(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0034】
[偏光膜に関連する技術的背景]
偏光膜の背景技術として、本発明に用いられる偏光膜を製造するために使用される熱可塑性樹脂基材の材料特性と、偏光膜の偏光性能によって表される光学特性について説明する。
【0035】
先ず、本発明に用いられる偏光膜を製造するために使用される熱可塑性樹脂の一般的材料特性を概説する。
熱可塑性樹脂は、高分子が規則正しく配列する結晶状態にあるものと、高分子が規則正しい配列を持たない、あるいは、ごく一部しか規則正しい配列を持たない無定形又は非晶状態にあるものとに大別できる。前者を結晶状態といい、後者を無定形又は非晶状態という。これに対応して、結晶状態にはないが、条件次第では結晶状態をつくることができる性質をもった熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂と呼ばれ、そうした性質をもたない熱可塑性樹脂は非晶性樹脂と呼ばれる。一方、結晶性樹脂であるか非晶性樹脂であるかを問わず、結晶状態にない樹脂又は結晶状態に至らない樹脂をアモルファス又は非晶質の樹脂という。ここでは、アモルファス又は非晶質という用語は、結晶状態をつくらない性質を意味する非晶性という用語とは区別して用いられる。
【0036】
結晶性樹脂としては、例えばポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)を含むオレフィン系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)を含むエステル系樹脂がある。結晶性樹脂の特徴の一つは、一般的に加熱及び/又は延伸配向によって高分子が配列して結晶化が進む性質を有することである。樹脂の物性は、結晶化の程度に応じて様々に変化する。一方で、例えば、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレンテレフタレート(PET)のような結晶性樹脂でも、加熱処理や延伸配向によって起こる高分子の配列を阻害することによって、結晶化の抑制が可能である。結晶化が抑制されたこれらのポリプロピレン(PP)及びポリエチレンテレフタレート(PET)を、それぞれ非晶性ポリプロピレン及び非晶性ポリエチレンテレフタレートといい、これらを、それぞれ総称して非晶性オレフィン系樹脂及び非晶性エステル系樹脂という。
【0037】
例えばポリプロピレン(PP)の場合、立体規則性のないアタクチック構造にすることによって、結晶化を抑制した非晶性ポリプロピレン(PP)を作成することができる。また、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)の場合、重合モノマーとして、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールのような変性基を共重合すること、すなわち、ポリエチレンテレフタレート(PET)の結晶化を阻害する分子を共重合させることによって、結晶化を抑制した非晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)を作成することができる。
【0038】
次に、大型表示素子に用いることができる偏光膜の光学特性を概説する。
偏光膜の光学特性とは、端的には、偏光度Pと単体透過率Tとで表す偏光性能のことである。一般に、偏光膜の偏光度Pと単体透過率Tとはトレード・オフの関係にある。この2つの光学特性値は、T−Pグラフにより表すことができる。T−Pグラフにおいて、プロットしたラインが単体透過率の高い方向にあり、かつ偏光度の高い方向にあるほど、偏光膜の偏光性能が優れていることになる。
【0039】
ここでT−Pグラフを示す
図3を参照すると、理想的光学特性は、T=50%で、P=100%の場合である。図から分かるように、T値が低ければP値を上げやすく、T値が高いほどP値を上げにくい、という傾向にある。さらに、偏光膜の偏光性能を透過率Tと偏光度Pの関数を示す
図4を参照すると、
図4にライン1及びライン2より上の領域として定められた範囲では、偏光膜の単体透過率T及び偏光度Pは、光学的表示装置に必要と考えられる「要求性能」を満足するものとなり、この偏光膜を使用した表示装置は、コントラスト比が1000:1以上で、最大輝度が500cd/m
2以上になる。この要求性能は、現在において、或いは将来においても、大型表示素子などの偏光膜性能として求められる光学特性と考えられる性能である。単体透過率Tの理想値は、T=50%であるが、光が偏光膜を透過する際に、偏光膜と空気との界面で一部の光が反射する現象が起こる。この反射現象を考慮すると、反射に相当する量だけ単体透過率Tが減少するので、現実的に達成可能なT値の最大値は45〜46%程度である。
【0040】
一方、偏光度Pは、偏光膜のコントラスト比(CR)に変換することができる。例えば99.95%の偏光度Pは、偏光膜のコントラスト比の2000:1に相当する。この偏光膜を液晶テレビ用液晶表示パネルの両側に用いたときの表示装置のコントラスト比は、1050:1である。ここで表示装置のコントラスト比が偏光膜のコントラスト比を下回るのは、表示パネル内部において偏光解消が生じるためである。偏光解消は、バックライト側の偏光膜を透過してきた光がセル内部を透過する際に、カラーフィルタ中の顔料、液晶分子層、TFT(薄膜トランジスタ)によって光が散乱及び/又は反射し、一部の光の偏光状態が変化することにより生じる。偏光膜及び表示パネルのコントラスト比がいずれも大きいほど、液晶テレビはコントラストが優れ、見やすいものとなる。
【0041】
ところで、偏光膜のコントラスト比は、平行透過率Tpを直交透過率Tcで除した値として定義される。これに対して表示装置のコントラスト比は、最大輝度を最小輝度で除した値として定義することができる。最小輝度とは黒表示時の輝度である。一般的な視聴環境を想定した液晶テレビの場合、0.5cd/m
2以下の最小輝度が要求基準になる。これを越える値では色再現性が低下する。最大輝度とは白表示時の輝度である。一般的な視聴環境を想定した液晶テレビの場合、表示装置は、最大輝度が450〜550cd/m
2の範囲のものが用いられる。これを下回ると、表示が暗くなるため液晶テレビの視認性が低下する。
【0042】
大型表示素子を用いた液晶テレビ用の表示装置として求められる性能は、コントラスト比が1000:1以上で、最大輝度が500cd/m
2以上である。これが表示装置の「要求性能」と考えられる。
図4のライン1(T<42.3%)及びライン2(T≧42.3%)は、この表示装置の要求性能を達成するために必要とされる偏光膜の偏光性能の限界値を表している。これは、
図5に示すバックライト側と視認側との偏光膜の組み合わせに基づく、次のようなシミュレーションによって求められたラインである。
【0043】
液晶テレビ用の表示装置のコントラスト比と最大輝度は、光源(バックライト)の光量、バックライト側と視認側に配置される2つの偏光膜の透過率、液晶表示パネルの透過率、バックライト側と視認側の2つの偏光膜の偏光度、液晶表示パネルの偏光解消率に基づいて算出できる。一般的な液晶テレビの光源の光量(10,000cd/m
2)、液晶表示パネルの透過率(13%)、及び偏光解消率(0.085%)の基礎数値を用い、異なる幾つかの偏光性能の偏光膜を組み合わせ、それぞれの組み合わせ毎に液晶テレビ用の表示装置のコントラスト比と最大輝度を算出することによって、要求性能を満足する
図4のライン1及びライン2を導き出すことができる。すなわち、ライン1及びライン2に達しない偏光膜を使用すると、表示装置のコントラスト比が1000:1以下で、最大輝度が500cd/m
2以下になることが示される。算出に用いた式は以下の通りである。
【0044】
式(1)は、表示装置のコントラスト比を求める式であり、式(2)は、表示装置の最大輝度を求める式である。式(3)は偏光膜の二色比を求める式である。
式(1):CRD =Lmax/Lmin
式(2):Lmax=(LB×Tp−(LB/2 ×k1B×DP/100)/2×(k1F-k2F))×Tcell/100
式(3):DR =A
k2/A
k1=log(k2)/log(k1)=log(Ts/100×(1-P/100)/T
PVA)/log(Ts/100×(1+P/100)/ T
PVA)
ここで、
Lmin=(LB×Tc+(LB /2 ×k1B×DP/100)/2×(k1F-k2F))×Tcell/100
Tp=(k1B×k1F+ k2B×k2F)/2×T
PVA
Tc=(k1B×k2F+ k2B×k1F)/2×T
PVA
k1=Ts/100×(1+P/100)/T
PVA
k2=Ts/100×(1- P/100)/T
PVA
CRD :表示装置のコントラスト比
Lmax :表示装置の最大輝度
Lmin :表示装置の最小輝度
DR :偏光膜の二色比
Ts :偏光膜の単体透過率
P :偏光膜の偏光度
k1 :第1主透過率
k2 :第2主透過率
k1F :視認側偏光膜のk1
k2F :視認側偏光膜のk2
k1B :バックライト側偏光膜のk1
k2B :バックライト側偏光膜のk2
A
k1 :偏光膜の透過軸方向の吸光度
A
k2 :偏光膜の吸収軸方向の吸光度
LB :光源の光量 (10000cd/m2)
Tc :偏光膜の直交透過率(視認側偏光板とバックライト側偏光板の組合せ)
Tp :偏光膜の平行透過率(視認側偏光板とバックライト側偏光板の組合せ)
Tcell :セルの透過率(13%)
DP :セルの偏光解消率(0.085%)
T
PVA :ヨウ素が吸着していないPVAフィルムの透過率 (0.92)。
【0045】
図4のライン1(T<42.3%)は、
図5において偏光膜3と表示される直線上に位置する偏光膜の偏光性能によって導き出される。
図5の偏光膜3に属する偏光膜のうち、偏光性能が座標(T、P)=(42.1%、99.95%)で表される点D(白丸)の偏光膜Dは、これを液晶テレビ用の表示装置のバックライト側と視認側の両側に用いた場合に、要求性能を達成することができる。
【0046】
ところが、同じ偏光膜3に属する偏光膜であっても、単体透過率の低い(より暗い)領域にある、3つの偏光膜A(T=40.6%、P=99.998%)、B(T=41.1%、P=99.994%)、又はC(T=41.6%,P=99.98%)をバックライト側と視認側の両側に用いた場合、いずれも、要求性能を達成することができない。バックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜として偏光膜A、B、又はCを用いた場合、要求性能を達成するためには、例えば、他方の片側偏光膜として、偏光膜4に属する偏光膜E、偏光膜5に属する偏光膜F、又は偏光膜7に属するGのような偏光膜3に比べ、単体透過率が高く、少なくとも偏光度が99.9%以上の偏光性能の優れた偏光膜を用いることが必要になる。
【0047】
図5に示す偏光膜1〜7の偏光性能は、式(3)に基づき算出される。式(3)を用いることで偏光膜の偏光性能の指標となる二色比(DR)から単体透過率Tと偏光度Pとを算出することができる。二色比とは偏光膜の吸収軸方向の吸光度を透過軸方向の吸光度で除した値である。この数値が高いほど偏光性能が優れていることを表している。例えば、偏光膜3は、二色比が約94となる偏光性能を持つ偏光膜として算出される。この値を下回る偏光膜は要求性能に達しないということになる。
【0048】
また、バックライト側と視認側のいずれか一方の側の偏光膜として偏光膜3に比べ偏光性能の劣る、例えば、偏光膜1に属する偏光膜H(41.0%、99.95%)又は偏光膜2に属する偏光膜J(42.0%、99.9%)を用いた場合、式(1)(2)から明らかになるように、要求性能を達成するためには、例えば、他方の側の偏光膜として偏光膜6に属する偏光膜I(43.2%、99.95%)又は偏光膜7に属する偏光膜K(42.0%、99.998%)のような、偏光膜3に比べ、偏光性能がより優れた偏光膜を用いなければならない。
【0049】
液晶テレビ用の表示装置の要求性能を達成するためには、バックライト側と視認側のいずれか一方の側の偏光膜の偏光性能が、少なくとも偏光膜3よりも優れていなければならない。
図4のライン1(T<42.3%)は、その下限値を示す。他方、
図4のライン2(T≧42.3%)は、偏光度Pの下限値を示す。バックライト側と視認側のいずれか一方の側の偏光膜として偏光度Pが99.9%以下の偏光膜を用いた場合には、他方の側の偏光膜として偏光性能がいかに優れた偏光膜を用いても、要求性能を達成することができない。
【0050】
結論としては、大型表示素子を用いた液晶テレビ用の表示装置として求められる偏光性能を達成しようとする場合、バックライト側と視認側のいずれか一方の側の偏光膜の偏光性能が少なくともライン1(T<42.3%)及びライン2(T≧42.3%)で表される限界を越える領域にある偏光膜、より具体的には、偏光膜3より優れた偏光性能を有し、偏光度が99.9%以上の偏光膜であることが望まれる条件となる。
【0051】
[偏光膜の製造に関する実施例]
本発明の光学的表示装置に使用される偏光膜の実施例として、実施例1〜18を示す。これらの実施例において製造される偏光膜の製造条件を、
図27及び
図28に示す。さらに、対比される例として、参考例及び比較例も作成した。
図29は、第1段の空中高温延伸後における実施例1〜18及び参考例1〜3による延伸積層体のそれぞれについて、PET樹脂基材の配向関数値を示す表である。
【0052】
[実施例1]
非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、イソフタル酸を6mol%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、「非晶性PET」という)の連続ウェブの基材を作製した。非晶性PETのガラス転移温度は75℃である。連続ウェブの非晶性PET基材とポリビニルアルコール(以下、「PVA」という)層からなる積層体を以下のように作製した。ちなみにPVAのガラス転移温度は80℃である。
【0053】
厚み200μmの非晶性PET基材と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4〜5%濃度のPVA水溶液とを準備した。次に、上記した厚み200μmの非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50〜60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材上に厚み7μmのPVA層を製膜した。以下、これを「非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体」又は「7μm厚のPVA層を含む積層体」又は単に「積層体」という。
【0054】
7μm厚のPVA層を含む積層体を、空中補助延伸及びホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、3μm厚の偏光膜を製造した。第1段の空中補助延伸工程によって、7μm厚のPVA層を含む積層体を非晶性PET基材と一体に延伸し、5μm厚のPVA層を含む延伸積層体を生成した。以下、これを「延伸積層体」という。具体的には、延伸積層体は、7μm厚のPVA層を含む積層体を130℃の延伸温度環境に設定されたオーブンに配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸したものである。この延伸処理によって、延伸積層体内のPVA層は、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層へと変化した。
【0055】
次に、染色工程によって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。以下、これを「着色積層体」という。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。本工程において、染色液は、水を溶媒として、ヨウ素濃度を0.12〜0.30重量%の範囲内とし、ヨウ化カリウム濃度を0.7〜2.1重量%の範囲内とした。ヨウ素とヨウ化カリウムの濃度の比は1対7である。
【0056】
ちなみに、ヨウ素を水に溶解するにはヨウ化カリウムを必要とする。より詳細には、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液に延伸積層体を60秒間浸漬することによって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。実施例1においては、ヨウ素濃度0.30重量%でヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液への延伸積層体の浸漬時間を変えることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体を生成した。
