(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0015】
(無線通信システムの構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る多層式の無線通信システムの全体構成を示す模式図である。
図1に示すように、無線通信システム100は、無線端末を成す親機10、中継機20、及び子機30を備えており、親機10及び子機30を夫々最上位及び最下位とする通信ルートが構築されている。そして、中継機20は、親機10と子機30との間の距離が長い場合や、親機10と子機30との間の障害物などにより、両端末の間で良好な通信環境を構築できない場合などに、両端末の間に適宜数が介在して設置される。このような無線通信システム100では、親機10から子機30へ至る通信ルート上の各端末が、自機の直上の端末からビーコン信号を受信することにより、互いに同期をとっている(詳細は後述)。
【0016】
なお、
図1に示す例では、最多で4つの階層から成る通信ルートを示している。即ち、
図1中の親機10は第1の階層に位置し、該親機10に対して直接通信する中継機20及び子機30は第2の階層に位置し、第2の階層にある中継機20に対して直接通信する中継機20及び子機30は第3の階層に位置し、第3の階層にある中継機20に対して直接通信する中継機20及び子機30は第4の階層に位置している。そして、親機10は「上位機」(最上位機)であり、子機30は「下位機」(最下位機)である。また、第2の階層に位置する中継機20は、第1の階層の親機10と第3の階層の中継機20又は子機30との間に位置することから「中位機」であると共に、第1の階層の親機10に対しては「下位機」であり、第3の階層の中継機20又は子機30に対しては「上位機」である。また、第3の階層に位置する中継機20も同様に、「中位機」であると共に、見方を変えれば「下位機」又は「上位機」でもある。
【0017】
図2は、
図1に示す各端末の機能的構成を示すブロック図である。この
図2に示すように、親機10は、アンテナ11、送受信部12、制御部13、ビーコン送受信部14、及び計時部15を少なくとも備えている。このうちアンテナ11は、所定帯域の電波を送受信できるものであれば特に構成は限定されず、公知のアンテナを用いることができる。送受信部12は、アンテナ11を介して空中へ電波を送信したり、空中を伝わってきた電波をアンテナ11を介して受信したりする。そのために、送信用のデータを所定帯域の無線信号に変調したり、受信した無線信号を復調したりする、無線送受信回路(例えば、RF回路など)として構成されている。
【0018】
制御部13は、MPU(Micro-Processing Unit)などで構成され、親機10の各種の動作を制御する。ビーコン送受信部14は、制御部13からの指示に基づいて、他の無線端末(中継機20や子機30)に対してビーコン信号を送信し、また、他の無線端末から送信されたビーコン信号を受信する。計時部15は、水晶振動子などを有する内部時計を備えており、現在時刻を計ったり、ある時点から他のある時点までの経過時間を計測したりすることができ、制御部13からの指示に従って、時刻や計測時間を制御部13へ出力する。
【0019】
中継機20は、アンテナ21、送受信部22、制御部23、ビーコン送受信部24、計時部25、解析部26、及び同期補正部27を少なくとも備えている。このうち、アンテナ21、送受信部22、制御部23、ビーコン送受信部24、及び計時部25は、親機10のアンテナ11、送受信部12、制御部13、ビーコン送受信部14、及び計時部15と同様の機能及び構成を備えている。一方、中継機20が備える解析部26は、上位機(親機10又は上位の中継機20)からのビーコン信号に基づき、自機の内部時計と上位機の内部時計とのズレを補正するのに必要な情報を算出する。また、同期補正部27は、解析部26が算出した情報に基づき、必要に応じて自機の内部時計の時間軸を補正する。
【0020】
子機30は、アンテナ31、送受信部32、制御部33、ビーコン送受信部34、計時部35、解析部36、及び同期補正部37を少なくとも備えている。但し、これらの機能及び構成は、中継機20のアンテナ21、送受信部22、制御部23、ビーコン送受信部24、計時部25、解析部26、及び同期補正部27と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0021】
