特許第6048832号(P6048832)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048832表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048832
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/185 20060101AFI20161212BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C08G63/185
   G02B1/04
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-509766(P2013-509766)
(86)(22)【出願日】2013年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2013053639
(87)【国際公開番号】WO2013125454
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2016年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-38691(P2012-38691)
(32)【優先日】2012年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸川 惠一朗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 浩尚
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−527144(JP,A)
【文献】 特開2004−285510(JP,A)
【文献】 特開2004−300622(JP,A)
【文献】 特開2005−179566(JP,A)
【文献】 特開平07−062071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−63/91
G02B 1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸とその他のジカルボン酸からなる酸成分とグリコール成分を構成成分とし、その他のジカルボン酸がテレフタル酸であって、融点が280℃以上であり、酸価が1〜16eq/tであることを特徴とする表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂。
【請求項2】
ポリエステル樹脂を構成する全酸成分の30モル%以上が、4,4’−ビフェニルジカルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載の表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂。
【請求項3】
ポリエステル樹脂を構成する全酸成分の30〜90モル%が4,4’−ビフェニルジカルボン酸であり、その他のジカルボン酸がテレフタル酸であり、グリコール成分がエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオールから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂。
【請求項4】
ポリエステル樹脂の融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc2)の差が、40℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性、流動性、寸法安定性、低吸水性、ハンダ耐熱性、表面反射率等に優れる表面実装型LED用反射板に好適な材料に使用可能なポリエステル樹脂に関する。さらには、本発明は、金/錫ハンダ耐熱性、耐光性、低吸水性に優れる表面実装型LED用反射板に好適な材料に使用可能なポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LED(発光ダイオード)は、低消費電力、長寿命、高輝度、小型化可能などの特徴を活用して、照明器具、光学素子、携帯電話、液晶ディスプレイ用バックライト、自動車コンソールパネル、信号機、表示板などに応用されている。また、意匠性、携帯性を重視する用途では、軽薄短小化を実現するために表面実装技術が使用されている。
【0003】
表面実装型LEDは一般に、発光するLEDチップ、リード線、ケースを兼ねた反射板、封止樹脂から構成されているが、電子基板上に実装された部品全体を非鉛化ハンダで接合するために、各部品がハンダ付けリフロー温度260℃に耐えられる材料で形成されることが必要である。材料の融点(融解ピーク温度)としては、280℃以上が必要とされる。特に反射板に関しては、これら耐熱性に加え、光を効率的に取り出すための表面反射率、熱や紫外線に対する耐久性が求められる。かかる観点から、セラミックや半芳香族ポリアミド、液晶ポリマー、熱硬化性シリコーン等の種々の耐熱プラスチック材料が検討されており、なかでも、半芳香族ポリアミドやポリエステルに酸化チタン等の高屈折フィラーを分散させた樹脂は量産性、耐熱性、表面反射率などのバランスが良く、最も汎用的に使用されている。最近では、LEDの汎用化にともない、反射板には加工性や信頼性のさらなる向上が必要となっており、長期の耐熱着色性、耐光性の向上が求められている。
【0004】
LED反射板用のポリエステル樹脂組成物としては、例えば特許文献1〜2が提案されている。
特許文献1,2では、(a)i)テレフタル酸残基70〜100モル%;ii)炭素数20以下の芳香族ジカルボン酸残基0〜30モル%;及びiii)炭素数16以下の脂肪族ジカルボン酸残基0〜10モル%を含むジカルボン酸成分;並びに(b)i)2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール残基1〜99モル%;及びii)1,4−シクロヘキサンジメタノール残基1〜99モル%を含むグリコール成分(ここでジカルボン酸成分の総モル%は100モル%であり、グリコール成分の総モル%は100モル%である)が開示されているが、機械物性が良好傾向にあるものの、成形性、耐光性に問題がある。また、特許文献3では(A)ポリエステル樹脂100質量部に対し、(B)アニオン部分がホスフィン酸のカルシウム塩又はアルミニウム塩であるホスフィン酸塩2〜50質量部、(C)二酸化チタン0.5〜30質量部、及び(D)極性基を有するポリオレフィン樹脂0.01〜3質量部を配合したことを特徴とする、半導体発光素子を光源とする照明装置反射板用難燃性ポリエステル樹脂組成物が開示されているが、金/錫ハンダ耐熱性、耐熱性、耐光性に問題がある。また、特許文献4では、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル100質量部、焙焼工程を含む製法で得られた酸化チタン97〜85質量%を酸化アルミニウム(水和物を含む)3〜15質量%(両者を合わせて100質量%とする。)で表面処理してなる酸化チタン粒子8〜42質量部、ガラス繊維25〜50質量部、およびその他の無機充填材0〜8質量部からなり、二軸混練機を使用して、前記ガラス繊維の少なくとも一部を、二軸混練機のシリンダーの全長に対して30%以上下流側の位置から供給する工程を含む溶融混練工程を経て得られる樹脂組成物が開示されているが、耐熱性、耐候性に問題がある。
