【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0048】
[実施例1]D−サクシニラーゼのスクリーニング
本発明菌株は、以下の方法により土壌中よりスクリーニングを行い単離した。培地として、硝酸アンモニウム0.2%、リン酸二水素カリウム0.2%、リン酸水素二ナトリウム0.3%、硫酸マグネシウム・7水塩0.05%、酵母エキス0.01%、ポリペプトン0.01%、誘導物質N−サクシニル−D−フェニルアラニン0.2%を含むpH7.5の培地に少量の土壌を加え、35℃で試験管振盪培養することで、土壌より集積培養を数回実施した。同様の培地で寒天2%を含むシャーレ培地を作成し、集積培養を行った培養液をプレートアウトし、単離コロニーとした。単離されたコロニーを、再度上記培地で試験管振盪培養し、以下の方法でD−サクシニラーゼ活性を持った菌株をセレクトした。
【0049】
HPLC分析による産生菌の選抜:コロニー単離された菌株培養液中の、N−サクシニル−D−フェニルアラニンに対して強い活性を示す菌株をセレクトするため、下記のHPLCによる分析を行った。
カラム:Inertsil ODS−2(5μm、4.6mmφ×150mm)(GL Sciences Inc.)、移動相:pH2.3リン酸水溶液:アセトニトリル=80:20、温度:40℃、流速:1.0mL/min、検出:210nmの条件で、培養後遠心分離した培養上清液中のN−サクシニル−D−フェニルアラニンの分解とD−フェニルアラニンの生成を、N−サクシニル−D−フェニルアラニン、及びD−フェニルアラニンが溶出される時間のピーク面積より分析した。
このような方法を経て得られた菌株は、下記の菌学的性質を有するものであった。この菌株をクプリアビダス・エスピー.P4−10−C(Cupriavidus sp.P4−10−C)と命名した。
【0050】
(細菌学試験I)
1.細胞形態:桿菌(0.7−0.8×1.2−2.0μm)
2.グラム染色性:陰性
3.胞子の有無:陰性
4.運動性:あり
5.コロニー状態 培地:Nutrient agar
培養時間:24Hr
直径:2.0−3.0mm
色調:淡黄色
形:円形
隆起状態:レンズ状
周縁:全縁
表面の形状:スムーズ
透明度:不透明
粘調度:バター状
6.生育温度試験:37℃ 生育
45℃ 生育
7.カタラーゼ反応:陽性
8.オキシダーゼ反応:陽性
9.グルコースからの酸/ガス生産(酸生産/ガス生産):陰性/陰性
10.O/Fテスト(酸化/発酵):陰性/陰性
【0051】
【表1】
【0052】
(細菌学試験III)
1.クエン酸の利用(Simmons法):陽性
2.でんぷんの加水分解:陰性
3.リパーゼ活性(Tween20):陰性 4.D−リボースからの酸産生:陰性
5.イノシトールからの酸産生:陰性
6.マンニトールからの酸産生:陰性
7.L−アラビノースからの酸産生:陰性
【0053】
以上の生化学的、菌学的諸性質の結果、運動性を有するグラム陰性桿菌で、グルコースを酸化せずカタラーゼ及びオキシダーゼが陽性を示し、Cupriavidusの一般性状と一致する。
API試験の結果、C.gilardiiの性状と類似する点も多いが、クエン酸の利用、イノシトールを酸化しない点は異なる。
【0054】
【表2】
【0055】
さらに、BLASTをもちいたアポロンDB−BA 4.0に対する相同性検索上位株の16SrDNAによる簡易分子系統の結果、C.gilardiiの16SrDNAとクラスターを形成し近縁である事を示した。
しかし、配列間に21塩基の相違点があり、C.gilardiiに近縁なCupriavidus sp.とする事が妥当であった。
【0056】
【表3】
【0057】
この事から、自然界より新たに発見した微生物はクプリアビダス(Cupriavidus)属に属する細菌に分類された。なお、本発明で発見した菌株は、クプリアビダス・エスピー.P4−10−C(Cupriavidus sp.P4−10−C)として、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−11387として国際寄託されている(国際寄託日:2011年6月28日)。
【0058】
[実施例2] クプリアビダス・エスピー.P4−10−C株の生産するD−サクシニラーゼの精製
クプリアビダス・エスピー. P4−10−C株を、普通ブイヨン“栄研”1.8%、粉末酵母エキスD−3 0.2%(和光純薬工業(株)製、Code:390−00531)、カザミノ酸「ダイゴ」0.1%(和光純薬工業(株)製、Code:392−00655)、リン酸水素二カリウム0.3%、グルコース0.2%を添加したpH7.5の培地で、500mLフラスコに200mL培地を加えオートクレーブ滅菌した培地27本を用い35℃、150r/min、回転攪拌で2日間培養した。培養終了時の濁度(ABS660nm)は2.7で、pH8.6であった。
培養後、冷却遠心分離機(日立工機(株)製)を用い、8000r/minで30分間遠心分離を行い集菌した。集菌した菌体を、20mmol/L HEPES−NaOH(pH7.5)緩衝液で洗浄した後、再度遠心分離し、菌体36gを得た。
取得菌体量の約3倍の20mM HEPES−NaOH(pH7.5)緩衝液100mLで懸濁後、氷冷下の超音波細胞破砕装置 BD−1(東湘電気(株)製)を用い、5分サイクルで10回超音波破砕を行った。破砕後、高速冷却遠心機(日立工機(株)製)で8000r/min、4℃、60分間遠心分離し、上清液178mLを得た。これを粗酵素液とした。
