(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記血管位置認識部は、前記虹彩領域の外縁に沿って設けられた、前記白目領域を含む検出領域内に存在する一つ以上の血管の端点を検出し、検出した各血管の端点に対して当該端点を含むマッチングエリアを設定し、前記マッチングエリアの画像と、それに対応する血管の前記基準状態における所定サイズのテンプレート画像との類似度を計算し、該類似度が最大となる端点の位置情報を、前記所定の血管の位置に関する前記第1の情報として取得する
請求項10に記載の眼球回旋測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る各種実施形態について説明する。しかしながら、その前に、例えば、上記非特許文献1で提案されているような、虹彩の濃淡パターン、すなわち、虹彩紋理と呼ばれる放射状の模様を認識することによって眼球回旋を計測する手法において、発生し得る課題について説明する。
【0013】
虹彩の濃淡パターン(虹彩紋理)は、例えば、次のような特徴を有する。虹彩の濃淡パターンのコントラストが低い。瞳孔の縮小散大に伴って虹彩紋理の位置が移動する。瞳孔が散大すると、コントラストが比較的高い虹彩領域の中心部分が消失する。瞳孔が散大しても消失しない虹彩領域の外縁では、コントラストが低いので、十分な眼球回旋角度の分解能(精度)が得られない場合が多い。
【0014】
上述の各種特徴から、虹彩の濃淡パターンを用いた眼球回旋の計測手法では、眼球の瞳孔径が大きく変化すると、誤差が増加したり、計測そのものが不能になったりする場合がある。そこで、本発明では、眼球の瞳孔径が大きく変化しても、眼球回旋を精度良く計測可能な眼球回旋測定技術を提供する。
【0015】
<1.第1の実施形態>
まず、本発明の第1の実施形態に係る眼球回旋測定装置、眼球回旋測定方法、及び、眼球回旋測定プログラムについて説明する。
【0016】
[ハードウェア構成]
図1は、第1の実施形態に係る眼球回旋測定装置1のハードウェア構成図である。眼球回旋測定装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)10と、ドライブ装置12と、補助記憶装置16と、メモリ装置18と、インターフェース装置20と、入力装置22と、ディスプレイ装置24と、画像入力インターフェース26とを備える。これらの構成要素は、バスやシリアル回線等を介して互いに接続される。
【0017】
CPU10は、例えば、プログラムカウンタ、命令デコーダ、各種演算器、LSU(Load Store Unit)、汎用レジスタ等を有する演算処理装置で構成される。
【0018】
ドライブ装置12は、その内部に装着された記憶媒体14からプログラムやデータなどを読み込む装置である。なお、本実施形態では、記憶媒体14は、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の可搬型の記憶媒体である。また、補助記憶装置16は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどで構成される。
【0019】
本実施形態において、プログラムが記録された記憶媒体14がドライブ装置12に装着された場合には、該プログラムは、記憶媒体14からドライブ装置12を介して補助記憶装置16にインストールされる。なお、プログラムのインストール手法は、この例に限定されない。例えば、インターフェース装置20が、ネットワークを介して他のコンピュータからプログラムをダウンロードし、該ダウンロードしたプログラムを補助記憶装置16にインストールしてもよい。なお、ネットワークは、インターネット、LAN(Local Area Network)、無線ネットワーク等で構成される。また、例えば、プログラムが、眼球回旋測定装置1の出荷時に、補助記憶装置16や図示しないROM(Read Only Memory)等に予め格納(実装)されていてもよい。
【0020】
上述のようにしてインストールされた各種プログラム、又は、予め格納された各種プログラムをCPU10が実行することにより、本実施形態の眼球回旋測定装置1における後述の各種機能(各種処理)が実現される。
【0021】
メモリ装置18は、例えば、RAM(Random Access Memory)やEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)などの記憶装置で構成される。また、インターフェース装置20は、上述した各種ネットワーク等に接続され、該ネットワークを介して、外部の各種装置に対して所定のデータやプログラムなどの入出力動作を行う。
【0022】
入力装置22は、例えば、キーボード、マウス、ボタン、タッチパッド、タッチパネル、マイク等の各種入力操作装置で構成される。また、ディスプレイ装置24は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等の表示装置で構成される。なお、眼球回旋測定装置1は、ディスプレイ装置24以外では、例えば、プリンタ、スピーカ等の各種出力装置を備えていてもよい。
【0023】
画像入力インターフェース26は、カメラ30に接続される。そして、画像入力インターフェース26は、カメラ30から入力された画像データを、メモリ装置18や補助記憶装置16に出力する。
【0024】
カメラ30は、例えばCCD(Charge Coupled Device)カメラやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等の撮像装置であり、撮影された画像のデータを画像入力インターフェース26に出力する。なお、画像は、静止画像であってもよいし、動画像であってもよい。
【0025】
本実施形態では、カメラ30により、被験体の眼球を撮影する。この際、赤外線LED(Light Emitting Diode)32及び青色LED34のそれぞれから射出された光が眼球に照射される。赤外線LED32は、瞳孔を強調するため及び虹彩の濃淡パターンを精度よく撮像するため、赤外線を眼球に照射する。また、青色LED34は、眼球内の結膜血管(以下、単に血管という)のコントラストを高めるため、眼球の白目領域(強膜及び結膜を含む領域)に青色光を照射する。青色LED34の照射範囲を眼球の白目領域に絞ることにより、眼球の撮影時に被験体に与える負担を軽減することができる。
【0026】
[機能構成]
図2は、本実施形態の眼球回旋測定装置1の機能構成図である。眼球回旋測定装置1は、CPU10がプログラムを実行することにより機能する機能ブロックとして、基準情報取得部40と、虹彩パターン認識処理部42(第2の角度算出部)と、血管位置認識部44と、角度算出部46(第1の角度算出部)と、を備える。また、これらの各機能ブロックは、例えばメモリ装置18や補助記憶装置16に対して各種情報(データ)を入出力する。そして、メモリ装置18や補助記憶装置16は、各機能ブロックから出力された各種情報を格納する。
【0027】
これらの機能ブロックは、ソフトウェアで構成するこができる。この場合、各機能ブロックは、互いに明確に分離したプログラムによって実現されるブロックであってもよいし、例えば、サブルーチンや関数などのように、他のプログラムによって呼び出されるプログラムにより実現されるブロックであってもよい。また、これらの機能ブロックの一部又は全てが、例えば、LSI(Large Scale Integrated circuit)、IC(Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成されていてもよい。
【0028】
[眼球回旋測定手法]
(1)眼球回旋測定手法の概要
次に、
図2に示す各機能ブロックで行われる各種処理を説明しながら、本実施形態における眼球回旋測定手法の内容を具体的に説明するが、最初に、本実施形態における眼球回旋測定手法の概要を説明する。
【0029】
本実施形態の眼球回旋測定手法では、まず、基準状態において、基準状態時の眼球画像内の虹彩領域と白目領域との境界近傍に位置する所定の血管(1つの血管)を選択し、該選択した血管の瞳孔側の端点(後述の対象端点O
tgt0)の位置情報を取得する。次いで、眼球回旋の実計測時において、実計測時の眼球画像に対して虹彩の濃淡パターンを用いた従来の計測手法を適用して、ある程度の精度で、眼球回旋角度(後述の第1眼球回旋角度θ1)を求める。
【0030】
次いで、実計測時の眼球画像において検出される、虹彩領域と白目領域との境界近傍の複数の血管の端点の中から、虹彩の濃淡パターンを用いた従来の計測手法により算出された眼球回旋角度(後述の第1眼球回旋角度θ1)を用いて、基準状態で選択された所定の血管に対応する血管を特定する。次いで、該特定された血管の端点(後述の対象端点O
tgt)の位置情報を取得する。そして、基準状態及び実計測時のそれぞれにおいて取得された血管の端点の位置情報を用いて、眼球回旋角度をより高精度に決定する。
【0031】
(2)基準情報取得部の処理
本実施形態の眼球回旋測定手法において、基準情報取得部40は、眼球回旋の実計測時より前に行われ、眼球回旋の測定に必要な各種基準情報を取得する。なお、基準情報取得部40により行われる各種基準情報の取得処理は、眼球回旋の実計測時(例えば実際に被験体の健康状態を計測するとき)の処理と異なる。
【0032】
本実施形態では、基準情報取得時に、まず、上述した2種類の照明(赤外線LED32及び青色LED34)を用いて眼球を撮影する。この際、瞳孔領域及び虹彩領域に赤外線を照射し、血管の周辺(白目領域)に青色光を照射する。
【0033】
次に、基準情報取得部40は、基準状態において取得された被験体の眼球画像を解析して、基準状態における虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータf
ref、所定の血管の端点(対象端点O
tgt0)の位置情報、瞳孔の楕円パラメータ(例えば、瞳孔輪郭の中心点、長軸値、短軸値、楕円の傾き(長軸の回転角度)等に関する情報)等の情報を取得する。なお、これらの情報の意味及び具体的な取得手法については後で詳述する。