また、特許文献5では、不飽和ポリエステル樹脂、重合開始剤、無機充填剤、白色顔料、離型剤、及び補強材を少なくとも含む乾式不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、前記不飽和ポリエステル樹脂が、前記組成物全体量に対して14〜40質量%の範囲内であり、前記無機充填剤と前記白色顔料の配合量の合計が、前記組成物全体量に対して44〜74質量%の範囲内であり、前記無機充填剤と前記白色顔料の配合量の合計に占める前記白色顔料の割合が30質量%以上であり、前記不飽和ポリエステル樹脂が、不飽和アルキッド樹脂と架橋剤が混合されたものであることを特徴とするLEDリフレクター用不飽和ポリエステル樹脂組成物が開示されているが、成形性、耐光性に問題がある。また、これまで表面実装型LED用反射板としては、各種ポリアミドが使用されてきたが、耐熱着色性、耐光性、吸水性に問題があった。
【0005】
以上のように、従来提案されているポリエステルやポリアミドでは、耐熱着色性、耐光性、成形性に課題を抱えながら使用している実情がある。
【0006】
さらに、近年では、照明用途への展開も積極的に行われている。照明用途への展開を考えた場合、コストダウンやハイパワー化、寿命の向上、長期信頼性の向上がさらに求められている。そのため、信頼性の向上策として、リードフレームとLEDチップの接合には、従来のエポキシ樹脂/銀ペーストではなく、劣化が少なく、熱伝導率の高い金/錫共晶ハンダが使用されつつある。しかしながら、金/錫共晶ハンダの加工には、280℃以上290℃未満の温度がかかるため、使用される樹脂には、工程に耐えるために290℃以上の融点が求められる。また、金/錫共晶ハンダの加工時においても、樹脂中の水分による成型品の表面に膨れ(ブリスター)の発生を防ぐために、樹脂には低吸水であることが求められる。
【0007】
以上の通り、表面実装型LED用反射板に使用可能なポリエステル樹脂としては、必要とされる融点が280℃以上、好ましくは290℃以上と高く、かつ芳香環濃度が高いことが好ましい。しかしながら、これらを満足した表面実装型LED用反射板に使用可能なポリエステル樹脂は、これまで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2008−544030号公報
【特許文献2】特表2008−544031号公報
【特許文献3】特開2010−270177号公報
【特許文献4】特開2008−231368号公報
【特許文献5】特許4844699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑み創案されたものであり、その目的は、射出成形時の成形性、流動性、寸法安定性、低吸水性、ハンダ耐熱性、表面反射率、耐光性に優れる表面実装型LED用反射板に好適な材料に使用可能なポリエステル樹脂を提供することにある。さらには、本発明の目的は、長期的な信頼性を確保すべく、金/錫共晶ハンダ工程が適応可能な高融点、ハンダ工程での水分による成型品の膨らみ低減のための低吸水性、屋外使用や長期使用時の耐光性を達成した表面実装型LED用反射板に好適な材料に使用可能なポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために、LED反射板としての特性を満たしながら射出成形やリフローハンダ工程を有利に行うことができ、さらには、金/錫共晶ハンダ耐熱性、低吸水性、耐光性にも優れたポリエステルの組成を鋭意検討した結果、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の構成を有するものである。
(1)4,4’−ビフェニルジカルボン酸とその他のジカルボン酸からなる酸成分とグリコール成分を構成成分とし、融点が280℃以上であることを特徴とする表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂。
(2)ポリエステル樹脂を構成する全酸成分の30モル%以上が、4,4’−ビフェニルジカルボン酸であることを特徴とする(1)に記載の表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂。
(3)ポリエステル樹脂を構成するその他のジカルボン酸が、テレフタル酸及び/又は2,6−ナフタレンジカルボン酸であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂。
(4)ポリエステル樹脂を構成する全酸成分の30〜90モル%が4,4’−ビフェニルジカルボン酸であり、その他のジカルボン酸がテレフタル酸及び/又は2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、グリコール成分がエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオールから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂
(5)ポリエステル樹脂の融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc2)の差が、40℃以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂。
(6)ポリエステル樹脂の酸価が、1〜40eq/tであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル樹脂は、表面実装型LED用反射板に使用する材料に用いた場合、高い耐熱性、低い吸水性に加えて、射出成形時の成形性やハンダ耐熱性など加工性に優れているので、全ての必要な特性を高度に満足する表面実装型LED用反射板を工業的に有利に製造することができる。
【0013】
