特許第6048650号(P6048650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048650
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】糖鎖認識分子を検出するための膜担体
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20161212BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G01N33/543 521
   G01N33/53 S
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-240254(P2012-240254)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-89149(P2014-89149A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 雅哲
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−253632(JP,A)
【文献】 特開2011−052971(JP,A)
【文献】 国際公開第97/001761(WO,A1)
【文献】 特開平08−285849(JP,A)
【文献】 特開平05−281231(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057755(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出するためのデバイスに用いられる膜担体であって、
当該糖鎖が結合したタンパク質が検出ラインに固定化され
前記糖鎖が結合したタンパク質が、還元的アミノ化反応により、前記糖鎖の還元末端と前記タンパク質のアミノ基とが結合してなり、かつ、
前記タンパク質がアルブミンである、膜担体。
【請求項2】
糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出する方法であって、
被験試料を、糖鎖を認識する分子を認識しかつ標識されている分子に接触させた後、請求項1に記載の膜担体において、当該被験試料を前記検出ラインに向けて展開させ、当該検出ラインにおいて前記標識物質を検出する方法。
【請求項3】
糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出するためのデバイスであって、請求項1に記載の膜担体と、下記(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも1の構成要素とを備えるデバイス
(a) サンプルパッド
(b) コンジュゲートパッド
(c) 吸収パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖を認識する分子を検出するための膜担体、糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出するためのデバイス、並びに糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性疾患や自己免疫疾患において、患者血清中に糖脂質の糖鎖部分を認識する自己抗体が検出される例が知られている。特に、糖脂質は神経組織に多く存在することが知られており、このような自己抗体は、神経を傷害する自己免疫型の神経疾患を起こすことが知られている。
【0003】
かかる疾患に対しては、自己抗体を患者の体内から除去する血漿交換療法や免疫吸着療法、自己抗体を中和させる免疫グロブリンの大量静脈注射療法等の治療が行われる。しかしながら、これら治療が有効であるのは、発症してから1週間程度であるため、迅速な診断結果の提供が求められている。
【0004】
自己免疫疾患等の診断法としては、糖脂質そのものを固相化させたマイクロプレートを用いたELISA法がある(特許文献1)。しかしながら、この診断法においては、マイクロプレートリーダー等の分析装置を必要とし、また自己抗体等を検出するための工程が煩雑であり、さらには得られた結果の分析には専門的な知識を要するため、患者等から採取した試料を検査センターに送って検査する必要がある。そのため、迅速な診断結果の提供が求められる自己免疫疾患等において、診断に時間を要するELISA法は有効性に乏しかった。また、一般的に糖鎖を認識する分子(糖鎖認識分子)は、糖鎖に対する結合性が弱いため、後述の実施例においても示す通り、従前の糖鎖認識分子を検出する系の感度は低いものであった。
