【文献】
EL-SAFTY S,Organic-inorganic hybrid mesoporous monoliths for selective discrimination and sensitive removal of,Journal of Materials Science,2009年,Vol.44, No.24,pp.6764-6774
【文献】
L. SOMMER and H. NOVOTNA,COMPLEXATION OF ALUMINIUM, YTTRIUM, LANTHANUM AND LANTHANIDES WITH 4-(2-PYRIDYLAZO)RESORCINOL (PAR),Talanta,1967年,vol.14, No.4,p.457-471
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ランタノイド元素及びアクチノイド元素の中から選ばれた目的金属を含む金属溶解溶液に、金属吸着性化合物を担持したナノ構造体を接触させ、前記溶液中の目的金属を前記金属吸着性化合物に吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程を経て、目的金属を吸着した金属吸着性化合物を担持したナノ構造体を逆抽出液に接触させ、前記金属吸着性化合物に吸着した目的金属を逆抽出液に移動させる目的金属分離工程とを含むランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法であって、
前記金属吸着性化合物は、3,5-diBr-PADAP、5-Br-PADAP、DTAR、PAR、DSNPD及びPANから選択された1又は2以上の化合物であることを特徴とするランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の抽出又は分離方法の概略を示すフローチャートの一例であり、
図2はHOMの表面状態の概略図である。まず始めに全体のフローを説明し、その後各工程について詳細に説明する。本明細書において目的金属とは、金属溶解溶液から分離の対象となる金属であり、イオン状態のものも含む。なお、目的金属は一種類の元素に限定されるものではなく、同時又は順次に複数の元素を必要とすることもありえるので、一種類のHOM‐MCによって複数の目的金属を溶液から分離してもよい。
【0018】
本発明の抽出又は分離方法は、ナノ構造体(例えば、高秩序メゾポーラス構造(HOM))を準備し(S1:
図2左下図)、ナノ構造体(HOM)に金属吸着性化合物(MC)を修飾し、金属吸着性化合物を担持したナノ構造体(HOM‐MC)を得る(S2:
図2上図)。また、別途、目的金属(Mt)及びその他の種々の金属(Mo)が溶解された金属溶解溶液を準備する(S3)。そして、吸着工程として、金属吸着性化合物を担持したナノ構造体(HOM‐MC)を金属溶解溶液に接触させる。この接触により、HOM‐MCには、目的金属(Mt)イオンが吸着された状態(HOM‐MC‐Mt)となる(S4:
図2右下図)。なお、後述するが、金属溶解溶液を準備する工程(S3)又は吸着工程(S4)において、金属溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等を調節すれば、効率的、優先的又は選択的に目的金属(Mt)イオンを吸着させることができるが、場合によっては目的金属以外の金属(Mo)イオンも吸着された状態(HOM‐MC‐Mt‐Mo)となる。その後、ナノ構造体(HOM‐MC‐Mt‐Mo)から目的金属(Mt)以外の金属(Mo)を分離して、ほぼ目的金属だけを金属吸着性化合物に吸着した状態(HOM‐MC‐Mt)とすることが好ましい。そして、目的金属分離工程として、目的金属を吸着した金属吸着性化合物を担持したナノ構造体(HOM‐MC‐Mt)から目的金属(Mt)を分離する(S5)。そして、目的金属が分離したナノ構造体(HOM‐MC)は再び吸着工程において再利用され(S6:
図2上図)、分離された目的金属(Mt)が得られる(S7)。
【0019】
本発明のナノ構造体は、微細(典型的には1ミクロン以下)な構造を有する粒子であり、微細な孔を有する多孔質構造体、微細な棒状構造を有するナノロッド構造体等を使用することができる。多孔質構造体は、メソポーラス構造やナノチューブ構造を含み、高度に秩序化していることが好ましい。通常、メソポーラス構造は、メソポア領域と呼ばれる2から50nmの領域の大きさのほぼ均一で規則的な直径の細孔(メソ孔)を有するものを指すが、本明細書においては、メソポーラス構造には、メソ孔よりも小さなマイクロ孔(2nm以下の細孔)やメソ孔よりも大きなマクロ孔(50nm以上の細孔)のものも含まれる。特に、本発明の多孔質構造体としては、高度に秩序化したメソポーラス構造(High Ordered Mesoporous、以下「HOM」と称する)を有するものが好ましい。多孔質構造体は、細孔の作るネットワークの様式(空間対称性)や製造方法等によって、様々な特性を有する。メソポーラス構造体の材質としては、無機化合物であることが好ましく、特にシリカを用いることが好ましいが、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛又はニッケル酸化物等の金属酸化物を用いてもよいし、シリカと金属酸化物の混合物や、複数の金属酸化物の混合物でもよい。なお、メソポーラス構造のシリカをメソポーラスシリカと呼ぶが、本明細書のポーラスシリカには、直径が2nm以下の細孔や50nm以上の細孔のものも含まれる。また、多孔質構造体としてナノチューブ構造のものを使用してもよい。ナノチューブ構造の材質としては、無機化合物であることが好ましく、カーボン、又は酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、ニッケル酸化物等の金属酸化物を用いてもよいし、カーボンと金属酸化物の混合物や、複数の金属酸化物の混合物でもよい。ナノチューブ構造体のBET比表面積は大きいほど良いが、50m
2/g以上、好ましくは100m
2/g以上、より好適には150m
2/g以上である。
【0020】
また、ナノ構造体として、ナノロッド構造体も使用することができる。ナノロッド構造体は、数nm〜数十nmのほぼ均一で規則的な直径の棒状又は針状の構造物であり、無機化合物からなることが好ましい。ナノロッドの材質としては、Au、Ag、Cu、Pt、Al、Ni、Mo、W、Ti、Si等からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を主成分とする金属、又は酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化ジルコニウム等の金属酸化物を用いてもよい。なお、シート状の金属又は金属酸化物の表面にナノロッド構造が垂直に直立して配列したナノロッド構造を有する薄膜であってもよい。ナノロッド構造体のBET比表面積は大きいほど良いが、100m
2/g以上、好ましくは200m
2/g以上、より好適には800m
2/g以上である。
【0021】
本発明に用いられる多孔質構造体の形態は、薄膜状形態やモノリス形態を含む。モノリス形態とは、通常薄膜以外の各種の形態、たとえば微粒子、粒子、ブロック状のもの等の形態を言う。高度に秩序化したとは、立方晶や六方晶系のように対称性の高いメソポーラス構造が3次元的に表面や内壁表面に規則正しく配列した状態を言い、結晶構造としては、たとえば立方晶Ia3d、Pm3n、Fm3mや六方晶P6m構造がある。これらの構造が広範囲に存在すると、金属吸着性化合物を大量に担持することができ、全体の金属吸着量を大きくすることができる。メソポーラス構造の最適な結晶構造は、担持する金属吸着化合物に合致する構造であることが好ましいが、それ以外の結晶構造のメソポーラス構造が混在していても効率の低下はあるものの本発明の分離、抽出方法を実施することは可能である。また、HOMのBET比表面積は大きいほど良いが、500m
2/g以上、好ましくは640m
2/g以上、より好適には800m
2/g以上である。
【0022】
HOMは種々の方法(たとえば、特許文献3)により合成できる。たとえば、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法においては、溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成される。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ポーラスシリカを合成する場合は、溶液中にシリカ源となる有機シリコン化合物などを加え、微量の酸あるいは塩基を触媒として加えると、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応が進行しシリカゲル骨格が形成される。最後に高温で焼成すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて純粋なメソポーラスシリカが得られる。また、たとえば、好適には、有機シリコン化合物と界面活性剤を混合してリオトロピック型液晶相を形成し、ここへ、酸水溶液を加えることによって、短時間に有機シリコン化合物の加水分解反応を起こし、メソポーラスシリカと界面活性剤の複合生成物を得た後、界面活性剤を除去して、HOMを得る方法が利用される。
【0023】
有機シリコン化合物として、たとえば、TEOS(テトラエトキシシラン)、TMOS(テトラメトキシシラン)、テトラメチルオルトケイ酸(C
4H
12O
4Si)やテトラエチルオルトケイ酸(C
8H
20O
4Si)などのシリコンアルコキシドを用いる。HOMの合成過程において、エタノールよりメタノールの方が生成物から除去するのが容易であるから、生産性はTEOSよりTMOSの方が好適である。尚、HOMの形成には、有機シリコン化合物の他に無機シリコン化合物を用いることもできる。たとえば、カネマイト(NaHSi
