(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の
第1態様では、
ビューアは、所定の複数の焦点距離を設定可能な多焦点レンズと、前記多焦点レンズの焦点距離を制御する制御部と、ユーザの注視点距離を計測し、注視点距離の変化を検出する計測部と、前記計測部が注視点距離の変化を検出したとき、計測された注視点距離に基づいて、前記複数の焦点距離の中から設定する焦点距離を選択する選択部と、前記選択部によって選択された焦点距離が現在の焦点距離と異なるとき、注視点距離の変化を検出してから前記多焦点レンズの焦点距離を変更するまでの時間幅を決定する決定部と、前記ユーザの瞬目または急速眼球運動を検出する検出部とを備え、前記制御部は、前記多焦点レンズの焦点距離を現在の焦点距離から前記選択部によって選択された焦点距離に切り替える場合において、注視点距離の変化を検出してから前記決定部によって決定された時間幅が経過するまでの間に、前記検出部が瞬目または急速眼球運動を検出したとき、前記多焦点レンズの焦点距離の変更を行うものであり、前記決定部は、与えられた注視点距離と焦点距離とに基づいて、前記ユーザが、当該焦点距離が設定された状態で当該注視点距離を見たときの見易さを表す見易さ指標の値を推定する見易さ推定部を備え、前記見易さ推定部によって推定された見易さ指標の値を用いて、前記時間幅を決定する。
【0014】
本発明の
第2態様では、
第1態様のビューアにおいて、前記決定部は、前記見易さ推定部によって、計測された注視点距離と選択された焦点距離とに基づいた見易さ指標の値である第1指標値と、計測された注視点距離と現在の焦点距離とに基づいた見易さ指標の値である第2指標値とを求め、前記第2指標値から前記第1指標値への変化度合に基づいて、前記時間幅を決定する。
【0015】
本発明の
第3態様では、
第2態様のビューアにおいて、前記決定部は、前記変化度合が小さいほど、前記時間幅を大きく設定する。
【0016】
本発明の
第4態様では、
第2態様のビューアにおいて、前記決定部は、前記変化度合が等しい場合において、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも大きいときは、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも小さいときよりも、前記時間幅を大きく設定する。
【0017】
本発明の
第5態様では、
第2態様のビューアにおいて、前記決定部は、前記変化度合に加えて、選択された焦点距離を加味して、前記時間幅を設定する。
【0018】
本発明の
第6態様では、
第1態様のビューアにおいて、前記決定部は、前記見易さ推定部によって、計測された注視点距離と現在の焦点距離とに基づいた見易さ指標の値を求め、この値が大きいほど、前記時間幅を大きく設定する。
【0019】
本発明の
第7態様では、
ビューアは、所定の複数の焦点距離を設定可能な多焦点レンズと、前記多焦点レンズの焦点距離を制御する制御部と、ユーザの注視点距離を計測し、注視点距離の変化を検出する計測部と、前記計測部が注視点距離の変化を検出したとき、計測された注視点距離に基づいて、前記複数の焦点距離の中から設定する焦点距離を選択する選択部と、前記選択部によって選択された焦点距離が現在の焦点距離と異なるとき、注視点距離の変化を検出してから前記多焦点レンズの焦点距離を変更するまでの時間幅を決定する決定部と、前記ユーザの瞬目または急速眼球運動を検出する検出部とを備え、前記制御部は、前記多焦点レンズの焦点距離を現在の焦点距離から前記選択部によって選択された焦点距離に切り替える場合において、注視点距離の変化を検出してから前記決定部によって決定された時間幅が経過するまでの間に、前記検出部が瞬目または急速眼球運動を検出したとき、前記多焦点レンズの焦点距離の変更を行うものであり、前記決定部は、計測された注視点距離が大きいほど、時間幅を大きく設定する。
【0020】
本発明の
第8態様では、
ビューアは、所定の複数の焦点距離を設定可能な多焦点レンズと、前記多焦点レンズの焦点距離を制御する制御部と、ユーザの注視点距離を計測し、注視点距離の変化を検出する計測部と、前記計測部が注視点距離の変化を検出したとき、計測された注視点距離に基づいて、前記複数の焦点距離の中から設定する焦点距離を選択する選択部と、前記選択部によって選択された焦点距離が現在の焦点距離と異なるとき、注視点距離の変化を検出してから前記多焦点レンズの焦点距離を変更するまでの時間幅を決定する決定部と、前記ユーザの瞬目または急速眼球運動を検出する検出部とを備え、前記制御部は、前記多焦点レンズの焦点距離を現在の焦点距離から前記選択部によって選択された焦点距離に切り替える場合において、注視点距離の変化を検出してから前記決定部によって決定された時間幅が経過するまでの間に、前記検出部が瞬目または急速眼球運動を検出したとき、前記多焦点レンズの焦点距離の変更を行うものであり、前記決定部は、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも大きいときは、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも小さいときよりも、前記時間幅を大きく設定する。