【0057】
さらに、第2段のホウ酸水中延伸工程によって、着色積層体を非晶性PET基材と一体にさらに延伸し、3μm厚の偏光膜を構成するPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。以下、これを「光学フィルム積層体」という。具体的には、光学フィルム積層体は、着色積層体をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温範囲60〜85℃のホウ酸水溶液に設定された処理装置に配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸したものである。より詳細には、ホウ酸水溶液の液温は65℃である。それはまた、ホウ酸含有量を水100重量%に対して4重量%とし、ヨウ化カリウム含有量を水100重量%に対して5重量%とした。
【0058】
本工程においては、ヨウ素吸着量を調整した着色積層体をまず5〜10秒間ホウ酸水溶液に浸漬した。しかる後に、その着色積層体をそのまま処理装置に配備された延伸装置である周速の異なる複数の組のロール間に通し、30〜90秒かけて延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した。この延伸処理によって、着色積層体に含まれるPVA層は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層へと変化した。このPVA層が光学フィルム積層体の偏光膜を構成する。
【0059】
以上のように実施例1は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成することができた。
【0060】
光学フィルム積層体の製造に必須の工程ではないが、洗浄工程によって、光学フィルム積層体をホウ酸水溶液から取り出し、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に付着したホウ酸をヨウ化カリウム水溶液で洗浄した。しかる後に、洗浄された光学フィルム積層体を60℃の温風による乾燥工程によって乾燥した。なお洗浄工程は、ホウ酸析出などの外観不良を解消するための工程である。
【0061】
次に、貼合せ及び/又は転写工程によって、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に接着剤を塗布しながら、80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムを貼合せた後、非晶性PET基材を剥離し、3μm厚のPVA層を80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムに転写した。
【0062】
[実施例2]
実施例2は、実施例1の場合と同様に、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって倍率が1.8倍になるように延伸した延伸積層体を生成し、しかる後に、延伸積層体を、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。実施例2は、実施例1とは異なる以下の架橋工程を含む。それは、着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士に架橋処理を施す工程である。本工程のホウ酸架橋水溶液は、ホウ酸含有量を水100重量%に対して3重量%とし、ヨウ化カリウム含有量を水100重量%に対して3重量%とした。
【0063】
実施例2の架橋工程は、少なくとも3つの技術的作用を求めたものである。第1は、後工程のホウ酸水中延伸において着色積層体に含まれる薄膜化されたPVA層を溶解させないようにした不溶化作用である。第2は、PVA層に着色されたヨウ素を溶出させないようにした着色安定化作用である。第3は、PVA層の分子同士を架橋することによって結節点を生成するようにした結節点生成作用である。
【0064】
実施例2は、次に、架橋された着色積層体を、実施例1の延伸温度65℃より高い75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬することによって、実施例1の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例2の洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例1の場合と同様である。
【0065】
なお、ホウ酸水中延伸工程に先立つ架橋工程に求められる技術的作用をより明確にするために、実施例1の架橋されていない着色積層体を延伸温度70〜75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬した場合、着色積層体に含まれるPVA層は、ホウ酸水中延伸浴において溶解し、延伸することができなかった。
【0066】
[実施例3]
実施例3は、実施例1の場合と同様に、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって倍率が1.8倍になるように延伸した延伸積層体を生成した。実施例3は、実施例1とは異なる以下の不溶化工程を含む。それは、延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化する工程である。本工程のホウ酸不溶化水溶液は、ホウ酸含有量を水100重量%に対して3重量%とした。実施例3の不溶化工程に求められる技術的作用は、少なくとも後工程の染色工程において、延伸積層体に含まれるPVA層を溶解させないようにした不溶化である。
【0067】
実施例3は、次に、不溶化された延伸積層体を、実施例1の場合と同様に、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。しかる後に、生成された着色積層体を実施例1の延伸温度である65℃より高い延伸温度である75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬することによって、実施例1の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例3の洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例1の場合と同様である。
【0068】
なお、染色工程に先立つ不溶化工程に求められる技術的作用をより明確にするために、まず、実施例1の不溶化されていない延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、生成された着色積層体を延伸温度70〜75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬した場合、着色積層体に含まれるPVA層は、実施例2に示したように、ホウ酸水中延伸浴において溶解し、延伸することができなかった。
【0069】
次に、水を溶媒として、ヨウ素濃度を0.12〜0.30重量%の範囲内とした染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%とし、他の条件をそのままの染色液に、実施例1の不溶化されていない延伸積層体を浸漬した場合、延伸積層体に含まれるPVA層は、染色浴において溶解し、染色不能であった。ところが、実施例3の不溶化された延伸積層体を用いた場合には、染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%であっても、PVA層は溶解することなく、PVA層への染色は可能であった。
【0070】
染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25%であってもPVA層への染色が可能な実施例3においては、延伸積層体の染色液への浸漬時間を一定にし、染色液のヨウ素濃度及びヨウ化カリウム濃度を実施例1に示した一定範囲内で変化させることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0071】
[実施例4]
実施例4は、実施例1の製造工程に実施例3の不溶化工程と実施例2の架橋工程を加えた製造工程によって生成した光学フィルム積層体である。まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。実施例4は、実施例3の場合と同様に、生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬する不溶化工程によって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化した。実施例4はさらに、不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を、実施例3の場合と同様に、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによってヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。
【0072】
実施例4は、実施例2の場合と同様に、生成された着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬する架橋工程によって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。実施例4はさらに、架橋された着色積層体を、実施例1の延伸温度65℃より高い75℃のホウ酸水中延伸浴に5〜10秒間浸漬し、実施例2の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例4の洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例1から3の場合と同様である。
【0073】
また実施例4は、実施例3の場合と同様に、染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%であっても、PVA層は溶解することはない。実施例4においては、延伸積層体の染色液への浸漬時間を一定にし、染色液のヨウ素濃度及びヨウ化カリウム濃度を実施例1に示した一定範囲内で変化させることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0074】
以上のように実施例4は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬することによって延伸積層体に含まれるPVA層を不溶化した。不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって不溶化されたPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。架橋されたPVA層を含む着色積層体をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温75℃のホウ酸水中延伸溶に5〜10秒間浸漬し、しかる後に、ホウ酸水中延伸によって倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した光学フィルム積層体を生成した。
【0075】
実施例4は、このように空中高温延伸及びホウ酸水中延伸からなる2段延伸と染色浴への浸漬に先立つ不溶化及びホウ酸水中延伸に先立つ架橋からなる前処理とによって、非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によってPVA分子に確実に吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を安定的に生成することができた。
【0076】
[実施例5]
実施例5は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は非晶性PET基材に製膜されたPVA層の厚みにある。実施例4は、7μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が3μm厚であった。これに対して、実施例5は、12μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が5μm厚であった。
【0077】
[実施例6]
実施例6は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は非晶性PET基材に用いた重合モノマーにある。実施例4は、イソフタル酸をPETに共重合させた非晶性PET基材を用いた。これに対して、実施例6は、PETに対して変性基として1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合させた非晶性PET基材を用いた。
【0078】
[実施例7]
実施例7は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、総延伸倍率が6倍又は6倍に近い値になるように空中補助延伸及びホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例4は、空中補助延伸及びホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率が1.8倍及び3.3倍とした。これに対して、実施例7は、それぞれの延伸倍率が1.2倍及び4.9倍とした。ところで実施例4の総延伸倍率が5.94倍であった。これに対して実施例7の総延伸倍率が5.88倍であった。これは、ホウ酸水中延伸において、延伸倍率が4.9倍以上に延伸することができなかったことによる。
【0079】
[実施例8]
実施例8は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、総延伸倍率が6倍になるように空中補助延伸及びホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例8は、それぞれの延伸倍率が1.5倍及び4.0倍とした。
【0080】
[実施例9]
実施例9は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、総延伸倍率が6倍になるように空中補助延伸及びホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例9は、それぞれの延伸倍率が2.5倍及び2.4倍とした。
【0081】
[実施例10]
実施例10は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例10の場合、空中補助延伸の延伸温度を95℃としたことにある。
【0082】
[実施例11]
実施例11は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例11の場合、空中補助延伸の延伸温度を110℃としたことにある。
【0083】
[実施例12]
実施例12は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例12の場合、空中補助延伸の延伸温度を150℃としたことにある。
【0084】
[実施例13]
実施例13は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を2.8倍に変化させたことにある。実施例13の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例4の場合の約6倍(正確には5.94倍)のに対して、約5倍(正確には5.04倍)となった。
【0085】
[実施例14]
実施例14は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.1倍に変化させたことにある。実施例14の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例4の場合の約6倍(正確には5.94倍)のに対して、約5.5倍(正確には5.58倍)となった。
【0086】
[実施例15]
実施例15は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.6倍に変化させたことにある。実施例15の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例4の場合の約6倍(正確には5.94倍)のに対して、約6.5倍(正確には6.48倍)となった。
