(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記硫黄含有化合物が、メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、3,6−ジチア−1,8−オクタンジオール、及び3,3’−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸ナトリウム)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の銅−スズ合金めっき浴。
前記水酸基を有する芳香族化合物が、フェノール、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、p−クレゾールスルホン酸、アスコルビン酸ナトリウム、及びエリソルビン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の銅−スズ合金めっき浴。
【背景技術】
【0002】
電気めっきにおいて、従来よりニッケルめっきが広く使用されてきた。しかしながら、ニッケルめっきには、めっき皮膜に含まれる金属元素(ニッケル)によって皮膚にかぶれ又は炎症が発生するニッケルアレルギーの問題が指摘されており、これに代わる代替技術が求められている。
【0003】
一方、銅−スズ合金はニッケルと同程度の白色外観および皮膜特性を持つ合金として知られていた。そこで、ニッケルめっきの代替として銅−スズ合金めっきが注目されている。
【0004】
従来、銅−スズ合金めっきを行うめっき浴には、シアンイオンを含有するめっき浴(シアン浴)が使用されているが、作業環境及び排水処理規制の見地から問題があった。近年、シアンイオンを配合しない(以下、「ノーシアン」ともいう)銅−スズ合金浴として、ピロリン酸浴(例えば、特許文献1〜3)、酸性浴(例えば、特許文献4〜5)等が提案されている。しかし、ピロリン酸浴はシアン浴に比べて、形成されるめっき皮膜の内部応力が高く、めっき時にクラックが発生するためにめっき皮膜の厚膜化が困難であった。また酸性浴は銅及びスズの析出電位が調整されていないため、電流密度の変動が大きいバレルめっきの場合に銅が優先的に析出して合金組成が大きく崩れるという問題があった。
【0005】
以上のことから、シアン浴と同様にめっき皮膜の厚膜化が可能で、かつバレルめっきにも対応できるめっき浴が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、シアンイオンを用いなくても厚膜化が可能で、且つバレルめっきにも対応することができる銅−スズ合金めっき浴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の硫黄含有化合物及び水酸基を有する芳香族化合物を用いることで、シアンイオンを用いなくても厚膜化が可能で、且つバレルめっきにも対応することができる銅−スズ合金めっき浴が得られることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて、さらに検討を重ねた結果、完成されたものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記の銅−スズ合金めっき浴等を提供するものである。
項1. 水溶性銅化合物、水溶性2価スズ化合物、一般式(1):
R−(CH
2)
l−S−(CH
2)
m−S−(CH
2)
n−R (1)
(式中、RはH、OH又はSO
3Naであり、l、m及びnは、それぞれ独立して0〜3の整数である)で表される硫黄含有化合物、及び水酸基を有する芳香族化合物を含有する水溶液からなる銅−スズ合金めっき浴。
項2. 前記水溶性銅化合物を銅イオン換算で1〜60g/L、前記水溶性2価スズ化合物を2価スズイオン換算で5〜40g/L、前記硫黄含有化合物を5〜500g/L、及び前記水酸基を有する芳香族化合物を1〜50g/L含有する、上記項1に記載の銅−スズ合金めっき浴。
項3. 前記硫黄含有化合物が、メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、3,6−ジチア−1,8−オクタンジオール、及び3,3’−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸ナトリウム)からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の銅−スズ合金めっき浴。
項4. 前記水酸基を有する芳香族化合物が、フェノール、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、p−クレゾールスルホン酸、アスコルビン酸ナトリウム、及びエリソルビン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1〜3のいずれかに記載の銅−スズ合金めっき浴。
