(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の成分(A)は、ポリエステル系樹脂の1種又は2種以上の混合物であり、(A1)テレフタル酸及びイソフタル酸並びにエチレングリコール及びネオペンチルグリコールを構成モノマーとして、全構成モノマーを100モル%としたとき、90モル%以上の量で含む非結晶性ポリエステル系樹脂を、成分(A)全体を100質量%としたとき、70質量%以上の量で含む。70質量%未満ではエンボス加工性や耐候性が、あるいは耐ストレスクラック性や鉛筆硬度が不満足なものになる。好ましくは75質量%以上である。
【0011】
本発明の成分(A1)は、テレフタル酸及びイソフタル酸並びにエチレングリコール及びネオペンチルグリコールを構成モノマーとして、全構成モノマーを100モル%としたとき、90モル%以上の量で含む非結晶性ポリエステル系樹脂である。これまで非結晶性ポリエステル系樹脂を多量に配合した樹脂組成物シートは、耐ストレスクラック性が不十分であるというのが当業者常識であった。ところが驚くべきことに、非結晶性ポリエステル系樹脂として本発明の成分(A1)を使用した場合には、良好な耐ストレスクラック性を示すことを、本発明者は見出した。また成分(A1)は非結晶性であるため、透明性や光沢性が良好であり、エンボス加工性や耐衝撃性にも優れている。
【0012】
成分(A1)は、好ましくは、テレフタル酸及びイソフタル酸並びにエチレングリコール及びネオペンチルグリコールを構成モノマーとして、全構成モノマーを100モル%としたとき、95モル%以上含む非結晶性ポリエステル系樹脂である。更に好ましくは、全構成モノマーを100モル%としたとき、テレフタル酸30〜45モル%、イソフタル酸5〜20モル%、エチレングリコール35〜48モル%、ネオペンチルグリコール2〜15モル%を含み、かつ、テレフタル酸及びイソフタル酸並びにエチレングリコール及びネオペンチルグリコールの総和は97モル%以上であるところの非結晶性ポリエステル系樹脂である。
【0013】
成分(A1)に含み得るテレフタル酸及びイソフタル酸並びにエチレングリコール及びネオペンチルグリコール以外のモノマー成分としては、例えば、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの多価カルボン酸;ジエチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの多価アルコール;ビスフェノールAなどの芳香族ジヒドロキシ化合物;などをあげることができる。
【0014】
本明細書では、ポリエステル系樹脂の共重合組成は、
1H−NMRを用いて決定した。即ち、日本電子株式会社のECX400P型(商品名)核磁気共鳴装置を使用し、以下の条件で測定した。
測定核
1H(400MHz)
測定モード シングルパルス
パルス幅 45°(5.12μ秒)
ポイント数 16k
測定範囲 −2.5〜12.5ppm
繰り返し時間 7.8秒
積算回数 64回
測定溶媒 クロロホルム−d
試料濃度 20mg/0.6ml
測定温度 23℃
ウインドウ関数 exponential(BF:0.18Hz)
ケミカルシフトの内部標準 クロロホルム(7.24ppm)
【0015】
ピークの帰属は、「高分子分析ハンドブック(2008年9月20日初版第1刷、社団法人日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、株式会社朝倉書店)の特に496〜503頁」や「独立行政法人物質・材料研究機構材料情報ステーションのNMRデータベース(http://polymer.nims.go.jp/NMR/)」を参考に行い、ピーク面積比から共重合組成を計算した。具体的には、テレフタル酸由来の構成単位は8.05ppm付近に現れる芳香環の水素のシグナル、イソフタル酸由来の構成単位は8.70ppm付近に現れる芳香環の主鎖の何れを基準としてもo位となる位置の水素のシグナル、エチレングリコール由来の構成単位は4.65ppm付近に現れる主鎖のメチレン水素のシグナル、ネオペンチルグリコール由来の構成単位は4.20ppm付近に現れる主鎖のメチレン水素のシグナルを使用した。
なおポリエステル系樹脂の共重合組成の
1H−NMR分析は、株式会社三井化学分析センターなどにおいて行うこともできる。
【0016】
本明細書では、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用し、試料を320℃で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で−50℃まで冷却し、−50℃で5分間保持した後、20℃/分の昇温速度で320℃まで加熱するという温度プログラムでDSC測定を行って得られる融解曲線における融解熱量が、10J/g以下のポリエステルを非結晶性と定義した。
【0017】
成分(A1)のISO 1183の水中置換法により測定した密度は、好ましくは1250〜1400Kg/m
3である。1250Kg/m
3未満では耐ストレスクラック性が不十分になることがある。1400Kg/m
3を超えると耐衝撃性が不十分になることがある。より好ましくは1300〜1360Kg/m
3である。
【0018】
このような成分(A1)の市販例としては、中国石化儀征化学繊維株式会社(中国石化儀征化繊股份有限公司)のSinopec
FG702(商品名)などをあげることができる。
【0019】
シート(1)に透明性を必要としない場合、具体的には、熱可塑性樹脂組成物(P)に隠蔽性のある顔料を配合して着色する場合には、耐ストレスクラック性を更に高めるため、上記の成分(A)は、上記成分(A1)と(A2)ポリブチレンテレフタレート系樹脂とからなる混合物が好ましい。成分(A2)の配合量の上限は、成分(A1)と成分(A2)との合計を100質量%として、30質量%以下である。30質量%を超えるとエンボス加工性が低下する。より好ましくは25質量%以下である。一方、成分(A2)の配合量の下限は特にないが、耐ストレスクラック性の改良効果を得るためには、1質量%以上であることが好ましい。より好ましくは10質量%以上である。
