特許第6048597号(P6048597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コニカミノルタ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6048597-蛍光色素内包樹脂粒子の保存液 図000003
  • 特許6048597-蛍光色素内包樹脂粒子の保存液 図000004
  • 特許6048597-蛍光色素内包樹脂粒子の保存液 図000005
  • 特許6048597-蛍光色素内包樹脂粒子の保存液 図000006
  • 特許6048597-蛍光色素内包樹脂粒子の保存液 図000007
  • 特許6048597-蛍光色素内包樹脂粒子の保存液 図000008
  • 特許6048597-蛍光色素内包樹脂粒子の保存液 図000009
  • 特許6048597-蛍光色素内包樹脂粒子の保存液 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048597
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】蛍光色素内包樹脂粒子の保存液
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20161212BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20161212BHJP
   G01N 21/47 20060101ALI20161212BHJP
   G01N 33/533 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G01N33/543 501K
   G01N33/545 A
   G01N33/543 575
   G01N21/47 B
   G01N33/533
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-560442(P2015-560442)
(86)(22)【出願日】2015年4月15日
(86)【国際出願番号】JP2015061567
(87)【国際公開番号】WO2015163209
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2015年12月11日
(31)【優先権主張番号】特願2014-89287(P2014-89287)
(32)【優先日】2014年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超早期高精度診断システムの研究開発:病理画像等認識技術の研究開発/病理画像等認識基礎技術の研究開発(1粒子蛍光ナノイメージングによる超高精度がん組織診断技術)」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優
(72)【発明者】
【氏名】岡田 文徳
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−503951(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/147081(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 21/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が40nm以上200nm以下の蛍光色素内包樹脂粒子の保存液であって、
緩衝液、蛋白質、および非イオン性界面活性剤を含み、
前記蛋白質として、
0.6% αカゼイン、0.6% βカゼイン、および3% BSAを含むか、あるいは、
10%BSAを含み、且つ、
前記蛍光色素内包樹脂粒子を該保存液に添加することにより得られる粒子含有液について、該添加直後における該粒子含有液を基準としたときの、該添加から24時間静置後における該粒子含有液の高さ中心部の後方散乱強度(透過光)の変化の割合が−1%以上であることを特徴とする保存液。
【請求項2】
前記高さ中心部に照射する光の波長が前記蛍光色素内包樹脂粒子の粒径より長い、請求項1に記載の保存液。
【請求項3】
前記蛍光色素内包樹脂粒子が病理染色に用いられる、請求項1または2に記載の保存液。
【請求項4】
前記蛍光色素内包樹脂粒子が反応性官能基をさらに有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の保存液。
【請求項5】
前記蛍光色素内包樹脂粒子を構成する樹脂が熱硬化性樹脂である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の保存液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光色素内包樹脂粒子の保存に用いられる保存液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ分野で用いられる蛍光標識剤として、蛍光色素内包樹脂粒子が用いられ始めている。蛍光色素内包樹脂粒子は、蛍光色素を適当な樹脂粒子によって内包した構造を有する粒子である。ここで、蛍光色素内包樹脂粒子として、免疫染色等への適用を目的として、抗体などの生体物質と結合可能な官能基または分子との複合体の形態を有するものが用いられることもある。
【0003】
このような蛍光色素内包樹脂粒子を使用する場合、必ずしも製造後すぐに使用されるとは限らず、使用まである程度の期間保存しておく場合がある。このとき、蛍光標識剤としての機能を維持できるよう、多くの場合、保存液中に稀釈した状態で蛍光色素内包樹脂粒子の保存が行われる。
【0004】
ここで、蛍光色素内包樹脂粒子を保存するために用いられる保存液として、蛍光色素内包樹脂粒子の凝集等をできる限り防ぐことができるよう、少量のブロッキング剤を含む適当な緩衝液や界面活性剤を含む液が多用されている。例えば、特許文献1には、蛍光色素内包樹脂粒子の保存液として1%BSA/PBS緩衝液を使用していることが記載されている。
【0005】
