特許第6048678号(P6048678)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048678
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】車両の側部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/06 20060101AFI20161212BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B62D25/06 B
   B62D25/04 C
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-188407(P2013-188407)
(22)【出願日】2013年9月11日
(65)【公開番号】特開2015-54585(P2015-54585A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】武村 絵里
(72)【発明者】
【氏名】河村 力
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健一
(72)【発明者】
【氏名】本田 正徳
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−143762(JP,A)
【文献】 特開2003−002234(JP,A)
【文献】 特開2009−120140(JP,A)
【文献】 特開2000−142466(JP,A)
【文献】 実開昭64−016489(JP,U)
【文献】 特開2009−184568(JP,A)
【文献】 特開2006−192998(JP,A)
【文献】 特開2011−195108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフの左右方向の両端部に車体前後方向に延びる閉断面状の左右1対のルーフサイドレールと、これら1対のルーフサイドレールの途中部から下方へ夫々延びる1対のセンタピラーとを備えた車両の側部車体構造において、
前記ルーフサイドレールの内部を車幅方向に仕切ると共に車体前後方向に延びるルーフレールレインフォースメントを設け、
前記ルーフレールレインフォースメントが、側突時に生じる捩りモーメントによる応力方向に平行又は略平行な面を有する複数の特定部位であって、前記応力方向の両端部に稜線部が設けられた複数の特定部位を備えたことを特徴とする車両の側部車体構造。
【請求項2】
ルーフの左右方向の両端部に車体前後方向に延びる閉断面状の左右1対のルーフサイドレールと、これら1対のルーフサイドレールの途中部から下方へ夫々延びる1対のセンタピラーとを備えた車両の側部車体構造において、
前記左右1対のルーフサイドレールの車幅方向内側の接合部間に架設されたルーフレインフォースメントと、
前記ルーフサイドレールの内部を車幅方向に仕切ると共に車体前後方向に延びるルーフレールレインフォースメントとを設け、
前記ルーフレールレインフォースメントが、車体前後方向に直交する鉛直断面にて前記接合部からの半径が異なる円周上に夫々位置する複数の特定部位であって、前記円周方向の両端部に稜線部が設けられた複数の特定部位を備えたことを特徴とする車両の側部車体構造。
【請求項3】
前記円周のうち最も半径が大きな円周上の特定部位の円周方向長さが、異なる半径のその他の円周上の特定部位の円周方向長さよりも長く設定されたことを特徴とする請求項2に記載の車両の側部車体構造。
【請求項4】
前記複数の特定部位のうち少なくとも1の特定部位に前記センタピラーの内部を車幅方向に仕切るセンタピラーレインフォースメントが連結されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両の側部車体構造。
【請求項5】