【0020】
成分(A2)の市販例としては、東レ株式会社のトレコン(商品名)、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社のノバデュラン(商品名)をあげることができる。
【0021】
本発明の成分(B)はコアシェル構造を有するゴムであり、伸び性、二次加工性、耐衝撃性を向上させる働きをする。具体的には、メタクリル酸エステル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/エチレン・プロピレンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/アクリル酸エステルグラフト共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・アクリロニトリル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体などをあげることができる。成分(B)としては、これらのコアシェルゴムの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。
【0022】
上記熱可塑性樹脂組成物(P)における成分(A)と成分(B)の配合量は、成分(A)100質量部に対して成分(B)1〜10質量部である。成分(B)の配合量が1質量部未満ではエンボス加工性や耐衝撃性が不十分になる。成分(B)の配合量が10質量部を超えると鉛筆硬度や透明性が低下する。好ましくは成分(B)2〜6質量部である。
【0023】
このような(B)成分の市販例としては、株式会社カネカのカネエース(商品名)、三菱レイヨン株式会社のメタブレン(商品名)などをあげることができる。
【0024】
また上記熱可塑性樹脂組成物(P)に含む得る任意成分としては、上記成分(A1)及び成分(A2)並びに成分(B)以外の熱可塑性樹脂;顔料、無機フィラー、有機フィラー、樹脂フィラー、難燃剤;滑剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、及び、界面活性剤等の添加剤;などをあげることができる。これらの任意成分の配合量は、通常、成分(A)を100質量部としたとき、0.1〜25質量部程度である。
【0025】
熱可塑性樹脂組成物(P)は、上記各成分を任意の溶融混練機を用いた溶融混練法により得られる。溶融混練機としては、加圧ニーダー、ミキサーなどのバッチ混練機;同方向回転二軸押出機、異方向回転二軸押出機などの押出混練機;カレンダーロール混練機などをあげることができる。これらを任意に組み合わせて使用してもよい。得られた樹脂組成物は、任意の方法でペレット化した後、例えばカレンダー加工機を使用して、又は、押出機とTダイを使用して本発明のシート(1)に成形することができる。ペレット化はホットカット、ストランドカット、及び、アンダーウォーターカットなどの方法により行うことができる。あるいは溶融混練された樹脂組成物をそのままカレンダー加工機又はTダイに送ってシート(1)に成形してもよい。カレンダー加工機は任意のものを使用することができ、例えば直立型3本ロール、直立型4本ロール、L型4本ロール、逆L型4本ロール、及び、Z型ロールなどをあげることができる。押出機は任意のものを使用することができ、例えば単軸押出機、同方向回転二軸押出機、及び、異方向回転二軸押出機などをあげることができる。Tダイは任意のものを使用することが出来、例えばマニホールドダイ、フィッシュテールダイ、及び、コートハンガーダイなどをあげることができる。
【0026】
本発明のシート(1)には、その少なくとも片面に、アンカーコート(2)を介して又は介さないで、ハードコート(3)を積層することができる。ハードコート(3)を設けることにより、耐傷付性を高めることができる。ハードコート(3)の形成に使用する塗料としては、意匠性の観点から、高透明性、高光沢性を有するものが好ましい。このようなハードコート形成用塗料としては、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をあげることができる。
【0027】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、紫外線や電子線等の活性エネルギー線により重合・硬化して、ハードコートを形成することが可能なものである。例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリアクリル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート、及び、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有プレポリマー又はオリゴマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルセロソルブ(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、及び、トリメチルシロキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有単官能反応性モノマー;N−ビニルピロリドン、スチレン等の単官能反応性モノマー;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2‘−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