(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
界磁巻線と、電機子巻線と、前記界磁巻線および前記電機子巻線に対する電力供給源である直流電源とを有し、電動機または発電機として動作する回転電機に適用される界磁巻線方式回転電機の診断装置であって、
前記直流電源の正極電位および負極電位とは異なる値として規定される断線故障判定電位を持つ内部電源回路を有し、前記電機子巻線の相対回転運動による誘導電流が前記界磁巻線に流れていない故障診断状態において、前記内部電源回路を用いて前記界磁巻線に電流を流した際の前記界磁巻線を含む回路の電圧値を測定することで、前記界磁巻線を含む回路の故障診断を行う診断回路を備え、
前記診断回路は、前記界磁巻線に定電流を流す定電流回路を有し、前記故障診断状態における前記界磁巻線を含む回路の電圧値の計測結果に基づいて、
前記計測結果が前記断線故障判定電位を含む断線故障判定電圧範囲内にある場合には、前記回路で断線が生じたと判定し、
前記計測結果が前記正極電位を含む天絡故障判定電圧範囲内にある場合には、前記回路で天絡故障が生じたと判定し、
前記計測結果が前記負極電位を含む地絡故障判定電圧範囲内にある場合には、前記回路で地絡故障が生じたと判定する
界磁巻線方式回転電機の診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明における界磁巻線方式回転電機の診断装置および界磁巻線方式回転電機の診断方法の好適な実施の形態について図面を用いて説明する。なお、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る界磁巻線方式回転電機の診断装置1の構成の第1の例示図である。
【0016】
図1に示す界磁巻線方式回転電機は、放電および充電が可能な直流電源2、電動機または発電機に用いられる電機子の電機子巻線3、磁場を介して電機子巻線3と相互作用する界磁の界磁巻線4、電機子巻線3を駆動する電機子電力変換回路5、および界磁巻線4を駆動する界磁駆動回路6とを備えて構成される。
【0017】
電機子電力変換回路5および界磁駆動回路6は、それぞれ直流電源2に並列に接続されている。また、界磁駆動回路6は、PWMスイッチング素子62と還流素子61とが直列に接続されて構成され、PWMスイッチング素子62は、還流素子61の正極側端部に接続されている。また、界磁巻線4は、還流素子61に並列に接続されている。
【0018】
直流電源2は、放電および充電が可能であり、自身に並列に接続された電機子電力変換回路5および界磁駆動回路6に直流電力を供給している。また、直流電源2は、電機子電力変換回路5から供給される直流電力を充電することもできる。
【0019】
電機子電力変換回路5は、直流電源2による直流電力を交流変換して電機子巻線3を駆動するとともに、電機子巻線3の回転運動による交流起電力を直流変換して直流電源2に供給している。また、界磁駆動回路6は、直流電源2の直流電力をPWM制御して界磁巻線4を駆動している。
【0020】
また、
図1に示す界磁巻線方式回転電機の診断装置1は、第1診断回路11、第2診断回路12、診断用スイッチング素子13、電圧測定部14、および、故障判定部15を備えて構成される。
【0021】
第1診断回路11は、界磁巻線4の正極側端部に接続されている。また、第2診断回路12は、界磁巻線4の負極側端部に接続されている。第1診断回路11および第2診断回路12の具体的な構成とその機能については後述する。
【0022】
診断用スイッチング素子13は、還流素子61および界磁巻線4の負極側端部同士の接続をオンまたはオフする。この診断用スイッチング素子13は、通常時はオンとなっており、界磁巻線方式回転電機の診断を開始する際にPWMスイッチング素子62とともにオフされる。
【0023】
電圧測定部14は、直流電源2の負極電圧を基準とした界磁巻線4の正極側端部の電圧を測定している。また、故障判定部15は、電圧測定部14による界磁巻線4の測定電圧を基に、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路の、天絡故障(Power Faultまたは、Line−to−Power Fault)、地絡故障(Earth Fault、Ground Faultまたは、Line−to−Ground Fault)、および断線故障(Open Fault)を判定する。
【0024】
ここで、天絡故障とは、直流電源2の正極と、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路との絶縁が極度に低下して、その間がアークまたは導体によって電気的に接続されることである。例えば、直流電源2の正極(電源ライン)に界磁回路の(負極側の)配線が短絡する場合等が挙げられる。
【0025】
また、地絡故障とは、直流電源2の負極と、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路との絶縁が極度に低下して、その間がアークまたは導体によって電気的に接続されることである。例えば、直流電源2の負極(接地ライン)に界磁回路の(正極側の)配線が短絡する場合等が挙げられる。
【0026】
天絡故障または地絡故障が発生すると、電圧測定部14による電圧測定部14による界磁巻線4の測定電圧が、直流電源2の正極電圧または負極電圧に実質的に等しくなる。ここで、実質的に等しいとは、直流電源2の正極電圧または負極電圧と、電圧測定部14による測定電圧との電位差が電圧測定部14の測定誤差を含めた一定幅の範囲内で等しくなることを意味する。
【0027】
また、断線故障とは、界磁巻線4の一部が断線することである。ところで、断線故障については、前述のように、従来の界磁巻線方式回転電機の診断装置1では、検出することはできるが、故障要因として天絡故障および地絡故障と区別することができないという課題があった。
【0028】
そこで、本発明の実施の形態1における界磁巻線方式回転電機の診断装置1は、
図1に示す第1内部電源回路111を備えることにより、故障要因として天絡故障および地絡故障と、断線故障とを区別することができるようにしている。
【0029】
具体的には、
図1に示す診断装置1の第1診断回路11は、第1内部電源回路111、第1内部電源回路111から界磁巻線4に微小定電流を流す吐き出し型定電流回路112、および、界磁巻線4から第1内部電源回路111方向に電流が流れることを防止する第1ダイオード113を備えて構成される。
