【実施例】
【0036】
<硬化剤の種類と樹脂の硬化温度の関係>
測定対象のソルダペースト及びフラックスで、フラックスに添加する硬化剤がエポキシ樹脂の硬化に及ぼす影響について測定した。
【0037】
図2は、硬化剤の種類とエポキシ樹脂の硬化温度の関係を示すグラフである。
図2では、示差走査熱量測定によって、エポキシ樹脂の硬化や溶融といった状態の変化に伴う熱量を測定した。ここで、
図2の縦軸は熱量、横軸は温度を示す。
【0038】
エポキシ樹脂の硬化剤としてアミン系の硬化剤を使用した場合、
図2に破線で示すように、50℃付近から硬化による発熱が見られ、90℃程度で硬化のピーク温度t1となった。一方、エポキシ樹脂の硬化剤として酸無水物系の硬化剤を使用した場合、
図2に実線で示すように、硬化反応が見られなかった。
【0039】
アミン系の硬化剤を使用した例では、はんだ溶融温度域、例えば、はんだ合金がSn-3Ag-0.5Cuである場合のはんだ溶融温度域である217〜219℃に対して、硬化のピーク温度が低く、常温でも硬化が進行することが判る。
【0040】
これに対して、酸無水物系の硬化剤を使用した例では、常温域での硬化は見られず、はんだ溶融温度域での硬化も見られなかった。このため、硬化剤としては、常温域での硬化の進行を考慮して、本例では酸無水物系の硬化剤が使用される。
【0041】
アミン系の硬化剤を使用した例では、1級アミン、2級アミン、3級アミンが挙げられる。
【0042】
酸無水物系の硬化剤の一例としては、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメット酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセリンビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、脂肪族二塩基酸ポリ無水物等のいずれか、または組み合わせが使用される。
【0043】
<はんだ合金の有無と樹脂の硬化の関係>
上述したように、エポキシ樹脂の硬化剤として、酸無水物系の硬化剤を使用したフラックスでは、常温域でのエポキシ樹脂の硬化の進行が抑えられる一方、フラックスのみを加熱しても、エポキシ樹脂の硬化が促進されないことが判った。そこで、測定対象のソルダペースト及びフラックスで、はんだ合金がエポキシ樹脂の硬化に及ぼす影響について測定した。
【0044】
図3は、はんだ合金の有無とエポキシ樹脂の硬化の関係を示すグラフである。エポキシ樹脂及び硬化剤が添加された上述した組成のフラックスのみでは、リフローはんだ付けの工程と同条件で加熱をしても、
図3に破線で示すように、硬化による発熱が見られなかった。これにより、はんだ合金と混合されていないフラックスのみでは、硬化剤が添加されていても、エポキシ樹脂が加熱で硬化しないことが判った。
【0045】
一方、エポキシ樹脂及び硬化剤が添加されたフラックスと、本例では組成がSn-3Ag-0.5Cuであるはんだ合金が混合されたソルダペーストでは、
図3に実線で示すように、183℃付近からエポキシ樹脂の硬化による発熱が見られ、202℃付近で硬化のピーク温度となり、その後、はんだ合金の溶融による吸熱が見られた。
【0046】
上述したように、フラックスのみではエポキシ樹脂が硬化せず、はんだ合金との組み合わせでエポキシ樹脂が硬化していることから、はんだ合金がエポキシ樹脂の硬化を促進していることが判った。
【0047】
<はんだ合金の有無とフラックス残渣の接着強度の関係>
測定対象のソルダペースト及びフラックスで、はんだ合金がフラックス残渣の接着強度に及ぼす影響について測定した。
【0048】
図4は、はんだ合金の有無とフラックス残渣の接着強度の関係を示すグラフである。エポキシ樹脂及び硬化剤が添加された上述した組成のフラックスのみで、リフローはんだ付けの工程と同条件で加熱を行って生成したフラックス残渣の接着強度をシェア強度試験で測定した結果は、
図4に破線で示すように、3.0(N)前後であった。
【0049】
フラックス残渣を形成し得るロジンを含有した従前のソルダペーストによるフラックス残渣の接着強度が4.5(N)程度であるのに対し、エポキシ樹脂及び硬化剤が添加されたフラックスのみによるフラックス残渣は、上述したように加熱をしてもエポキシ樹脂が硬化しないことから、従前のソルダペーストによるフラックス残渣より接着強度が低いことが判った。
【0050】
一方、エポキシ樹脂及び硬化剤が添加されたフラックスと、本例では組成がSn-3.0Ag-0.5Cuであるはんだ合金が混合されたソルダペーストによるフラックス残渣は、
図4に実線で示すように、接着強度が9.0〜20.0(N)前後あり、本例では250℃までのリフロー時間で接着強度が上がることが判った。
【0051】
<はんだ合金の種類とフラックス残渣の接着強度の関係>
以下に示す組成のはんだ合金と上述した組成のフラックスを混合して実施例のソルダペーストを作成し、各実施例のソルダペーストをガラスエポキシ基板2のソルダレジスト22に塗布して、温度プロファイルを変えてフラックス残渣を生成し、本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法で接着強度をシェア強度試験で測定した。比較例として、各実施例のソルダペーストを使用して形成されるはんだボールと全く同じ大きさ、同じ組成のはんだボールを準備し、ソルダレジスト22にフラックスのみを塗布し、フラックスにはんだボールを載せ、その後、各実施例と同じ条件でフラックス残渣を生成し、本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法で接着強度を測定した。
【0052】
実施例1のはんだ合金の組成は、Sn-3Ag-0.5Cu、実施例2のはんだ合金の組成は、Sn-3Ag-3Bi-3Inである。実施例1のはんだ溶融温度域は217〜219℃程度、実施例2のはんだ溶融温度域は198〜214℃程度である。