【0034】
そして、基準情報取得部40は、取得した各種情報を、例えばメモリ装置18や補助記憶装置16に出力する。基準情報取得時には、上述のようにして、基準情報取得部40により各種基準情報が取得され、該各種基準情報がメモリ装置18あるいは補助記憶装置16に格納される。なお、ここで基準情報取得部40から出力される所定の血管の端点(対象端点O
tgt0)の位置情報は、基準状態の眼球画像の横方向及び縦方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向とするX−Y直交座標系(後述の
図3参照)の座標である。
【0035】
(3)虹彩パターン認識処理部の処理
虹彩パターン認識処理部42は、眼球回旋の実計測時にカメラ30により撮影された、基準情報取得時の被験体と同一の被験体の眼球画像において認識される虹彩の濃淡パターンに基づき、ある程度の精度で眼球回旋角度θ1(以下、第1眼球回旋角度θ1という)を算出する。以下、この虹彩パターン認識処理部42の処理内容をより詳細に説明する。
【0036】
まず、虹彩パターン認識処理部42は、眼球画像を画素値に応じて二値化し、これにより、眼球画像内における瞳孔領域を抽出する。
図3は、カメラ30により撮影された眼球画像100の一例、並びに、該眼球画像100内の瞳孔領域101、虹彩領域102、白目領域103、血管104及び血管104の端点104aを示す図である。
図3に示すように、瞳孔領域101の輪郭部分でコントラストが最も大きくなるので、眼球画像100を二値化することにより、画像内における瞳孔領域101及びその輪郭(瞳孔輪郭)を容易に抽出することができる。
【0037】
次に、虹彩パターン認識処理部42は、抽出された瞳孔輪郭に対して、例えば楕円フィッティング処理を施し、該処理により得られる瞳孔輪郭(瞳孔楕円)の楕円パラメータ(例えば、瞳孔中心の座標、長軸値、短軸値、楕円の傾き等)を取得する。そして、虹彩パターン認識処理部42は、取得された瞳孔輪郭の楕円パラメータをメモリ装置18や補助記憶装置16に出力する。なお、
図3に示すように、眼球画像100の横方向をX軸方向とし、縦方向をY軸方向とすると、楕円パラメータに含まれる楕円の傾きは、瞳孔輪郭を示す楕円における長軸のY軸(零度)に対する傾き角度(Y軸に対して反時計方向の回転角度)のことである。
【0038】
楕円フィッティング処理の手順は次の通りである。まず、虹彩パターン認識処理部42は、例えば予め定められた楕円パラメータを有する楕円を用意する。次いで、虹彩パターン認識処理部42は、楕円の回転角度(長軸の傾き)、扁平度及び大きさを変えながら、楕円を瞳孔輪郭に重ねる。そして、虹彩パターン認識処理部42は、楕円と瞳孔輪郭との乖離が所定の範囲未満となる楕円を探索して抽出する。なお、この際の楕円の抽出手法としては、種々の手法を用いることができ、例えば最小二乗法等の手法を用いることができる。
【0039】
なお、本実施形態では、基準情報取得時に取得される瞳孔輪郭の楕円パラメータも、上記手法と同様にして取得される。この際、本実施形態では、虹彩パターン認識処理部42の上記処理を基準情報取得部40で行って瞳孔輪郭の楕円パラメータを取得してもよいし、上記処理を虹彩パターン認識処理部42で行い、その算出結果を基準情報取得部40が虹彩パターン認識処理部42から取得するようにしてもよい。
【0040】
次に、虹彩パターン認識処理部42は、瞳孔輪郭と同様に、二値化処理が施された眼球画像100に基づいて、虹彩領域102及び白目領域103間の境界線を認識し、該境界線に対して楕円フィッティング処理を施す。そして、虹彩パターン認識処理部42は、楕円フィッティング処理により得られた、虹彩領域102及び白目領域103間の境界線(虹彩領域102の外縁)の楕円パラメータをメモリ装置18や補助記憶装置16に出力する。
【0041】
次に、虹彩パターン認識処理部42は、瞳孔輪郭より外側であり、かつ、虹彩領域102の外縁より内側の位置に、仮想的な楕円を設定する。次いで、虹彩パターン認識処理部42は、例えば仮想的な楕円の中心を回転中心とし、仮想的な楕円上に存在する画素の画素値を、楕円上に沿って所定の角度θs毎にサンプリングしてベクトルデータfを生成する。
図4は、仮想的な楕円E上に存在する画素の画素値をサンプリングしてベクトルデータf(={…,Z1,Z2,Z3,Z4,…})を生成する際の様子を示す図である。なお、ベクトルデータfの各要素Zi(iは、整数)は、仮想的な楕円E上の対応するサンプル点(画素)の画素値である。
【0042】
仮想的な楕円Eは、被験体の個人的な特徴に応じて精密に設定することが好ましい。より具体的には、被験体を暗順応させて、瞳孔が最も開いたときの瞳孔の直径(短軸又は長軸)よりも若干大きい直径で仮想的な楕円Eを設定する。例えば、瞳孔が最も開いたときの瞳孔の直径(短軸又は長軸)が7mmの時には、仮想的な楕円Eの直径を約7.5mm程度に設定すればよい。なお、本実施形態では、仮想的な楕円Eの直径以外の楕円パラメータは、瞳孔輪郭の対応する楕円パラメータと同様とする。
【0043】
仮想的な楕円Eを上述のように設定する理由は次の通りである。虹彩の濃淡パターンのコントラストは、瞳孔に近い領域で大きくなるので、できる限り瞳孔に近い位置に仮想的な楕円Eを設定して画素値を抽出する(ベクトルデータfを生成する)ことが望ましい。しかしながら、瞳孔が最も開いたときに仮想的な楕円Eが瞳孔と重なることを回避する必要がある。それゆえ、上述のように、仮想的な楕円Eの直径(短軸又は長軸)を、被験体の瞳孔が最も開いたときの瞳孔の直径よりも若干大きい直径に設定することが好ましい。なお、本発明はこれに限定されず、例えば、瞳孔の輪郭位置と虹彩領域102の外縁位置との略中間位置に仮想的な楕円Eを設定してもよい。
【0044】
次に、虹彩パターン認識処理部42は、仮想的な楕円Eのベクトルデータfに含まれる各画素の画素値(ベクトルデータfの各要素Zi)と、該画素から角度θs分だけ離れた隣の画素の画素値(ベクトルデータfの隣接要素)との差分を求め、差分ベクトルデータf
dを生成する。
【0045】
なお、本実施形態では、基準情報取得時に取得される虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータf
refも、上記手法と同様にして算出される。この際、本実施形態では、虹彩パターン認識処理部42の上記算出処理を基準情報取得部40で行って基準状態における虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータf
refを取得してもよいし、上記算出処理を虹彩パターン認識処理部42で行い、その算出結果を基準情報取得部40が虹彩パターン認識処理部42から取得するようにしてもよい。
【0046】
次いで、虹彩パターン認識処理部42は、基準状態における虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータf
refと、眼球回旋の実計測時に算出された差分ベクトルデータf
dとの相互相関関数R(k)を、パラメータ(変数)k(k=0,1,2,…)を変化させながら複数回計算する。なお、相互相関関数R(k)は、下記式(1)で表わされる。
【0048】
上記式(1)において、パラメータ「m」は、ベクトルデータfの各要素Ziのインデックスであり、パラメータ「k」は、差分ベクトルデータf
refに対する差分ベクトルデータf
dの各要素のインデックスの相対的なずらし量である。また、上記式(1)の総和「Σ」は、パラメータ「m」についての総和である。
【0049】
上記式(1)に示すように、相互相関関数R(k)は、差分ベクトルデータf
refの各要素と、差分ベクトルデータf
refの各要素に対してインデックスをk分ずらした差分ベクトルデータf
dの各要素とをそれぞれ乗算し、その乗算結果を総和したパラメータである。それゆえ、相互相関関数R(k)の値は、各要素のインデックスをk分ずらした差分ベクトルデータf
dの各要素の分布が、基準状態の差分ベクトルデータf
refの各要素の分布に最も近くなるときに、最大になる。
【0050】
そして、虹彩パターン認識処理部42は、相互相関関数R(k)が最大になるパラメータkの値(k
p)を特定し、該特定されたパラメータkの値(k
p)に対応する角度(k
p×θs)を第1眼球回旋角度θ1(基準眼球回旋角度)として算出する。
【0051】
図5A及び
図5Bは、基準状態における差分ベクトルデータf
refの各要素の分布と、眼球回旋の実計測時における差分ベクトルデータf
dの各要素の分布と、相互相関関数R(k)との関係を示す図である。各図に示す棒グラフの長さ(縦軸)は、ベクトルデータの各要素の画素値Ziであり、棒グラフの横軸は各要素のインデックスmである。なお、
図5Aは、差分ベクトルデータf
refに対する差分ベクトルデータf
dの各要素のインデックスの相対的なずらし量が零(k=0)である場合の両差分ベクトルデータ間の関係を示す図である。また、
図5Bは、差分ベクトルデータf
refに対する差分ベクトルデータf
dの各要素のインデックスの相対的なずらし量が「k
p」である場合の両差分ベクトルデータ間の関係を示す図である。
【0052】
図5Aに示すように、差分ベクトルデータf
dの各要素のインデックスの相対的なずらし量が零(k=0)である場合には、差分ベクトルデータf
dの各要素の分布が差分ベクトルデータf
refの各要素の分布と異なった分布となるので、相互相関関数R(k)は小さくなる。一方、
図5Bに示すように、差分ベクトルデータf
dの各要素のインデックスの相対的なずらし量が「k
p」である場合には、差分ベクトルデータf
dの各要素の分布が差分ベクトルデータf
refの各要素の分布と同じ分布となるので、相互相関関数R(k)は最大になる。なお、ここでいうベクトルデータの各要素のインデックスを「k分ずらす」とは、
図5Bに示すように、各要素をその配列方向に沿って所定方向(
