【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、同様の構成要素には同様の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0012】
本願発明者らは、1−(4’−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルベンゼン(HTP)が脱プロトン化した際に蛍光を発することに着目し、これに特定の長さのポリエチレングリコール鎖を介して4−ニトロフェニルエーテル(4−NPE)を結合させることによって、セシウム含有物質を検出できることを発見した。
【0013】
本発明による蛍光プローブは、式(1)で表され、11−(4’’−ヒドロキシ−1’’−フェニル−1’,4’−フェニル−1,4−フェノキシ)−3,6,9−トリオキサウンデシル−(4−ニトロフェニル)エーテル等からなる。
【化3】
式(1)において、R
1〜R
16は、水素、または、それぞれ独立に電子求引性または電子供与性を有する官能基を示す。電子求引性を有する官能基としては、例えば、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。電子供与性を有する官能基としては、例えば、アミノ基、メトキシ基、メチル基等が挙げられる。
【0014】
式(1)に示されるように、HTPは、特定の長さのポリエチレングリコール鎖としてテトラエチレングリコール(TEG)を介して4−NPEと結合している。TEGは、2つの芳香族分子を分離して結合するリンカーとして機能する。
【0015】
図1は、本発明による蛍光プローブがCsイオンを取り込んでいる様子を模式的に示す図である。
【0016】
本発明による、式(1)に示す蛍光プローブ100は、Csイオン110を、
図1に示すように、リンカーであるTEGが取り込み、2つの芳香族分子によってしっかりと捕捉する。これにより、蛍光プローブ100は可視光を発し、セシウム含有物質を容易に検出し、可視化できる。
【0017】
式(1)においてR
1〜R
16が水素である場合、本発明の蛍光プローブがCsイオン110を捕捉し、そのCsイオン110を捕捉した蛍光プローブ100に励起源を照射すると、波長480nm〜510nmの範囲にピークを有する緑色の蛍光を発する。
【0018】
式(1)においてR
1〜R
16が電子求引性または電子供与性を有する官能基である場合、本発明の蛍光プローブがCsイオン110を捕捉すると、励起源の照射による波長480nm〜510nmの範囲にピークが、レッドシフトまたはブルーシフトし得る。すなわち、R
1〜R
16を適宜選択することにより、発光波長を変化させることができる。
【0019】
また、1分子につき1つのCsイオンを補足して蛍光を発するので、セシウム含有物質が極めて低濃度(少なくとも1ppm)で含まれる場合であっても、検出可能であり、分解能に優れる。
【0020】
なお、Csイオン以外のアルカリ金属およびアルカリ土類金属イオンを補足した場合には、異なる発光色(例えば、式(1)においてR
1〜R
16が水素である蛍光プローブの場合は青色発光)を示すため、セシウム含有物質のみを容易かつ目視にて検出することができる。
【0021】
次に、本発明の蛍光プローブを用いて、セシウム含有物質を検出する方法を詳述する。
【0022】
図2は、本発明によるセシウム含有物質を検出するステップを示すフローチャートである。
【0023】
ステップS210:被験物質と、式(1)で示される蛍光プローブと、アルコールとを接触させる。
【化4】
【0024】
ここで、被験物質は、セシウム含有物質が含有されるか否かを調べたい任意の物質であり、固体であれば、形態を問わない。例えば、固体とは、土壌、紙、布、金属等であり得る。セシウム含有物質とは、セシウムイオンを生じ得るセシウム塩であれば問わないが、具体的には、塩化セシウム、炭酸セシウムおよび硫酸セシウムからなる群から選択される。これらのセシウム塩は、例えば、原子炉の爆破によりセシウムが漏れた際に土壌や水中に存在する形態である。
【0025】
蛍光プローブは、上述したとおりであるため、説明を省略する。また、蛍光プローブは、白い粉末状の固体である。アルコールは、蛍光プローブを溶解し得る任意のアルコールであるが、好ましくは、メタノールまたはエタノールの低級アルコールである。これらは、蛍光プローブを容易に溶解するとともに、安価であるため、好ましい。
【0026】
ステップS210において、用語「接触」とは、被験物質と蛍光プローブとアルコールとが互いに接触する任意の手段を意図している。接触させるステップは、好ましくは、アルコールに蛍光プローブを溶解させたアルコール溶液を被験物質にスプレーする。アルコール溶液を被験物質にスプレーするだけでよいので、被験物質のその場観察を可能にし、極めて簡便である。アルコール溶液におけるアルコール中の蛍光プローブの濃度は、0.5質量%〜5質量%の範囲である。0.5質量%より低いと、被験物質中のセシウム含有物質を確実に検出できない場合がある。5質量%を超えると、蛍光プローブがアルコールに溶解しない場合がある。
【0027】
また、接触させるステップは、好ましくは、被験物質と蛍光プローブとを混合し、これにアルコールを加える。被験物質に、上述のアルコール溶液をスプレーできない場合に、有利である。なお、被験物質と蛍光プローブとの混合割合に特に制限はないが、混合物中のセシウム含有物質の濃度が、1ppm以上であれば、検出可能である。
【0028】
ステップS220:蛍光プローブおよびアルコールが接触した被験物質に励起源を照射する。これにより、被験物質がセシウム含有物質を含有する場合には、蛍光プローブがセシウム含有物質由来のセシウムイオンを捕捉することによって、可視光を発する。上述したように、式(1)においてR
1〜R
16が水素である蛍光プローブの場合には、波長480nm〜510nmの範囲にピークを有する緑色の蛍光を発する。被験物質がセシウム含有物質を含有しない場合には、蛍光プローブがアルカリ金属、アルカリ土類等他の金属イオンを捕捉することによって、上記可視光とは異なる発光色(例えば、青色)を示すか、あるいは、蛍光プローブが何も捕捉しないため、何ら蛍光を発しないかのいずれかである。
【0029】
