(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049023
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ロータリーキルン
(51)【国際特許分類】
F27B 7/22 20060101AFI20161212BHJP
F27B 7/26 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
F27B7/22
F27B7/26
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-160984(P2014-160984)
(22)【出願日】2014年8月7日
(65)【公開番号】特開2016-38139(P2016-38139A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2015年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】591173855
【氏名又は名称】杉山重工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090239
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 始
(74)【代理人】
【識別番号】100100859
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 昌也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大介
【審査官】
大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−092354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 5/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転円筒の一端外周部と他端外周部にタイヤを設け、各タイヤをローラに載置して回転円筒を回転可能に、かつほぼ水平に設置し、回転円筒に処理原料を投入し、回転円筒の外部から処理原料を間接加熱するロータリーキルンであって、
耐熱鋼製の外筒とセラミックス製又は黒鉛製の内筒を備え、
外筒に内筒を嵌め込んで回転円筒を構成し、
内筒の一端に外筒の一端を掛止し、
内筒の長さを回転円筒の非加熱時及び加熱膨張時のいずれの場合でも内筒の他端面が外筒の他端開口端面と面一若しくは外筒の他端開口から突出するように設定し、
爪部材を外筒の他端に回転中心方向へ変位可能に設けるとともに、スプリングで外筒の一端方向へ付勢することにより内筒の他端面に圧接させたロータリーキルンであって、
回転円筒の他端外周部の前記タイヤはリブを介してスリーブと一体に設けられ、該スリーブの端部に前記爪部材をスリーブと一体に設け、該スリーブを外筒の他端外周部にその回転中心と平行に変位可能に嵌合し、
外筒の他端外周部に複数本のアームを一体に設け、該アームにロッドの一端を固定するとともに該ロッドを回転中心と平行に延ばして前記リブに形成した貫通穴を貫通して外筒の他端側に突出させ、突出端部に前記スプリングとしてコイルスプリングを装着したことを特徴とするロータリーキルン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロータリーキルンに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーキルンの一形式として、耐熱鋼製の回転円筒の一端外周部と他端外周部にタイヤを設け、各タイヤをローラに載置して回転円筒を回転可能に、かつ、ほぼ水平に設置し、回転円筒に処理原料を投入し、回転円筒の外部から処理原料を間接加熱するロータリーキルンが実用に供されている。
【0003】
ところで、リチウムイオン電池極剤、蛍光剤、キャパシタ極剤等の電子素材の製造工程では、処理原料を高温雰囲気中で加熱反応させる工程が不可欠であるが、この工程で処理原料に金属イオン、金属酸化物等の不純物が混入するのは許されない。そのため、従来の耐熱鋼製の回転円筒を備えたロータリーキルンは電子素材の製造工程で用いることができない。
【0004】
一方、特開2000−297986号公報には、セラミックス製の回転円筒を備えたロータリーキルンが開示されている。このロータリーキルンでは、セラミックス製の回転円筒に処理原料を投入して加熱反応させるので、回転円筒に投入した電子素材に金属イオン、金属酸化物等の不純物の混入を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−297986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロータリーキルンの回転円筒は自重を左右両端のローラで支持するので、回転円筒の中心部に大きな曲げ荷重が作用する。また、回転円筒には回転時、円筒の下半分と上半分に交互に圧縮荷重と引っ張り荷重が作用する。