【0087】
[実施例16]
実施例16は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸方法にある。実施例4は、空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した。これに対して、実施例16は、空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように固定端一軸に延伸した。
【0088】
[実施例17]
実施例17は、以下の相違点を除き、実施例16と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.9倍に変化させたことにある。実施例17の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例16の場合の約6倍(正確には5.94倍)に対して、約7倍(正確には7.02倍)となった。
【0089】
[実施例18]
実施例18は、以下の相違点を除き、実施例16と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を4.4倍に変化させたことにある。実施例18の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例16の場合の約6倍(正確には5.94倍)に対して、約8倍(正確には7.92倍)となった。
【0090】
[比較例1]
比較例1は、実施例4と同様の条件で、200μm厚の非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、乾燥させて非晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、延伸温度を130℃に設定した空中高温延伸によって、7μm厚のPVA層を含む積層体を延伸倍率が4.0倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された3.5μm厚のPVA層へと変化した。
【0091】
次に、延伸積層体は染色処理され、PVA分子が配向された3.5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体が生成された。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。このように、PVA分子が配向されたPVA層へのヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0092】
さらに、着色積層体は架橋処理される。具体的には、液温が40℃で、ホウ酸3%、ヨウ化カリウム3%からなるホウ酸架橋水溶液に60秒間、浸漬することによって着色積層体に架橋処理を施した。比較例1は、架橋処理が施された着色積層体が実施例4の光学フィルム積層体に相当する。したがって、洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例4の場合と同様である。
【0093】
[比較例2]
比較例2は、比較例1の延伸積層体を比較例1と同様の条件で、延伸倍率が4.5倍、5.0倍、6.0倍になるように延伸した延伸積層体を生成した。比較表は、比較例1と比較例2とを含めた、200μm厚の非晶性PET基材と該非晶性PET基材に製膜されたPVA層とに発生した現象を示したものである。これにより、延伸温度130℃の空中高温延伸による延伸倍率が4.0倍を限度とすることを確認した。
【0094】
[延伸に関連する技術的背景]
図18〜
図22は、いずれも実験に基づいて表したものである。まず、
図18を参照すると、
図18は、結晶性PETと非晶性PETとPVA系樹脂のそれぞれの延伸温度と延伸可能倍率との相対関係を実験に基づいて表した図である。
【0095】
図18の太線は、延伸温度の変化にともなう非晶性PETの延伸可能倍率の変化を表す。非晶性PETは、Tgが約75℃であり、これ以下の温度で延伸することはできない。図から分かるように、空中高温の自由端一軸延伸によると約110℃を越える点で7.0倍以上にまで延伸できる。一方、
図18の細線は、延伸温度の変化にともなう結晶性PETの延伸可能倍率の変化を表す。結晶性PETは、Tgが約80℃であり、これ以下の温度では延伸することができない。
【0096】
次に、
図19を参照すると、図は、ポリエチレンテレフタレート(PET)のTgと融点Tmとの間での温度変化にともなう結晶性PETと非晶性PETのそれぞれの結晶化速度の変化を表す。
図19において、80℃から110℃前後のアモルファス状態にある結晶性PETは120℃前後で急速に結晶化することが理解される。
【0097】
また、
図18から明らかなように、結晶性PETにおいては、空中高温の自由端一軸延伸による延伸可能倍率は、4.5〜5.5倍が上限となる。しかも、適用され得る延伸温度は、極めて限定的で、約90℃から約110℃までの温度範囲である。
【0098】
図29に結晶性PETを用いて空中高温の自由端一軸延伸を行った例を参考例1〜3として示す。これらは、いずれも、厚み200μmの結晶性PET基材に厚み7μmのPVA層を製膜した積層体を、空中高温延伸することによって生成された、厚み3.3μmの偏光膜である。それぞれの延伸温度には違いがあり、延伸温度は、参考例1が110℃、参考例2が100℃、参考例3が90℃である。ここで注目すべきは、延伸可能倍率である。参考例1の延伸倍率の限界は4.0倍であり、参考例2及び3は4.5倍である。最終的には積層体自体が破断したことによって、これらを越える延伸処理が不可能であった。しかしながら、この結果には、結晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層自体の延伸可能倍率が影響を及ぼしている可能性を否定することができない。
【0099】
そこで
図18を参照すると、この図における破線は、PVA系樹脂に属するPVAの延伸可能倍率を表す。PVA系樹脂のTgは75〜80℃であり、これ以下でPVA系樹脂からなる単層体を延伸することはできない。
図18から明らかなように、空中高温の自由端一軸延伸によると、PVA系樹脂からなる単層体の延伸可能倍率は5.0倍を限度とする。このことにより、本発明者らは、以下のことを明らかにすることができた。それは、結晶性PET及びPVA系樹脂のそれぞれの延伸温度及び延伸可能倍率の関係から、結晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体の空中高温の自由端一軸延伸による延伸可能倍率は、90〜110℃の延伸温度範囲において4.0〜5.0倍が限度であるということである。
【0100】
次に、非晶性PET基材上にPVA系樹脂層を塗布形成した積層体を、空中高温のもとで、自由端一軸延伸した事例を、以下の表1に比較例1及び2として示す。非晶性PET基材に延伸温度による限界はない。比較例1は、200μm厚の非晶性PET基材に製膜された7μm厚のPVA系樹脂層を含む積層体を、延伸温度を130℃に設定した空中高温の自由端一軸延伸によって生成された偏光膜である。このときの延伸倍率は4.0倍であった。
【0101】
表1を参照すると、比較例2は、比較例1と同様に、200μm厚の非晶性PET基材に製膜された7μm厚のPVA系樹脂層を、延伸倍率が4.5倍、5.0倍、6.0倍になるようにそれぞれを延伸することによって生成された偏光膜である。いずれの比較例においても、表1に示した通り、非晶性PET基材にフィルムの面内で延伸の不均一が生じるか、破断が生じ、一方で、延伸倍率4.5倍でPVA系樹脂層に破断が生じている。これにより、延伸温度130℃の空中高温延伸によるPVA系樹脂層の延伸倍率の限界が4.0倍であることを確認した。
【表1】
【0102】
参考例1〜3はいずれも、延伸温度に違いはあるが、結晶性PET基材にPVA系樹脂層を製膜した積層体に対し、4.0〜4.5倍の延伸処理を施すことによってPVA分子を配向させ、薄膜化したPVA系樹脂層に、ヨウ素を吸着させて着色積層体を生成したものである。具体的には、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA系樹脂層の単体透過率が40〜44%になるように、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層にヨウ素を吸着させた。また薄膜化されたPVA系樹脂層へのヨウ素吸着量を調整することによって単体透過率Tと偏光度Pとを異にする種々の偏光膜を生成した。
【0103】
図26を参照すると、
図26におけるライン1及びライン2は、本発明の光学的表示装置に使用される偏光膜に要求される光学特性を規定する線であり、偏光度Pと透過率Tの関係が、これらライン1、2より上にある偏光膜は、要求される光学特性を満足する。
図26では、これらライン1、2と対比して、参考例1〜3の偏光膜の光学特性を表している。図から分かるように、参考例1〜3の偏光膜は、いずれも、要求される光学特性を満足しない。その原因は、結晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層は、空中高温延伸によって、ある程度PVA分子が配向されるが、その一方で、空中高温延伸は、PVA分子の結晶化を促進し、非晶部分の配向を阻害しているものと推定される。
【0104】
そこで、本発明者らは、本発明に先立って、PCT/JP2010/001460に係る国際出願に開示される偏光膜及びその製造方法を開発した。これは、Tg以下の延伸温度であってもPET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を延伸することができる、という水の可塑剤機能に着目した知見に基づいたものである。この方法により製造される偏光膜の一例を、ここでは比較例3とする。この方法によれば、PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体は、延伸倍率5.0倍まで延伸できる。
【0105】
本発明者らは、その後さらに研究を進め、延伸倍率の限界が5.0倍となる原因は、PET基材が結晶性PETによるものであることを確認した。PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体はTg以下のホウ酸水溶液で延伸されるため、PET基材が結晶性であるか非晶性であるかは延伸作用に大きく影響しないとの認識であったが、非晶性PETを用いた場合には、積層体を延伸倍率5.5倍まで延伸できることを見出した。この場合、非晶性PETを基材として使用し、比較例3に示す偏光膜の製造方法と同様の方法を適用する場合において、延伸倍率の限界が5.5倍であることの原因は、非結晶性のPET基材による延伸倍率の制限が影響しているものと推定される。
【0106】
比較例1については、単体透過率Tと偏光度Pを異にする種々の偏光膜を生成した。
図26に、参考例1〜3とともに、それらの光学特性を示す。
【0107】
図20は、本発明者らが、こうした研究結果を基に着想を得た、本発明の2段延伸における、空中高温延伸の延伸倍率と総合延伸倍率(以下、「総延伸倍率」という。)との関係を表したものである。横軸は、自由端一軸延伸による延伸温度130℃の空中延伸における延伸倍率である。縦軸の総延伸倍率は、以下に述べる自由端一軸空中高温延伸を含む2段階の延伸処理によって、空中高温延伸前の長さである元長を1として、最終的に元長が何倍延伸されたかを表す総延伸倍率である。例えば、延伸温度130℃の空中高温延伸による延伸倍率が2倍であって、次の延伸倍率が3倍であれば、総延伸倍率は6倍(2×3=6)になる。空中高温延伸に続く第2段の延伸工程は、延伸温度65℃のホウ酸水溶液中における自由端一軸延伸(以下、ホウ酸水溶液に浸漬させながら延伸する処理を「ホウ酸水中延伸」という。)である。この二つの延伸方法を組み合わせることによって、
図20に示す結果を得ることができた。
【0108】
図20の実線は、非晶性PETの延伸可能倍率を表している。非晶性PETの総延伸倍率は、空中高温延伸せずに、直接ホウ酸水中延伸をした場合、すなわち空中高温延伸の倍率が1倍のときには、5.5倍が限度である。これ以上の延伸を行うと、非晶性PETは破断する。しかしながら、この値は、非晶性PETの最小延伸倍率に相当する。非晶性PETの総延伸倍率は、空中高温延伸時の延伸倍率が大きくなるほど大きくなり、延伸可能倍率は、10倍を越える。
【0109】
これに対して、
図20の破線は、非晶性PETに製膜されたPVA系樹脂層の延伸可能倍率を表している。空中高温延伸せずに、直接ホウ酸水中延伸した場合には、PVA系樹脂層の総延伸倍率は最大倍率を示す7倍である。しかしながら、空中高温延伸時の延伸倍率が大きくなるほどPVA系樹脂層の総延伸倍率は小さくなり、空中高温延伸時の延伸倍率が3倍の点では、PVA系樹脂層の総合延伸倍率が6倍を下回る。PVA系樹脂層の総合延伸倍率を6倍にしようとすると、PVA系樹脂層が破断する。
図20から明らかなように、非晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を延伸できなくなる原因は、空中高温の延伸倍率の大きさに応じて、非晶性PET基材に起因するものからPVA系樹脂層に起因するものに移る。因みに、PVAの空中延伸倍率は4倍までであり、それ以上は延伸不能である。この倍率が、PVAの総延伸倍率に相当するものと推定される。
【0110】
ここで、
図21を参照する。
図21は、結晶性PETと非晶性PET、及びPVA系樹脂について、空中高温延伸とホウ酸水中延伸の2段延伸を行った場合における総延伸可能倍率を、空中高温延伸の延伸温度との関係で示すもので、実験に基づくデータに従って描かれたものである。
図18は、結晶性PETと非晶性PET、及びPVA系樹脂について、空中高温延伸の延伸温度を横軸にとり、空中高温延伸の延伸可能倍率を縦軸とってに表すものである。
図21の
図18との違いは、横軸が2倍の空中高温延伸のときの延伸温度を横軸にとり、空中高温延伸とホウ酸水中延伸との総延伸可能倍率を縦軸とって表したことにある。
【0111】
本発明において使用される偏光膜の製造方法は、後述されるように、空中高温延伸とホウ酸水中延伸との2段階の延伸工程の組み合わせからなる。2段階延伸工程の組み合わせは、単純に想到できるものではない。本発明者らが長期間にわたって鋭意研究を重ねた結果、この組み合わせによって初めて、以下に述べる2つの技術的課題を同時に解決することができる、という驚くべき結果に到達するに至ったのである。熱可塑性樹脂基材にPVA系樹脂層を形成して延伸及び染色を行うことにより偏光膜を製造しようとする試みにおいては、これまで解決不能と考えられてきた2つの技術的課題が存在する。
【0112】
第1の技術的課題は、PVA系樹脂の配向性の向上に影響をもつ延伸倍率及び延伸温度が、その上にPVA系樹脂を形成する熱可塑性樹脂基材によって大きく制約を受けることである。
【0113】
第2の技術的課題は、延伸倍率及び延伸温度の制約という問題を克服できても、PVA系樹脂及び熱可塑性樹脂基材として使用されるPETなどでは、結晶性樹脂の結晶化と延伸可能性とが対立する物性であるため、PVA系樹脂の延伸がPVA系樹脂の結晶化によって制限されることである。
【0114】
第1の課題は以下の通りである。熱可塑性樹脂基材を用いて偏光膜を製造する場合における制約は、
図18に示すように、延伸温度がPVA系樹脂のTg(約75〜80℃)以上であり、延伸倍率が4.5〜5.0倍であるというPVA系樹脂の特性に起因する。熱可塑性樹脂基材として結晶性PETを用いると、延伸温度が90〜110℃にさらに限定される。積層体の空中高温延伸によって、その積層体に含まれる熱可塑性樹脂基材に形成されたPVA系樹脂層を薄膜化した偏光膜は、こうした制限を逃れ難いものと考えられてきた。
【0115】
そのため、本発明者らは、水の可塑剤機能に着目して、空中高温延伸に代わることができるホウ酸水中延伸方法を提示した。しかしながら、延伸温度が60〜85℃のホウ酸水中延伸によっても、結晶性PETを用いると、延伸倍率の限界が5.0倍となり、非晶性PETを用いた場合でも、延伸倍率の限界が5.5倍という、熱可塑性樹脂基材に起因する制約を逃れることができなかった。このことにより、PVA分子の配向性向上が制限され、薄膜化された偏光膜の光学特性も限定される結果となった。これが第1の技術的課題である。
【0116】
第1の技術的課題の解決手段は、
図22によって説明することができる。
図22は、2つの関連図からなる。一つは、熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向性を表す図であり、他の一つはPETの結晶化度を表す図である。いずれも横軸は、空中高温延伸とホウ酸水中延伸との総延伸倍率を表す。
