(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)などの絶縁ゲート型スイッチング素子は、電力変換装置等に多用されており、ハイブリッド自動車や電気自動車などへの適用が広がりつつある。
【0003】
IGBTやパワーMOSFET等の電圧駆動型のスイッチング素子を使ったインバータやコンバータなどの電力変換装置では、例えばIGBTのゲート・エミッタ間に印加する電圧をオン/オフすることで、入力から出力へエネルギーを伝達している。
【0004】
一方、インバータ装置等に用いられる半導体スイッチング素子として、大電流および高耐圧を可能にする化合物半導体デバイス(例えば、AlGaN/GaNヘテロ構造を有するHEMT)やSiCトランジスタ等が開発されており、ノーマリオン型(ディプレッション型)の半導体デバイスが利用されつつある。
【0005】
このノーマリオン型の半導体デバイスは、ノーマリオフ型の半導体デバイスとは異なり、ゲート電圧を印加しない状態でもドレイン電流が流れるという特性を有する。
【0006】
ノーマリオン型の半導体デバイスは、製造が比較的容易であることから、この半導体デバイスを用いてインバータ装置等を低コストで生産することが期待されている。
【0007】
このような半導体スイッチング素子を駆動させるゲート駆動回路に関する技術は種々提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照して、実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0020】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
図1を参照して、実施の形態に係るゲート駆動回路1の回路構成例について説明する。
【0022】
実施の形態に係るゲート駆動回路1は、半導体スイッチング素子20のゲート端子にオン電圧およびオフ電圧を印加するゲート駆動回路であって、半導体スイッチング素子20をオフさせるための負バイアスをゲート端子に印加する負バイアス印加手段(所定容量のコンデンサC
1・C
2)と、半導体スイッチング素子20をオンさせる際に、ゲート端子とソース端子とを短絡させるように接続を切り換える短絡切換手段(スイッチングトランジスタとしてのパワーMOSFETQ
1・Q
2を備えるスイッチ回路)とを備える。
【0023】
なお、パワーMOSFETQ
1・Q
2は内蔵ダイオードを有するようにできる。
【0024】
より具体的には、
図1に示すように、スイッチ回路は、一対のP型パワーMOSFETQ
1とN型パワーMOSFETQ
2を備え、P型パワーMOSFETQ
1のソース端子とN型パワーMOSFETQ
2のドレイン端子とがノードN7を介して接続されると共に半導体スイッチング素子20のゲート端子に接続され、P型パワーMOSFETQ
1のドレイン端子は半導体スイッチング素子20のソース端子側にノードN8を介して接続され、N型パワーMOSFETQ
2のソース端子はノードN2を介して負バイアス印加手段としてのコンデンサC
2に接続される。ここで、P型パワーMOSFETとN型パワーMOSFETは、それぞれpチャネルパワーMOSFETとnチャネルワーMOSFETである。
【0025】
また、P型パワーMOSFETQ
1とN型パワーMOSFETQ
2のゲート端子は、ノードN6およびN1を介して、コンデンサC
1、ダイオードD
1のアノード端子およびダイオードD
2のカソード端子に接続される。
【0026】
コンデンサC
1の他端は、パルス電圧源10に接続されている。また、パルス電圧源10の他端は、ノードN3を介して、ダイオードD
1のカソード端子に接続される。
【0027】
また、コンデンサC
2の他端は、ノードN4およびN5を介してダイオードD
1のカソード端子およびパルス電圧源10に接続される。
【0028】
また、ダイオードD
2のアノード端子には、ノードN5を介してツェナーダイオード(定電圧ダイオード)D
Zのアノード端子が接続される。また、ツェナーダイオードD
