特許第6049142号(P6049142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6049142マイクロクラックの発生を遅延させたコージエライト多孔質セラミックハニカム構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049142
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】マイクロクラックの発生を遅延させたコージエライト多孔質セラミックハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20161212BHJP
   C04B 35/195 20060101ALI20161212BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20161212BHJP
   F01N 3/10 20060101ALN20161212BHJP
   F01N 3/022 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   C04B38/00 304Z
   C04B38/00 303Z
   C04B35/16 A
   B01D39/20 D
   !F01N3/10 Z
   !F01N3/022 B
【請求項の数】6
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-542114(P2013-542114)
(86)(22)【出願日】2011年11月30日
(65)【公表番号】特表2014-505647(P2014-505647A)
(43)【公表日】2014年3月6日
(86)【国際出願番号】US2011062489
(87)【国際公開番号】WO2012075060
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2014年11月28日
(31)【優先権主張番号】12/956,378
(32)【優先日】2010年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ビール,ダグラス マンロー
(72)【発明者】
【氏名】マーケル,グレゴリー アルバート
(72)【発明者】
【氏名】ムルタ,マーティン ジョセフ
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0142541(US,A1)
【文献】 特開2003−154264(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0297764(US,A1)
【文献】 特表2010−527874(JP,A)
【文献】 特表2009−542429(JP,A)
【文献】 特開平01−003067(JP,A)
【文献】 特開平07−010650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00−38/10
C04B 41/80−41/91
B01J 35/04
B28B 11/00−19/00
F01N 3/021
B01D 39/20
B01D 46/00
B01D 53/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミックハニカム構造体を形成する方法であって、
コージエライト形成性原料、ガラス形成性原料、少なくとも1種のセラミック加工助剤および水を含むバッチ混合物を生成する工程と、
前記バッチ混合物を未焼成ハニカム成形体に押出成形する工程と、
前記未焼成ハニカム成形体を、コージエライト主相および粒界ガラス相を有する多孔質セラミックハニカム構造体が生成するのに十分な条件下で焼成する工程であって、焼成後の前記多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後マイクロクラックパラメータNbが≦0.06となる、工程と、
前記多孔質セラミックハニカム構造体をウォッシュコーティングおよびか焼する工程であって、ウォッシュコーティングおよびか焼後の前記多孔質セラミックハニカム構造体のコート後マイクロクラックパラメータNbが≦0.14となり、コート後E500℃/E25℃比が≦1.06となる、工程と、
前記多孔質セラミックハニカム構造体を熱処理する工程であって、前記熱処理後の前記多孔質セラミックハニカム構造体の少なくとも1部分のマイクロクラックパラメータNbが≧0.18となり、25℃〜800℃の温度範囲全体の平均熱膨張係数が12×10−7/℃未満となる、工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記コージエライト主相が、ドメイン長パラメータが≧40マイクロメートルであるコージエライト結晶子のドメインを含み、前記コージエライト結晶子が、前記ドメイン内で互いに略平行な配向を有し、かつ前記ドメイン内の前記コージエライト結晶子の配向が、隣接するドメインとは異なっており、かつ
前記粒界ガラス相が、前記多孔質セラミックハニカム構造体の少なくとも4重量%を構成し、前記粒界ガラス相のポケットが、前記ドメイン内および前記ドメイン間の前記コージエライト結晶子の間に位置しており、前記ポケットの最大寸法が0.5マイクロメートル〜10マイクロメートルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後MOR/CFA値が≧1600psi(11032kPa)であり、コート後MOR/CFA値が≧1600psi(11032kPa)であり、前記コート後MOR/CFA値が前記焼成後MOR/CFA値の≧60%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質セラミックハニカム構造体をウォッシュコーティングおよびか焼に付した後かつ前記多孔質セラミックハニカム構造体を熱処理する前の前記多孔質セラミックハニカム構造体のコート後MOR/CFA値が≧10kpsi(68947kPa)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
コージエライト主相と、
粒界ガラス相と、
を有する多孔質セラミックハニカム構造体であって、
ウォッシュコーティングおよびか焼後に熱処理されてなる前記多孔質セラミックハニカム構造体が、1端と他端との間に延在する複数のセル通路を有し、前記多孔質セラミックハニカム構造体における前記1端から前記他端へ延びる中心軸を含む内側に前記複数のセル通路の一部を含む第1部分を有し、前記多孔質セラミックハニカム構造体の外側に前記第1部分の残りの部分であって前記第1部分を囲う第2部分を有し、前記第1部分のマイクロクラックパラメータNbが≧0.18であり、かつ25℃〜800℃の温度範囲全体の平均熱膨張係数が12×10−7/℃以下であり、前記第2部分のマイクロクラックパラメータNbの値が前記第1部分のマイクロクラックパラメータNbの値よりも小さいことを特徴とする、多孔質セラミックハニカム構造体。
【請求項6】
前記第1部分は、前記多孔質セラミックハニカム構造体の前記中心軸から半径R1の範囲に延在しており、前記半径R1は多孔質セラミックハニカム構造体の最大半径Rmaxの少なくとも50%であることを特徴とする、請求項5に記載の多孔質セラミックハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、米国特許法第120条の下で、2010年11月30日に出願された米国特許出願第12/956,378号明細書の優先権の利益を主張するものであり、その内容に依拠し、その内容全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、全体として、多孔質セラミックハニカム構造体(honeycomb article)に関し、より具体的には、フィルタ材料として使用するためのコージエライト多孔質セラミックハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0003】
ウォールフロー型ディーゼルパーティキュレートフィルタ(DPF)、ガソリンパーティキュレートフィルタ(gasoline particulate filter)(GPF)およびセラミック触媒担体は、通常、幾何学的表面積の広い薄肉の隔壁を有し、場合によっては、流体の濾過を促進する連通多孔を広範囲に有する、セラミックハニカム構造体を備えている。セラミックフィルタは、特に、取扱い性を高めるために高い機械強度を有すると共に、運転中のフィルタの劣化を防ぐために非常に優れた耐熱衝撃性を有していなくてはならない。
