(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
共振器内においてレーザー光が閉じ込められ、前記共振器における前記レーザー光の光路を定める反射鏡の位置が制御されることによって前記共振器における光路長が制御され、前記共振器で増強された前記レーザー光が出力されるレーザー装置であって、
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の共振器が用いられ、
前記共振器から出力されたレーザー光を透過させるλ/4板と、
前記λ/4板を透過後のレーザー光における一方向の偏光成分の光強度を検出する第1の光検出器と、前記λ/4板を透過後のレーザー光における前記一方向と垂直な方向の偏光成分の光強度を検出する第2の光検出器と、
前記第1の光検出器で検出された光強度と前記第2の光検出器で検出された光強度とに基づいて前記共振器における前記反射鏡の位置を制御する制御部と、
を具備することを特徴とするレーザー装置。
共振器内においてレーザー光が閉じ込められ、前記共振器における前記レーザー光の光路を定める反射鏡の位置を制御することによって前記共振器における光路長を制御するレーザー装置の制御方法であって、
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の共振器が用いられ、
前記共振器から出力されたレーザー光をλ/4板に透過させた後のレーザー光において、一方向の偏光成分の光強度の第1定数倍と前記一方向と垂直な方向の偏光成分の光強度の第2定数倍との差分が零となるように前記共振器における前記反射鏡の位置を制御することを特徴とするレーザー装置の制御方法。
共振器内においてレーザー光が閉じ込められ、前記共振器における前記レーザー光の光路を定める反射鏡の位置を制御することによって前記共振器における光路長を制御するレーザー装置の制御方法であって、
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の共振器が用いられ、
前記反射鏡の位置を制御することによって前記光路における位相ずれδを変動させた際の、前記共振器から出力されたレーザー光をλ/4板に透過させた後のレーザー光における、一方向の偏光成分の光強度の第1定数倍と前記一方向と垂直な方向の偏光成分の光強度の第2定数倍との差分の変化を、前記δの変化で除した値の正負を判定し、前記値の正負が切り替わるように前記反射鏡の位置を制御することによって、前記共振器内で閉じ込められる光の偏光方向を設定することを特徴とするレーザー装置の制御方法。
【背景技術】
【0002】
高強度の短パルスレーザーを発振するためには、2枚の反射鏡の間における共振条件が成立することを利用した共振器が使用されており、こうした共振器を用いたレーザー装置は各種の物理実験や計測等に用いられている。例えば、非特許文献1に記載されるように、レーザーコンプトンγ線の発生器においては、加速器によって高エネルギーとされた電子がパルスレーザー光と衝突することによって、パルスレーザー光の光子が高エネルギー化されたγ線となって出力される。この際、衝突のタイミングを最適化するためにパルスレーザー光のパルスタイミングは制御され、かつその光強度も高くされる。また、γ線の偏光方向を制御するために、このパルスレーザー光の偏光方向も制御される。このようなパルスレーザー光を発振するために、パルスレーザー光を共振器に蓄積することによって強度を高める光蓄積装置が用いられている。同様の光蓄積装置は、非特許文献2に記載の高次高調波生成にも有効である。
【0003】