また、本発明のポリエステル樹脂は、高融点で耐熱性にも優れるため、金/錫共晶ハンダ工程にも適応可能であり、さらには、芳香環濃度が高いので、耐熱性、強靭性、耐候性に優れるとともに、封止材との密着性にも優れるなどの特徴を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリエステル樹脂は、表面実装型LED用反射板に使用する材料に用いることを意図するものである。表面実装型LEDには、プリント配線板を用いたチップLED型、リードフレームを用いたガルウィング型、PLCC型などが挙げられるが、本発明のポリエステル樹脂は、これらの全ての反射板を射出成形により製造することができる。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂は、4,4’−ビフェニルジカルボン酸とその他のジカルボン酸からなる酸成分とグリコール成分を構成成分とし、融点が280℃以上である表面実装型LED反射板用ポリエステル樹脂である。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂は、高い信頼性を付与するために、高融点、低吸水性に加えて、優れた耐光性を実現するものであり、4,4’−ビフェニルジカルボン酸とその他のジカルボン酸からなる酸成分とグリコール成分を構成成分とし、融点が280℃以上であることを特徴とする。ポリエステル樹脂は、下記の構成を有することにより、融点を280℃以上にすることができる。ポリエステル樹脂の融点は、好ましくは290℃以上、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは310℃以上である。ポリエステル樹脂の融点の上限は特に設定しないが、使用できる原料成分の制限より、340℃以下である。
【0017】
ポリエステル樹脂は、4,4’−ビフェニルジカルボン酸が全酸成分の30モル%以上含むことが好ましく、より好ましくは4,4’−ビフェニルジカルボン酸が50モル%以上、更に好ましくは60モル%以上、特に好ましくは63モル%以上、最も好ましくは70モル%以上である。4,4’−ビフェニルジカルボン酸が全酸成分の30モル%未満では、成形性、ハンダ耐熱性、耐光性が低下する傾向にある。4,4’−ビフェニルジカルボン酸は、全酸成分の90モル%以下であることが好ましい。90モル%を超えると、ポリエステル樹脂の融点が高くなり過ぎ、重合条件の設定が難しくなる傾向にある。
その他のジカルボン酸とは、テレフタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、グルタル酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸などが挙げられ、これらの中では、重合性、コスト、耐熱性の点からテレフタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、またはこれらの混合物が好ましい。また、p−オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸などの多価カルボン酸及びその無水物を併用しても構わない。ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、4,4’−ビフェニルジカルボン酸とその他のジカルボン酸の合計で、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、97モル%以上が特に好ましく、100モル%であっても構わない。
【0018】
また、ポリエステル樹脂のグリコ−ル成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族グリコールなどが挙げられる。これらの中では、耐熱性、重合性、成形、コストなどからエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオールから選ばれる一種または二種以上の混合物が好ましい。更に好ましくは、エチレングリコール、1,4−ブタンジオールから選ばれる一種以上である。なお、グリコール成分にエチレングリコールを用いた場合、ポリエステル樹脂の製造時に、ジエチレングリコールが副生し、共重合成分となることがある。この場合、副生するジエチレングリコールは、製造条件にもよるがポリエステル樹脂に組み込まれるエチレングリコールに対して1〜5モル%程度である。また、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価ポリオールを併用しても構わない。
本発明のポリエステル樹脂は、全構成成分を200モル%としたとき、上記のジカルボン酸成分とグリコール成分の合計で、160モル%以上であることが好ましく、より好ましくは180モル%以上、さらに好ましくは190モル%以上であり、200モル%(このとき、ジカルボン酸成分100モル%、グリコール成分100モル%)であっても構わない。
【0019】
ポリエステル樹脂のグリコ−ル成分として全量、エチレングリコールを用いる場合、酸成分として4,4’−ビフェニルジカルボン酸を63モル%以上とすることが好ましく、70モル%以上とすることがより好ましい。また、この場合、より望ましい高融点を達成するためには、酸成分として4,4’−ビフェニルジカルボン酸を75モル%以上とすることがさらに好ましく、80モル%以上とすることが特に好ましい。
【0020】
また、5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、5−[4−スルホフェノキシ]イソフタル酸等の金属塩、または2−スルホ−1,4−ブタンジオール、2,5−ジメチル−3−スルホ−2,5−ヘキサンジオール等の金属塩などのスルホン酸金属塩基を含有するジカルボン酸またはジオールを全酸成分または全ジオール成分の20モル%以下の範囲で使用してもよい。
【0021】
ポリエステル樹脂を製造するに際に使用する触媒として、特に限定がされないが、Ge、Sb、Ti、Al、MnまたはMgの化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物が用いられることが好ましい。これらの化合物は、粉体、水溶液、エチレングリコール溶液、エチレングリコールのスラリー等として反応系に添加される。
【0022】
Ge化合物としては、無定形二酸化ゲルマニウム、結晶性二酸化ゲルマニウム粉末またはエチレングリコールのスラリー、結晶性二酸化ゲルマニウムを水に加熱溶解した溶液またはこれにエチレングリコールを添加加熱処理した溶液等が使用されるが、特に本発明で用いるポリエステルを得るには二酸化ゲルマニウムを水に加熱溶解した溶液、またはこれにエチレングリコールを添加加熱した溶液を使用するのが好ましい。また、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ−n−ブトキシド、亜リン酸ゲルマニウム等の化合物も用いることが出来る。これらの重縮合触媒はエステル化工程中に添加することができる。Ge化合物を使用する場合、その使用量はポリエステル中のGe残存量として、ポリエステル樹脂の質量に対して好ましくは10〜150ppm、より好ましくは13〜100ppm、さらに好ましくは15〜70ppm、最も好ましくは15〜50ppmの範囲である。