図3は、無線通信システム100で行われる通信例として、ポーリング(polling)通信を例示すると共に、当該無線通信システム100で送受信されるビーコン信号の構成例を示している。この
図3に示すポーリング通信では、はじめに親機10から子機30へ向けて要求信号(ポーリング信号)が送信される。即ち、親機10は下り用の第1ビーコン信号を送信し、その所定時間後に要求信号を送信する。一方、親機10と直接通信する中継機20(中継機20-1)は、第1ビーコン信号と要求信号とを順次受信する。また、第1ビーコン信号を受信してから要求信号を受信するまでの間に、第1ビーコン信号に基づいて自機の時間軸を補正し、親機10との同期をとる。そして中継機20-1は、要求信号を受信した後のタイミングで、下位の中継機20(中継機20-2)へ第1ビーコン信号を送信し、その所定時間後に要求信号を送信(中継)する。
【0022】
以下、これに続く中継機20は何れも、上位機から第1ビーコン信号を受信すると自機の時間軸を補正して上位機との同期をとり、その後に要求信号を受信する。続いて、下位機に対して第1ビーコン信号を送信すると共に、その所定時間後に要求信号を送信(中継)する。これにより、親機10から子機30へ至る通信ルート上の全ての無線端末において、同期がとれることとなる。
【0023】
一方、子機30において要求信号の受信を完了すると、当該子機30から親機10へ向けて応答信号が返信される。即ち、子機30は上位機に対して上り用の第2ビーコン信号を送信すると共に応答信号を送信する。以下、第2ビーコン信号及び応答信号を受信した中継機20は、自機の上位機に対して同様に第2ビーコン信号及び応答信号を送信する。そして、親機10に応答信号が到達することで、ポーリング通信は完結する。
【0024】
上記のポーリング通信では、下りで使われる第1ビーコン信号を用いて、これを受信した端末が同期補正を行う。この第1ビーコン信号の構成について簡単に説明しておく。
図3に示すように、第1ビーコン信号は、先頭に位置するプリアンブル(Pa)と、その後に位置するフレーム開始デリミタ(SFD:Start Frame Delimiter)と、から成る同期ヘッダ(SHR)を有している。また、該同期ヘッダの後には物理層ヘッダ(PHR)を有し、該物理層ヘッダの後にはビーコン信号の本体データであるペイロード(PHY payload)を有している。
【0025】
(同期補正の態様)
次に、無線通信システム100において、上位機に対して下位機が同期補正する具体的態様について、
図4〜
図6を参照しつつ説明する。なお、
図4〜
図6では、親機10(上位機)に対して中継機20(下位機)が同期補正する場合を示している。また、
図4は、中継機20が起動した後、はじめて親機10と同期をとる場合を示している。
図5は、
図4に示す同期補正の次のタイミングで実行される同期補正として、時間軸を遅らせる補正の態様を示している。
図6は、
図5に示す同期補正の次のタイミングで実行される同期補正として、時間軸を進める補正の態様を示している。以下、
図4〜
図6の補正態様について順次説明する。
【0026】
(1)初回の同期補正
はじめに、
図4に示す同期補正の態様について説明する。親機10と中継機20との間で一度も同期がとられていない場合、親機10及び中継機20は夫々固有の時間軸に従って計時している。但し、何れの無線端末においても、設置の際などに標準電波を受信するなどして時刻合わせは行われている。従って、各無線端末の固有の時間軸は、大幅にズレが生じているわけではなく、各無線端末の内部時計が有する絶対精度に起因する誤差分だけ、ズレを含んでいる可能性がある。以下では、中継機20の内部時計の絶対精度に起因する最大の誤差時間を「絶対誤差時間TPx」と称する。
【0027】
一方、中継機20は、親機10から送信されるビーコン信号内に定点を設定する。この定点は、ビーコン信号の先頭からのデータ長が固定の箇所であればよく、本実施の形態では一例として同期ヘッダ(SHR)の終端を定点としている(