なお、本菌株は培養時にN−サクシニル−D−フェニルアラニンを添加しなくともD−サクシニラーゼを産生した。
【0059】
粗酵素液を透析チューブに詰め、20mM HEPES−NaOH(pH7.5)1.2M硫酸アンモニウム含有緩衝液中に投入し、低温室内(4℃)で攪拌を行いながら、数回緩衝液を交換し一昼夜透析を行った。透析終了後、高速冷却遠心機(日立工機(株)製)で4000r/min、4℃、30分間遠心分離し、上清液100mLを得た。この上清液を、予め20mM HEPES−NaOH(pH7.5)1.2M硫酸アンモニウム含有緩衝液で平衡化したButyl−TOYOPEARL 650Mカラム(東ソー(株)製)(3.2cmφ×20cm)に供して目的酵素を吸着させ、20mM HEPES−NaOH(pH7.5)1.2M硫酸アンモニウム含有緩衝液と20mM HEPES−NaOH(pH7.5)緩衝液を総量2000mL用い、直線濃度勾配法で酵素を溶出し、D−サクシニラーゼ活性のある画分を回収した。Butyl−TOYOPEARLで得られた活性画分を70%硫酸アンモニウム飽和にて濃縮し、遠心分離10,000r/min、4℃、60分間にて沈殿を回収した。回収した沈殿を、5mMリン酸緩衝液(pH7.2)で透析した。この透析した酵素液33mLを、予め5mMリン酸緩衝液(pH7.2)で平衡化したMacro−Prep CHT TypeI(BIO−RAD社製)ハイドロキシアパタイトカラム(1.6cmφ×20cm)に吸着させた。次に、5mMリン酸緩衝液(pH7.2)と300mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.2)を総量150mL用いて直線濃度勾配法で酵素を溶出し、D−サクシニラーゼ活性のある画分を回収した。Macro−Prep CHT TypeIにより得られた活性画分130mLを、ビバスピン 20(ザルトリウス(株)製)分画分子量10000の限外ろ過膜を用いて、20mLに濃縮した。回収した濃縮液を、20mM HEPES−NaOH(pH7.5)酸緩衝液で透析した。この透析液を、予め20mM HEPES−NaOH(pH7.5)緩衝液で平衡化したHi Trap Q F.F.カラム5mL(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)に供し、続いて20mM HEPES−NaOH(pH7.5)と20mM HEPES−NaOH(pH7.5)0.3M塩化ナトリウム酸緩衝液を総量200mL用いて直線濃度勾配法で酵素を溶出し、D−アミノアシラーゼ活性のある画分を回収した。
【0060】
D−サクシニラーゼ活性が確認された画分の少量を定法のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)分析に供し、不純蛋白質が混在しない画分を回収し、新規D−サクシニラーゼを得た。精製後の電気泳動結果を
図1に示す。
【0061】
[実施例3]クプリアビダス・エスピー.P4−10−C株の生産するD−サクシニラーゼの酵素学的性質
実施例2で得られたD−サクシニラーゼの酵素学的性質を、以下の方法で測定した。
【0062】
1.分子量
定法のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SuperSep Ace 10−20% 和光純薬社製)で測定を行った。タンパク質分子量マーカー(積水メディカル(株)製、タンパク質分子量マーカー「第一」・III)(このマーカーは、フォスフォリラーゼb(97,400ダルトン)、ウシ血清アルブミン(66,267ダルトン)、アルドラーゼ(42,400ダルトン)、カルボニックアンヒドラーゼ(30,000ダルトン)、トリプシンインヒビター(20,100ダルトン)、及びリゾチーム(14,400ダルトン)を含む)の移動度より分子量を求めた。分子量は50〜70kダルトンと20〜30kダルトンのサブユニットを含有するヘテロダイマーであった(
図1)。
【0063】
2.基質特異性
前記したD−アミノ酸オキシダーゼ法(ただし、N−サクシニル−D−トリプトファン、N−サクシニル−D−フェニルアラニン、N−サクシニル−D−セリンに対する活性値を測定する場合は、反応基質として10mM N−サクシニル−D−バリンではなく、10mM N−サクシニル−D−トリプトファン、10mM N−サクシニル−D−フェニルアラニン、10mM N−サクシニル−D−セリンを使用し、それぞれ測定する。)並びに以下に記載のHPLC分析法に則り、以下のN−サクシニル−D−アミノ酸を反応させて確認を行った。
アミノ酸オキシダーゼが作用しにくいN−サクシニル−D−アスパラギン酸、N−サクシニル−D−アスパラギン、N−サクシニル−D−グルタミン酸に対しては、HPLC測定によりカラム:Inertsil ODS−2(5μm、4.6mmφ×150mm)(GL Sciences Inc.)、移動相:pH2.3リン酸水溶液:アセトニトリル=90:10、温度:40℃、流速:0.5mL/min、検出:210nmの条件で、D−アミノ酸の検量線を作成し、反応液を分析し、D−アミノ酸濃度を測定した。
基質側鎖のタイプによる活性の差異を検討するため、カルボキシ基を持ったN−サクシニル−D−グルタミン酸、N−サクシニル−D−アスパラギン酸、カルボキシ基がアミド化されているN−サクシニル−D−アスパラギン、疎水性の芳香環を有するN−サクシニル−D−フェニルアラニン、N−サクシニル−D−トリプトファン、疎水性の脂肪族炭化水素基を有するN−サクシニル−D−バリン、親水性のヒドロキシ基を有するN−サクシニル−D−セリンについて実験を行なった。
