(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
角部を有する断面形状の巻線を巻回してなるターン部、及び前記ターン部から引き出された前記巻線の引出部を有するコイルと、このコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを具えるリアクトルであって、
前記ターン部及び前記引出部の少なくとも一部を覆って前記コイルの形状を保持するモールド樹脂部と、
前記引出部を覆う前記モールド樹脂部の少なくとも一部の外周を覆うように形成され、樹脂を含有する樹脂含有成形体とを具え、
前記モールド樹脂部のうち、前記引出部の角部を覆う角部領域の外周面は曲面で構成され、
前記角部領域の外周面の曲げ半径をRとするとき、曲げ半径Rが0.5mm超であり、
前記引出部を覆う前記モールド樹脂部の端面に、前記巻線を囲む溝が形成されているリアクトル。
角部を有する断面形状の巻線を巻回してなるターン部、及び前記ターン部から引き出された前記巻線の引出部を有するコイルと、前記ターン部及び引出部の少なくとも一部を覆って前記コイルの形状を保持するモールド樹脂部とを具え、リアクトルの構成部材として用いられるコイル成形体であって、
前記モールド樹脂部のうち、前記引出部の角部を覆う角部領域の外周面は曲面で構成され、
前記角部領域の外周面の曲げ半径をRとするとき、曲げ半径Rが0.5mm超であり、
前記引出部を覆う前記モールド樹脂部の端面に、前記巻線を囲む溝が形成されているコイル成形体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コイルにおける磁性コアと接触する可能性のある箇所は、上述のように絶縁性樹脂で覆うことでコイルと磁性コアとの絶縁性を高められる。そのため、上述のように外側コア部が上記複合材料で構成されている場合には、コイルのうち、巻線を巻回してなるターン部はもちろん、ターン部から引き出されて端子金具が接続される巻線の引出部のうち外側コア部と接触する領域をも絶縁性樹脂で覆うことが望まれる。モールド樹脂部をコイルの外形に沿って形成した場合、引出部も平角線に沿ってモールド樹脂部が形成され、その外形は平角線と相似形となる。しかし、その場合、上記複合材料からなる外側コア部に割れが生じる虞がある。リアクトルのコイルは、通電すると温度が上昇して通電を停止すると温度が下降する、というヒートサイクルに伴い熱伸縮を繰り返す。また、コイルに交流を通電して励磁すると振動が生じる。そのため、コイルと外側コア部(磁性コア)との熱膨張率が異なることや上記振動により、モールド樹脂部の角部が起点となってこの角部に接する外側コア部に亀裂を生じさせることがあるからである。
【0007】
また、組合体の周囲を封止樹脂で封止した構造では、コイルのうち巻線の引出部は封止樹脂から引き出され、引出部の一部の外周が封止樹脂で覆われる。即ち、引出部が封止樹脂と接触する。この場合においても、巻線の引出部を覆うようにモールド樹脂部が形成されていると、上述のようにコイルと封止樹脂との熱膨張率が異なることや上記振動により、モールド樹脂部の角部が起点となってこの角部に接する封止樹脂に亀裂を生じさせることがある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、リアクトルの樹脂含有成形体が損傷し難いリアクトルを提供することにある。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、上記リアクトルの構築に好適なコイル成形体を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、上記リアクトルを具えるコンバータ、このコンバータを具える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、コイルの表面を覆うモールド樹脂部のうち、樹脂含有成形体(例えば、磁性体粉末と樹脂との複合材料からなる外側コア部(磁性コア)や封止樹脂)と接触する箇所で、かつ樹脂含有成形体の割れの起点となる角部が形成される箇所を所定の曲面で構成することで上記目的を達成する。具体的には、ヒートサイクルによるコイルの熱伸縮やコイルに交流を通電して励磁することで生じる振動が大きく影響を及ぼすコイルの引出部を覆うモールド樹脂部の角部を所定の曲面とする。
【0012】
本発明のリアクトルは、導体が角部を有する断面形状の巻線を巻回してなるターン部、及びターン部から引き出された巻線の引出部を有するコイルと、このコイルの内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コアとを具える。さらに、本発明のリアクトルは、ターン部及び引出部の少なくとも一部を覆ってコイルの形状を保持するモールド樹脂部を具える。また、本発明のリアクトルは、引出部を覆うモールド樹脂部の少なくとも一部の外周を覆うように形成され、樹脂を含有する樹脂含有成形体を具える。そして、上記モールド樹脂部のうち、引出部の角部を覆う角部領域の外周面は曲面で構成されており、角部領域の外周面の曲げ半径をRとするとき、曲げ半径Rが0.5mm超である。
【0013】
上記本発明のリアクトルの構成部材として、以下に示す本発明のコイル成形体を好適に利用することができる。本発明のコイル成形体は、角部を有する断面形状の巻線を巻回してなるターン部、及びターン部から引き出された巻線の引出部を有するコイルと、このターン部及び引出部の少なくとも一部を覆ってコイルの形状を保持するモールド樹脂部とを具え、リアクトルの構成部材として用いられる。そして、モールド樹脂部のうち、引出部の角部を覆う角部領域の外周面が曲面で構成されている。その角部領域における曲面の曲げ半径をRとするとき、曲げ半径Rが0.5mm超である。
【0014】
本発明のリアクトルは、引出部を覆うモールド樹脂部のうち、樹脂含有成形体(例えば、磁性体粉末と樹脂との複合材料や封止樹脂)で外周を覆われ、樹脂含有成形体の割れの起点となり易い角部領域の外周面の曲げ半径が上記範囲であることで、樹脂含有成形体の割れなどを抑制できる。というのも、角部領域の外周面が上記曲面で構成されていることで、ヒートサイクルによる熱伸縮やコイルに交流を通電して励磁させた際に生じる振動の影響などが大きくなり易い引出部において、樹脂含有成形体における上記角部領域の外周面に接する箇所で、上記熱伸縮や振動などによる応力集中を生じ難くすることができるからである。その結果、樹脂含有成形体における上記角部領域の外周面に接する箇所が割れの起点となり難いため、樹脂含有成形体が損傷し難い。
【0015】
本発明のコイル成形体は、上述のように角部領域の外周面が上記曲面で構成されているので、例えば、少なくとも引出部の外周側が磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成されるように磁性コアを形成した場合、樹脂含有成形体である磁性コアに割れなどを生じ難くできる。また、少なくとも引出部の外周側が封止樹脂から構成されるようにコイルと磁性コアとの組合体を封止樹脂で封止した場合、樹脂含有成形体である封止樹脂に割れなどを生じ難くできる。従って、リアクトルの構築に好適に利用できる。
【0016】
本発明のリアクトルの一形態として、磁性コアのうち、引出部の外周側が磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成されていることが挙げられる。即ち、この形態では、樹脂含有成形体が上記複合材料である。
【0017】
本発明のリアクトル及び本発明のコイル成形体の一形態として、巻線が平角線からなり、平角線の厚さをa、引出部を覆うモールド樹脂部の厚さをmとするとき、上記曲げ半径Rは、0.2(m+(a/2))≦R≦5.0(m+(a/2))であることが挙げられる。
【0018】
上記の構成によれば、上記曲げ半径Rを0.2(m+(a/2))以上とすることで、角部領域の外周面における角部のとがり具合を低減でき、磁性コアの割れなどを抑制できる。一方、曲げ半径Rを5.0(m+(a/2))以下とすることで、引出部を覆うモールド樹脂部の外周形状を巻線の外周形状から大幅に異ならないようにしつつ、樹脂含有成形体の割れ抑制効果を得られる。また、モールド樹脂部の厚さが薄くなり過ぎないので、巻線と磁性コアとの絶縁性が低下し難い。
【0019】
本発明のリアクトル及び本発明のコイル成形体の一形態として、モールド樹脂部が金型で成形され、角部領域の外周面の曲げ半径が、金型からコイルとモールド樹脂部とを具える組物を脱型するために、当該組物の角部に形成される脱型用曲面の曲げ半径よりも大きいことが挙げられる。
【0020】
上記の構成によれば、引出部を覆うモールド樹脂部のうち樹脂含有成形体の割れの起点となり易い角部領域の外周面を、脱型用曲面の曲げ半径よりも大きくすることで、樹脂含有成形体の割れなどを抑制できる。
【0021】