ここで、励起源は紫外線であり、好ましくは、波長350nm〜380nmを有する紫外線である。このような励起源としてブラックライトがある。
【0030】
上述したように、ステップS210およびS220によれば、上記式(1)で表される蛍光プローブとアルコールとを被験物質とを接触させ、被験物質に励起源を照射することにより、被験物質の発する発光色を観察することによって被験物質中のセシウム含有物質の存在を目視にて容易に確認できる。本発明の方法を採用すれば、セシウムを取り込んで汚染された植物を目視にて見分けることができる。あるいは、本発明の方法を採用すれば、セシウムで汚染された土壌を可視化し、セシウム含有物質のみをその場で除去することができる。
【0031】
次に、本発明の蛍光プローブを用いて、セシウム含有物質を定量的に検出する方法を詳述する。
【0032】
図3は、本発明によるセシウム含有物質を定量的に検出するステップを示すフローチャートである。
【0033】
ステップS310:ステップS310は、
図2のステップS220に続いて行われる。被験物質における蛍光特性を測定する。具体的には、ステップS220において励起源を照射した際の、被験物質からの発光スペクトルを測定する。
【0034】
ステップS320:ステップS310に基づいて、被験物質中のセシウム含有物質の含有量を算出する。具体的には、式(1)においてR
1〜R
16が水素である蛍光プローブを用いると、被験物質中に含まれるセシウム含有物質が多い場合、発光スペクトルのピークは、波長480nm〜510nmの範囲の中でも長波長側(例えば、500nm〜510nmの範囲)に現れる。一方、セシウム含有物質が少ない場合、発光スペクトルのピークは、短波長側(例えば、480nm〜490nmの範囲)に現れる。すなわち、セシウム含有物質の濃度に応じて、発光スペクトルのピーク波長はシフトする。セシウム含有物質の濃度と、発光スペクトルのピーク波長との間には対数の関係がある。予め、セシウム含有物質の濃度を変化させた発光スペクトル、あるいは、セシウム濃度とピーク波長との関係をメモリ等に格納しておけば、中央演算処理装置を用いて含有されるセシウム含有物質の濃度を算出することができる。
【0035】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。そこでまず、実施例および比較例の説明に先立って、実施例および比較例で用いる物質を合成した。
【0036】
図4は、物質A〜物質Iの合成のスキームを示す模式図である。
図5は、物質J〜物質Lの合成のスキームを示す模式図である。
【0037】
<物質A>
まず、物質A(4−ヒドロキシ−4’−(4,4’,5,5’−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ビフェニル)を合成した。4’−ブロモ−(1,1’−ビフェニル)−4−オール(0.4980g、2mmol)と、酢酸カリウム(0.588g、6mmol)と、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン−パラジウム(II)ジクロリド−ジクロロメタン錯体(0.043g、0.06mmol)と、ビス(2,2,3,3,−テトラメチル−2,3−ブタンジオナト)ジボロン(0.761g、3mmol)とを、脱水ジメチルスルホキシド(DMF、12mL)をフラスコ内で混合した。この混合物を窒素雰囲気下、150℃で4時間還流した。反応物を室温まで冷却し、残渣をジクロロメタンに溶解させ減圧下にて溶媒を蒸発させた。粗生成物をカラムクロマトグラフィ(SiO
2、酢酸エチル/ヘキサン:1/1、v/v)により精製し白色粉末状の生成物(0.351g、収率59%)を得た。この生成物が、
図4中の物質Aであることをプロトン核磁気共鳴(
1H−NMR、300MHz、CDCl
3、25℃)、ならびに、マトリックス支援レーザ脱離イオン化法および飛行時間型質量分析計(MALDI−TOF、ジスラノール)により確認した。結果を示す。
【0038】
1H−NMR: δ =1.36 (s, 12H), 5.16 (s, 1H), 6.91 (d, 2H, J = 9.0), 7.41−7.63(m、 4H), 7.86 (d, 2H, J = 9.0) ppm
MALDI−TOF: m/z = 2.961 [M]
+
【0039】
<物質B>
次に、物質B(テトラエチレングリコールビズ(4−トルエンスルホナート)を合成した。水(10mL)に溶解させた水酸化ナトリウム(1.056g、26.4mmol)と、テトラヒドロフラン(THF、10mL)に溶解させたテトラエチレングリコール(1.709g、8.8mmol)とを、フラスコ内で混合した。この混合物を、マグネチックスターラを用い、氷浴中で冷却した。混合物にTHF(10mL)に溶解させた塩化パラトルエンスルホニル(3.50g、17mmol)を連続撹拌・5℃以下で冷却しながら1時間かけて滴下した。この混合溶液を0℃〜5℃の温度範囲でさらに4時間撹拌した。次いで、この混合溶液を氷水(50mL)に注いだ。この混合溶液に対してジクロロメタンを用いた抽出を2回行った。抽出された有機物を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶液をろ過し、溶媒を減圧下で除去した。粗生成物をカラムクロマトグラフィ(SiO
2、酢酸エチル)により精製し透明油状の生成物(収率83%)を得た。この生成物が、
図4中の物質Bであることを、物質Aと同様に、
1H−NMRおよびMALDI−TOFにより確認した。結果を示す。
【0040】
1H−NMR: δ = 2.44(s, 6H), 3.55−3.58(m,8H), 3,67 (t, 4H, J = 8.4) ppm
MALDI−TOF: m/z = 525.15 [M + Na]
+, 541.16 [M + K]
+
【0041】
<物質C>
次に、物質C(11−ヨード−3,6,9−トリオキサウンデシル−(4−ニトロフェニル)エーテル)を合成した。炭酸カリウム(0.691g、5.0mmol)とヨウ化カリウム(0.002g、0.1mmol)とを、4ニトロフェノール(0.347g、2.5mmol)と物質A(5.02g、10mmol)との混合物のクロロホルム溶液(20mL)に加えた。得られた懸濁液を窒素雰囲気下で13時間還流した。反応物を室温まで冷却し、減圧下にて溶媒を蒸発させた。残渣をジクロロメタンに溶解させ、水で洗浄し、無水Na
