特許第6048618号(P6048618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048618
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】缶用鋼板及び缶用鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20161212BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20161212BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20161212BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C22C38/14
   C22C38/38
   C21D9/46 K
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-515152(P2016-515152)
(86)(22)【出願日】2015年10月13日
(86)【国際出願番号】JP2015005179
(87)【国際公開番号】WO2016075866
(87)【国際公開日】20160519
【審査請求日】2016年4月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-229664(P2014-229664)
(32)【優先日】2014年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勇人
(72)【発明者】
【氏名】小島 克己
(72)【発明者】
【氏名】中丸 裕樹
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−089829(JP,A)
【文献】 特開2013−224476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.015%以上0.150%以下、Si:0.04%以下、Mn:1.0%以上2.0%以下、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.01%以上0.10%以下、N:0.0005%以上0.0050%未満、Ti:0.003%以上0.015%以下、B:0.0010%以上0.0040%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
フェライト相の面積分率が80%以上であり、第2相としてマルテンサイト相と残留オーステナイト相からなる少なくとも一つを面積分率の合計で1.0%以上含む鋼板組織を有し、
引張強さが480MPa以上、
全伸びが12%以上、
降伏伸びが2.0%以下、
である缶用鋼板。
【請求項2】
前記成分組成に加えて更に、Cr:0.03%以上0.30%以下、Mo:0.01%以上0.10%以下の一種以上を含有する請求項1に記載の缶用鋼板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の缶用鋼板の製造方法であって、
スラブを加熱温度1130℃以上で加熱し、仕上げ温度820℃以上930℃以下で熱間圧延した後、巻取温度640℃以下で巻取り、酸洗して、圧延率85%以上で一次冷間圧延し、焼鈍温度720℃以上780℃以下で連続焼鈍し、圧延率1.0%以上10%以下で二次冷間圧延を行う缶用鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記連続焼鈍の後、冷却速度2℃/s以上70℃/s未満として前記焼鈍温度から400℃まで冷却し、その後前記二次冷間圧延を行う請求項3に記載の缶用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に食缶や飲料缶に用いられる缶容器材料に適した缶用鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における環境負荷低減およびコスト削減の観点から食缶や飲料缶に用いられる鋼板の使用量削減が求められており、2ピース缶、3ピース缶に関わらず鋼板の薄肉化が進行している。
【0003】
更に、薄肉化による缶体強度を補うため、缶胴部にビード加工や幾何学的形状を付与した異形缶の適用が多くなってきている。2ピース缶の異形缶では、絞り加工やしごき加工により比較的加工度の高い成形をした後に、更に缶胴部を加工するため、鋼板により高い成形性が要求されている。
【0004】
