特許第6048907号(P6048907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6048907
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】非水電解質電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20161212BHJP
【FI】
   H01M10/0569
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-90397(P2012-90397)
(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公開番号】特開2013-218963(P2013-218963A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】出水 真史
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−074135(JP,A)
【文献】 特開2012−094491(JP,A)
【文献】 特開2011−049157(JP,A)
【文献】 特開2004−087136(JP,A)
【文献】 特開2010−153289(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/016212(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/035085(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/090029(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属塩を含有している非水溶媒からなる非水電解質であって、前記非水溶媒は、カーボネート系溶媒と、化1で示される含フッ素リン酸エステルと、化2で示される含フッ素エーテルとを含有し、前記非水溶媒中に占める前記カーボネート系溶媒の割合が50体積%以上65体積%以下であり、前記カーボネート系溶媒が鎖状カーボネートと環状カーボネートとを含み、前記カーボネート系溶媒中に占める鎖状カーボネートの割合が50体積%以上であり、前記非水溶媒中に占める前記含フッ素リン酸エステル及び前記含フッ素エーテルの割合が35体積%以上であり、前記含フッ素リン酸エステルと前記含フッ素エーテルとの体積比率が25:75〜45:55であり、JIS K2265−2に規定されるセタ密閉式引火点測定器による引火点測定法によって引火点が80℃以下の温度で測定されず、JIS K2265−4に規定されるクリーブランド開放式引火点試験器による引火点測定法によって引火前に前記非水電解質が沸騰するものであり、且つ、−20℃で、透明性を保っていることを特徴とする非水電解質。
【化1】
(但し、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基であり、R1〜R3の少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
【化2】
(但し、R4及びR5は、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基であり、R4及びR5の少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
【請求項2】
前記含フッ素リン酸エステルは、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、又は、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルであり、前記含フッ素エーテルは、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル、又は、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルである、請求項1記載の非水電解質。
【請求項3】
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル及び1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルを30/30/15/25の体積比で混合された非水溶媒がアルカリ金属塩を含有している非水電解質。
【請求項4】
正極と、負極と、請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質を備えた非水電解質電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非引火性の非水電解質及びそれを用いた非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質電池は、高電圧・高エネルギー密度を有するため、広く民生用電子機器の電源として用いられている。このような非水電解質電池は、正極と負極との間にセパレータを介し、巻回して電池外装体に挿入され組み立てられる。近年、この種の非水電解質電池は、電気自動車や電力貯蔵用といった、大型電池への展開が進められている。
【0003】
このような非水電解質電池に用いられている非水電解質には、可燃性溶媒あるいは引火性溶媒が用いられる場合が多いが、このような材料は、消防法上危険物に分類されるため、輸送、貯蔵する場合に防爆や防火対策を施した設備での取り扱いが必要となることから、流通性に問題があった。
【0004】