Zのカソード端子は、ノードN5・N4・N3を介してパルス電圧源10等に接続される。また、ゲート駆動回路1は、ノードN5・N8を介してグランド電位に接続される。
【0029】
なお、コンデンサC
1、C
2の容量は、例えば、約0.1μFとすることができる。
【0030】
(ノーマリオン型の半導体スイッチング素子)
ここで、半導体スイッチング素子20は、ノーマリオン型のトランジスタで構成される。
【0031】
なお、ノーマリオン型トランジスタは、窒化物系電界効果トランジスタとすることができる。
【0032】
また、窒化物系半導体は、GaN、AlGaNおよびInGaNの何れかとすることができる。
【0033】
ノーマリオン型(ディプレッション型)の半導体デバイスとは、ゲート電圧が0Vで、ドレイン電流が流れるタイプのMOSトランジスタやFETなどをいう。
【0034】
例えば、MOSトランジスタでは、イオン注入などによって、ソース−ドレイン間にチャネルが形成されているタイプのことをいう。また、GaAsFETでは、ビルトイン電圧でできる空乏層によってチャネルが塞がらないように、動作層が比較的厚く作られる。また、nMOSではV
T<0、pMOSではV
T>0、GaAsFETではV
T<0である(但し、V
Tはしきい電圧)。
【0035】
また、ノーマリオン型の半導体としては、大電流および高耐圧を可能にする化合物半導体デバイス(例えば、AlGaN/GaNヘテロ構造を有するHEMTやSiCトランジスタ等)などで構成可能である。
【0036】
ここで、
図2に示す断面図を参照して、実施の形態に係るゲート駆動回路1に適用可能なノーマリオン型のGaN系HEMT200の構造について説明する。
【0037】
図2に示すように、ノーマリオン型のGaN系HEMT200は、例えば、Si基板121上に形成されたGaNなどから成るバッファ層122と、バッファ層122上に形成されたアンドープGaN層から成るチャネル層123と、チャネル層123上に形成されたアンドープAlGaNから成る電子供給層124とを備える。
【0038】
さらに、電子供給層124の上には、ソース電極126、ドレイン電極127および絶縁層128を介してゲート電極125が形成される。
【0039】
このGaN系半導体デバイス200では、チャネルの長さに相当するアンドープGaNから成るチャネル層123の表面にはアンドープAlGaNから成る電子供給層124がヘテロ接合しているため、接合している部分の界面には2次元電子ガスが発生する。そのため、2次元電子ガスがキャリアとなってチャネル層123は導電性を示す。
【0040】
図3は、ノーマリオン型のGaN系HEMT200のドレイン電圧−ドレイン電流特性を示すグラフである。
【0041】
図3のグラフを見ると分かるように、ノーマリオン型のGaN系HEMT200のドレイン電流Idsは、ゲート電圧V
GSが0Vの状態でも流れている。一方、ゲート電圧V
GSとしてマイナスの電圧(
図3では、VGS=−1V、−2V、−3、−4)を印加するに従ってドレイン電流Idsは徐々に流れなくなり、
図3に示す例では、ゲート電圧V
GSが−4Vの状態でドレイン電流Idsは略0Aとなる。
【0042】
(電圧波形)
図4および
図5に、実施の形態に係るゲート駆動回路1における半導体スイッチング素子のゲート端子に相当するg点、ノードN2に相当するa点、ノードN1に相当するb点の各点における電圧波形を示す。
【0043】
図4(a)は、半導体スイッチング素子20のゲート端子に相当するg点(
図1参照)における電圧Vgの電圧波形を示す。
【0044】
また、
図4(b)はノードN2に相当するa点における電圧波形を示すグラフ、
図5(c)はノードN1に相当するb点における電圧波形である。
【0045】
また、
図5(d)は、b点とa点における電圧の差分を示すグラフである。
【0046】
図5(c)、(d)から分かるように、
図5(c)、(d)では、コンデンサC
1、C
2から供給される電圧の影響で、立ち上がり時に最大約8Vである程度の期間にわたるスパイク波が発生している。
【0047】
これに対して、
