(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
先ず、本発明で用いる顔料は、従来公知の有機顔料、無機顔料が使用でき、特に限定はない。例えば、有機顔料としては、フタロシアニン系、アゾ系、アゾメチンアゾ系、アゾメチン系、アンスラキノン系、ぺリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、インダスレン系顔料などやカーボンブラック顔料などである。また、無機顔料としては、体質顔料、酸化チタン系顔料、酸化鉄系顔料、スピンネル顔料などである。
【0025】
また、従来公知の顔料誘導体(シナジスト)を、従来公知の方法と同様に顔料と併用してもよく、シナジストとしてはアゾ系やフタロシアニン系顔料のスルホン化物、アミノ化物などである。目的により顔料の種類、粒子径、処理の種類を選んで使用することが望ましい。着色物に隠蔽力を必要とする場合以外は、有機系の微粒子顔料が望ましく、特に透明性を望む場合には0.5μmを超える粒子径を有する有機顔料を除去し、平均粒子径を0.15μm以下とすることが望ましい。
【0026】
つぎに本発明で用いる高分子分散剤について説明する。本発明で用いる高分子分散剤は、[一般式1]のA−Bジブロックポリマーまたは[一般式2]のA−B−Cトリブロックポリマーである。ここで一般式1、2中のA、B、Cはそれぞれ1種以上の付加重合性モノマーのポリマーブロックであり、AブロックとCブロックは同じでも異なってもよく、AブロックとCブロックとは少なくとも酸基を有するモノマーの、酸価が40〜300mgKOH/gのポリマーブロックであり、Bブロックは疎水性モノマーのポリマーブロックである。
【0027】
また、上記ブロックポリマーは、好ましくはその全体の酸価が20〜250mgKOH/gであり、Aブロック、またはAブロックとCブロックの合計が、高分子分散剤(ブロックポリマー)全体中で20質量%以上であり、さらに好ましくは高分子分散剤の数平均分子量が1,000〜20,000であって、該高分子分散剤中のBブロックの数平均分子量の割合が、ブロックポリマー全体の80%未満である。
【0028】
本発明で用いる高分子分散剤は、AブロックとBブロック、またはAブロックとBブロックとCブロックとからなるブロックポリマーである。Aブロック、またはAブロックとCブロックは、酸基を有しているモノマーのポリマーブロックであって、該酸基を中和することでブロックポリマーが水溶性になる。Bブロックは、酸基を有していてもよいが、主として水に不溶の疎水性のモノマーのポリマーブロックである。すなわち、本発明で用いる高分子分散剤は、両親媒性のブロックポリマーである。
【0029】
本発明で用いる高分子分散剤を用いて顔料を水性媒体に分散させる時は、Bブロックは、水に不溶なので顔料粒子に吸着または顔料粒子上に堆積し、Bブロックが顔料をカプセル化した状態となる。Aブロック、またはAブロックとCブロックとは水性媒体中でアルカリによって中和されてイオン化して水に溶解する。これらの作用によって顔料を水性媒体中に微粒子の状態で分散し、水性顔料分散液の分散安定性や保存安定性を向上させる。
【0030】
さらに、顔料を高分子分散剤によってカプセル化することによって、水性顔料分散液(例えば、インク)を紙に印字・印画した場合、顔料の紙への浸透を抑え、顔料の発色性を上げる。また、水性顔料分散液をフィルムや被塗布物に使用した場合は、そのAブロックまたはCブロックが顔料のバインダー成分として働き塗膜を形成し、さらには他のバインダー成分と相溶性を示して塗膜が良好な外観を示す。また、本発明の顔料分散液を水性インクジェットインクに使用した場合、吐出安定性がよく、ノズルの詰まりもない。
【0031】
本発明で用いる高分子分散剤においては、AブロックとCブロックとは同じでも異なっていてもよく、これらのブロックは、酸基を有するモノマーを少なくとも1成分として重合されたポリマーブロックであり、その酸基をアルカリで中和することで、Aブロック、またはAブロックとCブロックとが水に溶解する。
【0032】
モノマーの酸基としては、従来公知であるカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基が挙げられるが、特に好ましくはカルボキシル基である。これは本発明においては、高分子分散剤で顔料を分散した後、高分子分散剤を酸で析出させ不溶化させるが、酸基がカルボキシル基であると、その析出が容易であるためである。
【0033】
酸基を有するモノマーとしては、従来公知のものが挙げられ、カルボキシル基を有するモノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸二量体、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸を反応させたモノマーが挙げられ、スルホン酸基を有するモノマーとしては、スチレンスルホン酸、ジメチルプロピルスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スルホン酸エチル(メタ)アクリレート、スルホン酸エチル(メタ)アクリルアミド、ビニルスルホン酸などが挙げられ、リン酸基を有するモノマーとしては、メタクリロイロキシエチルリン酸エステルなどが挙げられる。
【0034】
特に本発明では前記したカルボキシル基を有するモノマーがよい。さらに好ましくは、アクリル酸またはメタクリル酸である。これは分子量が小さいので、重合用モノマー組成物中の配合量を多くすることができ、高分子分散剤の酸価を高くすることが可能である。さらに本発明で用いる重合方法において、これらのモノマーは重合率も高い。
【0035】
また、本発明で用いる重合方法は、酸基を有するモノマーをそのまま使用できることが大きな特徴であるが、必要に応じて、上記酸基を保護しておき、ブロックポリマーを得た後、その保護基を脱離させて酸基を再生してもよい。この方法は従来公知のモノマーが使用できるが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸1−n−プロポキシエチルなどのヘミアセタール系(メタ)アクリレートを重合後に脱保護して、(メタ)アクリル酸とすることができる。
【0036】
高分子分散剤中のAブロックおよびCブロックが水に溶解するためには、これらのブロック中の酸基の含有量、すなわち酸価が重要であって、その酸価は、40〜300mgKOH/gであり、好ましくは60〜250mgKOH/gである。この酸価が40mgKOH/g未満であると、本発明で用いる高分子分散剤が水に溶解しない。一方、酸価が300mgKOH/gを超えると、酸価が高すぎて、水性顔料分散液を物品の着色に使用した場合、着色被膜の耐水性を低下させる。さらには高分子分散剤中のBブロックまで影響を及ぼし、高分子分散剤で顔料を被覆しても、高分子分散剤の水への溶解性が高いため、顔料からBブロックが剥がれ、カプセルが破壊されてしまう可能性がある。
【0037】
酸基を有するモノマーの他に、他の共重合し得るモノマーを使用してもよい。共重合するモノマーによって、他の性能、例えば、水への溶解性のための酸価の調整、塗布面との密着性、塗料などと混合した場合のバインダーとの相溶性、Aブロック、またはAブロックとCブロックのポリマーの熱的安定性や軟・硬性の性質などを付与することができる。
【0038】
上記共重合し得るモノマーとしては従来公知のモノマーが挙げられ、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ビニルヒドロキシベンゼン、クロロメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、ビニルエチルベンゼン、ビニルジメチルベンゼン、α−メチルスチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブテン、ブタジエン、1−ヘキセン、シクロヘキセン、シクロデセン、ジクロロエチレン、クロロエチレン、フロロエチレン、テトラフロロエチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソシアナトジメチルメタンイソプロペニルベンゼン、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、ヒドロキシメチルスチレンなどのビニル系モノマー、
【0039】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパン(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、べへニル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、
【0040】
イソボロニル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、シクロデシルメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、t−ブチルベンゾトリアゾールフェニルエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどの脂肪族、脂環族、芳香族アルキル(メタ)アクリレート、
【0041】
水酸基を含有するモノマーとして、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシへキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル、
【0042】
ポリグリコール基を有するモノマーとして、ポリ(n=2以上)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(n=2以上)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(n=2以上)テトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノまたはポリ(n=2以上)エチレングリコールモノまたはポリ(n=2以上)プロピレングリコールランダムコポリマーのモノ(メタ)アクリレート、モノまたはポリ(n=2以上)エチレングリコールモノまたはポリ(n=2以上)プロピレングリコールブロックコポリマーのモノ(メタ)アクリレート、などのポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、さらには(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノオクチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノステアリルエーテル(メタ)アクリレート、
【0043】
(ポリ)エチレングリコールモノオレイルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノステアリン酸エステル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノノニルフェニルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノオクチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレートなどの(ポリアルキレン)グリコールモノアルキル、アルキレン、アルキンエーテルまたはエステルのモノ(メタ)アクリレートなど、
