特許第6048629号(P6048629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048629立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体
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  • 特許6048629-立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048629
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/583 20060101AFI20161212BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20161212BHJP
   C04B 41/89 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C04B35/58 103J
   C04B41/87 N
   C04B41/89 J
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-550650(P2016-550650)
(86)(22)【出願日】2015年10月29日
(86)【国際出願番号】JP2015080487
(87)【国際公開番号】WO2016068222
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2016年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-220154(P2014-220154)
(32)【優先日】2014年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】城 健太郎
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/029440(WO,A1)
【文献】 特開2011−189421(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/057183(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/583−35/5835
B23B 27/14−27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素を50体積%以上75体積%以下と、結合相および不可避不純物を25体積%以上50体積%以下とからなる立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合相は、Al化合物とZr化合物とを含み、
前記Al化合物は、Al元素と、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含み、
前記Zr化合物は、Zr元素と、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体の研磨面において、
前記Zr化合物の重心から前記Zr化合物と前記Zr化合物以外の組成の部分との境界に達し、放射状に等間隔に引かれた複数の線分の数をN(但し、Nは8以上とする)とし、
前記線分のうち、前記Zr化合物と前記Zr化合物以外の組成の部分との境界において、前記立方晶窒化硼素と接する前記線分の数をnとしたとき、
n/Nの関係が0.25以上0.8以下を満たすZr化合物の個数が、Zr化合物の総数に対して40%以上である立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記Zr化合物は、前記立方晶窒化硼素焼結体全体に対して1体積%以上4体積%以下である請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記立方晶窒化硼素の平均粒径が0.2μm以上0.8μm以下である請求項1または2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記Zr化合物は、ZrBとZrOとを含み、
前記ZrOの結晶構造が正方晶、または正方晶および立方晶の両方が混在した状態で形成されており、
X線回折における、前記ZrBの(100)面のピーク強度をI、前記正方晶ZrOの(101)面のピーク強度をI2t、前記立方晶ZrOの(111)面のピーク強度をI2cとしたとき、
2tとI2cとの強度の合計に対するIの強度の比[I/(I2t+I2c)]が、
0.5以上5以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記Al化合物は、Alからなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体の表面に被膜を形成した被覆立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項7】