【0030】
また、
図1に示す診断装置1の第2診断回路12は、一端が界磁巻線4の負極側端部に接続されて、他端が直流電源2の負極に接続されたプルダウン抵抗120を備えて構成される。
【0031】
このように、故障を判定するための断線故障判定電位として、直流電源2の正極電位および負極電位以外にも第1内部電源回路111の正極電位を有することにより、界磁巻線4の一部が断線した場合には、故障診断状態における界磁巻線4の電圧が、断線故障判定電位である第1内部電源回路111の正極電圧に実質的に等しくなるようにして、故障要因として天絡故障および地絡故障と、断線故障とを区別できるようにしている。
【0032】
図1に示す直流電源2は、例えば、一般的に自動車用の電源として用いられる鉛蓄電池(バッテリ)、リチウムイオン電池、または、電気二重層コンデンサ等を用いて構成される。また、第1内部電源回路111は、例えば、DCDCコンバータ、シリーズレギュレータ、または、定電圧ダイオード等を用いて構成される。また、吐き出し型定電流回路112は、例えば、定電流ダイオード、または、カレントミラー回路などのトランジスタを用いて構成される。
【0033】
界磁駆動回路6は、例えば、チャージポンプ回路、または、ブートストラップコンデンサ回路による駆動電源を使ったプッシュプル型のプリドライバ等を用いて構成される。また、PWMスイッチング素子62、および診断用スイッチング素子13は、例えば、MOSFETまたはIGBTなどのパワー半導体スイッチング素子を用いて構成される。
【0034】
還流素子61は、例えば、ダイオードの他にも、PWMスイッチング素子62と同様に、MOSFETなどのパワー半導体スイッチング素子を用いて構成される。ここで、MOSFETを使用する場合は、MOSFET駆動回路を設けるとともに、還流中にMOSFETをオンさせることで、還流素子61の損失を低減することも可能である。
【0035】
電圧測定部14は、例えば、トランジスタ、または、オペアンプ等を用いた差動増幅回路で構成される。また、故障判定部15は、例えば、マイコンやASICのようなロジック回路あるいはコンパレータのような比較器等を用いて構成される。
【0036】
次に、界磁巻線4に微小定電流を流す吐き出し型定電流回路112の定電流値と、プルダウン抵抗120の抵抗値を適切に設定することにより、直流電源2と界磁巻線4との間にリーク電流が存在する場合でも、地絡故障の誤判定を抑制することができる方法について説明する。
【0037】
まず、プルダウン抵抗120の抵抗値の設定方法について説明する。プルダウン抵抗120の抵抗値は、界磁巻線4の天絡故障、または、界磁駆動回路6において、上アームを構成するPWMスイッチング素子62の短絡故障によって、界磁巻線4の結線端部の電圧が直流電源2の正極電圧まで上昇し、大きな電流が流れても焼損しないように設定する必要がある。
【0038】
具体的には、直流電源2の正極電圧は直流電源2の充放電状態によって変動するので、例えば、界磁巻線方式回転電機が正常に動作する直流電源2の正極電圧の変動範囲の最大値をBatt(MAX)とすると、プルダウン抵抗120の抵抗値Rpdは、下式(1)を満たす必要がある。
Rpd>Batt(MAX)
2/(P×α) (1)
【0039】
ここで、プルダウン抵抗120の定格電力をP、温度ディレーティングなどの安全係数をα(例えば、0.7、または、0.8)とした。
【0040】
加えて、上アームを構成するPWMスイッチング素子62がオフの状態においても、直流電源2の正極から界磁駆動回路6を経由して界磁巻線4へ流れるリーク電流(以下、第1リーク電流I1という)が存在するので、この第1リーク電流I1によってプルダウン抵抗120の正極側端部の電位が上昇し、界磁巻線4の故障検出のために流す微小電流が流れなくなる事象を回避する必要がある。
【0041】
従って、プルダウン抵抗120の抵抗値Rpdは、下式(2)を満たす必要がある。
Rpd<(Vcc−Vf)/I1 (2)
【0042】
ここで、第1内部電源回路111の正極電圧をVcc、第1ダイオード113の順方向電圧降下をVfとした。
【0043】
次に、吐き出し型定電流回路112の定電流値の設定方法について説明する。界磁巻線4と直流電源2との間のリーク電流は、上述の第1リーク電流I1以外にも、界磁巻線4から直流電源2の負極へ流れるリーク電流(以下、第2リーク電流I2という)が存在するので、界磁巻線4の結線端部の電圧を、直流電源2の負極電圧と区別して判定するためには、界磁巻線4の結線端部の電圧と直流電源2の負極電圧との間には電位差が必要となる。
【0044】
従って、吐き出し型定電流回路112の定電流値Icpは、下式(3)を満たす必要がある。
Icp≧VLg/Rpd+VLg/RLg(=I2)−I1 (3)
【0045】
ここで、想定されるリーク抵抗の最小値をRLg、地絡故障と区別して判定できる電位差をVLg、プルダウン抵抗120の抵抗値をRpdとした。
【0046】
このように、吐き出し型定電流回路112の定電流値、およびプルダウン抵抗120の抵抗値を適切に設定することにより。直流電源2と界磁巻線4との間にリーク電流が存在する場合でも、地絡故障の誤判定を抑制することができる。また、プルダウン抵抗120の消費電力を抑制できる。
【0047】
次に、
図2は、本発明の実施の形態1に係る界磁巻線方式回転電機の診断方法を示すフローチャートである。以下、
図2を用いて、故障判定部15の動作について説明する。
【0048】
図2に示す界磁巻線方式回転電機の診断方法は、PWMスイッチング素子62および診断用スイッチング素子13がオフであり、かつ、電機子巻線3の相対回転運動による誘導電流が界磁巻線4に流れていない状態(以下、故障診断状態という)において実施される。
【0049】
故障判定部15は、故障診断状態において、界磁巻線方式回転電機の制御部(図示せず)、または、界磁巻線方式回転電機の上位コントローラ(図示せず)から、故障診断の開始信号を受け取ったときに、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路の故障診断を開始する。
【0050】
まず、ステップS100において、故障判定部15は、電圧測定部14が測定する界磁巻線4の結線端部の測定電圧を取得する。
【0051】
