(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049123
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60K 6/40 20071001AFI20161212BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20161212BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20161212BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20161212BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20161212BHJP
B60W 20/20 20160101ALI20161212BHJP
【FI】
B60K6/40ZHV
B60K6/543
B60K6/52
B60K6/48
B60K6/387
B60W20/20
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-29766(P2012-29766)
(22)【出願日】2012年2月14日
(65)【公開番号】特開2013-166422(P2013-166422A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(72)【発明者】
【氏名】平瀬 浩美
【審査官】
大山 健
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−056366(JP,A)
【文献】
特開2006−168442(JP,A)
【文献】
特開2006−264462(JP,A)
【文献】
特開2011−189798(JP,A)
【文献】
特開2011−093458(JP,A)
【文献】
特開2007−261348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/00− 6/547
B60W 10/00−50/16
B60K 17/00−17/36
B60L 1/00−15/42
F02D 29/00−29/06
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
F16D 48/00−48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸に、入力軸の一端が連結される無段変速機と、
前記無段変速機の入力軸の他端に、第1のクラッチを介してモータ軸の一端が連結されるモータと、
前記モータ軸の他端に第2のクラッチを介して連結されると共に、前記無段変速機の出力軸に第3のクラッチを介して連結される高速走行用のギヤ列と、
前記エンジンの出力軸と前記無段変速機の入力軸とを直接連結する第4のクラッチを有する遊星歯車機構と、を備え、
前記モータは、前記第1のクラッチ、前記第3のクラッチ、前記第4のクラッチ及び前記遊星歯車機構が開放された状態で前記第2のクラッチを介して前記高速走行用のギヤ列に動力を伝達することを特徴とするハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項2】
前記モータは、前記第1のクラッチを介して前記無段変速機の入力軸に動力を伝達し、前記第4のクラッチは、前記モータの動力により前記無段変速機の入力軸が前記エンジンの出力軸の回転数に同期されてから連結することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【請求項3】
前記無段変速機は、前記入力軸に軸支されるプライマリプーリと前記出力軸に軸支されるセカンダリプーリとの間に伝動部材を巻装してなる無段変速機であることを特徴とする請求項1又は2記載のハイブリッド車両の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン及びモータを走行動力源とするハイブリッド車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、低公害、省資源の観点からエンジンとモータを動力源として走行するハイブリッド車両が開発されている。このハイブリッド車両においては、モータとして、発電用と駆動用との2つのモータに対して、発電及び駆動用の1つのモータを搭載する場合があり、このような1モータ型のハイブリッド車両では、モータ単独の駆動力は大きくないものの、変速機とを組み合わせることで市街地走行の燃費向上を図ることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、エンジンとモータ・ジェネレータとベルト式無段変速機とを搭載したハイブリッド車両が開示されている。このハイブリッド車両では、エンジンの駆動力をメインシャフトからベルト式無段変速機およびカウンタシャフトを介して車輪に伝達して走行する際に、駆動力がカウンタシャフトから動力伝達手段を介してモータ・ジェネレータに逆伝達されるのをワンウェイクラッチにより阻止し、モータ・ジェネレータの引きずりによる駆動力の損失を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−261348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、1モータ型のハイブリッド車両においては、モータと無段変速機と組み合わせることで市街地走行の燃費向上を図ることができるが、高速走行時には燃費向上の効果が比較的小さい。