【0021】
本発明の
第9態様では、所定の複数の焦点距離を設定可能な多焦点レンズを有するビューアにおいて、前記多焦点レンズの焦点距離を変更する方法は、前記ビューアが、ユーザの注視点距離の変化を検出し、注視点距離の変化を検出したとき、前記ビューアが、計測した注視点距離に基づいて、前記複数の焦点距離の中から設定する焦点距離を選択し、 選択した焦点距離が現在の焦点距離と異なるとき、前記ビューアが、注視点距離の変化を検出してから前記多焦点レンズの焦点距離を変更するまでの時間幅を決定し、前記ビューアが、前記多焦点レンズの焦点距離を現在の焦点距離から選択した焦点距離に切り替える場合において、注視点距離の変化を検出してから決定した時間幅が経過するまでの間に、前記ユーザの瞬目または急速眼球運動を検出したとき、前記多焦点レンズの焦点距離の変更を行う
ものであり、前記時間幅の決定において、与えられた注視点距離と焦点距離とに基づいて、前記ユーザが、当該焦点距離が設定された状態で当該注視点距離を見たときの見易さを表す見易さ指標の値を推定し、推定した見易さ指標の値を用いて、前記時間幅を決定する。
【0022】
本発明の第10態様では、所定の複数の焦点距離を設定可能な多焦点レンズを有するビューアにおいて、前記多焦点レンズの焦点距離を変更する方法は、前記ビューアが、ユーザの注視点距離の変化を検出し、注視点距離の変化を検出したとき、前記ビューアが、計測した注視点距離に基づいて、前記複数の焦点距離の中から設定する焦点距離を選択し、選択した焦点距離が現在の焦点距離と異なるとき、前記ビューアが、注視点距離の変化を検出してから前記多焦点レンズの焦点距離を変更するまでの時間幅を決定し、前記ビューアが、前記多焦点レンズの焦点距離を現在の焦点距離から選択した焦点距離に切り替える場合において、注視点距離の変化を検出してから決定した時間幅が経過するまでの間に、前記ユーザの瞬目または急速眼球運動を検出したとき、前記多焦点レンズの焦点距離の変更を行うものであり、前記時間幅の決定において、計測された注視点距離が大きいほど、前記時間幅を大きく設定する。
【0023】
本発明の第11態様では、所定の複数の焦点距離を設定可能な多焦点レンズを有するビューアにおいて、前記多焦点レンズの焦点距離を変更する方法は、前記ビューアが、ユーザの注視点距離の変化を検出し、注視点距離の変化を検出したとき、前記ビューアが、計測した注視点距離に基づいて、前記複数の焦点距離の中から設定する焦点距離を選択し、選択した焦点距離が現在の焦点距離と異なるとき、前記ビューアが、注視点距離の変化を検出してから前記多焦点レンズの焦点距離を変更するまでの時間幅を決定し、前記ビューアが、前記多焦点レンズの焦点距離を現在の焦点距離から選択した焦点距離に切り替える場合において、注視点距離の変化を検出してから決定した時間幅が経過するまでの間に、前記ユーザの瞬目または急速眼球運動を検出したとき、前記多焦点レンズの焦点距離の変更を行うものであり、前記時間幅の決定において、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも大きいときは、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも小さいときよりも、前記時間幅を大きく設定する。
【0024】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読取可能なCD−ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたは記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0025】
以下、本発明の一態様に係るビューアについて、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0026】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0027】
ここで、瞬目または急速眼球運動のタイミングで多焦点レンズの焦点距離を切り替える理由を説明する。
【0028】
焦点距離を調節可能なビューアにおいて、ユーザの眼球運動は、ユーザが外界を観視しており、視野内の何らかの対象物に対して注視点を移動させる動作に伴って計測される。すなわち、多焦点レンズの焦点距離の切り替えは、ユーザがビューアのレンズを通して外界を観視しているときに起こる。ここで、眼球運動はユーザの意思による注視点移動を実現する運動であるが、ユーザは眼球運動を意識はしていない。したがって、眼球運動に従って自動で焦点距離が切り替えられるタイミングはユーザには意識できない。ユーザにとっては、外界を観視中に突然、レンズの焦点距離が変わり、これまで焦点があっていた部分が急にぼやけ、これまで焦点があっていなかった部分が突然はっきり見えるというような、見え方の変化が生じることになる。このような急激な視野内の変化は、ユーザにとって違和感があり、急激な切り替えによって注視点を見失う等の状態があれば、焦点距離の切り替えはユーザにとって不快なものとなる。
【0029】
