(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、ESD保護装置において放電開始電圧を低くするために、以下のような検討を行った。特許文献1に記載のESD保護装置では、放電開始電圧をより一層低めることが困難であった。
【0007】
他方、放電開始電圧を低めるには、気中放電経路及び沿面放電経路が狭いギャップを隔てて多数存在することが望ましい。特許文献2に記載のESD保護装置では、この放電ギャップが印刷工法で形成されている。しかしながら、このような印刷工法で狭いギャップを高精度に形成することは困難であった。そのため、放電開始電圧の低電圧化が難しかった。
【0008】
なお、フォトリソグラフィーエッチング法やレーザーによるトリミング加工法などを用いれば、狭いギャップを高精度に形成することが可能である。しかしながら、製造コストが大幅に高くなるという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、コストの上昇を招くことなく、放電開始電圧を効果的に低め得る、ESD保護装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のESD保護装置は、絶縁体と、第1及び第2の放電電極と、放電ギャップ形成層とを備える。
【0011】
第1及び第2の放電電極は、前記絶縁体内で対向し合っている。前記放電ギャップ形成層は、第1及び第2の放電電極が対向し合っている部分において、第1の放電電極と第2の放電電極とにより挟まれている部分である。放電ギャップ形成層は、第1の放電電極と第2の放電電極とに連なる複数の空洞を有する。
【0012】
本発明に係るESD保護装置では、好ましくは、前記絶縁体が、上面及び下面を有する積層型の絶縁性基板であり、前記第1及び第2の放電電極が、前記絶縁性基板の高さ方向において隔てられて対向している。
【0013】
本発明に係るESD保護装置では、好ましくは、前記放電ギャップ形成層に補助電極が設けられている。上記補助電極は、半導体セラミック粒子を含んでいてもよい。また、上記補助電極は、絶縁性材料で被覆された導電性粒子を含んでいてもよい。
【0014】
本発明においては、上記放電ギャップ形成層は、絶縁体を構成している絶縁材料よりも誘電率が高い高誘電率材料を含んでいてもよい。
【0015】
本発明に係るESD保護装置の製造方法は、以下の各工程を備える。
【0016】
第1の絶縁体層上に第1の放電電極ペーストを塗布する工程。
【0017】
前記第1の放電電極ペースト上の一部に、焼成により消失する固体を含む放電ギャップ形成層用ペーストを塗布する工程。
【0018】
前記放電ギャップ形成層用ペーストの少なくとも一部を介して前記第1の放電電極ペーストと対向するように、第2の放電電極ペーストを塗布する工程。
【0019】
前記第2の放電電極ペーストを覆うように第2の絶縁体層を形成する工程。
【0020】
前記第1及び第2の絶縁体層を焼成して絶縁体を形成すると共に、かつ前記第1の放電電極ペースト、前記放電ギャップ形成層用ペースト及び前記第2の放電電極ペーストを焼付け、第1,第2の放電電極と、前記第1,第2の放電電極間に設けられており、第1の放電電極と第2の放電電極とに連なる複数の空洞を有する放電ギャップ形成層とを形成する焼成工程。
【0021】
本発明に係るESD保護装置の製造方法では、好ましくは、焼成により消失する固体として樹脂が用いられ、より好ましくは樹脂ビーズが用いられる。
【0022】
本発明に係るESD保護装置の製造方法では、上記放電ギャップ形成層用ペーストに、補助電極材料を含有させることが好ましい。このような補助電極材料としては、半導体セラミック粒子が好適に用いられる。また、上記補助電極材料が、絶縁性材料で被覆された導電性粒子を含んでいてもよい。
【0023】
本発明のESD保護装置の製造方法では、上記放電ギャップ形成層用ペーストが、前記絶縁体を構成している材料よりも誘電率が高い高誘電率材料を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るESD保護装置及びその製造方法によれば、放電ギャップ形成層に、第1の放電電極と第2の放電電極とに連なる複数の空洞が形成されているため、放電開始電圧を効果的に低めることが可能となる。また、放電ギャップを小さくするのに印刷工法を用いる必要がないため、ESD保護装置のコストの上昇を招き難い。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係るESD保護装置の正面断面図である。