前記被膜が、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、AlおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素と、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素とからなる請求項6に記載の被覆立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項8】
前記被膜が、単層膜または2層以上の積層膜である請求項6または7に記載の被覆立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項9】
前記被膜全体の平均膜厚が0.5μm以上20μm以下である請求項6〜8のいずれか1項に記載の被覆立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体に関する。具体的には、本発明は、切削工具、耐摩耗工具に適した立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化硼素は、ダイヤモンドに次ぐ硬さと優れた熱伝導性を有する。また、立方晶窒化硼素は、鉄との親和性が低いという特徴を有する。立方晶窒化硼素と、金属またはセラミックスの結合相とからなる立方晶窒化硼素焼結体は、切削工具や耐摩耗工具などに応用される。
【0003】
例えば、従来の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素を20体積%以上60体積%以下含み、結合相に少なくともAlとZr化合物とを含む(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2012/029440
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、切削工具や耐摩耗工具は、加工能率を上げるために従来よりも厳しい切削条件が課され、さらに、工具寿命をより長くすることが要求される。しかしながら、特許文献1の立方晶窒化硼素焼結体は、熱伝導率の低い難削材を加工するための工具に適さず、工具寿命に関する要求を満たすことができない。すなわち、特許文献1の立方晶窒化硼素焼結体は、AlとZr化合物とを含み、立方晶窒化硼素粒子とAl粒子とを結合させ、Al中にZr化合物を分散させた構成となっている。Zr化合物の熱伝導率は低い。このため、特許文献1の立方晶窒化硼素焼結体は、熱伝導率の低い難削材、例えば、ニッケル基耐熱合金やコバルト基耐熱合金等を加工するための工具に応用された場合に、刃先が欠損しやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、耐欠損性に優れ、切削工具や耐摩耗工具の工具寿命を延長することが可能な立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、立方晶窒化硼素焼結体に関する研究を重ねた。この結果、本発明者は、従来の立方晶窒化硼素焼結体が欠損しやすい原因を解明した。すなわち、難削材を切削することにより生じた熱は、熱伝導率が低いZr化合物に籠る。これにより、切削温度が高くなる。高い切削温度は、立方晶窒化硼素焼結体の反応摩耗を進行させる。反応摩耗は、工具の刃先の強度を低下させ、刃先の欠損を生じさせる。そして、本発明者は、反応摩耗を抑制することで、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性を向上させることができるという知見を得た。さらに、本発明者は、立方晶窒化硼素焼結体の耐酸化性を低下させず、かつ立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率を向上させることが、反応摩耗を抑制するために有効であるという知見を得た。本発明者は、これらの知見に基づいて本発明を完成させた。
【0008】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)立方晶窒化硼素を50体積%以上75体積%以下と、結合相および不可避不純物を25体積%以上50体積%以下とからなる立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合相は、Al化合物とZr化合物とを含み、
前記Al化合物は、Al元素と、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含み、
前記Zr化合物は、Zr元素と、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含み、
前記立方晶窒化硼素焼結体の研磨面において、
前記Zr化合物の重心から前記Zr化合物と前記Zr化合物以外の組成の部分との境界に達し、放射状に等間隔に引かれた複数の線分の数をN(但し、Nは8以上とする)とし、
前記線分のうち、前記Zr化合物と前記Zr化合物以外の組成の部分との境界において、前記立方晶窒化硼素と接する前記線分の数をnとしたとき、
n/Nの関係が0.25以上0.8以下を満たすZr化合物の個数が、Zr化合物の総数に対して40%以上である立方晶窒化硼素焼結体。
(2)前記Zr化合物は、前記立方晶窒化硼素焼結体全体に対して1体積%以上4体積%以下である(1)の立方晶窒化硼素焼結体。