【0004】
排ガスの後処理用途に用いられるコージエライトハニカムは、通常、焼成のみを行った状態のセラミック相にマイクロクラックが発生しているため、熱膨張係数が低く、ヤング率も低く、この属性は耐熱衝撃性に有利である。ところが、このように多数のマイクロクラックが生じたセラミックに触媒ウォッシュコートを施すと、触媒ウォッシュコートがマイクロクラック内に侵入し、マイクロクラック内に存在する触媒ウォッシュコートがマイクロクラックの閉鎖を妨げるため、温度が使用域を超えた(temperature excursion)場合に構造体のCTEおよび弾性率が上昇する可能性がある。さらに、商業的なウォッシュコーティングシステムに一般に使用されている酸性溶液は、既に存在するマイクロクラックを応力腐食によって進展させる可能性があり、セラミックの強度低下を引き起こしかねない。
【0005】
この問題の解決策の一つが、ウォッシュコーティングプロセスにおいて触媒ウォッシュコートがマイクロクラック内へ侵入することを防ぐ防護壁として、マイクロクラックに一時的に「不活性化(passivation)」コーティングを施すことであった。この不活性化工程は、追加される設備、消費される化学物質および加工時間に由来するコストを追加するが、製品を熱衝撃作用から保護するためには不可欠である。ウォッシュコートを施す際にコージエライトハニカムセラミックの熱物性が低下する問題を解消するための他の手法として、焼成のみを行ったセラミックマトリックスのマイクロクラックをなくすことも行われてきた(参考文献参照)。マイクロクラックをなくすことに伴う熱膨張係数の上昇は、気孔率を高くして耐歪み性(MOR/E)を向上させることによって相殺することができる。しかし、使用中に少数のマイクロクラックが発生すると、CTEが実質的に低下することなく強度の実質的な低下および耐歪み性の実質的な低下が起こる可能性があり、それによって耐熱衝撃性が低下してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、熱により誘発されるクラックの影響をより受けにくい代替的な多孔質セラミックハニカム構造体およびこれを製造するための代替的な方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によれば、多孔質セラミックハニカム構造体を形成する方法は、コージエライト形成性原料、ガラス形成性原料、少なくとも1種のセラミック加工助剤および水を含むバッチ混合物を生成することを含む。このバッチ混合物は、未焼成ハニカム成形体に押出成形され、コージエライトの主相および結晶粒界のガラス相を有する多孔質セラミックハニカム構造体を生成するのに十分な条件で焼成される。焼成後の多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後マイクロクラックパラメータ(as−fired microcrack parameter)Nbは≦0.06である。その後、この多孔質セラミックハニカム構造体をウォッシュコーティングおよびか焼に付すと、得られる多孔質セラミックハニカム構造体のコート後マイクロクラックパラメータ(coated microcrack parameter)Nbは≦0.14となり、コート後E500℃/E25℃比は≦1.06となる。最後に、この多孔質セラミックハニカム構造体を熱処理に付し、熱処理後の多孔質セラミックハニカム構造体の少なくとも第1部分の第1処理後マイクロクラックパラメータ(first treated microcrack parameter)Nbが≧0.18となり、第1処理後E500℃/E25℃比が≦1.06となり、25℃〜800℃の温度範囲全体の第1処理後平均熱膨張係数が12×10−7/℃未満となるようにする。
【0008】
他の実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体は、コージエライト主相および粒界ガラス相を含む。この多孔質セラミックハニカム構造体は、焼成後マイクロクラックパラメータNbが≦0.06であり、この多孔質セラミックハニカム構造体にウォッシュコートを施して550℃の温度でか焼した後のコート後マイクロクラックパラメータNbが≦0.14であり、コート後E500℃/E25℃比が≦1.06である。ウォッシュコーティングおよびか焼後に800℃以上の温度で熱処理に付した後の多孔質セラミックハニカム構造体の少なくとも第1部分の第1処理後マイクロクラックパラメータNbは≧0.18であり、第1処理後E500℃/E25℃比は≦1.06であり、25℃〜800℃の温度範囲全体の第1処理後平均熱膨張係数は12×10−7/℃未満である。
【0009】
以下に示す詳細な説明に本発明のさらなる特徴および利点を記載する。その一部はこの記載から当業者に容易に理解されるかまたは本明細書に記載する実施形態(以下に示す詳細な説明、特許請求の範囲および添付図面を含む)を実施することにより認められるであろう。
【0010】
前述の概要および以下に示す詳細な説明の両方に様々な実施形態を記載するが、これらは特許請求される主題の性質および特徴を理解するための概略および構成を提供することを意図するものであることを理解すべきである。様々な実施形態をさらに理解するために添付の図面も併せて用い、これを本明細書の一部を構成するものとして本明細書に組み込む。この図面は本明細書に記載する様々な実施形態を例示するものであり、本記載と併せて、特許請求される主題の原理および動作を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本明細書に示し説明する1つまたは2つ以上の実施形態に従う多孔質セラミックハニカム構造体の略図である。
図2】焼成のみを行った本発明の実施例1の試験片を室温および1200℃の間で加熱(黒丸)および冷却(白四角)した場合の弾性率対温度のグラフである。
図3】焼成のみを行った状態(黒丸)、ウォッシュコーティングおよびか焼後(灰丸)ならびにウォッシュコーティングおよび800〜1100℃で32.5時間熱処理を行った後(白丸)の比較例C4の試験片を加熱した場合の弾性率対温度曲線を示すグラフである。
図4】本発明の実施例および比較例の、3種の条件:(1)焼成のみ、(2)ウォッシュコーティングおよびか焼後ならびに(3)800〜1100℃の熱処理後、におけるMOR/CFA値を示すグラフであり、ウォッシュコーティング後の本発明の実施例の強度保持率がより高いことを示している。
図5】本発明の実施例および比較例の、3種の条件:(1)焼成のみ、(2)ウォッシュコーティングおよびか焼後ならびに(3)800〜1100℃の熱処理後、におけるMOR/CFA値を示すグラフであり、ウォッシュコーティング後の本発明の実施例の強度保持率(気孔率ゼロに標準化)がより高いことを示している。
図6】本発明の実施例および比較例の、3種の条件:(1)焼成のみ、(2)ウォッシュコーティングおよびか焼後ならびに(3)800〜1100℃の熱処理後、におけるマイクロクラック指数Nbの値を示すグラフであり、本発明の実施例がウォッシュコーティング後もマイクロクラックをより少ないまま維持しており、本発明の実施例を800〜1100℃で熱処理した後は実質的にマイクロクラックが増加していることを示している。
図7】本発明の実施例および比較例の、3種の条件:(1)焼成のみ、(2)ウォッシュコーティングおよびか焼後ならびに(3)800〜1100℃の熱処理後、におけるE500℃/E25℃の値を示すグラフであり、ウォッシュコーティング後の本発明の実施例のE500℃/E25℃値がより低いことを示しており、これは、本発明の実施例の方がマイクロクラック中へのウォッシュコートの侵入の度合いが低いことを示唆している。
図8】本発明の実施例および比較例の、3種の条件:(1)焼成のみ、(2)ウォッシュコーティングおよびか焼後ならびに(3)800〜1100℃の熱処理後、におけるCTE(25〜800℃)の値を示すグラフであり、本発明の実施例のCTEの値が熱処理後に12×10−7−1未満まで低下する一方で、比較例C5〜C6は、良好な耐熱衝撃性を得るのに十分な値までCTEが低下しないことを示している。
図9】本発明の実施例(黒丸)および比較例(白丸)のウォッシュコーティングおよびか焼後のMOR/CFA対Sパラメータを示すグラフである。
