特許第6049066号(P6049066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パイロットコーポレーションの特許一覧

特許6049066ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵したボールペン
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049066
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ボールペン用水性インキ組成物及びそれを内蔵したボールペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20161212BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C09D11/18
   B43K7/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-277523(P2012-277523)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-122253(P2014-122253A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】浅田 勝久
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−268267(JP,A)
【文献】 特開平09−208876(JP,A)
【文献】 特開2003−277671(JP,A)
【文献】 特開2007−231238(JP,A)
【文献】 特開2008−056862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/18
B43K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤と、水と、下記一般式(1)で表すポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸を少なくとも含有するボールペン用水性インキ組成物。
【化1】
〔前記一般式(1)において、Rはアルキル基であり、a及びbは付加モル数を示す整数である。前記アルキル基Rは、炭素数12〜18である置換基、また、エチレンオキサイドの付加モル数を示すaは、3〜20の範囲、プロピレンオキサイドの付加モル数を示すbは、1〜20の範囲である。〕
【請求項2】
前記着色剤が顔料である請求項1記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載のボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペン。
【請求項4】
前記ボールペンが直径0.4mm以下のボールを筆記先端部に備える請求項3記載のボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールペン用水性インキ組成物に関する。更には、潤滑性能に優れたボールペン用水性インキ組成物と、高い筆記性能を備えたボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油性インキに比べて潤滑性が乏しい水性インキを内蔵したボールペンにおいては、筆記時のボールの回転によるボール受け座の摩耗が発生し易い。その結果、ボールペンチップ内のインキ流通路が変形してしまい、インキの吐出不良等を生じることがあった。そのため、筆記した際の筆記感が損なわれたり、筆跡カスレ等の筆記不良をきたすという問題があった。
そこで、前記問題を解決するために、インキ組成物中に各種化合物を潤滑剤として添加し、水性インキの潤滑性能を向上させることでボール受け座の摩耗を低減する試みがなされている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−174278号公報
【特許文献2】特開平1−129081号公報
【特許文献3】特開平6−100824号公報
【0004】
前記特許文献1で用いられるN−アシルサルコシンの塩は、着色剤として染料を用いたインキにおいては多少の効果が得られるものの、特にボール受け座の摩耗を促進し易い顔料を用いた場合には、座摩耗を充分に抑制することができず、筆記時のインキ吐出不良を生じることがあった。
また、前記特許文献2で用いられるジカルボン酸のアルカリ塩やアルカノールアミドについても、着色剤として染料を用いたインキに適用した際には効果が得られるものの、ボール受け座の摩耗を促進し易い顔料を用いた場合には、座摩耗を充分に抑制することができず、インキ吐出不良を生じて筆記距離が短くなることがあった。
これらに対して、前記特許文献3で用いられるジカルボン酸モノアミドは、着色剤として染料と顔料を選ぶことなく適用できるものであるが、充分な潤滑効果が得られるものではなく、特に、適用するボールペンのボール径が0.4mm以下の小径のものでは、筆記距離に対するボールの回転数(回転速度)が増加するため、より過酷な条件となり、筆記距離が長くなることによって座摩耗を生じ易いものとなる。そこで極細ボールペンにも適用可能な、より効果の高い潤滑剤が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水性インキに高い潤滑効果を付与することで、ボールの回転によるボール受け座の摩耗を抑制することが可能となり、より座摩耗に不利な条件である、着色剤として顔料を用いる場合や、極細ボールペンに適用する場合であっても、良好なインキ吐出性を長距離の筆記に亘って確保でき、初期と同等の優れた筆記感を長期的に維持できるボールペン用水性インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のボールペン用水性インキ組成物は、着色剤と、水と、下記一般式(1)で表すポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸を少なくとも含有することを要件とする。
更に、前記着色剤が顔料であることを要件とする。
