特許第6048737号(P6048737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048737シラスを用いた油の劣化防止剤、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048737
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】シラスを用いた油の劣化防止剤、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 5/00 20060101AFI20161212BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C11B5/00
   A23D9/00 506
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-264535(P2012-264535)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-109000(P2014-109000A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】512312266
【氏名又は名称】河野 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】240000039
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人 衞藤法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 新吾
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−142950(JP,A)
【文献】 特開2002−194382(JP,A)
【文献】 特開2005−105241(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3072210(JP,U)
【文献】 特開2000−063881(JP,A)
【文献】 特開昭58−020152(JP,A)
【文献】 特開昭60−248799(JP,A)
【文献】 特許第5346420(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B
C11C
C09K 15/
A23D 7/−9/
A23L
C10M
C10L 1/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2、Al2O3を主成分とするシラスを加熱撹拌し、該シラスをフルイにかけて細粒シラスを得、該細粒シラスに鉄分含有率0.01〜0.1%以下の粘土と水とを加えて混練、乾燥した後、焼成して得られることを特徴とする油劣化防止剤。
【請求項2】
シラスを350℃〜450℃の範囲内で加熱撹拌する1次処理工程と、粒度が0.05mmメッシュと0.03mmメッシュの細粒シラスに分ける選別工程と、0.05mmメッシュの細粒シラスと0.03mmメッシュの細粒シラスを1:4の比率で混合し、さらに、鉄分含有率0.01〜0.1%以下の粘土に水を加えて濃度10〜20%の粘土水とし、該粘土水を前記細粒シラスに加えて混練、乾燥する成形工程と、成形された後に1300℃以上の高温の窯炉雰囲気で焼成する2次処理工程とからなることを特徴とする油劣化防止剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は油の劣化防止剤に関して、とくにシラスを用いた油劣化防止剤、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代生活において欠かすことのできない油は、空気と接触することで酸化、または高温で空気や水と接触することで加水分解や熱酸化し、劣化することは良く知られている。また、油は劣化すると使用期間が短くなり、例えば食用油では食感や風味が低下するなど調理品の品質や、人体への悪影響が生じる。このため、劣化した油を頻繁に交換する必要があり、一般家庭においては食費が嵩む原因となり、外食産業においては商品原価高の原因となっている。さらに廃油の処理は、有償で産業廃棄物処理業者に依頼するため、頻繁に油を入れ替えると、この点においてもコスト高を招く。
【0003】
このため、従来から、劣化防止剤を油に投入することで、油の劣化を防ぐ方法が種々、研究・開発されている。例えば、活性炭を油に浸漬、接触させて、油中に含まれる不純物を継続的に吸着すると共に、油の酸化を抑制し、経日的な劣化を抑制ないし遅延させる劣化防止剤(特許文献1参照)や、イオン交換を行う活性土壌と、トリウム、ラジウム、ウラン鉱石、トルマリン等の微量放射性レア・アース鉱物とを含有し、イオン交換により劣化を防止する劣化防止剤(特許文献2参照)が先に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−120191号公報