2SO
4で乾燥させた。減圧下で溶媒を蒸発させた後、残渣をアセトン(50mL)に溶解させ、これにヨウ化ナトリウム(15.0g、100mmol)を添加した。この混合物を24時間還流した。反応物を室温まで冷却し、減圧下にて溶媒を蒸発させた。残渣をジクロロメタンに溶解させ、水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を蒸発させた後、粗生成物を、物質Aと同様に、カラムクロマトグラフィにより精製した。精製により無色の油状の生成物(0.595g、収率56%)を得た。この生成物が、
図4中の物質Cであることを、物質Aと同様に、
1H−NMRならびにカーボン核磁気共鳴(
13C−NMR、75MHz、CDCl
3、25℃)、および、MALDI−TOFにより確認した。結果を示す。
【0042】
1H−NMR: δ = 3.25 (t, 2H, J = 7.0), 3.77−3.66 (m, 10H), 3.91−3.88 (m, 2H), 4.23 (t, 2H, J = 3.0), 6.98 (d, 2H, J = 9.2) , 8.19 (d, 2H, J = 9.2) ppm
13C−NMR: δ = 2.92, 68.14, 69.34, 70.15, 70.57, 70.65, 70.87, 71.88, 114.52, 125.83, 141.50, 163.78 ppm
MALDI−TOF: m/z = 448.16 [M + Na]
+, 464.11 [M + K]
+. HRMS (ESI) m/z C
14H
20INNaO
6の理論値[M + Na]
+: 448.0225, 実測値:448.0233
【0043】
<物質D>
次に、物質D(N−(11−ヨード−3,6,9−トリオキサウンデシル)ナフタレン−1,8−ジカルボキシル酸イミド)を合成した。合成手順は、4ニトロフェノールに代えて、1,8‐ナフタルイミドを用いた以外は、物質Cと同様である。この生成物が、
図4中の物質Dであることを、物質Cと同様に、
1H−NMR、
13C−NMRおよびMALDI−TOFにより確認した。結果を示す。
【0044】
1H−NMR: δ = 3.22−3.17 (m, 2H), 3.73−3.53 (m, 16H), 3.85−3.81 (m, 2H), 4.47−4.42 (m, 2H), 7.75 (t, 2H, J = 7.7), 8.22 (d, 2H, J = 8.3), 8.60 (d, 2H, J = 7.3) ppm
13C−NMR: δ = 2.92, 39.04, 67.88, 70.06, 70.11, 70.48, 70.58, 71.83, 122.50, 126.85, 128.08, 131.18, 131.46, 133.90, 164.11 ppm
MALDI−TOF: m/z = 484.36 [M + H]
+, 506.37 [M + Na]
+, 522.26 [M + K]
+
【0045】
<物質E>
次に、物質E(11−(4−ブロモフェノキシ)−3,6,9−トリオキサウンデシル)−(4−ニトロフェニル)エーテル)を合成した。炭酸カリウム(0.349g、2.53mmol)を、4−ブロモフェノール(0.128g、1.264mmol)と物質C(0.305g、0.632mmol)との混合物のクロロホルム溶液(10mL)に加えた。得られた懸濁液を窒素雰囲気下で15時間還流した。反応物を室温まで冷却し、減圧下にて溶媒を蒸発させた。残渣を酢酸エチルに溶解させ、水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下で溶媒を蒸発させた後、粗生成物を、物質Aと同様に、カラムクロマトグラフィにより精製した。精製により白色の固体の生成物(0.213g、収率64%)を得た。この生成物が、
図4中の物質Eであることを、物質Cと同様に、
1H−NMR、
13C−NMRおよびMALDI−TOFにより確認した。結果を示す。
【0046】
1H−NMR: δ = 3.74−3.65 (m, 8H), 3.89−3.82 (m, 4H), 4.13−4.07 (m, 2H), 4.20 (t, 2H, J = 1.9), 6.78 (d, 2H, J = 9.0), 6.96 (d, 2H, J = 9.3), 7.33 (d, 2H, J = 8.7), 8.18 (t, 2H, J = 4.6) ppm
13C−NMR: δ = 67.62, 68.14, 69.35, 69.62, 70.62, 70.64, 70.81, 70.88, 113.00, 114.53, 116.37, 125.84, 132.19, 141.53, 157.83, 163.79 ppm
MALDI−TOF: m/z = 492.02 [M + Na]
+. HRMS (ESI) m/z C
20H
24BrNNaO
7の理論値[M + Na]
+: 492.0624,実測値:492.0634
【0047】
<物質F>
次に、物質F(N−[11−(4−ブロモフェノキシ)−3,6,9−トリオキサウンデシル]ナフタレン−1,8−ジカルボキシル酸イミド)を合成した。合成手順は、物質Cに代えて、物質Dを用いた以外は、物質Eと同様である。この生成物が、
図4中の物質Fであることを、物質Cと同様に、
1H−NMR、
13C−NMRおよびMALDI−TOFにより確認した。
【0048】
1H−NMR: δ = 3.63−3.61 (m, 6H), 3.71−3.86 (m, 2H), 3.84−3.76 (m, 4H), 4.15−4.02 (m, 2H,), 4.44 (t, 2H, J = 6.0), 6.76 (d, 2H, J = 4.6), 7.32 (d, 2H, J = 7.5), 7.74 (t, 2H, J = 8.0), 8.20 (d, 2H, J = 7.3), 8.59 (d, 2H, J = 6.0) ppm