図3参照)。従って、中継機20は、同期ヘッダ(SHR)の受信完了に基づいて、ビーコン信号中の定点を受信した時点を特定することができる。
【0028】
また、中継機20には、上位機である親機10がビーコン信号の送信を開始する時刻や時間間隔についての情報が予め記憶されている。従って、中継機20は、親機10との間で同期がとられていない状態であっても、親機10がビーコン信号の送信を開始する凡その時刻を取得することができる。そこで中継機20は、このビーコン信号を受信するべく、親機10によるビーコン信号の送信開始の予測時刻に先だって、受信準備を開始する。
【0029】
ここで、受信準備を必要以上に早めに開始すると、受信可能状態になってから実際にビーコン信号を受信するまでの余剰時間が長くなり、消費電力が大きくなる。他方で、受信準備の開始が遅くなりすぎると、受信可能状態になる前にビーコン信号が到達してしまって、適切にこれを受信できなくなる可能性がある。そこで本実施の形態に係る無線通信システム100では、親機10がビーコン信号を送信する予測時刻t0から、必要且つ十分な時間だけ遡った時刻t1に、中継機20が受信準備を開始することとしている。
【0030】
より具体的に説明すると、中継機20は、親機10がビーコン信号の送信を開始する予測時刻t0を取得する(step 10)。そして、この予測時刻t0から、受信準備時間TPa及び絶対誤差時間TPxを合わせた時間だけ遡った時刻t1に、受信準備を開始する(step 11)。換言すれば、中継機20は、親機10のビーコン信号中の定点を受信する予測時間t2から、同期ヘッダ受信時間TPb、受信準備時間TPa、及び絶対誤差時間TPxを合わせた時間だけ遡った時刻t1に、受信準備を開始する。
【0031】
なお、絶対誤差時間TPxは、例えば、親機10のビーコン信号の送信周期(数秒など)と、中継機20の計時部25内の水晶振動子の絶対精度(ppm)と、に基づいて取得することができる。そのため、中継機20には、予め親機10のビーコン信号送信周期と、自機内の水晶振動子の絶対精度に関する情報とを記憶しておけばよい。
【0032】
また、上記の受信準備時間TPaとは、中継機20がスリープ状態から受信可能状態へ移行する受信準備に要する時間である。また、同期ヘッダ受信時間TPbとは、中継機20がビーコン信号の同期ヘッダ(Pa+SFD)を受信するのに要する時間であり、換言すればビーコン信号の同期ヘッダの時間長と同義である。また、
図4から分かるように、受信準備時間TPaと同期ヘッダ受信時間TPbと絶対誤差時間TPxとを合わせた時間は、受信準備開始時刻t1を基準に見れば、ビーコン信号の定点を受信すると予測される時刻t2までの、予測時間である。そこで、以下では便宜上、受信準備開始時刻t1から定点を受信する予測時刻t2までの時間を「予測時間TPg」と表現する。
【0033】
中継機20は、このようにして設定した時刻t1に受信準備を開始すると共に、時刻t1からの経過時間を計測する。次に、実際に親機10からのビーコン信号(
図4では、ビーコン信号NO.1)を受信し始めると、その中の定点の受信時刻を取得する(step 12)。即ち、同期ヘッダの受信完了時点を検出し、その時刻をもって定点の実際の受信時刻t3とする。そして、時刻t1から時刻t3までの経過時間を算出する(step 13)。この経過時間は、中継機20が受信準備を開始してから、ビーコン信号の定点を実際に受信するまでの時間であり、上記予測時間TPgと比較するため、以下では「実測時間TPm」と表現する。
【0034】
ここで、定点を受信する予測時刻t2と実際の受信時刻t3とが一致する可能性は高くない。即ち、上述した説明からも分かるように、親機10と中継機20とは同期がとられていないため、絶対誤差時間TPxを最大とする時間のズレが生じる可能性がある。従って、親機10と中継機20とで時間軸にズレが存在し、時刻t2と時刻t3とが一致しない場合、そのズレ時間は、予測時間TPgと実測時間TPmとの差(以下、「実測誤差ΔTP」)として表れる。換言すれば、実測誤差ΔTPを検出すれば(step 14)、親機10の時間軸と中継機20の時間軸とのズレ時間を取得することができる。
【0035】
