特許第6048905号(P6048905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6048905養生文化を応用した長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用を呈するウロン酸誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048905
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】養生文化を応用した長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用を呈するウロン酸誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/09 20060101AFI20161212BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20161212BHJP
   C12P 21/06 20060101ALN20161212BHJP
   C12P 19/00 20060101ALN20161212BHJP
   A61K 38/00 20060101ALN20161212BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20161212BHJP
   A61K 8/64 20060101ALN20161212BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   C07K5/09
   !A23L33/10
   !C12P21/06
   !C12P19/00
   !A61K37/02
   !A61P43/00 105
   !A61K8/64
   !A61Q19/08
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-262403(P2013-262403)
(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公開番号】特開2015-117212(P2015-117212A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2015年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】504447198
【氏名又は名称】二村 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】二村 芳弘
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−240956(JP,A)
【文献】 特開2013−133279(JP,A)
【文献】 特開2004−175790(JP,A)
【文献】 特表2011−526781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−9/00
C12P 1/00−41/00
A23L 33/10
A61K 8/64
A61K 38/00
A61P 43/00
A61Q 19/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
REGISTRY/CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)に示される長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用を呈するウロン酸誘導体。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は養生文化を応用した長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用を呈するウロン酸誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
養生文化とは東洋の医学的及び科学的発想であり、生命の根幹に関わるマルチプルな理論であり、その歴史は古く、使用経験も豊富である。
【0003】
養生文化を利用した技術として食事に関するものとして薬膳がある。一方、養生文化を利用した伝承的な美容法も存在し、植物エキスや発酵原料などに利用されている。
【0004】
しかし、養生文化を医学的に検証し、それを産業に応用することは難しい。その理由は、特定の成分が同定できず、かつ、その働きが多様であるためである。
【0005】
そこで、養生文化を応用するという点で伝統的な発酵法を利用した。さらに、養生文化を遺伝子レベルで解析することにした。長寿遺伝子が生命活動の根幹にかかわることから長寿遺伝子の一つであるSirt1の発現量増加作用を標的とした。
【0006】
たとえば、長寿遺伝子を利用した発明としてはレスベラトール含有組成物および使用方法の発明があるものの、その利用範囲は限定されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、化学合成された成分には副作用が認められるという問題点がある。
【0008】
一方、天然物由来の物質は安全性が高い反面、長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用が軽度であり、効果が弱いという欠点があり、産業上の利用は限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2013−518563
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記したように既存の天然物による長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用は軽度であり、産業上への利用が限定されるという課題があり、また、化学合成された物質では安全性に問題があり、利用が限られている。