【0028】
ESD保護装置1は、積層型の絶縁性基板2からなる絶縁体を有する。なお絶縁体は、積層型の絶縁性基板2に限定されない。
【0029】
上記積層型の絶縁性基板2は、後述の放電ギャップ形成層を除いては、絶縁性セラミックスからなる。絶縁性セラミックスとしては、特に限定されないが、本実施形態では、いわゆるBAS材が用いられる。BAS材とは、Ba、Al及びSiを主体とするセラミック組成からなるセラミックスである。
【0030】
絶縁性基板2は、上記BAS材からなる複数枚のセラミックグリーンシートを積層し、焼成することにより形成されている。絶縁性基板2は、上面2aと、下面2bと、端面2c,2dを有する。また、絶縁性基板2は、図示しない一対の側面を有する。本実施形態では、絶縁性基板2は、矩形板状の形状を有する。もっとも、絶縁性基板2の形状は特に限定されない。なお、絶縁性基板2は、セラミックスに限らず、樹脂などからなるものであってもよい。
【0031】
絶縁性基板2内には、第1の放電電極3と第2の放電電極4とが配置されている。第1の放電電極3は、絶縁性基板2の上面2a及び下面2bと平行に延び、端面2cに引き出されている。第2の放電電極4は、第1の放電電極3よりも上方に設けられている。第2の放電電極4は、端面2dに引き出されている。
【0032】
第1の放電電極3と第2の放電電極4とは、絶縁性基板2の高さ方向において部分的に対向し合っている。
【0033】
第1の放電電極3及び第2の放電電極4は、適宜の導電性材料により形成することができる。本実施形態では、第1,第2の放電電極3,4はCuからなる。もっとも、Ag、Pd、Pt、Al、NiもしくはWまたはこれらを主体とする合金を用いてもよい。
【0034】
第1の放電電極3と第2の放電電極4とが対向し合っている部分において、第1の放電電極3と第2の放電電極4とで挟まれている部分が放電ギャップ形成層5である。
【0035】
放電ギャップ形成層5は、複数の空洞5aを有する。空洞5aは柱状部分5bに囲まれている。複数の空洞5aは、第1の放電電極3と第2の放電電極4とに連なっている。すなわち、絶縁性基板2内において空洞5aは、その上端において第2の放電電極4に連なっており、その下端において第1の放電電極3に連なっている。空洞5aに、第1の放電電極3及び第2の放電電極4の一部が露出している。
【0036】
静電気が加わった場合、この空洞5a内において、第1の放電電極3と第2の放電電極4との間で放電が生じる。この放電は、気中放電経路と、沿面放電経路の双方の放電経路により生じる。本実施形態では、複数の空洞5aが設けられているため、気中放電経路だけでなく、多数の沿面放電経路が存在する。
【0037】
ESD保護装置における放電開始電圧は、気中放電経路及び沿面放電経路が多いほど低めることができる。本実施形態では、複数の空洞5aが設けられているため、多数の気中放電経路及び多数の沿面放電経路が形成されることになる。従って、放電開始電圧を効果的に低めることが可能とされている。
【0038】
なお、放電ギャップ形成層5とは、上記複数の空洞5aを形成するための層であり、第1の放電電極3と第2の放電電極4とが高さ方向において対向し合っている部分に位置している。もっとも、放電ギャップ形成層5は、第1の放電電極3と第2の放電電極4とが高さ方向において重なり合っている部分よりも図面上の横方向外側にはみ出していてもよい。放電ギャップ形成層5の平面形状については、後述する変形例を参照して、後でより詳細に説明する。
【0039】
図1に示すように、第1,第2の放電電極3,4に電気的に接続されるように、端面2c,2d上に、外部電極6,7が形成されている。外部電極6,7は、Cu、Al、Ag、Pdなどの適宜の金属材料により形成することができる。
【0040】
