特許第6048615号(P6048615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048615耐歪時効特性及び耐HIC特性に優れた高変形能ラインパイプ用鋼材およびその製造方法ならびに溶接鋼管
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048615
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】耐歪時効特性及び耐HIC特性に優れた高変形能ラインパイプ用鋼材およびその製造方法ならびに溶接鋼管
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20161212BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20161212BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20161212BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20161212BHJP
   C21D 7/12 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   C22C38/00 301F
   C22C38/16
   C22C38/58
   C21D8/02 C
   !C21D7/12 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-511374(P2016-511374)
(86)(22)【出願日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2015001724
(87)【国際公開番号】WO2015151468
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-70823(P2014-70823)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭野
(72)【発明者】
【氏名】水野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】仲道 治郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 信行
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−133476(JP,A)
【文献】 特開2005−060835(JP,A)
【文献】 特開2012−017522(JP,A)
【文献】 特開2014−043627(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102517518(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/00− 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成として、質量%で、C:0.030〜0.100%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.002%以下、Cu:0.20〜1.00%、Mo:0.01%以下、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.040%、Al:0.10%以下、N:0.007%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとを合計で面積分率で90%以上有し、前記島状マルテンサイトの面積分率が0.5〜5.0%であり、前記フェライトと前記ベイナイトとの硬度差がビッカース硬さで60以上180以下であり、300℃以下の温度の歪時効処理前および歪時効処理後の夫々について、一様伸びが9%以上および降伏比が90%以下である耐歪時効特性及び耐HIC特性に優れた高変形能ラインパイプ用鋼材。
【請求項2】
前記成分組成に、さらに、質量%で、Ni:0.02〜0.50%、Cr:1.00%以下、V:0.10%以下、Ca:0.0050%以下、B:0.0050%以下の1種または2種以上を含有する請求項1に記載の耐歪時効特性及び耐HIC特性に優れた高変形能ラインパイプ用鋼材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の成分組成を有する鋼を、1000〜1300℃の温度に加熱し、Ar点以上の圧延終了温度で熱間圧延した後、(Ar−50)〜(Ar+30)℃の冷却開始温度から5℃/s以上の冷却速度で冷却停止温度450〜650℃まで加速冷却を行い、その後120秒以内に0.5℃/s以上の昇温速度で550℃〜750℃まで再加熱を行う、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとを合計で面積分率で90