前記複数の特定部位と前記稜線部を挟んで隣り合う複数の隣接部位とが夫々形成する角度が130°〜160°に設定されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両の側部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側部車体構造に関し、特にルーフサイドレール内部を車幅方向に仕切るルーフレールレインフォースメントに捩り剛性を高くするための複数の特定部位を設けた車両の側部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、センタピラーの下側部分に、強度的に他の部位よりも脆弱な下側折曲予定部を形成し、車両の側突時、下側折曲予定部をセンタピラー中段部分に比べて先行して折曲げる変形モード制御によって、衝撃エネルギを吸収しつつ、センタピラーの車室内への侵入を抑制している。
【0003】
通常、センタピラーは、センタピラーアウタとセンタピラーインナとによって閉断面状に形成され、閉断面状のルーフサイドレールとサイドシルとの間に上下方向に延びるように設けられている。センタピラーアウタとセンタピラーインナは、ルーフサイドレールアウタとルーフサイドレールインナとに夫々接合されているため、車両の側突時、センタピラーとの接合部分に生じたルーフサイドレールの軸心回りの捩りモーメントによってルーフサイドレールが捩れ変形し、センタピラーの車室内方への変位量が増加する虞がある。
そこで、ルーフサイドレールに作用する捩りモーメントのエネルギをルーフサイドレールの構造変更によって吸収する技術が提案されている。
【0004】
特許文献1の車両の側部車体構造には、閉断面状のルーフサイドレールの下壁の車幅方向外側交線と車幅方向内側交線との中間部分に、板厚が薄くされた脆弱部が車体前後方向に延びるように形成され、センタピラーアウタの上部とセンタピラーインナの上部とがルーフサイドレールアウタとルーフサイドレールインナとに溶接により夫々接合された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−314864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の車両の側部車体構造は、センタピラーに車室内方へ向かう側突荷重が作用したとき、センタピラーアウタがセンタピラーインナ側へ変位し、この変位がルーフサイドレールに対して軸心回りの捩りモーメントを発生させる。それ故、捩りモーメントに起因した応力がルーフサイドレールの下壁に形成された脆弱部を圧潰変形するため、側突初期に、ルーフサイドレールに生じた捩りモーメントのエネルギを脆弱部の圧潰変形によって吸収でき、側突中期以降に、センタピラーの変形モード制御によってセンタピラーの車室内方への変位量を抑えることができる。
【0007】
しかし、この車両の側部車体構造では、側突荷重が大きい場合、ルーフサイドレールの途中部分が車室内方へ座屈変形してセンタピラーが車室内へ大きく侵入する虞がある。
即ち、特許文献1の車両の側部車体構造では、側突荷重に起因した捩りモーメントのエネルギをルーフサイドレールに形成した脆弱部の圧潰変形によって吸収するため、ルーフサイドレールの下壁の板厚が部分的に薄く形成されている。
これにより、脆弱部を備えたルーフサイドレールは、板厚を部分的に薄く形成していないルーフサイドレールに比べて捩り剛性が低下し、側突荷重によってルーフサイドレール自体が座屈する虞がある。
【0008】
本発明の目的は、車体重量を増加することなく、ルーフサイドレールの捩り剛性を高くすることができる車両の側部車体構造等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の車両の側部車体構造は、ルーフの左右方向の両端部に車体前後方向に延びる閉断面状の左右1対のルーフサイドレールと、これら1対のルーフサイドレールの途中部から下方へ夫々延びる1対のセンタピラーとを備えた車両の側部車体構造において、前記ルーフサイドレールの内部を車幅方向に仕切ると共に車体前後方向に延びるルーフレールレインフォースメントを設け、前記ルーフレールレインフォースメントが、側突時に生じる捩りモーメントによる応力方向に平行又は略平行な面を有する複数の特定部位であって、前記応力方向の両端部に稜線部が設けられた複数の特定部位を備えたことを特徴としている。
【0010】