その結果を表4に示す。表4から明らかなように、側鎖による差異はあるものの、実施例2で得られたD−サクシニラーゼは、様々なタイプのアミノ酸に対し酵素活性を示すことが確認された。
【0064】
【表4】
【0065】
さらに、10mMの各種N−サクシニル−D−アミノ酸をD−アミノ酸へ加水分解する能力について、実施例2で得られたD−サクシニラーゼと公知D−アミノアシラーゼアマノ(和光純薬工業株式会社 コード:329−61063、特開2001−000185、アルカリゲネス・キシロースオキシダンス・サブスピーシーズ・キシロースオキシダンス A−6株由来)を比較した。
その結果を表5に示す。表5から明らかなように、実施例2で得られたD−サクシニラーゼは、基質により異なるが、公知のD−アミノアシラーゼアマノより約1000倍以上優れていた。
測定方法は、実施例2で得られたD−サクシニラーゼについては、上述のD−アミノ酸オキシダーゼ並びにHPLC分析法に則って行った。また、公知D−アミノアシラーゼアマノについては、0.1mMの塩化コバルトを含む溶液中で反応させ、すべてHPLC分析法に則って行った。
実施例2で得られたD−サクシニラーゼのN−サクシニル−D−アミノ酸からD−アミノ酸への加水分解活性は12U/mg以上である。
【0066】
【表5】
【0067】
3.温度安定性及び至適温度
実施例2で得られたD−サクシニラーゼ酵素液を用いて、D−アミノ酸オキシダーゼ法で温度安定性と至適温度を調べた。温度安定性は酵素液(0.2mg/mL)をpH7.5のリン酸緩衝溶液中で4℃、40℃、50℃、55℃、60℃、65℃、又は70℃で60分間処理し、その酵素活性を求めた。至適温度は、酵素液(0.01mg/mL)をpH7.5のリン酸緩衝溶液中で反応温度を30℃から60℃まで変化させ、その酵素活性を求めた。温度安定性の評価は4℃で処理した場合を100%とした残存相対活性で示した。また、至適温度の評価は50℃における酵素活性を100%とした相対活性で示した。結果を
図2(温度安定性)及び
図3(至適温度)に示す。
図2から明らかなように、本酵素は、50℃の熱処理によってもその酵素活性は、4℃で処理したときの90%以上の活性を維持することが分かった。また、
図3から明らかなように、本酵素の至適温度は45℃から50℃付近である。なお、至適温度とは、酵素濃度(0.01mg/mL)、リン酸緩衝溶液(pH7.5)において、30℃、40℃、45℃、50℃、60℃でそれぞれ5分間反応させた場合の活性が、最も高かった温度を100%としたときの相対値で80%以上である温度範囲を示す。
【0068】
4.至適pH
実施例2で得られたD−サクシニラーゼ酵素液(0.01mg/mL)を用いて、上記記載のHPLC分析法で至適pHを調べた。緩衝溶液にはリン酸緩衝溶液(pH5.5−pH7.5)、Tris−HCl(pH7.5−pH8.5)、ホウ酸緩衝溶液(pH8.5−pH10.0)を用い、それぞれのpHで37℃、60分間反応させた後、その酵素活性を求めた。pH安定性の評価は、pH=7.45の場合を100とした相対活性で示した。結果は
図4に示す。
図4から明らかなように、本酵素は、pH=6.99〜8.40で、pH=7.45で処理したときの80%以上の活性を示した。
【0069】
5.金属イオンの影響
実施例2で得られたD−サクシニラーゼ酵素液(0.01mg/mL)を用いて、以下の表6に示す様々な2価の金属イオンをそれぞれ終濃度1mM存在下で37℃、60分間反応させ、D−サクシニラーゼ活性を上記記載のHPLC分析法で測定し、無添加の酵素活性を100とした相対活性で示した。結果を表6に示す。表6から明らかなように、本酵素活性は、金属イオンによる顕著な影響を受けなかった。
【0070】
【表6】
【0071】
[実施例4]クプリアビダス・エスピー.P4−10−C株由来のD−サクシニラーゼ遺伝子の単離
1.部分配列の取得
SDS−PAGE後に該酵素に相当するバンドをアクリルアミドゲル上からPVDF膜(Bio−Rad:シーケーブロットPVDFメンブレン)に転写し、N末端アミノ酸配列分析、内部アミノ酸配列分析を行い、約60kDaのバンドから内部アミノ酸配列;SNNWVIAGSRTSTGR、約23kDaのバンドからN末端アミノ酸配列;APPTDRYAAPGLEKPと内部アミノ酸配列;MARDFGPAYVDGDRRを得た。これらの同定したアミノ酸配列をもとに縮重プライマーを合成し(表8の配列番号9、10)、クプリアビダス・エスピーP4−10−Cより公知の方法で抽出したゲノムDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼKOD−Plus(東洋紡製)を用いて推奨する条件のもとでPCRを行った。該PCRで増幅されたPCR産物をクローニングキットTarget Clone−Plus(東洋紡製)を用いて、そのプロトコールに従って操作を行い、ベクターpBluescriptにクローニングし、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)DH5α株コンピテントセル(東洋紡製)に形質転換し、形質転換体を取得した。該形質転換体をLB培地で培養し、プラスミドを抽出し、BigDye(商標登録)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)により遺伝子配列を確認し、部分配列575bpを取得した。
