(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
同軸上に対向して配置され、接近離反可能とされた一対の電極と、ワークの一方側に配置される複数の導電部材と、前記導電部材と通電可能に接続された当接部材とを備え、前記当接部材をワークに一方側から当接させると共に、一方の電極を前記導電部材に当接させ、さらに他方の電極をワークの溶接予定部に他方側から当接させ、この状態で前記一対の電極の間に通電することにより前記溶接予定部に溶接を施すスポット溶接装置であって、
前記複数の導電部材を電気的に導通する導通状態と、前記複数の導電部材を電気的に遮断する非導通状態とを切り替え可能な導通手段を設けたスポット溶接装置。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、自動車車体は、複数の鋼板を溶接により接合することで構成されている。溶接工法は、コスト面や生産性の観点から、C型ガンを用いたダイレクトスポット溶接が一般的に採用されており、大部分の溶接部がこのダイレクトスポット溶接により形成されている。ところが、ダイレクトスポット溶接は、C型ガンの一対の電極により鋼板を両側から加圧挟持しながら通電し、溶接部を形成する工法であるため、片方側の鋼板に断面ハット状部が形成される等の鋼板を挟持できない部位については溶接を施すことができず、溶接部を形成する部位に多少の制限がある。
【0003】
このような場合の溶接方法として、特許文献1に記載された技術が公知である。
図8は、特許文献1の技術を用いて、三枚の鋼板101,102,103を重ね合わせて溶接する場合のものである。同図に示すように、鋼板103には断面ハット状部103aが形成されている。鋼板101、102のうち、鋼板103のハット状部103aで覆われた部分は、第二電極105を下方から当接させることができないため、同軸上の第一電極104及び第二電極105で加圧挟持して通電溶接することはできない。そのため、特許文献1の技術では、
図8に示すように、所定の間隔を置いて導電部材106上に立設された二つの当接部材107,108を鋼板103のフランジ部103bに下方から当接させた後、第一電極104を溶接予定部Pに上方から当接させると共に、第二電極105を導電部材106に下方から当接させる。この状態で電極104、105間に通電することにより、第一電極104→鋼板101及び102→鋼板103のフランジ部103b→当接部材108→導電部材106→第二電極105という電流経路が形成され、第一電極104直下の鋼板101及び102との間(溶接予定部P)にナゲットが形成され、両鋼板101及び102の抵抗溶接が行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スポット溶接装置によりワークに抵抗溶接を施す場合、量産ワークにあっては、量産する前段階において、溶接対象部位に適切なナゲットが形成されるための溶接条件を検討することが行われる。一般的には、電流値や加圧力の適正値の検討が行われる。例えば、前記特許文献1に開示されたスポット溶接装置のように、アース(当接部材)が複数個所設定されている溶接装置を用いた工法の場合は、適切な通電経路(当接部材の当接位置)を検討する必要がある。
【0006】
特許文献1の溶接装置では、導電部材106及び当接部材107、108が一体的に移動可能であるため、これらを移動させて当接部材107、108と鋼板103との当接位置を変えることにより適切な通電経路を設定することが考えられる。しかしながら、特許文献1の技術では、導電部材106と当接部材107及び108とが一体的に設けられているため、通電経路の形成が当接部材107及び108の配置位置に依存して一義的に決められ、通電経路の選択などの検討余地がなく、通電制御を図ることが非常に難しいという問題があった。そのため、過大電流が流れるような通電経路が形成されることがあり、過大電流により溶接予定部Pに溶け落ちが発生するという問題があった。
【0007】
