【実施例】
【0017】
本発明の燃料電池カソード用の窒素ドープメソポーラスカーボン触媒の製造方法の実施例、並びにこれにより製造された窒素ドープメソポーラスカーボンの実施例とその各実施例に示された窒素ドープメソポーラスカーボンの燃料電池カソード用触媒特性に関する測定結果を以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものでないことに注意しなければならない。
なお、以下の実施例で製造した4種類の窒素ドープメソポーラスを各々「20%N−MC」、「10%N−MC」、「10%N−MC−800」、及び「10%N−MC−1000」と表記している。ここで、「10%」または「20%」という表記は窒素含有量を示し、「MC」という表記はメソポーラスカーボンであることを意味し、「800」または「1000」という表記は、製造上の焼成温度を示す。
【0018】
[2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150の合成]
窒素ドープメソポーラスカーボン合成のテンプレートとして使用する2D六方晶系メソポーラスシリカ(hexagonal mesoporous silica)(SBA−15−150)が、両親媒性トリブロックコポリマーP123、ポリ(エチレングリコール)―ブロック―ポリ(プロピレングリコール)(poly(ethylene glycol)-block-poly(propylene glycol)-block-poly(ethylene glycol))(EO20PO70EO20、平均分子量5800、Aldrich製)をテンプレートとして使用することによって合成された。この合成は以下に示すようにして行った。
【0019】
両親媒性トリブロックコポリマーP123(4g)をミリポア水(30g)とHCl溶液(12g、2M)の混合溶液に分散させて5時間攪拌した。その後、この一様な溶液を攪拌しながらオルトケイ酸テトラエチル(tetraethylorthosilicate、TEOS)(9g)を添加した。その結果得られたゲル状物を40℃で24時間攪拌し、次に150℃で48時間加熱した。このゲル状物を数回水洗することにより、白色のシリカブロックコポリマー複合体が得られた。この合成後、得られた個体を、空気を流しながら540℃でか焼して、トリブロックコポリマーを分解した。このようにして、2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を得た。
【0020】
[20%窒素ドープメソポーラスカーボン(20%N−MC)の合成]
上述の2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を使用して20%N−MCを以下の方法によって作製した。
先ず、か焼したSBA−15−150(0.5g)をエチレンジアミン(1.35g)と四塩化炭素(3g)を混合したものに添加した。その結果として得られたこれらの混合物を90℃で6時間還流させた。得られた暗褐色の固体混合物を次に100℃の乾燥室内に12時間置いてから微粉末に破砕した。このようにして得られた、シリカをテンプレートとして窒素成分が添加されたカーボンの複合体(即ち、窒素ドープカーボン(窒化炭素)ポリマーでカプセル化されたSBA−15−150)を、次に、100mL/分の窒素流中で600℃で熱処理した。この時、昇温速度は3℃/分とした。炭化させるため、この条件下で5時間処理した。これにより、メソポーラスシリカと窒素ドープカーボンとの複合体を得た。この反応過程、すなわち先ず窒素成分を添加した炭素化合物をシリカテンプレート上に形成し、これを窒素流中で加熱することによって窒素ドープカーボン(窒化炭素)を得るという過程が、
図10において、窒素ドープメソポーラスカーボンを作製する過程の一部として示されている。
なお、以下に示す残り3種類の窒素ドープメソポーラスカーボンを作製する際には、窒素流中での加熱の前の窒素添加を行っていない。よって、以下に示す残り3種類の窒素ドープメソポーラスカーボンを作製する際には、か焼したメソポーラスシリカ(SBA−15−150)を初めて炭素化合物と混合させる過程において、その炭素化合物にはエチレンジアミン等のようないかなる窒素含有炭素化合物も添加していない。
シリカ骨格を除去するため、このシリカと窒素ドープカーボン複合体中のシリカを5w%のフッ化水素酸でエッチングした。窒素ドープカーボン試料をエタノールで数回洗浄して100℃で一晩乾燥することで、黒色の20%窒素ドープメソポーラスカーボン20%N−MCを得た。
【0021】
[10%窒素ドープメソポーラスカーボン(10%N−MC)の合成]
上述の2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を使用して10%N−MCを以下の方法によって作製した。
先ず、ゼラチン(1.0g)と濃硫酸(0.168g)をミリポア水(5g)中に溶解して得られる溶液中にか焼したSBA−15−150(1g)を添加した。この混合物を加熱温度や加熱時間がプログラムされた乾燥室中に100℃で6時間(0.5時間で100℃に到達)置き、その後乾燥室温度を160℃に上昇させて(0.5時間で100℃から160℃に到達)同じ温度をもう6時間維持した。その後、シリカテンプレートの小孔内のゼラチンを完全に炭化するため、ゼラチン(0.75g)とH