図22の破線は、ホウ酸水中延伸単独による総延伸倍率を表す。PETの結晶化度は、結晶性であるか非晶性であるかに関わりなく、延伸倍率が4〜5倍のところで急上昇する。そのため、ホウ酸水中延伸を適用した場合であっても、延伸倍率は、5倍又は5.5倍が限度であった。ここで配向性が上限となり、延伸張力が急上昇する。その結果、延伸不能となる。
【0117】
これに対して、
図22の実線は、延伸温度110℃で延伸倍率が2倍になるように空中高温の自由端一軸延伸を行い、次に延伸温度65℃のホウ酸水中延伸を行った結果を示す。結晶性であるか非晶性であるかに関わりなく、PETの結晶化度は、ホウ酸水中延伸単独の場合と異なり急上昇することはなかった。その結果、総延伸可能倍率は、7倍まで高めることができた。ここで配向性が上限となり延伸張力が急上昇する。これは、
図21から明らかなように、第1段の延伸方法として空中高温の自由端一軸延伸を採用した結果である。これに対して、後述されるように、延伸に際して延伸方向に直角な方向の収縮を拘束する、いわゆる固定端一軸延伸法による空中高温延伸を行うと、総延伸可能倍率を8.5倍にすることができる。
【0118】
図22において、熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向性と結晶化度との関係は、空中高温延伸による補助延伸によって、結晶性であるか非晶性であるかに関わりなくPETの結晶化を抑制できることを確認した。しかしながら、補助延伸温度とPETの配向性との関係を示す
図23を参照すると、熱可塑性樹脂基材として結晶性PETを用いた場合、補助延伸後の結晶性PETの配向性は、90℃では0.30以上、100℃では0.20以上、110℃でも0.10以上である。PETの配向性が0.10以上になると、ホウ酸水溶液中における第2段目の延伸において、延伸張力が上昇し、延伸装置にかかる負荷が大きく、製造条件としては好ましくない。
図23は、熱可塑性樹脂基材としては非晶性PETを用いるのが好ましいことを示しており、さらに、より好ましくは、配向関数が0.10以下の非晶性PETであり、さらに好ましくは0.05以下の非晶性PETであることを示唆するものである。
【0119】
図23は、1.8倍の空中高温延伸における空中延伸温度と熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向関数との関係を表した実験データである。
図23から明らかなように、ホウ酸水溶液中において延伸積層体を高倍率に延伸することが可能になる、配向関数が0.10以下のPETは、非晶性PETになる。特に、配向関数が0.05以下になると、ホウ酸水溶液中における第2段目の延伸の際に、延伸装置に延伸張力が上昇するなどの大きな負荷をかけることなく、安定して高倍率に延伸することができる。この点は、
図29に実施例1〜18及び参考例1〜3として示す例における配向関数値からも容易に理解できることである。
【0120】
第1の技術的課題を解決することによって、PET基材に起因する延伸倍率についての制約を取り払い、総延伸を高倍率化することによってPVA系樹脂の配向性を高めることができる。そのことにより、偏光膜の光学特性は、格段と改善される。ところが、本発明者らが達成した光学特性の改善は、これに止まるものではない。これは、第2の技術的課題を解決することによって達成される。
【0121】
第2の技術的課題は以下の通りである。PVA系樹脂や熱可塑性樹脂基材としてのPETなどの結晶性樹脂の特徴の一つは、一般的に加熱や延伸配向によって高分子が配列して結晶化が進む性質を有することである。PVA系樹脂の延伸は、結晶性樹脂であるPVA系樹脂の結晶化によって制限される。結晶化と延伸可能性とは対立する物性であり、PVA系樹脂の結晶化の進展はPVA系樹脂の配向性を阻害する、というのが一般的な認識であった。これが第2の技術的課題である。この技術的課題を解決する手段は、
図24によって説明することができる。
図24は、2つの実験結果に基づき算出されたPVA系樹脂の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数との関係を実線と破線とで表したものである。
【0122】
図24の実線は、以下の試料のPVA系樹脂の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数との関係を表したものである。試料は、まず、非晶性PET基材上に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を6個、同一の条件で生成した。準備した6個のPVA系樹脂層を含む積層体を、それぞれ異なる延伸温度80℃,95℃,110℃、130℃,150℃、及び170℃で、同一の延伸倍率1.8倍となるように、空中高温延伸によって延伸し、PVA系樹脂層を含む延伸積層体を生成した。生成されたそれぞれの延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数を測定及び解析した。測定方法及び解析方法の詳細は、後述する。
【0123】
図24の破線は、実線の場合と同様に、以下の試料におけるPVA系樹脂の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数との関係を表したものである。まず、非晶性PET基材上に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を6個、同一の条件で生成することにより、試料を準備した。準備した6つのPVA系樹脂層を含む積層体を、それぞれ異なる延伸倍率1.2倍、1.5倍、1.8倍、2.2倍、2.5倍、及び3.0倍となるように、同一の延伸温度130℃で、空中高温延伸によって延伸し、PVA系樹脂層を含む延伸積層体を生成した。生成されたそれぞれの延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数を後述の方法により測定及び解析した。
【0124】
図24の実線によって、空中高温延伸の延伸温度を高く設定する方が、延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の配向性が向上することが分かる。また、
図24の破線によって、空中高温延伸の延伸倍率を高倍率に設定する方が、延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の配向性が向上することが分かる。第2段のホウ酸水中延伸前に、PVA系樹脂の配向性を向上させておくこと、すなわちPVA系樹脂の結晶化度を高めておくことにより、結果としてホウ酸水中延伸後のPVA系樹脂の配向性も高くなる。さらにPVA系樹脂の配向性が高くなることで、結果としてポリヨウ素イオンの配向性も高くなることを、後述される実施例のT−Pグラフからも確認することができる。
【0125】
第1段の空中高温延伸の延伸温度を高く設定しておくか又は延伸倍率をより高倍率に設定しておくことによって、第2段のホウ酸水中延伸によって生成されたPVA系樹脂層のPVA分子の配向性を、より高めることができる、という予期しない優れた結果を得た。
【0126】
図24に示すPVA系樹脂の結晶化度(横軸)を参照する。PVA系樹脂層を含む延伸積層体の染色のための水溶液に浸漬する着色工程において、PVA系樹脂層の溶解などの不具合を生じさせることなく着色積層体を生成するためには、少なくともPVA系樹脂層の結晶化度が27%以上であることが好ましい。そのことによりPVA系樹脂層を溶解させることなく、PVA系樹脂層を染色することができる。またPVA系樹脂層の結晶化度を30%以上に設定することにより、ホウ酸水溶液中における延伸温度をより高温にすることができる。そのことにより着色積層体の安定した延伸を可能とし、偏光膜を安定的に作製することができる。
【0127】
一方、PVA系樹脂層の結晶化度が37%以上になると、染色性が低く染色濃度を濃くしなければならず、使用材料も増加し、染色時間がかかり、生産性が低下するおそれがでてくる。またPVA系樹脂層の結晶化度が40%以上になると、ホウ酸水溶液中での延伸処理においてPVA系樹脂層が破断するなどの不具合が生じるおそれもでてくる。したがって、PVA系樹脂の結晶化度は、27%以上で40%以下となるように設定されることが好ましい。より好ましくは、30%以上で37%以下に設定することである。
【0128】
次に、
図24のPVA系樹脂層の配向関数(縦軸)を参照する。非晶性PETの樹脂基材を用いて高機能の偏光膜を作製するためには、少なくともPVA系樹脂層の配向関数が0.05以上であることが好ましい。また、PVA系樹脂層の配向性が0.15以上になると、PVA系樹脂層を含む着色積層体に対するホウ酸水溶液中における延伸倍率を下げることができる。そのことにより広幅の偏光膜の作製が可能になる。
【0129】
一方、PVA系樹脂層の配向関数が0.30以上になると、染色性が低く染色濃度を濃くしなければならず、使用材料も増加し、染色時間がかかり、生産性が低下するおそれがでてくる。またPVA系樹脂層の配向関数が0.35以上になると、ホウ酸水溶液中における延伸処理においてPVA系樹脂層が破断するなどの不具合が生じるおそれがでてくる。したがって、PVA系樹脂層の配向関数は、0.05以上で0.35以下となるように設定されることが好ましい。より好ましくは、0.15以上で0.30以下に設定することである。
【0130】
第1の技術的課題の解決手段は、非晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を、予め第1段の空中高温延伸によって予備的又は補助的に延伸しておくことによって、第2段のホウ酸水中延伸によって非晶性PET基材の延伸倍率に制限されることなく、PVA系樹脂層を高倍率に延伸することが可能となり、そのことによりPVAの配向性が十分に向上する、というものである。
【0131】
また、第2の技術的課題の解決手段は、予め第1段の空中高温延伸の延伸温度を予備的又は補助的により高い温度に設定しておくか又は延伸倍率を予備的又は補助的により高倍率に設定しておくことであり、これによって、第2段のホウ酸水中延伸によって生成されたPVA系樹脂層のPVA分子の配向性をより高めるという予期せざる結果がもたらされた。いずれの場合においても、第1段の空中高温延伸が第2段のホウ酸水中延伸に対する予備的又は補助的な空中延伸手段として位置付けることができる。以下、「第1段の空中高温延伸」を第2段のホウ酸水中延伸と対比して「空中補助延伸」という。
【0132】
「空中補助延伸」を行うことによる、特に第2の技術的課題の解決メカニズムについて、以下のように推定することができる。空中補助延伸を高温にするか又は高倍率にするほど、
図24で確認したように、空中補助延伸後のPVA系樹脂の配向性が向上する。これは、高温又は高倍率であるほどPVA系樹脂の結晶化が進みながら延伸されるため、部分的に架橋点ができながら延伸されることが要因であると推定される。結果としてPVA系樹脂の配向性が向上していることになる。予めホウ酸水中延伸前に空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水溶液に浸漬した時に、ホウ酸がPVA系樹脂と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となりながら延伸されるものと推定される。結果としてホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなる。
【0133】
以上を総合すると、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸を行うことによって、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pで表される光学特性が、次式
P>―(10
0.929T―42.4―1)×100(ただし、T<42.3)、及び
P≧99.9(ただし、T≧42.3)
の条件を満足するように構成された偏光膜を得ることができる。二色性物質は、ヨウ素又はヨウ素と有機染料の混合物のいずれでもよい。
【0134】
単体透過率をT、偏光度をPとしたときの光学特性値がこの不等式によって表される範囲にある偏光膜は、一義的には、大型表示素子を用いた液晶テレビ用の表示装置として求められる性能を有する。具体的には、コントラスト比が1000:1以上で、最大輝度が500cd/m
2以上の光学的表示装置を製造することができる。ここでは、これを「要求性能」という。この偏光膜は、有機EL表示パネルの視認側に貼り合される光学機能フィルム積層体に用いることもできる。
【0135】
液晶表示パネルに用いられる場合には、バックライト側と視認側のいずれか一方の側に配置される偏光膜の偏光性能が、少なくともこの光学的特性を満足する偏光膜でなければならない。また、バックライト側と視認側のいずれか一方の側の偏光膜として偏光度Pが99.9%以下の偏光膜を用いた場合には、他方の片側偏光膜として、偏光性能がいかに優れた偏光膜を用いても、要求性能を達成することが困難になる。
【0136】
次に、
図1を参照する。
図1は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚み及びPVA系樹脂層の塗工厚(偏光膜厚)が何らかの不具合を生じる原因になるかどうかを検証した結果を示すものである。
図1において、横軸は熱可塑性樹脂基材の厚みをμmで表し、縦軸は該基材上に塗工されたPVA系樹脂層の厚みを表す。縦軸において、括弧内の数字は、基材上のPVA系樹脂層が延伸され、染色されて偏光膜となった時の厚みを表す。
図1に示したように、基材の厚みがPVA系樹脂層の厚みの5倍以下では、搬送性に問題が生じることが懸念され、不具合の原因となる可能性がある。また一方、延伸され、染色されて偏光膜となった時の厚みが10μm以上になると、偏光膜のクラック耐久性に問題が生じることが懸念される。
【0137】
熱可塑性樹脂基材としては、非晶性エステル系のものが好ましく、この種の熱可塑性樹脂基材としては、イソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート又は他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートを挙げることができる。基材は、透明樹脂とすることができる。
【0138】
ポリビニルアルコール系樹脂に染色させる二色性物質は、ヨウ素又はヨウ素と有機染料の混合物であることが好ましい。
【0139】
本発明においては、熱可塑性樹脂基材のPVA系樹脂層が製膜されていない面に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層することができる。この場合には、熱可塑性樹脂基材、例えば非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材を偏光膜の保護フィルムとして機能させることができ、そのためには、樹脂基材は光学的に透明でなければならない。
【0140】
本発明の別の形態として、熱可塑性樹脂基材、例えば非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材のPVA系樹脂層が製膜されていない面に、光学機能フィルムを貼り合せ、該光学機能フィルムの上に粘着剤層を形成し、該粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体を生成することができる。この場合において、光学機能フィルムを、面内x軸方向の屈折率をnx、y軸方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとしてとき、これら屈折率がnx>ny>nzの関係を有する、3次元屈折率異方性をもった2軸性位相差フィルムとすることが好ましい。
【0141】
上述した
図1から分かるように、熱可塑性樹脂基材、例えば非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みは、製膜されるPVA系樹脂層の厚みの6倍以上であることが好ましく、7倍以上であることがより好ましい。PVA系樹脂層に対する非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みが7倍以上であれば、製造工程の搬送時にフィルム強度が弱く破断するような搬送性、液晶ディスプレイのバックライト側と視認側のいずれか一方の片側偏光膜として用いられる際の偏光膜のカール性や転写性などの不具合は生じない。
【0142】