更には、前記ボールペン用水性インキ組成物を内蔵したボールペンを要件とし、前記ボールペンが直径0.4mm以下のボールを筆記先端部に備えることを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、高い潤滑性能を付与でき、顔料により促進される座摩耗や、ボールの高速回転による座摩耗を効果的に抑制できるので、顔料系インキや、小径ボールを適用する激細ボールペンにおいてもカスレやボテ等の筆跡不良を生じることなく均一な筆跡が得られ、初期と同等の優れた筆記感を長距離、長期間に亘って持続できる水性ボールペン用インキ組成物とそれを内蔵したボールペンを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ボールペン用水性インキ組成物中に、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸を添加することで、今まで用いられてきた潤滑剤よりも高い潤滑効果が付与され、ボール受け座の摩耗を効果的に抑制できるものである。
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸は、例えば、下記一般式(1)で表すことができる。
【0009】
【化1】
前記一般式(1)において、Rはアルキル基であり、a及びbは付加モル数を示す整数である。前記アルキル基Rは、炭素数12〜18である置換基、例えば、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、セチル基、ステアリル基、オレイル基等が適用できる。中でも、汎用性が高く、少量の添加で効果を発現できる点から、ミリスチル基、セチル基、オレイル基が特に好ましい。
また、エチレンオキサイドの付加モル数を示すaは、3〜20の範囲が好ましく、より好ましくは5〜15の範囲である。プロピレンオキサイドの付加モル数を示すbは、1〜20の範囲が好ましく、より好ましくは3〜8の範囲である。これらの範囲内の付加モル数のものは、潤滑効果が高いため好適に用いられる。
尚、前記一般式(1)において、具体的には、aが10、bが5、Rがセチル基の組み合わせ、aが5〜8、bが2、Rがミリスチル基の組み合わせ、aが5〜8、bが2、Rがオレイル基の組み合わせが特に好ましい。
また、インキ中に添加する際には、アルカリ金属塩やアミン塩として適用することもできる。
【0010】
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸の添加量としては、インキ組成物全量中0.1〜5重量%の範囲、好ましくは0.3〜3重量%の範囲で添加することができる。
0.1重量%未満では所望の潤滑効果が得られ難く、また、5重量%を越えて配合しても効果の向上は見られないため、これ以上の添加は要さない。
【0011】
前記着色剤としては、水性媒体に溶解もしくは分散可能な染料及び顔料がすべて使用可能であり、その具体例を以下に例示する。
前記染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等を使用することができる。
酸性染料としては、ニューコクシン(C.I.16255)、タートラジン(C.I.19140)、アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、ギニアグリーン(C.I.42085)、ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、アシッドバイオレット6B(C.I.42640)、ソルブルブルー(C.I.42755)、ナフタレングリーン(C.I.44025)、エオシン(C.I.45380)、フロキシン(C.I.45410)、エリスロシン(C.I.45430)、ニグロシン(C.I.50420)、アシッドフラビン(C.I.56205)等が用いられる。
塩基性染料としては、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、ローダミンB(C.I.45170)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等が用いられる。
直接染料としては、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が用いられる。
【0012】
前記顔料としては、カーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤等を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等が用いられ、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3B〔品名:S.S.Blue GLL、顔料分22%、山陽色素株式会社製〕、C.I. Pigment Red 146〔品名:S.S.Pink FBL、顔料分21.5%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Yellow 81〔品名:TC Yellow FG、顔料分約30%、大日精化工業株式会社製〕、C.I.Pigment Red220/166〔品名:TC Red FG、顔料分約35%、大日精化工業株式会社製〕等を挙げることができる。
蛍光顔料としては、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が使用できる。
その他、パール顔料、金色、銀色のメタリック顔料、蓄光性顔料、二酸化チタン等の白色顔料、アルミニウム等の金属粉、更には熱変色性組成物、光変色性組成物、香料等を直接又はマイクロカプセル化したカプセル顔料等を例示できる。
【0013】
前記熱変色性組成物としては、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適であり、マイクロカプセルに内包させて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として適用される。
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51−44706号公報、特公昭51−44707号公報、特公平1−29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1〜7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