【0072】
2.クプリアビダス・エスピー.P4−10−C株からのゲノムDNAの取得
培養液50mLの菌体を遠心分離操作に供し、菌体をゲノム抽出キット(東洋紡:Genomic DNA purification Kit)にて、そのプロトコールに従ってゲノム精製を行った。しかし、本キットで精製したゲノムDNAでは全長配列のクローニングのためのPCR反応において、長鎖のDNA断片を増幅させることが出来なかった。PCR条件を検討しても改善は見られなかったため、これはゲノムDNAの純度に問題があると考え、「current protocols in molucular biology」に記載されている公知の方法に基づいて、再びゲノムDNAの抽出を行った。まず、50mLの培地で培養し、集菌した菌体をTE(50mM Tris−HCl(pH8.0)、20mM EDTA)に懸濁して洗浄し、遠心分離操作により、菌体を回収した後、再びこの菌体を11.3mLのTEに懸濁した。さらに、この懸濁液に0.06mLの20mg/mLプロテイナーゼK(ナカライテスク製)、及び0.6mLの10%SDS溶液を加えた後、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、2mLの5M NaCl溶液を加え十分に攪拌した。その後、1.6mLのCTAB/NaCl溶液(10% CTAB/0.7M NaCl)を混合し、65℃で10分間インキュベートした。インキュベート後、等量の25:24:1 フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液で除タンパクを行った。通常の細菌であれば、この工程で水層に濁りは見られないが、本菌の場合、濁りが残っていた。そこで、もう一度、等量の25:24:1 フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液で除タンパクを行った。これにより、濁りが完全に除去されたので、続いて、分離した水層に対して等量の24:1 クロロホルム/イソアミルアルコールを加えて混合し、水層を回収した。これと等量のイソプロパノールを水層に加えてDNAを沈殿させ、回収した。沈殿したDNAを0.5mLのTEに溶解した後、5μlの10mg/mL RNaseを加えて、37℃で一晩反応させた。反応後、等量の25:24:1フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液で除タンパクを行い、24:1 クロロホルム/イソアミルアルコールを加えて攪拌し、水層を回収した。この操作をさらに2回行った後に得られた水層に終濃度0.4Mとなるように3M酢酸ナトリウム溶液(pH5.2)を加え、さらに2倍容のエタノールを加えた。沈殿となって生じたDNAを回収し、70%エタノールで洗浄、乾燥させ、1mLのTEに溶解させた。
【0073】
3.全長配列の取得
次に上記のようにして得られたゲノムDNAを用いて全長配列を取得するために以下の操作を行った。TAKARA LA PCR
In Vitro Cloning Kit(タカラバイオ)を用いて、そのプロトコールに従って操作を行い、既知配列からC末端方向へのDNA断片を増幅させることに成功し、開始コドンを含むN末端から既知の部分遺伝子配列までの塩基配列を決定した。しかしながら、上記キットではC末端側の塩基配列を決定することができなかったため、既知の塩基配列に基づき、遺伝子の外側方向に向けた2種類のプライマー(表8の配列番号11、12)を新たに設計した。このプライマーを用い、先に得たDNAを鋳型にInverse PCR法を行った。これにより、既に取得した部分遺伝子より外側の遺伝子部分を含むDNA断片を取得し、C末端配列を決定した。続いて、酵素のN末端より上流と推定される部分にNdeIの切断部位を結合させた配列を有するDNAプライマー(表8の配列番号34)とC末端より下流と推定される部分にEcoRIの切断部位を結合させた配列を有するDNAプライマー(表8の配列番号35)を用いて、この配列の間のDNAを、先に得たDNAを鋳型にしたPCRにより増幅することで、D−サクシニラーゼ遺伝子の全長を含むDNA断片を取得した。得られたDNA断片の塩基配列を解析し、D−サクシニラーゼ遺伝子の全長が含まれていることを確認し、そのアミノ酸配列を推定した。
【0074】
本発明で得られたクプリアビダス・エスピー.P4−10−C株由来D−サクシニラーゼ遺伝子をNCBI−BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)により検索すると、Cupriavidus melallidurans CH34のpeptidase S45, penicillin amidase(ACCESSION No.YP_587763)として登録されている遺伝子と76%の相同性を示した。このpenicillin amidaseが属しているpenicillin acylaseファミリーは、ペニシリンGやセファロスポリンC等を加水分解する酵素であり、このような酵素がN−サクシニル−D−アミノ酸を加水分解することを推定することは困難であり、機能から予測してホモロジー検索により本遺伝子を取得することは不可能に近い。また、これまでN−サクシニル−D−アミノ酸を加水分解する酵素は知られておらず、本発明におけるD−サクシニラーゼは、新規な酵素であるといえる。また、本発明においてクローニング及びN−サクシニル−D−アミノ酸の加水分解能の確認を行った同属のクプリアビダス・メタリデュランス、クプリアビダス・ネケタ−及び、近縁属のラルストニア・ピケッティにおけるアミノ酸相同性比較においても約50%から約80%と、近縁属種においてもアミノ酸配列が大きく異なることが分かった(表7)。