2O
5・3H
2O)、ジ珪酸ナトリウム結晶(Na
2Si
2O
5)、マカタイト(NaHSi
4O
9・5H
2O)、アイラアイト(NaHSi
8O
17・XH
2O)、マガディアイト(Na
2HSi
14O
29・XH
2O)、ケニヤアイト(Na
2HSi
20O
41・XH
2O)、水ガラス(珪酸ソーダ)、ガラス、無定形珪酸ナトリウムを用いることもできる。これらは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
また、テンプレート(鋳型)となる界面活性剤も、種々のものを使用できる。たとえば、カチオン性やアニオン性や両性や非イオン性の界面活性剤を使用できる。鋳型となる陽イオン性界面活性剤としては、たとえば、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩が挙げられる。また、鋳型となる陰イオン性界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられ、セッケン、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩及び高級アルコールリン酸エステル塩が挙げられる。鋳型となる両性界面活性剤としては、たとえば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインが挙げられる。鋳型となる非イオン界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン酸誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのエーテル型のものや、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの含窒素型が挙げられる。これらは、2種以上混合して用いても良い。
【0025】
界面活性剤の種類を変更することによりHOMの構造(細孔の大きさや形、結晶構造など)を制御することができるので、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きい細孔密度の大きなHOMを形成できる界面活性剤が好適である。このような界面活性剤としては、例えばBrij(登録商標)型(C
xEO
y)、Triton(登録商標)型 (polyoxyethylene-p-isooctylphenol)、Tween(登録商標)型の非イオン界面活性剤や、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はクロリド(C
nTMA-Br又は-Cl, n= 12, 14, 16 and 18)等の陽イオン性界面活性剤、Pluronic(登録商標)型(EO
mPO
nEO
m:ポリ(エチレンオキシド)‐ポリ(プロピレンオキシド)‐ポリ(エチレンオキシド))のトリブロック共重合体界面活性剤を用いることができる。Brij型(C
xEO
y)は、疎水基となるアルキル基(C
x:C
xH
2x+1又はC
xH
2x-1)と親水基となるポリ(エチレンオキシド)基(EO
y:- (CH
2-CH
2O)
y-)とを有する。具体的には、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij(登録商標)56:C
16H
33(OCH
2CH
2)
10OH,M.av=683)、ポリオキシエチレン(10)ラウリルエーテル(C
12EO
10, C
12H
25(OCH
2CH
2)
10OH, M.av=626)、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル(C
12EO
9, C
12H
25(OCH
2CH
2)
9OH,M.av=582)、ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル(Brij(登録商標)78, C
18H
35(OCH
2CH
2)
20OH,M.av=1152)、ポリオキシエチレン(10)オレイルエーテル(Brij(登録商標)97, C
18H
35(OCH
2CH
2)
10OH,M.av= 709)、ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル(Brij(登録商標)98, C
18H
35(OCH
2CH
2)
20OH,M.av=1150)、ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル (Brij(登録商標)35, C
12H
25(OCH
2CH
2)
23OH,M.av=1198)、及びポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij(登録商標)58, C
16H
33(OCH
2CH
2)
20OH,M.av=1124)等が挙げられる。また、Triton型やTween型の非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン(10)イソオクチルフェニルエーテル(Triton(登録商標)X-100 (4-(C
8H
17) C
6H
4(OCH
2CH
2)
10OH, M.av= 625)、ポリオキシエチレン(8)イソオクチルフェニルエーテル(Triton(登録商標)X-114 (4-(C
8H
17) C
6H
4(OCH
2CH
2)
8OH, M.av= 427)及びポリオキシエチレン(20)イソオクチルフェニルエーテルモノステアリン酸ソルビタン(Tween(登録商標)60, M.av= 1312) 等が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、n‐ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド又はクロリド((CH
3(CH
2)
11N(CH
3)
3)Br/Cl)、n‐テトラドデシルトリメチルアンモニウムブロミド又はクロリド((CH
3(CH
2)
13N(CH
3)
3)Br/Cl)、n‐ヘキサドデシルトリメチルアンモニウムブロミド又はクロリド((CH
3(CH
2)
15N(CH
3)
3)Br/Cl )及び-n‐ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド又はクロリド((CH
3(CH
2)
17N(CH
3)
3)Br/Cl) 等が挙げられる。トリブロック共重合体界面活性剤としては、たとえば、Pluronic(登録商標)P123:HO(CH
2CH
2O)
20(CH
2CH(CH
3)O)
70(CH
2CH
2O)
20H:EO
20PO
70EO
20、Pluronic(登録商標)F68((HO(CH
2CH
2O)
80(CH
2CH(CH
3)O)
27(HO(CH
2CH
2O)
80:EO
80PO
27EO
80)、Pluronic(登録商標)L121 ( (HO(CH
2CH
2O)
5(CH
2CH(CH
3)O)
70(HO(CH
2CH
2O)
5:EO
5PO
70EO
5)及びPluronic(登録商標)F108:HO(CH
2CH
2O)
141(CH
2CH(CH
3)O)
44(CH
2CH
2O)
141H:EO
141PO
44O
141)を用いることができる。Brij56:TMOS=0.5の重量比の混合により、立方晶構造Pm3n(HOM-9)が得られ、P123:TMOS=0.75の重量比の混合により、立方晶構造Ia3d(HOM-5)が得られ、F108:TMOS=0.7の重量比の混合により、立方晶構造Im3m(HOM-1)ケージ状シリカ構造が得られる。なお、担持する支持母体は上述のシリカ単体によるメソポーラスシリカであるが、同様のメソポーラス構造を他の酸化物で実現する高秩序構造の金属化合物メソポーラス粉末のうち、目的の錯体形成分子の担持可能なものを用いても良い(HOMにはこれらも含む。)。
【0026】
図1に示す第2段階(S2)で、金属吸着性化合物(MCと称す)をナノ構造体、例えばHOMに担持させ、金属吸着性化合物を吸着したナノ構造物(HOM‐MCと称す)が得られる。
図2の上図は、HOM‐MCの概略構成図である。この段階では、金属吸着性化合物には金属は吸着されていない。金属吸着性化合物は、特定の金属イオンを選択的に吸着することができる化合物である。本発明に用いられる金属吸着性化合物として、金属錯体、無機金属化合物や有機金属化合物がある。セルロース、タンパク質などの金属吸着性化合物も含まれる。金属錯体として、無機及び有機の金属錯体や金属カルボニル化合物、金属クラスターや有機金属化合物などが挙げられる。また、キレート化合物も含まれる。基本的には、金属(イオン)を吸着できる化合物であって、ナノ構造体に担持(修飾又は複合化とも言う)でき、その後に目的金属を分離できる化合物である。さらに、化学処理により、目的金属以外の金属イオンを遊離(分離)できることが好ましい。
【0027】
金属吸着性化合物は、回収しようとする目的金属を選択的又は優先的にしかも多量に吸着する化合物が望ましい。ランタノイド元素やアクチノイド元素を目的金属とする場合には、ランタノイド元素やアクチノイド元素を目的金属とする金属吸着性化合物としては、ランタノイド元素やアクチノイド元素に対して選択分光特性を有する有機化合物(呈色沈降性物質:colorant precipitant)であることが好ましい。このような有機呈色沈降性物質として、例えば、アゾ系染料、カルボニル系染料、フタロシアニン系染料、アリールカルボニウム系染料、硫化染料、メタン系染料、ニトロ系染料又はβジケトン型樹脂が挙げられる。選択分光特性を有する有機化合物は、目的金属であるランタノイド元素やアクチノイド元素に対して呈色反応を示す有機化合物であるから、後述する