更に、特公平4−17154号公報、特開平7−179777号公報、特開平7−33997号公報、特開平8−39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH=8〜50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち−50〜0℃、好ましくは−40〜−5℃、より好ましくは−30〜−10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50〜95℃、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜80℃の範囲に特定し、ΔH値を40〜100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0014】
前記着色剤は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インキ組成中1乃至30重量%、好ましくは2乃至25重量%の範囲で用いられる。
尚、本発明の潤滑剤は、座摩耗がより進行し易い顔料を用いた水性インキにおいても高い潤滑効果を発現するため、顔料系インキにおいて特に有効である。
【0015】
更に必要に応じて、水に相溶性のある従来汎用の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用して用いることができ、2〜60重量%、好ましくは5〜35重量%の範囲で用いられる。
【0016】
更に、紙面への固着性や粘性を付与するために水溶性樹脂を添加することもできる。前記水溶性樹脂としては、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等が挙げられる。前記水溶性樹脂は一種又は二種以上を併用することができ、インキ組成中1乃至30重量%の範囲で用いられる。
【0017】
その他、必要に応じて、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2−ベンズチアゾリン3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、尿素、ノニオン系界面活性剤、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、消泡剤、インキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン系の界面活性剤を使用してもよい。
更に、アスコルビン酸類、エリソルビン酸類、α−トコフェロール、カテキン類、合成ポリフェノール、コウジ酸、アルキルヒドロキシルアミン、オキシム誘導体、α−グルコシルルチン、α−リポ酸、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、亜硫酸塩、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素等を添加して化学的に気泡を除去することもできる。
また、N−ビニル−2−ピロリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピペリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、N−ビニル−ε−カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式形態での機能を高めることもできる。
更に、他の潤滑剤を併用することができ、例えば、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、リン酸エステル系活性剤、β−アラニン型界面活性剤、N−アシルアミノ酸、N−アシルメチルタウリン、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールやその塩やオリゴマー、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、α−リポ酸、N−アシル−L−グルタミン酸とL−リジンとの縮合物やその塩等が用いられる。
【0018】
また、インキ組成物中に剪断減粘性付与剤を添加することもできる。
前記剪断減粘性付与剤としては、水に可溶乃至分散性の物質が効果的であり、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100〜800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、ポリN−ビニルカルボン酸アミド、無機質微粒子、HLB値が8〜12のノニオン系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩やアミン塩等を例示でき、更には、インキ組成物中にN−アルキル−2−ピロリドンとアニオン系界面活性剤を併用して添加しても安定した剪断減粘性を付与できる。
【0019】
更に、インキ収容管内に充填されたインキ組成物の後端部にはインキ逆流防止体(液栓)を配することもできる。
前記インキ逆流防止体としては、液状または固体のいずれを用いることもでき、前記液状のインキ逆流防止体としては、ポリブテン、α−オレフィンオリゴマー、シリコーン油、精製鉱油等の不揮発性媒体が挙げられ、所望により前記媒体中にシリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、脂肪酸アマイド等を添加することもできる。また、固体のインキ逆流防止体としては樹脂成形物が挙げられる。前記液状及び固体のインキ逆流防止体は併用することも可能である。
【0020】
前記ボールペン用水性インキ組成物を充填するボールペンの筆記先端部(チップ)の構造は、従来汎用の機構が有効であり、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属製のパイプや金属材料の切削加工により形成したチップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。
また、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等からなる汎用のものが適用でき、直径0.1mm〜2.0mm、好ましくは0.15mm〜1.0mmの範囲のものが好適に用いられる。特に、ボール径が0.4mm以下の小径のものでは、筆記距離に対するボールの回転数が多くなることから、本発明のインキがより好適に作用する。そのため、ボール径がより小さい0.38mm、0.35mm、0.3mm、0.28mm、0.25mm、0.18mm等、小さくなるにつれて本発明のインキは非常に有利に作用する。
