特許第6049013号(P6049013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6049013粒子状中性子吸収材含有スラリー、及び臨界防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049013
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】粒子状中性子吸収材含有スラリー、及び臨界防止方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/00 20060101AFI20161212BHJP
   G21C 19/40 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G21F3/00 N
   G21C19/40 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-263708(P2012-263708)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-109485(P2014-109485A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(74)【復代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】内川 貞之
(72)【発明者】
【氏名】本田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】齋木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】加納 慎也
(72)【発明者】
【氏名】塚本 直史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓也
【審査官】 関根 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−331979(JP,A)
【文献】 特開2004−085360(JP,A)
【文献】 特開平04−268492(JP,A)
【文献】 特開2008−145285(JP,A)
【文献】 特開平04−089600(JP,A)
【文献】 特開2010−107340(JP,A)
【文献】 特開2001−264488(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 3/00
G21C 19/40
G21C 7/24
G21F 1/04−1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水よりも大きな粘性を有するとともに流動性を付与する粘性流動剤と、平均粒径が7mm以下であり、水中で沈降可能な密度を有する粒子状中性子吸収材と、水とを、前記粘性流動剤(X)と前記粒子状中性子吸収材(Y)と前記水(Z)との含有質量比(X:Y:Z)が1:1:30〜6:1:15となる割合で含有して成る粒子状中性子吸収材含有スラリー。
【請求項2】
前記粒子状中性子吸収材が0.1〜3mmの平均粒径を有するガドリニアの粒子であり、密度が6.5〜7.4g/cmである前記請求項1に記載の粒子状中性子吸収材含有スラリー。
【請求項3】
前記粒子状中性子吸収材が0.1〜3mmの平均粒径を有するホウ素及び/又はホウ素化合物からなる粒子であり、密度が1.7〜3.5g/cmである前記請求項1に記載の粒子状中性子吸収材含有スラリー。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒子状中性子吸収材含有スラリーで、核分裂性物質を含有するデブリを、被覆することを特徴とする臨界防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粒子状中性子吸収材、粒子状中性子吸収材の製造方法、粒子状中性子吸収材含有スラリー、及び臨界防止方法に関し、更に詳しくは、核分裂性物質を含有するデブリに生じている亀裂、裂け目、穴等の隙間に容易に浸入することができてデブリ中に含有される核分裂性物質による再臨界を防止することのできる粒子状中性子吸収材、粒径の揃った粒子状中性子吸収材を容易に製造することのできる粒子状中性子吸収材の製造方法、前記粒子状中性子吸収材を含有し、核分裂性物質を含有するデブリの表面を容易に被覆して再臨界を容易に防止することのできる粒子状中性子吸収材含有スラリー、及び前記粒子状中性子吸収材及び/又は粒子状中性子吸収材含有スラリーを用いて、デブリに含有されている核分裂性物質の再臨界を防止することのできる臨界防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉事故の中でも炉心溶融は重大である。