(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インサート取付座に着脱自在に装着され、平面視で円形形状をなす上面部及び下面部と、前記上面部と前記下面部を繋ぐ側面部と、前記上面部から前記下面部まで貫通するネジ挿通穴と、前記上面部及び前記下面部が前記側面部と交差する交差稜線部に形成された切れ刃と、を備えた両面型の円形切削インサートであって、
前記円形切削インサートを厚さ方向に二等分する平面を切削インサートの中間面(M)、前記中間面(M)が前記側面部と交差する仮想の稜線を側面中間線(N)、前記側面部のうち前記側面中間線(N)と前記上面部との間の前記側面部を上側面、前記側面中間線(N)と前記下面部との間の前記側面部を下側面と定義したときに、
前記上側面と前記下側面は、
繋ぎ部を介してそれぞれ前記上側面及び前記下側面の周方向に順次配置されているとともに、一辺が前記側面中間線(N)上に配置された、複数の平面状拘束面と、
前記繋ぎ部を介して隣接する2つの前記平面状拘束面との間に、前記繋ぎ部の前記側面中間線(N)側の端部を頂部として前記頂部から前記側面中間線(N)上に配置された一辺まで傾斜するとともに、前記側面部の周方向に対する長さが前記頂部から前記側面中間線(N)に向かうにつれて漸次増大するように形成された傾斜面からなる複数の振動防止用拘束面と、を備え、
前記下側面が備えている前記平面状拘束面及び前記振動防止用拘束面の配置位置は、前記上側面が備えている前記平面状拘束面及び前記振動防止用拘束面の配置位置に対して、前記ネジ挿通穴の中心軸線に対して所定の角度(α)位相をずらした位置に配置されており、
前記上側面と前記下側面が備えている前記平面状拘束面と前記振動防止用拘束面は、前記円形切削インサートを前記刃先交換式回転切削工具に装着したときに、前記インサート取付座が備えている拘束壁面により拘束されることを特徴とする両面型の円形切削インサート。
前記上側面が備えている前記平面状拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺は、前記下側面が備えている複数の前記振動防止用拘束面のうちの一つの振動防止用拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺を兼ねているとともに、
前記下側面が備えている前記平面状拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺は、前記上側面が備えている複数の前記振動防止用拘束面のうちの一つの振動防止用拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺を兼ねていることを特徴とする請求項1に記載の両面型の円形切削インサート。
前記平面状拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺と、前記振動防止用拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺は、同じ長さを有するとともに、前記側面中間線(N)に沿って交互に繋がっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の両面型の円形切削インサート。
前記円形切削インサートの前記ネジ挿通穴の中心軸線を通る縦断面図で表示される前記振動防止用拘束面の稜線は、直線状、又は凸形状、もしくは凹形状をなしていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の両面型の円形切削インサート。
前記円形切削インサートの前記中間面(M)に沿った断面の外郭線は、正多角形の形状をなしていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の両面型の円形切削インサート。
前記上側面と前記下側面は、それぞれ8個の前記平面状拘束面と、8個の前記振動防止用拘束面と、8個の前記回動防止面とを備えているとともに、前記角度(α)は22.5度に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の両面型の円形切削インサート。
前記上側面と前記下側面は、それぞれ6個の前記平面状拘束面と、6個の前記振動防止用拘束面と、6個の前記回動防止面とを備えているとともに、前記角度(α)は30度に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の両面型の円形切削インサート。
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の両面型の円形切削インサートを、刃先交換式回転切削工具の工具本体の前記インサート取付座が備えている着座面にクランプネジの締め付けにより着脱自在に装着した刃先交換式回転切削工具であって、
前記インサート取付座は、前記着座面に対して立設され、前記円形切削インサートの前記側面部を拘束するための前記拘束壁面を備えており、
前記拘束壁面は、前記円形切削インサートの前記上側面に形成された前記回動防止面の一つを拘束するための回動防止用壁面と、この回動防止面に対応して前記下側面に配置されている前記平面状拘束面の一つを拘束するための平面状拘束壁面と、を設けた第1の拘束壁と、
前記切削インサートの前記上側面に形成された前記平面状拘束面の一つを拘束するための平面状拘束壁面と、この平面状拘束面に対応して前記下側面に配置されている前記振動防止用拘束面の一つを拘束するための振動防止用壁面と、を設けた第2の拘束壁と、を備えていることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
前記第1の拘束壁が備えている前記回動防止用壁面と前記平面状拘束壁面は、前記着座面からの配置位置が前記回動防止用壁面の方が高くなるように形成されていることを特徴とする請求項11に記載の刃先交換式回転切削工具。
前記第2の拘束壁が備えている前記平面状拘束壁面と前記振動防止用壁面は、前記着座面からの配置位置が前記振動防止用壁面の方が低くなるように形成されていることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の刃先交換式回転切削工具。
前記回動防止用壁面は、前記切削インサートの前記回動防止面と係合する凹形状をなす壁面を備えていることを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具。
前記振動防止用壁面は、前記切削インサートの前記振動防止用拘束面の形状と対応させて前記振動防止用拘束面と接触可能な壁面を備えていることを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具。
前記上側面と前記下側面に、それぞれ8個の前記平面状拘束面と、8個の前記振動防止用拘束面と、8個の前記回動防止面を備えた前記両面型の円形インサートを前記インサート取付座に装着した刃先交換式回転切削工具であって、
前記第1の拘束壁と前記第2の拘束壁とは、67.5度の交差角度をもって交差するように形成されていることを特徴とする請求項11から請求項15のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具。
前記上側面と前記下側面に、それぞれ6個の前記平面状拘束面と、6個の前記振動防止用拘束面と、6個の前記回動防止面を備えた前記両面型の円形インサートを前記インサート取付座に装着した刃先交換式回転切削工具であって、
前記第1の拘束壁と前記第2の拘束壁とは、60度の交差角度をもって交差するように形成されていることを特徴とする請求項11から請求項15のいずれか一項に記載の刃先交換式回転切削工具。
インサート取付座に着脱自在に装着され、平面視で円形形状をなす上面部及び下面部と、前記上面部と前記下面部を繋ぐ側面部と、前記上面部から前記下面部まで貫通するネジ挿通穴と、前記上面部及び前記下面部が前記側面部と交差する交差稜線部に形成された切れ刃と、を備えた両面型の円形切削インサートであって、
前記円形切削インサートを厚さ方向に二等分する平面を切削インサートの中間面(M)、前記中間面(M)が前記側面部と交差する仮想の稜線を側面中間線(N)、前記側面部のうち前記側面中間線(N)と前記上面部との間の前記側面部を上側面、前記側面中間線(N)と前記下面部との間の前記側面部を下側面と定義したときに、
前記上側面と前記下側面は、
繋ぎ部を介してそれぞれ前記上側面及び前記下側面の周方向に順次配置されているとともに、一辺が前記側面中間線(N)上に配置された、複数の平面状拘束面と、
前記繋ぎ部を介して隣接する2つの前記平面状拘束面との間に、前記繋ぎ部の前記側面中間線(N)側の端部を頂部として前記頂部から前記側面中間線(N)上に配置された一辺まで傾斜するとともに、前記側面部の周方向に対する長さが前記頂部から前記側面中間線(N)に向かうにつれて漸次増大するように形成された傾斜面からなる複数の振動防止用拘束面と、を備え、
前記下側面が備えている前記平面状拘束面及び前記振動防止用拘束面の配置位置は、前記上側面が備えている前記平面状拘束面及び前記振動防止用拘束面の配置位置に対して、前記ネジ挿通穴の中心軸線に対して所定の角度(α)位相をずらした位置に配置されていることを特徴とする両面型の円形切削インサート。
【背景技術】
【0002】
平面視で円形形状をなす切削インサート、いわゆる円形(又は丸駒形)切削インサートは、すくい面となる上面部と、この上面部と対向する位置に形成された下面部とを円形形状とし、上面部と下面部とを繋ぐ側面部を略円柱形状又は略円錐形状にするとともに、上面部と側面部が交差する稜線部の一部又は全体に切れ刃を設けた構成を備えている。また、円形形状をなす両面型の切削インサートにおいては、下面部と側面部が交差する稜線部にも切れ刃が設けられている。
【0003】
上記した円形形状をなす切削インサート(以下、「円形切削インサート」と記載する)を、刃先交換式回転切削工具の工具本体が備えているインサート取付座に装着してクランプネジの締め付けにより固定して、被削材の切削加工を行う場合には下記の課題(1)〜課題(3)があり、従来からこれらの課題に対する解決手段が提案されている。
【0004】
課題(1)
円形切削インサートは、上面部が側面部と交差する稜線部、又は上面部及び下面部が側面部と交差する稜線部に円形形状をなす切れ刃を備えているので、この切れ刃の領域を有効に使用する必要がある。このためには、円形切削インサートを工具本体のインサート取付座に対して再装着する都度、精度高く位置決めしてクランプネジの締め付けにより固定する必要がある(割り出し機能が要求される)。特に、切れ刃のうち切削加工に使用した部分(切れ刃部)が摩耗したときに、未使用の部分を次回からの切削加工に使用するために、この円形切削インサートを切れ刃のなす円の中心を中心として所定の角度ほど回転させることによって、切れ刃の位置をずらしてインサート取付座に再装着する操作を行う。この再装着操作においては未使用の切れ刃を誤操作なく、かつ精度高く位置決めした状態で円形切削インサートをインサート取付座に装着することが要求される。
【0005】
課題(2)
円形切削インサートをインサート取付座に強固に固定しても、被削材の切削加工中に負荷される切削抵抗によりこの切削インサートが位置ずれし易い。この理由は、円形切削インサートはクランプネジの締め付けにより工具本体のインサート取付座に固定されるが、円形切削インサートの側面部は円柱(円筒)又は円錐形状をなしているので、切削加工時の切削抵抗に対する反力が、クランプネジを中心として円形切削インサートを回動させようとする力(クランプネジを中心とした回動力)として作用するからである。この回動力(回転モーメント)により、インサート取付座に固定された円形切削インサートが回転してその固定位置が僅かでもずれると、被削材の切削加工面の加工精度が劣化するのみならず、振動が発生して切れ刃に異常摩耗が発生して、切れ刃が損傷する不具合が生じる。従って、円形切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具においては、切削加工中における円形切削インサートの回動(又は回転)を防止する機能(回動防止機能)が要求されている。
【0006】
課題(3)
通常、切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具を用いて被削材の切削加工を行うときには、切削インサートに作用する切削抵抗は切れ刃部(切れ刃のうち切削に供される部分)を上面部方向から刃先交換式回転切削工具のインサート取付座に押し付ける方向に作用する。そして、切削インサートには、切れ刃部に作用する応力とこれに反発する力が生じる。定常状態の切削加工中においては、切れ刃部に作用する応力とこれに反発する力とは、主として切削インサートを工具本体に固定するクランプネジに作用している。
しかし、切削加工中の過渡的な状態において、切れ刃部に作用する応力とこれに反発する力とのバランスがとれなくなると、振動が発生する場合がある。上記した切削加工中の過渡的な状態とは、切れ刃が被削材に食い付いた瞬間などを示す。この振動発生により、クランプネジが弛緩したり、切削インサートのインサート取付座に対する取付け(装着)位置が変位したりして、いわゆる、切削インサートの位置ずれが生じることがあった。このような振動と切削インサートの位置ずれが発生すると、切れ刃の欠損が生じて、被削材に対して優れた加工精度、及び良好な加工面粗さが得られないという課題が発生する。また、切削加工中に騒音が発生するという不具合も生じる。
【0007】
さらに、近年においては、被削材に対して加工効率を向上させるために高速度の切削加工が要求されている。高速切削加工を実施すると、切削インサートの切れ刃が被削材に食い込むときに、その衝撃により振動が発生する可能性が高くなる。このため、円形切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具において、高速切削加工を実施するためには、振動の発生を防止又は抑制する機能(振動防止機能)を設けることも極めて重要になっている。
【0008】
円形切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具について、上記した課題(1)〜(3)のうち、課題(1)及び(2)に対する改善案は、従来から多くの特許出願により提案されているが、課題(1)及び(2)を備え、さらに課題(3)を備えた改善案の提案は少ない。この理由は、課題(1)及び(2)に対する優れた改善案を備えていると、切削加工中において振動が発生しないという技術思想に基づくものであった。
【0009】
上記した課題(1)及び(2)に対する改善案については、例えば、下記の特許文献1〜特許文献3により提案されている。
【0010】
特許文献1(特開2011−245585号公報)には、ポジティブ丸形の切削インサートにおいて、インサート取付座に対する固定の信頼性を高めるための切削インサートとそれを用いた切削工具が提案されている。特許文献1記載の発明では、切削インサートの側面に、傾斜角が側面の傾斜角よりも大きい平面の割り出し面を周方向に定ピッチで複数設け、これら割り出し面の周方向の中央部に縦長の凸部を設け、この凸部を工具本体のインサート取付座の座側面(壁面)に設けた凹部に入り込ませて係合させ、この状態で異なる位置の割り出し面を複数の座側面に当接させている。これにより、切削インサートをインサート取付座に位置決めするとともに、切削インサートの回転を防止している。また、この切削工具においては、切削インサートの切れ刃の割り出し数を4に設定し、工具本体のインサート取付座に90°方向を異ならせた2つの座側面を形成して、この2つの座側面で切削インサートの隣り合う割り出し面を拘束することが、特許文献1には記載されている(段落0014参照)。