図10】本発明の実施例(黒丸)および比較例(白丸)のウォッシュコーティングおよびか焼後のMOR/CFA対Sパラメータを示すグラフである。
図11】本発明の実施例(黒丸)および比較例(白丸)のウォッシュコーティングおよびか焼後のマイクロクラック指数Nb対Sパラメータのグラフである。
図12】本発明の実施例(黒丸)および比較例(白丸)のウォッシュコーティングおよびか焼後のマイクロクラック指数Nb対Sパラメータを示すグラフである。
図13】本明細書に示し説明する1つまたは2つ以上の実施形態による多孔質セラミックハニカム構造体を熱処理する方法の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここでコージエライト多孔質セラミックハニカム構造体およびその製造方法の様々な実施形態の詳細について言及する。図面全体を通して、同一または類似の部材については、可能な場合は常に同一の参照符号を使用するものとする。多孔質ハニカム構造体の一実施形態の略図を図1に示す。焼成のみを行った状態のコージエライト多孔質セラミックハニカム構造体は、全体として、コージエライト多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後マイクロクラックパラメータNbが≦0.06となり、焼成後E500℃/E25℃比が≦0.99となるような、コージエライト主相および粒界ガラス相を含む。ウォッシュコーティングおよびか焼を行った後のコージエライト多孔質セラミックハニカム構造体のコート後マイクロクラックパラメータNbは≦0.14となり、コート後E500℃/E25℃比は≦1.06となる。ウォッシュコーティングおよびか焼後の多孔質セラミックハニカム構造体を熱処理した後の多孔質セラミックハニカム構造体の少なくとも第1部分の第1処理後マイクロクラックパラメータNbは≧0.18となり、25℃〜800℃の温度範囲全体の第1処理後平均熱膨張係数は12×10−7/℃未満となる。ここでコージエライト多孔質セラミックハニカム構造体およびこれを形成する方法をより詳細に説明する。
【0013】
ここで図1を参照すると、コージエライトから形成された多孔質セラミックハニカム構造体100の略図が示されている。多孔質セラミックハニカム構造体100は、自動車の排ガスから微粒子状物質を濾過するためのウォールフロー型フィルタとして使用することができる。多孔質セラミックハニカム構造体100は、全体として、第1端部102および第2端部104の間に延在する複数のセル通路101を有する多孔質コージエライトセラミックハニカム本体を備える。構造体100のハニカム構造は、複数の略平行なセル通路101を含むことができる。セル通路101は、第1端部102から第2端部104まで延在し互いに交差する多孔質セル隔壁106によって形成されており、セル通路101の少なくとも一部は多孔質セル隔壁106によって画定されている。多孔質セラミックハニカム構造体100はまた、複数のセル通路の周囲にこれらを囲むように形成されたスキン部も含むことができる。このスキン部は、セル隔壁106の形成時に押出成形することもできるし、あるいはスキン用セメント(skinning cement)をセルの外周部分に適用することなどによって後付けスキン(after−applied skin)として後段で加工することによって形成することもできる。
【0014】
一実施形態においては、複数の平行なセル通路101は断面が略正方形である。しかし、代替的な実施形態においては、本構造体の複数の平行なセル通路は、長方形、円形、長円形、三角形、八角形、六角形またはこれらの組合せ等の他の断面形状を有していてもよい。フィルタ用途に利用されるハニカムの場合は、特定のセルが入口セル108に指定され、他の特定のセルが出口セル110に指定される。さらに、多孔質セラミックハニカム構造体100において、少なくとも一部のセルは、目封止材112で目封止することができる。通常、目封止材112は、セル通路の端部またはその付近に設けられており、図1に示すように、一方の端部から見てセルが1つ置きに目封止された市松模様等の何らかの一定のパターンで配置されている。入口用通路108は、第2端部104またはその付近に目封止することができ、出口用通路110は、入口用通路に相当しない通路の第1端部102またはその付近に目封止することができる。したがって、各セルは、多孔質セラミックハニカム構造体のどちらか一方の端部またはその付近のみを目封止することができる。図1は市松模様の目封止の略図を全体的に示したものであるが、本多孔質セラミックハニカム構造体には代替的な目封止パターンも使用可能であることを理解すべきである。
【0015】
図1には、通路の一部または全部を目封止した多孔質セラミックハニカム構造体100を図示したが、代替的な実施形態において、多孔質セラミックハニカム構造体が触媒用スルーフロー型(through−flow)基材として使用される場合などは、本多孔質セラミックハニカム構造体に目封止を行わなくてもよいことを理解すべきである。
【0016】
本明細書に記載する一実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体は、気孔率%Pを≧45%とすることができ、≧47%とすることさえできる。幾つかの実施形態においては、気孔率を≧48%とすることができ、≧50%とすることさえできる。他の実施形態においては、気孔率を≧52%とすることができ、≧54%とすることさえできる。さらなる他の実施形態においては、気孔率を≧55%とすることができ、≧58%とすることさえできる。他の実施形態においては、気孔率を≧60%とすることができる。
【0017】
上に簡潔に述べたように、コージエライト多孔質セラミックハニカム構造体は、焼成のみを行った状態では約25℃〜800℃の温度範囲におけるCTEが比較的高く、それに対応して耐熱衝撃性が低い。しかしながら、ウォッシュコーティングおよびか焼ならびに/または熱処理を経ると、本明細書に記載する多孔質セラミックハニカム構造体は、約25℃〜800℃の温度範囲におけるCTEが比較的低くなり、その結果として耐熱衝撃性が改善される。本明細書において用いられるCTEとは、別段の指定がない限り、指定された温度範囲における、構造体の通路の長手方向と平行な方向に沿った熱膨張係数である。ウォッシュコーティングおよびか焼ならびに/または熱処理を経た後にCTEが改善されることと、それに対応して耐熱衝撃性が改善されることとは、マイクロクラックの容積が増大したことに起因し、これは、当該構造体のマイクロクラック発生の程度の間接的な指標であるマイクロクラックパラメータNbが増加することによって示される。
【0018】
マイクロクラックパラメータNbは、1200℃までの弾性率(E)対加熱曲線から導かれる。Nbは:
【数1】
【0019】
(ここで、Eは、マイクロクラックを有する構造体(すなわち、ウォッシュコーティング/か焼および/または熱処理後)の室温下における弾性率であり、Eは、マイクロクラックを有しない構造体の室温下における弾性率であり、Nは、単位体積当たりのマイクロクラックの個数であり、bは、マイクロクラックの半分の長さの平均値である)として求められる。
【0020】
マイクロクラックパラメータを求める際に用いられる典型的な加熱曲線を図2のグラフに示す。E25の値は、加熱前の構造体の25℃における弾性率を指し;E500およびE800は、それぞれ、加熱中の500℃および800℃における弾性率を指す。E°25の値は、室温に戻す冷却曲線上の黒三角で示される点の接線を外挿することにより求められる、マイクロクラックが発生していない構造体の仮想上の弾性率を指す。E25(加熱後)は、1200℃から冷却した後に室温で測定された試験片の弾性率である。冷却後のE25が初期値よりも低い値になることは、1200℃の熱に曝露した後にマイクロクラックが増加したことを示唆している。E°25の値および冷却曲線の接点の位置は、接線の傾きΔE/ΔTが−7.5×10−5(E°25)(単位:psi/℃)に等しくなるという要件に一致するように、数学的に求めたものである。マイクロクラックのないコージエライトセラミックの温度上昇に伴う弾性率の変化率と、室温における弾性率との間に、式(ΔE/ΔT)/E°25=−7.5×10−5/℃の関係があることは、経験的に求められている。この関係は、マイクロクラックが生じていないあらゆるコージエライトセラミックに共通するものであり、コージエライト結晶の結晶構造中の原子結合が温度上昇に伴い弱くなる固有の比率によって決まる。
【0021】