一方で、加工度の低い缶底部は加工硬化による強度上昇が小さいため、薄肉化した場合は鋼板の高強度化が必要である。特に缶底部の形状が平坦の場合、即ち、加工度が極めて小さい場合は一層の高強度化が必要となる。
【0005】
加えて、製缶加工においてストレッチャーストレイン(しわ)の発生は外観不良となるため、鋼板の降伏伸びが十分に小さいことが必要である。
【0006】
一般的に鋼板は高強度化に伴い成形性が低下する。このような課題に対して、高強度かつ成形性が良好な鋼板を実現するため、硬質な第2相を活用した鋼板が検討されている。
【0007】
特許文献1には、C:0.15wt%以下、Si:0.10wt%以下、Mn:3.00wt%以下、Al:0.150wt%以下、P:0.100wt%以下、S:0.010wt%以下及びN:0.0100wt%以下を含有し、残部は鉄及び不可避不純物の組成からなり、鋼板組織がフェライトと、マルテンサイト又はベイナイトの混合組織を有する、TS 40kgf/mm以上、El 15%以上及びBH 5kgf/mm以上の製缶用高強度良加工性冷延鋼板が開示されている。
【0008】
特許文献2には、製品板厚tが0.1-0.5mmである製缶用高強度薄鋼板において、質量%で、C:0.04-0.13、Si:0.01超-0.03、Mn:0.1-0.6、P:0.02以下、S:0.02以下、Al:0.01-0.2、N:0.001-0.02、を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、鋼板組織がフェライト相主体のフェライト相とマルテンサイト相との複合組織であって、マルテンサイト相分率を5%以上30%未満とし、マルテンサイト粒径d(μm)と製品板厚t(mm)とが、下記式(A)を満たし、30T硬度が60以上であることを特徴とする製缶用高強度薄鋼板が開示されている。
1.0<(1−EXP(−t*3.0))*4/d―――――式(A)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−337049号公報
【特許文献2】特開2009−84687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前記従来技術には下記に示す問題が挙げられる。
【0011】
特許文献1に記載の発明では、2回冷延、2回焼鈍により鋼板を製造するためエネルギーコストが上昇する。また、安定してストレッチャーストレインを抑制すること、即ち、低い降伏伸びを得ることが困難であった。
【0012】
特許文献2に記載の発明では、焼鈍工程において急冷を要するため鋼板内の温度ムラが大きくなりやすく、安定して良好な成形性を得ることが困難であった。さらに、Mn含有量が0.1-0.6%と低いため十分に降伏伸びを低減できないという課題があった。
【0013】
本発明はかかる事情に鑑みなされたもので、高強度及び優れた成形性を有する缶用鋼板及び缶用鋼板の製造方法を提供することを本発明が解決すべき課題とする。特に、2ピース異形缶の成形に好ましく用いることができる缶用鋼板及び缶用鋼板の製造方法を提供することを本発明が解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った。具体的には、缶底部に求められる高強度と、缶胴部に求められる優れた成形性を両立するために鋭意研究を行った。その結果、成分組成と、鋼板組織と、引張強さ(以下、TSとも称する。)と、全伸びと、降伏伸び(以下、YP−ELとも称する。)を特定の範囲に調整すれば上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいて本発明者らは本発明を完成するに至った。更に、本発明者らは製造条件も鋭意研究し、特に焼鈍条件および2次冷間圧延条件を特定の範囲で制御することが組織制御の観点から好ましいことを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0015】
[1]質量%で、C:0.015%以上0.150%以下、Si:0.04%以下、Mn:1.0%以上2.0%以下、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.01%以上0.10%以下、N:0.0005%以上0.0050%未満、Ti:0.003%以上0.015%以下、B:0.0010%以上0.0040%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、フェライト相を主相とし、第2相としてマルテンサイト相と残留オーステナイト相からなる少なくとも一つを面積分率の合計で1.0%以上含む鋼板組織を有し、引張強さが480MPa以上、全伸びが12%以上、降伏伸びが2.0%以下、である缶用鋼板。
【0016】