、及び、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン等の(メタ)アクリロイル基含有2官能反応性モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有3官能反応性モノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有4官能反応性モノマー;及び、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有6官能反応性モノマーなどから選択される1以上を、あるいは上記1以上を構成モノマーとする樹脂を、1分子中に2以上のイソシアネート基(−N=C=O)を有する化合物及び/又は光重合開始剤とともに含む組成物をあげることができる。
【0028】
なお本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味である。
【0029】
上記、1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、メチレンビス−4−シクロヘキシルイソシアネート;トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体等のポリイソシアネート;及び、上記ポリイソシアネートのブロック型イソシアネート等のウレタン架橋剤などをあげることができる。これらをそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、架橋の際には、必要に応じてジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエートなどの触媒を添加してもよい。
【0030】
上記、光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、メチル−o−ベンゾイルベンゾエート、4−メチルベンゾフェノン、4、4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタール等のベンゾイン系化合物;アセトフェノン、2、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン系化合物;メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン等のアントラキノン系化合物;チオキサントン、2、4−ジエチルチオキサントン、2、4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系化合物;アセトフェノンジメチルケタール等のアルキルフェノン系化合物;トリアジン系化合物;ビイミダゾール化合物;アシルフォスフィンオキサイド系化合物;チタノセン系化合物;オキシムエステル系化合物;オキシムフェニル酢酸エステル系化合物;ヒドロキシケトン系化合物;及び、アミノベンゾエート系化合物などをあげることができる。これらをそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
特に好ましい、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、
(α)下記式(1):
(ここで、R1およびR2は各々、1以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリエーテル(メタ)アクリレート残基であり、R1における(メタ)アクリロイルオキシ基の数とR2における(メタ)アクリロイルオキシ基の数の合計が3以上である)を有するエタノールアミン変性ポリエーテル(メタ)アクリレート、
(β)1分子中に2以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、及び
(γ)光重合開始剤
を含み、
成分(α)の水酸基の個数(a)と成分(β)のイソシアネート基の個数(b)との比(a/b)が0.5〜1.2の範囲にあることを特徴とする活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)をあげることができる。
【0032】
上記式中、R1およびR2は各々、1以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリエーテル(メタ)アクリレート残基であり、R1における(メタ)アクリロイルオキシ基の数とR2における(メタ)アクリロイルオキシ基の数の合計が3以上、好ましくは3〜9であり、より好ましくは4である。上記式(1)において、R1における(メタ)アクリロイルオキシ基の数とR2における(メタ)アクリロイルオキシ基の数の合計が2以下であると、ハードコートの耐傷付性、耐磨耗性および耐汚染性に劣る。R1とR2は互いに同じでも異なっていてもよいが、R1とR2が同じであるのが好ましい。
【0033】
成分(α)は、酸素ラジカルを捕捉する働きをする。一般に、(メタ)アクリロイルオキシ官能基含有化合物はラジカル重合により硬化するところ、ラジカル重合性化合物は、空気中の酸素ラジカルにより重合阻害を受け易く、特にハードコートの表面では、酸素ラジカルにより硬化反応が遅くなる。表面が十分に硬化するように活性エネルギー線の照射時間を長くすると、製造ラインの速度が低下するとともに、ハードコート内部では酸素ラジカルの影響が比較的少ないために、硬化反応が進み過ぎ、脆く、耐折り曲げ性に劣るハードコートになる。一方、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)は、成分(α)が上記式(1)の特定の構造を有するので、酸素ラジカルによる阻害を受けず、したがって、硬化反応速度が速く、かつ耐傷付き性、耐摩耗性、耐汚染性および耐折り曲げ性に優れたハードコートを得ることができる。成分(α)は、エタノールアミン残基を有し、エタノールアミン残基における窒素原子の隣のメチレン基の水素が引き抜かれてラジカルが発生し、そこに酸素ラジカルが結合して捕捉されると考えられる。