次に、ステップS101において、故障判定部15は、電圧測定部14による界磁巻線4を含む回路の測定電圧が、直流電源2の正極電圧と実質的に等しいか否か(=直流電源2の正極電位を含む天絡故障判定電圧範囲内か否か)を調べる。そして、等しい場合はステップS102へ進み、天絡故障と判定して故障診断を終了する。一方、等しくない場合はステップS103へ進む。
【0052】
次に、ステップS103において、故障判定部15は、電圧測定部14による界磁巻線4を含む回路の測定電圧が、直流電源2の負極電圧と実質的に等しいか否か(=直流電源2の負極電位を含む地絡故障判定電圧範囲内か否か)を調べる。そして、等しい場合はステップS104へ進み、地絡故障と判定して故障診断を終了する。一方、等しくない場合はステップS105へ進む。
【0053】
次に、ステップS105において、故障判定部15は、電圧測定部14による界磁巻線4を含む回路の測定電圧が、断線故障を判定するための断線故障判定電位である第1内部電源回路111の正極電圧と実質的に等しいか否か(=断線故障判定電位を含む断線故障判定電圧範囲内であるか否か)を調べる。そして、等しい場合はステップS106へ進み、断線故障と判定して故障診断を終了する。一方、等しくない場合はステップS107へ進む。
【0054】
次に、ステップS107において、故障判定部15は、界磁駆動回路6および界磁巻線4を含む界磁回路には、天絡故障、地絡故障、または断線故障のいずれも発生していないと判定して故障診断を終了する。
【0055】
なお、直流電源2の正極電圧は直流電源2の充放電状態によって変動するので、
図2に示す界磁巻線方式回転電機の診断方法において、天絡故障を正しく検出するためには、第1内部電源回路111の正極電圧は、界磁巻線方式回転電機が正常に動作する直流電源2の正極電圧の電圧変動範囲の最小値よりも低く設定するようにする。
【0056】
あるいは、第1診断回路11に定電圧部114を設けることにより、第1内部電源回路111の正極電圧が、界磁巻線方式回転電機が正常に動作する直流電源2の正極電圧よりも高い場合でも、天絡故障を正しく検出できるようにすることが可能である。以下、この方法について説明する。
【0057】
図3は、本発明の実施の形態1に係る界磁巻線方式回転電機の診断装置1の構成の第2の例示図である。
図3に示す第1診断回路11は、
図1と比較して、吐き出し型定電流回路112と第1ダイオード113との間に直列に挿入された定電圧部114を更に備えている。
【0058】
その他の構成は、
図1と同じであり、
図3に示す診断装置1の構成においても、
図2に示すフローチャートに従うことで、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路を故障診断することができる。
【0059】
定電圧部114は、第1内部電源回路111の正極電圧と界磁巻線4の結線端部の電圧との電位差を拡大(または増幅)させるためのものである。定電圧部114は、例えば、第1内部電源回路111の正極側にカソード側が接続された定電圧ダイオードを用いて構成される。あるいは、定電圧部114は、ダイオードの順方向電圧降下を利用して、第1内部電源回路111の正極側にアノード側が接続された少なくとも1つ以上のダイオードを用いて構成することも可能である。
【0060】
図3に示すように、定電圧部114を、第1診断回路11の第1内部電源回路111と界磁巻線4の間に挿入することにより、故障診断状態における界磁巻線4の結線端部の電圧を引き下げることができる。すなわち、定電圧部114を第1診断回路11に挿入することは、第1内部電源回路111の正極電圧を、定電圧部114による電圧降下分だけ低く設定し直すことと回路的に等価である。
【0061】
従って、第1内部電源回路111の正極電圧が、直流電源2の正極電圧よりも高い場合でも、両者の正極電圧の電圧差よりも大きい電圧降下を有する定電圧部114を第1診断回路11に挿入することにより、第1内部電源回路111の正極電圧を直流電源2の正極電圧よりも低く設定した回路を等価的に実現することができる。
【0062】
なお、
図3に示す定電圧部114を設けた構成では、プルダウン抵抗120が満たすべき上式(2)は、定電圧部114による電圧降下をVzdとして、下式(4)のように置き換えられる。
Rpd<(Vcc−Vf−Vzd)/I1 (4)
【0063】
また、
図4は、本発明の実施の形態1に係る界磁巻線方式回転電機の診断装置1の構成の第3の例示図である。
図4に示す診断装置1は、
図1と比較して、PWMスイッチング素子62が、還流素子61の正極側端部ではなく負極側端部に接続されている。また、診断用スイッチング素子13が、還流素子61と界磁巻線4との負極側端部同士ではなく正極側端部同士の接続をオンまたはオフしている。
【0064】
その他の構成は、
図1と同じであり、
図4に示す診断装置1の構成においても、
図2に示すフローチャートに従うことで、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路を故障診断することができる。
【0065】
図4に示す構成では、還流素子61がダイオードである場合には、上アームを構成する還流素子61の駆動回路が不要となるので、直流電源2の正極から界磁駆動回路6を経由して界磁巻線4へ流れる第1リーク電流I1が発生しない。従って、上式(2)は考慮する必要がなく、プルダウン抵抗120の満たすべき条件は、上式(1)のみとなり、プルダウン抵抗120の満たすべき条件を緩和することができる。
【0066】
以上のように、実施の形態1によれば、故障を判定するための電位として、直流電源の正極電位および負極電位以外にも第1内部電源回路による断線故障判定電位を有することにより、界磁巻線の一部が断線した場合には、故障診断状態における界磁巻線の測定電圧が、断線故障判定電位に実質的に等しくなるようにしている。また、界磁巻線に微小定電流を流す吐き出し型定電流回路の定電流値と、界磁巻線の負極側端部に接続されたプルダウン抵抗の抵抗値を上式(1)〜(4)のように適切に設定している。
【0067】
この結果、界磁駆動回路および界磁巻線を含む界磁回路の天絡故障および地絡故障を、断線故障と区別して故障要因を判定でき、直流電源と界磁巻線との間にリーク電流が存在する場合でも、地絡故障の誤判定を抑制することができる界磁巻線方式回転電機の診断装置および界磁巻線方式回転電機の診断方法を得ることができる。
【0068】
また、プルダウン抵抗の消費電力を抑制するとともに、天絡故障によって界磁巻線の結線端部の電圧が直流電源の正極電圧まで上昇した場合でも、プルダウン抵抗が焼損することがなく、二次故障を防止できる。
