特許第6048751号(P6048751)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048751リチウムイオン二次電池用集電体、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048751
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用集電体、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
   H01M4/66 A
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-120025(P2013-120025)
(22)【出願日】2013年6月6日
(65)【公開番号】特開2014-238943(P2014-238943A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】松代 大
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/046112(WO,A1)
【文献】 特表2008−501213(JP,A)
【文献】 特表2011−501383(JP,A)
【文献】 特開平08−273671(JP,A)
【文献】 特開平11−354125(JP,A)
【文献】 特表2009−544121(JP,A)
【文献】 特開2007−227362(JP,A)
【文献】 特表2008−535154(JP,A)
【文献】 特開2014−150051(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/030208(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64− 4/84
H01M 4/13− 4/1399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体本体と、
該集電体本体の表面に配置され、導電性粒子とコート層用バインダーとを含むコート層と、を有し、
前記コート層用バインダーは一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物を有し、該化合物の分子量が180以上500万以下であり、
前記導電性粒子は、酸化インジウム(In)、酸化亜鉛(ZnO)、過酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(II)(SnO)、酸化錫(IV)(SnO)、酸化錫(VI)(SnO)、二酸化チタン(TiO)、三酸化二チタン(Ti)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化タングステン(III)(W)、酸化タングステン(IV)(WO)、酸化タングステン(VI)(WO)、酸化クロム(Cr)、窒化チタン(TiN)、窒化ゲルマニウム(Ge)、窒化ランタン(LaN)、炭化タングステン(WC)、炭化タンタル(TaC)、炭化チタン(TiC)、酸化インジウム(In)にZn、Mo、W、Ti、Zr、Sn及びHから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、酸化錫(IV)(SnO)にF、W、Ta、Sb、P及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、酸化亜鉛(ZnO)にGa、Al及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの並びに二酸化チタン(TiO)にNb元素を添加したものから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用集電体。
【請求項2】
前記化合物の分子量は180以上5万以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用集電体。
【請求項3】
前記コート層の厚みは、10nm〜1000nmである請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用集電体。
【請求項4】
前記コート層用バインダーは、さらにポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1〜のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用集電体。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用集電体を有するリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項6】
請求項に記載のリチウムイオン二次電池用電極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用集電体、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池では、正極の活物質として主にリチウムコバルト複合酸化物等のリチウム含有金属複合酸化物が用いられ、負極の活物質としては炭素材料が主に用いられている。正、負極の極板は、これらの活物質とバインダー樹脂と導電助剤とを溶媒に分散させてスラリーとしたものを集電体である金属箔上に塗布し、溶媒を乾燥除去して合剤層を形成後、これをロールプレス機で圧縮成形して作製されている。集電体自体が導電性を有することが必要なため、リチウムイオン二次電池の集電体として、銅、アルミニウムなどの金属箔が用いられる。
【0003】
このような構成のリチウムイオン二次電池において、電解液中に含まれる電解塩の作用により集電体が腐食してサイクル特性が低下してしまうという問題点があった。また近年、リチウムイオン二次電池は、高電圧使用環境下(本明細書では4.3V以上の電圧で使用することを高電圧使用と定義する)でも使用できることが望まれている。上記金属の集電体は高電圧使用環境下ではさらに腐食がおこりやすい。
【0004】
高電圧使用環境下においてサイクル特性を上げるために集電体に保護層を形成する検討が行われている。例えば特許文献1には、ヨウ化Al、TiN、Ti、SnO、In、RuO等から選ばれる化合物を構成成分として含む保護膜が形成された集電体が記載されている。これらの保護膜はイオンスパッタ法や真空蒸着法によって形成されている。このようなドライプロセスによる成膜は、成膜時の膜応力が集電体に残りやすく、成膜を大面積化する上では好ましくない。そのため保護膜の形成はウエットプロセスで行うことが好ましい。ウエットプロセスで成膜する場合は、保護膜は有機系バインダーを含むことが必要となる。
【0005】