(3)前記立方晶窒化硼素の平均粒径が0.2μm以上0.8μm以下である(1)または(2)の立方晶窒化硼素焼結体。
(4)前記Zr化合物は、ZrBとZrOとを含み、
前記ZrOの結晶構造が正方晶、または正方晶および立方晶の両方が混在した状態で形成されており、
X線回折における、前記ZrBの(100)面のピーク強度をI、前記正方晶ZrOの(101)面のピーク強度をI2t、前記立方晶ZrOの(111)面のピーク強度をI2cとしたとき、
2tとI2cとの強度の合計に対するIの強度の比[I/(I2t+I2c)]が、
0.5以上5以下である(1)〜(3)のいずれかの立方晶窒化硼素焼結体。
(5)前記Al化合物は、Alからなる(1)〜(4)のいずれかの立方晶窒化硼素焼結体。
(6)(1)〜(5)のいずれかの立方晶窒化硼素焼結体の表面に被膜を形成した被覆立方晶窒化硼素焼結体。
(7)前記被膜が、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、AlおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素と、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素とからなる(6)の被覆立方晶窒化硼素焼結体。
(8)前記被膜が、単層膜または2層以上の積層膜である(6)または(7)の被覆立方晶窒化硼素焼結体。
(9)前記被膜全体の平均膜厚が0.5μm以上20μm以下である(6)〜(8)のいずれかの立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐欠損性に優れた立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体が実現される。したがって、本発明の立方晶窒化硼素焼結体または被覆立方晶窒化硼素焼結体が応用された切削工具や耐摩耗工具は、その工具寿命が延長される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体の組織を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、50体積%以上75体積%以下の立方晶窒化硼素と、25体積%以上50体積%以下の結合相および不可避不純物とからなる。このような立方晶窒化硼素焼結体は、例えば、切削工具や耐摩耗工具に応用される。ここで、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素が50体積%未満になり、結合相および不可避不純物が50体積%を超えると、立方晶窒化硼素焼結体の強度が低下する。このため、熱伝導率が低い難削材の加工において、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が低下する。一方、立方晶窒化硼素が75体積%を超え、結合相および不可避不純物が25体積%未満になると、反応摩耗が進行しやすくなる。このため、熱伝導率が低い難削材の加工において、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が低下する。
【0012】
結合相は、Al化合物と、Zr化合物を含む。Al化合物は、Al元素と、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む。Zr化合物は、Zr元素と、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む。
【0013】
結合相は、Al化合物とZr化合物のみから構成されてもよいが、他の化合物を含んでもよい。例えば、結合相は、Ti、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素とC、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素との化合物をさらに含んでもよい。しかしながら、Al化合物とZr化合物のみからなる結合相によって、立方晶窒化硼素焼結体の耐反応摩耗性および靱性が向上される。したがって、結合相は、Al化合物とZr化合物のみからなることが好ましい。
【0014】
Al化合物は、例えば、Al、AlN、AlBなどを適用することができる。好ましくは、Al化合物は、Alのみからなる。AlのみからなるAl化合物によって、反応摩耗による欠損が抑制される。
【0015】
Zr化合物は、例えば、ZrO、ZrN、ZrCN、ZrBなどを適用することができる。好ましくは、Zr化合物は、ZrOとZrBとを含む。より好ましくは、立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZrOが、正方晶、または正方晶および立方晶の両方が混在した状態の結晶構造を有する。これにより、ZrOは、立方晶窒化硼素焼結体の靱性を向上させる。この結果、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が向上される。なお、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体には、CeO、Y、MgO、CaOなどの安定化剤を添加して得られたZrO、または高温高圧下で焼結して得られたZrOのいずれを適用してもよい。ZrBは、ZrOよりも高い熱伝導率を有する。これにより、ZrBは、立方晶窒化硼素焼結体の反応摩耗を抑制させる。さらに、ZrBは、高い高温硬さを有する。これにより、ZrBは、立方晶窒化硼素焼結体の耐摩耗性を向上される。