ESD保護装置1では、外部電極6,7間に静電気が加わると、第1の放電電極3と第2の放電電極4との間で放電が生じる。そして、上述したように、複数の空洞5aが設けられているため、放電開始電圧を効果的に低めることが可能とされている。
【0041】
次に、ESD保護装置1の製造方法を説明することにより、上記放電ギャップ形成層5の詳細をより一層明らかにする。
【0042】
ESD保護装置1の製造に際しては、まず、絶縁性基板2を形成するための絶縁性セラミックグリーンシートを用意する。複数の絶縁性セラミックグリーンシートを積層し、第1の絶縁体層を形成する。
図2に平面図で示すように、この第1の絶縁体層2A上に、第1の放電電極ペースト3Aをスクリーン印刷などの適宜の方法により塗布する。
【0043】
次に、放電ギャップ形成層用ペースト5Aを同じくスクリーン印刷などにより塗布する。さらに、第2の放電電極を形成するための第2の放電電極ペースト4Aを同じくスクリーン印刷などにより塗布する。しかる後、複数枚の絶縁性セラミックグリーンシートを積層し、第2の絶縁体層を形成する。
【0044】
このようにして得られた積層体を焼成することにより、
図1に示した絶縁性基板2を得ることができる。すなわち、第1,第2の絶縁体層が焼成されて絶縁性基板2が得られる。同時に、焼成工程において、第1,第2の放電電極ペースト3A,4Aが焼き付けられて、第1,第2の放電電極3,4が形成される。よって、積層セラミック電子部品の製造に際して用いられている積層及び一体焼成技術を用いて、上記絶縁性基板2及び第1,第2の放電電極3,4を形成させることができる。
【0045】
外部電極6,7は、絶縁性基板2を得た後に端面2c,2dに導電ペーストを塗布し、焼き付けることにより形成し得る。あるいは、蒸着、めっきもしくはスパッタリングなどにより外部電極6,7を形成してもよい。
【0046】
ところで、上記空洞5aが形成されるのは、焼成に際し消失する材料を放電ギャップ形成層用ペースト5Aに含有させておくことにより達成し得る。これを、
図3(a)〜(c)を参照して説明する。
【0047】
図3(a)は、第1,第2の放電電極ペースト3A,4Aと、これらに挟まれている放電ギャップ形成層用ペースト5Aとを示す。焼成前の状態において、放電ギャップ形成層用ペースト5Aは、樹脂ビーズ11と、セラミック粉末12とを有する。樹脂ビーズ11は、絶縁性基板2の焼成に際しての焼成温度において消失し得る材料からなる。樹脂ビーズ11を構成する樹脂としては、焼成に際して消失する限り、特に限定されない。このような樹脂としては、アクリル樹脂系ビーズ、ポリスチレンビーズなどの適宜の合成樹脂ビーズを用いることができる。
【0048】
セラミック粉末12として用いられるセラミックスは、絶縁性基板2を焼成により得るに際し、空洞5aの周りの柱状部分5bを構成し得る限り、特に限定されない。このようなセラミックスとしては、絶縁性基板2を構成する材料と同じセラミック材料を用いることが望ましい。それによって、空洞周りの柱状部分と絶縁性基板2の残りの部分との密着強度が高められる。
【0049】
もっとも、セラミック粉末12は、他の絶縁性セラミックスやガラスセラミックスにより構成されてもよい。上記放電ギャップ形成層用ペースト5Aは、樹脂ビーズ11とセラミック粉末12と、必要に応じバインダー樹脂及び溶媒を含む。
【0050】
上記樹脂ビーズ11の高さ方向寸法は、第1の放電電極3と第2の放電電極4との間の対向距離を決定する大きな因子である。従って、最終的に形成される空洞5aの高さ方向寸法に応じて樹脂ビーズ11の高さ方向寸法を選択すればよい。絶縁性基板2を得るための焼成が進行すると、
図3(a)の状態から
図3(b)の状態及び
図3(c)の状態に移行する。すなわち、樹脂ビーズ11が加熱されて消失する。その結果、
図3(b)に示すように、空洞5aが形成される。さらに、焼成が進行すると、セラミック粉末12同士が焼結し、
図3(c)に示す柱状部分5bが形成される。
【0051】
このようにして、絶縁性基板2が完成される。すなわち、上記のように、焼成に際して消失し得る樹脂ビーズ11を用いることにより、空洞5aを容易にかつ確実に形成することができる。しかも、フォトリソグラフィーやレーザーを用いたトリミングなどの高コストの加工方法を必要としない。よって、上記ESD保護装置1のコストの上昇も招き難い。