図5Bに示す例では右方向)に、kインデックス分だけシフトすることを意味する。
【0053】
上述した虹彩の濃淡パターンを用いた手法により得られる第1眼球回旋角度θ1(=k
p×θs)は、ある程度正確な眼球回旋角度を表す。例えば、ある条件下では、1度程度の分解能で眼球回旋角度を測定することができることが、実験等により分かっている。しかしながら、本実施形態の眼球回旋測定装置1では、さらに高分解能(十分の数度程度の分解能)で、眼球回旋角度の計測を可能にするため、以下に説明する血管位置認識部44の処理及び角度算出部46の処理を行う。
【0054】
(4)血管位置認識部の処理
血管位置認識部44は、白目領域103における血管104の位置を認識し、該認識した血管104の位置に関する情報を、例えばメモリ装置18や補助記憶装置16に出力する。白目領域103は、
図3に示すように、眼球画像100において、虹彩パターン認識処理部42により認識された虹彩領域102よりも外側の領域である。なお、この際、血管位置認識部44で認識(特定)する血管104は、基準情報取得時に基準情報取得部40により選択された所定の血管に対応する血管(以下、対応血管ともいう)である。
【0055】
より具体的には、血管位置認識部44は、メモリ装置18や補助記憶装置16に格納された基準情報を参照し、実計測時の眼球画像100において、虹彩領域102の外縁近傍に存在する対応血管の端点(以下、「対象端点」と称する)の位置情報を取得する。そして、血管位置認識部44は、取得された対応血管の対象端点の位置情報(座標情報)を、例えばメモリ装置18や補助記憶装置16に出力する。以下、この血管位置認識部44で行う処理内容についてより詳細に説明する。
【0056】
まず、血管位置認識部44は、基準情報取得部40により予め取得されている基準状態における所定の血管の対象端点O
tgt0の位置情報(座標情報)をメモリ装置18や補助記憶装置16から読み込む。次いで、血管位置認識部44は、読み込んだ基準状態における所定の血管の対象端点O
tgt0の位置情報に基づき、実計測時に取得された眼球画像100において、対応血管の位置を特定するための探索領域を設定する。具体的には、血管位置認識部44は、基準状態における所定の血管の対象端点O
tgt0を第1眼球回旋角度θ1、回転させた点を基準端点O
ref(想定端点位置)とし、該基準端点O
refを中心とする所定形状(本実施形態では、後述の
図6〜
図8に示すように、正方形状)の探索領域を眼球画像100内に設定する。
【0057】
次に、血管位置認識部44は、探索領域の画像に対して例えば平滑化処理を施し、ノイズ除去を行う。次いで、血管位置認識部44は、平滑化処理が施された探索領域の画像に対して、画素値に応じて二値化処理を施し、画素値が低い方の画素の集合部分を血管として認識する。この際、探索領域において、複数の血管が認識される(後述の
図7参照)。
【0058】
更に、血管位置認識部44は、血管であると認識された画素の集合部分に対して、Hilditchの細線化アルゴリズムを適用してノイズ除去処理を施す。次いで、血管位置認識部44は、細線部分に対して深さ優先探索を行うことにより血管の長さを計測する。そして、血管位置認識部44は、認識された複数の血管の中から、長さが所定値以上の血管のみを抽出する。
【0059】
Hilditchの細線化法では、探索領域内の注目画素とその周囲の8画素を参照する3×3のウィンドウ(画素領域)をノイズ除去処理の基本処理単位とする。そして、血管位置認識部44は、探索領域の画像データ全体をラスタ走査しながら、各画素を注目画素としてノイズ除去を行うことにより細線化処理を行う。
【0060】
具体的には、まず、血管位置認識部44は、注目画素が3×3のウィンドウで予め定義した細線化による削除条件に合致するか否かの判定を行う。そして、注目画素が削除条件に合致する場合には、血管位置認識部44は、当該注目画素を削除する、すなわち、図形画素(血管領域の画素)を背景画素(白目領域の画素)に置き換える。一方、注目画素が削除条件に合致しない場合、血管位置認識部44は、ラスタ走査順で次の画素を注目画素とし、新たな3×3のウィンドウにおいて、注目画素の判定処理及び図形画素の置換処理を行う。
【0061】
Hilditchの細線化法によるノイズ除去処理において、血管位置認識部44は、上述した一連の処理を探索領域内の全ての画素に対して繰り返す。次いで、血管位置認識部44は、1サイクルのラスタ走査において削除される画素が無くなるまで、探索領域をラスタ走査しながら上述した一連の処理を繰り返す。そして、血管位置認識部44は、1サイクルのラスタ走査において削除される画素が無くなった時点で、Hilditchの細線化法によるノイズ除去処理を終了する。
【0062】
図6〜
図8は、それぞれ、上述した対応血管の探索領域の原画像、二値化処理を施した後の探索領域の画像、Hilditchの細線化アルゴリズムを適用してノイズ除去を行った後の探索領域の画像の一例である。
【0063】
上述したHilditchの細線化アルゴリズムによるノイズ除去処理後、血管位置認識部44は、ノイズ除去された探索領域の画像データに基づいて、抽出された各血管の対象端点の位置を特定する。次いで、血管位置認識部44は、特定された複数の血管の対象端点の中から、最も基準端点O
refに近い対象端点を選択し、該対象端点を、実計測時の眼球画像100内における対応血管の対象端点O
tgtとする。
図9は、探索領域の中心である基準端点O
refと、血管位置認識部44により認識(特定)された対応血管Vの対象端点O
tgtとの関係を示す図である。
【0064】
そして、血管位置認識部44は、特定した対応血管Vの対象端点O
tgtの位置情報(所定の血管の位置に関する第1の情報)を例えば、メモリ装置18や補助記憶装置16に出力する。ここで血管位置認識部44から出力される対応血管Vの対象端点O
tgtの位置情報は、実計測時の眼球画像100(探索領域)の横方向及び縦方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向とするX−Y直交座標系(
図3及び
図9参照)の座標である。
【0065】
なお、本実施形態では、基準状態において選択された所定の血管の対象端点O
tgt0は、次のようにして求められる。まず、虹彩領域の外縁近傍において、所定の探索領域を設定する。次いで、設定された所定の探索領域の画像データに対して、血管位置認識部44で実施された二値化処理からHilditchの細線化法によるノイズ除去処理に至る一連の上記処理を施し、探索領域内の複数の血管の端点を抽出する。そして、抽出された複数の血管の端点から、基準状態における所定の血管の対象端点O
tgt0を選択する。これらの処理は、基準情報取得部40で行ってもよいし、これらの処理を血管位置認識部44で行い、その算出結果を基準情報取得部40が血管位置認識部44から取得するようにしてもよい。
【0066】
また、基準情報取得時において所定の血管を選択する際の探索領域の設定位置及びサイズ等は任意に設定することができる。また、探索領域において抽出された複数の血管の端点から、所定の血管の対象端点O
tgt0を選択する基準も任意である。
【0067】
しかしながら、本実施形態では、端点が眼球の虹彩領域の外縁に接するような血管を、所定の血管として選択することが好ましい。また、血管の端点のY軸方向の座標が、瞳孔中心のY軸方向の座標により近い(より好ましくは、同じになる)血管を所定の血管として選択することが好ましい。このようにして所定の血管として選択することにより、例えば、まつ毛の影響、瞼の動きや視線移動などの影響を受け難くなり(眼球画像100中に血管の端点が写り込む可能性が高くなり)、血管のトラッキング精度(対応血管の対象端点O
tgtの認識(特定)精度)を高めることができ、眼球回旋角度をより確実に精度良く計測することが可能になる。また、同様の理由から、基準状態における探索領域も、虹彩領域の外縁近傍で、かつ、探索領域の中心点のY軸方向の座標が、瞳孔中心のY軸方向の座標に近くなる(より好ましくは、同じになる)ように探索領域を設定することが好ましい。
【0068】
(5)角度算出部の処理
角度算出部46は、基準状態において選択された所定の血管の対象端点O
tgt0の位置情報と、眼球回旋の実計測時に特定(認識)された対応血管(所定の血管に対応する血管)の対象端点O
tgtの位置情報とに基づいて、眼球回旋角度θを算出する。具体的には、眼球回旋角度θは、次のように求められる。
【0069】
まず、本実施形態では、瞳孔輪郭(瞳孔楕円)に沿った楕円座標系(楕円極座標系)を設定する。具体的には、血管の対象端点の位置座標を、瞳孔輪郭の瞳孔中心P(楕円中心)を通る短軸の座標w(短軸値)及び長軸の座標h(長軸値)と、楕円上において長軸を零度(基準)とした反時計方向の回転角度座標θpとで表す楕円座標系(w,h,θp)を設定する。
【0070】
そこで、いま、基準情報取得時に取得された所定の血管の対象端点O
tgt0のX−Y直交座標系における座標(所定の血管の位置に関する第2の情報)を(Ix
tgt0,Iy
tgt0)とし、基準状態における瞳孔中心PのX−Y直交座標系における座標を(x
tgt00,y
tgt00)とする。また、基準状態における、瞳孔輪郭の短軸値(楕円座標系における瞳孔輪郭の短軸方向の座標)をa
tgt0とし、瞳孔輪郭の長軸値(楕円座標系における瞳孔輪郭の長軸方向の座標)をb
tgt0とし、楕円座標系の長軸方向のX−Y直交座標系のY軸方向に対する傾きをφ
tgt0とする。さらに、所定の血管の対象端点O
tgt0の楕円座標系における回転角度座標θpをθ
tgt0とし、短軸の座標wをw
tgt0とし、長軸の座標hをh
tgt0とする。
【0071】
なお、これらの基準状態における各種パラメータのうち、対象端点O
tgt0の楕円座標系における回転角度座標θ
tgt0、短軸座標w
tgt0及び長軸座標h
tgt0以外のパラメータは、基準情報取得時に、基準情報取得部40により予め取得され、例えばメモリ装置18や補助記憶装置16に格納されている。
【0072】