これは、モータによる高速走行を行う場合、無段変速機は、元来、高速走行を得意としないことに加えて、エンジンや変速機の負荷の影響が大きくなるからである。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、エンジン及び無段変速機の負荷を低減してモータによる効率的な高速走行を実現することのできるハイブリッド車両の駆動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるハイブリッド車両の駆動装置は、エンジンの出力軸に、入力軸の一端が連結される無段変速機と、前記無段変速機の入力軸の他端に、第1のクラッチを介してモータ軸の一端が連結されるモータと、前記モータ軸の他端に第2のクラッチを介して連結されると共に、前記無段変速機の出力軸に第3のクラッチを介して連結される高速走行用のギヤ列と、前記エンジンの出力軸と前記無段変速機の入力軸とを直接連結する第4のクラッチを有する遊星歯車機構と、を備え、前記モータは、前記第1のクラッチ、前記第3のクラッチ
、前記第4のクラッチ
及び前記遊星歯車機構が開放された状態で前記第2のクラッチを介して前記高速走行用のギヤ列に動力を伝達する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンジン及び無段変速機の負荷を低減してモータによる効率的な高速走行を実現することができ、車両全体としての燃費向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ハイブリッド車両の駆動装置を示す基本構成図
【
図4】エンジン走行モードにおける各クラッチの状態を示す説明図
【
図5】モータ走行モードにおける各クラッチの状態を示す説明図
【
図6】高速走行モードにおける各クラッチの状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、エンジンとモータとを走行動力源として搭載するハイブリッド車両の駆動装置1を示し、この駆動装置1は、基本構成として、エンジン2、トルクコンバータ3、遊星歯車機構4、変速機構10、モータ20を備えている。具体的には、エンジン2は、ガソリン等を燃料として動力を発生する内燃機関であり、このエンジン2の出力軸2aがロックアップクラッチ3aを備えたトルクコンバータ3を介して遊星歯車機構4のサンギヤ4sに連結されている。
【0011】
遊星歯車機構4は、サンギヤ4sとピニオンギヤ4pとキャリア4cとリングギヤ4rとを有するシングルピニオン型遊星歯車機構であり、エンジン直結走行及び後退走行用の2つのクラッチ5,6を備えている。詳細には、遊星歯車機構4のサンギヤ4sは、複数のピニオンギヤ4pと噛合する外歯歯車であり、トルクコンバータ3を介してエンジン2の出力軸2aに連結されている。また、ピニオンギヤ4pは、サンギヤ4sに噛合すると共にリングギヤ4rに噛合する外歯歯車であり、キャリア4cに自転且つ公転自在に保持されている。
【0012】
キャリア4cは、変速機構10の入力軸10aに連結されると共に、クラッチ5を介してサンギヤ4sと連結可能に構成されている。また、リングギヤ4rは、サンギヤ4sと同心円上に配置されて複数のピニオンギヤ4pと噛合する内歯歯車であり、クラッチ6を介して変速機ケース等の固定部材7に連結可能に構成されている。
【0013】
次に、変速機構10は変速比が連続的に可変される無段変速機(CVT)であり、本実施の形態においては、入力軸10aに軸支されるプライマリプーリ10bと出力軸10cに軸支されるセカンダリプーリ10dとの間に、金属ベルトやチェーン等の伝動部材10eが巻装されて構成される巻き掛け式の無段変速機である(以下、変速機構10をCVT10と記載する)。CVT10は、プライマリプーリ10bの入力軸10aの前端側が遊星歯車機構4のリングギヤ4rに連結されると共に、プライマリプーリ10bの入力軸10aの後端側がクラッチ11を介してモータ20のモータ軸20aに連結されている。
【0014】
モータ20は、発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる同期電動機であり、ロータ20bを軸支するモータ軸20aの前端側がクラッチ11を介してCVT10の入力軸10aの後端側に連結されると共に、モータ軸20aの後端側がクラッチ12を介して高速走行用のオーバードライブ(OD)ギヤ列13の大径ギヤ13aに連結されている。モータ20の前後に設けられた第1,第2のクラッチとしてのクラッチ11,12は、後述するように、モータ20の駆動系内での連結/切り離しを行うクラッチであり、解放時に引き摺りを極力発生させないよう、ドッグクラッチやシンクロリング等を採用する。
【0015】
一方、CVT10のセカンダリプーリ10dは、出力軸10cの後端側にギヤ列14の一方のギヤ14aが連結されている。このギヤ列14のギヤ14aに噛合する他方のギヤ14bは、第3のクラッチとしてのクラッチ15を介して駆動軸16に連結され、この駆動軸16に、ODギヤ列13の大径ギヤ13aに噛合する小径ギヤ13bが介装されている。尚、クラッチ15は、コースティング走行時に車輪側からCVT10に駆動力が逆伝達された場合にスリップさせることにより、CVT10を保護する機能を有している。
【0016】