【0044】
つぎにアミノ基を有するモノマーとして、一級アミノ基を有するモノマーとしては、ビニルアミン、アリルアミン、アミノスチレン、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、2級アミノ基を有するモノマーとしては、ビニルメチルアミン、アリルメチルアミン、メチルアミノスチレン、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、
【0045】
第3級アミノ基を有するモノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、N−エチルモルホリノ(メタ)アクリレート、ジメチルプロピル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルベンゾトリアゾール、ビニルカルバゾール、ジメチルアミノスチレン、ジアリルメチルアミンなどが挙げられ、
【0046】
第4級アミノ基を有するモノマーとしては、トリメチルアンモニウムスチレンクロライド、ジメチルラウリルアミノスチレンクロライド、ビニルメチルピリジニルアイオダイド、塩化トリメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、塩化ジエチルメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、塩化ベンジルジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチル硫酸塩、ジアリルジメチルアンモニウム塩クロライドなどが挙げられる。また、グリシジル(メタ)アクリレートの如きグリシジル基含有モノマーに1級、2級のアミンを反応させても得られる。
【0047】
酸素原子含有モノマーとしては、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、モルホリノ(メタ)アクリレート、メチルモルホリノ(メタ)アクリレート、メチルモルホリノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。窒素原子含有モノマーとしては、(メタ)アクロイロオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクロイロオキシエトキシエチルイソシアネート、およびそれらのカプロラクトンなどでイソシアネートをブロックしてあるブロック化イソシアネート含有(メタ)アクリレート、や(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系モノマーなどが挙げられ、
【0048】
さらには、その他のモノマーとしては、(メタ)アクリロイロキシエチルモノまたはポリ(n=2以上)カプロラクトンなどの前記した(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルを開始剤として、ε−カプロラクトンやγ−ブチロラクトンなどのラクトン類を開環重合して得られるポリエステル系モノ(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレートや2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルスクシネートなどの前記した(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルに2塩基酸を反応させてハーフエステル化したのち、もう一方のカルボキシル基にアルコール、アルキレングリコールを反応させたエステル系(メタ)アクリレート;
【0049】
グリセロールモノ(メタ)アクリレートやジメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレートなどの3個以上の水酸基をもつ多官能水酸基化合物のモノ(メタ)アクリレート;3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロオクチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレートなどのハロゲン元素含有(メタ)アクリレート;2−(4−ベンゾキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロイロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの如き紫外線を吸収するモノマー、特にこのモノマーは色素の耐光性を向上させるのに共重合するとよい;エチル−α−ヒドロキシメチルアクリレートなどのα位水酸基メチル置換アクリレート類などが挙げられる。
【0050】
さらには、得られた高分子分散剤のAブロックのカルボキシル基や水酸基に、付加重合性基などの反応性基をもったモノマーを反応させて、ポリマー側鎖に付加重合性基を持たせてもよい。特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸を共重合成分として重合して得られるAブロックを含むブロックポリマーに、グリシジルメタクリレートを反応させてメタクリル基を導入したり、モノマーとして2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを共重合成分として重合して得られる水酸基を有するブロックポリマーに、アクリロイロオキシエチルイソシアネートを反応させてアクリル基を導入でき、上記付加重合性基を側鎖に有する高分子分散剤を紫外線硬化や電子線硬化させるポリマーとすることができる。
【0051】
高分子分散剤中のAブロックとCブロックとは、同じでも異なってもよい。すなわち、同じ酸価でも異なった酸価でもよく、さらには同じモノマー組成でも異なったモノマー組成でもよい。しかし、前記した酸価になるような組成であることが必要である。
【0052】
つぎに高分子分散剤中のBブロックは、水に不溶のポリマーブロックである。Bブロックを形成するモノマーは前記したモノマーが挙げられるが、好ましくは芳香環を有する(メタ)アクリレート、例えば、ベンジル(メタ)アクリレートであり、脂環族アルキル基を有する(メタ)アクリレート、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレートを含む疎水性モノマーである。特に重要なことはBブロックが水不溶のポリマーブロックであることであり、このBブロックに含まれるこれらのモノマーの割合は、50質量%以上であることが好ましい。これによって、水への溶解が悪くなり、水系溶媒に使用しても、Bブロックは顔料から剥がれることがない。
【0053】
また、Bブロックの形成には、好ましくは非官能性である脂肪族、芳香族、脂環族アルキル基を有するモノマーを使用してもよいし、酸基、アミノ基、水酸基を有するモノマーを使用してもよい。ただし酸基をもっているモノマーでもよいが、その酸基を中和することで水に溶解してはならないし、アミノ基や第4級アンモニウム塩基を有していてもよいが、酸によって水に溶解したり、第4級アンモニウム塩によって溶解してはいけない。また、特に、アミノ基を有するモノマーを併用すると、スルホン酸などの酸基を有するシナジストで処理された顔料の表面とのイオン結合によって、また、水酸基を有するモノマーを併用すると、顔料表面との水素結合によって、高分子分散剤による顔料の被覆性を向上するので好ましい。
【0054】
また、Bブロックの形成は、前記した疎水性モノマーであるが、2つ以上の付加重合性基をもつモノマーを使用してもよい。2官能以上のモノマーを使用すると、ポリマー中で2官能同士の結合が生じ、Bブロックが分岐状態で重合して、AブロックポリマーがBブロックにグラフトした多分岐型の星型ブロックポリマーとなる。用いる2官能以上のモノマーは特に限定されず、例えば、ジビニルベンゼン;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどのジオールの(メタ)アクリレート;ポリエステルポリオール(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンやペンタエリスリトールなどの多水酸基化合物の(メタ)アクリレート;酸基を有するモノマーとグリシジル基を有するモノマーのグリシジル基と酸基を反応させたもの;水酸基を有するモノマーとイソシアネートを有するモノマーを反応させたものなどが挙げられる。
【0055】
Bブロックの形成に酸基を有するモノマーを使用する場合には、酸基を有するモノマーの使用量は、Bブロックの酸価が20mgKOH/g未満、さらに好ましくは10mgKOH/g以下となる量である。アミノ基を有するモノマーを使用する場合の使用量は、Bブロックのアミン価が100mgKOH/g以下、さらに好ましくは50mgKOH/g以下となる量である。さらにはポリエチレングリコールのようなノニオン系の親水性基を有するモノマーを使用してもよいが、ノニオン系の親水性基が多く存在すると、高分子分散剤が水に溶解してしまうのでよくない。
【0056】
本発明で用いる高分子分散剤は、以上のようなA−BジブロックポリマーまたはA−B−Cトリブロックポリマーである。高分子分散剤中のAブロック、またはAブロックとCブロック(以下「Aブロック」と「Cブロック」とを「親水性ブロック」と称す)とBブロックの量的関係について説明する。親水性ブロック由来の高分子分散剤全体の酸価は20〜250mgKOH/gであり、この範囲で親水性ブロックとBブロックとの質量比や酸価が調整される。上記酸価が20mgKOH/g未満であると、本発明で用いる高分子分散剤が水に親和性がなく、水への溶解・分散状態がとれず、一方、酸価が、250mgKOH/gを超えると高分子分散剤自体の親水性が高すぎ、顔料を処理した場合、顔料からBブロックが剥がれて高分子分散剤が水に溶解してしまう。また、水性顔料分散液を物品の着色に使用しても、酸価が高いので着色被膜の耐水性が劣ってしまう。好ましくは高分子分散剤の全体の酸価は30〜200mgKOH/g、さらに好ましくは40〜180mgKOH/gである。
【0057】
本発明で用いる高分子分散剤の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下GPC)におけるスチレン換算の数平均分子量(以下数平均分子量はGPCのスチレン換算を言い、単に分子量という)は1,000〜20,000である。好ましくは3,000〜15,000、さらに好ましくは5,000〜10,000である。上記分子量が1,000未満であると、高分子分散剤が顔料に吸着後の立体障害が発揮されず、顔料の分散安定性が悪くなる。一方、分子量が、20,000を超えると、水性顔料分散液の粘度が高くなり、顔料の分散がうまく進行せず、また、顔料粒子間を高分子分散剤1分子で複数の顔料吸着を起こし、顔料が凝集してしまう可能性がある。