【0069】
また、第1内部電源回路の正極電圧を、界磁巻線方式回転電機が正常に動作する直流電源の正極電圧の電圧変動範囲の最小値よりも低く設定することにより、天絡故障を正しく検出することができる。
【0070】
あるいは、
図3に示すように、定電圧部を設けて、界磁巻線の結線端部の電圧を引き下げることにより、直流電源の正極電圧が第1内部電源回路の正極電圧の値より低い場合でも、天絡故障を正しく検出することができる。
【0071】
更に、
図4に示すように、PWMスイッチング素子を、還流素子の負極側端部に接続するとともに、診断用スイッチング素子を、還流素子と界磁巻線との正極側端部同士の接続をオンまたはオフさせる構成を採用することもできる。このような構成を採用することで、還流素子がダイオードである場合には、上アームを構成する還流素子の駆動回路が不要となるので第1リーク電流I1が発生せず、プルダウン抵抗の満たすべき条件を緩和することができる。
【0072】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、診断装置1に吐き出し型定電流回路112を備え、吐き出し型定電流回路112の定電流を適切に設定することにより、直流電源2と界磁巻線4との間にリーク電流が存在する場合でも、地絡故障の誤判定を抑制することができる方法について説明した。これに対して、本実施の形態2では、界磁巻線4にブラシの酸化皮膜による接触抵抗が存在する場合においても、吐き出し型定電流回路112の定電流値と、プルダウン抵抗120の抵抗値とを適切に設定することができる方法について説明する。
【0073】
界磁巻線4は、ブラシを介した電気接触であるため、界磁巻線4に流れる電流が小さい場合には、ブラシの酸化皮膜による接触抵抗が大きくなってしまう。従って、直流電源2と界磁巻線4との間にリーク電流が存在する場合には、天絡故障および地絡故障の誤判定を抑制するために、先の実施の形態1において設定した吐き出し型定電流回路112およびプルダウン抵抗120が満たすべき条件式(1)〜(4)を、界磁巻線4の接触抵抗を考慮して補正する必要がある。
【0074】
以下、
図5を用いて、吐き出し型定電流回路112およびプルダウン抵抗120が満たすべき条件式を、界磁巻線4の接触抵抗を考慮して補正する方法を説明する。
【0075】
図5は、本発明の実施の形態2に係る界磁巻線方式回転電機の診断装置1の構成の例示図である。
図5に示す診断装置1の第2診断回路12は、
図1と異なり、第2内部電源回路121と、界磁巻線4の負極側端部の電圧を第2内部電源回路121の正極電圧にプルダウンするプルダウン抵抗120とを備えて構成される。
【0076】
更に、
図5に示す電圧測定部14は、界磁巻線4の正極側端部ではなく、界磁巻線4の負極側端部の電圧を測定している。
【0077】
その他の構成は、
図1と同じであり、
図5に示す診断装置1の構成においても、
図2に示すフローチャートに従うことで、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路を故障診断することができる。但し、
図2のステップS105における断線故障判定電位は、第1内部電源回路111の正極電圧ではなく、第2内部電源回路121の正極電圧とする必要がある。
【0078】
図5において、電圧測定部14を、界磁巻線4の正極側端部ではなく、界磁巻線4の負極側端部に接続させているのは、
図1の構成では、界磁巻線4が接触抵抗を有する場合の地絡故障時において、界磁巻線4の正極側端部の電圧が、直流電源2の負極電圧と実質的に等しくならないため、地絡故障が検出できないという課題を解決するためである。
【0079】
図5に示すように、電圧測定部14を、界磁巻線4の負極側端部に接続することにより、界磁巻線4が接触抵抗を有する場合でも地絡故障を検出できるようになる。しかしながら、代わりに、断線故障時における界磁巻線4の負極側端部の電圧が、断線故障判定電位である第1内部電源回路111の正極電圧に実質的に等しくならなくなるため、断線故障が検出できなくなってしまう。
【0080】
そこで、本実施の形態2における界磁巻線方式回転電機の診断装置1は、第2内部電源回路121とプルダウン抵抗120とを備えることにより、断線故障判定電位として第2内部電源回路121の正極電圧を有して、断線故障を検出できるようにしている。
【0081】
第2内部電源回路121は、第1内部電源回路111と同様に、例えば、DCDCコンバータ、シリーズレギュレータ、または、定電圧ダイオード等を用いて構成される。また、第2内部電源回路121の正極電圧は、第1内部電源回路111の正極電圧に対して充分に小さく設定する。例えば、第2内部電源回路121の正極電圧は、第1内部電源回路111の正極電圧に対して10分の1に設定する方法が考えられる。
【0082】
また、更に、第2内部電源回路121は、界磁巻線方式回転電機が正常に動作する直流電源2の正極電圧の変動範囲の最大値が、界磁巻線4の結線端部に印加された場合において、プルダウン抵抗120に流れる電流量を吸い込むことができる電流容量が必要である。
【0083】
先の実施の形態1において設定した吐き出し型定電流回路112およびプルダウン抵抗120が満たすべき条件式(1)〜(4)は、界磁巻線4が接触抵抗を有する場合には、それぞれ、下式(5)〜(8)に置き換えられる。
Rpd>(Batt(MAX)−Vccs)
2/(P×α) (5)
Rpd<(Vcc−Vf−Vccs)/I1−Rb (6)
Icp≧VLg/RLg+(VLg−Vccs)/Rpd−I1
+Rb(VLg−Vccs)/RLg/Rpd (7)
Rpd<(Vcc−Vf−Vccs−Vzd)/I1−Rb (8)
ここで、Vccsは第2内部電源回路121の正極電圧、Rbは想定されるブラシの酸化皮膜による接触抵抗値である。
【0084】
以上のように、実施の形態2によれば、第2診断回路を、第2内部電源回路と、界磁巻線の負極側端部の電圧を第2内部電源回路の正極電圧にプルダウンするプルダウン抵抗とを備えて構成し、電圧測定部は、界磁巻線の負極側端部の電圧を測定するようにしている。また、吐き出し型定電流回路の定電流値と、プルダウン抵抗の抵抗値とを適切に設定している。
【0085】
この結果、直流電源と界磁巻線との間にリーク電流が存在する場合で、かつ、界磁巻線にブラシの酸化皮膜による接触抵抗が存在する場合においても、天絡故障および地絡故障の誤判定を抑制することができる。
【0086】
実施の形態3.