%以上有し、前記島状マルテンサイトの面積分率が0.5〜5.0%であり、前記フェライトと前記ベイナイトの硬度差がビッカース硬さで60以上180以下であり、300℃以下の温度の歪時効処理前および歪時効処理後の夫々について、一様伸びが9%以上および降伏比が90%以下である耐歪時効特性及び耐HIC特性に優れた高変形能ラインパイプ用鋼材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の鋼材を素材とする溶接鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、300℃以下のコーティング処理後の材質劣化の小さなラインパイプ用鋼材およびその製造方法ならびに溶接鋼管に関し、pH5以上の湿潤硫化水素環境において優れた耐HIC特性を有し、API X60〜X70グレードのラインパイプ用鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガスや原油の輸送用として使用されるラインパイプは、高圧操業による輸送効率の向上のため、高強度化が求められる。アイスガウジング(Ice Gouging)や地盤変動により大変形が生じても、亀裂の発生防止が可能な高変形能が要求される。たとえば、アイスガウジングが生じる寒冷の海底や地震地帯に敷設されるパイプラインでは、高一様伸びに加え、90%以下の低降伏比を有するラインパイプが要求される。
【0003】
ラインパイプに用いられるUOE鋼管やERW鋼管のような溶接鋼管は、鋼板を冷間で管状に成形して、突き合わせ部を溶接後、通常防食の観点から鋼管外面にコーティング処理が施される。しかしながら、製管時の加工歪みとコーティング処理時の加熱により歪時効硬化現象が生じ、降伏応力が上昇し、鋼管における降伏比は鋼板における降伏比よりも大きくなってしまうという問題がある。
【0004】
また、硫化水素を含む天然ガスや原油の輸送に用いられるラインパイプは、鋼と硫化水素の反応により生じた水素が鋼中に侵入し、割れが生じることがある。このため、強度、高一様伸び化、低降伏比化、耐歪時効特性の他に、耐水素誘起割れ性(耐HIC性)が要求される。
【0005】
低降伏比化、高一様伸び化の方法として、鋼材の金属組織を、フェライトの様な軟質相中に、ベイナイトやマルテンサイトなどの硬質相が適度に分散した組織とすることが有効であることが知られている。また、水素誘起割れを防止する方法として、偏析傾向の高いPなどを低減することが有効であることが知られている。一方で、ガス田開発の拡大に伴い,サワー環境(pH、硫化水素分圧)も拡大しており,マイルドサワー環境(湿潤硫化水素環境)が着目されている。pH5以上の比較的酸性度の低い環境、いわゆるマイルドサワー環境下では、鋼中にCuを添加して、鋼材に保護皮膜を形成することによって、鋼中への水素の侵入を抑制することが有効であることが知られている。
【0006】
軟質相の中に硬質相が適度に分散した組織を得る製造方法として、特許文献1には、焼入れと焼戻しの中間に、フェライトとオーステナイトの2相域からの焼入れを施す熱処理方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献1に開示される複雑な熱処理を行わずに低降伏比化を達成する技術として、特許文献2には、Ar温度以上で鋼材の圧延を終了し、その後の加速冷却速度と冷却停止温度を制御することで、針状フェライトとマルテンサイトの2相組織とし、低降伏比化を達成する方法が開示されている。
【0008】
耐歪時効特性に対しては、たとえば、特許文献3および4には、TiとMoを含有する複合炭化物の微細析出物、あるいは、Ti、Nb、Vのいずれか2種類以上を含有する複合炭化物の微細析出物を活用した、耐歪時効特性に優れた低降伏比高強度高靭性鋼管およびその製造方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献5には、鋼材の合金元素の添加量を大きく増加させることなく、API 5L X70以下の耐歪時効特性に優れた低降伏比高強度高一様伸びを達成する方法として、加速冷却後、直ちに再加熱を行うことで、ベイナイトとポリゴナルフェライトと島状マルテンサイト(MA)の3相組織とする方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献6には、X65以上のフェライトとベイナイトの2相組織からなる鋼材の耐HIC特性を得る方法として、フェライトとベイナイトの硬度差を小さくする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭55−97425号公報
【特許文献2】特開平1−176027号公報
【特許文献3】特開2005−60839号公報
【特許文献4】特開2005−60840号公報
【特許文献5】特開2011−74443号公報
【特許文献6】特開2003−301236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の熱処理方法では、二相域焼入れ温度を適当に選択することにより、低降伏比化が達成可能である。しかしながら、熱処理工程数が増加するため、生産性の低下や製造コストの増加を招くという問題がある。