この違和感あるいは不快感は、ユーザがまさに「見ている」状態、すなわち網膜で受容された光刺激が脳に伝わり、脳内で処理されている状態で、急激に網膜への光刺激が変化し、情報に不連続が起ることに由来する。一方人間は、日常生活の中で視点を急峻に移動させることがある。例えば自動車の運転中には、信号、歩行者、対向車あるいは標識と視点をすばやく移動させる。このとき、視点を動かしている最中の風景はユーザには「見えていない」。すなわち、眼球運動により、すばやく流れる風景の光刺激は網膜には入力されているが、認識されるのは視点を動かす前と視点を動かした後の、視点を定めた時点の網膜への入力のみである。流れてぼけている風景は知覚されない。人間の脳内の視覚系においては、急速眼球運動の際には視覚入力に対して閾値の上昇が起っており、視覚が抑制されている(非特許文献1を参照)。また、瞬目の際は実際に瞼が閉じられており、視覚刺激が入力されない。
【0030】
ビューアの焦点距離が急峻に変化することで生ずる違和感は、網膜への光刺激が人工的に急峻に変化することで起る。したがって、人間が生理的に「見ていない」(視覚が抑制されている)急速眼球運動あるいは瞬目のタイミングでビューアの焦点距離を切り替えると、ユーザは切り替えによる急峻な変化を、見るすなわち視覚として認識することが無い。このように、人間が網膜像の急変に対して生理的に備えた仕組みを利用することによって、ユーザに新たな負荷を与えずに焦点距離を切り替える際の違和感あるいは不快感を軽減することができる。
【0031】
なお、本願明細書において、急速眼球運動は、ユーザの注視点距離が変化する眼球運動、すなわち奥行方向の急速な眼球運動を含まないものとする。奥行方向の眼球運動が検出された際は、注視点距離の変化として取り扱うものとする。本願明細書において、急速眼球運動は、奥行方向の動きが無く、ユーザから等距離の球面または平面上を視線が移動する場合の眼球運動である。
【0032】
(実施の形態1)
実施の形態1では、多焦点レンズを有し、ユーザの眼球運動に対応して焦点調節可能な、メガネやゴーグル等のビューアについて説明する。本実施の形態に係るビューアは、所定の複数の焦点距離を設定可能であり、焦点距離を切り替える際に、実際に焦点距離を切り替えるまでの時間幅を決定する。そして、この時間幅が経過する前にユーザの瞬目または急速眼球運動のタイミングに合わせて、焦点距離を切り替える。
【0033】
図1は本実施形態に係るビューアの構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すビューア10は、ユーザの眼球運動に対応して焦点距離を調節可能に構成されており、センサ110と、注視点距離計測部120と、焦点距離決定部130と、時間幅決定部140と、制御部150と、多焦点レンズ160と、眼球運動検出部170とを備える。
【0034】
多焦点レンズ160は所定の複数の焦点距離を設定可能に構成されたレンズである。具体的には、封入された液体またはゲル状の物質に対して圧力を調節することによって複数の焦点距離を実現するものや、液晶のように電気的な印加に対して特定の屈折率を実現する物質により複数の焦点距離を実現するもの等がある。多焦点レンズ160の焦点距離は、制御部150の制御信号に従って制御される。
【0035】
センサ110はユーザの注視点距離を計測するためのセンシングを行う。
図1の例ではセンサ110はユーザの眼球運動をセンシングするものとする。眼球運動をセンシングするセンサとしては、具体的には例えば、眼球を撮像するカメラや、眼球運動に伴う皮膚上の電位変化を記録する眼電位センサ等がある。
【0036】
注視点距離計測部120はセンサ110によってセンシングされたデータに基づき、注視点距離、すなわち、ユーザが注視している位置がユーザの眼からどれだけの距離にあるかを計測する。そして、注視点距離計測部120は、注視点距離の変化を検出する。
【0037】
焦点距離選択部130は注視点距離計測部120で計測されたユーザの注視点距離に基づいて、多焦点レンズ160に設定可能な所定の複数の焦点距離の中から、設定する焦点距離を選択する。
【0038】
眼球運動検出部170はセンサ110によってセンシングされた情報に基づき、ユーザの瞬目または急速眼球運動を検出する。
【0039】
時間幅決定部140は、多焦点レンズ160の焦点距離を切替えるタイミングを設定できる時間幅を決定する。すなわち、焦点距離選択部130によって現在の焦点距離と異なる焦点距離が選択されたとき、時間幅決定部140は、注視点距離計測部120によって注視点距離の変化が検出されてから多焦点レンズ160の焦点距離を変更するまでの時間幅を決定する。この時間幅の中で眼球運動検出部170がユーザの瞬目または急速眼球運動を検出したとき、焦点距離の変更が実行される。時間幅決定部140の詳細については後述する。
【0040】
制御部150は、多焦点レンズ160の焦点距離を制御するものであり、焦点距離を切り替えるための制御信号を出力する。制御部150は、多焦点レンズ160の焦点距離を現在の焦点距離から選択された焦点距離に切り替える場合において、注視点距離の変化が検出されてから、時間幅決定部140によって決定された時間幅が経過するまでに、眼球運動検出部170によって瞬目または急速眼球運動が検出されたとき、多焦点レンズ160の焦点距離を変更する。また、決定された時間幅が経過するまでに瞬目または急速眼球運動が検出されなかったときは、決定された時間幅が経過したとき、多焦点レンズ160の焦点距離を変更する。