[2]前記成分組成に加えて更に、Cr:0.03%以上0.30%以下、Mo:0.01%以上0.10%以下の一種以上を含有する[1]に記載の缶用鋼板。
【0017】
[3][1]又は[2]に記載の成分組成を有するスラブを加熱温度1130℃以上で加熱し、仕上げ温度820℃以上930℃以下で熱間圧延した後、巻取温度640℃以下で巻取り、酸洗して、圧延率85%以上で一次冷間圧延し、焼鈍温度720℃以上780℃以下で連続焼鈍し、圧延率1.0%以上10%以下で二次冷間圧延を行う缶用鋼板の製造方法。
【0018】
[4]前記連続焼鈍の後、冷却速度2℃/s以上70℃/s未満として前記焼鈍温度から400℃まで冷却し、その後前記二次冷間圧延を行う[3]に記載の缶用鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の缶用鋼板は高強度及び優れた成形性を有する。
【0020】
さらに本発明の缶用鋼板を用いれば、2ピース異形缶を容易に製造することができる。
【0021】
本発明によれば、食缶や飲料缶等に使用される鋼板の更なる薄肉化が可能になり、省資源化および低コスト化を達成することができ、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0023】
本発明の缶用鋼板は、質量%で、C:0.015%以上0.150%以下、Si:0.04%以下、Mn:1.0%以上2.0%以下、P:0.025%以下、S:0.015%以下、Al:0.01%以上0.10%以下、N:0.0005%以上0.0050%未満、Ti:0.003%以上0.015%以下、B:0.0010%以上0.0040%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、フェライト相を主相とし、第2相としてマルテンサイト相と残留オーステナイト相からなる少なくとも一つを面積分率の合計で1.0%以上含む鋼板組織を有し、引張強さが480MPa以上、全伸びが12%以上、降伏伸びが2.0%以下、である。そして、缶用鋼板を製造するのに好適な本発明の製造方法は、上記成分を含有するスラブを、加熱温度1130℃以上で加熱し、仕上げ温度820℃以上930℃以下で熱間圧延した後、巻取温度640℃以下で巻取り、酸洗して、圧延率85%以上で一次冷間圧延し、焼鈍温度720℃以上780℃以下で連続焼鈍し、圧延率1.0%以上10%以下で二次冷間圧延を行う缶用鋼板の製造方法である。
【0024】
以下、本発明の缶用鋼板の成分組成、鋼板組織、鋼板特性、製造方法について順に説明する。まず、本発明の缶用鋼板の成分組成について説明する。成分組成の説明において、各成分の含有量は質量%である。
【0025】
C:0.015%以上0.150%以下
Cは鋼板組織における第2相の形成および引張強さ向上に重要な元素であり、含有量を0.015%以上とすることで、第2相を1.0%以上とし、引張強さを480MPa以上とすることが出来る。更に、第2相を生成させることによりYP−ELを2.0%以下に低下することができる。C含有量が多いほど第2相が増加し、高強度化に寄与するため、Cを0.030%以上含有することが好ましい。一方、C含有量が0.150%を超えると、全伸びが12%未満に低下するとともに降伏伸びが大きくなり、成形性が低下する。このため、C含有量の上限を0.150%とする必要がある。成形性の観点から、C含有量は0.080%以下とすることが好ましく、0.060%以下とすることがより好ましい。
【0026】
Si:0.04%以下
Siは多量に添加すると、表面濃化により表面処理性が劣化し、耐食性が低下するため、含有量を0.04%以下とする必要がある。Si含有量は好ましくは0.03%以下である。
【0027】
Mn:1.0%以上2.0%以下
Mnは、第2相を生成させ、高強度化するために重要な元素である。また、焼鈍過程での固溶Cを減少させることにより降伏伸びを低下させる効果もある。このような効果を得るためにはMn含有量を1.0%以上とする必要がある。安定的に第2相を生成させる観点からMnを1.5%以上含有することが好ましい。より好ましくは1.6%以上である。Mnを2.0%を超えて含有させると、中央偏析が顕著になり、全伸びが低下するため、Mn含有量は2.0%以下とする。
【0028】
P:0.025%以下
Pは多量に添加すると、過剰な硬質化や中央偏析により成形性が低下し、また、耐食性が低下する。このためP含有量の上限は0.025%とする。P含有量は好ましくは0.020%以下である。Pは、焼入れ性を向上させ、第2相の生成に寄与するため、0.010%以上含有することが好ましい。
【0029】
S:0.015%以下