【0075】
【表7】
【0076】
[実施例5]クプリアビダス・メタリデュランス由来のD−サクシニラーゼの遺伝子の単離
独立行政法人製品評価技術基盤機構よりクプリアビダス・メタリデュランス(NBRC番号101272)の菌株を取得し、液体培地で培養した。培養して得た菌体から、ゲノム抽出キット(東洋紡:Genomic DNA purification Kit)によりゲノムを抽出した。遺伝子特異的プライマーを合成し(表8の配列番号13、14)、得られたゲノムを鋳型にDNAポリメラーゼKOD−Plus(東洋紡製)を用いたPCRによって遺伝子を取得した。クローニングキットTarget Clone−Plus(東洋紡製)を用いて、そのプロトコールに従って操作を行い、ベクターpBluescriptにクローニングし、組換え発現プラスミドpDSACmを取得した。pDSACmをエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5α株コンピテントセル(東洋紡製)に形質転換し、形質転換体を取得した。該形質転換体をLB培地で培養し、プラスミドを抽出し、BigDye(商標登録)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)により遺伝子配列を確認し、アミノ酸配列を推定した。シークエンスに用いたプライマーを表8に示す(表8の配列番号19,20,21,22,23,24)。
【0077】
[実施例6]クプリアビダス・ネケタ−由来のD−サクシニラーゼ遺伝子の単離
独立行政法人製品評価技術基盤機構よりクプリアビダス・ネケター(NBRC番号102504)の菌株を取得し、液体培地で培養した。培養して得た菌体から、ゲノム抽出キット(東洋紡:Genomic DNA purification Kit)によりゲノムを抽出し、遺伝子特異的プライマーを合成し(表8の配列番号15、16)、以下、実施例5に記載の方法と同様にして、遺伝子配列全長を取得し、アミノ酸配列を推定した。シークエンスに用いたプライマーを表8に示す(表8の配列番号25,26,27,28,29)。
【0078】
[実施例7]ラルストニア・ピケッティ由来のD−サクシニラーゼ遺伝子の単離
独立行政法人製品評価技術基盤機構よりラルストニア・ピケッティ(NBRC番号102503)の菌株を取得し、液体培地で培養した。培養して得た菌体から、ゲノム抽出キット(東洋紡:Genomic DNA purification Kit)によりゲノムを抽出し、遺伝子特異的プライマーを合成し(表8の配列番号17、18)、以下、実施例5に記載の方法と同様にして、遺伝子配列全長を取得し、アミノ酸配列を推定した。シークエンスに用いたプライマーを表8に示す(表8の配列番号30,31,32,33)。
【0079】
【表8】
【0080】
[実施例8]各種D−サクシニラーゼ遺伝子を発現する組換えプラスミドの作成
1.クプリアビダス・エスピー.P4−10−C株由来のD−サクシニラーゼ遺伝子の組換えプラスミド
実施例4で得られたD−サクシニラーゼ遺伝子のN末端及びC末端部分にそれぞれ制限酵素NdeI及びEcoRIの切断部位を結合させた配列を有するプライマー(表8の配列番号34、35)を用いて、この間のDNAを、実施例4で得たゲノムDNAを鋳型にしたPCRにより増幅することで、オープンリーディングフレームを含むDNA断片を取得した。このDNA断片を制限酵素NdeIとEcoRIで切断し、同酵素で切断したベクタープラスミドpBSKと混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ライゲーションハイ)を加えてインキュベーションすることにより、ライゲーションを実施した。このようにしてD−サクシニラーゼ遺伝子を大量に発現できるように設計された組換えプラスミドpBSKDSAP4−10−Cを取得した。
【0081】
2.クプリアビダス・メタリデュランス由来のD−サクシニラーゼ遺伝子の組換えプラスミド
実施例5で得られたpDSACmを制限酵素NdeI及びBamHIで処理し、DSA遺伝子を切り出し、同酵素で切断したベクタープラスミドpBSKと混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ライゲーションハイ)を加えてインキュベーションすることにより、ライゲーションを実施した。このようにしてD−サクシニラーゼ遺伝子を大量に発現できるように設計された組換えプラスミドpBSKDSACmを取得した。
【0082】
3.クプリアビダス・ネケター由来のD−サクシニラーゼ遺伝子の組換えプラスミド
実施例6で得られたpDSACnを制限酵素NdeI及びPstIで処理し、DSA遺伝子を切り出し、同酵素で切断したベクタープラスミドpBSKと混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ライゲーションハイ)を加えてインキュベーションすることにより、ライゲーションを実施した。このようにしてD−サクシニラーゼ遺伝子を大量に発現できるように設計された組換えプラスミドpBSKDSACnを取得した。
【0083】
4.ラルストニア・ピケッティ由来のD−サクシニラーゼ遺伝子の組換えプラスミド
