特許第6049033号(P6049033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6049033燃料電池カソード用非白金触媒及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049033
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】燃料電池カソード用非白金触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20161212BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20161212BHJP
   C01B 37/00 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 29/03 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20161212BHJP
   C01B 31/02 20060101ALI20161212BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20161212BHJP
【FI】
   H01M4/88 C
   H01M4/90 Z
   C01B37/00
   B01J29/03 M
   B01J37/02 101C
   B01J37/08
   C01B31/02 101Z
   !H01M8/10
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-551054(P2014-551054)
(86)(22)【出願日】2013年11月27日
(86)【国際出願番号】JP2013081880
(87)【国際公開番号】WO2014087894
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2015年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-263943(P2012-263943)
(32)【優先日】2012年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】森 利之
(72)【発明者】
【氏名】タラパネニ シドゥル ナイドゥ
(72)【発明者】
【氏名】府金 慶介
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−220414(JP,A)
【文献】 特開2011−009165(JP,A)
【文献】 特開2011−195351(JP,A)
【文献】 特開2011−225431(JP,A)
【文献】 特開2004−244311(JP,A)
【文献】 特開2006−206397(JP,A)
【文献】 特開2013−008650(JP,A)
【文献】 特開2013−198891(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/125503(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/88
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池カソード用触媒である窒素ドープメソポーラスカーボンを製造する方法であって、メソポーラスシリカに炭素化合物を含浸させた後、窒素流中で加熱することにより、窒素ドープカーボンとメソポーラスシリカとの複合体を形成し、前記複合体中のシリカ成分を除去することにより前記窒素ドープメソポーラスカーボンを製造する方法。
【請求項2】
前記炭素化合物は更に窒素を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
メソポーラスシリカのメソポーラス構造が転写された構造を有する窒素ドープメソポーラスカーボンであって、
ラマン分光法によって決定される、窒素ドープメソポーラスカーボン触媒中の非晶質構造の炭素のピーク面積IDと結晶質構造の炭素のピーク面積IGの割合(ID/IG)が1.12以下である窒素ドープメソポーラスカーボンからなる、
燃料電池のカソード用触媒。
【請求項4】
窒素ドープ量が窒素ドープメソポーラスカーボン触媒の全重量に対して6%以上である、請求項3に記載の燃料電池のカソード用触媒。
【請求項5】
請求項3または4に記載のカソード用触媒を含む、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロトン交換膜(PEM)燃料電池などの燃料電池のカソードに使用される非白金触媒に関し、より詳細には窒素をドープしたメソポーラスカーボンを用いた非白金触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電極用触媒としては従来から白金が利用されている。しかしながら、白金は高価であるだけではなく、希少な資源である上に他の分野でも触媒として多用されるため、触媒として白金を使用し続けることは燃料電池の普及にとって障害となりかねない。
そこで、燃料電池のカソード用触媒においても白金に代わる材料が検討されている。
【0003】
燃料電池における電極触媒として利用されている白金の代替材料として窒素をドープしたグラフェンを使用することが提案されている(非特許文献1)。しかし、この触媒は、グラフェンの活性を高めるために鉄を含んでおり、そのため、燃料電池のカソード用触媒として利用すると、酸素の還元反応で生成される過酸化水素とこの鉄によりフェントン試薬が形成される。フェントン試薬は酸化剤として機能するため、これによりプロトン交換膜として使用されるナフィオン(登録商標)や触媒自身が酸化される。従って、非特許文献1で提案されている窒素をドープしたグラフェンは燃料電池の触媒として使用した場合、燃料電池の耐久性の面で問題を引き起こす恐れがあった。
また、非特許文献2にはカーボンナノチューブに窒素をドープすることでORR(酸素還元反応)活性を改善できたことが記載されている。しかし、燃料電池のカソード用触媒として利用するには、このORRの改善は未だ不十分なものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Zhang Y J, Fugane K, Mori T, Niu L, and Ye J, Wet chemical synthesis of nitrogen-doped graphene towards oxygen reduction electrocatalysts without high-temperature pyrolysis, J. Mater. Chem., Vol.22(14), pp.6575-6580(2012).
