特許第6049084号(P6049084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6049084スロッシング防止装置及びスロッシング防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049084
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】スロッシング防止装置及びスロッシング防止方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 25/16 20060101AFI20161212BHJP
   B63B 35/44 20060101ALI20161212BHJP
   B65D 90/52 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B63B25/16 E
   B63B25/16 103
   B63B35/44 Z
   B65D90/52
【請求項の数】21
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-511080(P2013-511080)
(86)(22)【出願日】2012年4月21日
(86)【国際出願番号】JP2012060798
(87)【国際公開番号】WO2012144641
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-95785(P2011-95785)
(32)【優先日】2011年4月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094835
【弁理士】
【氏名又は名称】島添 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】荒井 誠
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−505298(JP,A)
【文献】 実公昭53−044237(JP,Y2)
【文献】 特開2012−066840(JP,A)
【文献】 実開昭60−100294(JP,U)
【文献】 実開昭56−135398(JP,U)
【文献】 実開昭54−077395(JP,U)
【文献】 特表2013−534491(JP,A)
【文献】 韓国公開実用新案第20−2013−0001960(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 25/16
B63B 35/44
B65D 90/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンクに設けられ、該タンク内にスロッシング現象が発生するのを防止するスロッシング防止装置において、
前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置された複数の浮体と、
前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内する複数の鉛直支柱とを有し、
前記浮体は、前記タンク内の自由液面又は自由液面近傍の液体を分割するように鉛直方向に延びる仕切り部分と、液体振動を減衰するように前記仕切り部分から側方に延びる側方突出部分とを有し
前記浮体は、喫水状態で前記自由液面に浮遊する重量を有し、該浮体は、前記自由液面に浮遊して該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめることを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項2】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンクに設けられ、該タンク内にスロッシング現象が発生するのを防止するスロッシング防止装置において
前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置され、前記タンク内の自由液面を分割する直列の浮体列を構成するとともに、液面の上下動に応答して独立に上下動する複数の浮体と、
前記浮体を貫通し、前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内する複数の鉛直支柱とを有し
前記浮体列を構成する前記浮体は、互いに間隔を隔てて配置され、直列方向に隣接する浮体同士の間に、液体が流動可能な間隙が形成されるとともに、前記浮体と前記タンクの内壁面との間に、液体が流動可能な間隙が形成され、
前記間隙の幅(G)と、直列方向の前記浮体の長さ(E)との比(G/E)が、1/100〜1/10の範囲内に設定され、
前記浮体は、喫水状態で前記自由液面に浮遊する重量を有し、該浮体は、前記自由液面に浮遊して該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域及び前記間隙において前記浮体列の両側の液体を連続せしめることを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項3】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンクに設けられ、該タンク内にスロッシング現象が発生するのを防止するスロッシング防止装置において
前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置された複数の浮体と
前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内する複数の鉛直支柱とを有し
前記浮体の喫水量(D)が、タンク全高H×0.1以上の寸法に設定され、或いは、タンク全高H×0.5の液位hにおいて、前記浮体の下部からタンク底面までの距離(h−D)が液位h×0.80以下の寸法に設定され
前記浮体は、喫水状態で前記タンク内の自由液面に浮遊する重量を有し、該浮体は、前記タンク内の自由液面に浮遊して該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめることを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項4】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンクに設けられ、該タンク内にスロッシング現象が発生するのを防止するスロッシング防止装置において
前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置された複数の浮体と
前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内する複数の鉛直支柱とを有し
前記支柱は前記浮体を貫通しており、該支柱の上端部及び下端部を支持する上下の基部が前記タンクの天井面及び底面に固定され、前記基部は、前記浮体が前記天井面又は底面に衝突するのを阻止するとともに、前記支柱の鉛直支点間距離をタンク内領域の高さよりも小さい距離に減縮し、
前記浮体は、喫水状態で前記タンク内の自由液面に浮遊する重量を有し、該浮体は、前記タンク内の自由液面に浮遊して該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめることを特徴とするスロッシング防止装置
【請求項5】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンクに設けられ、該タンク内にスロッシング現象が発生するのを防止するスロッシング防止装置において、
前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置された複数の浮体と、
前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内する複数の鉛直支柱とを有し、
前記タンク内の自由液面は、船体縦方向に配列した前記浮体によって船体横方向に均等に分割され、各々の浮体は、船体縦方向に間隔を隔てた複数の前記鉛直支柱によって支承され且つ案内され、
