特許第6048750号(P6048750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048750
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 233/58 20060101AFI20161212BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20161212BHJP
   C07F 3/06 20060101ALI20161212BHJP
   C07F 19/00 20060101ALN20161212BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20161212BHJP
   C07F 1/08 20060101ALN20161212BHJP
   C07F 1/10 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   C07D233/58
   C01G9/02 Z
   C07F3/06
   !C07F19/00
   !C07F15/00 C
   !C07F15/00 A
   !C07F1/08 Z
   !C07F1/10
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-104194(P2013-104194)
(22)【出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-28792(P2014-28792A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2016年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-143777(P2012-143777)
(32)【優先日】2012年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100094709
【弁理士】
【氏名又は名称】加々美 紀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】三津家 由子
(72)【発明者】
【氏名】永島 和郎
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−328050(JP,A)
【文献】 特開2008−247884(JP,A)
【文献】 特開2010−015971(JP,A)
【文献】 特表2009−504903(JP,A)
【文献】 特開2013−198844(JP,A)
【文献】 特開2012−254398(JP,A)
【文献】 特開2012−250946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F,C07D,B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心金属及び該中心金属に配位する有機配位子を含む有機金属錯体が集積して形成される、多孔性構造を有する多孔性金属錯体と、当該多孔性金属錯体に内包された無機材料を含む複合体の製造方法であって、
前記中心金属を含む化合物、前記有機配位子となる化合物、及び、前記無機材料となる化合物が溶解している原料溶液を調製する調製処理と、
前記原料溶液に対してマイクロ波の照射による加熱を行って前記原料溶液から前記多孔性金属錯体と前記無機材料を一度に析出させる析出処理を行うことにより、
前記多孔性金属錯体に前記無機材料が内包された複合体を生成することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
中心金属及び該中心金属に配位する有機配位子を含む有機金属錯体が集積して形成される、多孔性構造を有する多孔性金属錯体と、当該多孔性金属錯体に内包される無機材料を含む複合体の製造方法であって、
前記中心金属を含む化合物、前記有機配位子となる化合物、及び、前記無機材料となる化合物が溶解している原料溶液を調製する調製工程と、
前記原料溶液を噴霧乾燥することにより前記原料溶液から前記多孔性金属錯体を析出させる第1の析出処理と、
前記第1の析出処理を行った後、加熱処理、酸化処理、還元処理の何れかを行って前記無機材料を析出させる第2の析出処理を行うことにより、
前記多孔性金属錯体に前記無機材料が内包された複合体を生成することを特徴とする製造方法。
【請求項3】
中心金属及び該中心金属に配位する有機配位子を含む有機金属錯体が集積して形成される、多孔性構造を有する多孔性金属錯体と、当該多孔性金属錯体に内包される無機材料を含む複合体の製造方法であって、