また、前記ボールの材質のうち、硬度が高い超硬合金ボールは座摩耗を生じやすいため、特に本発明の水性インキ組成物が有用なものとなる。
【0021】
前記水性インキ組成物を収容する軸筒は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体が、インキの低蒸発性、生産性の面で好適に用いられる。
前記軸筒にはチップを直接連結する他、接続部材を介して前記軸筒とチップを連結してもよい。
前記軸筒内に収容されるインキ組成物は、インキ組成物が低粘度である場合は軸筒前部にインキ保留部材を装着し、軸筒内に直接インキ組成物を収容する方法と、多孔質体或いは繊維加工体に前記インキ組成物を含浸させて収容する方法が挙げられる。
【0022】
更に、前記軸筒として透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、インキ色やインキ残量等を確認できる。
尚、前記軸筒は、ボールペン用レフィルの形態として、前記レフィルを外軸内に収容するものでもよいし、先端部にチップを装着した軸筒自体をインキ収容体として、前記軸筒内に直接インキを充填してもよい。
【0023】
前記軸筒を用いたボールペンは、キャップ式、出没式のいずれの形態であっても適用できる。出没式ボールペンとしては、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で外軸内に収納されており、出没機構の作動によって外軸開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
出没機構の操作方法としては、例えば、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。
前記ノック式は、外軸後端部や外軸側面にノック部を有し、該ノック部の押圧により、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成、或いは、外軸に設けたクリップ部を押圧することにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記回転式は、外軸に回転部(後軸等)を有し、該回転部を回すことによりボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
前記スライド式は、軸筒側面にスライド部を有し、該スライドを操作することによりボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成、或いは、外軸に設けたクリップ部をスライドさせることにより、ボールペンレフィルの筆記先端部を外軸前端開口部から出没させる構成を例示できる。
尚、前記出没式ボールペンは、外軸内に一本のボールペンレフィルを収容したもの以外に、複数のボールペンレフィルを収容してなる複合タイプの出没式ボールペンであってもよい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の表に実施例及び比較例のボールペン用水性インキの組成を示す。尚、表中の組成の数値は重量部を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)冨士色素(株)製、商品名:フジSPブルー6455(固形分:27.5%)
(2)冨士色素(株)製、商品名:フジSPブラック8065(固形分:25.0%)
(3)オリエント化学工業(株)製、商品名:ウォーターブラック191L(20%水溶液)
(4)東洋アルミ(株)製、商品名:アルミペーストWXM0630(固形分:65.0%)
(5)POP(5)POE(10)セチルエーテルリン酸
(6)POP(2)POE(5)ミリスチルエーテルリン酸
(7)POP(2)POE(8)オレイルエーテルリン酸
(8)POE(9)ラウリルエーテルリン酸
(9)アビシア社製、商品名:プロキセルXL−2
(10)アルカリ増粘型アクリルエマルション、ローム&ハースジャパン社製、商品名:プライマルASE−60
(11)三晶(株)製、商品名:ケルザンST
【0027】
インキの調製
水に各成分を添加して、20℃で、ディスパーにて400rpm、1時間攪拌した後、剪断減粘性付与剤を含むものはこれを加えて更に1時間攪拌することで各インキを調製した。
【0028】
インキ逆流防止体の調製
基油としてポリブテン98.5部中に、増粘剤として脂肪酸アマイド1.5部を添加した後、3本ロールにて混練してインキ逆流防止体を得た。
【0029】
ボールペンAの作製
前記実施例1,2,4及び比較例1,2,4のインキ組成物を、直径0.4mmの超硬合金ボールを抱持するステンレススチール製チップがポリプロピレン製パイプの一端に嵌着されたボールペンレフィルに1.0g充填し、該インキの後端に前記インキ逆流防止体を配設した後、前記ボールペンレフィルを外軸に組み込み、キャップを装着して試料ボールペンを作製した。
【0030】
ボールペンBの作製
前記実施例3及び比較例3のインキ組成物を、直径0.5mmの超硬合金ボールを抱持するペン先を有するペン芯式ボールペン(パイロットコーポレーション社製、Hi−TecpointV5)外装のインキ貯蔵部に2.0g充填し、キャップを嵌合することで試料ボールペンを作製した。
【0031】
前記試料ボールペンを用いて以下の試験を行った。
筆記試験
筆記可能であることを確認した試料ボールペンを、自動筆記試験機にて、旧JIS P3201筆記用紙Aに螺旋状の丸を連続筆記し、筆跡の状況と、充填されるインキが完全に消費できるかどうか確認した。尚、前記試験機は、筆記荷重100g、筆記角度70°、筆記速度4m/分の条件で使用した。
摩耗試験
筆記可能であることを確認した試料ボールペンを、自動筆記試験機にて、JIS P3201筆記用紙Aに螺旋状の丸を1000m連続筆記した後のボール受け座部分の初期状態に対する摩耗量(ペン先上向き状態におけるボール沈み量)を測定した。
尚、前記試験機は、筆記荷重100g、筆記角度70°、筆記速度4m/分の条件で使用した。また、測定値は、各5本ずつ試験したものの平均値である。
前記各試験の結果を以下の表に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
尚、試験結果の評価は以下の通りである。
筆記試験
○:良好な筆跡が形成でき、内蔵するインキを全て書き切ることができた。
×:筆跡に線飛びやカスレが発生し、途中で筆記できなくなりインキが残った。