【文献】
原田真、廣瀬繁樹,繊維ロープの寿命予測用耐侯性表示マーカーの検討,愛知県産業技術研究所 研究報告2005,日本,2005年12月,第4号,222-225
【文献】
B. Behcet et al.,Assessing colour values of polyester fibrics produced from fibres having diffrent cross-sectional shapes after abrasion,Color Technol,米国,2007年,Vol.123 No.4,252-259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定条件が、大気中、ブラックパネル温度で63℃±2℃で、前記着色ポリエチレン繊維に対して、水道水を室温、3.15L/分、120分間の照射中に12分間の条件で噴射しながら、放射照度50W/m2で300時間キセノンランプを照射することを含む請求項1に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の方法は繊維製品上に色相が変化する物質を塗布する必要があり、塗布物による重量増加は製品として好ましくなく、また製品使用時の表面のこすれにより塗布物が脱落し、繊維の劣化度合いを正確に把握することすら困難になるという問題があった。
本発明の目的は、上記の従来の問題点を解決することにある。すなわち、目視など簡便な方法により非破壊で繊維の劣化を見積ることが可能なポリエチレン繊維の劣化判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、着色されたポリエチレン繊維について所定の条件下でキセノンランプを照射することで、実使用時においてポリエチレンの分子鎖が破壊されることにより生じる物性の低下を着色ポリエチレン繊維の色相の変化から把握することが可能となることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明のポリエチレン繊維の劣化判定方法とは、以下の特徴を有する。
1.着色ポリエチレン繊維への所定条件下でのキセノンランプ照射の前と後に得られた、着色ポリエチレン繊維のCIE−L
*a
*b
*表色系におけるL
*、a
*、及びb
*を用いて、下記式(1)から色差ΔE
*ab値を得る色差取得工程と、
得られた色差ΔE
*ab値から着色ポリエチレン繊維の劣化を判定する劣化判定工程と、を含むことを特徴とする着色ポリエチレン繊維の劣化判定方法。
ΔE
*ab = [(ΔL
*)
2+(Δa
*)
2+(Δb
*)
2]
1/2 (式1)
[式1中、ΔL
*=L
1*−L
0*、Δa
*=a
1*−a
0*、Δb
*=b
1*−b
0*を表し、L
0*、a
0*、及びb
0*はキセノンランプ照射前の着色ポリエチレン繊維の色座標を表し、L
1*、a
1*、及びb
1*はキセノンランプ照射後の着色ポリエチレン繊維の色座標を表す。]
2.前記所定条件が、大気中、ブラックパネル温度で63℃±2℃で、前記着色ポリエチレン繊維に対して、水道水を室温、3.15L/分、120分間の照射中に12分間の条件で噴射しながら放射照度50W/m
2で300時間キセノンランプを照射することを含む上記1記載の方法。
3.前記キセノンランプの照射を、0.1cN/dtex以上5cN/dtex以下の張力をかけた状態でアルミプレートに固定した着色ポリエチレン繊維に対して行う上記1又は2記載の方法。
4.前記劣化判定工程が、色差取得工程にて得られた色差ΔE
*ab値と、予め作成された色差ΔE
*ab値と着色ポリエチレン繊維の物性との相関データベースを参照して、劣化を判定する工程である上記1〜3のいずれかに記載の方法。
5.上記1に記載の色差取得工程にて得られた色差ΔE
*abと、前記キセノンランプ照射後の着色ポリエチレン繊維の物性とを対応付けた相関データベース
6.上記2に記載の方法における色差取得工程にて得られる色差ΔE
*abが6.5〜35である着色ポリエチレン繊維。
7.CIE−L
*a
*b
*表色系によるL
*値が80以下である上記6に記載のポリエチレン着色繊維。