図4に示す例では、中継機20の時間軸を基準とすると、定点の実際の受信時刻は、予想時刻t2よりも遅れた時刻t3である。従って、実測時間TPmは予測時間TPgよりも大きく、ΔTP1=TPm−TPgで表される実測誤差ΔTP1が取得される(step 14)。そして、このようにTPm>TPgの場合は、中継機20の時間軸が親機10の時間軸よりもΔTP1だけ進んでいると判断することができる(step 15)。従って、中継機20は、今回取得した実測誤差ΔTP1を補正量ΔA1と認定し(step 16)、自機の時間軸を、自機固有の時間軸(初期設定時の時間軸)に対してΔA1だけ遅らせるよう補正する(step 17)。これにより、親機10と中継機20とは、絶対精度に起因する誤差分を解消するという意味で、同期がとられたこととなる。
【0036】
(2)2回目以降の同期補正(進んでいる場合)
ところで、上述したように同期補正を行った場合であっても、その後、親機10と中継機20との間で依然として時間のズレが生じる可能性がある。その要因の1つは、親機10や中継機20が設置された環境の温度変化である。即ち、親機10、中継機20、及び子機30が備える計時部15, 25, 35は、水晶振動子や他の回路素子を有しており、これらの特性が周囲の環境温度に伴って変化する。しかも、その変化の割合は、各端末に実装された水晶振動子や回路素子の固有値となる。そのため、一旦、同期補正を行った後であっても、周囲の環境温度に変化が生じると、それに伴って端末間の時間軸にズレが生じる可能性がある。そこで本システム100では、
図5又は
図6に示すようにして、2回目以降の同期補正を行うこととしている。
【0037】
まず、
図5に示す同期補正の態様について説明する。
図5に示す例では、環境温度に起因して、親機10に対して中継機20の時間軸が進んだ場合に、中継機20の時間軸を補正して親機10に同期させる態様を示している。
【0038】
中継機20は、直前に同期補正された自機の時間軸を基準として、親機10がビーコン信号の送信を開始する予測時刻t0を取得する(step 20)。次に、この予想時刻t0から、受信準備時間TPa及び環境誤差時間TPyを合わせた時間だけ遡った時刻t1に、受信準備を開始する(step 21)。ここで、環境誤差時間TPyは、上述した環境温度の変化に起因する誤差時間であり、中継機20の温度変化に関する精度(ppm)の情報を記憶しておけば、この情報と前回の同期補正からの経過時間(即ち、親機10からのビーコン信号の送信周期)とから、取得することができる。
【0039】
中継機20は、このようにして設定した時刻t1に受信準備を開始すると共に、時刻t1からの経過時間を計測する。次に、実際に親機10からのビーコン信号(
図5では、ビーコン信号NO.2)を受信し始めると、その中の定点の受信時刻t3を取得する(step 22)。そして、時刻t1から時刻t3までの経過時間である実測時間TPmを算出し(step 23)、予測時間TPgとの差である実測誤差ΔTPを取得する(step 24)。なお、
図5に示すように、2回目以降の同期補正においても、予測時間TPgは時刻t1から時刻t3までの時間であるが、その内容は1回目の同期補正とは異なり、受信準備時間TPa、同期ヘッダ受信時間TPb、及び環境誤差時間TPyを合わせた時間になっている(後述の
図6でも同様)。
【0040】
図5に示す例では、中継機20の時間軸(前回の動機補正後の時間軸)を基準とすると、定点の実際の受信時刻は、予想時刻t2よりも遅れた時刻t3である。従って、実測時間TPmは予測時間TPgよりも大きく、ΔTP2=TPm−TPgで表される実測誤差ΔTP2が取得される(step 24)。そして、このようにTPm>TPgの場合は、中継機20の時間軸が親機10の時間軸よりもΔTP2だけ進んでいると判断することができる(step 25)。従って、中継機20は、今回取得した実測誤差ΔTP2と過去の実測誤差ΔTPの履歴に基づき、補正量ΔA2を認定する。具体的には、今回取得した実測誤差ΔTP2を、前回の補正量ΔA1に加算したものを、今回の補正量ΔA2に認定する(step 26)。そして、自機の時間軸を、自機固有の時間軸(初期設定時の時間軸)に対してΔA2だけ遅らせるよう補正する(step 27)。これにより、親機10と中継機20とは、環境温度の変化に起因する誤差分を解消するという意味で、同期がとられたこととなる。
【0041】
(3)2回目以降の同期補正(遅れている場合)