【0041】
ここで、多焦点レンズ160は、複数の焦点距離として、3種類の焦点距離が設定可能であるものとする。ユーザの眼に最も近い位置には、読書等を想定した近見用レンズの焦点距離が設定される。近見用レンズの焦点距離は例えば20cmである。ユーザの眼から最も遠い位置には、歩行や運転等を想定した遠見用レンズの焦点距離が設定される。遠見用レンズの焦点距離は例えば3mである。その間に、手元の作業やパソコンの操作を想定した中距離用レンズの焦点距離が設定される。中距離用レンズの焦点距離は例えば60cmである。
【0042】
図2は注視点距離と焦点距離との対応関係の例である。
図2では、注視点距離が30cm未満のときは焦点距離を近見用の20cmとし、注視点距離が30cm以上100cm未満のときは焦点距離を中距離用の60cmとし、注視点距離が100cm以上のときは焦点距離を遠見用の300cmとしている。
図2のような対応関係は、例えば焦点距離選択部130に記憶されている。
【0043】
<時間幅決定部の詳細>
図3は
図1のビューア10における時間幅決定部140の詳細な構成例を示すブロック図である。
図3の時間幅決定部140は、見易さ推定部141と、見易さ関数記憶部142と、時間幅設定部143と、時間幅設定関数記憶部144とを備える。
【0044】
見易さ推定部141は、与えられた注視点距離と焦点距離とに基づいて、当該焦点距離が設定された状態で、ユーザが当該注視点距離を見たときの見易さを表す見易さ指標の値を推定する。ここでは、見易さ関数記憶部142に記憶された、見易さ指標の値を決定するための関数が用いられる。この関数は、注視点距離と焦点距離とが与えられたとき、見易さ指標の値を出力する。ここで、関数の出力値は、注視点距離と焦点距離とが一致したとき1になり、注視点距離が焦点距離から離れるに従って小さくなり0に近づくものとする。
【0045】
時間幅設定部143は、見易さ推定部141によって推定された見易さ指標の値を用いて、時間幅を設定する。ここでは、見易さ推定部141が、計測された注視点距離と選択された焦点距離とに基づいた見易さ指標の値(第1指標値)と、計測された注視点距離と現在の焦点距離とに基づいた見易さ指標の値(第2指標値)とを求め、時間幅設定部143は、第1指標値と第2指標値との差に基づいて、時間幅を設定する。このとき、時間幅関数記憶部144に記憶された関数が用いられる。この関数は、第1指標値と第2指標値との差が与えられたとき、時間幅の値を出力するものであり、ここでは、差が小さいほど大きい時間幅を出力するものとする。
【0046】
なお、ここでは、焦点距離を切り替える際の見易さ指標値の変化度合を、第1指標値と第2指標値との差によって表すものとしたが、これに限られるものではない。例えば、第1指標値と第2指標値との比によって、見易さ指標値の変化度合を表すようにしてもかまわない。すなわち、計測された注視点距離に関しての、現在の焦点距離における見易さから、選択された焦点距離における見易さへの変化度合を表すものであれば、どのような演算を用いてもかまわない。
【0047】
なお、
図3の構成では、見易さ指標の値を求めるために関数を用いるものとしたが、他にも例えば、各注視点距離および焦点距離に対応した見易さ指標の値を記録したテーブルを用いてもよい。
図4は各注視点距離および焦点距離に対応した見易さ指標の値を記録したテーブルの一例である。なお、該当する注視点距離または焦点距離がテーブル内にない場合には、値が近い注視点距離または焦点距離における見易さ指標の値を適宜補間して、見易さ指標の値を求めればよい。
【0048】
また、
図3の構成では、時間幅の値を設定するために関数を用いるものとしたが、他にも例えば、見易さ指標の変化度合に対応した時間幅の値を記録したテーブルを用いてもよい。
図5は見易さ指標の差に対応する時間幅の値を記録したテーブルの一例である。
【0049】
図4および
図5のようなテーブルを用いた場合には、時間幅は例えば次のように決定される。現在の焦点距離が中距離用の60cmであり、計測された注視点距離が30cmであるとき、新たな焦点距離として近距離用の20cmが選択される。このとき、
図4のテーブルを参照すると、見易さの指標値は、変更前は0.31、変更後は0.80となり、その差は0.49である。
図5のテーブルを参照すると、時間幅は0.4秒となる。
【0050】
なお、各注視点距離および焦点距離に対応する見易さ指標の値は、例えば次のようにして準備しておけばよい。注視点距離として設定する距離に、例えばランドルト環等による視力表を設置し、ビューアの焦点距離を所定値に設定した状態で、ビューアを装着したユーザに対して視力検査と同様の検査を行う。そして、この検査結果から、当該注視点距離および当該焦点距離における見易さ指標の値を定める。このような処理を、注視点距離および焦点距離を変えながら繰り返し実行する。
【0051】
図6は本実施形態に係るビューアの、注視点距離によるレンズ選択とユーザの見易さとの関係を模式的に示した図である。
