【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、グラフェンライク炭素材料に様々な官能基を導入する鋭意検討した結果、グラフェンライク炭素材料と、官能基含有金属錯体とを触媒の存在下で反応させれば、グラフェンライク炭素材料に官能基を高い割合で導入することを見出し、本発明を成すに至った。本発明に係る改質グラフェンライク炭素材料の製造方法は、グランフェンライク炭素材料と、官能基含有金属錯体とを触媒の存在下で反応させて、前記グランフェンライク炭素材料に前記官能基を導入することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、上記改質グラフェンライク炭素材料の製造方法、並びに該製造方法により得られる改質グラフェンライク炭素材料が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、本発明に係る改質グラフェンライク炭素材料が樹脂中に分散されている樹脂複合材料が提供される。
【0010】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0011】
(グラフェンライク炭素材料)
グラフェンライク炭素材料とは、グラフェンまたは薄片化黒鉛をいう。本発明において、薄片化黒鉛とは、1層のグラフェンにより構成されているグラフェンシートの積層体である。薄片化黒鉛は、元の黒鉛よりも薄い。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、2以上であり、通常、200以下である。薄片化黒鉛としては、市販品が入手可能である。
【0012】
また、薄片化黒鉛は、従来公知の方法により製造することもできる。薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離処理することなどにより得られる。より具体的には、薄片化黒鉛は、例えば、黒鉛の層間に硝酸イオンなどのイオンを挿入した後に加熱処理する化学的処理方法、黒鉛に超音波を印加するなどの物理的処理方法などの方法により得られる。
【0013】
グラフェンライク炭素材料は、アスペクト比の大きい形状を有する。そのため、後述の樹脂複合材料において、改質グラフェンライク炭素材料が均一に分散されていると、グラフェンライク炭素材料の積層面に交差する方向に加わる外力に対する補強効果を効果的に高められる。なお、改質グラフェンライク炭素材料のアスペクト比が小さすぎると、積層面に交差する方向に加わった外力に対する補強効果が充分でないことがある。改質グラフェンライク炭素材料のアスペクト比が大きすぎると、効果が飽和してそれ以上の補強効果を望めないことがある。よって、グラフェンライク炭素材料のアスペクト比は、50以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましい。また、グラフェンライク炭素材料のアスペクト比は、10000以下であることが好ましい。なお、本発明においてグラフェンライク炭素材料のアスペクト比とは、グラフェンライク炭素材料の厚みに対するグラフェンライク炭素材料の積層面方向における最大寸法の比をいう。
【0014】
樹脂複合材料の機械的強度を高めるためには、グラフェンライク炭素材料の平均粒子径は、1μm〜3mm程度であることが好ましく、10μm〜1mm程度であることがより好ましい。
【0015】
(官能基含有金属錯体)
本発明で用いられる官能基含有金属錯体としては、触媒の存在下でグラフェンライク炭素材料と反応して、該官能基含有金属錯体由来の官能基をグラフェンライク炭素材料に導入させ得る、適宜の官能基含有金属錯体を用いることができる。
【0016】
上記官能基としては、グラフェンライク炭素材料に導入される適宜の官能基を挙げることができる。より具体的には、上記官能基としては、カルボキシル基、ボロン酸基、水酸基、アミノ基などをあげることができる。好ましくは、カルボキシル基またはボロン酸基が官能基として導入される。これは、カルボキシル基が親水性を示し、しかも各種の機能性官能基へ変換できることや、ボロン酸基が親水性の糖と錯体を作る理由による。
【0017】
また、上記官能基含有金属錯体における上記金属としては、特に限定されず、Fe、Cu、Ti、及びZrからなる群から選択された一種の金属から用いられる。好ましくは、Fe、Cuなどが安価であり、試薬として入手し易いなどの理由により用いられ得る。
【0018】
上記官能基含有錯体の具体的な例としては、例えば1,1′‐フェロセンジカルボン酸(FCA)や、1,1′‐フェロセンジボロン酸(FBA)、1,1′‐フェロセンジアミン(FDA)、1,1′‐フェロセンジオール(FDO)などを挙げることができる。
【0019】
(触媒)
本発明に係る改質グラフェンライク炭素材料の製造方法では、上記グラフェンライク炭素材料と、上記官能基含有金属錯体とを触媒の存在下で反応させる。この触媒としては、使用する官能基含有金属錯体の種類に応じ、適宜の触媒を用いることができる。例えば、上記FCAやFBAを官能基含有金属錯体として用いる場合、例えばAlCl
3、FeCl
2、ZnCl
2、及びFeBr
3からなるいわゆるフリーデル・クラフツ触媒群から選択された少なくとも一種の触媒を用いることができる。
【0020】
(製造方法)
本発明では、上記グラフェンライク炭素材料と、官能基含有金属錯体とを、上記触媒の存在下で反応させる。本発明の一実施形態として、官能基含有金属錯体として、FCAまたはFBAを用い、触媒としてAlCl
3を用いた場合の反応のメカニズムは以下の通りである。