【0011】
特許文献2(特表2012−525268号公報)には、円形状をなす両面型切削インサート及びこの切削インサートを使用する切削工具が提案されている。特許文献2に記載の切削インサートは、切削インサートの側面の円周方向に上面及び下面に対して実質的に垂直な複数の回転防止面を設けた構成を備えている。一方、工具本体のポケット側面(インサート取付座に設けた壁面)には切削インサートの回転防止面と整合されてこの切削インサートの回転を防止する突出面が設けられている。これにより、切削インサートと切削工具との間に広い装着面積を確保して切削インサートの回転を防止しようとしている。
【0012】
特許文献3(米国特許第6,607,335号明細書)には、刃先交換式回転切削工具に装着する切削インサートと切削工具に関する発明が提案されている。特許文献3に開示されている切削工具は、前記した特許文献1〜2に示されている切削インサートの割り出し手段と回動防止手段、すなわち、工具本体のインサート取付座に設けた着座面に対して立設した拘束壁面に、切削インサートの側面部に形成した回動拘束面、又は回動拘束面の凸部を拘束させる手段は採用していないが、同特許文献の
図14には、両面型の円形切削インサートの側面部とこの切削インサートの基準面(中間面M)とが交差する稜線部を中心とし、この稜線部と上面部及び下面部との間それぞれにおいて、側面が、8つの平面を稜線部に沿って順次繋いで、側面の断面を八角形からなる構成とされた切削インサートの実施形態が示されている。
【0013】
円形切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具において、振動発生を防止する手段を備えた切削工具に関しては、下記の特許文献4及び特許文献5に記載の発明が提案されている。
【0014】
特許文献4(特開2012−206249号公報)には、容易にかつ安価に製造できる回転防止機構であって、締め付けネジの緩みによる振動の発生を防止する両面型の円形切削インサートに関する発明が提案されている。特許文献4により提案されている円形切削インサートは、上面部に形成された複数のディンプル(凹部)と、この上面部に対向する下面部に形成された他の複数のディンプルとを備えた、割出し可能な切削インサートである。この切削インサートは、工具本体のインサート収容ポケットに取外し可能に収容され、インサート収容ポケットは、複数のディンプルの1つに収容されることができる単一の突出部を備えている。これにより、インサート収容ポケットの突出部と切削インサートが備えている複数のディンプルのうちの1つとの協働により、インサート収容ポケットに取り付けられた丸形切削インサートの割り出しを可能にするとともに、切削加工中におけるこの切削インサートの回転が防止され、その効果として、締め付けネジの緩みによる振動の発生を防止する機構を備えていることが特許文献4には記載されている。
【0015】
特許文献5(特表2002−527251号公報)には、円形切削インサートの回転防止手段を備えるとともに、振動防止手段も備えた円形切削インサートの回転防止取付け機構に関する発明が提案されている。特許文献5には、この回転防止取付け機構を、切削インサートの円筒形側面の周りにこの側面に対して傾斜した複数の湾曲停止面を設け、工具本体のインサート取付座(ポケット)に切削インサートの湾曲停止面の傾斜配置部分と一つの線接触で係合する締まり嵌め接合面を形成する回動防止面を備えた構成にすることが記載されている。さらに、ポケットの側面は、切削インサートの上部側壁と直接接触するための半円形状の上部部分を備えた構成にすることも記載されている。
【0016】
さらに、特許文献5の明細書段落0012には、「ポケット側面50の上部60とインサート3の上部側壁64との間のこのような支持接触は、二つの理由から重要である。第1に、ポケット5の側面50とインサート側壁21の上部60との広範囲の半円形接触によって、回転防止機構1を振動負荷からかわりに守る切削動作中、インサート3にかかる左右方向のそのような振動負荷の大部分が吸収される。第2に、このような構成によって、このような左右方向の振動の大部分がインサート3の最も強い部分、即ち、インサートの直径が最大とされて、湾曲停止面35があるためにインサート本体の材料が殆ど又は全く取り除かれなかった上部側壁64、に集中する。」と記載されている。すなわち、ポケット側面50の上部60とインサート3の上部側壁64との間の支持接触は、切削加工中に発生する左右方向の振動を吸収する作用を奏することが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1に記載の切削インサートとそれを用いた切削工具は、上記した円形切削インサートの課題について、割り出し機能(課題(1))及び回動防止機能(課題(2))に関する解決案の構成を備えているが、特許文献1には振動防止機能(課題(3))に関する解決手段は開示されていない。また、特許文献1に記載の切削インサートは、ポジティブの円形切削インサートであって、両面型の切削インサートの構成を備えていない。
【0019】
特許文献2に記載の円形状を有する両面型の切削インサート及びこれを使用する切削工具は、切削インサートの側面の円周方向に上面及び下面に対して実質的に垂直な複数の回転防止面を設け、工具本体のポケット側面(インサート取付座に設けた壁面)にこの切削インサートの回転防止面と整合するこの切削インサートの回転を防止する突出面を設けた構成とされている。これにより、両面型の円形切削インサートの割り出し機能と回動防止機能とが付与されているが、この切削インサート及び切削工具は特許文献1と同様に振動防止機能を備えていない。
【0020】
特許文献3の
図14には、両面型の円形切削インサートの側面部について、側面と基準面(M)とが交差する稜線部を中心とし、この稜線部と上面部及び下面部との間それぞれに8つの平面状側面を順次、稜線部方向に繋ぐことにより形成された側面部の断面形状が八角形をなす2つの側面から構成された円形切削インサートが示されている。さらに、稜線部方向に隣接する平面状側面の繋ぎ部は、切削インサートの外側に向かって突出した角部(コーナー部)を形成していることが示されている。
【0021】
しかしながら、この特許文献3に記載の円形切削インサートにおいて、上面部から下面部まで貫通する挿通穴は、クランプネジを挿通してこの円形切削インサートをインサート取付座の着座面に固定するための穴ではない。さらに、特許文献3の
図5に示されているように、この円形切削インサートの固定は、クランプネジの先端部を、円形切削インサートの上面部の挿通穴の周囲に形成したクランプ面と係合させる手段を採用している。従って、特許文献3に記載されている両面型の円形切削インサートは、ネジ挿通穴を挿通させたクランプネジの締め付けにより工具本体のインサート取付座に装着されることにより、割り出しと回動防止とを行う手段を備えた円形切削インサートではない。また、特許文献3には切削工具及び切削インサートが振動防止手段を備えていることは開示されていない。
【0022】
特許文献4に記載されている両面型の円形切削インサートには、上面部と下面部に複数のディンプル(凹部)が形成されており、工具本体のインサート収容ポケットには、上面部又は下面部が備えている複数のディンプルのうちの1つに収容される単一の突出部が設けられている。これにより、丸形切削インサートの割り出しを可能にし、さらに、切削加工中におけるこの切削インサートの回動が防止され、その効果として、締め付けネジの緩みによる振動の発生を防止している。しかしながら、この丸形切削インサートはその側面部を円形形状(円柱状)で構成したものであって、この側面部は複数の平面状の側面を周方向に繋いで形成した構成を備えていない。
【0023】
特許文献5に記載の丸形切削インサートの回転防止取付け機構では、切削インサートの円筒形側面の周りに複数の湾曲停止面を設け、工具本体のインサート取付座(ポケット)に、切削インサートの湾曲停止面の傾斜配置部分と一つの線接触で係合する締まり嵌め接合面を形成する回動防止面を設けることにより、割り出し機能と回動防止機能とが発揮されるとともに、ポケットの側面を、切削インサートの上部側壁と直接接触するための半円形状の上部部分を備えた構成にすることにより、切削インサートにかかる左右方向の振動負荷の大部分が吸収される。
【0024】
特許文献5に開示されている切削インサート側の割り出し機能と回動防止機能は、円形形状をなす側面に、この側面の途中から下面部に向かって複数の湾曲停止面を等間隔で配置した構成により発揮される。
また、特許文献5には、ポケットの側面部を切削インサートの上部側壁と直接接触するための半円形状の上部部分を備えた構成にすることにより振動を吸収することが開示されている。しかしながら、特許文献5に記載の切削インサート及びポケットには改善の余地がある。
【0025】
そこで、本発明の目的は、円形切削インサートとこの切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具において、切削インサートの工具本体に対する割り出しの精度を高くし、かつ切削加工中における切削インサートの回動を防止できるとともに、振動の発生を防止する手段を備えた両面型の円形切削インサートと、この切削インサートを着脱自在に装着した刃先交換式回転切削工具とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は以下の態様を有する。
(1)インサート取付座に着脱自在に装着され、平面視で円形形状をなす上面部及び下面部と、前記上面部と前記下面部を繋ぐ側面部と、前記上面部から前記下面部まで貫通するネジ挿通穴と、前記上面部及び前記下面部が前記側面部と交差する交差稜線部に形成された切れ刃と、を備えた両面型の円形切削インサートであって、
前記円形切削インサートを厚さ方向に二等分する平面を切削インサートの中間面(M)、前記中間面(M)が前記側面部と交差する仮想の稜線を側面中間線(N)、前記側面部のうち前記側面中間線(N)と前記上面部との間の前記側面部を上側面、前記側面中間線(N)と前記下面部との間の前記側面部を下側面と定義したときに、
前記上側面と前記下側面は、
繋ぎ部を介してそれぞれ前記上側面及び前記下側面の周方向に順次配置されているとともに、一辺が前記側面中間線(N)上に配置された、複数の平面状拘束面と、
前記繋ぎ部を介して隣接する2つの前記平面状拘束面との間に、前記繋ぎ部の前記側面中間線(N)側の端部を頂部として前記頂部から前記側面中間線(N)上に配置された一辺まで傾斜するとともに、前記側面部の周方向に対する長さが前記頂部から前記側面中間線(N)に向かうにつれて漸次増大するように形成された傾斜面からなる複数の振動防止用拘束面と、を備え、
前記下側面が備えている前記平面状拘束面及び前記振動防止用拘束面の配置位置は、前記上側面が備えている前記平面状拘束面及び前記振動防止用拘束面の配置位置に対して、前記ネジ挿通穴の中心軸線に対して所定の角度(α)位相をずらした位置に配置されており、
前記上側面と前記下側面が備えている前記平面状拘束面と前記振動防止用拘束面は、前記円形切削インサートを前記刃先交換式回転切削工具に装着したときに、前記インサート取付座が備えている拘束壁面により拘束されることを特徴とする両面型の円形切削インサート。
【0027】
(2)前記上側面が備えている前記平面状拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺は、前記下側面が備えている複数の前記振動防止用拘束面のうちの一つの振動防止用拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺を兼ねているとともに、
前記下側面が備えている前記平面状拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺は、前記上側面が備えている複数の前記振動防止用拘束面のうちの一つの振動防止用拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺を兼ねていることを特徴とする上記(1)に記載の両面型の円形切削インサート。
【0028】
(3)前記平面状拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺と、前記振動防止用拘束面の前記側面中間線(N)上に配置された一辺は、同じ長さを有するとともに、前記側面中間線(N)に沿って交互に繋がっていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の両面型の円形切削インサート。
【0029】
(4)前記繋ぎ部は、前記側面部の周方向に対して所定の長さの幅を有するように形成されており、
前記振動防止用拘束面は、前記繋ぎ部の前記頂部を上底とし、前記側面中間線(N)上に配置された一辺を下底とした、前記円形切削インサートの側面視で等脚台形から構成されていることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか一に記載の両面型の円形切削インサート。
【0030】
(5)前記繋ぎ部は、前記隣接する2つの前記平面状拘束面の対向する辺どうしを一つの稜線として形成した繋ぎ稜線部を構成しており、
前記振動防止用拘束面は、前記繋ぎ稜線部の前記側面中間線(N)側の端部を頂角とし、前記側面中間線(N)上に配置された一辺を前記頂角に対応する底辺とした、前記円形切削インサートの側面視で二等辺三角形又は正三角形から構成されていることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか一に記載の両面型の円形切削インサート。
【0031】
(6)前記円形切削インサートの前記ネジ挿通穴の中心軸線を通る縦断面図で表示される前記振動防止用拘束面の稜線は、直線状、又は凸形状、もしくは凹形状をなしていることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれか一に記載の両面型の円形切削インサート。
【0032】
(7)前記繋ぎ部と、この繋ぎ部から前記隣接する2つの前記平面状拘束面の前記側面部の周方向に対する所定の範囲の領域は、コーナー部として回動防止面を構成し、
前記回動防止面は、前記円形切削インサートを前記刃先交換式回転切削工具に装着したときに、前記円形切削インサートの回動を防止する手段として前記インサート取付座が備えている拘束壁面により拘束されることを特徴とする上記(1)から(6)のいずれか一に記載の両面型の円形切削インサート。
【0033】
(8)前記円形切削インサートの前記中間面(M)に沿った断面の外郭線は、正多角形の形状をなしていることを特徴とする上記(1)から(7)のいずれか一に記載の両面型の円形切削インサート。
【0034】
(9)前記上側面と前記下側面は、それぞれ8個の前記平面状拘束面と、8個の前記振動防止用拘束面と、8個の前記回動防止面とを備えているとともに、前記角度(α)は22.5度に設定されていることを特徴とする上記(1)から(8)のいずれか一に記載の両面型の円形切削インサート。