ただ、このような従来の保存液を用いた場合であっても、長期保存後に、保存後の蛍光色素内包樹脂粒子を、そのまま免疫染色などの各種染色に使用すると、染色後の細胞組織画像において粗大塊が発生し、輝点の数を正しくカウントする妨げとなることがある。このような事態を避けるため、従来においては、長期保存後には、保存液で稀釈した状態の蛍光色素内包樹脂粒子について、染色に用いる前に、予め、遠心分離、上澄み液の除去、染色用溶媒による稀釈、および超音波処理による再分散を適当な回数繰り返すことにより溶媒置換を行った後、フィルター処理を行うなどの前処理を行う必要があり、煩雑な操作を要するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/029342号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の保存液では、蛍光色素内包樹脂粒子を長期間保存すると、保存後の蛍光色素内包樹脂粒子を用いて細胞組織の染色を行ったときに粗大塊が発生することが多い。このような粗大塊は、通常2.5〜5μm角相当以上の大きさを有する凝集塊として確認することができ、10μm角相当以上の大きさとなることもある。このような長期保存後の蛍光色素内包樹脂粒子では、蛍光色素内包樹脂粒子が、沈降および/または凝集を起こしていると考えられる。
【0008】
したがって、本発明の目的は、蛍光色素内包樹脂粒子の沈降および/または凝集、特に凝集を抑制でき、且つ、長期保存後の蛍光色素内包樹脂粒子について煩雑な操作を行う必要なく染色に用いることを可能とする保存液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的のうち少なくとも1つを実現するために、本発明では、以下の保存液が提供される:
粒径が40nm以上200nm以下の蛍光色素内包樹脂粒子の保存液であって、
緩衝液、蛋白質、および非イオン性界面活性剤を含み、
前記蛋白質として、
0.6% αカゼイン、0.6% βカゼイン、および3% BSAを含むか、あるいは、
10%BSAを含み、且つ、
前記蛍光色素内包樹脂粒子を該保存液に添加することにより得られる粒子含有液について、該添加直後における該粒子含有液を基準としたときの、該添加から24時間静置後における該粒子含有液の高さ中心部の後方散乱強度(透過光)の変化の割合が−1%以上であることを特徴とする保存液。
【発明の効果】
【0010】
本発明の保存液で蛍光色素内包樹脂粒子を保存することにより、長期保存後の蛍光色素内包樹脂粒子でも、従来技術のように、染色に用いる前に、予め、遠心分離、上澄み液の除去、染色用溶媒による稀釈、および超音波処理による再分散を適当な回数繰り返すことにより溶媒置換を行った後、フィルター処理を行うなどの前処理を要することなく、ピペッティング(撹拌)といった簡便な操作のみで細胞組織の染色を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例5における、合成直後のストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子を用いた染色結果。
図2】実施例5における、本発明の保存液で1ヶ月保存後のストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子を用いた染色結果。
図3】実施例11における、合成直後のストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子を用いた染色結果。
図4】実施例11における、本発明の保存液で1ヶ月保存後のストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子を用いた染色結果。
図5】比較例7における、合成直後のストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子を用いた染色結果。
図6A】比較例7における、保存液で1ヶ月保存後のストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子を用いた染色結果。
図6B図6Aに示した比較例7の染色結果における、粗大塊の位置を示すスケッチである。
図7】実施例および比較例で使用した蛍光色素内包樹脂粒子を製造する場合における、樹脂原料仕込み量に対する、得られる蛍光色素内包樹脂粒子の平均粒径の関係を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る保存液について具体的に説明する。
【0013】
〔保存液〕
本発明に係る保存液は、
蛍光色素内包樹脂粒子の保存液であって、
蛍光色素内包樹脂粒子を該保存液に添加することにより得られる粒子含有液について、該添加直後における該粒子含有液を基準としたときの、該添加から24時間静置後における該粒子含有液の高さ中心部の後方散乱強度(透過光)の変化の割合が−1%以上である。
【0014】
すなわち、本発明の保存液は、蛍光色素内包樹脂粒子を添加して粒子含有液としたときに、当該粒子含有液について観測される、添加直後における高さ中心部の後方散乱強度(透過光)をI0、添加から24時間静置後における高さ中心部の後方散乱強度(透過光)をI24として、下記式
D=(I24−I0)/I0×100
に基づいて求められる、この粒子含有液についての高さ中心部の後方散乱強度(透過光)の変化の割合D(%)が、D≧−1の関係を満たす。ここで、この変化の割合Dは、本発明の保存液による保存を行った蛍光色素内包樹脂粒子についての凝集度合いを見るものであり、保存液による、蛍光色素内包樹脂粒子の保存性能を評価する尺度となるものである。
【0015】
すなわち、別の見方をすると、蛍光色素内包樹脂粒子の保存液が本発明の保存液に該当するかどうか、すなわち、D≧−1の関係を満たすかどうかは、以下の工程(1)〜(4)を含む評価方法によって確認できるともいえる:
(1)蛍光色素内包樹脂粒子を保存液に添加して、粒子含有液を得る工程;
(2)前記粒子含有液について、添加直後に、該粒子含有液の高さ中心部の後方散乱強度(透過光)I0を測定する工程;
(3)前記粒子含有液を24時間静置後、再度該粒子含有液の高さ中心部の後方散乱強度(透過光)I24を測定する工程;
(4)前記I0およびI24をもとに、下記要件を満たすか否かを判定する工程。
【0016】
(I24−I0)/I0×100≧−1
ここで、本発明において、上記変化の割合Dを求める基準とする「後方散乱強度(透過光)」は、光源からの光が、試料を透過しながらあるいは、散乱を繰り替えしながら直進することにより得られる透過光あるいは後方散乱光の強度をいう。
【0017】
本発明において、後方散乱強度(透過光)を観測する位置を粒子含有液の高さ中心部としている理由は、以下の通りである。
【0018】
病理染色に用いる蛍光色素内包樹脂粒子の保存を保存液中で行う場合、長期保存中に粒子の凝集が起こると、病理染色を行ったときに粗大塊が発生し、正確な判定の妨げとなる。これに対して、蛍光色素内包樹脂粒子を保存液中で長期保存中に粒子の沈降が起こっても、再分散させることによって、粗大塊が発生することなく病理染色を行うことが可能である。このことを踏まえると、保存液による蛍光色素内包樹脂粒子の保存性能を評価する上で、粒子の凝集を、粒子の沈降とは区別して観測できることが必要となる。