【0023】
Ti化合物としては、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のテトラアルキルチタネートおよびそれらの部分加水分解物、酢酸チタン、蓚酸チタニル、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルナトリウム、蓚酸チタニルカリウム、蓚酸チタニルカルシウム、蓚酸チタニルストロンチウム等の蓚酸チタニル化合物、トリメリット酸チタン、硫酸チタン、塩化チタン、チタンハロゲン化物の加水分解物、シュウ化チタン、フッ化チタン、六フッ化チタン酸カリウム、六フッ化チタン酸アンモニウム、六フッ化チタン酸コバルト、六フッ化チタン酸マンガン、チタンアセチルアセトナート、ヒドロキシ多価カルボン酸または含窒素多価カルボン酸とのチタン錯体物、チタンおよびケイ素あるいはジルコニウムからなる複合酸化物、チタンアルコキサイドとリン化合物の反応物、チタンアルコキサイドと芳香族多価カルボン酸又はその酸無水物と特定のリン化合物との反応生成物等が挙げられる。Ti化合物は、生成ポリマー中のTi残存量として、ポリエステル樹脂の質量に対して好ましくは0.1〜50ppm、より好ましくは0.5〜10ppmの範囲になるように添加する。
【0024】
Sb化合物としては、三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、酒石酸アンチモン、酒石酸アンチモンカリ、オキシ塩化アンチモン、アンチモングリコレート、五酸化アンチモン、トリフェニルアンチモン等が挙げられる。Sb化合物は、生成ポリマー中のSb残存量として、ポリエステル樹脂の質量に対して好ましくは50〜300ppm、より好ましくは50〜250ppm、さらに好ましくは50〜200ppm,最も好ましくは50〜180ppmの範囲になるように添加する。
【0025】
Al化合物としては、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムn−プロポキサイド、アルミニウムiso−プロポキサイド、アルミニウムn−ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso−プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物およびこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらのうち酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムおよびアルミニウムアセチルアセトネートがとくに好ましい。Al化合物は、生成ポリマー中のAl残存量として、ポリエステル樹脂の質量に対して好ましくは5〜200ppm、より好ましくは10〜100ppm、さらに好ましくは10〜50ppm、最も好ましくは12〜30ppmの範囲になるように添加する。
【0026】
また、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物を必要に応じて併用してもよい。アルカリ金属、アルカリ土類金属としては、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種であることが好ましく、アルカリ金属ないしその化合物の使用がより好ましい。アルカリ金属ないしその化合物を使用する場合、特にLi,Na,Kの使用が好ましい。
【0027】
アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物、水素化物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
【0028】
前記のアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物は、粉体、水溶液、エチレングリコール溶液等として反応系に添加される。アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物は、生成ポリマー中のこれらの元素の残存量として、ポリエステル樹脂の質量に対して好ましくは1〜50ppmの範囲になるように添加する。
【0029】
さらにまた、本発明に係るポリエステル樹脂は、ケイ素、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、ガリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、錫、ハフニウム、タリウム、タングステンからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含む金属化合物を含有してもよい。これらの金属化合物としては、これら元素の酢酸塩等の飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸塩などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸塩などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸塩などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸塩などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、アルコキサイド、アセチルアセトナート等とのキレ−ト化合物があげられ、粉体、水溶液、エチレングリコール溶液、エチレングリコールのスラリー等として反応系に添加される。これらの金属化合物は、生成ポリマー1トン当りのこれらの金属化合物の元素の残存量として、好ましくは0.05〜3.0モルの範囲になるように添加する。これらの金属化合物は、前記のポリエステル生成反応工程の任意の段階で添加することができる。
【0030】
また、安定剤として、燐酸、ポリ燐酸やトリメチルフォスフェート等の燐酸エステル類、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のリン化合物を使用するのが好ましい。具体例としてはリン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、リン酸モノブチルエステル、リン酸ジブチルエステル、亜リン酸、亜リン酸トリメチルエステル、亜リン酸トリエチルエステル、亜リン酸トリブチルエステル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチルエステル、エチルホスホン酸ジメチルエステル、フェニールホスホン酸ジメチルエステル、フェニールホスホン酸ジエチルエステル、フェニールホスホン酸ジフェニールエステル等である。これらの安定剤はテレフタル酸とエチレングリコールのスラリー調合槽からエステル化反応工程中に添加することができる。P化合物は、生成ポリマー中のP残存量として、ポリエステル樹脂の質量に対して好ましくは5〜100ppm、より好ましくは10〜90ppm、さらに好ましくは10〜80ppm、最も好ましくは20〜70ppmの範囲になるように添加する。