実施例7で得られたpDSARpを制限酵素NdeI及びBamHIで処理し、DSA遺伝子を切り出し、同酵素で切断したベクタープラスミドpBSKと混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ライゲーションハイ)を加えてインキュベーションすることにより、ライゲーションを実施した。このようにしてD−サクシニラーゼ遺伝子を大量に発現できるように設計された組換えプラスミドpBSKDSARpを取得した。
【0084】
[実施例9] 各種D−サクシニラーゼ遺伝子のE.coliにおける発現
実施例8で構築したプラスミド:pBSKDSAP4−10−C、pBSKDSACm pBSKDSACn、及びpBSKDSARpをそれぞれ、エシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績製コンピテントハイDH5α)に当製品に添付のプロトコールに従って形質転換し、形質転換体を取得した。得られた各形質転換体のコロニーを、試験管内にて滅菌した5mLのLB液体培地(アンピシリン50μg/mLを含む)に植菌後、37℃で20時間振とうして好気的に培養した。得られた培養液から遠心分離により菌体を集菌し、25mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)に懸濁して超音波により菌体を破砕した後、遠心分離により菌体由来の不溶物を除去して、各種由来の形質転換体におけるD−サクシニラーゼ粗酵素液を取得した。これらの粗酵素液100μlに150mM N−サクシニル−D−アミノ酸100μlと25mM リン酸緩衝液(pH7.5)800μlを加えて、37℃で16時間反応させた。その反応液の一部をTLCプレート(メルク社製)に供し、ブタノール:酢酸:水(3:1:1、v/v)からなる展開溶媒で展開し、ニンヒドリンスプレーにより、各種D−アミノ酸を検出した。結果を
図5に示す。
図5中のTrp、Phe、Val、Ser、Asp、Asn、Gluはそれぞれ、トリプトファン、フェニルアラニン、バリン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸を示す。また、色は、ニンヒドリンスプレーで発色した時の色を示す。その結果、クプリアビダス・エスピー P4−10−C及びクプリアビダス・メタリデュランス由来のD−サクシニラーゼについて強いD−サクシニラーゼ活性を確認することができ、クプリアビダス・ネケター及びラルストニア・ピケッティ由来のD−サクシニラーゼについても一定のD−サクシニラーゼ活性を確認することができた。
【0085】
[実施例10]形質転換体からのクプリアビダス・エスピー P4−10−C由来のD−サクシニラーゼの調製
実施例9で得られたpBSKP4−10−Cを形質転換した形質転換体のコロニーを、500mLの坂口フラスコに入った60mLのLB培地(アンピシリン50μg/mLを含む)に植菌し、振とう数180rpmで30℃、16時間培養し、種培養液とした。この種培養液を10L容ジャーファーメンターに入った6LのLB培地(アンピシリン50μg/mLを含む)に接種し、振とう数420rpm、30℃で21時間培養した。培養終了時の濁度(Abs660nm)は32.7であった。このようにして得られた菌体を遠心分離で集菌し、25mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)に懸濁し、フレンチプレス破砕機を用いて破砕した。得られた粗酵素液の硫安分画処理を行った後、HiTrap Octyl FFカラム5mL(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)、HiTrap CM FFカラム5mL(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)により分離精製した。本方法により得られたD−サクシニラーゼをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)分析に供したところ、ほとんど不純蛋白質が存在しないことが確認できたので、これを用いて、以下の実施例における酵素特性の評価及びD−アミノ酸製造を行った。
【0086】
[実施例11]形質転換体の生産するD−サクシニラーゼの酵素学的性質
1.形質転換体の生産するD−サクシニラーゼの至適温度及び熱安定性
実施例10で得られた形質転換体の生産するD−サクシニラーゼ酵素液を用いて、D−アミノ酸オキシダーゼ法で温度安定性と至適温度を調べた。温度安定性は、酵素液を所定の温度で3時間加熱させた後、氷冷し、残存する活性を求めた。至適温度は、反応温度を30℃か65℃まで変化させ、その酵素活性を求めた。温度安定性の評価は、4℃で処理した場合を100%とした残存相対活性で示した。また、至適温度の評価は、50℃における酵素活性を100%とした相対活性で評価した。結果は
図6(温度安定性)及び
図7(至適温度)に示した。
図6及び7から明らかなように、本酵素は、50℃で処理しても4℃で処理したときの100%の活性を維持し、反応至適温度は45℃から50℃を示した。
【0087】
2.形質転換体の生産するD−サクシニラーゼの至適pH及びpH安定性