【0035】
(10)前記上側面と前記下側面は、それぞれ6個の前記平面状拘束面と、6個の前記振動防止用拘束面と、6個の前記回動防止面とを備えているとともに、前記角度(α)は30度に設定されていることを特徴とする上記(1)から(8)のいずれか一に記載の両面型の円形切削インサート。
【0036】
(11)上記(1)から(10)のいずれか一に記載の両面型の円形切削インサートを、刃先交換式回転切削工具の工具本体の前記インサート取付座が備えている着座面にクランプネジの締め付けにより着脱自在に装着した刃先交換式回転切削工具であって、
前記インサート取付座は、前記着座面に対して立設され、前記円形切削インサートの前記側面部を拘束するための前記拘束壁面を備えており、
前記拘束壁面は、前記円形切削インサートの前記上側面に形成された前記回動防止面の一つを拘束するための回動防止用壁面と、この回動防止面に対応して前記下側面に配置されている前記平面状拘束面の一つを拘束するための平面状拘束壁面と、を設けた第1の拘束壁と、
前記切削インサートの前記上側面に形成された前記平面状拘束面の一つを拘束するための平面状拘束壁面と、この平面状拘束面に対応して前記下側面に配置されている前記振動防止用拘束面の一つを拘束するための振動防止用壁面と、を設けた第2の拘束壁と、を備えていることを特徴とする刃先交換式回転切削工具。
【0037】
(12)前記第1の拘束壁が備えている前記回動防止用壁面と前記平面状拘束壁面は、前記着座面からの配置位置が前記回動防止用壁面の方が高くなるように形成されていることを特徴とする上記(11)に記載の刃先交換式回転切削工具。
【0038】
(13)前記第2の拘束壁が備えている前記平面状拘束壁面と前記振動防止用壁面は、前記着座面からの配置位置が前記振動防止用壁面の方が低くなるように形成されていることを特徴とする上記(11)又は(12)に記載の刃先交換式回転切削工具。
【0039】
(14)前記回動防止用壁面は、前記切削インサートの前記回動防止面と係合する凹形状をなす壁面を備えていることを特徴とする上記(11)から(13)のいずれか一に記載の刃先交換式回転切削工具。
【0040】
(15)前記振動防止用壁面は、前記切削インサートの前記振動防止用拘束面の形状と対応させて前記振動防止用拘束面と接触可能な壁面を備えていることを特徴とする上記(11)から(14)のいずれか一に記載の刃先交換式回転切削工具。
【0041】
(16)前記上側面と前記下側面に、それぞれ8個の前記平面状拘束面と、8個の前記振動防止用拘束面と、8個の前記回動防止面を備えた前記両面型の円形インサートを前記インサート取付座に装着した刃先交換式回転切削工具であって、
前記第1の拘束壁と前記第2の拘束壁とは、67.5度の交差角度をもって交差するように形成されていることを特徴とする上記(11)から(15)のいずれか一に記載の刃先交換式回転切削工具。
【0042】
(17)前記上側面と前記下側面に、それぞれ6個の前記平面状拘束面と、6個の前記振動防止用拘束面と、6個の前記回動防止面を備えた前記両面型の円形インサートを前記インサート取付座に装着した刃先交換式回転切削工具であって、
前記第1の拘束壁と前記第2の拘束壁とは、60度の交差角度をもって交差するように形成されていることを特徴とする上記(11)から(15)のいずれか一に記載の刃先交換式回転切削工具。
(18)インサート取付座に着脱自在に装着され、平面視で円形形状をなす上面部及び下面部と、前記上面部と前記下面部を繋ぐ側面部と、前記上面部から前記下面部まで貫通するネジ挿通穴と、前記上面部及び前記下面部が前記側面部と交差する交差稜線部に形成された切れ刃と、を備えた両面型の円形切削インサートであって、
前記円形切削インサートを厚さ方向に二等分する平面を切削インサートの中間面(M)、前記中間面(M)が前記側面部と交差する仮想の稜線を側面中間線(N)、前記側面部のうち前記側面中間線(N)と前記上面部との間の前記側面部を上側面、前記側面中間線(N)と前記下面部との間の前記側面部を下側面と定義したときに、
前記上側面と前記下側面は、
繋ぎ部を介してそれぞれ前記上側面及び前記下側面の周方向に順次配置されているとともに、一辺が前記側面中間線(N)上に配置された、複数の平面状拘束面と、
前記繋ぎ部を介して隣接する2つの前記平面状拘束面との間に、前記繋ぎ部の前記側面中間線(N)側の端部を頂部として前記頂部から前記側面中間線(N)上に配置された一辺まで傾斜するとともに、前記側面部の周方向に対する長さが前記頂部から前記側面中間線(N)に向かうにつれて漸次増大するように形成された傾斜面からなる複数の振動防止用拘束面と、を備え、
前記下側面が備えている前記平面状拘束面及び前記振動防止用拘束面の配置位置は、前記上側面が備えている前記平面状拘束面及び前記振動防止用拘束面の配置位置に対して、前記ネジ挿通穴の中心軸線に対して所定の角度(α)位相をずらした位置に配置されていることを特徴とする両面型の円形切削インサート。
なお、上記(18)に記載の円形切削インサートは、上記(2)から(10)のいずれか一に記載の付加的な特徴を備えても良い。
【発明の効果】
【0043】
本発明では、刃先交換式回転切削工具の工具本体のインサート取付座に第1の拘束壁と第2の拘束壁を設けるとともに、第1の拘束壁には着座面から着座面の垂直方向に離れた位置に段差を設け、段差を設けた位置に平面状拘束壁面と回動防止用壁面とを設けている。第2の拘束壁には同じく着座面から着座面の垂直方向に離れた位置に段差を設け、段差を設けた位置に振動防止用壁面と平面状拘束壁面とを設けている。これに対し、円形切削インサートは、側面部の上側面と下側面にそれぞれ複数の振動防止用拘束面、平面状拘束面、及び回動防止面(角部)を備えている。そして、円形切削インサートをインサート取付座に装着したときには、円形切削インサートの振動防止用拘束面の一つは第2の拘束壁の振動防止用壁面と面どうしで接触係合させるようにしている。これにより本発明は次の効果を発揮することができる。
【0044】
(1)刃先交換式回転切削工具を使用して被削材の切削加工を行なっているときに、円形切削インサートの切れ刃にかかる切削抵抗のうち、切削工具の切れ刃の回転軌跡の円周接線方向における分力は、円形切削インサートの振動防止用拘束面に伝わり、この振動防止用拘束面をインサート取付座の振動防止用壁面に強く押圧させる作用を奏する。この押圧する作用は、工具本体の振動防止用壁面が切削抵抗の分力を受け止めて、円形切削インサートの振動防止用拘束面の一つとの面どうしの接触係合による拘束力を維持しながら、振動の発生を防止又は抑制する作用を奏する。このように、振動の発生を防止又は抑制することができる円形切削インサート及びこの切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具を提供することができる。
【0045】
(2)円形切削インサートをインサート取付座に装着する割り出し操作を行うときには、第1の拘束壁の平面状拘束壁面と円形切削インサートの側面部の下側面に形成した平面状拘束面とを係合させるとともに、第2の拘束壁の平面状拘束壁面と円形切削インサートの側面部の上側面に形成した平面状拘束面とを係合させるので、円形切削インサートのインサート取付座への装着を誤操作無く行うことが可能になる。
さらに、第1の拘束壁に設けた回動防止用壁面の凹部を、円形切削インサートの側面部の角部と係合させるので、切削加工中において円形切削インサートの回動を防止することが可能になる。
【0046】
(3)上記(1)、(2)により、本発明では、両面型の円形切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具を用いた切削加工において、被削材の加工面の面精度を向上させるとともに、工具寿命も著しく向上させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
(円形切削インサートの第1の実施形態)
本発明の両面型の円形切削インサートの実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の円形切削インサートの第1の実施形態を示す斜視図、
図2は
図1に示す円形切削インサート1の側面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の円形切削インサート1の基本的な構成は、平面視で円形をなす上面部2と、上面部2に対向する位置に配置され、平面視で円形をなす下面部3と、上面部2と下面部3とを繋ぐ側面部4と、上面部2から下面部3まで貫通するネジ挿通穴5と、上面部2及び下面部3がそれぞれ側面部4と交差する円形形状をなす交差稜線部に沿って形成され、円形形状をなす切れ刃6a、6bと、を備えている。このように、円形切削インサート1は、上面部2及び下面部3が備えている切れ刃6aと切れ刃6bとを使用することができる両面型の円形切削インサートである。
図1に示す符号Pはネジ挿通穴5の中心軸線である。上面部2及び下面部3は、平面視でネジ挿通穴5の中心軸線Pを中心とする円形をなす。なお、以下の説明において、本実施形態の両面型の円形切削インサート1のことを単に「切削インサート1」と記載する場合がある。
【0049】
上面部2は、円形形状をなす切れ刃6aからネジ挿通穴5の方向に向かって下り傾斜する(下面部3に近づく方向に傾斜する)傾斜面からなるすくい面7aと、すくい面7aからネジ挿通穴5の開口部まで形成された上面平坦部8aと、を備えている。すくい面7aと上面平坦部8aとは、ネジ挿通穴5の中心軸線Pを中心とする円環状の面である。切削インサート1は両面型の切削インサートであるので、下面部3の構成は上面部2と同一の形状及び構成を備えている。すなわち、下面部3も切れ刃6bからネジ挿通穴5の方向に向かって下り傾斜する(上面部2に近づく方向に傾斜する)傾斜面からなるすくい面7bと、すくい面7bからネジ挿通穴5の開口部まで形成された下面平坦部8bと、を備えている(
図7参照)。上面平坦部8aと下面平坦部8bとは互いに平行になるように形成されており、ネジ挿通穴5の中心軸線Pに対して直交する平面である。
【0050】
ここで、
図2に示すように、両面型の円形切削インサート1を厚さ方向に二等分する平面をこの切削インサートの「中間面(M)」と定義する。なお、切削インサート1の厚さ方向とは、ネジ挿通穴5の中心軸線Pが延びる方向を示し、中間面(M)は中心軸線Pと直交する平面である。厚さ方向のうち、上面部2又は下面部3から中間面(M)に向かう方向を厚さ方向の内側といい、中間面(M)から上面部2又は下面部3に向かう方向を厚さ方向の外側という。また、中心軸線P周りに周回する方向を周方向とし、中心軸線Pに直交する方向を径方向とする。径方向のうち中心軸線Pに接近する向きを径方向の内側とし、中心軸線Pから離間する向きを径方向の外側とする。
【0051】
図3は、
図2に示す切削インサート1の側面図において、切削インサート1の中間面(M)に沿った断面形状を示している。
図3に示すように、切削インサート1の断面形状を示す外郭線は、一辺が後述する辺cと辺g(
図4参照)を交互に順次繋いだ正多角形又は略正多角形をなしている。
図1(
図2)に示す切削インサート1の中間面(M)に沿った断面(
図3)の形状は、辺cと辺gの長さをmと等しくした正十六角形をなしている。以下、
図4を参照して側面部4の構成について説明する。
【0052】
図4は、
図2に示す本実施形態の円形切削インサート1の側面図を拡大した図である。切削インサート1の側面部4は、本実施形態の切削インサートにおいて特徴となる構成を備えており、以下、側面部4の構成について詳細に説明する。
【0053】
ここで、切削インサート1の中間面Mが側面部4と交差する仮想の稜線を、両面型の切削インサートの「側面中間線(N)」と定義する。上記したように、中間面(M)は、中心軸線Pと直交する平面であって両面型の円形切削インサート1を厚さ方向に二等分する平面であるので、さらに、以下の説明において、側面中間線(N)と上面部2との間の側面部4を「上側面4a」、側面中間線(N)と下面部3との間の側面部4を「下側面4b」と定義する。本実施形態においては、上側面4aと下側面4bとは同一形状を有している。より詳細には、下側面4bは、中間面(M)に対し上側面4aを反転して、中心軸線Pを中心に所定の角度αだけ回転させた(位相をずらした)形状を有している。
【0054】
図4に示すように、側面部4は上面部2及び下面部3の端部(周縁部)に対して、ネジ挿通穴5の中心軸線P方向に若干沈み込むように形成されており、切削インサート1は側面視で鼓形状をなしている。言い換えると、側面部4は、上面部2の切れ刃6aと下面部3の切れ刃6bとを繋ぐ円筒面に対し径方向内側に凹んだ形状を有している。
側面部4を構成する上側面4aは、上面部2の周縁部に沿って形成されている切れ刃6aの逃げ面9aと、逃げ面9aと側面中間線(N)との間に、互いに同一の形状をなし、その一辺cが側面中間線(N)上に側面中間線(N)に沿って配置され、上側面4aの周方向に繋ぎ部12aを介して、順次、一列に配置された複数の平面状拘束面10a、10b、・・・と、を備えている。
図1(
図4)に示す円形切削インサート1は、その上側面4aに8個の平面状拘束面10a、10b、・・・、10hを形成した例を示しているが、本発明の円形切削インサートにおいて、平面状拘束面10a、10b、・・・の数は8個に限定されるものではない。
【0055】
逃げ面9aは、切れ刃6aから中間面(M)に向かって径方向内方に傾斜するように延びる円錐面である。
8個の平面状拘束面10a、10b、・・・、10hは、それぞれ上面部2の上面平坦部8aに対して垂直、又は略垂直な平面をなすように形成されている。平面状拘束面10a、10b、・・・、10hは、中心軸線Pを中心とする円が内接するように、且つ中心軸線Pに対し回転対称となるように、周方向に等間隔に配置されている。
さらに、上側面4aは、側面中間線(N)の方向(上側面4aの周方向)に対して隣接する二つの平面状拘束面10aと10b、10bと10c、・・・、10hと10aとを繋ぐ複数の繋ぎ部12aと、この繋ぎ部12aの側面中間線(N)側の下端部(
図4に示す頂部(t1))から側面中間線(N)上まで形成された、切削インサート1の側面視で台形形状をなす複数の振動防止用拘束面11a、11b、・・・と、を備えている。
図1(
図4)に示す円形切削インサート1は、同一形状をなす8個の振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hを備えている例を示している。上側面4aに設ける振動防止用拘束面11a、11b、・・・の数は、平面状拘束面10a、10b、・・・の数と同数になる。このように、振動防止用拘束面11a、11b、・・・のそれぞれは、隣接する平面状拘束面10aと10b、10bと10c、・・・の間に形成されている。振動防止用拘束面11a、11b、・・・は、中心軸線Pを中心とする円が内接するように、且つ中心軸線Pに対し回転対称となるように、周方向に等間隔に配置されている。
なお、本実施形態の円形切削インサート1において、切削インサート1の振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hがなす形状は側面視で台形形状であるが、後述する第2の実施形態のように、側面視で三角形としてもよい(
図8〜
図10参照)。
【0056】