【0016】
ここで、ZrOが、正方晶、または正方晶および立方晶の両方が混在した状態の結晶構造を有する場合、Zr化合物は、X線回折強度に関する、次の条件を満たすことが好ましい。すなわち、X線回折における、ZrBの(100)面のピーク強度をI、正方晶ZrOの(101)面のピーク強度をI2t、立方晶ZrOの(111)面のピーク強度をI2cとしたとき、I2tとI2cとの強度の合計に対するIの強度の比[I/(I2t+I2c)]が、0.5以上5以下である。I/(I2t+I2c)が0.5未満である場合は、ZrBが少ないため、立方晶窒化硼素焼結体の耐摩耗性および耐欠損性が低下する場合がある。一方、I/(I2t+I2c)が5を超えて大きくなる場合は、相対的にZrOが少ないため、立方晶窒化硼素焼結体の靱性が低下する。これにより、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が低下する場合がある。
【0017】
正方晶ZrOの(101)面と立方晶ZrOの(111)面のピーク強度の合計とは、正方晶ZrOの(101)面のピーク強度と、立方晶ZrOの(111)面のピーク強度とを合計した値に相当する。例えば、JCPDSカード72−2743番によると、正方晶ZrOの(101)面の回折角2θの回折ピークは、30.18度付近に存在する。また、JCPDSカード49−1642番によると、立方晶ZrOの(111)面の回折角2θの回折ピークは、30.12度付近に存在する。このため、正方晶ZrOの(101)面と立方晶ZrOの(111)面のピーク強度の合計は、30.18度付近及び30.12度付近の回折ピークのピーク強度を合計した値に相当する。なお、ZrBの(100)面のピーク強度は、例えば、JCPDSカード34−0423番によると、回折角2θが32.6度付近に存在する。
【0018】
正方晶ZrO、立方晶ZrOおよびZrBのX線回折強度は、市販のX線回折装置を用いて測定される。このX線回折強度の測定には、例えば、株式会社リガクのX線回折装置「RINT TTRIII」が用いられる。「RINT TTRIII」は、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を行うことが可能である。測定条件は、例えば、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:1/2°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.15mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.02°、スキャンスピード:1°/min、2θ測定範囲:20〜50°とする。このような測定方法により、正方晶ZrOの(101)面、立方晶ZrOの(111)面およびZrBの(100)面の回折線についてX線回折強度を測定することができる。測定によって得られたX線回折図形から、上記の各ピーク強度を求めることが可能である。各ピーク強度は、X線回折装置に付属された解析ソフトウェアを用いて求めてもよい。解析ソフトウェアは、三次式近似を用いてバックグラウンド除去を行い、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行い、各ピーク強度を求める。
【0019】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、さらに、次のn/Nの関係を満たすことが好ましい。すなわち、立方晶窒化硼素焼結体の研磨面において、Zr化合物の重心からZr化合物とZr化合物以外の組成の部分との境界に達し、放射状に等間隔に引かれた複数の線分の数をN(但し、Nは8以上とする)とし、線分のうち、Zr化合物とZr化合物以外の組成の部分との境界において、立方晶窒化硼素と接する線分の数をnとしたとき、n/Nの関係が0.25以上0.8以下を満たすZr化合物の個数が、Zr化合物の総数に対して40%以上である。n/Nの関係が0.25以上0.8以下であることは、立方晶窒化硼素とZr化合物とが十分に接触していることを示す。このため、切削加工において発生した熱は、熱伝導率の低いZr化合物から、熱伝導率の高い立方晶窒化硼素を経由して放熱される。このように、立方晶窒化硼素とZr化合物との接触は、Zr化合物の放熱効果を高め、切削温度の上昇を抑制する。この結果、立方晶窒化硼素焼結体の反応摩耗が抑制される。一方、n/Nの関係が0.25以上0.8以下を満たすZr化合物の個数が、Zr化合物の総数に対して40%未満であると、Zr化合物の放熱効果が不十分となる。このため、立方晶窒化硼素焼結体の反応摩耗を抑制することができない。また、切削加工において発生した熱を効果的に放熱するためには、Zr化合物全体のn/Nの平均値が、0.25以上0.8以下であることが好ましい。
【0020】