前記浮体は、喫水状態で前記自由液面に浮遊する重量を有し、該浮体は、前記自由液面に浮遊して該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめることを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項6】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンクに設けられ、該タンク内にスロッシング現象が発生するのを防止するスロッシング防止装置において、
前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置された複数の浮体と、
前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内する複数の鉛直支柱とを有し、
前記タンク内の自由液面は、実質的に平行な複数列に並列配置した前記浮体によって分割され、各浮体は、船体縦方向に間隔を隔てた複数の前記鉛直支柱によって上下動可能に支持され、
前記浮体は、喫水状態で前記自由液面に浮遊する重量を有し、該浮体は、前記自由液面に浮遊して該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめることを特徴とするスロッシング防止装置。
【請求項7】
前記浮体は、水平面及び鉛直面から構成される中空多面体からなり、浮力を確保するための内部中空域を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスロッシング防止装置。
【請求項8】
前記浮体は、前記自由液面又は自由液面近傍の液体を分割するように鉛直方向に延びる仕切り部分と、液体振動を減衰するように前記仕切り部分から側方に延びる側方突出部分とを有することを特徴とする請求項乃至6のいずれか1項に記載のスロッシング防止装置。
【請求項9】
前記浮体は、該浮体の喫水量を調節する浮力調整手段を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のスロッシング防止装置。
【請求項10】
前記浮力調整手段は、前記浮体の内部中空域にタンク内領域の液体を流入させる浮力低減手段、或いは、前記浮体の重量を調節する浮体重量調節手段を有することを特徴とする請求項9に記載のスロッシング防止装置。
【請求項11】
鉛直切断面によって切断された前記タンクの断面は、四角形であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のスロッシング防止装置。
【請求項12】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンク内に発生するスロッシング現象を防止するスロッシング防止方法において、
水平外力に対して支承され且つ液位変動に応答して上下動する複数の浮体を前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置し、
前記浮体を前記タンク内の自由液面に喫水状態で浮遊させ、
鉛直方向に延びる前記浮体の仕切り部分によって前記自由液面及び自由液面近傍の液体を分割し且つ前記仕切り部分から側方に延びる側方突出部分によって液体振動を減衰させるとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめ、これにより、前記タンク内に生じる液体振動の固有周波数を高周波数域の側にシフトさせてスロッシング現象の発生を防止することを特徴とするスロッシング防止方法。
【請求項13】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンク内に発生するスロッシング現象を防止するスロッシング防止方法において
液位変動に応答して上下動する複数の浮体を前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置し
前記浮体を貫通し、前記タンクの天井面及び底面に支持された複数の鉛直支柱をタンク内に配列し、該支柱によって、前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内し、
前記浮体を前記タンク内の自由液面に喫水状態で浮遊させて該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめ、これにより、前記タンク内に生じる液体振動の固有周波数を高周波数域の側にシフトさせてスロッシング現象の発生を防止することを特徴とするスロッシング防止方法
【請求項14】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンク内に発生するスロッシング現象を防止するスロッシング防止方法において
液位変動に応答して独立に上下動する複数の浮体を前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置して、前記タンク内の自由液面を分割する直列の浮体列を形成し、
互いに間隔を隔てて前記浮体列の浮体を配置し、直列方向に隣接する浮体同士の間に、液体が流動可能な間隙を形成するとともに、前記浮体と前記タンクの内壁面との間に、液体が流動可能な間隙を形成し、
前記間隙の幅(G)と、直列方向の前記浮体の長さ(E)との比(G/E)を1/100〜1/10の範囲内に設定し、
前記タンクの天井面及び底面に支持された複数の鉛直支柱をタンク内に配列し、前記浮体を貫通する前記支柱によって、前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内し、
前記浮体を前記自由液面に喫水状態で浮遊させて該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域及び前記間隙において前記浮体列の両側の液体を連続せしめ、これにより、前記タンク内に生じる液体振動の固有周波数を高周波数域の側にシフトさせてスロッシング現象の発生を防止することを特徴とするスロッシング防止方法。
【請求項15】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンク内に発生するスロッシング現象を防止するスロッシング防止方法において、
水平外力に対して支承され且つ液位変動に応答して上下動する複数の浮体を前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置し、
前記浮体の喫水量(D)をタンク全高H×0.1以上の寸法に設定し、或いは、タンク全高H×0.5の液位hにおいて、前記浮体の下部からタンク底面までの距離(h−D)を液位h×0.80以下の寸法に設定し、
前記浮体を前記タンク内の自由液面に喫水状態で浮遊させて該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめ、これにより、前記タンク内に生じる液体振動の固有周波数を高周波数域の側にシフトさせてスロッシング現象の発生を防止することを特徴とするスロッシング防止方法
【請求項16】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンク内に発生するスロッシング現象を防止するスロッシング防止方法において
水平外力に対して支承され且つ液位変動に応答して上下動する複数の浮体を前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置し、
前記タンクの天井面及び底面に支持された複数の鉛直支柱をタンク内に配列し、該支柱によって、前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内し
前記タンクの天井面及び底面に支柱支持用の基部を固定し、前記支柱の上端部及び下端部を前記基部に固定し、前記浮体が前記天井面又は底面に衝突するのを前記基部によって阻止するとともに、前記基部によって前記支柱の鉛直支点間距離をタンク内領域の高さよりも小さい距離に減縮
前記浮体を前記タンク内の自由液面に喫水状態で浮遊させて該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめ、これにより、前記タンク内に生じる液体振動の固有周波数を高周波数域の側にシフトさせてスロッシング現象の発生を防止することを特徴とするスロッシング防止方法
【請求項17】
前記浮体の上昇を阻止する上側基部の下面と、前記タンクの天井面との間の寸法をタンク全高H×0.3以下の範囲内に設定することを特徴とする請求項16に記載のスロッシング防止方法。