例えば、特許文献2には、ポリテトラフルオロエチレンと導電性フィラーとを含む導電性保護層が集電体上に設けられた積層集電体が記載されている。保護層に含まれる有機系バインダーは一般的に保護層の導電性を低下させる。導電性が低下すると、電極の抵抗が上がり、電池の出力特性が低下する。
【0006】
従って、保護層の導電性を低下させにくい有機系バインダーを含む保護層を有するリチウムイオン二次電池用集電体が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−55247号公報
【特許文献2】特開2012−84523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、高電圧使用環境下においても出力特性を低下させずにサイクル特性を向上させることができるリチウムイオン二次電池用集電体、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
積層集電体の保護層に使用される有機系バインダーとして、広い電位領域で安定である、つまり電位窓の広い樹脂が従来から検討されていた。ところが、本発明者等が鋭意検討した結果、広い電位窓を有さないため今まで検討されていなかったポリエチレングリコールを集電体の保護層の有機系バインダーとして使用することによって、リチウムイオン二次電池の出力特性を低下させずにサイクル特性を向上させることができることを見いだした。
【0010】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用集電体は、集電体本体と、集電体本体の表面に配置され、導電性粒子とコート層用バインダーとを含むコート層と、を有し、コート層用バインダーは一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物を有し、化合物の分子量が180以上500万以下であることを特徴とする。
【0011】
上記化合物の分子量は、180以上5万以下であることが好ましい。
【0012】
導電性粒子は、酸化インジウム(In)、酸化亜鉛(ZnO)、過酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(II)(SnO)、酸化錫(IV)(SnO)、酸化錫(VI)(SnO)、二酸化チタン(TiO)、三酸化二チタン(Ti)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化タングステン(III)(W)、酸化タングステン(IV)(WO)、酸化タングステン(VI)(WO)、酸化クロム(Cr)、窒化チタン(TiN)、窒化ゲルマニウム(Ge)、窒化ランタン(LaN)、炭化タングステン(WC)、炭化タンタル(TaC)、炭化チタン(TiC)、炭素(C)、酸化インジウム(In)にZn、Mo、W、Ti、Zr、Sn及びHから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、酸化錫(IV)(SnO)にF、W、Ta、Sb、P及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、酸化亜鉛(ZnO)にGa、Al及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの並びに二酸化チタン(TiO)にNb元素を添加したものから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0013】
コート層の厚みは、10nm〜1000nmであることが好ましい。
【0014】
コート層用バインダーは、さらにポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、上記リチウムイオン二次電池用集電体を有することを特徴とする。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用電極を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池用集電体は、集電体本体の表面に配置されたコート層を有する。コート層は一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物を有し、化合物の分子量が180以上500万以下であるコート層用バインダーと導電性粒子とを含む。本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用集電体を有することによって、高電圧使用環境下で用いても、出力特性を低下させずに、サイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極を説明する模式図である。
図2】実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電子の正極の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の観察結果を示す。
図3】ポリエチレングリコール(PEG)の粉末と実施例1のリチウムイオン二次電池のコンディショニング後の集電体のコート層とについて、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)による測定結果を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<リチウムイオン二次電池用集電体>
本発明のリチウムイオン二次電池用集電体は、集電体本体と、集電体本体の表面に配置され、導電性粒子とコート層用バインダーとを含むコート層と、を有する。
【0020】
本発明のリチウムイオン二次電池用集電体はコート層用バインダーが一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物を有し、化合物の分子量が180以上500万以下であることに特徴がある。
【0021】
集電体本体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。本発明のリチウムイオン二次電池用集電体では、集電体本体の表面にコート層が配置されているため、集電体本体が電解塩等によって腐食されることが抑制される。集電体本体に用いることのできる材料として、例えばステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂を挙げることができる。また集電体本体は、箔、シート、フィルムなどの形態をとることができる。そのため、集電体本体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。
【0022】
集電体本体の厚みは、10μm〜100μmであることが好ましい。
【0023】