先の実施の形態1では、診断装置1に吐き出し型定電流回路112を備え、吐き出し型定電流回路112の定電流を適切に設定することにより、直流電源2と界磁巻線4との間にリーク電流が存在する場合でも、地絡故障の誤判定を抑制することができる方法について説明した。これに対して、本実施の形態3では、吐き出し型定電流回路112の代わりに吸い込み型定電流回路122を備え、吸い込み型定電流回路122の定電流を適切に設定することにより、直流電源2と界磁巻線4との間にリーク電流が存在する場合でも、天絡故障の誤判定を抑制することができる方法について説明する。
【0087】
図6は、本発明の実施の形態3に係る界磁巻線方式回転電機の診断装置1の構成の例示図である。
図6に示す診断装置1の第1診断回路11は、
図1と比較して、吐き出し型定電流回路112の代わりにプルアップ抵抗110を備えている。また、
図6に示す診断装置1の第2診断回路12は、
図1と比較して、プルダウン抵抗120の代わりに吸い込み型定電流回路122を備えている。
【0088】
その他の構成は、
図1と同じであり、
図6に示す診断装置1の構成においても、
図2に示すフローチャートに従うことで、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路を故障診断することができる。
【0089】
なお、
図6では、吸い込み型定電流回路122を備える第2診断回路12が、界磁巻線4の負極側端部に接続された例を示しているが、第2診断回路12は、界磁巻線4の正極側端部にされていてもよい。この場合、第1診断回路11は、界磁巻線4の負極側端部に接続される。
【0090】
吸い込み型定電流回路122は、
図1に示した吐き出し型定電流回路112と同様に、例えば、定電流ダイオード、または、カレントミラー回路などのトランジスタを用いて構成される。
【0091】
まず、吸い込み型定電流回路122の定電流値の設定方法について説明する。吸い込み型定電流回路122の定電流値としては、前述の吐き出し型定電流回路112と同様に、界磁巻線4から直流電源2の正極へ流れるリーク電流(以下、第3リーク電流I3という)が存在する場合に、界磁巻線4の結線端部の電圧と直流電源2の正極電圧とが区別して判定できるだけの電位差が必要となる。
【0092】
ここで、第3リーク電流I3の発生時における界磁巻線4の結線端部の電圧が、無故障時の界磁巻線4の結線端部の電圧よりも大きければ、第1内部電源回路111からの電流は流れないので、吸い込み型定電流回路122の定電流値の設定が容易になる。
【0093】
従って、吸い込み型定電流回路122の定電流値Icdは、下式(9)を満たす必要がある。
Icd≦(Batt(MIN)−VFHS)/RLt(=I3)+I1 (9)
【0094】
ここで、故障診断状態において、無故障時の界磁巻線4の結線端部の電圧をVFHS、界磁巻線方式回転電機が正常に動作する直流電源2の電圧変動範囲の最小値をBatt(MIN)、第3リーク電流I3発生時に想定されるリーク抵抗の最小値をRLtとした。
【0095】
また、上アームを構成するPWMスイッチング素子62がオフの状態においても、直流電源2の正極から界磁駆動回路6を経由して界磁巻線4へ流れる第1リーク電流I1が存在するので、吸い込み型定電流回路122の定電流値は、少なくとも第1リーク電流I1よりも大きく設定する必要がある。
【0096】
そうでなければ、第1リーク電流I1がPWMスイッチング素子62のボディダイオードを通って直流電源2へ流れ出し、界磁巻線4の結線端部の電圧が直流電源2の正極電圧以上になるので、故障判定部15は天絡故障であると誤判定してしまう。
【0097】
従って、直流電源2の正極電圧へのリーク時に必要な電位差VLt、および想定されるリーク抵抗の最小値RLtから算出される定電流値に、第1リーク電流I1を加算することにより、定電流値Icdが満たすべき条件は、下式(10)のようになる。
Icd≧VLt/RLt+I1 (10)
【0098】
次に、プルアップ抵抗110の抵抗値の設定方法について説明する。プルアップ抵抗110は、
図3に示した定電圧部114と同様に、無故障時における界磁巻線4の結線端部の電圧を引き下げる役割がある。従って、プルアップ抵抗110の抵抗値Rpuは、下式(11)を満たす必要がある。
Rpu≧(Vcc−Vf−VFHS)/(Icd−I1) (11)
【0099】
ここで、無故障時の界磁巻線4の結線端部の電圧をVFHS、第1内部電源回路111の正極電圧をVcc、第1ダイオード113の順方向電圧降下をVf、吸い込み型定電流回路122の定電流値をIcdとした。
【0100】
また、プルアップ抵抗110を流れる電流は、界磁巻線4の結線端部が地絡した場合において最も大きくなるので、プルアップ抵抗110の定格電力は、その電流に耐えられなければならない。
【0101】
従って、プルアップ抵抗110の抵抗値Rpuは、下式(12)を満たす必要がある。
Rpu>(Vcc−Vf)
2/(P×α) (12)
【0102】
ここで、プルアップ抵抗110の定格電力をP、温度ディレーティングなどの安全係数をα(例えば、0.7、または、0.8)、第1内部電源回路111の正極電圧をVcc、第1ダイオード113の順方向電圧降下をVfとした。
【0103】
加えて、故障判定部15が、地絡故障を誤判定しないようにするためには、プルアップ抵抗110の抵抗値は、上式(11)および上式(12)を満たすとともに、界磁巻線4から直流電源2の負極電圧へのリーク抵抗の想定される最小値に対して、下式(13)を満たす必要がある。
Rpu≦(Vcc−Vf−VLg)/(Icd−I1+VLg/RLg) (13)
【0104】
ここで、想定されるリーク抵抗の最小値をRLg、直流電源2の負極電圧へのリーク時に地絡誤判定を回避するために必要な電位差をVLg、第1内部電源回路111の正極電圧をVcc、第1ダイオード113の順方向電圧降下をVf、吸い込み型定電流回路122の定電流値をIcdとした。
【0105】
以上のように、実施の形態3によれば、吐き出し型定電流回路の代わりに吸い込み型定電流回路を備え、吸い込み型定電流回路の定電流と、界磁巻線の正極側端部に接続されたプルアップ抵抗の抵抗値とを適切に設定するようにしている。
【0106】
この結果、界磁駆動回路および界磁巻線を含む界磁回路の天絡故障および地絡故障を、断線故障と区別して故障要因を判定でき、直流電源と界磁巻線との間にリーク電流が存在する場合でも、天絡故障の誤判定を抑制することができる界磁巻線方式回転電機の診断装置および界磁巻線方式回転電機の診断方法を得ることができる。
【0107】
また、プルアップ抵抗の消費電力を抑制するとともに、地絡故障によって界磁巻線の結線端部の電圧が直流電源の負極電圧まで低下した場合でも、プルアップ抵抗が焼損することがなく、二次故障を防止できる。更に、直流電源の正極電圧が第1内部電源回路の正極電圧より低い場合でも、天絡故障を正しく検出できる。
【0108】
実施の形態4.