【0005】
従って、自己免疫疾患等の診断等において、自己抗体等の糖鎖認識分子を、場所を選ばず迅速簡便に高感度にて検出できる方法の開発が求められていたが、かかる方法は未だ実用化されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−294752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、糖鎖を認識する分子を、場所を選ばず迅速簡便に高感度にて検出することを可能とする物質及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
場所を選ばず迅速簡便に特定の分子を検出できる方法として、イムノクロマトグラフィーが知られている。しかしながら、一般的に糖鎖認識分子と糖鎖との結合性は弱く、またイムノクロマトグラフィーに用いられる膜担体に糖鎖を高密度で固定化することは困難であったため、イムノクロマトグラフィーにおいて、糖鎖認識分子を検出すための十分な感度は得ることが出来なかった。
【0009】
しかし、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、糖鎖を結合させたタンパク質を、糖鎖認識分子を検出するためのプローブとして用いれば、イムノクロマトグラフィーに用いられる膜担体に高密度に糖鎖を固定化できることが明らかになった。さらに、かかる糖鎖を結合させたタンパク質が固定化された膜担体を用いたイムノクロマトグラフィーは、従来の糖脂質を固定化したものよりも、糖鎖認識分子を高感度に検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
<1> 糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出するためのデバイスに用いられる膜担体であって、
当該糖鎖が結合したタンパク質が検出ラインに固定化され
前記糖鎖が結合したタンパク質が、還元的アミノ化反応により、前記糖鎖の還元末端と前記タンパク質のアミノ基とが結合してなり、かつ、
前記タンパク質がアルブミンである、膜担体。
<2> 糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出する方法であって、
被験試料を、糖鎖を認識する分子を認識しかつ標識されている分子に接触させた後、<1>に記載の膜担体において、当該被験試料を前記検出ラインに向けて展開させ、当該検出ラインにおいて前記標識物質を検出する方法。
<3> 糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出するためのデバイスであって、<1>に記載の膜担体と、下記(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも1の構成要素とを備えるデバイス
(a) サンプルパッド
(b) コンジュゲートパッド
(c) 吸収パッド。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、糖鎖を認識する分子を、場所を選ばず迅速簡便に高感度にて検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出するためのデバイスの好適な一実施形態を示す概略平面図である。
図2図1に示すデバイスを図1のI−II線に沿って切断した場合の切断面を示す概略側断面図である。
図3】アルブミンと、アルブミンに糖鎖(GM1)を結合させたもの(GM1結合アルブミン)とをSDS−PAGEにて展開したゲルを、タンパク質染色試薬にて染色した結果を示す写真である。GM1結合アルブミンの5レーンは左から順に、1000μg、500μg、250μg、125μg及び62.5μgのGM1と、66μgのアルブミンとを反応させたものを展開した結果を各々示す。
図4】アルブミンとGM1結合アルブミンとをSDS−PAGEにて展開したゲルをPVDF膜に転写し、該膜にHRP標識したコレラトキシンβサブユニット(HRP−CTB)を作用させ、4−クロロ−1−ナフトールを発色基質として用いて染色した結果を示す写真である。GM1結合アルブミンの5レーンは左から順に、1000μg、500μg、250μg、125μg及び62.5μgのGM1と、66μgのアルブミンとを反応させたものを展開した結果を各々示す。