次に、
図6に示す同期補正の態様について説明する。
図6に示す例では、環境温度に起因して、親機10に対して中継機20の時間軸が遅れた場合に、中継機20の時間軸を補正して親機10に同期させる態様を示している。
【0042】
中継機20は、直前に同期補正された自機の時間軸を基準として、親機10がビーコン信号の送信を開始する予測時刻t0を取得する(step 30)。次に、この予想時刻t0から、受信準備時間TPa及び環境誤差時間TPyを合わせた時間だけ遡った時刻t1に、受信準備を開始する(step 31)。
【0043】
中継機20は、このようにして設定した時刻t1に受信準備を開始すると共に、時刻t1からの経過時間を計測する。次に、実際に親機10からのビーコン信号(
図6では、ビーコン信号NO.3)を受信し始めると、その中の定点の受信時刻t3を取得する(step 32)。そして、時刻t1から時刻t3までの経過時間である実測時間TPmを算出し(step 33)、予測時間TPgとの差である実測誤差ΔTPを取得する(step 34)。
【0044】
図6に示す例では、中継機20の時間軸(前回の動機補正後の時間軸)を基準とすると、定点の実際の受信時刻は、予想時刻t2よりも早い時刻t3である。従って、実測時間TPmは予測時間TPgよりも小さく、ΔTP2=TPg−TPmで表される実測誤差ΔTP2が取得される(step 34)。そして、このようにTPm<TPgの場合は、中継機20の時間軸が親機10の時間軸よりもΔTP2だけ遅れていると判断することができる(step 35)。従って、中継機20は、今回取得した実測誤差ΔTP3と過去の実測誤差ΔTPの履歴に基づき、補正量ΔA3を認定する。具体的には、今回取得した実測誤差ΔTP3を、前回の補正量ΔA2から減算したものを、今回の補正量ΔA3に認定する(step 36)。
【0045】
そして、補正量ΔA3>0であれば、自機の時間軸を、自機固有の時間軸(初期設定時の時間軸)に対してΔA3だけ遅らせるよう補正する(step 37-1)。一方、補正量ΔA3<0であれば、自機の時間軸を、自機固有の時間軸(初期設定時の時間軸)に対してΔA3の絶対値分だけ進めるよう補正する(step 37-2)。これにより、親機10と中継機20とは、環境温度の変化に起因する誤差分を解消するという意味で、同期がとられたこととなる。
【0046】
以上に説明したように、親機10と中継器20との間で上述したような同期補正を行うことにより、両端末の内部時計の同期をとることができる。そして
図3に示すように、同期補正を終えた中継機20が、自機から見た下位機へビーコン信号を送信し、これを受信した下位の中継機20又は子機30も、上述したのと同様の態様により、上位機との同期をとることができる。従って、親機10から子機30へ至る全ての端末間において、時間の同期をとることができる。しかも、初回の同期補正においては絶対誤差時間TPxを考慮して受信準備開始時刻t1を決定し、2回目以降においては環境誤差時間TPyを考慮して受信準備開始時刻t1を決定している。従って、ビーコン信号の受信待ち状態の短縮化により、余分な電力消費を抑制でき、バッテリーの消耗を抑制することができる。
【0047】
(ビーコン信号の衝突回避)
ところで、無線通信システム100において、1つの下位機に対して複数の上位機が通信可能に設置されている場合がある。このような場合、複数の上位機が同時にビーコン信号を送信すると、これらの信号が衝突し、下位機においてこれらのビーコン信号を受信できなくなる。そのような事態を回避するため、本実施の形態に係る無線通信システム100は、上位機から下位機へのビーコン信号の送信タイミングを、所定の時間範囲内でランダムに決定している。以下、このビーコン信号の衝突回避に関する構成について説明する。
【0048】
図7は、各端末の通信用キャリア(チャンネル)のフレーム構成を示す図面であり、本実施の形態では、スーパーフレームを採用している。
図7に示すように、このスーパーフレームはビーコン信号とビーコン信号とで区切られたフレームであり、本実施の形態ではこれを32等分して、同一時間長Tを有する第1〜第32スロットを形成している。更に、各スロットを16等分して、同一時間長の16個のスロットを形成している。