図4(a)に示すように、電圧Vgは、略0〜−5で遷移するパルス状の波形を呈し、立ち上がり時にマイナス方向のスパイク波が若干発生しているが、最大約2V程度で発生期間も短時間であるため半導体スイッチング素子20の駆動等には影響しない。
【0048】
このように、実施の形態に係るゲート駆動回路1によれば、半導体スイッチング素子20をオン状態にする際のスパイク電圧の発生が抑制され、安定した駆動が可能となる。
【0049】
(比較例)
ここで、
図6および
図7を参照して、比較例に係るゲート駆動回路701について説明する。
【0050】
図6に示すように、デプレッション型スイッチング素子の駆動回路701は、単電源駆動回路であり、デプレッション型の半導体スイッチング素子としてのGaN系HEMT710のゲートに、半導体スイッチング素子710をオン/オフさせる制御信号を出力する発振器711を備える。
【0051】
また、ゲート駆動回路701は、発振器711から出力される制御信号をゲートへ供給する信号線712に設けられたコンデンサC
10と、コンデンサC
10とゲートの間の信号線712と半導体スイッチング素子710のソースとの間に設けられたダイオードD
10とを備える。
【0052】
半導体スイッチング素子710のソースは接地されており、そのドレインは負荷抵抗R
10を介して負荷抵抗駆動用の電源716の正極側に接続される。
【0053】
発振器711は、半導体スイッチング素子710をオンさせる高レベル、例えば+5Vの制御信号と、半導体スイッチング素子710をオフさせる低レベル0Vの制御信号とを、例え1000kHz程度の周波数で出力する。
【0054】
なお、コンデンサC
10の容量は、半導体スイッチング素子710の入力容量の10倍から500倍の間に設定されている。
【0055】
図7は、比較例に係るゲート駆動回路701における半導体スイッチング素子710のゲート端子に相当するg点における電圧波形を示すグラフである。
【0056】
図7に示すように、最大5V程度のスパイク電圧が発生している。
【0057】
このように、比較例に係るゲート駆動回路701においては、駆動対象としての半導体スイッチング素子710のゲートにコンデンサC
10が接続される回路構成となっているため、半導体スイッチング素子710をオン状態にする際に、スパイク電圧が発生し易い。
【0058】
このようなスパイク電圧が発生すると、半導体スイッチング素子710の耐圧が比較的低い場合には、素子自体が破壊される虞がある。
【0059】
(ゲート駆動回路の動作)
図8〜
図10を参照して、実施の形態に係るゲート駆動回路1の動作について説明する。
【0060】
図8は、実施の形態に係るゲート駆動回路1の動作モード1における電流の状態を示す説明図である。
【0061】
ゲート駆動回路1が動作を開始すると、動作モード1としてパルス電圧が印加され、
図8においてループL1として示すように電流が流れる。
【0062】
これにより、コンデンサC
1に電荷が蓄積される。
【0063】
次いで、動作モード2では、
図9に示すように、ループL2、L3の電流の流れが生じる。
【0064】
そして、ループL3の電流の流れにより、ツェナーダイオードD
Zに逆方向電流が流れ、逆降伏電圧V
Zが−6V発生する。
【0065】
このとき、P型パワーMOSFETQ
1のゲート・ソース間には電位差が−6V生じ、N型パワーMOSFETQ
2のゲート・ソース間には電位差が生じない。
【0066】
従って、P型パワーMOSFETQ
1はON状態、N型パワーMOSFETQ
2はOFF状態となる。
【0067】
これにより、半導体スイッチング素子20のゲート・ソース間が短絡(ショート)され(ループL4参照)、ON状態が維持される。
【0068】
次いで、動作モード3では、
図10に示すように、ループL5、L6の電流の流れが生じる。
【0069】
コンデンサC
2とD
Z、半導体スイッチング素子20のゲート・ソース間にV
C、V
Zとしてそれぞれ−6Vの電圧が生じる。
【0070】
本実施例における半導体スイッチング素子20のスレッショルド電圧は例えば−4Vであるので、半導体スイッチング素子20はOFF状態となる。
【0071】