【0031】
重縮合触媒としてAl化合物を用いる場合は、リン化合物と併用することが好ましく、アルミニウム化合物およびリン化合物が予め溶媒中で混合された溶液またはスラリーとして用いることが好ましい。Al化合物の場合、より好ましいリン化合物は、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜ホスホン酸系化合物、亜ホスフィン酸系化合物、ホスフィン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のリン化合物である。これらのリン化合物を用いることで触媒活性の向上効果が見られるとともに、ポリエステルの熱安定性等の物性が改善する効果が見られる。これらの中でも、ホスホン酸系化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。上記したリン化合物の中でも、芳香環構造を有する化合物を用いると物性改善効果や触媒活性の向上効果が大きく好ましい。
【0032】
また、前記の触媒や安定剤などの溶液、スラリー等は、調合時または調合後、酸素濃度が5ppm以下、好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下、最も好ましくは1ppm以下の不活性気体でバブリングさせるか、あるいは、同様にして不活性気体でバブリング後気相中に同様の不活性気体を流通させておくことが望ましい。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂の酸価としては、1〜40eq/tonであることが好ましい。酸価が40eq/tonを超えると、耐光性が低下する傾向にある。また、酸価が1eq/ton未満では、重縮合反応性が低下して生産性が悪くなる傾向にある。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂は、DSC測定における融点(Tm)が280℃以上であり、好ましくは、290℃以上、更に好ましくは300℃以上、特に好ましくは310℃以上、最も好ましくは320℃以上である。本発明のポリエステル樹脂のTmの上限は、次の理由により340℃以下であることが好ましい。Tmが上記上限を超える場合、本発明のポリエステル樹脂を用いた組成物を射出成形する際に必要となる加工温度が極めて高くなるため、加工時にポリエステル樹脂が分解し、目的の物性や外観が得られない場合がある。逆に、Tmが上記下限未満の場合、結晶化速度が遅くなり、いずれも成形が困難になる場合があり、さらには、ハンダ耐熱性の低下を招く恐れがある。Tmが310℃以上であると、280℃のリフローハンダ耐熱性を満足し、金/錫共晶ハンダ工程にも適応可能になるので好ましい。
【0035】
さらに、本発明のポリエステル樹脂は、DSC測定において融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc2)差が、40℃以下であることが好ましく、更に好ましくは35℃以下、最も好ましくは30℃以下である。降温結晶化温度(Tc2)とは、DSC測定に於いて、融点より10℃以上高い温度から降温させた際に、結晶化し始める温度である。融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc2)は、下記実施例の項に記載された方法で測定される。融点(Tm)と降温結晶化温度(Tc2)差が40℃以下では、容易に結晶化が進行し、寸法安定性や物性などを十分に発揮することができる。一方、融点(Tm)と昇温結晶化温度(Tc2)差が40℃を超える場合、LED用反射板は射出成形の短いサイクルで成形するため十分に結晶化が進まないことがあり、離型不足等の成形難を引き起こしたり、十分に結晶化が終了していないため、後工程の加熱時に変形や結晶収縮が発生し、封止材やリードフレームから剥離する問題が発生し、信頼性に欠ける。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂の極限粘度(IV)は、0.10〜0.70dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.20〜0.65dl/g、さらに好ましくは0.25〜0.60dl/gである。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂は、高融点や成形性に加え、低吸水性や流動性のバランスに優れ、さらには耐候性に優れる。このため、かかるポリエステル樹脂から得られるポリエステル樹脂組成物は、表面実装型LEDの反射板の成形においては、280℃以上の高融点であるため耐熱性、結晶性(成形性)、耐熱黄変性、耐候性、低吸水性に優れる表面実装型LED用反射板に好適なポリエステル樹脂組成物である。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂は、従来公知の製造方法によって製造することができる。4,4’−ビフェニルジカルボン酸とその他のジカルボン酸からなる酸成分とグリコール成分を直接反応させて、水を留出しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、または、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジメチルとその他のジカルボン酸ジメチルからなる酸成分とグリコール成分を反応させて、メチルアルコールを留出しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂に、酸化チタン、強化材、非繊維状又は非針状充填材を配合して、ポリエステル樹脂組成物とすることにより、表面実装型LED用反射板に好適な材料とすることが出来る。配合することで機械強度や耐候性が向上する傾向にある。
【0040】
酸化チタンは、反射板の表面反射率を高めるために配合されるものであり、例えば硫酸法や塩素法により作製されたルチル型およびアナターゼ型の二酸化チタン(TiO)、一酸化チタン(TiO)、三酸化二チタン(Ti)などが挙げられるが、特にルチル型の二酸化チタン(TiO)が好ましく使用される。酸化チタンの平均粒径は、一般に0.05〜2.0μm、好ましくは0.15〜0.5μmの範囲であり、1種で使用しても良いし、異なる粒径を有する酸化チタンを組み合わせて使用しても良い。酸化チタン成分濃度としては、90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上である。また、酸化チタンは、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、ジルコニア等の金属酸化物、カップリング剤、有機酸、有機多価アルコール、シロキサン等で表面処理を施されたものを使用することができる。