図7に示すように、例えば第2スロットは、第2-0〜第2-14スロット及びガードスロット(GS)の計16個のスロットを有している。一方、スーパーフレームのうち、第1スロットの第1-0〜第1-14スロットまで、即ち、第1スロットにおいてガードスロットを除く部分は、競争アクセス期間(CAP:contention access period)に設定されている。また、スーパーフレームのうち競争アクセス期間以外の部分は非活動期間(inactive period)に設定されている。
【0049】
図8は、衝突回避のためのビーコン信号の送信タイミングの設定態様を示すタイミングチャートである。ここでは、親機10がビーコン信号を送信した後、その下位の中継機20-1と更にその下位の中継機20-2とが、ビーコン信号を送信するタイミングを順次決定していく態様を示している。
【0050】
この
図8に示すように、親機10がビーコン信号を送信すると、中継機20-1がこれを受信する。該中継機20-1は、親機10からのビーコン信号の受信時点から、時間長Tとランダムな遅延時間τ1とを加算した時間(T+τ1)を経過した時点で、下位機である中継機20-2へビーコン信号を送信する。このビーコン信号には、今回の送信に際して用いた遅延時間τ1に関する情報と、次回の送信に際して用いる遅延時間τ1に関する情報とが含まれている。
【0051】
なお、この遅延時間τ1は、時間長Tより短い所定範囲の時間長として中継機20-1にて設定されたものであり、ビーコン信号の送信毎に変更可能である。本実施の形態では、0<τ1<Tb(=T/8)に設定されている。従って、親機10の時間軸を基準とすれば、中継機20-1は、親機10がビーコン信号を送信した後、親機10の第2-0スロットの先頭時刻から第2-1スロットの終端時刻までの間に、中継機20-2へビーコン信号を送信することとなる(
図8参照)。
【0052】
次に、中継機20-2は、上位機である中継機20-1からのビーコン信号を受信すると、該ビーコン信号に含まれる遅延時間τ1に関する情報を取得する。そして、ビーコン信号の受信時点から、時間長Tとランダムな遅延時間τ2とを加算し且つ上記遅延時間τ1を減算した時間(T−τ1+τ2)を経過した時点で、更に下位機へ向けてビーコン信号を送信する。このビーコン信号にも、今回の送信に際して用いた遅延時間τ2に関する情報と、次回の送信に際して用いる遅延時間τ2に関する情報とが含まれている。
【0053】
なお、この遅延時間τ2も、時間長Tより短い所定範囲の時間長として中継機20-2にて設定されたものであり、ビーコン信号の送信毎に変更可能である。本実施の形態では、0<τ2<Tbに設定されている。従って、親機10の時間軸を基準とすれば、中継機20-2は、親機10がビーコン信号を送信した後、親機10の第3-0スロットの先頭時刻から第3-1スロットの終端時刻までの間に、下位機へ向けてビーコン信号を送信することとなる(
図8参照)。
【0054】
以上に説明したような構成とすることにより、各中継機20のビーコン信号の送信タイミングが、所定範囲内でランダムになるため、複数の上位機から同一下位機へ向けて、同時にビーコン信号が送信されるのを回避することができる。しかも、親機10から見てN階層下位に位置する中継機20-Nは、親機10の第N+1スロット内にてビーコン信号を送信することとなる。従って、階層数が多いシステムであっても、親機10から子機30に至る全ての端末の同期補正を、早期に完了することができる。
【0055】
なお、例えば
図3に示すポーリング通信では、親機10から子機30へ向けて要求信号を送信し、その後、子機30から親機10へ向けて応答信号が送信される。また、これに伴って、下りの第1ビーコン信号が送信され、その後、上りの第2ビーコン信号が送信される。ここで、本実施の形態では、中継機20-Nによる第2ビーコン信号の送信タイミングを、自機の第1ビーコン信号の送信タイミングから、{(30−N×2)×T}時間後としている。例えば、中継機20-1の場合であれば、第1ビーコン信号の送信タイミング(親機10の第2スロット)から、28T時間後(親機10の第30スロット)に第2ビーコン信号を送信する。従って、親機10が第1ビーコン信号を送信したのと同一のスーパーフレーム内で、親機10は下位機からの第2ビーコン信号を受信することができる。