【請求項18】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンク内に発生するスロッシング現象を防止するスロッシング防止方法において、
水平外力に対して支承され且つ液位変動に応答して上下動する複数の浮体を前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置し、
船首尾方向に整列配置した前記浮体によって前記タンク内の自由液面を船体幅方向に均等に分割し、
前記浮体を前記自由液面に喫水状態で浮遊させて該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめ、これにより、前記タンク内に生じる液体振動の固有周波数を高周波数域の側にシフトさせてスロッシング現象の発生を防止することを特徴とするスロッシング防止方法。
【請求項19】
液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンク内に発生するスロッシング現象を防止するスロッシング防止方法において、
水平外力に対して支承され且つ液位変動に応答して上下動する複数の浮体を前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置し、
実質的に平行な複数列に並列配置した前記浮体によって前記タンク内の自由液面を分割し、
前記浮体を前記自由液面に喫水状態で浮遊させて該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめ、これにより、前記タンク内に生じる液体振動の固有周波数を高周波数域の側にシフトさせてスロッシング現象の発生を防止することを特徴とするスロッシング防止方法。
【請求項20】
鉛直方向に延びる前記浮体の仕切り部分によって前記自由液面及び自由液面近傍の液体を分割するとともに、前記仕切り部分から側方に延びる側方突出部分によって、液体振動を減衰させることを特徴とする請求項13乃至19のいずれか1項に記載のスロッシング防止方法。
【請求項21】
前記浮体の内部中空域にタンク内領域の液体を流入せしめ、或いは、前記浮体の重量を調節して前記浮体の喫水量を調整することを特徴とする請求項12乃至19のいずれか1項に記載のスロッシング防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロッシング防止装置及びスロッシング防止方法に関するものであり、より詳細には、液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンク内にスロッシング現象が発生するのを防止するメンブレン式液体格納タンクのスロッシング防止装置及びスロッシング防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガスを長距離海上輸送する液化天然ガス運搬船(以下、「LNG船」という。)が知られている。天然ガスを極低温(−162℃)で液化せしめた液相の天然ガス(即ち、液化天然ガス)は、気相の天然ガスと比べて大きく減容するので、輸送効率上極めて有利である。LNG船は、このような極低温(−162℃)に耐える特殊なタンク構造のLNG格納タンクを有する。従来のLNG格納タンクの方式として、球形タンク方式、角形メンブレン方式、角形SPB方式等が知られているが、現状では、球形タンク方式及び角形メンブレン方式のLNG格納タンクが主流である。
【0003】
球形タンク方式のLNG格納タンクは、構造強度的に有利であるが、容積効率の悪化故に船体が大型化する傾向がある。これに対し、メンブレン方式のLNG格納タンクは、同等の積載量であれば球形タンク方式に比べて船体の小型化を可能にするので、建造コストや、航路選択の自由度等の点で有利である。このため、液化天然ガスの需要及び輸送量の増大に伴うLNG格納タンクの大型化傾向と相まって、メンブレン方式のLNG格納タンクがLNG船の設計において採用される傾向が近年殊に顕著である。
【0004】
メンブレン方式のLNG格納タンクの弱点として、半載状態においてタンク内の液体に発生するスロッシング現象が知られている。スロッシング現象は、タンク内に格納された液体貨物等が、タンクの運動により加振され、激しく動揺する現象である。スロッシング現象は、タンクの内壁に作用する過大な液体衝撃圧力、タンク支持構造に対する変動荷重、船体運動への影響、液体貨物の飛散等の問題を生じさせる。他方、固定式プラットフォームに代わる天然ガス生産設備として、LNG−FPSOシステム(Floating Production, Storage and Offloading system: 浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)等のFLNG(Floating LNG)施設が近年注目されている。FPSOは、坑井からの天然ガスを洋上にて受入れ、分離・前処理した後に液化し、LNGとして貯蔵・出荷する。FPSOの浮体は洋上に位置固定されるために、通常の船舶のように荒天時の退避行動をとることができず、しかも、LNGの生産過程、輸送船へのLNG移送過程等において、LNG格納タンクの半載状態が必ず発生する。このため、メンブレン方式のLNG格納タンクを備えたFPSO方式の浮体においては、スロッシング現象の発生が殊に懸念される。
【0005】
特開2009-18608号公報(特許文献1)には、球形独立式タンクとメンブレン式タンクの双方を備えたLNG船が記載されている。特表2011-505298号公報(特許文献2)には、メンブレン方式のLNG格納タンクを備えた大型LNG船に関し、LNG格納タンクを隔壁(バルクヘッド)によって分割するスロッシング防止技術が記載されている。特許文献1に記載されたLNG船は、球形独立式タンク内の液化天然ガスをメンブレン式タンクに適宜移送してメンブレン式タンク内を常に満載状態に維持し、これにより、メンブレン式タンクにおけるスロッシングの発生を防止しようとしたものである。特許文献2に記載されたLNG格納タンクは、隔壁によってタンク内領域を完全に分割し、分割に伴うタンク内領域の容積低減によってスロッシング現象の発生を防止しようとしたものである。
【0006】
また、このようなスロッシング現象は、バラストタンク内のバラスト水においても発生する。バラスト水のスロッシング現象を防止する技術として、浮揚式隔壁によりバラストタンク内のバラスト水自由液面を分割し、隔壁の各側に位置する自由液面の面積を縮小するように構成されたスロッシング防止装置が、実公昭53-44237号公報(特許文献3)に記載されている。また、実開昭53-1792号公報(特許文献4)には、多数の平板状浮揚体をバラスト水自由液面に浮揚させ、自由液面の面積を大きく減縮するように構成されたスロッシング防止装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-18608号公報
【特許文献2】特表2011-505298号公報
【特許文献3】実公昭53-44237号公報
【特許文献4】実開昭53-1792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されたLNG船は、メンブレン式タンク内の液量が減少したときに球形独立式タンク内の液体をメンブレン式タンク内に適宜補給し、これにより、メンブレン式タンクの満載状態を常に維持するようにした構成のものである。このため、特許文献1のLNG船では、異種方式のタンクを常時併用しなければならず、しかも、球形独立式タンクとメンブレン式タンクとの間で液化天然ガスを移送する流体移送設備等が船体に設けられるので、LNG船の構造が全体的に複雑化する。
【0009】
特許文献2に記載されたスロッシング防止装置は、メンブレン式タンク内の領域を隔壁によって完全に分割した構成のものであるが、メンブレン式タンクの内面は、厚さ1mm以下の薄い合金によって形成されているので、高さ25〜40m程度にも達する自立又は直立隔壁の構造的安定性、強度及び耐力、隔壁とタンク内面との接合構造、更には、隔壁を支持する堅固な支持構造等を考慮すると、このような隔壁によってメンブレン式タンクを分割することは、建造コスト上の不利、船体構造の複雑化、船体の設計・建造の困難性等を伴う。
【0010】