先の実施の形態1では、診断装置1に吐き出し型定電流回路112を備え、吐き出し型定電流回路112の定電流を適切に設定することにより、直流電源2と界磁巻線4との間にリーク電流が存在する場合でも、地絡故障の誤判定を抑制することができる方法について説明した。また、先の実施の形態3では、吐き出し型定電流回路112の代わりに吸い込み型定電流回路122を備え、吸い込み型定電流回路122の定電流を適切に設定することにより、直流電源2と界磁巻線4との間にリーク電流が存在する場合でも、天絡故障の誤判定を抑制することができる方法について説明した。これに対して、本実施の形態4では、診断装置1に吐き出し型定電流回路112と吸い込み型定電流回路122の両方を備えることにより、直流電源2と界磁巻線4との間にリーク電流が存在する場合でも、地絡故障および天絡故障の誤判定を抑制することができる方法ついて説明する。
【0109】
図7は、本発明の実施の形態4に係る界磁巻線方式回転電機の診断装置1の構成の例示図である。
図7に示す診断装置1の第2診断回路12は、
図1と比較して、プルダウン抵抗120と直流電源2の負極との間に直列に挿入された吸い込み型定電流回路122を更に備えている。
【0110】
その他の構成は、
図1と同じであり、
図7に示す診断装置1の構成においても、
図2に示すフローチャートに従うことで、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路を故障診断することができる。
【0111】
図7に示す診断装置1の構成においても、吐き出し型定電流回路112の定電流値の設定値は、上式(3)をそのまま適用することができる。また、吸い込み型定電流回路122の定電流値の設定値は、上式(10)をそのまま適用することができる。
【0112】
この結果、界磁巻線4から直流電源2の負極へ流れる第2リーク電流I2、および界磁巻線4から直流電源2の正極へ流れる第3リーク電流I3が存在する場合でも、地絡故障および天絡故障の誤判定を抑制することができる。
【0113】
次に、プルダウン抵抗120は、
図3に示した定電圧部114と同様に、無故障時における界磁巻線4の結線端部の電圧を引き上げる役割がある。
【0114】
すなわち、故障診断状態において、無故障時の界磁巻線4の結線端部の電圧をVFHS、吸い込み型定電流回路122の定電流値をIcdとして、プルダウン抵抗120の抵抗値Rpdは、下式(14)を満たす値となる。
Rpd>VFHS/Icd (14)
【0115】
また、界磁巻線4から直流電源2の負極へ流れる第2リーク電流I2の発生時に、吸い込み型定電流回路122へ流れる電流を制限しないように、プルダウン抵抗120の抵抗値Rpdは、下式(15)を満たす必要がある。
Rpd<Batt(MIN)/Icd−RLt (15)
【0116】
ここで、界磁巻線方式回転電機が正常に動作する直流電源2の電圧変動範囲の最小値をBatt(MIN)、吸い込み型定電流回路122の定電流値をIcd、第3リーク電流I3発生時に想定されるリーク抵抗の最小値をRLtとした。
【0117】
更に、プルダウン抵抗120は、吸い込み型定電流回路122の定電流が流れ続けても焼損しないように抵抗値を設定する必要がある。具体的には、例えば、プルダウン抵抗120の定格電力をP、温度ディレーティングなどの安全係数をα(例えば、0.7、または、0.8)、吸い込み型定電流回路122の定電流値をIcdとした場合、プルダウン抵抗120の抵抗値Rpdは、下式(16)を満たす必要がある。
Rpd<P×α/Icd
2 (16)
【0118】
以上のように、実施の形態4によれば、診断装置に吐き出し型定電流回路と吸い込み型定電流回路の両方を備え、吐き出し型定電流回路および吸い込み型定電流回路の定電流と、界磁巻線の結線端部に接続されたプルダウン抵抗の抵抗値を適切に設定するようにしている。
【0119】
この結果、界磁駆動回路および界磁巻線を含む界磁回路の天絡故障および地絡故障を、断線故障と区別して故障要因を判定でき、直流電源と界磁巻線との間にリーク電流が存在する場合でも、地絡故障および天絡故障の誤判定を抑制することができる界磁巻線方式回転電機の診断装置および界磁巻線方式回転電機の診断方法を得ることができる。
【0120】
また、プルダウン抵抗の消費電力を抑制するとともに、界磁巻線の結線端部が直流電源の正極または負極に短絡した場合でも、プルダウン抵抗が焼損することがなく、二次故障を防止できる。更に、直流電源の正極電圧が第1内部電源回路の正極電圧より低い場合でも、天絡故障を正しく検出できる。
【0121】
実施の形態5.