【0013】
また、特許文献2に記載の技術では、その実施例が示すように、引張強さで490N/mm(50kg/mm)以上の鋼材とするために、鋼材の炭素含有量を高めるか、あるいはその他の合金元素の添加量を増やした成分組成とする必要がある。このため、素材コストの上昇を招くだけでなく、溶接熱影響部靭性の劣化が問題となる。さらに、UOE鋼管やERW鋼管のような溶接鋼管は、上述したように、鋼板を冷間で管状へ成形して、突合せ部を溶接後、通常防食等の観点から鋼管外面にコーティングが施されるため、製管時の加工歪とコーティング処理時の加熱により歪時効硬化が生じ、降伏応力が上昇する。そのため、特許文献2の技術では、素材の鋼板の低降伏比化を達成しても、コーティング処理後における低降伏比化を達成することは困難である。
【0014】
特許文献3または4に記載の技術では、耐歪時効特性は改善されたものの、その実施例が示すように、板厚26mm以上の厚肉での強度の確保については、検討されていない。板厚26mm以上の厚肉では、厚肉に伴う冷却速度低下により高強度化が困難で、API 5L X65〜X70、厚肉、高変形能、耐歪時効特性、耐マイルドサワー性能を併せ持つ複合仕様材が未開発である。
【0015】
さらに、特許文献5に記載の技術では、その実施例が示すように、歪時効処理後に85%以下の低降伏比化を達成しているものの、湿潤硫化水素環境における水素誘起割れが懸念される。
【0016】
特許文献6に記載の技術では、pH3.3以上の湿潤硫化水素環境において優れた耐HICを有している。しかしながら、フェライトとベイナイトとの硬度差を低くする必要があるため、低降伏比化の未達成が懸念される。マイルドサワー環境下で使用される溶接鋼管については、厳しいサワー環境下に適応される鋼成分の清浄化などの材料設計は過剰であり、製造コストの上昇が問題である。
【0017】
そこで、本発明は、pH5以上の湿潤硫化水素環境において優れた耐HIC特性を示し、コーティング処理後であっても降伏比が低いAPI 5L X60〜X70グレードの高変形能ラインパイプ用鋼材およびその製造方法ならびに溶接鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは上記課題を解決するために、適正な成分組成と鋼材の製造方法、特に制御圧延および制御圧延後の加速冷却という製造プロセスについて鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
(a)Cuを適量添加し、Moを含有しない、あるいは、含有しても0.01%以下にすることにより、耐HIC特性を向上させることが可能である。
(b)加速冷却過程で、冷却開始温度を適正に制御し、ベイナイト変態途中、すなわち未変態オーステナイトが存在する温度領域で冷却を停止し、その後ベイナイト変態終了温度(以下、Bf点と記載する。)以上から再加熱を行うことにより、鋼板の金属組織を、フェライトおよびベイナイトの混合相中に硬質相である島状マルテンサイト(Martensite−Austenite constituent、以下、MAと記載する。)が均一に生成した3相組織となり、歪時効処理前および歪時効処理後(以下、「歪時効処理前後」と称することもある。)の低降伏比化が可能である。
(c)加速冷却における冷却開始温度と冷却停止温度を適正な温度とすることで、固溶Cを低減することができるため、歪時効後の降伏比の上昇が抑制できる。
【0019】
本発明は上記の知見に更に検討を加えてなされたものであり、以下のとおりである。
[1]成分組成として、質量%で、C:0.030〜0.100%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.002%以下、Cu:0.20〜1.00%、Mo:0.01%以下、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.040%、Al:0.10%以下、N:0.007%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとを有し、前記島状マルテンサイトの面積分率が0.5〜5.0%であり、前記フェライトと前記ベイナイトとの硬度差がビッカース硬さで60以上であり、300℃以下の温度の歪時効処理前および歪時効処理後の夫々について、一様伸びが9%以上および降伏比が90%以下である耐歪時効特性及び耐HIC特性に優れた高変形能ラインパイプ用鋼材。
[2]前記成分組成に、さらに、質量%で、Ni:0.02〜0.50%、Cr:1.00%以下、V:0.10%以下、Ca:0.0050%以下、B:0.0050%以下の1種または2種以上を含有する[1]に記載の耐歪時効特性及び耐HIC特性に優れた高変形能ラインパイプ用鋼材。