非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、配向関数を0.10以下に設定した、空中高温延伸処理したイソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート又は他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートであることであることが好ましく、また透明樹脂とすることができる。
【0143】
ここでさらに、熱可塑性樹脂基材を用いて、PVA系樹脂からなる偏光膜を製造する本発明の方法を実施する場合において、PVA系樹脂を不溶化する不溶化方法が、重要な技術的課題の一つに位置付けられることについて、以下に述べる。
【0144】
熱可塑性樹脂基材上に製膜されたPVA系樹脂層を延伸する場合において、延伸中間生成物又は延伸された積層体に含まれるPVA系樹脂層を染色液に溶解させることなく、ヨウ素をPVA系樹脂層に吸着させることは決して容易なことではない。偏光膜の製造において、薄膜化されたPVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることは、必須の工程である。通常の染色工程においては、ヨウ素濃度が0.12〜0.25重量%の範囲にあるヨウ素濃度の異なる複数の染色液を用い、浸漬時間を一定にすることよってPVA系樹脂層へのヨウ素吸着量を調整している。こうした通常の染色処理は、偏光膜を製造する場合には、PVA系樹脂層が溶解されるため染色不能になる。ここでは、濃度とは、全溶液量に対する配合割合のことをいう。また、ヨウ素濃度とは、全溶液量に対するヨウ素の配合割合のことをいい、例えば、ヨウ化カリウムなどのヨウ化物として加えられたヨウ素の量は含まない。本明細書の以下においても、濃度及びヨウ素濃度という用語は同様の意味で用いる。
【0145】
この技術的課題は、
図6に示した実験結果から明らかなように、二色性物質であるヨウ素の濃度を、0.3重量%又はそれ以上にすることによって解決できる。具体的には、PVA系樹脂層からなる延伸中間生成物を含む積層体を、ヨウ素濃度の異なる染色液を用いて染色し、その浸漬時間を調整することによって、着色中間生成物を含む着色積層体を生成し、ホウ酸水中延伸によって種々の偏光性能を有するそれぞれの偏光膜を生成することができる。
【0146】
ここで、
図7を参照する。
図7は、ヨウ素濃度を、それぞれ0.2重量%、0.5重量%、1.0重量%に調整した偏光膜の偏光性能に有意差はないことを示すものである。ちなみに、着色中間生成物を含む着色積層体の生成において、安定して、均一性に優れた着色を実現するためには、ヨウ素濃度を濃くして僅かな浸漬時間で染色するよりは、薄くして安定した浸漬時間を確保することができるようにするのが好ましい。
【0147】
図8を参照すると、本発明の方法を実施する場合における2つの異なる不溶化(以下、「第1及び第2の不溶化」という)が、いずれも最終的に製造される偏光膜の光学特性にも影響を与えることが示される。
図8は、薄膜化されたPVA系樹脂層に対する第1及び第2の不溶化の作用の分析結果とみることができる。
図8は、大型表示素子を用いた液晶テレビ用の表示装置として求められる要求性能を満たす4つの実施例1〜4に基づいて製造されたそれぞれの偏光膜の光学特性を示すものである。
【0148】
実施例1は、第1及び第2の不溶化工程を経ることなく製造された偏光膜の光学特性である。これに対して、実施例2は、第1の不溶化工程を行わず、第2の不溶化処理のみを行った偏光膜、実施例3は、第2の不溶化工程を行わず、第1の不溶化処理のみを行った偏光膜、実施例4は、第1及び第2の不溶化処理が行われた偏光膜の、それぞれの光学特性を示すものである。
【0149】
本発明の実施態様において、第1及び第2の不溶化工程を経ることなく要求性能を満たす偏光膜を製造することができる。しかしながら、
図8から明らかなように、実施例1の不溶化処理が施されていない偏光膜の光学特性は、実施例2〜4のいずれの偏光膜の光学特性よりも低い。それぞれの光学特性値を比較すると、実施例1<実施例3<実施例2<実施例4の順に光学特性が高くなる。実施例1及び実施例3においては、いずれも、染色液のヨウ素濃度を0.3重量%に設定し、ヨウ化カリウム濃度を2.1重量%に設定した染色液を用いた。これに対して、実施例2及び実施例4においては、ヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%に設定し、ヨウ化カリウム濃度0.84〜1.75重量%の範囲内で変化させた複数の染色液を用いた。実施例1及び実施例3のグループと実施例2及び実施例4のグループとの顕著な違いは、前者の着色中間生成物には不溶化処理が施されていないが、後者の着色中間生成物には不溶化処理が施されていることである。実施例4においては、染色処理前の延伸中間生成物のみならず、ホウ酸処理前の着色中間生成物に対しても不溶化処理が施されている。第1及び第2の不溶化処理によって、偏光膜の光学特性を一段と向上させることができた。
【0150】
偏光膜の光学特性を向上させるメカニズムは、
図7から分かるように、染色液のヨウ素濃度によるものでない。第1及び第2の不溶化処理による効果である。この知見は、本発明の製造方法における第3の技術的課題とその解決手段として位置付けることができる。
【0151】
本発明の実施態様において、第1の不溶化は、延伸中間生成物(又は延伸積層体)に含まれる薄膜化されたPVA系樹脂層を溶解させないようにする処理である。これに対して、架橋工程に含まれる第2の不溶化は、後工程の液温75℃のホウ酸水中延伸において着色中間生成物(又は着色積層体)に含まれるPVA系樹脂層に着色されたヨウ素を溶出させないようにする着色安定化と、薄膜化されたPVA系樹脂層を溶解させない不溶化とを含む処理である。
【0152】
ところが、第2不溶化工程を省くと、液温75℃のホウ酸水中延伸においては、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出が進み、そのことによりPVA系樹脂層の溶解も進む。ヨウ素の溶出及びPVA系樹脂層の溶解を回避することは、ホウ酸水溶液の液温を下げることによって対応することができる。例えば、液温65℃を下回るホウ酸水溶液に着色中間生成物(又は着色積層体)を浸漬しながら延伸する必要がある。しかしながら、結果として水の可塑剤機能が十分に発揮されないため、着色中間生成物(又は着色積層体)に含まれるPVA系樹脂層の軟化は、十分には得られない。すなわち、延伸性能が低下するため、ホウ酸水中延伸の過程で着色中間生成物(又は着色積層体)が破断することになる。当然のことであるが、PVA系樹脂層の所定の総延伸倍率が得られないことにもなる。
【0153】
以下に、図を参照して本発明に使用される偏光膜の製造方法の例を説明する。
[製造工程の概要]
図9を参照すると、
図9は、不溶化処理工程を有しない、偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程の概要図である。ここでは、上述した実施例1に基づく偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造方法について概説する。
【0154】
非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、イソフタル酸を6mol%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、「非晶性PET」という)の連続ウェブの基材を作製した。ガラス転移温度が75℃の連続ウェブの非晶性PET基材1と、ガラス転移温度が80℃のPVA層2とを含む積層体7を以下のように作製した。
【0155】
[積層体作製工程(A)]
まず、200μm厚の非晶性PET基材1と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4〜5%濃度のPVA水溶液とを準備した。次に、塗工手段21と乾燥手段22及び表面改質処理装置23を備えた積層体作製装置20において、200μm厚の非晶性PET基材1にPVA水溶液を塗布し、50〜60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2を製膜した。後述するように、このPVA層の厚みは、適宜変更することができる。以下、このようにして得られた積層体を「非晶性PET基材にPVA層が製膜された積層体7」、「PVA層を含む積層体7」、又は単に「積層体7」という。
【0156】
PVA層を含む積層体7は、空中補助延伸及びホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、最終的に3μm厚の偏光膜3として製造される。本発明は、厚みが10μm以下の偏光膜を使用するものであるが、PET基材1上に製膜されるPVA系樹脂層の厚みを適宜変更することによって、厚み10μm以下の任意の厚みの偏光膜を作成することができる。
【0157】
[空中補助延伸工程(B)]
第1段の空中補助延伸工程(B)によって、7μm厚のPVA層2を含む積層体7を非晶性PET基材1と一体に延伸し、5μm厚のPVA層2を含む「延伸積層体8」を生成した。具体的には、オーブン33内に延伸手段31が配備された空中補助延伸処理装置30において、7μm厚のPVA層2を含む積層体7を130℃の延伸温度環境に設定されたオーブン33内で延伸手段31に通し、延伸倍率が1.8倍になるように、自由端一軸延伸し、延伸積層体8を生成した。この段階で、オーブン30に併設させた巻取装置32に巻き取って延伸積層体8のロール8’を製造することができる。
【0158】
ここで、自由端延伸と固定端延伸について概説する。長尺フィルムを搬送方向に延伸すると、延伸する方向に対して垂直方向すなわち幅方向にフィルムが収縮する。自由端延伸は、この収縮を抑制することなく延伸する方法をいう。また、縦一軸延伸とは、縦方向にのみに延伸する延伸方法のことである。自由端一軸延伸は、一般に延伸方向に対して垂直方向に起こる収縮を抑制しながら延伸する固定端一軸延伸と対比されるものである。この自由端一軸の延伸処理によって、積層体7に含まれる7μm厚のPVA層2は、PVA分子が延伸方向に配向された5μm厚のPVA層2になる。
【0159】
[染色工程(C)]
次に、染色工程(C)によって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層2に二色性物質のヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。具体的には、染色液41の染色浴42を備えた染色装置40において、染色装置40に併設されたロール8’を装着した繰出装置43から繰り出される延伸積層体8を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液41に、最終的に生成される偏光膜3を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体8の配向されたPVA層2にヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。
【0160】
本工程において、染色液41は、延伸積層体8に含まれるPVA層2を溶解させないようにするため、ヨウ素濃度が0.30重量%である水溶液とした。また、染色液41は、ヨウ素を水に溶解させるためのヨウ化カリウム濃度が2.1重量%になるように調整した。ヨウ素とヨウ化カリウムの濃度の比は1対7である。より詳細には、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液41に延伸積層体8を60秒間浸漬することによって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層2にヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。実施例1においては、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液41への延伸積層体8の浸漬時間を変えることによって、最終的に生成される偏光膜3の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体9を生成した。
【0161】
[ホウ酸水中延伸工程(D)]
第2段のホウ酸水中延伸工程によって、ヨウ素を配向させたPVA層2を含む着色積層体9をさらに延伸し、3μm厚の偏光膜3を構成するヨウ素を配向させたPVA層を含む光学フィルム積層体10を生成した。具体的には、ホウ酸水溶液51のホウ酸浴52と延伸手段53を備えたホウ酸水中延伸処理装置50において、染色装置40から連続的に繰り出された着色積層体9をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温65℃の延伸温度環境に設定されたホウ酸水溶液51に浸漬し、次にホウ酸水中処理装置50に配備された延伸手段53に通し、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸することによって、光学フィルム積層体10を生成した。
【0162】
より詳細には、ホウ酸水溶液51は、水100重量%に対してホウ酸を4重量%含み、水100重量%に対してヨウ化カリウムを5重量%含むように調整した。本工程においては、ヨウ素吸着量を調整した着色積層体9を、まず5〜10秒間ホウ酸水溶液51に浸漬した。次いで、その着色積層体9をそのままホウ酸水中処理装置50の延伸手段53である周速の異なる複数の組のロール間に通し、30〜90秒かけて延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した。この延伸処理によって、着色積層体9に含まれるPVA層は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層へと変化した。このPVA層が光学フィルム積層体10の偏光膜3を構成する。
【0163】
以上のように実施例1においては、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2が製膜された積層体7を延伸温度130℃で空中補助延伸して延伸積層体8を生成し、次に、延伸積層体8を染色して着色積層体9を生成し、さらに着色積層体9を延伸温度65度でホウ酸水中延伸して、総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体10を生成した。このような2段延伸によって、非晶性PET基材1に製膜されたPVA層2においてPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜3を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体10を生成することができた。好ましくは、これに続く洗浄、乾燥、転写工程によって、生成された光学フィルム積層体10は完成する。洗浄工程(G)、乾燥工程(H)、さらに転写工程(I)についての詳細は、不溶化処理工程を組み込んだ実施例4に基づく製造工程と併せて説明する。
【0164】
[他の製造工程の概要]
図10を参照すると、
図10は、不溶化処理工程を有する、偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程の概要図である。ここでは、実施例4に基づく偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造方法について概説する。
図10から明らかなように、実施例4に基づく製造方法は、染色工程前の第1不溶化工程とホウ酸水中延伸工程前の第2不溶化を含む架橋工程とが、実施例1に基づく製造工程に組み込まれた製造工程を想定すればよい。本工程に組み込まれた、積層体の作成工程(A)、空中補助延伸工程(B)、染色工程(C)、及びホウ酸水中延伸工程(D)は、ホウ酸水中延伸工程用のホウ酸水溶液の液温の違いを除き、実施例1に基づく製造工程と同様である。この部分の説明は簡略化し、専ら、染色工程前の第1不溶化工程とホウ酸水中延伸工程前の第2不溶化を含む架橋工程とについて、説明する。
【0165】
[第1不溶化工程(E)]
第1不溶化工程は、染色工程(C)前の不溶化工程(E)である。実施例1の製造工程と同様に、積層体の作成工程(A)において、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2が製膜された積層体7を生成し、次に、空中補助延伸工程(B)において、7μm厚のPVA層2を含む積層体7を空中補助延伸し、5μm厚のPVA層2を含む延伸積層体8を生成した。次に、第1不溶化工程(E)において、ロール8’を装着した繰出装置43から繰り出される延伸積層体8に不溶化処理を施し、不溶化された延伸積層体8’’を生成した。当然のことながら、この工程で不溶化された延伸積層体8’’は、不溶化されたPVA層2を含む。以下、これを「不溶化された延伸積層体8’’」という。