ここで使用される共振器における共振条件は、共振器内の反射鏡の構成や間隔で規定された光路長で定まる。特に光蓄積装置において高強度のレーザー光を得るために用いられる共振器の共振条件は非常に狭いため、この光路長を高精度で最適化する必要がある。しかしながら、外部環境等の様々な要因により、光路長を高精度で一定とすることは実際には困難である。また、パルスレーザー発振器と光蓄積装置の両方においてそれぞれ共振器が用いられる。こうした場合には、パルスレーザーの発振器の共振器と光蓄積装置の共振器における光路長の誤差を定量的に抽出し、それを元に発振器の共振器もしくは光蓄積装置の共振器の光路長を能動的に制御する必要がある。この課題に対し、例えばパルスレーザー光における繰り返し周波数を変調し、これに応じた出力をモニターし、その結果を解析することによって光路長を最適に制御することができる。しかしながら、パルスレーザーの繰り返し周波数に高い精度が要求される用途では、このような変調を使う事が不適である。そのため、このような用途では共振器から実際に出力されたレーザー光をモニターした結果をフィードバックし、リアルタイムで光路長を最適化する方法が用いられる。
【0004】
図9は、この制御が行われる光蓄積装置90の構成を示す図である。ここでは、光源となるレーザー発振器11が発したレーザー光200が、共振器91内で、入射カプラ21、反射鏡22〜24で形成され、矢印で示される方向で光が進行する光路中で共振条件を満たすように設定される。これにより、レーザー光200はこの光路中に蓄積されコンストラクティブ干渉によって高強度とされ、このレーザー光200の一部が入射カプラ21を透過して外部に出力される。レーザー光200は、一定の繰り返し周波数をもつパルスレーザー光である。実際には共振器91から取り出された光は、この光蓄積装置90が用いられる装置(例えばレーザーコンプトンγ線発生器)側に出力されるが、この装置及びこの装置との接続に用いられるビームライン等の記載は
図9では省略されている。
【0005】
ここで、共振器91から出力されるレーザー光200の出力が極大となるように光路の調整を行うことによって、共振条件を実現できることは明らかである。しかしながら、実際にはパルス状のレーザー光200の強度変化は非常に急峻であるため、こうした制御は実際には困難である。このため、この光蓄積装置90においては、非特許文献3に記載の制御方法を用いて、高精度で共振条件が維持される。この制御方法においては、この共振器91内の光路で特定の偏光方向の光のみが閉じ込められるように設定される。共振器91から取り出されたこの光と、これと垂直な偏光方向をもち共振器91内に入射しなかった光とを両方用いて制御のための信号を生成し、この信号に応じて共振器91中の光路長を微調整している。
【0006】
このため、レーザー光200はまずλ/2板31を通り、共振器91内の光路で閉じ込められる偏光方向をもつ成分と、これと直交する偏光方向をもつ成分と、を共にもつような方向にレーザー光200の偏光方向が制御される。その後、レーザー光200は入射カプラ21を通り前記の光路に進入するが、この光路内には偏光子(偏光板)92が設けられており、この偏光子92で定められる偏光方向の光のみがこの光路内に閉じ込められる。ただし、この光の一部は入射カプラ21から図中左上側に取り出され、さらに共振器91から取り出された光と合流する。
【0007】
一方、この光路内で閉じ込められる偏光方向と直交する偏光方向をもつ光は、入射カプラ21、折り返しミラー32で順次反射される。その後、fast axisが偏光子92と並行となる条件を満たすλ/4板33をこれらの光が通ることによってそれぞれ位相シフトを受け、グラントムソンプリズム34によって、これを透過する偏光成分と反射される偏光成分に分離され、前記の偏光成分の光は光検出器(第1の光検出器)35で、後者の偏光成分の光は光検出器(第2の光検出器)36で検出される。非特許文献3に記載されるように、前者の検出強度をI
a、後者の検出強度をI
bとすると、I
a−I
bは、共振器91における位相ずれδの関数となる。このため、制御部(例えばマイクロコンピュータ)93がI
a−I
bを認識し、この値に基づいて共振器91における反射鏡22に固定されたピエゾ素子37をフィードバック制御することにより、共振条件が成立するようにδを制御することができる。これにより、何らかの要因によって光路長が変化しても、共振器91の共振条件を常に維持することができる。
【0008】