先の実施の形態1〜4では、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路の、天絡故障、地絡故障、および、断線故障を診断する方法について説明した。これに対して、本実施の形態5では、更に、PWMスイッチング素子62、診断用スイッチング素子13、あるいは還流素子61として用いられるMOSFETなどのパワー半導体スイッチング素子の駆動不能を診断する方法について説明する。
【0122】
図8Aは、本発明の実施の形態5に係る界磁巻線方式回転電機の診断方法を示す第1のフローチャートである。また、
図8Bは、本発明の実施の形態5に係る界磁巻線方式回転電機の診断方法を示す第2のフローチャートである。
【0123】
PWMスイッチング素子62、診断用スイッチング素子13、あるいは還流素子61の駆動不能としては、パワー半導体スイッチング素子がオンできない故障と、パワー半導体スイッチング素子がオフできない故障とが含まれる。
【0124】
本実施の形態5で説明するPWMスイッチング素子62、診断用スイッチング素子13、あるいは還流素子61の駆動不能の診断は、
図2に示すフローチャートに従って界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路の故障が無いことを確認した後に実施する。以下、
図8Aおよび
図8Bを用いて、故障判定部15の動作について説明する。
【0125】
まず、
図8AのステップS300において、故障判定部15は、界磁駆動回路6、または、例えば、チャージポンプ回路、あるいは、ブートストラップコンデンサ回路による駆動電源を使ったプッシュプル型のプリドライバ(図示せず)などを介して、PWMスイッチング素子62、診断用スイッチング素子13、あるいは還流素子61として用いられるMOSFETなどのパワー半導体スイッチング素子のうち、直流電源2の負極に接続されている第2スイッチング素子を個別にオンさせる。そして、界磁巻線4の結線端部の電圧が安定するまでの時間待つ(以下、時間Tmとする。)。時間Tmの設定方法の詳細については、後述する。
【0126】
次に、ステップS301において、故障判定部15は、電圧測定部14が測定する界磁巻線4を含む回路の測定電圧を取得する。
【0127】
次に、ステップS302において、故障判定部15は、電圧測定部14による界磁巻線4を含む回路の測定電圧が、直流電源2の負極電圧より実質的に高いか否かを調べる。そして、高い場合はステップS303へ進み、第2スイッチング素子のオン駆動不能が発生していると判定し、故障診断を終了する。一方、高くない場合は、ステップS304へ進む。
【0128】
次に、ステップS304において、故障判定部15は、界磁駆動回路6あるいは、プリドライバなどを介して第2スイッチング素子をオフする。そして、界磁巻線4の結線端部の電圧が安定するまで時間Tmを待ち、ステップS305へ進む。
【0129】
次に、ステップS305において、故障判定部15は、電圧測定部14が測定する界磁巻線4を含む回路の測定電圧を取得する。
【0130】
次に、ステップS306において、故障判定部15は、電圧測定部14による界磁巻線4を含む回路の測定電圧が、直流電源2の負極電圧に実質的に等しいか否かを調べる。そして、等しい場合はステップS303へ進み、第2スイッチング素子のオフ駆動不能が発生していると判定し、故障診断を終了する。一方、等しくない場合は、
図8BのステップS307へ進む。
【0131】
なお、還流素子61がパワー半導体スイッチング素子であり、
図1に示すように診断用スイッチング素子13とともに直流電源2の負極電圧に接続されている場合は、第2スイッチング素子が複数存在することになる。このような場合には、診断用スイッチング素子13と還流素子61とを個別に診断するため、
図8Aに示す各ステップをそれぞれのスイッチング素子ついて個別に実行する。
【0132】
次に、
図8BのステップS307において、故障判定部15は、界磁駆動回路6あるいは、プリドライバなどを介して、PWMスイッチング素子62、診断用スイッチング素子13、あるいは還流素子61として用いられるMOSFETなどのパワー半導体スイッチング素子のうち、直流電源2の正極に接続されている第1スイッチング素子を個別にオンさせる。そして、ステップS300と同様に、界磁巻線4の結線端部の電圧が安定するまで時間Tmを待つ。
【0133】
次に、ステップS308において、故障判定部15は、電圧測定部14が測定する界磁巻線4を含む回路の測定電圧を取得する。
【0134】
次に、ステップS309において、故障判定部15は、電圧測定部14による界磁巻線4を含む回路の測定電圧が、直流電源2の正極電圧より実質的に低いか否かを調べる。そして、低い場合はステップS310へ進み、第1スイッチング素子のオン駆動不能が発生していると判定し、故障診断を終了する。一方、低くない場合は、ステップS311へ進む。
【0135】
次に、ステップS311において、故障判定部15は、界磁駆動回路6あるいは、プリドライバなどを介して第1スイッチング素子をオフする。そして、界磁巻線4の結線端部の電圧が安定するまで時間Tmを待ち、ステップS312へ進む。
【0136】
次に、ステップS312において、故障判定部15は、電圧測定部14が測定する界磁巻線4を含む回路の測定電圧を取得する。
【0137】
次に、ステップS313において、故障判定部15は、電圧測定部14による界磁巻線4を含む回路の測定電圧が、直流電源2の正極電圧に実質的に等しいか否かを調べる。そして、等しい場合はステップS310へ進み、第1スイッチング素子のオフ駆動不能が発生していると判定し、故障診断を終了する。一方、等しくない場合はステップS314へ進む。
【0138】
次に、ステップS314において、故障判定部15は、PWMスイッチング素子62、診断用スイッチング素子13、あるいは還流素子61等のパワー半導体スイッチング素子に駆動不能は無いと判定し、故障診断を終了する。
【0139】
なお、
図8AのステップS300、S304、および
図8BのステップS307、S311における、界磁巻線4の結線端部の電圧が安定するまでの時間Tmは、例えば、
図6に示す構成において、直流電源2の負極電圧に接続されているPWMスイッチング素子62、または、診断用スイッチング素子13などのパワー半導体スイッチング素子をオンさせた場合には、下式(17)で規定する。
Tm≧−τ×ln(β) (17)
【0140】
ここで、界磁巻線4のインダクタンスをLcf、プルアップ抵抗110の抵抗値をRpu、界磁巻線4のインダクタンスLcfと抵抗値Rpuとで決まるLR回路の時定数をτ、界磁巻線4の結線端部の電圧が安定したと判断できる係数として界磁巻線4の結線端部の電圧の直流電源2の負極電圧に対する割合をβとした。
【0141】
例えば、β=0.05とした場合、時間Tmは時定数τの3倍ほど必要となる。なお、