前記中心金属を含む化合物、前記有機配位子となる化合物、及び、前記無機材料となる化合物が溶解している原料溶液を調製する調製工程と、
前記原料溶液を噴霧乾燥することにより前記原料溶液から前記複合体の前駆体粒子を析出させるプレ析出処理と、
前記プレ析出処理を行った後、前記複合体の前駆体粒子に対してマイクロ波の照射による加熱を行って多孔性金属錯体と無機材料とを一度に析出させることにより、或いは、前記複合体の前駆体粒子を加熱乾燥処理により多孔性金属錯体粒子を析出させた後、その内部に含まれている無機材料の前駆体から無機材料を析出させるための加熱処理、酸化処理、還元処理の何れかを行うことにより、前記多孔性金属錯体と前記無機材料を析出させる本析出処理を行うことにより、
前記多孔性金属錯体に前記無機材料が内包された複合体を生成することを特徴とする製造方法。
【請求項4】
前記前駆体粒子がX線的に非晶質であることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料溶液が水溶液であることを特徴とする請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記本析出処理において、加熱乾燥処理と加熱処理によって前記多孔性金属錯体と前記無機材料を析出させることを特徴とする請求項3乃至5の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性金属錯体と無機材料を含む複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、中心金属とこれに配位する多座有機配位子からなる金属錯体が集積し、多孔性の三次元構造体となった多孔性金属錯体は多数知られている(例えば特許文献1、2)。
【0003】
こうした多孔性金属錯体は、ゼオライトや活性炭といった他の多孔性材料に比べ、均一な細孔を形成することができることから、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭化水素等の吸着材料や吸蔵材料としての利用が期待され、その構造や合成法に関する研究が進められている。
【0004】
通常、多孔性金属錯体は、金属塩と有機配位子となる化合物をアルコール等の溶媒中に溶解し、反応させて析出(以下「液相法」)させることにより得られるが、液相法による生成には数時間から数日、場合によっては1週間近い時間を要し、また多量の溶媒が必要であった。
【0005】
本出願人等は、先に出願した特願2011−126091により、液相法を含む従来例に比べ、極めて短時間で多孔性金属錯体を合成できる製造方法を提供した。また特願2011−127922により、触媒作用を有する機能材料と多孔性金属錯体を含む複合体を合成できる製造方法も提供した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−328050号公報
【特許文献2】特開2008−247884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、更に無機材料と多孔性金属錯体を含む複合体の新規な製造方法を提供するものであり、詳しくは、多孔性金属錯体に無機材料が内包された複合体を生成する製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本願第1発明は、中心金属及び該中心金属に配位する有機配位子を含む有機金属錯体が集積して形成される、多孔性構造を有する多孔性金属錯体と、当該多孔性金属錯体に内包された無機材料を含む複合体の製造方法であって、前記中心金属を含む化合物、前記有機配位子となる化合物、及び、前記無機材料となる化合物が溶解している原料溶液を調製する調製処理と、前記原料溶液から前記多孔性金属錯体と前記無機材料を一度に析出させる析出処理を行うことにより、前記多孔性金属錯体に前記無機材料が内包された複合体を生成することを特徴とする。
【0009】
また、上記の目的を達成する本願第2発明は、中心金属及び該中心金属に配位する有機配位子を含む有機金属錯体が集積して形成される、多孔性構造を有する多孔性金属錯体と、当該多孔性金属錯体に内包される無機材料を含む複合体の製造方法であって、前記中心金属を含む化合物、前記有機配位子となる化合物、及び、前記無機材料となる化合物が溶解している原料溶液を調製する調製工程と、前記原料溶液から前記多孔性金属錯体を析出させる第1の析出処理と、前記第1の析出処理を行った後、前記無機材料を析出させる第2の析出処理を行うことにより、前記多孔性金属錯体に前記無機材料が内包された複合体を生成することを特徴とする。
【0010】