上記の構成においては、共振器91内の光路中に偏光子92、外部に折り返しミラー32、λ/4板33、グラントムソンプリズム34等の光学素子を設けている。これらの光学素子は単純で安価であるため、上記の構成を容易に実現することができる。また、この方式ではパルスレーザー光の繰り返し周波数が一定の状態で上記の動作を行うことができるため、繰り返し周波数が一定である通常のパルスレーザー発振器を用いた場合に適用することが可能であり、かつこの共振器91を使用するレーザー装置を使用している間においても、リアルタイムでこの制御を行うことができ、これにより共振条件を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る共振器が用いられるレーザー装置として、光蓄積装置について説明する。この共振器は、パルスレーザー光を光路中で閉じ込め、コンストラクティブ干渉によってその強度を高めて出力する。この共振器における光路を規定する反射鏡の位置は、共振条件が常に成立するように精密に最適制御される。ただし、この共振器においては、損失の大きな偏光子(偏光板)を用いずに光路長の最適制御が行われる。このため、閉じ込め効率を高くすることができる。
【0017】
図1は、この光蓄積装置1の構成を示す図である。この光蓄積装置1においては、内部に入射カプラ21、反射鏡22〜24が設けられた共振器20に、レーザー発振器11で発振されたパルスレーザー光であるレーザー光200が入射する設定とされる。
【0018】
レーザー光200が共振器20に入射する前には前記の光蓄積装置90(
図9)と同様にλ/2板31が、レーザー光200が共振器20から出射した後には、折り返しミラー32、λ/4板33、グラントムソンプリズム34、光検出器(第1の光検出器)35、光検出器(第2の光検出器)36が用いられる。また、同様に、ピエゾ素子37が反射鏡22の位置を制御するために用いられる。これらの構成要素の機能は前記の光蓄積装置90におけるものと同様である。また、光検出器35、36の出力に応じてピエゾ素子37を制御する制御部38が設けられる。
【0019】
レーザー発振器11、レーザー光200、共振器20における入射カプラ21、反射鏡22〜24、λ/2板31、折り返しミラー32、λ/4板33、グラントムソンプリズム34、光検出器35、36、ピエゾ素子37については、光蓄積装置90(
図9)の場合と同様であるため、説明を省略する。ただし、この構成においては、光検出器35、36でそれぞれ検出すべき光の偏光方向を調整するために、λ/4板33の前に、λ/2板39が設けられている。ここでは、単純化のために、λ/2板31に入射するレーザー光200の偏光方向は水平方向であるとし、λ/2板31の主軸がこの方向との間でなす角度をφとする。これによって、λ/2板31を通過後のレーザー光200の偏光方向は2φだけ回転する。すなわち、λ/2板31によって、共振器20内に入射するレーザー光200の偏光方向を設定することができる。同様に、λ/2板39によって、光検出器35、36でそれぞれ検出すべき光の偏光方向を設定することができ、これは、共振器20内に入射するレーザー光200の偏光方向の設定から独立して行うことができる。
【0020】
この共振器20においては、前記の偏光子92の代わりに、像反転機構25が光路中に設けられている。また、光蓄積装置90(
図9)と同様に、制御部38は、光検出器35、36の出力(I
a、I
b)に応じてピエゾ素子37を制御することによって反射鏡22の位置を微調整するが、この際の原理が非特許文献3に記載されたものとは異なる。主にこれらの点について以下に説明する。
【0021】