本発明のリアクトル及び本発明のコイル成形体の一形態として、モールド樹脂部のうち、ターン部の外周縁を覆う外周縁領域の外周面の曲げ半径が、0.5mm超であることが挙げられる。
【0022】
上記の構成によれば、外周縁領域の曲げ半径を0.5mm超とすることで、樹脂含有成形体の割れの起点となり易いモールド樹脂部の角部を低減できる。
【0023】
本発明のリアクトル及び本発明のコイル成形体の一形態として、モールド樹脂部のうち、ターン部の内周縁を覆う内周縁領域の外周面の曲げ半径が、0.5mm超であることが挙げられる。
【0024】
上記の構成によれば、内周縁領域の曲げ半径を0.5mm超とすることで、樹脂含有成形体の割れの起点となり易いモールド樹脂部の角部を低減できる。
【0025】
本発明のリアクトルの一形態として、磁性コアは、コイルの内側に配置される内側コア部と、コイルの外側に配置され、内側コア部と共に閉磁路を形成する外側コア部とを具えることが挙げられる。そして、内側コア部は、モールド樹脂部によりコイルと一体に保持されている。
【0026】
上記の構成によれば、内側コア部をモールド樹脂部により一体に保持することで、リアクトルを組み立てる際、内側コア部とコイルとがばらばらにならないので組立作業が煩雑になり難い。加えて、内側コア部とコイルとの位置合わせをする必要がないので組立作業を簡略化できる。従って、リアクトルの組立作業性に優れる。
【0027】
本発明のリアクトルの一形態として、コイルは、横並びされた一対のコイル素子を具えることが挙げられる。この構成によれば、巻線を螺旋状に巻回してコイル(コイル素子)を形成した場合、直線状の一つのコイル素子で構成されたコイルに比較して、同じ巻数(ターン数)とするとき、コイル(両コイル素子)の一端側から他端側までの長さを短くできる。したがって、リアクトルの小型化を図ることができる。
【0028】
本発明のリアクトル及び本発明のコイル成形体の一形態として、上記引出部を覆う上記モールド樹脂部の端面に、上記巻線を囲む溝を具えることが挙げられる。
【0029】
上記の構成によれば、上記溝により巻線の引出部と樹脂含有成形体、特に外側コア部(磁性コア)との沿面距離を長くできるため、両者の十分な絶縁性を確保できる。
【0030】
本発明のリアクトルの一形態として、上記磁性コアは、上記コイルの外側に配置され、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成される外側コアを具えることが挙げられる。そして、上記引出部を覆う上記モールド樹脂部の少なくとも一部が、上記外側コア部から露出している。
【0031】
上記の構成によれば、巻線の引出部と外側コア部との接触を防止でき、両者の絶縁性を確保できる。
【0032】
本発明のリアクトルは、コンバータの構成部品に好適に利用することができる。本発明のコンバータは、上記した本発明のリアクトルを具える。コンバータとしては、スイッチング素子と、上記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを具え、上記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換する形態が挙げられる。
【0033】
また、本発明のコンバータは、電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。本発明の電力変換装置は、上記した本発明のコンバータを具える。電力変換装置としては、入力電圧を変換するコンバータと、上記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを具え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動する形態が挙げられる。
【0034】
上記の構成によれば、コイルの熱伸縮や振動などの影響を受けても樹脂含有成形体が損傷し難い本発明のリアクトルを具えることで、長期的に使用可能であり、振動が負荷される車載部品などに好適に利用できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のリアクトルは、樹脂含有成形体が損傷し難い。
【0036】
本発明のコイル成形体は、コイルの取り扱いが容易なので、リアクトルの構築に好適である。
【0037】
本発明のコンバータや電力変換装置は、振動が負荷される車載部品などに好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明のリアクトルの実施形態を説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0040】
《実施形態1》
〔リアクトル〕
図1〜
図3を参照して、実施形態1のリアクトル1Aを説明する。リアクトル1Aは、コイル成形体20Aと外側コア部32(磁性コア3)とを具え、コイル成形体20Aと外側コア部32とは、有底筒状のケース4Aに収納されている。コイル成形体20Aは、一つのコイル2と、磁性コア3のうち内側コア部31と、コイル2及び内側コア部31を一体に保持するモールド樹脂部21とを具える。コイル2は、巻線2wを螺旋状に巻回してなるターン部2t、及びターン部2tから引き出された巻線2wの引出部2dを有する(
図1(B))。モールド樹脂部21は、ターン部2t及び引出部2dの少なくとも一部の外周を覆っている。磁性コア3は、コイル2の内側に配置される内側コア部31とコイル2の外側に配置される外側コア部32とを具え、これら両コア部31,32により閉磁路を形成する。外側コア部32は、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料(樹脂含有成形体)から構成されている。リアクトル1Aは、代表的には、冷却ベースなどの設置対象にケース4Aが設置されて使用される。リアクトル1Aの特徴の一つは、コイル2の引出部2dにおける巻線2wの角部を覆うモールド樹脂部21の角部領域21aの外周面を曲面で構成する点にある(
図2)。以下、各構成を詳細に説明する。
【0041】
[コイル成形体]
コイル成形体20Aは、
図1(B)を参照して説明する。実施形態1のリアクトル1Aに具わるコイル成形体20Aは、コイル2と、磁性コア3を構成する内側コア部31と、これらを一体に保持するモールド樹脂部21とを具える。
【0042】
(コイル)
コイル2は、1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなるターン部2t、及びターン部2tから引き出された巻線2wの引出部2dを有する筒状体であり、一つのコイル素子で構成されている。巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁性材料(代表的にはポリアミドイミドといったエナメル材料)からなる絶縁被覆を具える被覆線が好適である。導体は、角部を有する断面形状のものが挙げられ、例えば、横断面形状が長方形である平角線や、横断面形状が正方形の角線、横断面形状が多角形状の異形線などの種々の形状のものを利用できる。ここでは、コイル(コイル素子)2は、導体が銅製の平角線にエナメルからなる絶縁被覆を形成した被覆平角線をエッジワイズ巻きにして形成されたエッジワイズコイルとしている。エッジワイズコイルは、占積率を高めて小型なコイルとし易く、リアクトルの小型化に寄与する。
【0043】
巻線2wのサイズは、エッジワイズ巻きできる程度の厚さ及び幅であればよい。巻線2wが平角線の場合、例えば、その幅wは2.0mm以上20.0mm以下、厚さaは0.5mm以上2.0mm以下であることが挙げられる。そして、巻線2wの角部の曲げ半径は、0.5mm以下であることが挙げられる。
【0044】
コイル2の端面形状は、適宜選択できる。ここでは、端面は、直線と円弧とを組み合わせて構成されるレーストラック状であり、コイル2の外周面の少なくとも一部が平面で構成される。ここで、実施形態1のリアクトル1Aは、ケース4Aにおいて平面で構成された外底面に対して、コイル2の軸が平行するようにケース4Aにコイル2が収納された横型収納形態である。横型収納形態では、コイル2の外周面のうち上記平面をケース4Aの外底面に平行に配置することで、コイル2を安定して配置できると共に、コイル2の外周面から外底面までの距離が短い領域を多くすることができ、放熱性を高められる。従って、横型収納形態では、上述のレーストラック状のように外周面の少なくとも一部が平面で構成されたコイルが好ましい。その他の形状として、例えば、端面が多角形(例えば、長方形など)で各角部を丸めた形状のコイルなどを好適に利用できる。一方、コイル2の端面形状を円形や楕円などの実質的に曲線のみからなる形状とすると、巻線に平角線を用いた場合でも巻回し易く、コイルの製造性に優れる。
【0045】