【0041】
酸化チタンの割合は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5〜100質量部、より好ましくは10〜80質量部である。酸化チタンの割合が上記下限未満であると、表面反射率が低下し、上記上限を超えると、物性の大幅な低下や流動性が低下するなど成形加工性が低下するおそれがある。
【0042】
強化材は、ポリエステル樹脂組成物の成形性と成形品の強度を向上するために配合されるものであり、繊維状強化材及び針状強化材から選択される少なくとも1種を使用する。繊維状強化材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、セラミック繊維、金属繊維などが挙げられ、針状強化材としては、例えばチタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、ワラストナイトなどが挙げられる。ガラス繊維としては、0.1mm〜100mmの長さを有するチョップドストランドまたは連続フィラメント繊維を使用することが可能である。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を用いることができる。円形断面ガラス繊維の直径は20μm以下、好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。また、物性面や流動性より非円形断面のガラス繊維が好ましい。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円形、略長円形、略繭形であるものをも含み、偏平度が1.5〜8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは特に限定されるものではないが、短径が1〜20μm、長径2〜100μm程度である。また、ガラス繊維は繊維束となって、繊維長1〜20mm程度に切断されたチョップドストランド状のものが好ましく使用できる。さらには、ポリエステル樹脂組成物の表面反射率を高めるためには、共重合ポリエステル樹脂との屈折率差が大きいことが好ましいため、ガラス組成の変更や表面処理により、屈折率を高めたものを使用することが好ましい。
【0043】
強化材の割合は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは0〜100質量部、より好ましくは5〜100質量部、さらに好ましくは10〜60質量部である。強化材は必須成分ではないが、その割合が5質量部以上であると、成形品の機械的強度が向上して好ましい。強化材の割合が上記上限を超えると、表面反射率、成形加工性が低下する傾向がある。
【0044】
非繊維状又は非針状充填材としては、目的別には強化用フィラーや導電性フィラー、磁性フィラー、難燃フィラー、熱伝導フィラー、熱黄変抑制用フィラーなどが挙げられ、具体的にはガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、シリカ、タルク、カオリン、マイカ、アルミナ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉄、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、赤燐、炭酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫酸バリウム、および針状ではないワラストナイト、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム等が挙げられる。これら充填材は、1種のみの単独使用だけではなく、数種を組み合わせて用いても良い。これらの中では、タルクがTc1を低下させ成形性が向上することから好ましい。充填材の添加量は最適な量を選択すれば良いが、ポリエステル樹脂100質量部に対して最大50質量部を添加することが可能であるが、樹脂組成物の機械的強度の観点から、0.1〜20質量部が好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。また、繊維状強化材、充填材はポリエステル樹脂との親和性を向上させるため、有機処理やカップリング剤処理したものを使用するか、または溶融コンパウンド時にカップリング剤と併用することが好ましく、カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤のいずれを使用しても良いが、その中でも、特にアミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤が好ましい。
【0045】
前記のポリエステル樹脂組成物には、従来のLED反射板用ポリエステル樹脂組成物の各種添加剤を使用することができる。添加剤としては、安定剤、衝撃改良材、難燃剤、離型剤、摺動性改良材、着色剤、蛍光増白剤、可塑剤、結晶核剤、ポリエステル以外の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0046】
上記のポリエステル樹脂組成物は、上述の各構成成分を従来公知の方法で配合することにより製造されることができる。例えば、ポリエステル樹脂の重縮合反応時に各成分を添加したり、ポリエステル樹脂とその他の成分をドライブレンドしたり、または、二軸スクリュー型の押出機を用いて各構成成分を溶融混練する方法を挙げることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0048】
(1)ポリエステル樹脂の極限粘度(IV)
1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノ−ル(2:3重量比)混合溶媒中、30℃での溶液粘度から求めた。
(2)酸価
ポリエステル樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに加熱溶解した後、0.1NのNaOHのメタノール/ベンジルアルコール(1/9容積比)の溶液を使用して滴定して求めた。
(3)ポリエステル樹脂の融点(Tm)および降温結晶化温度(Tc2)
セイコ−電子工業株式会社製の示差熱分析計(DSC)、RDC−220で測定。昇温速度20度C/分で昇温し、330℃で3分間保持したのち、330℃から130℃までを10℃/分で降温した。昇温時に観察される融解ピ−クの頂点温度を融点(Tm)、降温時に観察される結晶化ピ−クの頂点温度を降温結晶化温度(Tc2)とした。