ここで用いられる像反転機構25は、「Use of a Three−Mirror Image Rotator in a Laser−Produced Plasma Experiment」、R.H.Dixon、Applied Optics、Vol.18、No.23、p3883(1979年)、「A Triple Reflection Polarizer for Use in the Vacuum Ultraviolet」、V.G.Horton、E.T.Arakawa、R.N.Hamm and M.W.Williams、Applied Optics、Vol.8、No.3、p667(1969年)、「Polarization Studies in the Ultraviolet」、R.N.Hamm、R.A.MacRae and E.T.Arakawa、Journal of the Optical Society of America、Vol.55、No.11、p1460(1965年)等に記載された光学系と同様である。これらの文献におけるこの光学系は、一種の偏光板として使用されているが、本願においては使用の態様がこれとは異なる。
【0022】
前記の偏光子92はこれに入射する光のうち特定の偏光方向をもつ光を選択的に透過させる性質をもったのに対し、像反転機構25は、全ての偏光方向の光を透過させるが、特定の偏光方向の振動電場の位相を、この偏光方向と垂直な偏光方向の振動電場の位相からπ(180°)だけシフトさせる。
図2は、この像反転機構25の構成を模式的に示す斜視図(a)、上面図(b)である。この像反転機構25は3つの反射面(3枚の反射鏡251〜253)で構成され、左右両側の反射鏡251、253は、単一のプリズムの表面で構成される。光軸は図中のA1(
図2において左側から反射鏡251に向かう光軸)、A2(反射鏡251、252間の光軸)、A3(反射鏡252、253間の光軸)、A4(反射鏡253から右側に向かう光軸)で示される。光軸A1、A2、A3、A4は同一平面(入射面)上に存在するように設定され、
図2(b)は、この入射面における構成を示している。光軸A1と光軸A4は共に
図1における入射カプラ21と反射鏡22との間の光軸上に乗るものとする。
図2における光軸A1の反射鏡251に対する入射角αは、光軸A4の反射鏡253に対する出射角と等しく、α>45°であるものとする。この構成により、像反転機構25を光路中に挿入することができる。
【0023】
図2(a)における各光軸において、入射面に垂直な(
図1においては垂直方向の)電場成分が白矢印、入射面に平行な(
図1においては水平方向の)電場成分が黒矢印の方向で振動している。いずれの電場成分も、光軸方向に垂直であるが、この振動には位相がπだけ異なる2種類のものがある。各矢印に示された向きは、位相がπだけ異なる2種類の振動を示している。
図2(b)においては、白矢印は紙面と垂直(ただしいずれも紙面手前側向き)となり、黒矢印のみが示されている。
【0024】
図2の構成においては、光が反射される際に、入射面内における電場の振動方向は図示されるように変化する。ここで、入射面に垂直な電場の振動の位相は入射側の光軸A1から出射側の光軸A4に至るまでの間で変化しない。このため、入射面と垂直な電場の振動の向き(
図2(b)における黒点)は、どの場所においても同様に紙面手前側向きである。一方、入射面に平行な電場の振動の位相は、図示されるように変化し、入射側の光軸A1、出射側の光軸A4で逆転する。すなわち、位相がπだけずれる。すなわち、この像反転機構25を
図1の構成で用いることにより、共振器20内の光路中で、
図1における水平方向の偏光成分の位相は変化させず、垂直方向の偏光成分の位相をπだけ変化させることができる。
【0025】
また、
図1において、共振器20内で光(レーザー光200)が閉じ込められる光路は、入射カプラ21、反射鏡22〜24で規定される。ここで、光カプラ21と反射鏡22に光を垂直入射させる構成として、光カプラ21と反射鏡22の間のみで光が往復する光路を構成することも可能である。この場合には、光が往復する際に、この光は像反転機構25を2回通過する。これに対して、ここでは、図示されるように反射鏡23、24を更に用いて光路を形成することによって、光がこの光路を1周する際の光の向きは矢印で示されるとおりとなる。この場合、この1周の際に光は像反転機構25を1回しか通過しない。なお、