項5. 前記水溶液が、さらに、ノニオン系界面活性剤と、芳香族ケトン又は芳香族アルデヒドとを含有する、上記項1〜4のいずれかに記載の銅−スズ合金めっき浴。
項6. 上記項1〜5のいずれかに記載の銅−スズ合金めっき浴中で、被めっき物を陰極として電解する、銅−スズ合金めっき方法。
項7. 上記項6に記載の方法によって銅−スズ合金めっき皮膜が形成された物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の銅−スズ合金めっき浴は、特定の硫黄含有化合物と特定の水酸基を有する芳香族化合物とを併用しているので、銅とスズとを任意の比率で含む合金を得ることができる。また、本発明の銅−スズ合金めっき浴は、特定の硫黄含有化合物を錯化剤として使用することにより、従来のピロリン酸浴に比べてクラックが発生しにくくなり、シアン浴を使用しなくてもめっき皮膜の厚膜化が可能となる。さらに、本発明の銅−スズ合金めっき浴は、従来の酸性浴に比べて電流密度が合金比率へ及ぼす影響が少ないことから、電流密度の変動が大きいバレルめっきにも対応することができる。また、前記銅−スズ合金めっき浴に、さらにノニオン系界面活性剤と、芳香族ケトン又は芳香族アルデヒドとを添加することで、優れた光沢外観を有するめっき皮膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の銅−スズ合金めっき浴について具体的に説明する。
【0013】
本発明の銅−スズ合金めっき浴は、金属源として水溶性銅化合物及び水溶性2価スズ化合物、錯化剤として一般式(1):
R−(CH
2)
l−S−(CH
2)
m−S−(CH
2)
n−R (1)
(式中、RはH、OH又はSO
3Naであり、l、m及びnは、それぞれ独立して0〜3の整数である)で表される硫黄含有化合物、及び水酸基を有する芳香族化合物を含有する水溶液からなる。
【0014】
銅イオン源である水溶性銅化合物は、銅成分として2価銅を含む水溶性化合物であれば特に限定することなく使用することができる。水溶性銅化合物の具体例として、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、炭酸銅(II)、酸化銅(II)、酢酸銅(II)、メタンスルホン酸銅(II)、スルファミン酸銅(II)、フッ化銅(II)、2−ヒドロキシエタンスルホン酸銅(II)、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸銅(II)、ピロリン酸銅(II)等が挙げられる。これらの銅化合物の中で、硫酸銅(II)が好ましい。これらの水溶性銅化合物は、通常、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。水溶性銅化合物の濃度は、例えば、銅イオン濃度として1〜60g/L程度であり、好ましくは10〜40g/L程度である。
【0015】
スズイオン源である水溶性2価スズ化合物は、スズ成分として2価スズを含む水溶性化合物であれば特に限定することなく使用することができる。水溶性2価スズ化合物の具体例として、塩化第一スズ、硫酸第一スズ、酢酸第一スズ、ピロリン酸第一スズ、メタンスルホン酸スズ、スルファミン酸第一スズ、グルコン酸第一スズ、酒石酸第一スズ、酸化第一スズ、ホウフッ化第一スズ、2−ヒドロキシエタンスルホン酸スズ、2−ヒドロキシプロパンスルホン酸スズ等が挙げられる。これらのスズ化合物の中で、硫酸第一スズが好ましい。これらの水溶性2価スズ化合物は、通常、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。水溶性2価スズ化合物の濃度は、例えば、2価スズイオン濃度として5〜40g/L程度であり、好ましくは5〜25g/L程度である。
【0016】
水溶性銅化合物及び水溶性2価スズ化合物の配合割合は、銅:スズ(金属分のモル比)=1:0.1〜0.6とすることが好ましい。特に、銅:スズ(金属分のモル比)=1:0.1〜0.3とすることが好ましい。
【0017】
本発明では、錯化剤として一般式(1):
R−(CH
2)
l−S−(CH
2)
m−S−(CH
2)
n−R (1)
(式中、RはH、OH又はSO