【非特許文献2】Adina Morozan, Pascale Jegou, Mathieu Pinault, Stephane Campidelli, Bruno Jousselme, and Serge Palacin, Metal-Free Nitrogen-Containing Carbon Nanotubes Prepared from Triazole and Tetrazole Derivatives Show High Electrocatalytic Activity towards the Oxygen Reduction Reaction in Alkaline Media, ChemSusChem 2012, 5, 647-651
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高価で希少な白金を使用しない燃料電池のカソード用非白金触媒を提供することを課題とする。具体的には、本発明は、鉄を使用しないことにより燃料電池の耐久性を損なうことがなく、また高い性能を発揮する、窒素ドープメソポーラスカーボンを使用した燃料電池のカソード用触媒を提供することを課題とする。
また、本発明は、カソードが窒素ドープメソポーラスカーボン触媒である燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を有する。
(1) 燃料電池カソード用触媒の窒素ドープメソポーラスカーボンを製造する方法であって、メソポーラスシリカに炭素化合物を含浸させた後、窒素流中で加熱することにより、窒素ドープカーボンとメソポーラスシリカとの複合体を形成し、前記複合体中のシリカ成分を除去することにより前記窒素ドープメソポーラスカーボンを製造する方法。
(2) 前記炭素化合物は更に窒素を含む、(1)に記載の製造方法。
(3) 窒素ドープメソポーラスカーボンからなる、燃料電池のカソード用触媒。
(4) (1)または(2)に記載の方法で製造された窒素ドープメソポーラスカーボンからなる、燃料電池のカソード用触媒。
(5) 窒素ドープ量が窒素ドープメソポーラスカーボン触媒の全重量に対して6%以上である、(3)または(4)に記載の燃料電池のカソード用触媒。
(6) ラマン分光法によって決定される、窒素ドープメソポーラスカーボン触媒中の非晶質構造の炭素のピーク面積Iと結晶質構造の炭素のピーク面積Iの割合(I/I)が1.1未満である、(3)乃至(5)のいずれか1つに記載の燃料電池のカソード用触媒。
(7) (3)乃至(6)のいずれか1つに記載のカソード用触媒を含む、燃料電池。
【0007】
本発明の一側面によれば、メソポーラスシリカに炭素化合物を含浸させた後、窒素流中で加熱することにより、窒素ドープカーボンとメソポーラスシリカとの複合体を形成し、前記複合体中のシリカ成分を除去することにより窒素ドープメソポーラスカーボンを得る、燃料電池のカソード用触媒が窒素ドープメソポーラスカーボンからなる燃料電池のカソード用触媒の製造方法が与えられる。つまり、本発明の一側面によれば、燃料電池のカソード用触媒として使用される窒素ドープメソポーラスカーボンの製造方法が与えられる。そして、この窒素ドープメソポーラスカーボンは、メソポーラスシリカに炭素化合物を含浸させた後、窒素流中で加熱することにより、窒素ドープカーボンとメソポーラスシリカとの複合体を形成し、前記複合体中のシリカ成分を除去することにより得る。
なお、本願において使用されている「窒素ドープメソポーラスカーボンからなる」という用語は、検出限界を基準として窒素ドープメソポーラスカーボン以外のものを含まないという意味であり、検出限界以下の不純物の混入を排除するものではない。
本発明の他の側面によれば、燃料電池のカソード用触媒が窒素ドープメソポーラスカーボンからなる燃料電池のカソード用触媒が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、燃料電池のカソード用触媒が前記方法で製造された窒素ドープメソポーラスカーボンからなる燃料電池のカソード用触媒が与えられる。つまり、本発明の他の側面によれば、前記の、燃料電池カソード用触媒として使用される窒素ドープメソポーラスカーボンの製造方法によって製造された窒素ドープメソポーラスカーボンが燃料電池のカソード用触媒として使用される。