図4に示す平面状拘束面10a、10b、・・・、10hは、それぞれ、辺a、辺b、辺c、辺d、辺e、及び辺fを有する六角形をなす平面からなり、そのうち、辺cが側面中間線(N)上に側面中間線(N)に沿って形成されている。各平面状拘束面10a、10b、・・・、10hは、辺cの垂直二等分線に対し線対称な六角形をなす。また、
図4において、辺cに対向し辺cに平行な辺fの長さをl、辺cの長さをmで示している。前記した切削インサート1の中間面(M)に沿った断面形状を示す
図3においては、その外郭線の形状は一辺の長さを上記「m」とした正十六角形として図示されている。
【0057】
平面をなす各平面状拘束面10a、10b、・・・、10hの各辺a〜辺fの配置された位置、及びその繋がり等の特徴を、
図4に示している平面状拘束面10aを例にして説明すると次のようになる。なお、他の平面状拘束面10b、・・・、10hの各辺a〜辺fの配置された位置、及びその繋がり等の特徴は平面状拘束面10aと同一である。
【0058】
(辺a):
辺aは、上側面4aの周方向において
図4に示されている平面状拘束面10aとその紙面の右側において隣接する平面状拘束面10bとの間に介在する繋ぎ部12aと平面状拘束面10aとの稜線(境界線)である。そして、辺aは、中間面(M)と直交する向きで、繋ぎ部12aの側面中間線(N)側の下端部(頂部(t1)又は頂部(t1)近傍)まで形成されている。言い換えると、辺aは頂部(t1)又はその近傍から上面部2に向かって厚さ方向に延びる直線である。なお、
図4に示す通り、頂部(t1)は中間面(M)よりも上面部2側(厚さ方向外側)に位置している。
(辺b):
辺bは、辺aの側面中間線(N)側の下端部から辺aと鈍角をなして傾斜する稜線であって、側面中間線(N)上のn1点まで形成されている。言い換えると、辺bは頂部(t1)又はその近傍からn1点まで平面状拘束面10bから離間する方向に延びる直線である。また、辺bは後述する振動防止用拘束面11aの一辺を兼ねた平面状拘束面10aと振動防止用拘束面11aとの稜線として形成されている。
(辺c):
辺cは、辺bの側面中間線(N)上の上記したn1点から長さmを有し、側面中間線(N)に沿って側面中間線(N)上のn2点まで形成されている。辺cは、辺bと鈍角をなし、辺aに垂直な方向に延びる直線である。
【0059】
(辺d):
辺dは、辺cの側面中間線(N)上の上記したn2点から、平面状拘束面10aとその紙面左側に隣接する他方の平面状拘束面10hとの間に介在する繋ぎ部12aの下端部(頂部(t1)又は頂部(t1)近傍)まで、辺cと鈍角をなして傾斜する稜線として形成されている。言い換えると、辺dはn2点から頂部(t1)又はその近傍まで上面部2に近づく方向に延びる直線である。また、辺dは後述する他の振動防止用拘束面11hの一辺を兼ねた平面状拘束面10aと振動防止用拘束面11hとの稜線として形成されている。さらに、辺dは、後述する辺eの側面中間線(N)側の下端部と鈍角の角度をなして繋がっている。なお、辺cと辺dとがなす角度は辺cと辺bとがなす角度に等しく、辺dと辺eとがなす角度は辺bと辺aとがなす角度と等しい。また、辺dの長さは辺bの長さと等しい。
(辺e):
辺eは、平面状拘束面10aとその紙面左側に隣接する他方の平面状拘束面10hとの間に介在する繋ぎ部12aと平面状拘束面10aとの稜線であって、中間面(M)と直交する向きに形成されている。言い換えると、辺eは、当該繋ぎ部12aの下端部(頂部(t1)又は頂部(t1)近傍)から上面部2に向かって厚さ方向に延びる直線である。辺eの長さは辺aの長さと等しい。
(辺f):
辺fは、辺eの上端部(上面部2側の端部)と辺aの上端部(上面部2側の端部)とを繋ぐ、辺cと平行な直線であって、側面部4の周方向に(より正確には、辺cに平行な方向に)長さlを有している。辺fは、辺a及び辺eと直交している。
【0060】
上側面4aの周方向に隣接する2つの平面状拘束面どうしを繋ぐための各繋ぎ部12aは、例えば、隣接する平面状拘束面10aと平面状拘束面10b等の周方向に互いに対向する端部である辺aと辺eとを一体として一本の直線状の稜線になるように、円形切削インサート1の粉体成形時に一体形成してもよい(後述する第2の実施形態参照)。一方、
図4に示すように側面部4の周方向に所定の幅wを有する繋ぎ部12aを設け、この繋ぎ部12aを介して隣接する平面状拘束面どうしを繋いだ方が、繋ぎ部の強度維持に有効であり好ましい。なお、
図4においては、後述する第2の実施形態との差異を明確にするために、繋ぎ部12aの幅wを実際よりも大きく描いている。
なお、繋ぎ部12aの側面部4(上側面4a)の周方向の幅w(辺aと辺eとの間隔)の値は、円形切削インサート1の上面部2(下面部3)の直径に応じて適切に設定すればよいが、少なくとも0.5mm〜1mm程度設け、その表面の断面形状は緩やかな円弧形状(R形状)にすることが望ましい。すなわち、各繋ぎ部12aは、繋ぎ部12aを通り中心軸線Pに直交する断面において径方向外側に凸となる円弧形状をなす面であることが望ましい。
また、各繋ぎ部12aは、中間面(M)から上面部2側に離間した位置を側面中間線(N)側の端部(下端部)とし、当該端部から上面部2に向かって厚さ方向に延びている。
【0061】
第1の実施形態の切削インサート1においては、上側面4aと同様に、下側面4bも、8個の平面状拘束面13a、13b、・・・、13hと、8個の平面視で台形形状をなす振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hとを備えている。
【0062】
続いて、上側面4aが備えており、切削インサート1の側面視で台形形状をなす振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hの特徴とその配置された位置等について、
図4に示す振動防止用拘束面11aを例にして説明する。
【0063】
切削インサート1の側面視で台形形状をなす振動防止用拘束面11aは、繋ぎ部12aの側面中間線(N)側の下端部に形成されている頂部(t1)を台形の上底(t1)とし、側面中間線(N)上の2点(n1点、n2点)を結ぶ線分を下底とした等脚台形(又は略等脚台形)の面である。上底(t1)は、平面状拘束面10aと隣接する平面状拘束面10bとの間に設けた繋ぎ部12aの微小な幅wを有する稜線であり、上底(t1)は側面中間線(N)に対して平行又は略平行になるように形成されている。
【0064】
これに対して、この等脚台形の下底については、平面状拘束面10aの辺bと辺cとが交差する(n1)点と、平面状拘束面10aに隣接する平面状拘束面10bの辺cと辺dとが交差する(n2)点とを結んだ側面中間線(N)上の一辺を、振動防止用拘束面11aの下底gとしている。また、等脚台形の脚となる二辺は、
図4に示すように、平面状拘束面10aの辺bと、この平面状拘束面10aに隣接する平面状拘束面10bの辺dである。このように、等脚台形を構成する振動防止用拘束面11aの台形の脚となる二辺b及びdのうち、台形の脚bは、平面状拘束面10aの辺bを兼ねる稜線として構成されている。さらに、他方の台形の脚dは平面状拘束面10bの辺dを兼ねる稜線として構成されている。
また、下底gは、
図4に示すように、平面状拘束面10aにおいて側面中間線(N)上に形成されている一辺cの長さmと等しい長さmを有する。
【0065】
上記したように、切削インサート1の側面視で等脚の台形形状をなす振動防止用拘束面11aは、隣接する平面状拘束面10aと平面状拘束面10bとの間に形成(配置)され、繋ぎ部12aの頂部における幅wを有する稜線を上底(t1)とし、平面状拘束面10aの辺bと辺cとが交差する(n1)点と、平面状拘束面10aに隣接する平面状拘束面10bの辺cと辺dとが交差する(n2)点とを結んだ長さmの側面中間線(N)上の一辺を下底gとしている。従って、切削インサート1の側面視で等脚の台形形状をなす振動防止用拘束面11aは、上底(t1)から下底gに向かうにつれてその周方向の長さが漸次増大するようになっている。また、振動防止用拘束面は、上底(t1)から下底gまで径方向内側に傾斜して延びている。
【0066】
同様に、振動防止用拘束面11bは、平面状拘束面10bと繋ぎ部12aを介して隣接する平面状拘束面10c(
図4には図示せず)との間に配置され、この繋ぎ部12aの頂部における幅wを有する線分を上底(t1)とし、平面状拘束面10bの辺bと辺cとが交差する(n1)点と、平面状拘束面10bに隣接する平面状拘束面10cの辺cと辺dとが交差する(n2)点とを結んだ長さmの側面中間線(N)上の一辺を下底gとしている。このようにして、他の振動防止用拘束面11c、11d、・・・、11hも、隣接する平面状拘束面の間に、上記の振動防止用拘束面11a、11bと同様の形状、寸法、配置などの仕様を有するように形成されている。
【0067】
側面部4を構成する下側面4bは、上側面4aと同様に、下面部3の周縁に沿って形成されている切れ刃6bの逃げ面9bと、逃げ面9bと側面中間線(N)との間に、同一形状をなし、その一辺が側面中間線(N)上に側面中間線(N)に沿うように配置された8個の平面状拘束面13a、13b、・・・、13hと、下側面4bの周方向に隣接する平面状拘束面13aと13b、13bと13c、・・・、13hと13aの繋ぎ部12bの側面中間線(N)側の頂部(t2)から側面中間線(N)まで形成された、切削インサート1の側面視で等脚台形の形状をなす8個の振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hと、を備えている。なお、平面状拘束面13a、13b、・・・、13hは、下面平坦部8b(上面平坦部8a)に対して垂直、又は略垂直な平面として形成されている。
図4に示す頂部(t2)は、上側面4aの頂部(t1)と同様に、上側面4aの周方向に幅wを有しており、切削インサート1の側面視で等脚台形をなす各振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hの上底になる。
【0068】
下側面4bが備えている平面状拘束面13a、13b、・・・、13hと、上側面4aが備えている平面状拘束面10a、10b、・・・、10hは、同一の形状をなすとともに、側面中間線(N)に対して配置の向きを反転させ、さらに、上側面4aと下側面4bにおいて、位相をずらした位置に配置されている。
同様に、下側面4bが備えている振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hと、上側面4aが備えている振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hは、同一の形状をなすとともに、側面中間線(N)に対して配置の向きを反転させ、さらに、上側面4aと下側面4bにおいて、位相をずらした位置に配置されている。ここで、「位相をずらす」とは、同一形状を有する上側面4aと下側面4bとを側面中間線(N)に対して鏡面対称となるように配置した状態から、ネジ挿通穴5の中心軸線Pを中心に上側面4aに対し下側面4bを回転させることを意味する。
このように、上側面4aと下側面4bが備えている各平面状拘束面と各振動防止用拘束面は、それぞれ同一の形状をなしているので、
図4において、これら下側面4bが備えている各拘束面を構成する各辺には、対応する上記した上側面4aの各拘束面を構成する辺の符号を付している。なお、上記した上側面4aの各拘束面と下側面4bの各拘束面とが配置された位置の位相ずらしの仕様については後述するが、ネジ挿通穴5の中心軸線Pに対して所定の角度(α)位相をずらしている。言い換えると、上側面4aの各拘束面と下側面4bの各拘束面とが側面中間線(N)に対して鏡面対称となるように配置された状態から、上側面4aの各拘束面に対し下側面4bの各拘束面を中心軸線P回りに所定の角度(α)だけ回転させた位置に各拘束面を配置する。
これにより、円形切削インサート1を回転させることによって切れ刃9a、9bの複数の領域を使い分ける際に、正確な割出し機能を発揮できる。
【0069】
図4に示しているように、上側面4aが備えている平面状拘束面10a、10b、・・・、10hの辺cは、それぞれ下側面4bが備えている切削インサート1の側面視で等脚台形をなす振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hの下底を兼ねる。また、下側面4bが備えている平面状拘束面13a、13b、・・・、13hにおいて、側面中間線(N)上に沿って形成されている一辺は、上側面4aが備えている振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hの下底gを兼ねるように構成されている。これにより、切削インサート1の表裏を反転させても切削インサート1の形状が同一となるので、切削加工に供する切れ刃が上面部2の切れ刃6aか下面部3の切れ刃6bかによって、工具本体31に形成されたインサート取付座32の形状を変える必要がない。すなわち、上面部2の切れ刃6aを使用する場合においても、下面部3の切れ刃6bを使用する場合においても、切削インサート1を同一のインサート取付座32に取り付けることができる。
切削インサート1の側面視で、上側面4aの等脚台形をなす振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hと、同じく下側面4bの等脚台形をなす振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hとは、上記したように配置されているので、側面中間線(N)上に沿って、上側面4aの振動防止用拘束面の長さmを有する下底gと、下側面4bの振動防止用拘束面の長さmを有する下底cとが交互に配置されていることになる(
図3)。これにより、後述する作用効果を得られる。
【0070】
なお、上側面4aと下側面4bが備えている繋ぎ部12aと12bの長さ、すなわち、辺a又は辺eの長さであって、ネジ挿通穴5の中心軸線P方向における繋ぎ部12a、12bの長さは、円形切削インサート1の厚さ(厚さ方向における切れ刃6aと切れ刃6bとの距離)の0.1〜0.15倍程度に設定することが好ましい。
【0071】
図4に示す符号21a、21bは、側面部4の上側面4a及び下側面4bに、前記した平面状拘束面10a、10b、・・・、10hと平面状拘束面13a、13b、・・・、13hとを形成するために設けられた傾斜面である。これらの傾斜面21a、21bはネジ挿通穴5の中心軸線P方向に対し所定の角度(δ)で傾斜するように形成されている(
図7)。より詳細には、傾斜面21aは、平面状拘束面10a、・・・、10hの辺fから逃げ面9aに向かって、径方向外側に傾斜するように延びる面であり、傾斜面21bは、平面状拘束面13a、・・・、13hの辺fから逃げ面9bに向かって、径方向外側に傾斜するように延びる面である。なお、繋ぎ部12a、12bの上端部(繋ぎ部12a、12bの厚さ方向外側端部)はそれぞれ、
図4に示すように、例えば、隣接する傾斜面21a間、又は隣接する21b間の側面部4に繋がるようにする。言い換えると、
図4の例では、繋ぎ部12aの上端部は周方向に隣接する傾斜面21a間の領域と滑らかに連続し、繋ぎ部12bの上端部は周方向に隣接する傾斜面21b間の領域と滑らかに連続している。
【0072】
続いて、上側面4aと下側面4bにおいて、前記した上側面4a及び下側面4bに配置されている各平面状拘束面と各振動防止用拘束面の配置される位置の位相をずらしていることについて、