[3][1]または[2]に記載の成分組成を有する鋼を、1000〜1300℃の温度に加熱し、Ar点以上の圧延終了温度で熱間圧延した後、(Ar−50)〜(Ar+30)℃の冷却開始温度から5℃/s以上の冷却速度で冷却停止温度450〜650℃まで加速冷却を行い、その後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550℃〜750℃まで再加熱を行う、金属組織がフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとを有し、前記島状マルテンサイトの面積分率が0.5〜5%であり、前記フェライトと前記ベイナイトの硬度差がビッカース硬さで60以上であり、300℃以下の温度の歪時効処理前および歪時効処理後の夫々について、一様伸びが9%以上および降伏比が90%以下である耐歪時効特性及び耐HIC特性に優れた高変形能ラインパイプ用鋼材の製造方法。
[4][1]または[2]に記載の鋼材を素材とする溶接鋼管。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、pH5以上の湿潤硫化水素環境において優れた耐HIC特性を示し、300℃以下のコーティング処理後であっても降伏比が低いAPI 5L X60〜X70グレードの高変形能ラインパイプ用鋼材を得られる。
なお、本発明における耐歪時効特性とは、300℃以下の温度の熱処理を施しても降伏比の過度な上昇を抑制できる特性をいう。また、本発明における耐HIC特性とは、pH5以上の湿潤硫化水素環境において水素誘起割れが発生しない特性をいう。また、高変形能とは、一様伸びが9%以上および降伏比が90%以下を満たす特性をいう。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0022】
1.成分組成
以下に、本発明に係る鋼材の成分組成の限定理由を説明する。なお、成分組成を示す単位の%は、全て質量%を意味する。
【0023】
C:0.030〜0.100%
Cは炭化物として析出強化に寄与する元素である。Cが0.030%未満では、MA(島状マルテンサイト)の生成が不足するため、十分な強度が確保できないほか、フェライトとベイナイトとの硬度差を所定量確保できないため、降伏比が大きくなる。Cが0.100%を超えると、靭性や溶接性の劣化、歪時効による降伏比の上昇を招く。このため、C含有量を0.030〜0.100%に規定する。好ましくは、C含有量は0.05%以上である。また、好ましくは、C含有量は0.09%以下である。
【0024】
Si:0.01〜0.50%
Siは脱酸のため含有する。Siが0.01%未満では脱酸効果が十分ではない。Siが0.50%を超えると靭性や溶接性の劣化を招く。このため、Si含有量を0.01〜0.50%に規定する。好ましくは、Si含有量は0.01〜0.3%である。
【0025】
Mn:0.5〜2.5%
Mnは、強度、靭性のため含有する。Mnが0.5%未満ではその効果が十分ではなく、また、MA(島状マルテンサイト)が不足するため、降伏比が大きくなる。このため、Mn含有量は0.5%以上とし、MA生成による低降伏比化の観点から、好ましくは、1.2%以上であり、より好ましくは、1.5%以上である。一方、Mnが2.5%を超えると靭性と溶接性が劣化する。このため、Mn含有量を2.5%以下に規定し、好ましくは、2.0%以下である。
【0026】
P:0.015%以下
Pは溶接性と耐HIC特性を劣化させる不可避的不純物元素である。このため、P含有量は、0.015%以下に規定する。好ましくは、P含有量は0.010%以下である。
【0027】
S:0.002%以下
Sは一般的には鋼中においてはMnS介在物となり耐HIC特性を劣化させる。このため、少ないほどよい。Sが0.002%以下であれば問題ないため、S含有量の上限を0.002%に規定する。好ましくは、S含有量は0.0015%以下である。
【0028】
Cu:0.20〜1.00%
Cuは本発明において重要な元素であり、鋼中への水素の侵入を抑制し、耐HIC特性向上に寄与する。しかし、Cuが0.20%未満ではその効果が十分ではなく、1.00%を超えると溶接性が劣化する。このため、Cu含有量を0.20〜1.00%に規定する。好ましくは、Cu含有量は0.25%以上である。また、好ましくは、Cu含有量は0.5%以下である。
【0029】
Mo:0.01%以下(0を含む)
Moは歪時効による降伏比の上昇、および、耐HIC特性の劣化を招く。このため、Moは含有しないか、あるいは含有しても0.01%以下に規定する。好ましくは、Mo含有量は0.005%以下である。
【0030】
Nb:0.005〜0.05%
Nbは組織の微細化により靭性を向上させ、さらに炭化物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、Nbが0.005%未満ではその効果が十分ではなく、0.05%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化する。このため、Nb含有量を0.005〜0.05%に規定する。好ましくは、Nb含有量は0.01〜0.05%である。
【0031】
Ti:0.005〜0.040%