コート層の厚みは10nm〜1000nmであることが好ましく、20nm〜500nmであることがより好ましい。コート層の厚みが10nm以上であれば、コート層によって集電体本体の表面を保護することができ、電解液による集電体本体の腐食を効果的に抑制することができる。コート層の厚みが1000nm以下であれば、リチウムイオン二次電池内の集電体の占める体積を適正にすることができる。リチウムイオン二次電池内の集電体の占める体積が大きくなりすぎると、活物質の量を減らさなければならなくなり、電池容量の低下につながり好ましくない。
【0024】
特にアルミニウム箔を集電体本体として用いると、コート層の効果が大きい。アルミニウム箔の表面には、通常大気中の酸素との自然反応によって形成されたAl、電解液中の電解塩との反応で形成されたAlF等の不動態膜が存在する。この不動態膜は絶縁体であり、その比抵抗(Ωcm)の桁数は10程度である。アルミニウム箔は不動態膜によって電解塩から保護されるが、不動態膜は高抵抗の膜であるため、不動態膜を表面に有する集電体を用いる電極は高抵抗となり、その電極を用いた電池は出力特性が低下するといわれている。本発明のリチウムイオン二次電池用集電体では集電体本体の表面にコート層が配置されているため、上記不動態膜が形成されにくい。そのため、コート層によって、高抵抗層が集電体本体の表面に形成されることを抑制できる。
【0025】
コート層は導電性粒子とコート層用バインダーとを含む。
【0026】
導電性粒子は、導電性があり、有機溶剤耐性があり、酸化還元反応に対して耐腐食性があり、反応活性が低いことが求められる。このような条件を満たす材料として酸化物、炭化物、窒化物を用いることができる。
【0027】
例えば、導電性粒子として、酸化インジウム(In)、酸化亜鉛(ZnO)、過酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(II)(SnO)、酸化錫(IV)(SnO)、酸化錫(VI)(SnO)、二酸化チタン(TiO)、三酸化二チタン(Ti)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化タングステン(III)(W)、酸化タングステン(IV)(WO)、酸化タングステン(VI)(WO)、酸化クロム(Cr)、窒化チタン(TiN)、窒化ゲルマニウム(Ge)、窒化ランタン(LaN)、炭化タングステン(WC)、炭化タンタル(TaC)、炭化チタン(TiC)、炭素(C)、酸化インジウム(In)にZn、Mo、W、Ti、Zr、Sn及びHから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、酸化錫(IV)(SnO)にF、W、Ta、Sb、P及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの、酸化亜鉛(ZnO)にGa、Al及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもの並びに二酸化チタン(TiO)にNb元素を添加したものから選ばれる少なくとも1つを用いることができる。
【0028】
酸化インジウム(In)にZn、Mo、W、Ti、Zr、Sn及びHから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもののうち、酸化インジウム(In)にZn元素あるいはSn元素を添加したものが好ましい。酸化インジウム(In)にZn元素を添加したものとして、インジウム亜鉛酸化物が挙げられ、酸化インジウム(In)にSn元素を添加したものとして、インジウム錫酸化物が挙げられる。インジウム亜鉛酸化物としてIn−ZnO(IZO)が好ましく、インジウム錫酸化物としてIn−SnO(ITO)が好ましい。
【0029】
酸化錫(IV)(SnO)にF、W、Ta、Sb、P及びBから選ばれる少なくとも一種の元素を添加したもののうち、酸化錫(IV)(SnO)に、F元素、Sb元素、Ta元素あるいはP元素を添加したものが好ましい。酸化錫(IV)(SnO)にF元素を添加したものとして、フッ素錫酸化物が挙げられ、酸化錫(IV)(SnO)にSb元素を添加したものとして、アンチモン錫酸化物が挙げられ、酸化錫(IV)(SnO)にTa元素を添加したものとして、タンタル錫酸化物が挙げられ、酸化錫(IV)(SnO)にP元素を添加したものとして、リン錫酸化物が挙げられる。フッ素錫酸化物としてフッ素添加酸化錫(FTO)が好ましく、アンチモン錫酸化物としてアンチモン添加酸化錫(ATO)が好ましく、タンタル錫酸化物としてタンタル添加酸化錫(TaTO)が好ましく、リン錫酸化物としてリン添加酸化錫(PTO)が好ましい。
【0030】
酸化亜鉛(ZnO)にGa元素を添加したものとして、ガリウム亜鉛酸化物が挙げられ、酸化亜鉛(ZnO)にAl元素を添加したものとして、アルミニウム亜鉛酸化物が挙げられ、酸化亜鉛(ZnO)にB元素を添加したものとして、ホウ素亜鉛酸化物が挙げられる。ガリウム亜鉛酸化物としてガリウム添加酸化亜鉛(GZO)が好ましく、アルミニウム亜鉛酸化物としてアルミニウム添加酸化亜鉛(AZO)が好ましく、ホウ素亜鉛酸化物としてホウ素添加酸化亜鉛(BZO)が好ましい。
【0031】
二酸化チタン(TiO)にNb元素を添加したものとして、チタンニオブ酸化物が挙げられる。チタンニオブ酸化物としてTiO;Nbが好ましい。
【0032】
上記導電性粒子の中でも特にSnOが好ましい。SnOは十分な導電性を有し、かつ大気中の酸素、電解液及び電解塩に耐性があり、また高電圧においてもその耐性は発揮される。またSnOは耐酸化性にも優れている。
【0033】
導電性粒子はその粉体比抵抗が1E+3Ωcm以下であることが好ましい。また導電性粒子は平均粒径D50が10nm〜1000nmであることが好ましい。導電性粒子の平均粒径D50が10nm以上あれば、導電性粒子間の抵抗が上がりすぎず、適切な導電性をコート層に持たせることができる。導電性粒子の平均粒径D50が1000nmより大きいと、コート層の膜厚が厚くなりすぎるため好ましくない。
【0034】
コート層用バインダーは、コート層において上記導電性粒子同士及び導電性粒子と集電体本体とを密着させる。コート層用バインダーは一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物を有し、化合物の分子量が180以上500万以下である。
【0035】
ポリエチレングリコールは、エチレングリコールが重合した構造を持つ高分子化合物である。原料として用いられたポリエチレングリコールは、コート層の作製工程、電池の製造工程及び電池の作動工程においてある程度低分子量化される。そのためコート層の作成時に原料となったポリエチレングリコールからは低分子量化したポリエチレングリコールがコート層に含有されることになる。しかし低分子量化してもコート層用バインダーが上記一般式で表される化合物を有することはGC−MSなどの分析により検出することができる。
【0036】