また、ワークごとに対応した専用のスポット溶接装置を設けることで適切な溶接条件出しはできるが、設備費が非常に嵩むという問題があり、採用できないでいた。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてこれを改良除去したものであって、様々な形状のワークであっても適切な溶接条件出しの設定が可能な汎用性のあるスポット溶接装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明が採用したスポット溶接装置は、同軸上に対向して配置され、接近離反可能とされた一対の電極と、ワークの一方側に配置される複数の導電部材と、前記導電部材と通電可能に接続された当接部材とを備え、前記当接部材をワークに一方側から当接させると共に、一方の電極を前記導電部材に当接させ、さらに他方の電極をワークの溶接予定部に他方側から当接させ、この状態で前記一対の電極の間に通電することにより前記溶接予定部に溶接を施すスポット溶接装置であって、前記複数の導電部材を電気的に導通する導通状態と、前記複数の導電部材を電気的に遮断する非導通状態とを切り替え可能な導通手段を設けたものである。
【0010】
上記のように、本発明のスポット溶接装置では、複数の導電部材を電気的に導通する導通状態と、複数の導電部材を電気的に遮断する非導通状態とを切り替え可能な導通手段を設けた。これにより、当接部材のワークに対する当接位置の変更では適切な通電経路を形成できない場合でも、複数の導電部材間の導通状態を導通手段により選択的に切り替えることで、より適切な通電経路の選択を図ることが可能となる。よって、分流制御の選択肢が拡がり、種々のワーク形状の溶接条件出しができる汎用性のあるスポット溶接装置とすることが可能である。
【0011】
上記のスポット溶接装置において、当接部材を複数設け、それぞれ個別に昇降可能とすれば、鋼板に対して必要な当接部材のみを選択的に当接させることが可能となる。これにより、分流制御の選択肢がさらに広がり、適切な通電経路を形成しやすくなる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明のスポット溶接装置によれば、複数の導電部材間の導通状態を導通手段で切り替えることにより、分流制御の選択肢が拡がり、種々のワーク形状に応じた通電経路を形成することができるため、溶け落ちなどを発生させることなくスポット溶接部を形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明の実施形態に係るスポット溶接装置1は、例えば
図1に示すワークWの溶接予定部Pに溶接を施すものである。このワークWは、平面視で略L字状をなした長尺のフレーム部材である(
図2参照)。ワークWは、2枚の略平板状の鋼板W1、W2と、これらの一方側(図中下方)に重ねられた断面ハット形状の鋼板W3とを有する。鋼板W3は、ハット部Hと、その両側に設けられたフランジ部Fとを有する。鋼板W1〜W3は、予め、フランジ部Fの長手方向に離隔した複数箇所にダイレクトスポット溶接を施すことにより一体化されている。スポット溶接装置1は、鋼板1、2のうち、一方側から鋼板W3のハット部Hで覆われた溶接予定部Pを溶接可能なものである。
【0016】
スポット溶接装置1は、
図2及び
図3に示すように、ワークセット台2と、導電部材と、当接部材4と、駆動部5と、連結部6と、電極7a及び7bを有する溶接ガン(
図8参照)と、導通手段8とを主に備える。
【0017】
ワークセット台2は、例えば複数の金属フレームを組み合せて形成され、床面上に設置される。ワークセット台2は、ワークWが載置される載置部2aと、クランプ部材2bとを有する。載置部2aは、ワークWのフランジ部Fを下方から支持可能な位置に設けられる。クランプ部材2bは、載置部2aと協働してワークWを挟持することで、ワークWをワークセット台2に固定するものである。本実施形態では、クランプ部材2bがピン2cを中心に回転可能とされ、載置部2aに対応する位置に押さえ部2dが設けられる。
【0018】
導電部材は導電材料(例えば金属、特に銅)で形成され、複数に分割して設けられる。本実施形態では、複数の導電部材として導電板3a、3b、及び3cが設けられる(
図2参照)。導電板3a、3b、3cは、互いに離反して設けられ、それぞれワークセット台2に絶縁部材(図示省略)を介して固定される。
【0019】