また、万一、非水電解質電池の外装体が破損した場合を想定すると、漏出する非水電解質は、難燃性又は非引火性を有することが望まれる。具体的には、例えばコイン型電池では、用いている非水電解質の量が少ないため、外装体が破損しても非水電解質が漏出しないか又は仮に漏出しても引火することが想定し難い。しかしながら、例えば3Ah以上の中型ないし大型電池では、用いられる非水電解質の量が多いことに加え、なかでも長サイクル寿命設計とした非水電解質電池では、正極、負極及びセパレータが有する空孔体積よりも多い量の非水電解質を備える設計とされていることから、電池の外装体が破損したことを想定した場合、非水電解質が漏出し、引火する虞が高まる。さらに、近年では、軽量化のため、大型電池においても外装体(電槽)にアルミニウム、アルミニウム合金、アルミラミネートフィルム等の金属樹脂複合フィルム等を用いることが検討されているが、これらの材料は機械的強度が低いため、鋭利な物体の衝突等により破損する虞が高まる。従って、この観点からも、非水電解質は、難燃性又は非引火性を有することが望まれている。
【0005】
特許文献1〜3には、フッ素化リン酸エステルを含有する非水電解質を用いた非水電解質電池が記載されている。また、特許文献4には、難燃性能および電池特性の向上した非水電解液とするために、フッ素原子を側鎖に含む難燃剤とホウ素化合物からなる添加剤を共存してなる非水系電解液を用いる発明が記載されている。また、同文献には「本発明において使用するフッ素原子を側鎖に持つ難燃剤としては、含フッ素リン酸エステルや含フッ素ホスファゼン化合物、含フッ素エーテル、含フッ素カーボネート及び含フッ素エステルなどを例示することが出来る。」(段落0018参照)との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−044245号公報
【特許文献2】特開2011−113822号公報
【特許文献3】特開2011−113889号公報
【特許文献4】特開2011−222431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、非引火性を有する非水電解質を用いながらも、低温性能にも優れた非水電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0009】
本発明は、アルカリ金属塩を含有している非水溶媒からなる非水電解質であって、前記非水溶媒は、カーボネート系溶媒と、化1で示される含フッ素リン酸エステルと、化2で示される含フッ素エーテルとを含有し、JIS K2265−2に規定されるセタ密閉式引火点測定器による引火点測定法によって引火点が80℃以下の温度で測定されず、且つ、JIS K2265−4に規定されるクリーブランド開放式引火点試験器による引火点測定法によって引火前に前記非水電解質が沸騰するものであることを特徴とする非水電解質である。
【0010】
【化1】
(但し、R、R、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基であり、R〜Rの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
【化2】
(但し、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基であり、R及びRの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
【0011】
ここで、前記非水溶媒中に占める前記カーボネート系溶媒の割合が50体積%以上65体積%以下であり、前記カーボネート系溶媒中に占める鎖状カーボネートの割合が50体積%以上であり、前記カーボネート系溶媒が鎖状カーボネートと環状カーボネートとを含み、前記非水溶媒中に占める前記含フッ素リン酸エステル及び前記含フッ素エーテルの割合が35体積%以上であり、前記含フッ素リン酸エステルと前記含フッ素エーテルとの体積比率が25:75〜45:55である。
【0012】
また、本発明は、正極と、負極と、前記非水電解質を備えた非水電解質電池である。
【0013】
本発明者は、環状カーボネート鎖状カーボネートとを含むカーボネート系溶媒を含有する非水電解質電池用非水電解質について検討するなかで、含フッ素リン酸エステル、含フッ素ホスファゼン化合物、含フッ素エーテル、含フッ素カーボネート、含フッ素エステル等の、難燃材として知られる多種多様な材料の中から、特定の含フッ素リン酸エステルと、特定の含フッ素エーテルとをそれぞれ選択して組み合わせて用いることにより、非引火性を有しながらも、十分な低温性能を有する非水電解質電池とすることができることを見出し、本発明に至った。低温性能は、後述する凝固性試験により、非水電解質を−20℃とし、目視観察して、透明性を保っていることで評価する。
【0014】
本願明細書において、非引火性を有するとは、非水電解質が、JIS K2265−2に規定されるセタ密閉式引火点測定器による引火点測定法によって引火点が80℃以下の温度で測定されず、且つ、JIS K2265−4に規定されるクリーブランド開放式引火点試験器による引火点測定法によって引火前に前記非水電解質が沸騰することをいう。
【0015】