図5に示すような濃度を変化させた呈色反応試験によって、容易に金属吸着性化合物を選別することができる。
【0028】
図3はランタノイド元素(Ln)との配位結合による金属錯体形成状態を構造式を用いて模式的に示した図である。アゾ系芳香族化合物(芳香族アゾ化合物とも言う)は分子の種類と溶液のpH等の環境制御との組み合わせに応じて、ランタノイド元素やアクチノイド元素の一部を選択的に吸着し、
図3に示すように金属錯体化する。すなわち、アゾ系芳香族化合物をHOMに担持することにより、選択性が高く吸着性の良いランタノイド元素及びアクチノイド元素の吸着・分離用固体吸着材が得られる。アゾ化合物とは
図3に示すようなアゾ基‐N=N‐に2つの有機基(R、R’)が連結している有機化合物(R‐N=N‐R’)である。芳香族アゾ(系)化合物とはR及びR’ の少なくとも一つが芳香族(環状不飽和有機化合物)であるアゾ化合物である。アミン化合物とは、
図2に示すようなアミン(アンモニアの水素原子の1〜3個を有機基(R、R’、R”)で置き換えたもの)を持つ有機化合物であり、芳香族アミン(系)化合物とは、有機基(R、R’、R”) の少なくとも一つが芳香族(環状不飽和有機化合物)であるアミン化合物である。
【0029】
図4は、吸着・分離・回収材としての芳香族アゾ化合物の錯体形成分子を担持した高秩序メソポーラスシリカ(HOM)の構造を概念的に示した図である。
図4に示すように、HOMはnmオーダー〜数十nmの規則的な細孔(メソ)を有したシリコン酸化物であり、この規則的な細孔の内壁にアゾ系芳香族分子が担持されている。
図4は代表的なものとして蜂の巣状構造を示したが、それ以外の構造でも良い。担持された芳香族アゾ化合物は、HOM側の固着部分と溶液側の活性部分とを持ち、活性部分に目的金属のランタノイドイオンやアクチノイドイオンに対する選択的な吸着能を有する官能基を持っている。担持の方法は物理吸着や化学吸着等がある。なお、固着部分においては、吸着反応に影響を与えないために直接の固着以外に、前述したように化学吸着として界面活性剤などの媒介物が介在しても良い。なお、ナノ構造体としてナノロッドを使用した場合は、主にナノロッドの棒状の側面に金属吸着化合物が担持される。
【0030】
窒素含有芳香族系の錯体形成分子は、目的金属のランタノイド元素やアクチノイド元素に対して選択分光特性を持つものから選択される。ランタノイドあるいはアクチノイド系に選択的に分光特性を持つ窒素含有芳香族系の錯体形成分子として、たとえば、アゾ系として、ジスプロシウム:Dy(III)に対する、ウラン:U(IV)に対する3-(5-bromo-2-pyridylazo)-5-(diethylamino)phenol(3,5-diBr-PADAP)、イットリウム:Y(III)、セリウム:Ce(III)及びランタン:La(III)に対する(5-bromo-2-pyridylazo)-5-(diethylamino)phenol(5-Br-PADAP)、ウラン:U(IV)に対する3-(2-pyridylazo)、トリウム:Th(IV)及びユウロピウム:Eu(III)に対する4-(2-pyridylazo) resorcinol(PAR)、サマリウム:Sm(III)、ランタン:La(III)、セリウム:Ce(III)に対する1-(2-pyridylazo)-2-naphtol(PAN)、ジスプロシウム:Dy(III)、ホルミウム:Ho(III) トリウム:Th(IV) 、ジスプロシウム:Dy(III) に対する4-(2-pyridylazo)resorcinol、などがある。さらに他のアゾ系芳香族として、4-(2-thiazylazo)6-dodecylresorcinol(DTAR)、4-(2-pyridylazo) N,N-dimethylaniline (PADA)、5-methyl-4-(2-thiazolylazo) resorcinol (5-Me-TAR)、2-(4-diethylamino-2-hydroxyphenylazo)-5-bromopyridine(DAH)等も利用可能である。また、アミン系としてランタン:La(III)、ユウロピウム:Eu(III)、イッテルビウム:Yb(III)、セリウム:Ce(III)、プラセオジム:Pr(III)、ネオジム:Nd(III)、ガドリニウム:Gd(III)、ジスプロシウム:Dy(III)、ホルミウム:Ho(III)、エルビウム:Er(III)に対する2-aminophenol、2-aminothiophenol、2-aminobenzothiazoleなどがある。さらに、ランタノイド金属又はアクチノイド金属と相互作用が生じることにより、蛍光の消光反応が生じる化合物として、N
2,N
6-diethanamine purine (DEAP)、N,N`Bis(3-carboxysalicylidine) 3,4 diaminobenzoic acid (CSBA)、N,N` Bis(salicylidine) 2-mercaptopyriminidin-4-ol- 5,6 diamine(CMPA)、N,N`disalicylidene-4-carboxy-phenylenediamine(SCPD)、N,N`disalicylidene-4-nitro-phenylenediamine (DSNPD)などがある。さらに、その他の窒素含有芳香族化合物として、イッテルビウム:Yb(III) に対するN,N,N,N-tetrabutylmalonamide(TBMA)、ユウロピウム:Eu(III)、サマリウム:Sm(III) に対する2-nitroso-1-naphthol(ただし、Co(II)を優先的に吸着するため、Co(II)を除去した環境で行う必要がある。)などがある。
【0031】
HOMに担持される金属吸着性化合物は従来の選択分光で知られた物質を用いるだけでなく、従来の文献にない金属吸着性化合物、特にアゾ系芳香族物質、アミン系芳香族物質をHOMに担持した後に、目的とするランタノイド元素又はアクチノイド元素の低濃度領域に対して、
図5に示すように、濃度依存性のある分光特性を確認して用いることもできる。つまり、金属吸着性化合物の候補となる呈色物質を準備し、それぞれのランタノイド元素又はアクチノイド元素に対して
図5の元素濃度をパラメータにとった分光スペクトルを測定し、分光スペクトルに濃度依存性が確認されたランタノイド元素又はアクチノイド元素が存在すれば、当該呈色物質を濃度依存性が確認されたランタノイド元素又はアクチノイド元素を目的金属とする金属吸着性化合物として選択する選択方法を実施すればよい。さらに、選択された呈色物質に対し、
図7に示すように、目的金属イオンを含有する溶液のpHをパラメータにとった分光スペクトルを測定し、抽出工程における条件を決定することが好ましい。そして、かかる呈色物質を金属吸着性化合物として、ナノ構造体に修飾し、金属溶解溶液と接触させて目的金属イオンの抽出を行う。
【0032】
なお、ランタノイド元素又はアクチノイド元素以外の金属元素を目的金属とする場合には、たとえば、各種の金属に対して選択的に結合するキレート化合物が挙げられる。たとえば、エチレンジアミン4酢酸(EDTA:C
10H
16N
2O
8)はCa
2+、Cu
2+、Fe
3+などを選択的に吸着する。ジチゾン(Cu、Zn、Ag、Hg、Pb)、クペロン(Ti、Fe、Cu)、キナルジ酸(Cu、Zn、Cd)、α‐ニトロソ‐β‐ナフトール(Co、Pd)、ジメチルグリオキシム(Ni、Pd)がある。またキレート化合物の高分子体であるキレート樹脂として、たとえば、カルボン酸型樹脂(Cu、Ni、Zn)、ポリアミン型樹脂(Hg、Cd、Cu)、ポリイミン型(Hg)樹脂、チオール型樹脂(Ag、Hg、Au)、ヒドロキシル型樹脂(Mo、V)、アゾ型樹脂(Cu、La、Zr、Pd)がある。キトサン{(C
6H
11NO
4)n}も金属吸着選択性(Fe、In、Ni、Cd、Zn)を持っている。(カッコ内の金属は選択的に吸着できる金属を示す。)各種の金属が溶解した金属溶解溶液のpH値や温度や濃度などを調整すれば、その金属吸着性化合物に特定の金属を選択的に吸着できる。また、キレート化合物は、非常に微量の(たとえば、ppbオーダー)金属を選択的に吸着することができるので、金属溶解溶液中に含まれる目的金属の量が少なくても、効率的に選択的に目的金属を吸着する。
【0033】
このような金属吸着性化合物をHOMに担持(修飾)させる方法(複合化法とも呼ぶ)として種々の方法が挙げられる。たとえば、HOMに保持されるべき金属吸着性化合物が中性である場合には、試薬含浸法(REACTIVE & FUNCTIONAL POLYMERS,49,189(2001)など)が、陰イオン性である場合には、陽イオン交換法、陽イオン性である場合には陰イオン交換法が用いられる。これらの複合化法は、特別の条件、操作ではなく、既知の一般的な技術分野に属するものである。したがって、これらの一般的な技術分野の詳細については、当該固体吸着分野に関する総説、文献などを参照することができる。
【0034】