【0058】
また、本発明で用いる高分子分散剤における、重量平均分子量と数平均分子量の比である分散度(以下PDIと称す)は、特に限定されない。リビングラジカル重合では非常に小さいPDI(〜1.3)の高分子分散剤とすることができるが、本発明では高分子分散剤が前記したブロック構造をとることが重要であるので、PDIは大きくは関与しない。しかし、あまりに広いPDIであると、高分子分散剤が、分子量の大きいポリマーから分子量の小さいポリマーまで含むことになり、前記した分子量範囲以外の現象が起こる可能性があり好ましくない。本発明で用いる高分子分散剤では、PDIは好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下である。
【0059】
つぎに、高分子分散剤中における親水性ブロックとBブロックの質量比は、親水性ブロックが高分子分散剤全体の20質量%以上であることが好ましい。また、高分子分散剤全体の分子量においては、高分子分散剤全体におけるBブロックの分子量が占める割合は80%未満であることが好ましい。これは、Bブロックが質量および分子量において、高分子分散剤中で80%以上であると、本発明で用いる高分子分散剤を水に添加したとき、親水性ブロックが存在していても、Bブロックは疎水性が強いので、Bブロック同士で凝集してしまい、高分子分散剤全体としてアルカリで中和しても水に不溶となってしまう可能性があるからである。好ましくは親水性ブロックの高分子分散剤中における含有量は30質量%以上である。
また、分子量においてはBブロックの分子量は、高分子分散剤全体の分子量の好ましくは80%未満、さらに好ましくは70%以下である。このような範囲において、高分子分散剤が水に溶解したときに、Bブロックは親水性ブロックによって非常に細かく分散され、見た目は透明の水溶液を与えることができる。
【0060】
つぎに本発明で用いる高分子分散剤を得る重合方法について説明する。この重合方法は従来のラジカル重合やリビングラジカル重合ではなく、新規なリビングラジカル重合である。さらには、このリビングラジカル重合は従来のリビングラジカル重合方法とは違い、金属化合物やリガンドを使用せず、ニトロキサイド、ジチオカルボン酸エステルやザンテートなどの特殊な化合物を使用しなくてもよく、従来の付加重合性モノマーとラジカル発生剤である重合開始剤を使用するラジカル重合に、有機ヨウ化物である開始化合物と触媒を併用するだけで、容易に行えるリビングラジカル重合である。
【0061】
上記重合方法は、下記一般反応式1
で表される反応機構で進み、ドーマント種Polymer−X(P−X)の成長ラジカルへの可逆的活性反応である。この重合機構は触媒の種類によって変わる可能性があるが、つぎのように進むと考えられる。上記式1では、重合開始剤から発生したP・がXAと反応して、in siteで触媒A・が生成する。A・はP−Xの活性化剤として作用して、この触媒作用によってP−Xは高い頻度で活性化する。
【0062】
さらに詳しくは、ヨウ素(X)が結合した開始化合物の存在下、重合開始剤から生じるラジカルが、触媒の活性水素や活性ハロゲン原子を引き抜き、触媒ラジカルA・となる。ついでそのA・が開始化合物のXを引き抜きXAとなり、その開始化合物がラジカルとなって、そのラジカルにモノマーが重合し、すぐにXAからXを引き抜き、停止反応を防止する。さらに熱などによってA・が末端XからXを引き抜きXAと末端ラジカルとなってそこにモノマーが反応して、すぐに末端ラジカルにXを与え安定化させる。この繰り返しで重合が進行して分子量や構造の制御ができる。但し、場合によっては、副反応として、二分子停止反応や不均化を伴うことがある。
【0063】
本発明で用いるリビングラジカル重合が開始する開始化合物は、従来公知の有機ヨウ化物であって特に限定されない。具体的に例示すると、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化t−ブチル;アイオドフェニルメタン、アイオドジフェニルメタン、アイオドトリフェニルメタン、2−アイオド−1−フェニルエタン、1−アイオド−1−フェニルエタン、1−アイオド−1,1−ジフェニルエタン、ジヨードメタンなどのアルキルヨウ化物;アイオドジクロロメタン、アイオドクロロメタン、アイオドトリクロロメタン、アイオドジブロモメタンなどのヨウ素原子を含む有機ハロゲン化物;
【0064】
1−アイオドエタノール、1−アイオドプロパノール、2−アイオドプロパノール、2−アイオド−2−プロパノール、2−アイオド−2−メチルプロパノール、2−フェニル−1−アイオドエタノール、2−フェニル−2−アイオドエタノールなどのヨウ化アルコール;それらのヨウ化アルコールを酢酸、酪酸、フマル酸などのカルボン酸化合物とのエステル化合物;アイオド酢酸、α−アイオドプロピオン酸、α−アイオド酪酸、α−アイオドイソ酪酸、α−アイオド吉草酸、α−アイオドイソ吉草酸、α−アイオドカプロン酸、α−アイオドフェニル酢酸、α−アイオドジフェニル酢酸、α−アイオド−α−フェニルプロピオン酸、α−アイオド−β−フェニルプロピオン酸、β−アイオドプロピオン酸、β−アイオド酪酸、β−アイオドイソ酪酸、β−アイオド吉草酸、β−アイオドイソ吉草酸、β−アイオドカプロン酸、β−アイオドフェニル酢酸、β−アイオドジフェニル酢酸、β−アイオド−α−フェニルプロピオン酸、β−アイオド−β−フェニルプロピオン酸などのヨウ化カルボン酸;それらヨウ化カルボン酸のメタノール、エタノール、フェノール、ベンジルアルコール、さらには前記したヨウ化アルコールなどとのエステル化物;それらのヨウ化カルボン酸の酸無水物;それらのヨウ化カルボン酸のクロライド、ブロマイドなどの酸無水物;ヨードアセトニトリル、2−シアノ−2−アイオドプロパン、2−シアノ−2−アイオドブタン、1−シアノ−1−アイオドシクロヘキサン、2−シアノ−2−アイオドバレロニトリルなどのシアノ基含有ヨウ化物などが挙げられる。
【0065】
また、ヨウ素を2つもつ2官能開始化合物も使用でき、例えば、1,2−ジアイオドエタン、1,2−ジアイオドテトラフロロエタン、1,2−ジアイオドテトラクロロエタン、1,2−ジアイオド−1−フェニルエタン、前記したα−アイオドイソ酪酸などのヨウ化カルボン酸とエチレングリコールなどのジオール、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミンとの反応物などが挙げられる。
【0066】
また、これらの化合物は市販品をそのまま使用することができるが、従来公知の方法で得ることができる。例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物とヨウ素の反応によって得られるし、または前記した有機ヨウ化物のヨウ素の代わりにブロマイド、クロライドなどの他のハロゲン原子が置換した有機ハロゲン化物を、第4級アンモニウムアイオダイドやヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物塩を使用しハロゲン交換反応させて本発明で用いる有機ヨウ化物を得ることができる。それらは特に限定されない。
【0067】
本発明で用いる触媒としては、前記した開始化合物のヨウ素原子を引き抜き、ラジカルとなる有機リン化合物、有機窒素化合物、有機酸素化合物であって、好ましくは、ヨウ素原子を含むハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート系化合物である有機リン化合物、またはイミド系化合物、ヒダントイン系化合物である有機窒素化合物、またはフェノール系化合物、アイオドオキシフェニル化合物、ビタミン類である有機酸素化合物の1種以上から選ばれる。
【0068】
これらの化合物は特に限定されないが、具体的に例示すると、リン化合物では、ヨウ素原子を含むハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート系化合物であり、例えば、ジクロロアイオドリン、ジブロモアイオドリン、三ヨウ化リン、ジメチルフォスファイト、ジエチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、ジパーフロロエチルフォスフィネート、ジフェニルフォスファイト、ジベンジルフォスファイト、ビス(2−エチルヘキシル)フォスファイト、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)フォスファイト、ジアリルフォスファイト、エチレンフォスファイト、エトキシフェニルフォスフィネート、フェニルフェノキシフォスフィネート、エトキシメチルフォスフィネート、フェノキシメチルフォスフィネートなどが挙げられる。
【0069】
窒素化合物ではイミド系化合物、ヒダントイン系化合物であり、例えば、スクシンイミド、2,2−ジメチルスクシンイミド、α,α−ジメチル−β−メチルスクシンイミド、3−エチル−3−メチル−2,5−ピロリジンジオン、シス−1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド、α−メチル−α−プロピルスクシンイミド、5−メチルヘキサヒドロイソインドール−1,3−ジオン、2−フェニルスクシンイミド、α−メチル−α−フェニルスクシンイミド、2,3−ジアセトキシスクシンイミド、マレイミド、フタルイミド、4−メチルフタルイミド、N−クロロフタルイミド、N−ブロモフタルイミド、N−ブロモフタルイミド、4−ニトロフタルイミド、2,3−ナフタレンカルボキシイミド、ピロメリットジイミド、5−ブロモイソインドール−1,3−ジオン、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−アイオドスクシンイミド、ヒダントイン、ジアイオドヒダントインなどが挙げられる。
【0070】
酸素化合物としては、芳香環に水酸基を有するフェノール性水酸基であるフェノール系化合物、そのフェノール性水酸基のヨウ素化物であるアイオドオキシフェニル化合物、ビタミン類であり、例えば、フェノール類としてフェノール、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、t−ブチルフェノール、t−ブチルメチルフェノール、カテコール、レソルシノール、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン、ジメチルフェノール、トリメチルフェノール、ジ−t−ブチルメトキシフェノール、ヒドロキシスチレンを重合したポリマーまたはそのヒドロキシフェニル基担持ポリマー微粒子などが挙げられる。これらはモノマーの保存として重合禁止剤として添加されているので、市販品のモノマーを精製せずそのまま使用することで効果を発揮することもできる。アイオドオキシフェニル化合物としてはチモールジアイオダイドなどが挙げられ、ビタミン類としてはビタミンC、ビタミンEなどが挙げられる。
触媒の量としては、重合開始剤のモル数未満である。このモル数が多すぎると、重合が制御されすぎて重合が進行しない。
【0071】