13C−NMR: δ = 39.07, 67.56, 67.89, 69.52, 70.12, 70.59, 70.74, 112.89, 116.36, 122.56, 126.88, 128.14, 131.22, 131.52, 132.12, 133.94, 157.83, 164.18 ppm
MALDI−TOF: m/z = 528.12 [M + H]
+ HRMS (ESI) m/z C
26H
26BrNNaO
6の理論値[M + Na]
+: 550.0833, 実測値:550.0841
【0049】
<物質G>
次に、上述の式(1)においてR
1〜R
16が水素である、本発明の蛍光プローブを構成する物質G(11−(4’’−ヒドロキシ−1’’−フェニル−1’,4’−フェニル−1,4−フェノキシ)−3,6,9−トリオキサウンデシル−(4−ニトロフェニル)エーテル)を合成した。
【0050】
物質A(0.250g、0.533mmol)と物質E(0.250g、0.5mmol)とをTHF(16mL)に溶解させた。これに2.0Mの炭酸ナトリウム溶液(16mL)を加えて、窒素ガスでパージした。テトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(0)(3mg、0.0031mmol)を添加し、窒素雰囲気下で、勢いよく撹拌しながら24時間還流させた。反応物を室温まで冷却し、減圧下にて溶媒を蒸発させた。残渣を酢酸エチルに溶解させ、水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶液をろ過し、溶媒を減圧下で除去した。粗生成物をカラムクロマトグラフィ(SiO
2、THF/ヘキサン:9/1)により精製した。精製により橙色の固体の生成物(0.125g、収率51%)を得た。この生成物が、
図4中の物質Gであることを、
1H−NMR(300MHz、d
6−DMSO、25℃)、
13C−NMR(75MHz、d
6−DMSO、25℃)およびMALDI−TOFにより確認した。結果を示す。結果を示す。
【0051】
1H−NMR: δ = 3.58−3.56 (m, 8H), 3.78−3.76 (m, 4H), 4.12−4.10 (m, 2H), 4.24−4.21 (m, 2H), 6.85 (d, 2H, J = 8.6), 7.01 (d, 2H, J = 8.8), 7.14 (d, 2H, J = 9.3), 7.52 (d, 2H, J = 8.6), 7.62−7.59 (m, 6H), 8.17 (d, 2H, J = 9.1), 9.55 (s, 1H) ppm
13C−NMR: δ = 67.38, 68.43, 68.80, 69.14, 70.03, 70.13, 115.09, 115.23, 115.95, 126.07, 126.53, 126.67, 127.69, 127.75 , 130.59, 132.30, 137.85, 138.67, 140.98, 157.33, 158.24, 164.04 ppm
MALDI−TOF: m/z = 559.02 [M]
+, 582.03 [M + Na]
+ C
32H
33NO
8の理論値: %C, 68.68; %H, 5.94; %N, 2.50 実測値: %C, 68.31; %H, 6.32; %N, 2.48
【0052】
<物質H>
次に、物質H(N−[11−(4’’−ヒドロキシ−1’’−フェニル−1’,4’−フェニル−1,4−フェノキシ)−3,6,9−トリオキサウンデシル]ナフタレン−1,8−ジカルボキシル酸イミド)を合成した。合成手順は、物質Eに代えて、物質Fを用いた以外は、物質Gと同様である。この生成物が、
図4中の物質Hであることを、物質Gと同様に、
1H−NMR、
13C−NMRおよびMALDI−TOFにより確認した。結果を示す。
【0053】
1H−NMR: δ = 3.56−3.47 (m, H), 3.68−3.64 (m, H), 4.09−4.06 (m, 4H), 4.25 (t, 2H, t = 6.5), 6.84 (d, 2H, J = 8.6), 6.99 (d, 2H, J = 8.8), 7.51 (d, 2H, J = 8.6), 7.61−7.57 (m, 6H), 7.86 (t, 2H, J = 4.0), 8.46 (d, 2H, J = 7.5) , 8.5087 (d, 2H, J = 7.3) , 9.55 (s, 1H) ppm
13C−NMR: δ = 67.11, 67.32, 69.08, 69.85, 69.89, 70.00, 70.05, 115.08, 115.94, 122.21, 126.51, 126.66, 127.46, 127.60, 127.66, 127.74, 130.59, 131.01, 131.08, 131.52, 132.26, 134.60, 137.85, 138.65, 157.31, 158.21, 163.64 ppm
MALDI−TOF: m/z = 617.57 [M]
+, 640.58 [M + Na]
+, 656.54 [M + K]
+ HRMS (ESI) m/z C
38H
35NNaO
7の理論値[M + Na]
+: 640.2311, 実測値:640.2292
【0054】
<物質I>
次に、物質I(2−メトキシエチル−(4−ニトロフェニル)エーテル)を合成した。炭酸カリウム(0.552g、2.0mmol)を4−ニトロフェノール(0.278g、2.0mmol)と2−メトキシエトキシ−4−トルエンスルフォネート(0.921g、4.0mmol)の混合物のジメチルホルムアミド(DMF、10mL)の溶液に加えた。得られた懸濁液をN
2下で12時間還流した。反応物を室温まで冷却し、乾燥するまで溶媒を蒸発させた。残渣をCH
2Cl
2に溶解させ、水で洗浄し、無水Na
2SO
4で乾燥させた。アセトン(5mL)中に残渣とNaI(1.199g、8.0mmol)とを得、これを3時間還流させた。反応物を室温まで冷却し、乾燥するまで溶媒を蒸発させた。残渣をジクロロメタンに溶解させ、水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。黄色の針状の固体の生成物(0.065g、収率17%)を得た。この生成物が、
図4中の物質Iであることを、物質Aと同様に、
1H−NMRおよび