本明細書に記載する実施形態において、多孔質セラミックハニカム構造体は、熱処理に付す前の焼成後の多孔質セラミックハニカム構造体が、コージエライト結晶子のドメインを含むコージエライト結晶の主相と、ドメイン内のコージエライト結晶子の間およびコージエライト結晶子のドメインの間に位置するコージエライト粒界ガラス相のポケットとを含むようなコージエライト形成性原料およびガラス形成性原料の組合せを用いて形成されている。同じドメイン内のコージエライト結晶子は互いに略平行に配向している。各ドメイン内の結晶子の配向は隣接するドメイン内の配向とは異なっている。
【0022】
粒界ガラス相は、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体中に存在し、その量は、本来であれば構造体の冷却時に発生するはずの微小応力(これは、コージエライト結晶子ドメインのサイズが大きいことと、コージエライト結晶子の熱膨張係数が異なる結晶方位(crystallographic direction)に対し異方性を示すこととに起因する)を解放するのに十分な量である。微小応力を解放することによってマイクロクラックの形成が抑えられ、それによって、焼成のみを行った状態の多孔質セラミック構造体におけるマイクロクラックの量が比較的少なくなる。このようにマイクロクラックの量が少なくなることによって、焼成のみを行った構造体の強度が高くなる。本明細書に記載する実施形態においては、粒界ガラス相は、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体中に、構造体の≧4重量%の量で存在する。粒界ガラス相は、典型的には、粒界ガラスからなる小さなポケット(pocket)として存在する。一実施形態においては、粒界ガラスのポケットの最大寸法は、約0.5マイクロメートル〜約10.0マイクロメートルである。他の実施形態においては、粒界ガラスのポケットの最大寸法は、約0.5マイクロメートル〜約5マイクロメートルである。
【0023】
さらに、焼成のみを行った構造体は、後段でウォッシュコーティングプロセスを行う際に、多孔質セラミックハニカム構造体の強度を許容できない程度まで低下させるようなガラス相の広範囲な侵食(extensive etching)および/または応力腐食によるマイクロクラックの伝搬が起こらないように、マイクロクラック発生が十分に少なく、かつ粒界ガラス相は、十分に化学的耐久性のある組成を有している。ウォッシュコーティングの前および最中もマイクロクラック発生の程度を低いまま維持すると、加熱中の構造体の熱膨張係数(CTE)および弾性率(E)を上昇させることによって構造体の耐熱衝撃性を低下させることになる、ウォッシュコート粒子のマイクロクラック内部への侵入が最小限に抑えられる。さらに、粒界ガラス相は、800℃以上の温度で熱処理に付す最中にガラスが失透し、それによって、粒界ガラス相が粘性流動によりコージエライト結晶ドメイン間の微小応力を緩和する機構の効力を低下させるような組成を有している。
【0024】
さらに、本明細書に記載するコージエライト結晶子のドメインは、熱処理によって粒界ガラス相が失透した後に構造体を100℃未満に冷却するとマイクロクラックが実質的に増大し、それによって構造体のCTEを低下させると共に耐熱衝撃性を増大させるのに十分に大きなサイズ(すなわち≧40マイクロメートル)を有している。
【0025】
一実施形態においては、焼成のみを行ったコージエライトセラミック構造体は、コージエライト相を80重量%〜90重量%、ガラス相を4重量%〜15重量%、スピネル相を0重量%〜2重量%、サフィリン相を0重量%〜4重量%、ムライト相を0重量%〜2重量%および他の相を≦2重量%を含む。各相の量は、構造体の粉末試料のX線回折パターンからリートベルト法を用いて求められる。「コージエライト相」という語には、大部分がMgAlSi18(コージエライト化合物)である六方晶系および斜方晶系の結晶形の全体の量が含まれる。コージエライト相の結晶構造内で、鉄、ナトリウム、カリウム等の他の元素に置き換わっている可能性があることを理解されたい。
【0026】
本明細書に記載する実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体は、焼成のみを行った状態(すなわち、多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後かつ構造体をウォッシュコーティング、か焼および/または熱処理に付す前)の焼成後マイクロクラックパラメータNbが≦0.06である。幾つかの実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後マイクロクラックパラメータNbは≦0.05であり、≦0.04でさえある。他の実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後マイクロクラックパラメータNbは≦0.03であり、≦0.02でさえある。
【0027】
本明細書に記載する多孔質セラミックハニカム構造体はまた、多孔質セラミックハニカム構造体をウォッシュコーティングおよびか焼した後にマイクロクラックパラメータがわずかに上昇する。マイクロクラックパラメータが上昇する原因は、ウォッシュコート粒子が既存のマイクロクラック内に侵入することと、場合によっては、酸性のウォッシュコートによって引き起こされる応力腐食により新たなマイクロクラックが発生および/または伝搬することとにある。しかしながら、焼成のみを行った構造体のマイクロクラック発生の程度が小さいので、このマイクロクラックパラメータの上昇はごくわずかである。
【0028】
本明細書に記載する実施形態におけるウォッシュコーティングプロセスには、通路および場合によりハニカム通路の隔壁内部の細孔に、水酸化酸化アルミニウムのコロイドのpH2.0スラリーを浸透させることが含まれる。その後、通路内および場合により通路隔壁の厚み方向に空気を吹き込んで通過させることにより多孔質セラミックハニカム構造体から過剰なスラリーを除去した。次いで、多孔質セラミックハニカム構造体を乾燥させ、550℃で4時間か焼した。乾燥後に構造体に保持されていたウォッシュコートの質量は、典型的には、プレコートを施したセラミック構造体の5%〜25重量%、より典型的には10%〜20%であった。
【0029】
本明細書に記載する実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体は、ウォッシュコーティングおよびか焼後の、熱処理に付す前のコート後マイクロクラックパラメータNbが≦0.14となる。幾つかの実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体のコート後マイクロクラックパラメータNbは≦0.09であり、≦0.08でさえある。他の実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体のコート後マイクロクラックパラメータNbは≦0.07、≦0.06または≦0.05でさえある。
【0030】
本明細書に記載する実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体は、多孔質セラミックハニカム構造体を熱処理サイクルに付した後のマイクロクラックパラメータが大幅に上昇する。このマイクロクラックパラメータの上昇は、粒界ガラス相の少なくとも一部が熱サイクルの最中に失透または再結晶することに起因する。冷却の最中にコージエライト結晶ドメイン内で発生する微小応力を緩和するのに十分な粒界ガラス相が存在しないと、多孔質セラミックハニカム構造体が室温まで冷却されるに従い、ドメインには簡単にマイクロクラックが発生し、それによって構造体のマイクロクラックの量が増加する。本明細書に記載する実施形態においては、熱処理は、構造体を800℃から1100℃まで加熱する2回のサイクルを含むものとし、これらの2つの温度間の曝露時間の総和が32.5時間となるようにした。
【0031】
本明細書に記載する実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体の少なくとも一部は、熱処理を施した後の第1処理後マイクロクラックパラメータNbが≧0.18となる。幾つかの実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体の第1処理後マイクロクラックパラメータNbは≧0.20であるかまたは≧0.22でさえある。他の実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体の第1処理後マイクロクラックパラメータNbは、≧0.24、≧0.26、≧0.28または≧0.30でさえある。