つぎに、本発明で使用される重合開始剤としては、従来公知のものが使用でき、特に限定されず、通常用いられている有機過酸化物やアゾ化合物を使用することができる。具体例としては、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシル−3,3−イソプロピルヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジクミルヒドロパーオキシド、アセチルパーオキシド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキシド、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチレート)、2,2’−アゾビス(メトキシジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。
【0072】
重合開始剤は、モノマーモル数に対して0.001〜0.1モル倍、さらに好ましくは0.002〜0.05モル倍使用する。これはあまりに少ないと重合が不十分であり、また、多すぎると付加重合モノマーだけのポリマーができてしまう可能性がある。
【0073】
以上有機ヨウ化物である開始化合物、付加重合性モノマー、重合開始剤および触媒を少なくとも使用して重合することによって、本発明で用いる高分子分散剤を得ることができる。上記重合は、有機溶剤を使用しないバルクで重合を行ってもよいが、好ましくは溶媒を使用する溶液重合がよい。用いる有機溶剤は特に限定されないが、例示すると、ヘキサン、オクタン、デカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの炭化水素系溶剤;
【0074】
メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジグライム、トリグライム、
【0075】
ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコール、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶剤;
【0076】
メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン、カプロラクタムなどのアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチル、炭酸エチル、ニトロメタン、アセトニトリル、ニトロベンゼン、ジオクチルフタレートなどが挙げられ、本発明に使用する有機ヨウ化物、触媒、付加重合性モノマーおよび重合開始剤を溶解する溶媒であればよい。
【0077】
特に好ましくは、本発明では、前記のブロックポリマーを水性顔料分散液の高分子分散剤として使用するので、溶液重合した後、高分子分散剤のAブロック、またはAブロックとCブロックとを中和する際にアルカリ水溶液で中和し、そのまま顔料の分散処理に使用することがよく、したがって重合に用いる有機溶剤は、水に溶解する有機溶剤がよい。特に好ましい有機溶剤としては、例えば、アルコール系、グリコール系がよい。
【0078】
重合液の固形分(モノマー濃度)としては、特に限定されないが、5〜80質量%、好ましくは20〜60質量%である。固形分が5質量%未満であると、モノマー濃度が低すぎて重合が完結しない可能性があり、80質量%〜バルクの重合では、重合液の粘度が高くなりすぎ、攪拌が困難になったり、重合率が悪くなる可能性がある。
【0079】
重合温度は特に限定されず、0℃〜150℃、さらに好ましくは30℃〜120℃である。重合温度は、それぞれの重合開始剤の半減期によって調整される。また、重合時間は、モノマーがなくなるまで重合を続けることが好ましいが、特に限定されず、例えば、0.5時間〜48時間、実用的な時間として好ましくは1時間〜24時間、さらに好ましくは2時間〜12時間である。
【0080】
雰囲気は、特に限定されず、そのまま重合してもよく、すなわち、系内に通常の範囲内で酸素が存在してもよいし、必要に応じて、酸素を除去するため窒素気流下で行ってもよい。また、使用する材料は、蒸留、活性炭やアルミナで不純物を除去してもよいが、市販品をそのまま使用できる。また、重合は、遮光下で行ってもよいし、ガラスのような透明容器中で行ってもなんら問題はない。
【0081】
以上のようにして、有機ヨウ化物を開始化合物として、付加重合性モノマー、重合開始剤および触媒を少なくとも使用して重合することによって、本発明で用いる高分子分散剤であるジブロックポリマーまたはトリブロックポリマーを得ることができる。
【0082】
上記ジブロックポリマーおよびトリブロックポリマーの重合方法について説明する。ジブロックポリマーは、1官能の有機ヨウ化物を開始化合物として、少なくとも酸基を有する付加重合性モノマーを前記方法によって重合し、1つのポリマーブロック(Aブロックとする)を得る。このポリマー末端はヨウ素基で置換されているため安定化しており、再度モノマーを添加し、熱などによって解離させ再び重合を開始することができる。
【0083】
このAブロックを取り出して精製して、再び有機溶剤に溶解させ、これを開始化合物として、次のモノマーを追加して、好ましくは触媒および重合開始剤を追加して重合することにより、ポリマー末端ヨウ素が解離して再度重合が開始し、BブロックがAブロックに連結したジブロックポリマーを得ることができる。また、Aブロックを形成後、ポリマーを取り出さずにそのままBブロックモノマーを加えて、好ましくは触媒および重合開始剤を加えて重合を行うことによってジブロックポリマーを得ることができる。
【0084】
さらには、Aブロックモノマーが完全に重合していなくても、前記したAブロックの酸価になるように、かつBブロックが水に溶解しないようになればよく、Aブロックモノマーの重合率が50%以上、さらに好ましくは80%以上になった時点で、Bブロックモノマーを添加して重合してもよい。その添加は一度に添加してもよいし、滴下装置で滴下して行ってもよい。滴下することで、Bブロックポリマーは、モノマーのポリマー中における濃度勾配、すなわち、グラジエントポリマーとなることができる。
【0085】
同様にして、上記ブロックの生成を逆にして、先に水に不溶のポリマーであるBブロックモノマーを重合して、ついで酸基を有するモノマーを少なくとも含むモノマーを重合してA−Bのジブロックポリマーを得てもよい。
【0086】
トリブロックポリマーの場合は、前記したブロックポリマーにおいて、酸基を含むモノマーを重合し、ついで疎水性モノマーを重合してジブロックポリマーを得た後、これを取り出して精製し、溶媒に溶解させて、またはブロックポリマーを得た直後に、少なくとも酸基を含むモノマーを共重合成分として添加し、好ましくは重合開始剤および触媒を添加して重合して、このポリマーをCブロックとして、A−B−Cのトリブロックポリマーを得ることができる。前記したと同様に、Bブロックが水に不溶で、A、Cブロックが中和によって水に溶解すればよく、Bブロックモノマーの重合率が好ましくは80%以上であれば、Cブロックモノマーを添加して重合することができる。
【0087】
このCブロックは、Aブロックと同様の組成を使用することで、A−B−Aのトリブロックポリマーとなることができ、Aブロックモノマーと違うモノマー組成で重合すれば、A−B−Cトリブロックポリマーとなる。さらには、Aブロックモノマーの重合率が100%になっていない状態でBブロックモノマーを重合し、Aブロックモノマーと同じモノマー組成を添加して重合した場合もA−B−Cトリブロックポリマーとなり、Bブロックモノマーが完全に重合していない状態でCブロックモノマーを加えて重合してもA−B−Cトリブロックポリマーとなる。さらに、2官能の開始化合物を使用し、疎水性モノマーを重合し、ついで、酸基含有モノマーを重合することで、A−B−C(A)のトリブロック共重合体を得ることができる。
【0088】
本発明で用いる重合では、開始化合物の量によってポリマーの分子量をコントロールすることができる。開始化合物のモル数に対してモノマーのモル数を設定することで、任意の分子量、または分子量の大小を制御できる。例えば、開始化合物を1モル使用して、分子量100のモノマーを500モル使用して重合した場合、1×100×500=50,000の理論分子量を与えるものであり、すなわち、設定分子量として、
[開始化合物1モル×モノマー分子量×モノマー対開始化合物モル比]
で算出することができる。
【0089】
しかし、本発明で用いる重合方法では、二分子停止や不均化の副反応を伴う場合があり、上記の理論分子量にならない場合がある。これらの副反応がないポリマーが好ましいが、カップリングして分子量が大きくなっても、停止して分子量が小さくなっていてもよい。また、重合率が100%でなくてもよく、残ったモノマーは留去したり、ブロックポリマーを析出する際に除去したり、所望のブロックポリマーを得た後、重合開始剤や触媒を加えて重合を完結させてもよい。本発明で用いるジブロックポリマーまたはトリブロックポリマーを生成、含有していればよく、それぞれのブロックポリマー単位を含んでいてもなんら問題はない。好ましくは、本発明のブロックポリマーを50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上含有する高分子分散剤であればよい。また、前記した副反応を伴うことによってPDIは広くなるが、そのPDIは特に限定されず、好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下である。
【0090】
本発明で用いる高分子分散剤は中和せずそのまま使用してもよいし、Aブロック、またはAブロックとCブロックの酸基を中和して水性顔料分散液の調製に使用してもよい。重合を終了してA−BジブロックポリマーまたはA−B−Cトリブロックポリマーを得た後、アルカリを添加してブロックポリマーを水溶性化することができる。酸基を中和するアルカリとしては特に限定されず、アンモニア;ジエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのアミン類;ポリアルキレングリコールの末端アミン類;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛などのアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0091】
以上のようにして、本発明で用いるジブロックポリマーまたはトリブロックポリマーである高分子分散剤を得ることができ、これをアルカリで中和して水性の高分子分散剤溶液を得ることができる。
【0092】
つぎに前記高分子分散剤で顔料を被覆し、これを用いる本発明の水性顔料分散液の製法について説明する。本発明の水性顔料分散液は、前記した顔料と、水と、アルカリで中和された上記高分子分散剤とを少なくとも使用して顔料を水中に分散して得られるものである。そして、水性顔料分散液の製造方法としては下記の方法が好ましい。
(1)少なくとも顔料と、水と、有機溶剤と、アルカリと、前記高分子分散剤とを混合して顔料を水中に分散した後、該混合液に酸を添加して溶解している高分子分散剤を析出させて、顔料を高分子分散剤で被覆し、該被覆顔料を、アルカリ性水性媒体に分散させる方法。
(2)少なくとも顔料と前記高分子分散剤とを混練した後(混練工程)、該混練物を高分子分散剤の貧溶媒に添加して高分子分散剤を貧溶媒中に析出させて顔料を高分子分散剤で被覆し、該被覆顔料をアルカリ性水性媒体に分散させる方法。