図1における入射カプラ21、反射鏡22〜24への光の入射角は45°よりも小さいため、像反転機構25におけるような位相の変化は発生しない。このため、光が共振器20内を1周する間に、垂直方向に偏光した光は、水平方向に偏光した光から位相がπだけずれる。
【0026】
すなわち、この像反転機構25を用いて、
図1における光路中の光の垂直偏光成分における位相を、水平偏光成分の位相からπだけシフトさせることができる。前記の通り偏光子(偏光板)が用いられる場合にはその透過率は高々99%程度であったのに対し、この像反転機構25は、単純な反射鏡251〜253のみで構成され、各反射鏡の反射率を100%に近くすることが可能である。このため、像反転機構25の透過率は99%よりも高く、例えば99.98%とすることができる。なお、この場合には、共振器20における光路長は、像反転装置25における光路も考慮して設定される。
【0027】
次に、この場合に光検出器35、36の光検出強度を用いて非特許文献3に記載の技術と同様な制御が可能か否かを調べるために、光検出器35、36の光検出強度を、光蓄積装置90(
図9)、光蓄積装置1(
図1)の場合のそれぞれについて計算する。初めに、従来の共振器91が用いられた光蓄積装置90(
図9)の場合について説明する。この場合の計算結果は、非特許文献3に記載されている。
図9の構成においては、λ/2板31によって、共振器91に入射するレーザー光200における偏光の方向が設定され、その電場は、偏光子92によって共振器91内に閉じ込められる方向の成分とこれに垂直な成分に分けて考えられる。前者の振幅をE
‖(i)、後者に振幅をE
⊥(i)とすると、これらは入射する電場の振幅をE
(i)として、(1)(2)式で示される。
【0029】
ここで、θは、入射光の偏光方向と共振器91内に閉じ込められる偏光方向(偏光子92によって定まる方向)との間のなす角度であり、前記の通りθ≠0に設定されるため、E
‖(i)、E
⊥(i)共に零でない有意な値となる。この場合において、共振器91から取り出され4/λ板33に入射する光の電場の複素振幅E
‖(r)、共振器91に取り込まれずに4/λ板33に入射する光の電場の複素振幅E
⊥(r)は、(3)(4)式で与えられる。ここで、R
1、T
1はそれぞれ入射カプラ21の反射率、透過率であり、Rは共振器91内における1周回当たりの伝達率である。δは共振器91における光の位相ずれであり、光路長に対応した最適化されるべきパラメータである。
【0031】
図9の構成においては、光検出器(第1の光検出器)35、光検出器(第2の光検出器)36の箇所の電界強度E
a、E
bは(5)式で表され、光検出器35、光検出器36で検出された光強度I
a、I
bは(6)式で表される。ここで、cは光速度、εは媒体の誘電率である。
【0033】
図3は、非特許文献3におけるFig.1であり、共振器91の出力光を直接検出した場合の光強度I
(t)のδ依存性の計算値(上段:A)、その微分値(中段:B)、(6)式による差分I
a−I
bの計算値(下段:C)を示す。I
(t)が極大値を取る場合が、共振状態が成立している状態となり、この場合に差分I
a−I
bが零となる。I
(t)の検出値(A)、あるいはその微分値(B)を用いて光路長をフィードバック制御し、I
(t)が最大となる(あるいはその微分値が零となる)ようにδ(反射鏡22の位置)をピエゾ素子37を用いて制御すればよいことは明らかである。差分I
a−I
bを用いた場合、差分I
a−I
bが零となるような制御を行えばI
(t)の最大値を見いだすことが可能であり、更にI
a−I
bの変化率は緩やかであるため、その制御は容易である。このため、
図9の構成において、I
a−I
bを用いて共振条件が常に成立するような制御を制御部93が行うことが可能となる。以上は、非特許文献3に記載された内容である。
【0034】
このように、
図9の構成、あるいは非特許文献3に記載の技術においては、共振器91に特定の偏光方向の光を閉じ込め、共振器91に閉じ込められた光と共振器91に閉じ込められなかった偏光方向の光の両方を利用して、I
a−I