上記構成により、非引火性が示される作用機構については、必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように推察している。即ち、本発明に係る非水電解質が化2で示される含フッ素エーテルを含有することにより、前記含フッ素エーテルの蒸気が不燃性を有するため、前記非水電解質の表面が前記含フッ素エーテルの蒸気によって覆われる。このため、前記非水電解質が引火性又は可燃性液体を含有していても、前記含フッ素エーテルの蒸気が可燃性蒸気濃度を低減し、爆発下限以下に制御することができるため、前記非水電解質は非引火性を有するものとなる。しかしながら、前記含フッ素エーテルはアルカリ金属塩を溶解する能力が低いため、非水電解質が前記含フッ素エーテルを含有することによって、特に低温においてアルカリ金属塩の析出等が生じやすい。このため、非水電解質電池の低温性能が劣ったものとなる。しかしながら、非水電解質がさらに化1で示される含フッ素リン酸エステルを含有することにより、前記含フッ素リン酸エステルはアルカリ金属塩を溶解する能力が高いため、低温においても非水電解質として良好なイオン伝導性を示すことができることから、非水電解質電池の優れた低温性能を維持できる。一方、前記含フッ素リン酸エステルは、アルカリ金属塩を溶解する能力が高く、自己消火性に優れるため、前記含フッ素エーテルを含有しなくても、前記非水電解質は非引火性を有するものとすることができる。しかしながら、前記含フッ素リン酸エステルは粘度が高いため、前記含フッ素エーテルを含有しない場合には、これを用いた非水電解質電池の低温性能が劣ったものとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非引火性を有する非水電解質を用いながらも、低温性能に優れた非水電解質電池を提供することのできる非水電解質を提供できる。また、本発明によれば、非引火性を有する非水電解質を用いながらも、低温性能に優れた非水電解質電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る非水電解質が備える溶媒が含有する化1で示される含フッ素リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、 リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル及びリン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル等が挙げられる。
【0018】
前記含フッ素リン酸エステルは、不燃性、難燃性又は非引火性を備えると共に、特にアルカリ金属塩に対する溶解性に優れるものであることが求められる。この観点から、上記の中でも、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、 リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルが好ましく、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルが特に好ましい。
【0019】
本発明に係る非水電解質が備える溶媒が含有する化2で示される含フッ素エーテルは、R4が、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基及び2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であり、且つ、R5が、ジフルオロメチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基及び1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル基からなる群から選ばれる1種以上であるものが好ましい。
【0020】
前記含フッ素エーテルは、特に不燃性、難燃性又は非引火性を備えると共に、蒸気圧が低すぎないものであることが求められる。従って、分子中に含まれるフッ素原子の割合が大きいものが好ましく、分子量が大きすぎないものが好ましい。また、前記含フッ素エーテル自体が引火性を有さないものが好ましい。フッ素原子の割合が少ない含フッ素エーテルを用いると、非引火性を備えるものとするために前記含フッ素エーテルの混合比率を高くする必要があるが、前記含フッ素エーテルはアルカリ金属塩に対する溶解度が低いため、非水電解質電池の低温性能の点で好ましくない。この観点から、1、1、2、2−テトラフルオロエチル−2、2、3、3−テトラフルオロプロピルエーテル(分子量:232、分子中のフッ素原子の重量比率:65%)又は1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(分子量:200、分子中のフッ素原子の重量比率:66%)が好ましく、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルが最も好ましい。
【0021】
なお、難燃剤として、含フッ素エステルや含フッ素カーボネートを用いることが思いつくかもしれない。しかしながら、含フッ素エステルや含フッ素カーボネートのうち分子量が大きすぎないものは、これ自体が引火性を有する。従って、本発明における前記含フッ素エーテルに代えて含フッ素エステル又は含フッ素カーボネートを用いようとすると、非水電解質が非引火性であるものとするために、含フッ素リン酸エステルの含有比率を大きくすることが必要となる。しかしながら、含フッ素リン酸エステルの含有比率を大きくすると、非水電解質の粘度が増大するため、非水電解質電池の低温性能が劣ったものとなる。従って、本発明における前記含フッ素エーテルに代えて含フッ素エステル又は含フッ素カーボネートを用いることはできない。
【0022】
本発明に係る非水電解質が備える溶媒が含有するカーボネート系溶媒としては、環状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートを混合して用いてもよい。ここで、本発明に係る非水電解質が備える溶媒が含有するカーボネート系溶媒の体積比率は、非水電解質が非引火性であるものとするため、65体積%以下とする。但し、これを用いた非水電解質電池の性能を十分なものとするため、50体積%以上とする。55体積%以上がより好ましい。
【0023】