たとえば、メソポーラスシリカを陽イオン性有機試薬(たとえば、陽イオン性シリル化剤)を用いて表面処理し、そのメソポーラスシリカに陽イオン性官能基を付与し、次いで、この陽イオン性メソポーラスシリカと陰イオン性金属吸着性化合物の水溶液やアルコール溶液とを接触させ、金属吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、メソポーラスシリカと金属吸着性化合物の有機溶媒溶液とを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、金属吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に物理的に吸着させて担持する方法、メソポーラスシリカをチオール基を持つシリル化剤を用いて表面処理し、次いで、生成する表面のチオール基を酸化処理することで、そのメソポーラスシリカに陰イオン性官能基を付与し、この陰イオン性メソポーラスシリカと陽イオン性金属吸着性化合物の溶液とを接触させ、金属吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、あらかじめ金属吸着性化合物を細孔内及び表面に充填した後に、これを陽イオン性有機試薬の有機溶媒溶液で処理して、金属吸着性化合物を細孔内及び表面に固定する方法、金属吸着性化合物と陽イオン性有機試薬をあらかじめ混合し、得られた試薬複合体の有機溶媒溶液と該シリカとを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、金属吸着性化合物を該シリカ内に担持する方法が使用される。
【0035】
また、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きいポーラス(細孔)密度の大きなHOMほど、多くの金属吸着性化合物が規則的にHOMの表面及び細孔内壁に担持される。たとえば、好適には、立方晶構造Pm3n、Fm3m、Ia3d、六方晶構造P6mなどの構造が広範囲に形成されたHOMに金属吸着性化合物を吸着させる。
【0036】
金属吸着性化合物単独でも当然選択的に目的金属を吸着できるが、金属吸着性化合物は凝集したりして、金属吸着が可能な官能基を有効に利用することができない。すなわち、凝集された(たとえば、粒子状の)金属吸着性化合物物質の表面に存在する官能基には目的金属が吸着しても、その粒子状物質の内部にある金属吸着性化合物の官能基には目的金属が吸着することは困難である。また、うまくその粒子状物質の内部にある金属吸着性化合物の官能基に目的金属が吸着したとしても、その吸着した金属を取り出すことが難しい。
【0037】
これに対して、メソポーラスシリカは、多孔質構造体であり細孔表面積が非常に大きく高度に秩序化した配向構造を持つので、メソポーラスシリカの表面及び細孔内壁に金属吸着性化合物を担持したものは、金属吸着性化合物が整然と配列して結合しているので、金属吸着性化合物の金属吸着率が非常に高くなる。すなわち、大半の金属吸着性化合物が金属吸着に利用可能な状態である。金属溶解溶液や遊離溶液(逆抽出液)は、メソポーラスシリカの表面や細孔へ容易に速く侵入していくので、HOMに担持された金属吸着性化合物の官能基と容易に速く接触する。このため、HOM‐MCが金属溶解溶液と接触するとすばやく吸着され、吸着された金属を分離(遊離)するときも遊離溶液と接触すればすばやく吸着された金属が分離(遊離)されるので、生産性が非常に高くなる。
【0038】
たとえば、キレート樹脂単独の場合には、キレート樹脂の表面において、表面原子がすべて有効にキレート(官能基)を持った状態にはならず、離散的にキレートの反応端がある状態となっている。キレート樹脂単独で金属イオンを吸着する時も、キレート樹脂のどの部分につくか制御できない。また、金属溶解溶液と接触した部分のキレート官能基には金属が吸着(抽出とも言う)されると予想されるが、金属溶解溶液が浸透しにくいキレート樹脂内部では金属は殆ど吸着されないと考えられる。すなわち、金属吸着効率が非常に悪い。さらにキレート樹脂に吸着した金属(イオン)を遊離(分離)するとき(逆抽出とも言う)も、キレート樹脂内部に吸着した金属を取り出すことも困難となる。このキレート樹脂を繰り返し利用したときも、キレート樹脂中の残存物等の影響により、金属の抽出・逆抽出の効率がどんどん悪くなり、繰り返しの使用によってキレート樹脂の性能が大幅に劣化してしまう。これに対して、キレート樹脂をHOMに担持したものは、HOMの大きな比表面積と整列した原子配列を使って、実反応面積の大きなキレート官能基をHOMの表面上に形成することができる。言い換えれば、HOMではキレートの反応端はほぼ同一の性状になる。しかも、従来のキレート樹脂単独では実現できないほどに、HOM表面及び細孔内壁に多量にキレートの反応端を有する。そのキレート官能基が金属イオン又はキレート化したイオンを選択的に捕獲するので、金属の吸着効率が非常に良くなる。また、その捕獲された金属イオンもしくは当該イオンを含むキレートを逆抽出で取り出すことができる。さらに、キレート樹脂単独で使用した場合には樹脂そのものの物理的及び/又は化学的強度が不十分であるため、キレート樹脂の繰り返し使用による劣化が大きいが、キレート樹脂をHOMに担持したものは、その骨格たるHOMの物理的及び/又は化学的強度が十分であるため、繰り返し使用による劣化が小さい。
【0039】
図1の第3段階(S3)では、あらかじめ鉱石中の各種金属を溶解した溶液(金属溶解溶液)を準備しておく。この金属溶解溶液は、たとえば以下のようにして作製する。携帯電話やパソコンなどから得られたCo、In、Nb等の希少金属を含む材料を硝酸水溶液中に浸漬すると、Fe、Cu、Coなどの多数の金属(これらも都市鉱石中に含まれる)が溶解される。この溶液から固形分を除いた溶液を金属溶解溶液として使用できる。ランタノイド元素やアクチノイド元素に関しても、目的金属であるこれらの元素をあらかじめ化学的方法(例えば酸等による溶解)でイオン化された金属溶解溶液を準備する。この溶液は、目的金属以外のランタノイド元素やアクチノイド元素イオン、さらに他の金属イオンと混在していても基本的には問題ない。例外的に一部の金属イオンが目的金属と同時に又は優先して金属吸着性化合物に吸着することにより目的金属の選択分離を妨害する場合もあるが、その一部の金属イオン(以下「妨害イオン」という)がランタノイド元素やアクチノイド元素でない限り、従来から既知の化学処理による沈殿分離などで金属溶解溶液から妨害イオンを事前に取り除いておけば問題はない。つまり、金属溶解溶液を準備する工程(S4)には、妨害イオンを除去する工程を加えてもよい。なお、都市鉱石だけではなく、天然のランタノイド元素又はアクチノイド元素含有鉱石を溶解させて金属溶解溶液を準備してもよい。
【0040】
また、金属溶解溶液を金属吸着性化合物が選択分離特性を示す環境に調整することが好ましい。その一つとしては、金属溶解溶液の前処理として、金属溶解溶液中のpH調整や化学処理等を行い目的金属以外の金属を析出沈殿させ除去しておくなどの方法によって、金属溶解溶液中の目的金属以外の金属をあらかじめ少なくしておくことが好ましい。また、金属吸着性化合物の中には、金属溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等によって、妨害イオンに対する目的金属イオンの選択性や吸着率が変化するものもあり、金属溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等を調節すれば、効率的に目的金属を吸着させることができる。もっとも有効な調整はpHの調整である。また高pH溶液の場合には、目的金属イオンが水酸化物として沈殿損失する場合もあるので、シュウ酸等の溶液中において錯体形成分子を添加し、高pH領域における目的金属の沈殿を防止しても良い。このように、調整段階において金属錯体形成能を促進する添加分子(pH調整剤、沈殿防止剤等)を加えて、目的金属の分離反応の促進に資することは好ましい。なお、環境調整は必須のものではない。要求される元素、純度や条件に応じて、必要な範囲で調整すれば足りる。妨害イオンが存在する金属溶解溶液から、純度の高い元素を一度の抽出‐逆抽出の工程で得るためには、金属溶解溶液の環境を厳密に調整しなければならない場合がある。しかし、ある程度の不純物の混在が許容される場合や、他の手法による妨害イオンや不純物の分離が容易な場合等には、厳密な条件調整を行わずに、金属吸着性化合物に目的金属が吸着される範囲の環境調整で吸着工程を行ってもよい。妨害イオンと目的金属であるランタノイド元素又はアクチノイド元素との分離が容易であれば、環境を厳密に調整するよりも、金属溶解溶液や逆抽出した後の逆抽出液から妨害イオンを分離する方が効率的な場合もある。また、妨害イオンを含む逆抽出液に対し、さらに他の金属吸着性化合物を担持した多孔質構造体による抽出工程や多段抽出法を実施してもよい。多段抽出法を実施する場合であっても、HOM‐MCによって目的金属濃度の高い逆抽出液を出発とするため、大幅に時間も、コストも、廃棄溶液も減らすことができる。
【0041】
金属溶解溶液が準備できたら、
図1の吸着工程(S4)において、金属溶解溶液中に金属吸着性化合物(MC)を高密度に担持したHOM(すなわち、HOM‐MC)を浸漬等して金属溶解溶液とHOM‐MCと接触させる。この接触により、HOM‐MCに金属イオンが吸着される。金属吸着性化合物は、一定の条件(pH値、温度、濃度等)下で目的金属を選択的に又は優先的に吸着するので、その条件下の金属溶解溶液中に金属吸着性化合物を浸漬すれば、目的金属(Mt)だけを吸着したHOM(すなわち、HOM‐MC‐Mt)を得ることができる。たとえば、目的金属イオンを最も良く吸着するpH値に調整された金属溶解溶液にHOM‐MCを接触(浸漬を含む)させ、HOM‐MCに目的金属を選択的に大量に吸着することができる。しかし、条件などの多少の変動により、目的金属(Mt)の他に、目的金属以外の金属(Mo)が吸着されたHOM(すなわち、HOM‐MC‐Mt‐Mo)が得られる可能性もある。この段階は、目的金属(イオン)をHOM‐MCに吸着する工程であるから、目的金属(イオン)吸着工程と呼ぶことができる。
【0042】
調整された金属溶解溶液に吸着・分離・回収材(アゾ系錯体形成分子を担持したHOM‐MC)を接触させ、目的金属であるランタノイド元素やアクチノイド元素を金属吸着性化合物(アゾ系芳香族等)の官能基に吸着させる吸着工程において、接触の方法はたとえば、浸漬によるもの、カラム通過によるもの、粒子状の吸着・分離・回収材の混合攪拌によるもの、膜透過によるもの等がある。なお接触の有効性を選択分光効果による呈色反応や分光測定で確認しながら連続もしくは不連続的に接触させるモニタリング法と組み合わせて効果的かつ効率的な接触を行なわせることも可能である。