本発明の他の側面によれば、カソードが窒素ドープメソポーラスカーボン触媒である燃料電池が与えられる。
ここで、メソポーラスシリカとは、細孔直径が1.5〜50nmの微細な細孔を有し、細孔容積が1cm/g以下のものを指す。その中で、吸着特性を向上させる目的に鑑みて、大きな細孔径及び細孔容積を有するものが好ましい。本発明で用いられるメソポーラスシリカは、例えば、ハードテンプレート法という名称で呼ばれるメソポーラス窒化炭素のテンプレートとして用いられるが、その細孔径や細孔容積の大きさから、市販のサンタバーバラアモルファス(SBA)−15やコリアンインスティチート(KIT)−6等のメソポーラスシリカが、ハードテンプレートとして用いられる。因みに、「テンプレート」とは、同じような多孔質構造を用いるための型、即ち「鋳型」という意味である。
また、メソポーラスシリカに含浸させる炭素化合物としては、エチレンジアミン、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)、ゼラチン等があり、熱分解後に残留コークが生じにくい等の理由からエチレンジアミン、EDTAが好ましい。また、メソポーラスシリカに含浸させる炭素化合物としては、窒化炭素の生成率を向上させる観点から、これらの炭素化合物に四塩化炭素を混合したものがより好ましい。このように、メソポーラスシリカに含浸させる炭素化合物としては、エチレンジアミンやEDTAのような窒素含有炭素化合物を使用してもよい。したがって、本願における「前記炭素化合物は更に窒素を含む、」という記載は、エチレンジアミンやEDTAのような窒素含有炭素化合物を指す。
また、本発明においては、非白金系の窒素ドープメソポーラスカーボン触媒を燃料電池のカソード用電極とするので、ORR(酸素還元反応)活性を向上させて高性能化を図るためには、吸着物質である酸素と電極表面上との間で電荷移動が円滑に進行し、吸着物質である酸素に対して電極表面から電子が与える過程(還元過程)が円滑に進行する必要がある。この電荷移動は、触媒の結晶性に依存し、非晶質構造の寄与が大き過ぎると電荷移動が阻害されてしまうが、結晶質構造からの寄与が大きくなるにつれて促進される。そこで、本発明の燃料電池カソード用の窒素ドープメソポーラスカーボン触媒は、吸着物質である酸素と電極表面上との間での円滑な電荷移動という点で、良好な結晶性が備わっている必要がある。つまり、本発明の燃料電池カソード用の窒素ドープメソポーラスカーボン触媒においては、電荷移動を円滑に促進できる程度に結晶質構造の炭素が存在している必要がある。具体的には、本発明の燃料電池カソード用の窒素ドープメソポーラスカーボン触媒における非晶質構造の炭素と結晶質構造の炭素の割合をラマン分光法で決定した場合、非晶質構造の炭素を示すピーク面積Iと結晶質構造の炭素を示すピーク面積Iの割合(I/I)は1.1未満となるのが好ましい。
また、本発明の燃料電池カソード用の窒素ドープメソポーラスカーボン触媒における窒素ドープ量は、本発明の目的を達成できる量であればよいが、窒素ドープメソポーラスカーボン触媒の全重量に対して6%以上が特に好ましい。窒素ドープ量が窒素ドープメソポーラスカーボン触媒の全重量に対して6%以上になると、その触媒物性が、通常のカーボンの物性に近い物性ではなくなり、窒化炭素特有の物性の確認が容易になるからである。また、窒素ドープ量は通常、化学両論組成がCであることに鑑みて、この化学両論組成を超えない範囲内で用いる。
本発明において、燃料電池用カソード触媒として使用される窒素ドープメソポーラスカーボンは、窒素をドープした結晶質カーボンの割合が多く、遅い酸素還元反応速度を高める目的で、その活性サイトを多く持つことが必要であることから、メソポア構造を持つことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高い酸化還元反応活性を有するとともに、プロトン交換膜や触媒の耐久性に悪影響を及ぼすフェントン試薬を生成することのない燃料電池のカソード用非白金触媒が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】20%窒素ドープメソポーラスカーボン(20%N−MC)についての窒素飽和及び酸素飽和KOH中でのORR活性を示す図。
