示すグラフで、図5は、実施例1の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペースト、及び、実施例2の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペーストを使用してシェア強度試験で測定した接着強度と、上述した組成のフラックスのみを使用した比較例の接着強度を示す。
【0057】
図6は、実施例3の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペーストを使用してシェア強度試験で測定した接着強度と、上述した組成のフラックスのみを使用した比較例の接着強度を示す。
【0058】
図7は、実施例4の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペーストを使用してシェア強度試験で測定した接着強度と、上述した組成のフラックスのみを使用した比較例の接着強度を示す。
【0059】
図8は、実施例5の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペーストを使用してシェア強度試験で測定した接着強度と、上述した組成のフラックスのみを使用した比較例の接着強度を示す。
【0060】
図9図12は、実施例と比較例の温度プロファイルを示すグラフで、図9は、実施例1及び実施例2と、比較例でフラックス残渣を生成した温度プロファイルを示す。図10は、実施例3と、比較例でフラックス残渣を生成した温度プロファイルを示す。図11は、実施例4と、比較例でフラックス残渣を生成した温度プロファイルを示す。図12は、実施例5と、比較例でフラックス残渣を生成した温度プロファイルを示す。
【0061】
各実施例のソルダペーストでは、はんだ合金のはんだ溶融温度域に合わせた温度プロファイルでソルダペーストを加熱してフラックス残渣を生成することで、フラックス中のエポキシ樹脂が硬化した。そして、本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法で接着強度を測定した結果、各実施例のソルダペーストと同じ条件で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、各実施例と同一条件で生成した各比較例のフラックス残渣と比較して、はんだ合金とフラックスを混合したソルダペーストで生成された各実施例のフラックス残渣は、接着強度が向上していることが判る。
【0062】
各実施例のソルダペーストでは、はんだ合金の組成、はんだ溶融温度域が異なるが、はんだ溶融温度域の高低、鉛の添加の有無、Snの含有量によらず、接着強度が向上することが判った。
【0063】
Sn-Ag系のはんだ合金を含む実施例1及び実施例2のソルダペーストでは、はんだ溶融温度域が200℃程度で、13〜20(N)程度の接着強度が得られた。これに対して、Sn-Ag系のはんだ合金で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、実施例と同一条件で生成した比較例1のフラックス残渣の接着強度は、2〜10(N)程度であった。
【0064】
Sn-Sb系のはんだ合金を含む実施例3のソルダペーストでは、はんだ溶融温度域が実施例1及び実施例2のSn-Ag系のはんだ合金より高く、26〜27(N)程度の接着強度が得られた。これに対して、Sn-Sb系のはんだ合金で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、実施例と同一条件で生成した比較例2のフラックス残渣の接着強度は、7〜15(N)程度であった。
【0065】
Sn-Bi系のはんだ合金を含む実施例4のソルダペーストでは、はんだ溶融温度域が140℃程度と実施例1及び実施例2のSn-Ag系のはんだ合金より低く、6〜11(N)程度の接着強度が得られた。これに対して、Sn-Bi系のはんだ合金で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、実施例と同一条件で生成した比較例3のフラックス残渣の接着強度は、0.3〜0.7(N)程度であった。
【0066】
Sn-Pb系のはんだ合金を含む実施例5のソルダペーストでは、はんだ溶融温度が183℃で、13〜21(N)程度の接着強度が得られた。これに対して、Sn-Pb系のはんだ合金で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、実施例と同一条件で生成した比較例4のフラックス残渣の接着強度は、3〜10(N)程度であった。
【0067】
上述したように、鉛を含まず、はんだ溶融温度域が200℃以上の実施例1〜実施例3のソルダペーストでは、13〜30(N)程度の接着強度が得られた。また、鉛を含まず、はんだ溶融温度域が200℃未満の実施例4のソルダペーストでは、6〜11(N)程度の接着強度が得られた。更に、鉛を含む実施例5のソルダペーストでは、13〜21(N)程度の接着強度が得られた。
【0068】
実験の結果、熱硬化性の樹脂が含有されたフラックスと、はんだ合金が混合されたソルダペーストでは、はんだ合金と樹脂の組み合わせによって、樹脂の硬化性が向上し、樹脂の接着強度が向上することが新たに見出された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、電子部品を基板に固着する機能を持たせたフラックス残渣の接着強度の評価に適用される。
【符号の説明】
【0070】
1・・・ソルダペースト、3・・・測定用工具、10・・・フラックス残渣、11・・・はんだ合金、2・・・ガラスエポキシ基板、20・・・基材、21・・・電極、22・・・ソルダレジスト
【要約】
【課題】はんだ合金と金属との接合強度の影響を排除して、樹脂と基板との接着強度を評価することが可能なフラックス残渣の接着強度測定方法を提供する。
【解決手段】接着性を有すると共に熱で硬化する熱硬化性樹脂、樹脂を硬化させる硬化剤、活性剤、及びチキソ剤とを少なくとも含むフラックスと、はんだ合金が混合されたソルダペースト1を、測定対象のガラスエポキシ基板2の基材20の表面に形成されたソルダレジスト22に塗布する工程と、測定対象のガラスエポキシ基板2に塗布されたソルダペースト1を、はんだ溶融温度域で加熱する工程と、樹脂が熱で硬化することで生成されたフラックス残渣10と、測定対象のガラスエポキシ基板2との接着強度を測定する工程とを有する。
【選択図】図1
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