bを算出し、δを制御している。この際、光蓄積装置90本来の目的より、共振器91に閉じ込められる光が必要であることは当然であるが、これ以外にも、共振器91に閉じ込められない偏光成分の光も必要であり、両者が存在するようにθは設定される。
【0035】
次に、
図1の構成において、同様の計算を行った結果について説明する。この場合には、E
‖(i)、E
⊥(i)、E
‖(r)、E
⊥(r)は、それぞれ(7)〜(10)式の通りとなる。前記の通り、φはλ/2板31の設定角度(入射するレーザー光200とλ/2板31の主軸のなす角度)である。前記の場合とは、共振器20内に2方向の偏光成分の光が共に存在することが大きく異なる。これに対応して、R
‖は、像反転機構25の入射面と垂直な方向の(像反転機構25におけるs偏光の)1周回当たりにおける伝達率であり、R
⊥は、これと垂直な方向の(p偏光の)1周回当たりにおける伝達率である。
【0037】
ここで、
図9の構成の場合には共振器91内における電場の垂直成分が零であるために、E
⊥(r)((4)式)においては、入射カプラ21によって入射光が反射された成分のみが存在した。これに対し、
図1の構成の場合には共振器20内における電場の垂直成分が零でなく、かつ像反転機構25による効果が
図2における入射面に平行な電場成分であるE
⊥(r)においてのみ加わるため、特にE
⊥(r)((10)式)がE
⊥(r)((4)式)と大きく異なっている。
【0038】
また、
図1における共振器20の外側における構成は
図9と同一であるため、E
a,b、I
a,bについては、前記と同様に(5)(6)式で与えられる(この場合におけるI
aをI
a(r)、I
bをI
b(r)とする)。このため、λ/2板39による偏光方向の角度変化を零とした場合には、
図3と同様に、I
a(r)−I
b(r)が算出できる。
図1の構成において、φ=22.5°、R
1=0.95(T
1=0.05)、R
‖=R
⊥=0.97とした場合における
図3のA(I
(t))、C(I
a(r)−I
b(r))に対応する結果を、それぞれA’、C’として
図4に示す。
【0039】
図4のA’において
図3のAと異なるのは、2方向の偏光成分がそれぞれ共振器20内に存在するため、それぞれに応じたピークが算出される点である。各々のピークは、像反転機構25によって半ピッチだけずれて観測される。これに応じて、
図4のC’における零点が検出される。このため、C’の特性から、
図3の場合と同様に、光検出器35、36で検出された光強度の差I
a(r)−I
b(r)が零となるように、共振器20における光の位相ずれδを最適化することが可能であることが明らかである。
【0040】
このように、
図1の構成においては、共振器20に任意の偏光方向の光を閉じ込め、共振器20に閉じ込められた光の出力を利用して差分I
a(r)−I
b(r)を算出し、δを制御している。あるいは、
図1の構成においては、2方向の偏光成分の光を同時に共振器20に閉じ込めて使用することができる。このうち、どちらの偏光成分の光も取り出すことが可能である。
【0041】
ただし、上記の例ではI
a(r)として水平の偏光方向、I
b(r)として垂直な偏光方向の光の強度を測定したが、I
a(r)として検出すべき偏光方向、I
b(r)として検出すべき偏光方向は、λ/2板39の設定によって適宜設定することができ、例えばλ/2板39の設定角度を(π/4−φ)とした場合には、I
a(r)、I
b(r)として検出される偏光方向は上記と逆になる。すなわち、光検出器35、36がそれぞれ検出する偏光方向は、共振器20の中で切り替えられる偏光方向とは独立に設定することができる。このため、上記の場合には、I
a(r)−I
b(r)の値を用い、これが零となるような制御を行うものとしたが、より一般的には、光検出器35、36がそれぞれ検出する偏光方向において共振器20の中で切り替えられる偏光方向の成分の比率で定まる第1定数と第2定数を用いて、この演算を行うことができる。この場合、上記のI
a(r)−I
b(r)の代わりに、第1定数×I