【0032】
破断係数(modulus of rupture)(MOR)という語は、多孔質セラミックハニカム構造体の軸方向の曲げ強さ(flexural strength)を指す。MORは、多孔質セラミックハニカム構造体のセルを通路の長手方向と平行な棒状体に切断したものについて4点曲げ法を用いて測定される。正面閉鎖面積(closed frontal area)(CFA)という語は、セル通路の長手方向と直交する方向の断面において多孔質通路隔壁が占める部分の面積を指す。多孔質セラミックハニカム構造体の嵩密度が与えられた場合、次式に従いCFAを求めることができる:
CFA=(嵩密度)/{2.51×[1−(%P/100)]}
(式中、嵩密度の単位はg/cmであり、%Pは、多孔質セラミックハニカム構造体の気孔率である)。他の例においては、CFAは、次の関係式から求めることができる:
CFA=(w)(N)[2(N−0.5)−w]
(式中、wは多孔質セラミックハニカム構造体の隔壁厚(単位:インチ)であり、Nは、セル密度(単位:インチ−2)である)。
【0033】
MOR/CFAの値は、多孔質セラミックハニカム構造体の隔壁を有するセラミックの強度に比例し、ほぼ等しい。本明細書に記載する幾つかの実施形態においては、ウォッシュコーティングおよびか焼前後のMOR/CFAの値(すなわち、焼成後MOR/CFA値およびコート後MOR/CFA値)は、≧1600psi(約11032kPa)であるか、または≧1800psi(約12411kPa)でさえある。他の実施形態においては、焼成後MOR/CFA値およびコート後MOR/CFA値は、≧2000psi(約13789kPa)であるか、または≧2200psi(約15168kPa)でさえある。さらなる他の実施形態においては、焼成後MOR/CFA値およびコート後MOR/CFA値は、≧2400psi(約16547kPa)であるか、または≧2600psi(約17926kPa)でさえある。
【0034】
他の実施形態においては、コート後MOR/CFA値は、焼成後MOR/CFA値の≧60%である。幾つかの実施形態においては、コート後MOR/CFA値は、焼成後MOR/CFA値の≧70%であるか、または焼成後MOR/CFA値の≧80%でさえある。他の実施形態においては、コート後MOR/CFA値は、焼成後MOR/CFA値の≧85%であるか、または焼成後MOR/CFA値の≧90%でさえある。ウォッシュコーティングおよびか焼後の強度保持率が高いことは、ウォッシュコート溶液由来の水またはヒドロニウムイオンと任意の既存のマイクロクラックの先端のシリケート結合との相互作用に起因する応力腐食によるマイクロクラックの進展がより小さいことを示唆している。
【0035】
多孔質セラミックハニカム構造体の強度は気孔率が増大すると低下するので、多孔質セラミックハニカム構造体全体の気孔率に応じて達成可能なMOR/CFAの値を特定しておくと有用である。所与の程度のマイクロクラックが発生したコージエライト多孔質セラミックハニカム構造体のMOR/CFAの値は、(1−P)2.35(ここで、「P」は、気孔率(%)/100として定義される)という量に比例することが見出されている。本明細書に記載する実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体は、好ましくは、気孔率ゼロに標準化した曲げ強さ対正面閉鎖面積の比MOR/CFAが(MOR/CFA)(1−P)−2.35に等しい。幾つかの実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後MOR/CFAおよびコート後MOR/CFAは少なくとも10,000psi(約68947kPa)である。他の実施形態においては、焼成後MOR/CFA値およびコート後MOR/CFA値は≧12000psi(約82737kPa)であるかまたは≧14000psi(96526kPa)でさえある。さらなる他の実施形態においては、焼成後MOR/CFA値およびコート後MOR/CFA値は≧16000psi(110316kPa)であるかまたは≧18000psi(124105kPa)でさえある。
【0036】
多孔質セラミックハニカム構造体の試験片のヤング率Eの測定は、多孔質セラミックハニカム構造体の通路の長手方向に平行に切断した棒状体を用いて、音波共振法によって異なる温度で実施した。上述したように、E25℃値は加熱前の構造体の室温での弾性率を示し、一方、E500℃値は構造体を500℃で加熱しているときの弾性率を示す。本明細書に記載する焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後E500℃/E25℃比は、≦0.99であるかまたは≦0.97でさえある。幾つかの実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体の焼成後E500℃/E25℃比は、≦0.96であるかまたは≦0.95でさえある。
【0037】
ウォッシュコーティングおよびか焼後の多孔質セラミックハニカム構造体のコート後E500℃/E25℃比は、多孔質セラミックハニカム構造体のコーティングプロセスの最中にウォッシュコート粒子が既存のマイクロクラック内に浸透する程度に比例することが見出された。本発明によらない低マイクロクラックコージエライトセラミックの弾性率対加熱曲線にウォッシュコーティングが与える影響の例を図3に示す。具体的には、図3は、焼成のみを行った状態(黒丸)、ウォッシュコーティングおよびか焼を行った状態(灰丸)ならびにウォッシュコーティング/か焼および800〜1100℃で32.5時間熱処理を行った状態(白丸)の比較例C4を加熱した際の弾性率対温度曲線を示すグラフである。AからAまで弾性率が上昇しているのは少数のマイクロクラックが閉鎖したためである。弾性率がAからBに低下しているのは、ウォッシュコーティングを行った後にマイクロクラックが進展したためである。弾性率がBからBに上昇しているのは、非常に低い温度から開始することによってコーティング後の試験片のマイクロクラックが閉鎖したためであり、これは、マイクロクラックにウォッシュコート粒子が侵入して堆積したことを示している。弾性率がBからCに低下しているのは、800〜1100℃で熱処理した後にマイクロクラックがさらに開いたためである。低温から開始することにより弾性率がCからCに大幅に上昇したのは、大幅に増加したマイクロクラックが再び閉鎖したためである。
【0038】
前述の内容に基づくと、コート後E500℃/E25℃比の値が低いことは、ウォッシュコートのマイクロクラック内への侵入が最小限であり、かつコーティングの最中におけるマイクロクラックの進展が最小限であることを示唆している。本明細書に記載する実施形態においては、コーティング後の多孔質セラミックハニカム構造体のコート後E500℃/E25℃は≦1.06である。幾つかの実施形態においては、コート後E500℃/E25℃比は≦1.04となることができ、≦1.03となることさえできる。さらなる他の実施形態においては、コート後E500℃/E25℃比は≦1.02である。
【0039】
高い耐熱衝撃性を得るためには、本明細書に記載する多孔質セラミック構造体にウォッシュコートを施した構造体を800から1100℃までの温度で2サイクル、合計32.5時間熱処理を行った後の25〜800℃における軸方向の熱膨張係数の値(すなわち、第1処理後平均熱膨張係数)は、≦12×10−7−1となる。幾つかの実施形態においては、第1処理後平均CTEは≦11×10−7−1であるか、または≦10×10−7−1でさえある。他の実施形態においては、第1処理後平均CTEは≦9×10−7−1であり、≦8×10−7−1でさえある。第1処理後平均CTEの値が低いことは、熱に曝露した後に十分なマイクロクラックが発生しており、今度はこれが、排ガス後処理用途等の高温用途で高い耐熱衝撃性を与えることを示唆している。熱膨張係数は、熱膨張計法を用いて、ハニカム通路の長手方向と平行な方向に対し測定される。25°〜800℃のCTEの値は、[(L800℃−L25℃)/L25℃]/(800−25℃)(式中、Lは、温度「i」におけるセラミック試験片の長さである)として定義される。
【0040】