【0052】
なお、上記実施形態では、樹脂ビーズ11を用いたが、焼成に際し消失し得る固体の材料である限り、樹脂に限定されない。例えば、ある程度の硬度を有するワックスなどを用いてもよい。
【0053】
さらに、焼成に際し、消失する固体であれば、ビーズ状の形状のものに限定されない。例えば、柱状の樹脂材料を樹脂ビーズ11の代わりに用いてもよい。すなわち、空洞5aを形成し得る限り、消失し得る固体の材料の形状は限定されない。
【0054】
また、上記実施形態では絶縁性のセラミック粉末12により柱状部分5bが形成されていたが、この柱状部分5bに補助電極を形成してもよく、その場合には、放電開始電圧をより一層低めることができ、好ましい。
【0055】
なお、上記実施形態では、第2の放電電極4は、端面2d側においては、第1の放電電極3と同じ高さ位置にあり、絶縁性基板2の中央部分では、放電ギャップ形成層5の上面に至るように高さ位置が変化している。
【0056】
これに対して、
図4に示す変形例のように、第2の放電電極4は、放電ギャップ形成層5の上面から、その高さ位置のまま端面2dに引き出されていてもよい。このような構造は、例えば、第1の放電電極3を形成する放電電極用ペースト、放電ギャップ形成層5を構成する材料部分を含むセラミックグリーンシート、第2の放電電極4用放電電極用ペーストを順に積層し、焼成することにより得ることができる。別法として、セラミックグリーンシート上に、第1の放電電極ペーストを印刷し、開口部を有するセラミックグリーンシートを積層し、開口部内に放電ギャップ形成層用材料を印刷し、さらに第2の放電電極4を構成する放電電極用ペーストを印刷する方法などを用いてもよい。このような方法を用いることにより、放電ギャップ形成層5の上面が位置している平面内に第2の放電電極4を位置させることができる。
【0057】
図5及び
図6は、補助電極を形成する方法を説明するための部分切り欠き拡大正面断面図である。なお、
図5及び
図6は、前述した実施形態における
図3(b)に示す焼成中の状態を示す。
【0058】
上記補助電極を形成する方法としては、
図5に示すように、放電ギャップ形成層用ペースト内に、絶縁性のセラミック粉末12に加えて、半導体セラミック粉末13を混合しておくことが望ましい。半導体セラミック粉末13としては、半導体セラミック粉末を好適に用いることができる。また、半導体セラミック粉末に代えて、絶縁性材料で被覆されている導電性粒子を用いてもよい。好ましくは、上記半導体セラミック粉末と、絶縁性材料に被覆されている導電性粒子の双方を併用することが望ましい。それによって放電開始電圧をより一層低めることができる。
【0059】
上記補助電極材料としての半導体セラミック粉末としては、例えば、SiCのような炭化物や、MnO,NiO,CoO,CuOなど遷移金属の酸化物などの半導体セラミックスからなるセラミック粉末を好適に用いることができる。
【0060】
好ましくは
図6に示すように、上記半導体セラミック粉末13と、絶縁被覆された導電性粒子14とを併用することが望ましい。
【0061】
また、上記補助電極材料としての絶縁性材料に被覆された導電性粒子についても特に限定されない。すなわち、Au、Al、Ag、Niなどの適宜の導電性粒子を用いることができる。絶縁被覆についても、導電性粒子表面に、非常に小さな絶縁性粒子が付着されている構成であってもよい。あるいは、絶縁性皮膜内に導電性粒子が収納されている、いわゆる、コア−シェル構造の粒子を用いてもよい。
【0062】
上記柱状部分5bには、絶縁性基板2を構成している材料よりも誘電率が高い高誘電率材料粒子を分散させておいてもよい。その場合には、放電開始電圧をより一層効果的に低めることができる。なお、このような高誘電率材料粒子を、上記補助電極材料と併用してもよい。
【0063】
上記のような高誘電率材料としては、絶縁性基板2を構成するセラミックスよりも高誘電率のセラミックスを好適に用いることができる。例えば、チタン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどの高誘電率材料を用いることができる。
【0064】
なお、上記実施形態では、