図2】20%N−MCについてのサイクリックボルタンメトリー及びORR活性を示す図。
図3】10%窒素ドープメソポーラスカーボン(10%N−MC)についての窒素飽和及び酸素飽和KOH中でのORR活性を示す図。
図4】10%N−MCについてのサイクリックボルタンメトリー及びORR活性を示す図。
図5】800℃で黒鉛化した10%窒素ドープメソポーラスカーボン(10%N−MC−800℃)についての窒素飽和及び酸素飽和KOH中でのORR活性を示す図。
図6】10%N−MC−800℃についてのサイクリックボルタンメトリー及びORR活性を示す図。
図7】1000℃で黒鉛化した10%窒素ドープメソポーラスカーボン(10%N−MC−1000℃)についての窒素飽和及び酸素飽和KOH中でのORR活性を示す図。
図8】10%N−MC−1000℃についてのサイクリックボルタンメトリー及びORR活性を示す図。
図9】実施例で作成した4種類の窒素ドープメソポーラスカーボンと市販のPt/C触媒(HiSpec3000)のORR活性を比較する図。
図10】窒素ドープメソポーラスカーボンを作製する過程の一例を示す図。
図11】10%N−MCと、10%N−MC−800℃と、10%N−MC−1000℃中の非晶質構造の炭素と結晶質構造の炭素を同定するためのラマン分光法による測定結果並びにその非晶質構造の炭素のピーク面積Iと結晶質構造の炭素ピーク面積Iの割合(I/I)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の、燃料電池のカソード用触媒が窒素ドープメソポーラスカーボンからなる燃料電池のカソード用触媒を製造するに当たっては、先ずテンプレートとなるメソポーラスシリカを製造する。このメソポーラスシリカは例えば、通常、ハードテンプレート法という名前で呼ばれているところの、本願実施例に記載されている方法で製造される。しかしながら、このような特定の製造方法に限定されるものではない。また、テンプレートとして使用するメソポーラスシリカとして、市販されているものを使用してもよい。よく使用されるメソポーラスシリカとしては、例えばサンタバーバラアモルファス(SBA)−15やコリアンインスティチート(KIT)−6等があるが、これらに限定されるものではない。これら2種類のメソポーラスシリカの特性値を下表に示す。
【0011】
【表1】
【0012】
他のメソポーラスシリカであっても、表1に示す各種の値に近い特性値を持つものであれば使用可能であると考えられる。また、これとはかなり違った値のものでも、本発明の目的を達成できるものであれば使用可能である。
【0013】
このメソポーラスシリカのメソポア内に、炭素源として、エチレンジアミンと四塩化炭素の混合物や、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)と四塩化炭素の混合物や、ゼラチンなどを含浸させてから、これを窒素気流中でか焼する。か焼温度が高い方が良好な酸素還元活性が得られる。しかしながら、メソポーラスカーボンからの窒素の離脱を考慮すると、1200℃未満が好ましい。好ましいか焼温度範囲は600℃〜1100℃程度である。
また、か焼時間は例えば5時間とすることができるが、これより短時間であってもよい。5時間よりも長時間か焼することもできるが、性能の向上等の観点から10時間以下が好ましい。
【0014】
また、上記炭素源には、上に例示されている通り、エチレンジアミン等を混合することによって更に窒素を含んでよく、それにより、最終的にドープされる窒素の全部または一部をこの炭素源から供給することもできる。
【0015】
また、メソポーラスシリカに炭素源を含浸させる際のメソポーラスシリカへの炭素源の浸透及びその後の乾燥の処理として、以下の実施例では還流後に昇温する処理、あるいは二段階で昇温するという処理を例示しているが、本願発明の目的を達成できるものであれば、その他の既に公知の多様な浸透・乾燥処理を採用することもできる。
【0016】