何故ならば、放射性物質の外部への大規模な漏出を引き起こしてその原子炉を中心とする広範囲の地域に放射能汚染をもたらして大きな環境問題を生じるからである。
【0003】
原子炉事故が発生した場合に、核燃料棒が溶融して原子炉の圧力容器もしくは格納容器の底部に留まるときには、原子炉圧力容器もしくは格納容器内に大量の水を貯留して核燃料から発生する崩壊熱を除去するとともに、原子炉圧力容器もしくは格納容器の底部に滞留する核分裂性物質を回収することが必要である。
【0004】
原子炉の圧力容器もしくは格納容器内に貯留された水の中で圧力容器もしくは格納容器の底部に存在する核分裂性物質は、非常に細かな物質粒子と表面が粗い性状になった大きな塊状物と火山岩のように固い壁状の塊とが入り混じった状態中に存在すると推定される。このような性状になっている核分裂性物質を含有するものが、デブリと称される。
【0005】
原子炉の圧力容器もしくは格納容器内に貯留する大量の水中の底に沈む核分裂性物質は、大量の放射線を発しているので、人間が直接にこれを回収する作業をすることができない。
【0006】
原子炉の圧力容器もしくは格納容器内の水中の底に存在する核分裂性物質を、塵芥を集めるようにして一つ所に何らかの方法で集めてこれを回収するとすれば、再臨界を引き起こして再び核分裂反応の暴走を生じさせる恐れがある。
【0007】
原子炉の圧力容器もしくは格納容器内の水中に存在する核分裂性物質は臨界に達することがないように保たれている場合においても、核分裂性物質を何らかの方法で移動させたり、ひびや亀裂を生じさせたりする際には、水と核分裂性物質との比が変化することにより定常状態から非定常状態に変化し、結果的に再臨界を引き起こす可能性がある。
【0008】
原子炉事故例としては、アメリカのスリーマイル島の原子力発電所事故と福島第一原発事故とがある。
【0009】
非特許文献1〜3に示されるように、スリーマイル島の原子炉事故では、原子炉の圧力容器もしくは格納容器内に貯留された水に大量のホウ素を添加することにより圧力容器もしくは格納容器内の水を高濃度のホウ素水溶液にして、核分裂性物質を含有するデブリを回収した例がある。
【0010】
しかしながら、原子炉の圧力容器もしくは格納容器が損傷している場合には、圧力容器もしくは格納容器内に貯留された水に投入されたホウ素の濃度を一定に管理することは困難である。
【0011】
また、原子炉事故において溶融燃料の熱により圧力容器の底部を突き破って格納容器の底部に到達した溶融燃料はコンクリート製の格納容器の底部をも溶融して溶融核燃料とコンクリートとの交じり合った溶融塊状物が形成されている場合には、格納容器に注入された大量の水によって固体の塊状物が形成されている。その固体の塊状物は、亀裂、ひび割れ、及び穴等の間隙を多数有していることは十分に想定される。その固体の塊状物を回収するには、回収することのできるような大きさにその塊状物を破砕する必要がある。塊状物を破砕すると微細な破片、断片、粉状物等の破砕物が発生し、格納容器に注入されている大量の水の中で前記破砕物が他の塊状物の亀裂又は穴に侵入する可能性がある。前記破砕物には溶融核燃料に由来する核分裂性物質が含有されている。したがって、塊状物の亀裂又は穴等の間隙に核分裂性物質を含有する破砕物が浸入すると、再臨界が発生する恐れが生じる。
【0012】
また、格納容器内で水没している核分裂性物質含有のデブリを首尾よく格納容器外に取り出すことができたとしても、そのデブリを単純に集積して保管することができない。なぜなら、格納容器外に取り出されたデブリを集積することにより核分裂性物質の単位容積あたりの量が臨界量を超えて再臨界を発生させることがあるからである。
【0013】