【0034】
成分(α)は、例えば、下記式(3)で示される化合物、及び、下記式(4)で示される化合物をエタノールアミンとともに室温で反応させることにより製造することができる。この反応は常温で高活性であり、触媒を必要としない。またゲル化を防止するために、溶剤等を加えて見かけの濃度を低くすることが好ましい。
R1−O−C(=O)−CH=CH
2
(3)
R2−O−C(=O)−CH=CH
2
(4)
ここで、R1およびR2は上記で定義した通りである。
【0035】
なお、成分(α)を上記方法で製造するとき、主な生成物である目的の成分(α)以外にも多種類の副反応物が生成するが、塗料分野では、成分(α)を、これらの副生成物を含んだ状態で使用するのが通常である。
【0036】
上記式(3)および(4)で示される化合物としては、例えば、ダイセル・サイテック株式会社製のTPGDA(商品名)(トリプロピレングリコールジアクリレート)及びOTA480(商品名)(グリセリンプロポキシトリアクリレート)、ならびに日本化薬株式会社製のジペンタエリスリトールヘキサアクリレートがあげられる。
【0037】
上記OTA480は、下記式(5)を有する化合物である。
【0038】
成分(α)として特に好ましいのは、下記式(2)を有する化合物である。
【0039】
成分(α)が上記式(2)を有する化合物であるとき、得られる組成物は保存安定性が良く、また、得られるハードコートは、耐折り曲げ性、三次元成形性、耐傷付性、耐磨耗性および耐汚染性のバランスが非常に良い。また、一般に、基材フィルムに塗料を塗布して得られる積層体を製造する製造ラインでは、積層体をロールに巻き取るときに積層体同士がブロッキングするのを防ぐために、ハードコートの上にセパレータを置くのが通常であるが、成分(α)が上記式(2)の化合物である場合には、硬化反応が非常に速いので、セパレータを使用する必要がないという利点がある。
【0040】
上記成分(β)としては上記で例示した1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物を使用することができる。これらの中で、ハードコートの耐折り曲げ性や塗料の保存安定性の観点から、1分子中にイソシアネート基を3個以上有するものが好ましく、特に、下記式(6)で表される、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体でありかつイソシアネート環構造をもつものや、下記式(7)で表される、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体でありかつトリメチロールプロパンアダクト体であるものが好適に使用され得る。これらはヘキサメチレン鎖の先の互いに離れた位置にイソシアネート基が存在するという構造上の特徴があり、そのため、得られるハードコートは弾性があり、耐傷付性および耐磨耗性に優れる。
【0041】
上記の樹脂組成物は、成分(α)における水酸基と成分(β)におけるイソシアネート基との反応により硬化を生じる。硬化が十分に生じるように、本発明の樹脂組成物は、成分(α)の水酸基の個数(a)と成分(β)のイソシアネート基の個数(b)の比(a/b)が0.5〜1.2、好ましくは0.7〜1.1の範囲にある。上記比が上記下限未満であると、得られるハードコートの耐折り曲げ性に劣る。上記比が上記上限より大きいと、得られるハードコートの水性汚染物、例えば水性マジックに対する耐汚染性に劣る。
【0042】
なお、本明細書では、成分(α)の単位量当たりの水酸基の個数を、JIS−K−1557−1:2007に基づいて決定した。すなわち、成分(α)の水酸基をアセチル化試薬(無水酢酸のピリジン溶液)によりアセチル化した後、過剰のアセチル化試薬を水により加水分解し、生成した酢酸を京都電子工業株式会社の電位差自動滴定装置AT−610型を使用して水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定する方法により上記個数を求めた。また、成分(β)の単位量当たりのイソシアネート基の個数を、JIS−K−7301:1995に基づいて決定した。すなわち、成分(β)のイソシアネート基をジノルマルブチルアミンと反応させた後、過剰のジノルマルブチルアミンを京都電子工業株式会社の電位差自動滴定装置AT−610型を使用して塩酸水溶液で滴定する方法により上記個数を求めた。
【0043】
上記成分(γ)としては、上記で説明した光重合開始剤を使用することができる。成分(γ)の配合量は、他の成分の種類や所望の塗膜厚みにより適宜選択することができ、一般的には成分(α)100質量部に対して、0.5〜10質量部程度である。
【0044】
また上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)は、必要に応じて、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、フィラーなどの添加剤を1種、又は2種以上含んでいてもよい。
【0045】
好ましい任意成分としては、粒子径1nm〜300nmの微粒子をあげることができる。上記微粒子を成分(α)100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは3〜25質量部使用することによりハードコート(3)の硬度を高めることができる。
【0046】
上記微粒子としては、無機微粒子、有機微粒子のどちらも使用することができる。
【0047】