【0049】
(4)成形性および寸法安定性
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は120℃に設定し、フィルムゲートを有する縦100mm、横100mm、厚み1mmtの平板作成用金型を使用し、射出成形を実施した。射出速度50mm/秒、保圧30MPa、射出時間10秒、冷却時間10秒で成型を行い、成形性の良悪は以下のような評価を行った。
○:問題なく成型品が得られる。
△:時々スプルーが金型に残る。
×:離型性が不十分であり、成型品が金型に貼り付いたり変形する。
さらに、得られた成型品の寸法安定性の評価を行うために、上記成型品を180℃で1時間加熱した。加熱前後における、流動方向に垂直な方向の寸法を測定し、寸法変化量は以下のように求めた。
寸法変化量(%)={加熱前の寸法(mm)−加熱後の寸法(mm)}/加熱前の寸法(mm)×100
寸法安定性の良悪は以下のような評価を行った。
〇:寸法変化量が0.2%未満
×:寸法変化量が0.2%以上
【0050】
(5)拡散反射率
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み2mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。この試験片を用いて、日立製作所製の自記分光光度計「U3500」に同社製の積分球を設置し、350nmから800nmの波長の反射率を測定した。反射率の比較には460nmの波長における拡散反射率を求めた。リファレンスには硫酸バリウムを用いた。
【0051】
(6)ハンダ耐熱性
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、長さ127mm、幅12.6mm、厚み0.8mmtのUL燃焼試験用テストピースを射出成形し、試験片を作製した。試験片は85℃、85%RH(相対湿度)の雰囲気中に72時間放置した。試験片はエアリフロー炉中(エイテック製 AIS−20−82C)、室温から150℃まで60秒かけて昇温させ予備加熱を行った後、190℃まで0.5℃/分の昇温速度でプレヒートを実施した。その後、100℃/分の速度で所定の設定温度まで昇温し、所定の温度で10秒間保持した後、冷却を行った。設定温度は240℃から5℃おきに増加させ、表面の膨れや変形が発生しなかった最高の設定温度をリフロー耐熱温度とし、ハンダ耐熱性の指標として用いた。
◎:リフロー耐熱温度が280℃以上
○:リフロー耐熱温度が260℃以上280℃未満
×:リフロー耐熱温度が260℃未満
【0052】
(7)飽和吸水率
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み1mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。この試験片を80℃熱水中に50時間浸漬させ、飽和吸水時及び乾燥時の重量から以下の式より飽和吸水率を求めた。
飽和吸水率(%)={(飽和吸水時の重量−乾燥時の重量)/乾燥時の重量}×100
【0053】
(8)流動性
東芝機械製射出成形機IS−100を用い、シリンダー温度は330℃、金型温度は120℃に設定し、射出圧設定値40%、射出速度設定値40%、計量35mm、射出時間6秒、冷却時間10秒の条件で、幅1mm、厚み0.5mmの流動長測定用金型で射出成形し、評価用試験片を作製した。流動性の評価として、この試験片の流動長さ(mm)を測定した。
【0054】
(9)シリコーン密着性
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み2mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。この試験片の片面に、シリコーン封止材(信越シリコーン社製、ASP−1110、封止材硬度D60)をコーティング厚み約100μmになるようにコーティングし、100℃×1時間のプレヒーティング後、150℃×4時間の硬化処理をして試験片の片面に封止材皮膜を形成させた。
次いで、試験片上の封止材皮膜に対して、JIS K5400に基づく碁盤目試験(1mm幅クロスカット100マス)で密着性を評価した。
○:剥離マス目数10以下
×:剥離試験前のマス目形成時に剥離あり
【0055】
(10)耐光性
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み2mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。この試験片について、超促進耐候試験機「アイスーパーUVテスターSUV−F11」を用い、63℃50%RHの環境下、50mW/cmの照度でUV照射を実施した。試験片の波長460nmの光反射率を、照射前と照射60時間後に測定した。照射前試験片の光反射率に対する、照射後試験片の光反射率の保持率を下記の基準で評価した。
○:保持率90%以上
△:保持率90%未満〜85%以上
×:保持率85%未満
【0056】
(11)耐熱黄変性
東芝機械製射出成形機EC−100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み2mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。この試験片を用いて、熱風乾燥機にて150℃で2時間処理して、目視にて黄変性を確認した。
○:変化なし
△:若干黄変する
×:黄変する
【0057】
<合成例1>
攪拌機付き20リッターステンレス製オートクレーブに、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジメチルを3542g、高純度ジメチルテレフタル酸を1409g、酸成分の3倍モル量のエチレングリコール、酢酸マンガン2g、二酸化ゲルマニウム0.86gを仕込みエステル交換後、60分間かけて300℃まで昇温しつつ、反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(0.1Torr)として、さらに310℃、13.3Paで重縮合反応を実施した。放圧に続き、微加圧下のレジンを水中にストランド状に吐出して冷却後、カッターで切断して長さ約3mm、直径約2mmのシリンダー形状のペレットを得た。得られたポリエステルの極限粘度は、0.60dl/g、樹脂組成は、H−NMR測定により、4,4’−ビフェニルジカルボン酸が65モル%、テレフタル酸が35モル%、エチレングリコールが98.2モル%、ジエチレングリコールが1.8モル%であった。得られたポリエステル樹脂の特性値などを表1に示す。
【0058】
(合成例2〜7)
