(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048666
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】圧電トランス式電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/24 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
H02M3/24 H
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-42985(P2013-42985)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-171361(P2014-171361A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】桑原 啓輔
【審査官】
北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−230951(JP,A)
【文献】
特開2010−124601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電トランスと整流平滑部とを備え、前記圧電トランスの出力電圧を整流平滑して負荷に供給する圧電トランス式電源装置であって、
前記負荷を流れる電流により生じる電圧が、前記整流平滑部の出力電圧を分圧した電圧より小さい状態を検出する過電圧検出部と、
前記負荷の経路と並列に設けられ、前記過電圧検出部の検出結果に応じて導通状態となるバイパス経路と、
を備え、
前記過電圧検出部は、
前記負荷と直列に接続された抵抗R1と、
前記整流平滑部の出力電圧を分圧して出力する分圧回路と、
前記抵抗R1に生じる電圧と前記分圧回路の出力電圧とを比較するコンパレータ回路とにより構成され、
前記コンパレータ回路の出力が不定の場合に、前記コンパレータ回路の出力端子を前記整流平滑部の出力電圧にプルアップする抵抗R3をさらに備えたことを特徴とする圧電トランス式電源装置。
【請求項2】
前記バイパス経路は、
前記コンパレータ回路の出力によりオンオフ制御されるトランジスタと、
抵抗R2とが直列に接続されて構成されることを特徴とする請求項1に記載の圧電トランス式電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷回路に電圧を供給する圧電トランス式電源装置に関し、特に、負荷回路への過大電圧を制限する圧電トランス式電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー変換効率が高く、小型化が容易な電源装置として、圧電トランスを用いた圧電トランス式電源装置が知られている。圧電トランスは、入力電圧を変圧して出力する圧電セラミックス等を利用したトランスである。圧電トランスは、セラミックス矩形板の上下部および端部に電極を設け、厚みと長さ方向にそれぞれ分極した構造となっており、厚み方向に分極した部分が1次側(駆動部)、長さ方向に分極した部分が2次側(発電部)となり、1次側の電極間の電界で発生した振動が2次側の電極間に伝搬して、電圧を発生させる仕組みとなっている。
【0003】
図4は、圧電トランス式電源装置の基本構成を示す図である。本図に示すように、電源装置300は、圧電トランス駆動回路310、圧電トランス320、整流平滑回路330を備え、負荷回路340に直流出力電圧V
Oを供給する。定電圧を供給するために、負荷回路340を流れる電流を検出して、圧電トランス駆動回路310の周波数を制御する方式の電源装置も用いられているが、本図の例では、圧電トランス駆動回路310は、圧電トランス320を、その共振周波数近傍の一定周波数で駆動する。
【0004】
本例の電源装置300は、圧電トランス駆動回路310に電気的な帰還を行なわないため、圧電トランス320の1次側と2次側とで絶縁が確保されている。このような電源装置300は、例えば、負荷回路340としてレギュレータを接続することで、安定した電圧を供給する絶縁型の電源システムを構成することができる。
【0005】
一般に、圧電トランス320は、2次側の負荷抵抗の変化による昇圧比の変動が大きく、
図5に示すように、負荷抵抗が大きいほど昇圧比が大きくなって、出力電圧V
Oが大きくなるという性質を有している。
【0006】
このため、動作中に負荷回路340の抵抗が大きな値に変動したり、起動時等に負荷回路340が過渡的に高い抵抗値を示したりすると、負荷回路340に過大電圧を出力し、負荷回路340に悪影響を与えてしまうおそれがある。
【0007】
この過大電圧を制限するために、特許文献1には、
図6に示すような電源装置400が開示されている。電源装置400は、制御部410が駆動部420の動作を制御することにより圧電トランス430を駆動し、負荷回路460に交流電圧を供給する。電源装置400は、電流検出部450で負荷回路460に流れる電流を検出し、基準値と比較することにより、駆動部420の動作周波数を調整している。電気的な帰還を行なうため、圧電トランス430の1次側と2次側との絶縁は確保されていない。