この車両の側部車体構造では、ルーフレールレインフォースメントが、側突時に生じる捩りモーメントによる応力方向に平行又は略平行な面を有する複数の特定部位であって、応力方向の両端部に稜線部が設けられた複数の特定部位を備えているため、ルーフレールレインフォースメントの形状変更だけでルーフレールレインフォースメントの座屈耐力を増加することができる。また、ルーフレールレインフォースメントの形状変更であるため、板厚増加や補強部材追加が発生しない。
【0011】
請求項2の車両の側部車体構造は、ルーフの左右方向の両端部に車体前後方向に延びる閉断面状の左右1対のルーフサイドレールと、これら1対のルーフサイドレールの途中部から下方へ夫々延びる1対のセンタピラーとを備えた車両の側部車体構造において、前記左右1対のルーフサイドレールの車幅方向内側の接合部間に架設されたルーフレインフォースメントと、前記ルーフサイドレールの内部を車幅方向に仕切ると共に車体前後方向に延びるルーフレールレインフォースメントとを設け、前記ルーフレールレインフォースメントが、車体前後方向に直交する鉛直断面にて前記接合部からの半径が異なる円周上に夫々位置する複数の特定部位であって、前記円周方向の両端部に稜線部が設けられた複数の特定部位を備えたことを特徴としている。
【0012】
この車両の側部車体構造では、ルーフレールレインフォースメントが、車体前後方向に直行する鉛直断面にて前記接合部からの半径が異なる円周上に夫々位置する複数の特定部位であって、前記円周方向の両端部に稜線部が設けられた複数の特定部位を備えているため、ルーフレールレインフォースメントの形状変更だけでルーフレールレインフォースメントの座屈耐力を増加することができる。また、ルーフレールレインフォースメントの形状変更であるため、板厚増加や補強部材追加が発生しない。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記円周のうち最も半径が大きな円周上の特定部位の円周方向長さが、異なる半径のその他の円周上の特定部位の円周方向長さよりも長く設定されたことを特徴としている。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れか1項の発明において、前記複数の特定部位のうち少なくとも1の特定部位に前記センタピラーの内部を車幅方向に仕切るセンタピラーレインフォースメントが連結されていることを特徴としている。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1〜4の何れか1項の発明において、前記複数の特定部位と前記稜線部を挟んで隣り合う複数の隣接部位とが夫々形成する角度が130°〜160°に設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、板厚増加や補強部材追加がないため、車体重量の増加を抑制できる。また、ルーフレールレインフォースメントの座屈耐力を増加することができるため、ルーフサイドレールの捩り剛性を増加でき、車両の側突時、ルーフサイドレールの捩れ変形や座屈変形に伴うセンタピラーの車室内方への変位量を低減することができる。つまり、捩りモーメントの応力方向に沿い且つ両端部の稜線部によって拘束された部位を設けたから、捩りモーメントの応力を軸方向の荷重として特定部位が受けることにより、効率的に座屈耐力を抑制し、ルーフサイドレールの捩り剛性を高くすることができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、基本的に、請求項1の発明と同様の効果を奏することができる。つまり、ルーフレールレインフォースメントの接合部を回転中心とした捩りモーメントが生じ、捩りモーメントの応力方向に沿い且つ両端部の稜線部によって拘束された部位を設けたから、捩りモーメントの応力を軸方向の荷重として特定部位が受けることにより、効率的に座屈耐力を抑制し、ルーフサイドレールの捩り剛性を高くすることができる。