ここで、立方晶窒化硼素焼結体の研磨面とは、立方晶窒化硼素焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨して得られた面である。鏡面研磨の方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストを用いて研磨する方法がある。
【0021】
図1は、本実施形態に係る立方晶窒化硼素焼結体の組織を示す模式図である。以下、図1を参照して、n/Nの関係の求め方について説明する。立方晶窒化硼素焼結体の研磨面は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)により10,000〜30,000倍に拡大された反射電子像で観察される。立方晶窒化硼素焼結体の組織は、例えば、SEMに付属されたエネルギー分散型X線分析装置(EDS)によって、黒色、灰色、白色の領域で特定される。図1において、黒色領域は立方晶窒化硼素(1)を示し、灰色領域および白色領域は結合相を示す。さらに、白色領域はZr化合物(2)を示し、灰色領域はAl化合物(3)を示す。その後、SEMによって、立方晶窒化硼素焼結体の組織写真が撮影される。この組織写真は、少なくも30個以上のZr化合物が含まれるように撮影されることが好ましい。市販の画像解析ソフトによって、得られた組織写真から図1に示すZr化合物の重心(4)が求められる。引き続き、画像解析ソフトによって、Zr化合物(2)の重心(4)が特定され、この重心(4)を通る複数の直線(5)が、放射状に等間隔に引かれる。本実施形態では、1本の直線(5)が、Zr化合物の重心(4)からZr化合物(4)以外の組成の部分に達する2本の線分を形成する。直線(5)によって形成される全ての線分の本数をNとする。直線(5)は、線分の数Nが8本以上になるように引かれる。例えば、図1に示される線分の数Nは、8本である。その後、数Nの線分のうち、Zr化合物(2)とZr化合物(2)以外の組成の部分との境界において、立方晶窒化硼素(1)と接する線分の数nが測定される。得られたnおよびNから、n/Nの関係が求められる。組織写真中に存在する他のZr化合物(2)についても、前記と同様に、n/Nの関係が求められる。その後、n/Nの関係が0.25以上0.8以下を満たすZr化合物(2)の個数が測定される。その後、n/Nの関係が0.25以上0.8以下を満たすZr化合物(2)の個数の、Zr化合物(2)の総数に対する割合が求められる。得られた各Zr化合物(2)のn/Nの値に基づいて、Zr化合物(2)全体のn/Nの平均値が求められる。
【0022】
立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZr化合物は、1体積%以上4体積%以下であることが好ましい。立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZr化合物が1体積%未満である場合、立方晶窒化硼素焼結体の靱性が低下する。これにより、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が低下する場合がある。立方晶窒化硼素焼結体に含まれるZr化合物が4体積%を超えて大きくなると、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が低下する。このため、立方晶窒化硼素焼結体の反応摩耗が起点になり、欠損を生じる場合がある。
【0023】
立方晶窒化硼素の平均粒径は、0.2μm以上0.8μm以下であることが好ましい。立方晶窒化硼素の平均粒径が0.2μm未満であると、立方晶窒化硼素が凝集する。これにより、焼結体の組織が不均一になり、立方晶窒化硼素焼結体の耐欠損性が低下する場合がある。一方、立方晶窒化硼素の平均粒径が0.8μmを超えると、Zr化合物との接触効率が低下する。これにより、立方晶窒化硼素焼結体の放熱効果が得られなくなり、耐摩耗性が低下する場合がある。より好ましい立方晶窒化硼素の平均粒径は、0.2μm以上0.6μm以下である。
【0024】
立方晶窒化硼素焼結体に不可避的に含有される不純物は、例えば、原料粉末などに含まれるリチウムなどである。一般に、不可避不純物の合計量は、立方晶窒化硼素焼結体全体に対して1質量%以下に抑えることができる。このため、不可避的不純物の合計量が、本発明の特性値に影響を及ぼすことはない。
【0025】
立方晶窒化硼素、結合相およびZr化合物の体積%と、立方晶窒化硼素の平均粒径とは、SEMで撮影された立方晶窒化硼素焼結体の組織写真を、市販の画像解析ソフトで解析することにより求められる。立方晶窒化硼素焼結体の組織写真は、上記と同様のSEMを用いた方法により取得される。画像解析ソフトによって、得られた組織写真から立方晶窒化硼素、結合相およびZr化合物のそれぞれの占有面積が求められる。各占有面積の値は、立方晶窒化硼素、結合相およびZr化合物のそれぞれの体積含有率となる。また、結合相の組成は、X線回折装置によって同定することができる。
【0026】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、その表面に被膜を形成した被覆立方晶窒化硼素焼結体であることが好ましい。被膜は、立方晶窒化硼素焼結体の耐摩耗性をより向上させる。
【0027】