【0043】
図5は、DTAR(4-(2-thiazylazo)6-dodecylresorcinol)を担持したHOMにおけるランタノイドイオン元素濃度(具体的にはDy
3+)をパラメータにとった分光スペクトルの測定結果の一つである。
図5の350nm〜650nmの波長を有する分光において、一番下に示す曲線はDy
3+を含有していない溶液(0ppb)についての分光曲線であり、一番上に示す曲線はDy
3+を2000ppb(2ppm)含有した溶液についての分光曲線である。溶液中のDy
3+の濃度が増えるに従い吸光度が増加し、溶液中の染料が増加していることが確認できる。呈色反応を示さない有機化合物を担持したHOMの同様の実験では、分光スペクトルの濃度依存性を示さなかったことから、吸光度の変化(染料濃度の変化)はDy
3+の吸着量に相関していることが分かる。
図5から分かるように、分光特性を測定しながら目的金属を吸着させると、どの程度HOM‐MCに目的金属が吸着したかや、おおよその濃度も知ることが可能である。
【0044】
図7は、ランタノイド元素としてDyを単独で2ppm溶解した溶液にNaOHを0.2M(モル)のC
6H
11NHCH
2SO
3Hとともに加えてpHを変化させたことによるDTAR修飾HOM‐MCの吸光度(相対値)を示す。
図5に示されているように吸光度がDy吸着能と相関していることから、
図7の分光スペクトルによれば、DTARを金属吸着性化合物として、Dyを目的金属とした場合に、pHを11.0とすることが好ましいことが確認される。
【0045】
なお、吸着工程(S4)において、妨害イオン(Mo)も吸着した場合、HOM‐MC‐Mt‐Moを、目的金属以外の金属(Mo)だけを遊離(分離)できる溶液中に浸漬して、目的金属以外の金属(Mo)を除去してほぼ目的金属だけを吸着したHOM‐MC‐Mtとする目的外金属分離工程を設けることが好ましい。或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目的金属以外の金属(Mo)を除去してHOM‐MC‐Mtにできる場合もある。なお、吸着工程(S4)において目的金属以外の金属の吸着が非常に少ない場合や、妨害イオンが目的金属の用途に影響しない場合や、目的金属分離工程(S5)において目的金属(Mt)だけを遊離できる方法がある場合には、目的外金属分離工程は設けなくてもよい。
【0046】
たとえば、溶液の条件によって吸着する元素が異なる複数の条件が存在する場合、金属溶解溶液や逆抽出液の条件を変更して複数回の吸着‐分離工程を繰り返すことで、所望の元素を得ることもできる。例えば、第1の条件(複数の元素を吸着する条件)の金属溶解溶液にHOM‐MCを浸漬させて、HOM‐MCにMt及びMoを吸着させて、第1の逆抽出液にMt及びMoを分離した後、逆抽出液を第2の条件(単独の元素しか吸着しない条件)にして再びHOM‐MCを浸漬させて、HOM‐MCにMtを吸着させて、第2の逆抽出液に分離すれば、金属溶解溶液から第1の逆抽出液にMoを分離し、第2の逆抽出液にMtを分離することが可能である。又は、第2の条件(単独の元素しか吸着しない条件)の金属溶解溶液にHOM‐MCを浸漬させて第1の逆抽出液に金属溶解溶液中のMtを全て分離した後、金属溶解溶液を第1の条件(複数の元素を吸着する条件)にして、HOM‐MCを浸漬させると、既に金属溶解溶液中のMtは全て分離されているのでMoのみが吸着し、第2の逆抽出液にMoを分離することができる。なお、ここでは説明の便宜上、MtとMoを区別したが、事実上はここでのMoは第2の目的金属となる。
【0047】
目的金属分離工程(S5)では、目的金属を溶解可能な溶液に、目的金属(Mt)を吸着したHOM‐MC‐Mt又はHOM‐MC‐Mt‐Moを浸漬して、目的金属(Mt)を溶液に溶解させる。或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目的金属だけを遊離(分離)できる場合もあり、かかる条件の溶液に、目的金属(Mt)を吸着したHOM(HOM‐MC‐Mt又はHOM‐MC‐Mt‐Mo)を浸漬することにより、目的金属Mtだけを溶液に溶解できる。或いは、目的金属だけを遊離(分離)できる溶液に目的金属(Mt)を吸着したHOM(HOM‐MC‐Mt又はHOM‐MC‐Mt‐Mo)を浸漬することにより、目的金属Mtを溶解できる。HOM‐MCに目的金属を吸着してHOM‐MC‐Mtにすることを目的金属の抽出と考えた場合に、この工程はHOM‐MC‐Mt又はHOM‐MC‐Mt‐MoからMtを遊離(分離)するので逆抽出工程、あるいは目的金属(イオン)分離工程と言うこともできる。目的金属を溶解した溶液を逆抽出液という。目標金属だけを遊離(分離)できる場合は、金属溶解溶液からの抽出‐逆抽出工程を繰り返すことにより、金属溶解溶液中の目的金属を逆抽出液に分離及び濃縮することが可能である。
図7からすれば、pHを4以下とすると、DTAR修飾HOM‐MCのDy吸着能が低下するので、それだけで逆抽出することが可能である。
【0048】
ランタノイド元素やアクチノイド元素に関しても、吸着・分離・回収材(金属吸着性化合物を担持したHOM)は、金属溶解溶液と接触後、金属溶解溶液から取り出される。呈色反応の変化や分光測定により、吸着工程の進行をモニタリングすることができる。この取り出しは金属溶解溶液が吸着・分離・回収材のコラムや膜を通り抜ける形で行なわれても良い。取り出された吸着・分離・回収材は洗浄(目的外金属除去工程)されることが好ましい。そして、吸着・分離・回収材は逆抽出液に接触させられる。逆抽出液への接触も処理溶液との接触と同様に上述した多様な方法が可能である。また、呈色反応の変化や分光測定により逆抽出の進行をモニタリングすることもできる。逆抽出は官能基の錯体形成の化学雰囲気を離脱性のものに変えることによって行なうことができる。たとえば、pH調整が代表的なものであるが、NO
3‐イオン、SO
42-イオンなどの存在でその反応を促進しても良い。
【0049】
目的金属を分離したHOM‐MCは固形物であるから、ろ過して取り除くことができる(S6)。その後、HOM‐MCは、洗浄又は脱溶液処理の後、再度抽出工程に使用可能である。この工程を繰り返すことにより、処理溶液から目的金属元素を選択的に逆抽出液中に取り出すことができる。また、こうして得られる逆抽出液中の金属イオンは、目的金属イオンであるランタノイドやアクチノイドのイオンのみであるから、通常に用いられる化学ポテンシャル処理(酸やアルカリ処理)、電気分解法等を施せば、酸化物や水酸化物としてこれらのイオンを固化・沈降させ濾過などにより回収することができる(S7)。このように本発明の抽出方法によれば、天然鉱石からも都市鉱石からも目的金属としてランタノイド元素又はアクチノイド元素を回収できた。
【0050】
以上述べたように、少なくとも吸着工程(S4)及び目的金属分離工程(S5)によって、天然鉱石又は都市鉱石から得られた目的金属を溶解した金属溶解溶液から、金属吸着性化合物を担持した高度に秩序化したHOMを用いて、目的金属を回収することができる。
【実施例1】
【0051】
本実施例は、アゾ系試薬を修飾したHOMによりランタノイド元素の一種を選択回収した例を示す。用いたアゾ系試薬はDTAR(4-(2-thiazylazo)6-dodecylresorcinol)である。比較例1及び2として、同じく窒素を含む非呈色系分光試薬(N,N` Bis(salicylidene) dodecane-1,12-diamine(BSDD)及び2-hydroxy-3-((2-mercaptophenylimino) methyl)benzoic acid (HMPB))についても同様の手法で吸着・分離・回収を試みた。なお、非呈色系分光試薬とは、ランタノイド元素又はアクチノイド元素イオンと相互作用が生じても着色しない有機指示染料試薬である。
【0052】
HOMは、TMOS(テトラメトキシシラン)0.7に対して鋳型構造をもたらす界面活性剤F108を1の割合で混ぜ、50℃から60℃に加温し1〜2分攪拌した後、この溶液に塩酸を加え、触媒を添加し10分間減圧下で加熱することにより得られた。
図6はこのようにして得られたHOMのTEM(電子顕微鏡)写真で、これとXRD(粉末X線回折測定)の結果からHOMは立方晶のIm3m構造をとっていることを確認した。また、このときのBET比表面積は585m
2/gであり、メソポーラスの孔径は16nm、HOMの密度は0.6cm
3/gであった。
【0053】
DTARは、次のようにして合成された。100mLの0.4MH
2SO
4 中に15g(0.15mol)の2‐アミノチアゾールを均一に溶解し、1時間継続的に攪拌しつつ氷で冷やした。均質な混合物が得られたら、氷で冷やした100mLの10.8g(0.16mol)亜硝酸ナトリウム溶液が滴下添加され、0〜2℃で2時間攪拌された。等モル比となる41.8g(0.15mol)の4‐ドデシルレソルシノールを50mL量のC
2H
5OH:(0.5%) NaOH =3:1の混合溶液に溶解し、それを1〜3℃でジアゾ化された溶液中に添加した。10%酢酸ナトリウムを使用して溶液のpHを5.5に調整するとカップリング反応が促進される。混合物を冷蔵保存することでアモルファスの赤みを帯びた暗いオレンジの沈殿物として所望の生成物が得られ、温水と冷水による一連の洗浄によって精製され、70%エタノール中で再結晶される。こうしてDTAR(4-(2-thiazylazo)6-dodecylresorcinol)が得られた。
【0054】