図5を参照して説明する。
【0073】
図5は、
図2に示す円形切削インサート1の中間面(M)に沿った断面図であって、(a)はこの断面から上面部2方向に円形切削インサート1を見た断面矢視図、同じく(b)はこの断面から下面部3方向に円形切削インサート1を見た断面矢視図である。
図3と同様に、
図5(a)においては平面状拘束面10a、・・・、10hと振動防止用拘束面11a、・・・11hとが交互に配置されて正十六角形をなしており、
図5(b)においては平面状拘束面13a、・・・、13hと振動防止用拘束面14a、・・・14hとが交互に配置されて正十六角形をなしている。
そして、
図5(a)及び(b)においては、上側面4aと下側面4bに配置されている各平面状拘束面と各振動防止用拘束面との配置される位置がそれぞれ対応するように、
図5(a)と(b)に図示されるネジ挿通穴5の中心軸線Pどうしを直線(一点鎖線)Cで結ぶとともに、上側面4aと下側面4bに配置されている各平面状拘束面と各振動防止用拘束面の配置位置が中心軸線Pに対して対応するように表示している。言い換えると、
図5(a)、(b)では、中心軸線Pと直線Cとが一致するように
図5(a)と
図5(b)とを対向させると、上側面4aの各拘束面と下側面4bの各拘束面とが
図1、2、4に示す配置となるように、断面矢視図を示している。なお、
図5においては、説明の簡略化のために繋ぎ部12a、12bの図示を省略し、その位置のみ符号を付して示している。
例えば、
図5(a)に表示されている上側面4aの振動防止用拘束面11aが配置される位置に対応して、
図5(b)に示すように、下側面4bには平面状拘束面13aが配置されていることを、
図5は示している。言い換えると、上側面4aの振動防止用拘束面11aの配置される位置と下側面4bには平面状拘束面13aの配置される位置とが、周方向において一致していることを
図5(a)、(b)は示している。このように、
図5(a)、(b)には、
図4に示している上側面4aと下側面4bの各平面状拘束面と各振動防止用拘束面が配置された位置(周方向における位置)の対応関係が図示されている。
【0074】
さらに、
図5は、上側面4aと下側面4bの各平面状拘束面と各振動防止用拘束面の配置の位相を、ネジ挿通穴5の中心軸線Pに対して所定の角度(α)ほどずらしていることを示している。具体的には、
図5(a)に示す上側面4aの振動防止用拘束面11aの中央部(頂部(t1)の周方向中央部)とネジ挿通穴5の中心軸線Pを通る直線Cと、
図5(b)に示す下側面4bの振動防止用拘束面14hの中央部(頂部(t2)の周方向中央部)とネジ挿通穴5の中心軸線Pを通る直線Dとは、角度(α)をなしている。このことは、上側面4aに配置されている振動防止用拘束面11a、・・・、11hと下側面4bに配置されている振動防止用拘束面14a、・・・、14hとは、その配置の位相(周方向位置)がネジ挿通穴5の中心軸線Pに対して角度(α)だけ互いにずれて配置されるように形成されていることを示している。同様に、上側面4aに配置されている平面状拘束面10a、・・・、10hと下側面4bに配置されている平面状拘束面13a、・・・、13hも、ネジ挿通穴5の中心軸線Pに対して角度(α)ほど配置される位置の位相を互いにずらして形成されている。
【0075】
前記したように、
図1に示す円形切削インサート1は、上側面4aと下側面4bにそれぞれ8個の平面状拘束面と8個の振動防止用拘束面を配置した実施形態(8コーナータイプの切削インサート)であるので、この配置の位相をずらす角度(上側面4aと下側面4bとの位相差を示す角度)(α)は22.5度(360度/(2×8個))に設定されている。
【0076】
円形切削インサート1において、このように位相をずらす角度(α)を22.5度に設定することにより、
図4に示しているように、円形切削インサート1の上側面4aの繋ぎ部12aの側面中間線(N)側の端部(頂部(t1))を上底とし、下側面4bの平面状拘束面13a、13b、・・・、13hの側面中間線(N)上の辺を下底とした、切削インサート1の側面視で等脚台形となる8個の振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hを形成して配置することが可能になる。同様に、下側面4bの繋ぎ部12bの側面中間線(N)側の端部(頂部(t2))を上底とし、上側面4aの平面状拘束面10a、10b、・・・、10hの側面中間線(N)上の辺を下底とした、切削インサート1の側面視で等脚台形となる8個の振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hを形成して配置することが可能になる。さらに、側面中間線(N)上には、下側面4bの振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hの下底を兼ねている上側面4aの平面状拘束面10b、10c、・・・、10aの辺cと、上側面4aの振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hの下底を兼ねている下側面4bの平面状拘束面13a、13b、・・・、13hの辺gとを同一の長さmとし、かつ交互に繋いで配置することが可能になる。
これにより、両面型の円形切削インサートである切削インサート1について、例えば、上面部2の切れ刃6aの使用領域を替えて切削加工するためにインサート取付座に再装着した場合に、切れ刃6aの使用領域が替わっても同じ切削加工の性能を確保する、すなわち、切削加工の性能にばらつきが生じないようすることができる。また、下面部3の切れ刃6bを使用して切削加工を行う場合においても、上面部2の切れ刃6aと同じ切削加工の性能を確保することができる。
【0077】
本実施形態の両面型の円形切削インサート1において、側面基準線(N)(側面中間線(N))に沿って上側面4a及び下側面4bのそれぞれに設ける平面状拘束面及び振動防止用拘束面の数(r)を8個としているが、8個以外の数(r)としては、切削インサート1の上面部2の径の大きさに応じて、偶数の6個に設定することが望ましい。この理由は、円形切削インサート1の上面部2の径は、通常、10mm〜20mm程度とされているので、上記数(r)が6個又は8個の場合、円形切削インサート1の粉末成形体をプレス成形するための金型の製造が容易だからである。また、この円形切削インサート1の粉末成形体について粉末が均一に充填された成形体を製造するためには、上記数(r)を8個又は6個に設定することが望ましいからである。さらに、切れ刃6a、6bの使用領域の数を多くすることにより1つの切削インサートの切削加工の寿命を長くすることが望ましいからである。ここで、切れ刃6a、6bの使用領域の数を多くすることが望ましいが、切れ刃6a、6bの分割数が大きくなり一使用領域あたりの切れ刃の長さが短くなることを防止するために、平面状拘束面及び振動防止用拘束面の数(r)を10個以下とすることが好ましい。
なお、配置の位相ずらしの角度(α)は上側面4a及び下側面4bそれぞれの平面状拘束面及び振動防止用拘束面の数(r)(コーナー数)に応じて(360/2×r)度に設定することが好ましい。より好ましくは、18度(r=10)≦α≦(360/2×r)度とする。
【0078】
図6は、
図4に示す切削インサート1の側面部4における上側面4aの領域となるA−A線に沿った断面図である。すなわち、上側面4aに形成されている平面状拘束面10a、10b、・・・、10hにおける辺aと辺eの間の長さlを有する領域を通り、中心軸線Pと直交するA−A線に沿った断面図を示している。なお、
図6においては、説明の簡略化のために繋ぎ部12aの図示を省略し、その位置のみ符号を付して示している。
【0079】
図6に示されているように、上側面4aの周方向に隣接する平面状拘束面10aと10b、10bと10c、・・・、10hと10aが繋ぎ部12aを介して繋がる箇所では、この隣接する2つの平面状拘束面の辺a、辺eから所定の範囲の平面状拘束面を含む領域Sが、この繋ぎ部12aを突出頂部とする角部(コーナー部)15a、15b、・・・、15hを形成する。そして、これらの角部15a、・・・、15hは、これら角部15a、・・・、15hの位置に対応(角部と厚さ方向に対向)して下側面4bに配置されている平面状拘束面13a、13b、・・・、13hよりも切削インサート1の外側に突出した形状をなしている。言い換えると、角部15a、15b、・・・、15hはそれぞれ、周方向位置が同じ平面状拘束面13a、13b、・・・、13hよりも径方向外側に位置する。また、角部15a、15b、・・・、15hは上側面4aの切れ刃6aよりも径方向内側に位置する(
図7)。
この隣接する2つの平面状拘束面10aと10b、・・・、10hと10aが形成する角部15a、15b、・・・、15hは、本実施形態の円形切削インサート1が備えている回動防止面19a、19b、・・・、19h、すなわち円形切削インサート1を刃先交換式回転切削工具30のインサート取付座32に装着したときに、この円形切削インサート1の回動を防止するための手段として利用される。この回動防止面19a、19b、・・・、19hが円形切削インサート1の回動を防止する機能については後述する。
【0080】
同様に、
図4に示す切削インサート1について下側面4bの領域となるB−B線に沿った断面図、すなわち、下側面4bに形成されている平面状拘束面13a、13b、・・・、13hにおいて辺aと辺eの間の長さlを有する領域を通り、中心軸線Pと直交するB−B線に沿った断面図においても、
図6と同様に、周方向に隣接する平面状拘束面13aと13b、・・・、13hと13aが繋ぎ部12bを介して繋がる箇所では、隣接する2つの平面状拘束面13aと13b、・・・、13hと13aの辺a、辺eから所定の範囲の平面状拘束面を含む領域Sが、図示していないが、この繋ぎ部12bを突出頂部とする角部(コーナー部)16a、16b、・・・、16hを形成する。この角部(コーナー部)16a、16b、・・・、16hも、上側面4aの角部(コーナー部)15a、15b、・・・、15hと同様に、本実施形態の円形切削インサート1において回動防止面20a、20b、・・・、20h(図示していない)を構成する。
【0081】
上記したように、上側面4aにおいて、側面部4の周方向に隣接する平面状拘束面10aと10b、・・・、10aと10hが繋がる繋ぎ部12aとその近辺の平面状拘束面10a、10b、・・・、10hを含む領域Sは、角部(コーナ部)15a、15b、・・・、15hを形成している。この角部15a、15b、・・・、15hは、下側面4bの領域にある平面状拘束面13a、13b、・・・、13hよりも切削インサート1の外側に突出している。これにより、切削インサート1の側面視で台形形状をなす振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hは、上底となる頂部(t1)、すなわち、繋ぎ部12aの側面中間線(N)側の端部から下底gとなる側面中間線(N)に向かって下り傾斜する(厚さ方向に対し径方向内側に向かって傾斜する)傾斜面として形成され、かつ、側面部4の周方向に対する長さが頂部(上底)(t1)から側面中間線(N)に向かうにつれて漸次増大するように形成されている。
【0082】
下側面4bにおいても、上記上側面4aと同様に、切削インサート1の側面視で台形形状をなす振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hは、その上底となる頂部(t2)、すなわち、繋ぎ部12bの側面中間線(N)側の端部から側面基準線(N)上の下底cに向かって上り傾斜する(厚さ方向に対し径方向内側に向かって傾斜する)傾斜面として形成され、かつ、側面部4の周方向に対する長さが頂部(上底)(t2)から側面中間線(N)に向かうにつれて漸次増大するように形成されている。
このように、上側面4a及び下側面4bが備えている振動防止用拘束面は、側面部4の周方向に対する長さが側面中間線(N)に向かうにつれて漸次増大するように形成され、振動防止用拘束面の表面積が極力大きくされているので、優れた振動防止機能が発揮される。この振動防止用拘束面の振動防止機能の詳細については後述する。
【0083】
上記した上側面4aの振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11h、及び下側面4bの振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hが、それぞれの頂部(t1)及び頂部(t2)から側面中間線(N)に向かって上り、又は下り傾斜する傾斜面(厚さ方向に対し径方向内側に向かって傾斜する傾斜面)を形成していることは、
図5(a)及び(b)に、これらの振動防止用拘束面の傾斜面を傾斜面17a、17b、・・・、17h及び傾斜面18a、18b、・・・、18hとして図示されている。さらに、
図6には上側面4aが備えている角部(コーナー部)15a、15b、・・・、15hを図示している。
上記した上側面4aの振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11h及び下側面4bの振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hが下り傾斜、又は上り傾斜する角度、すなわち、中間面(M)と交差する角度は、40度〜60度の範囲に設定することが好ましい。その理由は、40度未満では振動防止用拘束面の面積が小さくなって、後述するように、インサート取付座32が備えている振動防止用壁面42との接触面積が小さくなるので、十分な振動防止効果が得られないからである。一方、60度を超えて大きい場合には、切削抵抗の分力が作用して振動防止用拘束面が振動防止用壁面42を押圧する力の、切削インサート1の厚さ方向の成分が小さくなり、振動防止効果が低下するからである。より好ましい上記交差角度は45度〜55度である。
【0084】
図7は、円形切削インサート1について、ネジ挿通穴5の中心軸線Pを通り、振動防止用拘束面14d、14hと交差する縦断面図(
図5(b)に示す直線Dに沿った断面図)を示している。
図7に示す点線の丸印内には、下側面4bが備えている振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hの表面の断面形状線の一例として、振動防止用拘束面14dと14hの断面が図示されている。この振動防止用拘束面14d、14hの断面は直線形状をなしている。このように、本実施形態は振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hを平坦な平面をなす拘束面で構成した例を示している。
側面部4の上側面4a及び下側面4bが備えている振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11h及び14a、14b、・・・、14hは、
図7に示すように平坦な平面形状に限定されるものではない。
なお、
図7に示しているように、ネジ挿通穴5の内周面には、円形切削インサート1を着座面33に固定するときに、ネジ挿通穴5を挿通させたクランプネジ35の頭部の下端部と係合させるための、厚さ方向内側に向かって内径を漸次縮小させた内径縮小部5aが形成されている。
【0085】
(円形切削インサートの第2の実施形態)
続いて、本発明の円形切削インサートの第2の実施形態について説明する。