【0019】
ここで、粒子含有液を静置したときに、分散していた粒子が凝集する場合には、高さ位置にかかわらず粒子含有液全体で後方散乱光の光量に変化が生じることから、それに伴い、高さ中心部における後方散乱強度(透過光)が減少する。
【0020】
一方、分散していた粒子が単に沈降したに過ぎない場合には、粒子の沈降に伴い粒子含有液の上端および下端における後方散乱強度(透過光)は経時変化するものの、高さ中心部における後方散乱強度(透過光)の変化はほとんど起こらない。
【0021】
したがって、後方散乱強度(透過光)を観測する位置を粒子含有液の高さ中心部とすることで、保存液における、蛍光色素内包樹脂粒子の凝集度合いを正しく評価することができ、保存液による蛍光色素内包樹脂粒子の保存性能を適切に評価することができるのである。ここで、本発明の保存液における最も理想的な態様では、この保存液中で長期保存後も蛍光色素内包樹脂粒子の凝集が生じておらず、この場合、D=0ということになる。
【0022】
ここで、本発明において、このDを−1以上としているが、これは本発明者らの経験上、この値で判断するのが、保存液における、蛍光色素内包樹脂粒子凝集の抑制性能を評価する上で適切と考えられたことによる。このことは、本明細書において後述する実施例・比較例における、保存液で1ヶ月保存後の蛍光色素内包樹脂粒子についての免疫染色・形態観察染色による評価結果との関係からも確認されている。なお、本発明者らは、1ヶ月放置した粒子含有液の高さ中心部の後方散乱強度(透過光)の変化の割合についても、上記Dの値と一定の相関関係があると推定している。
【0023】
なお、本発明の保存液は、測定状況によってD>0となる場合があるが、そのようなDとなっても差し支えない。
【0024】
本発明において後方散乱強度(透過光)の測定を行う高さ中心部に照射する光の波長は、粒子含有液について、蛍光色素内包樹脂粒子との関係で後方散乱強度(透過光)を適切に測定できる限り、必ずしも特に限定されるわけではない。ただ、適切な測定を行う上で、照射する光の波長は、蛍光色素内包樹脂粒子の粒径より長いことが望ましい。ここで、特別の測定機器を要しない点から、880nm前後の波長を有する光が好適に用いられる。
【0025】
また、本発明において評価に用いる測定機器についても、粒子含有液の高さ中心部の後方散乱強度(透過光)を適切に測定可能である限り特に限定されないものの、好適な測定機器の例として、フォーマルアクション(Formulaction)社製のタービスキャン(商標)が挙げられる。この測定機器によれば、後方散乱強度(透過光)の測定を、高さ位置を変えながら行うことも可能である。ただ、後方散乱強度(透過光)の測定にあたって、その他の分光光度計による測定を妨げるものではない。
【0026】
(構成成分)
本発明の保存液は、上述したように、上記変化の割合D(%)が本発明で規定する特定の範囲を満たすものである。ここで、そのような変化の割合D(%)を満たす本発明の保存液を、具体的にどのような構成とするかについては、保存対象とする蛍光色素内包樹脂粒子の種類および表面修飾の状態などによっても変わるものであり、あえて一律に厳密な形で特定することはしないものの、本発明の保存液は、典型的には、緩衝液、蛋白質、界面活性剤を含む。
【0027】
蛋白質
本発明の保存液を構成しうる蛋白質は、蛍光色素内包樹脂粒子の機能を損ねず、かつ、蛍光色素内包樹脂粒子の凝集を防ぐことのできるものである限り特に限定されるわけでない。ただ、本発明の保存液が、病理染色に用いる蛍光色素内包樹脂粒子を保存するために用いられる場合、染色対象とする細胞組織への非特異吸着を防ぐことのできるものが望ましい。したがって、好適な蛋白質として、BSA、カゼインなど一般にブロッキング剤として用いられる蛋白質が挙げられる。
【0028】
本発明の保存液における蛋白質の含量は、蛍光色素内包樹脂粒子の凝集を防ぐことのできる範囲で適宜調整できるものの、例えば、保存液全体に対して10重量%以下(例えば1〜10重量%の範囲)とすることが望ましい。
【0029】
界面活性剤
本発明の保存液を構成しうる界面活性剤は、蛍光色素内包樹脂粒子の機能を損ねず、かつ、蛍光色素内包樹脂粒子の凝集を防ぐことのできるものである限り特に限定されるわけでない。ただ、本発明の保存液が、病理染色に用いる蛍光色素内包樹脂粒子を保存するために用いられる場合、蛍光色素内包樹脂粒子は、本発明の保存液で稀釈された状態のまま病理染色に供されることがある。ここで、細胞組織のうち、細胞核のある部分は核酸を構成するリン酸残基により負に荷電しており、細胞核以外の部分は、正に荷電しやすい傾向にある。したがって、細胞組織への非特異吸着をできるだけ少なくする上では、界面活性剤として、非イオン性界面活性剤を用いることが望ましい。その中でも、Tween(登録商標)系界面活性剤などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを好適に用いることができ、そのうち、Tween(登録商標)20を特に好適に用いることができる。
【0030】
本発明の保存液における界面活性剤の含量は、蛍光色素内包樹脂粒子の凝集を防ぐことのできる範囲で適宜調整できるものの、例えば、保存液全体に対して0.1重量%以下の範囲とすることが望ましい。
【0031】
緩衝液
本発明の保存液を構成しうる緩衝液は、蛍光色素内包樹脂粒子の機能を損ねない限り特に限定されるわけでなく、従来公知の種々の緩衝液を用いることができる。
【0032】
ただ、本発明の好適な態様において、本発明の保存液は、病理染色に用いる蛍光色素内包樹脂粒子を保存するために用いられる。この場合、病理染色に用いる蛍光色素内包樹脂粒子として、後述する「蛍光色素内包樹脂粒子の態様」の項に記載されている反応性官能基を有する蛍光色素内包樹脂粒子、特に、ビオチン、ストレプトアビジン、アビジンなどアフィニティ相互作用に基づく結合を形成しやすい分子を有する蛍光色素内包樹脂粒子が多用される。したがって、本発明で用いられる緩衝液は、このような分子が変性しない範囲のpHを有することが好ましい。また、このような蛍光色素内包樹脂粒子を用いた病理染色にあたり、蛍光色素内包樹脂粒子は本発明の保存液で稀釈された状態で染色に供されうることから、病理染色に適した範囲のpHを有することが好ましい。これらの観点から、本発明で用いられる緩衝液は、例えば、pH6.0〜pH8.0の範囲のpHを有することが好ましく、pHが6.9〜7.6の範囲のpHを有することがより好ましい。ここで、好ましい緩衝液の種類の例として、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris−HCl緩衝液、リン酸緩衝液(PBSを除く)、およびこれらのうち2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0033】