特許文献3に記載された浮揚式隔壁は、隔壁を案内し且つ保持する案内・保持用の鋼材をバラストタンクの壁面に固定するとともに、隔壁によってバラスト水の自由液面を分割し、これにより、隔壁の各側に位置する自由液面の面積を縮小する構成を有する。この構成は、バラストタンクのスロッシング防止に関するものである。しかし、厚さ1mm以下の薄い合金によって形成されたメンブレン式タンクの内面は、このような隔壁を支持する強度を保有せず、このような鋼材をタンク内面に取付けることは極めて困難である。また、隔壁は、両端をタンク内壁に上下動可能に支持され、バラストタンクの全長又は全幅に亘って延在しており、このため、大容量の大型タンク内においては隔壁の水平支点間距離(全長)が増大するので、隔壁の強度・耐力を確保することが困難である。更に、スロッシング発生時には、自由液面の液面レベル差が隔壁の長手方向にも若干発生するので、隔壁の高さは、このような液面レベル差以上の寸法に設計しなければらない。また、このような液面レベル差は、隔壁を全体的に傾斜させるので、案内・保持用鋼材が隔壁を傾斜姿勢で拘束又は係止してしまい、この結果、隔壁の自由な上下動が妨げられる状態が生じ易い。
【0011】
特許文献4に記載されたスロッシング防止手段は、多数の板状浮揚体によってバラスト水自由液面の挙動を全体的に押え込む構成のものであるので、多数の浮揚体を上下動可能に支持する多数のガイド部材をタンク内に設置する必要が生じる。この構成は、バラストタンクのスロッシング防止に関しては適用し得るかもしれないが、液化天然ガスを輸送するメンブレン式タンクにおいては、タンク内面は、前述のとおり厚さ1mm以下の薄い合金によって形成されているので、このような多数のガイド部材及びその支持構造をタンク内に設置し難い。また、特許文献4に記載されたスロッシング防止手段は、自由水面の面積を縮小するにすぎず、水面下の水の挙動又は振動を直接的に規制し又は制御することはできない。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、メンブレン式液体格納タンク内に貯留した液体のスロッシング現象を効果的に防止する簡易又は簡素な構造のスロッシング防止装置を提供することにある。
【0013】
本発明は又、メンブレン式液体格納タンク内に貯留した液体のスロッシング現象を簡易又は簡素な構成により効果的に防止することができるスロッシング防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成すべく、液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンクに設けられ、該タンク内にスロッシング現象が発生するのを防止するスロッシング防止装置において、
前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置された複数の浮体と、
前記浮体に作用する水平外力に抗して該浮体を支承するとともに、前記浮体を上下方向に案内する複数の鉛直支柱とを有し、
前記浮体は、予め設定された喫水量(液面から測定した喫水寸法又は没水量を意味し、以下、本明細書及び請求の範囲において「喫水量」という。)を保有した状態で(即ち、喫水状態で)前記タンク内の自由液面に浮遊する重量を有し、該浮体は、前記自由液面に浮遊して該液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめることを特徴とするスロッシング防止装置であって、
以下の構成のいずれかを特徴とするスロッシング防止装置を提供する。
(1)浮体は、タンク内の自由液面又は自由液面近傍の液体を分割するように鉛直方向に延びる仕切り部分と、液体振動を減衰するように仕切り部分から側方に延びる側方突出部分とを有する(請求項1)。
(2)浮体は、タンク内の自由液面を分割する直列の浮体列を構成するとともに、液面の上下動に応答して独立に上下動する。鉛直支柱は、浮体を貫通する。浮体列を構成する浮体は、互いに間隔を隔てて配置され、直列方向に隣接する浮体同士の間に、液体が流動可能な間隙が形成されるとともに、浮体とタンクの内壁面との間に、液体が流動可能な間隙が形成される。間隙の幅(G)と、直列方向の浮体の長さ(E)との比(G/E)は、1/100〜1/10の範囲内に設定される(請求項2)。
(3)浮体の喫水量(D)が、タンク全高H×0.1以上の寸法に設定され、或いは、タンク全高H×0.5の液位hにおいて、浮体の下部からタンク底面までの距離(h−D)が液位h×0.80以下の寸法に設定される(請求項3)。
(4)支柱は、浮体を貫通しており、支柱の上端部及び下端部を支持する上下の基部が、タンクの天井面及び底面に固定され、基部は、浮体が天井面又は底面に衝突するのを阻止するとともに、支柱の鉛直支点間距離をタンク内領域の高さよりも小さい距離に減縮する(請求項4)。
(5)自由液面は、船体縦方向に配列した浮体によって船体横方向に均等に分割され、各々の浮体は、船体縦方向に間隔を隔てた複数の鉛直支柱によって支承され且つ案内される(請求項5)。
(6)自由液面は、実質的に平行な複数列に並列配置した浮体によって分割され、各浮体は、船体縦方向に間隔を隔てた複数の鉛直支柱によって上下動可能に支持される(請求項6)。
【0015】
本発明は又、液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンク内に発生するスロッシング現象を防止するスロッシング防止方法において、
水平外力に対して支承され且つ液位変動に応答して上下動する複数の浮体を前記運搬船又は海洋設備の船体縦方向又は横方向に直列に配置し、
前記浮体を前記タンク内の自由液面に喫水状態で浮遊させて液面及び液面下の液体を分割するとともに、前記浮体の下側領域において該浮体の両側の液体を連続せしめ、これにより、前記タンク内に生じる液体振動の固有周波数を高周波数域の側にシフトさせてスロッシング現象の発生を防止することを特徴とするスロッシング防止方法であって、
以下の構成のいずれかを特徴とするスロッシング防止方法を提供する。
(1)鉛直方向に延びる浮体の仕切り部分によって自由液面及び自由液面近傍の液体を分割し且つ仕切り部分から側方に延びる側方突出部分によって液体振動を減衰させる(請求項12)。
(2)浮体を貫通し、タンクの天井面及び底面に支持された複数の鉛直支柱をタンク内に配列し、支柱によって、浮体に作用する水平外力に抗して浮体を支承するとともに、浮体を上下方向に案内する(請求項13)。
(3)互いに間隔を隔てて浮体列の浮体を配置し、直列方向に隣接する浮体同士の間に、液体が流動可能な間隙を形成するとともに、浮体とタンクの内壁面との間に、液体が流動可能な間隙を形成し、
間隙の幅(G)と、直列方向の浮体の長さ(E)との比(G/E)を1/100〜1/10の範囲内に設定し、
タンクの天井面及び底面に支持された複数の鉛直支柱をタンク内に配列し、浮体を貫通する支柱によって、浮体に作用する水平外力に抗して浮体を支承するとともに、浮体を上下方向に案内する(請求項14)。
(4)浮体の喫水量(D)をタンク全高H×0.1以上の寸法に設定し、或いは、タンク全高H×0.5の液位hにおいて、浮体の下部からタンク底面までの距離(h−D)を液位h×0.80以下の寸法に設定する(請求項15)。
(5)タンクの天井面及び底面に支持された複数の鉛直支柱をタンク内に配列し、支柱によって、浮体に作用する水平外力に抗して浮体を支承するとともに、浮体を上下方向に案内し、
タンクの天井面及び底面に支柱支持用の基部を固定し、支柱の上端部及び下端部を基部に固定し、浮体が天井面又は底面に衝突するのを基部によって阻止するとともに、基部によって支柱の鉛直支点間距離をタンク内領域の高さよりも小さい距離に減縮する(請求項16)。
(6)船首尾方向に整列配置した浮体によって自由液面を船体幅方向に均等に分割する(請求項18)。
(7)実質的に平行な複数列に並列配置した浮体によって自由液面を分割する(請求項19)。
【0016】
本発明の上記構成によれば、タンク内に貯留された液体は、液面と、液面近傍の液体のみが浮体によって分割され、タンク内の液体は、浮体の下側領域において全体的に連続する。各々の浮体は、液面の上下動に応答して独立に上下動する。タンク内の液体振動は浮体の上下動により減衰するとともに、液体振動の固有周波数は自由液面の分割により高周波数域の側にシフトする。本発明によれば、このような固有周波数のシフトにより、海洋波浪及び船体運動とタンク内の液体振動との同調を防止し、スロッシング発生を未然に防止し又は抑制することができる。また、浮体は、タンク内領域をU字管形態に分割するが、本発明者の研究によれば、有害なU字管振動は発生しない。なお、浮体列は、船体の横揺れ(ローリング)によるスロッシングを防止する場合、船体縦方向(船体前後方向、船体長手方向又はローリング軸線方向)に配列され、船体の縦揺れ(ピッチング)によるスロッシングを防止する場合、船体横方向(左右舷方向、船体幅方向又はピッチング軸線方向)に配列される。