3Naであり、l、m及びnは、それぞれ独立して0〜3の整数である)で表される硫黄含有化合物を使用することが大きな特徴である。一般式(1)で表される硫黄含有化合物として、具体的には、メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、3,6−ジチア−1,8−オクタンジオール、3,3’−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸ナトリウム)等が挙げられる。これらの化合物の中で、作業環境の観点から臭気の少ない3,6−ジチア−1,8−オクタンジオール、3,3’−ジチオビス(1−プロパンスルホン酸ナトリウム)等が好ましく、3,6−ジチア−1,8−オクタンジオールがより好ましい。これらの硫黄含有化合物は、通常、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。錯化剤の濃度は、例えば5〜500g/L程度であり、好ましくは80〜320g/L程度である。
【0018】
本発明では、水酸基を有する芳香族化合物を使用する。水酸基を有する芳香族化合物として、例えば、ベンゼン環又はフラン環に1つ以上の水酸基が置換している化合物が挙げられ、作業環境及び液安定性の観点からベンゼン環を有する化合物が好ましい。水酸基を有する芳香族化合物として、具体的には、フェノール、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、p−クレゾールスルホン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。アルカリ金属として、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。水酸基を有する芳香族化合物として、フェノール、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、p−クレゾールスルホン酸、アスコルビン酸ナトリウム、及びエリソルビン酸ナトリウムが好ましい。上記水酸基を有する芳香族化合物は、2価銅イオン(Cu
2+)を1価銅イオン(Cu
1+)に還元する作用を有し、銅イオンと上記錯化剤とが錯体を形成するのを補助していると考えられる。これらの水酸基を有する芳香族化合物は、通常、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。水酸基を有する芳香族化合物の濃度は、例えば1〜50g/L程度であり、好ましくは5〜30g/L程度である。
【0019】
錯化剤及び水酸基を有する芳香族化合物の配合量は、銅1mol/Lに対して、錯化剤2mol/L以上、水酸基を有する芳香族化合物1mol/L以上であることが好ましい。
【0020】
銅−スズ合金めっき浴のベースを構成する酸としては、公知の有機酸及び無機酸を広く使用することができる。有機酸として、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2−プロパノールスルホン酸、2−スルホ酢酸、2−スルホプロピオン酸、3−スルホプロピオン酸、スルホコハク酸、スルホメチルコハク酸、スルホフマル酸、スルホマレイン酸、2−スルホ安息香酸、3−スルホ安息香酸、4−スルホ安息香酸、5−スルホサリチル酸、4−スルホフタール酸、5−スルホイソフタール酸、2−スルホテレフタール酸、フェノールスルホン酸等が挙げられる。無機酸として、具体的には、硫酸、塩酸、スルファミン酸等が挙げられる。これらの中で、硫酸、メタンスルホン酸、スルホコハク酸等が好ましい。前記酸は、通常、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。酸の濃度は、10〜400g/L程度であり、好ましくは150〜200g/L程度である。
【0021】
銅−スズ合金めっき浴のpH範囲は、通常、弱酸性〜強酸性の範囲であり、具体的には、めっき浴の液のpHを4.5以下に調整する。pHが高すぎると平滑性に欠けためっき皮膜になるので好ましくない。また、pH調整剤として、塩酸、硫酸等の各種の酸、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の各種の塩基等を使用することができる。また、めっき浴のpHの変動を少なくするために、pH緩衝剤を添加することができる。pH緩衝剤としては公知のものを使用することができる。pH緩衝剤として、例えば、酢酸ナトリウム又はカリウム、ホウ酸ナトリウム、カリウム又はアンモニウム、ギ酸ナトリウム又はカリウム、酒石酸ナトリウム又はカリウム、リン酸二水素ナトリウム、カリウム又はアンモニウム等が挙げられる。これらのpH調整剤及びpH緩衝剤は、通常、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
上記めっき浴には、必要に応じて、高分子化合物、界面活性剤、レベラー等の添加剤を添加することもできる。
【0023】
高分子化合物としては、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0024】