図8は第2の実施形態となる円形切削インサート25の斜視図、
図9は円形切削インサート25の側面図、
図10は
図9に示す側面図を拡大した図である。第2の実施形態となる切削インサート25が、前記した第1の実施形態の切削インサート1と比べて主に異なっている事項は次の(1)及び(2)に記載の通りである。なお、第1の実施形態と同等の構成については第1の実施形態と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0086】
(1)第2の実施形態においては、側面部4の上側面4aと下側面4bの周方向に順次配置した8個の平面状拘束面について、これら隣接する2つの平面状拘束面の端部となる稜線どうし(辺aと辺e)を直接繋いだ構成としている。以下の説明において、この隣接する2つの平面状拘束面の端部の稜線どうしを繋いだ部位を、「繋ぎ稜線部」と名称付けして記載する。この繋ぎ稜線部26a、26bは、第1の実施形態が備えている繋ぎ部12a、12bに替わる繋ぎ部であって、微小な幅を有する稜線から構成されている。言い換えると、第2の実施形態では、第1の実施形態の繋ぎ部12a、12bの周方向の幅wを極めて小さくして繋ぎ稜線部26a、26bとしている。
(2)上記(1)により、第2の実施形態においては、振動防止用拘束面27a、27b、・・・、27hは、切削インサート25の側面視で三角形(二等辺三角形又は略二等辺三角形)の形状をなす。
なお、第2の実施形態となる切削インサート25が備えている各平面状拘束面の形状は、第1の実施形態の切削インサート1とほぼ同じ形状を有するので、
図8〜
図10では、第1の実施形態で付与した平面状拘束面10a、10b、・・・、10h、及び平面状拘束面13a、13b、・・・、13hの符号と各辺a、b、・・・fの符号を、そのまま付している。
【0087】
以下、第2の実施形態となる切削インサート25が備えている特徴について説明する。
図10に示すように、上側面4aの周方向に順次配置されている8個の平面状拘束面10a、10b、・・・、10hは、隣接する2つの平面状拘束面10aと10b、10bと10c、・・・、10hと10aはその稜線が微細な(微小な周方向幅を有する)繋ぎ稜線部26aを介して繋がっている。上記したように、この繋ぎ稜線部26aは、隣接する2つの平面状拘束面10aと10b、10bと10c、・・・、10hと10aの周方向の端部となる辺aと辺eを一つの微細な繋ぎ稜線としているので、切削インサート25の粉末成形体を金型を用いてプレス成形するときに、この繋ぎ稜線を形成することができる。なお、この繋ぎ稜線部26aは、欠けを防止するためにプレス成形時にR形状を有するように成形し、粉末成形体の焼成後においてはこの繋ぎ稜線部26aは0.2R程度の微小な線幅を有する稜線(曲面)にすることが好ましい。
同様に、下側面4bの周方向に順次配置されている8個の平面状拘束面13a、13b、・・・、13hについても、隣接する2つの平面状拘束面13aと13b、13bと13c、・・・、13hと13aは繋ぎ稜線部26bを介して周方向に接続されている。
【0088】
上側面4aにおいて、それぞれ繋ぎ稜線部26aを介して隣接する平面状拘束面10aと10b、10bと10c、・・・、10hと10aの間に設けられている8個の振動防止用拘束面27a、27b、・・・、27hは、切削インサート25の側面視で三角形の形状をなすように形成されている。なお、切削インサート25は両面型の円形切削インサートであるので、切れ刃6a、6bの使用領域が替わっても同じ切削加工の性能を確保するために、8個の振動防止用拘束面27a、27b、・・・、27hを、切削インサート25の側面視で二等辺三角形、又は略二等辺三角形(又は正三角形もしくは略正三角形)の面とする。
【0089】
図10に示すように、上側面4aが備えている各振動防止用拘束面27a、27b、・・・、27hの三角形では、各繋ぎ稜線部26aの側面中間線(N)側の端部を頂点(頂角)(t3)とし、この頂角をなす頂点(t3)に対向する底辺を側面中間線(N)上の一辺gとし、斜辺は繋ぎ稜線部26aを介して隣接する2つ平面状拘束面の辺bと辺dから構成される。また、各振動防止用拘束面27a、27b、・・・、27hは、頂点(t3)から底辺gに向けて下り傾斜する(厚さ方向に対し径方向内側に傾斜する)傾斜面をなすように形成されているとともに、側面中間線(N)に向かうにつれて、側面部4の周方向における長さが漸次増大するように形成されている。
【0090】
下側面4bにおいても上側面4aと同様に、それぞれ微細な繋ぎ稜線部26bを介して隣接する平面状拘束面13aと13b、13bと13c、・・・、13hと13aが繋がれているとともに、隣接する平面状拘束面の間に設けられている振動防止用拘束面28a、28b、・・・、28hは、切削インサート25の側面視で三角形(二等辺三角形又は正三角形)をなすように形成されている。この各振動防止用拘束面28a、28b、・・・、28hの三角形では、各繋ぎ稜線部26bの側面中間線(N)側の端部を頂点(頂角)(t4)とし、この頂角をなす頂点(t4)に対向する底辺を側面中間線(N)上の一辺cとし、斜辺は繋ぎ稜線部26bを介して隣接する2つ平面状拘束面の辺bと辺dから構成されている。また、各振動防止用拘束面28a、28b、・・・、28hは、頂点(t4)から底辺cに向けて上り傾斜する(厚さ方向に対し径方向内側に傾斜する)傾斜面をなすように形成されているとともに、側面中間線(N)に向かうにつれて、側面部4の周方向における長さが漸次増大する。
なお、上側面4aと下側面4bが備えている繋ぎ稜線部26aと26bの長さ、すなわち、辺a又は辺eの長さであってネジ挿通穴5の中心軸線P方向における長さは、円形切削インサート25の厚さの0.1〜0.15倍程度に設定することが好ましい。
【0091】
第2の実施形態となる切削インサート25のネジ挿通穴5の中心軸線Pを通り、振動防止用拘束面と交差する縦断面図において示される振動防止用拘束面の断面形状線は、第1の実施形態において
図7に示されているように直線形状をなすように形成する他に、緩やかな凸形状又は凹形状をなすようにしてもよい(
図17)。
【0092】
本発明の円形切削インサートの第1の実施形態においては、側面部4の周方向に隣接する2つ平面状拘束面の間には所定の幅wを有する繋ぎ部12a又は12bを設け、この繋ぎ部12a(12b)を介して隣接する平面状拘束面どうしを繋ぐことにより、繋ぎ部の強度を確保している。一方、円形切削インサートの第2の実施形態においては、側面部4の周方向に隣接する2つ平面状拘束面は、一つのR形状をなす微細な(微小な幅を有する)直線状の稜線(繋ぎ稜線部26a又は26b)を介して繋がれている。これにより、第2の実施形態の円形切削インサート25においては、その粉末成形体をプレス成形するための金型を、第1の実施形態の円形切削インサート1の粉末成形体をプレス成形する金型と比較して、金型のキャビティの構造を簡単にすることができ、これにより、粉末成形体の粉末の充填密度を均一にすることができるという効果を得られる。
【0093】
なお、第2の実施形態となる円形切削インサート25の上側面4aの領域において、上側面4aの周方向に隣接する平面状拘束面10aと10b、10bと10c、・・・、10hと10aが繋ぎ稜線部26aを介して繋がる箇所では、隣接する2つの平面状拘束面10aと10b、・・・の辺a、辺eから上側面4aの所定の範囲の平面状拘束面を含む領域が、前記した第1の実施形態に係る円形切削インサート1と同様に、繋ぎ稜線部26aを突出した中央部とした角部(コーナー部)を形成する。これらの角部は、その角部の配置される位置と対応(対向)して下側面4bに配置されている平面状拘束面13a、13b、・・・よりも切削インサート25の外側に突出した形状をなしている。言い換えると、上記角部は、それぞれ、周方向位置が同じ平面状拘束面13a、13b、・・・、13hよりも径方向外側に位置する。また、角部は上側面4aの切れ刃6aよりも径方向内側に位置する。
【0094】
上記した隣接する2つの平面状拘束面10aと10b、10bと10c、・・・、10hと10aが形成する各角部は、前記した第1の実施形態となる切削インサート1と同様に、後述する回動防止面19a、19b、・・・(
図10には図示していない)、すなわち、円形切削インサート25を刃先交換式回転切削工具30のインサート取付座32に装着したときに、この円形切削インサート25の回動を防止するための手段として利用される。
上側面4aと同様に、円形切削インサート25の下側面4bにおいても、隣接する平面状拘束面13aと13b、13bと13c、・・・、13hと13aが繋ぎ稜線部26bを介して繋がる箇所とその近傍の領域は角部(コーナ部)を形成し、この角部は円形切削インサート25の回動を防止するための手段(図示していない回動防止面20a、20b、・・・20h)として利用される。
【0095】
(刃先交換式回転切削工具の実施形態)
続いて、上記した本発明に係る両面型の円形切削インサートを装着した刃先交換式回転切削工具について、その一実施形態の構成と円形切削インサートをインサート取付座に装着して拘束する拘束構造を、
図11〜
図16を参照して説明する。ここで、以下の刃先交換式回転切削工具の説明において、刃先交換式回転切削工具の回転軸に沿う方向を軸方向といい、回転軸に直交する方向を径方向(工具本体の径方向)といい、回転軸周りに周回する方向を周方向(工具本体の周方向)という。
【0096】
図11は、第1の実施形態の円形切削インサート1を装着した本実施形態に係る刃先交換式回転切削工具30の一例を示す斜視図である。刃先交換式回転切削工具30は、工具本体31から構成されている。工具本体31は、その先端部31aの外周部31cに沿って所定の間隔で形成された複数のインサート取付座32を備えている。各インサート取付座32は、互いに同一形状を有し、回転軸Oを中心に回転対称となるように工具本体31の周方向に等間隔に設けられている。
図11は、工具本体31の回転軸Oを中心にして3つのインサート取付座32を120度間隔で設けた例を示している。また、インサート取付座32は、回転軸Oを中心とする略ドーナツ形状の先端部31aを、軸方向先端から、工具本体31の径方向及び軸方向に略平行であり且つ工具本体31の回転する方向に向く面と、この面に略垂直な面とで切り欠いて形成された領域に設けられている。各インサート取付座32に円形切削インサート1が装着されて、クランプネジ35の締め付け操作により切削インサート1はインサート取付座32に強固に固定される。工具本体31の後端部31bは、切削加工を行う工作機械の主軸に取り付けられているアーバー部材との接合を行うための部位である。
図11に示す符号「R」は、被削材の切削加工を行うときに、工具本体31が回転軸Oを中心として回転する方向を示している。ここで、軸方向に沿う工具本体31の後端部31bから先端部31aに向かう方向を軸方向先端側、その反対の方向を軸方向後端側という。また、工具本体31の径方向のうち回転軸Oに接近する向きを工具本体31の径方向内側といい、回転軸Oから離間する向きを工具本体31の径方向外側という。さらに、工具本体31の周方向のうち、工具本体31が回転する方向Rを回転方向Rといい、その反対の向きを回転方向Rの反対側という。
【0097】
図12は工具本体31が備えている複数のインサート取付座32について、その一つの構成を説明するためのインサート取付座32の斜視図であって、円形切削インサート1を装着する前の状態を示している。
図12に示しているように、インサート取付座32は着座面33と、第1の拘束壁38及び第2の拘束壁39が形成された拘束壁(拘束壁面)と、を備えている。着座面33は工具本体31の回転方向Rを向いた面であって、円形切削インサート1をインサート取付座32に装着するときに、円形切削インサート1の上面平坦部8a又は下面平坦部8bを着座させるための着座面である。着座面33は、工具本体31の軸方向及び径方向に略平行に延在する平面である。着座面33の中央部にはネジ穴34が穿孔されている。このネジ穴34は、円形切削インサート1をインサート取付座32に装着してクランプネジ35の締め付けにより固定するときに、円形切削インサート1のネジ挿通穴5を挿通させたクランプネジ35をネジ込むためのネジ穴である。言い換えると、ネジ穴34は、その内周面にクランプネジ35の雄ネジに対応する雌ネジを形成した穴であり、円形切削インサート1を固定するときに、ネジ挿通穴5を挿通させたクランプネジ35の雄ネジと螺合する。
【0098】
第1の拘束壁38は、溝部36aを介して着座面33に対してほぼ垂直となる方向に立設され、第2の拘束壁39は、溝部36bを介して着座面33に対してほぼ垂直となる方向に立設されている。第1の拘束壁38は工具本体31の軸方向先端側を向いている。第2の拘束壁39は工具本体31の径方向外側を向いている。
図12に示す符号「37」は、第1の拘束壁38と第2の拘束壁39を繋ぐヌスミ部である。溝部36a、36bは着座面33に沿って延びる略円筒状の内周面を有する溝である。溝部36aは着座面33よりも工具本体31の軸方向の後端側に位置している。溝部36bは着座面33よりも工具本体31の径方向内側に位置している。工具本体31の回転方向Rにおいて、溝部36a、36bの溝底、すなわち回転方向Rを向く面は、着座面33よりも回転方向Rの反対側に位置している。溝部36aの溝壁、すなわち軸方向先端側を向く面は、工具本体31の軸方向において、後述する第1の拘束壁38の平面状拘束壁面40よりも後端側に位置している。溝部36bの溝壁、すなわち径方向外側を向く面は、工具本体31の径方向において、後述する第2の拘束壁39よりも内側に位置している。
第1の拘束壁38と第2の拘束壁39は、円形切削インサート1をインサート取付座32に装着してクランプネジ35の締め付けにより固定するとき、及び固定した後に、この円形切削インサート1に対して、インサート取付座32の所定の位置に円形切削インサート1を拘束する機能(割り出し機能)と、被削材の切削加工中に円形切削インサート1の回転(又は回動)を防止する機能(回動防止機能)と、被削材の切削加工中に発生する振動を防止又は抑制する機能(振動防止機能)と、のうちのいずれか2つ以上の機能を発揮させるための拘束壁面である。
図12に示しているように、第1の拘束壁38と第2の拘束壁39は、角度(β)をなして交差するように形成されている。より詳細には、第1の拘束壁38と第2の拘束壁39の延長平面が角度(β)で交差しており、第1の拘束壁38の径方向内側端と第2の拘束壁39の軸方向後端側端とは、凹円筒面状のヌスミ部37を介して滑らかに接続される。以下、第1の拘束壁38及び第2の拘束壁39の構成と、その機能について説明する。
【0099】
図12に示しているように、第1の拘束壁38は、着座面33に対し工具本体31の外周部31c側に設けた溝部36aを介して立設されており、第1の拘束壁38の着座面33方向(軸方向先端側)を向く面には平面状拘束壁面40と、回動防止用壁面41と、が形成されている。平面状拘束壁面40は、平面形状をなす着座面33に垂直な壁面として形成される。回動防止用壁面41は、所定の奥行き深さを有する略V字状の凹部41aとして形成されている。言い換えると、凹部41aは、着座面33から工具本体31の回転方向Rに離間し且つ着座面33に略平行な略三角形状の底面と、着座面33に垂直な方向に延びる側面と、を有する柱状に平面状拘束壁面40を切り欠いて形成される。凹部41aの側面は、平面状拘束壁面40に鈍角をなして接続する平面部と、工具本体31の径方向内側において当該平面部に滑らかに連続する曲面部と、からなる(