図6において、上段に右端の眼球を基準にした注視点距離を表す直線を描いており、この直線上に、3種類の焦点距離の設定を示している。また、下段に各焦点距離に関する、注視点距離に対する見易さを表す曲線を模式的に示している。
【0052】
図6において、A1とA2、B1とB2、C1とC2はそれぞれ注視点距離の移動の例を示している。A1からA2への移動では、例えば、注視点距離はユーザの眼から18cmの位置から2.8mの位置へ移動する。A2において遠見用レンズを使用した場合の見易さは、概ね最大すなわち最も見やすい状態であり、他のレンズでは高い見易さは得られない。このため、A1からA2へ注視点距離が移動したときは、焦点距離の切替による違和感や不快感よりも、焦点距離の切替によって高い見易さが得られるメリットの方が大きい。したがって、速やかに焦点距離を切り替えることがユーザにとって好ましい。このような場合は、例えば注視点距離の移動を検出したタイミングで、待ち時間なく、瞬目または急速眼球運動の有無に関わらず、レンズの焦点距離を切替えるのが好ましい。
【0053】
また、B1からB2への移動では、例えば、注視点距離はユーザの眼から28cmの位置から40cmの位置へ移動する。B1では近見用レンズを使用している。これは、B1では中距離用レンズよりも近見用レンズの方が見易いためである。B2ではB1で使用していた近見用レンズでの見易さが小さくなる一方、中距離用レンズを使用した場合の見易さが大きくなり、見易さの大小関係が逆転する。ただし、中距離用レンズを使用した場合の見易さは、注視点距離が焦点距離近傍にあるときほどは大きくならない。このような場合、焦点距離の切り替えは行うものの、焦点距離の切替えによる違和感と焦点距離の切替によって得られる見易さの程度とを考慮し、ある時間幅を設定して、その時間幅の中で瞬目または急速眼球運動が生じたタイミングで切替えを行うのが好ましい。ここでは、焦点距離の切替前後での見易さの差は比較的大きいため、設定する時間幅は比較的小さく設定する。
【0054】
一方、C1からC2への移動では、例えば、注視点距離はユーザの眼から70cmの位置から1、5mの位置へ移動する。C2では移動前のC1で使用していた中距離用レンズでの見易さが小さくなり、遠見用レンズを使用した場合の見易さをわずかに下回る。ただしC2では、中距離用レンズと遠見用レンズのいずれを使用した場合でも見易さはさほど大きくない。このような場合、焦点距離を切替えても見易さは大きく改善されないにもかかわらず、焦点距離が切り替わることによる違和感は生ずる。そこで、B1からB2への移動と同様に、ある時間幅を設定して、その時間幅の中で瞬目または急速眼球運動が生じたタイミングで切替えを行うのが好ましい。ただしこの場合は、焦点距離の切替前後での見易さの差は小さいため、設定する時間幅は比較的大きく設定する。これにより、ある程度長い時間、瞬目または急速眼球運動が検出されるタイミングを待って、違和感無く焦点距離を切替えることができる。また、見易さの差が所定のしきい値よりも小さい場合は、焦点距離の切替を行わないものとしてもかまわない。
【0055】
本実施形態では、上のような考え方に従って、焦点距離の切替えを行う。なお、実際の使用状況の中では、焦点距離切替えのために決定した時間幅の間に、さらに注視点距離の変化が検出されることもある。そこで、注視点距離の変化が検出されるたびに、焦点距離切替えの有無の判断と時間幅の再設定を行ってもよい。これにより、ユーザの注視点が頻繁に変化する場合であっても、焦点距離切替えの頻度が高くなりすぎず、焦点距離切替えによる違和感や不快感を軽減することができる。
【0056】
図7は本実施の形態に係るビューア10の動作の一例を示すフローチャートである。
図7にしたがって、ビューア10の焦点切替えにかかわる処理手順を説明する。
【0057】
まず、センサ110はユーザの眼球の状態を取得し、注視点距離計測部120はセンサ110の取得したデータに基づいてユーザの注視点距離の変化を検出する(S11)。注視点距離の変化が検出されたとき(S11においてYES)は、ステップS12に進む。一方、注視点距離の変化が検出されなかったとき(S11においてNO)は、ステップS11を繰り返す。
【0058】
ステップS12では、焦点距離選択部130が、ステップS11で注視点距離計測部120が計測した新たな注視点距離に基づいて、例えば
図2に示すような注視点距離と焦点距離との所定の関係に従って、新たな焦点距離を選択する。そして、選択した焦点距離が、制御部150が記憶する現在の焦点距離と異なるか否かを判定する(S12)。現在の焦点距離と選択した焦点距離とが異なる場合、すなわち焦点距離の変更を行う場合(S12においてYES)は、ステップS13に進む。一方、現在の焦点距離と選択した焦点距離とが同じである場合、すなわち焦点距離の変更を行わない場合(S12においてNO)、ステップS11にもどる。
【0059】
ステップS13では、時間幅決定部140が、ステップS11で計測された注視点距離について、現在の焦点距離および新たな焦点距離に対応する見易さ指標の値を求める。さらにステップS14において、時間幅決定部140は、ステップS13で求めた見易さ指標の値を用いて、焦点距離を切替えるために瞬目または急速眼球運動を待つ時間幅を決定する。
【0060】
ステップS13,S14は、具体的には例えば、
