【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)親部品と子部品とを溶接する方法であって、親部品と子部品との接触面の一部の範囲に接着剤を塗布して親部品と子部品とを
仮固定する接着工程を含む溶接方法。
本項に記載の溶接方法は、親部品と子部品との接触面の一部の範囲に接着剤を塗布して親部品と子部品とを接着することで、親部品と子部品との位置決めを正確に行った状態で、両者を仮固定するものである。親部品と子部品とを接着する際の位置決めには、適宜、位置決め治具を用いる。又、ここで用いられる接着剤は、例えば、ホットメルト接着剤、熱可塑性接着剤、シーラー材、アスファルト等の高粘度の液体又はペースト、天然ゴム等の粘着材、半田等の低温溶融合金が挙げられる。更に、これらの接着剤に、適宜、導電フィラーを混入させることとしても良い。
なお、本説明において、「親部品」、「子部品」とは、説明の便宜上、部品を区別したものであって、一例として、自動車用パネルとその付属部品とが挙げられるが、必ずしも親部品と子部品とに、大小関係や主従関係があるものではない。
【0008】
(2)上記(1)項において、前記接着剤を塗布した範囲を外した位置において、親部品と子部品との間の導通を確保する導通経路形成工程を含む溶接方法。
本項に記載の溶接方法は、親部品と子部品との接触面の、接着剤を塗布した範囲を外した位置において、親部品と子部品との導通経路を形成することで、親部品と子部品との間の導通を確保するものである。
【0009】
(3)上記(2)項において、前記接着工程にて接着剤を塗布した部分をスポット溶接する溶接工程を含む溶接方法(請求項1)。
本項に記載の溶接方法は、スポット溶接機の電極を親部品と子部品と当接させて、導通経路を介して親部品と子部品とに電流を流し、親部品と子部品とに生じるジュール熱により、接着剤を加熱、溶融させる。そして、接着剤を塗布した範囲から接着剤を排除し、親部品と子部品とを接触可能とするものである。そして、接着剤を塗布した部分をスポット溶接することで、親部品と子部品とを固定するものである。
【0010】
(4)上記(3)項の溶接工程において、前記接着剤を塗布した部分をスポット溶接機の電極で挟持し、前記接着剤を塗布した範囲の周辺部に前記接着剤を押し退け、親部品と子部品とを接触させる溶接方法(請求項2)。
本項に記載の溶接方法は、溶接工程において、接着剤を塗布した部分をスポット溶接機の電極で挟持する。そして、導通経路を介して親部品と子部品とに電流を流し、親部品と子部品とに生じるジュール熱により、接着剤を加熱、溶融させる。すると、スポット溶接機の電極からの加圧力により、接着剤を、スポット溶接機の電極の接触点から排除され、接着剤を塗布した部分の周辺部へと広がる。そして、接着剤が排除された位置で、親部品と子部品とを接触させ、スポット溶接するものである。
【0011】
(5)上記(1)から(4)項の導通経路形成工程において、親部品と子部品とをスポット溶接する溶接方法(請求項3)。
本項に記載の溶接方法は、導通経路形成工程において、親部品と子部品とをスポット溶接して生成されるナゲットを、親部品と子部品との導通経路として用いるものである。
【0012】
(6)上記(5)項の導通経路形成工程にて行うスポット溶接と、前記溶接工程にて行うスポット溶接とを、異なる溶接条件で行う溶接方法(請求項4)。
本項に記載の溶接方法は、導通経路形成工程にて行うスポット溶接と、前記溶接工程にて行うスポット溶接とを、各々、最適の溶接条件で行うものである。例えば、導通経路形成工程では、スポット溶接機の電極による加圧力、電流、通電時間等の溶接条件を、ナゲット生成に最適の条件に調整するものである。一方、溶接工程では、接着剤を溶融させるまでは、ナゲット生成に不適切な低い電流に抑えて導通を行い、接着剤が排除された後にナゲット生成に最適の電流へと高める。この際、スポット溶接機の電極による加圧力、通電時間等についても、適宜変化を与えることとする。これにより、溶接部の不適切な溶着、スパッタを抑える。なお、接着剤の溶融及びナゲット生成のいずれにも適する溶接条件を見出して、溶接工程における接着剤の溶融とスポット溶接とを行うこととしても良い。