本明細書に記載する多孔質セラミック本体は、コージエライト形成性原料およびガラス形成性原料を少なくとも1種のセラミック加工助剤(有機バインダー、滑剤等)と一緒に混合し、水を加え、可塑化したバッチ混合物を生成するように混合することによって製造することができる。次いで、可塑化したバッチ混合物を押出成形することによって未焼成ハニカム成形体を形成する。次いで、未焼成ハニカム成形体を乾燥させ、原料が反応してコージエライト結晶相および粒界ガラス相を形成するのに十分な温度で焼成し、この本体を冷却することによって、コージエライトセラミック(残分として粒界ガラス相を含む)を生成させる。コージエライトセラミックのコージエライト結晶相の化学量論量はおおよそMgAlSi18である。
【0041】
幾つかの実施形態においては、コージエライト形成性原料は、タルク、か焼タルク、クロライト、か焼クロライト、カオリン、か焼カオリン、酸化アルミニウム形成性供給源および結晶性または非晶性シリカから選択される。他の実施形態においては、コージエライト形成性原料は、タルクまたはか焼タルク、スピネルまたは酸化マグネシウム形成性供給源;酸化アルミニウム形成性供給源;および結晶性または非晶性シリカから選択される。酸化アルミニウム形成性供給源は、約1000℃を超える温度で空気中で加熱すると、純度>95%の酸化アルミニウムを生成する物質である。酸化アルミニウム形成性供給源の例としては、例えば、コランダム、ガンマ−アルミナ、バイヤライト、ギブサイト、ベーマイト等が挙げられる。酸化マグネシウム形成性供給源は、空気中で約1000℃を超える温度で加熱すると純度>95%の酸化マグネシウムを生成する物質である。好適なコージエライト形成性成分および本発明の組成物におけるこれらの対応する重量百分率の非限定的な代表的な一覧を表3に示す。通常、コージエライトバッチ組成物は、タルクを約35%〜約45重量%;酸化アルミニウム形成性供給源を約24%〜約35重量%;カオリンを約0%〜約20重量%;および粉末シリカ供給源を約13%〜約25重量%を含む。
【0042】
幾つかの実施形態においては、反応焼結によってコージエライトセラミックを形成させるために選択された原料中には、焼成後の多孔質セラミックハニカム構造体中に十分に大きなコージエライト結晶子ドメインが得られるように、(1)前もって反応させておいたコージエライト粉末;(2)アルミノケイ酸マグネシウムガラス粉末;(3)アルミン酸マグネシウムスピネルとカオリンまたはか焼カオリンとの組合せ;(4)酸化マグネシウム形成性供給源(MgO、Mg(OH)、MgCO等)およびカオリンまたはか焼カオリンが存在しない。幾つかの実施形態においては、コージエライト原料には、粒子状ムライト、カイヤナイトおよびシリマナイトも存在しない。
【0043】
焼成後の構造体の気孔率を高めるために、有機粒子等のさらなる造孔剤も原料混合物に添加することができる。好適な造孔剤およびその対応する重量百分率の非限定的な代表的な一覧を表3に示す。これらに限定されるものではないが、グラファイト、クルミ殻粉および小麦澱粉が挙げられる。本明細書に記載する実施形態においては、バッチ混合物は、造孔剤を約10重量%〜約50重量%含むことができる。
【0044】
コージエライト形成性原料に加えて、バッチ混合物は、1種または2種以上のガラス形成性原料も含む。本明細書に記載する幾つかの実施形態においては、ガラス形成性原料は、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体中にアルミノケイ酸マグネシウムガラス相を生成するのに適したものである。一例として、そしてこれらに限定されるものではないが、ガラス形成性原料としては、焼成後の多孔質セラミックハニカム構造体(800℃を超える熱処理に付す前の構造体)においてマイクロクラック発生を抑制するのに十分な量のガラスを形成させるのに十分な量の、酸化イットリウム、酸化ランタン、他の希土類酸化物、酸化カルシウム、酸化カリウム等の他の金属酸化物成分を含む粉末を挙げることができる。本発明の組成物に好適なガラス形成性原料およびその対応する重量百分率の非限定的な代表的な一覧を表3に示す。一例として、これらに限定されるものではないが、これらのガラス形成性原料としては、酸化イットリウム粉末、酸化ランタン粉末、アルカリ長石、ベントナイトおよびアタパルジャイトを挙げることができる。
【0045】
1種または2種以上の酸化イットリウム粉末、酸化ランタン粉末、アルカリ長石、ベントナイトおよびアタパルジャイトを原料混合物に加えた場合、コーティングおよびか焼を経た部分のコート後MOR/CFA値は、式:
コート後MOR/CFA=2134+S
(式中、S=9300YLaP+13400YYP+6000YFP+2400YBP+1000YAPであり、
LaPは、バッチ混合物中の酸化ランタン粉末の重量パーセントであり、YYPは、バッチ混合物中の酸化イットリウム粉末の重量パーセントであり、YFPは、バッチ混合物中のアルカリ長石の重量パーセントであり、YBPは、バッチ混合物中のベントナイト粉末の重量パーセントであり、YAPは、バッチ混合物中のアタパルジャイト粉末の重量パーセントである)によって適切に表されることが分かった。
【0046】
本明細書に記載する一実施形態においては、バッチ混合物中に存在する酸化イットリウム、酸化ランタン、アルカリ長石、ベントナイトおよびアタパルジャイトの量は、コーティングおよびか焼を行った後の多孔質セラミックハニカム構造体のコート後MOR/CFA値が確実に少なくとも10,000psi(68947kPa)になるように、S≧8000となるようなものである。他の実施形態においては、酸化イットリウム、酸化ランタン、アルカリ長石、ベントナイトおよびアタパルジャイトの量は、S値が≧10000または≧12000にさえなるようなものである。さらなる他の実施形態においては、バッチ混合物中の酸化イットリウム、酸化ランタン、アルカリ長石、ベントナイトおよびアタパルジャイトの量は、S値が≧14000または≧16000にさえなるようなものである。
【0047】
酸化イットリウム、酸化ランタン、アルカリ長石、ベントナイトおよびアタパルジャイトの粉末は、イットリウム、ランタン、カルシウムおよびカリウムをバッチ混合物中に導入することができるビヒクルの非限定的な例であり、これらは、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体中に、焼成後、ウォッシュコーティング後、触媒化(catalyzing)後およびか焼後の構造体のマイクロクラック発生を抑制する粒界ガラス相を生成させることと、800℃を超える熱処理後に粒界ガラス相を失透させてマイクロクラックが形成できるようにすることとを目的として使用されることを理解すべきである。イットリウム、ランタン、カルシウムおよびカリウムはまた、バッチ混合物中に他の形態で導入することもできることを理解すべきであり、これらに限定されるものではないが、これらの元素の炭酸塩、硫酸塩、水酸化物、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩または他の化合物が挙げられる。別法として、この種の材料の金属酸化物は、粉末としてまたは水溶液としてバッチ混合物中に添加される、水溶性化合物として提供することができる。1種または2種以上のコージエライト形成性原料に、焼成後の多孔質セラミックハニカム構造体中に必要量のガラスを提供する構成成分として十分な量のガラス形成性成分が含まれる場合は、これらのガラス形成性成分の添加が不要な場合もある。
【0048】
上述したように、コージエライト形成性原料およびガラス形成性原料を、例えば、バインダーや液体ビヒクル等の加工助剤と一緒に混合することによって、可塑化したバッチ混合物を生成する。これらの加工助剤は、加工性を改善し、かつ/または乾燥時間を短縮し、かつ/または焼成時のクラック発生を低減し、かつ/またはハニカム構造体に所望の性質を付与するのを助けることができる。例えば、バインダーとしては、有機バインダーを挙げることができる。好適な有機バインダーとしては、水溶性セルロースエーテルバインダー、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース誘導体、ヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコールおよび/またはこれらの任意の組合せが挙げられる。液体ビヒクルおよびバインダーに加えて、可塑化したバッチ混合物は、1種または2種以上の任意的な形成または加工助剤、例えば、滑剤等を含むことができる。滑剤の例としては、トール油、ステアリン酸ナトリウムまたは他の好適な滑剤を挙げることができる。
【0049】