このようにして製造された窒素ドープメソポーラスカーボンのORR活性などを測定した結果、市販のHiSpec3000のPt/C触媒よりは低いものの、燃料電池のカソード用非白金触媒としては非常に高い活性(高い性能)を有していることが確認された。
また、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンは非特許文献1で報告されている鉄担持窒素ドープグラフェンを超える性能(具体的には、より高い電位でORR活性が発現する)を示すことも確認された。
なお、本願発明者が知る限り、鉄などを担持していない窒素ドープメソポーラスカーボンのORR活性を評価したという報告はないので、本願は窒素ドープメソポーラスカーボンを燃料電池のカソードとして使用する最初の試みであると考えられる。
【実施例】
【0017】
本発明の燃料電池カソード用の窒素ドープメソポーラスカーボン触媒の製造方法の実施例、並びにこれにより製造された窒素ドープメソポーラスカーボンの実施例とその各実施例に示された窒素ドープメソポーラスカーボンの燃料電池カソード用触媒特性に関する測定結果を以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものでないことに注意しなければならない。
なお、以下の実施例で製造した4種類の窒素ドープメソポーラスを各々「20%N−MC」、「10%N−MC」、「10%N−MC−800」、及び「10%N−MC−1000」と表記している。ここで、「10%」または「20%」という表記は窒素含有量を示し、「MC」という表記はメソポーラスカーボンであることを意味し、「800」または「1000」という表記は、製造上の焼成温度を示す。
【0018】
[2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150の合成]
窒素ドープメソポーラスカーボン合成のテンプレートとして使用する2D六方晶系メソポーラスシリカ(hexagonal mesoporous silica)(SBA−15−150)が、両親媒性トリブロックコポリマーP123、ポリ(エチレングリコール)―ブロック―ポリ(プロピレングリコール)(poly(ethylene glycol)-block-poly(propylene glycol)-block-poly(ethylene glycol))(EO20PO70EO20、平均分子量5800、Aldrich製)をテンプレートとして使用することによって合成された。この合成は以下に示すようにして行った。
【0019】
両親媒性トリブロックコポリマーP123(4g)をミリポア水(30g)とHCl溶液(12g、2M)の混合溶液に分散させて5時間攪拌した。その後、この一様な溶液を攪拌しながらオルトケイ酸テトラエチル(tetraethylorthosilicate、TEOS)(9g)を添加した。その結果得られたゲル状物を40℃で24時間攪拌し、次に150℃で48時間加熱した。このゲル状物を数回水洗することにより、白色のシリカブロックコポリマー複合体が得られた。この合成後、得られた個体を、空気を流しながら540℃でか焼して、トリブロックコポリマーを分解した。このようにして、2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を得た。
【0020】
[20%窒素ドープメソポーラスカーボン(20%N−MC)の合成]
上述の2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を使用して20%N−MCを以下の方法によって作製した。
先ず、か焼したSBA−15−150(0.5g)をエチレンジアミン(1.35g)と四塩化炭素(3g)を混合したものに添加した。その結果として得られたこれらの混合物を90℃で6時間還流させた。得られた暗褐色の固体混合物を次に100℃の乾燥室内に12時間置いてから微粉末に破砕した。このようにして得られた、シリカをテンプレートとして窒素成分が添加されたカーボンの複合体(即ち、窒素ドープカーボン(窒化炭素)ポリマーでカプセル化されたSBA−15−150)を、次に、100mL/分の窒素流中で600℃で熱処理した。この時、昇温速度は3℃/分とした。炭化させるため、この条件下で5時間処理した。これにより、メソポーラスシリカと窒素ドープカーボンとの複合体を得た。この反応過程、すなわち先ず窒素成分を添加した炭素化合物をシリカテンプレート上に形成し、これを窒素流中で加熱することによって窒素ドープカーボン(窒化炭素)を得るという過程が、図10において、窒素ドープメソポーラスカーボンを作製する過程の一部として示されている。