Sは、鋼中で硫化物を形成して熱間圧延性を低下させる。よって、S含有量は0.015%以下とする。S含有量は好ましくは0.012%以下である。
【0030】
Al:0.01%以上0.10%以下
Alは脱酸元素として有用であり、このため0.01%以上含有する必要がある。過剰に含有するとアルミナが多量に発生して鋼板内に残存して成形性を低下させるため、Al含有量を0.10%以下とする必要がある。Al含有量は好ましくは0.08%以下である。
【0031】
N:0.0005%以上0.0050%未満
Nは固溶Nとして存在すると、降伏伸びが増加し成形性が低下するため、含有量を0.0050%未満とする必要がある。N含有量は好ましくは0.0040%以下であり、さらに好ましくは0.0030%以下である。より一層好ましくは、上記全N量の他に固溶N量を規定し、該固溶N量を0.001%未満とすることである。固溶N量は、全N量から10%Brメタノールでの抽出分析によって測定したN as 窒化物量を差し引くことにより評価することができる。一方、全N量を安定して0.0005%未満とするのは難しく、製造コストも上昇するため、含有量の下限は0.0005%とする。
【0032】
Ti:0.003%以上0.015%以下
Tiは、NをTiNとして固定して、YP−ELを低下させる効果がある。また、優先的にTiNを生成することでBNの生成を抑制し、固溶Bを確保することで第2相の生成に寄与する効果があるため、Tiを0.003%以上含有させる必要がある。Ti含有量は好ましくは0.005%以上である。Tiを0.015%を超えて含有すると、TiCとしてCを固定してしまい第2相の面積分率が低下することや、フェライト相の再結晶温度が上昇して焼鈍中に十分に再結晶が出来ず全伸びが低下する。このため、Ti含有量を0.015%以下とする必要がある。
【0033】
B:0.0010%以上0.0040%以下
Bは、NとBNを形成して固溶Nを減少させて、降伏伸びを低下させる効果に加え、固溶Bとして存在することで、焼入れ性を高めて第2相の形成に寄与するため0.0010%以上含有する必要がある。Bを過剰に含有しても、上記の効果が飽和するだけではなく、全伸びが低下するのに加えて異方性が劣化して成形性が低下するため、B含有量の上限を0.0040%とする必要がある。
【0034】
以上に加え、Cr:0.03%以上0.30%以下、Mo:0.01%以上0.10%以下の内、一種以上を缶用鋼板が含有することが好ましい。
【0035】
Cr:0.03%以上0.30%以下
Crは焼入れ性を向上させることで第2相の生成に寄与し、高強度化やYP−ELの低下に有効である。このため、Crを0.03%以上含有することが好ましい。Crを0.30%を超えて含有しても効果が飽和するのみならず、耐食性が低下することがあるため、Crの含有量を0.30%以下とすることが好ましい。
【0036】
Mo:0.01%以上0.10%以下
Moは焼入れ性を向上させることで第2相の生成に寄与し、高強度化やYP−ELの低下に有効である。このため、Moを0.01%以上含有することが好ましい。0.10%を超えて添加しても効果が飽和するのみならず、フェライト相の再結晶温度が上昇して、焼鈍時の再結晶が阻害され全伸びが低下することがあるため、Mo含有量を0.10%以下とすることが好ましい。
【0037】
缶用鋼板における成分組成の残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0038】
次に、本発明の缶用鋼板の鋼板組織について説明する。
【0039】
主相であるフェライト相
本発明の缶用鋼板ではフェライト相が主相である。成形性の観点から、フェライト相の面積分率は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましい。
【0040】
第2相としてマルテンサイト相と残留オーステナイト相からなる少なくとも一つを面積分率の合計で1.0%以上
本発明の缶用鋼板は、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相と残留オーステナイト相からなる少なくとも一つを第2相とする。本発明の缶用鋼板は、第2相を面積分率で1.0%以上含む。第2相を1.0%以上とすることで、引張強さ480MPa以上の高強度化と降伏伸び2.0%以下の低降伏伸び化を達成することが出来る。第2相は好ましくは面積分率で2.0%以上である。第2相の上限は特に定めないが、第2相が多くなりすぎると成形性が低下するおそれがあるため、第2相の面積分率を20%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましい。
【0041】