実施例10で得られた形質転換体の生産するD−サクシニラーゼ酵素液を用いて、D−アミノ酸オキシダーゼ法及びHPLC分析法でpH安定性と至適pHを調べた。緩衝溶液には酢酸緩衝溶液(pH4.5〜pH5.5)、リン酸緩衝溶液(pH5.5〜pH7.5)、Tris−HCl(pH7.5〜pH8.5)、又はホウ酸緩衝溶液(pH8.5〜pH10.0)を用い、pH安定性は、25℃で20時間処理した後の酵素活性を求め、至適pHは、それぞれのpHで60分間反応させた後の酵素活性を求めた。酵素活性は、pH7.5(pH安定性)、pH7.0(至適pH)の場合をそれぞれ100とした相対活性で示した。結果は、
図8(pH安定性)及び
図9(至適pH)に示した。
図8及び9から明らかなように、本酵素は、pH6〜8で高い活性を示し、pH4〜pH10の範囲においてリン酸緩衝溶液pH7.5で処理したときの80%以上の活性を示し、広い範囲のpHで極めて安定であった。
【0088】
4.形質転換体の生産するD−サクシニラーゼの金属イオンの影響
実施例10で得られた形質転換体の生産するD−サクシニラーゼ酵素液を用いて、以下の表9に示す様々な2価の金属イオンをそれぞれ終濃度1mM存在下で37℃、60分間反応させ、D−サクシニラーゼ活性をHPLC分析法で測定し、無添加の酵素活性を100とした相対活性で示した。結果を表9に示す。表9から明らかなように、本酵素活性は、金属イオンによる顕著な影響を受けなかった。
【0089】
【表9】
【0090】
5.形質転換体の生産するD−サクシニラーゼの阻害剤の影響
実施例10で得られた形質転換体の生産するD−サクシニラーゼ酵素液を用いて、以下の表10に示す様々な阻害剤をそれぞれ終濃度1mM存在下で37℃、60分間反応させ、D−サクシニラーゼ活性をHPLC分析法で測定し、無添加の酵素活性を100とした相対活性で示した。結果を表10に示す。表10から明らかなように、本酵素はDTTやEDTA、N−エチルマレイミドでは阻害されず、PCMBやヨードアセトアミド、ヨード酢酸などのシステイン修飾剤で阻害されることから、システイン残基が酵素活性や酵素の安定性等に関与していることがわかった。
【0091】
【表10】
【0092】
[実施例12]N−サクシニル−DL−フェニルアラニン、N−サクシニル−DL−トリプトファン及びN−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンの合成
DL−フェニルアラニン10g(和光純薬社製、Code:168−01312)と水酸化ナトリウム7.3g(和光純薬社製、Code:198−13765)を150mLの水に溶解させ、これに無水コハク酸18.7g(和光純薬社製、Code:198−04355)と水酸化ナトリウム7.3gを添加しながら50℃以下で反応させた。これを減圧濃縮し塩酸(和光純薬社製、Code:087−01076)でpH2以下に中和し、粗結晶を得た。次に、粗結晶をn−ヘキサン(和光純薬社製、Code:085−00416)で再結晶させ、沈殿をろ取し、沈殿を粉砕乾燥させN−サクシニル−DL−フェニルアラニン45gを得た。
DL−フェニルアラニンをDL−トリプトファン又はDL−ビフェニルアラニンに変更した以外は同様の手順で、N−サクシニル−DL−トリプトファン及びN−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンを得た。
【0093】
[実施例13]D−サクシニラーゼを用いた、N−サクシニル−DL−フェニルアラニンからのD−フェニルアラニンの合成
5重量%N−サクシニル−DL−フェニルアラニン水溶液(pH7.5)10mLを基質として用い、形質転換体のD−サクシニラーゼ酵素液0.05mgを添加し、45℃で3日間反応させたときのN−サクシニル−DL−フェニルアラニンからのフェニルアラニンの加水分解率と光学活性を、以下のHPLC測定法により算出した。酵素での加水分解によるフェニルアラニンの生成率は、カラム:Inertsil ODS−2(5μm、4.6mmφ×150mm)(GL Sciences Inc.)、移動相:pH2.3リン酸水溶液:アセトニトリル=80:20、温度:40℃、流速:1.0mL/min、検出:210nmの条件でフェニルアラニンのピーク面積値で測定した。生成したフェニルアラニンの光学活性体比率は、カラム:CROWNPAK CR(+)(5μm、4.0mmφ×150mm)(ダイセル化学工業(株))、移動相:過塩素酸水溶液(pH2.0)、温度:15℃、流速:1.0mL/min、検出:210nmの条件で測定した。結果を
図10に示す。
図10から明らかなように、形質転換体のD−サクシニラーゼをN−サクシニル−DL−フェニルアラニン水溶液に添加する反応系で、反応3日目で反応液中のN−サクシニル−DL−フェニルアラニンの50%以上が加水分解され、さらに、D−フェニルアラニンのうち90%、L−フェニルアラニンのうち10%が加水分解された。このことから、本D−サクシニラーゼは、L−フェニルアラニンにも作用するが、D−フェニルアラニンにより強く作用することが明らかである。
【0094】
[実施例14]D−サクシニラーゼ及びサクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いた、N−サクシニル−DL−フェニルアラニンからのD−フェニルアラニンの合成