8.上記2に記載の条件でキセノンランプを照射した後の強度が12cN/dtex以上である上記6又は7に記載の着色ポリエチレン繊維。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、着色ポリエチレン繊維の色相の変化から、当該繊維が用いられた製品を破壊することなくその劣化の程度を見積もることが出来るので、使用状況に応じて適正な交換時期を見極めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリエチレン繊維の劣化判定方法とは、
着色ポリエチレン繊維への所定条件下でのキセノンランプ照射の前と後に得られた、着色ポリエチレン繊維のCIE−L
*a
*b
*表色系におけるL
*、a
*、及びb
*を用いて、上記式(1)から色差ΔE
*ab値を得る色差取得工程と、
得られた色差ΔE
*ab値から着色ポリエチレン繊維の劣化を判定する劣化判定工程と、を含むところに特徴を有する。以下、各工程を詳細に説明する。
【0011】
本発明に係る色差取得工程とは、着色ポリエチレン繊維への所定条件下でのキセノンランプ照射の前と後に得られた、着色ポリエチレン繊維のCIE−L
*a
*b
*表色系におけるL
*、a
*、及びb
*を用いて、下記式(1)から色差ΔE
*ab値を得る工程である。
ΔE
*ab = [(ΔL
*)
2+(Δa
*)
2+(Δb
*)
2]
1/2 (式1)
CIE−L
*a
*b
*表色系とは、CIE(国際照明委員会)が定める表色系である。測色方法としては、JIS Z 8781−4:2013に規定されるL
*a
*b
*色空間以外にマンセルの表色系等も知られているが、マンセル法では色の変化を定量的に表示することが困難である。これに対してCIE−L
*a
*b
*表色系によれば、キセノンランプ照射前後の色の変化が定量的に表示できるため、本発明ではCIE−L
*a
*b
*表色系を使用する。なお、上記式中、ΔL
*はL
1*−L
0*、Δa
*はa
1*−a
0*、Δb
*はb
1*−b
0*を表し、L
0*、a
0*、及びb
0*はキセノンランプ照射前の着色ポリエチレン繊維の色座標を表し、L
1*、a
1*、及びb
1*はキセノンランプ照射後の着色ポリエチレン繊維の色座標を表す。着色ポリエチレン繊維のL
*、a
*、及びb
*の値は分光測色計、色彩色差計等の公知の測色計により測定して得ることができる。
【0012】
色差取得工程に供する着色ポリエチレン繊維は糸の状態であっても、織布や網布の状態であってもよい。織布や網布である場合は、繊維にダメージを与えないように解反、解織を行って糸(マルチフィラメント)の状態とする。糸の繊度は20dtex〜2800dtexとするのが好ましい。より好ましくは30dtex〜2000dtexであり、さらに好ましくは40dtex〜1800dtexである。糸の形態は特に限定されず、撚糸であっても無撚糸であってもよい。
【0013】
なお、後述するように、本発明の方法ではキセノンランプの照射の前後における糸(着色ポリエチレン繊維)の色差ΔE
*abから着色ポリエチレン繊維の劣化を判定するので、キセノンランプの照射前後で糸の形態を変化させないのが好ましい。したがって、キセノンランプ照射前に撚糸の状態で色座標(L
0*、a
0*、及びb
0*)を得た場合には、キセノンランプ照射後も撚糸の状態で色座標(L
1*、a
1*、及びb
1*)を得ることが好ましい。また、物性測定を行う際も同様であり、例えば、キセノンランプ照射前の物性を無撚糸の状態で測定する場合には、キセノンランプ照射後も無撚糸の状態で各種物性の測定を行うことが好ましい。なお、本明細書においては、特に断りのない限り、糸と繊維は同義として使用する。
【0014】
糸は、アルミプレートに固定した状態で後述するキセノンランプ照射を実施するのが好ましい。固定の方法は特に限定されず、所定の長さの糸をアルミプレートに巻きつけるか、あるいは、粘着テープ等で糸をアルミプレート上に貼り付けて固定して試験片を調製すればよい。糸をアルミプレートに巻きつける場合は、巻きつけによる拘束力で糸を固定してもよいし、巻き始めと巻き終わりは粘着テープ等で固定してもよいし、また、巻き始めと巻き終わりのそれぞれで糸を結んで糸が移動しないようにアルミプレートに固定してもよい。一方、粘着テープ等でアルミプレート上に糸を固定する場合は、糸をその長さ方向に引き揃えた状態でアルミプレート上に固定する。