そして、基準状態におけるこれらのパラメータの関係式は下記式(2)、(3)及び(4)で表される。なお、下記式(2)、(3)及び(4)は、楕円座標系の座標(w,h,θp)をX−Y直交座標系の座標(x、y)に変換するための方程式系である。それゆえ、角度算出部46は、下記式(2)、(3)及び(4)の方程式系を逆算することにより、基準状態において選択された所定の血管の対象端点O
tgt0の回転角度座標θ
tgt0を算出することができる。
【0074】
一方、眼球回旋の実計測時に特定された対応血管の対象端点O
tgtのX−Y直交座標系における座標(所定の血管の位置に関する第1の情報)を(Ix
tgt,Iy
tgt)とし、実計測時における瞳孔中心PのX−Y直交座標系における座標を(x
tgt0,y
tgt0)とする。また、実計測時における、瞳孔輪郭の短軸値をa
tgtとし、瞳孔輪郭の長軸値をb
tgtとし、楕円座標系の長軸方向のX−Y直交座標系のY軸方向に対する傾きをφ
tgtとする。さらに、対応血管の対象端点O
tgtの楕円座標系における回転角度座標θpをθ
tgtとし、短軸の座標wをw
tgtとし、長軸の座標hをh
tgtとする。
【0075】
なお、これらの実計測時における各種パラメータのうち、対象端点O
tgtの楕円座標系における回転角度座標θ
tgt、短軸座標w
tgt及び長軸座標h
tgt以外のパラメータは、虹彩パターン認識処理部42及び血管位置認識部44の処理により予め算出され、例えばメモリ装置18や補助記憶装置16に格納されている。
【0076】
そして、眼球回旋の実計測時におけるこれらのパラメータの関係式は下記式(5)、(6)及び(7)で表される。そして、角度算出部46は、下記式(5)、(6)及び(7)の方程式系を逆算することにより、眼球回旋の実計測時に特定された対応血管の対象端点O
tgtの回転角度座標θ
tgtを算出することができる。
【0078】
次いで、角度算出部46は、上述のようにして算出された対応血管の対象端点O
tgtの回転角度座標θ
tgtから、基準状態における所定の血管の対象端点O
tgt0の回転角度座標θ
tgt0を差し引くことにより、眼球回旋角度θを算出する。すなわち、角度算出部46は、下記式(8)に基づいて、眼球回旋角度θを算出する。
【0080】
図10は、眼球回旋角度θを算出する際に設定した楕円座標系とX−Y直交座標系との関係、並びに、基準状態において選択された所定の血管の対象端点O
tgt0の回転角度座標θ
tgt0と実計測時に特定された対応血管の対象端点O
tgtの回転角度座標θ
tgtと眼球回旋角度θとの関係を示す図である。なお、
図10では、説明を簡略化するため、基準状態(基準情報取得時)に取得された対象端点O
tgt0を通る仮想的な楕円のサイズ及び扁平度が、眼球回旋の実計測時に取得された対象端点O
tgtを通る仮想的な楕円のサイズ及び扁平度と同じになるように図示している。
【0081】
[眼球回旋測定処理のフローチャート]
次に、本実施形態の眼球回旋測定装置1により眼球回旋測定を行う際の具体的な処理手順を、
図11を参照しながら説明する。
図11は、本実施形態の眼球回旋測定装置1によって実行される眼球回旋測定手法の処理手順を示すフローチャートである。
【0082】
まず、眼球回旋測定装置1は、現在の計測モードが基準情報取得モードであるか否かを判定する(S100)。この判定処理は、例えば、次のようにして実行される。まず、現在の計測モードが基準情報取得モードであるか否かを示す制御フラグを予め用意する。そして、例えばオペレータ等により、眼球回旋測定装置1に対して何らかの操作が行われ、計測モードとして基準情報取得モードが設定された場合に制御フラグがオン状態になる場合を考える。この場合、眼球回旋測定装置1は、S100において、この制御フラグのオン/オフ状態を判別することにより、現在の計測モードが基準情報取得モードであるか否かを判定する。なお、S100の判定処理を行うタイミングは、例えばオペレータ等により基準情報取得モードが設定された時点であってもよいし、1枚目の画像が入力された時点であってもよい。
【0083】
S100において、現在の計測モードが基準情報取得モードである場合には、S100はYes判定となる。この場合、眼球回旋測定装置1は、基準状態において取得された被験体の眼球画像を解析し、基準状態における虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータf
ref、所定の血管の対象端点O
tgt0の位置情報、基準状態における瞳孔輪郭の楕円パラメータ(瞳孔の中心位置、楕円の短軸値、長軸値、長軸の傾き(回転角度)など)等の基準情報を取得する(S102)。そして、眼球回旋測定装置1は、取得した基準情報をメモリ装置18や補助記憶装置16に出力した後、眼球回旋測定処理を終了する。なお、S102の処理において、眼球回旋測定装置1は、上述した基準情報取得部40の処理動作に従って、基準状態における上記各種基準情報を取得する。
【0084】
一方、S100において、現在の計測モードが基準情報取得モードでない場合、すなわち、現在の計測モードが眼球回旋の実計測モードである場合には、S100はNo判定となる。この場合、眼球回旋測定装置1は、基準情報取得時と同一の被験体から取得された実計測時の眼球画像を解析し、該眼球画像において認識される虹彩の濃淡パターンに基づき第1眼球回旋角度θ1を算出する(S104)。なお、S104の処理において、眼球回旋測定装置1は、上述した虹彩パターン認識処理部42の処理動作に従って、第1眼球回旋角度θ1を算出する。
【0085】
次いで、眼球回旋測定装置1は、眼球画像内の白目領域において複数の血管の位置を認識し、該複数の血管から対応血管(基準情報取得時に選択された所定の血管に対応する血管)を特定する。そして、眼球回旋測定装置1は、対応血管の対象端点O
tgt(瞳孔側の血管端)の位置情報(血管の位置に関する情報)を取得する(S106)。なお、S106の処理において、眼球回旋測定装置1は、上述した血管位置認識部44の処理動作に従って、対象端点O
tgtの位置情報を取得する。また、S106では、眼球回旋測定装置1は、実計測時における瞳孔輪郭の楕円パラメータも取得する。
【0086】
次いで、眼球回旋測定装置1は、S106で取得された実計測時における対応血管の対象端点O
tgtの位置情報及び瞳孔輪郭の楕円パラメータを用いて、楕円座標系における対応血管の対象端点O
tgtの回転角度座標θ
tgtを算出し、さらに、実計測時の被験者と同一の被験体に対してS102で取得された基準情報を用いて、楕円座標系における所定の血管の対象端点O
tgt0の回転角度座標θ
tgt0を算出する(S108)。そして、眼球回旋測定装置1は、S108で算出した回転角度座標θ
tgtから回転角度座標θ
tgt0を減算して眼球回旋角度θを算出する(S110)。なお、S108及びS110の処理において、眼球回旋測定装置1は、上述した角度算出部46の処理動作に従って、眼球回旋角度θを算出する。
【0087】
本実施形態では、上述のようにして眼球回旋の測定を行う。なお、本実施形態では、上述した眼球回旋測定処理を、対応する眼球回旋測定プログラムを眼球回旋測定装置1に実装し、該眼球回旋測定プログラムをCPU10により実行することにより実現してもよい。
【0088】
上述した本実施形態の眼球回旋測定技術では、周囲に対するコントラストが大きく、かつ、瞳孔収縮による影響が小さい血管端(結膜血管の対象端点)の位置情報に基づいて眼球回旋角度θを算出するため、より高精度に眼球回旋を計測することができる。具体的には、本実施形態によれば、十分の数度程度の分解能で眼球回旋角度θを測定することができ、従来の手法(虹彩の濃淡パターンを用いた手法)に比べて、より高精度に眼球回旋を計測することができる。
【0089】
また、本実施形態では、上述のように、虹彩領域の外縁近傍に位置する血管端(対象端点)の位置情報に基づいて眼球回旋角度θを算出する。この場合、血管端は白目領域の中で最も瞳孔に近い位置に存在するので、瞼の動き等による血管端(対象端点)の検出への影響が最小となる。それゆえ、本実施形態のように、虹彩領域の外縁近傍に位置する血管端(対象端点)の位置情報を用いることにより、更に高精度に眼球回旋を計測することができる。
【0090】
また、本実施形態では、上述のように、眼球回旋角度θを測定する際、最初に、虹彩の濃淡パターンを用いた眼球回旋測定手法により、ある程度の精度で眼球回旋角度(第1眼球回旋角度θ1)を算出し、この眼球回旋角度を用いて、検出すべき血管(対応血管)の対象端点O
tgtを特定する。このような手法を用いることにより、実計測時において対応血管の対象端点O
tgtをより早く特定することができるので、眼球回旋角度θをより高速に算出することができる。さらに、このような手法を用いることにより、低コストで眼球回旋測定を実現することができるとともに、瞳孔径変化時にも高精度及び高分解能で眼球回旋角度θを計測することができる。
【0091】
<2.第2の実施形態>
一般に、目の中には、例えば、まつ毛、塵埃、化粧品の微粉等の物質などが入りやすく、これらの物質が虹彩領域の外縁近傍に存在すると、これらの物質は、本発明において、眼球回旋の測定精度を劣化させるノイズ源になる可能性がある。それゆえ、本発明において、眼球回旋運動をより正しく測定するためには、測定時に、虹彩領域の外縁(輪郭)付近に存在する複数の結膜血管の端点(以下、略して血管端ともいう)から、例えばまつ毛などの物質(ノイズ)で遮蔽されていない血管端を自動的に選択(特定)することが好ましい。第2の実施形態では、このような処理が可能な眼球回旋測定装置、及び、眼球回旋測定手法の一例を説明する。
【0092】
なお、本実施形態に係る眼球回旋測定装置1のハードウェア構成、及び、機能構成は、上記第1の実施形態と同様(
図1及び
図2参照)であるので、ここでは、それらの構成についての説明を省略する。
【0093】
[眼球回旋測定手法]
(1)眼球回旋測定手法の概要