したがって、格納容器外に取り出された核分裂性物質含有のデブリの集積により再臨界が発生しないようにする方策も目下のところ強く要請される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】EPRI NP-6931 Research Project 2558-8 Final Report「The Cleanup of ThreeMile Island Unit2 A technical History:1979 to 1990」(Sep.1990)
【非特許文献2】日本原子力研究所 JAERI-M-93-111 TMI-2の事故調査・復旧に関する成果と教訓-ニュークリア・テクノロジ誌TMI特集号の紹介-」(1993年6月)
【非特許文献3】CRITICALITY PREVENTION DURING POSTACCIDENT DECONTAMINATION OF THREE MILE ISLAND UNIT 2 PLANT SYSTEMS / Gerald L.Palau, Bechtel National. Inc.”NUCLEAR TECHNOLOGY” Vol.87, PP679, (Nov. 1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この発明の課題は、原子炉における圧力容器もしくは格納容器内に存在する、核分裂性物質を含有するデブリが再臨界を発生させないようにする粒子状中性子吸収材を提供することであり、この粒子状中性子吸収材を製造する方法を提供することであり、前記デブリを被覆することのできる粒子状中性子吸収材含有スラリーを提供することであり、前記粒子状中性子吸収材及び/又は粒子状中性子吸収材含有スラリーを使用することにより、デブリに含まれる核分裂性物質による再臨界を防止する臨界防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 平均粒径が7mm以下であり、水中で沈降可能な密度を有することを特徴とする粒子状中性子吸収材であり、
(2) 前記粒子状中性子吸収材が0.1〜3mmの平均粒径を有するガドリニアの粒子であり、密度が6.5〜7.4g/cmである前記(1)に記載の粒子状中性子吸収材であり、
(3) 前記粒子状中性子吸収材が0.1〜3mmの平均粒径を有するホウ素及び/又はホウ素化合物からなる粒子であり、密度が1.7〜3.5g/cmである前記(1)に記載の粒子状中性子吸収材であり、
(4) 粒子状中性子吸収材と水と増粘剤とを、粒子状中性子吸収材(A)、水(B)及び増粘剤の含有質量比(A:B:C)が5:120:1〜5:5:1の範囲内にあるように調製された滴下原液を、ケトン中に滴下し、ケトン中で形成される粗粒子を取り出して得られる粗粒子を還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で1150℃〜1750℃で焼結することを特徴とする粒子状中性子吸収材の製造方法であり、
(5) 水よりも大きな粘性を有するとともに流動性を付与する粘性流動剤と、前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の粒子状中性子吸収材と、水とを、前記粘性流動剤(X)と前記粒子状中性子吸収材(Y)と水(Z)との含有質量比(X:Y:Z)が1:1:30〜6:1:15となる割合で含有して成る粒子状中性子吸収材含有スラリーであり、
(6) 前記(5)に記載の粒子状中性子吸収材含有スラリーで、核分裂性物質を含有するデブリを、被覆することを特徴とする臨界防止方法である。
【発明の効果】
【0017】
一般に、原子炉内の核燃料の暴走により核燃料が溶融し、その溶融した核燃料が圧力容器の底部を溶融させてその底部を貫通させ、格納容器の底に溶融核燃料が到達した場合には、それ以上の核燃料の暴走を阻止するために格納容器及び圧力容器の内部に十分な水を貯留して核燃料を冷却することがある。既に説明したように、圧力容器の底には、核燃料に由来する核分裂性物質とコンクリートとを少なくとも含有するデブリが、存在する。原子炉事故を終束させるには、このようなデブリを、再臨界を起こすことなく、原子炉内から取り出す必要がある。
【0018】