セラミックス素材は鋼に比べ、曲げ荷重や引っ張り荷重に対する機械的強度が低いので、上記したように、ロータリーキルンの回転円筒をセラミックス製にした場合、引っ張り荷重や曲げ荷重で破損するのを避けるため、その大きさが制約され、せいぜい外形250mm長さ2000mm程の小型の回転円筒しか製造できない。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑み、電子素材の製造工程で使用しても処理原料中に金属酸化物や金属イオン等の不純物が混入しない回転円筒を備えた大型のロータリーキルンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
回転円筒の一端外周部と他端外周部にタイヤを設け、各タイヤをローラに載置して回転円筒を回転可能に、かつほぼ水平に設置し、回転円筒に処理原料を投入し、回転円筒の外部から処理原料を間接加熱するロータリーキルンであって、
耐熱鋼製の外筒とセラミックス製又は黒鉛製の内筒を備え、
外筒に内筒を嵌め込んで回転円筒を構成し、
内筒の一端に外筒の一端を掛止し、
内筒の長さを回転円筒の非加熱時及び加熱膨張時のいずれの場合でも内筒の他端面が外筒の他端開口端面と面一若しくは外筒の他端開口から突出するように設定し、
爪部材を外筒の他端に回転中心方向へ変位可能に設けるとともに、スプリングで外筒の一端方向へ付勢することにより内筒の他端面に圧接させたロータリーキルンであって、
回転円筒の他端外周部の前記タイヤはリブを介してスリーブと一体に設けられ、該スリーブの端部に前記爪部材をスリーブと一体に設け、該スリーブを外筒の他端外周部にその回転中心と平行に変位可能に嵌合し、
外筒の他端外周部に複数本のアームを一体に設け、該アームにロッドの一端を固定するとともに該ロッドを回転中心と平行に延ばして前記リブに形成した貫通穴を貫通して外筒の他端側に突出させ、突出端部に前記スプリングとしてコイルスプリングを装着したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、内筒をセラミックス製又は黒鉛製としたので、処理原料として電子素材を加熱反応させる場合、処理原料に金属酸化物や金属イオン等の不純物が混入するのを防止できる。
【0010】
内筒を機械的強度の大きい耐熱鋼製の外筒に嵌め込むことにより、機械的強度の低いセラミックス製又は黒鉛製の内筒を外筒で補強できる。そのため、内筒、ひいては処理原料が投入される回転円筒を長くしてロータリーキルンの大型化を図ることができる。
【0011】
しかして、内筒及び外筒は加熱により膨張し、それぞれの回転中心方向の寸法及び径方向の寸法が伸長する。内筒はセラミックス製又は黒鉛製であり、外筒は耐熱鋼製であるので、外筒の膨張率が内筒の膨張率より大きい。そのため、
図4(A)に示すように、外筒 と、外筒に嵌め込んだ内筒との間にそれぞれの径方向への伸長差によって隙間が生ずる。隙間が生じた状態で外筒と内筒が回転すると、
図4(B)に示すように、内筒は外筒の中で歳差運動するので、破損し易い。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、内筒の長さを回転円筒の非加熱時及び加熱膨張時のいずれの場合でも内筒の他端面が外筒の他端開口端面と面一若しくは外筒の他端開口から突出するように設定したので、加熱及び非加熱いずれの状態でも爪部材がスプリングの力で内筒の他端面に常時圧接し、外筒と内筒が爪部材によって連結される。そのため、外筒と内筒が一体回転するので、内筒の歳差運動に起因する破損を防止できる。
【0013】
また、タイヤを外筒に変位可能に設けたので、加熱時タイヤは外筒の回転中心方向への伸長に影響されることなく、内筒の伸長寸法分だけ回転中心方向へ変位する。内筒の伸長寸法は外筒の伸長寸法より短いので、タイヤの回転中心方向への移動距離を少なくできる。従って、加熱時における一端のタイヤと他端のタイヤの間のスパンの伸長を少なくできる。そのため、加熱時にスパンが伸長して内筒に作用する曲げモーメントが増大するのを抑制し、内筒の破損をより効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例に係るロータリーキルンの概略構造を示す説明図である。
【
図2】同ロータリーキルンの回転円筒の常温時と加熱時の状態を示す断面図である。
【
図3】同回転円筒の一方のタイヤ部分を示す拡大断面図である。
【実施例】
【0015】
以下に本発明を図面に基づき説明する。
図1には本発明の一実施例に係るロータリーキルン10の概略構造が示されている。当該ロータリーキルン10は回転円筒11、ローラ12,13、電熱ヒータ14及び排出チャンバー15を備えている。詳しくは後述するが、回転円筒11の一端と他端にはそれぞれタイヤ16,17が設けられている。回転円筒11はタイヤ16,17をローラ12,13に載置することにより回転中心Oの回りに回転可能、かつ略水平に設置される。回転円筒11には一端11aから処理原料が投入される。処理原料が投入された回転円筒11は図示略のモータにより回転駆動されるとともに、回転円筒11の外部から電熱ヒータ14で加熱される。高温雰囲気の回転円筒11の内部で加熱反応した処理原料は円筒体11の他端11bから排出チャンバー15を通って外部に排出される。
【0016】