【特許文献2】特開2006−50959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の劣化防止剤では、使用後1週間以内で酸化度が最大値まで上昇しており、未だ不十分であった。また、特許文献2の劣化防止剤では、原料に微量放射性レア・アース鉱物を含むため、レア・アース鉱物の入手に困難が生じるばかりでなく、放射性物資による人体への影響が懸念されるという問題があった。さらに、レア・アース鉱物と共に含まれる重金属類が、油中に溶出する虞があり、食用油に用いるには安全上の問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたもので、食用油に使用しても安全であり、油の酸化を著しく抑制することができる劣化防止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る油の劣化防止剤は、SiO2、Al2O3を主成分とするシラスを加熱撹拌し、該シラスをフルイにかけて細粒シラスを得、該細粒シラスに鉄分含有率0.01〜0.1%以下の粘土と水とを加えて混練、乾燥した後、焼成して得られることを特徴とする。そしてその製造方法は、シラスを350℃〜450℃の範囲内で加熱撹拌する1次処理工程と、粒度が0.05mmメッシュと0.03mmメッシュの細粒シラスに分ける選別工程と、0.05mmメッシュの細粒シラスと0.03mmメッシュの細粒シラスを1:4の比率で混合し、さらに、鉄分含有率0.01〜0.1%以下の粘土に水を加えて濃度10〜20%の粘土水とし、該粘土水を前記細粒シラスに加えて混練、乾燥する成形工程と、成形された後に1300℃以上の高温の窯炉雰囲気で焼成する2次処理工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下記の優れた効果を有する。
(1)原料に用いる粘土は、鉄分含有率0.01〜0.1%以下であり、重金属類の含有率が少ない、また、原料に化学物質を含まないため、食用油に用いても人体に影響を与えるような危険物質が溶出する虞がない。
(2)加熱撹拌されたシラスは、多孔質化するため、吸着性能が高く、油の酸化を防ぐことができる。具体的には、油中の酸素分子、水分子及び/又は微粒子状の不純物を孔に吸着させて、油が酸素分子、水分子及び/又は微粒子状の不純物と接触する機会を減らすことができる。
(3)サイズの異なる細粒シラスを所定の割合で混合し、細粒シラス間同士に空隙を形成しつつ焼成し固形化することで、多数の流通のための孔が不規則に隙間無く広がって形成されているため、油が劣化防止剤に浸透されやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る加熱撹拌器を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0010】
まず、本発明で使用する原料について説明する。本実施例で使用したシラスは、九州南部一帯に厚い地層として分布する細粒の軽石やシラスであり、ガラス質を多く含むことが知られている。その中でも古い地層に堆積しているシラスを用いる。シラスの組成はSiO2、Al2O3を主成分とするため、1000℃以上の高温で焼くと堅牢な焼成物が得られる。このシラスに対して化学分析を行った。化学分析は常法により、SiO2は重量法、Al2O3、Fe2O3、CaO及びMgOhキレート滴定法、Na2O及びK2Oは原子吸光法により定量した。複数サンプルから得られたシラスの化学組成定量値の最小値と最大値を表1に示す。比較例として、桜島の噴火降灰の化学組成を表右欄に記載した。
【0011】
【表1】
【0012】
表1に示されるように、本発明に用いられるシラスは、Ig.Lossは、5.22〜6.38%となっており、比較例よりも水分を多量に含んでいることがわかる。水分を多量に含むのは2次シラスの特徴であり、湖水に長らく沈積したためと思われる。よって、シラスを焼成して水分量を減らすことで、多くの空隙をもつ材質になると考えられる。
【0013】
本発明では、市販されている多治見産の粘土を用いるが、粘土に含まれる鉄分は0.01〜0.1%以下の、いわゆる白土と呼ばれる粘土を用いる。鉄分の含有率は、高いほど成形品の強度が高くなる上に、成形時の形状維持が容易となるが、鉄分の含有率が高くなると、重金属類の含有率も高くなる虞がある。本発明の主旨は、安全性の高い劣化防止剤を提供することであるため、重金属類の含有量が少ないことが好ましく、鉄分の含有率が低い粘土を選択する。
【0014】
以下、シラスの処理工程について説明する。まず、上述したシラスを、図1に示す加熱撹拌器1に所定の量投入し、加熱条件を400℃で20分に設定して加熱撹拌を行う。これによりシラスは、シラスに含まれている水分を飛ばして空隙率が高くなり、シラスの質を一定にすることができる。
【0015】
