【実施例】
【0010】
まず、本発明で使用する原料について説明する。本実施例で使用したシラスは、九州南部一帯に厚い地層として分布する細粒の軽石やシラスであり、ガラス質を多く含むことが知られている。その中でも古い地層に堆積しているシラスを用いる。シラスの組成はSiO2、Al2O3を主成分とするため、1000℃以上の高温で焼くと堅牢な焼成物が得られる。このシラスに対して化学分析を行った。化学分析は常法により、SiO2は重量法、Al2O3、Fe2O3、CaO及びMgOhキレート滴定法、Na2O及びK2Oは原子吸光法により定量した。複数サンプルから得られたシラスの化学組成定量値の最小値と最大値を表1に示す。比較例として、桜島の噴火降灰の化学組成を表右欄に記載した。
【0011】
【表1】
【0012】
表1に示されるように、本発明に用いられるシラスは、Ig.Lossは、5.22〜6.38%となっており、比較例よりも水分を多量に含んでいることがわかる。水分を多量に含むのは2次シラスの特徴であり、湖水に長らく沈積したためと思われる。よって、シラスを焼成して水分量を減らすことで、多くの空隙をもつ材質になると考えられる。
【0013】
本発明では、市販されている多治見産の粘土を用いるが、粘土に含まれる鉄分は0.01〜0.1%以下の、いわゆる白土と呼ばれる粘土を用いる。鉄分の含有率は、高いほど成形品の強度が高くなる上に、成形時の形状維持が容易となるが、鉄分の含有率が高くなると、重金属類の含有率も高くなる虞がある。本発明の主旨は、安全性の高い劣化防止剤を提供することであるため、重金属類の含有量が少ないことが好ましく、鉄分の含有率が低い粘土を選択する。
【0014】
以下、シラスの処理工程について説明する。まず、上述したシラスを、
図1に示す加熱撹拌器1に所定の量投入し、加熱条件を400℃で20分に設定して加熱撹拌を行う。これによりシラスは、シラスに含まれている水分を飛ばして空隙率が高くなり、シラスの質を一定にすることができる。
【0015】
図1に示すように、加熱撹拌器1は、モーター(図示せず)を駆動させることにより、モーターに連結された駆動軸2が回転し、この駆動軸2に設けられた複数の撹拌翼2a、2bを回転させる。また、撹拌翼2a,2bの回転と同時に、加熱撹拌器1の外壁下部に設けられた複数のヒーター3により、加熱撹拌器1内の温度を上昇させる。このように加熱撹拌器1を作動させた状態で、投入口4からシラスを徐々に投入し、シラスを20分にわたって万遍なく加熱撹拌する。加熱撹拌が終了するまでに、加熱撹拌器1内の温度は最高450℃に達するが、達した後は、ヒーター3に内蔵されたセンサと制御装置により、加熱撹拌器1内の温度が350℃〜450℃に維持される。このように加熱撹拌器1でシラスを加熱撹拌する処理を、1次処理工程とする。
【0016】
上述した1次処理工程を経たシラスは、処理前に比べて水分の約90%が放出される。1次処理工程の過程で、シラスのガラス成分(アルミナやシリカ)が熱によって溶融し、ガラス成分内の水分が放出される。水分が通った通り孔は、加熱撹拌終了後に孔形状を保持したまま冷却し固化するため、シラスはポーラス化(多孔質化)する。
【0017】
1次処理工程中の熱で溶融したガラス成分が、冷却時にシラス粒子を結合し、不定サイズの粒状に固まることがある。この粒状に固形化したシラスや軽石などの不純物を取り除くため、1次処理工程後に充分冷却されたシラスを網状のフルイにかけて選別する。具体的には、シラスを0.05mmメッシュと0.03mmメッシュのフルイにかけて、粒度の大きさにより袋詰めにし、細粒シラスとして選別する。
【0018】
選別工程を終えた細粒シラスの内、0.03mmメッシュを通過した細粒シラスと、0.05mmメッシュのみを通過した細粒シラスとを、重量比4:1の割合で混ぜ合わせる。この割合は、後述する2次処理工程において、ガラス成分が溶融して一体化することを防ぐことができる割合であり、また劣化防止剤の品質を一定に保つことができる。混ぜ合わされた細粒シラスに、細粒シラスを固結できるよう粘土水を加えて混練して、直径成6cmの円盤状に成形し、天日干しにて乾燥させる。この成形工程で用いる粘土は、上述したように、鉄分含有率が0.01〜0.1%以下であることが望ましい。また、粘土水は、後述する2次処理工程後の成形品の固さを考慮して、濃度が10〜20%であることが望ましく、その量は、混ぜ合わせた細粒シラスに対して10%程度であり、細粒シラスが成形できる程度に湿る程度の量で良い。天日干しにかかる時間は、外気の湿度により調整が必要であるが、目安としては2日間程で程良い乾燥状態の固形物が得られる。
【0019】
成形工程後の劣化防止剤は、そのままでも劣化防止剤として使用することができるが、結合剤や強度増強のための骨材は加えられていないため非常に脆い。よって成形後に、2次処理工程として、焼成して焼き締めることが好ましい。より好ましくは、1300℃以上の窯炉雰囲気で8時間焼成することで、適度な固さの劣化防止剤を得ることができる。
【0020】
以上の工程によって得られた油の劣化防止剤の効果を確認するため、試験を行った。試験としては、油を加熱して油の劣化度を測定した。油の劣化度を指し示す項目として、酸化度(AV)と過酸化物価(PV)を測定した。この際、比較のために劣化防止剤を全く使用せずに、同様に処理した場合の結果も測定した。酸化度(AV)は、酸化で生じるカルボン酸や加水分解で生じる遊離脂肪酸などの酸の量を評価した値である。過酸化物価(PV)は、油脂の酸価の初めに生ずるハイドロパーオキサイドの含量をヨウ素滴定法によって測定するもので、初期段階の酸敗度を評価した値である。
【0021】
1kgの食用油をフライヤーに入れ、食用油の温度が180℃に達するまで加熱した。これを1日2回、1週間継続して行い、最終の酸化度(AV)と過酸化物価(PV)を測定した。その測定結果を表2に示す。試料Aは、劣化防止剤を投入せず食用油のみをフライヤーに入れたものであり、試料Bは劣化防止剤を投入したものを示す。
【0022】
【表2】
【0023】
酸化度(AV)と過酸化物価(PV)は、共に試料Aより試料Bが低い値となる結果が得られた。これは、試料Bの食用油の劣化が試料Aに比べて進んでいないことを示し、劣化防止剤が極めて有効であることを指し示している。油中に含まれる水分子、酸素分子及び/又は微粒子状の不純物が、多孔質状の劣化防止剤に吸着され、油の酸化を防いだと推察される。
【0024】
次に、劣化防止剤を投入した食用油の安全性を確認するため、食用油の分析試験を行った。劣化防止剤から食用油に、溶出している重金属類の成分を調べた。その結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
人体に重大な影響を及ぼす重金属類の成分は、検出されなかった。鉄分含有率の低い原料を用いたことが影響していると考えられる。
【0027】
尚、本発明は、成形工程で円板状に成形しているが、その形状はいずれでも良い。具体的には、例えば球(ボール)状、楕円形状、円錐状、三角錐、直方体状、立方体状、偏平状又は板状などの他、ハート形や各種動物形状等、各種形状のものが挙げられる。また、本発明の製造工程に、シラスや粘土の抗菌処理を行う工程を付け加えても良い。このように、特許請求の範囲に記載された要旨を逸脱することがなければ、種々の設計変更が可能である。