図2に示す各機能ブロックで行われる各種処理を説明しながら、本実施形態における眼球回旋測定手法を具体的に説明するが、その前に、本実施形態における眼球回旋測定手法の概要を説明する。
【0094】
本実施形態の眼球回旋測定手法では、まず、虹彩領域の外縁を認識し、該外縁近傍に存在する複数の血管端を自動的に検出する。次いで、検出された各血管端を含む所定の画像領域(後述のマッチングエリア)に対して、対応する基準情報(後述のテンプレート映像)を用いてパターンマッチング処理を行う。そして、マッチング結果(後述の類似度)に基づいて、複数の血管端からノイズが最も小さい血管端(血管の対象端点)を自動的に特定する。このような手法を用いることにより、眼球回旋角度θの計測精度をさらに向上させることができる。
【0095】
また、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様に、上述した血管端の自動選択手法と、上記第1の実施形態で説明した虹彩の濃淡パターンを用いた従来の眼球回旋測定手法とを併用する。これにより、高速でかつ低コストで眼球回旋測定が可能となるとともに、瞳孔径変化時にも高精度及び高分解能で眼球回旋角を計測することができる。
【0096】
(2)基準情報取得部の処理
基準情報取得時には、まず、上記第1の実施形態と同様に、2種類の照明(赤外線LED32及び青色LED34)を用いて眼球を撮影する。この際、瞳孔及び虹彩の領域に赤外線を照射し、血管の周辺(白目領域)に青色光を照射する。
【0097】
なお、本実施形態では、眼球画像として動画像を用いる。また、本実施形態では、動画像の撮影途中で、一旦、赤外線LED32を消灯する。これは、後述する虹彩領域102の輪郭の決定処理において、虹彩領域102及び白目領域103間のコントラストを高くするためである。
【0098】
まず、基準情報取得部40は、基準状態において取得された被験体の眼球画像を解析して、虹彩領域102及び白目領域103間の境界(虹彩領域の外縁)を認識し、該境界の座標を決定する。
図12及び
図13は、眼球画像を用いて虹彩領域102と白目領域103との境界の座標を決定する手法を説明するための図である。
【0099】
虹彩領域102及び白目領域103間の境界の決定手法では、まず、基準情報取得部40は、眼球画像から瞳孔の輪郭に沿った楕円座標系を取得する。この処理を、より具体的に説明すると、上記第1の実施形態で説明したように、瞳孔領域101は他の領域と比べて画素値が低いので、基準情報取得部40は、眼球の原画像に対して2値化処理を施し、画素値の低い領域を瞳孔領域101として抽出する。次いで、基準情報取得部40は、抽出された瞳孔領域101の輪郭に対して最小二乗法により楕円近似(楕円フィッティング処理)を行う。
【0100】
これにより、基準情報取得部40は、瞳孔輪郭(瞳孔楕円)の楕円パラメータ(例えば、瞳孔輪郭の中心点、長軸値、短軸値、長軸の回転角度等に関する情報)を取得する。そして、基準情報取得部40は、楕円近似により得られた楕円パラメータから、該楕円の長軸を回転方向座標の基準(零度)とする楕円座標系を設定する。
【0101】
この楕円座標系における座標は、カメラ映像(眼球画像)のX−Y直交座標系における瞳孔輪郭の中心101aの座標(x
0,y
0)を原点とし、楕円の長軸方向の座標h(長軸値)及び短軸方向の座標w(短軸値)、並びに、長軸に対する反時計回り方向の回転角度座標θpで表わされる。また、本実施形態では、カメラ映像のX−Y直交座標系のY軸(眼球画像の縦方向の軸)に対する楕円座標系の長軸の傾きをφとする。
【0102】
楕円座標系における任意の座標(w,h,θp)と、この座標に対応するX−Y座標系の座標(x,y)との間の関係は、下記式(9)で表される。下記式(9)は、楕円座標系の座標(w,h,θp)をX−Y直交座標系の座標(x、y)に変換するための方程式系である。なお、下記式(9)中の「a」は瞳孔輪郭の短軸値(楕円座標系における瞳孔輪郭の短軸方向の座標)であり、「b」は瞳孔輪郭の長軸値(楕円座標系における瞳孔輪郭の長軸方向の座標)である。
【0104】
なお、本実施形態では、基準情報取得部40は、瞳孔輪郭の楕円パラメータを取得した後、上記第1の実施形態と同様に、基準状態における虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータを算出する。
【0105】
次に、基準情報取得部40は、虹彩領域102の輪郭を決定する。この処理では、まず、基準情報取得部40は、赤外線LED32の消灯時の眼球画像を取得する。また、基準情報取得部40は、赤外線LED32の消灯時の1フレーム前の眼球画像を用いて、瞳孔輪郭の中心101aの座標を算出する。このことから明らかなように、本実施形態では、少なくとも赤外線LED32の消灯前の眼球画像及び消灯後の眼球画像の2枚の眼球画像が必要となる。
【0106】
なお、本実施形態では、瞳孔輪郭の中心101aの座標を算出するための眼球画像として、赤外線LED32の消灯時の2フレーム以上前の眼球画像を用いてもよい。しかしながら、視線移動及び眼球回旋等を含む眼球運動に対してより確実に血管端をトラッキングするため、瞳孔輪郭の中心101aの座標を算出するために用いる赤外線LED32の消灯前の眼球画像と、赤外線LED32の消灯時の眼球画像との間隔はより短い方が好ましい。
【0107】
次いで、基準情報取得部40は、赤外線LED32の消灯時の眼球画像において、
図12中の破線矢印で示すように、赤外線LED32を消灯する前の眼球画像から予め算出された瞳孔領域101の中心101aから白目領域103に向かう方向(
図12の例ではX軸方向)に沿って、画素の画素値をサンプリングする。
【0108】
図13は、画素値のサンプリング結果を示す。
図13に示す特性の横軸は、
図12中のサンプリングライン(破線矢印)上におけるサンプル点(画素)の瞳孔中心101aからの距離であり、縦軸は、画素値である。
【0109】
次いで、基準情報取得部40は、
図13に示す特性から得られた画素値の最小値と最大値との中間値を、虹彩領域102及び白目領域103間の境界位置を決める閾値とする。そして、基準情報取得部40は、
図12中の破線矢印の方向に沿って、瞳孔中心101aから外側に向かって順次、サンプル点(画素)の画素値を参照し、画素値が閾値より大きくなった画素の座標を、サンプリングライン上における虹彩領域102及び白目領域103間の境界座標(以下、白目−虹彩境界座標という)として取得する。
【0110】
次いで、基準情報取得部40は、上述のようにして求めた白目−虹彩境界座標と、上記式(9)とを用いて、血管端の検出範囲を決定するための楕円軌跡(虹彩領域の外縁)を決定する。
【0111】
具体的には、まず、基準情報取得部40は、X−Y直交座標系における白目−虹彩境界座標(x,y)、瞳孔輪郭の中心座標(x
0,y
0)、瞳孔輪郭の短軸値a及び長軸値b、並びに、瞳孔輪郭(楕円座標系)の傾きφを上記式(9)の方程式系に代入し、上記方程式系を解く(逆算する)ことにより、楕円座標系における白目−虹彩境界座標(w,h,θp)を算出する。次いで、上記式(9)の方程式系において、楕円座標系における白目−虹彩境界座標(w,h,θp)のパラメータw及びhを固定し、かつ、回転角度座標θpを種々変化させながら、楕円座標系の座標(w,h,θp)をX−Y直交座標系の座標(x,y)に変換すると、白目−虹彩境界座標を通る楕円軌跡が得られる。
【0112】
次に、基準情報取得部40は、上述のようにして得られた白目−虹彩境界座標を通る楕円軌跡に基づいて、血管端の検出領域を設定する。
図14は、白目−虹彩境界座標を通る楕円軌跡E
orbitに基づいて設定された血管端の検出領域の一例を示す。本実施形態では、楕円軌跡E
orbitから、その10ピクセル外側の位置までの領域(
図14中の白い帯状の領域)を血管端の検出領域50とする。なお、本実施形態では、検出領域50を、虹彩領域102及び白目領域103間の境界を示す楕円の全周に渡って設定してもよいし、該楕円の周回方向に沿った所定の角度範囲(90度、180度など)の領域に設定してもよい。すなわち、本実施形態では、虹彩領域102及び白目領域103間の境界を示す楕円上の一部分に検出領域50を設けてもよい。
【0113】
次に、基準情報取得部40は、上述のようにして設定された血管端の検出領域50において、血管端を抽出する。
図15A〜
図15Cは、検出領域50において、血管端を抽出するための画像処理の流れを説明するための図である。なお、
図15Aは検出領域50内の一部の領域の原画像であり、
図15Bは原画像を2値化処理した後の画像であり、
図15Cは2値化処理した画像に対してさらに細線化ノイズ除去処理を施した後の画像である。
【0114】
血管端の抽出処理では、まず、基準情報取得部40は、原画像に対して19×19ピクセルの範囲を基本処理単位として平滑化処理を行う。次いで、基準情報取得部40は、
図15Aに示す原画像と、平滑化処理が施された画像との差分を算出する。なお、眼球画像において、血管の画素値は、背景である白目領域の画素値より低い。それゆえ、差分処理が施された画像では、血管領域の差分値が高くなり、背景となる白目領域の差分値が低くなり、かつ、白目領域では差分値がほぼ一定の値となる。
【0115】
次いで、基準情報取得部40は、上記差分処理により得られた画像に対して3×3ピクセルの範囲を基本処理単位として平滑化処理を行い、ゴマシオノイズを除去する。そして、基準情報取得部40は、平滑化処理後の画像に対して閾値を用いて2値化処理を行う。この処理により、
図15Bに示すような2値画像が得られ、この2値画像により血管領域(
図15B中の黒色部分)が認識可能になる。
【0116】
次いで、基準情報取得部40は、上述のようにして2値化処理が施された画像内の血管領域に対して、上記第1の実施形態と同様にして、Hilditchの細線化アルゴリズムを用いてノイズ除去処理を行う。これにより、
図15Cに示すように、複数の細線(血管部分)が描かれた画像が得られる。
【0117】
次に、基準情報取得部40は、