図1に示すように、加熱撹拌器1は、モーター(図示せず)を駆動させることにより、モーターに連結された駆動軸2が回転し、この駆動軸2に設けられた複数の撹拌翼2a、2bを回転させる。また、撹拌翼2a,2bの回転と同時に、加熱撹拌器1の外壁下部に設けられた複数のヒーター3により、加熱撹拌器1内の温度を上昇させる。このように加熱撹拌器1を作動させた状態で、投入口4からシラスを徐々に投入し、シラスを20分にわたって万遍なく加熱撹拌する。加熱撹拌が終了するまでに、加熱撹拌器1内の温度は最高450℃に達するが、達した後は、ヒーター3に内蔵されたセンサと制御装置により、加熱撹拌器1内の温度が350℃〜450℃に維持される。このように加熱撹拌器1でシラスを加熱撹拌する処理を、1次処理工程とする。
【0016】
上述した1次処理工程を経たシラスは、処理前に比べて水分の約90%が放出される。1次処理工程の過程で、シラスのガラス成分(アルミナやシリカ)が熱によって溶融し、ガラス成分内の水分が放出される。水分が通った通り孔は、加熱撹拌終了後に孔形状を保持したまま冷却し固化するため、シラスはポーラス化(多孔質化)する。
【0017】
1次処理工程中の熱で溶融したガラス成分が、冷却時にシラス粒子を結合し、不定サイズの粒状に固まることがある。この粒状に固形化したシラスや軽石などの不純物を取り除くため、1次処理工程後に充分冷却されたシラスを網状のフルイにかけて選別する。具体的には、シラスを0.05mmメッシュと0.03mmメッシュのフルイにかけて、粒度の大きさにより袋詰めにし、細粒シラスとして選別する。
【0018】
選別工程を終えた細粒シラスの内、0.03mmメッシュを通過した細粒シラスと、0.05mmメッシュのみを通過した細粒シラスとを、重量比4:1の割合で混ぜ合わせる。この割合は、後述する2次処理工程において、ガラス成分が溶融して一体化することを防ぐことができる割合であり、また劣化防止剤の品質を一定に保つことができる。混ぜ合わされた細粒シラスに、細粒シラスを固結できるよう粘土水を加えて混練して、直径成6cmの円盤状に成形し、天日干しにて乾燥させる。この成形工程で用いる粘土は、上述したように、鉄分含有率が0.01〜0.1%以下であることが望ましい。また、粘土水は、後述する2次処理工程後の成形品の固さを考慮して、濃度が10〜20%であることが望ましく、その量は、混ぜ合わせた細粒シラスに対して10%程度であり、細粒シラスが成形できる程度に湿る程度の量で良い。天日干しにかかる時間は、外気の湿度により調整が必要であるが、目安としては2日間程で程良い乾燥状態の固形物が得られる。
【0019】
成形工程後の劣化防止剤は、そのままでも劣化防止剤として使用することができるが、結合剤や強度増強のための骨材は加えられていないため非常に脆い。よって成形後に、2次処理工程として、焼成して焼き締めることが好ましい。より好ましくは、1300℃以上の窯炉雰囲気で8時間焼成することで、適度な固さの劣化防止剤を得ることができる。
【0020】
以上の工程によって得られた油の劣化防止剤の効果を確認するため、試験を行った。試験としては、油を加熱して油の劣化度を測定した。油の劣化度を指し示す項目として、酸化度(AV)と過酸化物価(PV)を測定した。この際、比較のために劣化防止剤を全く使用せずに、同様に処理した場合の結果も測定した。酸化度(AV)は、酸化で生じるカルボン酸や加水分解で生じる遊離脂肪酸などの酸の量を評価した値である。過酸化物価(PV)は、油脂の酸価の初めに生ずるハイドロパーオキサイドの含量をヨウ素滴定法によって測定するもので、初期段階の酸敗度を評価した値である。
【0021】
1kgの食用油をフライヤーに入れ、食用油の温度が180℃に達するまで加熱した。これを1日2回、1週間継続して行い、最終の酸化度(AV)と過酸化物価(PV)を測定した。その測定結果を表2に示す。試料Aは、劣化防止剤を投入せず食用油のみをフライヤーに入れたものであり、試料Bは劣化防止剤を投入したものを示す。
【0022】
【表2】
【0023】
酸化度(AV)と過酸化物価(PV)は、共に試料Aより試料Bが低い値となる結果が得られた。これは、試料Bの食用油の劣化が試料Aに比べて進んでいないことを示し、劣化防止剤が極めて有効であることを指し示している。油中に含まれる水分子、酸素分子及び/又は微粒子状の不純物が、多孔質状の劣化防止剤に吸着され、油の酸化を防いだと推察される。
【0024】
次に、劣化防止剤を投入した食用油の安全性を確認するため、食用油の分析試験を行った。劣化防止剤から食用油に、溶出している重金属類の成分を調べた。その結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
人体に重大な影響を及ぼす重金属類の成分は、検出されなかった。鉄分含有率の低い原料を用いたことが影響していると考えられる。
【0027】
尚、本発明は、成形工程で円板状に成形しているが、その形状はいずれでも良い。具体的には、例えば球(ボール)状、楕円形状、円錐状、三角錐、直方体状、立方体状、偏平状又は板状などの他、ハート形や各種動物形状等、各種形状のものが挙げられる。また、本発明の製造工程に、シラスや粘土の抗菌処理を行う工程を付け加えても良い。このように、特許請求の範囲に記載された要旨を逸脱することがなければ、種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 加熱撹拌器
2 駆動軸
2a、2b 攪拌翼
3 ヒーター
4 投入口
図1