また、上記の目的を達成する本願第3発明は、中心金属及び該中心金属に配位する有機配位子を含む有機金属錯体が集積して形成される、多孔性構造を有する多孔性金属錯体と、当該多孔性金属錯体に内包される無機材料を含む複合体の製造方法であって、前記中心金属を含む化合物、前記有機配位子となる化合物、及び、前記無機材料となる化合物が溶解している原料溶液を調製する調製工程と、前記原料溶液から前記複合体の前駆体粒子を析出させるプレ析出処理と、前記プレ析出処理を行った後、前記多孔性金属錯体と前記無機材料を析出させる本析出処理を行うことにより、前記多孔性金属錯体に前記無機材料が内包された複合体を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多孔性金属錯体と無機材料を含む複合体を極めて短時間に合成することができ、使用する溶媒量を減らすことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のXRD測定結果である。
図2】実施例1のFT−IR測定結果である。
図3】実施例1のSEM像である。
図4】実施例1のTEM像である。
図5】実施例2のXRD測定結果である。
図6】実施例2のFT−IR測定結果である。
図7】実施例2のSEM像である。
図8】実施例2のTEM像である。
図9】実施例3のXRD測定結果である。
図10】実施例3のFT−IR測定結果である。
図11】実施例3のSEM像である。
図12】実施例3のTEM像である。
図13】実施例4のXRD測定結果である。
図14】実施例4のFT−IR測定結果である。
図15】実施例4のSEM像である。
図16】実施例4のTEM像である。
図17】実施例7のXRD測定結果である。
図18】実施例7のFT−IR測定結果である。
図19】実施例7のSEM像である。
図20】実施例7のTEM像である。
図21】実施例7のCOガス吸着能の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の製造方法を説明する。
【0014】
先ず、目的とする多孔性金属錯体に応じた金属化合物と、有機配位子となる化合物と、無機材料となる化合物を溶媒に溶解し、均一に分散させて原料溶液の調製を行う。
【0015】
本発明で使用可能な金属化合物は、原料溶液に使用する溶媒に溶解可能なものであり、Zn、Cu、Mn、Co、Pd、Mg、Ca、Al、Cr、Mo、W、Fe、Ru、Rh、Ni、Cd等の無機化合物や有機化合物を使用することができ、その一例としては酢酸塩、蟻酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物等である。
【0016】
また有機配位子となる化合物も、原料溶液に使用する溶媒に溶解可能であれば特に限定はないが、例えば、ピラジン、アミノピラジン、メチルピラジン、ジメチルピラジン、アセチルピラジン、フェニルピラジン、キノキサリン、テトラヒドロキノキサリン、ジメチルキノキサリン、ジヒドロキシキノキサリン、ジフェニルキノキサリン、フェナジン、ヒドロキシフェナジン、ピリミジン、ナフチリジン、キナゾリン、ビピリジン、ターピリジン、ピロロピリジン、ビキノリン、ビナフチリジン、ビピコリン、ジアミノビピリジル、イミダゾール、メチルイミダゾリン、フェニルイミダゾリン、アミノベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、ヒドロキシベンゾイミダゾール、メチルイミダゾール、ビスベンゾイミダゾール、ビスベンゾチアゾール、ビスベンゾオキサゾールイミダゾール、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジヒドロキシテレフタル酸、ベンゼントリカルボン酸、ベンゼントリp−安息香酸、ビフェニルジカルボン酸等を使用することができる。
【0017】
これらを溶解する溶媒としては、最終目的物である複合体を分解しないものであれば使用することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトン等の有機溶媒、水等が挙げられ、これらを単独若しくは二種以上を混合して使用することができ、特にはジメチルホルムアミド等の配位性溶媒を使用することが好ましい。
【0018】
これらを用いて得られる多孔性金属錯体の一例としては、[Zn(1,3−bdc)(bpy)]、[Mn(1,4−bdc)(bpy)]、[Zn(2MeIM)]、[Zn(dobdc)]、[ZnO(1,4−bdc)]、[ZnO(2,6−ndc)]、[Cu(btc)]、[Al(OH)(1,4−bdc)]、[Al−BTB]等があるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、ここでbdcはbenzenedicarboxylic acid(1,3−bdc;イソフタル酸、1,4−bdc;テレフタル酸)、bpyは4,4’−bipyridine(4,4’−ビピリジン)、2MeIMは2−Methylimidazole(2メチルイミダゾール)、dobdcは2,5−dihydroxy−1,4−benzenedicarboxylic acid(ジヒドロキシテレフタル酸)、ndcはnaphthalene−dicarboxylic acid(ナフタレンジカルボン酸)、btcはbenzene−tricarboxylic acid(ベンゼントリカルボン酸)、BTBはbenzene−1,3,5−trisbenzoic acid(ベンゼントリp−安息香酸)を意味する。