【0015】
アルミプレートに固定する糸の量には特に制限はないが、アルミプレート上で糸同士が重ならないようにするのが好ましい。糸同士に重なりがあると糸の位置によってキセノンランプの照射量に差が生じ、後述する色差ΔE
*abにバラツキが生じる虞がある。よって糸への照射量を均一にする観点からは、アルミプレート上に1重、すなわちアルミプレートに固定した糸の径断面がアルミプレート上に一列に並ぶようにするのが好ましい。
【0016】
アルミプレートへの固定は、糸に0.1cN/dtex以上5cN/dtex以下の張力かけた状態で行うのが好ましい。好ましくは0.2cN/dtex以上4cN/dtex以下、更に好ましくは0.3cN/dtex以上3cN/dtex以下である。張力が上記範囲内であればキセノンランプ照射中の糸の弛みや、単糸バラケの発生を抑制できるので好ましい。なお、張力が高すぎる場合には、高い張力による問題が生じる場合がある。後述するように、キセノンランプの照射は、好ましくは高温下(63℃±2℃)で行う。したがって、糸が熱収縮性を有する場合、アルミプレートへの糸の固定時に過大な張力が加わっていると、高温下では熱収縮により糸の張力が増してアルミプレートを締め付ける形となり、キセノンランプ照射によるダメージだけでなく、過剰な張力が負荷された状態で耐熱試験を行うことと同義となる。そこで、より正確に劣化度の判定を行うためには他の要因を排除するため、糸固定時の張力が5cN/dtexを超えないようにすることが好ましい。
【0017】
着色ポリエチレン繊維へのキセノンランプの照射は所定条件下で行うのが好ましく、より具体的には、大気中、ブラックパネル温度で63℃±2℃で、前記着色ポリエチレン繊維に対して、室温の水を120分間の照射中に12分間、3.15L/分で噴射しながら、放射照度50W/m
2でキセノンランプを照射することが推奨される。
【0018】
通常、耐候性試験の光源としては、キセノンランプ以外にもオープンフレームカーボンランプ、紫外線カーボンアークランプ、紫外線蛍光ランプ、又はメタルハライドランプ等が用いられるが、本発明ではキセノンランプを使用する。本発明者等が検討を重ねたところ、上記光源の中でもキセノンランプを用いた場合に、着色ポリエチレン繊維の色調の変化と、物性の変化に高い相関が見られることが判明した。後述する実施例に示しているように、紫外線カーボンアークを光源とする場合には、強度、弾性率及び破断伸度といった着色ポリエチレン繊維の物性は低下するものの目視で確認できるほどの色調の変化は生じないのに対して(比較例2)、キセノンランプを光源とする場合には、キセノンランプの照射前後で、物性が低下するとともに、色調(ΔE
*ab)にも視認できる明らかな変化が生じており(実施例1)、キセノンランプを光源とすれば、着色ポリエチレン繊維の物性の低下を、その色調の変化から把握できることが分かる。そこで、本発明ではキセノンランプを光源として用いることとした。
【0019】
着色ポリエチレン繊維の物性の低下に紫外線が関与していることは事実であるが、この劣化反応には酸素、温度、湿度等着色ポリエチレン繊維を取り巻く様々な要因が関与しており、紫外線量のみではポリエチレンの劣化度合いを把握することは難しい。しかしながら、大気中、ブラックパネル温度で63℃±2℃で、前記着色ポリエチレン繊維に対して、室温の水を、120分間の照射中に12分間、3.15L/分の条件で噴射する条件下で着色ポリエチレン繊維へのキセノンランプ照射を行う場合には、屋外等で使用される着色ポリエチレン繊維の劣化をモデル的に再現することが出来るので好ましい。120分間の照射中に12分間とは、例えばキセノンランプを300時間照射する場合には、全照射時間の内1800分間着色ポリエチレン繊維(試験片)に水を噴射することを意味する。ポリエチレン繊維へ噴射する水としては水道水を使用するのが好ましい。より好ましくは導電率5μs/cm以下、固形分含量1ppm以下の水である。ポリエチレン繊維へ噴射する水の温度は室温であればよく特に限定されないが、5℃〜35℃であるのが好ましい。