【0017】
このような自由液面の分割および液面下の液体の分割により得られるスロッシング防止効果は、タンク内の液体全体を隔壁(バルクヘッド)によって完全に分割した場合に得られるスロッシング防止効果と実質的に同一又は同等であることが本発明者の研究により判明した。即ち、本発明によれば、タンク内の液体を隔壁によって全体的に分割することなく、浮体列をタンク内に浮遊させれば良く、従って、自立又は直立隔壁の構造的安定性、強度及び耐力、隔壁とタンク内面との接合構造、更には、隔壁を支持する堅固な支持構造等の問題を考慮することなく、スロッシング防止機構をタンク内に配設することができる。また、本発明は、スロッシング防止を意図した異種方式タンクの併用や、タンク間の液化天然ガスの移送等を要しない。更に、本発明においては、浮体は、自由液面の挙動を広域に亘って押え込む必要はなく、浮体列によって自由液面及びその近傍の液体を分割すれば良い。かくして、本発明によれば、簡易又は簡素な構造のスロッシング防止機構によりメンブレン式液体格納タンクのスロッシング発生を効果的に防止することができる。
【0018】
また、本発明によれば、複数の浮体により液面を分割すれば良いので、浮体の水平支点間距離が大幅に短縮する。このため、浮体の強度を比較的容易に確保することができる。加えて、浮体列の方向に浮体列に沿って生じる自由液面の液面レベル差は、浮体同士の高低差によって概ね吸収し得るので、浮体の高さ寸法を縮小することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のスロッシング防止装置によれば、メンブレン式液体格納タンク内に貯留した液体のスロッシング現象を簡易又は簡素な構造により効果的に防止することができる。
【0020】
本発明のスロッシング防止方法によれば、メンブレン式液体格納タンク内に貯留した液体のスロッシング現象を簡易又は簡素な構成により効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施形態に係るスロッシング防止装置を備えたLNG船の全体構成を概略的に示す縦断面図である。
図2図2(A)は、図1のI−I線におけるLNG格納タンクの断面図であり、図2(B)は、LNG格納タンクに適用される積みつけ制限の概要を示す断面図である。
図3図3は、スロッシング防止装置を備え且つ四角形断面を有するLNG格納タンクの構成を概念的に示す平面図及び部分拡大平面図である。
図4図4(A)は、図3のII−II線における断面図であり、図4(B)は、図3のIII−III線における断面図である。
図5図5は、浮体の構造及び断面形状を例示する概略断面図である。
図6図6は、左右舷方向(船体横方向)の揺れを生じさせる波の加振周波数と、LNG格納タンク内に発生する横揺角1度当たりの最大波振幅との関係を示す線図であり、LNG格納タンク内の液位比を63%に仮定した条件で求められた数値解析結果が図6に示されている。
図7図7は、左右舷方向の揺れを生じさせる波の加振周波数と、LNG格納タンク内に発生する横揺角1度当たりの最大波振幅との関係を示す線図であり、LNG格納タンク内の液化天然ガスの液位比を30%に仮定した条件で求められた数値解析結果が図7に示されている。
図8図8は、LNG格納タンク内の液体運動の一次固有周波数と、タンク内液位との関係を示す線図である。
図9図9は、浮体による液面の分割の形態を例示する断面図である。
図10図10は、自由液面数の相違と関連した固有周波数のシフトを示す線図である。
図11図11は、図9(A)に示す浮体のスロッシング防止効果を説明するための線図である。
図12図12は、横揺れ中心の高さと最大波振幅との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に説明する本発明の好適な実施形態においては、上記浮体は、互いに間隔を隔てて配置され、隣接する浮体同士の間には、液体が流動可能な間隙が形成される。浮体とタンクの内壁面との間にも又、液体が流動可能な間隙が形成される。これらの間隙を流動する液体の運動は、タンク内の液体振動を減衰するように働くので、液体振動の減衰効果得られ、従って、スロッシング発生効果的に防止することができる。
【0023】
好適には、浮体は、少なくともタンク全高H×0.05以上の喫水量を有し、好ましくは、浮体の喫水量は、タンク全高H×0.1以上の寸法に設定され、或いは、浮体の下部からタンク底面までの距離は、タンク全高H×0.5の液位において、液位h×0.80以下の寸法に設定される。例えば、H×0.3〜H×0.7の範囲(或いは、H×0.4〜0.6の範囲)の液位において、浮体の下部からタンク底面までの距離は、液位h×0.80以下の寸法に設定され、浮体の喫水量は、液位h×0.20以上の寸法に設定される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、鉛直支柱は浮体を貫通する。タンクの天井面及び底面には、支柱の上端部及び下端部を支持する上下の基部が固定される。基部は、浮体の上下動範囲を規制し、浮体がタンクの天井面又は底面に衝突するのを阻止する。基部は又、支柱の鉛直支点間距離をタンク内領域の高さよりも小さい距離に短縮し、支柱の強度及び剛性を向上する。好ましくは、浮体の上昇を阻止する上側基部の下面と、タンク天井面との間の寸法は、タンク全高H×0.3以下の範囲内の値に設定される。更に好ましくは、浮体の降下を阻止する下側基部の上面と、タンク底面との間の寸法は、タンク全高H×0.1以下の範囲内の値に設定される。
【0025】
好ましくは、液体の自由液面は、船首尾方向(船体縦方向)に配列した浮体によって船体幅方向(船体横方向)に均等に分割される。各浮体は、船首尾方向に間隔を隔てた複数の鉛直支柱によって上下動可能に支持される。例えば、浮体は、船首尾方向に延びるタンクの中心軸線上に整列配置され、或いは、実質的に平行な複数列に並列配置される。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、浮体は、水平面及び鉛直面から構成される中空多面体からなる。浮力を確保するための内部中空域が浮体内部に形成される。好適には、浮体は、鉛直方向に延びる仕切り部分と、仕切り部分から側方に延びる側方突出部分とを有する。仕切り部分は、自由液面又は自由液面近傍の液体を分割する。側方突出部分は、液体振動を減衰させるとともに、浮体自身の上下運動を抑制するように機能する。
【0027】
所望により、浮体は、該浮体の喫水量を調節する浮力調整手段を有する。好ましくは、浮力調整手段は、浮体の内部中空域にタンク内領域の液体を流入させる浮力低減手段、或いは、前記浮体の重量を調節する浮体重量調節手段を有する。タンク内液位と関連して喫水量を可変制御可能な浮力制御手段を浮体に設けることも可能である。
【0028】
本発明の或る好ましい実施形態において、鉛直切断面によって切断されたタンクの断面は、四角形である。四角形断面のタンクは、スロッシング防止の観点より、八角形断面のタンクに比べて不利であることから、従来は、容積効率が劣る八角形断面のタンクが一般に採用されてきた。しかし、上記構成のスロッシング防止機構を四角形断面のタンクにおいて採用することにより、スロッシング防止機能を向上し且つ容積効率を向上することができる。
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0030】
図1は、LNG船(液化天然ガス運搬船)の全体構成を概略的に示す縦断面図である。
【0031】
図1には、本発明の実施形態に係るスロッシング防止装置20を備えたLNG船が示されている。LNG船1は、船首部2、タンク区画域3、機関室4及び船尾部5を有する。機関室4の上方には、居住区6及び操舵室7が配置される。タンク区画域3は、左右舷方向(船体幅方向)に延びる隔壁8によって区画されており、各区画には、スロッシング防止装置20を備えたメンブレン方式のLNG格納タンク10が配設される。なお、図1に示すLNG船1を洋上のLNG−FPSOとして把握しても良い。この場合、LNG船1は、海面WL上の位置を固定した状態に係留される。
【0032】
図2(A)は、図1のI−I線におけるLNG格納タンク10の断面図である。図2(A)には、船体が仮想線(一点鎖線)で示されている。
【0033】