a(r)と第2定数×I
b(r)との差分を用いて、この制御を行うことができる。上記の例は、第1定数=第2定数とした場合に対応する。
【0042】
図4の特性ではR
‖=R
⊥としたが、一般的にはR
‖≠R
⊥となる。
図5上段は、R
‖=R
⊥の場合(
図4の場合)におけるI
a(r)、I
b(r)、これらの差分であるI
a(r)−I
b(r)、
図5下段は、R
‖≠R
⊥(R
‖=0.94、R
⊥=0.97)の場合におけるI
a(r)、I
b(r)、I
a(r)−I
b(r)をそれぞれ示す。R
‖=R
⊥の場合には、2方向の偏光成分に対応する信号が同等に得られていたのに対して、R
‖≠R
⊥の場合には、偏光方向に応じて異なる強度の信号が得られている。しかしながら、この場合においても同様の制御が可能であることは明らかである。
【0043】
光の偏光方向の極端な例として、垂直方向(像反転機構25における入射面と平行方向)の場合、水平方向(像反転機構25における入射面と垂直方向)の場合における、I
(t)、I
a(r)、I
b(r)、I
a(r)−I
b(r)の計算結果を、これらの2方向について、それぞれ
図6左、
図6右に示す。どちらの場合においても、I
(t)が最大となる点はI
a(r)−I
b(r)が零となる箇所に一致している。このため、共振器20内で閉じ込める光の偏光方向によらずに、上記の制御を行うことができる。
【0044】
図7(a)に、実際の共振器において、ピエゾ素子を用いてδを掃引した場合におけるI
a(r)、I
b(r)、I
(t)を実測した一例を示す。
図5下側に示された計算結果と同様の結果が確認できた。また、
図7(b)には、I
a(r)、I
b(r)、I
(t)を実測した他の一例を示す。この場合においては、I
(t)自身の測定結果にはノイズが非常に多くなっているために、I
(t)自身を用いた制御は極めて困難であるにも関わらず、I
a(r)、I
b(r)を用いた制御が容易に行えることが明らかである。このため、上記の制御方法が有効であることが確認できる。
【0045】
また、上記の制御方法においては、より高精度の制御を行うために、像反転機構25で設定される2つの偏光方向を適宜変更することが可能である。このためには、
図2における光軸A1、A4(入射カプラ21と反射鏡22の間の光軸)の回りでこの像反転機構25を回転させればよい。例えばこれを90°回転させることによって、上記の動作における水平偏光成分と垂直偏光成分とを切り替えることができる。この操作は、入射するレーザー光200の偏光方向に応じて行うこともできる。
【0046】
次に、この共振器20に光が閉じ込められた際の光の増強について計算する。
図9の構成(従来の光蓄積装置90)においては、偏光子92によって共振器91には特定の偏光方向の光が閉じ込められるが、他に従来より知られる光閉じ込めの原理と変わるところはない。また、従来の光蓄積装置90においては、この特定の偏光方向の光のみが共振器91で増強されて出力されるため、偏光子92によって偏光方向が定められた高強度のパルスレーザー光が得られる。これにより、偏光方向が定められた高強度のパルスレーザー光が得られ、こうしたレーザー光は、様々な用途、例えばレーザーコンプトンγ線発生器には特に好ましく用いられる。
【0047】
一方、上記の共振器20においては、共振器20の光路中に偏光子92は設けられないため、任意の偏光方向の光が共振器20内に存在しうる。こうした場合においても、従来の光蓄積装置90と同様に、偏光方向が特定された高強度のパルスレーザー光が得られることが好ましい。この場合においては、ある一方向の偏光成分の光強度(所望の偏光方向成分の光強度)に対する、これと垂直な偏光方向の光強度の比率(消光比)が小さくなることが好ましい。
【0048】
共振器20における光閉じ込めの状況は、共振器20内における電場の干渉を考慮して考えることができる。
図8は、この計算において用いた条件を示している。実際には