【0021】
【化1】
【0022】
なお、上記反応メカニズムにおいて、FCAを用いた場合、R=COOHであり、FBAの場合にR=B(OH)
2である。
【0023】
官能基含有金属錯体の量は、グラフェンライク炭素材料に導入する官能基の量に応じて適宜選択すればよい。例えば、カルボキシル基を導入する場合には、グラフェンライク炭素材料100重量部に対し、前述した官能基含有金属錯体として例えばFCAを用いる場合、10〜100重量部程度を配合することが好ましい。それによって、カルボキシル基を充分な量をグラフェンライク炭素材料に導入することができる。
【0024】
また、上記官能基含有金属錯体として、前述したFBAを用いる場合には、グラフェンライク炭素材料100重量部に対し、10〜100重量部程度のFBAを配合することが好ましい。それによって、充分な量のボロン酸基をグラフェンライク炭素材料に導入することができる。
【0025】
上記触媒の量は、上記グラフェンライク炭素材料と官能基含有金属錯体との反応を活性化させ得る限り特に限定されず、例えば100重量部に対し1重量部以上、100重量部以下の割合で配合すればよい。
【0026】
上記反応の具体的な方法は特に限定されない。一例を挙げると、反応容器内にグラフェンライク炭素材料と、官能基含有金属錯体と、触媒と、適宜の溶媒または分散媒とを導入し、加熱下で反応させればよい。
【0027】
上記溶媒または分散媒としては特に限定されず、1,4−ジオキサン、トルエン、シクロヘキサノンなどを用いることができる。
【0028】
上記反応後に分散液から、触媒粉末をデカンテーションなどにより除去する。しかる後、遠心分離等により得られた改質グラフェンライク炭素材料を分離すればよい。
【0029】
なお、好ましくは、触媒由来の微量の金属を除去する操作をさらに施してもよい。例えば、得られた改質グラフェンライク炭素材料を、上記金属を溶解する酸に分散し、遠心分離する。しかる後、得られた改質グラフェンライク炭素材料をイオン交換水などを用いて洗浄すればよい。
【0030】
(改質グラフェンライク炭素材料)
本発明によれば、上記製造方法により改質グラフェンライク炭素材料が得られる。すなわち、本発明に係る改質グラフェンライク炭素材料が、グラフェンに上記官能基が導入されている構造を有する。この場合、官能基は、上記官能基含有金属錯体とグラフェンライク炭素材料とが反応することにより導入される。従って、配位子交換反応により官能基が導入される。そのため、グラフェンのエッジではなく、グラフェンの面に上記官能基含有金属錯体が配位して反応が進行とするため、官能基導入量を大幅に増大させ得る。
【0031】
例えば、官能基がカルボキシル基の場合、カルボキシル基の量は0.1mmol/g〜3mmol/gの範囲とすることができる。このカルボキシル基の量はNaHCO
3を用いたカルボキシル基の公知の定量方法により測定した値である。
【0032】
また、上記の官能基はボロン酸基である場合、ボロン酸基の導入量は、0.1mmol/g〜1mmol/gの範囲にある改質グラフェンライク炭素材料を得ることができる。このボロン酸基の量は、後述する実施例におけるボロン基の定量方法に従って求められた値である。
【0033】
なお、改質グラフェンライク炭素材料のアスペクト比は、上記のグラフェンライク炭素材料のアスペクト比と同様である。改質グラフェンライク炭素材料の平均粒子径は、上記のグラフェンライク炭素材料の平均粒子径と同様である。改質グラフェンライク炭素材料のグラフェンシートの積層数は、上記の薄片化黒鉛のグラフェンシートの積層数と同様である。
【0034】
(樹脂複合材料)
本発明に係る樹脂複合材料は、本発明により得られる改質グラフェンライク炭素材料が樹脂中に分散されている材料である。
【0035】
樹脂複合材料は、樹脂100質量部に対して、改質グラフェンライク炭素材料を0.01質量部〜40質量部程度含むことが好ましく、0.1質量部〜20質量部程度含むことがより好ましい。これにより、樹脂複合材料の機械的強度を効果的に高めることができる。
【0036】
樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0037】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン、これらのうち少なくとも2種の共重合体などが挙げられる。樹脂複合材料に含まれる熱可塑性樹脂は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0038】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンは安価であり、加熱下の成形が容易である。このため、熱可塑性樹脂としてポリオレフィンを用いることにより、樹脂複合材料の製造コストを低減でき、樹脂複合材料を容易に成形することができる。
【0039】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン単独重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン系樹脂、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ブテン単独重合体、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンの単独重合体または共重合体などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。