図3に示す時間幅決定部140によって次のように実行される。ステップS13では、見易さ推定部141が見易さ関数記憶部142に記憶された関数に基づき、ステップS12で選択された焦点距離と現在の焦点距離とのそれぞれについて、ステップS11で計測された注視点距離における見易さ指標の値を求める。ステップS14では、時間幅設定部143が、ステップS13で求められた選択された焦点距離での見易さ指標の値(第1指標値)と現在の焦点距離での見易さ指標の値(第2指標値)との差または比を求める。そして時間幅設定部143は時間幅関数記憶部144に記憶された関数に基づき、見易さ指標の差または比に対応する時間幅を求める。この関数は例えば、見易さ指標値の差が1の時には0秒であり、見易さ指標値の差が0に近づくに従って5秒に近づく関数とする。あるいは見易さ指標値の比が0の場合に0秒であり、見易さ指標値の比が1に近づくに従って5秒に近づく関数とする。
【0061】
ステップS15において、制御部150は注視点距離計測部120を参照して、ステップS11と同様にユーザの注視点距離の変化の有無を確認する。注視点距離の変化があったとき(S15においてYES)はステップS12にもどる。すなわち、焦点距離の切り替えの有無の判断や時間幅の再設定が行われる。一方、注視点距離の変化が無かったとき(S15においてNO)は、ステップS16に進む。
【0062】
ステップS16では、制御部150は、現時点がステップS14で決定された時間幅内であるか否かを判定する。まだ時間幅内であるとき(S16においてYES)は、ステップS17に進む。ステップS17では、制御部150は眼球運動検出部170を参照し、ユーザの瞬目または急速眼球運動が検出されているか否かを判定する。瞬目または急速眼球運動が検出されているとき(S17においてYES)はステップS18に進み、瞬目または急速眼球運動が検出されていないとき(S17においてNO)はステップS15に戻る。一方、現時点がすでに時間幅を超えているとき(S16においてNO)は、ステップS18に進む。
【0063】
ステップS18において、制御部150は多焦点レンズ160の焦点距離をステップS12で選択された焦点距離に切替えるための制御信号を出力し、多焦点レンズ160の焦点距離の切替を実行する。
【0064】
図8はステップS16〜S18における動作を説明する模式図である。
図8(a)はステップS17でYESの場合、すなわちステップS14で決定された切り替え時間幅内に瞬目または急速眼球運動が検出された場合、
図8(b)はステップS16でNOの場合、すなわち瞬目または急速眼球運動が検出されないで切り替え時間幅が経過した場合の動作である。
図8(a)に示すように、切り替え時間幅内で瞬目または急速眼球運動が検出されたときは、制御部150は即座に多焦点レンズ160の焦点距離を切り替える。一方、
図8(b)に示すように、瞬目または急速眼球運動が検出されないまま切り替え時間幅が経過したときは、切り替え時間幅が経過した時点で制御部150は多焦点レンズ160の焦点距離を切り替える。
【0065】
以上のようなステップS11〜S18の一連の動作を繰り返すことによって、本実施の形態に係るビューア10は、焦点切替えによる違和感や不快感を軽減しながら、ユーザの注視点距離の変化に対応して焦点距離を切替える動作を連続的に行うことができる。
【0066】
ここで、ステップS15は、動作はステップS11と同じであるが、注視点距離が変化してから多焦点レンズの焦点距離を切り替えるまでの間に、さらに注視点距離が変化した場合に対応する動作である。ステップS15において注視点距離の変化が検出されたときにステップS12に戻ることにより、多焦点レンズの焦点距離を最新の注視点距離に合った焦点距離に素早く切り替えることができる。加えて、小さな焦点距離の変化に対して頻繁に焦点距離を切り替えるのを防ぐことができる。
【0067】
以上のように本実施形態によると、複数の焦点距離を設定可能な多焦点レンズ160を有し、ユーザの眼球運動に対応して焦点距離を調節可能なビューア10において、ユーザの注視点距離が変化し、現在の焦点距離と異なる新たな焦点距離が選択されたとき、時間幅決定部140が、焦点距離の切り替えによる見易さ指標値の変化度合に基づいて、焦点距離を変更するまでの時間幅を決定する。そして制御部150は、決定された時間幅が経過するまでの間に、眼球運動検出部170によってユーザの瞬目または急速眼球運動が検出されたとき、多焦点レンズ160の焦点距離を変更する。これにより、多焦点レンズ160の焦点距離の切り替えが、ユーザの瞬目または急速眼球運動のタイミングに合わせて行われるので、焦点距離が切り替わり、見易さが急激に変化することによるユーザの違和感や不快感を軽減することができる。
【0068】
なお、
図1の構成では、注視点距離計測部120および眼球運動検出部170はいずれもセンサ110の出力を利用するものとした。これに対して、
図9に示すビューア10Aのように、注視点距離の計測に必要なセンシングを行うセンサと、瞬目または急速眼球運動を検出するためのセンシングを行うセンサとは、別のセンサを用いる構成としても良い。