なお、以下に示す残り3種類の窒素ドープメソポーラスカーボンを作製する際には、窒素流中での加熱の前の窒素添加を行っていない。よって、以下に示す残り3種類の窒素ドープメソポーラスカーボンを作製する際には、か焼したメソポーラスシリカ(SBA−15−150)を初めて炭素化合物と混合させる過程において、その炭素化合物にはエチレンジアミン等のようないかなる窒素含有炭素化合物も添加していない。
シリカ骨格を除去するため、このシリカと窒素ドープカーボン複合体中のシリカを5w%のフッ化水素酸でエッチングした。窒素ドープカーボン試料をエタノールで数回洗浄して100℃で一晩乾燥することで、黒色の20%窒素ドープメソポーラスカーボン20%N−MCを得た。
【0021】
[10%窒素ドープメソポーラスカーボン(10%N−MC)の合成]
上述の2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を使用して10%N−MCを以下の方法によって作製した。
先ず、ゼラチン(1.0g)と濃硫酸(0.168g)をミリポア水(5g)中に溶解して得られる溶液中にか焼したSBA−15−150(1g)を添加した。この混合物を加熱温度や加熱時間がプログラムされた乾燥室中に100℃で6時間(0.5時間で100℃に到達)置き、その後乾燥室温度を160℃に上昇させて(0.5時間で100℃から160℃に到達)同じ温度をもう6時間維持した。その後、シリカテンプレートの小孔内のゼラチンを完全に炭化するため、ゼラチン(0.75g)とHSO(0.12g)をミリポア水(5g)に混ぜたものを前処理された試料にもう一度添加し、この混合物を上述の100℃及び160℃の加熱温度条件を使ってそれぞれ6時間処理した。これにより得られた、シリカをテンプレートとし窒素がドープされた褐色のカーボン複合体(即ち、窒素ドープカーボン(窒化炭素)ポリマーでカプセル化されたSBA−15−150)を次に100mL/分の窒素流中で600℃で熱処理した。この時、昇温速度は3℃/分とした。炭化させるため、この条件下で5時間処理した。シリカ骨格を除去するため、このシリカと窒素ドープカーボン複合体中のシリカを5w%のフッ化水素酸でエッチングした。窒素ドープカーボン試料をエタノールで数回洗浄して100℃で一晩乾燥することで、黒色の10%窒素ドープメソポーラスカーボン10%N−MCを得た。
【0022】
[800℃で黒鉛化した10%窒素ドープメソポーラスカーボン(10%N−MC−800)の合成]
上述の2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を使用して10%N−MC−800を以下の方法によって作製した。
先ず、ゼラチン(1.0g)と濃硫酸(0.168g)をミリポア水(5g)中に溶解して得られる溶液中にか焼したSBA−15−150(1g)を添加した。この混合物を加熱温度や加熱時間がプログラムされた乾燥室中に100℃で6時間(0.5時間で100℃に到達)置き、その後乾燥室温度を160℃に上昇させて(0.5時間で100℃から160℃に到達)同じ温度をもう6時間維持した。その後、シリカテンプレートの小孔内のゼラチンを完全に炭化するため、ゼラチン(0.75g)とHSO(0.12g)をミリポア水(5g)に混ぜたものを前処理された試料にもう一度添加し、この混合物を上述の100℃及び160℃の加熱温度条件を使ってそれぞれ6時間処理した。これにより得られた、シリカをテンプレートとし窒素がドープされた褐色のカーボン複合体(即ち、窒素ドープカーボン(窒化炭素)ポリマーでカプセル化されたSBA−15−150)を次に100mL/分の窒素流中で800℃で熱処理した。この時、昇温速度は3℃/分とした。炭化させるため、この条件下で5時間処理した。シリカ骨格を除去するため、このシリカと窒素ドープカーボン複合体中のシリカを5w%のフッ化水素酸でエッチングした。窒素ドープカーボン試料をエタノールで数回洗浄して100℃で一晩乾燥することで、黒色の10%窒素ドープメソポーラスカーボン10%N−MC−800を得た。