請求項3の発明によれば、半径最大のところ、つまり、捩りモーメントの応力が最大の部位が最も捩り抑制に寄与するため、円周のうち最も半径が大きな円周上の特定部位の円周方向長さが異なる半径のその他の円周上の特定部位の円周方向長さよりも長く設定することによって、ルーフレールレインフォースメントの座屈耐力を能率的に増加することができ、ルーフサイドレールの捩り剛性を一層増加することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、ルーフレールレインフォースメントの座屈耐力を増加した部分にセンタピラーレインフォースメントが連結されるため、側突時、座屈耐力を増加した部分に荷重が入力することによりルーフサイドレールに作用する捩りモーメントのエネルギを能率的に支持することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、ルーフレールレインフォースメントの座屈耐力比を高くすることができ、ルーフサイドレールの捩り剛性を更に増加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1に係る車両の側部車体構造の斜視図である。
図2】ルーフの左側要部の平面図である。
図3図1のIII−III線断面図である。
図4図1のIV−IV線断面図である。
図5図2のV−V線断面図である。
図6】ルーフレールレインの要部拡大図である。
図7】側突荷重が入力したときのルーフサイドレールとセンタピラーとサイドシルとの模式図であり、(a)は入力初期状態を示す図、(b)入力中期状態を示す図、(c)は入力後期状態を示す図である。
図8】ルーフサイドレールの検証モデルを示す図である。
図9】屈曲部の交差角度と座屈耐力比との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。尚、本実施例では、車両の前後方向を前後方向とし、車両の左右方向を左右方向として説明する。
【実施例1】
【0022】
以下、本発明の実施例1について図1図9に基づいて説明する。
図1に示すように、車両Vは、ルーフ1の左右両端部において前後方向に延びる1対のルーフサイドレール2と、車体の左右両側部の下部において前後方向に延びる1対のサイドシル3と、車体の左右両側部の前後方向中間部において上下方向に延びる1対のセンタピラー4等を備えている。尚、車両Vの側部車体構造は、左右対称の構造であるため、以下、主に左側の構造について説明する。
【0023】
センタピラー4の前側には、前側程下方へ傾斜して延びるフロントピラー5が設けられ、このフロントピラー5の下端部が上下方向に延びるヒンジピラー6の上端部に接合されている。フロントピラー5の上端部はルーフサイドレール2の前端部に接合され、ヒンジピラー6の下端部はサイドシル3の前端部に接合されている。1対のフロントピラー5の間には、フロントガラス(不図示)が配設されている。
【0024】
センタピラー4の後側には、上下方向に延びるリヤピラー7が設けられ、リヤピラー7の上端部はルーフサイドレール2の後端部に接合され、リヤピラー7の下端部はサイドシル3の後端部に接合されている。サイドシル3、フロントピラー5、ヒンジピラー6及びリヤピラー7は、夫々アウタパネルとインナパネルとによって閉断面部を構成し、この閉断面部内に補強部材としてのレインフォースメントが配設されている。以下、全ての補強部材について、レインフォースメントをレインと省略する。
【0025】
図1図5に示すように、センタピラー4は、センタピラーアウタ11と、センタピラーインナ12とを有し、両パネルが協働して上下に延びる閉断面部を構成している。
センタピラーアウタ11の上端部はルーフサイドレールアウタ21の下端部に連なり、センタピラーインナ12の上端部はルーフサイドレールインナ22の下端部に接合されている。センタピラー4は、その閉断面部を車幅方向に仕切るセンタピラーレイン13を備えている。
【0026】
センタピラーレイン13は、上下方向中段部よりも下方に設定された境界部Lよりも上側に位置する上側部分14と、境界部Lよりも下側に位置する下側部分15とを一体的に備えている。(図7参照)
図3に示すように、上側部分14は、車体側面に沿って延びる側壁部14aと、この側壁部14aの前後方向両端部から車幅方向内側に略直交状に延びる1対の縦壁部14bと、各縦壁部14bの両先端部から前後方向に延びる1対のフランジ部14cとを備え、断面略ハット状に形成されている。この上側部分14には、ヒンジ取付部(図示略)が接合されている。
【0027】