コイル2を形成する巻線2wにおいて各端部側の領域は、ターン部2tから適宜引き延ばされた引出部2dに、銅やアルミニウムなどの導電性材料からなる端子部材(図示せず)が接続され、端子部材を介して、コイル2に電力が供給される。巻線2wの各端部の引出部2dの引き出し方向は適宜選択することができる。例えば、本例のように、巻線2wの各端部をコイル2の一端側及び他端側にそれぞれ引き出すことができる。また、巻線2wの一端部側の領域をコイル2の一端側において径方向に引き延ばし、巻線2wの他端部側の領域をコイル2の一端側に向かって折り返し、同様に径方向に引き延ばすこともできる。そうすれば、巻線2wの両端部をコイル2の一端側に配置でき、端子部材などの取り付けを行い易くできる。
【0046】
[内側コア部]
コイル2の内部に挿通配置される内側コア部31は、コイル2の内周形状に沿った外形を有する柱状体であり、ここでは軟磁性粉末を利用した圧粉成形体から構成されている。詳細は、後述する。
【0047】
[モールド樹脂部]
モールド樹脂部21は、コイル2の表面を覆って、コイル2を一定の形状に保持する。そのため、コイル2は、モールド樹脂部21によって伸縮せず、組立時などで取り扱い易い。また、ここでは、モールド樹脂部21は、コイル2を自然長よりも圧縮した状態に保持する機能も有する。そのため、コイル2は、その長さが自然長よりも短く、小型である。更に、モールド樹脂部21は、絶縁性樹脂から構成されて、コイル2の表面を覆うことで、コイル2と磁性コア3との間の絶縁性を高める機能も有する。そして、モールド樹脂部21は、コイル2と内側コア部31とを一体に保持する部材としても機能する。従って、リアクトル1Aは、このようなコイル成形体20Aを利用することで、組立部品の点数が少なく、組立作業性に優れる。
【0048】
ここでは、モールド樹脂部21は、コイル2と、コイル2内に挿通配置された内側コア部31との組物において、上述した端子部材が接続される巻線2w(引出部2d)の両端部と内側コア部31の両端面31eを除いた箇所を覆う。つまり、コイル2は、ターン部2tのうち内周面、外周面、一対の端面、外周縁領域、及び内周縁領域、引出部2dのうち一部の外周、内側コア部31は、外周面の全体がモールド樹脂部21によって覆われている。
【0049】
モールド樹脂部21の被覆領域は、適宜選択できる。例えば、コイル2のターン部2tの一部がモールド樹脂部21によって覆われず、露出された形態とすることができる。しかし、本例のように、コイル2の実質的に全部を被覆する形態とすると、コイル2と磁性コア3間にモールド樹脂部21の構成樹脂が介在することで、コイル2に対する絶縁性を高められる。
【0050】
また、ここでは、内側コア部31の両端面31e及びその近傍がモールド樹脂部21に覆われずに露出され、後述する外側コア部32を構成する複合材料と接触する形態であるが、少なくとも一方の端面31eがモールド樹脂部21に覆われた形態とすることができる。このとき、内側コア部31の端面31e上に存在する樹脂は、ギャップとして利用できる。
【0051】
このモールド樹脂部21の被覆領域のうち、磁性コア3と接触する箇所で、かつ磁性コア3の割れの起点となる角部が形成される箇所を曲面で構成することが好ましい。角部が形成される具体的な箇所としては、引出部2dにおける巻線2wの角部を覆う角部領域21a(
図2)、ターン部2tの外周縁を覆う外周縁領域21o(
図3)、或いは後述(
図7、実施形態3)するターン部2tの内周縁を覆う内周縁領域21iなどが挙げられる。これら磁性コア3と接触するモールド樹脂部21における角部のとがり具合を低減することで、磁性コア3の割れ(損傷)を抑制できる。
【0052】
ここでは、
図2に示すように、モールド樹脂部21の被覆領域のうち、少なくとも引出部21dにおける巻線2wの角部を覆う角部領域21aにおいて、後述する外側コア部32と接する外周面を曲面で構成している。そうすれば、外側コア部32を割れ難くできる。角部領域21aの外周面が曲面で構成されていることで、外側コア部32と接触する箇所で外側コア部32の割れの起点となる角部が減る。特に、引出部2dはターン部2tに比べて、ヒートサイクルによる熱伸縮やコイル2に交流を通電して励磁した際に生じる振動などの影響が大きくなり易い。そのため、この引出部2dを覆うモールド樹脂部21の外周面に角部が存在すると、外側コア部32の割れの起点に特になり易いからである。ここでいう角部領域21aは、巻線2wの引出部2dの外周を覆うモールド樹脂部21において、巻線2wの角部に対応する領域、即ち、巻線2wの角部を形成する二面において、各面の延長面が作る延長面同士の間に対応するモールド樹脂部21を言う。ここでは、4つの角部領域21aすべてが曲面で構成され、引出部2dを覆うモールド樹脂部21の横断面形状は略レーストラック形状を成している。
【0053】
一般に、モールド樹脂部21の成形用金型で成型されたコイル成形体20Aを脱型するために、コイル成形体20Aの角部に脱型用曲面が形成される。脱型用曲面は、成形物を金型から円滑に脱型させ、成形物の角部が損傷することを抑制するために設けられる小さな曲げ半径の曲面である。この曲げ半径は、0.2mm以上0.5mm以下程度なので、角部領域21aの外周面の曲げ半径R1(
図2)は、例えば、0.5mm超とすることが挙げられる。曲げ半径R1は、0.7mm以上、1.0mm以上、更には1.5mm以上とすることが好ましい。このように、角部領域21aの外周面(曲面)の曲げ半径R1は、脱型用曲面の曲げ半径よりも大きくすることが好ましい。特に、曲げ半径R1は、巻線2w(平角線)の厚さa、引出部21dを覆うモールド樹脂部21の被覆厚さmにおいて、0.2(m+(a/2))≦R1≦5.0(m+(a/2))を満たすことが好ましい。曲げ半径R1を0.2(m+(a/2))以上とすることで、引出部2dを覆うモールド樹脂部21の外周面に接触する外側コア部32の割れを抑制し易くなる。一方、曲げ半径R1を5.0(m+(a/2))以下とすることで、引出部2dを覆うモールド樹脂部21の外周形状を巻線2wの外周形状から大幅に異ならないようにしつつ、外側コア部32の割れ抑制効果を得られる。この曲げ半径R1は、0.5(m+(a/2))以上2.0(m+(a/2))以下であることがより好ましい。
【0054】
角部領域21aの外周面の他に、本例では、
図3に示すように、外周縁領域21oの外周面も曲面で構成する。そうすれば、磁性コア3と接触するモールド樹脂部21の角部をより低減でき、その角部を起点とする磁性コア3の割れをより抑制できる。ここでいう外周縁領域21oは、巻線2wのターン部2tを覆うモールド樹脂部21において、コイル2の端面とコイル2の外周面の両延長面が作る延長面同士の間に対応する領域を言う。外周縁領域21oの外周面(曲面)の曲げ半径R2は、上述の脱型用曲面の曲げ半径と同等でもよい。ターン部2tは、引出部2dと比べるとヒートサイクルに伴う熱伸縮の影響は小さいからである。但し、脱型用曲面の曲げ半径よりも大きい方が好ましい。具体的には、曲げ半径R2を0.5mm超とすることが好ましく、0.7mm以上、1.0mm以上、更には1.5mm以上とすることが好ましい。角部領域21aの外周面の曲げ半径R1以上としてもよい。特に、外周縁領域21oの外周面の曲げ半径R2も、上述の角部領域21aの外周面の曲げ半径R1と同様に、0.2(m+(a/2))≦R2≦5.0(m+(a/2))を満たすことが好ましい。ここでは、外周縁領域21oの外周面は、脱型用曲面よりも曲げ半径の大きい曲面としている。
【0055】
モールド樹脂部21の厚さは、適宜選択でき、例えば、0.1mm〜10mm程度が挙げられる。モールド樹脂部21の厚さが厚いほど、絶縁性を高められ、薄いほど、放熱性を高められる上にコイル成形体の小型化を図ることができる。薄くする場合、上記厚さは、0.1mm〜3mm程度が好ましく、所望の絶縁強度を満たす範囲で適宜選択するとよい。また、被覆箇所の全域に亘って厚さが同じであることが好ましい。ここでは、モールド樹脂部21においてコイル2の表面を覆う箇所の厚さを均一的にしている。従って、角部領域21aと外周縁領域21oを除いてコイル成形体20Aの外形は、コイル2と略相似形状である。なお、コイル2と内側コア部31間に介在されるモールド樹脂部21の構成樹脂によって、コイル2と内側コア部31とは同軸に配置されている。
【0056】
モールド樹脂部21を構成する絶縁性樹脂は、コイル2と磁性コア3間を十分に絶縁可能な程度の絶縁特性と、リアクトル1Aの使用時における最高到達温度に対して軟化しない程度の耐熱性とを有し、トランスファー成形や射出成形などが可能な樹脂が好適に利用できる。例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの熱可塑性樹脂が好適に利用できる。窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ほう素、及び炭化珪素から選択される少なくとも1種のセラミックスからなるフィラーを上記樹脂に混合したものをモールド樹脂部21に利用すると、絶縁性を向上できる上に、放熱性も高められる。特に、熱伝導率が1W/m・K以上、更に2W/m・K以上を満たすものをモールド樹脂部21に利用すると放熱性に優れて好ましい。ここでは、モールド樹脂部21は、フィラーを含有したエポキシ樹脂(熱伝導率:2W/m・K)を利用している。