図5】GM1結合アルブミンとアルブミンとを固定化した膜担体(HiFlow Plus HFB180UBCAST、HiFlow Plus HFB07502、HiFlow Plus HFB12002)に、HRP−CTBを作用させ、4−クロロ−1−ナフトールを発色基質として用いて染色した結果を示す写真である。
図6】GM1結合アルブミンとアルブミンとを固定化した膜担体に、HRP−CTBを作用させ、4−クロロ−1−ナフトールを発色基質として用いて染色した結果を示す写真である。図中の数量(100ng、10ng、1ng)は、GM1結合アルブミン又はアルブミンの膜担体にスポットした量を示す。
図7】GM1結合アルブミンとGM1ガングリオシドとを固定化した膜担体に、HRP−CTBを作用させ、4−クロロ−1−ナフトールを発色基質として用いて染色した結果を示す写真である。図中の数量(100ng、10ng)は、GM1結合アルブミン又はGM1ガングリオシドの膜担体にスポットした量を示す。
図8】GM1結合アルブミンとGM1ガングリオシドとを固定化した膜担体に、HRP−CTBを作用させ、4−クロロ−1−ナフトールを発色基質として用いて染色した結果を示す写真である。図中の濃度(1.0μg/mL、0.1μg/mL、0.01μg/mL)は、膜担体に作用させたHRP−CTBの濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(イムノクロマトグラフィーのための膜担体)
本発明は、糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出するためのデバイスに用いられる膜担体であって、当該糖鎖が結合したタンパク質が検出ラインに固定化された膜担体を提供するものである。
【0013】
本発明において、「糖鎖」とは、単糖類(単糖及びその誘導体)が2つ以上、グリコシド結合により繋がりあった多糖のことであり、本発明にかかるイムノクロマトグラフィーの検出対象である糖鎖認識分子と特異的に結合することができる分子のことである。また、かかる糖鎖は、1種類の単糖類から構成されるもの(ホモ糖鎖)であってもよく、2種類以上の単糖類から構成されるもの(ヘテロ糖鎖)であってもよい。糖鎖を構成する単糖類の種類、個数については特に制限はなく、また単糖類間のグリコシド結合はα結合、β結合のいずれであってもよい。さらに、糖鎖は天然由来のものであってもよく、天然由来のものに人工的に官能基の付加や置換等の修飾を加えたものであってもよく、化学的に合成されたものであってもよい。
【0014】
本発明において、「糖鎖を認識する分子」としては特に制限はなく、前記糖鎖を認識する抗体、前記糖鎖を認識するタンパク質(レクチン)が挙げられる。
【0015】
本発明において、前記糖鎖が結合される「タンパク質」としては、糖鎖を多価に結合し得る限り、該タンパク質を構成するアミノ酸の種類、個数については特に制限はない。また、「タンパク質」は、植物、動物、微生物(菌やウィルス等)等の天然物から、分離・抽出・精製して得られるものであってもよく、また無細胞タンパク質合成系(例えば、網状赤血球抽出液、小麦胚芽抽出液)、大腸菌、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等を用い、遺伝学的手法により合成されたものであってもよく、さらには、自動合成装置等を用いて化学的に合成されたものであってもよい。本発明にかかる「タンパク質」としては、人為的に糖鎖修飾を施さなければ糖鎖を有していないため、本発明にかかる糖鎖をより多く結合させ易いという観点から、天然物由来のものであればアルブミン、リボヌクレアーゼAが好ましく、また同観点から、大腸菌を用いて遺伝学的手法により合成されたタンパク質、化学的に合成されたタンパク質が好ましい。
【0016】
本発明において、糖鎖が結合したタンパク質の調製方法としては特に制限はなく、例えば、前記糖鎖の還元末端と前記タンパク質のアミノ基とを結合させる方法(還元的アミノ化反応)、前記糖鎖の還元末端をブロモアセチル化し、前記タンパク質のシステイン中のチオール基と共有結合させる方法、前記糖鎖の還元末端にアミノ基を導入し、前記タンパク質のカルボキシル基と共有結合させる方法、前記糖鎖を化学的に結合させたアミノ酸を重合反応により連結し、前記タンパク質を合成する方法が挙げられるが、糖鎖の還元末端に新たな官能基を導入する必要がなく、反応が簡便であるという観点から、還元的アミノ化反応が好ましい。