【0023】
[1000℃で黒鉛化した10%窒素ドープメソポーラスカーボン(10%N−MC−1000)の合成]
上述の2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を使用して10%N−MC−1000を以下の方法によって作製した。
先ず、ゼラチン(1.0g)と濃硫酸(0.168g)をミリポア水(5g)中に溶解して得られる溶液中にか焼したSBA−15−150(1g)を添加した。この混合物を加熱温度や加熱時間がプログラムされた乾燥室中に100℃で6時間(0.5時間で100℃に到達)置き、その後乾燥室温度を160℃に上昇させて(0.5時間で100℃から160℃に到達)同じ温度をもう6時間維持した。その後、シリカテンプレートの小孔内のゼラチンを完全に炭化するため、ゼラチン(0.75g)とHSO(0.12g)をミリポア水(5g)に混ぜたものを前処理された試料にもう一度添加し、この混合物を上述の100℃及び160℃の加熱温度条件を使ってそれぞれ6時間処理した。これにより得られた、シリカをテンプレートとし窒素がドープされた褐色のカーボン複合体(即ち、窒素ドープカーボン(窒化炭素)ポリマーでカプセル化されたSBA−15−150)を次に100mL/分の窒素流中で1000℃で熱処理した。この時、昇温速度は3℃/分とした。炭化させるため、この条件下で5時間処理した。シリカ骨格を除去するため、このシリカと窒素ドープカーボン複合体中のシリカを5w%のフッ化水素酸でエッチングした。窒素ドープカーボン試料をエタノールで数回洗浄して100℃で一晩乾燥することで、黒色の10%窒素ドープメソポーラスカーボン10%N−MC−1000を得た。
【0024】
[作製された窒素ドープメソポーラスカーボンの特性の評価]
以上のようにして得られた4種類の窒素ドープメソポーラスカーボン、すなわち20%N−MC、10%N−MC、10%N−MC−800、及び10%N−MC−1000の特性の評価を行った。また、対比のため、市販のPt/C触媒(Johnson Matthey Fuel Cells社のHiSPEC(登録商標)3000)も評価した。
【0025】
具体的には、酸素還元反応(oxygen reduction reaction、ORR)活性及びサイクリックボルタンメトリーを測定した。その条件は以下のとおりである:
電解質溶液:0.1M KOH水溶液
作用電極:ガラス状炭素電極(GCE)
掃引速度:50mV/秒(サイクリックボルタンメトリー測定)
10mV/秒(ORR活性測定)
(0.2〜−1.4V走引、vs.Ag/AgCl))
【0026】
ORR活性の測定手順は、窒素飽和KOHと酸素飽和KOHを用いて回転電極法により別個に電極性能測定を行い、(酸素飽和KOH中でのORR測定値)−(窒素飽和KOH中でのORR測定値)を計算してORR活性(ORR活性(O−N))を評価した。
なお、電極を回転しない場合についての測定結果は図中で「No Rotation」と表記している。
【0027】
窒素ドープメソポーラスカーボン20%N−MC、10%N−MC、10%N−MC−800、及び10%N−MC−1000の酸素飽和及び窒素飽和KOH中でのORR測定結果をそれぞれ図1図3図5、及び図7に示す。また、これら4種類の窒素ドープメソポーラスカーボンについてのサイクリックボルタンメトリー測定結果及び計算されたORR活性(O−N)をそれぞれ図2図4図6、及び図8に示す。
【0028】
図9は、作製した4種類の窒素ドープメソポーラスカーボン及び比較対象とした市販のPt/C触媒(HiSPEC3000)についての電極回転数が900rpmの場合のORR活性を比較した結果である。図9からわかるように、作製した窒素ドープメソポーラスカーボンはいずれも、Pt/C触媒よりは低いものの、非常に高いORR活性を示す。