TiはTiNのピニング効果により、スラブ加熱時のオーステナイト粗大化を抑制し、母材靭性を向上させ、さらに固溶Nを低減し歪時効による降伏比上昇を抑制する。しかし、Tiが0.005%未満ではその効果が十分ではなく、0.040%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化する。このため、Ti含有量は0.005〜0.040%に規定する。好ましくは、Ti含有量は0.005〜0.02%である。
【0032】
Al:0.10%以下
Alは脱酸剤として含有する。Alが0.10%を超えると鋼の清浄度が低下し、靭性が劣化する。このため、Al含有量は0.10%以下に規定する。好ましくは、Al含有量は0.01〜0.08%とする。
【0033】
N:0.007%以下
Nは歪時効による降伏比の上昇、溶接熱影響部の靭性の劣化を招く不可避的不純物元素である。このため、N含有量の上限を0.007%に規定する。好ましくは、N含有量は0.006%以下である。
【0034】
以上が本発明の基本成分である。なお、鋼板の強度および靭性をさらに改善し、且つ耐HIC特性を向上する目的で、Ni、Cr、V、Ca、Bの1種または2種以上を含有してもよい。
【0035】
Ni:0.02〜0.50%
Niは耐HIC向上に寄与し、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素である。Niが0.02%未満ではその効果が十分ではなく、0.50%を超えて含有しても効果が飽和し、むしろコスト的に不利になる。このため、含有する場合はNi含有量を0.02〜0.50%に規定する。好ましくは、Ni含有量は0.2%以上である。また、好ましくは、Ni含有量は0.4%以下である。
【0036】
Cr:1.00%以下
Crは低Cでも十分な強度を得るために有効な元素である。Crが1.00%を超えると溶接性が劣化する。このため、含有する場合はCr含有量の上限を1.00%に規定する。好ましくは、0.1〜0.5%以下である。
【0037】
V:0.10%以下
Vは組織の微細化により靭性を向上させ、さらに炭化物を形成し、強度の向上に寄与する。Vが0.10%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化する。このため、含有する場合はV含有量は0.10%以下に規定する。好ましくは、V含有量は0.005%以上である。また、好ましくは、V含有量は0.05%以下である。
【0038】
Ca:0.0050%以下
Caは硫化物系介在物の形態制御による靭性改善に有効な元素である。Caが0.0050%を超えると効果が飽和し、むしろ、鋼の清浄度の低下により靭性を劣化させる。このため、含有する場合は、Ca含有量を0.0050%以下に規定する。好ましくは、Ca含有量は0.001%以上である。また、好ましくは、Ca含有量は0.004%以下である。
【0039】
B:0.0050%以下
Bは強度上昇、溶接熱影響部の靭性改善に有効な元素である。Bが0.0050%を超えると溶接性を劣化させる。このため、含有する場合は、B含有量を0.0050%以下に規定する。好ましくは、B含有量は0.003%以下である。また、好ましくは、B含有量は0.0003%以上である。
【0040】
本発明の鋼材における上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。ただし、本発明の作用効果を害さない範囲であれば、上記以外の元素の含有を問題としない。
【0041】
2.金属組成
本発明の鋼板の金属組織は、フェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとからなる3相組織を主体とする。フェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとからなる3相組織を主体とするとは、フェライトとベイナイトと島状マルテンサイトの面積分率が合計で90%以上の複相組織をいう。残部としては、マルテンサイト(島状マルテンサイトを除く)やパーライト、残留オーステナイト等から選ばれる1種または2種以上の合計の面積分率が10%以下の組織である。
【0042】
さらに、島状マルテンサイトの面積分率は0.5〜5.0%とする。これにより、歪時効硬化処理前後の降伏比90%以下を満足することができる。島状マルテンサイトの面積分率が0.5%未満では低降伏比化を達成するには不十分な場合がある。また、島状マルテンサイトの面積分率が5.0%を超えると母材靱性および耐HIC特性を劣化させる場合がある。島状マルテンサイトは、コーティング処理時の加熱温度(最高300℃)においても分解することなく安定なため、本発明においてはコーティング処理後も低降伏比を達成することが可能である。なお、コーティング処理時の熱処理においては、歪時効硬化現象が生じるため、歪時効処理前と歪時効処理後の低降伏比化を達成することにより、溶接鋼管製造においてコーティング処理を行っても低降伏比化を達成することができる。なお、フェライトとベイナイトの面積分率は特に限定する必要はないが、低降伏比化および耐HIC特性の観点から、フェライトの面積分率は10%以上、ベイナイトの面積分率は10%以上であることが好ましい。