13C−NMRにより確認した。結果を示す。
【0055】
1H−NMR: δ = 3.46(s, 3H), 3.79(t, 2H, J = 3.0), 4.22(t, 2H, J = 6.0), 7.00(d, 2H, J = 9.0), 8.20(d, 2H, J = 6.0) ppm
13C−NMR: δ = 59.28, 68.04, 70.58, 114.53, 125.85, 141.62, 163.78 ppm
【0056】
<物質J>
次に、物質J(2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチル−4−メチルベンゼンスホナート)を合成した。水(20mL)に溶解させた水酸化ナトリウム(0.9g、20mmol)と、テトラヒドロフラン(THF、20mL)に溶解させたトリラエチレングリコールモノメチルエーテル(1.709g、8.8mmol)とを、フラスコ内で混合した。この混合物を、マグネチックスターラを用い、氷浴中で冷却した。混合物にTHF(10mL)に溶解させた塩化パラトルエンスルホニル(3.50g,17mmol)を連続撹拌・5℃以下で冷却しながら1時間をかけて滴下した。この混合溶液を0℃〜5℃の温度範囲でさらに4時間撹拌した。次いで、この混合溶液を氷水(70mL)に注いだ。この混合溶液に対してジクロロメタンを用いた抽出を2回行った。抽出された有機物を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶液をろ過し、溶媒を減圧下で除去した。物質Aと同様に、カラムクロマトグラフィにより精製した。精製により無色の油状の生成物(収率95%)を得た。この生成物が、
図5中の物質Jであることを、物質Cと同様に、
1H−NMR、
13C−NMRおよびMALDI−TOFにより確認した。結果を示す。
【0057】
1H−NMR: δ =2.44 (s, 3H), 3.36 (s, 3H), 3.36−3.54(m, 2H), 3.58−3.62(m, 6H), 3.66−3.70 (m, 2H), 4.10−4.17(m,2H), 7.34 (d, 2H, J = 8.6), 7.79 (d, 2H, J = 8.3) ppm
13C−NMR: δ = 21.60, 58.99, 68.61, 69.19, 70.48, 70.51, 71.48, 127.92, 129.77, 132.91, 144.74 ppm
MALDI−TOF: m/z = 341.0 [M + Na]
+, 357.0 [M + K]
+
【0058】
<物質K>
次に、物質K(1−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)−エトキシ]エトキシ}−4−ブロモベンゼン)を合成した。4−ブロモフェノール(0.692g、4mmol)と物質J(1.12g、3.5mmol)と水酸化カリウム(1.0g、16mmol)との混合物をテトラヒドロフラン溶液(THF、15mL)に加えた。得られた懸濁液を窒素雰囲気下で15時間還流した。反応物を室温まで冷却し、減圧下にて溶媒を蒸発させた。残渣を酢酸エチルに溶解させ水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶液をろ過し、溶媒を減圧下で除去した。物質Aと同様に、カラムクロマトグラフィにより精製した。精製により無色の油状の生成物(0.7g、収率62%)を得た。この生成物が、
図5中の物質Kであることを、物質Aと同様に、
1H−NMRおよびMALDI−TOFにより確認した。結果を示す。
【0059】
1H−NMR: δ =3.37 (s, 3H), 3.54 (m, 2H), 3.72 (m, 6H), 3.84 (m, 2H), 4.09 (m, 2H), 6.80 (d, 2H, J = 9.0), 7.35 (d, 2H, J = 9.2) ppm
MALDI−TOF: m/z = 356.94 [M + K]
+
【0060】
<物質L>
次に、物質L(4−{2−[2−(2−メトキシエトキシ)−エトキシ]−エトキシ}−[1,1’;4’,1’’]ターフェニル−4’’−オール)を合成した。炭酸ナトリウム(0.158g、1.5mmol)と酢酸パラジウム(II)(0.003g、0.5mmol)と物質K(0.266g、1.5mmol)とを、水(7mL)とアセトン(6mL)と混合物に溶解させた。この懸濁液を窒素雰囲気下で、勢いよく3時間撹拌した。反応物の溶媒を減圧下にて蒸発させ稀塩酸を加えた後、酢酸エチルを用いて抽出を行った。抽出された有機物を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。物質Aと同様に、カラムクロマトグラフィにより精製した。精製により白色の固体の生成物(0.414g、収率72%)を得た。この生成物が、
図5中の物質Lであることを、物質Gと同様に、
1H−NMR、
13C−NMRおよびMALDI−TOFにより確認した。結果を示す。
【0061】
1H−NMR: δ =3.30 (s, 3H), 3.43 (m, 2H), 3.51 (m, 4H), 3.58 (m, 2H), 3.74 (m, 2H), 4.13 (m, 2H), 6.87 (d, 2H, J = 8.6), 7.03 (d, 2H, J = 8.8), 7.52 (d, 2H, J = 8.4), 7.62 (d, 6H, J = 8.1), 9.52(s, 1H) ppm
13C−NMR: δ = 58.27, 67.41, 69.18, 69.83 70.03, 70.17, 71.49, 115.14, 115.98, 126.56, 126.71, 127.73, 127.77, 130.61, 132.33, 137.90, 138.69, 157.35, 158.28 ppm
MALDI−TOF: m/z =480.0 [M]
+, 431.0 [M + Na]
+ HRMS (ESI) m/z C
25H
28NNaO
5の理論値[M + Na]
+: 431.1834, 実測値:431.1831
【0062】
[実施例1]
実施例1では、蛍光プローブとして物質G、セシウム含有物質としてCs
2CO