その他の成分
本発明の保存液には、上記緩衝液、蛋白質および界面活性剤のほか、蛍光色素内包樹脂粒子の機能を損ねず、かつ、蛍光色素内包樹脂粒子の凝集を防ぐことのできる限りにおいて、防腐剤など、その他の成分を配合してもよい。ここで、防腐剤としては、例えば、アジ化ナトリウム(NaN3)が挙げられる。
【0034】
防腐剤は、緩衝液中に0.015N以下で含めることが望ましい。
【0035】
製造方法
本発明の保存液は、上記蛋白質および上記界面活性剤、並びに、任意で添加される上記「その他の成分」を、常法により上記緩衝液に溶解させることによって得ることができる。
【0036】
ここで、上記構成成分、すなわち、上記蛋白質および上記保存液、並びに、任意で添加される上記「その他の成分」の組み合わせや配合比率は、保存対象とする蛍光色素内包樹脂粒子の種類などに応じて変わることから、あえて一律に厳密な形で特定することはしない。ただ、組み合わせや配合比率を調整する際に、後述する実施例・比較例の結果を参酌することは可能である。
【0037】
ここで、蛍光色素内包樹脂粒子の凝集には、蛍光色素内包樹脂粒子同士の静電的な関係および/あるいは保存液と蛍光色素内包樹脂粒子との静電的な関係も関与していると考えられる。したがって、上記構成成分の組み合わせや配合比率を決定する上で、保存液における蛍光色素内包樹脂粒子のゼータ電位を参酌しても良い。ここで、蛍光色素内包樹脂粒子のゼータ電位は、一般的なゼータ電位測定装置(例えば「ゼータサイザーナノ」、Malvern社製)を用いて測定することが可能であり、上記蛋白質、上記防腐剤、および、場合によってはさらに上記界面活性剤によって調節することが可能である。例えば、本発明の保存液を、pH6.0〜8.0の緩衝液を含むものとする場合、本発明の保存液中での蛍光色素内包樹脂粒子のデータ電位が0mV〜−10mVの範囲となるように、上記構成成分の組み合わせや配合比率を調節し、さらに/あるいは、pH6.0〜8.0の範囲内で上記緩衝液のpHを微調整することによって本発明の保存液を調製しても良い。
【0038】
(保存対象となる蛍光色素内包樹脂粒子)
本発明の保存液による保存対象となる蛍光色素内包樹脂粒子は、複数の蛍光色素分子が化学的または物理的な作用により樹脂粒子に内包された状態で固定化された構造を有する物質をいい、その形態は特に限定されるものではない。
【0039】
ここで、本発明の対象となる蛍光色素内包樹脂粒子として、従来公知の蛍光色素内包樹脂粒子が挙げられ、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂を構成樹脂とするものであっても良く、ポリスチレン樹脂などの熱可塑性樹脂を構成樹脂とするものであっても良い。ただ、蛍光色素内包樹脂粒子が病理染色に用いられる場合、病理染色の過程で、キシレンのような有機溶媒を用いる透徹が行われることがある。したがって、キシレンのような有機溶媒を用いる透徹工程において蛍光色素が溶出しにくいという観点からは、緻密な架橋構造の内部に蛍光色素を固定化することができる、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂を構成樹脂とする蛍光色素内包樹脂粒子が好適である。
【0040】
蛍光色素内包樹脂粒子の粒径は、組織切片の免疫染色等、用途に適した粒径であれば特に限定されないが、通常10nm以上500nm以下であり、好ましくは、40nm以上200nm以下、より好ましくは、50nm以上200nm以下である。また、粒径のばらつきを示す変動係数も特に限定されないが、通常は20%以下であり、好ましくは5〜15%である。このような粒径の蛍光色素内包樹脂粒子は、たとえば後述するような製造方法により得られる。
【0041】
なお、蛍光色素内包樹脂粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し、蛍光色素内包樹脂粒子の断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径(面積円相当径)として測定することができる。蛍光色素内包樹脂粒子の集団の粒子サイズの平均(平均粒径)および変動係数は、十分な数(たとえば1000個)の蛍光色素内包樹脂粒子について上記のようにして粒子サイズ(粒径)を測定した後、平均粒径はその算術平均として算出され、変動係数は式:100×粒径の標準偏差/平均粒径、により算出される。
【0042】
・蛍光色素
本発明の適用対象となる蛍光色素内包樹脂粒子を構成する蛍光色素には、特に限定がなく、従来公知の蛍光色素とすることができる。
【0043】
ここで、一般的に入手または作製が可能な蛍光色素は、たとえば、ローダミン系色素分子、スクアリリウム系色素分子、シアニン系色素分子、芳香族炭化水素系色素分子、オキサジン系色素分子、カルボピロニン系色素分子、ピロメセン系色素分子、さらに、Alexa Fluor(登録商標、インビトロジェン社製)系色素分子、BODIPY(登録商標、インビトロジェン社製)系色素分子、Cy(登録商標、GEヘルスケア社製)系色素分子、DY系色素分子(登録商標、DYOMICS社製)、HiLyte(登録商標、アナスペック社製)系色素分子、DyLight(登録商標、サーモサイエンティフィック社製)系色素分子、ATTO(登録商標、ATTO−TEC社製)系色素分子、MFP(登録商標、Mobitec社製)系色素分子などに分類することができる。このような色素分子の総称は、化合物中の主要な構造(骨格)または登録商標に基づき命名されており、それぞれに属する蛍光色素の範囲は当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく適切に把握できるものである。なお、後述する実施例で用いられているN,N'−Bis(2,6−diisopropylphenyl)−1,6,7,12−tetraphenoxyperylene−3,4:9,10−tetracarboxdiimideは、芳香族炭化水素系色素分子に該当するものである。
【0044】
また、蛍光色素は、蛍光色素の発光強度の向上やストークスシフトの拡大等を目的として水溶化処理を施したものであっても良い。この水溶化処理は、蛍光色素を水溶化できる、つまり水に対する溶解性を向上させることのできる手法であれば特に限定されるものではない。水溶化処理の具体例としては、酸(濃硫酸、濃塩酸、酢酸、ギ酸等)またはアルデヒド(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等)で蛍光色素を処理し、それらと蛍光色素とを反応させる方法が挙げられるが、このうち概して効果に優れる酸処理が好ましい。