更に、ODギヤ列13の小径ギヤ13bは、トランスファーギヤ列17の中間ギヤ17aに同軸上で連結されており、この中間ギヤ17aに噛合するギヤ17a,17bを介して前後輪に駆動力が配分される。すなわち、トランスファーギヤ列17の中間ギヤ17aに噛合するギヤ17bからクラッチ18及びリヤデファレンシャル装置(図示せず)を介して後輪R側に駆動力が配分されると共に、ギヤ17bに対向して中間ギヤ17aに噛合するギヤ17cからフロントデファレンシャル装置(図示せず)を介して前輪F側に駆動力が分配される。尚、後輪側のクラッチ18は、走行状態に応じて締結制御される。
【0017】
この場合、CVT10のセカンダリプーリ10d後段の駆動軸16側の構成は、
図1に示すような構成に限定されるものではなく、モータ20とのインターロックを生じない構成であれば良く、例えば
図2、
図3に示すような構成でも良い。
図2に示す構成では、モータ20の後端側に配置するODギヤ列13を、大径ギヤ13aと小径ギヤ13bとの間に中間ギヤ13cを介在させたODギヤ列13’とし、CVT10のセカンダリプーリ10dの出力軸10c後端を、クラッチ15を介してODギヤ列13’の小径ギヤ13bに連結している。また、
図3に示す構成では、
図2の構成に対して、ODギヤ列13’の中間ギヤ13cに代えて、大径ギヤ13aと小径ギヤ13bとをチェーン19で連結する構成としている。
【0018】
以上の構成を有する駆動装置1は、以下の(1)〜(3)に示すような走行モードに応じて、クラッチ5,6,11,12,15の締結/開放が切換えられ、エンジン負荷の低減、モータ負荷の低減、CVT停止による負荷の低減、高速走行の更なる燃費改善を図るようにしている。
(1)エンジン走行モード
(2)モータ走行モード
(3)高速走行モード
【0019】
以下、各走行モードについて
図4〜
図6を参照して説明する。尚、
図4〜
図6においては、動力が伝達される経路を形成する要素を太線で示している。
【0020】
(1)エンジン走行モード
エンジン2の動力のみによる走行モードでは、
図4に示すように、遊星歯車機構4のクラッチ5を締結してサンギヤ4sとキャリア4cとを結合させ、エンジン2の出力軸2aをCVT10の入力軸10aに直結させる。また、CVT10の出力軸10c側のクラッチ15を締結し、同時に、モータ20の前後に配置されたクラッチ11,12を開放し、モータ20を動力経路から切り離す。このとき、モータ20の回転はほぼ止まった状態に近くなり、エンジン走行モードにおけるモータ20の回転負荷を削減することができ、燃費改善に寄与することができる。
【0021】
(2)モータ走行モード
モータ20の動力のみによる走行、すなわち、EV(電気自動車)としての走行モードでは、
図5に示すように、クラッチ5,6を開放して遊星歯車機構4を開放状態とし、クラッチ11を締結してモータ20のモータ軸20aとCVT10の入力軸10aとを結合すると共に、CVT10の出力軸10c側のクラッチ15を締結する。このとき、モータ軸20aの後端側のクラッチ12は、ODギヤ列13によるインターロックを回避するため、解放状態にする。モータ走行モードでは、エンジン走行モードとは逆にエンジン2を動力経路から切り離すことで、エンジン負荷を削減し、燃費改善を図ることができる。
【0022】
尚、クラッチ11を締結、クラッチ12を開放とした
図3の状態で、クラッチ6を締結してエンジン2からの動力を遊星歯車機構4のサンギヤ4sに入力することで、エンジン2の動力とモータ20の動力とをCVT10を介して出力するハイブリッド走行モードとすることができる。
【0023】
(3)高速走行モード
エンジンが始動状態でモータによる高速走行を行う場合、微力のモータでは走行が厳しい。そこで、高速走行モードでは、
図6に示すように、クラッチ5,6を開放して遊星歯車機構4を開放状態とし、エンジン2を切り離してエンジン負荷を遮断する。また、CVT10とモータ20との間のクラッチ11を開放すると共に、CVT10出力側のクラッチ15を開放することで、CVT10のプーリの回転を停止させて変速機負荷を低減する。その状態で、クラッチ12を締結してモータ20の動力をODギヤ列13を介して前後輪に出力する。これにより、高速走行時のエンジン負荷と変速機負荷とを大幅に低減することができ、モータ20による効率的な高速走行を実現し、車両全体としての燃費向上を図ることができる。
【0024】
この場合、CVT10のプーリ停止状態からの復帰は、クラッチ11を締結してモータ20によりプーリ回転をエンジン回転まで同期させ、クラッチ5,6を締結することで、プーリ停止状態から円滑に回転復帰させることができる。
【0025】
尚、各モードでのクラッチの切換えは、エンジン駆動のポンプで発生させた油圧による切換えでも良いが、エンジン負荷を低減するためには、電動アクチュエータを用いて各クラッチを切換えることが望ましい。
【0026】
このように本実施の形態においては、モータ20の前後にクラッチ11,12をそれぞれ配置すると共にクラッチ12を介して高速走行用のODギヤ列13を連結し、このODギヤ列13を、クラッチ15を介してCVT10の出力軸に連結するようにしている。このような構成により、各クラッチ11,12,15を断続制御して、エンジン(エンジン+モータ)の駆動力をCVT10を介して出力するのみならず、エンジン負荷及び変速機負荷を低減してモータ20の駆動力をODギア列13を介して効率的に出力することが可能になり、車両全体としての燃費を向上することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 駆動装置
2 エンジン
2a 出力軸
4 遊星歯車機構
10 変速機構(無段変速機)
10a 入力軸
10b プライマリプーリ
10c 出力軸
10d セカンダリプーリ
10e 伝動部材
11 第1のクラッチ
12 第2のクラッチ
15 第3のクラッチ
13 ODギヤ列
20 モータ
20a モータ軸