【0008】
過大電圧を制限するために、電源装置400は、負荷回路460と並列にサージクランパ440が設けられており、負荷回路460のインピーダンスが大きくなり、圧電トランス430の出力電圧が所定の値まで上昇すると、サージクランパ440が動作してサージ電流が流れるようになっている。
【0009】
負荷回路460のインピーダンスが大きくなっても、サージクランパ440にサージ電流が流れることにより、圧電トランス430から見た負荷インピーダンスは低下し、圧電トランス430の出力が低下するために、負荷回路460への過大電圧が制限される。なお、サージクランパ440は、バリスター、ツェナーダイオード等の半導体素子で構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−9640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
サージクランパを構成するバリスター、ツェナーダイオード等の半導体素子は、一般に実装面積が大きく、集積化に不向きである。このため、集積化が容易な回路を用いて過大電圧を制限できる圧電トランス式電源装置を構成することが望まれている。
【0012】
そこで、本発明は、集積化が容易な回路を用いて過大電圧を制限する圧電トランス式電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、圧電トランスと整流平滑部とを備え、前記圧電トランスの出力電圧を整流平滑して負荷に供給する圧電トランス式電源装置であって、前記負荷を流れる電流により生じる電圧が、前記整流平滑部の出力電圧を分圧した電圧より小さい状態を検出する過電圧検出部と、前記負荷の経路と並列に設けられ、前記
過電圧検出部の検出結果に応じて導通状態となるバイパス経路と、を備え
、前記過電圧検出部は、前記負荷と直列に接続された抵抗R1と、前記整流平滑部の出力電圧を分圧して出力する分圧回路と、前記抵抗R1に生じる電圧と前記分圧回路の出力電圧とを比較するコンパレータ回路とにより構成され、前記コンパレータ回路の出力が不定の場合に、前記コンパレータ回路の出力端子を前記整流平滑部の出力電圧にプルアップする抵抗R3を備えることを特徴とする。
このとき、前記バイパス経路は、前記コンパレータ回路の出力によりオンオフ制御されるトランジスタと、抵抗R2とが直列に接続されて構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、集積化が容易な回路を用いて過大電圧を制限する圧電トランス式電源装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態である圧電トランス式電源装置の構成を示す図である。
【
図2】正常動作中に負荷回路の抵抗が大きい値に変動したときの過大電圧制限動作について説明するタイミング図である。
【
図4】圧電トランス式電源装置の基本構成を示す図である。
【
図5】圧電トランスの負荷抵抗の変化による昇圧比の変動を示す図である。
【
図6】サージクランパを用いた圧電トランス式電源装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態である圧電トランス式電源装置の構成を示す図である。
【0017】
本図に示すように、電源装置100は、圧電トランス駆動回路110、圧電トランス120、整流平滑回路130、過大電圧制限回路140を備え、負荷回路160に直流電圧V
Oを供給する。圧電トランス駆動回路110は、圧電トランス120を、その共振周波数近傍で駆動する。本実施形態の電源装置100は、圧電トランス120の1次側と2次側とが絶縁されている絶縁型電源である。ただし、本発明は、非絶縁型の電源に適用することもできる。
【0018】
過大電圧制限回路140は、整流平滑回路130の出力電圧を入力し、負荷回路160に電圧V
Oを供給する回路であり、電圧V
Oが過大電圧とならないように制御する。
【0019】
本実施形態において過大電圧制限回路140は、負荷回路160を流れる電流I
Lに応じた電圧V
Lを生じさせる抵抗R1と、整流平滑回路130の出力電圧を分圧して電圧V
Rを生成する分圧回路141と、電圧V
Rと電圧V
Lとを比較し、比較結果を示す電圧V
Cを出力するCmpと、電圧V
Cでオンオフ動作するスイッチング用のTrと抵抗R2とが直列に接続され、負荷回路160と抵抗R1との経路に対して並列に設けられたバイパス経路142と、起動時等にCmpの出力が不定となっても、電圧V
Cを整流平滑回路130の出力電圧にプルアップしてTrをオンさせる抵抗R3とを備えている。これらの素子は、いずれも高集積化が容易である。
【0020】
本図の例では、スイッチング用のTrは、NMOS型トランジスタを用いており、分圧回路141は、抵抗Raと抵抗Rbを用い、抵抗Rbに生じる電圧を出力するように構成している。また、Cmpは、コンパレータ回路により構成され、電圧V
Rが電圧V
Lよりも大きい場合にハイレベルを出力する。なお、抵抗R1と分圧回路141とCmpとで過電圧検出部を構成している。
【0021】
圧電トランス120の特性、想定される負荷回路160特性等により正常動作とみなすことができる動作中に、負荷回路160に流れる電流I
Lによって抵抗R1で生じる電圧V