【0017】
また、前記タンパク質1分子あたりの前記糖鎖の平均結合本数は、前記糖鎖や前記タンパク質の種類、前述の糖鎖が結合したタンパク質の調製方法等によるが、通常1〜40本であり、当該タンパク質における糖鎖の高密度化及び糖鎖が結合しているタンパク質の作製のし易さの観点から、好ましくは5〜25本である。
【0018】
本発明において、前記糖鎖が結合したタンパク質が固定化される「膜担体」としては、糖鎖が結合したタンパク質を固定化することができ、かつイムノクロマトグラフィーに供される被験試料を毛細管現象により展開できる材質からなる膜であればよい。かかる材質としては、例えば、ニトロセルロース等のセルロース類、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン類、ガラスファイバーが挙げられる。また、本発明の膜担体の孔径は、特に制限されることなく、被験試料の展開速度等を考慮して適宜調節すればよく、例えば、0.1〜10μmである。
【0019】
かかる膜担体における「検出ライン」とは、当該膜担体において展開された被験試料中の糖鎖認識分子を捕捉し、検出するための部位である。従って、「検出ライン」は、膜担体において下流側に配置されている必要がある。なお、本発明において、上流側及び下流側とは、被験試料が膜担体を展開していく流れの上流側(後述の図1及び2においては、左側)及び下流側(後述の図1及び2においては、右側)を各々意味する。
【0020】
また、「検出ライン」には糖鎖認識分子を捕捉するための分子である、糖鎖が結合したタンパク質が固定化されている必要がある。固定化の方法としては特に制限はなく、例えば、物理吸着、静電的相互作用、疎水的相互作用又は架橋剤を利用する方法が挙げられる。また、糖鎖が結合したタンパク質の固定化量は、膜担体の材質、糖鎖認識分子との結合性、後述の糖鎖を認識する分子を認識する分子の標識の種類等に合わせて適宜調整すればよく、例えば、1ng〜1μgである。
【0021】
(糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出する方法)
本発明は、糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出する方法であって、被験試料を、糖鎖を認識する分子を認識しかつ標識されている分子に接触させた後、本発明の膜担体において、当該被験試料を前記検出ラインに向けて展開させ、当該検出ラインにおいて前記標識物質を検出する方法を提供するものである。
【0022】
本発明において「被験試料」としては特に制限はなく、例えば、菌体、土壌、ヒト等の動物から単離される、血液、血清、血漿、髄液、唾液、喀痰、涙液、眼脂、口腔や鼻腔の粘膜、尿、糞便、皮膚、各種臓器、筋肉、骨及び神経、並びにこれらからの抽出液が挙げられる。
【0023】
本発明において、「糖鎖を認識する分子を認識する分子」としては特に制限はなく、糖鎖認識分子を認識する抗体であってもよく、また糖鎖認識分子が抗体である場合には、プロテインA、プロテインGであってもよい。さらには、糖鎖認識分子によって認識される糖鎖であってもよい。また、かかる「糖鎖を認識する分子を認識する分子」に付加される標識物質としては、例えば、呈色標識物質、酵素標識物質が挙げられる。呈色標識物質としては、金コロイド、白金コロイド等の金属コロイドの他、赤色及び青色等のそれぞれの顔料で着色されたポリスチレンラテックス等の合成ラテックス及び天然ゴムラテックス等のラテックスが挙げられる。酵素標識物質としては、例えば、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ(HRP)、βガラクトシダ―ゼ、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼが挙げられる。
【0024】
被験試料と糖鎖を認識する分子を認識しかつ標識されている分子との「接触」については、膜担体に導入された被験試料が前記検出ラインに達するまでに行われていればよく、例えば、本発明の膜担体又は後述の本発明のデバイスに被験試料を導入する前に、当該試料に糖鎖を認識する分子を認識しかつ標識されている分子を添加することで接触させてもよく、被験試料を後述のコンジュゲートパッド中を通過させることによって接触させてもよい。
【0025】