原子炉内に貯留されている水の液面の上方から、この発明に係る粒子状中性子吸収材を散布すること、又はこの発明に係る粒子状中性子吸収材をその一定量毎に投入することなどして中性子吸収材を供給すると、粒子状中性子吸収材が水中を沈降して行き、沈降する途中で粒子状中性子吸収材が個々の粒子に分離し、水中のデブリの表面における一定範囲に粒子状中性子吸収材が個々に到達する。デブリの表面形状は複雑な凹凸である場合にはデブリの凹部に粒子状中性子吸収材がトラップされた状態となって滞留することによりデブリの表面から発出する中性子をこの粒子状中性子吸収材が吸収することになり、また、デブリの表面に亀裂等の間隙が存在する場合には、その間隙に粒子状中性子吸収材が進入することによりデブリの内部で発生する中性子を粒子状中性子吸収材が吸収することになる。
【0019】
この発明に係る粒子状中性子吸収材は、圧力容器又は格納容器に貯留された貯留水の底に沈んだデブリに適用されるだけでなく、圧力容器又は格納容器から取り出されたデブリについても適用することができる。つまり、圧力容器又は格納容器から取り出されて屋内外に保管されているデブリにこの発明に係る粒子状中性子吸収材を散布し、あるいはデブリの表面が露出することがないほどに粒子状中性子吸収材をデブリに投与しておくと、屋内外にあるデブリ中から発する中性子を粒子状中性子吸収材が吸収するので、デブリ中の核分裂性物質の濃度偏在による臨界現象を防止することができる。
【0020】
したがって、この発明によると、圧力容器又は格納容器に貯留された水の底に沈む核分裂性物質含有のデブリから発生する中性子、及び圧力容器又は格納容器から取り出されて屋内外に貯蔵されるデブリから発生する中性子を吸収することのできる粒子状中性子吸収材を、提供することができる。
【0021】
特にこの粒子状中性子吸収材がガドリニア又はホウ素若しくはホウ素化合物であると、他の中性子吸収材に比べて中性子吸収断面積が大きいため、効果的に中性子を吸収すると言った技術的効果が奏される。ホウ素化合物は、ホウ素を含んでいれば中性子吸収の働きをもつため、酸化ホウ素を代表例に窒化ホウ素若しくは炭化ホウ素でもよい。
【0022】
この発明に係る粒子状中性子吸収材の製造方法によると、粒子状中性子吸収材、水及び増粘剤の含有質量比が特定の値になるように調製された滴下原液をケトン中に滴下すると粒径の均一な粗粒子が形成され、粒径の均一な粗粒子を焼結することにより均一な粒径の粒子状中性子吸収材を製造することができる。均一な粒径を有する粒子状中性子吸収材をデブリが沈んでいる貯留水の表面に散布し、あるいは投入すると、水中を沈降していく粒子状中性子吸収材がデブリ表面の一定範囲に万遍なく分布することとなり、デブリ表面上に滞留する粒子状中性子吸収材がデブリから発出する中性子を有効に吸収することができる。
【0023】
したがって、この発明によると均一な粒径を有する粒子状中性子吸収材を製造する粒子状中性子吸収材の製造方法を提供することができる。
【0024】
粒子状中性子吸収材含有スラリー(以下において粒子状中性子吸収材含有スラリーを単にスラリーと称することがある。)は、粘性流動剤により流動性を有する。反応容器又は格納容器の底にデブリを沈めている貯留水にスラリーを散布乃至投与すると、スラリーが水中を沈降して行く。水よりも大きな粘性を有する粘性流動剤がスラリー中に含まれていることにより、スラリーが水中で拡散して希釈されることなく、しかも凝集することもなく、水中のデブリの表面に到達する。スラリーの粘性が大きいときには、凹凸のあるデブリ表面における突出部の表面を前記スラリーが被覆することとなっても直ちにその突出部から凹部へとスラリーが流れ落ちることがない。スラリーの粘性が小さいときには、凹凸のあるデブリ表面における突出部の表面を被覆したスラリーはデブリ表面における凹部に貯留されることになり、またデブリの表面に存在する隙間の中にスラリーが進入することになる。結局のところ、このスラリーは水中に沈むデブリの表面に存在し、あるいはデブリの隙間からデブリの内部に進入することによりデブリの表面から発出する中性子をトラップすることになる。
【0025】
表面にスラリーが存在するデブリを砕いて小片のデブリとする場合には、小片となったデブリ片の例えば頂部に存在するスラリーがデブリ小片の側面に流動することにより、デブリ小片のより広い面積を前記スラリーが被覆するようになる。その結果、水中のデブリを破砕することにより形成されるデブリ小片は、破砕直後には一部にしかスラリーで覆われていなかったとしても、時間の経過とともにより広い面積をもてデブリ小片はスラリーで覆われることになる。そして、デブリの破砕乃至破断により生じたデブリ小片における破砕面乃至破断面から発出する中性子をスラリー中の中性子吸収物質で吸収することができる。