【0011】
そこで、副作用が弱く優れた長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用を呈する天然物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は下記の式(1)で示される養生文化を応用した長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用を呈するウロン酸誘導体に関するものである。
【0013】
【化1】
【発明の効果】
【0014】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
【0015】
請求項1に記載のウロン酸誘導体によれば、優れた長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用が発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
【0017】
長寿遺伝子の発現量増加作用を呈するウロン酸誘導体は、下記の式(1)に示される構造を呈する。
【0018】
【化2】
【0019】
ここでいうウロン酸誘導体とはウロン酸とアルギニン、スレオニン、アスパラギンよりなるトリペプチド1分子に2分子のウロン酸が結合したペプチドが結合したウロン酸の結合体である。
【0020】
アルギニン、スレオニン、アスパラギンおよびウロン酸はいずれも天然の植物に含有されており、その安全性も確認されている。
【0021】
トリペプチドはアルギニン、スレオニン、アスパラギンよりなり、N末端側がアルギニンで、中央がスレオニン、C端末側がアスパラギンであり、その間はペプチド結合により結合されている。
【0022】
これらのアミノ酸はいずれもL型である。これらのアミノ酸はいずれも体内に存在する成分であり、その安全性は確認されている。
【0023】
ウロン酸のカルボキシル基がアルギニンのグアニジノ基のアミノ基とペプチド結合している。
【0024】
このウロン酸誘導体は水溶性が高く、一方、アルコールとの親和性もあることから、エタノール、グリコール類やグリセリン類などに溶解性を示して産業上利用しやすい。
【0025】
このウロン酸誘導体は長寿遺伝子Sirt1の発現量増加に対して2つの作用メカニズムを有している。
【0026】
一つは長寿遺伝子Sirt1のプロモーター部位に直接作用してプロモーターとして働き、Sirt1の発現を促進する場合である。Sirt1はサーチュインファミリーを形成しており、遺伝子近傍には豊富なプロモーターが存在している。
【0027】
このウロン酸誘導体はペプチド部位によりプロモーターと反応し、ウロン酸によりその発現を維持させる。しかし、その働きは、一過性であり、共有結合のような強固な結合ではない。
【0028】
もう一つは長寿遺伝子Sirt1の分解の抑制である。その働きはクロマチン部分の安定化による。
【0029】
これらの2つの作用が相乗的に働くことにより長寿遺伝子Sirt1の発現量増加と維持が行われ、長寿遺伝子Sirt1が増加する。
【0030】
また、このウロン酸誘導体は細胞内に局在するペプチダーゼやエステラーゼにより分解されてペプチドとウロン酸に分解されることから残留性もなく、安全性は高い。
【0031】
得られたウロン酸誘導体を医薬品素材として利用する場合、目的とするウロン酸誘導体を分離精製することは、目的とするウロン酸誘導体の純度が高まり、不純物を除去できる点から好ましい。
【0032】
医薬品として注射剤または経口剤または塗布剤などの非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、塗布剤、ゲル剤、歯磨き粉等に配合されて利用される。
【0033】
経口剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。前記の錠剤は、シェラックまたは砂糖で被覆することもできる。
【0034】
また、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の液体担体を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を添加することができる。
【0035】
非経口剤としては、軟膏剤、クリーム剤、水剤等の外用剤の他に、注射剤が挙げられる。外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールド等が用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤等とすることができる。
【0036】
注射剤には、液剤があり、その他、凍結乾燥剤がある。これは使用時、注射用蒸留水や生理食塩液等に無菌的に溶解して用いられる。
【0037】
食品製剤として長寿遺伝子Sirt1の発現量増加を目的とし、アンチエイジングの目的で健康食品や食品などに利用される。また、保健機能食品として栄養機能食品や特定保健用食品に利用することは好ましい。
【0038】
得られた食品製剤をイヌやネコなどのペットや家畜動物に利用する場合、アンチエイジングを目的として、飼料やサプリメントとして利用される。
【0039】
化粧料として常法に従って界面の発現量増加作用剤、溶剤、増粘剤、賦形剤等とともに用いることができる。例えば、クリーム、毛髪用ジェル、洗顔剤、美容液、化粧水等の形態とすることができる。
【0040】
化粧料の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状または粉末状として用いられる。
【0041】
得られた化粧料は長寿遺伝子Sirt1を増加させ、アンチエイジングにより皮膚機能を発揮し、シワの防止やタルミの改善に利用される。
【0042】
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。なお、これらは一例であり、素材、原料や検体の違いに応じて常識の範囲内で条件を変更させることが可能である。