図9の構成では、瞬目または急速眼球運動を検出するためのセンサとして、センサ110とは別個に眼球運動センサ111が設けられている。眼球運動センサ111は、具体的には眼球を撮像するカメラ、あるいは眼球運動を電気的に計測する眼電位センサ等である。また
図9の構成において、注視点距離を計測するためのセンサであるセンサ110は、具体的には、上述したようなカメラまたは眼電位センサでも良いが、これ以外に例えば、赤外線の反射を用いる赤外線センサや傾きを計測する加速度センサ等であっても良い。
【0069】
なお、本実施の形態では、焦点距離選択部130は、
図2のような注視点距離と焦点距離との対応関係に従って焦点距離を選択するものとした。これに対して例えば、焦点距離の切り替え基準を、現在の焦点距離に応じて異なるものに設定しておいてもかまわない。
【0070】
図10は注視点距離と焦点距離との対応関係の例であり、焦点距離の切り替え閾値が現在の焦点距離に応じて異なるものに設定されている例である。例えば、現在の焦点距離が近見用の焦点距離であるときは、注視点距離が40cm以上まで遠ざかると中距離用の焦点距離に切り替えるが、現在の焦点距離が中距離用の焦点距離であるときは、注視点距離が25cm以下まで近づかなければ近見用の焦点距離に切替えない。
【0071】
図10のような対応関係に従うと、注視点距離が現在の焦点距離よりもユーザに近づく場合には、注視点距離が十分に小さくなってから焦点距離が切り替えられ、注視点距離が現在の焦点距離よりもユーザから遠ざかる場合には、注視点距離が十分に大きくなってから焦点距離が切り替えられる。すなわち、現在の焦点距離を選択する注視点距離の範囲が、注視点距離が小さくなる方も大きくなる方も広くなっている。これにより、現在の焦点距離が維持されやすくなるため、注視点距離の小さな動きにより焦点距離が頻繁に切り替わることが抑制される。すなわち、現在の焦点距離を優先することによって、焦点距離の切り替わりに伴う違和感や不快感が発生しにくくなる。
【0072】
なお、本実施の形態では、
図5に示すような見易さ指標値の変化度合と時間幅との対応関係に従って、焦点切替を行うために瞬目または急速眼球運動を待つ時間幅を設定するものとした。これに対して、見易さ指標値の変化度合だけでなく、これに加えて他の要素を加味して、時間幅を設定するようにしてもよい。
【0073】
例えば、見易さ指標値の変化度合に加えて、選択された焦点距離を加味して、時間幅を設定してもよい。
図11は見易さの差および選択した焦点距離と時間幅との対応関係の例である。
図11では、見易さの差が同じ場合には、近見用の焦点距離に切替えるときは時間幅が小さく、遠見用の焦点距離に切替えるときは時間幅が大きい。中距離用の焦点距離に切替えるときは、時間幅は、近見用への切り替え時と遠見用への切り替え時との間の値になっている。
【0074】
これにより、書類や地図等手元の細かい文字等へ視線を移した場合にはすばやく焦点距離が変更される一方、大きなテレビ画面や窓の景色等へ視線を移した場合には、長めの時間幅の中で、瞬目または急速眼球運動が生じるタイミングに合わせて焦点距離が切替えられるので、焦点距離が急激に変化する違和感や不快感を軽減することができる。すなわち、手元の対象物をはっきりと詳細に見ることを必要とする状況に対しては、すばやく焦点距離を合わせ、広い範囲を見渡す場合で見易さが低い状態が大きな問題にならない場合には、焦点距離の切替えによる違和感や不快感を軽減することができる。
【0075】
また、見易さ指標値の変化度合に加えて、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも大きいか否かを加味して、時間幅を設定してもよい。すなわち、焦点距離が、ユーザから遠ざかる方に変化するか、ユーザに近づく方に変化するかに応じて、時間幅を変える。例えば、見易さの差が等しい場合において、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも大きいときすなわち焦点距離が遠ざかるときは、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも小さいときすなわち焦点距離が近づくときよりも、時間幅を大きく設定する。これにより、ユーザが視線を近くに移すときはすばやく焦点距離を合わせ、遠くに視線を移すときは、瞬目または急速眼球運動が生じるタイミングに合わせて焦点距離を切替えることによって、焦点距離の切替えによる違和感や不快感を軽減することができる。
【0076】
また、見易さ指標値の変化度合に代えて、あるいは、見易さ指標値の変化度合と併せて、見易さ指標の値自体を用いて、時間幅を設定してもかまわない。例えば、計測された注視点距離と現在の焦点距離とに基づいた見易さ指標の値を求め、この値が大きいほど、時間幅を大きく設定する。これにより、現在の焦点距離でも見易さがさほど低下しないときには、時間幅を長めにすることによって、瞬目または急速眼球運動が生じるタイミングを待つことができる。したがって、焦点距離が急激に変化する違和感や不快感を軽減することができる。
【0077】
また、見易さ指標を用いないで、他の条件に基づいて、時間幅を設定してもよい。例えば、計測された注視点距離が大きいほど、時間幅を大きく設定してもよい。これにより、ユーザが近くを見るときはすばやく焦点距離を合わせ、遠くを見るときは、瞬目または急速眼球運動が生じるタイミングに合わせて焦点距離を切替えることによって、焦点距離の切替えによる違和感や不快感を軽減することができる。