【0026】
上述したように、圧力容器又は格納容器に貯留された水の底に存在するデブリだけでなく、圧力容器又は格納容器から取り出されて屋内外に貯蔵されるデブリに、この発明に係るスラリーを散布し、又は投与することにより、貯蔵されるデブリの内外から発せられる中性子をスラリーは容易に吸収することができる。
【0027】
したがって、この発明によると、水中に沈み、核分裂性物質を含有するデブリ又は原子炉から取り出されたデブリの表面から、あるいは破砕乃至破断したデブリ小片から発出する中性子を有効に吸収することのできる粒子状中性子吸収材含有スラリーを、提供することができる。
【0028】
したがって、この発明によると、この発明に係る粒子状中性子吸収材及び/又は粒子状中性子吸収材含有スラリーを使用することにより、デブリ中の核分裂性物質の再臨界を防止することのできる臨界防止方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1はこの発明に係る粒子状中性子吸収材の一例であるガドリニア粒子を示す写真をもとにした説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明に係る粒子状中性子吸収材は、平均粒径が7mm以下であり、水中で沈降可能な密度を有する。
【0031】
粒子状中性子吸収材の平均粒径が7mm以下であると、この粒子状中性子吸収材の取り扱いが容易になるばかりか、デブリ表面にできた亀裂による隙間からデブリ内部に容易に侵入でき、デブリ内部での再臨界を起こりにくくすると言った利点がある。また、粒子状中性子吸収材の粒径が7mmを越えると、滴下時の液滴形状が球状に成型されず異型となるといった製造性の不都合を生じる。
【0032】
この粒子状中性子吸収材は、水中で沈降可能な密度を有する。水中で沈降可能な密度は、通常1g/cm以上の密度を言う。この粒子状中性子吸収材の密度が1g/cm未満であると、水中に投じられた粒子状中性子吸収材は水上に浮いてしまうので、水中の底に沈んだデブリの表面を粒子状中性子吸収材で被覆することができなくなり、デブリ中に存在する核分裂性物質から放射される中性子を吸収して臨界状態を防止することができない。
【0033】
このような粒子状中性子吸収材を形成する物質、つまり中性子吸収物質は、中性子を吸収する物質であればよく、例えば硼砂、ポリホウ酸ナトリウム、ホウ酸、窒化ホウ素、炭化ホウ素、硝酸ガドリニウム等を挙げることができ、また水と反応しないことを条件にしてロジウム、カドミウム、インジウム、サマリウム、ユーロピウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、ハフニウム、水銀等の元素単体、又はこれら元素の化合物等を挙げることができる。これらの中でも好ましいのは、ガドリニア、ホウ素及びホウ素化合物である。
【0034】
粒子状中性子吸収材を形成する中性子吸収物質としてガドリニアを採択する場合、ガドリニアの平均粒径は通常0.1〜3mmであり、密度が6.5〜7.4g/cmである。
【0035】
ガドリニアの平均粒径が上記範囲内にあると、デブリ表面にできた亀裂による隙間からデブリ内部に容易に侵入でき、デブリ内部での再臨界を起こりにくくするといった利点があり、ガドリニアの平均粒径が3mmよりも大きいと、球状に成型されず異型となったり粒径のばらつきが大きくなるといった製造面での不都合を生じ、また平均粒子径が0.1mm未満であると、圧力容器または格納容器内に滞留する冷却水及び冷却水内の温度分布に起因する対流によって、中性子吸収体が容易に浮遊するといった不都合を生じる。
【0036】
ガドリニアの密度が前記範囲内にあると、上記の平均粒径範囲内においても十分な中性子吸収能力を発揮するといった利点があり、7.4g/cmはガドリニアの理論上の密度上限値である。
【0037】
粒子状中性子吸収材を形成する物質としてホウ素及び/又はホウ素化合物を採択する場合、そのホウ素及び/又はホウ素化合物の平均粒径は通常0.1〜3mmであり、密度が1.0〜3.5g/cmである。
【0038】