このHOMに金属吸着性化合物としてDTAR(4-(2-thiazylazo)6-dodecylresorcinol)を修飾した。HOMをDTARのエタノール溶液に浸漬して真空中で加熱することによりDTAR修飾HOM(HOM‐MC)を製造した。かかるHOM‐MCの分光特性が前述の
図5である。
図5は、DTARを修飾したHOM‐MCに対して、pH11.0の溶液中に単独で添加されたDy
3+イオン濃度を0ppb、0.5ppb、1ppb、5ppb、10ppb、50ppb、100ppb、500ppb、1000ppb(1ppm)、2000ppb(2ppm)と変えて光吸収の波長依存性を測定した実験における各濃度の色彩を示す写真(上側)と、0ppb、0.5ppb、50ppb、500ppb及び2000ppbの分光スペクトルを示したものである。
図5から、光の波長585nm付近で顕著な濃度依存性のピークが認められ、HOM‐MCでのランタノイド元素(Dy)錯体捕獲が確認されている。一方、比較例1及び2の非呈色系分光試薬を用いたものでは、他のpH領域においてもこのような分光特性が現れず、DTARによるHOM修飾が有効であることが確認された。
図7は、ランタノイド元素としてDyを単独で2ppm溶解した溶液(室温)にNaOHを0.2M(モル)のC
6H
11NHCH
2SO
3Hとともに加えてpHを変化させたことによるDTAR修飾HOM‐MCのDy吸着能を示す。なお、C
6H
11NHCH
2SO
3Hはランタノイドイオンが沈殿するのを防止するための錯イオンである。
図7からDTAR修飾HOM‐MCによってDyを分離する場合は、pH8以上の条件で収率50%以上となり好ましく、pH10〜12の範囲とすると収率が80%以上となりより好ましく、約pH11とすると最もDy抽出条件として好ましいことが分かる。
【実施例2】
【0055】
図8は、金属吸着性化合物として、4-(2-pyridylazo) resorcinol(PAR)を修飾したHOMシリカに対して、pH7.0の溶液中に単独で添加されたYb
3+イオン濃度を0ppb、0.5ppb、1ppb、5ppb、10ppb、50ppb、100ppb、500ppb、1ppm(1000ppb)、2ppm(2000ppb)と変えて光吸収の波長依存性を測定した実験における各濃度の色彩を示す写真(上側)と、0、0.5、1、5、50、500、1000及び2000ppbの分光スペクトルを示したものである。
図8から、光の波長400nm付近で顕著な濃度依存性のピークが認められ、HOM‐MCでのランタノイド元素(Yb)錯体捕獲が確認されている。また、
図9は、ランタノイド元素としてYbを単独で2ppm溶解した溶液(室温)にNaOHを0.2M(モル)の3‐モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)とともに加えてpHを変化させたことによるPAR修飾HOM‐MCのYb吸着能を示す。なお、3‐モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)はランタノイドイオンが沈殿するのを防止するための錯イオンである。
図9からPAR修飾HOM‐MCによってYbを分離する場合は、pH10以下の条件で収率50%以上となり好ましく、pH5.4〜9.4の範囲とすると収率が80%以上となりより好ましく、約pH7とすると最もYb抽出条件として好ましいことが分かる。
【実施例3】
【0056】
図10は、消光反応を示すN,N`disalicylidene-4-nitro-phenylenediamine (DSNPD)を修飾したHOMシリカに対するランタノイド元素イオン(Dy
3+)添加の効果を確認したものであり、ランタノイド元素イオンを添加したpH7、25℃の溶液20mLにおけるDSNPD修飾HOM‐MCの蛍光シグナルの測定結果である。溶液は、NaOHと0.2M(モル)の3‐モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)とを添加してpHを7に調整した。
図10から、ランタノイド元素(Dy
3+)の添加量が増えると蛍光シグナルの強度が減少しており、DSNPD修飾HOM‐MCによってランタノイド元素錯体捕獲が確認されている。
【実施例4】
【0057】
本実施例は、アゾ系試薬を修飾したHOMによりランタノイド元素の一種を選択回収した例を示す。用いたアゾ系試薬は1-(2-pyridylazo)-2-naphtol(PAN)であり、HOMは実施例1と同様のメソポーラスシリカを用いた。
【0058】
このHOMに金属吸着性化合物として1-(2-pyridylazo)-2-naphtol(PAN)を修飾した。HOMをPANのエタノール溶液に浸漬して真空中で加熱することによりPAN修飾HOM(HOM‐MC)を製造した。本実施例においては、立方晶のIm3m構造のHOMを使用したため、PANを高密度に修飾することができた。かかるHOM‐MCの分光特性が
図11である。
図11は、PANを修飾したHOM‐MCに対して、pH11.5の溶液中に単独で添加されたDy
3+イオン濃度を0ppb、0.5ppb、1ppb、5ppb、10ppb、50ppb、100ppb、500ppb、1ppm、2ppmと変えて光吸収の波長依存性を測定したもので、光の波長585nmで顕著な濃度依存性のピークが認められ、HOM‐MCでのランタノイド元素錯体捕獲が確認されている。
図12は、ランタノイド元素としてDyを単独で2ppm溶解した溶液にNaOHを0.2M(モル)のC
6H
11NHCH
2SO
3Hとともに加えてpHを変化させたことによるPAN修飾HOM‐MCのDy吸着能を示す。なお、C
6H
11NHCH
2SO
3Hはランタノイドイオンが沈殿するのを防止するための錯イオンである。
図12からPAN修飾HOM‐MCによってDyを分離する場合は、pH7以上の条件で収率50%以上となり好ましく、pH9〜12の範囲とすると収率が80%以上となりより好ましく、約pH11とすると最もDy抽出条件として好ましいことが分かる。なお、pH11以外の条件ではDy以外にも、Yb(III)やTh(IV)が吸着する場合がある。このように吸着する元素が異なる複数の条件が存在する場合、金属溶解溶液や逆抽出液の条件を変更して複数回の吸着‐分離工程を繰り返すことで、所望の元素を得ることもできる。例えば、第1の条件(複数の元素を吸着する条件)の金属溶解溶液にPAN修飾HOM‐MCを浸漬させて、HOM‐MCにDy(III)及びYb(III)を吸着させて、第1の逆抽出液にDy(III)及びYb(III)を分離した後、逆抽出液を第2の条件(単独の元素しか吸着しない条件)にしてPAN修飾HOM‐MCを浸漬させて、HOM‐MCにDy(III)を吸着させて、第2の逆抽出液に分離すれば、金属溶解溶液から第1の逆抽出液にYb(III)を分離し、第2の逆抽出液にDy(III)を分離することが可能である。又は、第2の条件(単独の元素しか吸着しない条件)の金属溶解溶液にPAN修飾HOM‐MCを浸漬させて第1の逆抽出液に金属溶解溶液中のDy(III)を全て分離した後、金属溶解溶液を第1の条件(複数の元素を吸着する条件)にして、PAN修飾HOM‐MCを浸漬させると、既に金属溶解溶液中のDyイオンは全て分離されているのでYbイオンのみが吸着し、第2の逆抽出液にYb(III)を分離することができる。
【0059】
このPAN修飾HOM‐MCを用いたランタノイド系元素の抽出・逆抽出の結果を以下に示す。抽出においては、1mg/L(1ppm)のDy
3+とともに各種のイオンを混在させた5種の溶液を準備した。溶液(A)は混在イオンとして4ppmのFe
3+、4ppmのPd
2+を含むもの、溶液(B)は同じく各種10ppmのNd
3+、Yb
3+、Eu
3+の3種類のランタノイドイオンを含むもの、溶液(C)は別種のTb
3+、Eu
3+、Sm
3+の3種類のランタノイドイオンを各種15ppm含むもの、溶液(D)はさらに別種のCe
3+,Ho
3+,La
3+の3種類のランタノイドイオンを各種15ppm含むもの、溶液(E)は溶液(B)から溶液(D)に用いた9種のランタノイドを各種5ppm含むものである。
【0060】
これらの溶液に0.3Mのチオ硫酸塩及び酒石酸のキレートを添加し、高pH域までのイオンの安定化を行った後、NaOHでpH11まで調整した。これらの溶液に6mgのPANを修飾したHOMを浸漬し、十分な呈色を確認後溶液から取り出し、残存溶液中の各イオン濃度を測定した。さらに、取り出した修飾HOMを洗浄後0.2Mの硝酸で逆抽出を行い、その硝酸中の各種イオン濃度をICP元素分析で測定した。以下に示す表1はイオン混在系における吸着・分離・回収の結果を示す。なお、溶液(A)〜(E)の何れにおいても、Dy
3+は、初期溶液濃度が1ppmであり、処理後溶液中では0.00ppm(検出限界以下)となり、逆抽出液中では0.8ppmとなった。これにより、いずれの共存イオンが存在する場合であっても、硝酸の逆抽出液中にDy
3+が選択的に吸着・分離・回収されていることが分かり、その収率は約80%と非常に高い。
【0061】
【表1】
【0062】
以上説明したように、シリカ源と界面活性剤を混合したものに酸性水溶液を加えて得られるHOMは広い表面積と高秩序化した構造を有している。高秩序化した構造は、HOMの内壁構成原子を錯体形成分子の修飾(担持)端として稠密に利用することができ、また、高分子などに見られる立体障害効果を持つことがなく、高密度のみならず高応答速度も実現できる。さらに均質で安定した担持構造となるために金属吸着性化合物の担持体の劣化を抑えることができる。このHOMに金属吸着性化合物を高密度に担持させることにより、単位体積当たりの錯体形成能すなわちイオン吸着能の高い吸着材を形成することができる。このようにHOMを担持体として用いることでイオン吸着能を向上させることが可能となるために、これまで従来の高分子系担持体との組み合わせではイオン吸着能があまり高くないとして用いられなかった錯体形成分子を用いて高い単位体積当たりのイオン吸着能を得ることができる。しかし、ナノ構造体としては、以下の実施例5及び6において述べるように、ナノチューブ構造体やナノロッド構造体を使用することも可能である。