【0093】
先ず、上記製造方法(1)について説明する。この方法では、用いる高分子分散剤において、重合後中和された高分子分散剤のみを水に添加した場合は、Bブロックは水に溶解しないので、高分子分散剤が凝集して顔料の分散が難しい場合がある。したがって、Bブロックを水に親和させ、溶解、分散または膨潤させるなどのために高分子分散剤溶液に有機溶剤を添加することが好ましい。
【0094】
この有機溶剤としては前記した有機溶剤が使用され、特に限定されないが、好ましくは水への溶解度がある有機溶剤が使用される。この有機溶剤がBブロックに親和し、かつ水へも親和することによってBブロックを水性溶媒に溶解または分散または膨潤させ、すなわち、水性溶媒中でBブロックが水に親和され、高分子分散剤、特にBブロックの顔料への吸着が促進される。
【0095】
ここで使用する有機溶剤の量は特に限定されない。重合に使用した溶媒量だけでもよいし、新たに添加してもよい。有機溶剤は、Bブロックが凝集して高分子分散剤自体が析出しない量を使用するべきである。
【0096】
以上のように顔料とアルカリで中和された高分子分散剤と水と有機溶剤を使用して、従来公知の方法で顔料を分散する。分散液の顔料濃度は顔料の種類やその使用の用途にもよるが、分散液中で0.5〜70質量%、好ましくは5〜50質量%で、高分子分散剤の使用量は顔料100質量部当たり5〜500質量部が望ましい。すなわち、高分子分散剤で被覆された被覆顔料は、顔料を20〜95質量%含有することが好ましい。
【0097】
上記顔料の分散方法は従来公知の方法であり特に限定されない。顔料と、アルカリで中和された高分子分散剤と、水と、有機溶媒とを混合攪拌して、従来公知の分散機にて顔料を分散する。分散機としては、例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスやジルコンなどを使用したサンドミルや横型メディアミル分散機、コロイドミルなどが使用でき、ビーズミルにおいては、そのメディアとしては1μm以下のビーズメディアが好ましい。
【0098】
また、得られた水性顔料分散液はそのままでもよいが、遠心分離機、超遠心分離機またはろ過機で僅かに存在するかも知れない粗大粒子を除去してもよい。この分散工程で得られる水性顔料分散液をプレ水性顔料分散液とする。
【0099】
このプレ水性顔料分散液をそのまま物品に使用してもよいが、さらなる高い分散安定性や高性能を得るために、顔料粒子表面に高分子分散剤を析出させ、Bブロックで顔料粒子をカプセル化することが好ましい。プレ水性顔料分散液の状態では、Bブロックに親和する有機溶剤が存在するために、高分子分散剤のBブロックは水へ親和性がある状態であるので、顔料から脱離してしまい、従来の水性顔料分散液と同様である。
【0100】
つぎに顔料粒子上に高分子分散剤をカプセル化する析出工程について説明する。上記で得たプレ水性顔料分散液をそのまま、または水で顔料分を10質量%以下に希釈して、必要に応じて所望の顔料分になるように中和された高分子分散剤を追加する。ついで、高分子分散剤の酸基がアルカリで中和されイオン化して水に溶解しているので、これに酸を添加することで水に不溶にさせることができる。そうすることで顔料粒子上に高分子分散剤を堆積またはカプセル化させることができる。ここで用いる酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、酢酸、プロピオン酸、トルエンスルホン酸などの有機酸が使用される。酸はそのまま添加してもよいが、好ましくは10質量%以下の水溶液にして使用される。
【0101】
プレ水性顔料分散液を水で希釈して、従来公知の方法で攪拌しながら、特に好ましくはディゾルバーなどの高速攪拌可能な攪拌機を使用して、徐々に酸を添加する。酸の添加量は高分子分散剤のAブロックおよびCブロックを中和しているアルカリと等モル以上、さらに好ましくは1.1倍モル以上である。
【0102】
酸の添加によって高分子分散剤を析出させた後、析出物をろ過する。析出後、必要に応じて加温して析出粒子を凝集させてろ過しやすくしてもよい。このろ過で析出物に付着しているイオン物質や有機溶剤を十分に除去することが好ましい。
【0103】
ついでろ過して得られた水性顔料ペーストは、乾燥・粉砕して次の工程に使用してもよいが、好ましくは水性顔料ペーストのまま使用することがよい。水性顔料ペーストのまま使用することで、乾燥による高分子分散剤の融着がなく、粉砕の必要がなく、顔料の粒子径も分散時のままであるからである。
【0104】
つぎに前記製造方法(2)について説明する。この方法では、少なくとも顔料と、高分子分散剤とを従来の方法により混練する。使用する高分子分散剤の量は、前記したように、顔料100質量部当たり5〜500質量部が望ましく、混練時に所望の顔料分になるようにあらかじめ加えておいてもよいし、顔料の20〜100質量%の量を加えて、混練後、所望の顔料分になるように加えてもよい。混練方法としては、特に限定されないが、例えば、ニーダー、押出し機、ボールミルなどの従来公知の混練機によって、常温でまたは加熱して30分〜60時間、好ましくは1時間〜12時間混練する。また、必要に応じて混合物中に顔料を微細化するための微細なメディアとして炭酸塩、塩化物塩などを併用して、さらに潤滑性付与などを行うためにエチレングリコール、ジエチレングリコールなどの粘性のある有機溶剤を併用するのが好ましい。上記塩は顔料に対して1〜30質量倍、好ましくは2〜20質量倍の量を使用する。粘性のある有機溶剤の使用量は、顔料混練時の粘度に応じて調整される。
【0105】
上記方法においては、高分子分散剤は、重合後にアルカリ中和していない水不溶な高分子分散剤溶液を用いてもよいし、重合後アルカリで酸基を中和した高分子分散剤溶液として用いてもよい。顔料に対する高分子分散剤の使用量は前記した量であらかじめ調整される。
【0106】
上記混練物を、該混練物中の高分子分散剤が未中和の高分子分散剤の場合は、その高分子分散剤が溶解しない有機溶剤、好ましくは高分子分散剤の溶解性が少ない溶剤、例えば、水、メタノール、ヘキサン、それらの混合溶液などに添加して、高分子分散剤を析出させて顔料粒子上に高分子分散剤を堆積、カプセル化させる。また高分子分散剤として、中和された高分子分散剤を使用する場合は、混練物を酸水溶液に添加し、高分子分散剤を中和して顔料粒子上に堆積、カプセル化させる。ついでろ過し水でよく洗浄する。特に塩を使用して混練した場合は、その塩を除去するために水洗浄は必要である。ついで、水性顔料ペーストを前記したように乾燥、粉砕して粉末としてもよいが、水性顔料ペーストとして使用することが好ましい。
以上の製造方法(1)または(2)によって、高分子分散剤で被覆された処理顔料を経て本発明の水性顔料分散液を得ることができる。
【0107】
つぎに上記の処理顔料を、アルカリ水溶液に加えて処理顔料を分散する。アルカリは前記したものが使用される。また、必要に応じて有機溶剤を添加することができる。この有機溶剤はBブロックを溶解させず、水に溶解する有機溶剤が使用される。この有機溶剤はBブロックのポリマーの種類によって異なるので一概に言えないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,2−ヘキサンジオールなどの1分子に2個以上の水酸基を有する水溶性の有機溶剤または2量体以上のポリアルキレングリコールのモノ・ジ低級アルキル(C1〜C4)エーテルであり、その含有量はBブロックを溶解させない量であって、より好ましくは高分子分散剤量の100%未満である。しかし、その量は限定されない。
【0108】
アルカリを含む水と、処理顔料と、必要に応じて有機溶剤とを添加し、任意の顔料濃度に調整して前記した混合攪拌、分散を行うことによって、本発明の水性顔料分散液を得ることができる。アルカリにて処理顔料中の高分子分散剤のAブロックおよびCブロックを中和して水に溶解させ、Bブロックは水に溶解しないので顔料から脱離せず、高分子分散剤が顔料をカプセル化した本発明の水性顔料分散液を得ることができる。また、得られた水性顔料分散液はそのままでもよいが、遠心分離機、超遠心分離機またはろ過機で僅かに存在するかも知れない粗大粒子を除去することは、分散液の信頼性を高めるうえで好ましい。
【0109】
本発明の水性顔料分散液においては、顔料濃度は顔料の種類にもよるが分散液中で0.5〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%である。また分散液の粘度(25℃)は1〜50ミリパスカル、好ましくは2〜30ミリパスカルである。本発明の高分子分散剤で被覆された処理顔料を使用した水性顔料分散液の粘度の経時安定性は非常に優れている。
【0110】
以上のようにして高分子分散剤を使用して、水性顔料分散液を得ることができる。これらの水性顔料分散液は、従来公知の塗料、インキ、コーティング剤、文具、トナーの着色剤に使用することができる。具体的には水性塗料、油性塗料、グラビアインキ、水性フレキソインキ、インクジェットインク、文具用インク、筆記具用インク、コーティング剤、カラーフィルター用カラー、湿式トナー、ケミカルトナーなどの着色剤として使用することができる。その添加量は顔料濃度にもより一概に言えないが、それぞれの着色濃度に合わせて使用することができる。
【実施例】
【0111】
つぎに合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、文中「部」または「%」とあるのは質量基準である。
【0112】
[合成例1]高分子分散剤−1の合成
攪拌機、逆流コンデンサー、温度計および窒素導入管を取り付けた1リッターセパラブルフラスコの反応装置に、ジエチレングリコールジメチルエーテル(以下ジグライムと称す)241.5部、2−アイオド−2−シアノプロパン(以下CP−1と称す)6.2部、メタクリル酸メチル(以下MMAと略す)180部、アクリル酸(以下AAと略す)14.4部、アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと略す)5.2部、アイオドスクシンイミド(以下NISと略す)0.1部を添加して、窒素を流しながら攪拌した。反応温度を75℃に昇温させ、3時間重合させた。
【0113】
3時間後、一部をサンプリングして固形分を測定したところ、42.0%であり、殆どのモノマーが重合していることが確認された。また、GPCにて分子量を測定したところ、数平均分子量(以下Mnと称す)は5,000であり、分散度(以下PDIと称す)は1.42であり、分子量の分布が狭い、分子量が揃っているポリマーを得ることができた。また、このポリマーのUV吸収(測定波長254nmであり、以下UV吸収はこの波長での測定値である)はなく、UV測定機では分子量が確認されなかった。このポリマーの酸価は56.3mgKOH/gであった。
【0114】