【0020】
キセノンランプの照射時間は特に限定されない。上述の通り、キセノンランプの照射により着色ポリエチレン繊維の物性と色調に変化が生じるので、照射時間を変更して測色を行うことで後述する色差ΔE
*ab値と、着色ポリエチレン繊維の物性とを対応付けた相関データベースを作成することができる。なお、着色されていない一般的なポリエチレン繊維に上述の条件下で300時間キセノンランプを照射した場合には、強度保持率(キセノンランプ照射前のポリエチレン繊維の強度に対するキセノンランプ照射跡のポリエチレン繊維の強度の割合)は約80%となるので、着色ポリエチレン繊維でもキセノンランプの照射時間として300時間を採用することは好ましい態様である。
キセノンランプの照射を行う装置は特に限定されず、繊維素材や樹脂素材、あるいは外壁材等に用いられる素材の耐候試験に用いられる装置を使用することができる。
【0021】
次いで、上記色差取得工程で得られた色差ΔE
*abから、着色ポリエチレン繊維の劣化を判定する(劣化判定工程)。色差ΔE
*abは、キセノンランプ照射前後の着色ポリエチレン繊維の色調の違いを数値化するものであり、色差ΔE
*ab値が所定の値を超えているかどうか判断することで、着色ポリエチレン繊維の劣化度を把握することができる。後述するように、本発明者等は着色されたポリエチレン繊維における物性(特に強度、弾性率、破断伸度)と色差ΔE
*ab値との間に相関があることを見出したものである。したがって、上述の色差取得工程で得られる色差ΔE
*ab値によれば、着色ポリエチレン繊維が用いられた製品を破壊することなく、その着色ポリエチレン繊維の劣化度を把握することができる。なお、許容される色差ΔE
*ab値の範囲は、着色ポリエチレン繊維の用途に応じて適宜決定できる。
【0022】
着色ポリエチレン繊維の劣化度を把握するため、本発明の方法は、上記工程に加えて、色差取得工程で得られた色差ΔE
*ab値と、着色ポリエチレン繊維の物性とを対応付けた相関データベースを準備する工程を含んでいてもよく、また、上記劣化判定工程は、色差取得工程で得られた色差ΔE
*ab値と、上記相関データベースを参照して着色ポリエチレン繊維の劣化度を特定する工程を含んでいてもよい。例えば、予備実験を行って、着色ポリエチレン繊維の色差ΔE
*ab値と、強力との関係を求めデータベースを作成しておけば、外観から目視で着色ポリエチレン繊維の強力劣化の程度を把握することができる。上記データベースは強力に限られず、弾性率や破断伸度等、着色ポリエチレン繊維の様々な物性について作成することができる。
【0023】
また上記相関データベースは、各種用途で使用されている着色ポリエチレン繊維の劣化度の判定に使用できる。より詳細には、実際に使用されている着色ポリエチレン繊維の色座標と当該着色ポリエチレン繊維の使用前の色座標とから得た色差ΔE
*abを、上述した所定の条件下でのキセノンランプ照射前後の着色ポリエチレン繊維の色座標から得られた色差ΔE
*abとを比較すれば、上記相関データベースから実際に使用されている着色ポリエチレン繊維の劣化度を判定できる。
なお、劣化度の判定には色座標L
*、a
*、及びb
*を使用してもよい。この場合は、使用に供する前の着色ポリエチレン繊維から得た色座標と、実際に使用されている着色ポリエチレン繊維から得た色座標とを比較すればよい。劣化度の判定には各色座標L
*、a
*、又はb
*を単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明の着色ポリエチレン繊維は、特定条件下でのキセノンランプの照射によりその色調が変化するという特徴を有する。換言すれば、この着色ポリエステル繊維は屋外等で使用することで経時的に色調が変化する。したがって、上述のように予め色調の変化と物性(強度等)の変化との相関関係をデータベース化しておけば、この着色ポリエチレン繊維を用いた製品の物性の劣化度合いを外観から判断することが出来る。なお、一般的に、2つのサンプル間の色差ΔE
*abが3.2以下であれば同じ色として認識され、色差ΔE
*abが6.5を超えると、離れた位置にある2サンプルの色の違いも認識することが出来るといわれている。強度保持率が約80%となる場合に、本発明の着色ポリエチレン繊維には目視で確認できるほどの色調の変化が生じるので(すなわち、色差ΔE