被膜は、被覆工具の被膜として使用されるものであれば、特に限定されない。被膜は、第1の元素と、第2の元素とを含む化合物の層であることが好ましい。被膜は、単層、または、複数の層を含む積層であることが好ましい。第1の元素は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、AlおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。第2の元素は、C、N、OおよびBからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。このような構成を有する被膜は、本実施形態の被覆立方晶窒化硼素焼結体が応用された被覆工具の耐摩耗性を向上させる。
【0028】
被膜の例として、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、TiSiN、および、CrAlNなどを挙げることができる。被膜は、単層、または、2層以上を含む積層のいずれでもよい。好ましくは、被膜は、組成が異なる複数の層を交互に積層した構造を有する。各層の平均膜厚は、5nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0029】
被膜全体の平均膜厚は、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。被膜全体の平均膜厚が0.5μm未満である場合、被覆工具の耐摩耗性が低下する。被膜全体の平均膜厚が20μmを超える場合、被覆工具の耐欠損性が低下する。
【0030】
被膜を構成する各膜の膜厚は、例えば、光学顕微鏡、SEM、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて、被覆立方晶窒化硼素焼結体の断面組織を測定することにより求められる。なお、被膜を構成する各膜の平均膜厚は、例えば、金属蒸発源に対向する面の刃先から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、3箇所以上の断面から各膜の膜厚および各積層構造の厚さを測定して、得られた値の平均を計算することにより求められる。
【0031】
また、被膜を構成する各膜の組成は、例えば、EDSや波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いて、被覆立方晶窒化硼素焼結体の断面組織を測定することにより求められる。
【0032】
本発明の被覆立方晶窒化硼素焼結体における被膜の製造方法は、特に限定されるものではない。被膜の製造方法として、例えば、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法、イオンミキシング法などの物理蒸着法が適用される。このうち、アークイオンプレーティング法は、被膜と基材の密着性に優れるので、より好ましい。
【0033】
例えば、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法は、以下の工程(A)−(K)を含む。
工程(A):平均粒径0.2〜0.8μmの立方晶窒化硼素30〜70体積%と、平均粒径0.4〜0.8μmの、Zr元素の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物および硼化物から成る群より選択された少なくとも1種の粉末30〜70体積%とが配合(但し、これらの合計は100体積%である)される。
工程(B):工程(A)で配合された原料粉が、ZrO製ボールを備えた湿式ボールミルにより5〜48時間混合される。
工程(C):工程(B)で得られた混合物が、所定の形状に成形されて仮焼結される。
工程(D):工程(C)で得られた成形体が、超高圧発生装置に入れられ、5.0〜6.5GPaの圧力、かつ1200〜1400度の範囲の焼結温度で30分間保持されて焼結される。
工程(E):工程(D)で得られた複合体が、超硬合金製乳鉢によって粉砕され、複合体粉末が作製される。
工程(F):工程(E)で得られた複合体粉末が、超硬合金製ボールを備えた湿式ボールミルにより、24〜96時間粉砕され、複合体粉末がさらに微粒にされる。
工程(G):工程(F)を経た複合体粉末が、比重分離され、その後、酸処理により超硬合金由来成分が除去される。
工程(H):工程(G)を経た複合体粉末2〜14体積%と、平均粒径0.2〜0.8μmの立方晶窒化硼素50〜75体積%と、平均粒径0.05〜3.0μmの、Al元素の窒化物、酸化物および硼化物から成る群より選択された少なくとも1種の粉末11〜46体積%と、平均粒径0.5〜5.0μmの、Al粉末3〜13体積%とが配合(但し、これらの合計は100体積%である)される。
工程(I):工程(H)で配合された原料粉が、Al製ボールを備えた湿式ボールミルにより5〜24時間混合される。
工程(J):工程(I)で得られた混合物が、所定の形状に成形される。
工程(K):工程(J)で得られた成形体が、超高圧発生装置に入れられ、4.5〜6.0GPaの圧力、かつ1300〜1500度の範囲の焼結温度で所定の時間保持されて焼結される。
【0034】
上記の製造方法の各工程は、以下の意義を有する。