可塑化したバッチ混合物を押出成形して未焼成ハニカム成形体を形成した後、未焼成ハニカム成形体を乾燥させ、次いで、無機コージエライト原料からコージエライト主相を形成すると共に、幾つかの例においては粒界ガラス相を形成するのにも十分な条件下で、1415℃〜1426℃で焼成し、室温に冷却する。焼成サイクルの特定区間の昇温速度、最高焼成温度および最高温度での保持時間を表5〜8に例示する。
【0050】
焼成後、粒界ガラス相は、多孔質セラミックハニカム構造体の固体部分の≧4重量%の量で存在する。幾つかの実施形態においては、粒界ガラス相は、多孔質セラミックハニカム構造体の≧5重量%の量または≧6重量%の量でさえ存在することができる。他の実施形態においては、粒界ガラス相は、多孔質セラミックハニカム構造体の≧7重量%または≧8重量%の量でさえ存在することができる。さらなる他の実施形態においては、粒界ガラス相は、多孔質セラミックハニカム構造体の≧9重量%または≧10重量%の量でさえ存在することができる。通常、粒界ガラス相の重量%が増加すると、多孔質セラミックハニカム構造体を焼成後に冷却する最中ならびにウォッシュコーティングおよびか焼する最中に起こるマイクロクラックの発生量が低下する。
【0051】
多孔質セラミックハニカム構造体中の粒界ガラス相の重量パーセントは、焼成後のセラミック構造体の粉末試料のX線回折測定からリートベルト法を用いて決定することができるし、あるいは、(1)多孔質セラミックハニカム構造体中に少量または微量成分として存在し、コージエライト相または他の結晶相よりも粒界ガラス相中に分配されやすい金属酸化物を選択し、(2)バルクのセラミック試験片中の金属酸化物の重量パーセントを蛍光X線や誘導結合プラズマ等によって測定し、(3)粒界ガラス相中の金属酸化物の重量パーセントを電子プローブマイクロアナリシス等で測定し、(4)次に示す物質収支の関係に従いガラスの重量パーセントを計算することにより決定することもできる:
ガラス(重量%)=100(バルクセラミック中の金属酸化物(重量パーセント))/(粒界ガラス相中の金属酸化物(重量パーセント))。
【0052】
この方法に用いることができる金属酸化物としては、酸化カルシウムおよび酸化リン、酸化イットリウム、酸化ランタンまたは他の希土類酸化物が挙げられる。焼成中または焼成後に室温まで冷却する最中に粒界ガラス相が単一のガラスポケット内で2種類の不混和なガラス相に分離する場合、粒界ガラス相の化学分析は、この2種類の不混和なガラス相を代表する混合物について行われる。
【0053】
本明細書に記載する実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体中の粒界ガラス相は、多孔質セラミックハニカム構造体の≧4体積%の量で存在する。幾つかの実施形態においては、粒界ガラス相は、多孔質セラミックハニカム構造体の≧5体積%または≧6体積%の量でさえ存在することができる。他の実施形態においては、粒界ガラス相は、多孔質セラミックハニカム構造体の≧7体積%または≧8体積%の量でさえ存在することができる。さらなる他の実施形態においては、粒界ガラス相は、多孔質セラミックハニカム構造体の≧9体積%または≧10体積%の量でさえ存在することができ、体積%は、多孔質セラミックハニカム構造体を含む(細孔を除く)固体材料の体積パーセントに等しい。ガラス相の体積パーセントは次の式で求められる:
ガラス(体積%)=100[(ガラス(重量%))/(ρ)]/{[(ガラス(重量%))/(ρ)]+[(100−ガラス(重量%))/2.51]}
(式中、ガラス(重量%)は、上述の式または試料のX線回折測定からリートベルト法により導かれるガラスの重量%であり、ρは、ガラスの密度(単位:g/cm)である)。ガラスの密度は、Fluegel,A.(2007),”Global Model for Calculating Room−Temperature Glass Density from the Composition”,J.Am.Cer.Soc.,Vol.90,No.8,pp.2622−2625に発表されたモデルを用いてガラスの組成から見積もることができる。
【0054】
本明細書において上述したように、ガラス形成性原料は、酸化イットリウム、酸化ランタンまたは他の希土類酸化物、酸化カルシウム、酸化カリウムまたはこれらの様々な組合せを含むことができる。コーティングおよびか焼後の多孔質セラミックハニカム構造体のコート後MOR/CFA値の解析から、次式に従い、コート後MOR/CFA値と多孔質セラミックハニカム中のガラス形成性原料の重量%とを関連づけることができることが示される:
コート後MOR/CFA=−1415+S
(式中、
=9200XLa+1300X+50000X+36200XCaであり、
Laは、多孔質セラミックハニカム構造体中の酸化ランタンの重量パーセントであり、Xは、多孔質セラミックハニカム構造体中の酸化イットリウムの重量パーセントであり、Xは、多孔質セラミックハニカム構造体中の酸化カリウムの重量パーセントであり、XCaは、多孔質セラミックハニカム構造体中の酸化カルシウムの重量パーセントである)。「多孔質セラミックハニカム中」という語句は、各金属酸化物のバルクセラミック中の測定濃度を意味する。本明細書に記載する多孔質セラミックハニカム構造体の実施形態においては、S値は、コート後MOR/CFA値が確実に少なくとも10000psi(68947kPa)になるように、≧12000である。他の実施形態においては、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体中に存在する酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化カルシウムおよび酸化カリウムの量は、S値が≧14000または≧16000にさえなるようなものである。さらなる他の実施形態においては、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体中に存在する酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化カルシウムおよび酸化カリウムの量は、S値が≧18000または≧19000にさえなるようなものである。
【0055】
本明細書に記載する焼成後の多孔質セラミックハニカム構造体は、コージエライト結晶子のドメインも含んでおり、この結晶子はドメイン内では互いに共通する略平行な結晶配向を有するが、隣接するドメイン内の結晶子の結晶配向とは異なっている。コージエライト結晶子ドメインの配向は、偏光顕微鏡を用いてセラミックの岩石薄片を検査することによって観察することができる。具体的には、まず最初に、多孔質セラミックハニカム構造体の通路およびセラミックの細孔にエポキシを含浸させ、エポキシを硬化させ、試験片をハニカム隔壁面と平行に粗研磨し、セラミック隔壁の研磨面を露出することによって、セラミックの薄片を調製する。次いで、この研磨面側を顕微鏡観察用スライドガラスにエポキシで装着し、残存するセラミック隔壁の厚み方向に光が透過できるように、試験片の厚みが30マイクロメートルになるまで粗研磨および仕上げ研磨する。偏光顕微鏡は、光路上の、試験片よりも下側に位置する偏光フィルタ、光路上の、試験片よりも上側に位置する第2偏光フィルタ(「アナライザ」)および光路上のフィルタ間に挿入された全波長可変位相差板(full−wave retardation plate)を含む。コージエライト結晶子は光学的異方性を有している(異なる結晶方位に対する屈折率が異なる)ため、直交する偏光下で、このドメインを含むコージエライト結晶子の複屈折によって生じる干渉色は、フィルタの偏光方向に対するドメイン内の結晶子の結晶配向に応じて、普通は青色または黄色のいずれかに見えるであろう。これらのドメインの光学的なサイズはセラミックを構成する結晶ドメインのサイズに比例する。「ドメイン長パラメータ(domain length parameter)」は、直交する偏光下で倍率100倍で撮影した各薄片の4つの画像をデジタル化し、画像を横断する10本の水平な線の作成を含む立体解析学的な手法を適用し、線がドメインと重なる部分の線分の長さを測定することによって導かれる。ドメイン長パラメータはこれらの線分の長さの平均値であり、実際の三次元のドメインの幅とは異なるが、真のドメインの幅に比例し、したがって、ドメインサイズの相対的な尺度として有用である。
【0056】