前記環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネートを1種又は2種以上混合して用いることが好ましく、なかでも、プロピレンカーボネート及び/又はエチレンカーボネートを選択して用いることがより好ましい。
【0024】
前記鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを1種又は2種以上混合して用いることが好ましく、なかでも、ジエチルカーボネート及び/又はエチルメチルカーボネートを選択して用いることがより好ましい。
【0025】
本発明に係る非水電解質が備える溶媒は、本発明の効果が奏される限りにおいて、上記以外のものを含有していてもよく、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等が含まれていてもよい。また、ビニレンカーボネート、1,3−プロパンスルトン等に代表される酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、界面活性剤等の添加物が含まれていてもよい。
【0026】
非水電解質に用いるアルカリ金属塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n−C、NClO,(n−CNI,(CN−maleate,(CN−benzoate,(CN−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることもまた、好ましい。
【0027】
非水電解質におけるアルカリ金属塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
【0028】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0029】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0030】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0031】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0032】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0033】
非水電解質電池の形状については限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が挙げられる。
【0034】
正極活物質としては、限定されるものではなく、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸鉄マンガンリチウム(例えばLiFe0.9Mn0.1PO)、チタン酸リチウム(LiTi12)、タングステン酸(WO)、リチウム遷移金属複合酸化物としては、LiMn等で表されるスピネル型リチウムマンガン酸化物、LiNi1.5Mn05等で表されるスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物等に代表されるスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物や、LiCoO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、Li1.1Co2/3Ni1/6Mn1/6、等に代表されるα−NaFeO構造を有するLiMeO型(Meは遷移金属)リチウム遷移金属複合酸化物、LiMePO(MeはCo又はMnを含む遷移金属)、Li(PO等のリン酸遷移金属リチウム化合物、等が挙げられる。また、Li1+αMe1−α(α>0)と表記可能ないわゆる「リチウム過剰型」リチウム遷移金属複合酸化物を用いてもよい。ここで、Li/Me比は1.25〜1.6が好ましい。なお、Li/Me比をβとすると、β=(1+α)/(1−α)であるから、例えば、Li/Meが1.5のとき、α=0.2である。
【0035】
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを析出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0036】
外装体(電槽)としては、限定されるものではなく、ステンレス鋼製、アルミニウム製等の金属電槽等を用いることができる。また、軽量のアルミニウム合金やアルミラミネートフィルム等の金属樹脂複合フィルム等を用いてもよい。
【0037】
なお、これらアルミニウム合金やアルミラミネートフィルム等の金属樹脂複合フィルム等は機械的強度が低いため、鋭利な物体の衝突等により破損する虞が高まる。従って、本発明は、アルミニウム、アルミニウム合金、アルミラミネートフィルム等の金属樹脂複合フィルム等を用いた電池に適用することにより、本発明の効果が好適に奏される。
【0038】
また、3Ah以上の中型ないし大型電池では、用いられる非水電解質の量が多い。従って、本発明は、定格容量が3Ah以上の非水電解質電池に適用することにより、本発明の効果が好適に奏される。
【0039】
また、3Ah以上の中型ないし大型電池の中でも、長サイクル寿命設計とした非水電解質電池では、正極、負極及びセパレータが有する空孔体積よりも多い量の非水電解質を備える設計とされていることから、電池の外装体が破損したことを想定した場合、非水電解質が漏出し、引火する虞が高まる。従って、本発明は、正極、負極及びセパレータが有する空孔体積よりも多い量の非水電解質を備える非水電解質電池に適用することにより、本発明の効果が好適に奏される。
【実施例】
【0040】
(本発明電解質1)