Lが、整流平滑回路130の出力電圧を分圧して得られる電圧V
Rよりも高くなるように、抵抗R1、分圧回路141を設定する。このような設定により、正常動作中にはCmpの出力電圧V
Cはロウレベルであり、Trはオフ状態となる。したがって、バイパス経路142は不導通状態である。
【0022】
上記構成の電源装置100の動作について説明する。まず、正常動作中に負荷回路160の抵抗が大きい値に変動したときの過大電圧制限動作について
図2のタイミング図を参照して説明する。
【0023】
上述のように、負荷回路160の抵抗値が正常で、負荷回路160にある程度の電流I
Lが流れている状態で、電圧V
Lは電圧V
Rよりも大きいため、Cmpの出力電圧V
Cはロウレベルとなり、Trはオフ状態となる。このため、バイパス経路142に電流I
Dは流れない。
【0024】
あるタイミングで、負荷回路160の抵抗が大きな値に変動すると、圧電トランス120の性質により、負荷回路160に供給される出力電圧V
Oは、大きくなろうとする。このとき、負荷回路160の抵抗が大きくなったことで、負荷回路160を流れる電流I
Lが小さくなる。
【0025】
このため、抵抗R1により生じる電圧V
Lが、分圧回路141の出力電圧V
Rよりも小さくなり、Cmpの出力電圧V
Cはハイレベルとなって、Trがオン状態となる。
【0026】
Trがオン状態となると、バイパス経路142が導通状態となり、電流I
Dが流れ始める。このときのバイパス経路142の抵抗は、抵抗R2とTrのオン抵抗との和である。
【0027】
バイパス経路142が導通状態となることにより、圧電トランス120から見た負荷抵抗が減少することになり、圧電トランス120の出力電圧上昇が抑えられる。この結果、負荷回路160に供給される出力電圧V
Oの上昇も抑えられ、負荷回路160に対する過大電圧を制限することが可能となる。
【0028】
なお、抵抗R2は、Trがオン状態となったときに、Trのオン抵抗と合わせて、負荷回路160に対する過大電圧を制限するのに十分な電流I
Dを流せる値を設定しておくようにする。また、この設定により、負荷回路160の抵抗が大きな値に変動したときに、負荷回路160に供給される電圧V
Oを調整することが可能である。
【0029】
次に、電源装置300の起動時の過電圧制限動作について説明する。ここでは、負荷回路160が動作開始時に過渡的に高抵抗となる場合を例に説明する。電源装置300の起動前において、圧電トランス駆動回路110は動作を行なわず、整流平滑回路130の出力電圧は0であるため、Trはオフ状態となっている。
【0030】
電源装置300が起動し、圧電トランス駆動回路110が動作を開始すると、整流平滑回路130の出力電圧が上昇していき、負荷回路160に電圧が供給され始める。上述のように本例では、動作開始時の負荷回路160は過渡的に高抵抗となるため、出力電圧V
Oが上昇しようとする。
【0031】
このとき、起動直後のCmpの出力がハイレベルとならず不定であったとしても、抵抗R3を介して、電圧V
Cは整流平滑回路130の出力電圧にプルアップされる。これにより、Trがオン状態となって、バイパス経路142が導通状態となり、電流I
Dが流れるため、負荷回路160に対する過大電圧を制限することが可能となる。
【0032】
その後、負荷回路160の動作が安定し、通常の抵抗値に下がると、ある程度の電流I
Lが流れることにより、Cmpの出力電圧V
Cはロウレベルとなり、Trがオフ状態となる。これにより、バイパス経路142の電流I
Dが流れなくなり、電源装置300は、正常動作となる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、過大電圧制限回路140は、高集積化が容易な素子により構成されるため、集積化が容易な過大電圧制限回路140を用いた圧電トランス式電源装置が提供される。
【0034】
なお、過大電圧制限回路140は、
図1の構成に限られず、種々の変形が可能である。
図3(a)は、
図1に示した構成に対して、抵抗R1と負荷回路160とを入れ替え、Cmpの入力の極性を反転させて構成した例である。
図3(b)は、
図1に示した構成に対して、TrをPMOS型トランジスタに変更し、抵抗R3を接地側に接続するとともに、Cmpの入力の極性を反転させて構成した例である。
図3(c)は、
図1に示した構成に対して、抵抗R1と負荷回路160とを入れ替え、TrをPMOS型トランジスタに変更するとともに、抵抗R3を接地側に接続して構成した例である。なお、いずれの場合も、MOS型電界効果トランジスタに替えてバイポーラトランジスタを用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
100…圧電トランス式電源装置、110…圧電トランス駆動回路、120…圧電トランス、130…整流平滑回路、140…過大電圧制限回路、141…分圧回路、142…バイパス経路、160…負荷回路、300…圧電トランス式電源装置、310…圧電トランス駆動回路、320…圧電トランス、330…整流平滑回路、340…負荷回路、400…圧電トランス式電源装置、410…制御部、420…駆動部、430…圧電トランス、440…サージクランパ、450…電流検出部、460…負荷回路