一般的にポリエチレングリコールは電気分解されやすいため、今までリチウムイオン二次電池の集電体のコート層用バインダーとしては検討されていなかった。上記化合物がコート層用バインダーとして集電体のコート層に含有されると、理由は明確には解明されていないが、リチウムイオン二次電池の電極の抵抗が上がるのを抑制しつつ、サイクル特性を向上させることができる。
【0037】
ポリエチレングリコールは、様々な重合度のものがあり、重合度が大きくなるにつれ、常温で液体であるものから常温で固体であるものになる。コート層の作製時に原料として用いるポリエチレングリコールは、分子量が180以上500万以下であることが好ましい。この範囲の分子量を有するポリエチレングリコールを用いれば、集電体本体に導電性粒子を良好に結着できる。また分子量が5000より大きいものは、常温で固体の塊である。さらに分子量が5万より大きくなると、水に溶解させる際に加熱する必要があるため、取り扱い性が悪い。そのためコート層の作製時に原料として使用するポリエチレングリコールは分子量が5万以下であることがさらに好ましい。
【0038】
さらにコート層の作製時に原料として使用するポリエチレングリコールの分子量は1000以上であることが好ましい。これは分子量が1000以上であれば、ポリエチレングリコールの粘性がより高くなり、コート層を集電体本体に配置しやすいからである。
【0039】
一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物の分子量は、180以上500万以下であり、さらに化合物の分子量は180以上5万以下であることが好ましい。化合物の分子量が上記範囲であれば、集電体本体に導電性粒子を良好に結着できる。
【0040】
一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物の存在は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)によって確認できる。GC−MSは、ガスクロマトグラフ(GC)と質量分析計(MS)が一体化した分析装置である。GC部において測定試料をカラムと呼ばれる分離管を通して、化合物を分離して複数の成分として出現させる。MS部で質量スペクトルを測定する。その質量スペクトルを解析することで、分離されたピークがどのような化合物であるかを解析できる。GC−MSの測定データは横軸に検出時間、縦軸に検出強度をとったクロマトグラムで表示される。つまりクロマトグラムを比較すれば、成分の同定が出来る。そして、分子量は、例えばGPC(Gel Permeation Chromatography)などの手法を用いて測定することができる。
【0041】
ここでGC−MSによる測定条件の一例を下記に記す。
【0042】
GC−MS装置名:アジレント・テクノロジー株式会社製、型番G1099A、付属品Agilent 5973 MSD、
GC測定条件:使用カラムはAgilent 122−1032(モデル番号)、DB−1、0.25mm×30mm×0.25μm、注入口条件はスプリット/スプリットレス 320℃、キャリアガスはヘリウム、オーブン条件は、初期温度40℃、最高温度350℃、平衡化時間3分、ポスト温度300℃、ランタイム26分、トランスファーライン温度320℃、
MS測定条件:スキャンモード、溶媒待ち時間は0分、MS温度は230℃(イオン源)、150℃(四重極)、スキャンレンジは20−800amuである。
【0043】
測定試料のガス化にはパイロライザーを用いることができる。ガス化温度はポリエチレングリコールの熱分解温度以上であればよく、また活物質層のバインダーとして一般的に用いられているポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが分解する温度以下であれば、解析の観点においてなおよい。なお、測定条件はこの測定条件に限定されることはない。
【0044】
上記GC−MSによれば、一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物の存在は、本発明のリチウムイオン二次電池用集電体がリチウムイオン二次電池に組み込まれた状態であっても確認できる。具体的には、集電体本体にコート層を配置した後で、GC−MSによって測定しても一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物はその存在が確認できるし、本発明のリチウムイオン二次電池用集電体を用いた電極を作製した後で、その電極から活物質層を引きはがし、集電体本体側の表面を測定してもその存在が確認される。また本発明のリチウムイオン二次電池用電極を使用したリチウムイオン二次電池を作製した後で、リチウムイオン二次電池を解体してその電極から活物質層を引きはがし、集電体本体側の表面の残存物を測定してもその存在が確認される。また本発明のリチウムイオン二次電池をコンディショニング処理した後で、コンディショニング後の電極を分解し、本発明のリチウムイオン二次電池用集電体から活物質層を引きはがし、集電体本体側の表面の残存物を測定することによっても化合物は確認できる。
【0045】
ここで一般式:HO−(CH−CH−O)−H (n≧3)で表される化合物は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察してもその存在が確認しにくい。これはSEMで観察する際に化合物が電子線によって分解する可能性があるからである。
【0046】
コート層用バインダーは、さらにポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの樹脂を併用して用いることによってコート層の集電体本体への密着性がさらに向上する。またこれらの樹脂を併用して用いると、コート層の作製時にコート層用スラリーの集電体本体への塗工性が向上する。
【0047】
集電体本体へコート層を配置する方法は、特に限定されないが、以下の方法が採用できる。
【0048】
溶媒にコート層用バインダーの原料であるポリエチレングリコール及び導電性粒子を混合してコート層用スラリーとする。さらにコート層用バインダーの原料として上記した樹脂をさらに加えて、コート層用スラリーとしてもよい。ここでポリエチレングリコールを先に溶媒に混合させてから、次に導電性粒子を混合してもいいし、先に導電性粒子を溶媒に混合してから、次にポリエチレングリコールを混合してもいいし、ポリエチレングリコールと導電性粒子とを同時に溶媒に混合してもよい。またさらに上記した樹脂もどの時点で混合してもよい。
【0049】
溶媒は水または有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、エタノール、メタノール、ベンゼン、ジクロロメタンなどが使用可能であり、これら以外でもポリエチレングリコールが微量でも溶解する溶媒であれば使用可能である。水は少量の無機塩などを含み、pHがpH4〜pH9の範囲のものでも使用できる。しかしながら使用する集電体本体の腐食の観点から、水は、蒸留水やイオン交換水などの、不純物を取り除いたpHがpH6〜pH8のものが好ましい。また溶媒として有機溶媒と水を任意の比率で混合したものを用いてもよい。