図16)。さらに、着座面33に対する平面状拘束壁面40と回動防止用壁面41の形成位置は、平面状拘束壁面40が回動防止用壁面41よりも下側に位置するように形成されている。すなわち、平面状拘束壁面40と回動防止用壁面41の形成(配置)位置は、着座面33に対して段差を設けて形成されている。言い換えると、着座面33に垂直な方向において、回動防止用壁面41の方が平面状拘束壁面40よりも着座面33から離れた位置にある(回動防止用壁面41の方が高い位置にある)。
【0100】
第1の拘束壁38において、着座面33に対して段差を設けて形成された平面状拘束壁面40と回動防止用壁面41のうちの平面状拘束壁面40は、円形切削インサート1をインサート取付座32に装着して固定したときに、円形切削インサート1の下側面4bが備えている平面状拘束面13a、13b、・・・、13hのうちのいずれか一つを拘束するための壁面になる。言い換えると、円形切削インサート1をインサート取付座32に固定したときに、平面状拘束壁面40は、円形切削インサート1の下側面4bの平面状拘束面13a、13b、・・・、13hのうち1つと面接触する。これにより、切削インサート1が平面状拘束壁面40に対向する方向に位置決めされる。
【0101】
これに対して、回動防止用壁面41に形成されているV字状の凹部41aは、円形切削インサート1の上側面4aが備えている角部(コーナー部)15a、15b、・・・、15hのいずれか一つ、すなわち、回動防止面19a、19b、・・・、19hのいずれか一つを係合させて拘束するための壁面になる。言い換えると、円形切削インサート1をインサート取付座32に固定したときに、凹部41aの側面が、円形切削インサート1の上側面4aの回動防止面19a、19b、・・・、19hのうち1つと接触する。これにより、後述するように切削加工中に切削インサート1がクランプネジ35回りに回動することを防止できる。
このように第1の拘束壁38は、円形切削インサート1の平面状拘束面13a、13b、13c、・・・、13hのうちのいずれか一つと、回動防止面19a、19b、・・・、19hのいずれか一つと、を同時に拘束するための拘束壁になる。すなわち、第1の拘束壁38は、前記の割り出し機能と回動防止機能とを主に備えている。従って、着座面33に対して段差を設けて形成された第1の拘束壁38の平面状拘束壁面40と回動防止用壁面41の形成位置は、円形切削インサート1を着座面33に着座させて固定した状態を考慮して予め決定しておく必要がある。具体的には、着座面33に垂直な方向において、回動防止用壁面41と平面状拘束壁面40との境界、すなわち、凹部41aの底面と、着座面33との距離は、切削インサート1の上面部2から上側面4aの振動防止用拘束面11a、・・・、11hの頂部(t1)までの距離以上とし、且つ上面部2から下側面4bの振動防止用拘束面14a、・・・、14hの頂部(t2)までの距離より短くすることが好ましい。当該距離は、切削インサート1の上面部2から中間面(M)までの距離とすることがより好ましい。
【0102】
第2の拘束壁39は、着座面33に対して段差を設けて形成された振動防止用壁面42と平面状拘束壁面43とを備えている。詳細には、平面状拘束壁面43は着座面33に垂直な壁面であり、溝部36bに沿って延びる平面である。平面状拘束壁面43と第1の拘束壁38の平面状拘束壁面40とは角度βをなす。振動防止用壁面42は、平面状拘束壁面43と鈍角をなし、平面状拘束壁面43と溝部36bとの間に延在している。また、振動防止用壁面42は、平面状拘束壁面43の一端から溝部36bに向かって、工具本体31の径方向内側に傾斜するように延びる。また、振動防止用壁面42と平面状拘束壁面43との境界をなす稜線は、着座面33に平行である。本実施形態においては、振動防止用壁面42は平面である。
振動防止用壁面42は円形切削インサート1の下側面4bが備えている振動防止用拘束面14a、14b、14c、・・・、14hのいずれか一つを拘束するための壁面になる。振動防止用壁面42は、円形切削インサート1をインサート取付座32に装着したときに、円形切削インサート1が備えている振動防止用拘束面の傾斜面と接触(面接触)するように傾斜した面を有するように形成されている。これにより、後述するように、切削加工中における切削インサート1の振動を防止できる。
【0103】
これに対して、平面状拘束壁面43は、円形切削インサート1の上側面4aが備えている平面状拘束面10a、10b、10c、・・・、10hのいずれか一つであって、上記した振動防止用壁面42と接触(拘束)した円形切削インサート1の下側面4bが備えている振動防止用拘束面の位置に対応(対向)する平面状拘束面を拘束するための壁面になる。言い換えると、円形切削インサート1をインサート取付座32に固定したときに、平面状拘束壁面43は、円形切削インサート1の上側面4aの平面状拘束面10a、10b、・・・、10hのうち1つと面接触する。これにより、円形切削インサート1が平面状拘束壁面43に対向する方向に位置決めされる。このように、第2の拘束壁39は、前記の振動防止機能と割り出し機能を主に備えている。
従って、着座面33に対して段差を設けて形成されている第2の拘束壁39の振動防止用壁面42と平面状拘束壁面43の形成位置は、円形切削インサート1を着座面33に着座させて固定した状態を予め考慮して決定しておく必要がある。具体的には、着座面33に垂直な方向において、振動防止用壁面42と平面状拘束壁面43との境界と、着座面33との距離を、切削インサート1の上面部2(下面部3)から中間面(M)までの距離と等しくすることが好ましい。
【0104】
なお、前記した、第1の拘束壁38と第2の拘束壁39とが交差する交差角度(β)は、上側面4aと下側面4bにそれぞれ8個の平面状拘束面と8個の振動防止用拘束面を配置した実施形態(8コーナータイプ)の円形切削インサート1をインサート取付座32に装着する場合には、67.5度(90度−(360度/(2×8コーナー)))に設定される。また、6コーナータイプの円形切削インサート(上側面4aと下側面4bそれぞれに6個の平面状拘束面と6個の振動防止用拘束面が設けられている円形切削インサート)を装着する場合には、交差角度(β)は60度(90度−(360度/(2×6コーナー)))になる。このように、本実施形態において、上記角度βは、円形切削インサート1がインサート取付座32に取り付けられた場合に、各平面状拘束壁面40、43に当接する2つの平面状拘束面のなす角度に従って設定されている。なお、後述するように、上記角度βは鋭角であることが好ましい。
【0105】
図12に示すインサート取付座32の着座面33に、
図13に示す円形切削インサート1の下面部3の下面平坦部8b、又は上面部2の上面平坦部8aの一方を着座させてクランプネジ35の締め付けにより、円形切削インサート1をインサート取付座32に着脱自在に装着して固定することができる。
この円形切削インサート1のインサート取付座32への装着・固定操作において、例えば、上面部2の未使用の切れ刃6aを切削加工に使用する場合には、
図13に太線矢印で示しているように、着座面33の手前側(工具本体31の径方向外側)から切削インサート1の下面部3(下面平坦部8b)を着座面33に対して平行となるように横方向(着座面に平行な方向)に移動させながら装着して、円形切削インサート1の上側面4aが備えている回動防止面19a、19b、・・・、19hのいずれか一つを、回動防止用壁面41の凹部41aと係合させる。言い換えると、回動防止面19a、19b、・・・、19h(コーナー部15a、15b、・・・、15h)のいずれか一つを構成する2つの平面状拘束面10a、10b、・・・、10hのうち、切削インサート1を固定する際にクランプねじ35を回転させる方向を向く平面状拘束面を、凹部41aの側面の平面部に当接させる。好ましくは、これらの面を面接触させる。この操作により、回動防止用壁面41の凹部41aと係合した回動防止面と対向して円形切削インサート1の下側面4b側に配置されている平面状拘束面を、第1の拘束壁38の平面状拘束壁面40と接触させる。言い換えると、円形切削インサート1の周方向において当該回動防止面と同じ位置に配置された下側面4bの平面状拘束面を平面状拘束壁面40と面接触させる。
【0106】
図14は円形切削インサート1をインサート取付座32に装着して固定したときの状態を示す、工具本体31の先端部31aをその前方(軸方向先端側)から見た図である。
図14に示す矢印Fは、円形切削インサート1の上面部2が備えている切れ刃6aを用いて切削加工を行うときに、円形切削インサート1の上面部2に作用する切削抵抗を示している。
【0107】
図15は、
図14において円形切削インサート1をインサート取付座32に装着して固定したときに、円形切削インサート1の上面部2方向(回転方向Rの反対側)から工具本体31を見た図である。
図15に示す符号「L」は、刃先交換式回転切削工具30の回転軸O方向における最下点を示している。通常、円形切削インサート1を装着した刃先交換式回転切削工具30により被削材の切削加工を行う場合、円形形状をなす切れ刃6aのうち、この最下点Lからネジ挿通穴5の中心軸線Pに対して工具本体31の外周部31c方向(工具本体31の径方向外側)に45度までの範囲内の切れ刃が使用される。
【0108】
(インサート取付座が円形切削インサートを拘束するための拘束構造)
続いて、円形切削インサート1を工具本体31のインサート取付座32に装着してクランプネジ35の締め付けにより固定したときに、工具本体31のインサート取付座32が円形切削インサート1を拘束するための拘束構造(拘束関係)について説明する。なお、この「拘束する」とは、第1の実施形態に係る円形切削インサート1(又は第2の実施形態に係る円形切削インサート25)を装着した刃先交換式回転切削工具30が前記した「割り出し機能」と「回転防止機能」と「振動防止機能」とを発揮するために、工具本体31のインサート取付座32が備えている第1の拘束壁38及び第2の拘束壁39が円形切削インサート1(又は円形切削インサート25)の側面部4の適切な部位を拘束する(適切な部位に接触する)ことを示す。
【0109】
図16は、
図12に示す刃先交換式回転切削工具30のインサート取付座32に第一の実施形態の円形切削インサート1を装着(固定)した状態を示す断面図であって、(a)はこの円形切削インサート1の中間面(M)に沿った工具本体31及び円形切削インサート1の断面を上面部2側から見た図、(b)は
図4に示すA−A線に沿った工具本体31及び円形切削インサート1の断面を上面部2側から見た図である。なお、
図16(a)(b)においては、説明の簡略化のために繋ぎ部12a、12bの図示を省略している。
図16(a)に示す「β」は、
図12に示している角度(β)であって、第1の拘束壁38と第2の拘束壁39とが交差する角度(β)を示している。
なお、
図16は、インサート取付座32に円形切削インサート1を装着して固定したときに、本実施形態の特徴となるインサート取付座32が円形切削インサート1を拘束するための拘束構造を説明するための図である。以下、
図16を参照してこの拘束構造について説明する。
【0110】
(第1の拘束壁38による円形切削インサートを拘束する拘束構造)
第1の拘束壁38による円形切削インサート1の側面部4を拘束するための拘束構造は、下記の第1の拘束構造及び第2の拘束構造を備えている。
【0111】
(第1の拘束構造)
第1の拘束構造は、円形切削インサート1のコーナー部15a、・・・、15h(16a、・・・、16h)(回動防止面19a、・・・、19h(20a、・・・20h))と、インサート取付座32の回動防止用壁面41(略V字状の凹部41a)とが係合する構造である。
図16(b)に示すように、円形切削インサート1の上側面4aの回動防止面19hとなる角部(コーナー部)15hは、第1の拘束壁38が備えている回動防止用壁面41の略V字状の凹部41aと係合する。この凹部41aに、円形切削インサート1の上側面4aが備えている角部の一つである角部15h(回動防止面19h)が嵌入して両者が係合している第1の拘束構造を
図16(b)は示している。言い換えると、第1の拘束構造では、コーナー部15hが凹部41aに挿入され、コーナー部15h(回動防止面19h)を構成する平面状拘束面10hの一部が凹部41aの側面の平面部に面接触している。
【0112】
また、
図16(b)に示しているように、この係合関係はクランプネジ35を右回転の(
図16(b)において時計回り)ネジ締めにより円形切削インサート1をインサート取付座32に固定したときに、V字状の凹部41aにおいて
図16(b)の紙面の右側の壁面(凹部41aの側面の平面部)が角部15hの一方の平面部(平面状拘束面10h)と接触・係合される。そして、
図14に示しているように、被削材の切削加工中に円形切削インサート1に作用する切削抵抗Fについて、その分力は
図16(b)に示す円形切削インサート1に対して時計回り方向に作用する。そのため、回動防止用壁面41の略V字状の凹部41aと円形切削インサート1の角部15h(回動防止面19h)との係合関係(第1の拘束構造)は、切削加工中における前記した円形切削インサート1の回動を防止する回動防止機能を発揮する。
【0113】
(第2の拘束構造)
第2の拘束構造は、円形切削インサート1の平面状拘束面13a、・・・、13h(10a、・・・、10h)とインサート取付座32の平面状拘束壁面40とが係合する構造である。
図16(a)は、インサート取付座32の第1の拘束壁38が備えている平面状拘束壁面40が、円形切削インサート1の下側面4bが備えている平面状拘束面13a、13b、13c、・・・、13hのうちの平面状拘束面13hと平面どうしで係合している拘束構造を示している。言い換えると、第2の拘束構造では、平面状拘束面13hが平面状拘束壁面40に面接触している。この拘束構造は、後述する第3の拘束構造と協調して、円形切削インサート1をインサート取付座32に誤りなく正確な位置に位置決めする機能(割り出し機能)を発揮する。
【0114】
このように、第1の拘束壁38に段差を設けて形成した平面状拘束壁面40と回動防止用壁面41のV字状をなす凹部41aとは、それぞれ円形切削インサート1の下側面4bの平面状拘束面13a、・・・、13hの一つ、及びこの平面状拘束面に厚さ方向に対向して配置されている上側面4aの回動防止面19a、・・・、19hの一つを拘束することになる。詳細には、第1の拘束壁38に設けた平面状拘束壁面40と凹部41aの平面部とは、所定の角度で交差している。そのため、上側面4aの回動防止面19a、・・・、19hの一つに作用する回動抑止力、及び下側面4bの平面状拘束面13a、・・・、13hの一つに作用する拘束力は、切削インサート1のネジ挿通穴5の中心軸線Pの周りに発生する回動力に抗う方向に作用する。これに加え、上記回動抑止力及び拘束力は、後述する第3の拘束構造と共働して、切削加工中に中心軸線Pの周りに発生する時計回り及び反時計回り両方向の回転微動作、又は振動を効果的に防止する。さらに、円形切削インサート1の誤装着を防止するという割り出し機能も発揮される。
【0115】
(第2の拘束壁39による円形切削インサートを拘束する拘束構造)
第2の拘束壁39による円形切削インサート1の側面部4に対する拘束構造は、下記第3の拘束構造及び第4の拘束構造を備えている。
【0116】
(第3の拘束構造)