3(炭酸セシウム)、および、被験物質として炭酸セシウムを含有する植物(ひまわり)を用いて、セシウム含有物質の検出を行った。
【0063】
茎をカットしたひまわりを1質量%の炭酸セシウム(Cs
2CO
3)水溶液に数日浸漬させた。その後、ひまわりを−40℃で凍結乾燥させた。次いで、炭酸セシウム水溶液が浸透したひまわりの茎の断面と、物質Gと、アルコールとしてメタノールとを接触させた(
図2のステップS210)。具体的には、メタノールに物質Gを溶解させてアルコール溶液を調製した。アルコール溶液中の物質Gの濃度は、1質量%であった。アルコール溶液をひまわりの茎の断面にスプレーした。アルコール溶液がスプレーされたひまわりの茎に励起源として波長365nmの紫外線を照射した(
図2のステップS220)。紫外線を照射した際のひまわりの茎の様子を観察した。結果を
図6に示す。
【0064】
[比較例2]
比較例2では、物質Gを用いない以外は、実施例1と同様であり、物質Gのセシウム含有物質に対する有効性を確認した。実施例1と同様に、−40℃で凍結乾燥したひまわりの茎に紫外線を照射し、ひまわりの茎の様子を観察した。結果を
図6に示す。
【0065】
[実施例3]
実施例3では、蛍光プローブとして物質G、セシウム含有物質としてCs
2CO
3(炭酸セシウム)、および、被験物質として炭酸セシウムを含有する土壌を用いて、セシウム含有物質の検出を行った。
【0066】
炭酸セシウムを含有する土壌を調製した。次に、土壌と、物質Gと、アルコールとしてメタノールとを接触させた(
図2のステップS210)。具体的には、実施例1と同様のアルコール溶液(アルコール溶液中の物質Gの濃度は1質量%)を土壌にスプレーした。アルコール溶液がスプレーされた土壌に励起源として波長365nmの紫外線を照射した(
図2のステップS220)。紫外線を照射した際の土壌の様子を観察した。結果を
図7に示す。
【0067】
[実施例4]
実施例4では、蛍光プローブとして物質G、セシウム含有物質および被験物質としてCs
2CO
3(炭酸セシウム)粒子を用いて、セシウム含有物質の検出を行った。
【0068】
フィルタ上に炭酸セシウム粒子を用意した。炭酸セシウム粒子と、物質Gと、アルコールとしてメタノールとを接触させた(
図2のステップS210)。具体的には、実施例1と同様のアルコール溶液(アルコール溶液中の物質Gの濃度は1質量%)をフィルタにスプレーした。アルコール溶液がスプレーされたフィルタに励起源として波長365nmの紫外線を照射した(
図2のステップS220)。紫外線を照射した際のフィルタの様子を観察した。結果を
図8に示す。
【0069】
[実施例5]
実施例5では、蛍光プローブとして物質G、セシウム含有物質および被験物質としてCs
2CO
3粉末を用いて、セシウム含有物質の検出を行った。
【0070】
乳鉢内で炭酸セシウム粉末と物質Gとを混合した。このとき、物質Gに対する炭酸セシウム粉末の重量比(炭酸セシウム/物質G)が100となるように調製した。炭酸セシウム粉末と、物質Gと、アルコールとしてメタノールとを接触させた(
図2のステップS210)。具体的には、炭酸セシウム粉末と物質Gとの混合粉末を有する乳鉢にアルコールを数的滴下した。アルコールが滴下された混合粉末に励起源として波長365nmの紫外線を照射した(
図2のステップS220)。紫外線を照射した際の混合粉末の様子を観察した。結果を
図9に示す。また、紫外線を照射した際の混合粉末の発光スペクトルを測定した。結果を
図11に示す。
【0071】
[比較例6]
比較例6では、セシウム含有物質を含まない以外は実施例5と同様であり、物質Gのセシウム含有物質に対する有効性を確認した。
【0072】
詳細には、被験物質として炭酸セシウム(Cs
2CO
3)粉末に代えて、Li
2CO
3粉末、Na
2CO
3粉末、K
2CO
3粉末、Rb
2CO
3粉末、MgCO
3粉末およびCaCO
3粉末をそれぞれ用いた以外は実施例5と同様であった。それぞれ、物質Gに対する炭酸アルカリ金属粉末または炭酸アルカリ土類金属粉末の比(重量比)が100となるように調製した。各炭酸アルカリ土類金属粉末または炭酸アルカリ金属粉末と、物質Gとをそれぞれ混合し、これにアルコールとしてメタノールをそれぞれ数的滴下した。アルコールが滴下された各混合粉末に励起源として波長365nmの紫外線を照射した。紫外線を照射した際の混合粉末の様子を観察した。結果を
図10に示す。また、紫外線を照射した際の混合粉末の発光スペクトルを測定した。結果を
図11に示す。
【0073】
[比較例7]
比較例7では、物質Gに代えて物質Iおよび物質Lの組み合わせを用い、物質Gのセシウム含有物質に対する有効性を確認した。
【0074】
詳細には、物質Gに代えて物質Iおよび物質Lの組み合わせを用い、被験物質として、Cs
2CO
3粉末、Na
2CO
3粉末およびK
2CO
3粉末を用いた以外は実施例5と同様であった。物質Iと物質Lと炭酸アルカリ金属粉末とが、重量比で1:1:100となるように調製した。各炭酸アルカリ金属粉末と物質Iと物質Lとをそれぞれ混合し、これにアルコールとしてメタノールをそれぞれ数的滴下した。アルコールが滴下された各混合粉末に励起源として波長365nmの紫外線を照射した。紫外線を照射した際の混合粉末の発光スペクトルを測定した。結果を
図12に示す。
【0075】
[比較例8]
比較例8では、物質Gに代えて物質Hを用い、物質Gのセシウム含有物質に対する有効性を確認した。
【0076】
詳細には、物質Gに代えて物質Hを用い、被験物質としてCs
2CO
3粉末、Li
2CO
3粉末、Na
2CO
3粉末、K
2CO
3粉末およびRb
2CO
3粉末をそれぞれ用いた以外は実施例5と同様であった。それぞれ、物質Hに対する炭酸アルカリ金属粉末の比(重量比)が100となるように調製した。各炭酸アルカリ金属粉末と、物質Hとをそれぞれ混合し、これにアルコールとしてメタノールをそれぞれ数的滴下した。アルコールが滴下された各混合粉末に励起源として波長365nmの紫外線を照射した。紫外線を照射した際の混合粉末の様子を観察した。また、紫外線を照射した際の混合粉末の発光スペクトルを測定した。結果を
図13に示す。
【0077】
[実施例9]
実施例9では、物質Gのセシウム含有物質に対する分解能を調べた。
【0078】