【0050】
ここで、コート層用スラリーにおいて導電性粒子が分散していることが好ましい。導電性粒子が分散していると、できあがったコート層において導電性粒子がコート層全体に配置されやすい。コート層用スラリーにおいて導電性粒子を分散させるには、溶媒が水である場合、有機物であるポリエチレングリコール及び他のバインダー樹脂の添加量を導電性粒子が凝集しないように適宜調整すればよい。
【0051】
コート層用スラリーにおいて導電性粒子とコート層用バインダーの原料の配合量は、質量比で導電性粒子:コート層用バインダーの原料=1:1〜100:1であることが好ましい。
【0052】
この範囲内の配合量とすれば、できあがったコート層において、導電性粒子はコート層用バインダーによって、導電性粒子同士及び導電性粒子と集電体本体とが良好に結着される。また電極の抵抗上昇を適切に抑制することが出来る。
【0053】
なおコート層用バインダーの原料として上記した他のバインダー樹脂をポリエチレングリコールにあわせて併用する場合は、質量比でポリエチレングリコール100に対して他のバインダー樹脂を0.1〜100添加することが好ましい。この範囲で他のバインダー樹脂が添加されれば、電極の抵抗上昇を適切に抑えつつ、導電性粒子同士及び集電体本体と導電性粒子との結着性を上げることができる。
【0054】
次に集電体本体にコート層用スラリーを塗布する。塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0055】
その後、コート層用スラリーを塗布した集電体本体を乾燥して、本発明のリチウムイオン二次電池用集電体を作製する。
【0056】
<リチウムイオン二次電池用電極>
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、上述したリチウムイオン二次電池用集電体を有する。本発明のリチウムイオン二次電池用集電体は正極に使用しても、負極に使用してもよい。特に本発明のリチウムイオン二次電池用集電体は、集電体本体の腐食が激しい正極に用いると大きな効果が奏される。
【0057】
リチウムイオン二次電池用電極は、活物質が結着剤で結着されてなる活物質層が、リチウムイオン二次電池用集電体の表面に配置される。活物質層は必要に応じて導電助剤をさらに含んでも良い。
【0058】
正極活物質としては、リチウム含有化合物あるいは他の金属化合物よりなるものを用いることができる。リチウム含有化合物としては、例えば、層状構造を有するリチウムコバルト複合酸化物、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、一般式: LiCoNiMn (DはAl、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe及びNaから選択される少なくとも一種でありp+q+r+s=1、0<p<1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1、0.8≦a<2.0、−0.2≦x−(a+p+q+r+s)≦0.2)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物、一般式:LiMPOで示されるオリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiから選択される少なくとも一種)、一般式:LiMPOFで示されるフッ化オリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiから選択される少なくとも一種)、一般式:LiMSiOで示されるケイ酸塩系型リチウム複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiから選択される少なくとも一種)を用いることができる。また他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム若しくは二酸化マンガンなどの酸化物、または硫化チタン若しくは硫化モリブデンなどの二硫化物が挙げられる。
【0059】
また正極活物質は、化学式:LiMO(MはNi,Co及びMnから選択される少なくとも一種である)で表されるリチウム含有酸化物よりなることが好ましく、さらに一般式: LiCoNiMn (DはAl、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe及びNaから選択される少なくとも一種であり、p+q+r+s=1、0<p<1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1、0.8≦a<2.0、−0.2≦x−(a+p+q+r+s)≦0.2)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物よりなることが好ましい。
【0060】
リチウム含有酸化物としては、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiCoO、LiNi0.8Co0.2、LiCoMnOを用いることができる。中でもLiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3は、熱安定性の点で好ましい。
【0061】
正極活物質はその平均粒径D50が1μm〜20μmである粉末形状であることが好ましい。正極活物質の平均粒径D50が小さいと、正極活物質の比表面積が大きくなる。このため、正極活物質の平均粒径D50が小さすぎると正極活物質と電解液との反応面積が過度に増えることになり、その結果、電解液の分解が促進されて、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が悪くなる。従って、正極活物質の平均粒径D50は1μm以上が好ましい。正極活物質の平均粒径D50が20μmより大きいとリチウムイオン二次電池の抵抗が大きくなり、リチウムイオン二次電池の出力特性が下がる。正極活物質の平均粒径D50は粒度分布測定法によって計測できる。平均粒径D50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径のことである。つまり、平均粒径D50とは、体積基準で測定したメディアン径を意味する。
【0062】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを用いることができる。
【0063】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が挙げられる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0064】