*abが6.5以上)、その外観から着色ポリエチレン繊維の劣化を判断することが出来、当該着色ポリエチレン繊維が用いられた製品を破壊することなくその交換時期を判断することができる。
【0025】
本発明の着色ポリエチレン繊維は、大気中、ブラックパネル温度で63℃±2℃で、水道水を室温、3.15L/分、120分間の照射中に12分間の条件で噴射しながら、放射照度50W/m
2で300時間キセノンランプを照射した着色ポリエチレン繊維と(以下、この条件を300時間のキセノンランプ照射と称する場合がある)、キセノンランプ照射前の着色ポリエチレン繊維のCIE−L
*a
*b
*表色系におけるL
*、a
*、及びb
*を用いて上記式(1)から得られる色差ΔE
*abが6.5以上である。上限に特に制限は無いが、実質的にはΔE
*abは35以下である。色差ΔE
*abは7以上であるのが好ましく、より好ましくは10以上であり、好ましくは30以下であり、より好ましくは28以下、さらに好ましくは25以下である。
【0026】
着色ポリエチレン繊維としては特に限定されないが、有機物の着色材料により着色されたものであるものが好ましい。また、ポリエチレン繊維は濃色に着色されていることが好ましい。すなわち、初期の段階で濃色であることにより、色の変化が大きくなり、目視での判断が容易になるためである。なお本発明では、濃色の定義としてCIE−L
*a
*b
*表色系によるL
*値を用い、初期の段階、すなわち、使用前、又は上述の300時間のキセノンランプ照射に供する前のポリエチレン繊維のL
*値が80以下である。L
*値はその値が小さい程濃色であることを意味する。より好ましくはL
*値は70以下、さらに好ましくは60以下である。L
*値の下限は特に限定されないが0以上であればよく、10以上、あるいは20以上であってもよい。
【0027】
着色ポリエチレン繊維の強度は特に限定されないが、強度が高い、いわゆる高強力ポリエチレン繊維であるのが好ましい。高強力ポリエチレン繊維は、優れた強度、弾性率、伸度を有することから、ロープやネット等の分野で多く使用されており、その強度保持率の低下、すなわち交換時期を外観から見極められることは産業上重要なポイントとなる。また、本発明の着色ポリエチレン繊維を用いることで、色の変化から、正確に物性低下の程度を把握できることは本発明者等により初めて見出されたものである。
【0028】
高強力とは初期(使用前、又は300時間のキセノンランプ照射に供する前)の引張強度が18cN/dtex以上であることを意味する。着色ポリエチレン繊維の強度は20cN/dtex以上がより好ましく、更に好ましくは25cN/dtex以上である。300時間のキセノンランプ照射後の着色ポリエチレン繊維の強度は、12cN/dtex以上がより好ましく、より好ましくは15cN/dtex以上であり、さらに好ましくは18cN/dtex以上である。
【0029】
300時間のキセノンランプ照射前の、着色ポリエチレン繊維の弾性率は、730cN/dtex以上が好ましく、より好ましくは750cN/dtex以上であり、さらに好ましくは780cN/dtex以上である。300時間のキセノンランプ照射後の着色ポリエチレン繊維の弾性率は650cN/dtex以上が好ましく、700cN/dtex以上がより好ましく、750cN/dtex以上がさらに好ましい。
300時間のキセノンランプ照射前の、着色ポリエチレン繊維の破断伸度は、3.3%以上が好ましく、より好ましくは3.5%以上であり、さらに好ましくは3.8%以上である。300時間のキセノンランプ照射後の着色ポリエチレン繊維の破断伸度は3.0%以上が好ましく、3.4%以上がより好ましく、3.7%以上がさらに好ましい。
【0030】
着色ポリエチレン繊維を構成する単糸の繊度は1dtex以上80dtex以下が好ましい。単糸繊度は、より好ましくは2dtex以上であり、さらに好ましくは5dtex以上であり、より好ましくは70dtex以下であり、さらに好ましくは60dtex以下である。単糸繊度が上記範囲内であれば、延伸時や実使用時に毛羽等が生じ難く、また繊維の硬化が抑制でき、しなやかで、強度の高い繊維が得られ易い。