【0053】
実施例3のはんだ合金の組成は、Sn-10Sbである。実施例3のはんだ溶融温度域は245〜266℃程度である。
【0054】
実施例4のはんだ合金の組成は、Sn-58Bi、実施例4のはんだ溶融温度域は139〜141℃程度である。上述した実施例1から実施例4のはんだ合金は、鉛(Pb)を含まない、所謂鉛フリーはんだである。
【0055】
実施例5のはんだ合金の組成は、Sn-37Pbであり、鉛を含む。実施例5のはんだ溶融温度は183℃程度である。
【0056】
図5〜
図8は、実施例と比較例の接着強度を示すグラフで、
図5は、実施例1の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペースト、及び、実施例2の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペーストを使用してシェア強度試験で測定した接着強度と、上述した組成のフラックスのみを使用した比較例の接着強度を示す。
【0057】
図6は、実施例3の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペーストを使用してシェア強度試験で測定した接着強度と、上述した組成のフラックスのみを使用した比較例の接着強度を示す。
【0058】
図7は、実施例4の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペーストを使用してシェア強度試験で測定した接着強度と、上述した組成のフラックスのみを使用した比較例の接着強度を示す。
【0059】
図8は、実施例5の組成のはんだ合金と、上述した組成のフラックスを混合したソルダペーストを使用してシェア強度試験で測定した接着強度と、上述した組成のフラックスのみを使用した比較例の接着強度を示す。
【0060】
図9〜
図12は、実施例と比較例の温度プロファイルを示すグラフで、
図9は、実施例1及び実施例2と、比較例でフラックス残渣を生成した温度プロファイルを示す。
図10は、実施例3と、比較例でフラックス残渣を生成した温度プロファイルを示す。
図11は、実施例4と、比較例でフラックス残渣を生成した温度プロファイルを示す。
図12は、実施例5と、比較例でフラックス残渣を生成した温度プロファイルを示す。
【0061】
各実施例のソルダペーストでは、はんだ合金のはんだ溶融温度域に合わせた温度プロファイルでソルダペーストを加熱してフラックス残渣を生成することで、フラックス中のエポキシ樹脂が硬化した。そして、本実施の形態のフラックス残渣の接着強度測定方法で接着強度を測定した結果、各実施例のソルダペーストと同じ条件で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、各実施例と同一条件で生成した各比較例のフラックス残渣と比較して、はんだ合金とフラックスを混合したソルダペーストで生成された各実施例のフラックス残渣は、接着強度が向上していることが判る。
【0062】
各実施例のソルダペーストでは、はんだ合金の組成、はんだ溶融温度域が異なるが、はんだ溶融温度域の高低、鉛の添加の有無、Snの含有量によらず、接着強度が向上することが判った。
【0063】
Sn-Ag系のはんだ合金を含む実施例1及び実施例2のソルダペーストでは、はんだ溶融温度域が200℃程度で、13〜20(N)程度の接着強度が得られた。これに対して、Sn-Ag系のはんだ合金で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、実施例と同一条件で生成した比較例1のフラックス残渣の接着強度は、2〜10(N)程度であった。
【0064】
Sn-Sb系のはんだ合金を含む実施例3のソルダペーストでは、はんだ溶融温度域が実施例1及び実施例2のSn-Ag系のはんだ合金より高く、26〜27(N)程度の接着強度が得られた。これに対して、Sn-Sb系のはんだ合金で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、実施例と同一条件で生成した比較例2のフラックス残渣の接着強度は、7〜15(N)程度であった。
【0065】
Sn-Bi系のはんだ合金を含む実施例4のソルダペーストでは、はんだ溶融温度域が140℃程度と実施例1及び実施例2のSn-Ag系のはんだ合金より低く、6〜11(N)程度の接着強度が得られた。これに対して、Sn-Bi系のはんだ合金で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、実施例と同一条件で生成した比較例3のフラックス残渣の接着強度は、0.3〜0.7(N)程度であった。
【0066】
Sn-Pb系のはんだ合金を含む実施例5のソルダペーストでは、はんだ溶融温度が183℃で、13〜21(N)程度の接着強度が得られた。これに対して、Sn-Pb系のはんだ合金で作成されたはんだボールをフラックスに載せ、実施例と同一条件で生成した比較例4のフラックス残渣の接着強度は、3〜10(N)程度であった。
【0067】
上述したように、鉛を含まず、はんだ溶融温度域が200℃以上の実施例1〜実施例3のソルダペーストでは、13〜30(N)程度の接着強度が得られた。また、鉛を含まず、はんだ溶融温度域が200℃未満の実施例4のソルダペーストでは、6〜11(N)程度の接着強度が得られた。更に、鉛を含む実施例5のソルダペーストでは、13〜21(N)程度の接着強度が得られた。
【0068】
実験の結果、熱硬化性の樹脂が含有されたフラックスと、はんだ合金が混合されたソルダペーストでは、はんだ合金と樹脂の組み合わせによって、樹脂の硬化性が向上し、樹脂の接着強度が向上することが新たに見出された。