図2に回転円筒11の詳細を図示する。回転円筒11はステンレス系耐熱鋼製の外筒18と、外筒18に嵌め込まれた黒鉛製の内筒19で構成されている。外筒18の一端面に内向きのフランジ18aが形成されている。内筒19は外筒18の他端開口から一端がフランジ18aに当接するまで挿入されている。これにより外筒18の一端が内筒19の一端に掛止されている。内筒19は一端がフランジ18aに当接するまで外筒18に挿入した状態で所定寸法だけ外筒18の他端開口から突出するようにその長さ寸法が設定されている。外筒18及び内筒19は電熱ヒータ14で加熱されると回転中心方向及び径方向に膨張する。内筒19の長さは回転円筒11の非加熱時及び加熱膨張時のいずれの場合でも内筒19の他端面が外筒18の他端開口端面と面一若しくは外筒18の他端開口から突出するように設定されている。
【0017】
本実施例では、内筒19は熱膨張率が5×10
−6/K゜の黒鉛製のものを用い、外筒18は熱膨張率15×10
−6/K゜のステンレス系耐熱鋼製のものを用いている。回転円筒11の非加熱時の外筒18の全長をL1とすれば、回転円筒11を800゜Cに加熱したときの外筒18の全長L2=L1(1+15×10
−6×800)となる。また、回転円筒11の非加熱時の内筒19の全長をS1とすれば、回転円筒を800゜Cに加熱したときの内筒19の全長S2=S1(1+5×10
−6×800)となる。
【0018】
本実施例では、外筒18の長さL1が7000mmのものを用いている。電熱ヒータ14による回転円筒11の加熱温度が800゜Cの場合、熱膨張によって回転中心方向に伸びる外筒18の全長L2=7000×(1+15×10
−6×800)=7084mmとなる。回転円筒11の非加熱時及び加熱膨張時のいずれの場合でも内筒19の他端面が外筒18の他端開口端面と面一若しくは外筒18の他端開口から突出するには内筒19の非加熱時の長さS1が次式を満たす必要がある。
S1(1+5×10
−6×800)≧7084
上式を満たすべく、内筒19の非加熱時の長さS1は7056mm、もしくはこれより長く設定されている。
【0019】
図2に示すように、外筒18の一端外周部にはタイヤ16が一体に設けられている。このタイヤはローラ12に載置されるとともに、回転円筒11が他端方向へ移動しないようにローラ21,22で左右から挟持されている。外筒18の他端外周部にはタイヤ17が組み付けられている。
図3に拡大して図示するように、このタイヤ17はスリーブ22にリブ23を介して一体に設けられている。スリーブ22の端部には内側に屈曲する爪部24が一体に設けられている。タイヤ17はスリーブ22を外筒18の他端外周部に嵌合することにより回転中心と平行に変位可能に外筒18に組み付けられている。
【0020】
外筒18の他端の外周部には4本のアーム25が等角度間隔で一体に設けられ、各アーム25にロッド26がナット27,28で固定されている。このロッド26は回転中心と平行に延びるようにアーム25に取り付けられている。ロッド26はタイヤ17のリブ23に形成した貫通穴29を貫通して外筒18の他端側に突出し、ロッド26の突出端部にコイルスプリング30が装着されている。コイルスプリング30はワッシャー31とナット32でロッド26から抜け止めされ、タイヤ17を外筒18の一端方向へ付勢している。このコイルスプリング30のばね力によってタイヤ17と一体の爪部材24が内筒19の他端開口端面に圧接している。
【0021】
本実施例に係るロータリーキルン10の構造は以上の通りであって、内筒19を黒鉛製としたので、処理原料として電子素材を回転円筒11に投入して加熱反応させる場合、処理原料に金属酸化物や金属イオン等の不純物が混入するのを防止できる。
【0022】
内筒19を機械的強度の大きいステンレス系耐熱鋼製の外筒18に嵌め込むことにより、機械的強度の低い黒鉛製の内筒19を外筒18で補強できる。そのため、内筒19、ひいては処理原料が投入される回転円筒11を長くしてロータリーキルン10の大型化を図ることができる。
【0023】
内筒19の長さを回転円筒11の非加熱時及び加熱膨張時のいずれの場合でも内筒19の他端面が外筒18の他端開口端面と面一若しくは外筒18の他端開口から突出するように設定したので、加熱及び非加熱いずれの状態でも爪部材24がスプリング30の力で内筒19の他端面に常時圧接し、外筒18と内筒19が爪部材24によって連結される。そのため、外筒18と内筒19が一体回転するので、内筒19の歳差運動に起因する破損を防止できる。
【0024】
タイヤ17を外筒18に変位可能に設けたので、加熱時タイヤ17は外筒18の回転中心方向への伸長に影響されることなく、内筒19の伸長寸法分Se(
図2参照)だけ回転中心方向へ変位する。内筒19の伸長寸法Seは外筒18の伸長寸法より短いので、タイヤ17の回転中心方向への移動距離を少なくできる。従って、加熱時における一端のタイヤ16と他端のタイヤ17の間のスパンの伸長を少なくできる。そのため、加熱時にスパンが伸長して内筒19に作用する曲げモーメントが増大するのを抑制し、内筒19の破損をより効果的に防止できる。
なお、本実施例では内筒19の材質として、黒鉛を用いたが、黒鉛に代えてセラミックスを使っても電子材料に不純物が混入するのを防止できる。
【符号の説明】
【0025】
10…ロータリーキルン
11…回転円筒
12,13…ローラ
14…電熱ヒータ
15…排出チャンバー
16,17…タイヤ
18…外筒
19…内筒
24…爪部材
30…コイルスプリング