被験物質として、種々の濃度のCs
2CO
3粉末とK
2CO
3粉末との組み合わせを用いた以外は、実施例5と同様であった。Cs
2CO
3粉末に対してK
2CO
3粉末(K
2CO
3/Cs
2CO
3)を、1質量比〜10
6質量比(100質量%〜10
2質量%に相当)まで変化させた。紫外線を照射した際の混合粉末の様子を観察した。また、紫外線(波長365nm)を照射した際の混合粉末の様子を観察し、発光スペクトルを測定した。結果を
図14〜
図16に示す。
【0079】
[実施例10]
実施例10では、物質Gの、セシウム含有物質として炭酸セシウム以外のセシウム塩、ならびに、セシウム含有物質と他のアルカリ金属塩として水酸化ナトリウムとの混合物に対する有効性を確認した。
【0080】
乳鉢内で塩化セシウム(CsCl)粉末または硫化セシウム(Cs
2SO
4)粉末と水酸化ナトリウム(NaOH)と物質Gとを混合した。このとき、各セシウム塩に対する水酸化ナトリウムの重量比(水酸化ナトリウム/各セシウム塩)が5となるように調製された。また、物質Gに対する各セシウム塩および水酸化ナトリウムの混合物の重量比(混合物/物質G)が100となるように調製した。以降の手順は実施例5と同様であった。紫外線(波長365nm)を照射した際の混合粉末の様子を観察した。結果を
図17に示す。また、紫外線を照射した際の混合粉末の発光スペクトルを測定した。結果を
図18に示す。
【0081】
[比較例11]
比較例11では、実施例10において、セシウム塩に代えて塩化ナトリウム(NaCl)を用い、物質Gのセシウム含有物質に対する有効性を確認した。手順は実施例10と同様であるため説明を省略する。紫外線(波長365nm)を詳細した際の混合粉末の様子を観察し、発光スペクトルを測定した。結果を
図17および
図18に示す。
【0082】
[実施例12]
実施例12では、物質Gの、セシウム含有物質として炭酸セシウム以外のセシウム塩、ならびに、セシウム含有物質と他のアルカリ金属塩として水酸化カリウム(KOH)との混合物に対する有効性を確認した。水酸化ナトリウムに代えて、水酸化カリウムを用いた以外は、実施例10と同様であるため、説明を省略する。紫外線(波長365nm)を詳細した際の混合粉末の様子を観察し、発光スペクトルを測定した。結果を
図19および
図20に示す。
【0083】
[比較例13]
比較例13では、実施例12において、セシウム塩に代えて塩化カリウム(KCl)を用い、物質Gのセシウム含有物質に対する有効性を確認した。手順は実施例12と同様であるため説明を省略する。紫外線(波長365nm)を詳細した際の混合粉末の様子を観察し、発光スペクトルを測定した。結果を
図19および
図20に示す。
【0084】
以上の実施例および比較例の実験条件を表1に示し、実施例および比較例の結果を詳述する。
【表1】
【0085】
図6は、実施例1および比較例2によるCs
2CO
3水溶液が浸透したひまわりの茎に紫外線を照射した様子を示す図である。
【0086】
図6(A)は、実施例1によるひまわりの茎の様子であり、
図6(B)は、比較例2によるひまわりの茎の様子である。
図6(A)は、ひまわりの茎が緑色に発色していることを示す。
図6(B)は、ひまわりの茎がなんら発色していないことを示す。
【0087】
以上から、式(1)で示す物質Gが、セシウム含有物質を検出する蛍光プローブとして有効であることが確認された。また、このような蛍光プローブを用いて、
図2に示す方法によりセシウム含有物質を検出できることが確認された。
【0088】
また、実施例1のひまわりを使った実験によれば、本発明の蛍光プローブおよびそれを用いた検出方法を採用すれば、生物中でのセシウム含有物質の拡散挙動や蓄積過程を容易かつ安全に調べることができる。
【0089】
図7は、実施例3によるCs
2CO
3を含有する土壌に紫外線を照射した様子を示す図である。
図8は、実施例4によるCs
2CO
3粒子を載置したフィルタに紫外線を照射した様子を示す図である。
【0090】
図7によれば、土壌の一部が緑色発光することが示される。
図8によれば、フィルタ上のCs
2CO
3粒子が緑色発光することが示される。なお、
図8の左図は、紫外線を照射する前の様子を示しており、何ら発光していないことが分かる。以上により、物質Gは、アルコールの存在下において、セシウム含有物質に起因して緑色発光することが確認された。さらに
図7によれば、緑色発光により土壌中の汚染箇所を容易に特定でき、汚染された土壌のみを簡単に除去できることが分かった。
【0091】
図9は、実施例5によるCs
2CO
3粉末を載置した乳鉢の様子(A)と、それに紫外線を照射した様子(B)とを示す図である。
【0092】
図10は、比較例6による種々の炭酸アルカリ金属塩、あるいは、炭酸アルカリ土類金属塩に紫外線を照射した様子を示す図である。
【0093】
図9(A)では、炭酸セシウム(Cs
2CO
3)粉末が白色粉末であることを示す。
図9(B)によれば、このような白色粉末にメタノールを滴下し、紫外線を照射したところ緑色に発光することが確認された。
【0094】
図10では、参考のため、
図9(B)の結果を併せて示す。
図10によれば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸ルビジウムに対して青色に発光し、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムに対して何ら発光しないことが分かった。
【0095】
図11は、実施例5および比較例6による発光スペクトルを示す図である。
【0096】
図11によれば、炭酸セシウムに対して波長504nmにピークを有する発光スペクトルが得られ、緑色発光することが分かった。一方、炭酸カリウムおよび炭酸ルビジウムに対して、それぞれ、波長461nmおよび467nmにピークを有する発光スペクトルが得られ青色発光することが分かった。炭酸リチウムおよび炭酸ナトリウムに対して、いずれも強度が低いながらも約460nmにピークを有する発光スペクトルが得られた。炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムに対して、ピークを有する発光スペクトルは得られなかった。
図9、