導電板3aと3bとの間、導電板3bと3cとの間、及び導電板3cと3aとの間には、それぞれ導通手段8が設けられる。導通手段8は、二つの導電板を電気的に導通する導通状態と、二つの導電板を電気的に遮断する非導通状態とを切り替えるものである。本実施形態の導通手段8は、
図4に示すように、導電材料(例えば金属、特に銅)からなる端子部材8aと、端子部材8aを昇降駆動するシリンダ8bとを有する。図示例の端子部材8aは、二つの導電板にそれぞれ当接する一対の当接部8a1、8a2と、一対の当接部8a1、8a2を連結する連結部8a3とを一体に有する。シリンダ8bを突出させて端子部材8aの当接部8a1、8a2を二つの導電板(図示例では導電板3a、3b)に当接させることにより、これらの導電板3a、3bを電気的に接続する導通状態となる(図中点線参照)。一方、シリンダ8bを後退させて端子部材8aを二つの導電板3a、3bから離反させることにより、これらの導電板3a、3cを電気的に遮断する非導通状態となる(図中実線参照)。尚、導電板3b、3c間、及び、導電板3a、3c間に設けられた導通手段8も同様の構成である。また、各導通手段8は、それぞれ独立して導通状態を切り替え可能であり、本実施形態では、各導通手段8のシリンダ8bが個別に昇降可能とされる。
【0020】
当接部材4は、ワークWのフランジ部Fに下方から当接可能な位置に配置される。本実施形態では、当接部材4が複数箇所に設けられる。具体的には、
図2に示すように、導電板3a、3cにはそれぞれ2個の当接部材4が、導電板3bには1個の当接部材4が接続される。当接部材4は、ワークWに当接する当接位置(
図3の点線参照)と、ワークWから離反した退避位置(
図3の実線参照)との間で移動可能とされ、図示例では鉛直方向に昇降可能とされる。当接部材4は、鉛直方向に延びる軸状の本体部4aと、本体部4aの先端(図中上端)に設けられたチップ4bとを有する。本体部4a及びチップ4bは共に金属で形成される。
【0021】
駆動部5は、当接部材4を当接位置と退避位置との間で駆動するものである。本実施形態では、各当接部材4の下端にそれぞれ駆動部5が接続され、各当接部材4が個別に昇降駆動される。駆動部5は、例えばシリンダ(エアシリンダあるいは油圧シリンダ)で構成される。このほか、駆動部5をサーボモータやボールネジ等で構成してもよい。駆動部5は、ワークセット台2に固定される。各当接部材4と各駆動部5との間には絶縁部材(図示省略)が設けられ、これにより両者が絶縁される。
【0022】
導電板3a〜3cと各当接部材4とは、連結部6により通電可能に接続される。連結部6は、導電板3a〜3cと当接部材4との通電を維持しながら、当接部材4の昇降を許容する。本実施形態では、連結部6が略U字形状の弾性部材(例えば積層金属板)で構成され、連結部6が湾曲することで当接部材4の昇降が許容される(
図3の点線参照)。
【0023】
溶接ガンは、第1電極7a及び第2電極7bを有する(
図7参照)。両電極7a、7bは、同軸上に対向して配置され、互いに接近離反可能とされる。両電極7a、7bは、ガンヨークを介してロボットアームに連結される(図示省略)。各電極7a、7bは、軸状の本体部7a1、7b1及びその先端に設けられたチップ7a2、7b2を有する。
【0024】
以下、上記のスポット溶接装置を用いてワークWに溶接を施す手順について説明する。
【0025】
まず、
図5に示すように、クランプ部材2bの先端を上方に退避させ、押さえ部2dを載置部2aから離反させた状態で、ワークセット台2の載置部2aにワークWを載置する(矢印C参照)。鋼板W3のハット部Hを下向きに突出させた状態で、ワークWのフランジ部Fを載置部2aに載置するにより、ハット部Hが複数の当接部材4の間に配される。この状態で、ワークセット台2のクランプ部材2bを回転させて(矢印D参照)、押さえ部2dと載置部2aとでワークWのフランジ部Fを上下から挟持することにより、ワークWがワークセット台2にセットされる。
【0026】
このとき、各導通手段8により、導電板3a、3b、3c間の導通状態が設定される。本実施形態では、導電板3aと3bとの間の導通手段8の端子部材8aを後退させてこれらの導電板3a、3bを非導通状態にすると共に(
図5参照)、導電板3a,3c間、及び導電板3b,3c間の導通手段8の端子部材8aを各導電板に当接させて、導電板3aと3c及び導電板3bと3cをそれぞれ導通状態とする。尚、