ホウ素及び/又はホウ素化合物の平均粒径が上記範囲内にあると、デブリ表面にできた亀裂による隙間からデブリ内部に容易に侵入でき、デブリ内部での再臨界を起こりにくくするといった利点があり、ホウ素及び/又は酸化ホウ素の平均粒径が3mmよりも大きいと、球状に成型されず異型となったり、粒径のばらつきが大きくなったりといった製造面での不都合を生じ、また平均粒子径が0.1mm未満であると、圧力容器または格納容器内に滞留する冷却水中において容易に浮遊するといった不都合を生じる。
【0039】
ホウ素及び/又はホウ素化合物の密度が前記範囲内にあると、上記の平均粒径範囲内においても十分な中性子吸収能力を発揮するといった利点があり、密度が1.0g/cm未満であると、圧力容器または格納容器内に滞留する冷却水中において容易に浮遊するといった不都合を生じる。3.5g/cmはホウ素化合物の中で窒化ホウ素における理論上の密度上限値である。
【0040】
なお、平均粒径は、市販の粒度計により測定することができる。密度はアルキメデス法により測定することができる。
【0041】
この粒子状中性子吸収材は、この発明の方法により容易に製造することができる。すなわち、粒子状中性子吸収材は、中性子吸収物質と水と増粘剤とを、中性子吸収物質(A)、水(B)及び増粘剤の含有質量比(A:B:C)が5:120:1〜5:5:1の範囲内にあるように調製された滴下原液を、ケトン中に滴下し、ケトン中で形成される粗粒子を取り出して得られる粗粒子を還元雰囲気下又は不活性雰囲気下で1150℃〜1750℃で焼結することにより、製造することができる。
【0042】
前記中性子吸収物質は、既に説明したとおりである。前記増粘剤としてはポリビニルアルコール、フェノール樹脂、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0043】
前記滴下原液は、中性子吸収物質(A)、水(B)及び増粘剤の含有質量比(A:B:C)が5:120:1〜5:5:1の範囲内にあるように調製された原液である。中性子吸収物質(A)、水(B)及び増粘剤(C)の含有質量比が前記範囲内にある滴下原液は、滴下時の液滴形状が真球に近い形状で液滴が形成される他、ケトン中に滴下されると液滴中の水がケトン中に速やかに拡散するとともにケトン中で形成された粗粒子が割れたり変形したりと言った不都合を生じることがなく、またケトン中の液滴どうしが接触した際に変形する事や合一してしまう様な事が無いと言った利点がある。
【0044】
滴下原液はケトン中に滴下される。ケトンとしては水と相溶性がある液体である限り特に制限がなく、具体的にはアセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン等を挙げることができる。好ましいケトンは、アセトンである。
【0045】
滴下原液流に含まれる中性子吸収物質がガドリニアである場合に、ケトン中に前記滴下原液を滴下する滴下ノズルの開口径としては、通常0.05〜7mmであり、好適には0.1〜5.5mmである。滴下ノズルの開口径が前記下限値よりも小さいと、滴下ノズルから滴下原液を液滴状にして落下させるために滴下原液に圧力をかける必要が生じ、したがって加圧ポンプ等を備えるなどして装置構成が複雑になる。また、滴下ノズルの開口径が前記上限値よりも大きいと、平均粒径が7mmを越えるガドリニア粒子が形成される。また、平均粒径を0.1〜3mmの範囲内にあるガドリニア粒子を形成するには、滴下ノズルの開口径を適宜に調節すればよい。
【0046】
滴下原液流に含まれる中性子吸収物質がホウ素及び/又は酸化ホウ素である場合に、ケトン中に前記滴下原液を滴下する滴下ノズルの開口径としては、通常0.05〜7mmであり、好適には0.1〜5.5mmである。滴下ノズルの開口径が前記下限値よりも小さいと、滴下ノズルから滴下原液を液滴状にして落下させるために滴下原液に圧力をかける必要が生じ、したがって加圧ポンプ等を備えるなどして装置構成が複雑になる。また、滴下ノズルの開口径が前記上限値よりも大きいと、平均粒径が7mmを越えるホウ素及び/又は酸化ホウ素の粒子が形成される。また、平均粒径を0.1〜7.0mmの範囲内にあるホウ素及び/又は酸化ホウ素の粒子を形成するには、滴下ノズルの開口径を適宜に調節すればよい。
【0047】
ケトンに落下した滴下原液の液滴は、ケトン中を落下進行して行くうちに、液滴内の水がケトンに移行し、液滴が固体の粗粒子に変化する。なお、ケトンはケトン貯留槽に貯留されている。
【0048】