【実施例5】
【0063】
本実施例は、ナノ構造体として使用可能な酸化チタンのナノチューブ構造体の合成例である。8gのTiOSO
4、10gのエタノール及び5gの1MH
2SO
4水溶液を混合し、乳状溶液を生成する。その後、5gのエタノールに溶解された4gのPluronic(登録商標)F108トリブロック共重合体界面活性剤が素早く添加された。陽イオンの質量比は、TiOSO
4:F108:H
2O/H
2SO
4=1:0.5:0.6である。エタノールは、40〜45℃でロータリーエバポレーターに連結された真空ポンプによって除去される。5分以内にゲル状固体が形成される。有機部分は、その後の450℃、8時間の焼成によって除去される。こうして得られた酸化チタンのナノチューブ構造体は、BET比表面積が108m
2/gであり、チューブの孔径は9.3nm、ナノチューブの密度は0.58cm
3/gであった。
図13は、TiO
2ナノチューブ構造体の透過型電子顕微鏡(TEM)画像であり、
図13から均一な直径のナノチューブ構造体が合成されたことが確認される。
【実施例6】
【0064】
本実施例は、ナノ構造体として使用可能な酸化アルミニウムのナノロッド構造体の合成例である。酸化アルミニウムのナノロッド構造体は、以下の工程により簡単に合成することができる。まず、8gのAl(NO
3)
3前駆体を20mLの水に溶解させた後、10mLの水に溶解した4gの界面活性剤(臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB))を混合し、1時間攪拌する。その後、pHが10になるまで高濃度のアンモニア溶液を30分間撹拌しつつ滴下添加され、反応混合物は内面がテフロン加工されたステンレス鋼の加圧滅菌器に移動される。加圧滅菌器は密封され、オーブン内において24時間、150℃に保持される。加圧滅菌した後、自然放熱によって室温まで温度を下げる。混合物は遠心分離され、沈殿物を蒸留水及びエタノールで各3回十分に洗浄し、500℃で8時間焼成する。陽イオンの質量比は、質量比は、Al(NO
3)
3:CTAB:H
2O=1:0.5:3.75である。こうして得られた酸化アルミニウムのナノロッド構造体は、BET比表面積が212m
2/gであり、ナノロッドの直径(短径方向)は8.3nm、ナノロッドの密度は0.69cm
3/gであった。
【実施例7】
【0065】
本実施例では、マスキング剤を用いて、目的金属を選択的に抽出した。マスキング剤とは、複数の元素から目的金属のみを選択的に抽出するために、目的金属以外の金属を金属吸着化合物に反応させないように機能する妨害物質である。本実施例は、具体的には、前述したPAN修飾HOM(HOM‐MC)及びかかるマスキング剤(クエン酸ナトリウム)を用いて、複数のランタノイド元素及び各種の元素(Dy(III)、Nd(III)、Fe(III)、Al(III)、Cu(II)、B(III))を含む磁性体から、目的金属である一種のランタノイド元素(Dy(III))を選択的に回収した例である。まず、実験用の磁性体試料として、6種のイオン(Dy
3+、Nd
3+、Fe
3+、Al
3+、Cu
2+、B
3+)を混在させた金属溶解溶液を準備した。この金属溶解溶液は、0.2Mの塩化カリウム(KCl)1Lに、水酸化ナトリウム(NaOH)を適量加えてpH12.5に調整した後、4mlを採取したものに、混在イオンとして、1ppmのDy
3+、75ppmのNd
3+、50ppmのFe
3+、5ppbのAl
3+、5ppbのCu
2+、5ppmのB
3+を含むものである。この金属溶解溶液に、マスキング剤として、0.7Mのクエン酸ナトリウム溶液4mLを加え、所要の水を加えて全部で20mlとした。その後、目的金属を抽出するため、この溶液にPAN修飾HOMを20mg加え、溶液を30分間攪拌した。次いで、溶液を濾過した後、目的外金属を除去するため、目的金属(Dy(III))を吸着した吸着・分離・回収材(HOM‐MC‐Mt)を水で洗浄した。ろ液の溶液中には目的金属(Dy(III))はほとんど存在していない。次いで、吸着・分離・回収材をビーカーに入れ、目的金属を取り出すため、逆抽出液として0.05Mの硝酸10mLを加え、10分間攪拌した。この逆抽出液を濾過し、吸着・分離・回収材を水で洗浄する。目的金属であるDy(III)は、逆抽出液のろ液に存在し、吸着・分離・回収材であるPAN修飾HOMにも一部存在する。なお、マスキング剤を使用しない場合は、金属溶解溶液に、0.7Mのクエン酸ナトリウム溶液を加えなくてもよい。
【0066】
マスキング剤を使用しない場合、PAN修飾HOMは、目的金属(例えば、Dy(III))だけでなく、他の目的外金属(例えば、Nd(III)、Fe(III))を吸着してしまうことがある。比較のため、1ppmのDy
3+、75ppmのNd
3+、50ppmのFe
3+、5ppbのAl
3+、5ppbのCu
2+、5ppmのB
3+を、各々、pH12.5の溶液中4mlに単独で添加し、所要の水を加えて20mlにした金属溶解溶液を準備した。各金属溶解溶液にPAN修飾HOMを加え、30分間攪拌した後、各金属溶解溶液を濾過し、PAN修飾HOMを取出した。各金属を吸着したPAN修飾HOMについて紫外可視近赤外分光光度計(UV-VIS-NIR Spectrophotometer)により分析した。PAN修飾HOMといくつかの金属イオンとの間に相互作用が認められた。
図14は、pH12.5でのPAN修飾HOMと、Dy(III)、Nd(III)及びFe(III)のそれぞれとの呈色反応、及び各金属を吸着したPAN修飾HOMの分光スペクトルの測定結果である。
図14の呈色反応によれば、Nd(III)及びFe(III)がPAN修飾HOMと強く反応している。
【0067】
複数の種類の金属イオンが混在した金属溶解溶液から、目的金属であるDy(III)のみを選択的に抽出するため、目的外金属であるFe(III)及びNd(III)の両方の吸着を防ぐマスキング剤(0.7Mのクエン酸ナトリウム)の利用を検討した。かかるマスキング剤を利用すると、Dy(III)単体を効率的かつ選択的に抽出することができる。
図14に示したとおり、Nd(III)及びFe(III)はPAN修飾HOMと強く相互作用するため、かかるPAN修飾HOMによっては、Dy(III)のみを抽出することが難しかった。しかし、0.7Mのクエン酸ナトリウム溶液の存在下では、Nd(III)及びFe(III)とPAN修飾HOMとの間の相互作用が小さくなる。
図15は、マスキング剤として0.7Mのクエン酸ナトリウムを追加した場合のpH12.5でのPAN修飾HOMと、Dy(III)、Nd(III)及びFe(III)のそれぞれとの呈色反応、及び各金属を吸着したPAN修飾HOMの分光スペクトルの測定結果である。
図15の呈色反応によれば、Nd(III)及びFe(III)がそれぞれ単独で添加された金属溶液にPAN修飾HOMを加えたものと、PAN修飾HOM単体のものとは、色の変化が同程度である。また、
図15の分光スペクトルの測定結果によれば、目的金属であるDy(III)を吸着したPAN修飾HOMにおいて、マスキング剤を使用した場合でも使用しなった場合でも、分光スペクトルはほとんど変わらない。また、
図14及び
図15によれば、目的金属であるDy(III)を含む金属溶解溶液において、マスキング剤を使用した場合でも使用しなった場合でも、その呈色反応は同程度である。このような定量的な分析によって、複数の金属イオンを含む金属溶解溶液から、目的金属であるDy(III)を効率的かつ選択的に抽出する(抽出率90%以上)ために、かかるマスキング剤が有効であることが認められた。抽出率は、回収濃度(CR:concentration recovery)/原液濃度(CO:concentration original))×100[%]によって示される
【0068】
図16は、Dy
3+のみの溶液にPAN修飾HOMを加えた場合と、前述した6種のイオン(Dy
3+、Nd
3+、Fe
3+、Al
3+、Cu
3+、B
3+)を混在させたpH12.5の金属溶解溶液に、0.7Mのクエン酸ナトリウム4mlを加え、さらに、PAN修飾HOM(20mg)を加えた場合の溶液の呈色反応、及び取出されたPAN修飾HOMの紫外可視近赤外分光光度計による分光スペクトルの測定結果である。
図16の呈色反応によれば、6種の金属イオンが混在する金属溶解溶液にPAN修飾HOMを加えたものと、Dy
3+のみの溶液にPAN修飾HOMを加えたものとは、色の変化が同程度である。また、
図16の分光スペクトルの測定結果によれば、6種の金属イオンを含む金属溶解溶液から取出されたPAN修飾HOMと、Dy
3+のみの溶液から取出されたPAN修飾HOMとでは、分光スペクトルが類似する。したがって、PAN修飾HOMは、75ppmのNd(III)、50ppmのFe(III)、5ppbのAl(III)、5ppbのCu(II)及び5ppmのB(III)が混在した環境下でも、目的金属とするDy(III)のみを選択的に抽出する(抽出率90%以上)ことができる。
【0069】