2SO
4(0.12g)をミリポア水(5g)に混ぜたものを前処理された試料にもう一度添加し、この混合物を上述の100℃及び160℃の加熱温度条件を使ってそれぞれ6時間処理した。これにより得られた、シリカをテンプレートとし窒素がドープされた褐色のカーボン複合体(即ち、窒素ドープカーボン(窒化炭素)ポリマーでカプセル化されたSBA−15−150)を次に100mL/分の窒素流中で600℃で熱処理した。この時、昇温速度は3℃/分とした。炭化させるため、この条件下で5時間処理した。シリカ骨格を除去するため、このシリカと窒素ドープカーボン複合体中のシリカを5w%のフッ化水素酸でエッチングした。窒素ドープカーボン試料をエタノールで数回洗浄して100℃で一晩乾燥することで、黒色の10%窒素ドープメソポーラスカーボン10%N−MCを得た。
【0022】
[800℃で黒鉛化した10%窒素ドープメソポーラスカーボン(10%N−MC−800)の合成]
上述の2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を使用して10%N−MC−800を以下の方法によって作製した。
先ず、ゼラチン(1.0g)と濃硫酸(0.168g)をミリポア水(5g)中に溶解して得られる溶液中にか焼したSBA−15−150(1g)を添加した。この混合物を加熱温度や加熱時間がプログラムされた乾燥室中に100℃で6時間(0.5時間で100℃に到達)置き、その後乾燥室温度を160℃に上昇させて(0.5時間で100℃から160℃に到達)同じ温度をもう6時間維持した。その後、シリカテンプレートの小孔内のゼラチンを完全に炭化するため、ゼラチン(0.75g)とH
2SO
4(0.12g)をミリポア水(5g)に混ぜたものを前処理された試料にもう一度添加し、この混合物を上述の100℃及び160℃の加熱温度条件を使ってそれぞれ6時間処理した。これにより得られた、シリカをテンプレートとし窒素がドープされた褐色のカーボン複合体(即ち、窒素ドープカーボン(窒化炭素)ポリマーでカプセル化されたSBA−15−150)を次に100mL/分の窒素流中で800℃で熱処理した。この時、昇温速度は3℃/分とした。炭化させるため、この条件下で5時間処理した。シリカ骨格を除去するため、このシリカと窒素ドープカーボン複合体中のシリカを5w%のフッ化水素酸でエッチングした。窒素ドープカーボン試料をエタノールで数回洗浄して100℃で一晩乾燥することで、黒色の10%窒素ドープメソポーラスカーボン10%N−MC−800を得た。
【0023】
[1000℃で黒鉛化した10%窒素ドープメソポーラスカーボン(10%N−MC−1000)の合成]
上述の2D六方晶系メソポーラスシリカSBA−15−150を使用して10%N−MC−1000を以下の方法によって作製した。
先ず、ゼラチン(1.0g)と濃硫酸(0.168g)をミリポア水(5g)中に溶解して得られる溶液中にか焼したSBA−15−150(1g)を添加した。この混合物を加熱温度や加熱時間がプログラムされた乾燥室中に100℃で6時間(0.5時間で100℃に到達)置き、その後乾燥室温度を160℃に上昇させて(0.5時間で100℃から160℃に到達)同じ温度をもう6時間維持した。その後、シリカテンプレートの小孔内のゼラチンを完全に炭化するため、ゼラチン(0.75g)とH
2SO
4(0.12g)をミリポア水(5g)に混ぜたものを前処理された試料にもう一度添加し、この混合物を上述の100℃及び160℃の加熱温度条件を使ってそれぞれ6時間処理した。これにより得られた、シリカをテンプレートとし窒素がドープされた褐色のカーボン複合体(即ち、窒素ドープカーボン(窒化炭素)ポリマーでカプセル化されたSBA−15−150)を次に100mL/分の窒素流中で1000℃で熱処理した。この時、昇温速度は3℃/分とした。炭化させるため、この条件下で5時間処理した。シリカ骨格を除去するため、このシリカと窒素ドープカーボン複合体中のシリカを5w%のフッ化水素酸でエッチングした。窒素ドープカーボン試料をエタノールで数回洗浄して100℃で一晩乾燥することで、黒色の10%窒素ドープメソポーラスカーボン10%N−MC−1000を得た。
【0024】
[作製された窒素ドープメソポーラスカーボンの特性の評価]
以上のようにして得られた4種類の窒素ドープメソポーラスカーボン、すなわち20%N−MC、10%N−MC、10%N−MC−800、及び10%N−MC−1000の特性の評価を行った。また、対比のため、市販のPt/C触媒(Johnson Matthey Fuel Cells社のHiSPEC(登録商標)3000)も評価した。
【0025】
具体的には、酸素還元反応(oxygen reduction reaction、ORR)活性及びサイクリックボルタンメトリーを測定した。その条件は以下のとおりである:
電解質溶液:0.1M KOH水溶液
作用電極:ガラス状炭素電極(GCE)
掃引速度:50mV/秒(サイクリックボルタンメトリー測定)
10mV/秒(ORR活性測定)
(0.2〜−1.4V走引、vs.Ag/AgCl))