【0045】
また、蛍光色素の発光波長は用途に応じて所望のものを選択することができる。たとえば、病理診断において、エオジン等を用いた形態観察用の染色と同時に蛍光色素を用いた免疫染色を行う用途が想定される場合は、蛍光色素からの発光を目視で観察することができ、かつ蛍光を発するエオジンの発光波長と被らないよう、蛍光色素の発光波長は赤〜近赤外とすることが好適である。たとえば、励起極大波長が555〜620nm、発光極大波長が580〜770nmの範囲にある蛍光色素が好ましい。
【0046】
・樹脂
本発明の適用対象となる蛍光色素内包樹脂粒子を構成する樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、熱可塑性樹脂であってもよい。たとえば、キシレンのような有機溶媒を用いる透徹工程において蛍光色素が溶出しにくいという観点からは、緻密な架橋構造の内部に蛍光色素を固定化することができる、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を含有する樹脂が好ましい。ここで、本発明の好適な態様において、本発明の適用対象となる蛍光色素内包樹脂粒子を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂、より具体的には、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂のみからなる樹脂である。
【0047】
熱硬化性樹脂としては、たとえば、メラミン、尿素、グアナミン類(ベンゾグアナミン、アセトグアナミンなどを含む)、フェノール類(フェノール、クレゾール、キシレノールなどを含む)、キシレン、およびこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーから形成される構成単位を含むものが挙げられる。これらのモノマーは、何れか一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。所望によりさらに、一種または二種以上の上記化合物以外のコモノマーを併用してもよい。
【0048】
熱硬化性樹脂の具体例としては、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、尿素・ホルムアルデヒド樹脂、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、メタキシレン・ホルムアルデヒド樹脂が挙げられる。
【0049】
これらの熱硬化性樹脂の原料としては、上述したようなモノマーそのもののみならず、モノマーとホルムアルデヒドやその他の架橋剤等の化合物とをあらかじめ反応させて得られるプレポリマーを用いてもよい。たとえば、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂の製造においては一般的に、メラミンとホルムアルデヒドとをアルカリ条件下で縮合して調製されるメチロールメラミンがプレポリマーとして用いられており、当該化合物はさらにアルキルエーテル化されたものであってもよい。ここで、メチロールミラミンのアルキルエーテル化の例として、例えば、水中での安定性を向上させるためのメチル化、有機溶媒中での溶解性を向上させるためのブチル化等が挙げられる。
【0050】
また、上記の熱硬化性樹脂は、その構成単位に含まれる水素の少なくとも一部が、電荷を持つ置換基、または共有結合を形成しうる置換基に置き換えられたものでもよい。このような熱硬化性樹脂は、公知の手法により少なくとも一つの水素が上記の置換基に置き換えられた(誘導体化された)モノマーを原料として用いることにより合成することができる。なお、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などは通常自ずとアミノ基またはこれに由来する部位から生成するカチオンを有し、フェノール樹脂、キシレン樹脂などは通常自ずと水酸基またはこれに由来する部位から生成するアニオンを有する。
【0051】
このような熱硬化性樹脂は、公知の手法に従って合成することができる。たとえば、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂は、前述したようにしてあらかじめ調製されたメチロールメラミンを、必要に応じて酸等の反応促進剤を添加した上で加熱して重縮合させることにより合成することができる。
【0052】
一方、熱可塑性樹脂としては、たとえば、スチレン、(メタ)アクリル酸およびそのアルキルエステル、アクリロニトリル、ならびにこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種の単官能モノマー(一分子中に重合反応に関与する基、上記の例ではビニル基を一個持つモノマー)から形成される構成単位を含むものが挙げられる。これらのモノマーは、何れか一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。所望によりさらに、一種または二種以上の上記化合物以外のコモノマーを併用してもよい。
【0053】
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリスチレン、スチレンとその他のモノマーとからなるスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸およびそのアルキルエステルとその他のモノマーとからなるアクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ASA樹脂(アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸メチル共重合体)、アクリロニトリルおよびその他のモノマーとからなるアクリロニトリル系樹脂が挙げられる。
【0054】
上記の熱可塑性樹脂は、たとえばジビニルベンゼンのような多官能モノマー(一分子中に重合反応に関与する基、上記の例ではビニル基を二個以上持つモノマー)から形成される構成単位、つまり架橋部位を含んでいてもよい。たとえば、ポリメタクリル酸メチルの架橋物が挙げられる。
【0055】