ついで、上記重合溶液にメタクリル酸ベンジル(以下BzMAと略す)35.2部とAIBN0.3部との混合物を添加して、その温度で3時間重合した。固形分を測定したところ、48.9%であり、殆どのモノマーが重合していることが確認され、Mnは5,500であり、PDIは1.43であった。また、ベンジル基からくるUV吸収が確認され、UV吸収によるMnは5,400であり、PDIは1.44であった。GPCの可視領域の分子量とUV領域の分子量が殆ど同じであり、MMA/AAポリマーブロックにBzMAポリマーブロックが結合することで、分子量が大きくなっていることより、前記したMMA/AAポリマーブロックにBzMAポリマーブロックがブロック共重合していると考えられる。
【0115】
このブロックポリマー(高分子分散剤)の酸価は48.0mgKOH/gであった。なお、使用モノマー基準で計算したAブロック/[Aブロック+Bブロック]×100=194.4/229.6×100=84.7(%)であった。以下の合成例も同様である。
【0116】
ついで、この重合溶液に水酸化カリウム14.3部および水106.4部を添加して溶解した溶液は透明であり、高分子分散剤の析出は全くなかった。すなわち、BzMAポリマーブロックも析出がなく溶解した。ついで50℃で2時間反応させ、ポリマー末端のヨウ素を分解した。以上のようにして高分子分散剤−1溶液を得た。該溶液の固形分は41.2%であり、pHは9.8であった。上記溶液を容器に入れて放置しても、ポリマーの沈降はなく溶液は透明のままであった。
【0117】
また、この高分子分散剤−1溶液を10倍の水で希釈したところ、殆ど透明であるが、青い微分散液となり、BzMAポリマーブロックが微粒子となって分散しているものと考えられる。また、この溶液のヨウ素イオン量をイオンクロマトグラフで測定したところ0.64%であり、ポリマー末端のヨウ素はすべて分解していた。
【0118】
[比較例1]
合成例1のCP−1およびNISを使用しない以外は合成例1と同様に実験した。MMA/AAの重合では、3時間で固形分42.3%であり、殆どのモノマーは重合していた。ついでその分子量はGPCでは、Mnは6,200であり、PDIは2.00であった。このポリマーは分子量が揃っておらず、通常のラジカル重合ポリマーである。さらにその重合後、次のモノマーとして、合成例1と同様にしてBzMAとAIBNの混合物を添加し重合した。重合溶液は透明であった。3時間後、固形分を測定したところ、49.6%で殆どのモノマーが重合していることが確認された。また、その分子量を測定したところ、Mnは6,800であり、PDIは2.02であった。また、UV吸収でのMnは5,000、PDIは2.48であった。
【0119】
ついで、合成例1と同様にして水酸化カリウム水溶液を添加したところ、重合液は白濁して、反応装置壁面に不溶物が多く確認された。さらにこの高分子分散剤溶液を10倍の水で希釈したところ、白濁し、容器の底部に細かい粒子の沈殿が見られた。
【0120】
これは、分子量が、MMA/AAポリマーブロックの分子量にBzMAポリマーブロックの分子量分だけ伸びたものではないこと、さらに可視領域の分子量とUV領域の分子量が大きく違うこと、また、水添加で白濁すること、また、水希釈においても析出沈降が見られることから、水不溶のBzMAのホモポリマーが存在し、MMA/AAポリマーブロックとBzMAポリマーブロックはブロックポリマーになっていないことが示唆され、本発明で用いるリビングラジカル重合の有用性が確認された。この高分子分散剤溶液を比較高分子分散剤−1とする。固形分は42.0%であり、pHは10.3であった。中和後は白濁していたが、容器に入れ放置後、容器底面に水不溶の高分子分散剤が析出して分離していた。
【0121】
[比較例2]
合成例1と同様の装置を使用して、ジグライム241.5部を仕込んで75℃に加温した。ついで別容器にMMA180部、AA14.4部、BzMA35.2部およびAIBN5.6部を混合均一化したモノマー溶液を用意し、反応容器にモノマー混合液の1/3を添加し、残りのモノマー混合液を1.5時間で滴下し、ついで4.5時間重合させた。この溶液をサンプリングし、固形分を測定したところ、49.6%であって、殆どのモノマーが反応していることが確認された。また、GPCで測定したところ、Mnは6,300であり、PDIは1.95であった。UV吸収でのMnは6,300であり、PDIは2.29であり、可視領域のMnとUV領域のMnが同一であった。
【0122】
ついで、これに水酸化カリウム14.3部および水106.4部のアルカリ水溶液を添加し、透明の高分子分散剤溶液を得ることができた。これを10倍の水で希釈したところ、ポリマーは透明に溶解した。このポリマーは従来のランダムコポリマーであって、分子量や形状が制御されておらず、したがってカルボキシル基がランダムに高分子分散剤に配列することによって、高分子分散剤が水に均一に溶解するものである。これを比較高分子分散剤−2とする。固形分は41.9%、pHは10.2であった。容器に入れて放置しても透明のままであった。
【0123】
[合成例2〜13]
合成例1と同様にしてブロックポリマー型の高分子分散剤−2〜13を作成し、表1〜4に纏めた。開始化合物はすべてCP−1であり、合成例2〜10の使用量は合成例1と同様の量、合成例11〜13はその半量である。また、中和する場合のアルカリ水溶液の量は、重合で使用する有機溶剤の半量である。表1〜4における略語の意味は下記の通りである。
(1)DPDM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル
(2)ジグライム:ジエチレングリコールジメチルエーテル
(3)MMA:メタクリル酸メチル
(4)AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
(5)NIS:アイオドスクシンイミド
(6)BzMA:メタクリル酸ベンジル
(7)SI:スクシンイミド
(8)IA:2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール
(9)V−65:アゾビスジメチルイソバレロニトリル
(10)LMA:メタクリル酸ラウリル
(11)BMA:メタクリル酸ブチル
(12)HEMA:メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル
(13)CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
(14)AA:アクリル酸
(15)MAA:メタクリル酸
(16)DMAEMA:メタクリル酸ジメチルアミノエチル
(17)PGMAc:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
(18)IPA:イソプロピルアルコール
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
[合成例14]高分子分散剤−14の合成
合成例1と同様の装置を使用して、ジグライム227部、CP−1を6.2部、MMA84部、AA13.7部、AIBN5.2部およびNIS0.45部を添加して、窒素を流しながら攪拌した。反応温度を75℃に昇温させ、3時間重合させた。3時間後、一部をサンプリングして固形分を測定したところ、19.2%であり、殆どのモノマーが重合していることが確認された。また、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは2,300であり、PDIは1.38であった。このポリマーの酸価は104.2mgKOH/gであった。
【0129】
ついで、上記重合系にBzMA70.4部およびAIBN0.7部の混合物を添加して、その温度で3時間重合した。固形分を測定したところ、38.5%であり、殆どのモノマーが重合していることが確認され、Mnは4,300であり、PDIは1.45であった。さらに、MMA84部およびAA13.7部を添加して、3時間重合した。固形分は48.6%であり、Mnは6,100、PDIは1.86であった。このポリマーの酸価を測定したところ、76.5mgKOH/gであった。ついで、この重合溶液に水酸化ナトリウム21.7部および水117部を添加して中和した。溶液は透明であり、析出は全くなかった。すなわち、BzMAポリマーブロックも析出がなく溶解した。ついで50℃で2時間反応させ、ポリマー末端のヨウ素を分解した。
【0130】
以上のようにして高分子分散剤−14を得た。固形分は41.2%であり、pHは9.5であった。容器に入れて放置してもポリマーの沈降はなく透明のままであった。また、この高分子分散剤−14を10倍の水で希釈したところ、殆ど透明であるが、青い微分散液となり、BzMAポリマーブロックが微粒子となって分散しているものと考えられる。また、この溶液のヨウ素イオン量をイオンクロマトグラフで測定したところ0.57%であり、ポリマー末端のヨウ素はすべて分解していた。これはA−B−C型のトリブロックポリマーである。
【0131】
[合成例15]高分子分散剤−15の合成
合成例1と同様の装置を使用して、ジグライム270.1部、ヨウ素3.03部、アゾビス(メトキシジメチルバレロニトリル)(以下V−70と略す)14.8部、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン(以下BHTと略す)0.66部、BzMA105.6部を添加して、窒素を流しながら40℃に加温し、6.5時間重合させた。3時間後にヨウ素の褐色が消え、レモン色となった。これはラジカル開始剤であるV−70が分解し、そのラジカルがヨウ素と反応して本発明の重合開始化合物である有機ヨウ化物となったものである。この後、一部をサンプリングして固形分を測定したところ、21.1%であり、収率は67%であった。GPCで分子量を測定したところ、Mnは2,700であり、PDIは1.20であった。
【0132】
ついで上記反応溶液にMMA120部、MAA25.8部、V−70を0.74部の混合物を添加し、4.5時間重合させた。サンプリングしたところ48.3%であり、ほとんどのモノマーが重合していることが確認された。このAポリマーはBポリマーの重合しなかったBzMAを含むものであって、組成としては前記収率より換算するとMMA/MAA/BzMA=66.4/14.3/19.3(質量比)であるものである。得られたブロックポリマーのMnは6,000であり、PDIは1.44であった。酸価は67.0mgKOH/gであった。
ついでジエチレングリコールモノブチルエーテル(以下BDGと略す)135.6部を添加し、水酸化ナトリウム7.2部及び水128.4部の混合液を添加して中和させた。溶液は透明であり、析出は全くなかった。ついで、50℃で2時間反応させ、ポリマー末端を分解した。固形分は34.4%であった。
【0133】
このポリマーは、疎水性であるBポリマーを重合した後、水可溶性ポリマーであるAポリマーを重合したもので、さらにメタクリル酸を使用したA−Bブロックポリマーである。比較的Bポリマーの分子量が大きいA−Bポリマーである。
【0134】
[合成例16〜24]
合成例15と同様にして、Bポリマーを先に得て、メタクリル酸を有するAポリマーを重合したA−Bブロックポリマーである高分子分散剤−16〜24を作成し、表5〜7に纏めた。なお、合成例16〜24においては、合成例15と同様にV−70、ヨウ素、ジグライムを使用し、ブロックポリマー後の固形分が50%になるように溶剤量を調整した。また、Aブロックの組成はBブロックの残モノマーを収率から換算して質量比の組成とし、Aブロックの酸価はその組成比から算出した。