【0019】
一方、多孔性金属錯体に内包される無機材料としては特に限定はないが、たとえば、Ni、Ag、Pd、Pt、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os及びIr等の少なくとも1種の金属元素からなる金属、合金或いはそれらの複合物や、シリカ、アルミナ、酸化銅、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ルテニウム等の金属酸化物、ガラス、セラミックスなどを利用することができる。
【0020】
また触媒能を有する無機材料を選択した場合には、本発明により得られる複合体を触媒材料として用いることもできるようになる。
【0021】
本発明は、無機材料が多孔性金属錯体の内部に十分分散された複合体を得るために、後述するように、無機材料を原料溶液から析出させることを特徴とする。そのため、本発明において無機材料は、原料溶液に使用する溶媒に溶解可能な化合物として、前記中心金属を含む化合物、前記有機配位子となる化合物と共に原料溶液中に溶解して含まれる。仮に無機材料が原料溶液中に溶解しない形態で含まれている場合(例えば特願2012−67540)、或いは無機材料の原料溶液から析出する場合であっても、それが多孔性金属錯体の析出前に行われ、多孔性金属錯体が析出する前に原料溶液中に無機材料が溶解しない形態で存在する場合には、ナノオーダーサイズの無機材料を内包する本発明の複合体を得ることは難しい。本発明において無機材料は、多孔性金属錯体の析出と同一の析出処理か、或いは多孔性金属錯体の析出処理後の原料溶液からの析出処理で析出するため、容易に、数nmから数百nm程度の大きさの無機材料が多孔性金属錯体に内包された複合体を得ることができる。
【0022】
無機材料となる化合物としては、原料溶液中に溶解するものであれば特に限定はなく、前述した無機材料の無機化合物や有機化合物を使用することができ、その一例としては酢酸塩、蟻酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物やアセチルアセトナト等である。
【0023】
本発明の製造方法においては、上述した金属化合物、有機配位子となる化合物、無機材料となる化合物を溶媒に溶解し、均一に攪拌することによって原料溶液を調製する。この際の各原料の配合比率は、目的とする複合体の組成や選択する原料によって適宜設定される。
【0024】
本発明の製造方法においては、その工程において、原料溶液中の金属化合物及び有機配位子となる化合物から多孔性金属錯体が生成される第1の析出反応と、原料溶液中の無機材料となる化合物から無機材料が生成される第2の析出反応が行われる。
【0025】
そして本願第1発明においては、前記第1、第2の析出反応を一度の処理工程の中で行い、また本願第2発明においては、前記第1の析出反応と前記第2の析出反応とを異なる処理工程の中で行う。
【0026】
更に、本願第3発明においては、前記第1、第2の析出反応に先だって、目的物である複合体の前駆体粒子を析出させる処理を行う。
【0027】
その結果、本願第1〜3発明は共に、多孔性金属錯体内に無機材料が内包された構造の複合体を効率よく得ることができる。
【0028】
特に本願第2〜3発明は、無機材料が多孔性金属錯体内に十分分散し存在している複合体を得やすく、生産効率が特に優れている。
【0029】
以下、先ず本願第1発明から説明する。
【0030】
第1発明においては、前述した原料溶液を調製した後、原料溶液に対して、多孔性金属錯体及び無機材料を一度に析出させる析出処理を行う。
【0031】
多孔性金属錯体及び無機材料を一度に析出させる処理とは、前述した第1の析出反応と第2の析出反応とがほぼ同時に行われる処理であり、少なくとも一回の工程の中で行われる処理である。
【0032】
第1発明において具体的な析出処理としては、原料溶液を均一且つ急速に加熱する処理が好ましい。
【0033】
当該析出処理としては、原料溶液を均一且つ急速に加熱できる限り、その手段や方法は公知の加熱手段や加熱方法を利用することができ、特に限定はされないが、特に均一且つ急速に加熱できることからマイクロ波の照射による加熱が好ましい。
【0034】