無機微粒子としては、例えば、シリカ(二酸化珪素);酸化アルミニウム、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物、酸化アンチモン、酸化セリウム等の金属酸化物微粒子;弗化マグネシウム、弗化ナトリウム等の金属弗化物微粒子;金属微粒子;金属硫化物微粒子;金属窒化物微粒子;などをあげることができる。有機微粒子としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレン系樹脂、アミノ系化合物とホルムアルデヒドとの硬化樹脂などの樹脂ビーズをあげることができる。これらは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0048】
また微粒子の塗料中での分散性を高めたり、得られる塗膜の硬度を高めたりする目的で、当該微粒子の表面をビニルシラン、アミノシラン等のシラン系カップリング剤;チタネート系カップリング剤;アルミネート系カップリング剤;(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合基やエポキシ基などの反応性官能基を有する有機化合物;脂肪酸、脂肪酸金属塩等の表面処理剤などにより処理したものを使用してもよい。
【0049】
これらの中でより硬度の高いハードコート(3)を得るためにシリカ、酸化アルミニウムの微粒子が好ましく、シリカの微粒子がより好ましい。シリカ微粒子の市販品としては、日産化学工業株式会社のスノーテックス(商品名)、扶桑化学工業株式会社のクォートロン(商品名)などをあげることができる。
【0050】
上記微粒子の粒子径は、ハードコート(3)の透明性を保持するために300nm以下であることが好ましい。また粒子径の粗い場合はハードコート(3)の硬度改良効果を得られないことがある。より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは120nm以下である。一方、粒子径の下限は特にないが、通常入手可能な粒子は細かくてもせいぜい1nm程度である。
【0051】
なお本明細書において、微粒子の粒子径は、日機装株式会社のレーザー回折・散乱式粒度分析計MT3200II(商品名)を使用して測定した粒子径分布曲線において、粒子の小さい方からの累積が50質量%となる粒子径である。
【0052】
また上記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)は、塗工し易い濃度に希釈するため、必要に応じて溶剤を含んでいてもよい。溶剤は硬化性樹脂組成物の成分、及び、その他の任意成分と反応したり、これらの成分の自己反応(劣化反応を含む)を触媒(促進)したりしないものであれば、特に制限されない。例えば、1−メトキシ−2−プロパノール、酢酸nブチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、及び、ダイアセトンアルコールなどの公知のものを使用することができる。
【0053】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)は、これらの成分を混合、攪拌することにより得られる。
【0054】
ハードコート(3)の厚みは0.5μm以上であることが好ましい。これよりも薄いと耐傷付き性の改良効果を得られないことがある。一方、ハードコート(3)の厚みの上限は特にない。しかし、不必要に厚いハードコートはコストアップ要因になるばかりであるから、厚くてもせいぜい60μmである。
【0055】
本発明の積層体は、上記ハードコート(3)を設けるに際し、基材となるシート(1)の表面に、ハードコート(3)との接着強度を高めるため、事前にアンカーコート(2)を設けてもよい。
【0056】
アンカーコート(2)を形成するためのアンカーコート剤としては、1−メトキシ−2−プロパノール、酢酸n−ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、アセトンなどの公知の溶剤に良く溶解し、かつ、十分なアンカー効果を得られるものであれば、特に制限はなく、ポリエステル系、アクリル系、ポリウレタン系、アクリルウレタン系およびポリエステルウレタン系等の慣用のものを使用することができる。市販例として、東洋紡株式会社のバイロン24SS(商品名)、株式会社トクシキのAU2141NT(商品名)などをあげることができる。
【0057】
アンカーコート(2)を設ける場合には、基材となるシート(1)の表面に、慣用の方法でアンカーコート剤を塗布してアンカーコート(2)を形成しておき、このアンカーコート(2)の上にハードコート(3)を積層することができる。
【0058】
アンカーコート(2)の厚みは通常0.1〜5μm程度、好ましくは0.5〜2μmである。
【0059】
ハードコートのための塗料やアンカーコート剤を塗布する方法は特に制限されず、公知のウェブ塗布方法を使用することができる。具体的には、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、エアナイフコート及びダイコートなどの方法があげられる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
シート物性の測定方法
(イ)耐ストレスクラック性
プロクター・アンド・ギャンブル社のオレンジオイル含有アルカリ洗剤「マイスター
プロパー(Meister Proper)」(商品名)20mlに対し、マジックペン用(赤)インキを10滴の割合で混合し試験液とした。
シート(1)を接着剤を介して縦150mm×横18mm×厚み10mmの中密度繊維板(MDF)に、メンブレン成形機を使用して三次元ラミネート加工し、試験片を得た。
上記で得た試験片をまず温度60℃、相対湿度95%の環境下で1週間保管した。