更には、溶接工程において、電流の変位量を監視し、又は、親部品、子部品間の抵抗値等をスポット溶接機の電極に微弱電流を流すことによって監視し、接着剤の溶融や、親部品と子部品との接触等、状態の変化を把握して、それに基づき溶接条件を変更して、スポット溶接を行うこととしてもよい。
【0013】
(7)上記(1)から(4)項の導通経路形成工程において、親部品と子部品とに予め又は本工程において形成した、互いの接触を促す形状部分で、親部品と子部品とを接触させる溶接方法。
本項に記載に記載の溶接方法は、突形状等の、互いの接触を促す形状部分を、親部品及び子部品の少なくとも一方に、予めプレス成形により、又は、本工程においてポンチ等により形成する。そして、当該形状部分により得られる親部品と子部品との接触部分を、親部品と子部品との導通経路として用いるものである。
(8)上記(1)から(4)項の導通経路形成工程において、親部品と子部品とをクランプにより密着させる溶接方法。
本項に記載に記載の溶接方法は、クリップ、万力等のクランプにより、親部品と子部品とを挟持することで得られる親部品と子部品との接触部分を、親部品と子部品との導通経路として用いるものである。
(9)上記(1)から(4)項の導通経路形成工程において、親部品と子部品とを締結部材により密着させる溶接方法。
本項に記載に記載の溶接方法は、ボルト、ナット等の締結部材により、親部品と子部品とを締結することで得られる親部品と子部品との接触部分を、親部品と子部品との導通経路として用いるものである。
【0014】
(10)上記(1)から(9)項の接着工程に先立ち、親部品及び子部品の少なくとも一方の温度を、接着剤の接着力が向上する温度に調整する、温度調整工程を含む溶接方法。
本項に記載に記載の溶接方法は、親部品及び子部品の少なくとも一方の温度を、接着剤の接着力が向上する温度に調整してから接着剤を塗布し、親部品と子部品とを密着させる。それにより、親部品と子部品との接着強度を高めるものである。
例えば、接着剤にホットメルトを用いる場合には、親部品と子部品との接触面の、接着剤を塗布する範囲とその周辺部とを、雰囲気温度以上、300度以下の範囲に加温することで、ホットメルトの接着強度を十分に引き出すものである。
なお、親部品と子部品とを密着させた後に、適宜、自然冷却又は強制冷却により、接着剤を融点以下に冷却し、後工程へと移行することとする。
【0015】
(11)親部品と子部品との溶接構造であって、親部品と子部品との接触面に、親部品と子部品とを仮固定する接着剤塗布部と、導通部と、スポット溶接部とを含み、前記接着剤塗布部は、親部品と子部品との接触面の一部の範囲に設けられ、前記導通部は、前記接着剤塗布部を外れた位置に設けられ、前記スポット溶接部は、前記接着剤塗布部内
に形成されている溶接構造(請求項5)。
【0016】
本項に記載の溶接構造は、親部品と子部品との接触面の一部の範囲に接着剤が塗布されて、仮固定されることで、溶接前の状態で、親部品と子部品との位置決めが正確に行われる。ここで用いられる接着剤は、例えば、ホットメルト接着剤、熱可塑性接着剤、シーラー材やアスファルト等の高粘度の液体又はペースト、天然ゴム等の粘着材、半田等の低温溶融合金が挙げられる。更に、これらの接着剤に、適宜、導電フィラーが混入されていても良い。
又、親部品と子部品との接触面の、接着剤を塗布した範囲を外した位置において、親部品と子部品との導通部が設けられることで、親部品と子部品との間の導通経路が確保されるものである。
そして、スポット溶接機の電極で接着剤を塗布した部分を挟持し、導通経路を介して親部品と子部品とに電流を流すことで、親部品と子部品とに部品に生じるジュール熱により、接着剤が加熱、溶融する。するとスポット溶接機の電極からの圧力により、接着剤は、接着剤塗布部からその周辺部に押し出され、親部品と子部品とが接触し、接着剤塗布部内にスポット溶接部が形成される。なお、スポット溶接時に溶融した接着剤は、スポット溶接により生成されるナゲットと共に冷却され、ナゲットの周囲を取囲む態様で固化した状態となる。
【0017】
(12)上記(11)項において、前記
導通部は、前記スポット溶接部とは別の、親部品と子部品とのスポット溶接部により形成されている溶接構造(請求項6)。
本項に記載の溶接構造は、接着剤塗布部内に形成されたスポット溶接部とは別に、親部品と子部品とをスポット溶接して形成されたナゲットが、親部品と子部品との導通経路
(導通部)としても機能するものである。