5重量%N−サクシニル−DL−フェニルアラニン水溶液(pH7.5)10mLを基質として用い、形質転換体のD−サクシニラーゼ酵素液0.05mgとクロロフレクサス・オーランティアカス由来のサクシニルアミノ酸ラセマーゼ(配列番号36)溶液50mgを添加し、45℃で4日間反応させたときのN−サクシニル−DL−フェニルアラニンからのD−フェニルアラニンの加水分解生成率、並びに光学活性体比率を、以下のHPLC測定法により算出した。加水分解生成率は、カラム:Inertsil ODS−2(5μm、4.6mmφ×150mm)(GL Sciences Inc.)、移動相:pH2.3リン酸水溶液:アセトニトリル=80:20、温度:40℃、流速:1.0mL/min、検出:210nmの条件で測定した。光学活性体比率は、カラム:CROWNPAK CR(+)(5μm、4.0mmφ×150mm)(ダイセル化学工業(株))、移動相:過塩素酸水溶液(pH2.0)、温度:15℃、流速:1.0mL/min、検出:210nmの条件で測定した。酵素反応前と反応後の、基質のピーク面積値より加水分解率を算出した。さらに、生成したフェニルアラニンの光学活性体比率を算出した。結果を
図11に示す。
図11から明らかなように、本酵素D−サクシニラーゼとサクシニルアミノ酸ラセマーゼを、N−サクシニル−DL−フェニルアラニン水溶液に添加する反応系で、反応4日目で反応液中のN−サクシニル−DL−フェニルアラニンの80%以上がD−フェニルアラニンへ変換された。また、サクシニルアミノ酸ラセマーゼを反応系に共存させたことで、大量に残存するN−サクシニル−L−フェニルアラニンのN−サクシニル−DL−フェニルアラニンへの変換、さらにD−フェニルアラニンへの加水分解反応が優先的に進み、L−フェニルアラニンの生成を抑制することに成功した。反応4日目の光学純度は93.6%eeであった。
【0095】
[実施例15] D−サクシニラーゼ及びサクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いた、N−サクシニル−DL−トリプトファンからのD−トリプトファンの合成
5重量%N−サクシニル−DL−トリプトファン水溶液(pH7.5)10mLを基質として用い、形質転換体のD−サクシニラーゼ酵素液0.05mgとクロロフレクサス・オーランティアカス由来のサクシニルアミノ酸ラセマーゼ(配列番号36)溶液50mgを添加し、45℃で4日間反応させたとき、N−サクシニル−DL−トリプトファンからD−トリプトファンの加水分解生成率、並びに光学活性体比率を、以下のHPLC測定法により算出した。加水分解生成率は、カラム:Inertsil ODS−2(5μm、4.6mmφ×150mm)(GL Sciences Inc.)、移動相:pH2.3リン酸水溶液:アセトニトリル=80:20、温度:40℃、流速:1.0mL/min、検出:210nmの条件で測定した。光学活性体比率は、カラム:CROWNPAK CR(+)(5μm、4.0mmφ×150mm)(ダイセル化学工業(株))、移動相:過塩素酸水溶液(pH2.0)/メタノール=90/10、温度:15℃、流速:0.7mL/min、検出:210nmの条件で測定した。酵素反応前と反応後の、基質のピーク面積値より加水分解率を算出した。さらに、生成したトリプトファンの光学活性体比率を算出した。結果を
図12に示す。
図12から明らかなように、本酵素D−サクシニラーゼとサクシニルアミノ酸ラセマーゼを、N−サクシニル−DL−トリプトファン水溶液に添加する反応系で、反応4日目で反応液中のN−サクシニル−DL−トリプトファンの80%以上が加水分解された。反応4日目の光学純度は96.1%eeであった。
【0096】
[実施例16] D−サクシニラーゼ及びサクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いた、N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンからのD−ビフェニルアラニンの合成
5重量%N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニン水溶液(pH7.5)10mLを基質として用い、形質転換体のD−サクシニラーゼ酵素液0.05mgとクロロフレクサス・オーランティアカス由来のサクシニルアミノ酸ラセマーゼ(配列番号36)溶液50mgを添加し、45℃で3日間反応させたとき、N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンからD−ビフェニルアラニンの加水分解生成率、並びに光学活性体比率を、以下のHPLC測定法により算出した。加水分解生成率は、カラム:Inertsil ODS−2(5μm、4.6mmφ×150mm)(GL Sciences Inc.)、移動相:pH2.3リン酸水溶液:アセトニトリル=80:20、温度:50℃、流速:1.5mL/min、検出:210nmの条件で測定した。光学活性体比率は、カラム:CROWNPAK CR(+)(5μm、4.0mmφ×150mm)(ダイセル化学工業(株))、移動相:過塩素酸水溶液(pH2.0)/メタノール=85/15、温度:50℃、流速:1.5mL/min、検出:210nmの条件で測定した。酵素反応前と反応後の、基質のピーク面積値より加水分解率を算出した。さらに、生成したビフェニルアラニンの光学活性体比率を算出した。結果を
図13に示す。
図13から明らかなように、本酵素D−サクシニラーゼとサクシニルアミノ酸ラセマーゼを、N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニン水溶液に添加する反応系で、反応3日目で反応液中のN−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンの99%以上が加水分解された。反応4日目の光学純度は88.3%eeであった。