【0057】
コイル成形体20Aの製造には、例えば、特開2009-218293号公報に記載される製造方法を利用できる。射出成形やトランスファー成形、注型成形などの種々の成形方法によってコイル成形体20Aを製造できる。より具体的には、コイル2、及び内側コア部31を成形用金型に収納し、所望の厚さの樹脂で覆われるように適宜な支持部材を配置してモールド樹脂部21を成形することによって、コイル成形体20Aを製造できる。その際、角部領域21aの外周面や外周縁領域21oの外周面に所望の曲げ半径の曲面が形成される成形用金型を用意すればよい。
【0058】
コイル成形体20Aの製造にあたり、コイル2と内側コア部31間の間隔を保持するための間隔保持部材(図示せず)を配置すると、成形用金型の構成を簡易にし易い。間隔保持部材は、例えば、内側コア部31の外周に配置される筒状部材(短くてもよい。複数の分割片を組み合わせて筒状になるものでもよい)、上記筒状部材と筒状部材の周縁から外方に突出する1つ又は複数の平板状のフランジ部とを具える断面L字状の環状部材、コイル2と内側コア部31間に配置される板部材などが挙げられ、これらを組み合わせて利用してもよい。間隔保持部材は、モールド樹脂部21の構成樹脂によってコイル2などに一体化されることから、上述したPPS樹脂、LCP、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などの絶縁性樹脂によって構成すると、コイル2と内側コア部31間の絶縁性を高められる。上述の筒状部材や環状部材を利用する場合、コイル2と内側コア部31間にモールド樹脂部21の構成樹脂が十分に充填されるように、一部を薄くしたり、切れ込みを設けるなど、形状や厚さなどを調整する。
【0059】
<磁性コア>
磁性コア3は、上述のように柱状の内側コア部31と、内側コア部31の少なくとも一方の端面31e(ここでは両端面)、及びコイル2の外周側に配置されて、コイル成形体20Aの外周面を略覆う外側コア部32(
図1(A))とを具え、コイル2を励磁した際に閉磁路を形成する。
【0060】
[内側コア部]
ここでは、内側コア部31は、コイル2の軸方向の長さよりも若干長いため、コイル2内に挿通配置された状態において、両端面31e及びその近傍の外周面がコイル2の端面から若干突出しており、この状態がモールド樹脂部21によって維持されている。内側コア部31においてコイル2の各端面から突出する長さ(以下、突出長さと呼ぶ)は、適宜選択できる。ここでは、突出長さを等しくしているが、異ならせてもよいし、コイル2のいずれか一方の端面からのみ突出部分が存在するように、内側コア部の長さやコイルに対する内側コア部の配置位置を調整できる。内側コア部の長さがコイルの長さと同等以上であると、コイル2がつくる磁束を内側コア部31に十分に通過させられる。
【0061】
磁性コア3はその全体が一様な材質から構成された形態とすることができるが、ここでは、部分的に材質が異なっており、内側コア部31は、圧粉成形体、外側コア部32は、複合材料(樹脂含有成形体)から構成されている。
【0062】
圧粉成形体は、代表的には、原料粉末を加圧成形後、適宜熱処理を施すことで製造され、複雑な立体形状であっても、比較的容易に成形できる。原料粉末には、鉄基材料(鉄族金属や鉄合金)や希土類金属などの軟磁性材料からなる金属粒子の表面にシリコーン樹脂やリン酸塩などからなる絶縁被覆を具える被覆粉末やフェライト粉末、更に熱可塑性樹脂などの樹脂や高級脂肪酸などの添加剤(代表的には、熱処理によって消失、又は絶縁物に変化するもの)を適宜混合した混合粉末が挙げられる。上述の製造方法によって、軟磁性粒子間に絶縁物が介在する圧粉成形体が得られ、この圧粉成形体は、絶縁性に優れるため、渦電流損を低減できる。また、圧粉成形体は、原料の軟磁性粉末を多くしたり、成形圧力を高めたりするなど、原料や製造条件を調整することで、外側コア部32を構成する複合材料よりも飽和磁束密度を高め易い。圧粉成形体は、公知のものを利用できる。
【0063】
柱状の内側コア部31は、所望の形状の金型を用いて成形した一体物としたり、圧粉成形体からなる複数のコア片を積層した積層体としたりすることができる。積層体は、接着剤や接着テープなどで固定して一体物とすることができる。ここでは、内側コア部31は、ギャップ材やエアギャップが介在していない中実体としている。
【0064】
[外側コア部]
ここでは、外側コア部32は、ケース4Aの内周面と、ケース4Aに収納されたコイル成形体20Aの外周面とがつくる空間に沿った形状である。従って、コイル成形体20Aにおいて、ケース4Aと接触する設置面、巻線2wの両端部、及び引出部2dを覆うモールド樹脂部21の一部を除く領域は、外側コア部32に覆われている。即ち、これらの領域は、外側コア部32から露出している。外側コア部32の一部が内側コア部31の両端面31eに連結するように設けられていることで、磁性コア3は閉磁路を形成する。
【0065】
外側コア部32を構成する複合材料(樹脂含有成形体)は、代表的には、射出成形、トランスファー成形、MIM(Metal Injection Molding)、注型成形などにより製造できる。射出成形は、磁性体粉末と樹脂とを含む混合物を所定の圧力をかけて成形型に充填して成形した後、上記樹脂を硬化することで複合材料が得られる。トランスファー成形やMIMも原料を成形型に充填して成形を行う。注型成形では、上記混合物を、圧力をかけることなく成形型又はケース4Aに注入して成形・硬化することで複合材料が得られる。
【0066】
ケース4Aを成形型に利用して、原料をケース4Aに直接充填して複合材料を形成する場合、(1)コイル成形体20Aが複雑な形状であっても、コイル部品20Aに沿った形状の外側コア部32を容易に成形できる、(2)ケース4Aと複合材料とを密着させ易い、特に、ケース4Aの内面にも上述の粗面化処理を施すと、ケース4Aと外側コア部32との接触面積を増大して、放熱性を高められる、といった利点を有する。
【0067】
外側コア部32を構成する複合材料中の磁性体粉末は、上述した内側コア部31を構成する軟磁性粉末と同様の組成でも異なる組成でもよい。同じ組成の場合でも、複合材料は、非磁性材料である樹脂を含有することから、圧粉成形体よりも飽和磁束密度が低く、かつ比透磁率も低くなる。従って、外側コア部32を複合材料によって構成することで、圧粉成形体から構成された内側コア部31よりも比透磁率を低くできる。
【0068】
複合材料中の磁性体粉末は、単一種でも、材質の異なる複数種の粉末を含有していてもよい。外側コア部32を構成する複合材料では、純鉄粉などの鉄基粉末が好ましい。また、複合材料でも、圧粉成形体の場合と同様に被覆粉末であると、軟磁性粒子間の絶縁性を高められ、渦電流損を低減できる。
【0069】
複合材料中の磁性体粉末の平均粒径は、1μm以上1000μm以下、特に10μm以上500μm以下が挙げられる。また、磁性体粉末は、粒径が異なる複数種の粉末(粗大粉末及び微細粉末)を含むと、飽和磁束密度が高く、低損失なリアクトルを得易い。なお、複合材料中の磁性体粉末は、原料の粉末と実質的に同じである(維持されている)。平均粒径が上記範囲を満たす粉末を原料に用いると、流動性に優れ、射出成形などを利用して複合材料を生産性よく製造できる。
【0070】
外側コア部32を構成する複合材料中の磁性体粉末の含有量は、複合材料を100%とするとき、体積割合では40体積%以上75体積%以下が挙げられる。磁性体粉末が40体積%以上であることで、磁性成分の割合が十分に高いため磁性コア3全体の飽和磁束密度といった磁気特性を高め易い。磁性体粉末が75体積%以下であると、複合材料の製造性に優れる。
【0071】
複合材料中のバインダとなる樹脂は、代表的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。その他、PPS樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂、常温硬化性樹脂、或いは低温硬化性樹脂を利用できる。
【0072】
磁性体粉末及び樹脂に加えて、アルミナやシリカなどのセラミックスといった非磁性体からなる粉末(フィラー)を含有する複合材料とすることができる。フィラーは、放熱性の向上、磁性体粉末の偏在の抑制(均一的な分散)に寄与する。また、フィラーが微粒であり、磁性体粒子間に介在することで、フィラーの含有による磁性体粉末の割合の低下を抑制できる。フィラーの含有量は、複合材料を100質量%とするとき、0.2質量%以上20質量%以下、更に0.3質量%以上15質量%以下、特に0.5質量%以上10質量%以下であると、上記効果を十分に得られる。
【0073】