【0043】
フェライトとベイナイトとの硬度差は、ビッカース硬さ(HV)で60以上とする。硬度差を60以上にすることにより、歪時効硬化処理前後の降伏比90%以下を満足することができる。硬度差がHVで60未満の場合、フェライトあるいはベイナイトの単相組織と挙動が変わらず、降伏比が高くなり、所望の降伏比を達成することが困難となる。また、硬度差がHVで180より大きい場合、耐HIC特性を劣化させるとともに歪時効後の降伏比を上昇させる場合があるため、硬度差はHVで180以下とすることが好ましい。より好ましくは、硬度差はHVで150以下である。
【0044】
なお、各金属組織は、例えば、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡観察し、得られた少なくとも3視野以上ミクロ組織写真を画像処理することにより、組織の種類および各相の面積分率を求めることができる。また、MA(島状マルテンサイト)は、たとえば3%ナイタール溶液(nital:硝酸アルコール溶液)でエッチング後、電解エッチングして観察すると、容易に識別可能である。MAは、走査型電子顕微鏡観察し,得られた少なくとも3視野以上ミクロ組織写真を画像処理することにより面積分率を求めることができる。
【0045】
また、硬度はビッカース硬度計によって測定した値とし、それぞれの相の内部で最適な大きさの圧痕を得るため任意の荷重を選択することができる。フェライトとベイナイトとで同一の荷重で硬度測定をすることが望ましい。また、ミクロ組織の局所的な成分または測定誤差によるばらつきを考慮して、それぞれの相について少なくとも15点以上の異なる位置で硬度測定を行い、フェライトとベイナイトの硬度として、それぞれの相の平均硬度を用いることが好ましい。平均硬度を用いる場合の硬度差は、フェライトの硬度の平均値と、ベイナイトの硬度の平均値との差の絶対値を用いるものとする。
【0046】
3.歪時効処理前後の引張特性
300℃以下の温度の歪時効処理前および歪時効処理後の夫々について、一様伸びが9%以上および降伏比が90%以下
地震地帯に適用されるラインパイプ用鋼材は、地盤変動のような大きな変形を受ける場合でも破壊しないように高変形能であることが要求されている。さらに防食のためのコーティングで最大300℃に加熱される歪時効処理後でも高変形能を維持することが必要である。300℃以下の温度の歪時効処理前および歪時効処理後の夫々について、一様伸びが9%以上および降伏比が90%以下である場合は、十分な高変形能が得られ、地震などの大変形により破壊に至る虞はない。そのため、本発明の鋼材では、300℃以下の温度の歪時効処理前および歪時効処理後の夫々について、一様伸びを9%以上とし、降伏比を90%以下とする。この300℃以下の温度の歪時効処理前および歪時効処理後の夫々は、高変形能の観点から、一様伸びが10%以上および降伏比が88%以下であることが好ましい。
【0047】
4.製造条件
次に、本発明の高変形能ラインパイプ用鋼材の製造方法について説明する。本発明の高変形能ラインパイプ用鋼材の製造方法としては、上述した成分組成を有する鋼素材を用い、加熱温度:1000〜1300℃、圧延終了温度:Ar点以上で熱間圧延を行った後、(Ar−50)〜(Ar+30)℃の冷却開始温度から5℃/s以上の冷却速度で冷却停止温度450〜650℃まで加速冷却を行い、その後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜750℃まで再加熱を行うことで、所望の金属組織とすることができる。ここで、温度は鋼材の中央部温度とする。なお、Ar点は、以下の式より計算される。
Ar(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo
上記式において、元素記号は各元素の含有量(質量%)を示し、含有しない場合は0とする。
【0048】
次に、各製造条件の限定理由について説明する。
【0049】
加熱温度:1000〜1300℃
加熱温度が1000℃未満では炭化物の固溶が不十分で必要な強度が得られず、1300℃を超えると母材靭性が劣化する。このため、加熱温度を1000〜1300℃に規定する。
【0050】
圧延終了温度:Ar点以上
圧延終了温度がAr点未満であると、その後のフェライト変態速度が低下し、圧延による塑性歪がフェライト中に残存してフェライト強度が高くなり、フェライトとベイナイトとの硬度差が低下するため、所望の降伏比が達成できなくなる。このため、圧延終了温度をAr点以上に規定する。さらに、900℃以下の温度域における累積圧下率を50%以上とすることが好ましい。900℃以下の温度域における累積圧下率を50%以上とすることにより、オーステナイト粒を微細化することができる。
【0051】
加速冷却の冷却開始温度:(Ar−50)〜(Ar+30)℃
冷却開始温度が(Ar−50)℃未満の温度ではフェライトの面積分率が増加し、母材強度が劣化する。さらに、フェライトとベイナイトの硬度差が大きくなり、耐HIC特性が劣化する。よって、冷却開始温度は(Ar−50)℃以上とし、好ましくは、(Ar−30)℃以上である。また、冷却開始温度が(Ar+30)℃を超えるとフェライトの面積分率が減少するとともにフェライトとベイナイトの硬度差の低下が生じ、低降伏比化を達成するには不十分となる。よって、冷却開始温度は(Ar+30)℃以下とし、好ましくは、(Ar+25)℃以下である。