【0026】
ORR活性の測定手順は、窒素飽和KOHと酸素飽和KOHを用いて回転電極法により別個に電極性能測定を行い、(酸素飽和KOH中でのORR測定値)−(窒素飽和KOH中でのORR測定値)を計算してORR活性(ORR活性(O
2−N
2))を評価した。
なお、電極を回転しない場合についての測定結果は図中で「No Rotation」と表記している。
【0027】
窒素ドープメソポーラスカーボン20%N−MC、10%N−MC、10%N−MC−800、及び10%N−MC−1000の酸素飽和及び窒素飽和KOH中でのORR測定結果をそれぞれ
図1、
図3、
図5、及び
図7に示す。また、これら4種類の窒素ドープメソポーラスカーボンについてのサイクリックボルタンメトリー測定結果及び計算されたORR活性(O
2−N
2)をそれぞれ
図2、
図4、
図6、及び
図8に示す。
【0028】
図9は、作製した4種類の窒素ドープメソポーラスカーボン及び比較対象とした市販のPt/C触媒(HiSPEC3000)についての電極回転数が900rpmの場合のORR活性を比較した結果である。
図9からわかるように、作製した窒素ドープメソポーラスカーボンはいずれも、Pt/C触媒よりは低いものの、非常に高いORR活性を示す。
また、窒素流中での熱処理温度が600℃であった20%N−MC及び10%N−MCに比較して、それよりも高温で処理した10%N−MC−800及び10%N−MC−1000(それぞれ800℃及び1000℃)の方が高い活性を示す。これは高温で熱処理することによって結晶性が向上するからであると考えられる。但し、メソポーラスカーボンからの窒素の離脱等を考慮すると、1200℃未満の温度が好ましく、特に1100℃以下が好ましい。従って、窒素流中での熱処理は600℃〜1100℃とするのが好ましい。
また、
図9より、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンはいずれも、活性が生じ始める電位が−0.15V vs. Ag/AgClとなっており、非特許文献1で報告されている−0.18V vs. Ag/AgClという値よりも低い電位であることが分かった。つまり、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンは、鉄担持窒素ドープグラフェンを超える性能(具体的には、非特許文献1で報告されている鉄担持窒素ドープグラフェンの方が高い電位でORR活性が発現する)を示すことが分かった。
よって、
図9より、作製した4種類の窒素ドープメソポーラスカーボンは、燃料電池のカソード用非白金触媒として、非特許文献1で報告されている鉄担持窒素ドープグラフェンよりも高い活性(高い性能)を有していることが確認された。
また、非特許文献2で報告されている活性が生じ始める電位も、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンより高い、−0.16V vs. Ag/AgClという値であることから、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンは、非特許文献2で報告されている触媒よりも低い電位から活性が現れることが分った。つまり、本発明の窒素ドープメソポーラスカーボンは、非特許文献2で報告されている触媒を超える性能を示すことも分った。
【0029】
図11には、10%N−MCと、10%N−MC−800と、10%N−MC−1000中の非晶質構造の炭素と結晶質構造の炭素を同定するためのラマン分光法による測定結果並びにその測定結果から算出された非晶質構造の炭素のピーク面積I
Dと結晶質構造の炭素ピーク面積I
Gの割合(I
D/I
G)が示されている。ラマン分光法で計測されたピークのうち、グラファイト(結晶質構造の炭素、
図11中では、Gと示される。)特有のピークは、ラマンシフトが1581cm
−1付近に観察される一方、非晶質構造の炭素(
図11中ではDと示される)は、1300cm
−1付近に観察される。非晶質構造の炭素のピーク面積I
Dの結晶質構造の炭素ピーク面積I
Gに対する割合(I
D/I
G)は、小さくなるにつれて結晶性が良くなることを示す。
図9によれば、10%N−MCよりも10%N−MC−1000の方が高いORR活性を示し、この10%N−MC−1000よりも10%N−MC−800℃の方が高いORR活性を示している。ここで、
図11に示されている通り、10%N−MCのI
D/I
Gは1.12であり、10%N−MC−1000のI
D/I
Gは1.09であり、10%N−MC−800℃のI
D/I
Gは1.07であることから、結晶性の改善がORR活性の向上(即ち、高性能化)に寄与することも確認された。
なお、本実施例の10%N−MCと、10%N−MC−800℃と、10%N−MC−1000℃中の炭素及び窒素含有量(重量%)は以下の表の通りである。この窒素の分析は通常のケルダール法(Kjeldahl method)により行った。なお、分析時においては、揮発性物質が二酸化炭素となって蒸発することにより強熱減量が生じる。そのため、以下の表の分析結果における炭素と窒素の合計が100重量%になっていない原因は、この揮発性物質による。
【0030】
【表2】