図10の結果と
図11の結果とは、良好な一致を示すことを確認した。
【0097】
図12は、比較例7による発光スペクトルを示す図である。
【0098】
図12によれば、物質Gに代えて、物質Iおよび物質Lの組み合わせを用いたところ、炭酸セシウムに対して波長474nmにピークを有する発光スペクトルが得られ、青色発光した。また、他の炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムに対して、それぞれ、波長456nmおよび460nmにピークを有する発光スペクトルが得られ、青色発光した。物質Gを構成する物質Iおよび物質Lを用いても、セシウム含有物質に対して緑色発光しないことを確認した。
【0099】
図13は、比較例8による種々の炭酸アルカリ金属塩、あるいは、炭酸アルカリ土類金属塩に紫外線を照射した様子を示す図およびその発光スペクトルを示す図である。
【0100】
図13によれば、物質Gに代えて、物質Gの4−ニトロフェニルエーテル基をナフタレン−1,8−ジカルボキシルイミド基で置換した物質Hを用いたところ、炭酸セシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸リチウムに対して青色に発光した(波長455nm〜473nmにピークを有する発光スペクトルが得られた)。炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムに対して何ら発光しなかった。なお、炭酸ルビジウムに対して緑色に発光した(波長508nmにピークを有する発光スペクトルが得られた)。
【0101】
以上、
図6〜
図13から、物質Gがセシウム含有物質を検出する蛍光プローブとして機能し、このような蛍光プローブを用いれば、
図2に示す方法によりセシウム含有物質を容易に検出でき、緑色に発光したセシウム含有物質の可視化も確認された。詳細には、物質Gは、セシウム含有物質中のCs
+に起因して、アルコールの存在下で励起源に晒されると、波長480nm〜510nmの範囲にピークを有する緑色発光することが分かった。
【0102】
図14は、実施例9による種々の濃度の炭酸セシウムと炭酸カリウムとの混合物に紫外線を照射した様子を示す図である。
図15は、実施例9による発光スペクトルを示す図である。
【0103】
図14および
図15には、それぞれ、参考のため、被験物質が炭酸セシウム単体、および、炭酸カリウム単体の場合の紫外線を照射した様子、ならびに、その発光スペクトルを併せて示す。
【0104】
図14によれば、炭酸セシウムの含有量が減少するにつれて、すなわち、紙面右側に行くにしたがって、発光色が、緑色から青緑色へと変化した。同様に、
図15によれば、炭酸セシウムの含有量が減少するにつれて、発光スペクトルのピーク波長は短波長側にシフトした。さらに、炭酸セシウムの含有量が減少するにつれて、発光スペクトルの発光強度も低減した。これらから、発光色およびピーク波長は、セシウム濃度(Cs
+)に依存して変化することが分かった。
【0105】
図16は、実施例9によるセシウム濃度と発光極大波長との関係を示す図である。
【0106】
図16は、
図15の各発光スペクトルから得たピーク波長(発光極大波長)を、セシウム濃度として炭酸セシウムに対する炭酸カリウムの重量比(K
2CO
3/Cs
2CO
3)に対してプロットした。
図16によれば、ピーク波長とセシウム濃度との間には対数な関係があることが分かり、この関係から検量線を構築することができる。例えば、
図16の挙動をさらにセシウム濃度の低濃度側に掃引すれば、セシウム濃度が1ppm以下であっても高精度に検出できることが分かった。
【0107】
図16のようなセシウム濃度(セシウム含有物質)と発光スペクトルのピーク波長との関係、あるいは、
図15のようなセシウム濃度を変化させた発光スペクトル等のデータを予め入手しておけば、測定した蛍光特性(
図3のステップS310)と上述データとを用いて、被験物質中のセシウム含有物質の含有量を定量的に算出できる(
図3のステップS320)。このような、算出は、マニュアルにて算出してもよいし、上述のデータをメモリ等に格納しておけば、パーソナルコンピュータ等の中央演算処理装置を用いて自動で算出することができる。
【0108】
図17は、実施例10による水酸化ナトリウムと種々のセシウム塩との混合物に紫外線を照射した様子を示す図である。
図18は、実施例10による発光スペクトルを示す図である。
図19は、実施例12による水酸化カリウムと種々のセシウム塩との混合物に紫外線を照射した様子を示す図である。
図20は、実施例12による発光スペクトルを示す図である。
【0109】
図17および
図18には、比較例11による水酸化ナトリウムと塩化ナトリウムとの混合物に紫外線を照射した様子とその発光スペクトルとを併せて示す。
図19および
図20には、比較例13による水酸化カリウムと塩化カリウムとの混合物に紫外線を照射した様子とその発光スペクトルとを併せて示す。
【0110】
図17および
図18によれば、水酸化ナトリウムと塩化セシウムとの混合物、および、水酸化ナトリウムと硫酸セシウムとの混合物に紫外線を照射すると、いずれも緑色(ピーク波長は、それぞれ、492nmおよび488nm)に発光した。一方、水酸化ナトリウムと塩化ナトリウムとの混合物に紫外線を照射すると青色(ピーク波長は462nm)に発光した。
【0111】
図19および
図20によれば、水酸化カリウムと塩化セシウムとの混合物、および、水酸化カリウムと硫酸セシウムとの混合物に紫外線を照射すると、いずれも緑色(ピーク波長は、それぞれ、490nmおよび489nm)に発光した。一方、水酸化カリウムと塩化カリウムとの混合物に紫外線を照射すると青色(ピーク波長は471nm)に発光した。
【0112】
以上、
図17〜
図20から、本発明の蛍光プローブ(物質G)は、セシウム含有物質として炭酸セシウムに加えて、塩化セシウム、硫化セシウム等のセシウム塩を検出する蛍光プローブとして機能することが確認された。また、本発明の蛍光プローブは、被験物質中にセシウム塩以外のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が混在していても、セシウム塩を検出することができることが分かった。