ここでは、外側コア部32は、平均粒径75μm以下の鉄基材料(純鉄)からなる粒子の表面に絶縁被膜を具える被覆粉末とエポキシ樹脂との複合材料から構成されている(複合材料中の純鉄粉の含有量:40体積%)。また、外側コア部32も、内側コア部31と同様、ギャップ材やエアギャップが介在していない。従って、磁性コア3は、その全体に亘ってギャップを有していない。ギャップを有さないことで、(1)小型化、(2)損失の低減、(3)大電流の通電時におけるインダクタンスの低下の低減、を図ることができる。なお、磁性コア3は、アルミナ板などの非磁性材料からなるギャップ材やエアギャップを介在した形態とすることができる。
【0074】
外側コア部32は、閉磁路が形成できれば、その形状は特に問わない。この例のようにコイル成形体20Aの概ね全周が複合材料によって覆われた形態は、複合材料(外側コア部32)によって、コイル成形体20Aの外部環境からの保護や機械的保護の強化を図ることができる。
【0075】
コイル成形体20Aの一部が複合材料(外側コア部32)から露出された形態とすることができる。例えば、コイル2(コイル成形体20A)の引出部2dを覆うモールド樹脂部21の少なくとも一部を露出させた形態とすることが挙げられる。そうすれば、巻線2wの端部と外側コア部32との接触を防止でき、両者の絶縁性を確保できる。また、コイル2のターン部2tの外周面において、ケース4Aの開口側に配置される領域を露出させた形態とすることが挙げられる。その場合、放熱性を高められると期待される。また、コイル成形体20Aにおいて、ケース4Aの開口側に配置される領域が外側コア部32から露出された形態とする場合、ケース4Aの開口側から封止樹脂を充填して、コイル2と磁性コア3との組合体を封止樹脂で封止してもよい。これにより、コイル成形体20Aや外側コア部32を封止樹脂で覆うことができ、これら部材を外部環境から保護したり、機械的に保護することができる。この場合、コイル2の引出部2dを覆うモールド樹脂部21の一部の外周を封止樹脂(樹脂含有成形体)で覆うようにしてもよい。封止樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、PPS樹脂などが好適に利用できる。封止樹脂には、放熱性を高める観点から、アルミナやシリカなどのセラミックスといった非磁性体からなるフィラーを混合してもよい。
【0076】
[磁気特性]
上述のように構成材料が異なることで、磁性コア3は、部分的に磁気特性が異なっている。具体的には、内側コア部31は、外側コア部32よりも飽和磁束密度が高く、外側コア部32は、内側コア部31よりも比透磁率が低い。より具体的には、圧粉成形体から構成される内側コア部31は、飽和磁束密度:1.6T以上、かつ外側コア部32の飽和磁束密度の1.2倍以上、比透磁率:100以上500以下で、複合材料から構成される外側コア部32は、飽和磁束密度:0.6T以上、かつ内側コア部31の飽和磁束密度未満、比透磁率:5以上50以下、好ましくは10以上35以下で、内側コア部31及び外側コア部32からなる磁性コア3全体の比透磁率は10以上100以下である。内側コア部の飽和磁束密度が高い形態は、全体の飽和磁束密度が均一的な磁性コアと同じ磁束を得る場合、内側コア部の断面積を小さくできるため、リアクトルの小型化に寄与することができる。内側コア部31の飽和磁束密度は、1.8T以上、更に2T以上が好ましく、外側コア部32の飽和磁束密度の1.5倍以上、更に1.8倍以上が好ましい。圧粉成形体に代えて、珪素鋼板に代表される電磁鋼板の積層体を利用すると、内側コア部の飽和磁束密度を更に高め易い。一方、外側コア部32の比透磁率を内側コア部31よりも低くすると、磁気飽和を抑制できるため、例えばギャップレス構造の磁性コア3とすることができる。ギャップレス構造の磁性コア3とすると、漏れ磁束を低減できる。
【0077】
[ケース]
コイル成形体20Aと外側コア部32(磁性コア3)との組物を収納するケース4Aは、ここでは、板状の底部40と、底部40から立設される枠状の壁部41とが一体に成形された容器であり、底部40との対向側が開口したものである。底部40の外底面は、平面で構成され、リアクトル1Aが冷却ベースといった設置対象に設置されたとき、その少なくとも一部(ここでは全体)が設置対象に接して冷却される冷却面となる。なお、外底面の一部に設置対象に接触しない領域(平面でも曲面でもよい)が存在することを許容する。また、
図1では、外底面が下方に配置された形態を示すが、側方や上方に配置される場合がある。
【0078】
ここでは、ケース4Aの形状は、底部40が矩形板から構成され、壁部41が矩形枠状としているが、収容物の形状などに応じて適宜選択できる。ケース4Aの大きさも、ケース4Aの収納物に応じて適宜選択できる。
【0079】
ケース4Aは、収納物の外部環境(粉塵や腐食など)からの保護や機械的保護を図る他、放熱経路として利用できるように、その構成材料は、熱伝導性に優れる材料、特に、磁性コア3を構成する磁性体粉末よりも熱伝導率が高い材料が好ましい。また、非磁性、かつ導電性材料から構成されたケースとすると、ケース外部への漏れ磁束を防止できる。従って、ケース4Aの構成材料には、非磁性金属材料が利用できる。例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金が挙げられる。列挙した非磁性金属は、軽量であるため、軽量化が望まれる車載部品の構成材料に適する。ケース4Aが金属から構成されることで、鋳造や切削加工、塑性加工などにより、所望の形状の放熱台部を容易に製造できる。ここでは、ケース4Aは、アルミニウム合金から構成している。また、ケース4Aは、アルミニウムなどの金属材料で構成する他、樹脂材料で構成することも可能である。ケースを樹脂材料で構成する場合、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ウレタン樹脂、PPS樹脂、アクリル‐ブタジエン‐スチレン(ABS)樹脂などが利用できる。この場合、放熱性を高める観点から、アルミナやシリカなどのセラミックスといった非磁性体からなるフィラーを混合してもよい。ケースを樹脂材料で構成することで、軽量で安価に作製できる。
【0080】
ケース4Aを成形型として、注型成形によって外側コア部32を構成する複合材料を成形する場合などでは、ケース4Aの内面の少なくとも一部、好ましくは50面積%以上、更に80面積%以上の領域に微細な凹凸を有する形態とすると、複合材料とケース4Aとの密着性を高められ、放熱性を向上できる。微細な凹凸の形成には、粗面化処理を利用できる。
【0081】
粗面化処理は、例えば、最大高さが1mm以下、好ましくは0.5mm以下となるような微細な凹凸を設ける処理が挙げられる。具体的には、(1)アルマイト処理に代表される陽極酸化処理、(2)公知の手法による針状めっき、(3)公知の手法による分子接合化合物の植え付け、(4)レーザによる微細な溝加工、(5)公知の特殊溶液を用いたナノオーダーのディンプル形成、(6)エッチング処理、(7)サンドブラストやショットブラスト、(8)鑢がけ、(9)水酸化ナトリウムによる艶消し処理、(10)金属ブラシによる研削など、金属と樹脂との密着性を高めるための公知の手法を利用できる。このような粗面化による表面積の増大によって、放熱性の向上も期待できる。
【0082】
その他、一般的な金属に対する切削加工により、溝や穴を形成したり、鋳造や塑性加工などにより、表面を凹凸形状としたりすることで、表面積を大きくすることでも、ケース4Aと外側コア部32の構成樹脂との接触面積の増大による密着性の向上や放熱性の向上を期待できる。
【0083】
ケース4Aは、さらに、リアクトル1Aを設置対象に固定するための取付部400を具える。取付部400は、底部40の周縁から壁部41の外方に突出する突片であり、この突片にボルトなどの締結部材(図示せず)が挿通されるボルト孔を有する。ここでは、矩形状のケース4Aにおいて各角部に取付部400を具える。取付部400を具えることで、リアクトル1Aを設置対象に容易に固定できる。取付部400の取付位置、個数、形状などは適宜選択できる。取付部400を有しない形態とすることもできる。
【0084】
また、ケース4Aは、その開口部を覆うように蓋部(図示せず)を設けてもよい。蓋部を具えることで、ケース4Aの収納物の脱落防止、収納物の保護が行える。その上、蓋部をケース4Aの構成材料と同様に非磁性、導電性材料によって構成することで、漏れ磁束を防止できる。また、蓋部をケース4Aと同様に金属材料といった熱伝導性に優れる材料によって構成することで、放熱性の向上も期待できる。
【0085】
蓋部を設ける場合、蓋部は、ケース4Aの開口部の形状に応じた形状の板材などが挙げられ、巻線2wの各端部が挿通される巻線孔を具えればよい。また、ケース4Aは、蓋部を固定するボルトが螺合する蓋台を壁部に一体に具えることが好ましい。その場合、蓋部は、ボルトが挿通されるボルト孔が設けられた突片を具えることが挙げられる。例えば、壁部を構成する四面の各面に一つずつ蓋台を具え、蓋部の突片は、蓋部をケースに配置したとき、蓋台に対応した位置に設ければよい。蓋台及び突片の形成箇所・個数は適宜選択できる。