また、上記の熱可塑性樹脂は、その構成単位に含まれる水素の少なくとも一部が、電荷を持つ置換基、または共有結合を形成しうる置換基に置き換えられたものでもよい。このような熱可塑性樹脂は、たとえば4−アミノスチレンのように、少なくとも一つの水素が上記の置換基に置き換えられた(誘導体化された)モノマーを原料として用いることにより合成することができる。
【0056】
さらに、上記の熱可塑性樹脂は、得られた蛍光色素内包樹脂粒子を表面修飾するための官能基を有する構成単位を含んでいてもよい。たとえば、エポキシ基を有するメタクリル酸グリシジルのようなモノマーを原料とすることにより、エポキシ基が表面に配向した蛍光色素内包樹脂粒子を調製することができる。このエポキシ基は、過剰のアンモニア水と反応させることによりアミノ基に変換することができる。このようにして形成されるアミノ基には、公知の手法に従って、各種の生体分子を導入することができる。ここで、アミノ基への各種の生体分子の導入は、必要に応じてリンカーとなる分子を介して行うことができる。
【0057】
・蛍光色素内包樹脂粒子の態様
本発明の適用対象となる蛍光色素内包樹脂粒子は、上記蛍光色素および樹脂からなるものであり、表面修飾を施したものであってもなくても良い。
【0058】
ただ、本発明の保存液は、免疫染色などの病理染色に用いられる蛍光色素内包樹脂粒子の保存に特に好適に適用できるものである。ここで、本発明の適用対象となる蛍光色素内包樹脂粒子は、病理染色による検出対象とする生体物質(より具体的には抗原となり得る生体物質)を認識可能な分子認識物質(例えば、抗体)との結合が容易となるよう、反応性官能基をさらに有していることが好ましい。ここで、反応性官能基として、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、チオール基、マレイミド基などの化学官能基、並びに、ビオチン、ストレプトアビジン、アビジンなどアフィニティ相互作用に基づく結合を形成しやすい分子が挙げられる。ここで、蛍光色素内包樹脂粒子において、蛍光色素内包樹脂粒子本体部分(すなわち、蛍光色素内包樹脂粒子における、反応性官能基および任意のリンカーまたはスペーサー部分を除いた部分)と上記反応性官能基との間には、適当な鎖長のリンカーまたはスペーサーが介在していても良い。
【0059】
・蛍光色素内包樹脂粒子の製造方法
本願発明の適用対象となる蛍光色素内包樹脂粒子は、各種の樹脂について公知の重合工程に準じて製造することができる。
【0060】
ここで、熱硬化性樹脂を構成樹脂とする蛍光色素内包樹脂粒子は、公知の乳化重合法に従って製造することができる。例えば、熱硬化性樹脂を構成樹脂とする蛍光色素内包樹脂粒子の重合工程は、蛍光色素、樹脂原料(モノマーまたはオリゴマーないしプレポリマー)、好ましくはさらに適当な公知の界面活性剤および適当な公知の重合反応促進剤を含有する反応混合物を加熱して樹脂の重合反応を進行させ、蛍光色素を内包する樹脂粒子を生成させる工程であっても良い。この場合、反応混合物に含まれる各成分の添加順序は特に限定されない。
【0061】
重合反応の条件(温度、時間等)は、樹脂の種類、原料混合物の組成などを考慮しながら適切に設定することができる。メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂の合成については、反応温度は通常70〜200℃、反応時間は通常20〜120分間である。なお、反応温度は蛍光色素の性能が低下しない温度(耐熱温度範囲内)とすることが適切である。加熱は複数の段階に分けて行ってもよく、たとえば、相対的に低温で一定時間反応させた後、昇温して相対的に高温で一定時間反応させるようにしてもよい。そして、重合反応の終了後は、比反応の樹脂原料、蛍光色素、界面活性剤などの不純物を除去して、生成した蛍光色素内包樹脂粒子を回収して精製すれば良い。
【0062】
また、熱硬化性樹脂を構成樹脂とする蛍光色素内包樹脂粒子の製造にあたっては、重合工程の後、蛍光色素内包樹脂粒子の用途に応じて、必要により、蛍光色素内包樹脂粒子の表面に、上記「蛍光色素内包樹脂粒子の態様」の項で上述した反応性官能基を導入する工程としての修飾工程を行うこともできる。ここで、反応性官能基の導入は、常法により適宜行うことができる。
【0063】
一方、熱可塑性樹脂を構成樹脂とする蛍光色素内包樹脂粒子は、重合工程として、常法に従い、蛍光色素と、樹脂原料と、重合開始剤(過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなど)とを含有する反応混合物を加熱して樹脂の重合反応を進行させ、蛍光色素を内包する樹脂粒子を生成させる工程を行うことを除き、熱硬化性樹脂を構成樹脂とする蛍光色素内包樹脂粒子と同様に製造することができる。
【0064】
(用途)
本発明に係る上述した保存液は、蛍光色素内包樹脂粒子、特に、病理染色に用いる蛍光色素内包樹脂粒子の保存に好適に用いることができる。別の見方をすれば、蛍光色素内包樹脂粒子の保存方法は、蛍光色素内包樹脂粒子を、上述した本発明の保存液に添加することを含む方法と見ることができる。ここで、蛍光色素内包樹脂粒子の保存は、通常冷蔵下(例えば、4〜5℃)で行うことができる。
【0065】
ここで、病理染色の具体例として、免疫染色が挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明に係る実施例とその比較例について図面を参照しながら説明する。
【0067】
以下の方法により、実施例及び比較例に係る蛍光色素内包樹脂粒子について計測または評価を行った。
【0068】
(蛍光色素内包樹脂粒子の平均粒径の計測方法)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて蛍光ナノ粒子を撮像し、十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めたものである。後述する合成例においては、1000個の粒子の粒径の算術平均を平均粒径とした。
【0069】
[合成例1−1〜1−7:蛍光色素内包樹脂粒子の調製]
合成例1−1〜1−7の蛍光色素内包樹脂粒子として、従来公知の手法を用いて、40、60、80、100、150、200、250nmの平均粒径を有する蛍光色素内包樹脂粒子A1〜A7をそれぞれ用意した。
【0070】
ここで、蛍光色素内包樹脂粒子の製造方法の一例として、蛍光色素内包樹脂粒子A5の製造方法を以下に示す。
【0071】
(合成例1−5)
N,N'−Bis(2,6−diisopropylphenyl)−1,6,7,12−tetraphenoxyperylene−3,4:9,10−tetracarboxdiimideを濃硫酸で処理することによりスルホ基の導入を行い、対応するスルホン酸に導いた。このスルホン酸を、常法により対応する酸塩化物に変換した。
【0072】