図3(a)〜(c)に示すように、1つの樹脂ビーズ11が消失することにより、空洞5aが形成されていた。これに対して、
図7(a)〜(c)に示すように、放電ギャップ形成層用ペースト5Aを2回塗工し、複数の樹脂ビーズ11を高さ方向に重ね合わせてもよい。この場合、最初に上記実施形態と同様に放電ギャップ形成層用ペースト5Aを塗工し乾燥する。次に、放電ギャップ形成層用ペースト5Aを再度塗工し、乾燥すればよい。このようにして、複数の樹脂ビーズ11が高さ方向に重なり合っている層を形成することができる。しかる後、焼成すれば、
図7(b)及び(c)に示すように変化していく。従って、より一層高さ方向寸法が大きい空洞5aを形成することができる。
【0065】
このように、本発明の製造方法では、放電ギャップ形成層用ペーストを複数回塗工し、それによってより大きな放電ギャップを形成することも可能である。
【0066】
また、前述したように放電ギャップ形成層5は、第1の放電電極3と第2の放電電極4とが高さ方向において対向している領域にのみ形成される必要はなく、側方にはみ出ていてもよい旨を説明した。それによって、製造工程に際しての位置決めの簡略化を果たし得る。これを、
図8及び
図9を参照して説明する。
【0067】
図8及び
図9に示すように、第1の絶縁体層2A上に、第1の放電電極ペースト3A、放電ギャップ形成層用ペースト5A及び第2の放電電極ペースト4Aを積層する。
図9において第1,第2の放電電極ペースト3A,4Aが延びる方向を長さ方向、該長さ方向と直交する方向を幅方向とする。
【0068】
第1の放電電極ペースト3Aの幅方向寸法に比べ、放電ギャップ形成層用ペースト5Aの幅方向寸法を大きくしておく。第2の放電電極ペースト4Aの塗工幅も放電ギャップ形成層用ペースト5Aの幅方向寸法よりも小さくしておく。このようにすれば、放電ギャップ形成層用ペースト5Aを第1の放電電極ペースト3A上に高精度に位置決めせずとも塗工することができる。また、第2の放電電極ペースト4Aの塗工に際しての位置決めも容易に行い得る。
【0069】
図10に示す変形例のように、放電ギャップ形成層用ペースト5Aの幅方向寸法を、第1,第2の放電電極を形成するための第1,第2の放電電極ペースト3A,4Aの幅と同一としてもよい。その場合には、放電ギャップ形成層用ペースト5Aの材料の使用量を減らすことができる。
【0070】
前述した実施形態では、第1の放電電極3と第2の放電電極4との対向方向の距離を変化させることにより、放電ギャップ領域の大きさを調整することができる。
【0071】
また、これに対して、
図9及び
図10に示した構造では、第1,第2の放電電極ペースト3A,4Aの上記幅方向の位置を調整することにより、放電ギャップ部の面積を調整することができる。このように上記幅方向において放電電極同士が重なり合っている領域の寸法を異ならせてもよい。
【0072】
なお、上述した実施形態では、絶縁性基板2内に第1の放電電極3と第2の放電電極4とが配置されていたが、複数対の放電電極が絶縁体内に配置されていてもよい。
【0073】
次に、具体的実験例に基づき、本発明を明らかにする。
【0074】
(実施例1)
Ba、Al、Siを主たる成分とするBAS材の組成のセラミック粉末を用意した。このセラミック粉末に、溶媒としてのトルエンと、バインダー樹脂と、可塑剤とを添加し、混合した。このようにして、セラミックスラリーを得た。得られたセラミックスラリーをドクターグレード法により成形し、厚み50μmの絶縁性セラミックグリーンシートを得た。
【0075】
(放電電極ペースト)
平均粒径2μmのCu粉末30体積%と、バインダー樹脂としてのエチルセルロースを70体積%とを含む組成に溶剤を添加し、混合し、放電電極ペーストを得た。
【0076】
(放電ギャップ形成層用ペースト)
平均粒径1μmのBAS仮焼粉末と、平均粒径5μmのアクリル樹脂からなる樹脂ビーズを体積比で70:30の割合で配合し、さらに、バインダー樹脂及び溶剤を添加し、混合した。このようにして得られた放電ギャップ形成層用ペーストでは、全体の70体積%をバインダー樹脂及び溶剤が占め、残りの30体積%をBAS仮焼粉末及びアクリル樹脂ビーズが占めた。従って、焼成後に柱状部分5bとして残る部分は、BAS仮焼粉末部分であり、上記アクリル樹脂ビーズ部分が空洞5aを形成することとなる。