【実施例1】
【0043】
有機栽培または減農薬栽培された新潟県産の玄米、黒米及び赤米、山形県産の大麦及びもち麦、鳥取県産のはと麦、静岡産の粟、稗及び黍、宮崎県産のたかきび、茨城県産の大豆、京都府産の黒豆、三重県産の小豆及び北海道産のトウモロコシをそれぞれ購入して用いた。
【0044】
これらを水洗後、粉砕機(株式会社奈良機械製作所製のスーパー自由ミル)に精製水とともに粉砕して粉砕物9kgを得た。
【0045】
この粉砕物を乾燥器により乾燥し、穀物粉末を得た。この穀物粉末8.5kgを清浄なステンレス製の寸胴に移し、精製水を15L添加して懸濁した。
【0046】
これらを95℃で1時間煮沸滅菌した。これらを80kg容量の横河電機社製の撹拌式発酵タンク(FP211)に移し、41℃で24時間発酵させた。
【0047】
得られた発酵液の上清を濾過布により粗濾過してろ液を得た。
【0048】
このろ液に塩水港精糖社製の分岐シクロデキストリン240gを添加して攪拌した。
【0049】
さらに、天野エンザイム製のプロテアーゼM「アマノ」SD20gを添加し、38℃に加温して攪拌した。
【0050】
攪拌は攪拌装置を用いて室温で4時間実施した。得られた反応液を東洋濾紙の濾紙により吸引ろ過し、ろ液を得た。
【0051】
得られた反応液をパールウォーターDX−7000に供し、電気分解し、陰極側からアルカリ還元された溶液を得た。
【0052】
この溶液を凍結乾燥させて目的とする粉末230gを得た。これを検体1とした。この検体1は薄黄色であった。
【0053】
前述の検体1の粉末100gに10%エタノール含有精製水2Lを添加し、ダイアイオン(三菱化学製)500gを5%エタノール液に懸濁して充填したカラムに供した。
【0054】
これに4Lの5%エタノール液を添加して清浄し、さらに、80%エタノール液を1L添加して目的とするウロン酸誘導体を溶出させた。精製されたウロン酸誘導体は減圧蒸留により、エタノール部分を除去してこれを検体2とした。この検体2は無味無臭で透明な水溶性であった。
【0055】
以下に、ウロン酸誘導体の構造解析に関する試験方法及び結果について説明する。
(試験例1)
【0056】
上記のように得られた検体2を精製水に溶解し、精密ろ過後、質量分析器付き高速液体クロマトグラフィ(HPLC、島津製作所)で分析した。
【0057】
さらに、核磁気共鳴装置(NMR、ブルカー製、AC−250)で解析した。構造解析の結果、検体2からウロン酸、アルギニン、スレオニン、アスパラギンが結合した結合体が検出された。
【0058】
また、アミノ酸分析装置(島津製作所製)によりアルギニン、スレオニン、アスパラギンが同定された。
【0059】
以下に、ヒト皮膚細胞を用いた長寿遺伝子Sirt1の発現量増加の確認試験について述べる。
(試験例2)
【0060】
この試験はヒト由来の皮膚細胞に検体を添加して培養し、長寿遺伝子Sirt1のRNA量をRT−PCR法により分析するという細胞分子学的な方法である。これらの方法は一般的な分析方法として確立されている。
【0061】
すなわち、正常ヒト由来皮膚細胞を専用培養液にて培養した。これに、実施例1で得られた検体2、ウロン酸、アルギニンの0.1mgを5%エタノール含有PBS溶液にて添加し、37℃で、24時間培養した。なお、溶媒対照を設定して対照群とした。
【0062】
細胞数を計数後、細胞懸濁液を超音波破砕して細胞懸濁液を調製した。この細胞液からRNA抽出キット(フナコシ製)によりRNA分画を採取した。
【0063】
このRNA分画をRT−PCR法により長寿遺伝子Sirt1をプローブとして電気移動法により分析し、長寿遺伝子Sirt1含量を定量した。
【0064】
その結果、検体2の処理により、溶媒対照に比して長寿遺伝子Sirt1は452%となり、明らかな増加が認められた。一方、ウロン酸添加の場合は120%、アルギニン添加の場合は103%となり、溶媒対照と同程度であった。
【0065】
以下に、ヒト皮膚細胞を用いたエラスチン分解試験について述べる。
(試験例3)
【0066】
精製エラスチンをSigma社より購入した。エラスチンをトリス緩衝液(pH7.4)に溶解した。これにエラスターゼを処理してエラスチンを分解し、280nmの吸光度の変化を指標としてエラスチンの分解率を計数した。
【0067】
この条件下で検体2の0.1mg/mL溶液を添加してエラスチンの分解率を測定した。
【0068】
その結果、溶媒対照に比して検体2を添加した場合、エラスチンの分解率は55%に低下した。検体2にはエラスチン分解抑制作用が認められた。
【0069】
以下に、ヒト神経細胞を用いた長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用の確認試験について述べる。
(試験例
【0070】
この試験はヒト由来の神経細胞(クラボウ製)に検体を添加して培養し、長寿遺伝子Sirt1のRNA量を分析した。
【0071】
すなわち、正常ヒト由来神経細胞を専用培養液にて培養した。これに、実施例1で得られた検体2の0.1mgを5%エタノール含有PBS溶液にて添加し、37℃で、40時間培養した。なお、溶媒対照を設定して対照群とした。
【0072】
細胞数を計数後、細胞懸濁液を超音波破砕して細胞懸濁液を調製した。この細胞液からRNA抽出キット(フナコシ製)によりRNA分画を採取した。
【0073】
このRNA分画をRT−PCR法により長寿遺伝子Sirt1をプローブとして電気移動法により分析し、長寿遺伝子Sirt1含量を定量した。
【0074】
その結果、検体2の処理により、溶媒対照に比して長寿遺伝子Sirt1は503%となり、明らかな増加が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明で得られるウロン酸誘導体は長寿遺伝子Sirt1の発現量増加作用を呈し、かつ、副作用が少ないことから、抗炎症剤として国民のQOLを改善し、医療費を削減できる。
【0076】
本発明で得られるウロン酸誘導体は化粧料としてシワやシミの改善に利用され、化粧品業界の発展に寄与する。