目的とする多孔性金属錯体や使用する原料にもよるが、マイクロ波は、100〜500℃の温度範囲で加熱するよう制御することが好ましい。加熱温度が500℃を越えると有機配位子が分解してしまい目的物が得られず、一方、100℃未満では目的物の生成が不十分である。
【0035】
マイクロ波以外の加熱手段では、均一且つ急速に加熱する制御が非常に難しい場合があり、仮に原料溶液を100〜500℃で加熱しても、偏析等によって無機材料が不均一に分散したり、或いは目的とする多孔性金属錯体や無機材料が得られないといったことがあり、目的とする複合体の収率が悪くなる。
【0036】
照射するマイクロ波は、原料溶液を均一に加熱できれば特に限定はないが、例えば300M〜3THz程度の周波数のものを使用することができる。また、目的とする複合体や使用する原料にもよるが、通常、10分〜3時間程度の短時間の加熱により最終目的物を得ることができる。
【0037】
本願第1発明においては、原料溶液内に多孔性金属錯体と無機材料とが一度に析出するため、多孔性金属錯体内に無機材料が入り込みやすく、それ故、多孔性金属錯体中に無機材料が十分に分散した複合体を得ることができる。
【0038】
次に本願第2発明について説明する。
【0039】
第2発明においては、上述した第1発明と同様にして原料溶液を調製した後、原料溶液に対して第1の析出処理を行うことにより、先ず多孔性金属錯体を析出させる。
【0040】
ここで第1の析出処理とは、主に多孔性金属錯体を析出させるために原料溶液に対して行われる処理のことであり、その手段は限定されないが、好ましくは噴霧乾燥である。
【0041】
なお、ここで「主に多孔性金属錯体を析出させる」とは原料溶液中に析出した生成物の殆どが多孔性金属錯体であることを意味し、無機材料が全く析出していない状態を要件とするものではない。すなわち、第1の析出処理が終わった段階で僅かに無機材料が析出していても構わない。
【0042】
噴霧乾燥の具体例としては、先ず調製した原料溶液を気相中に噴霧し、微細な原料溶液の液滴を生成し、加熱乾燥する。ここで噴霧方法について特に限定はなく、例えば公知の超音波式や二流体ノズル式の噴霧器を使用することができる。液滴は気相中に10〜100g/Lの濃度になるように噴霧されることが望ましい。
【0043】
そして、気相中に噴霧された原料溶液の液滴を電気炉等の加熱手段により加熱乾燥する。その一例としては、噴霧器によって霧化した原料溶液の液滴を、キャリアガスと共に電気炉中に搬送することによって、当該液滴を加熱する。
【0044】
キャリアガスを使用する場合、その種類には特に制限はなく、空気、酸素、水蒸気等の酸化性ガスや、窒素、アルゴン等の不活性ガス、或いはこれらの混合ガスを使用することができる。
【0045】
加熱温度は目的とする多孔性金属錯体や、使用する原料にもよるが、100〜500℃の範囲が好ましい。500℃を越えると有機配位子が分解してしまい多孔性金属錯体が得られず、100℃未満では多孔性金属錯体の生成が不十分である。
【0046】
噴霧乾燥における加熱時間に特に限定はなく、目的とする多孔性金属錯体や、使用する原料にもよるが、通常、0.1〜10秒程度の短時間の加熱で目的の多孔性金属錯体を得ることができる。
【0047】
以上に説明した噴霧工程並びに加熱工程を実現できる具体的な装置としては、既知のスプレードライヤーや、特公昭63−31522号公報、特許第3277823号等に記載されている噴霧熱分解装置を活用することができる。
【0048】
上記の加熱工程の後、気相中に生成した多孔性金属錯体粒子は、必要に応じて冷却等を行った後、サイクロン等の公知の回収手段により回収される。
【0049】
上記加熱工程では主に多孔性金属錯体が析出し、無機材料は前駆体の状態のまま多孔性金属錯体粒子の内部に残留しやすい。なお、当該無機材料前駆体としては、先の噴霧乾燥の条件や雰囲気(例えば温度、時間、酸化性キャリアガスの使用の有無、等)に起因して、「無機材料となる化合物が原料溶液から析出した固体状析出物」「当該化合物が酸化等の反応を受けた反応生成物」、更に場合によっては「溶媒の一部が残り、これに溶解した状態の溶液」といった様々な状態・形態であり得るが、そのいずれも含む。
【0050】
そこで本願第2発明では、回収した多孔性金属錯体粒子に対して第2の析出処理を行う。
【0051】
第2の析出処理は、多孔性金属錯体粒子内に含まれている無機材料の前駆体から無機材料を析出させることができれば良く、限定されるものではないが、その一例としては加熱処理や酸化処理、還元処理等が挙げられる。なお、この際、既に生成した多孔性金属錯体を分解や溶解、汚損等の影響がないよう、雰囲気や諸条件等が設定されることは勿論である。
【0052】
加熱処理の場合、多孔性金属錯体粒子内に含まれる無機材料の前駆体にも依存するが加熱温度80〜500℃で30分から3時間程度の加熱が好ましい。
【0053】