次に試験片の表面の上に30mm×40mmの大きさにカットした日本製紙クレシア株式会社のキムワイプ(商品名)を広げて置き、上記で得た試験液10滴をスポイトを使用してキムワイプ(商品名)上に均一に滴下した。滴下後、キムワイプ(商品名)と試験片との間の気泡をピンセットを使用して抜き、キムワイプ(商品名)と試験片とを密着させたものを温度23℃、相対湿度50%の環境下で保管した。保管時間24時間毎に、上記の試験液10滴を滴下し、気泡を抜いて密着させる操作を繰り返しながら72時間保管した。
所定時間経過後、試験片上の試験液を含んだキムワイプ(商品名)を除去し、試験片を水を染み込ませたキムワイプ(商品名)で水拭きし、更に乾いたキムワイプ(商品名)で乾拭きし、試験片表面に付着した試験液を完全に取除いた。
その後、試験片に生じたクラックを目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:クラックは認められない
○:軽微なクラックがあるのみ
×:明確にクラックを認めることができる
【0062】
(ロ)鉛筆硬度
JIS K 5600−5−4に従い、200g荷重の条件で、鉛筆{三菱鉛筆株式会社の「ユニ」(商品名)}を用いて、シート(1)の表面硬度を評価した。
【0063】
(ハ)耐候性(耐候変退色)
ダイプラ・ウィンテス社のメタルハライドランプ/KFフィルター型促進耐候性試験機「ダイプラ・メタルウェザーKU−R5N−A(商品名)」を使用し、照度70mW/cm
2、温度53℃、相対湿度50%の条件で20時間照射した後、温度30℃、相対湿度98%の条件で4時間照射せずに静置し、その後10秒間純粋を噴霧する一連の動作を1サイクルとして、2サイクルの処理を行った。
未処理の試験片と上記処理後の試験片との色差(ΔE*ab)を、コニカミノルタオプティクス株式会社の分光測色計「CM−600d(商品名)」を使用して測定した。
【0064】
シートの加工性
(ニ)エンボス加工性
シート(1)をエンボス機に通紙し、温度120℃に設定した予熱ロールと押圧ロールとの間に挟み込んで予熱した後、そのまま連続的に、温度を150℃に設定したエンボスロールとゴム表面を持つ平滑ロールとの間に、予熱ロール側になった面がエンボスロール側になるように挟み込んでエンボス加工を行った。エンボス機として予熱ロール、及び、木目導管・梨地メッキの金属製エンボスロールBR−16を備えたものを使用し、圧力5kgf/cm
2
、ライン速度3m/分とした。なお上記の加工条件では、エンボスがほとんど又は全く形成されていない場合、あるいはシートに割れや穴開きがある場合は、予熱ロールの温度を100〜180℃の範囲で、エンボスロールの温度を120〜200℃の範囲で適宜調節した。加工性は以下の基準で目視評価した。
○:少なくとも最適条件では、エンボスがシート表面全体にわたって形成されており、シートの割れや穴開きもない。
×:最適条件でも、エンボスがほとんど又は全く形成されておらず、あるいはシートに割れや穴開きがある。
【0065】
使用した原材料
(A1)テレフタル酸及びイソフタル酸並びにエチレングリコール及びネオペンチルグリコールを構成モノマーとして、全構成モノマーを100モル%としたとき、90モル%以上含む非結晶性ポリエステル系樹脂(A1−1)中国石化儀征化学繊維株式会社のSinopec
FG702(商品名):
モノマー組成はテレフタル酸39.0モル%、イソフタル酸10.2モル%、エチレングリコール42.6モル%、ネオペンチルグリコール7.1モル%、ジエチレングリコール0.6モル%及びビスフェノールA0.5モル%。完全非結晶性のため融解ピークなし(融解熱量0J/g)。密度1330Kg/m
3
【0066】
(A2)ポリブチレンテレフタレート系樹脂
(A2−1)東レ株式会社のトレコン1200M(商品名):
モノマー組成はテレフタル酸50モル%、及び1,4−ブタンジオール50モル%。融解熱量54J/g。密度1310Kg/m
3。
【0067】
(A3)その他のポリエステル系樹脂
(A3−1)イーストマン・ケミカル社のKODAR PETG 6763(商品名):
モノマー組成はテレフタル酸50モル%、エチレングリコール35モル%及び1,4−シクロヘキサンジメタノール15モル%。完全非結晶性のため融解ピークなし(融解熱量0J/g)。密度1270Kg/m
3。
(A3−2)イーストマン・ケミカル社のEASTER PCTG 5445(商品名):
モノマー組成はテレフタル酸50モル%、エチレングリコール18モル%及び1,4−シクロヘキサンジメタノール32モル%。融解熱量11J/g。密度1230Kg/m
3。
(A3−3)イーストマン・ケミカル社のTHERMX PCTA 6761(商品名):
モノマー組成はテレフタル酸40モル%、イソフタル酸10モル%及び1,4−シクロヘキサンジメタノール50モル%。融解熱量23J/g。密度1215Kg/m
3。
【0068】
(B)コアシェルゴム
(B−1)株式会社カネカのカネエースFM−40(商品名):
メタクリル酸エステル・アクリロニトリル/ブチルアクリレートグラフト共重合体。
【0069】
実施例1
上記(A1−1)100質量部、上記(B−1)2質量部、コグニスジャパン株式会社の滑剤「ロキシオールG78(商品名)」0.5質量部、及び、石原産業株式会社の酸化チタン(白色顔料)「タイペークCR−60−2(商品名)」12質量部とのポリエステル系樹脂組成物を用い、Tダイ押出製膜法により厚み250μmの白色の樹脂シートを得た。得られたシートについて上記(イ)〜(ニ)の試験を行った。結果を表1に示す。
【0070】
実施例2〜5、比較例1〜8
用いるポリエステル系樹脂組成物を表1の配合に変更したこと以外は、全て実施例1と同様に行った。実施例2、3及び比較例1〜4は結果を表1に示す。実施例4、5及び比較例5〜8は結果を表2に示す。
【0071】
実施例6