金属吸着性化合物としてこれまで分光分析に用いられてきた一連の金属錯体形成分子は、金属イオンに対する選択性に優れているため、これらの錯体形成分子をナノ構造体に担持し適切な溶液中の錯体形成環境を実現すれば優れたイオン吸着能を持つ吸着材とすることができる。またHOM、ナノチューブ構造体、ナノロッド構造体等の担持体は安定性に富むために、溶液環境を変化させることで錯体形成分子を担持体に保持したまま逆抽出を行なうことができる。特に、アゾ系、アミン系などの窒素を含有する芳香族系分子で目的金属であるランタノイドやアクチノイド元素に対して選択分光特性を有するものをナノ構造体に担持した固体吸着材とし、それに対象とするランタノイドやアクチノイド元素に適合したpH調整などの溶液環境制御を行なうことで、選択性の高いランタノイド及びアクチノイド元素の吸着を行なうことができる。さらに逆抽出環境との組み合わせにより吸着されたランタノイドやアクチノイド元素の吸着・分離・回収ができる。さらに、ランタノイドやアクチノイド元素のイオン吸着に用いるアゾ系やアミン系などの窒素を含有する芳香族系分子はそもそも分光計測に用いられるように、1ppb台の希薄溶液から選択的な錯体形成によるイオン吸着を起こすため、土壌(約数ppm)や海水(約数ppb)などの希薄な状態にも適用できる。
【0070】
また、上述したように、本発明は、ナノ構造体として、有機シリコン化合物及び界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカを採用し、メソポーラスシリカに目的金属(イオン)を選択的に吸着するキレート化合物のような金属吸着性化合物を担持させ、その金属吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを目的金属(イオン)が溶解された溶液と接触させ、目的金属(イオン)を選択的にメソポーラスシリカに担持された金属吸着性化合物に吸着させる。その後で、目的金属(イオン)を吸着した金属吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを化学的処理し、目的金属(イオン)をメソポーラスシリカに担持された金属吸着性化合物から遊離(分離)させ、目的金属を回収する。目的金属(イオン)が遊離(分離)された金属吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、繰り返し再使用できる。
【0071】
本発明は都市鉱石に含まれる希少金属を効率よく安価に取り出す材料及びその方法を提供するものであるが、上記の説明からも分かるように、都市鉱石ばかりではなく、各種金属を含む通常の鉱石からの金属の抽出・吸着・逆抽出にも適用できるし、金属が溶け込んだ溶液からの金属の抽出・吸着・逆抽出にも適用できる。また、上述した以外の金属(希少金属やそれ以外も含む)に対しても、当該金属を選択的に吸着可能なキレート化合物のような金属吸着性化合物をナノ構造体に担持すれば、それを用いて目的金属を抽出・吸着・逆抽出して、金属を回収できることは明白である。なお、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることも言うまでもない。
【0072】
なお、本発明は以下の態様も含む。
[1]ランタノイド元素及びアクチノイド元素の中から選ばれた目的金属を含む金属溶解溶液に、前記目的金属との金属錯体を形成し、前記目的金属を選択的に吸着できる金属吸着性化合物を担持したナノ構造体を接触させ、前記溶液中の目的金属を前記金属吸着性化合物に吸着させる吸着工程と、前記吸着工程を経て、目的金属を吸着した金属吸着性化合物を担持したナノ構造体を逆抽出液に接触させ、前記金属吸着性化合物に吸着した目的金属を逆抽出液に移動させる目的金属分離工程と、を含むランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[2]前記目的金属は、2000ppb以下の低濃度で前記金属溶解溶液に含まれることを特徴とする上記[1]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[3]前記金属吸着性化合物は目的金属に対して選択分光特性を有する有機化合物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[4]前記有機化合物は窒素含有芳香族化合物であることを特徴とする上記[3に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[5]前記窒素含有芳香族化合物は芳香族アゾ化合物、芳香族アミン化合物であることを特徴とする上記[4]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[6]前記金属吸着性化合物は、3,5-diBr-PADAP、5-Br-PADAP、3-(2-pyridylazo)、DTAR、PAR、DSNPD及びPANから選択された1又は2以上の化合物であることを特徴とする上記[1]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[7]前記吸着工程において、呈色反応及び/又は分光特性をモニタリングしながら前記目的金属を前記金属吸着性化合物に吸着させることを特徴とする上記[3]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[8]前記目的金属分離工程において、呈色反応及び/又は分光特性をモニタリングしながら前記目的金属を前記金属吸着性化合物から逆抽出液に移動させることを特徴とする上記[3]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[9]前記吸着工程において、前記金属溶解溶液を目的金属の選択分離特性を示す化学環境に調整することにより、目的金属のみを前記金属吸着性化合物に吸着させることを特徴とする上記[1]乃至[8]の何れか1項に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[10]前記目的金属分離工程において、前記逆抽出液を所定の条件とすることにより、前記金属吸着性化合物に吸着した目的金属イオンを逆抽出液に移動させることを特徴とする上記[1]乃至[8]の何れか1項に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[11]前記目的金属分離工程において前記金属吸着性化合物に吸着した目的金属イオンを逆抽出液に移動させたナノ構造体を再び前記吸着工程において溶液に接触させることを特徴とする上記[1]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[12]前記ナノ構造体は、多孔質構造体又はナノロッド構造体を含むことを特徴とする上記[1]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[13]前記多孔質構造体は高度に秩序化したメソポーラス構造を含むことを特徴とする上記[12]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[14]前記メソポーラス構造は、メソポーラスシリカを含むことを特徴とする上記[13]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[15]前記金属吸着性化合物は、前記メソポーラス構造の表面及び細孔内壁に担持されることを特徴とする上記[13]又は[14]に記載のランタノイド元素又はアクチノイド元素の抽出方法。
[16]溶液中に存在するランタノイド元素及びアクチノイド元素の中から選ばれた目的金属との金属錯体を形成し、前記目的金属を選択的に吸着できる金属吸着性化合物を担持したナノ構造体。
[17]前記目的金属は、2000ppb以下の低濃度で前記溶液中に存在することを特徴とする上記[16]に記載のナノ構造体。
[18]前記金属吸着性化合物は目的金属に対して選択分光特性を有する有機化合物であることを特徴とする上記[16]に記載のナノ構造体。
[19]前記有機化合物は窒素含有芳香族化合物であることを特徴とする上記[18]に記載のナノ構造体。
[20]前記窒素含有芳香族化合物は芳香族アゾ化合物、芳香族アミン化合物であることを特徴とする上記[19]に記載のナノ構造体。
[21]前記金属吸着性化合物は、3,5-diBr-PADAP、5-Br-PADAP、3-(2-pyridylazo)、DTAR、PAR、DSNPD及びPANから選択された1又は2以上の化合物であることを特徴とする上記[16]に記載のナノ構造体。
[22]前記ナノ構造体は、多孔質構造体又はナノロッド構造体を含むことを特徴とする上記[16]に記載のナノ構造体。
[23]前記多孔質構造体は高度に秩序化したメソポーラス構造を含むことを特徴とする上記[22]に記載のナノ構造体。
[24]前記メソポーラス構造は、メソポーラスシリカを含むことを特徴とする上記[23]に記載のナノ構造体。
[25]前記金属吸着性化合物は、前記メソポーラス構造の表面及び細孔内壁に担持されることを特徴とする上記[23]又は[24]に記載のナノ構造体。
[26]複数のランタノイド元素及び他の元素を含む金属溶解溶液から、前記複数のランタノイド元素の中から選ばれた一種の目的金属を抽出する方法であって、前記金属溶解溶液にマスキング剤を加えて、前記目的金属以外の元素の抽出を妨げるマスキング工程と、前記金属溶解溶液に、前記目的金属との金属錯体を形成し、前記目的金属を選択的に吸着できる金属吸着性化合物を担持したナノ構造体を接触させ、前記溶液中の目的金属のみ選択的に前記金属吸着性化合物に吸着させる吸着工程と、前記吸着工程を経て、目的金属を吸着した金属吸着性化合物を担持したナノ構造体を逆抽出液に接触させ、前記金属吸着性化合物に吸着した目的金属を逆抽出液に移動させる目的金属分離工程と、を含むランタノイド元素の抽出方法。
[27]前記目的金属は、2000ppb以下の低濃度で前記金属溶解溶液に含まれることを特徴とする上記[26]に記載のランタノイド元素の抽出方法。
[28]前記金属吸着性化合物は、PANの化合物であることを特徴とする上記[26]に記載のランタノイド元素の抽出方法。
[29]前記マスキング剤は、クエン酸ナトリウムであることを特徴とする上記[28]に記載のランタノイド元素の抽出方法。