リチウムと合金化可能な元素は、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biの少なくとも1種を有するとよい。中でも、リチウムと合金化可能な元素は、珪素(Si)または錫(Sn)であるとよい。
【0065】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、例えば、ZnLiAl、AlSb、SiB、SiB、MgSi、MgSn、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<v≦2)、SnO(0<w≦2)、SnSiO、LiSiOあるいはLiSnOなどが使用できる。リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、珪素化合物または錫化合物が好ましい。珪素化合物としては、SiO(0.5≦x≦1.5)が好ましい。錫化合物としては、例えば、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)が使用できる。
【0066】
高分子材料としては、ポリアセチレン、ポリピロールなどが使用できる。
【0067】
負極活物質は粉末形状であることが好ましい。負極活物質が粉末形状の場合、負極活物質の平均粒径D50は0.1μm以上30μm以下であることが好ましい。負極活物質の平均粒径D50が0.1μmより小さいと、負極活物質の粉末の比表面積が大きくなり、負極活物質の粉末と電解液との接触面積が大きくなって、電解液の分解が進んでしまい、サイクル特性が悪くなる。負極活物質の平均粒径D50が30μmより大きいと、電極全体の導電性が不均一になり、充放電特性が低下するので好ましくない。平均粒径D50は、粒度分布測定法によって計測できる。
【0068】
結着剤は、上記正極活物質あるいは負極活物質及び導電助剤を本発明のリチウムイオン二次電池用集電体に繋ぎ止める役割を果たす。結着剤として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン及びフッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ酢酸ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、並びにスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴムを用いることができる。
【0069】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために必要に応じて活物質層に添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)(KB)、気相法炭素繊維(VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、電極に含有される活物質100質量部に対して、1質量部〜30質量部程度とすることができる。
【0070】
活物質層を本発明のリチウムイオン二次電池用集電体の表面に配置するには、活物質及び結着剤、並びに必要に応じて導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、さらにこの組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、リチウムイオン二次電池用集電体の表面に塗布後、乾燥すればよい。なお、必要に応じて電極密度を高めるべく活物質層が配置された集電体を圧縮してもよい。
【0071】
活物質層形成用組成物の塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0072】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0073】
図1に本実施形態のリチウムイオン二次電池用電極を説明する模式図を示す。図1に示すように、集電体本体1にコート層2が配置され、コート層2の表面に活物質層3が配置される。コート層2には、導電性粒子21とコート層用バインダー22が含まれ、コート層用バインダー22は、コート層2において上記導電性粒子21同士及び導電性粒子21と集電体本体1とを密着させる。
【0074】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用電極を有することを特徴とする。電極は正極または負極が上記リチウムイオン二次電池用電極であってもいいし、正極と負極の両方が上記リチウムイオン二次電池用電極であってもよい。上記リチウムイオン二次電池用電極を有するリチウムイオン二次電池は、高電圧使用環境下においても出力特性を低下させずに優れたサイクル特性を有する。
【0075】
本発明のリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、上記したリチウムイオン二次電池用電極に加えて、セパレータ、電解液を有する。
【0076】
セパレータは正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータは、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、あるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜が使用できる。
【0077】
電解液は、溶媒とこの溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0078】
溶媒として、例えば、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類が使用できる。環状エステル類として、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンが使用できる。鎖状エステル類として、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステルが使用できる。エーテル類として、例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンが使用できる。
【0079】
また上記電解液に溶解させる電解質として、例えばLiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を使用することができる。
【0080】
電解液として、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒にLiClO、LiPF、LiBF、LiCFSOなどのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
【0081】
上記リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。上記リチウムイオン二次電池は、優れたサイクル特性を有するため、そのリチウムイオン二次電池を搭載した車両は、寿命、出力の面で高性能となる。