本発明において、被験試料と糖鎖を認識する分子を認識しかつ標識されている分子とを毛細管現象により効率良く展開させるために、展開液を用いてもよい。展開液としては、例えば、タンパク質、多糖類、界面活性剤、有機溶媒及びポリマー等の中から少なくとも1種を含む緩衝液が挙げられる。展開液は、被験試料と混合した上で膜担体に導入してもよく、また被験試料等を膜担体に導入した後に、当該膜担体の上流側から導入してもよい。
【0026】
そして、被験試料中に糖鎖認識分子が含まれていれば、前記接触により形成される当該糖鎖認識分子と当該分子を認識しかつ標識されている分子との複合体が、前記検出ラインの糖鎖に捕捉されることにより、当該標識物質が当該検出ラインに集積することになる。
【0027】
従って、本発明によれば、検出ラインにおける標識物質を検出することにより、試験試料中の糖鎖認識分子の有無を判断することができる。「標識物質の検出」は、標識物質が前記呈色標識物質であれば、当該検出ラインにおける当該標識物質の集積により生じる着色を目視にて確認することにより行うことができる。また、酵素標識物質であれば、当該酵素の発色基質を検出ラインに添加することにより生じる発色を目視にて確認することにより行うことができる。かかる発色基質としては、酵素標識物質としてHRPを用いる場合には、例えば、4−クロロ−1−ナフトール、ABTS、O−フェニレンジアミン(OPD)、テトラメチルベンジジン(TMB)が挙げられる。
【0028】
(イムノクロマトグラフィーのためのデバイス)
本発明は、糖鎖を認識する分子をイムノクロマトグラフィーにより検出するためのデバイスであって、前述の本発明の膜担体と、下記(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも1の構成要素とを備えるデバイス
(a) サンプルパッド
(b) コンジュゲートパッド
(c) 吸収パッド
を提供するものである。このような本発明のデバイスの好適な一例を図1及び2に示す。図1は、かかるデバイスの概略平面図であり、図2は、図1に示すデバイスを図1のI−II線に沿って切断した場合の切断面を示す概略側断面図である。以下、これら図面を参照しながら本発明のデバイスについて説明する。
【0029】
本発明のデバイスは、図2に示す通り、本発明の膜担体1と、サンプルパッド4、コンジュゲートパッド5及び吸収パッド6からなる群から選択される少なくとも1の構成要素とを備えるデバイスである。
【0030】
膜担体1については前述の通りであるが、図1及び2に示す通り、前述の検出ライン2の他、コントロールライン3を備えていてもよい。
【0031】
コントロールライン3は、前述の糖鎖を認識する分子を認識しかつ標識されている分子を捕捉するための部分であるため、前記標識物質が検出ライン2では検出されず、コントロールライン3のみにて検出された場合には、被験試料中に糖鎖認識分子は存在していないと判定することができる。また、コントロールライン3には、前述の糖鎖を認識する分子を認識しかつ標識されている分子を捕捉するために、当該分子と特異的に結合する分子(例えば、抗体、レクチン、アプタマー)が固定化される。
【0032】
サンプルパッド4は、本発明のデバイスに導入された被験試料や展開液等を保持、通過させるための部分である。従って、本発明のデバイスにおいて、サンプルパッド4は、直接又は間接的に膜担体1に接し、かつ膜担体1の上流側に配置されている必要がある。
【0033】
コンジュゲートパッド5は、前述の糖鎖を認識する分子を認識しかつ標識されている分子を担持しており、当該分子と被験試料とを接触させるための部分である。従って、本発明のデバイスにおいて、コンジュゲートパッド5は、直接又は間接的にサンプルパッド4及び膜担体1に接し、かつサンプルパッド4の下流側及び膜担体1の上流側に配置されている必要がある。
【0034】
吸収パッド6は、膜担体を通過してきた余剰の被験試料や展開液等を吸収することにより、膜担体における被験試料の展開を促進しつつ、逆流を抑制するための部分である。従って、本発明のデバイスにおいて、吸収パッド6は、直接又は間接的に膜担体1に接し、かつ膜担体1の下流側に配置されている必要がある。
【0035】
サンプルパッド4、コンジュゲートパッド5及び吸収パッド6の材質としては、特に限定されず、ニトロセルロース等のセルロース類、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン類、ガラスファイバーが挙げられる。
【0036】