環状カーボネートであるエチレンカーボネート(EC)、鎖状カーボネートであるエチルメチルカーボネート(EMC)、化1で示される含フッ素リン酸エステルであるリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、及び、化2で示される含フッ素エーテルである1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルを30/30/15/25の体積比で混合し、非水溶媒を調製した。前記非水溶媒に、アルカリ金属塩であるLiPF6を1.0mol/lの濃度で加え、非水電解質を調製した。
【0041】
(比較電解質1)
環状カーボネートであるエチレンカーボネート、鎖状カーボネートであるエチルメチルカーボネート、及び、化1で示される含フッ素リン酸エステルであるリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルを35/35/30の体積比で混合し、非水溶媒を調製した。前記非水溶媒に、アルカリ金属塩であるLiPFを1.0mol/lの濃度で加え、非水電解質を調製した。
【0042】
(比較電解質2)
環状カーボネートであるエチレンカーボネート、鎖状カーボネートであるエチルメチルカーボネート、及び、化2で示される含フッ素エーテルである1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルを30/35/35の体積比で混合し、非水溶媒を調製した。前記非水溶媒に、アルカリ金属塩であるLiPF6を1.0mol/lの濃度で加え、非水電解質を調製した。
【0043】
(比較電解質3)
環状カーボネートであるエチレンカーボネート、鎖状カーボネートであるエチルメチルカーボネート、及び、化2で示される含フッ素エーテルである1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテルを40/40/20の体積比で混合し、非水溶媒を調製した。前記非水溶媒に、アルカリ金属塩であるLiPF6を1.0mol/lの濃度で加え、非水電解質を調製した。
【0044】
(比較電解質4)
環状カーボネートであるエチレンカーボネート、及び、化1で示される含フッ素リン酸エステルであるリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルを70/30の体積比で混合し、非水溶媒を調製した。前記非水溶媒に、アルカリ金属塩であるLiPFを1.0mol/lの濃度で加え、非水電解質を調製した。
【0045】
(比較電解質5)
環状カーボネートであるエチレンカーボネート、及び、鎖状カーボネートであるエチルメチルカーボネートを50/50の体積比で混合し、非水溶媒を調製した。前記非水溶媒に、アルカリ金属塩であるLiPFを1.0mol/lの濃度で加え、非水電解質を調製した。
【0046】
<引火性試験>
前記本発明電解質1及び比較電解質1〜6について、セタ密閉式引火点測定器による引火点測定を行った。その結果、本発明電解質1及び比較電解質2〜4については、引火点を示さなかった。次に、本発明電解質1及び比較電解質2〜4について、クリーブランド開放式引火点試験器による引火点測定を行った。その結果、本発明電解質1、比較電解質2及び比較電解質4については、引火点を示さなかった。
【0047】
<凝固性試験>
前記本発明電解質1及び比較電解質1〜6をそれぞれ−20℃とし、目視観察した。その結果、本発明電池1及び比較電解質1,3,5については透明性を保っていたが、比較電解質2及び比較電解質4については、一部又は全部が固化していた。よって、比較電解質2及び比較電解質4については、これを電池に用いても低温性能が劣っていることが自明であるため、以降の試験を行わなかった。
【0048】
<非水電解質電池の作製>
(正極板の作製)
組成式LiNi1/3Mn1/3Co1/3で表される正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック及び結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を87:5:8の質量比で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする正極ペーストを調整した。前記正極ペーストを正極集電体である厚さ20μmの帯状のアルミニウム箔集電体上の両面に塗布し、乾燥した後に、プレス加工を行った。このようにして、実施例1に係る正極板を作製した。
【0049】
(負極板の作製)
負極材料としての人造黒鉛と結着剤であるPVdFとを質量比94:6の割合で含有し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒とする負極ペーストを調整した。前記負極ペーストを厚さ10μmの帯状の銅箔集電体上の両面に塗布し、乾燥した後に、プレス加工をおこなったものを負極板とした。
【0050】
前記正極板及び負極板を、厚さ25μmのポリプロピレン製微多孔膜からなるセパレータを介して巻回して発電要素を準備した。前記発電要素を高さ48mm、幅30mm、厚さ5.2mmの電槽内に挿入した。前記電槽内に本発明電解質1を注液し、最後に注液口を封止した。このようにして、設計容量5Ahの非水電解質電池を組み立てた。
【0051】
(低温性能試験)
25℃、0℃、−10℃及び−20℃のそれぞれの温度環境下にて放電試験を行った。それぞれの放電試験に先立って、充電を行った。充電は、いずれも、温度25℃にて、電流1CmA、端子間電圧4.2V、3時間の定電流定電圧充電を行った。その結果、25℃での放電容量を100%とすると、0℃で83%、−10℃で47%、−20℃で17%の放電容量が得られた。
【0052】
以上の結果を表1に整理して示した。
【表1】