【0086】
<用途>
上記構成を具えるリアクトル1Aは、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用できる。
【0087】
《リアクトルの製造方法》
リアクトル1Aは、例えば、以下のようにして製造できる。ここでは、まず、コイル2と内側コア部31とをそれぞれ用意し、モールド樹脂部21によって一体に成形したコイル成形体20A(
図1(B))を作製する。
【0088】
次に、ケース4Aを成形型とし、外側コア部32を注型成形によって製造する場合には、コイル成形体20Aをケース4Aに収納する。ケース4Aの内底面に、適宜、接着剤やグリースを塗布しておいてもよい。ケース4Aとの間にグリースなどを介在させると、両者間に空気が介在し難くなって両者が密着でき、放熱性を高められる。そして、外側コア部32の原料となる磁性体粉末及び樹脂、適宜結合剤や非磁性体粉末を用意して混合物を作製し、成形型となるケース4Aにこの混合物を充填した後、樹脂を硬化する。この工程により、蓋部を有していないリアクトルが得られる。
【0089】
〔作用効果〕
上述のリアクトル1Aによれば、以下の効果を奏する。
【0090】
実施形態1のリアクトル1Aは、モールド樹脂部21における角部領域21aの外周面の曲げ半径R1を0.5mm超としており、当該外周面を上記脱型用曲面よりも曲げ半径の大きい曲面としているため、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料から構成される外側コア部32において、角部領域21aの外周面に接する箇所が割れの起点となり難い。そのため、ヒートサイクルに伴うコイル2の熱伸縮や、コイル2に交流を通電して励磁することで生じる振動などによる外側コア部32の割れを抑制できるので、外側コア部32が損傷し難いリアクトルとすることができる。また、封止樹脂で封止した形態では、モールド樹脂部21における角部領域21aの外周面が封止樹脂で覆われたとしても、封止樹脂において、角部領域21aの外周面に接する箇所が割れの起点となり難い。そのため、ヒートサイクルや振動などによって封止樹脂が損傷し難い。
【0091】
モールド樹脂部21のうち、外周縁領域21oの外周面も脱型用曲面よりも曲げ半径の大きい曲面としているため、外側コア部32や封止樹脂と接触するモールド樹脂部21において、割れの起点となり易い角部をより低減できる。そのため、外側コア部32や封止樹脂の損傷の抑制により効果的である。
【0092】
リアクトル1Aは、上述のように横型配置形態であるため、コイル2の外周面において設置対象までの距離が短い領域が多いことから、コイル2の熱をケース4Aに、そして設置対象に伝え易い。そのためリアクトル1Aは、放熱性に優れる。
【0093】
リアクトル1Aは、コイル成形体20Aを構成要素とすることで、コイル2を扱い易い上に、組立部品の点数が少なく、組立作業性にも優れる。特に、リアクトル1Aでは、コイル成形体20Aが磁性コア3の一部(内側コア部31)をも一体に保持することから、組立作業性に更に優れる。
【0094】
その他、磁性コア3の少なくとも一部(ここでは外側コア部32)が上述の複合材料であることで、以下の効果を奏する。
(1)コイル2・内側コア部31が一体化されたコイル成形体20Aを覆うといった複雑な形状であっても、外側コア部32を容易に形成できる。
(2)ケース4Aを成形型とした注型成形とすると、外側コア部32の形成と同時に磁性コア3を形成できるため、製造工程が少なく、生産性に優れる。
(3)外側コア部32の構成樹脂により内側コア部31と外側コア部32とを接合できる。また、外側コア部32の構成樹脂によりコイル成形体20Aとケース4Aとを接合できる。
(4)外側コア部32の磁気特性を容易に変更可能である。
(5)コイル成形体20A(コイル2)の外周を覆う材料が磁性体粉末を含有するため、樹脂だけの場合よりも熱伝導率が高く放熱性に優れる。
(6)外側コア部32の構成材料が樹脂を含むことで、コイル成形体20Aの外部環境からの保護・機械的保護を図ることができる。
【0095】
《実施形態2》
図4〜6を参照して実施形態2のリアクトル1Bを説明する。実施形態2のリアクトル1Bの基本構成は、
図4に示すように、実施形態1のリアクトル1Aと同様である。即ち、ターン部及び引出部を有するコイル2及び内側コア部31がモールド樹脂部21によって一体に保持されたコイル成形体20Bと、外側コア部32とが有底筒状のケース4Bに収納されている。コイル成形体20Bの外周側は、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料(樹脂含有成形体)から構成された外側コア部32によって覆われている。実施形態2のリアクトル1Bにおける実施形態1との主たる相違点は、コイル2の引出部の一部の外周を覆うモールド樹脂部21の端面21e(
図6)に、巻線2wを囲う溝50を具えることにある。以下、相違点を中心に説明し、実施形態1と同様な構成及び効果の説明は省略する。
【0096】
[モールド樹脂部]
溝50は、モールド樹脂部21の端面21eにおいて巻線2wの外周を囲うことで、巻線2wの端部と外側コア部32(磁性コア3)との沿面距離を長くして、巻線2wの端部と外側コア部32との絶縁性を高めるために設けている。
【0097】
溝50の形状は、適宜選択でき、例えば、引出部2dを覆うモールド樹脂部21の外周面に沿った形状とすることが好ましい。そうすれば、巻線2wの周方向に亘って上記沿面距離を一定にできるので、巻線2wの外周に亘って絶縁性を均一にできる。ここでは、引出部2dを覆うモールド樹脂部21の外周面に沿った形状であるレーストラック状としている。
【0098】
溝50の深さh(
図5)や溝50の幅wは、絶縁性を高められる程度で適宜選択すればよい。溝50の深さhは、深ければ深いほど、上記沿面距離を長くできるので、巻線2wの端部と外側コア部32との絶縁性を確保し易くなる。また、溝50の幅wが広いほど、上記沿面距離を長くできる。加えて、溝50の分だけ引出部を覆うモールド樹脂部21に空間が生じる。つまり、溝50の深さhが深いと、巻線2wの端部の振動は主に空間内のみで生じて、空間の外側にある引出部を覆うモールド樹脂部21の外周面には伝播し難い。そのため、
モールド樹脂部21の外側コア部32と接する外周面近傍に振動が伝わり難く、振動吸収効果も期待できる。従って、より一層外側コア部32を割れ難くすることができる。その効果は、溝50の深さhが深いほど、かつ溝50の幅wが広いほど効果的である。具体的な溝50の深さhは、0.1mm以上20mm以下であることが挙げられ、溝50の幅wは、0.1mm以上2mm以下であることが挙げられる。ここでは、溝50の深さhと幅wは、巻線2wの外周全周に亘って均一としている。
【0099】
溝50の数は、巻線2wの外周を1周囲む一重溝でもよいし、巻線2wの外周を巻線2wを中心として径方向に複数周囲む多重溝でもよい。多いほど上記沿面距離を長くできるので、絶縁性を高められる。
【0100】
この溝50の形成には、例えば、モールド樹脂部21の成形用金型として、巻線2wの端部を引き出す側とその反対側とで一対に分割される金型を使用する。その金型の内側に、溝50の深さhと溝50の幅wが所望の大きさとなるような巻線2wの端部を覆う環状の突状部を設けておくことで形成できる。
【0101】
リアクトル1Bによれば、上述の実施形態1と同様の効果に加えて、モールド樹脂部21の端面21eに巻線2wの外周を囲う溝50を具えることで、外側コア部32と巻線2wの端部との沿面距離を長くできるので、絶縁性を高められる。
【0102】
《実施形態3》
上記実施形態1〜2のリアクトルでは、内側コア部31をも一体に具えるコイル成形体20A、20Bを説明した。実施形態3のリアクトルでは、
図7に示すように、内側コア部を有していないコイル成形体20C、つまり、コイル2がモールド樹脂部21によって保持され、かつ内側コア部が挿通配置される中空孔を有するコイル成形体20Cを説明する。
【0103】
この場合、モールド樹脂部21のうちコイル2の内周縁を覆う内周縁領域21iの外周面も曲面で構成することが好ましい。コイル成形体20Cが内側コア部31を一体に具えない場合、コイル2の形状に沿ってモールド樹脂部21を被覆すると、コイル2の内周縁を覆う内周縁領域21iの外周面に角部が形成され、割れの起点となる可能性がある。そのため、内周縁領域21iの外周面も曲面で構成することで、その割れの起点を更に低減でき、外側コア部32がより損傷し難くなる。ここでいう内周縁領域21iは、巻線2wのターン部2tを覆うモールド樹脂部21において、コイル2の端面と内周面の各延長面が作る延長面同士の間に対応するモールド樹脂部21を言う。
【0104】