LNG格納タンク10(以下、「タンク10」という。)は、船体内部に取付けられた防熱材11の表面(タンク内面)を厚さ1mm以下の金属薄膜(メンブレン)12で完全に被覆した構造を有する。左右舷方向の鉛直切断面(I−I線)によって切断されたタンク10の断面は、八角形である。防熱材11として、発泡パーライト入り合板製ボックス、或いは、ポリウレタン・インシュレーション等が一般に使用される。金属薄膜12として、厚さ0.7mm程度のインバー材(36 %ニッケル鋼)、或いは、SUS3041メンブレン等が一般に使用される。タンク10は、30〜40mの幅を有する大型のメンブレン型LNG格納タンクを構成する。
【0034】
図2(B)は、このようなメンブレン型LNG格納タンクに適用される積みつけ制限を示す断面図である。
【0035】
タンク10内には、液化天然ガス(LNG)を収容可能なLNG収容域15が形成され、液化天然ガスの自由液面LLは、空間的には、LNG収容域15のタンク全高Hの範囲内において任意に設定可能である。しかし、LNG収容域15内の液体(液化天然ガス)にスロッシング現象が発生すると、金属薄膜12に激しく衝突する液体によって極めて高い液圧が金属薄膜12に作用し、この結果、タンク10の構造体が過大な液圧の作用で破壊する虞がある。例えば、多数の木製保冷ボックスからなる防熱材11がスロッシング発生時の液圧により潰れ、金属薄膜12が破断した事例が過去に発生している。金属薄膜12の破断又は損傷により極低温の液化天然ガスが船外に漏出した場合、液化天然ガスは一気に気化し、火災事故等の原因となり得るので、このような事態は、未然に回避すべき必要がある。
【0036】
このような事情より、メンブレン型LNG格納タンクの積みつけ制限が船級協会規則等において規定されており、液面LLは、高さh1又はh3の範囲k1、k3に限定され、高さh2の範囲内(範囲k2)に液面LLが位置するような半載状態は、許容されていない。船級協会規則等の規定は、規則改定等により将来的に変更される可能性もあるが、現行の船級協会規則等において規定された積みつけ条件によれば、高さh1は、タンク全高H×0.1であり、高さh1+h2は、タンク全高H×0.7である。即ち、メンブレン型LNG格納タンクの積みつけ可能な高さ範囲は、タンク全高H×0.7以上の範囲k3、或いは、タンク全高H×0.1以下の範囲k1に制限される。しかし、洋上のLNG−FPSOでは、高さh2の範囲内(即ち、タンク全高H×0.1〜0.7の範囲k2)に液面LLが位置する半載状態が生産過程又は移送過程において必ず生じる。また、大型LNG船においては、2港積み等の要求、即ち、複数の港で液化天然ガスを荷積みしながら多量の液化天然ガスを長距離海上輸送する輸送形態が望まれており、そのような輸送形態では、高さh2の範囲k2内に液面LLが位置する半載状態が過渡的に生じ得る。しかし、このような半載状態に伴うスロッシング発生の懸念より、LNG−FPSOの生産過程又は移送過程において生じるLNG半載状態は、許容し難く、また、LNG半載状態が生じ得る2港積み等のLNG船の輸送形態は、上記積みつけ制限により許可されていない。
【0037】
本例のLNG船1は、このような半載時のスロッシング発生を防止するスロッシング防止装置20を備える。スロッシングは、一種の振動現象であり、タンク10を動揺させる海洋波浪の振動周波数(加振周波数)と、タンク10内の液体運動(液化天然ガスの振動)の固有周波数とが一致し、これらの振動が互いに同調することにより発生する。また、船体自体の横揺れ運動固有周波数とタンク10内の液体運動の固有周波数とが一致することにより、同様の同調現象が生じるので、このような同調についても、注意を要する。タンク10のスロッシング防止装置20は、このような振動の同調を阻止するように機能する。
【0038】
図2(A)に示すように、スロッシング防止装置20は、上下一対の基部21、22と、基部21、22の間において鉛直方向に延びる鉛直支柱23と、上下動可能に鉛直支柱23に支持された浮体24とから構成される。下側に位置する基部21は、タンク底面13上に立設され、上側に位置する基部22は、タンク天井面14から垂下する。鉛直支柱23は、浮体24を上下方向に案内するガイド手段を構成する。上下の基部21、22は、浮体24の上下動範囲を制限するストッパ又は上下動規制手段を構成する。基部21、22は、浮体24がタンク底面13又はタンク天井面14に衝突するのを防止するとともに、鉛直支柱23の上端部及び下端部をタンク底面13及びタンク天井面14に堅固に固定する高剛性の支柱支持体として機能する。鉛直支柱23の支点間距離j2は、基部21、22の高さ寸法j1、j3の設定により定まり、鉛直支柱23の剛性及び強度は支点間距離j2と直接的に関連する。スロッシング発生時には、比較的大きな液圧が水平外力として各浮体24に作用し、従って、比較的大きな水平荷重が鉛直支柱23に作用するが、基部21、22の高さ寸法j1、j3の増大により、支点間距離j2を短縮して、鉛直支柱23の剛性及び強度を向上することができる。
【0039】
高さ寸法j1は、最降下位置の浮体24の下部又は下面からタンク底面13までの距離と実質的に同一であり、高さ寸法j3は、最上昇位置の浮体24の上部又は上面からタンク天井面14までの距離と実質的に同一である。高さ寸法j1〜j3は、高さh1〜h3、範囲k1〜k3に対応する。例えば、高さ寸法j1〜j3は、高さh1〜h3と実質的に同一の値に設定される。所望により、j1≦h1、j3≦h3に設定され、浮体24の十分な上下動範囲が確保される。
【0040】
図3は、タンク10の構成を概念的に示す平面図及び部分拡大平面図であり、図4は、図3のII−II線及びIII−III線における断面図である。但し、タンク10は、四角形(矩形)断面(II−II線断面)を有する。
【0041】
一般に、LNG格納タンクは、 図2に示す如く、底部領域及び頂部領域の幅が漸減する八角形断面に設計される。これは、主にスロッシング防止を考慮した断面形状である。他方、図3及び図4に示すタンク10においては、左右舷方向の鉛直切断面(II−II線)によって切断されたLNG格納タンクの断面は、四角形である。即ち、スロッシング防止装置20のスロッシング防止効果を考慮すれば、LNG格納タンクの断面として必ずしも八角形断面の設計を採用することなく、四角形断面を採用することができる。同等の高さ及び幅を有するタンクを設計する場合、四角形断面のタンクは、八角形断面のタンクと比べて容積効率を向上する上で有利である。
【0042】
図3及び図4に示すように、各タンク10には、複数(本例では3体)の浮体24が互いに間隔を隔てて船首尾方向(船体縦方向)に直列に配置される。液面LLは、浮体24によって左右舷方向に分割される。隣接する浮体24の間には、液化天然ガスが流動可能な間隙又は隙間25が形成される。浮体24とタンク内壁面16との間にも又、液化天然ガスが流動可能な間隙又は隙間26が形成される。例えば、間隙25、26の幅Gと浮体24の全長Eの比は、G/E=1/100〜1/10の範囲内に設定される。
【0043】
鉛直支柱23は、船体前後方向又は船体長手方向(船体縦方向)に延びるタンク10の中心軸線X−X上に整列配置され、各浮体24は、浮体24を貫通する複数の鉛直支柱23(本例では一対の鉛直支柱23)によって上下動可能に支持される。各浮体24は、気密・液密構造の金属製中空体からなり、浮体24自身に作用する浮力によって液面LLに常時浮遊する。浮体24の喫水量Dは、浮体24の自重及び浮力によって定まる。適切な浮体24の喫水量Dを確保し難い場合には、例えば、浮力調節のための液体導入手段として浮体底部に孔又は開口を形成し、浮体24内への液体(液化天然ガス)の浸入を可能にするような構造を採用し、或いは、比較的高比重の液体又は固体等を浮体24内に付加的に収容しても良い。
【0044】
図5は、浮体24の構造を概略的に示す断面図及び斜視図である。図5(A)及び図5(B)には、図2図4に示す逆T字形断面の浮体24が示されており、図5(C)には、側方突出部を備えないI形断面の浮体24が示されている。また、図5(D)には、十字形断面の浮体24が示されており、図5(E)には、逆T字形断面の変形例に係る浮体24が示されている。更に、図5(F)には、逆T字形浮体の下面両側縁に左右一対の垂下突出部29を配設してなる逆Y字形断面の浮体24が示されている。
【0045】