図15Cに示す画像内で得られる各細線において瞳孔中心101aに最も近い位置を求め、この位置を血管端の位置とする。そして、基準情報取得部40は、Hilditchの細線化アルゴリズムによるノイズ除去処理が施された眼球画像から、血管端毎に、その血管端を中心とする20×20ピクセルの領域の画像を抽出し、該抽出された領域の画像をテンプレート映像(テンプレート画像)として取得する。
【0118】
図16は、検出領域50で検出された複数の血管端51、及び、それらにそれぞれ対応する複数のテンプレート映像の領域52を示す図である。なお、
図16中の丸印が血管端51であり、正方形状の白枠で囲まれた領域がテンプレート映像の領域52である。
【0119】
次いで、基準情報取得部40は、このようして得られた検出領域50内の複数の血管端51の楕円座標(w,h,θp)、及び、複数の血管端51にそれぞれ対応する複数のテンプレート映像を、基準状態における、虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータ、瞳孔輪郭の楕円パラメータ(例えば、瞳孔中心101aの位置、長軸値、短軸値、長軸の回転角度等に関する情報)とともに、基準情報として、メモリ装置18あるいは補助記憶装置16(
図1参照)に出力する。基準情報取得時には、上述のようにして、基準情報取得部40により各種基準情報が取得され、該各種基準情報がメモリ装置18あるいは補助記憶装置16に格納される。なお、血管端51の楕円座標(w,h,θp)は上記式(9)を用いて算出される。
【0120】
(3)虹彩パターン認識処理部の処理
本実施形態における虹彩パターン認識処理部42の処理内容は、上記第1の実施形態と同様である。具体的には、虹彩パターン認識処理部42は、上記第1の実施形態と同様にして、眼球回旋の実計測時に取得された眼球画像において認識される虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータ、及び、基準状態における虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータに基づき、第1眼球回旋角度θ1(本実施形態では「θ_iris」と表記する)を算出する。
【0121】
(4)血管位置認識部の処理(テンプレートマッチング処理)
上記第1の実施形態では、眼球回旋の実計測時に取得された眼球画像において認識された複数の血管端から、第1眼球回旋角度θ_iris(基準眼球回旋角度)を用いて求められた血管端の基準端点(O
ref)に最も近い端点を、眼球回旋測定用の血管端(対応血管の対象端点O
tgt)として特定(選択)する手法を説明した。しかしながら、本実施形態では、実計測時の眼球画像において、上記第1の実施形態とは異なる手法を用いて、眼球回旋測定用の血管端を特定(選択)する。
【0122】
本実施形態における眼球回旋測定用の血管端の特定(選択)手法の概要は、次の通りである。まず、実計測時の眼球画像において、基準状態時に取得した各血管端の位置情報に基づいて設定された所定領域(マッチングエリア)の画像と、基準状態時に取得した対応するテンプレート映像とのマッチング処理(以下、テンプレートマッチング処理という)を行う。次いで、テンプレートマッチング処理により得られる類似度が最大となる血管端を眼球回旋測定用の血管端として選択し、該選択された血管端に基づいて眼球回旋角度θを測定する。
【0123】
すなわち、本実施形態では、眼球回旋角度θの測定対象となる血管(血管端)の選択処理の手法としてテンプレートマッチングの手法を用いる。上述したテンプレートマッチング処理は、血管位置認識部44において行われる。なお、テンプレートマッチング処理以外の血管位置認識部44の処理は、上記第1の実施形態で説明した処理と同様であるので、ここでは、その処理の説明を省略し、テンプレートマッチング処理について説明する。
【0124】
また、眼球画像の全範囲に対してテンプレートマッチング処理を施す(マッチングエリアを眼球画像全体に設定する)ことも可能であるが、その場合、処理コストが高くなる。それゆえ、本実施形態では、虹彩画像の濃淡パターンに基づく従来の眼球回旋計測手法により(上記式(1)に基づいて)算出された第1眼球回旋角度θ_irisを用いて、マッチングエリアの絞り込みを行う。
【0125】
図17は、本実施形態において、テンプレートマッチング処理を適用するマッチングエリア62、及び、マッチングエリア62を決定するための基準端点61の一例を示す図である。なお、
図17中の白四角点が基準端点61であり、正方形状の白枠で囲まれた領域がマッチングエリア62である。
【0126】
ここで、
図17に示すような複数の基準端点61、及び、それらにそれぞれ対応する複数のマッチングエリア62の設定手法を説明する。
【0127】
まず、血管位置認識部44は、虹彩画像の濃淡パターンに基づく従来の眼球回旋計測手法により算出された第1眼球回旋角度θ_irisを用いて、マッチングエリア62の基準端点61を求める。
【0128】
図18は、マッチングエリア62の基準端点61の算出手法の概要を示す図である。なお、
図18では、説明を簡略化するため、一つの血管端63に対するマッチングエリア62及びその基準端点61のみを示す。
【0129】
本実施形態では、
図18に示すように、基準情報として取得された各血管端63の位置を通る楕円上において、基準状態の各血管端63の楕円座標系における回転角度座標(初期位置)をθ_tempとする。そして、血管位置認識部44は、初期位置θ_tempから、楕円の長軸に対して反時計回り方向にさらに、第1眼球回旋角度θ_irisだけ回転した位置(θ_input)を、マッチングエリア62を設定するための基準端点61とする。すなわち、血管位置認識部44は、基準端点61の回転角度座標θ_inputを、下記式(10)を用いて算出する。なお、各血管端63(各基準端点61)の位置を通る楕円の形状は、瞳孔輪郭の楕円形状と相似形である。
【0131】
なお、カメラ映像(眼球画像)のX−Y直交座標系における基準端点61の座標(x,y)は、眼球回旋の実計測時における基準端点61の回転角度座標θ_input(視線移動時の回旋成分)、実計測時の瞳孔楕円の中心座標(x0_input,y0_input)、実計測時の瞳孔楕円の傾きφ_input、並びに、基準端点61を通る楕円の長軸方向の座標h_input(長軸値)及び短軸方向の座標w_input(短軸値)を上記式(9)に代入することにより、求めることができる。眼球回旋の実計測時におけるこれらの瞳孔の楕円パラメータは、上記第1の実施形態と同様に、虹彩パターン認識処理部42により第1眼球回旋角度θ_irisを算出する前に予め取得される。
【0132】
次いで、血管位置認識部44は、基準端点61を中心とする所定範囲のエリアをマッチングエリア62として設定する。これにより、
図17に示すように、複数の基準端点61、及び、それらにそれぞれ対応する複数のマッチングエリア62が設定される。なお、
図17及び
図18に示す例では、基準端点61を中心とする40×40ピクセルの範囲をマッチングエリア62とする。また、この例では、基準情報取得時に取得する各血管端のテンプレート映像のサイズは、20×20ピクセルとする。
【0133】
次に、血管位置認識部44は、各マッチングエリア62の画像(入力映像と称する)と、対応する血管端のテンプレート映像とのマッチング処理を行う。なお、本実施形態では、血管位置認識部44は、テンプレートマッチング処理の前処理として、テンプレート映像及び入力映像のそれぞれに対して、画素値の最大値が255となり、最小値が0となるような処理を施し、血管端のコントラストを高くする。そして、血管位置認識部44は、コントラスト強調処理が施された映像を用いて、テンプレートマッチングを行う。具体的には、血管位置認識部44は、各マッチングエリア62内で対応するテンプレート映像を1ピクセルずつ移動(スライド)させながら、入力画像とテンプレート映像との類似度を算出する。
【0134】
なお、以下では、各マッチングエリア62内において、シフトされるテンプレート映像の中心位置(血管端の位置)を、ピクセル位置と称す。また、本実施形態では、各マッチングエリア62内において、眼球画像のX−Y直交座標系とは原点の異なるX−Y直交座標系を別途設ける。そして、各マッチングエリア62に設定されたX−Y直交座標系におけるテンプレート映像のピクセル位置(血管端の位置)を座標(x
t,y
t)で表す。この例では、各マッチングエリア62のサイズを40×40ピクセルとし、各テンプレート映像のサイズを20×20ピクセルとするので、ピクセル位置を示す座標(x
t,y
t)のパラメータx
tの変化範囲は0以上20未満となり、y
tの変化範囲は0以上20未満となる。
【0135】
また、本実施形態では、テンプレートマッチング処理による類似度の算出方法として、ZNCC(Zero-mean Normalized Cross-Correlation)を用いる。ZNCCを利用した類似度をR_znccとすると、各ピクセル位置における類似度R_zncc(x
t,y
t)は、下記式(11)〜(13)で求められる。
【0137】
上記式(11)〜(13)中の、T(i,j)は、テンプレート映像内における座標(i,j)の画素の画素値であり、I(i,j)は、座標(i,j)における入力映像の画素値であり、M及びNは、それぞれ、テンプレート映像の縦方向の幅(画素数)及び横方向の幅(画素数)である。この例では、各テンプレート映像のサイズを20×20ピクセルとするので、M=20、N=20となる。
【0138】
次いで、血管位置認識部44は、各テンプレート映像を対応するマッチングエリア62内でスライドさせながら(ピクセル位置を変化させながら)、各ピクセル位置における類似度R_zncc(x
t,y
t)を求める。血管位置認識部44は、この処理を設定された全てのマッチングエリア62に対して行う。すなわち、本実施形態では、基準状態の眼球画像内の検出領域50で検出された全ての血管端に対してテンプレートマッチング処理を行い、類似度R_znccを算出する。
【0139】