この酸塩化物14.4mgを水22.5mLに加えた後、ホットスターラ―上で70℃20分間加熱し、メラミン樹脂ニカラックMX−035(日本カーバイド工業社製)0.65gを加え、さらに5分間加熱撹拌した。ギ酸100μLを加え、60℃20分間で加熱攪拌した後、室温放冷した。冷却後、反応混合物を遠心用チューブに入れて遠心分離機に12,000rpmで20分間かけ、上澄み除去した。この洗浄をエタノールと水で行なった。
【0073】
得られた粒子0.1mgをEtOH(エタノール)1.5mL中に分散し、アミンプロピルトリメトキシシランLS−3150(信越化学工業社製)2μLを加えて8時間反応させて表面アミノ化処理を行なった。
【0074】
得られた色素内包ナノ粒子を、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を2mM含有したPBS(リン酸緩衝液生理的食塩水)を用いて3nMに調整し、この溶液に最終濃度10mMとなるようSM(PEG)12(サーモサイエンティフィック社製、succinimidyl−[(N−maleomidopropionamid)−dodecaethyleneglycol]ester)を混合し、1時間反応させた。この混合液を10,000Gで20分遠心分離を行い、上澄みを除去した後、EDTAを2mM含有したPBSを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順による洗浄を3回行うことで末端にマレイミド基が付いた蛍光色素内包樹脂粒子(蛍光粒子)A5を得た。
【0075】
得られた蛍光色素内包樹脂粒子A5の粒径について電子顕微鏡を用いて上述した方法により計測したところ、平均粒径が150nmであった。
【0076】
(合成例1−1〜1−4および1−6〜1−7)
合成例1−5の蛍光色素内包樹脂粒子A5とは粒径の異なる合成例1−1〜1−4および1−6〜1−7の蛍光色素内包樹脂粒子A1〜A4およびA6〜A7についても、合成時の色素/仕込み樹脂量を一定としつつ樹脂量を適宜加減したことを除いて、それぞれ合成例1−5と同様に合成を行った。
【0077】
参考までに、図7に、合成例1−5と同様の条件で蛍光色素内包樹脂粒子を行う場合における、樹脂原料(合成例1−1〜1−7では上記メラミン樹脂)の仕込み量に対する、得られる蛍光色素内包樹脂粒子の平均粒径の関係を示す。
【0078】
なお、以下の記載において、蛍光色素内包樹脂粒子A1〜A7は、後述するストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子との区別のため、それぞれ、マレイミド基修飾蛍光色素内包樹脂粒子A1〜A7と呼ばれる場合があり、これらを総称してマレイミド基修飾蛍光色素内包樹脂粒子と呼ばれる場合がある。
【0079】
[合成例2−1〜2−7:ストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子の合成]
上記マレイミド基修飾蛍光色素内包樹脂粒子A1〜A7のそれぞれについて、ストレプトアビジン修飾を以下の要領で行い、それぞれストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子S1〜S7に導いた。
【0080】
ストレプトアビジン(和光純薬社製)に対し、N−succinimidyl S−acetylthioacetate(SATA)と反応させた後、公知のヒドロキシルアミン処理を行うことでS−アセチル基の脱保護を行うことによりチオール基付加処理を行った。その後、ゲルろ過カラムによるろ過を行い、蛍光色素内包樹脂粒子に結合可能なストレプトアビジン溶液を得た。
【0081】
EDTAを2mM含有したPBSを用いて上記マレイミド基修飾蛍光色素内包樹脂粒子を稀釈し1nMに調整して得られる蛍光色素内包樹脂粒子含有液1mLと、上記ストレプトアビジン溶液とを混合し、室温で1時間反応を行い蛍光色素内包樹脂粒子とストレプトアビジンを結合させた。その後EDTAを2mM含有したPBSを用いて遠心、洗浄を行いストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子のみを回収した。
【0082】
得られたストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子は、一旦1%BSA含有PBS緩衝液で稀釈した状態で、各種評価に供した。
【0083】
[実施例1〜12および比較例1〜16]
(保存液および蛍光色素内包樹脂粒子)
実施例1〜6および比較例1では、0.6% αカゼイン、0.6% βカゼイン、3% BSA、0.1% Tween(登録商標)20および0.015N NaN3を含むTris緩衝液(pH=6.9)を、実施例7〜12および比較例2では、10%BSA、0.1% Tween(登録商標)20および0.05N NaN3を含むPBS緩衝液(pH=7.6)を、比較例3〜9では、1%BSAを含むPBS緩衝液(pH=7.2)を、比較例10〜16では、高分子系界面活性剤(0.1% DISPERBYK−194:pH=7.0)を、保存液として採用した。
【0084】
また、各実施例および比較例では、蛍光色素内包樹脂粒子として、上記ストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子S1〜S7の中から下記表1に示すものをそれぞれ使用した。
【0085】
以下、各蛍光色素内包樹脂粒子について、この保存液を用いて、以下の保存および評価を行った。
【0086】
(蛍光色素内包樹脂粒子の保存)
1%BSA/PBS溶液中にある各ストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子について、上澄み液を除去し、上記保存液に置換した後に、フィルター処理(0.65μm:ミリポア社製)を行った。その後、ストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子が目的の濃度(0.2nM)となるように上記保存液で希釈調整して、蛍光色素内包樹脂粒子含有保存液を調製した。
【0087】
そして、蛍光色素内包樹脂粒子の保存は、蛍光色素内包樹脂粒子含有保存液の形態のまま冷蔵庫中で4℃にて行った。
【0088】
(蛍光色素内包樹脂粒子の沈降・凝集の評価)
蛍光色素内包樹脂粒子の沈降・凝集の評価は、フォーマルアクション(Formulaction)社製のタービスキャン(商標)(タービスキャンLab)を用いて行った。
【0089】