図5(A)及び図5(B)に示す浮体24は、下部が側方に張り出した逆T字形の断面を有する。浮体24は、複数の鞘管28を備える。鞘管28は、角形断面を有し、浮体24を上下方向に貫通する。鉛直支柱23が、各鞘管28に挿通される。鉛直支柱23は、例えば、外形寸法80cm×40cm、板厚5cmのステンレス鋼の角形金属管からなる。このような金属管は、鉛直支柱23の機能を確保する上で十分な構造的強度を発揮することが、簡易な構造設計において確認された。但し、浮体24の液体振動減衰効果を考慮した場合、更に詳細な液体運動シミュレーションを行うことにより、鉛直支柱23の断面寸法を縮小し得るものと考えられる。鞘管28は、鉛直支柱23の外形と相似する矩形断面を有し、鉛直支柱23の外面と鞘管28の内面との間には、所定のクリアランスが確保される。複数の鉛直支柱23は、浮体24の姿勢を維持した状態で浮体24の上下動を案内する。図5(A)及び図5(B)に示す浮体24の変形例として、図5(F)に示す逆Y字形断面の浮体24が挙げられる。突起29は、浮体24の下面近傍の流体の流れを乱すように作用する。
【0046】
図5(C)に示す浮体24は、内部中空域27を有する断面矩形の箱形形状又は筐体形状の中空パネル部材からなり、側方突出部分を備えない。このような断面形状の浮体24は液面LL及び液面近傍の液体を分割し、スロッシング発生を有効に防止する。
【0047】
図5(A)、図5(D)及び図5(E)に示す如く、波無し形状として知られた断面形状、即ち、上下揺れ波強制力を受け難い断面形状を採用することにより、スロッシング発生時の浮体24の上下動を抑制し、浮体24のスロッシング防止効果を更に向上することができる。
【0048】
波無し形状としては、図5(A)、図5(D)及び図5(E)に示すもの以外にも、浮体底部の断面形状を丸く湾曲させた形態のものや、浮体底部を三角形状にした形態のものなどが想定されるが、図5(A)、図5(D)及び図5(E)に示すように側方突出部分を有する浮体24は、液体運動を減衰させる減衰効果を発揮するので、スロッシングを防止する上で有利である。
【0049】
スロッシング防止効果を要する液体振動の周波数は、タンク10の形状・寸法や、タンク10の支持構造等の構造的特性、船体又は浮体式海洋設備の運動特性、或いは、運行海域の波浪特性等により異なる。このため、浮体24の各部寸法を一義的に定めることはできない。因みに、冬季の北大西洋において幅W=40m、タンク全高H=40mのタンク10を有するFPSOに関して横揺れに伴うスロッシング現象を防止する場合、タンク10内の液体振動が周波数0.15Hz以上のものであるという条件において、ほぼ全ての液位hで浮体自体の上下動が少なく、しかも、スロッシング防止効果を発揮する浮体寸法を求めると、図5(A)及び図5(D)に示す断面形状の浮体24では、例えば、T=8m、T1=4.8m、B=3.3m、B1=7mであり、図5(E)に示す断面形状の浮体24では、例えば、T=8m、T1=4.8m、T2=1.6m、B=3.3m、B1=7.6m、B2=2mであった。但し、これら各部寸法の組合せは、あくまで例示であり、同等のスロッシング防止性能を発揮する他のパラメータの組合せも当然に想定されることはいうまでもない。また、浮体24の断面形状についても、下辺を開口した長方形断面(逆凹形断面、略Π字形断面)、逆Y字形断面、X字形断面等の各種形状を採用することも可能である。
【0050】
浮体24は、タンク10内の液体を全体的に分割するのではなく、液面LL及びその近傍の液体のみを分割するので、浮体24の両側の液体は、浮体24の下側領域において連続する。浮体24は、液面LLの挙動に応答して上下動し、タンク10内の液体振動を抑制する。浮体24による液面LLの分割により、液体運動の固有周波数が高周波数側にシフトする。これは、隔壁(バルクヘッド)によるタンク内領域の完全な分割と同等の効果をもたらす。浮体24は、タンク内領域をU字管形態に分割するので、左右の液柱が交互に上昇するU字管振動の発生が懸念されるが、後述するように、U字管振動は比較的小さく、有害なU字管振動は発生しない。
【0051】
図6及び図7は、横揺れ(船体ローリング)1度を船体に与える波の加振周波数と、タンク10内に発生する横揺角1度当たりの最大波振幅μとの関係を示す線図である。最大波振幅μは、静止水平液面に対する振動時の液面縁部上昇量(最大値)である。加振周波数と最大波振幅μとの関係は、幅W=40m、タンク全高H=40mのLNG格納タンクに関する数値解析結果である。図6は、LNG格納タンク内の液化天然ガスの液位比h/Hを63%(従って、h=約25m)に設定した場合に得られた数値解析結果を示す線図であり、図7は、LNG格納タンクの液化天然ガスの液位比h/Hを30%(従って、h=12m)に設定した場合に得られた数値解析結果を示す線図である。横揺れ中心Cの位置は、タンク横断面の中心(Xc=20m、Zc=20m)に設定された。
【0052】
図6及び図7には、冬季に北大西洋で発生する確率が高い海洋波浪の周波数が、加振周波数の周波数域αとして示されている。冬季の北大西洋において発生する海洋波浪は、概ね周波数域αの周波数(約0.11〜約0.14Hzの周波数)を有する。また、図6及び図7には、LNG船1の船体のローリング固有周波数が示されている。本例においては、船体のローリング固有周波数は、周波数域αよりもかなり低い周波数域に顕れる。
【0053】
図6及び図7に示す数値解析結果は、幅W=40m、タンク全高H=40mの断面を有する以下の3種類のLNG格納タンクに関するものである。
(1)スロッシング防止装置や隔壁を備えず、タンク内領域に内構材を全く備えていないLNG格納タンク(比較例1)
(2)タンク内領域を左右に分割する隔壁をスロッシング防止装置20の位置(幅方向中央)に備えたLNG格納タンク(比較例2)
(3)スロッシング防止装置20を備えた本発明のタンク10(本実施例)
【0054】
内構材を全く備えないLNG格納タンク(比較例1)では、0.13〜0.14Hz(図6)、或いは、約0.12Hz(図7)の加振周波数において最大波振幅μが急激に増大し、この周波数は、周波数域αの範囲内に顕れる。従って、比較例1のLNG格納タンクは、海洋波浪に同調する同調点を周波数域αに有するので、海洋波浪とタンク内の液体とが同調してスロッシングが発生する虞があると考えられる。
【0055】
隔壁によってタンク内領域を分割した比較例2のLNG格納タンクにおいては、0.20〜0.21Hz(図6)、或いは、約0.20Hz(図7)の加振周波数において最大波振幅μが急激に増大する。この周波数は、周波数域αよりもかなり高い周波数域に属する。即ち、隔壁によってタンク内領域を分割することにより、同調点が高周波数側に大きくシフトするので、海洋波浪とタンク内の液体との同調を防止し、スロッシング発生を未然に防止することができる。しかしながら、自立又は直立隔壁の構造的安定性、強度及び耐力、隔壁とタンク内面との接合構造、更には、隔壁を支持する堅固な支持構造等を考慮すると、隔壁によってメンブレン式タンクを分割することは、建造コスト上の不利、船体構造の複雑化、船体の設計・建造の困難性等の事情より、経済的又は実務的困難を伴う。
【0056】
他方、スロッシング防止装置20を備えた本実施例のタンク10においては、比較例2と同じく、0.20〜0.21Hz(図6)、或いは、約0.20Hz(図7)の加振周波数において最大波振幅μが急激に増大し、この周波数は、周波数域αよりもかなり高い周波数域に属する。即ち、スロッシング防止装置20の浮体24によってタンク内の液面LL及びその近傍の液体のみを分割することにより、隔壁を備えた比較例2のLNG格納タンクと同じく、同調点を高周波数側に大きくシフトし、従って、海洋波浪とタンク内の液体との同調を防止して、スロッシング発生を未然に防止することができる。
【0057】
図6(下側の線図)には、液面LLに対する浮体24の上下動と加振周波数との関係が示されている。0.20〜0.21Hzの周波数域において生じる浮体24の上下動は、比較的小さい挙動であるにすぎない。また、図6には、0.14〜0.15Hzの周波数域においても浮体24が上下動することが示されている。これは、浮体24自身の固有周波数がこの周波数域にあることに起因するにすぎず、この上下動も又、比較的小さい挙動である。
【0058】
図8は、LNG格納タンク内の液体運動の一次固有周波数f1と、タンク内液位hとの関係を求めた数値計算の計算結果を示す線図である。図8には、内構材を全く備えないタンク全高H=40mのLNG格納タンクに関し、タンクの幅Wを40m、20m、15mに変化させた場合に得られる一次固有周波数f1とタンク内液位hとの関係が示されている。また、図8には、冬季に北大西洋で発生する確率が高い海洋波浪の周波数が前述の周波数域αとして示されている。図8において、液位h及びタンク幅Wが周波数域αの領域に該当する場合、スロッシング現象が極めて発生し易い条件が成立すると考えられる。なお、一次固有周波数f1は、図8に示すスロッシング固有周波数推定式より求められた。