本発明の缶用鋼板は、鋼板組織がフェライト相、マルテンサイト相、及び残留オーステナイト相からなる鋼板としてもよい。一方、フェライト相、マルテンサイト相、及び残留オーステナイト相でない、例えばセメンタイト、ベイナイト相等他の相が含まれてもよいが、該他の相の面積分率は第2相より少なくなる。例えば、該他の相は面積分率の合計で1.0%未満とすることが好ましい。
【0042】
本発明では、鋼板の圧延方向に平行な垂直断面を観察できるように、サンプルを切り出して樹脂に埋め込み、研磨後、ナイタールにて腐食して組織を現出したのち、走査型電子顕微鏡にて鋼板組織を撮影し、画像処理にてフェライト相及び第2相(マルテンサイト相及び残留オーステナイト相の合計)等の鋼板組織の面積分率を測定する。
【0043】
次に、本発明の缶用鋼板の鋼板特性について説明する。
【0044】
引張強さ:480MPa以上、全伸び:12%以上、降伏伸び:2.0%以下
缶底部の十分な強度を確保するためには、鋼板の引張強さを480MPa以上とする必要がある。引張強さは好ましくは490MPa以上である。絞り・しごき加工に加えて、ビードなどの缶胴加工性を確保するためには全伸びが12%以上必要である。全伸びは好ましくは15%以上である。製缶時のストレッチャーストレインを防止するため、降伏伸びを2.0%以下とする必要がある。降伏伸びは好ましくは1.0%以下である。
【0045】
本発明において、引張強さ、全伸び、及び降伏伸びは、圧延方向からJIS5号引張試験片を採取しJIS Z 2241に従い評価する。
【0046】
本発明の缶用鋼板の板厚は特に限定されないが、0.40mm以下が好ましい。本発明の缶用鋼板は極薄のゲージダウンが可能であるので、省資源化および低コスト化の観点から、板厚を0.10〜0.20mmとすることがより好ましい。
【0047】
次に本発明の缶用鋼板の製造方法について説明する。本発明の缶用鋼板の製造方法は特に限定されないが、好ましくは以下に記載の条件を採用して缶用鋼板を製造する。なお、Snめっき、Niめっき、Crめっき等を施すめっき工程、化成処理工程、ラミネート等の樹脂膜被覆工程等の工程を適宜行ってもよい。
【0048】
加熱温度:1130℃以上
熱間圧延前におけるスラブの加熱温度が低すぎるとTiNの一部が未溶解となり、成形性を低下させる粗大TiNの生成要因となるおそれがあるため、加熱温度を1130℃以上とする。加熱温度は好ましくは1150℃以上である。上限は特に規定しないが、スラブの加熱温度が高すぎるとスケールが過剰に発生して製品表面の欠陥になるおそれがあるため、上限は1260℃とすることが好ましい。
【0049】
熱間圧延の仕上温度:820℃以上930℃以下
熱間圧延の仕上げ温度が930℃よりも高くなると、スケールの生成が促進され表面性状が悪化するおそれがある。このため、仕上げ温度の上限を930℃とする。熱間圧延の仕上げ温度が820℃未満となると引張特性の異方性が大きくなり、成形性が低下するおそれがあるため、仕上げ温度の下限を820℃とする。仕上げ温度の好ましい下限は860℃である。
【0050】
巻取温度:640℃以下
巻取温度が640℃を超えると熱延鋼板に粗大な炭化物が形成し、焼鈍時に該粗大な炭化物が未固溶となり第2相の生成を阻害して、引張強さの低下、YP−ELの増加を招くおそれがある。このため、巻取温度は640℃以下とする。炭化物を鋼板中に微細に分散させる観点からは巻取温度を600℃以下とすることが好ましく、550℃以下とすることがさらに好ましい。巻取温度の下限は特に定めないが、低すぎると熱延鋼板が過剰に硬化して冷間圧延の作業性を阻害するおそれがあるため、巻取温度は400℃以上とすることが好ましい。
【0051】
酸洗条件は鋼板の表層スケールが除去できればよく、特に条件は規定しない。常法により酸洗することができる。
【0052】
一次冷間圧延の圧延率:85%以上
冷間圧延により、転位が導入され、焼鈍中のオーステナイト変態が促進され、第2相の生成を促進する効果が得られる。この効果を得るために一次冷間圧延の圧延率を85%以上とする。また、一次冷間圧延の圧延率を大きくすることで、フェライト相が細粒化し、第2相も微細となるため、引張強さと加工性のバランスを向上させることが出来る。一次冷間圧延の圧延率が大きくなりすぎると、引張特性の異方性が大となり、成形性が低下するおそれがある。このため、一次冷間圧延の圧延率は93%以下とすることが好ましい。
【0053】
焼鈍条件
焼鈍温度:720℃以上780℃以下
高引張り強さと高全伸び、低YP−ELを得るため、焼鈍過程において第2相を生成させることが重要である。第2相の生成にはフェライト+オーステナイト2相域でオーステナイト相を安定化することが重要であり、720℃以上780℃以下で鋼板を焼鈍させることで第2相を生成させることが出来る。成形性の確保のため焼鈍中に十分にフェライト相を再結晶させる必要があり、焼鈍温度は720℃以上とする。一方、焼鈍温度が高すぎるとフェライト粒径が粗大化するため、780℃以下とする。焼鈍方法は材質の均一性の観点から連続焼鈍法が好ましい。焼鈍時間は特に限定されないが、10s以上60s以下が好ましい。