以降は、前記動作モード2と動作モード3が繰り返されて駆動される。
【0072】
これにより、半導体スイッチング素子20をオン状態にする際のスパイク電圧の発生が抑制され、安定した駆動が可能となる。
【0073】
(ハーフブリッジインバータ回路)
図11を参照して、実施の形態に係るゲート駆動回路を適用した誘導性負荷のハーフブリッジインバータ回路2の構成例について説明する。
【0074】
誘導性負荷のハーフブリッジインバータ回路2は、実施の形態に係るゲート駆動回路1a・1bがノードN17を介して接続された構成を有している。
【0075】
なお、ゲート駆動回路1a・1bについては、実施の形態に係るゲート駆動回路1と同様の構成であるので、同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0076】
ゲート駆動回路1aによって駆動される半導体スイッチング素子20aのドレイン端子は、電源31のプラス側に接続される。
【0077】
また、ゲート駆動回路1a側のコンデンサC
1は、ノードN13を介して別途設けられるP型パワーMOSFETQ
3とN型パワーMOSFETQ
4の中間点に接続されている。
【0078】
P型パワーMOSFETQ
3のドレイン端子は、ノードN11を介して、ダイオードD
3のカソード端子および電解コンデンサC
4のプラス側に接続される。
【0079】
また、電解コンデンサC
4のマイナス側は、ノードN16を介してN型パワーMOSFETQ
4のソース端子に接続される。
【0080】
P型パワーMOSFETQ
3とN型パワーMOSFETQ
4のゲート端子は、ノードN12およびN14を介してパルス電源10aに接続される。
【0081】
ダイオードD
3のアノード端子は、ノードN10を介して電源30のプラス側およびゲート駆動回路1b側のP型パワーMOSFETQ
5に接続される。
【0082】
ゲート駆動回路1bによって駆動される半導体スイッチング素子20bのソース端子は、ノードN8・N22・N18・N25を介して、グランド電位および電源30・31のマイナス側に接続される。
【0083】
また、ゲート駆動回路1b側のコンデンサC
1は、ノードN20を介して別途設けられるP型パワーMOSFETQ
5とN型パワーMOSFETQ
6の中間点に接続される。
【0084】
P型パワーMOSFETQ
5とN型パワーMOSFETQ
6のゲート端子は、ノードN19を介してパルス電源10bに接続される。
【0085】
また、ノードN17を介してインダクタLが接続されている。このインダクタLの他端は、ノードN23を介して、所定容量の電解コンデンサC
3のプラス側および可変抵抗器Rに接続される。このような誘導性負荷は、例えば、モータなどを想定することができる。
【0086】
また、電解コンデンサC
3のマイナス側および可変抵抗器Rの他端は、ノードN24を介して、グランド電位等に接続される。
【0087】
なお、コンデンサC
1、C
2の容量は、例えば、約0.1μFである。
【0088】
実施の形態に係るゲート駆動回路を適用したハーフブリッジインバータ回路2に適用されるゲート駆動回路1a・1bは、上述の動作モード1〜3により動作する(
図8〜
図10参照)。
【0089】
これにより、半導体スイッチング素子20a・20bをオン状態にする際のスパイク電圧の発生が抑制され、安定した駆動が可能となる。
【0090】
したがって、実施の形態に係るゲート駆動回路を適用したハーフブリッジインバータ回路2は、安定した誘導性負荷の駆動が可能となる。
【0091】
例えば、本実施の形態に係るゲート駆動回路は、電力変換装置に適用することができる。
【0092】
例えば、本実施の形態に係るゲート駆動回路は、上記のインバータ回路または上記の電力変換装置を用いた電気機器に適用することができる。
【0093】
[その他の実施の形態]
上記のように、実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0094】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。