また、窒素流中での熱処理温度が600℃であった20%N−MC及び10%N−MCに比較して、それよりも高温で処理した10%N−MC−800及び10%N−MC−1000(それぞれ800℃及び1000℃)の方が高い活性を示す。これは高温で熱処理することによって結晶性が向上するからであると考えられる。但し、メソポーラスカーボンからの窒素の離脱等を考慮すると、1200℃未満の温度が好ましく、特に1100℃以下が好ましい。従って、窒素流中での熱処理は600℃〜1100℃とするのが好ましい。
また、図9より、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンはいずれも、活性が生じ始める電位が−0.15V vs. Ag/AgClとなっており、非特許文献1で報告されている−0.18V vs. Ag/AgClという値よりも低い電位であることが分かった。つまり、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンは、鉄担持窒素ドープグラフェンを超える性能(具体的には、非特許文献1で報告されている鉄担持窒素ドープグラフェンの方が高い電位でORR活性が発現する)を示すことが分かった。
よって、図9より、作製した4種類の窒素ドープメソポーラスカーボンは、燃料電池のカソード用非白金触媒として、非特許文献1で報告されている鉄担持窒素ドープグラフェンよりも高い活性(高い性能)を有していることが確認された。
また、非特許文献2で報告されている活性が生じ始める電位も、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンより高い、−0.16V vs. Ag/AgClという値であることから、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンは、非特許文献2で報告されている触媒よりも低い電位から活性が現れることが分った。つまり、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンは、非特許文献2で報告されている触媒を超える性能を示すことも分った。
【0029】
図11には、10%N−MCと、10%N−MC−800と、10%N−MC−1000中の非晶質構造の炭素と結晶質構造の炭素を同定するためのラマン分光法による測定結果並びにその測定結果から算出された非晶質構造の炭素のピーク面積Iと結晶質構造の炭素ピーク面積Iの割合(I/I)が示されている。ラマン分光法で計測されたピークのうち、グラファイト(結晶質構造の炭素、図11中では、Gと示される。)特有のピークは、ラマンシフトが1581cm−1付近に観察される一方、非晶質構造の炭素(図11中ではDと示される)は、1300cm−1付近に観察される。非晶質構造の炭素のピーク面積Iの結晶質構造の炭素ピーク面積Iに対する割合(I/I)は、小さくなるにつれて結晶性が良くなることを示す。
図9によれば、10%N−MCよりも10%N−MC−1000の方が高いORR活性を示し、この10%N−MC−1000よりも10%N−MC−800℃の方が高いORR活性を示している。ここで、図11に示されている通り、10%N−MCのI/Iは1.12であり、10%N−MC−1000のI/Iは1.09であり、10%N−MC−800℃のI/Iは1.07であることから、結晶性の改善がORR活性の向上(即ち、高性能化)に寄与することも確認された。
なお、本実施例の10%N−MCと、10%N−MC−800℃と、10%N−MC−1000℃中の炭素及び窒素含有量(重量%)は以下の表の通りである。この窒素の分析は通常のケルダール法(Kjeldahl method)により行った。なお、分析時においては、揮発性物質が二酸化炭素となって蒸発することにより強熱減量が生じる。そのため、以下の表の分析結果における炭素と窒素の合計が100重量%になっていない原因は、この揮発性物質による。
【0030】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上説明したように、本発明によれば、白金触媒を用いることなく比較的良好なORR活性を有し、更に、電解質膜や触媒自体を損傷する作用を持たない、燃料電池のカソード用触媒が提供されるため、燃料電池分野での利用可能性が大いに期待される。
図1
図2
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図11