【0052】
加速冷却の冷却速度:5℃/s以上
冷却速度が5℃/s未満では冷却時にパーライトを生成し、十分な強度や低降伏比が得られないため、冷却速度を5℃/s以上に規定する。好ましくは、冷却速度は8℃/s以上、より好ましくは10℃/s以上である。また、好ましくは、冷却速度は100℃/s以下、より好ましくは60℃/s以下である。
【0053】
冷却停止温度:450〜650℃
本発明において、加速冷却の冷却停止温度は重要な製造条件である。本発明では、再加熱後に存在するCの濃縮した未変態オーステナイトが、その後の空冷時にMA(島状マルテンサイト)へと変態する。すなわち、ベイナイト変態途中の未変態オーステナイトが存在する温度域で冷却を停止する必要がある。冷却停止温度が450℃未満では、ベイナイト変態が完了するため空冷時にMA(島状マルテンサイト)が生成せず低降伏比化が達成できない。650℃を超えると冷却中に析出するパーライトにCが消費されMA(島状マルテンサイト)の生成が抑制され、MA量が不足する。このため、加速冷却の冷却停止温度を450〜650℃に規定する。好ましくは、冷却停止温度は515℃以上、より好ましくは530℃以上である。また、好ましくは、冷却停止温度は635℃以下、より好ましくは620℃以下である。
【0054】
本発明においては、加速冷却後、直ちに再加熱を行うことが好ましい。未変態オーステナイトが存在する状態から再加熱を行うことが好ましいからである。「直ちに」とは製造効率や熱処理に要する燃料コストを削減する観点から、冷却停止の後120秒以内であることが好ましい。
【0055】
加速冷却停止後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜750℃の温度まで再加熱する
このプロセスも、本発明において重要な製造条件である。再加熱時の未変態オーステナイトからのフェライト変態と、それに伴う未変態オーステナイトへのCの排出により、再加熱後の空冷時にCが濃化した未変態オーステナイトがMA(島状マルテンサイト)へと変態する。このようなMA(島状マルテンサイト)を得るためには、加速冷却後Bf点以上の温度から550〜750℃の温度域まで再加熱する必要がある。昇温速度が0.5℃/s未満では、目的の再加熱温度に達するまでに長時間を要するため製造効率が悪化し、また、パーライト変態が生じるためMA(島状マルテンサイト)が得られず、十分な低降伏比を得ることができない。
再加熱の温度が550℃未満ではフェライト変態が十分起こらずCの未変態オーステナイトへの排出が不十分となり、MAが生成せず低降伏比化が達成できない。再加熱温度750℃を超えると、ベイナイトの軟化によりフェライトとベイナイトとの硬度差がHVで60未満となり、低降伏比が達成できない。このため、再加熱の温度域を550〜750℃に規定する。なお、確実にフェライト変態を生じさせてCを未変態オーステナイトへ濃化させるためには、再加熱の際に、再加熱開始温度より50℃以上昇温することが望ましい。再加熱後の冷却速度は基本的には空冷とすることが好ましい。
【0056】
以上の製造プロセスにより、300℃以下の温度の歪時効処理前後における一様伸びが9%以上および降伏比が90%以下である耐歪時効特性および耐HIC性に優れた高変形能ラインパイプ用鋼材を得ることが可能となる。本発明においては、一般的な鋼管のコーティング工程における300℃以下の温度の熱履歴を経ても、歪時効により降伏比上昇や一様伸びの低下を抑制することができ、一様伸び9%以上および降伏比90%以下を確保することができる。なお、コーティング処理時の熱処理においては、歪時効硬化現象が生じるため、歪時効処理前と歪時効処理後の低降伏比化を達成することにより、溶接鋼管製造においてコーティング処理を行っても低降伏比化を達成することができる。
【0057】
5.溶接鋼管の製造方法
さらに、溶接鋼管の製造方法について説明する。
【0058】
本発明は上述の鋼材を用いて鋼管となす。鋼管の成形方法としては、UOEプロセスやプレスベンド(ベンディングプレスとも称する)等の冷間成形によって鋼管形状に成形する方法が挙げられる。
【0059】
UOEプロセスでは、素材となる厚鋼板の幅方向端部に開先加工を施したのち、プレス機を用いて鋼板の幅方向端部の端曲げを行い、続いて、プレス機を用いて鋼板をU字状にそしてO字状に成形することにより、鋼板の幅方向端部同士が対向するように鋼板を円筒形状に成形する。次いで、鋼板の対向する幅方向端部をつき合わせて溶接する。この溶接をシーム溶接と呼ぶ。このシーム溶接においては、円筒形状の鋼板を拘束し、対向する鋼板の幅方向端部同士を突き合わせて仮付溶接する仮付溶接工程と、サブマージアーク溶接法によって鋼板の突き合わせ部の内外面に溶接を施す本溶接工程との、二段階の工程を有する方法が好ましい。シーム溶接を行った後に、溶接残留応力の除去と鋼管真円度の向上のため、拡管を行う。拡管工程において拡管率(拡管前の管の外径に対する拡管前後の外径変化量の比)は、通常、0.3%〜1.5%の範囲で実施される。真円度改善効果と拡管装置に要求される能力とのバランスの観点から、拡管率は0.5%〜1.2%の範囲であることが好ましい。その後、防食を目的としてコーティング処理を実施することができる。コーティング処理としては、外面に、たとえば、200〜300℃の温度域に加熱した後、たとえば公知の樹脂を塗布すればよい。