以下、更に本願第3発明について説明する。第3発明は、多孔性金属錯体と無機材料を析出させる前に、目的物である複合体の前駆体粒子を生成する工程を備える。
【0054】
一例を挙げると、例えば、前述の第1の析出処理のため、原料溶液に対して噴霧乾燥を行った時に、多孔性金属錯体も無機材料も析出せず、多孔性金属錯体の前駆体と無機材料の前駆体を含む、複合体の前駆体粒子が析出することがある。これは、原料溶液として、水系溶媒を用いて調製した原料水溶液を使用した場合に特に顕著である。
【0055】
この前駆体粒子中には多孔性金属錯体の前駆体に無機材料前駆体が分散して含まれていることから、この前駆体粒子に対して更に、第1発明と同様の、多孔性金属錯体と無機材料が一度に析出する析出処理を行うか、或いは第2発明と同様の、多孔性金属錯体を析出させた後に無機材料を析出させる二段階の析出処理を行うことにより、本発明が目的とする、多孔性金属錯体内に無機材料が分散した複合体を得ることができる。ここでは複合体の前駆体粒子を析出させる処理をプレ析出処理と言い、多孔性金属錯体と無機材料を一度に又は二段階に分けて析出させる処理を総称して本析出処理と言う。
【0056】
すなわち本析出処理の一例としては、析出した複合体の前駆体粒子に対し、マイクロ波等による加熱を行って多孔性金属錯体と無機材料とを一度に析出させても良く、或いは、先ず加熱乾燥して多孔性金属錯体粒子を析出させた後、その内部に含まれている無機材料の前駆体から無機材料を析出させるための加熱処理や酸化処理、還元処理等を行っても良い。
【実施例】
【0057】
以下では、一般的或いは代表的な多孔性金属錯体である[Zn(2MeIM)](以下、ZIF−8と称する)と複数種の無機材料との複合体を製造した例を説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、勿論、他の多孔性金属錯体を用いた複合体を製造することができる。
【0058】
〔実施例1〕
酢酸亜鉛・二水和物0.224g(1.0mモル)及び2−メチルイミダゾール0.164g(2.0mモル)をそれぞれ溶媒であるジメチルホルムアミド10mlに完全に溶解させ、さらにその2−メチルイミダゾールの溶液に酢酸パラジウム0.031g(0.14mモル)を加えて完全に溶解させ、液温を25℃に保ったまま攪拌することによって原料溶液を調製した。
【0059】
上記原料溶液20mlをバイアルに入れ、マイクロ波を照射し、反応温度140℃で1時間の加熱処理を行った。
【0060】
上記加熱処理後、遠心分離にて沈殿物を回収した後に、アルコールで洗浄して、室温で真空乾燥を行って、0.17gの粉末状生成物を得た。
【0061】
この粉末状生成物に対して以下の分析を行った。
【0062】
先ず、リガク製全自動X線回折装置RINT ULTIMA IIを用いてXRD測定を行うと共に、日本分光製フーリエ変換赤外分光分析装置FT/IR−6200を用いてFT−IR測定を行った。なお、ここでFT−IRはATR法で測定した。各測定結果をそれぞれ図1図2に示す。
【0063】
図1図2より、得られた粉末状生成物中に、ZIF−8と金属Pdの存在を確認できた。
【0064】
次に、日本電子製電界放出形走査電子顕微鏡JSM−7000Fを用いてSEM像を観察すると共に、日立透過電子顕微鏡H−9500を用いてTEM像を観察した。その結果をそれぞれ図3図4に示す。
【0065】
図3図4より、得られた粉末状生成物は、約20〜30nmの粒径の一次粒子が凝集した約0.2〜0.3μmの二次粒子であり、図1図2の結果と合わせて、当該粉末状生成物が、ZIF−8内に金属Pdが分散した複合体であることを確認することができた。
【0066】
〔実施例2〕
酢酸パラジウムをアセチルアセトナト銅0.060g(0.23mモル)に変更した以外は実施例1と同様にして原料溶液を調製した後、実施例1と同様にマイクロ波を照射することによって粉末状生成物を得た。
【0067】
得られた粉末状生成物0.13gに対し、実施例1と同様に、XRD測定、FT−IR測定、SEM像観察、TEM像観察を行った。それらの結果をそれぞれ図5図8に示す。
【0068】
図5図8の結果より、当該粉末状生成物が、ZIF−8内に金属Cuが分散した複合体であることを確認することができた。
【0069】
〔実施例3〕
実施例1と同様に調製した原料溶液を、流体ノズルを用いて霧化しながら250℃に設定した加熱炉に送り込んだ。この際、キャリアガスとして窒素ガスを用い、ガス流量は0.5L/minとして加熱炉内での加熱時間が2〜3秒になるよう制御した。
【0070】
加熱炉の出口にサイクロン捕集器を取り付けて、加熱炉で生成された粉末を回収し、真空乾燥処理を行うことにより、ほぼ白色の粉末状生成物を得た。但し、この白色の粉末状生成物についてXRD測定を行ったが金属Pdの存在は確認できなかった。
【0071】