内周縁領域21iの外周面(曲面)の曲げ半径R3は、脱型用曲面の曲げ半径と同等でもよいが、脱型用曲面の曲げ半径よりも大きい方が好ましい。具体的には、曲げ半径R3を0.5mm超とすることが好ましく、0.7mm以上、1.0mm以上、更には1.5mm以上とすることが好ましい。角部領域21aの外周面の曲げ半径R1以上としてもよい。特に、内周縁領域21iの外周面の曲げ半径R3も、上述の角部領域21aの外周面の曲げ半径R1と同様に、0.2(m+(a/2))≦R3≦5.0(m+(a/2))を満たすことが好ましい。ここでは、内周縁領域21iの外周面は、脱型用曲面よりも曲げ半径の大きい曲面としている。
【0105】
このコイル成形体20Cの製造には、上述した内側コア部31に代わって中子を利用するとよい。また、コイル2の内側に設ける樹脂の厚さを調整して中空孔を形成することで、当該樹脂を内側コア部31の位置決めに利用できる。そして、コイル成形体20Cを具えるリアクトルを製造する場合、コイル成形体20Cの中空孔に内側コア部を挿入して結合部材を形成し、その結合部材をケースに収納し、結合部材とケースとの間に外側コア部を形成するとよい。
【0106】
《実施形態4》
上記実施形態1〜3では、横型収納形態を説明したが、ケースにおいて平面で構成された外底面に対して、コイルの軸が直交するようにケースにコイルが収納された縦型収納形態(
図8参照)とすることができる。縦型配置形態は、設置対象に対する接触面積を小さくし易く、設置面積の小型化を図ることができる。縦型配置形態では、例えば、内側コア部の一端面をコイルの一端面から突出させてケースの内底面に接触させ、コイルから突出した内側コア部の一端面側の外周面及び内側コア部の他端面が外側コア部を構成する複合材料に接触した磁性コアを形成する。
【0107】
図8に示す実施形態4のリアクトル1Dは、実施形態1のリアクトル1Aと比較して、コイル2の収納形態が上述の縦型収納形態である点が異なり、基本構成は同様である。即ち、ターン部2t及び引出部2dを有するコイル2及び内側コア部31がモールド樹脂部21によって一体に保持されたコイル成形体20D(
図9参照)と、外側コア部32とが有底筒状のケース4Dに収納されている(
図8(A)参照)。コイル成形体20Dの外周側は、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料(樹脂含有成形体)から構成された外側コア部32によって覆われている。以下、相違点を中心に説明する。
【0108】
[コイル成形体]
この例では、
図9に示すように、コイル2における巻線2wの引出部2dの引き出し方向が、実施形態1で説明したコイル2と異なる。具体的には、コイル2の一端側において巻線2wの一端部側の領域をコイル2の軸方向に引き延ばし、巻線2wの他端部側の領域をコイル2の一端側に向かって折り返し、同様に軸方向に引き延ばしている。つまり、コイル2の一端側(
図8,9では上方)から巻線2wの両端部をコイル2の軸方向と平行に引き出している。また、コイル2の端面形状が円形状である。
【0109】
[内側コア部・外側コア部]
内側コア部31は、コイル2の内周形状に沿った円柱状である。また、内側コア部31は、コイル2内に挿通配置された状態において、コイル2の他端側(
図8,9では下方)の端面から一部が突出しており、コイル成形体20Dをケース4Dに収納したとき、その突出部分の端面がケース4D(底部40)と接触するように設置される(
図8(B)参照)。一方、外側コア部32は、閉磁路が形成されるように、内側コア部31の一端側の端面31eと他端側の突出部分の外周面とを連結するように設けられる。
【0110】
この例では、内側コア部31をも一体に具えるコイル成形体20Dを説明したが、実施形態3で説明したコイル成形体20Cと同じように、内側コア部を有していないコイル成形体とすることができる。また、実施形態2で説明したコイル成形体20Bと同じように、コイル2の引出部2dを覆うモールド樹脂部21の端面に巻線2wを囲う溝を形成してもよい。
【0111】
《実施形態5》
上記実施形態1〜4では、内側コア部31が圧粉成形体から構成され、外側コア部32のみが複合材料から構成された形態を説明した。その他、内側コア部も磁性体粉末と樹脂とを含有する複合材料から構成された形態、つまり、磁性コアの全てが複合材料から構成された形態とすることができる。この場合、内側コア部と外側コア部とは、同じ複合材料により構成することができる。この場合、各コア部を構成する複合材料の磁性体粉末の含有量は40体積%以上75体積%以下、飽和磁束密度は0.6T以上、好ましくは1.0T以上、比透磁率は5以上50以下、好ましくは10以上35以下とすることができ、磁性コア全体の比透磁率は5以上50以下とすることができる。また、この場合、ケースを成形型として内側コア部及び外側コア部の双方を一体に形成してもよい。例えば、実施形態3で説明したコイル成形体20Cと同じように、内側コア部が配置される中空孔を有するコイル成形体を用意する。そして、このコイル成形体をケースの所定の位置に収納し、複合材料の原料をケースに充填して、コイル成形体の中空孔及びコイル成形体とケースとの間の空間に原料を流し込み、樹脂を硬化する。このようにケースを成形型に利用して成形を行うことで、内側コア部と外側コア部とが一体となった複合材料からなる磁性コアが得られる。また、上記の場合、内側コア部と外側コア部とをそれぞれ成形型を用いて所定の形状に別途成形した複合材料の成形体としてもよい。例えば、成形型を用いて成形した複合材料(成形体)からなる内側コア部を用意し、この内側コア部をコイルの内側に配置して一体化したコイル成形体を作製する。そして、このコイル成形体をケースの所定の位置に収納し、複合材料の原料をケースに充填して、ケースを成形型として複合材料からなる外側コア部を成形する。或いは、後述するように、成形型を用いて成形した複合材料(成形体)からなる外側コア部を別途作製し、内側コア部と組み合わせて閉磁路を形成するように磁性コアを構成してもよい。これにより、内側コア部と外側コア部とを同じ複合材料で形成すれば、両コア部を別々に形成しても、両コア部を同じ複合材料により構成することができる。
【0112】
また、内側コア部と外側コア部とは、異なる複合材料により構成することもできる。この構成では、例えば、磁性体粉末の材質を両コア部で同じとする場合、磁性体粉末の含有量を変更することで、飽和磁束密度や比透磁率を調整することができ、所望の特性の複合材料を得られ易いという利点もある。具体的な形態としては、内側コア部と外側コア部とが磁性体粉末の材質や含有量が異なる複合材料により構成され、実施形態1〜4と同様に内側コア部の飽和磁束密度が高く、外側コア部の比透磁率が低い形態としたり、或いは逆の形態、つまり内側コア部の比透磁率が低く、外側コア部の飽和磁束密度が高い形態とすることが挙げられる。複合材料における磁性体粉末の配合量を多くすると、飽和磁束密度が高くかつ比透磁率が高い複合材料が得られ易く、上記配合量を少なくすると、飽和磁束密度が低くかつ比透磁率が低い複合材料が得られ易い。所望の組成の原料によって柱状やブロック状の複合材料を別途作製し、これら柱状やブロック状の複合材料(成形体)を内側コア部や外側コア部に利用することができる。内側コア部及び外側コア部を構成する各複合材料はいずれも、磁性体粉末の含有量を40体積%以上75体積%以下、飽和磁束密度を0.6T以上、好ましくは1.0T以上、比透磁率を5以上50以下、好ましくは10以上35以下とすることができ、磁性コア全体の比透磁率は5以上50以下とすることができる。
【0113】
《実施形態6》
上記実施形態1〜4では、コイル2が一つのコイル素子を具える形態を説明した。その他、巻線を螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子を具える形態とすることができる。一対のコイル素子は、各素子の軸が平行するように横並び(並列)され、巻線の一部を折り返してなる連結部により連結された形態(
図10参照)が挙げられる。各コイル素子を別々の巻線によって形成し、両コイル素子を構成する巻線の一端部同士をTIG溶接などの溶接、圧着、半田付けなどで接合した形態、上記一端部同士を別途用意した連結部材を介して接合した形態とすることもできる。そして、巻線の引出部をモールド樹脂部で覆い、引出部の角部を覆う角部領域の外周面を上述した曲面で構成する。その他の箇所において、コイルの形状に沿ってモールド樹脂部を形成した場合に角部が形成される箇所を曲面で構成するとよい。
【0114】
図10に示す実施形態4のリアクトル1Eは、実施形態1のリアクトル1Aと比較して、コイル2が横並びされた一対のコイル素子2a,2bを具え、各コイル素子の内側に内側コアが配置されている点が異なり、基本構成は同様である。即ち、ターン部2t及び引出部2dを有するコイル2及び内側コア部31がモールド樹脂部21によって一体に保持されたコイル成形体20E(
図10(B)参照)と、外側コア部32とが有底筒状のケース4Eに収納されている(
図10(A)参照)。コイル成形体20Eの外周側は、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料(樹脂含有成形体)から構成された外側コア部32によって覆われている。以下、相違点を中心に説明する。