なお、上記式(11)では、入力画像及びテンプレート映像間の相互相関関数(上記式(11)の分子)を、入力映像における画素値の分散及びテンプレート映像における画素値の分散により除算して、類似度を正規化している。この場合、まつ毛や照明などのノイズが含まれる血管端の映像(入力画像及び/又はテンプレート映像)を用いた場合には、類似度R_znccは低くなる。一方、ノイズが含まれない血管端の映像を用いた場合には、類似度R_znccは、ノイズが含まれる血管端の映像を用いた場合の類似度R_znccに対して相対的に高くなる。それゆえ、すべての血管端に対して算出された類似度の中から、最も類似度R_znccが大きい血管端を選択し、該血管端を用いて眼球回旋角度θを算出することにより、ノイズの影響の少ない眼球回旋計測を行うことができる。
【0140】
そこで、本実施形態では、血管位置認識部44は、全てのマッチングエリア62に対して行われたテンプレートマッチング処理の結果に基づいて、類似度R_znccが最大となる血管端(テンプレート映像の中心)を眼球回旋測定用の血管端として選択し、その眼球回旋測定用の血管端のピクセル位置(x
t,y
t)を特定する。これにより、上述したノイズの影響が最も少ない血管端の位置を特定することができる。
【0141】
次いで、血管位置認識部44は、眼球回旋測定用の血管端のピクセル位置の座標(x
t,y
t)(マッチングエリア62に別途設定されたX−Y直交座標権における座標)を、カメラ映像(眼球画像)のX−Y直交座標系における座標(x,y)に変換する。これにより、カメラ映像(眼球画像)のX−Y直交座標系における眼球回旋測定用の血管端の位置情報が取得される。次いで、血管位置認識部44は、この回旋角度計測用の血管端の位置座標(x,y)を上記式(9)に代入し、上記式(9)の方程式系を逆算して、回旋角度計測用の血管端の、楕円座標系における回転角度座標θ_out(所定の血管の位置に関する第1の情報)を算出する。
【0142】
本実施形態では、血管位置認識部44は、上述のようにして、基準状態において検出された複数の血管端から、実計測時に最もノイズの影響が少ない血管端を自動的に選択し、その位置情報を取得する。
【0143】
(5)角度算出部の処理
本実施形態では、血管位置認識部44により選択された類似度R_znccが最大となる血管端(眼球回旋測定用の血管端)の回転角度座標θpが、初期位置θ_tempから実計測時の回転角度座標θ_outに変化した際の回転角度座標の変化量を眼球回旋角度θとする。それゆえ、角度算出部46は、回旋角度計測用の血管端における実計測時の回転角度座標θ_out(所定の血管の位置に関する第1の情報)から初期位置θ_temp(所定の血管の位置に関する第2の情報)を減算して、眼球回旋角度θ(=θ_out−θ_temp)を算出する。
【0144】
[眼球回旋測定処理のフローチャート]
次に、本実施形態の眼球回旋測定装置1により眼球回旋測定を行う際の具体的な処理手順を、
図19を参照しながら説明する。
図19は、本実施形態の眼球回旋測定装置1によって実行される眼球回旋測定手法の処理手順を示すフローチャートである。なお、
図19に示す本実施形態のフローチャートにおいて、
図11に示す上記第1の実施形態のフローチャートと同様の処理(ステップ)には、同じ符号を付して示す。
【0145】
まず、眼球回旋測定装置1は、上記第1の実施形態と同様にして、現在の計測モードが基準情報取得モードであるか否かを判定する(S100)。
【0146】
S100において、現在の計測モードが基準情報取得モードである場合には、S100はYes判定となる。この場合、眼球回旋測定装置1は、瞳孔変化や眼球回旋などがない状態(基準状態)において取得された被験体の眼球画像を解析し、各種基準情報を取得する(S202)。なお、
図19には示さないが、上述のように、本実施形態では、基準情報取得時に上記第1の実施形態と同様にして、基準状態における虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータを基準情報の一つとして取得する。
【0147】
ここで、S202の処理内容をより具体的に説明する。S202では、まず、眼球回旋測定装置1は、基準状態における眼球画像に対して、二値化処理を施し、該二値化処理が施された眼球画像中の瞳孔領域に楕円近似(楕円フィッティング処理)を行う。これにより、基準状態における瞳孔輪郭の楕円パラメータ(例えば、瞳孔輪郭の中心点、長軸値、短軸値、長軸の回転角度等に関する情報)が取得される。そして、眼球回旋測定装置1は、楕円近似により算出された瞳孔輪郭の各種楕円パラメータを用いて、瞳孔輪郭に沿った楕円座標系(基本の楕円座標系)を設定する(S202a)。
【0148】
次いで、眼球回旋測定装置1は、例えば
図12及び
図13で説明した手法に基づいて、白目−虹彩境界座標を算出する。次いで、眼球回旋測定装置1は、例えば
図14で説明したように、白目−虹彩境界座標を通る楕円(虹彩領域の外縁)に基づいて、虹彩領域の外縁近傍に血管端の検出領域50を設定する。そして、眼球回旋測定装置1は、設定された検出領域50内において、例えば
図15A〜
図15Cで説明した手法に基づいて、複数の血管端51を自動検出する(S202b)。なお、このS202bの処理では、各血管端51の位置情報が取得される。
【0149】
次いで、眼球回旋測定装置1は、例えば
図16に示すように、S202bで検出された各血管端51を中心とする所定サイズの領域52の画像をテンプレート映像として取得する(S202c)。
【0150】
次いで、眼球回旋測定装置1は、上記各種処理で取得した、各血管端51の位置情報、各血管端51に対応するテンプレート映像、虹彩の濃淡パターンの差分ベクトルデータ、瞳孔輪郭の楕円パラメータ(例えば、瞳孔輪郭の中心点、長軸値、短軸値、長軸の回転角度等に関する情報)等の情報を基準情報として例えばメモリ装置18または補助記憶装置16に格納する(S202d)。そして、眼球回旋測定装置1は、S202dの処理後、S202の処理を終了するともに、眼球回旋測定処理を終了する。
【0151】
ここで、再度、S100の処理に戻って、S100がNo判定の場合に行われる各種処理について説明する。
【0152】
S100において、現在の計測モードが基準情報取得モードでない場合、すなわち、現在の計測モードが眼球回旋の実計測モードである場合には、S100はNo判定となる。この場合、眼球回旋測定装置1は、S202の基準情報取得時と同一の被験体から取得された実計測時の眼球画像を解析し、実計測時の眼球画像において認識される虹彩の濃淡パターンに基づき第1眼球回旋角度θ_irisを算出する(S204)。なお、S204の処理において、眼球回旋測定装置1は、上述した虹彩パターン認識処理部42の処理動作に従って、第1眼球回旋角度θ_irisを算出する。
【0153】
次いで、眼球回旋測定装置1は、S204で算出した第1眼球回旋角度θ_irisと、基準情報として取得した各血管端51の位置情報(初期位置θ_temp)とを用いて、
図17及び
図18で説明したように、各血管端51のマッチングエリア62を設定するための基準端点61を算出する(S208)。具体的には、眼球回旋測定装置1は、上記式(10)に従って、各マッチングエリア62の基準端点61の楕円座標系における回転角度座標θ_inputを算出する。
【0154】
次いで、眼球回旋測定装置1は、各基準端点61を中心とした所定範囲(
図17及び
図18に示す例では40×40ピクセル)のマッチングエリア62を設定する(S208)。
【0155】
次いで、眼球回旋測定装置1は、各マッチングエリア62内の画像と、対応するテンプレート映像とのテンプレートマッチング処理を行う(S210)。このS210の処理では、眼球回旋測定装置1は、全てのマッチングエリア62(抽出された全ての血管端51)において、上記式(11)〜(13)を用いて類似度R_znccを算出する。
【0156】
次いで、眼球回旋測定装置1は、S210で算出された複数の類似度R_znccの中から、最大類似度を有する血管端51を眼球回旋測定用の血管端として選択(特定)する(S212)。本実施形態では、この処理により、眼球回旋測定用の血管端51のX−Y直交座標系における位置座標(x,y)が得られる。
【0157】
次いで、眼球回旋測定装置1は、S212で選択された眼球回旋測定用の血管端51のX−Y直交座標系における位置座標(x,y)を、楕円座標系における回転角度座標θ_outに変換する(S214)。なお、この血管端51の座標変換処理は、上記式(9)を用いて行われる。S214で算出された血管端51の回転角度座標θ_outが、最も初期画像の血管端と合致する眼球回旋後の血管端51の角度位置である。
【0158】
そして、眼球回旋測定装置1は、S212で選択された眼球回旋測定用の血管端51の基準状態における回転角度座標(初期位置θ_temp)と、眼球回旋の実計測時にS214で算出された眼球回旋測定用の血管端51の回転角度座標θ_outとを用いて、最終的な眼球回旋角度θを算出する(S216)。
【0159】
本実施形態では、上述のようにして眼球回旋を測定する。なお、本実施形態では、上述した眼球回旋測定処理を、対応する眼球回旋測定プログラムを眼球回旋測定装置1に実装し、該眼球回旋測定プログラムをCPU10により実行することにより実現してもよい。
【0160】
上述した本実施形態の眼球回旋測定技術では、上記第1の実施形態と同様に、周囲に対するコントラストが大きく、かつ、瞳孔収縮による影響が小さい血管端(結膜血管の端点)の位置に基づいて眼球回旋角度θを算出する。また、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様に、瞼の動き等による影響を受け難い虹彩領域の外縁付近に存在する血管端の位置に基づいて眼球回旋角度θを算出する。それゆえ、本実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、より高精度に眼球回旋を計測することができる。
【0161】