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
[実施例1]青色水性顔料分散液−1
合成例1で得た高分子分散剤−1を170部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル70部および純水388部を混合して均一溶液とした。溶液は透明で析出や濁りはなかった。これに青色顔料である銅フタロシアニンブルー(シアニンブルーKBM、大日精化工業社製)ペースト(固形分35%)を1,000部添加して、ディスパーで30分解膠してミルベースを調製した。
【0139】
ついで、横型メディア分散機を用いて十分に顔料を分散させた後、このミルベースに純水316部を添加して顔料分18%の水性顔料分散液を得た。つぎに、純水5,000部に上記で得たミルベースを注ぎ、高速攪拌しながら5%塩酸を滴下して高分子分散剤を析出させた。このとき初期のpHは9.5であり、酸を添加することでpH2.1まで下げた。ついで、この水性顔料分散液をろ過して、純水でよく洗浄して固形分30.5%の顔料ペーストを得た。
【0140】
つぎにこの顔料ペースト100部に水酸化ナトリウム6.4部を水46.1部に溶解したものを添加して攪拌して溶解させた。ついで、上記の横型メディア分散機にて十分溶解、分散させた。このときの顔料の粒子径は101.3nm、分散液の粘度は3.48mPa・s、pHは8.9であった。イオンクロマトグラフにてヨウ素イオンを測定したところ、検出されなかった。このようにして青色水性顔料分散液−1を得た。これを70℃で4日保存したところ、顔料の粒子径は101.7nm、分散液の粘度は3.38mPa・sであった。保存安定性は良好であった。
【0141】
つぎに、この水性顔料分散液を少量アルミカップに取り、50℃の真空乾燥機で3時間放置して乾燥させて乾燥被膜を得た。これに純水を滴下すると、水と触れると被膜が溶解した。この溶解後の液を顕微鏡で観察したところ、粗大粒子がなく、すべての粒子が溶解していた。すなわち、本発明の水性顔料分散液は、一旦乾燥してもその乾燥物は再溶解性が良好なものであり、この分散液においては、顔料に高分子分散剤がカプセル化していることが考えられ、顔料に自己分散性が付与されたと考えられる。
【0142】
上記と同様にして比較例1、2の比較高分子分散剤を使用して同様の実験を行った。あわせて実施例1の析出処理する前のミルベースを同様の固形分になるように調整して、同様の再分散性の試験を行った。その結果を実施例1の結果とあわせて表8に記す。
【0143】
【0144】
[評価基準]
以下同様の試験結果においては同様の評価基準とする。
粒子径
◎:変化率±5%未満
○:変化率±5%以上10%未満
△:変化率±10%以上15%未満
×:変化率±15%以上
粘度変化
◎:粘度が低く、変化率±10%未満
○:粘度が高く、変化率±10%未満
△:粘度が低く、変化率±10%以上
×:粘度が高く、変化率±10%以上
再分散性
◎:溶解が早い
○:一部脱膜的に溶解する
△:一部溶解的に溶解する
×:脱膜的に溶解する
【0145】
比較例1では、分散剤中に酸価が高いMMA/AAコポリマーが存在するので、顔料の分散が進行し、ある程度の水性顔料分散液を与えたが、再分散性については、乾燥被膜が膜状に剥がれていく現象が見られ、顕微鏡で観察したところ、試験液中には凝集粒子や膜状物体が見られた。比較例2で用いたものは、酸価が低い高分子分散剤であって、顔料の分散が不十分な分散液であった。また、再分散性は比較例1と同様に悪いものであった。実施例1のミルベースは、高分子分散剤が顔料を完全にカプセル化しておらず、高分子分散剤が顔料から脱離していることから、分散剤の性能が十分には発揮されなかったと考えられる。
【0146】
実施例1と同様にして、それぞれPY−74であるイエロー、PR−122であるマゼンタおよびカーボンブラックであるブラック顔料の各顔料についても同様の操作を行い、イエロー水性顔料分散液、マゼンタ水性顔料分散液およびブラック水性顔料分散液を得た。イエロー水性顔料分散液についてはセイカファーストイエローA3(大日精化工業社製)を、高分子分散剤は高分子分散剤−2で、マゼンタ水性顔料分散液についてはクロモファインマゼンタ6887(大日精化工業社製)を、高分子分散剤−7で、ブラック水性顔料分散液についてはMB−1000(三菱化学社製)を、高分子分散剤−5を用いて分散を行った。それぞれ、黄色水性顔料分散液−1、赤色水性顔料分散液−1、黒色水性顔料分散液−1と称す。また、赤色顔料において、比較例2の高分子分散剤を使用して赤色水性顔料分散液−2を得た。それらの分散液の保存安定性の結果と乾燥被膜の再分散性の結果を表9に示す。
【0147】
【0148】
黄色水性顔料分散液−1、赤色水性顔料分散液−1および黒色水性顔料分散液−1についても、青色水性顔料分散液−1と同様に、保存安定性が良好で、乾燥被膜の再分散性が非常に良好な各色水性顔料分散液が得られた。以上の実施例の如く、分散液の保存安定性が良好であることは勿論であるが、乾燥被膜についても非常に良好な乾燥被膜の再分散性という性能を与える水性顔料分散液が得られることがわかった。また、赤色水性顔料分散液−1の高分子分散剤−7から高分子分散剤−12に変えて行ったところ、同様の結果を得た。
【0149】
一例として、赤色水性顔料分散液−1および比較例2の高分子分散剤を使用して得た赤色水性顔料分散液−2のそれぞれの乾燥被膜の再分散性試験のイメージを
図1、
図2、
図3に示した。
図1は乾燥後の被膜、
図2は水を添加したときのそれぞれの状態、
図3は水を添加したときのそれぞれの状態を顕微鏡で観察したものであり、前記高分子分散剤を用いたものは容易に溶解していることが確認された。
【0150】
上記良好な再分散性は、これらの分散液を水性文具用顔料インクとして使用した場合、ペン先の乾きが防止され、乾いても再び水に触れさせることで再び筆記できるようになると考えられ、またはインクジェット用インクとして使用した場合は、その印字ヘッドの乾きを防止し、乾いても再び洗浄液で容易に洗浄されると考えられ、非常に有用である。
【0151】
[実施例2]青色水性顔料分散液−2
実施例1の高分子分散剤−1の170部を41部の高分子分散剤−3に代えて、さらに分散剤の析出前の顔料分散において、分散機を超音波分散機に代えて行った以外、実施例1とは同様に行った。超音波分散処理は、ミルベースをマグネチックスターラーで攪拌し、超音波脱泡装置で15分間脱泡し、ついで容器の外側から氷で冷やしながら、1分間の間隔をおいて出力1,200Hzの超音波分散機で15分間超音波を照射して分散処理した。
【0152】
このようにして青色水性顔料分散液−2を得た。この例は、顔料に対して高分子分散剤の使用量を少なくしたものであり、実施例1では分散剤の使用量は顔料に対して20%であるが、実施例2ではその量が5%の少量である。また、同様にして比較例1および2の高分子分散剤を使用して同様に超音波分散処理を行った。これらで得られた水性顔料分散液を実施例1と同様にして保存安定性、乾燥被膜の再分散性の試験を行った。その結果を表10に示す。
【0153】
【0154】
上記の通り、驚くべきことに顔料に対する高分子分散剤の使用量が非常に少なくても分散安定性の高い、乾燥しても水で再分散する分散液を得ることができた。これは高分子分散剤が顔料粒子を被覆または顔料粒子に堆積していることによると考えられる。比較例1と2は通常の顔料分散方法であり、顔料に対する分散剤が足らず、安定性にかけるものであり、乾燥被膜の再分散性もよくないものであった。この青色水性顔料分散液−2の高分子分散剤を、高酸価の高分子分散剤−10、高分子分散剤−14のトリブロックポリマーに代えて行ったところ、同様の結果が得られた。
【0155】
また、実施例1と同様にして、イエロー顔料、マゼンタ顔料およびブラック顔料を使用してそれぞれの水性顔料分散液を得た。イエロー水性顔料分散液には高分子分散剤−4を使用して黄色水性顔料分散液−2を、マゼンタ水性顔料分散液には高分子分散剤−9を使用して赤色水性顔料分散液−3を、黒色水性顔料分散液には高分子分散剤−6を使用して黒色水性顔料分散液−2を得た。上記の試験と同様の分散液の保存安定性と、乾燥被膜の再分散性を与えた。
【0156】
[実施例3]白色水性顔料分散液
250mlのポリビンに酸化チタン(R−930、石原産業社製)を20部、高分子分散剤−8を18.5部および水61.5部を入れて1mmジルコニアビーズでペイントコンディショナーにて4時間分散した。得られた分散液の顔料の粒子径は236nm、最大粒子径は1.51μmであった。これを実施例1と同様にして高分子分散剤を析出させてろ過した。この際のペーストの固形分は28.7%であった。
【0157】
この顔料ペースト100部に対して、28%アンモニア水2.4部と水3.6部を添加して高速ディスパーで攪拌したところ、容易に溶解分散して白色水性顔料分散液を得ることができた。この分散液の顔料の粒子径を測定したところ、分散時粒子径に近く241nmであり、容易に水性顔料分散液を得ることができた。比較として、上記のペイントコンディショナーで得られたミルベースを、上記白色水性顔料分散液と同様の顔料分になるように水で希釈した。これを比較白色水性顔料分散液とする。
【0158】
この両者を室温で1週間放置し、顔料の沈降の度合いを見た。その結果、白色水性顔料分散液では、上澄み液が見られず、底部にはうっすらと沈降物が見られるが、比較白色水性顔料分散液では透明の上澄み液と沈降が多く見られた。これは顔料の表面を前記高分子分散剤が被覆した効果と考えられる。同様に水酸基を有する高分子分散剤−12に変えて行ったところ、同様の結果を得た。
【0159】
[実施例4]緑色水性顔料分散液−1
市販のハロゲン化フタロシアニン系緑色顔料(C.I.P.G.36)100部、モノスルホン化銅フタロシアニン5部、ジエチレングリコール200部および食塩700部を3Lのニーダーに投入し、温度が100℃〜120℃を保つように調整し、その温度に達したところで、高分子分散剤−10を40部添加して8時間磨砕した。ついで得られた混練物の800部を2,000部の水に投入し、4時間、高速攪拌した。ついでろ過、洗浄を行い、緑色顔料の水ペースト(顔料純分29.3%)を得た。
【0160】
この水ペースト100部に28%アンモニア水0.6部および水94.7部を添加して、実施例1と同様にして横型メディア分散機で分散した。このときの分散液の顔料の粒子径は89nm、分散液の粘度は2.66mPa・sであった。これを同様にして保存試験したところ、顔料の粒子径は82nm、分散液の粘度は2.58mPa・sであり、保存安定性が良好であった。乾燥被膜の再分散性試験も良好であり、乾燥被膜は良好に再分散した。これを緑色水性顔料分散液−1と称す。
アミノ基を有する高分子分散剤−13に変えて行ったところ、同様の結果を得、さらに保存安定性として、70℃、1週間保存でも粘度変化5%未満という高安定性であった。これは顔料表面のシナジストのスルホン酸と高分子分散剤のアミノ基とのイオン結合による高度なカプセル化が効果を発揮したと考えられる。
【0161】
[実施例5]赤色水性顔料分散液−4