図6では、導通状態の導通手段8を実線で示し、非導通状態の導通手段8を点線で示している。
【0027】
次に、駆動部5で当接部材4を上昇させ、ワークWのフランジ部Fに下方から当接させる(
図3の点線参照)。本実施形態では、当接部材4を、ワークWのフランジ部Fのうち、予め溶接された既溶接部に当接させる。これにより、当接部材4がアース電極として機能する。このとき、各当接部材4を別個の駆動部5で駆動しているため、各当接部材4をそれぞれ上昇させてワークWに確実に当接させることができる。また、所望の通電経路を形成するために、一部の当接部材4のみを上昇させてワークWに当接させることもできる。また、当接部材4ごとに加圧力を個別に設定することが可能であるので、当接部材4ごとに加圧力を異ならせることも、全ての当接部材4の加圧力を等しくすることもできる。
【0028】
その後、ロボットアームで溶接ガンを移動させ、
図7に示すように、第1電極7aと第2電極7bとの間にワークWのハット部H及び導電部材(図示例では導電板3b)を配置させる。そして、第1電極7aをワークWの溶接予定部Pに上方から当接させると共に、第2電極7bを導電板3bに下方から当接させる。この状態で、両電極7a、7bによりワークW及び導電板3bを挟持して加圧し、両電極7a、7b間に通電する。これにより、第1電極7a→ワークW→当接部材4→連結部6→導電板→第2電極7bという通電経路が形成され、ワークWの溶接予定部Pに溶接が施される。
【0029】
このときの通電経路を詳しく説明すると、まず、第1電極7aから直近の当接部材4にワークWを介して電流が流れる(矢印Q1参照)。そして、当接部材4から連結部6を介して導電板3aに電流が流れる。このとき、導電板3aと導電板3bとが導通手段8により非導通状態になっていると共に、導電板3aと導電板3c、及び、導電板3bと導電板3cが、それぞれ導通手段8により導通状態になっている。これにより、電流は、導電板3a→導電板3c→導電板3bという経路を流れ、第2電極7bに達する(矢印Q2参照)。このように、導電板3a〜3c間の通電状態を導通手段8により適宜切り替えることにより、導電板3a〜3cを介した通電経路を変更することができる。従って、溶接予定箇所に流れる電流値が大きい場合には、本実施形態のように通電経路が長くなるように導通手段8を切り替えることにより、当接部材4の位置を変えることなく適切な溶接条件を設定することが可能となる。
【0030】
また、本実施形態では、各当接部材4がそれぞれ個別に昇降駆動されるため、複数の当接部材4のうちの一部をワークに当接させることができる。これにより、ワークWに当接させる当接部材4を適宜選択することにより、通電経路を変更することができるため、より適切な溶接条件の設定が可能となる。
【0031】
一箇所の溶接予定部Pへの溶接が完了したら、両電極7a、7bを離反させてワークW及び導電板3bへの加圧力を解除する。そして、ロボットアームで溶接ヘッドを次の溶接予定部へ移動させ、上記と同様の手順で溶接を施す。このとき、必要に応じて、各導通手段8の導通状態が切り替えられ、導電板3a〜3cの一部又は全てを介した所望の通電経路を形成する。全ての溶接予定部Pへの溶接が完了したら、駆動部5で当接部材4を退避位置まで下降させると共に、クランプ部材2bを回転させてワークWのクランプを解除した後、ワークWをスポット溶接装置1から搬出する。
【0032】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、適宜の変更が可能である。例えば、導通手段8の端子部材8aの通電抵抗を高めれば、端子部材8aを介した通電経路の抵抗を高めることができる。この場合、通電経路が通過する端子部材8aの数を増やすことによって、通電経路全体の抵抗値を大幅に増大させることができるため、溶接条件の設定の幅がさらに広がる。通電抵抗を高める手段としては、端子部材8aの断面積を小さくしたり、端子部材8aを抵抗値の高い材料(例えばタングステン)で形成したりすることが考えられる。
【0033】
また、当接部材の数や配置位置及び導電部材の分割数や形状等は、ワークの種類や溶接部位等に応じて溶接電流経路が適切になるように設定すればよい。