図1に示される構成でこの光路は定められているが、ここでは、単純化のために、左側(入射、出射側)反射鏡、右側反射鏡の2枚の反射光の間で光路が定められているものとする。ここで、入射光の電界は
図8におけるE
inであり、左側反射鏡における反射波の電界をE
r、透過波の電界をE
c、右側反射鏡の反射波の電界をE
d、透過光の電界をE
t、波数をkとする。また、左側反射鏡の複素反射率、複素透過率をそれぞれρ
f、τ
f(反射率R
f=|ρ
f|
2、透過率T
f=|τ
f|
2)とし、右側反射鏡の複素反射率、複素透過率をそれぞれρ
r、τ
r(反射率R
r=|ρ
r|
2、透過率T
r=|τ
r|
2)、光路長をLとする。この場合、E
c、E
d、E
r、E
tは、それぞれ以下の(11)〜(14)式の通りとなる。
【0050】
これにより、共振器10における光路長L中において蓄積されるパワーI
cは、以下の(15)式の通りとなる。
【0052】
ここで、入射パワーI
in=|E
in|
2である。このため、kL=2Nπ(Nは整数)の場合において、I
cは以下の(16)式で表される最大値をとる。
【0054】
この場合、kL=2Nπ(Nは整数)の条件が満たされる場合に、R
f、R
rが1に近づき、T
fが零に近い場合に、I
c>I
inとなり、コンストラクティブ干渉が起こり共振器20内で光を増強することができる。
【0055】
この条件が共振器20における水平偏光、垂直偏光のうちの一方の光で満たされる場合、像反転機能25によって他方の偏光をもつ光の位相はこれからπだけずれる。このため、この光においては、(15)式におけるkL=(2N+1)πとなる。この場合には、I
cは(17)式で表される最小値となる。すなわち、一方の偏光方向の光においてコンストラクティブ干渉が起こった場合には、他方の偏光方向の光においては、デコンストラクティブ干渉が起こる。
【0057】
この場合の消光比は、(18)式で表される。
【0059】
この消光比は、例えばR
f=0.99、R
r=0.999とした場合には、8×10
−6となり、充分に小さな値となる。すなわち、一方の偏光方向の光のみを共振器20から選択的に取り出すことが可能である。これにより、共振器20から、偏光方向の定まった高強度のパルスレーザー光を出力させることができる。この偏光方向は、λ/2板31、像反転機構25の回転角度を調整することによって行うことができる。この際、これに応じて、δもI
a(r)−I
b(r)を用いて最適化することができる。さらに、δをΔδだけ変化させた際の差分I
a(r)−I
b(r)の変化Δ(I
a(r)−I
b(r))を検出し、Δ(I
a(r)−I
b(r))/Δδの値が正から負もしくは負から正に変わるようにδを制御することにより、2つの直交する偏光方向の光出力を、δの制御のみで選択して取り出すことができる。すなわち、偏光板、あるいは像反転機構25の状態を変えずに、δを調整する(光路長を調整する)ことのみによって、共振器20内で高強度とされる偏光方向の光を切り替え、取り出すことができる。この際、より一般的には、I
a(r)、I
b(r)の代わりに、前記と同様に、第1定数×I
a(r)、第2定数×I
b(r)を用いて上記の制御を行うことができる。この場合、この制御がやりやすいように、第1定数、第2定数の値を設定する、すなわち、この制御が行いやすいようにλ/2板39の角度を設定することもできる。
【0060】
この際、前記の通り、像反転機構25の透過率を、偏光子92の最大透過率(所望の偏光方向の光の透過率)よりも高く設定することができる。このため、共振器20によって、従来の共振器91よりも大きな出力を得ることができる。
【0061】
なお、上記の例では、
図1に示された構成の光蓄積装置、共振器について説明したが、例えば共振器における光路を定める反射鏡の構成は、光路が精密に調整できる限りにおいて、任意である。こうした光蓄積装置は、特に非特許文献1、非特許文献2に記載の装置に特に好ましく用いることができる。また、上記の構成の共振器は、光蓄積装置に限らず、レーザー光を閉じ込める共振器が用いられる全てのレーザー装置に対して有効であることも明らかである。