界面活性剤としては、公知のノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれも使用することができる。これらの界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を併用して用いることができ、少なくとも1種のノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0025】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンナフチルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン等が挙げられる。これらの中でポリオキシアルキレンアルキルアミンが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルアミンがより好ましい。カチオン系界面活性剤として、例えば、テトラ低級アルキルアンモニウムハライド、アルキルトリメチルアンモニウムハライド、アルキルアミン塩酸塩、アルキルアミンオレイン酸塩、アルキルアミノエチルグリシン等が挙げられる。アニオン系界面活性剤として、例えば、アルキル−β−ナフタレンスルホン酸、脂肪酸セッケン系界面活性剤、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸エステル酸塩等が挙げられる。両性界面活性剤として、例えば、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ジメチルアルキルベタイン、スルホベタイン、N−アルキル−β−アミノプロピオン酸等が挙げられる。
【0026】
高分子化合物又は界面活性剤をめっき浴に添加する場合、高分子化合物又は界面活性剤の濃度は0.01〜100g/L程度の範囲で使用することが可能であり、好ましくは0.1〜40g/L程度である。
【0027】
レベラーは、平滑性及び光沢性を向上させる添加剤のことである。このようなレベラーとして、ケトン化合物又はアルデヒド化合物を使用することができる。ケトン化合物としては、公知の芳香族ケトン及び脂肪族ケトンを広く使用することができる。芳香族ケトンとして、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンザルアセトン等が挙げられ、脂肪族ケトンとして、アセトン、ジエチルケトン等が挙げられる。アルデヒド化合物としては、公知の芳香族アルデヒド及び脂肪族アルデヒドを広く使用することができる。芳香族アルデヒドとして、シンナムアルデヒド、α−メチルシンナムアルデヒド、α−アミルシンナムアルデヒド、α−ヘキシルシンナムアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド等が挙げられ、脂肪族アルデヒドとして、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等が挙げられる。これらの中で、芳香族ケトン及び芳香族アルデヒドが好ましい。これらのレベラーは、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
レベラーをめっき浴に添加する場合、レベラーの濃度は0.01〜30g/L程度の範囲で使用することが可能であり、好ましくは0.01〜10g/L程度である。
【0029】
添加剤として、界面活性剤とレベラーとを併用することが好ましい。界面活性剤とレベラーとを併用することにより、光沢めっきが得られる電流密度領域を拡大させることができる。これにより、本めっき浴から得られるめっき皮膜を、さらに平滑化及び高光沢化させることが可能である。界面活性剤及びレベラーの組み合わせとして、ノニオン系界面活性剤と、芳香族ケトン又は芳香族アルデヒドとの組み合わせが好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルアミンが好ましい。上記めっき浴に、さらにノニオン系界面活性剤と、芳香族ケトン又は芳香族アルデヒドとを添加することで、優れた光沢外観を有するめっき皮膜が得られる。
【0030】
界面活性剤とレベラーとを併用する場合には、界面活性剤の濃度を0.1〜40g/L程度、レベラーの濃度を0.01〜10g/L程度とし、且つ界面活性剤:レベラーの比率を1:1〜100:1程度とすることが好ましい。
【0031】
上記めっき浴には、必要に応じて、上記以外の添加剤、例えば、応力減少剤、導電性補助剤、消泡剤、光沢剤等を適宜選択して添加することもできる。
【0032】