【0082】
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0083】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池用集電体、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0085】
<集電体本体へのコート層形成>
集電体本体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。
【0086】
導電性粒子として、平均粒径D50が20nmのSnO粉末と、コート層用バインダーとして分子量が2万のポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を準備した。また粘度調整溶媒としてイオン交換水を準備した。
【0087】
(集電体A)
SnO:PEGの質量比が20:1となるように、イオン交換水と混合してコート層用スラリーを作成した。上記コート層用スラリーをアルミニウム箔にのせ、ドクターブレードを用いて塗布した。コート層用スラリーの塗布後のアルミニウム箔を200℃で乾燥し、これを集電体Aとした。集電体Aは、集電体本体としてのアルミニウム箔とこのアルミニウム箔の表面に配置されたコート層とからなる。集電体Aのコート層の厚みは300nmであった。
【0088】
(集電体B)
SnO:PAAの質量比が20:1となるようにした以外は集電体Aと同様にして集電体Bを作製した。
【0089】
(集電体C)
SnO:PTFEの質量比が10:1となるようにした以外は集電体Aと同様にして集電体Cを作製した。
【0090】
(集電体D)
コート層を形成せず、アルミニウム箔そのものを集電体Dとした。
【0091】
(集電体E)
SnO:PEG:PAAの質量比が20:1:0.1となるようにした以外は集電体Aと同様にして集電体Eを作製した。
【0092】
<ラミネート型リチウムイオン二次電池作製>
(実施例1)
実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を次のようにして作製した。
【0093】
(正極の作成)
正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3と導電助剤としてアセチレンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それぞれ88質量部、6質量部、6質量部の割合で混合し、この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて、正極活物質層用スラリーを作製した。
【0094】
集電体Aの表面にドクターブレードを用いて、正極活物質層用スラリーを膜状に塗布した。正極活物質層用スラリーが塗布された集電体Aを80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ−ルプレス機により、プレスして接合物を得た。この時、電極密度は3.2g/cmとなるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱した後、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極活物質層の厚さが45μm程度の正極とした。
【0095】
(負極の作製)
負極活物質として、平均粒子径D50が4μmのSiO(アルドリッチ社製)及び黒鉛(平均粒子径D50が20μmの天然黒鉛(日立化成工業株式会社製))を準備した。バインダー樹脂としてアルコキシ基含有シラン変性ポリアミドイミド樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名コンポセラン、品番H900−2)を準備した。導電助剤としてケッチェンブラックインターナショナル社製のKB(ケッチェンブラック)を準備した。
【0096】
上記負極活物質、導電助剤及びバインダー樹脂を、SiO:黒鉛:導電助剤:バインダー樹脂=22:60:3:15の質量比で混合した。ここで、黒鉛の質量とSiOの質量を合計したものを100質量%としたときに、SiOの配合割合は27質量%である。上記混合物に、溶媒としてNMPを適量入れて調整してスラリーとし、負極活物質層用スラリートした。
【0097】
負極の集電体として20μmの銅箔を準備し、銅箔にドクターブレードを用いて、上記負極活物質層用スラリーを膜状に塗布した。負極活物質層用スラリーが塗布された銅箔を80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ−ルプレス機により、プレスして接合物を得た。この時電極密度は1.6g/cmとなるようにした。接合物を200℃で2時間、真空乾燥機で加熱した後、所定の形状(26mm×31mmの矩形状)に切り取り、負極活物質層の厚さが20μmの負極とした。
【0098】
上記の正極および負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極および負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン樹脂からなる矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としてエチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)をEC:EMC:DMC=3:3:4(体積比)で混合した溶媒にLiPF6を1モル/lとなるように溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極および負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で、実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0099】
また、作製したラミネート型リチウムイオン二次電池はサイクル測定を行う前のコンディショニング処理を実施した。コンディショニング処理では、作製したラミネート型リチウムイオン二次電池を4.5Vまで段階的に充電し、最終的に1Cレートで4.5Vまで充電後、5時間CV充電した。そして、0.33Cレートで2.5Vまで放電後、2.5Vで5時間CV放電した。
【0100】
(実施例2)
実施例1における集電体Aの代わりに集電体Eを用いた以外は実施例1と同様にして実施例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0101】
(比較例1)
実施例1における集電体Aの代わりに集電体Dを用いた以外は実施例1と同様にして比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0102】