【0115】
[コイル成形体]
この例では、
図10(B)に示すように、コイル2が一対のコイル素子2a,2bで構成され、各コイル素子の軸が平行となるように横並び(並列)に配置されている。このコイル2(コイル素子2a,2b)は、1本の連続する巻線2wにより形成され、具体的には、一方のコイル素子2aを一端側から他端側に向かって形成した後、他端側で巻線2wをU字状に屈曲させて折り返し、他方のコイル素子2bを他端側から一端側に向かって形成している。両コイル素子2a,2bの巻回方向は同一である。両コイル素子2a,2bは電気的には直列に接続されている。そして、コイル2(コイル素子2a,2b)の一端側から巻線2wの両端部をコイル2の径方向に引き出している(
図10では上方)。また、コイル素子2a,2bの端面形状が角部を丸めた矩形状であるが、上述したようにコイル素子2a,2bの端面形状はレーストラック状や円形状など、適宜選択できる。
【0116】
[内側コア部・外側コア部]
内側コア部31は、各コイル素子2a,2bの内側にそれぞれ配置され、コイル素子2a,2bの内周形状に沿った角柱状である。一方、外側コア部32は、実施形態1で説明したように、ケース4Eを成形型に利用して複合材料を成形することで形成している。
【0117】
この例では、内側コア部31をも一体に具えるコイル成形体20Eを説明したが、実施形態3で説明したコイル成形体20Cと同じように、内側コア部を有していないコイル成形体とすることができる。また、内側コア部31は、圧粉成形体とする他、実施形態5で説明したように、成形型を用いて別途作製した複合材料(成形体)とすることができる。さらに、実施形態2で説明したコイル成形体20Bと同じように、コイル2の引出部2dを覆うモールド樹脂部21の端面に巻線2wを囲う溝を形成してもよい。
【0118】
《実施形態7》
上記実施形態6では、ケース4Eを成形型に利用して、コイル成形体20Eの外周側を覆うように複合材料(成形体)からなる外側コア部32が形成された形態を説明した。その他、実施形態6のリアクトル1Eにおいて、コイル成形体の一部(例えばケースの開口側の領域)が外側コア部から露出され、封止樹脂で封止された形態とすることができる。また、外側コア部も内側コア部と同様にコア片としてもよく、磁性コアが複数のコア片を連結して構成された形態とすることができる。
【0119】
図11に示す実施形態7のリアクトル1Fは、外側コア部32が別途作製されたコア片である点が、実施形態6のリアクトル1Eと異なる。コイル2及び内側コア部31がモールド樹脂部21によって一体に保持されたコイル成形体20Eを具える点や、ケース4Eに収納されている点は、実施形態6のリアクトル1Eと基本的に同じである(
図11(A)参照)。以下、相違点を中心に説明する。
【0120】
[外側コア部]
外側コア部32は、
図11(B)に示すように、ブロック状であり、両内側コア部31を挟むように両内側コア部31の両端にそれぞれ配置されている。外側コア部32が両内側コア部31の各端面に連結されることで、内側コア部31と外側コア部32とにより環状の磁性コア3が構成され、磁性コア3に閉磁路が形成される。内側コア部31と外側コア部32とは、例えば接着剤によって接合することができる。外側コア部32は、圧粉成形体とする他、実施形態5で説明したように、成形型を用いて別途作製した複合材料(成形体)とすることができる。
【0121】
[封止樹脂]
また、
図11に示す実施形態7のリアクトル1Fでは、内側コア部31の両端部に外側コア部32をそれぞれ配置して一体化したコイル成形体20Eと外側コア部32との組合体(即ち、コイル2と磁性コア3との組合体)をケース4Eに収納した後、封止樹脂6を充填して、組合体の周囲を封止樹脂6で封止している。つまり、コイル成形体20Eの外周側が、実施形態6のリアクトル1Eと異なり、外側コア部を構成する複合材料ではなく、封止樹脂6によって覆われている。封止樹脂6としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、PPS樹脂などが好適に利用できる。封止樹脂6には、放熱性を高める観点から、アルミナやシリカなどのセラミックスといった非磁性体からなるフィラーを混合してもよい。
【0122】
この例では、コイル2のターン部2t及び引出部2dを覆うようにモールド樹脂部21が形成されているため、封止樹脂6がターン部2tや引出部2dと接触することがないことから、封止樹脂6に混合するフィラーとして、非磁性体のアルミニウムやカーボンといった導電性材料を利用することも可能である。また、組合体をケースに4Eに収納し、組合体の周囲を封止樹脂6でポッティングにより封止しているが、これに代えて、金型を用いて、組合体の周囲を封止樹脂でモールドにより封止することも可能である。この場合、ケースを省略しても、コイル成形体や外側コア部を外部環境から保護したり、機械的に保護することができる。
【0123】
《実施形態8》
実施形態1〜7のリアクトルは、例えば、車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを具える電力変換装置の構成部品に利用することができる。
【0124】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両1200は、
図12に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを具える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを具える。なお、
図12では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを具える形態とすることができる。
【0125】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0126】
コンバータ1110は、
図13に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを具え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、FET,IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上記実施形態1〜7のリアクトルを具える。ヒートサイクルに伴う熱伸縮や、コイルに交流を通電することで生じた振動などの影響を受けても磁性コアが損傷し難いリアクトル1Aなどを具えることで、電力変換装置1100やコンバータ1110も長期的に使用可能である。
【0127】
なお、車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を具える。コンバータ1110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150のなかには、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上記実施形態1〜7のリアクトルなどと同様の構成を具え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上記実施形態1〜7のリアクトルなどを利用することもできる。
【0128】
《試験例》
試験例として、
図1〜3を参照して説明した実施形態1のリアクトル1Aにおいて、引出部2dを覆うモールド樹脂部21のうち、角部領域21aの外周面の曲げ半径Rが異なる試料1、2を用意した。ここでは、モールド樹脂部21は、フィラーを含有したエポキシ樹脂(熱伝導率:2W/m・K)で構成し、外側コア部32は、平均粒径75μm以下の鉄基材料(純鉄)からなる粒子の表面に絶縁被膜を具える被覆粉末とエポキシ樹脂との複合材料で構成している(複合材料中の純鉄粉の含有量:40体積%)。各試料の巻線2wの厚さaは1.0mm、モールド樹脂部21の被覆厚さmは2.0mmである。そして、用意した試料1、2のリアクトルに対して、雰囲気温度を-30℃から125℃まで繰り返すヒートサイクル試験を、60分を1サイクルとして1000サイクル行った。各試料における曲げ半径R1とその試験結果をまとめて表1示す。
【0130】
《結果》
曲げ半径R1が0.5mm超で脱型用曲面の曲げ半径より大きい試料1は、外側コア部に亀裂や割れが見られず外側コア部が損傷しなかった。一方、曲げ半径R1が0.5mm以下で脱型用曲面の曲げ半径程度である試料2は、外側コア部に亀裂が入り外側コア部に損傷が見られた。つまり、曲げ半径R1を0.5mm超とすることで外側コア部に割れが生じ難いことがわかった。また、曲げ半径R1を0.5mm以下の脱型用曲面の曲げ半径程度では外側コア部の割れ抑制に効果がないことがわかった。
【0131】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。