本発明のデバイスにおいては、図1及び2に示す通り、前述の膜担体1、サンプルパッド4、コンジュゲートパッド5又は吸収パッド6を保持するために、保持板12を備えてもよい。保持板12の材質は、成形の容易さ、コスト、軽量性の点でプラスチックであることが好ましい。プラスチックの材質としては、種々のプラスチック材料を選択することが可能であり、使用する用途、処理、使用する溶媒、生理活性物質、検出方法の特性に合わせて、成形性、耐熱性、耐薬品性、吸着性等を考慮し適宜に選択される。例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、ビニル−アセテート共重合体、スチレン−メチルメタアクリレート共重合体、アクリルニトリル−スチレン共重合体、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ナイロン、ポリメチルペンテン、シリコン樹脂、アミノ樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、ポリイミド等が挙げられる。また、これらのプラスチック材料に、顔料、染料、酸化防止剤、難燃剤等の添加物を適宜混合してもよい。
【0037】
さらに、本発明のデバイスにおいては、前述の膜担体1、パッド及び保持板12を固定、保存するためのケージング(上部ケージング10及び下部ケージング11)を備えていてもよい。
【0038】
上部ケーシング10及び下部ケーシング11の母材には、成形の容易さ、コスト、軽量性の点でプラスチックであることが好ましい。プラスチックの材質としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセテート、ビニル−アセテート共重合体、スチレン−メチルメタアクリレート共重合体、アクリルニトリル−スチレン共重合体、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ナイロン、ポリメチルペンテン、シリコン樹脂、アミノ樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、ポリイミド等が挙げられる。また、これらのプラスチック材料に、顔料、染料、酸化防止剤、難燃剤等の添加物を適宜混合してもよい。
【0039】
また、上部ケーシング10、下部ケーシング11には、サンプルパッド4、コンジュゲートパッド5、膜担体1、吸収パッド6、保持板12等の内容物を固定するための構造物を適宜形成することができる。
【0040】
また、本発明のデバイスにおいては、図1及び2に示す通り、上部ケーシング10には、導入口7、判定窓8又は空気穴9が形成されていてもよい。
【0041】
導入口7は、イムノクロマトグラフィーに供するための被験試料が導入されるための部分である。その形状について特に制限はないが、図1及び2に示すような、突起13を導入口7内部に有していてもよい。この突起により、被験試料を収納している容器(検体採取用容器)の封(シール)を破断することにより、検体が外部に漏れることなく、検出ライン2側に迅速に展開することが可能となる(検体採取用容器、封及び突起については、特開2010−38797号公報 参照)。
【0042】
判定窓8は、膜担体1における検出ライン2及び後述のコントロールライン3を視認し、被験試料中の糖鎖認識分子の有無の判定等を行うための部分である。判定窓8は、例えば、上部ケージングがその厚さ方向に貫通されることによって形成されるものであってもよく、さらに、この貫通孔に透明のプラスチック板やフィルムが付加されていてもよい。
【0043】
空気穴9は、前記ケージング内の空気を排出するための部分であり、これにより、後述の吸収パッド6による被験試料の吸収効率を向上させ、ひいては膜担体における被験試料の迅速な展開を可能とする。空気穴9は、上部ケージングがその厚さ方向に貫通されることによって形成されるものであればよく、その形状、個数については特に制限はなく、例えば、図1及び2に示すような、3個の長方形状の貫通孔が挙げられる。
【0044】
本発明のデバイスの大きさについて、特に制限はないが、例えば、図1及び2において示されるデバイス(ケージング)の大きさとしては、長さ5〜11cm、幅1〜3cm、高さ0.2〜1.5cmが挙げられる。
【0045】
以上、本発明のデバイスの好適な実施形態について説明したが、本発明のデバイスは上記実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記を参酌しながら、デバイスの構成、材質、構造等について、適宜応用、変形、追加等を加えることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<糖鎖が結合したタンパク質の調製>