高分子分散剤−15を25.3部、BDG60.0部を混合し透明な水溶液となった。これを微細化されたPR−122(平均粒子径106nm)の固形分29.4%の水ペースト204部に添加したところ、流動性をおび、ついでディゾルバーにて攪拌した。ついで、実施例1と同様にして、前記した横型分散機とメディアにて分散しミルベースを作成し、ついで顔料分5%になるように水を加えて希釈した後、1%酢酸水溶液を添加してpH4.5まで下げたところ、増粘し樹脂を析出し、樹脂処理された顔料を得た。ついでろ過し、よく水洗して固形分26.4%の顔料ペーストを得た。
実施例1と同様にして、上記顔料ペースト75部、BDG5.5部、イオン交換水20.6部、水酸化ナトリウム0.67部を混合して中和・水溶液化させ、分散機にて分散した。得られた顔料分散液は顔料分が17%であるので、これに水を加えて14%の顔料分散液とした。これを赤色水性顔料分散液−4とする。
また、分散後の顔料を14%に希釈する際、水の代わりにBDGを添加して調整した。これは顔料分散液に有機溶剤であるBDGを多く含む顔料分散液である。これを赤色水性顔料分散液−5とする。
同様にして高分子分散剤−18を使用して同様に行い赤色水性顔料分散液−6とBDGが多い赤色水性顔料分散液−7を得た。
この4つの赤色水性顔料分散液を前記と同様にして70℃で、1日、7日保存した。その粒子径変化と粘度変化を表11に纏めた。
【0162】
【0163】
有機溶剤が少ない顔料分散液では、本発明の高分子分散剤のBブロックが不溶のため、カプセル化が保持され、良好な保存安定性を得、良好な顔料分散液を得ることができた。有機溶剤を多く含む顔料分散液では、高分子分散剤−15のBブロックの分子量が大きく、溶剤溶解性が低いため、溶剤が多い分散液であっても、そのBブロックが溶解せず、安定性を保った。しかし、高分子分散剤−18では安定性にかける結果となった。これは、高分子分散剤−18のBブロックの分子量が大きくても、そのBブロックの組成では溶剤溶解性があり、また2EHMAのために軟質であるため、脱カプセル化が起こり、安定性にかけたものと考えられる。
同様にして、高分子分散剤−15に代えて、高分子分散剤−16、17を使用しても同様の結果を得た。
また、実施例5において、PR−122に代えて、前記した銅フタロシアニン顔料を使用して行っても同様の結果が得られ、微粒子化された高保存安定性の顔料分散液を得ることができた。
【0164】
[実施例6]黄色水性顔料分散液−3
高分子分散剤−19を70.1部、BDG28.8部、水513部を混合し透明な水溶液となった。これを微細化されたPY−74(平均粒子径97nm)の粉末顔料200部に添加したところ、流動性をおび、ついでディゾルバーにて攪拌した。ついで、実施例1と同様にして、前記した横型分散機とメディアにて分散しミルベースを作成し、ついで顔料分5%になるように水を加えて希釈した後、1%酢酸水溶液を添加してpH4.5まで下げたところ、増粘し樹脂を析出し、樹脂処理された顔料を得た。ついでろ過し、よく水洗して固形分24.6%の顔料ペーストを得た。
実施例1と同様にして、上記顔料ペースト200部、BDG8.9部、イオン交換水44.6部、水酸化ナトリウム3.0部を混合して中和・水溶液化させ、分散機にて分散した。得られた顔料分散液は、顔料分が17%であるので、これに水を加えて14%の顔料分散液とした。これを黄色水性顔料分散液−3とする。
同様にして、高分子分散剤−20と−21、比較高分子分散剤−2をそれぞれ使用して分散液を作成した。それぞれ黄色水性顔料分散液−4、5、6とする。
この4つの黄色水性顔料分散液を前記と同様にして70℃で、1日、7日保存した。その粒子径変化と粘度変化を表12に纏めた。
【0165】
【0166】
一般的にアゾ系顔料の粒子化された分散液の粒子は、熱によって結晶成長することが知られている。比較の黄色顔料分散液−6では、分散安定性がとれず、また熱をかけることによってアゾ顔料が結晶成長して粒子径が大きくなった。しかし、驚くべきことに、本発明の高分子分散剤−19〜21では、熱をかけても粒子径は大きくならず、安定性が良好であった。これは高分子分散剤−19〜21のBブロックが顔料をカプセル化し、結晶成長を抑制したためと考えられる。
【0167】
[実施例7]赤色水性顔料分散液−8
前記したPR−122の乾燥粉末顔料100部、ジエチレングリコール200部および食塩700部を使用して、実施例4と同様にしてニーダーにて混練し微細化した。ついで、高分子分散剤−22を20.7部添加して十分に均一になるように混練した。
ついで得られた混練物の800部を2,000部の水に投入し、4時間高速攪拌した。ついでろ過、洗浄を行い、赤色顔料の水ペースト(顔料純分22.4%)を得た。
【0168】
この水ペースト1,000部に水酸化カリウム1.5部と水180.5部の水溶液を添加して、実施例1と同様にして横型メディア分散機で分散した。このときの分散液の顔料の粒子径は110nm、分散液の粘度は3.12mPa・sであった。これを同様にして前記と同様の保存試験をしたところ、70℃、1週間で、顔料の粒子径は120nm、分散液の粘度は2.98mPa・sであり、保存安定性が良好であった。これを赤色水性顔料分散液−8と称す。
【0169】
同様にして、高分子分散剤−23を使用し24.9%の水ペーストを得た。さらに同様にして水酸化カリウム1.06部と水317部の水溶液を添加して、同様に行った。平均粒子径は115nmであり、粘度は3.75mPa・sであった。これを赤色水性顔料分散液−9と称す。前記と同様の安定性試験を行ったところ、70℃、1週間で顔料の粒子径は117nm、分散液の粘度は3.66mPa・sであり、保存安定性が良好であった。
【0170】
さらに同様にして、高分子分散剤−24を使用し27.6%の水ペーストを得た。さらに同様にして水酸化カリウム0.87部と水460部の水溶液を添加して、同様に行った。平均粒子径は114nmであり、粘度は3.81mPa・sであった。これを赤色水性顔料分散液−10と称す。前記と同様の安定性試験を行ったところ、70℃、1週間で顔料の粒子径は111nm、分散液の粘度は3.45mPa・sであり、保存安定性が良好であった。
これらは驚くべきことに、高分子分散剤全体の酸価が非常に小さいのに、保存安定性が非常に良好である。これは疎水性鎖であるBブロックのカプセル化が有効に働き、Aブロックが水媒体中に溶解しているためと考えられる。
【0171】
[応用例1]水性インクジェットインクへの応用−1
実施例1で得られた青色水性顔料分散液−1、黄色水性顔料分散液−1、赤色水性顔料分散液−1および黒色水性顔料分散液−1を用いて、次の処方で水性インクジェットインクを調製した。
・水性顔料分散液 100部
・水 275部
・1,2−ヘキサンジオール 40部
・グリセリン 80部
・サーフィノール465(エアープロダクト社製) 5部
【0172】
これらのインクを遠心分離処理(8,000rpm、20分)して粗大粒子を除去した後、5μmのメンブランフィルターでろ過を行い、各色インクを得た。これらのインクをインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンターによりインクジェット用光沢紙Photolike QP(コニカ社製)にベタ印刷を行った。1日、室内に放置後、micro-TRI-gloss(BYK社製)を用いて20°グロスをそれぞれ測定した。また、縦、横の直線を印刷し、印字ヨレの度合いを目視により観察し、印字品質の評価とした。また、光沢紙耐擦過性として、この印字面を指でこすり、グロス低下があるか確認した。これを表13に纏めた。
【0173】
【0174】
印字ヨレ評価
◎:ヨレなし
○:殆どヨレなし
×:ヨレあり
耐擦過性評価
○:剥がれなし
△:少し剥がれる
×:印字面の色が剥がれる
以上のようにして、高分子分散剤のAブロックがバインダー成分となって、画像のグロスが非常に高く、印字ヨレがなく、耐擦過性も良好な印画物を得ることができた。
同様にして、実施例で得られた青色水性顔料分散液−2、黄色水性顔料分散液−2、3、4、赤色水性顔料分散液−2、4、6を使用しても同様の結果が得られた。高グロス、高印刷性を与えた。
【0175】
[応用例2]水性インクジェットインクへの応用−2
実施例2で得られた青色水性顔料分散液−2、黄色水性顔料分散液−2、赤色水性顔料分散液−3および黒色水性顔料分散液−2を用いて応用例1と同様の配合と処理により、各色インクを得た。これらのインクをインクカートリッジに充填し、インクジェットプリンターによりゼロックス社製普通紙にグラディエーションインク印刷を行った。1日、室内に放置後、マクベスRD−914(マクベス社製)を用いて光学濃度を測定した。また、耐擦過性として、この印字面を指で擦り、印字物の剥がれがあるか否か確認した。これを表14に纏めた。
【0176】
【0177】
耐擦過性評価
○:脱落なし
△:少し脱落する
×:脱落する
【0178】
応用例2でのインクでは、バインダー成分がないことによって画像の耐擦過性能は低いが、高濃度の印画ができ、非常に高発色性を与えることが確認された。青色水性顔料分散液−2を使用して印画した紙上の顔料粒子の電子顕微鏡写真を
図4に示した。その結果、粒子のエッジの出ているような裸の顔料粒子が見られず、表面がふんわりしており、顔料が高分子分散剤で被覆されていることが確認された。
また、同様にして、実施例の赤色水性顔料分散液−8〜10を使用しても同様に発色性の高い印字物が得られた。
【0179】
[応用例3]水性文具への応用
実施例で得られた青色水性顔料分散液−1、黄色水性顔料分散液−2、赤色水性顔料分散液−3、黒色水性顔料分散液−1および−2、および緑色水性顔料分散液−1を用いて次の処方で水性文具用顔料インクを調製した。
・水性顔料分散液 100部
・水 46.7部
・エチレングリコール 11.1部
・グリセリン 40.0部
・チオ尿素 24.4部
【0180】
これらの配合物をディスパーで30分攪拌し、遠心分離処理(8,000rpm、20分)して粗大粒子を除去した後、5μmのメンブランフィルターでろ過を行い、各色インキを得た。これらのインクを中芯とプラスチック成形で作ったペン先を有するプラスチック製のサインペンに詰めて試験した。
【0181】
このサインペンを使用して普通紙に筆記したところ、紙の裏に浸透する裏抜けの現象が見られず鮮鋭な筆記ができた。また、このサインペンのキャップを取り外し室温で24時間放置したところ、ペン先が乾いてしまい筆記ができなかったが、乾燥したペン先を水に触れさせたところ、再度筆記することが可能となった。このことは、インクの再分散性が良好なため、再度筆記できるようになったと考えられる。この結果は各色のインクでも同様に得ることができたものである。
【0182】
[応用例4]水性塗料への応用
実施例3で得た白色水性顔料分散液100部に水性スチレンアクリル樹脂(固形分40%、アンモニアで中和したスチレン−アクリル酸−αメチルスチレンコポリマー、酸価120mgKOH/g)50部を添加してディスパーでよく攪拌混合、均一とした後、アンモニア水でpHを8に調整した。ついで、厚さ20μmのナイロンフィルムをコロナ放電処理し、上記で得られた白色印刷インキをNo.4バーコーターで塗布、乾燥後、80℃にて1時間熟成した。ついで、セロハンテープを用いて印刷インキ層の接着強度試験を実施した結果、インキ層が剥がれることがなく、接着性良好な結果を示した。