工程(A)では、立方晶窒化硼素粉末と、Zr元素の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物および硼化物からなる群より選択された少なくとも1種の粉末が用いられる。これにより、立方晶窒化硼素とZr化合物とが互いに粒界で接触する複合体粉末が作製される。また、工程(A)では、立方晶窒化硼素の粒径を調整することができる。特に、CeO、Y、MgO、CaOなどの安定化剤が添加されたZrO粉末が用いられると、靱性に優れる正方晶または立方晶が形成される。ZrO粉末の一次粒子の平均粒径が30〜50nmであると、立方晶窒化硼素焼結体の組織中に、微細なZrOが分散しやすくなるという効果がある。しかしながら、取り扱いのしやすさから、平均粒径30〜50nmのZrOの一次粒子が凝集した平均粒径0.1〜2μmの二次粒子のZrO粉末を用いることが好ましい。
【0035】
工程(B)では、工程(A)で配合された立方晶窒化硼素またはZr化合物の凝集が防止され、原料粉が均一に混合される。
【0036】
工程(C)では、工程(B)で得られた混合物が、所定の形状に成形されて仮焼結される。得られた成形体は、次の焼結工程で焼結される。
【0037】
工程(D)では、工程(C)で得られた成形体が焼結されることにより、立方晶窒化硼素とZr化合物とが接触する複合体が作製される。
【0038】
工程(E)および工程(F)では、工程(D)で得られた複合体が、粒度の小さい複合体粉末に粉砕される。
【0039】
工程(G)では、工程(E)および(F)を経た複合体粉末から超硬合金が除去され、複合体粉末の純度が高くなる。
【0040】
工程(H)では、立方晶窒化硼素焼結体の組成および粒径が調整される。
【0041】
工程(I)では、工程(H)で得られた所定の配合組成の混合粉末が、均一に混合される。
【0042】
工程(J)では、工程(I)で得られた混合物が、所定の形状に成形される。得られた成形体は、次の(K)工程で焼結される。
【0043】
工程(K)では、工程(J)で得られた成形体が、4.5〜6.0GPaの圧力、かつ1300〜1500度の範囲の温度で焼結されることにより、立方晶窒化硼素焼結体が作製される。また、工程(D)において、立方晶窒化硼素とZr化合物とが接触した複合体粉末が用いられるため、工程(K)の焼結中に、立方晶窒化硼素とZr化合物とが反応し、立方晶窒化硼素と接触するZrBが、より効率的に生成される。
【0044】
工程(A)−(K)を経て得られた立方晶窒化硼素焼結体には、必要に応じて、研削加工や刃先のホーニング加工が適用されてもよい。
【0045】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体は、耐摩耗性、耐欠損性に優れる。したがって、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体又は被覆立方晶窒化硼素焼結体が応用された切削工具、耐摩耗工具は、その工具寿命が延長される。特に、実施形態の立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体は、切削工具に応用することが好ましい。
【実施例1】
【0046】
平均粒径0.2、0.4、0.8、1.8および3.8μmの立方晶窒化硼素(cBN)粉末、ZrO全体に対して3mol%のYが添加された一次粒子の平均粒径40nmのZrO粒子が凝集してできた平均粒径0.6μmのZrO(PSZ)粉末を用いて表1に示す配合組成に配合した。また、配合したcBNの平均粒径を表1に示す。なお、比較品7〜10については、複合体粉末を作製しなかった。
【0047】
【表1】
【0048】
配合した原料粉末をZrO製ボールとヘキサン溶媒とともにボールミル用のシリンダーに入れてボールミル混合を12時間行った。ボールミルで混合して得られた混合粉末を圧粉成型した後、1.33×10−3Pa、750度の条件で仮焼結をした。これらの仮焼結体を超高圧高温発生装置に入れて、圧力6.0GPa、温度1300度、保持時間30分の条件で焼結して、各焼結体を得た。
【0049】
得られた各焼結体を超硬合金製乳鉢にて粉砕し、各複合体粉末を作製した。その後、各複合体粉末を超硬合金製ボールとヘキサン溶媒とともにボールミル用のシリンダーに入れて48時間のボールミル粉砕をした。
【0050】
さらに、得られた各複合体混合物を比重分離した。その後、酸処理を行うことにより、各複合体混合物に混入した超硬合金を除去した。
【0051】
以上の工程を経て得られた複合体粉末、平均粒径0.2、0.4、0.8、1.8および3.8μmのcBN粉末、平均粒径0.6μmのPSZ粉末、平均粒径0.6μmのZrC粉末、平均粒径0.6μmのZrN粉末、平均粒径0.4μmのTiN粉末、平均粒径0.1μmのAl粉末、平均粒径4.0μmのAl粉末を用いて表2に示す配合組成に配合した。また、配合したcBNの平均粒径を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
配合した原料粉末をAl製ボールとヘキサン溶媒とともにボールミル用のシリンダーに入れてボールミル混合した。ボールミルで混合して得られた混合粉末を圧粉成型した後、1.33×10−3Pa、750度の条件で仮焼結をした。これらの仮焼結体を超高圧高温発生装置に入れて、表3に示す条件で焼結し、発明品および比較品の立方晶窒化硼素焼結体を得た。
【0054】
【表3】
【0055】