先ず、糖脂質(ガングリオシドGM1)の糖鎖(GM1)の還元末端と、ヒト由来アルブミンのアミノ基とを結合させるべく、還元アミノ化反応を行った。この還元アミノ化反応においては、66μgのアルブミンに対し、反応させる糖鎖量は1000μg、500μg、250μg、125μg又は62.5μgとした。
【0048】
次に、得られた生成物又はアルブミンのみを、SDS−PAGEにて展開し、タンパク質染色試薬(ジェルコード(登録商標)ブルー染色試薬、サーモサイエンティフィック社製)にて染色した。得られた結果を図3に示す。
【0049】
また、前記生成物又はアルブミンのみを展開したゲルをPVDF膜に転写した。次いで、GM1認識分子として知られているコレラトキシンβサブユニットをHRPにて標識したもの(以下、「HRP−CTB」とも称する。HRP−CTBの濃度:0.2μg/mL)を、当該PVDF膜に作用させた。そして、HRPの発色基質である4−クロロ−1−ナフトールにて当該ゲルを染色した。得られた結果を図4に示す。
【0050】
図4に示した結果から明らかなように、アルブミンのみを電気泳動したレーンにおいてHRP−CTBによる発色は認められなかった。一方、作製した5種のGM1結合アルブミンを泳動したレーンにおいては、約86、84、79、76及び73kDaのバンドが、HRP−CTBによる発色により、特異的に検出された。従って、還元的アミノ化反応により、アルブミンにGM1が結合した糖タンパク質が作製できることが明らかになった。
【0051】
また、図3に示す通り、タンパク質を一様に染色するジェルコードブルー染色試薬を用いて染色した結果、アルブミンを電気泳動したレーンにおいて、アルブミンの分子量に一致する約66kDaのバンドが確認された。さらに、図4に示す通り、作製したGM1結合アルブミンの分子量は、約86、84、79、76又は73kDaであることから、アルブミンに結合した糖鎖による分子量の増加分は約20、18、13、10又は7kDaであることが分かった。また、GM1糖鎖一本当たりの分子量は約1kDaであるので、アルブミン1分子に結合している糖鎖の平均本数は、約20、18、13、10又は7本であることが明らかになった。さらに、反応させた糖鎖の量を考慮するに、アルブミン1分子に結合している糖鎖の平均本数は、還元アミノ化反応における糖鎖の仕込み量に応じて増加させることができることも明らかになった。さらにまた、図4に示す通り、1分子あたり平均20本のGM1が結合しているアルブミンの方が、平均7本のGM1が結合しているアルブミンよりも多く、当該糖鎖(GM1)を認識する分子であるCTBと結合していることが明らかになった。
【0052】
<糖鎖が結合したタンパク質が固定化された膜担体の調製>
前記の通り調製したGM1結合アルブミン(アルブミン1分子に結合している糖鎖の平均本数:20)又はアルブミンを1μgずつ、三種類のイムノクロマトメンブレンにスポットした。用いたメンブレンは、ニトロセルロースからなるミリポア社製のメンブレン HiFlow Plus HFB180UBCAST、HiFlow Plus HFB07502及びHiFlow Plus HFB12002である。そして、GM1結合アルブミン又はアルブミンをスポットしたメンブレンを風乾させた後、HRP−CTB(HRP−CTBの濃度:0.2μg/mL)及び4−クロロ−1−ナフトールを用いて、発色させた。得られた結果を図5に示す。
【0053】
図5に示した結果から明らかなように、GM1結合アルブミンをスポットした箇所において発色が認められた。一方、アルブミンのみをスポットした箇所では発色が認められなかったことから、GM1結合アルブミンを試した3種いずれのイムノクロマトメンブレンにおいても固定化できることが明らかになった。
【0054】
また、メンブレンにスポットする量を1μgから、100ng、10ng又は1ngに変えて、前記同様に、GM1結合アルブミンをイムノクロマトメンブレン(HiFlow Plus HFB180UBCAST)に固定化し、そして、HRP−CTB(HRP−CTBの濃度:0.2μg/mL)及び4−クロロ−1−ナフトールにより検出した。得られた結果を図6に示す。
【0055】
図6に示す通り、10ng以上のGM1結合アルブミンを固定化したイムノクロマトメンブレンによって、GM1に結合する分子であるコレラトキシンβサブユニット(以下「CTB」とも称する)を検出できることが明らかになった。