【0077】
(製造工程)
上記のようにして用意した複数枚の絶縁性セラミックグリーンシートを積層した。次に、放電電極ペーストを約7μmの厚みに塗布した。次に、上記放電ギャップ形成層用ペーストを約8μmの厚みに塗布した。しかる後、再度、放電電極ペーストを約7μmの厚みとなるように塗布した。
【0078】
この場合、放電電極ペースト同士が放電ギャップ形成層用ペーストを介して重なり合っている矩形部分の面積は150μm×100μmとした。
【0079】
次に、複数枚の上記絶縁性セラミックグリーンシートをさらに積層した。しかる後、厚み方向に加圧し、積層体を得た。このようにして、厚み0.3mmの積層体を得た。加圧前、積層体において放電ギャップ形成層用ペーストが形成されている部分は、他の部分よりも厚い。加圧を行うことにより第2の放電電極4の厚さが均一になり、
図1に示すように、第2の放電電極4が曲がる場合がある。また、第2の放電電極4だけでなく、第1の放電電極3も曲がる場合がある。
【0080】
なお、上記各工程については複数のESD保護デバイスの絶縁体を得るためのマザーの絶縁性セラミックグリーンシートを用いて行った。このようにして得られたマザーの積層体を次に、厚み方向に切断し、各ESD保護装置1単位の積層体とした。すなわち、1.0mm×0.5mmの平面形状を有する積層体を得た。
【0081】
次に、上記積層体を1000℃以下の温度で焼成した。焼成後、導電ペーストを絶縁体の両端面に塗布し、焼き付けた。それによって、
図1に示した外部電極6,7を形成した。このようにして、ESD保護装置を得た。
【0082】
上記ESD保護装置を切断し、内部を金属顕微鏡により観察したところ、樹脂ビーズが消失することにより、空洞5aが複数形成されていることが確かめられた。
【0083】
(実施例2)
放電ギャップ形成層用ペーストを以下のように変更したことを除いては実施例1と同様にしてESD保護装置を得た。
【0084】
放電ギャップ形成層用ペーストとして、平均粒径1μmのBAS仮焼粉と、平均粒径1μmのSiC粉と、平均粒径5μmのアクリル樹脂ビーズとを35:35:30の割合(体積比)で混合し、さらに、バインダー樹脂及び溶剤を添加し、混合した。このようにして、放電ギャップ形成層用ペーストを得た。
【0085】
この放電ギャップ形成層用ペーストでは、バインダー樹脂と溶剤とが70体積%とを占め、残りの30体積%を、BAS仮焼粉、SiC粉及びアクリル樹脂ビーズが占めている。このBAS仮焼粉及び半導体セラミック粉末としてのSiC粉が、柱状部分を構成することになり、アクリル樹脂ビーズが、消失により空洞を形成する材料である。
【0086】
実施例2で得たESD保護装置についても実施例1と同様にして切断し、金属顕微鏡で観察したところ、内部に複数の空洞が形成されていることが確かめられた。また、電子顕微鏡において切断面を2000〜5000倍で観察したところ、空洞の周囲の柱状部分において、半導体セラミック粉末としてのSiC粉に由来する部分が確認された。
【0087】
(比較例)
実施例1で用いた放電ギャップ形成層用ペーストに代えて、焼成に際して消失する樹脂ペーストを用いた。その他の点は実施例1と同様とした。焼成後に、絶縁体を切断し、観察したところ、第1,第2の放電電極間に、樹脂ペーストが消失したことにより、大きな単一の空洞が形成されていた。すなわち、大きな単一の空洞部の上下に第1,第2の放電電極が位置していた。
【0088】
(実施例及び比較例の評価)
実施例1,2及び比較例で得たESD保護装置の放電開始電圧を測定した。
【0089】
放電開始電圧の測定:IEC61000−4−2に従って、接触放電により2kV、4kV、6kV及び8kVの電圧のESDをこの順序で印加した。ESD保護装置が放電した場合、下記の表1に○を示し、放電が生じず動作しなかった場合につき×で示した。
【0091】
表1から明らかなように、比較例では、6kVのESDが印加された場合に放電を開始しなかった。これに対して、実施例1及び実施例2では、放電開始電圧を大幅に低め得ることがわかる。特に、半導体セラミック粉末が補助電極材料として添加されていた実施例2では、実施例1に比べ、放電開始電圧をより一層低めることが可能であった。