図4に示すように、下側部分15は、上側部分14よりも前後方向幅が広く且つ下方程前後方向幅が広くなるように形成され、車体側面に沿って延びる側壁部15aと、この側壁部15aの前後方向両端部から車幅方向内側に傾斜状に延びる1対の縦壁部15bと、各縦壁部15bの両先端部から前後方向に延びる1対のフランジ部15cとを備えている。
側壁部15aには、比較的大きな範囲に亙って開口部15dが形成されている。
1対の縦壁部15bは、両者の間隔が車幅方向内側程徐々に拡大するように傾斜状に形成され、上側部分14の縦壁部14bの傾斜角度よりも大きな傾斜角度に設定されている。
【0028】
次に、ルーフサイドレール2について説明する。
図5に示すように、ルーフサイドレール2は、ルーフサイドレールアウタ21と、ルーフサイドレールインナ22とを有し、両パネルが協働して前後に延びる閉断面部を構成している。図1に示すように、左側ルーフサイドレール2の前端部は、ルーフ1の前端部において車幅方向に延びるフロントヘッダ31の左側端部に接合され、後端部はルーフ1の後端部において車幅方向に延びるリヤヘッダ32の左側端部に接合されている。1対のルーフサイドレール2間に架設されたルーフパネル30の前端部がフロントヘッダ31の上面に接合され、後端部がリヤヘッダ32の上面に接合されている。
【0029】
ルーフパネル30の下側には、車幅方向に延びる前側ルーフレイン33と中央ルーフレイン34と後側ルーフレイン35とが設けられている。
図2図5に示すように、中央ルーフレイン34は、側面視にてセンタピラー4の上端部と略同じ位置に配設され、その車幅方向端部はルーフサイドレールインナ22に接合部Bで接合されている。前側ルーフレイン33と後側ルーフレイン35についても、中央ルーフレイン34と同様に、車幅方向端部がルーフサイドレールインナ22に接合されている。
【0030】
ルーフサイドレール2には、その閉断面部を車幅方向に仕切ると共に車幅方向に延びる高張力鋼板製のルーフレールレイン23が設けられている。
ルーフレールレイン23は、前端部がフロントヘッダ31に接合され、後端部がリヤヘッダ32に接合されている。このルーフレールレイン23は、上側フランジ部23aがルーフパネル30とルーフサイドレールアウタ21とルーフサイドレールインナ22と4重接合され、下側フランジ部23bがルーフサイドレールインナ22と接合されることにより、ルーフサイドレールインナ22と協働して前後方向に延びる閉断面部を構成している。
【0031】
ルーフレールレイン23は、所定の板厚、例えば1.2mmに形成され、上側フランジ部23aから下側フランジ部23bまでの間において、複数、例えば3つの矩形面状の特定部位S1〜S3と、これら特定部位S1〜S3と夫々隣り合う複数の矩形面状の隣接部位N1〜N6等が一体的に設けられている。
図5図6に示すように、特定部位S1は、前後方向に直交する鉛直断面にて接合部Bからの距離が半径r1に設定された円周C1に位置するように設けられている。この特定部位S1には、センタピラーレイン13の上端部がスポット溶接にて接合され、側突時、センタピラー4を介して入力した側突荷重に起因して面上に生じる応力F1とこれに伴う捩りモーメントが発生する。
【0032】
特定部位S1は、側突時、接合部Bを中心とした捩りモーメントによる応力F1の方向に略平行な面部を構成するように形成されている。特定部位S1の円周方向(応力方向)の一端部には前後方向に直線状に延びる稜線部E1が設けられ、特定部位S1の円周方向の他端部には前後方向に直線状に延びる稜線部E2が設けられている。特定部位S1は、稜線部E1を間に介して隣接部位N1に隣り合って連なると共に稜線部E2を間に介して隣接部位N2に隣り合って連なっている。
【0033】
図5に示すように、特定部位S2は、前後方向に直交する鉛直断面にて接合部Bからの距離が半径r2(r2<r1)に設定された円周C2に位置するように設けられている。この特定部位S2は、側突時、接合部Bを中心とした捩りモーメントによる応力方向に略平行な面部を構成するように形成されている。特定部位S2の円周方向の一端部には前後方向に直線状に延びる稜線部E3が設けられ、特定部位S2の円周方向の他端部には前後方向に直線状に延びる稜線部E4が設けられている。特定部位S2は、稜線部E3を間に介して隣接部位N3に隣り合って連なると共に稜線部E4を間に介して隣接部位N4に隣り合って連なっている。