石原産業株式会社の酸化チタン(白色顔料)「タイペークCR−60−2(商品名)」を使用しなかったこと以外は、全て実施例1と同様に行い、透明な樹脂シートを得た。結果を表2に示す。またJIS K
7105に従い測定したヘイズ値は、2.7%であった。
【0072】
比較例9
石原産業株式会社の酸化チタン(白色顔料)「タイペークCR−60−2(商品名)」を使用しなかったこと以外は、全て比較例1と同様に行い、透明な樹脂シートを得た。結果を表2に示す。またJIS K
7105に従い測定したヘイズ値は、2.7%であった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
成分(α−1)の合成
ダイセル・サイテック株式会社製のOTA480(製品名、上記式(5)のグリセリンプロポキシトリアクリレート)と2−アミノエタノールとを前者2モルに対し後者1モルの割合の量でガラス製のビーカーに仕込み、温度23℃で72時間反応させて、上記式(2)の構造を有する、4個のアクリロイルオキシ基を有するエタノールアミン変性ポリエーテルアクリレート(α−1)を得た。成分(α−1)の単位量当たりの水酸基の個数は、上述した方法により測定したところ、1.09モル/kgであった。
【0076】
ハードコート(3)用の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)
成分(α)として成分(α−1)100質量部、成分(β)として日本ポリウレタン工業株式会社製のコロネートHX(商品名、上記式(6)のポリイソシアネート)(β−1)25質量部、成分(γ)としてベンゾフェノン(γ−1)7質量部、その他成分としての平均粒子径80nmの高純度コロイダルシリカ
8質量部、及び、希釈溶剤としての1-メトキシ−2−プロパノール200質量部を攪拌して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)を得た。
なお成分(β−1)の単位量当たりのイソシアネート基の個数は、上述した方法により測定したところ、5.12モル/kgであった。従って比(a/b)は、(1.09×100)/(5.12×25)=0.85である。
【0077】
実施例7
上記実施例1で得たシートの表面に上記で得た活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)を塗布し、乾燥し、紫外線照射し、そして得られた積層体をロールに巻取る工程を一連の製造ラインで、50m/分のライン速度で連続して行った。ロールへの巻取りは、セパレータを使用しなくても良好に行うことができた。上記樹脂組成物の塗布は、フィルムメイヤーバー方式の塗工装置を用い、乾燥後のハードコート厚みが11μmとなるように行った。なお表3及び表4におけるライン速度は、製造ラインにおいて積層体を安定的に製造できる最も速い速度である。得られた積層体について、下記試験(1)〜(7)を行った。結果を表3に示す。
【0078】
実施例8
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)の成分(β)として住化バイエルウレタン株式会社のスミジュールHT(β−2)(商品名、上記式(7)のポリイソシアネート、単位量当たりのイソシアネート基の個数:3.10モル/kg)(B−2)を42質量部の量で使用したこと以外は、実施例7と同様に行った。結果を表3に示す。
【0079】
実施例9〜14
実施例7において活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)の成分(β−1)の量を表2のように変更したこと以外は実施例5と同様に行った。実施例9〜13は結果を表3に示す。実施例14は結果を表4に示す。
【0080】
成分(α−2)の合成
上記成分(α−1)の合成において、OTA480(ダイセル・サイテック株式会社製、商品名)に替えてトリプロピレングリコールジアクリレート(ダイセル・サイテック社製)を使用したこと以外は上記成分(α−1)の合成と同様にして、2個のアクリロイルオキシ基を有するエタノールアミン変性ポリエーテルアクリレート(α−2)を合成した。成分(α−2)の単位量当たりの水酸基の個数は、1.51モル/kgであった。
【0081】
実施例15
実施例12において、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)の成分(α)として成分(α−2)を使用したこと以外は実施例12と同様に行った。このときのライン速度は実施例12と同様に50m/分であったが、ロールへの巻取りにはセパレータが必要であった。結果を表4に示す。
【0082】
実施例16
実施例7において、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)の成分(α)として、トリプロピレングリコールジアクリレート(ダイセル・サイテック社製、単位量当たりの水酸基の個数:0モル/kg)(α−3)を使用し、成分(γ)として、アルキルフェノン系光重合開始剤(チバ・ジャパン株式会社のダロキュア1173(商品名)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)(γ−2)を5質量部の量で使用したこと以外は、実施例7と同様に行った。このときのライン速度は30m/分であった。成分(γ)としてベンゾフェノン(γ−1)を使用しなかったのは、成分(α)が上記(α−3)であるとき、上記(γ−1)では硬化速度が遅いためである。上記(α−3)と上記(β−1)との硬化が、ゲル化することなく速い速度で進むように、成分(γ)として上記(γ−2)を使用した。下記実施例17及び18についても同様である。なお、成分(γ)の量が5質量部であるのは、7質量部では多過ぎてゲル化を生じるからである。結果を表4に示す。
【0083】
実施例17