図6に示す構成において、直流電源2の負極電圧に接続されているPWMスイッチング素子62や、診断用スイッチング素子13などのパワー半導体スイッチング素子をオンさせた場合、
図8AのステップS300およびステップS301において、界磁巻線4の結線端部の電圧が直流電源2の正極電圧に対し、63.2%になるまでの時間を測定し、前述の時定数τと比較することで、界磁巻線4の短絡を調べることも可能である。
【0142】
すなわち、界磁巻線4の結線端部の電圧が直流電源2の正極電圧に対し、63.2%になるまでの時間が前述の時定数τよりも充分に短い場合は、界磁巻線4が短絡していると判定する。
【0143】
なお、
図8Aおよび
図8Bでは、直流電源2の正極に接続されている第1スイッチング素子と直流電源2の負極に接続されている第2スイッチング素子のうち、第2スイッチング素子の駆動不能の診断を先に実施している。
【0144】
特に、界磁駆動回路6などにおいて、ブートストラップコンデンサ回路による駆動電源を使ったプッシュプル型のプリドライバ(図示せず)を使用している場合は、直流電源2の負極電圧に接続されているパワー半導体スイッチング素子から先に故障判定処理を実施し、ブートストラップコンデンサを充電する必要がある。
【0145】
以上のように、実施の形態5によれば、界磁巻線および界磁駆動回路を含む界磁回路に、天絡故障、地絡故障、断線故障が無いことを確認した後、更に、PWMスイッチング素子や、診断用スイッチング素子、あるいは還流素子として用いられるMOSFETなどのパワー半導体スイッチング素子を個別にオンおよびオフし、界磁巻線の結線端部の測定電圧を調べている。
【0146】
この結果、PWMスイッチング素子、診断用スイッチング素子、あるいは還流素子として用いられるMOSFETなどのパワー半導体スイッチング素子の駆動不能を診断することができる。
【0147】
また、PWMスイッチング素子や、診断用スイッチング素子、あるいは還流素子として用いられるMOSFETなどのパワー半導体スイッチング素子を個別にオンおよびオフした後、界磁巻線の結線端部の電圧が安定するまで時間Tm待つようにしたので、界磁巻線の結線端部の電圧が電圧過渡期において駆動不能故障を誤判定することが防止できる。
【0148】
更に、直流電源の正極に接続されている第1スイッチング素子と、直流電源の負極に接続されている第2スイッチング素子のうち、第2スイッチング素子の駆動不能の診断を先に実施するようにしたので、界磁駆動回路等において、ブートストラップコンデンサ回路による駆動電源を使ったプッシュプル型のプリドライバを使用している場合は、ブートストラップコンデンサを充電でき、ブートストラップコンデンサの充電不足によってパワー半導体スイッチング素子がオンできない事象を回避することができる。
【0149】
なお、本実施の形態5で説明するPWMスイッチング素子62、診断用スイッチング素子13、あるいは還流素子61の駆動不能の診断方法は、先の実施の形態1〜4における界磁巻線方式回転電機の診断装置1のいずれに対しても適用が可能である。
【0150】
実施の形態6.
本実施の形態6では、第1診断回路11および第2診断回路12への電源の供給をオンまたはオフするスイッチをそれぞれ設けることにより、故障診断を行わない通常動作時において、界磁巻線方式回転電機の診断装置1の消費電力を抑制する方法について説明する。
【0151】
図9は、本発明の実施の形態2に係る界磁巻線方式回転電機の診断装置1の構成の例示図である。
図9に示す診断装置1は、
図1と比較して、第1診断回路11への電源の供給をオンまたはオフする第1のスイッチ115を更に備えている。また、第2診断回路12への電源の供給をオンまたはオフする第2のスイッチ125を更に備えている。
【0152】
その他の構成は、
図1と同じであり、
図9に示す診断装置1の構成においても、
図2に示すフローチャートに従うことで、界磁巻線4および界磁駆動回路6を含む界磁回路を故障診断することができる。
【0153】
なお、
図9では、第1のスイッチ115を、第1ダイオード113と界磁巻線4の正極側端部との間に設けた例を示しているが、第1のスイッチ115は、第1診断回路11内において第1内部電源回路111の正極電圧と界磁巻線4の正極側端部との接続をオンまたはオフすることができれば、どこに設けてもよい。
【0154】
また、
図9では、第2のスイッチ125を、プルダウン抵抗120と直流電源2の負極との間に設けた例を示しているが、第2のスイッチ125は、第2診断回路12内において界磁巻線4の負極側端部と直流電源2の負極との接続をオンまたはオフすることができれば、どこに設けてもよい。
【0155】
また、
図9では、
図1の構成に、第1のスイッチ115および第2のスイッチ125を設けた例を示しているが、第1のスイッチ115および第2のスイッチ125は、
図3〜
図7に示す構成に適用することも可能であり、この場合でも同様の効果が得られる。
【0156】
このように第1のスイッチ115および第2のスイッチ125を設け、故障診断を行わない界磁巻線方式回転電機の通常動作時においては、第1のスイッチ115および第2のスイッチ125をオフすることにより、第1診断回路11および第2診断回路12の消費電力を抑制することができる。なお、第1のスイッチ115および第2のスイッチ125は、例えば、トランジスタやMOSFETなどの半導体スイッチを用いて構成される。
【0157】
第1のスイッチ115および第2のスイッチ125は、具体的には、故障診断を開始する際に、診断用スイッチング素子13をオフするタイミングに合わせてオンし、故障診断を終了する際に、診断用スイッチング素子13をオンするタイミングに合わせてオフするようにすればよい。
【0158】
以上のように、実施の形態6によれば、第1診断回路内において前記第1内部電源回路の正極電圧と前記界磁巻線の正極側端部との接続をオンまたはオフする第1のスイッチと、第2診断回路内において前記界磁巻線の負極側端部と前記直流電源の負極との接続をオンまたはオフする第2のスイッチを備え、故障診断を行わない通常動作時にはオフするようにしている。この結果、故障診断を行わない通常動作時において、界磁巻線方式回転電機の診断装置の消費電力を抑制することができる。
【0159】
なお、実施の形態1〜6において、直流電源2の正極電圧は直流電源2の充放電状態によって変動するので、直流電源2の正極電圧が、無故障時における界磁巻線4の結線端部の電圧以下の場合は、天絡故障の誤判定を避けるために、天絡故障の判定処理をしないようにする。
【0160】
このとき、直流電源2の正極電圧を取得する方法としては、例えば、電圧測定部14と同様の回路を直流電源2の正極に追加する方法や、界磁巻線方式回転電機の診断装置1の制御部(図示せず)、あるいは、界磁巻線方式回転電機の診断装置1の上位コントローラ(図示せず)から通信で取得する方法が考えられる。