【0054】
焼鈍温度から400℃までの冷却速度:2℃/s以上70℃/s未満
安定的に第2相を生成させるためには焼鈍後の冷却速度を調整することが好ましく、2℃/s以上とすることで面積分率1.0%以上の第2相を生成しやすくなる。過剰な冷却速度では鋼板内の冷却バラツキにより安定的に高全伸びが得られず、また、コイル通板が不安定になり効率的な製造が困難になるおそれがあるため、焼鈍温度から400℃までの冷却速度を70℃/s未満とすることが好ましい。
【0055】
二次冷間圧延(DR)の圧延率:1.0%以上10%以下
焼鈍後の鋼板は二次冷間圧延により高強度化され、かつ、二次冷間圧延は鋼板の降伏伸びを低下させる効果がある。この効果を得るために、二次冷間圧延の圧延率を1.0%以上とする。二次冷間圧延の圧延率が高すぎると成形性が劣化するため、10%以下とする。特に成形性が要求される場合には、二次冷間圧延の圧延率を4%以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
【0057】
表1に示す鋼記号A〜Vの成分を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を溶製し、鋼スラブを得た。得られた鋼スラブを表2に示す条件にて、加熱後、熱間圧延し、巻き取り、酸洗にてスケールを除去した後、一次冷間圧延し、連続焼鈍炉にて表2に示す焼鈍温度にて15sの焼鈍を行い、表2に示す冷却速度にて400℃まで冷却し、400℃から室温まで20℃/sで冷却したのち、表2に示す圧延率にて二次冷間圧延し、板厚0.16〜0.22mmの鋼板(鋼板記号1〜33)を得た。該鋼板に対して、表面処理としてクロムめっき(ティンフリー)処理を施した後、有機皮膜を被覆したラミネート鋼板を作製した。
【0058】
(引張強さ、全伸び、降伏伸びの評価)
前記ラミネート鋼板から、濃硫酸にて有機被膜を除去した後、圧延方向からJIS5号引張試験片を採取しJIS Z 2241に従い、引張強さ、全伸び、降伏伸びを評価した。ここでは、板厚測定のために有機被膜を除去したが、めっき層は除去しなかった。めっき層は薄く、板厚測定時の誤差範囲であり、めっき層を除去しなくても引張強さにはほとんど影響しないためである。なお、引張強さ、全伸び、降伏伸びは、めっき層を一部あるいは全て除去した後に評価しても良い。評価結果は表3に記載した。
【0059】
(鋼板組織の面積分率の測定)
鋼板の圧延方向に平行な垂直断面を観察できるように、サンプルを切り出して樹脂に埋め込み、研磨後、ナイタールにて腐食して組織を現出したのち、走査型電子顕微鏡にて鋼板組織を撮影し、画像処理にてフェライト相及び第2相(マルテンサイト相及び残留オーステナイト相の合計)の面積分率を測定した。測定結果は表3に記載した。
【0060】
(固溶N量の測定)
鋼板より、濃硫酸にて有機被膜およびめっき層を除去した後、10%Brメタノールでの抽出分析によってたN as 窒化物量を測定し、全N量から差し引くことにより、固溶N量を測定した。測定結果は表3に記載した。
【0061】
(成形性評価)
成形性を評価するため、前記のラミネート鋼板を円形(サイズ:140mmφ)に打抜いた後、深絞り加工、しごき加工等を施して、有底の円筒形(サイズ:50mmφ×100mmH)に製缶した後、缶胴部の高さ中央、および、高さ中央から上下10mm、上下20mmの計5箇所の缶周方向にビード加工を行い、飲料缶で適用されている2ピース缶と同様の缶体を成形した。以下の基準により、目視にて評価を行い、評価結果を表3に記載した。
【0062】
−基準−
製缶時に破胴が無く、ストレッチャーストレインが見えないものを◎、
破胴は無いが、実用性に問題ない軽微なストレッチャーストレインが認められるものを○、
破胴がある、ストレッチャーストレインが顕著である、のいずれかに該当したものを×とした。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
発明例は、いずれも引張強さが480MPa以上で、全伸びが12%以上、降伏伸びが2.0%以下で、フェライト相が主相であり、第2相の面積分率が1.0%以上である。よって全伸びが高く降伏伸びが低い高強度の缶用鋼板である。そして、発明例はいずれも製缶後においても缶底部において十分な強度が確保されていた。
【0067】
一方、比較例では、引張強さ、全伸び、降伏伸び、第2相の面積分率のいずれか一つ以上が劣っており、かつ、成形性が不十分であった。