【0059】
図8に示す如く、幅W=40mのLNG格納タンクの一次固有周波数f1は、液位h=約8mを超えると周波数域αに顕れる。即ち、幅W=40mのLNG格納タンクのスロッシング現象を確実に防止するには、液位hを8m以下に制限する必要があると考えられる。これに対し、幅W=20mのLNG格納タンクの一次固有周波数f1は、液位h=約2〜3mにおいて周波数域αに顕れるが、液位h=約4m以上の状態では、周波数域αよりも高い周波数域に顕れる。また、幅W15mのLNG格納タンクの一次固有周波数f1は、液位h=約2mにおいて周波数域αに顕れるが、液位h=約3m以上の状態では、周波数域αよりも高い周波数域に顕れる。即ち、幅W=20m又は15m(即ち、幅20m以下)のLNG格納タンク内の液体は海洋波浪と同調し難く、従って、スロッシング現象は、発生し難い。これは、幅W=40mのLNG格納タンクを幅W=20m以下の小区画に分割することにより、海洋波浪とタンク内の液体との同調を防止してスロッシング発生を回避し得ることを意味する。なお、幅W=20mのLNG格納タンクでは、液位h=約2〜3mにおいて周波数域αに該当し、幅W=15mのLNG格納タンクでは、液位h=約2mにおいて周波数域αに該当するが、このような液位は、従来より積みつけを許容された液位、即ち、LNG格納タンクに損傷を生じさせるような過大な液圧がタンク内に発生しないタンク全高H×0.1以下の積みつけ状態(図2(B)に示す範囲k1)であるにすぎない。
【0060】
即ち、図8から理解し得るように、隔壁によってLNG収容域15を幅20m以下の区画に完全に分割することにより、スロッシングを効果的に防止することができる。図6及び図7に示すとおり、液面LL及びその近傍の液体を浮体24によって分割することは、隔壁によってLNG収容域15を完全に分割するのと同等のスロッシング防止作用を発揮する。従って、浮体24により液面LL及びその近傍の液体を20m以下の区画に分割した本実施形態のタンク10によれば、隔壁によるLNG収容域15の分割と同じく、スロッシングを有効に防止することができる。また、隣接する浮体24の間に形成された間隙25、26(図3及び図4)は、間隙25、26を流通する液体の流れを乱し、液体振動を減衰させる作用を発揮するので、本実施形態のスロッシング防止装置20によれば、このような間隙25、26の形成によってスロッシング発生を更に効果的に防止することができる。しかも、液面LL及びその近傍の液体を浮体24によって分割する本実施形態の構成は、隔壁の設置に伴う構造上の不利等を伴わない。
【0061】
図9は、浮体24による液面LLの分割の形態を例示するタンク10の断面図であり、図10は、自由液面数Nの相違と関連した固有周波数のシフトを示す線図である。なお、図9に示す液面上昇量ηは、静止水平液面に対する振動時の液面縁部上昇量であり、図10に示す最大波振幅ηmaxは、船体の横揺角を1度に設定した条件で得られた液面上昇量ηの最大値である。
【0062】
図9には、幅W=58m、全高H=40mのタンク10が示されている。図9(A)には、液面LLを単一列の浮体24によって均等分割した状態(N=2)が示されており、図9(B)には、液面LLを二列の浮体24によって均等分割した状態(N=3)が示されており、図9(C)には、液面LLを三列の浮体24によって均等分割した状態(N=4)が示されている。浮体24は、タンク10の中心軸線方向に整列配置されている。各浮体24は、内部中空域を有する断面矩形の箱形形状又は筐体形状の中空パネルからなり、喫水量D=14.2m、幅B=2mの各部寸法を有する。なお、液位は、高さh=25.2mに設定され、横揺れ中心Cの位置は、タンク横断面の幅方向中心(Xc=20m)、高さZc=10mの位置に設定された。
【0063】
図10に示されるように、自由液面数Nの増大に伴って、同調点が高周波数域の側にシフトする。従って、船体構造、タンク形状、液位等の条件に相応して浮体24の配置及び列数等を適切に設定することにより、同調点を所望の如く高周波数域の側にシフトさせることができる。
【0064】
図11は、幅W=58m、全高H=40mのタンクに喫水量D=5m、幅B=2mの断面矩形の箱形形状浮体を設置した場合に得られるスロッシング防止効果を説明するための線図である。図11(A)には、浮体24を備えないタンク10のタンク端部(液面縁部)に生じる時々刻々の液面上下位置の変化が示されており、図11(B)には、浮体24を備えたタンク10のタンク端部に生じる時々刻々の液面上下位置の変化が示されている。各図に示す液面上下位置は、有義波高5.95m、波の平均周期10.1秒の不規則な波が船体に作用した状態に生じる液面上下位置の数値解析結果である。
【0065】
図11(A)に示すように、浮体24を備えないタンク10においては、スロッシングにより、液面上下位置η=15m以上の液体振動が発生し、タンク10内の液体がタンク天井面14に衝突する現象が発生する。これに対し、浮体24を備えたタンク10においては、浮体24がスロッシングを効果的に防止するので、そのような過大な液体振動は、図11(B)に示すように発生しない。
【0066】
図12は、横揺れ中心Cの高さZcの変化と、前述した最大波振幅ηmaxとの関係を示す線図である。
【0067】
横揺れ中心Cの高さZcを幅方向中心位置(Xc=W/2)においてZc=20m、10m、5mに設定変更した場合、横揺れ中心Cを下方に設定変更するにつれて、0.20Hz近傍の最大波振幅ηmaxが大きく増大する。他方、0.10Hz近傍においても、横揺れ中心Cを下方に設定変更するにつれて、最大波振幅ηmaxが増大する現象が発生する。この現象は、浮体24によってタンク内領域がU字管形態に変形したことによりU字管振動が発生したことに起因すると考えられる。このようなU字管振動は、比較的長時間に亘って同一又は同等条件の加振を持続することによって発生する現象であるので、U字管振動が発生する可能性は比較的低い。仮にU字管振動が発生したとしても、図12に示されるように、0.10Hz近傍の周波数域において生じる振動は比較的小さく、従って、浮体24を設けることによっては、有害なU字管振動が発生する虞はないと考えられる。
【0068】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0069】
例えば、上記実施形態においては、タンク10内に3体の浮体24を直線状に整列配置したが、2体又は4体以上の浮体24をタンク10内に直線状に整列配置しても良い。
【0070】
また、上記実施形態においては、単一の浮体列をタンク10の中心軸線X−X上に配置し、液面LLを左右均等に分割したが、2以上の浮体列をタンク10内に配置しても良く、或いは、液面LLを不均等に分割することも可能である。
【0071】
更に、上記実施形態においては、一対の鉛直支柱23によって各浮体24を支持する構成を採用したが、3本以上の鉛直支柱23によって各浮体24を支持しても良い。
【0072】
また、浮体24は、必ずしも厳密に直線上又は一直線に整列配置されなくとも良く、例えば、若干ずれた状態の浮体配列(千鳥配列等)を採用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、液体貨物運搬船又は浮体式海洋設備のメンブレン式液体格納タンクに好ましく適用し得るものである。本発明のスロッシング防止技術は、半載状態で液体貨物を貯留し又は輸送することが困難であると従来より認識されてきた大型のLNG船又はFLNG施設において好ましく使用することができる。本発明は、このような大型LNG船又はFLNG施設が半載状態で液体貨物を貯留し又は輸送するのを可能にするので、その実用的効果は顕著である。また、本発明のスロッシング防止装置は、任意の液体貨物を搭載する船舶のタンクに適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 LNG船(液化天然ガス運搬船)
10 LNG格納タンク
20 スロッシング防止装置
21、22 基部
23 鉛直支柱
24 浮体
D 喫水量
LL 液面(自由液面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12