第3の拘束構造は、円形切削インサート1の平面状拘束面10a、・・・、10h(13a、・・・、13h)とインサート取付座32の第2の拘束壁39が備えている平面状拘束壁面43とが係合する構造である。
図16(b)に示す第2の拘束壁39が備えている平面状拘束壁面43が、円形切削インサート1の上側面4aが備えている平面状拘束面10a、10b、10c、・・・、10hのうち一つの平面状拘束面10cと平面どうしで係合している拘束構造を、
図16(b)は示している。言い換えると、第3の拘束構造では、平面状拘束面10cが平面状拘束壁面43に面接触している。第3の拘束構造は、上記第2の拘束構造の第1の拘束壁38の平面状拘束壁面40が円形切削インサート1の下側面4bが備えている平面状拘束面13hと平面どうしで係合している第2の拘束構造と協調して、円形切削インサート1をインサート取付座32に対して装着するときに誤操作なく、正確な位置に位置決めする割り出し機能を高く発揮することに貢献する。
【0117】
本実施形態の刃先交換式回転切削工具において、上記した割り出し機能を高く発揮することが可能になる理由は次の(1)及び(2)に記載の通りである。
(1)第1の拘束壁38が備えている平面状拘束壁面40により、円形切削インサート1の下側面4bが備えている平面状拘束面13a、・・・、13hの一つが拘束され、さらに、第2の拘束壁39が備えている平面状拘束壁面43により円形切削インサート1の上側面4aが備えている平面状拘束面10a、・・・、10hの一つが拘束され、かつ、第1の拘束壁38の平面状拘束壁面40と第2の拘束壁39の平面状拘束壁面43は鋭角の交差角度β(平面状拘束壁面40が当接する平面状拘束面13a、・・・、13hの一つと、平面状拘束壁面43が当接す平面状拘束面10a、・・・、10hの一つとのなす角度に等しい角度)をもって対向(交差)するように形成されている。そのため、クランプネジ35を緩めて円形切削インサート1の再装着の操作を行うとき、あるいは新しい切削インサート1を装着する操作を行うときに、誤装着することなく、円形切削インサート1をインサート取付座32の正確な位置に位置決めすることが可能になる。
【0118】
(2)円形切削インサート1をインサート取付座32に装着するときに、円形切削インサート1の回動防止面19a、・・・、19h(20a、・・・、20h)の一つをインサート取付座32の第1の拘束壁38に設けた回動防止用壁面41のV字状凹部41aと嵌合(係合)させる必要があるので、円形切削インサート1のインサート取付座32に対する誤装着を確実に防止することが可能になる。
【0119】
(第4の拘束構造):
第4の拘束構造は、円形切削インサート1が備えている振動防止用拘束面11a、・・・、11h(14a、・・・、14h)とインサート取付座32の第2の拘束壁39が備えている振動防止用壁面42との接触による係合構造である。
図16(a)に示すインサート取付座32の第2の拘束壁39において、符号14bで示されている部分は円形切削インサート1の下側面4bが備えている振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hのうちの一つである。この振動防止用拘束面14bは、第2の拘束壁39が備えている振動防止用壁面42と接触して係合していることを、
図16(a)は示している。なお、振動防止用壁面42は、円形切削インサート1の傾斜した各振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hの傾斜面に対応して接触係合する(面接触する)傾斜面とされているので
図16(a)には図示できない。従って、
図16(a)にはこの振動防止用壁面42が形成された領域を点線で図示している。
【0120】
図16(b)に示す矢印Y方向の視点から円形切削インサート1を見た状態を示す
図14(
図13)は、第2の拘束壁39の振動防止用壁面42がネジ穴34から離れる方向に傾斜した傾斜面として形成されていることを示している。言い換えると、振動防止用壁面42は工具本体31の径方向内側から外側に向かって回転方向Rに傾斜するように延びる面である。そして、円形切削インサート1を装着した
図14においては、円形切削インサート1の下側面4bが備えている振動防止拘束面14bが、第2の拘束壁39の振動防止用壁面42と接触係合している(面接触している)状態が図示されている。この第4の拘束構造は、本実施形態において被削材の切削加工中における振動の発生を防止又は抑制する機能(振動防止機能)を発揮する。
なお、第2の拘束壁39が備えている振動防止用壁面42は、
図12に示しているように、平面状拘束壁面43の下端部に沿って傾斜面として形成されているとともに、その形成長さは平面状拘束壁面43の長さとほぼ同一にしている。これにより、円形切削インサート1を
図13に示すようにインサート取付座32に装着するときに、円形切削インサート1の装着操作が容易になるとともに、装着時の誤操作を防ぐことが可能になる。
【0121】
上記した第4の拘束構造において、第2の拘束壁39の振動防止用壁面42と円形切削インサート1の下側面4bが備えている振動防止用拘束面14hとの接触係合が、振動の発生を防止又は抑制する機能を発揮する理由を説明すると次のようになる。
【0122】
円形切削インサート1を装着した刃先交換式回転切削工具30において、切れ刃6a(6b)に作用する切削抵抗のうち、切削工具30の切れ刃6a(6b)の回転軌跡における円周接線方向に対する分力が切削インサート1の振動発生に大きく寄与していると考えられる。そこで、上記した本実施形態の刃先交換式回転切削工具30が備えている振動防止機能は、この回転軌跡における円周接線方向の分力に反発する力を、クランプネジ35以外でも受け止めることができるように、両面型の円形切削インサート1の上側面4aと下側面4bに、それぞれ振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11hと、振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hを設けた。そして、円形切削インサート1をインサート取付座32に装着したときには、円形切削インサート1が備えている振動防止用拘束面の傾斜面を振動防止用壁面42に接触させた状態にしている(
図14参照)。
【0123】
そして、上記した円形切削インサート1が備えている一つの振動防止用拘束面の傾斜面が振動防止用壁面42と接触した状態で被削材の切削加工を行っているときに、切削抵抗力により振動が発生すると、この振動は、上記円形切削インサート1側の振動防止用拘束面を振動防止用壁面42に対して押圧する作用を奏する。この押圧する作用は、上記した切削抵抗の切削工具の切れ刃6a(6b)の回転軌跡における円周接線方向に対する分力に起因する。振動防止用拘束面と振動防止用壁面42とが面接触しているので、この押圧力に対して、インサート取付座32の振動防止用壁面42は、切削抵抗のこの円周接線方向に対する分力を受け止めて、円形切削インサート1の振動防止用拘束面とより強く接触係合してその拘束力を維持しながら、振動の発生を防止又は抑制する作用を奏する。
【0124】
なお、前記したように、振動防止用壁面42は、円形切削インサート1が備えている振動防止用拘束面の傾斜面と対応して接触係合するように(面接触するように)傾斜した面を有しているので、切削抵抗の切削工具30の切れ刃6a(6b)の回転軌跡における円周接線方向に対する分力を受け止める面積を大きくすることができる。これにより、切削加工中における振動発生の防止効果をより高くすることが可能になる。さらに、振動防止用壁面42が、切削加工に使用する切れ刃(
図15に示す前記した切れ刃6aの最下点Lから工具本体31の外周部31c方向(工具本体31の径方向外側)に45度の範囲内)から遠い位置の円形切削インサート1の側面部(上側面4aと下側面4bのうち切削に供される切れ刃を備えない方)であって、かつ、ネジ挿通穴5より離れた位置に形成されている振動防止用拘束面を拘束することにより、高い振動発生の防止効果を得ることが可能になる。
上記した第1の拘束構造〜第4の拘束構造について、第2の実施形態となる円形切削インサート25が取り付けられた刃先交換式回転切削工具30においても同一の拘束構造を備えることができるので、その説明は省略する。
【0125】
(振動防止用拘束面の傾斜面の構造)
円形切削インサート1が備えている振動防止用拘束面の傾斜面の構造について、
図7では平坦面の形状からなる例を示しているが、
図17に示す構造を採用することもできる。
図17(a)は、点線の丸印内に示しているように、切削インサート1のネジ挿通穴5の中心軸線Pを通り、振動防止用拘束面14d、14hと交差する縦断面図で表示される振動防止用拘束面14d、14hの断面形状を緩やかな凸形状とした例を示し、
図17(b)は同じく振動防止用拘束面14d、14hの断面形状を緩やかな凹形状とした例を示している。このように、振動防止用拘束面14d、14hを含む全ての振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11h、及び全ての振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hの表面の断面形状を緩やかな凸形状、又は凹形状で構成すると、
図7に示す平面形状にした場合と比較して振動防止用拘束面の表面面積を増大させることができるので、前記した切削抵抗の分力を受け止める力が大きくなってより振動の発生を防止する作用が増大する。
上記した振動防止用拘束面11a〜11h、14a〜14hの断面形状は、第2の実施形態となる円形切削インサート25にも適用することができる。
また、切削インサート1(25)の振動防止用拘束面の断面形状を
図17(a)のように緩やかな凸形状とした場合は、インサート取付座32の振動防止用壁面42をこの凸形状に対応する凹形状とする。
図17(b)のように振動防止用拘束面の断面形状を緩やかな凹形状とした場合は、インサート取付座32の振動防止用壁面42をこの凹形状に対応する凸形状とする。これにより、切削インサート1(25)をインサート取付座32に固定したときに切削インサート1(25)の振動防止用拘束面とインサート取付座32の振動防止用壁面42とが面接触するので、上述の振動防止機能が発揮される。
【0126】
上記した8コーナータイプの両面型の切削インサート1(25)を装着した刃先交換式回転切削工具30においては、例えば、切削インサート1(25)の上面部2が備えている切れ刃6aについて、この切削インサート1の再装着を繰り返すことにより8ケ所の切れ刃6aの領域を、順次切削加工に使用することができる。そして、上面部2の切れ刃6aの領域を全て使用した場合には、この切削インサート1(25)の下面部3の切れ刃6bを使用するために上面部2と下面部3とを反転させてインサート取付座32に再装着することにより未使用の下面部3の切れ刃6bを切削加工に使用することができる。これにより、一つの切削インサート1は、計16ケ所の切れ刃領域を切削加工に使用することができる。
従って、上記した両面型の切削インサート1(25)の上面部2の切れ刃6aの切れ刃領域の全てを使用して、切削インサート1(25)の下面部3の切れ刃6bを使用するために上面部2と下面部3を反転させてインサート取付座32に再装着した場合には、上記した実施形態の説明における「上面部2」及び「下面部3」などは、切削加工に使用する切れ刃を備えている面が上面部2を示すことは明らかである。
【0127】
なお、本発明の実施形態に係る刃先交換式回転切削工具30において、
図12に示す第1の拘束壁38と第2の拘束壁39との位置関係は、左右を逆に入れ替えた構成、すなわち、
図12の紙面の右側に第2の拘束壁39を形成して配置し、同じく
図12の紙面の左側に第1の拘束壁38を形成して配置してもよい。
【0128】
(円形切削インサート及び工具本体の製造方法)
続いて、本発明の実施形態に係る円形切削インサート1(25)及びこの切削インサート1を装着する工具本体31の製造方法の概要について説明する。
本実施形態の円形切削インサート1の材質は、従来から広く採用されている、WC(炭化タングステン)−Co(コバルト)基からなる超硬合金などの硬質材料製にすることが望ましい。円形切削インサート1を超硬合金製とする場合には、その製造方法の概要は次のようになる。
【0129】
(1)WC粉末にCo粉末及びバインダーを添加した超硬合金粉末を、金型を用いた粉末成形装置で加圧(プレス)成形することにより円形切削インサート1のプレス成形体を製造する(成形工程)。なお、円形切削インサート1の側面部4は複雑な構成を備えているので、粉末成形によるプレス成形体は、超硬合金粉末の密度が均一になるように成形する必要がある。このためには、プレス成形に用いる粉末成形装置は、3軸又は4軸などの多軸仕様の粉末成形装置を用いることが望ましい。
【0130】
(2)続いて、このプレス成形体を焼成炉で1300〜1450℃の温度で所定時間焼成することにより高硬度な焼結体からなる円形切削インサートを得ることができる(焼成工程)。焼成工程を経て製造された円形切削インサートについては、必要とする部位にはダイヤモンド砥石などを用いて仕上げ加工を施してもよい。なお、本実施形態の切削インサート1(25)は、上記した超硬合金製の他に、サーメット、セラミックス等の硬質材料製としてもよい。
【0131】
工具本体31は、SKD61等の合金工具鋼からなる丸棒素材を、NC制御の加工機械を用いて切削加工することにより製造することができる。インサート取付座32は、エンドミル等を用いた切削加工によって形成することができる。なお、インサート取付座32の細部形状は、小径のエンドミル等を使用して精密な加工を施すことが望ましい。
【0132】
なお、前記した本発明の円形切削インサートの第1の実施形態となる切削インサート1において、側面部4に配置した振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11h、及び振動防止用拘束面14a、14b、・・・、14hは、円形切削インサートの側面視で等脚台形を構成する例にについて説明したが、これらの振動防止用拘束面11a、11b、・・・、11h、14a、14b、・・・、14hは、第2の実施形態となる切削インサート25が備えているように、円形切削インサート1(25)の側面視において二等辺三角形で構成されてもよい。この場合には、微小な幅wを有する繋ぎ部12a、12bの側面中間線(N)側の端部の中央部を二等辺三角形の頂角をなす頂点とする。
【0133】
本発明の実施形態に係る刃先交換式回転切削工具30は、被削材の切削加工において、高速度で通常の平面加工の他に、彫り加工、回転翼などの表面における自由曲面の切削加工に使用して、被削材の加工面の面精度を向上させるとともに、工具寿命も著しく向上させることが可能になる。
【0134】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
本発明の円形切削インサートにおいて、上側面と下側面は、繋ぎ部を介してそれぞれ上側面及び下側面の周方向に順次配置されているとともに、一辺が側面中間線(N)上に配置された、複数の平面状拘束面と、前記繋ぎ部を介して隣接する2つの前記平面状拘束面との間に傾斜面からなる複数の振動防止用拘束面と、を備え、前記下側面の前記拘束面の配置位置は、前記上側面の前記拘束面の配置位置に対して、ネジ挿通穴の中心軸線に対して所定の角度(α)位相をずらした位置に配置されている。