また、本実施形態では、上述のように、虹彩の濃淡パターンを用いた眼球回旋測定手法により算出した第1眼球回旋角度θ_irisを用いて、マッチングエリアの範囲を絞り込む。それゆえ、本実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、高速かつ低コストで眼球回旋測定を可能とするとともに、瞳孔径変化時にも高精度及び高分解能で眼球回旋角度を計測することができる。
【0162】
さらに、本実施形態では、複数の血管端(結膜血管端)からノイズの影響が最も少ない血管端を眼球回旋測定用の血管端として自動検出することができる。それゆえ、本実施形態では、眼球回旋をより一層、高精度にかつ確実に計測することができる。
【0163】
[評価実験]
ここで、上述した本実施形態の眼球回旋測定技術により得られる各種効果を、実際に行った評価実験の結果に基づいてより具体的に説明する。この評価実験では、3名の被験者において、瞳孔径の変化と眼球回旋運動とが同時に発生している状態で眼球回旋角度θを算出し、その平均誤差及び標準偏差を計測した。
【0164】
具体的には、まず、瞳孔変化を発生させるために、被験者を暗室に待機させ、5〜6分程度暗順応させることで、瞳孔を拡大させた。そして、瞳孔拡大時(被験者を暗順応させた状態)から動画像の取り込みを開始し、動画像の途中で被験者の瞳孔に向けて白色LED照明を照射して縮瞳させた。また、この評価実験では、眼球回旋運動を生じさせるために、動画像の取得処理と同時に、被験者の頭部を横に傾け、前庭動眼反射による眼球回旋運動を誘発した。
【0165】
次いで、得られた200枚の動画像に対して、目測による眼球回旋角度θの真値と、
図1で示した眼球回旋測定システムにより算出した眼球回旋角度θの計測値との平均誤差及び標準偏差を求めた。なお、この評価実験で用いた眼球画像の画像解像度は740×320ピクセルであり、虹彩領域の外縁近傍の検出領域50で検出した血管端51の数は10個であった。また、眼球回旋角度θの分解能は、瞳孔中心位置から結膜血管端までの長さに依存するが、約0.25度程度である。
図20A及び
図20Bに、評価実験の結果を示す。
【0166】
図20Aは、瞳孔の長軸の長さに応じて、瞳孔サイズを小、中、大の三段階に変化させて、各瞳孔サイズにおいて計測した眼球回旋角度θの平均誤差(
図20A中の回旋角度誤差)及び標準偏差の値を示す。この結果から明らかなように、本実施形態では、瞳孔径が変化した場合であっても、眼球回旋角度θの平均誤差が0.24度以下となるような精度で眼球回旋測定が可能であり、分解能に近い値の平均誤差が得られることが分かる。
【0167】
また、
図20Bは、本実施形態の眼球回旋測定手法により得られた眼球回旋角度θの平均誤差を、虹彩の濃淡パターンに基づく従来の眼球回旋測定手法により得られた眼球回旋角度θの平均誤差と比較した図である。なお、
図20Bに示す棒グラフの縦軸は、眼球回旋角度θの平均誤差(
図20B中の回旋角度誤差)であり、横軸は、瞳孔サイズである。
【0168】
図20Bの評価結果から明らかなように、従来の眼球回旋測定手法では、瞳孔径(瞳孔サイズ)が変化すると、回旋角度誤差も大きく変化する。特に、従来の眼球回旋測定手法では、瞳孔径が大きくなると、回旋角度誤差が大きくなることが分かる。
【0169】
一方、本実施形態の眼球回旋測定手法では、
図20Bから明らかなように、瞳孔径(瞳孔サイズ)が変化しても、回旋角度誤差の変化は小さく、かつ、回旋角度誤差の値も0.24度以下となる。すなわち、本実施形態では、瞳孔径の変化の影響を受けることなく、高精度で、眼球回旋を計測できることが分かる。
【0170】
上述した評価結果からも、本実施形態の眼球回旋測定技術では、十分の数度程度の分解能で眼球回旋角度θを測定することができ、従来の手法(虹彩の濃淡パターンを用いた手法)に比べて、より高精度に眼球回旋を計測できることが分かる。
【0171】
<3.各種変形例及び応用例>
本発明に係る眼球回旋測定装置、眼球回旋測定手法、及び、眼球回旋測定プログラムは、上記各種実施形態で説明した例に限定されない。特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の変形例も本発明に含まれる。例えば、次のような各種変形例及び応用例も本発明に含まれる。
【0172】
[変形例1]
上記第2の実施形態では、虹彩画像の濃淡パターンに基づく従来の眼球回旋測定手法を用いて第1眼球回旋角度θ_irisを算出し、そして、第1眼球回旋角度θ_irisを用いて、眼球回旋測定用の血管端を特定するためのマッチングエリアの範囲を絞り込む例(
図18参照)を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1眼球回旋角度θ_irisを算出せずに、基準情報取得時に検出された血管端の位置情報から、直接、該血管端を含むマッチングエリアを設定してもよい。この場合、上記第2の実施形態で設定したマッチングエリア62より広いサイズのマッチングエリアを設定する必要がある。そのようなマッチングエリアの設定手法の一例を
図21に示す。
【0173】
図21は、変形例1におけるマッチングエリア72の設定手法の概要を示す図である。なお、
図21では、説明を簡略化するため、一つの血管端71及びそれに対して設定されるマッチングエリア72のみを示す。
【0174】
この例では、基準情報取得時に虹彩領域の外縁近傍で検出された各血管端71を通る楕円上において、各血管端71(対象端点)の初期位置θ_tempに対して±Δθの角度範囲に渡って所定幅(2Δh)で延在した領域をマッチングエリア72とする。なお、マッチングエリア72の楕円上の回転方向の範囲を規定する角度幅Δθ、及び、楕円の径方向の範囲を規定する幅Δhは、例えば、回旋運動を含む眼球運動時に想定される血管端71の最大移動量を考慮して適宜設定することができる。例えば、角度幅Δθを約20度とし、幅Δhを約20ピクセルとすることができる。
【0175】
なお、この例におけるマッチングエリア72の設定範囲は、
図21に示す例に限定されない。例えば、基準情報取得時に虹彩領域の外縁近傍で検出された各血管端71を通る楕円の全周に渡って所定幅(2Δh)で延在した領域をマッチングエリアとして設定してもよい。
【0176】
この例の手法においても、上述した第2の実施形態と同様に、周囲に対するコントラストが大きく、かつ、瞳孔収縮による影響が小さい血管端(結膜血管の端点)の位置に基づいて眼球回旋角度θを算出する。それゆえ、この例の眼球回旋測定技術においても、上記第2の実施形態と同様に、より高精度に眼球回旋を計測することができる。
【0177】
なお、この例では、基準情報取得時に検出された血管端の位置情報から、直接、該血管端を含むマッチングエリアを設定するので、上述のように、マッチングエリアも広くなる。それゆえ、眼球回旋計測の高速性という観点では、上記第2の実施形態の方が優位である。
【0178】
[変形例2]
上記第1の実施形態では、眼球回旋の実計測時に取得された眼球画像において認識された複数の血管から対応血管(基準状態の眼球画像において選択された所定の血管に対応する血管)を特定する際、第1眼球回旋角度θ1を用いて求められた血管端の基準端点(O
ref)に最も近い対象端点を有する血管を対応血管として選択したが、本発明はこれに限定されない。上記第1の実施形態に、上記第2の実施形態で説明したテンプレートマッチング処理を適用して、眼球回旋の実計測時に取得された眼球画像において対応血管を特定してもよい。
【0179】
この場合には、基準状態取得時に、基準状態の眼球画像において選択された所定の血管(眼球回旋測定用の血管)の対象端点O
tgt0を中心とする所定サイズのテンプレート映像を取得する。また、眼球回旋の実計測時には、第1眼球回旋角度θ1を用いて求められた各血管端の基準端点(O
ref)を中心点とする所定サイズのマッチングエリアを設定する。その後は、上記第2の実施形態と同様にして、マッチングエリアとテンプレート映像とのマッチング処理を行い、実計測時に取得された眼球画像において認識された複数の血管から対応血管を特定する。
【0180】
また、上記第1の実施形態に、上記変形例1で説明したテンプレートマッチング処理を適用して、眼球回旋の実計測時に取得された眼球画像において認識された複数の血管から対応血管を特定してもよい。
【0181】
この場合もまた、基準状態取得時に、基準状態の眼球画像において選択された所定の血管(眼球回旋測定用の血管)の対象端点O
tgt0を中心とする所定サイズのテンプレート映像を取得する。また、眼球回旋の実計測時には、基準状態において選択された所定の血管の対象端点O
tgt0を中心点とする所定サイズのマッチングエリアを設定する。なお、この際のマッチングエリアは、
図21で説明したように、所定の血管の対象端点O
tgt0を通る楕円上に沿って設けられる。その後は、上記変形例1と同様にして、マッチングエリアとテンプレート映像とのマッチング処理を行い、実計測時に取得された眼球画像において対応血管を特定する。
【0182】
[その他の各種変形例]
上記各種実施形態及び各種変形例では、血管端(結膜血管の瞳孔側の端点)を検出する領域を、虹彩領域の外側(虹彩領域の外縁を含む)に設定する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。血管端の検出領域は、虹彩領域の外縁近傍であれば、任意の領域に設定することができる。例えば、検出領域の一部が虹彩領域の外縁より内側(瞳孔側)の領域を含むように検出領域を設定してもよい。
【0183】
また、上記各種実施形態及び各種変形例では、結膜血管の端点の位置に基づいて眼球回旋角度θを算出する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、基準状態の眼球画像における所定の血管の延在方向と、実計測時の眼球画像における所定の血管に対応する血管の延在方向とを比較して眼球回旋角度θを算出してもよい。
【0184】
[応用例]
上述した本発明の技術は、眼球回旋の測定技術だけでなく、例えば視線検出等の眼球運動全般の測定技術にも適用可能であり、同様の効果が得られる。