こうして得られた立方晶窒化硼素焼結体についてX線回折測定を行って立方晶窒化硼素焼結体の組成を調べた。また立方晶窒化硼素焼結体の断面組織をSEMで撮影して、撮影した断面組織写真を市販の画像解析ソフトを用いてcBNの体積%、結合相の体積%およびZr化合物の体積%を測定した。これらの結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
得られた立方晶窒化硼素焼結体について回折線のピーク高さを測定するために、株式会社リガク製X線回折装置RINT TTRIIIを使用して、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:1/2°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.15mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.02°、スキャンスピード:1°/min、2θ測定範囲:20〜50°という条件で、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を行った。得られたX線回折図形からZrBの(100)面のX線回折強度をIと、正方晶ZrO(101)面のX線回折強度をI2tと、立方晶ZrOの(111)面のX線回折強度をI2cとを測定し、I2tとI2cとのピーク強度の合計に対するIのピーク強度の比[I/(I2t+I2c)]を求めた。それらの値を表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素の平均粒径は、SEMで撮影した断面組織写真から市販の画像解析ソフトを用いて求めた。具体的には、SEMを用いて5000倍の反射電子像を観察し、SEMに付属されたEDSを用いて、立方晶窒化硼素が黒色であること、Al化合物が灰色であること、Zr化合物が白色であることを確認して画像を撮影する。次に、市販の画像解析ソフトを用いて黒色の立方晶窒化硼素の面積と等しい面積の円の直径を立方晶窒化硼素の粒径とし、断面組織内に存在する立方晶窒化硼素の粒径から平均値を求めた。その値を表6に示す。
【0060】
【表6】
【0061】
得られた立方晶窒化硼素焼結体の表面を鏡面研磨し、SEMを用いて10,000倍〜30,000倍に拡大した立方晶窒化硼素焼結体の研磨面を反射電子像で観察し、組織写真を撮影した。このとき、Zr化合物が少なくも30個以上含まれるように倍率を適宜変更し、組織写真を撮影した。得られた組織写真から市販の画像解析ソフトを用いて、Zr化合物の重心を求め、Zr化合物の重心からZr化合物以外の組成の部分まで放射状に等間隔に8本の直線を引いた。その後、立方晶窒化硼素とZr化合物とが接している線分の数nを測定し、測定結果から、n/Nの関係を求めた。同様に、全てのZr化合物について、n/Nの関係を求め、得られた結果から、Zr化合物全体のn/Nの平均値と、n/Nの関係を満たすZr化合物の個数の割合を求めた。それらの結果を表7に示す。
【0062】
【表7】
【0063】
発明品および比較品をISO規格CNGA120408インサート形状の切削工具に加工した。得られた切削工具について、下記の切削試験を行った。その結果を表8に示す。
【0064】
[切削試験]
外周連続切削(旋削)、
被削材:インコネル718、
被削材形状:円柱φ120mm×350mm、
切削速度:300m/min、
切込み:0.2mm、
送り:0.2mm/rev、
クーラント:湿式、
評価項目:試料が欠損または最大逃げ面摩耗幅が0.2mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に達するまでの切削時間を測定した。
【0065】
【表8】
【0066】
発明品の立方晶窒化硼素焼結体は比較品の立方晶窒化硼素焼結体に比べ、切削時の反応摩耗の進行が抑制されているため、耐欠損性が向上したことにより、比較品に比べて工具寿命が長くなった。
【実施例2】
【0067】
実施例1の発明品1〜12の表面にPVD装置を用いて被覆処理を行った。発明品1〜4の立方晶窒化硼素焼結体の表面に平均層厚3μmのTiN層を被覆したものを発明品13〜16とし、発明品5〜8の立方晶窒化硼素焼結体の表面に平均層厚3μmのTiAlN層を被覆したものを発明品17〜20とした。発明品9〜12の立方晶窒化硼素焼結体の表面に1層あたり3nmのTiAlNと、1層あたり3nmのTiAlNbWNとを交互に500層ずつ積層した交互積層を被覆したものを発明品21〜24とした。発明品13〜24について実施例1と同じ切削試験を行った。その結果を表9に示す。
【0068】
【表9】
【0069】
被覆層を被覆した発明品13〜24は、被覆層を被覆していない発明品1〜12のいずれよりも、さらに工具寿命を長くすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の立方晶窒化硼素焼結体および被覆立方晶窒化硼素焼結体は、耐欠損性に優れ、特に切削工具や耐摩耗工具として用いた場合に工具寿命を延長できるので、産業上の利用可能性が高い。
【0071】
[符号の説明]
1 立方晶窒化硼素
2 Zr化合物
3 Al化合物
4 Zr化合物の重心
5 Zr化合物の重心からZr化合物以外の組成の部分までの線分
図1