実施例16において、成分(α)として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製、単位量当たりの水酸基の個数:0.63モル/kg)(α−4)を使用し、比a/bが実施例7と同じ0.85となるように(β−1)の配合量を調節したこと以外は実施例16と同様に行った。結果を表4に示す。なお、上記(α−4)は、構造上は水酸基を有しないが、アクリロイルオキシ基の一部が加水分解された成分を含むために水酸基が存在する。下記実施例18における(α−5)についても同様である。
【0084】
実施例18
実施例16において、成分(α)として、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(日本化薬株式会社製、単位量当たりの水酸基の個数:0.35モル/kg)(α−5)を使用し、比a/bが実施例7と同じ0.85となるように(β−1)の配合量を調節したこと以外は実施例16と同様に行った。結果を表4に示す。
【0085】
実施例19
実施例7において、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(Q)のその他成分としての平均粒子径80nmの高純度コロイダルシリカを使用しなかったこと以外は、全て実施例7と同様に行った。結果を表4に示す。
【0086】
積層体物性の試験方法
(1)60°グロス
JIS−7105 −1981に従い、積層体のハードコート面を測定した。
【0087】
(2)鉛筆硬度
JIS K 5600−5−4に従い、200g荷重の条件で、鉛筆{三菱鉛筆株式会社の「ユニ」(商品名)}を用いて、積層体のハードコート面の硬度を評価した。
【0088】
(3)耐傷付き性−1
上記で得られた積層体を長さ200mm×幅25mmの大きさに切り出して試験片とし、これをハードコート面が表面になるようにJIS L 0849の学振試験機に置いた。続いて、学振試験機の摩擦端子に#0000のスチールウールを取り付けた後、荷重1Kgを載せ、試験片の表面を5往復擦った。上記表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:傷がない
○:1〜3本の傷がある
△:4〜10本の傷がある
×:11本以上の傷がある
【0089】
(4)耐傷付き性−2
上記で得られた積層体を長さ150mm×幅75mmの大きさに切り出して試験片とし、これをハードコート面が表面になるように硝子板上に置いた。仲屋ブラシ工業製の4行真鍮ブラシ(荷重500gf)を用いて、試験片の表面を片道100mmの距離で10往復擦った。上記表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:傷がない
○:1〜3本の傷がある
△:4〜10本の傷がある
×:11本以上の傷がある
【0090】
(5)耐汚染性−1
上記で得られた積層体のハードコート表面を油性赤マジックによりスポット汚染した後、汚染部分を時計皿で被覆し、室温で24時間放置した。次いで、汚染部分を、イソプロピルアルコールを十分含ませたキムワイプ(商品名)を用いて、キムワイプ(商品名)に新たに汚れが付かなくなるまで拭いて洗浄した後、上記部分を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:汚染無し
○:汚染が僅かに残っている
△:汚染がかなり残っている
×:汚染が著しく残っている
【0091】
(6)耐汚染性−2
上記で得られた積層体のハードコート表面を水性赤マジックによりスポット汚染した後、汚染部分を時計皿で被覆し、室温で24時間放置した。次いで、汚染部分を、流水で十分洗浄した後、水道水を十分含ませたキムワイプ(商品名)を用いて、キムワイプ(商品名)に新たに汚れが付かなくなるまで拭いて洗浄した後、上記部分を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:汚染無し
○:汚染が僅かに残っている
△:汚染がかなり残っている
×:汚染が著しく残っている
【0092】
(7)耐折り曲げ性
上記で得られた積層体を100mm×50mmの大きさに切り出し、これを、日東電工製の両面テープNo.500Aを用いて厚さ0.3mmのアルミ板に塗膜面が表面になるように貼り付けて試験片とした。この試験片を、直径2mmのマンドレルを取り付けたJIS K 5600−5−1タイプ1の折り曲げ試験装置を用いて、ハードコート面が外側になる様に2秒をかけて均等な速度で180°に折り曲げた。折り曲げ終了後、折り曲げた箇所の中央30mm部分について、ハードコートの割れ(クラック)の有無を確認し、以下の基準で評価した。
◎:クラック無し
○:クラックが1本ある
△:クラックが2〜3本ある
×:クラックが4本以上ある
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
本発明のポリエステル系樹脂組成物シートの白色に着色した態様(実施例1〜5)は、耐ストレスクラック性、鉛筆硬度、耐候性に優れ、エンボス加工性も良好である。一方、成分(A1)を所定量含んでいない比較例1〜6は、耐ストレスクラック性、鉛筆硬度、耐候性、エンボス加工性の少なくとも何れか1つが劣る。また成分(B)を所定量よりも多く含む比較例7は鉛筆硬度が低く、所定量未満の比較例8はエンボス加工性に劣る。
【0096】
本発明のポリエステル系樹脂組成物シートの透明な態様(実施例6)は、耐ストレスクラック性、鉛筆硬度、透明性に優れ、エンボス加工性も良好である。更に耐候性も比較例9より優れている。一方、成分(A1)を含んでいない比較例9は、耐ストレスクラック性、鉛筆硬度に劣る。
【0097】
また本発明の積層体において、特定のハードコートを採用した態様(実施例6〜11、18)では、優れた光沢、鉛筆硬度、耐傷付性、耐汚染性及び耐折り曲げ性を有する積層体を提供することができる。