【0031】
着色ポリエチレン繊維の製造方法は特に限定されない。ポリエチレン繊維の製造方法としては公知の方法を採用すればよく、例えば、有機溶媒にポリエチレンを溶解して繊維状に成形する溶液紡糸法等が挙げられる。また着色方法も特に限定されず、例えば、ゲル紡糸時に有機染料を添加する方法や、繊維形成時に付与する方法、あるいは製品化した後に、染浴液に浸漬させる方法等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
下記実施例及び比較例のポリエチレン繊維の特性の測定及び評価は下記のように行った。
【0033】
(1)色の測定(L
*,a
*,b
*)
測定条件として、JIS Z 8781−4:2013に準拠して測定を行った。SPECTROPHOTOMETER CM−3700d(コニカミノルタ製)を用い、データカラー・スペクトラフラッシュ(Datacolor Spectraflash)モデルSF−300比色計(ニュージャージー州、ローレンスビルのデータカラー・インターナショナル(Datacolor International))を用いてD65/10度光源を使用して行った。
【0034】
測定はCIELABのL
*a
*b
*色空間の基準色座標を使用する“Commission Internationale de L’Eclairage”(パリ、フランス)(照明に関する国際協会(International Society for Illumination/Lighting))(“CIE”)により公表された国際基準色測定方法を使用した。「L
*」は明度座標を示し、「a
*」は赤色/緑色座標を示し(+a
*は赤色、−a
*は緑色を示す)、そして「b
*」は黄色/青色座標を示している。(+b
*は黄色、−b
*は青色を示す)。L
*、a
*、およびb
*座標の間の差異を用いることにより、2つの試料間の合計色差異であるΔEを求めた。色差ΔE
*abは、キセノンランプ照射前後の2つの測色値から下記式1を用いて求めた。
ΔE
*ab = [(ΔL
*)
2+(Δa
*)
2+(Δb
*)
2]
1/2 (式1)
【0035】
測定用サンプルの調製は次のようにして行った。キセノンランプ照射前のポリエチレン繊維からなる糸、及びキセノンランプ照射後、アルミプレートから外したポリエチレン繊維からなる糸を、それぞれステンレス鋼製の板(SUS304)に出来るだけ隙間が生じ無いように巻きつけて測定用試料を調製した。キセノンランプ照射後のポリエチレン繊維を測定する場合は、板への糸の巻きつけ時の張力がキセノンランプ照射前のサンプルと同等となるようにして測定用サンプルを調製した。
なお、サンプルが編地や布地の場合は、繊維にダメージを与えないように解反/解織を行い、解反した糸を、板に出来るだけ隙間が生じ無いようにして巻きつけて測定用試料を調製する。
【0036】
(2)繊度
光照射前のポリエチレン繊維において、位置の異なる5箇所から切り出した長さ50cmの測定用サンプルの重量を測定し、その平均値を用いて繊度を求めた。
【0037】
(3)強度・破断伸度・弾性率
JIS L 1013 8.5.1に準拠して測定した。強度、弾性率は、株式会社オリエンテック製の「テンシロン万能材料試験機」を用い、試料長200mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力と伸びから強度(cN/dtex)、破断伸度(%)を求め、歪−応力曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から弾性率(cN/dtex)を計算して求めた。測定時にサンプルに印加する初荷重は繊度の1/10(cN/dtex)とした。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0038】
(実施例1)
C.I. Solvent Blue 58(青色染料)が1質量%付与された、糸の繊度220dtex、強度28cN/dtex、破断伸度4.1%、初期弾性率820cN/dtexの着色ポリエチレン繊維からなる糸(無撚糸)を用い、0.5cN/dtexの初荷重をかけながら、糸同士が重なり合わないようにアルミプレート(10cm×20cm)に巻きつけて試験片を準備した。糸の巻き初めと巻き終わりはアルミプレートに粘着テープで固定した。