応力減少剤としては、例えば、ナフトールスルホン酸、サッカリン、1,5−ナフタレンジスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。導電性補助剤としては、塩酸、硫酸、酢酸、硝酸、スルファミン酸、ピロリン酸、ホウ酸等の酸と、それらのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、有機アミン塩等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。消泡剤及び光沢剤としては、銅めっき、スズめっき、銅−スズ合金めっき及び一般めっき用の市販のものを適宜選択して利用することができる。
【0033】
本発明のめっき浴の建浴方法は特に限定されない。例えば、硫酸等の酸を溶解した水溶液に、水溶性銅化合物及び水溶性2価スズ化合物を溶解し、その後、錯化剤及び還元剤を配合し、必要に応じてその他の添加剤を配合し、最後に所定のpHに調整することによって目的とするめっき液を得ることができる。
【0034】
本発明のめっき浴は、めっき方法が特に限定されるものではなく、公知のめっき方法において使用することができ、電流密度の変動が大きいバレルめっきにも対応することができる。
【0035】
めっき作業時の浴温については、低い場合にはつき回り性は向上するが製膜速度は低下する傾向があり、逆に浴温が高い場合には、製膜速度は向上するが低電流密度領域へのつき回り性は低下する傾向があるので、この点を考慮して適切な浴温を決めることができる。浴温として好ましいのは、5〜40℃程度の範囲である。
【0036】
陰極電流密度についても、使用するめっき液、被めっき物の種類等に応じて適宜決めることができ、0.1〜3A/dm
2程度が好ましい。
【0037】
陽極には、可溶性陽極(例えば、スズ陽極、含リン銅陽極、無酸素銅陽極、銅−スズ合金陽極等)、不溶性陽極(例えば、ステンレス陽極、カーボン陽極、鉛陽極、鉛−スズ合金陽極、鉛−アンチモン合金陽極、白金陽極、チタン陽極、チタン−白金陽極、イリジウムオキサイド被覆チタン電極のような酸化物被覆陽極等)等の銅−スズ合金めっき用として利用可能な公知の陽極を使用することができる。陰極には、後述する被めっき物が使用される。よって、本発明の銅−スズ合金めっき方法は、上述した銅−スズ合金めっき浴中で、被めっき物を陰極として電解する方法であるといえる。
【0038】
上述しためっき方法により、被めっき物である物品の表面に上述した銅−スズめっき皮膜が形成される。得られる皮膜の合金組成は、重量比でCu:Sn=95:5〜5:95であり、めっき液中のCu濃度又はSn濃度を変化させることで合金組成を容易に変えることができる。被めっき物である物品は、表面が導電性を有し、平滑なものであれば特に限定することなく使用することができる。例えば、家電製品、水栓金具、雑貨品、装飾品、服飾品等の各種物品が挙げられる。
【0039】
本発明の銅−スズ合金めっき浴は、服飾品又は装飾品用のめっき、電子又は電気部品等のめっきに好適に使用することができるが、その他の用途への適用も何ら制限するものではない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0041】
下記の表1〜6に示す各組成のめっき浴を用い、以下の条件でめっき処理を行い、被めっき物にめっき皮膜を形成した。
被めっき物:鉄板(5cm×5cm)
めっき方法:陽極 純錫板(10cm×5cm 2枚)
液量 1.5L(14cm×8cm×18cm ポリ容器使用)
撹拌 カソードロッカーによる揺動
めっき条件:温度 18〜20℃
電流密度 1A/dm
2
電解時間 25分間
【0042】
めっき液の状態、及び、以上のようにして形成しためっき皮膜の特性を表1〜6に示す。各特性の評価方法は、以下のとおりである。
液の状態:目視で確認
液の安定性:24時間放置後のめっき液を目視で確認
めっき外観及びクラックの発生:デジタルマイクロスコープにて観察
Cu:Sn比:蛍光X線膜厚測定器にて評価
【0043】
また、実施例3、比較例11及び12のめっき浴については、電流密度を0.01、0.1、0.5、1、2及び3A/dm
2としてめっき処理を行い、形成されためっき皮膜の銅含有率を求めた。その結果を
図1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
表1〜5の結果より、実施例1〜50のめっき浴は沈殿が発生せず、特に実施例1〜5、10〜31、34〜42及び45〜50のめっき浴は液の状態が安定しており、めっきを行うことによりクラックのないめっき皮膜が得られることがわかる。表1の実施例1〜5の結果より、めっき液中の金属濃度を調整することで、任意の比率の銅−スズ合金めっきが得られることがわかる。表3〜5の結果より、めっき液に界面活性剤又はレベラーを添加することでめっき外観の光沢が上がり、両方を添加すると優れた光沢を有するめっき外観が得られることがわかる。また、
図1より、本発明のめっき浴は、従来の酸性浴(比較例12)と比較して電流密度が合金比率へ及ぼす影響が少ないことがわかる。