(比較例2)
実施例1における集電体Aの代わりに集電体Bを用いた以外は実施例1と同様にして比較例2のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0103】
(比較例3)
実施例1における集電体Aの代わりに集電体Cを用いた以外は実施例1と同様にして比較例3のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0104】
<サイクル特性評価>
実施例1〜2及び比較例1〜3のラミネート型リチウムイオン二次電池のサイクル特性を評価した。サイクル特性の評価としては、以下の条件で充放電を繰り返したサイクル試験を行い各サイクルの放電容量を測定した。充電の際は、60℃において1Cレート、電圧4.5VでCC充電(定電流充電)をした。放電の際は2.5V、1CレートでCC放電(定電流放電)を行った。この充放電を1サイクルとし、200サイクルまでサイクル試験を行った。初回サイクルの放電容量を測定し、正極活物質の質量当たりの初期放電容量(mAh/g)を計算した。200サイクル後の容量維持率は次に示す式にて求めた。
容量維持率(%)=(200サイクル後の放電容量/初期放電容量)×100
【0105】
<セル抵抗評価>
実施例1〜2及び比較例1〜3のラミネート型リチウムイオン二次電池の初期のセル抵抗を測定した。セル抵抗(Ω)は、SOC(State of charge)20%時の電圧(3.6V)にて3Cレート、10秒放電にて測定した。サイクル試験後のセル抵抗を同様にして測定し、200サイクル後のセル抵抗を測定した。200サイクル後のセル抵抗の変化率を次に示す式にて求めた。
【0106】
セル抵抗変化率(%)=(200サイクル後のセル抵抗/初期セル抵抗)×100
結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1からわかるように、比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池の初期放電容量と比べて、実施例1、実施例2、比較例2〜比較例3のラミネート型リチウムイオン二次電池の初期放電容量はどれも変化がなかった。つまり実施例1、実施例2、比較例2及び比較例3のラミネート型リチウムイオン二次電池で用いたコート層を集電体本体に配置しても初期の放電容量は下がらなかった。
【0109】
また200サイクル後の容量維持率をみると、実施例1及び実施例2のラミネート型リチウムイオン二次電池の容量維持率は、比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池の容量維持率と比較して大幅に向上した。また実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池の容量維持率は、比較例2及び比較例3のラミネート型リチウムイオン二次電池の容量維持率と比較しても高かった。このことから理由は不明であるがコート層用バインダーの原料にPEGを用いたコート層を有するラミネート型リチウムイオン二次電池は、サイクル試験後であっても71%、70%という高い容量維持率を示した。
【0110】
またセル抵抗変化率(%)をみると、実施例1及び実施例2のラミネート型リチウムイオン二次電池のセル抵抗変化率は比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池のセル抵抗変化率とほとんど変わらず、比較例2及び比較例3のラミネート型リチウムイオン二次電池のセル抵抗変化率と比べると大幅に低かった。このことから、コート層用バインダーにPEGを用いたコート層は、セル抵抗がサイクル試験後であっても上がりにくいことがわかった。
【0111】
<実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池の正極の走査型電子顕微鏡(SEM)観察>
実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池の正極の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。観察した正極はラミネートセル作製時点のものを用いた。
【0112】
図2に実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電子の正極の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の観察結果を示す。図2からわかるように集電体本体1の表面にコート層2が配置され、コート層2の表面に活物質層3が配置されている。ここでコート層2をみてみると、コート層2には複数の導電性粒子と見られる粉末が所々隙間を空けて配置されているが、コート層用バインダーははっきりとは観察できなかった。PEGは電子線があたると分解することが推測されるので、実際にはPEGが配置していたかどうかをSEM観察では確認できなかった。
【0113】
<GC−MSによる測定>
そこで、リチウムイオン二次電池として動かしてからでも集電体本体の表面にPEGが残っていることを確認した。
【0114】
実施例1のラミネート型リチウムイオン二次電池のコンディショニング後の状態のものを解体し、正極の集電体本体から正極活物質層をはがし、集電体本体表面に残存しているコート層を収集したものGC−MSで測定した。
【0115】
GC−MSによる測定条件を下記に記す。GC−MS装置:アジレント・テクノロジー株式会社製、型番G1099A、付属品Agilent 5973 MSD、GC条件:使用カラムはAgilent 122−1032(モデル番号)、DB−1、0.25mm×30mm×0.25μm、注入口条件はスプリット/スプリットレス 320℃、キャリアガスはヘリウム、オーブン条件は、初期温度40℃、最高温度350℃、平衡化時間3分、ポスト温度300℃、ランタイム26分、トランスファーライン温度320℃、MS測定条件:スキャンモード、溶媒待ち時間は0分、MS温度は230℃(イオン源)、150℃(四重極)、スキャンレンジは20−800amuであった。測定試料のガス化にはパイロライザーを用い、280℃でガス化を行った。
【0116】
結果を分子量2万のPEG粉末のGC−MS測定データと併記して図3に示す。
【0117】
図3から、PEG粉末で測定されたデータのピークと同位置に集電体本体の表面を測定したデータのピークが観察された。これらのピークは、下記の化学式(1)、化学式(2)、化学式(3)と同定された。PEG粉末と同一の成分が実施例1から検出され、PEGがコンディショニング後も集電箔上に残存していることが確認できた。
【0118】
【化1】
【0119】
【化2】
【0120】
【化3】
【符号の説明】
【0121】
1:集電体本体、2:コート層、21:導電性粒子、22:コート層用バインダー、3:活物質層。
図1
図3
図2