次に上記白色の粉末状生成物0.10gを、管状炉を用いて嫌気下250℃、60分間の加熱処理を行うことにより、灰色の粉末状生成物が得られた。実施例1と同様に、この灰色の粉末状生成物0.09gに対してXRD測定、FT−IR測定、SEM像観察、TEM像観察を行った。それらの結果をそれぞれ図9図12に示す。
【0072】
図9図12より、当該灰色の粉末状生成物が、ZIF−8内に金属Pdが分散した複合体であることを確認することができた。
【0073】
〔実施例4〕
酢酸パラジウムを酢酸銀0.048g(0.28mモル)に変更した以外は実施例1と同様に原料溶液を調製した後、実施例3と同様に噴霧乾燥処理と加熱処理を行って粉末状生成物0.15gを得た。
【0074】
同様にXRD測定、FT−IR測定、SEM像観察、TEM像観察を行った結果を図13図16に示す。
【0075】
図13図16より、当該粉末状生成物が、ZIF−8内に金属Agが分散した複合体であることを確認することができた。
【0076】
〔実施例5〕
酢酸パラジウムをアセチルアセトナトパラジウム0.043g(0.14mモル)に変更した以外は実施例1と同様に原料溶液を調製した後、実施例3と同様に噴霧乾燥処理と加熱処理を行って粉末状生成物0.17gを得た。
【0077】
同様にXRD測定、FT−IR測定、SEM像観察、TEM像観察を行ったところ実施例3とほぼ同様の結果であり、当該粉末状生成物が、ZIF−8内に金属Pdが分散した複合体であることを確認することができた。
【0078】
〔実施例6〕
酢酸亜鉛・二水和物の添加量を0.672g(3.0mモル)に増量した以外は実施例1と同様に原料溶液を調製した後、実施例3と同様に噴霧乾燥処理と加熱処理を行って粉末状生成物0.15gを得た。
【0079】
同様にしてXRD測定、FT−IR測定、SEM像観察、TEM像観察を行い、当該粉末状生成物が、ZIF−8内に金属PdとZnOが分散した複合体であることを確認することができた。
【0080】
〔実施例7〕
酢酸亜鉛・二水和物0.439g(2.0mモル)及び2−メチルイミダゾール1.31g(16mモル)をそれぞれ溶媒である水50mlに完全に溶解させ、液温を25℃に保ったまま15分間攪拌した。その後、酢酸銅・一水和物0.094g(0.47mモル)を水5mlに溶解した水溶液を添加しさらに15分撹拌することで原料溶液を得た。
【0081】
この原料溶液を、2流体ノズルを用いて霧化し、220℃に加熱した空気と混合して水を蒸発させることにより、粉末状の前駆体化合物を合成した。生成した前駆体化合物はサイクロン捕集器で回収した。
【0082】
この前駆体化合物に対し、XRD測定、FT−IR測定を行った結果を、図17〜18に示す。これらの図から明らかなように、前駆体化合物においてはZIF−8の回折パターンも金属Cuのピークも観測されず、X線的には非晶質であった。
【0083】
続いて、この前駆体化合物に対し、150℃で減圧乾燥処理を行ったところ、0.60gの粉末状の生成物(以下、乾燥粉末と称する)が得られた。この乾燥粉末に対して、同様にXRD測定、FT−IR測定を行った結果を図17〜18に併記する。これらの図から示される通り、上記乾燥処理を行った後には、ZIF−8由来と考えられる回折パターンが見られるようになったが、金属Cuのピークは未だ観察されなかった。
【0084】
更に、乾燥粉末0.30gを管状炉内に静置し、水素を4%含む窒素ガス中で400℃で60分の熱処理を行ったところ、褐色の粉末状生成物0.25gが得られた。このときのXRD測定、FT−IR測定の結果を図17〜18に併記した。図から示される通り、ZIF−8の結晶化が進み、金属Cuもそのピークが出現するようになった。
【0085】
この褐色の粉末状生成物に対して、図19にSEM像観察した結果を、またFEI製TITAN80−300による明視野TEM像観察した結果を図20に示す。図19に示されるように、ここで得られた粉末状生成物はミクロンオーダーの粒子であり、図20から当該粒子が内部にZIF−8の一次粒子の集合体を含み、特に粒子界面の近傍に多数のCu微粒子が分散した複合体であることを確認することができた。
【0086】
更に、得られた粉末状生成物に対し、日本ベル製自動比表面積/細孔分布測定器BELSORP−mini IIを用い、COを測定ガスとして195KでCOガス吸着能を測定した結果を図21に記す。この結果から、得られた粉末状生成物が空孔を有することを確認できた。
【0087】
〔実施例8〕
酢酸銅・一水和物の代わりにトリスアセチルアセトナトルテニウム〔Ru(C〕 0.12g(0.30mモル)をエタノール20mlに溶解し混合した以外は実施例7と同様に行った結果、ZIF−8の一次粒子と金属Ru微粒子からなる複合体であることを確認することができた。
図1
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