ケトン中で形成された中性子吸収物質の粗粒子が収集される。収集された粗粒子は好適には乾燥した後に、焼結操作に付される。
【0049】
粗粒子の焼結温度はガドリニアの場合通常1150〜1750℃であり、焼結雰囲気は還元雰囲気又は不活性雰囲気である。還元雰囲気としては水素ガス雰囲気、アンモニアガス雰囲気、等の雰囲気を挙げることができ、不活性雰囲気としては窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気を挙げることができる。
【0050】
この焼結操作により粗粒子中の増粘剤は還元雰囲気又は不活性雰囲気下での焼結により炭化物に変化する。また焼結操作により得られる粒子状中性子吸収材は多孔質になるが、その密度は前記滴下原液中の中性子吸収物質の量及び増粘剤の量を調節することにより調整することができる。
【0051】
焼結に要する時間は通常6〜40時間である。
【0052】
かくして得られる粒子状中性子吸収材は、粒径が7mm以下となり水中で沈降可能な密度を有する。
【0053】
この粒子状中性子吸収材は粒子の集合物として使用することができる。
【0054】
粒子状中性子吸収材の集合物を例えば原子炉事故を起こした圧力容器又は格納容器の底に滞留するデブリが水底に沈むように圧力容器又は格納容器に貯留された貯留水の表面に、前記粒子状中性子吸収材を投与する。投与する場合、粒子状中性子吸収材が集合体として投与されないように、粒子状中性子吸収材が分散した状態となって投与されるようにすることが望ましい。具体的には、貯留水の上方に位置する投与ノズルの開口形状を扁平な形状とし、投与ノズルを振動させながら投与ノズルから粒子状中性子吸収材を分散状態にして貯留水に投与するのが好ましい。また、投与ノズルの貯留水表面に対する位置を変更しつつ投与ノズルから粒子状中性子吸収材を貯留水表面に投与するのも、好ましい。
【0055】
投与する粒子状中性吸収材の投与量は、デブリの量に応じて適宜に決定することができるが、デブリに核分裂性物質が含まれているのでデブリの量を直接に、かつ正確に測定することができないので、原子炉事故により核燃料棒から溶融落下した核燃料を推測して適宜に多い目の投与量に決定するのが妥当である。
【0056】
分散状態となって投与された粒子状中性子吸収材は貯留水中を分散した状態で沈降し、デブリの表面に到達する。
【0057】
デブリに亀裂及び穴等の間隙が存在すると、その間隙よりも小さな粒径を有する粒子状中性子吸収材がその間隙に進入する。デブリにおける間隙の存在しない表面に粒子状中性子吸収材が存在する。デブリ表面に分布する粒子状中性子吸収材の分布密度は、デブリ内に存在する核分裂性物質から放出される中性子を吸収して再臨界を起こさない程度となるように決定するのが好ましいが、先に説明したように、中性子を放出し続けるデブリの量を直接に決定することができないので、溶融落下した核燃料の量からデブリ中の核分裂性物質の量を推測し、多い目の量となるように粒子状中性子吸収材の分布密度を決定するのが良い。
【0058】
この粒子状中性子吸収材は、事故を起こした原子炉から取り出されて屋内外に貯留されるデブリに散布することにより、デブリから放出される中性子を吸収して核分裂性物質による再臨界の発生を防止することもできる。
【0059】
この粒子状中性子吸収材はそれを集合物として使用されることができるが、次に説明するスラリー状態にして使用することもできる。
【0060】
この発明に係る粒子状中性子吸収材含有スラリー(既に説明したように「スラリー」と略称することがある。)は、水よりも大きな粘性を有するとともに流動性を付与する粘性流動剤と、前記請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒子状中性子吸収材と、水とを、前記粘性流動剤(X)と前記粒子状中性子吸収材(Y)と水(Z)との含有質量比(X:Y:Z)が1:1:30〜6:1:15となる割合で含有して成る。
【0061】
前記粘性流動剤が水よりも大きな粘性を有することを要するのは、水中のデブリ表面に存在するこの粒子状中性子吸収材含有スラリーが水の搖動とともにとともにデブリ表面から散逸しないようにするためである。この粘性流動剤の粘性は通常600mPa・s〜42Pa・sである。このような粘性を有する粘性流動剤は、この粘性流動剤を含有するスラリーがデブリ表面から水の搖動により容易に移動し、又は拡散することがない。この粘性流動剤はスラリーに流動性を付与することを要する。スラリーに流動性を付与するのは、デブリ表面に存在するスラリーが時間の経過とともにデブリの表面を広範囲に被覆することができ、また、デブリ表面に亀裂、穴、隙間等の間隙が存在すると、その間隙にスラリーが進入することができるからである。