【0166】
具体的には、ホウ酸不溶化水溶液61を備えた不溶化処理装置60において、延伸積層体8を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液61に30秒間浸漬する。この工程に用いられるホウ酸不溶化水溶液61は、水100重量%に対してホウ酸を3重量%含む(以下、「ホウ酸不溶化水溶液」という。)ものである。この工程は、少なくとも直後の染色工程(C)において、延伸積層体8に含まれる5μm厚のPVA層を溶解させないための不溶化処理を施すことを目的とする。
【0167】
延伸積層体8は、不溶化処理された後に、染色工程(C)に送られる。この染色工程(C)においては、実施例1の場合と異なり、0.12〜0.25重量%の範囲でヨウ素濃度を変化させた複数の染色液を準備した。これらの染色液を用いて、不溶化された延伸積層体8’’の染色液への浸漬時間を一定にし、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体9を生成した。ヨウ素濃度が0.12〜0.25重量%の染色液に浸漬しても、不溶化された延伸積層体8’’に含まれるPVA層が溶解することはなかった。
【0168】
[第2不溶化を含む架橋工程(F)]
以下に説明する架橋工程(F)は、以下の目的からみて、第2不溶化工程を含むものということができる。架橋工程は、第1に、後工程のホウ酸水中延伸工程(D)において、着色積層体9に含まれるPVA層を溶解させないようにする不溶化と、第2に、PVA層に着色されたヨウ素を溶出させないようにする着色安定化と、第3に、PVA層の分子同士を架橋することによって結節点を生成する結節点の生成とを達成するもので、第2不溶化は、この第1と第2の結果を実現するものである。
【0169】
架橋工程(F)は、ホウ酸水中延伸工程(D)の前工程として行われる。染色工程(C)において生成された着色積層体9に架橋処理を施すことによって、架橋された着色積層体9’が生成される。架橋された着色積層体9’は、架橋されたPVA層2を含む。具体的には、ホウ酸とヨウ化カリウムとからなる水溶液(以下、「ホウ酸架橋水溶液」という)71を収容する架橋処理装置70において、着色積層体9を40℃のホウ酸架橋水溶液71に60秒間浸漬し、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋することによって、架橋された着色積層体9’が生成される。この工程で使用されるホウ酸架橋水溶液は、水100重量%に対してホウ酸を3重量%含み、水100重量%に対してヨウ化カリウムを3重量%含む。
【0170】
ホウ酸水中延伸工程(D)において、架橋された着色積層体9’を75℃のホウ酸水溶液に浸漬し、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸することによって、光学フィルム積層体10が生成される。この延伸処理によって、着色積層体9’に含まれるヨウ素を吸着させたPVA層2は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層2へと変化する。このPVA層が、光学フィルム積層体10の偏光膜3を構成する。
【0171】
実施例4においては、まず、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2が製膜された積層体7を生成し、次に、積層体7を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸延伸し、延伸積層体8を生成した。生成された延伸積層体8を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液61に30秒間浸漬することによって延伸積層体に含まれるPVA層を不溶化した。これが不溶化された延伸積層体8’’である。不溶化された延伸積層体8’’を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、不溶化されたPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体9を40℃のホウ酸架橋水溶液71に60秒間浸漬し、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。これが架橋された着色積層体9’である。架橋された着色積層体9’をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温75℃のホウ酸水中延伸溶51に5〜10秒間浸漬し、次いで、ホウ酸水中延伸によって延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸し、光学フィルム積層体10を生成した。
【0172】
このように、実施例4は、空中高温延伸及びホウ酸水中延伸からなる2段延伸と、染色浴への浸漬に先立つ不溶化及びホウ酸水中延伸に先立つ架橋からなる前処理によって、非晶性PET基材1上に製膜されたPVA層2におけるPVA分子が高次に配向され、染色によってPVA分子に確実に吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体10を安定的に生成することができた。
【0173】
[洗浄工程(G)]
実施例1又は4の着色積層体9又は架橋された着色積層体9’は、ホウ酸水中延伸工程(D)において延伸処理され、ホウ酸水溶液51から取り出される。取り出された偏光膜3を含む光学フィルム積層体10は、好ましくは、そのまま、洗浄工程(G)に送られる。洗浄工程(G)は、薄型高性能偏光膜3の表面に付着した不要残存物を洗い流すことを目的とする。洗浄工程(G)を省き、取り出された偏光膜3を含む光学フィルム積層体10を直接乾燥工程(H)に送り込むこともできる。しかしながら、この洗浄処理が不十分であると、光学フィルム積層体10の乾燥後に薄型高性能偏光膜3からホウ酸が析出することもある。具体的には、光学フィルム積層体10を洗浄装置80に送り込み、薄型高性能偏光膜3のPVAが溶解しないように、液温30℃のヨウ化カリウムを含む洗浄液81に1〜10秒間浸漬する。洗浄液81中のヨウ化カリウム濃度は、0.5〜10重量%程度である。
【0174】
[乾燥工程(H)]
洗浄された光学フィルム積層体10は、乾燥工程(H)に送られ、ここで乾燥される。次いで、乾燥された光学フィルム積層体10は、乾燥装置90に併設された巻取装置91によって、連続ウェブの光学フィルム積層体10として巻き取られ、薄型高性能偏光膜3を含む光学フィルム積層体10のロールが生成される。乾燥工程(H)として、任意の適切な方法、例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥を採用することができる。実施例1及び実施例4はいずれにおいても、オーブンの乾燥装置90において、60℃の温風で、240秒間、乾燥を行った。
【0175】
[貼合せ/転写工程(I)]
本発明は、上述したように、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段階延伸工程で延伸されることにより、光学特性が上述の所望の条件を満足するように構成された、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光膜を使用する光学的表示装置を提供するものである。
【0176】
この光学的表示装置を形成するために、例えば非晶性PET基材のような熱可塑性樹脂基材上に製膜された、厚み10μm以下の、例えば上述した実施例により製造された厚み3μmの偏光膜3を含む光学フィルム積層体10が、光学フィルム積層体10のロールとして準備され、貼合せ/転写工程(I)において、ロールから繰り出された光学フィルム積層体10に対し、以下のような貼合せ処理と転写処理とを同時に行うことができる。
【0177】
製造される偏光膜3の厚みは、延伸による薄膜化によって10μm以下、通常は、僅か2〜5μm程度にすぎない状態にされる。このような薄い偏光膜3を単層体として扱うことは難しい。従って、偏光膜3は、該偏光膜が製膜された熱可塑性機材、例えば非晶性PET基材上にそのまま残された状態で、光学フィルム積層体10として扱うか、又は、他の光学機能フィルム4に貼合せ/転写することによって光学機能フィルム積層体11として扱うことになる。
【0178】
図9及び
図10に示す貼合せ/転写工程(I)においては、連続ウェブの光学フィルム積層体10に含まれる偏光膜3と、別に準備される光学機能フィルム4とを貼合せながら巻き取り、その巻き取り工程において、偏光膜3を光学機能フィルム4に転写しながら非晶性PET基材を剥離することによって、光学機能フィルム積層体11が生成される。具体的には、貼合せ/転写装置100に含まれる繰出/貼合せ装置101によって光学フィルム積層体10がロールから繰り出され、繰り出された光学フィルム積層体10の偏光膜3が、巻取/転写装置102によって光学機能フィルム4に転写され、その過程で、偏光膜3が基材1から剥離されて、光学機能フィルム積層体11が生成される。
【0179】
乾燥工程(H)において巻取装置91によってロール状に巻き取られたた光学フィルム積層体10、或いは貼合せ/転写工程(I)によって生成される光学機能フィルム積層体11は、種々異なる形態とすることができる。
【0180】
[様々な製造条件による偏光膜の光学特性]
(1)不溶化工程による偏光膜の光学特性の向上(実施例1〜4)
すでに
図8を用いて説明した通り、実施例1〜4に基づいて製造されたそれぞれの偏光膜は、いずれも上述した技術的課題を克服するものであり、これらの光学特性は、大型表示素子を用いた液晶テレビ用の光学的表示装置として求められる要求性能を満たすものである。さらに、
図8から明らかなように、実施例1の不溶化処理が施されていない偏光膜の光学特性は、第1不溶化処理及び/又は第2不溶化処理が施された実施例2〜4の偏光膜の光学特性のいずれよりも低い。それぞれの光学特性を比較すると、(実施例1)<(第1不溶化処理のみが施された実施例3)<(第2不溶化処理のみが施された実施例2)<(第1及び第2不溶化処理が施された実施例4)の順に光学特性が高くなる。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程に加えて、第1及び/又は第2不溶化工程を有する製造方法によって製造された偏光膜は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0181】
(2)PVA系樹脂層の厚みによる偏光膜の光学特性への影響(実施例5)
実施例4においては、厚み7μmのPVA層を延伸して厚み3μmの偏光膜が形成された。これに対して、実施例5は、先ず厚み12μmのPVA層を形成し、このPVA層を延伸して厚み5μmの偏光膜を形成した。その他は、同一の条件で偏光膜を製造した。
【0182】
(3)非晶性PET基材を異にした偏光膜の光学特性への影響(実施例6)
実施例4においてはイソフタル酸をPETに共重合させた非晶性PET基材を用いたのに対して、実施例6おいては、PETに対して変性基として1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合させた非晶性PET基材を用いた。実施例6においては、この点を除き実施例4と同一の条件で偏光膜を製造した。
【0183】
図13を参照すると、実施例4〜6に基づく方法により製造された偏光膜の光学特性に有意差がないことが分かる。このことは、PVA系樹脂層の厚み及び非晶性エステル系熱可塑性樹脂の種類が得られた偏光膜の光学特性に、認識できるほどの影響を与えないことを示すものと考えられる。
【0184】
(4)空中補助延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例7〜9)
実施例4においては、第1段の空中補助延伸及び第2段のホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率が1.8倍及び3.3倍であったが、実施例7〜9においては、それぞれの延伸倍率を1.2倍及び4.9倍と、1.5倍及び4.0と、2.5倍及び2.4倍とした。これらの実施例においては、この点を除き、実施例4と同様の条件で偏光膜を製造した。例えば、空中補助延伸の延伸温度は130℃であり、液温75℃のホウ酸水溶液を用いてホウ酸水中延伸を行った。実施例8,9の総延伸倍率は6.0倍となり、実施例4において空中補助延伸倍率1.8倍としたときの総延伸倍率5.94倍に匹敵するものであった。しかしながら、これに対して、実施例7の総延伸倍率は、5.88倍が限界であった。これは、ホウ酸水中延伸において、延伸倍率を4.9倍以上にすることができなかった結果である。このことは、
図20を用いて説明した、第1段の空中補助延伸倍率と総延伸倍率との相関関係に及ぼす非晶性PETの延伸可能倍率の影響と推定される。
【0185】
図14を参照すると、実施例7〜9による偏光膜は、いずれも、実施例4の場合と同様に、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、光学的表示装置に必要な要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例7<実施例8<実施例4<実施例9の順に光学特性が高くなる。このことは、第1段の空中補助延伸の延伸倍率が1.2倍から2.5倍の範囲内で設定された場合に、第2段のホウ酸水中延伸による最終的な総延伸倍率が同程度に設定されたとしても、第1段の空中補助延伸が高延伸倍率に設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1の空中補助延伸を高延伸倍率に設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0186】
(5)空中補助延伸温度による偏光膜の光学特性の向上(実施例10〜12)
実施例4においては空中補助延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例10〜12においては、それぞれの空中補助延伸温度を95℃、110℃、150℃に設定した。いずれもPVAのガラス転移温度Tgより高い温度である。これらの実施例においては、この点を除き、例えば空中補助延伸倍率を1.8倍とする点、ホウ酸水中延伸における延伸倍率を3.3倍とする点を含み、実施例4と同様の条件で偏光膜を製造した。実施例4の空中補助延伸温度は130℃である。実施例4を含め、これらの実施例は、延伸温度を95℃、110℃、130℃、及び150℃とすることの違いを除くと、製造条件は全て同じである。
【0187】
図15を参照すると、実施例4、10〜12による偏光膜は、いずれも、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、光学的表示装置に必要とされる要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例10<実施例11<実施例4<実施例12の順に光学特性が高くなる。このことは、第1段の空中補助延伸温度をガラス転移温度より高く、95℃倍から150℃へと順次高くなるように温度環境を設定した場合には、第2段のホウ酸水中延伸による最終的な総延伸倍率が同じに設定されたとしても、第1段の空中補助延伸温度がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1の空中補助延伸温度をより高く設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0188】
(6)総延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例13〜15)
実施例4においては、第1段の空中補助延伸倍率が1.8倍及び第2段のホウ酸水中延伸倍率が3.3倍と設定された。これに対して、実施例13〜15においては、それぞれの第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを2.1倍、3.1倍、3.6倍とした。これは、実施例13〜15における総延伸倍率が5.04倍(約5倍)、5.58倍(約5.5倍)、6.48倍(約6.5倍)になるように設定したことを意味するものである。実施例4の総延伸倍率は5.94倍(約6倍)である。実施例4を含め、これらの実施例は、5倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍の総延伸倍率の違いを除くと、製造条件は全て同じである。
【0189】