【0056】
<糖鎖が結合したタンパク質が固定化された膜担体についての検証>
糖脂質認識分子を検出する方法として、ELISA法がある。ELISA法において、糖脂質認識分子を検出する場合には、通常1ウェルあたり100ngのGM1ガングリオシドが固定化されたマイクロプレートが用いられる(特許文献1 参照)。そこで、糖脂質認識分子を検出する点において、かかるELISA法と、本発明の膜担体を用いたイムノクロマトグラフィーとを比較した。
【0057】
すなわち、先ず、100ng及び10ngのGM1結合アルブミン(アルブミン1分子に結合している糖鎖の平均本数:20)をメンブレン(HiFlow Plus HFB180UBCAST)にスポットし、固定化することによる調製した本発明の膜担体(実施例1及び2)を用意した。また、GM1結合アルブミンの代わりに、100ng及び10ngのGM1ガングリオシドを固定化した膜担体(比較例1及び2)を用意した。なお、GM1結合アルブミン100ng及び10ngは、GM1ガングリオシド50ng及び5ng相当のGM1を含んでいることが推定される。そして、これら膜担体にHRP−CTB(HRP−CTBの濃度:0.2μg/mL)を作用させた後、4−クロロ−1−ナフトールを発色基質として用いて染色した。得られた結果を図7に示す。
【0058】
図7に示した結果から明らかな通り、GM1ガングリオシド5ng相当に相当するGM1結合アルブミンが固定化されている本発明の膜担体(実施例2)における染色性は、GM1ガングリオシド100ngが固定化されている膜担体(比較例1)におけるそれと同等であった。また、GM1ガングリオシド50ng相当に相当するGM1結合アルブミンが固定化されている本発明の膜担体(実施例1)における染色性は、比較例1におけるそれよりも顕著に優れていた。従って、CTBに対する結合能は、GM1ガングリオシドよりもGM1結合アルブミンの方が顕著に強く、また、GM1ガングリオシドを用いたELISA法よりも本発明の膜担体を用いたイムノクロマトグラフィーの方が、糖脂質認識分子(CTB)を検出する点において顕著に優れていることが明らかになった。
【0059】
次に、GM1結合アルブミンが糖脂質認識分子を感度良く検出できるかどうかを検証した。すなわち、実施例1及び2同様に0.7μgのGM1結合アルブミンを固定化させた本発明の膜担体(実施例3)と、比較例1及び2同様に1μgのGM1ガングリオシドを固定化させた膜担体(比較例3)とを調製した。そして、これら膜担体にHRP−CTBを作用させた後、4−クロロ−1−ナフトールを発色基質として用いて染色した。なお、作用させたHRP−CTB溶液におけるHRP−CTBの濃度は、1.0、0.1又は0.01μg/mLである。また、0.7μgのGM1結合アルブミンは、GM1ガングリオシド0.35μg相当のGM1を含んでいることが推定される。得られた結果を図8に示す。
【0060】
図8に示した結果から明らかなように、1μgのGM1ガングリオシドを固定化した膜担体(比較例3)においては、HRP−CTBの濃度が0.1〜1.0μg/mL程度でないと検出できないのに対し、GM1結合アルブミンは、糖鎖量がGM1ガングリオシドの約35%しかないにも関わらず、HRP−CTBの濃度が0.01μg/mL程度でも検出できることが明らかになった。
【0061】
従って、糖鎖を結合させたタンパク質を膜担体に固定化させることで、当該膜担体に高密度に糖鎖を固定化できることが明らかになった。そして、かかる膜担体を用いることにより、従来の方法(例えば、ELISA法)よりも、糖鎖認識分子を高感度に検出できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明によれば、糖鎖を認識する分子を、場所を選ばず迅速簡便に高感度にて検出することが可能となる。
【0063】
したがって、本発明の膜担体等を用いたイムノクロマトグラフィーは、糖鎖を認識する分子(レクチン、糖鎖を認識する抗体)の検出を必要とする研究開発や、糖鎖を認識する自己抗体が関与する疾患の診断において有用である。
【符号の説明】
【0064】
1…膜担体、2…検出ライン、3…コントロールライン、4…サンプルパッド、5…コンジュゲートパッド、6…吸収パッド、7…導入口、8…判定窓、9…空気穴、10…上部ケージング、11…下部ケージング、12…保持板、13…突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8