【0039】
次いで、耐候試験機(スガ試験機株式会社製「XL75 キセノンウェザーメーター」、光源:キセノンランプ)内に試験片を設置し、キセノンランプの照射を行った。試験片へのキセノンランプの照射は、試験機内の温度をブラックパネル温度で63℃±2℃とし、試験片に対して、室温の水道水を120分の間に12分間、3.15L/minでスプレー噴射しながら、放射照度50W/m
2(波長300〜400nm)の条件で行った。照射開始から300時間後に試験片を取り出し、照射前後の着色ポリエチレン繊維の色及び物性を上述の方法に従って測定した。結果を表1に示す。
この着色ポリエチレン繊維のΔE
*abは10であり、ブランク品(キセノンランプ照射前の着色ポリエチレン繊維)と直接比較しなくても目視で色目に変化が生じたことが分かる。また、初期の引張強度、弾性率、伸度は高い値を示しており、高強度高弾性率繊維として問題のない繊維であった。この繊維のキセノンランプ照射前後の強度から強度保持率を算出したところ、その値は79%に低下していた。この結果より、実施例1の方法では、色目の変化と強度保持率の低下に相関関係があり、色目の変化から繊維物性の低下を確認できることが分かる。
強度保持率 (%)=(照射後強度/照射前強度)×100
【0040】
(比較例1)
原料ポリエチレンに対して1質量%のC.I. Pigment Red 170(赤色顔料)が添加されたポリエチレン溶液から製造された、糸の繊度220cN/dtex、強度21cN/dtex、破断伸度3.1%、初期弾性率710cN/dtexの着色ポリエチレン繊維を用い、実施例1と同様、繊維に0.5cN/dtexの初荷重をかけながら、繊維同士が重なり合わないようにアルミプレートに巻きつけて試験片を準備した。
【0041】
次いで、実施例1と同じ耐候試験機内に試験片を設置し、キセノンランプの照射を行った。試験機内の温度をブラックパネル温度で63℃±2℃とし、室温の水道水を120分の間に12分間、3.15L/minで噴射しながら、放射照度50W/m
2(波長300〜400nm)の条件で、試験片にキセノンランプを照射した。照射開始から300時間後に試験片を取り出した。照射前後の着色ポリエチレン繊維の色及び物性を上述の方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0042】
この着色ポリエチレン繊維のΔE
*abは2であり、ブランク品と並べて比較すれば色目の変化は分かるものの、比較対象となるブランク品なしでは色の変化が分かりにくかった。また比較例1のポリエチレン繊維は顔料により着色されていたため、初期の引張強度から21cN/dtexと低く高強度高弾性率繊維としては好ましくないものであった。また強度保持率は81%と実施例1と同程度に低下していたものの照射後の繊維強度は17cN/dtexと、20cN/dtexを下回る結果となった。
【0043】
(比較例2)
実施例1のポリエチレン繊維を用い、実施例1と同様の方法で試験片を調製した。
次いで、JIS L 0842に準拠してカーボンアーク耐光試験を行った。サンシャインカーボンアーク耐候試験機(スガ試験機株式会社製「S300」)を使用し、測定機械内の温度はブラックパネル温度で63℃±2℃とし、試験片に対して、室温の水道水を、120分の間に12分間、3.15L/minで噴射しながら、放射照度78W/m
2(波長300〜400nm)の条件で、カーボンアークランプを試験片に照射した。カーボンアークランプの照射開始から300時間後にサンプルを取り出した。照射前後の着色ポリエチレン繊維の色と物性を上述の方法に従って測定した。結果を表1に示す。
【0044】
この着色ポリエチレン繊維のΔE
*abは4であり、ブランク品と並べて比較すれば色目の変化は分かるものの、カーボンアークランプ照射後の着色ポリエチレン繊維単独では色の変化が分かりにくかった。またこの着色ポリエチレン繊維の強度保持率は50%であり、着色ポリエチレン繊維の外観から物性の低下の程度を判断することは極めて困難であった。
【0045】
【表1】