【0078】
あるいは、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも大きいか否かによって、時間幅を設定してもよい。すなわち、焦点距離が、ユーザから遠ざかる方に変化するか、ユーザに近づく方に変化するかに応じて、時間幅を変える。例えば、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも大きいときすなわち焦点距離が遠ざかるときは、選択された焦点距離が現在の焦点距離よりも小さいときすなわち焦点距離が近づくときよりも、時間幅を大きく設定する。これにより、ユーザが視線を近くに移すときはすばやく焦点距離を合わせ、遠くに視線を移すときは、瞬目または急速眼球運動が生じるタイミングに合わせて焦点距離を切替えることによって、焦点距離の切替えによる違和感や不快感を軽減することができる。
【0079】
なお、上の実施の形態では、眼球運動検出部170が瞬目または急速眼球運動を検出したタイミングで、焦点距離の切り替えを行うものとした。これは、焦点距離の切り替えを行うタイミングとして、瞬目と急速眼球運動の両方を用いる場合、瞬目のみを用いる場合、急速眼球運動のみを用いる場合、あるいは、条件に応じて、瞬目または急速眼球運動のいずれかを選択して用いる場合、等を含む。
【0080】
<実仕様に関する補足説明>
上の実施の形態では、瞬目または急速眼球運動が起こった際に多焦点レンズ160の焦点距離の切り替えを行うものとした。この場合、瞬目または急速眼球運動の動作中に多焦点レンズ160の焦点距離の切り替えが完了することが望ましい。多焦点レンズ160が液晶レンズである場合、焦点距離の切り替え速度は数10ミリ秒である。一方、瞬目は、動作が開始してから完了するまで200ミリ秒程度を要する。また、急速眼球運動は、短い場合は動作開始から完了するまで数10ミリ秒から100ミリ秒程度である。多焦点レンズ160の焦点距離の切り替えまでに要する時間が、処理とレンズの制御を含めて50ミリ秒程度であれば、センサ110がカメラである場合、瞬目または急速眼球運動を検出するために必要な数サンプルの画像を50ミリ秒程度で取得する必要がある。例えば、瞬目または急速眼球運動を検出するために3ないし4サンプル程度の画像を必要とする場合には、12ミリ秒から16ミリ秒に1サンプルの画像を取得する必要がある。サンプリング周波数60Hzのカメラの場合、サンプリング間隔は約16ミリ秒であり、この場合には、瞬目または急速眼球運動の動作中に焦点距離を切り替えることが可能となる。
【0081】
一般に、画像センサを用いて急速眼球運動を検出する場合、瞳孔中心を画像から抽出し、画像間での瞳孔中心の移動距離が所定値以上の場合に急速眼球運動と判断している。しかしながら、本願発明を実際の装置に適用するためには、急速眼球運動の初期段階を早期に検出する必要がある可能性がある。急速眼球運動の速度については、眼球の回転角が20度程度までの場合は1秒当たり350度から500度程度の速度であるとされており(非特許文献1)、焦点距離に関わらず急速眼球運動の速度は同様である。しかしながら、さらに眼球の回転角が大きくなると眼球運動の速度も大きくなる。
【0082】
本願では、急速眼球運動を、注視点距離が同一の平面上を注視点が動く場合としている。具体的には、本を読む場合の本の平面上の指標に対する動き、遠くの看板を見る場合の看板の平面上の指標に対する動きといった例が当てはまる。この場合、注視点距離が近い場合、注視点距離が同一の平面は本、携帯電話等の例のように、面積が小さい。すなわち、急速眼球運動の眼球運動角度が小さく、眼球運動の速度は一定の範囲内にある。本などの平面から注視点が外れる場合には、注視点距離が変わることになる。一方、看板や交差点での信号から標識へ視線を移す場合のように注視点距離が遠い場合は、注視点の同一平面上での移動距離が大きい、すなわち眼球の回転角が大きい。そのため、注視点距離が近い場合よりも、眼球運動の速度が大きくなる場合が多い。
【0083】
急速眼球運動が開始された場合に、早急に急速眼球運動が開始されたと判断するためには、焦点距離に応じて、急速眼球運動の閾値を変更する必要がある。そこで例えば、上の実施の形態における眼球運動検出部170において、焦点距離に応じて瞳孔中心の移動距離に異なる閾値を設定することで、より早期に急速眼球運動の開始を検出することが可能になる。
【0084】
また、画像センサを用いて瞬目を検出する場合、まぶたによって瞳孔が遮蔽されたか否かによって瞬目を検出している。しかしながら、早期に瞬目を検出するためには、瞳孔が一部遮蔽された状況を検出する必要がある。そこで例えば、上の実施の形態における眼球運動検出部170において、瞳孔がまぶたによって一部が遮蔽された参照画像をあらかじめ蓄積し、この参照画像との類似度を検出することによって、より早期に瞬目の開始を検出することが可能になる。なお、瞳孔がまぶたによって一部が遮蔽された参照画像は、個人によって異なるため、例えば、ユーザがビューアを装着した後の映像を蓄積し、その蓄積画像から参照画像を抽出することで、個人への対応も可能になる。