【0034】
特定部位S3は、前後方向に直交する鉛直断面にて接合部Bからの距離が半径r3(r3<r2)に設定された円周C3に位置するように設けられている。この特定部位S3は、側突時、接合部Bを中心とした捩りモーメントによる応力方向に略平行な面部を構成するように形成されている。特定部位S3の円周方向の一端部には前後方向に直線状に延びる稜線部E5が設けられ、特定部位S3の円周方向の他端部には前後方向に直線状に延びる稜線部E6が設けられている。特定部位S3は、稜線部E5を間に介して隣接部位N5に隣り合って連なると共に稜線部E6を間に介して隣接部位N6に隣り合って連なっている。
【0035】
図5に示すように、特定部位S1〜S3、隣接部位N1〜N6及びその他の部位の円周方向長さ(幅)が、30mm以下に設定され、センタピラーレイン13が接合されている特定部位S1の円周方向長さが、特定部位S2,S3の円周方向長さよりも長くなるように形成されている。
特定部位S1と、稜線部E1,E2とを挟んで隣り合う隣接部位N1,N2とは、夫々が形成する公差角度が130°〜160°の範囲に設定され、特定部位S2と、稜線部E3,E4とを挟んで隣り合う隣接部位N3,N4とは、夫々が形成する公差角度が130°〜160°の範囲に設定され、特定部位S3と、稜線部E5,E6とを挟んで隣り合う隣接部位N5,N6とは、夫々が形成する公差角度が130°〜160°の範囲に設定されている。
【0036】
次に、実施例1に係る車両の側部車体構造の作用・効果について説明する。
図7(a)に示すように、センタピラー4に側突荷重が作用したとき、センタピラー4を介してルーフサイドレール2とサイドシル3とに側突荷重が伝達分散される。
【0037】
図7(b)に示すように、ルーフレールレイン23の座屈耐力を増加したことによりルーフサイドレール2の捩り剛性が増加しているため、ルーフサイドレール2の座屈変形を生じることなくセンタピラー4の上下端部が強固に支持される。これにより、下側部分15を含むセンタピラー4の下部が重点的に変形して衝撃エネルギを吸収し、上側部分15を含むセンタピラー4の中段部及び上部が車室内側へ突出する状況を回避している。
【0038】
以上のように、ルーフレールレイン23の形状変更だけで板厚増加や補強部材追加がないため、車体重量の増加を抑制でる。また、ルーフレールレイン23の座屈耐力を増加することができるため、ルーフサイドレール2の捩り剛性を増加でき、車両Vの側突時、ルーフサイドレール2の捩れ変形や座屈変形に伴うセンタピラー4の車室内方への変位量を低減することができる。つまり、捩りモーメントの応力方向に沿い且つ両端部の稜線部E1〜E6によって拘束された特定部位S1〜S3を設けたから、捩りモーメントの応力を軸方向の荷重として特定部位S1〜S3が受けることにより、効率的に座屈耐力を抑制し、ルーフサイドレール2の捩り剛性を高くすることができる。また、ルーフレールレイン23の接合部Bを回転中心とした捩りモーメントが生じ、捩りモーメントの応力方向に沿い且つ両端部の稜線部E1〜E6によって拘束された特定部位S1〜S3を設けたから、捩りモーメントの応力を軸方向の荷重として特定部位S1〜S3が受けることにより、効率的に座屈耐力を抑制し、ルーフサイドレール2の捩り剛性を高くすることができる。
【0039】
円周のうち最も大きな半径r1の円周C1上の特定部位S1の円周方向長さが、異なる半径のその他の円周上の特定部位S2,S3の円周方向長さよりも長く設定されている。これにより、円周のうち最も半径が大きな円周C1上の特定部位S1の円周方向長さが異なる半径のその他の円周上の特定部位S2,S3の円周方向長さよりも長く設定することによって、ルーフレールレイン2の座屈耐力を能率的に増加することができ、ルーフサイドレール2の捩り剛性を一層増加することができる。
【0040】
複数の特定部位のうち少なくとも1の特定部位S1にセンタピラー4の内部を車幅方向に仕切るセンタピラーレイン13が連結されている。ルーフレールレイン23の座屈耐力を増加した部分にセンタピラーレイン13が連結されるため、側突時、座屈耐力を増加した部分に荷重が入力するため、ルーフサイドレール2に作用する捩りモーメントのエネルギを能率的に支持することができる。