具体的には、合成直後のストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子について、上記「蛍光色素内包樹脂粒子の保存」に記載の方法にしたがって蛍光色素内包樹脂粒子含有保存液を調製し、この蛍光色素内包樹脂粒子含有液についてタービススキャンを用いて、波長880nmの赤外線を光源として使用したときの後方散乱強度(透過光)を測定した。ここで、測定は、30分間隔でサンプリングを行いながら行い、24時間続行した。
【0090】
そして、測定開始直後における高さ中心部の後方散乱強度(透過光)(「添加直後における高さ中心部の後方散乱強度(透過光)」に対応する。)をI'0、測定開始から24時間静置後における高さ中心部の後方散乱強度(透過光)をI'24としたときの、高さ中心部の後方散乱強度(透過光)の変化の割合D'(%)を、以下のように算出した。
【0091】
D'=(I'24−I'0)/I'0×100
各実施例・比較例についての変化の割合D'を、表1に示した。例えば、実施例5では、測定を開始したときを基準として、測定開始から24h後に−0.9%後方散乱強度(透過光)が変化している。
【0092】
(蛍光色素内包樹脂粒子を用いた染色)
保存液の性能を評価するため、上記ストレプトアビジン修飾蛍光色素内包樹脂粒子について、合成直後の蛍光色素内包樹脂粒子、および、上記保存液中で1ヶ月保存後の蛍光色素内包樹脂粒子のそれぞれを用いて、下記免疫染色、形態観察染色および観察を行った。
【0093】
ここで、組織細胞スライドとして、US Biomax社製の乳癌組織アレイ(型番:BR243のシリーズ(24コア);コア直径1.5mm)を使用した。
【0094】
・免疫染色
組織細胞スライドを常法に従い脱パラフィン処理した後、水に置換する洗浄を行った。洗浄した組織細胞スライドを10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)中で121℃、5分間オートクレーブ処理することで、抗原の賦活化処理を行った。
【0095】
賦活化処理後の組織細胞スライドを、PBS緩衝液を用いて洗浄した後、湿潤箱中で1時間1%BSA含有PBS緩衝液を用いてブロッキング処理を行った。ブロッキング処理後、1%BSA含有PBS緩衝液で0.05nMに希釈した抗HER2ウサギモノクローナル抗体(4B5)(ベンタナ社製)を組織細胞スライドと2時間反応させた。これをPBS緩衝液で洗浄後、1%BSA含有PBS緩衝液で2μg/mLに希釈した4B5に結合するビオチン標識抗ウサギモノクローナル抗体と30分反応させた。
【0096】
このビオチン標識抗ウサギモノクローナル抗体との反応後、蛍光色素内包樹脂粒子による組織細胞スライドの染色を行った。
【0097】
ここで、合成直後の蛍光色素内包樹脂粒子を用いた染色にあたっては、1%BSA含有PBS緩衝液で0.2nMに稀釈した合成直後の蛍光色素内包樹脂粒子を組織細胞スライドと、中性のpH環境(pH6.9〜7.4)、室温の条件下で3時間反応させた。なお、蛍光色素内包樹脂粒子は0.2nMに稀釈する前に、遠心分離、上澄み液の除去、上記保存液による稀釈、および超音波処理による再分散を適当な回数繰り返すことにより上記保存液への溶媒置換を行った後、フィルター処理(0.65μm:ミリポア社製)を行った。
【0098】
一方、上記保存液中で1ヶ月保存後の蛍光色素内包樹脂粒子を用いた染色についても、0.2nMに稀釈した合成直後の蛍光体内包樹脂粒子に代えて、上記保存液中で1ヶ月保存後の蛍光色素内包樹脂粒子を用いたことを除き、同様に行った。この場合、上記蛍光色素内包樹脂粒子含有保存液の形態で保存した蛍光色素内包樹脂粒子を稀釈することなく、ピペッティング(撹拌)を行った後、そのまま染色に用いた。ただし、実施例1および7については、蛍光色素内包樹脂粒子の沈降が確認されていなかったことから、ピペッティングを行うことなくそのまま染色に用いた。なお、本明細書において、「ピペッティング」とは、別途の記載がない限り、対象とする液を、ピペットに吸引し当該ピペットから排出する、という操作を繰り返すことにより、当該液の撹拌を行うことを意味する。
【0099】
いずれの場合においても、蛍光色素内包樹脂粒子との反応後、組織細胞スライドを、PBS緩衝液を用いて洗浄した。
【0100】
・形態観察染色
上記免疫染色を行った組織細胞スライドについて、さらに、形態観察染色を行った。
【0101】
具体的には、免疫染色した組織細胞スライドをマイヤーヘマトキシリン液で1分間染色してヘマトキシリン染色を行った(HE染色)。その後、該組織細胞スライドを45℃の流水で3分間洗浄した。その後、純エタノールに5分間漬ける操作4回行い、洗浄・脱水を行った。続いてキシレンに5分間漬ける操作を4回行い、透徹を行った。最後に、封入剤(「エンテランニュー」、Merck社製)を用いて組織切片を封入して観察用のサンプルスライドとした。
【0102】
・観察
上記免疫染色および形態観察染色したサンプルスライド上にある組織切片に対して所定の励起光を照射して蛍光を発光させた。その状態の組織切片を蛍光顕微鏡(BX−53,オリンパス社製)により観察および撮像を行った。ここで、観察および撮像は、サンプルスライド上の1つのコア(1つの組織スポット)につき10視野に分けて行った。このとき、対物レンズおよび接眼レンズとして、それぞれ倍率が40倍および10倍のものを用いた。また、輝点計測は、ImageJ FindMaxima法により計測した。
【0103】
上記励起光は、光学フィルターに通すことで575〜600nmに設定した。また、観察する蛍光の波長(nm)の範囲についても、光学フィルターに通すことで612〜682nmに設定した。
【0104】
顕微鏡観察、画像取得時の励起波長条件は、580nmの励起では視野中心部付近の照射エネルギーが900W/cm2となるようにした。画像取得時の露光時間は画像の輝度が飽和しないように任意に設定(例えば4000μ秒に設定)して撮像した。
【0105】
評価結果を、下記表1に示す。参考までに、実施例5,11、比較例7についての、合成直後の蛍光体内包樹脂粒子を用いた染色画像をそれぞれ図1,3,5に、実施例5,11、比較例7についての、1ヶ月保存後の蛍光体内包樹脂粒子を用いた染色画像をそれぞれ図2,4,6Aに示す。
【0106】
ここで、粗大塊あり・なしの判定については、各組織細胞スライドについて10視野程度観察したときに、顕微鏡を通じて観察された見かけの大きさが1〜2mm角(すなわち、実際の大きさとして2.5〜5μm角相当)以上の凝集塊が3個以上確認された場合に×(粗大塊あり)としている。例えば、比較例7の場合、図6Aに示した1ヶ月保存後の蛍光体内包樹脂粒子を用いた染色画像には、図6Bに示したスケッチに示すように、粗大塊が3個確認されている。
【0107】
【表1】
図6B
図7
図1
図2
図3
図4
図5
図6A