【0062】
粘性流動剤によりスラリーに付与される粘性は600mPa・s〜42Pa・sが好適である。前記粘性範囲内のうち高い粘性を有するスラリーは、凹凸のあるデブリの突出部に付着すると、容易にその突出部から下部へと流下することがない。また前記粘性範囲内のうち低い粘性を有するスラリーは、デブリ表面上を広範囲に伸展するので、少ない量で広範囲にデブリ表面をスラリーで覆うことができる。
【0063】
また、粘性流動剤により低い粘性に調整された低粘性スラリーと粘性流動剤により高い粘性に調整された高粘性スラリーとの二種類のスラリーを調製し、用意しておくと、例えばデブリ表面に低粘性スラリーを供給することによりデブリ表面の広範囲を低粘性スラリーで被覆し、次いで高粘性スラリーを供給することにより低粘性スラリーで被覆されなかったデブリの突出部を高粘性スラリーで被覆するようにすることができる。
【0064】
このように二種類のスラリーを使用する場合、低粘度スラリーの粘度は通常、600mPa・s〜6Pa・sが好ましく、高粘度スラリの粘度は通常、6Pa・s〜42Pa・sが好ましい。
【0065】
粘性流動剤としてはポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー、アルギン酸ナトリウム等の水溶性多糖類、ベントナイト等の粘土鉱物等を使用することができる。
【0066】
粒子状中性子吸収材はこの発明に係る粒子状中性子吸収材である。
【0067】
スラリーは、粘性流動剤と、粒子状中性子吸収材と、水とを、前記粘性流動剤(X)と前記粒子状中性子吸収材(Y)と水(Z)との含有質量比(X:Y:Z)が1:1:30〜6:1:15となる割合で含有する。
【0068】
粘性流動剤の含有質量が前記範囲よりも少ないとスラリーの粘度が水と同程度かそれに近い値となってしまし、デブリ表面に存在するスラリーが、水の搖動により、またはデブリの移動によって、デブリ表面から散逸してしまい、その結果としてデブリに含有される核分裂性物質から放出される中性子を吸収することができなくなり、場合によっては再臨界状態発現の原因となる。粘性流動剤の含有質量が前記範囲よりも多いと、スラリーの粘度が過大になり、デブリ表面をスラリーで有効に被覆することができなくなり、またデブリ表面に存在する間隙にスラリーが進入しなくなることがある。
【0069】
粒子状中性子吸収材の含有質量比が前記範囲よりも小さいとデブリに存在する核分裂性物質から放出される中性子を有効に吸収することができなくなり、また、粒子状中性子吸収材の含有質量比が前記範囲よりも過大であると、粘性流動剤の含有質量比が前記範囲内にあっても必要な粘性を有するスラリーに形成することができなくなる。
【0070】
この発明に係る臨界防止方法は、前記スラリーをデブリに投与し、デブリ表面をスラリーで被覆する。デブリは圧力容器又は格納容器の底に存在し、水で覆われたデブリであっても、原子炉から取り出されて屋内外に貯蔵されているデブリであっても良い。
【実施例1】
【0071】
参考例1)(ガドリニア粒子の粒子状中性子吸収材)
中性子吸収材として、以下のようにして粒状のガドリニアを製造した。増粘剤(商品名ポバール、クラレ(株)製)15gを添加した水溶液220mLにガドリニア粉末を100gを溶解して滴下原液を調製した。この滴下原液をアセトン中に滴下して粗ガドリニア粒子を生成した。生成した粗ガドリニア粒子を集め、洗浄し、乾燥し、次いで1150℃で焼結することによりガドリニア粒子を得た。得られたガドリニア粒子の平均粒径は0.9mmであり、密度は6.7g/cmであった。得られたガドリニア粒子を図1に示した。図1に示される容器の中に収容されている白っぽい粒子がガドリニア粒子である。このガドリニア粒子をこの発明に係る粒子状中性子吸収材として使用することができる。
【0072】
(実施例)(スラリー)
参考例1で製造したガドリニア粒子、水及び粘性流動剤としてポリビニルアルコールを、1:23:3の含有質量比となるように混合して粘度約900mPa・sのスラリーを調製した。
図1