図16を参照すると、実施例4、13〜15の偏光膜は、いずれも、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、光学的表示装置に必要とされる要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例13<実施例14<実施例4<実施例15の順に光学特性が高くなる。このことは、いずれの第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、総延伸倍率を5倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍へと順次高くなるように第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを設定した場合には、最終的な総延伸倍率がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1段の空中補助延伸と第2段のホウ酸水中延伸との総延伸倍率をより高く設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0190】
(7)固定端一軸延伸の総延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例16〜18)
実施例16〜18は、以下の相違点を除き、実施例4と同一の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸方法にある。実施例4においては自由端一軸による延伸方法が用いられているのに対して、実施例16〜18においては、いずれも固定端一軸による延伸方法を採用している。これらの実施例は、いずれも、第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、それぞれの第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを3.3倍、3.9倍、4.4倍とした。このことにより、実施例16の場合、総延伸倍率が5.94倍(約6倍)であり、実施例17の場合には、7.02倍(約7倍)、さらに実施例18の場合には、7.92倍(約8倍)となる。実施例16〜18は、この点を除くと製造条件は全て同じである。
【0191】
図17を参照すると、実施例16〜18による偏光膜は、いずれも、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、光学的表示装置に必要とされる要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例16<実施例17<実施例18の順に光学特性が高くなる。このことは、いずれの第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、総延伸倍率を6倍、7倍、8倍へと順次高くなるように第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを設定した場合には、最終的な総延伸倍率がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、固定端一軸延伸方法による第1段の空中補助延伸と第2段のホウ酸水中延伸との総延伸倍率をより高く設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。さらに、第1段の空中補助延伸に固定端一軸延伸方法を用いる場合には、第1段の空中補助延伸に自由端一軸延伸方法を用いる場合に比べて、最終的な総延伸倍率をより高くすることができることも確認した。
【表2】
【0192】
[比較例3]
比較例3は、比較例1の場合と同様の条件で、200μm厚のPET基材にPVA水溶液を塗布し、乾燥させてPET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、積層体を、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。具体的には、着色積層体は、積層体を液温30℃の0.3重量%濃度のヨウ素及び2.1重量%濃度のヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。次に、延伸温度を60℃に設定したホウ酸水中延伸によって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を延伸倍率が5.0倍になるように自由端一軸に延伸することで、PET樹脂基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を種々生成した。
【0193】
[参考例1]
参考例1は、樹脂基材として、結晶性ポリエチレンテレフタレート(以下、「結晶性PET」という)の連続ウェブの基材を用い、200μm厚の結晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、乾燥させて結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。結晶性PETのガラス転移温度は80℃である。次に、生成された積層体を110℃に設定した空中高温延伸によって延伸倍率が4.0倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層へと変化した。参考例1の場合、延伸温度110℃の空中高温延伸において、積層体を4.0倍以上に延伸することができなかった。
【0194】
延伸積層体は、次の染色工程によって、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体に生成された。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。このように、PVA分子が配向されたPVA層へのヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。次に、生成された着色積層体を架橋処理する。具体的には、液温が40℃で、ホウ酸3%、ヨウ化カリウム3%からなるホウ酸架橋水溶液に60秒間、浸漬することによって着色積層体に架橋処理を施した。参考例1は、架橋処理が施された着色積層体が実施例4の光学フィルム積層体に相当する。したがって、洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例4の場合と同様である。
【0195】
[参考例2]
参考例2は、樹脂基材として、参考例1の場合と同様に、結晶性PET基材を用い、200μm厚の結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、生成された積層体を100℃の空中高温延伸によって延伸倍率が4.5倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層へと変化した。参考例2の場合、延伸温度100℃の空中高温延伸において、積層体を4.5倍以上に延伸することができなかった。
【0196】
次に、延伸積層体から着色積層体を生成した。着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。参考例2は、参考例1の場合と同様に、PVA分子が配向されたPVA層へのヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0197】
[参考例3]
参考例3は、樹脂基材として、参考例1又は2の場合と同様に、結晶性PET基材を用い、200μm厚の結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、生成された積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を種々生成した。しかる後に、生成された着色積層体を90℃の空中高温延伸によって、延伸倍率が4.5倍になるように自由端一軸に延伸し、着色積層体から偏光膜に相当するヨウ素を吸着させたPVA層を含む延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、着色積層体から生成された延伸積層体に含まれるヨウ素を吸着させたPVA層は、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層へと変化した。参考例3の場合、延伸温度90℃の空中高温延伸において、積層体を4.5倍以上に延伸することができなかった。
【0198】
[測定方法]
[厚みの測定]
非晶性PET基材、結晶性PET基材、及びPVA層の厚みは、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製KC−351C)を用いて測定した。
【0199】
[透過率及び偏光度の測定]
偏光膜の単体透過率T、平行透過率Tp、直交透過率Tcは、紫外可視分光光度計(日本分光社製V7100)を用いて測定した。これらのT、Tp、Tcは、JIS Z
8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。
偏光度Pを上記の透過率を用い、次式により求めた。
偏光度P(%)={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}
1/2×100
【0200】
(PETの配向関数の評価方法)
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PET樹脂層表面の評価を行った。配向関数の算出は以下の手順で行った。測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。得られたスペクトルの1340cm
-1の強度を用いて、以下に記した(式4)に従い算出した。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、1340cm
-1のピークは、PETのエチレングリコールユニットのメチレン基起因の吸収といわれている。
(式4)f=(3<cos
2θ>−1)/2
=(1−D)/[c(2D+1)]
但し
c=(3cos
2β−1)/2
β=90deg⇒f=−2×(1−D)/(2D+1)
θ:分子鎖・延伸方向
β:分子鎖・遷移双極子モーメント
D=(I⊥)/(I//)
(PETが配向するほどDの値が大きくなる。)
I⊥:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの強度
I//:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの強度
【0201】
(PVAの配向関数の評価方法)
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PVA樹脂層表面の評価を行った。配向関数の算出は以下の手順で行った。測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。得られたスペクトルの2941cm
-1の強度を用いて、以下に記した(式4)に従い算出した。また、下記強度Iは3330cm
-1を参照ピークとして、2941cm
-1/3330cm
-1の値を用いた。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、2941cm
-1のピークは、PVAの主鎖(−CH2−)の振動起因の吸収といわれている。
(式4)f=(3<cos
2θ>−1)/2
=(1−D)/[c(2D+1)]
但し
c=(3cos
2β−1)/2
β=90deg⇒f=−2×(1−D)/(2D+1)
θ:分子鎖・延伸方向
β:分子鎖・遷移双極子モーメント
D=(I⊥)/(I//)
(PVAが配向するほどDの値が大きくなる。)
I⊥:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの強度
I//:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの強度
【0202】
(PVAの結晶化度の評価方法)
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PVA樹脂層表面の評価を行った。結晶化度の算出は以下の手順で行った。測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。得られたスペクトルの1141cm
-1及び1440cm
-1の強度を用いて、下式に従い算出した。事前に、1141cm
-1の強度の大きさが結晶部分の量と相関性があることを確認しており、1440cm
-1を参照ピークとして下記式より結晶化指数を算出している。(式6)更に、結晶化度が既知のPVAサンプルを用いて、事前に結晶化指数と結晶化度の検量線を作成し、検量線を用いて結晶化指数から結晶化度を算出している。(式5)
(式5) 結晶化度 = 63.8×(結晶化指数)−44.8
(式6) 結晶化指数 = ((I(1141cm
-1)0° + 2×I(1141cm
-1)90° )/ 3)/((I(1440cm
-1)0° + 2×I(1440cm
-1)90° )/ 3)
但し
I(1141cm
-1)0°:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの1141cm
-1の強度
I(1141cm
-1)90°:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの1141cm
-1の強度
I(1440cm
-1)0°:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの1440cm
-1の強度
I(1440cm
-1)90°:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの1440cm
-1の強度
【0203】
[発明の実施の形態]
図11及び
図12に、上述の偏光膜を使用した光学的表示装置の幾つかの参考例及び本発明の実施形態を示す。
【0204】
図11(a)は、参考例となる表示装置の最も基本的な形態を示す断面図であり、この光学的表示装置200は、例えば液晶表示パネル又は有機EL表示パネルとすることができる光学的表示パネル201を備え、該表示パネル201の一方の面に、光学的に透明な粘着剤層202を介して偏光膜203が接合される。該偏光膜203の外側の面には、光学的に透明な樹脂材料からなる保護層204が接着される。任意ではあるが、光学的表示装置の視認側となる保護層204の外側には、破線で示すように、透明なウインドウ205を配置することができる。
【0205】
層や膜などを接合又は接着させる材料としては、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系、イソシアネート系、ポリビニルアルコール系、ゼラチン系、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステルなどのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。
【0206】
偏光膜203は、上述したように、厚み10μm以下で、前述した光学特性を満足させるものである。この偏光膜203は、従来この種の光学的表示装置に使用されている偏光膜に比べて非常に薄いので、温度又は湿度条件で発生する伸縮による応力が極めて小さくなる。したがって、偏光膜の収縮によって生じる応力が隣接する表示パネル201に反り等の変形を生じさせる可能性が大幅に軽減され、変形に起因する表示品質の低下を大幅に抑制することが可能になる。この構成において、粘着剤層202として、拡散機能を備えた材料を使用するか、或いは、粘着剤層と拡散剤層の2層構成とすることもできる。
【0207】
粘着剤層202の接着力を向上させる材料として、例えば特開2002−258269号公報(特許文献6)、特開2004−078143号公報(特許文献7)、特開2007−171892号公報(特許文献8)に記載のあるようなアンカー層を設けることもできる。バインダー樹脂としては粘着剤の投錨力を向上出来る層であれは特に制限はなく、具体的には、例えば、エポキシ系樹脂、イソシアネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、分子中にアミノ基を含むポリマー類、エステルウレタン系樹脂、オキサゾリン基などを含有する各種アクリル系樹脂などの有機反応性基を有する樹脂(ポリマー)を用いることが出来る。
【0208】