【0060】
プレスベンドの場合には、鋼板に三点曲げを繰り返すことにより逐次成形し、ほぼ円形の断面形状を有する鋼管を製造する。その後は、上述のUOEプロセスと同様に、シーム溶接を実施する。プレスベンドの場合にも、シーム溶接の後、拡管を実施してもよく、また、コーティングを実施することもできる。
【実施例1】
【0061】
表1に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)の鋼(鋼種A〜K)を、表2に示す条件で板厚30mm、33mmの鋼材を製造した。再加熱については、誘導加熱炉またはガス燃焼炉を用いて行った。なお、加熱温度、圧延終了温度、冷却停止(終了)温度及び、再加熱温度等の温度は鋼板の中央部温度とした。中央部温度は、スラブもしくは鋼板の中央部に熱電対を挿入し、直接測定、あるいは、スラブもしくは鋼板の表面温度より、板厚、熱伝導率等のパラメータを用いて算出した。また、冷却速度は、熱間圧延終了後、冷却停止(終了)温度まで冷却に必要な温度差をその冷却を行うのに要した時間で割った平均冷却速度である。また、再加熱速度(昇温速度)は、冷却後、再加熱温度までの再加熱に必要な温度差を再加熱するのに要した時間で割った平均昇温速度である。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
上記のように製造した鋼材について、組織観察を行うとともに、引張特性、硬度差、耐HIC特性を測定した。評価方法は以下のとおりである。
(1)組織観察
得られた厚鋼板から組織観察用試験片を採取し、L方向断面を研磨、ナイタール腐食して、板厚中央位置から±2mmの領域である板厚中央部について、光学顕微鏡(倍率:400倍)または走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)を用いて、ミクロ組織を各3視野以上観察し、撮像して画像解析により、組織の種類および各相の面積分率を求めた。
(2)引張特性
歪時効処理前の引張強度については、圧延垂直方向のJIS Z 2201に規定される4号試験片を2本採取し、引張試験を行い、その平均値で評価した。引張強度517MPa以上(API 5L X60以上)を本発明に必要な強度とした。降伏比、一様伸びは、圧延方向のJIS Z 2201に規定される4号試験片を2本採取し、引張試験を行い、その平均値で評価した。降伏比90%以下、一様伸び9%以上を本発明に必要な降伏比とした。
また、歪時効処理後の引張強度については、圧延方向のJIS Z 2201に規定される4号試験片を2本採取し、2.0%の引張歪を付与した後、250℃にて5分間保持して、歪時効処理した後、引張試験を実施し、その平均値で評価した。なお、歪時効処理後の評価基準は、上述した歪時効処理前の評価基準と同一の基準で判定した。
(3)硬度差
得られた厚鋼板から硬さ測定用試験片を採取し、フェライトとベイナイトの硬度を、測定荷重5gのビッカース硬度計により測定し、10点以上の測定結果の平均値を用いて、フェライトとベイナイトとの硬度差を求めた。
(4)耐HIC特性
耐HIC特性は100%硫化水素を飽和させたpH約5.0の5%NaClを含む1mol/l酢酸緩衝溶液中に96時間浸漬する条件でHIC試験を行い、割れが認められない場合を耐HIC特性良好と判断して○印で示し、割れが発生した場合を×印で示した。
【0065】
測定結果を表3に示す。なお、金属組織は、特記したものを除き(No.11はフェライトの面積分率:2%)、いずれも、フェライトの面積分率は10%以上であり、ベイナイトの面積率も10%以上であった。
【0066】
【表3】
【0067】
表3において、本発明例であるNo.1〜7はいずれも、化学成分及び製造方法が本発明の範囲内であり、2.0%の引張歪を付与し、250℃にて5分間の歪時効処理前後で、引張強度517MPa以上の高強度で降伏比90%以下、一様伸び9%以上となり、低降伏比、高一様伸びで、かつ優れた耐HIC特性を示した。
【0068】
また、鋼材の組織はフェライトとベイナイトと島状マルテンサイトとからなり、島状マルテンサイトの面積分率が0.5〜5%であり、フェライトとベイナイトとの硬度差がビッカース硬さで60以上であった。
【0069】
一方、比較例であるNo.8〜13は、化学成分は本発明の範囲内であるが、製造方法が本発明の範囲外であるため、組織、強度、歪時効処理前後いずれかの降伏比、一様伸びのいずれかが不十分であった。No.14〜18は化学成分が本発明の範囲外または製造方法が本発明の範囲外であるので、十分な強度が得られないか、降伏比が高いか、一様伸びが低いか、HIC試験で割れが生じていた。