使用する原料の量や種類を変更する以外は、合成例1のポリエステル樹脂の重合と同様にして、各ポリエステル樹脂を得た。得られた各ポリエステル樹脂の特性値などを表1に示す。なお、ジエチレングリコールは、エチレングリコールが縮合して副生したものである。
(合成例8)
攪拌機付き20リッターステンレス製オートクレーブに、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジメチルを3542g、高純度ジメチルテレフタル酸を1400g、酸成分の3倍モル量のエチレングリコール、酢酸マンガン2g、二酸化ゲルマニウム0.86gを仕込みエステル交換後、高純度テレフタル酸を8g添加して、60分間かけて300℃まで昇温後しつつ、反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(0.1Torr)として、さらに310℃、13.3Paで重縮合反応を実施した。放圧に続き、微加圧下のレジンを水中にストランド状に吐出して冷却後、カッターで切断して長さ約3mm、直径約2mmのシリンダー形状のペレットを得た。得られたポリエステルの極限粘度は、0.60dl/g、樹脂組成は、H−NMR測定により、4,4’−ビフェニルジカルボン酸が65モル%、テレフタル酸が35モル%、エチレングリコールが98.2モル%、ジエチレングリコールが1.8モル%であった。得られたポリエステル樹脂の特性値などを表1に示す。
【0059】
(比較合成例1)
攪拌機付き20リッターステンレス製オートクレーブに、高純度テレフタル酸とその2倍モル量のエチレングリコールを仕込み、トリエチルアミンを酸成分に対して0.3モル%加え、0.25MPaの加圧下250℃にて水を系外に留去しながらエステル化反応を行い、エステル化率が約95%のビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物(以下BHET混合物という)を得た。このBHET混合物に重合触媒として、二酸化ゲルマニウム(Geとして100ppm)を加え、次いで、窒素雰囲気下、常圧にて250℃で10分間攪拌した。その後、60分間かけて280℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(0.1Torr)として、さらに280℃、13.3Paで重縮合反応を実施した。放圧に続き、微加圧下のレジンを水中にストランド状に吐出して冷却後、カッターで切断して長さ約3mm、直径約2mmのシリンダー形状のペレットを得た。得られたPETのIVは0.61dl/gで、樹脂組成は、H−NMR測定により、テレフタル酸が100モル%、エチレングリコールが98.0モル%、ジエチレングリコールが2.0モル%であった。得られたポリエステル樹脂の特性値などを表2に示す。
【0060】
(比較合成例2〜4)
使用する原料の種類を変更する以外は、比較合成例1のポリエステル樹脂の重合と同様にして、各ポリエステル樹脂を得た。得られた各ポリエステル樹脂の特性値などを表2に示す。
【0061】
(比較合成例5:ポリアミド樹脂)
テレフタル酸3272.9g(19.70モル)、1,9−ノナンジアミン2849.2g(18.0モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン316.58g(2.0モル)、安息香酸73.27g(0.60モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物6.5g(原料に対して0.1重量%)および蒸留水6リットルを内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間撹拌し、2時間かけて内部温度を210℃に昇温した。この時、オートクレーブは22kg/cmまで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を22kg/cmに保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を10kg/cmまで下げ、更に1時間反応させて、極限粘度[η]が0.25dl/gのプレポリマーを得た。これを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の大きさまで粉砕した。これを230℃、0.1mmHg下にて、10時間固相重合し、融点が310℃、極限粘度[η]が1.33dl/g、末端の封止率が90%である白色のポリアミドを得た。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
(実施例1〜8、比較例1〜5)以下、実施例6、実施例8は、参考例である。
上記合成例、比較合成例で得たポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂を用い、表3、4に記載の成分と質量割合で、コペリオン(株)製二軸押出機STS−35を用いて、樹脂の融点+15℃で溶融混練し、評価用の樹脂組成物を得た。表3、4中、樹脂以外の使用材料は以下の通りである。
酸化チタン:石原産業(株)製 タイペークCR−60、ルチル型TiO2、平均粒径0.2μm
強化材:ガラス繊維(日東紡績(株)製、CS−3J−324)
離型剤:ステアリン酸マグネシウム
安定剤:ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャリティーケミカルズ製、イルガノックス1010)
【0065】
実施例1〜8、比較例1〜5で得られたポリエステル樹脂組成物、ポリアミド樹脂組成物を各種特性の評価に供した。その結果を表3、4に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
表1及び3から、ポリエステル樹脂のDSCによる融点が280℃以上の場合は、リフローハンダ工程に適応可能であり、さらに融点が310℃を超える場合は、リフロー耐熱温度が280℃以上であることから、金/錫共晶ハンダ工程にも適応可能なハンダ耐熱性を示すとともに、LED用途で重要な特性である封止材との密着性、表面反射率に優れ、さらには成形性、流動性、寸法安定性、低吸水性、耐光性にも優れるという、格別な効果が確認できた。一方、表2及び4から、比較例では、これら特性を全て満足させることはできなかった。比較例5のポリアミド樹脂は高融点であるが、アミド構造に起因する吸水性のため、リフロー耐熱温度が280℃以上を満足できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のポリエステル樹脂は、表面実装型LED用反射板に使用する材料に用いた場合、高い耐熱性、低い吸水性に加えて、射出成形時の成形性やハンダ耐熱性など加工性に優れているので、必要な特性を高度に満足しながら、表面実装型LED反射板を工業的に有利に製造することができる。