【0041】
ここで、ルーフサイドレールの座屈変形のメカニズムを解明するために、ルーフサイドレールをモデル化し、ルーフサイドレールに捩りモーメントが作用した状態をシミュレーションによって検証する検証実験を行った。
以下、検証実験について説明する。
図8に示すように、ルーフサイドレールのモデルMは、アウタパネル51と、インナパネル52とを備え、それらの上下方向の両端部が接合されて長手方向に延びる閉断面部を構成している。アウタパネル51の中段部には、インナパネル52方向に屈曲して長手方向に延びる屈曲部53が形成されている。屈曲部53の角度θを変化させたモデルMの長手方向の両端部に上下反対向きの荷重を夫々させて、モデルMが座屈するときの屈曲部53の公差角度θと座屈耐力比との相関関係を作成した。尚、アウタパネル51とインナパネル52は、板厚1.2mmの高張力鋼板の性質を有している。
【0042】
次に、図9に基づき検証実験の結果について説明する。
(1)板厚の変更や補強部材の追加がなくとも、ルーフサイドレールの形状変更により座屈耐力比を増すことができる。
(2)屈曲部53が存在しない場合に比べて屈曲部53が存在する場合の方が、座屈耐力比が高くなるため、ルーフサイドレールの稜線部は座屈変形抑制に有効に寄与する。
(3)稜線部を挟んで隣り合う面部の形成する角度が130°〜160°のとき、座屈耐力比が飛躍的に高くなるため、稜線部を挟んで隣り合う面部の形成する角度の調節により座屈変形を抑制できる。
以上の検証結果から、ルーフサイドレール自身に形成された稜線部と稜線部を挟んだ面部の交差角度とによりルーフサイドレールの座屈変形を抑制できることが知見された。
【0043】
即ち、本実施例では、複数の特定部位S1〜S3と稜線部E1〜E6を挟んで隣り合う複数の隣接部位N1〜N6とが夫々形成する角度が130°〜160°に設定されているため、ルーフレールレイン23の座屈耐力比を高くすることができ、ルーフサイドレール2の捩り剛性を更に増加することができる。尚、特定部位S1〜S3と稜線部E1〜E6とを挟んで隣り合う隣接部位N1〜N6とが形成する公差角度は、140°〜155°の範囲に設定することが好ましい。
【0044】
次に、前記実施例を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施例においては、円周上に位置する特定部位を3ヶ所形成した例を説明したが、特定部位は2ヶ所でも良く、また、4ヶ所以上形成することも可能である。また、中央ルーフレインとルーフサイドレールインナとの接合部を捩りモーメントの中心とした例を説明したが、ルーフサイドレールの構成によって捩りモーメントの中心が変更されるため、ルーフサイドレールの構成に応じて適宜捩りモーメントの中心を設定することが好ましい。
【0045】
2〕前記実施例においては、最も半径が大きな円周上の特定部位のみにセンタピラーレインの上端部を接合した例を説明したが、センタピラーレインを複数の特定部位に接合しても良い。また、フロントピラーレインやリヤピラーレインの上端部をセンタピラーレインと同様にルーフレールレインに接合しても良い。
【0046】
3〕前記実施例においては、変形モード制御可能なセンタピラーを備えた車両に適用した例を説明したが、一般の車両に適用しても同様の効果を奏することができる。また、ルーフレールレインは高張力鋼板以外の汎用鋼板であっても良い。
【0047】
4〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、ルーフサイドレール内部を車幅方向に仕切るルーフレールレインフォースメントを設けた車両の側部車体構造において、ルーフレールレインフォースメントの形状変更によってルーフサイドレールの捩り剛性を高くすることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 ルーフ
2 ルーフサイドレール
4 センタピラー
13 センタピラーレインフォースメント
23 ルーフレールレインフォースメント
S1〜S3 特定部位
N1〜N6 隣接部位
E1〜E6 稜線部
V 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9