また、上記アンカー層には、帯電防止性を付与するために、例えば特開2004−338379号公報(特許文献9)に記載のあるように帯電防止剤を添加することもできる。帯電防止性付与のための帯電防止剤としては、イオン性界面活性剤系、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリキノキサリン等の導電性ポリマー系、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム等の金属酸化物系などがあげられるが、特に光学特性、外観、帯電防止効果、および帯電防止効果の加熱、加湿時での安定性という観点から、導電性ポリマー系が好ましく使用される。この中でも、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの水溶性導電性ポリマー、もしくは水分散性導電性ポリマーが特に好ましく使用される。帯電防止層の形成材料として水溶性導電性ポリマーや水分散性導電性ポリマーを用いた場合、塗工に際して有機溶剤による光学フィルム基材への変質を抑えることができる。
【0209】
保護層204の材料としては、一般的に、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびこれらの混合物があげられる。
【0210】
保護層204の偏光膜203を接着させない面には、表面処理層として、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施したものであってもよい。また、表面処理層には紫外線吸収剤が含有していても良い。更に、表面処理層は偏光膜の加湿耐久性を向上させる目的で透湿度の低い層であることが好ましい。ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護膜の表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた、例えば、特開2005−248173号公報(特許文献10)に記載のあるような光の干渉作用による反射光の打ち消し効果を利用して反射を防止する薄層タイプや、特開2011−2759号公報(特許文献11)に記載のあるような表面に微細構造を付与することにより低反射率を発現させる構造タイプなどの低反射層の形成により達成することができる。スティッキング防止処理は隣接層(例えば、バックライト側の拡散板)との密着防止を目的に施される。アンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。前記ハードコート層としては、鉛筆硬度が2H以上となるハードコート層が好ましい。
【0211】
図11(b)に示す光学的表示装置の構成は、
図11(a)に示すものとほぼ同一の構成であるが、偏光膜203と保護層204との間に拡散層206が配置された構成を有する。
図11(c)に示す構成では、拡散層206は粘着層202と偏光膜203の間に配置される。
図11(d)に示す光学的表示装置は、基本的に
図11(a)に示すものと同一であるが、偏光膜203は、接着を容易にする易接着層207を介して保護層204に接着される。易接着層として用いられる材料は、当業者間で周知である。
【0212】
図11(e)に示す光学的表示装置は、保護層204の外側の面に帯電防止層208が設けられている点のみで、
図11(d)に示す光学的表示装置と異なる。
図11(f)に示す光学的表示装置200においては、
図11(e)に示す光学的表示装置の構成において、保護層204と帯電防止層208との間に1/4波長位相差膜209が配置される。また、1/4波長位相差膜は帯電防止層よりも視認側に配置することもできる。この構成によれば、偏光膜203よりも視認側に1/4波長位相差膜が配置されているため、表示パネル201から偏光膜203を経て出射する光は、1/4波長位相差膜を出るときに円偏光に変換される。この構成の光学的表示装置は、例えば視聴者が偏光サングラスを着用している場合にも、視認に支障がなくなる、という利点をもたらす。
【0213】
図12(a)は、光学的表示パネルとして透過型液晶表示パネル301を備える光学的表示装置300の実施形態を示す。液晶表示パネル301より視認側のパネル構成は、
図11(f)に示す光学的表示装置200における構成とほぼ同一である。すなわち、液晶表示パネル301の視認側の面に、粘着剤層302を介して第1の偏光膜303が接合され、該第1の偏光膜303に易接着層307を介して保護層304が接合される。保護層304には1/4波長位相差層309が接合される。1/4波長位相差層309には、任意ではあるが、帯電防止層308が形成される。1/4波長位相差層309の外側には、これも任意であるが、ウインドウ305が配置される。
図12(a)に示す実施形態においては、液晶表示パネル301の他方の面に、第2の粘着剤層302aを介して第2の偏光膜303aが配置される。第2の偏光膜303aの裏側には、透過型液晶表示装置において周知のように、バックライト310が配置される。
【0214】
図12(b)は、表示パネルとして反射型液晶表示パネル401を備える光学的表示装置400の実施形態を示す。この実施形態において、液晶表示パネル401より視認側のパネル構成は、
図12(a)に示す光学的表示装置300における構成とほぼ同一である。すなわち、液晶表示パネル401の視認側の面に粘着剤層402を介して第1の偏光膜403が接合され、該第1の偏光膜403に易接着層407を介して保護層404が接合される。保護層404には、1/4波長位相差層409が接合される。1/4波長位相差層409には、任意ではあるが、帯電防止層408が形成される。1/4波長位相差層409の外側には、これも任意であるが、ウインドウ405が配置される。
【0215】
図12(b)に示す実施形態においては、液晶表示パネル401の他方の面に、第2の粘着剤層402aを介して第2の偏光膜403aが接合され、該第2の偏光膜403aに易接着層407aを介して第2の保護層404aが接合される。第2の保護層404aには、任意ではあるが、帯電防止層408aが形成される。第2の保護層404aの裏側には、液晶表示パネル401を透過した光を該液晶表示パネル401に向けて反射するためのミラー411が配置される。この構成においては、視認側から入射する外光がミラー411により反射されて液晶表示パネル401を透過し、外に出ることにより、視認側から表示を見ることができる。
【0216】
この構成においては、ミラー411は、入射光の一部を透過させるハーフミラーとすることができる。ミラー411をハーフミラーとして構成する場合には、
図12(b)に想像線で示すように、ミラー411の背後にバックライト410を配置する。この構成によれば、外光が暗いときに、バックライト410を点灯させることによって表示を行うことが可能である。
【0217】
図12(c)に他の実施形態を示す。この実施形態が
図12(b)に示す実施形態と異なる点は、第1の偏光膜403と液晶表示パネル401との間に1/4波長位相差層409aが配置され、第2の偏光膜403aと液晶表示パネル401との間に1/4波長位相差層409bが配置されていることである。具体的に述べると、該第1の偏光膜403に1/4波長位相差層409aが接合され、該1/4波長位相差層409aが粘着剤層402を介して液晶表示パネル401の視認側の面に接合される。同様に、第2の偏光膜403aに1/4波長位相差層409bが接合され、該1/4波長位相差層409bが粘着剤層402aを介して液晶表示パネル401の裏側の面に接合される。
【0218】
このような構成においては該1/4波長位相差層409aおよび該1/4波長位相差層409bは、非特許文献3に記載されているように、表示装置の表示輝度を向上させる機能を有する。
【0219】
上述した各実施形態において、各保護層は、前述した任意の材料により形成することができる。また、保護層が直接偏光膜に接合されている実施形態においては、保護層は、該偏光膜が製造される過程においてPVA系樹脂層とともに延伸処理された熱可塑性樹脂基材を用いることによって形成してもよい。この場合において、熱可塑性樹脂基材は、非晶性のポリエチレンテレフタレート(PET)とすることができる。
【0220】
図12(d)は、有機EL表示パネル又は反射型液晶表示パネルとして構成される光学的表示パネル501を使用した光学的表示装置500の例を示す。表示パネル501の視認側の面には粘着剤層502を介して位相差膜512が接合され、該位相差膜512に偏光膜503が接合される。偏光膜503は、易接着層507を介して保護層504に接合され、該保護層504には1/4波長位相差層509が接合される。任意ではあるが、1/4波長位相差層509には帯電防止層508を形成することができる。該1/4波長位相差層509の外側には、任意ではあるが、ウインドウ505を配置することができる。位相差膜512は偏光膜503の視認側から内部に入射した光が内部反射して視認側に射出されることを防止するために用いられる。
【0221】
偏光膜503と表示パネル501の間に配置される位相差膜512は、1/4波長位相差層とすることができる。この場合において、遅相軸方向の屈折率をnxとし、それと直交する面内方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとしたとき、これらの屈折率がnx>nz>nyの関係を有する2軸位相差膜とすることができる。この構成では、位相差膜512は、遅軸方向が偏光膜503の吸収軸に対して45°の関係になるように配置する。この構成によれば、斜め方向の反射防止機能も得ることができる。図には示していないが、表示パネル501の裏側には、通常は、ミラーが配置される。
【0222】
図12(e)に本発明のさらに別の実施形態による光学的表示装置600を示す。この実施形態においては、光学的表示パネルは、透過型のIPS液晶表示パネル601により構成され、該表示パネル601の視認側の面には粘着剤層602を介して位相差膜612が接合され、該位相差膜612に偏光膜603が接合される。偏光膜603は、易接着層607を介して保護層604に接合され、該保護層604には、パターン位相差層613が接合される。このパターン位相差層613は、非特許文献1に記載されているような、パターン位相差膜を形成する。パターン位相差層とは3D表示を可能にする為に表示パネルから出力された右眼用の画像と左眼用の画像をそれぞれ別々の偏光状態へ変化させる機能を有する。該パターン位相差層613の外側には、任意ではあるが、ウインドウ605を配置することができる。
【0223】
液晶表示パネル601の裏側の面には、第2の粘着剤層602aを介して位相差膜612aが接合され、該位相差膜612aに、第2の偏光膜603aが接合される。該第2の偏光膜603aには、易接着層607aを介して第2の保護層604aが接合される。第2の保護層604aには、任意ではあるが、帯電防止層608aが形成される。液晶表示パネル601が反射型液晶パネルである場合には、第2の保護層604aの裏側には、液晶表示パネル601を透過した光を該液晶表示パネル601に向けて反射するためのミラー611が配置される。該ミラー611がハーフミラーとして構成される場合には、該ミラー611の背後にバックライト610が配置される。 液晶表示パネル601が透過型である場合には、ミラー611は省略され、バックライト610のみが配置される。
【0224】
この構成において、これら位相差膜612、612aの各々、或いは一方は、遅相軸方向の屈折率をnxとし、それと直交する面内方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとしたとき、これらの屈折率がnx>nz>nyの関係を有する2軸位相差膜とすることができる。また、位相差膜612aは、屈折率がnx>nz>nyの関係を有する2軸位相差膜と、nx>ny>nzの関係を有する2軸位相差膜との2層構成とすることができる。これらの構成においては、位相差膜は、遅相軸の方向が偏光膜の吸収軸の方向に対して、0°又は90°の関係となるように配置する。この配置は、斜め方向から見たときの偏光膜交差角の補正に効果がある。
【0225】
図12(e)のパネル構成は、液晶表示パネル601が透過型のVA液晶である場合にも適用できる。この場合には、位相差膜612、612aは、屈折率がnx>nz>nyの関係を有する2軸位相差膜、或いは、nx>ny>nzの関係を有する2軸位相差膜とする。或いは、これら位相差膜612、612aは、屈折率がnx>ny≒nzの関係を有する位相差膜、又は、nx≒ny>nzの関係を有する位相差膜とする。いずれの場合においても、位相差膜は、遅相軸の方向が偏光膜の吸収軸の方向に対して、0°又は90°の関係となるように配置する。この配置は、斜め方向から見たときの偏光膜交差角の補正に加えて、液晶のもつ厚み方向の位相差補償に効果がある。
【0226】
図12(f)に、光学的表示パネル701がTN液晶により構成された光学的表示装置700の実施形態を示す。基本的なパネル構成は、
図12(a)に示すものと同様であるが、この実施形態では、液晶表示パネル701がTN液晶であるため、粘着層702と偏光膜703の間、及び、第2の粘着層702aと第2の偏光膜703aの間に、それぞれ第1の傾斜配向位相差膜714及び第2の傾斜配向位相差膜714aが配置されている。これら傾斜配向位相差膜714、714aは、TN液晶オン状態での視野角補償の機能を果たす。傾斜補償膜の視野角補償に関しては、非特許文献2に記載がある。
【0227】
図12(g)に、本発明のさらに他の実施形態として構成される光学的表示装置800を示す。この実施形態による光学的表示装置800は、反射型液晶表示パネル801を備えており、該液晶表示パネル801の一方の面に、粘着層802を介して位相差膜809が接合され、該位相差膜809に偏光膜803が接合される。偏光膜803は、易接着層807を介して保護層804に接合され、保護層804には、任意ではあるが、帯電防止層808が形成される。保護層804の視認側には、任意ではあるが、ウインドウ805が配置される。この実施形態における位相差膜809は、偏光膜803からの直線偏光を円偏光に変換して液晶表示パネル801の表面からの反射光が視認側から出るのを防止するためのものであり、典型的には1/4波長位相差膜が使用される。
【0228】
図12(h)は、本発明の実施形態において使用できる層構成を備える光学的表示装置900を示すもので、透過型液晶表示パネル901を備える形式である。液晶表示パネル901には、光学的に透明な粘着剤層902を介して位相差膜909aが接合され、該位相差膜909aに第1の偏光膜903が接合される。第1の偏光膜903は、易接着剤層907を介して保護層904に接合される。保護層904には、1/4波長位相差膜909が接合され、該1/4波長位相差膜909には、任意ではあるが、帯電防止層908が形成される。1/4波長位相差膜909の視認側には、任意ではあるが、ウインドウ905が配置される。液晶表示パネル901の裏側の面には、光学的に透明な粘着剤層902aを介して位相差膜909bが接合される。この構成において、位相差膜909a、909bは、内部反射を防止する機能又は視野角補償の機能を果たす。
【0229】
図12(i)は、タッチ入力センサ機能を有する光学的表示装置1000の実施形態を示す。光学的表示装置1000のパネル構成は、
図12(h)に示すものとほぼ同一であり、対応する構成要素には
図12(h)と同一の符号を付して説明は省略する。この実施形態においては、1/4波長位相差膜909とウインドウ905との間にタッチパネル積層体1001が配置される。このタッチパネル積層体1001は、容量型タッチパネルであっても抵抗膜型タッチパネルであってもよい。容量型タッチパネルの場合には、
図12(i)に示すように、上側のパターン電極1001aと下側のパターン電極1001bが誘電体層1001cを挟んで対向配置された構成とすることができる。容量型タッチパネル積層体としては、図示の構造の他、公知のどのような構造を採用することもできる。タッチパネル積層体1001を抵抗膜型の構成する場合には、上側電極と下側電極との間にスペーサを配置して、両電極間に空気間隙が形成される構成にする。このようなタッチパネル積層体の構成は、種々異なる配置のものが知られており、本実施形態では、そのいずれを使用してもよい。
【0230】
図12(j)に、本発明の一実施形態となるタッチ入力センサ機能を有する光学的表示装置1100を示す。この実施形態における光学的表示装置1100のパネル構成は、
図12(h)に示すものとほぼ同一であり、対応する構成要素には
図12(h)と同一の符号を付して説明は省略する。この実施形態においては、液晶表示パネル901と位相差膜909aとの間にタッチパネル積層体1101が配置される。この実施形態においては、タッチパネル積層体1101は、容量型タッチパネルである。