本明細書に記載する多孔質セラミックハニカム構造体の実施形態においては、この技法により測定されたコージエライト結晶子ドメインのドメイン長パラメータは、通常は≧40マイクロメートルである。幾つかの実施形態においては、コージエライト結晶子ドメインのドメイン長パラメータは、≧45マイクロメートルであるかまたは≧50マイクロメートルでさえある。他の実施形態においては、コージエライト結晶子ドメインのドメイン長パラメータは、≧55マイクロメートルであるかまたは≧60マイクロメートルでさえある。大きなドメインは、ガラス相が800℃超で失透した後により多くのマイクロクラックを生じさせ、耐熱衝撃性が高くなるように作用するので有利である。一例として、これらに限定されるものではないが、次の「実施例」項の本発明の実施例7のバッチ混合物を用いて作製された多孔質セラミックハニカム構造体のドメイン長パラメータは49マイクロメートル程度と求められた。一方、比較例6のバッチ混合物を用いて作製された多孔質セラミックハニカム構造体のドメイン長パラメータは36マイクロメートル程度と求められ、今度はこのこと関与して、熱処理後のマイクロクラック発生がより少なくなった。
【0057】
上述したように、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体は、パーティキュレートフィルタまたはフロースルー基材のいずれかに触媒機能を付与するために触媒ウォッシュコートでウォッシュコーティングすることができる。本明細書に記載する実施形態においては、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体は、アルミナまたはアルミナ形成性供給源を含む触媒ウォッシュコートでウォッシュコーティングされる。しかしながら、他の実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体は、異なる触媒成分および/または触媒成分の組合せを含む異なる触媒ウォッシュコートでウォッシュコーティングできることを理解すべきである。例えば、幾つかの実施形態においては、触媒成分は、ゼオライト、白金または他の任意の好適な触媒成分であってもよい。
【0058】
さらなる他の実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体は、ウォッシュコーティングもか焼も行わなくてもよい。このような実施形態においては、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体は、焼成のみを行った状態の構造体にマイクロクラックを発生させるために熱処理に付すことができる。
【0059】
本明細書に記載した実施形態においては、焼成のみを行った多孔質セラミック構造体を、粒界ガラス相の失透温度を超える熱処理温度で熱処理に付すことによって、CTEを低下させ、構造体の耐熱衝撃性を改善することができる。粒界ガラス相の失透温度とは、ガラスが少なくともある程度失透を起こす温度である。本明細書に記載した実施形態においては、ガラス相の失透温度は、通常は≧800℃である。熱処理は、多孔質セラミックハニカム構造体を排ガス処理用途に使用する前に適用することができる。上述したように、熱処理は、多孔質セラミック構造体の少なくとも一部を、800℃を超える温度に曝露し、こうすることによって今度は、粒界ガラス相の一部または全部を失透および結晶化させることを含む。本明細書に記載する幾つかの実施形態においては、熱処理は、多孔質セラミック構造体を、800℃から1000℃までのサイクルに、多孔質セラミック構造体がこれらの温度の間で32.5時間を超えて保持されるように、少なくとも2回のサイクルにかけることを含む。その後、多孔質セラミック構造体は、室温に冷却される。構造体が冷却されるに従い、コージエライトドメイン内に微小応力が発生する。このような微小応力を吸収するのに十分な粒界ガラス相が存在しないと、コージエライトドメインにマイクロクラックが発生し、今度はこれが多孔質セラミックハニカム構造体のCTEを低下させ、構造体の耐熱衝撃性を改善する。
【0060】
図13を参照すると、一実施形態においては、熱処理は、多孔質セラミックハニカム構造体100の第1部分150を、マイクロクラックを発生させCTEを低下させるのに十分な温度に十分な時間曝露すると同時に、多孔質セラミック構造体の第2部分152を、高強度かつマイクロクラック発生が低い状態に保つのに十分に低い温度に維持することを含む。例えば、一実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体100の第1部分150は、多孔質セラミックハニカム構造体100の内側に、円柱形、円錐形、放物線形または他の形状の領域を含む。この領域は、多孔質セラミックハニカム構造体100の中心軸154から半径Rの方向に延在しており、半径Rは、多孔質セラミックハニカム構造体100の最大半径RMaxの少なくとも50%である。多孔質セラミックハニカム構造体100の第2部分152は、構造体の残りの部分(外側のスキン部および周縁部の通路を含む)を含む。一実施形態においては、多孔質セラミックハニカム構造体100の第1部分150の熱処理は、粒界ガラス相の失透を促進し、構造体の内側のマイクロクラック発生の程度を増大するのに十分な温度で十分な時間、多孔質セラミックハニカム構造体100の第1部分150に高温の気体を流すことにより行われる。高温気体の温度は、通常、粒界ガラス相の失透温度を超える。処理後の多孔質セラミックハニカム構造体100の第1部分150は、上に定義した第1マイクロクラックパラメータNbを有し、第1部分150は、第2処理後マイクロクラックパラメータNb(第1マイクロクラックパラメータNbよりも低い)を有する第2部分152に囲まれている。したがって、多孔質セラミックハニカム構造体100の第1部分150のマイクロクラックは増加しており、CTEが低下している一方で、第2部分152の高強度でマイクロクラックが少ない状態は保たれている。
【0061】
図13は、多孔質セラミックハニカム構造体100の異なる部分が異なる特性を有するように行われる多孔質セラミックハニカム構造体100の第1部分150の熱処理を示すものであるが、熱処理は、熱処理後の成形体全体が同じ特性を有するように、多孔質セラミックハニカム成形体全体に施すことができることを理解すべきである。
【0062】
本明細書に記載する多孔質セラミックハニカム構造体は、焼成のみの状態では高強度でマイクロクラック発生が少ないセラミックハニカム本体を提供し、このセラミック本体は、不活性化ステップを必要とすることなく、ウォッシュコーティング、触媒化およびか焼を行った後も高強度および低弾性率を保持すると共に、セラミック本体を高温に曝露することでマイクロクラックを増加させて、使用時の耐熱衝撃性を増大させることができることを理解すべきである。
【0063】
さらに、ウォッシュコーティングおよびか焼を行った後に熱によってマイクロクラック発生を誘発することによって、焼成後の多孔質セラミックハニカム構造体にウォッシュコートを施す前にマイクロクラックの不活化を行うために用いられる材料およびそのための処理時間が不要になる。さらに、本明細書に記載する多孔質セラミックハニカム構造体は、触媒に応じてプロセスを変更する必要がないので、標準的なコーティングプロセスに容易に付すことができる。
【0064】
さらに、マイクロクラックが強靱化機構を提供する性能があることから、本体にマイクロクラックが発生した破損様式が、マイクロクラックが発生していない本体よりも好ましい可能性があると仮定される。より具体的には、再生操作に起因する熱応力下におけるディーゼルパーティキュレートフィルタの一般的な破損様式は、クラックが部品の周縁部を起点として、内側に向かって、入口面および出口面と略平行に伝搬するものである。クラックが多孔質セラミックハニカム構造体の端から端まで完全に走って構造体を二分した場合、これは「リングオフクラック(ring−off crack)」と称される。クラックが内側に向かって途中までしか伸長しなかった場合、そのクラックは「リムクラック(rim crack)」と称される。リングオフクラックの場合は多孔質セラミック構造体からの煤の漏出が段階的に増加するが、リムクラックは濾過効率には変化を与えないことが分かった。このため、リムクラックはフィルタの破損とは見なされないが、リングオフクラックは破損と見なされる。より多くのマイクロクラックが発生したコージエライトセラミックは、高温に曝露した後でさえもほとんどマイクロクラックが発生しないままのコージエライトセラミックと比較すると、リングオフクラックが生じるまでにより高い温度およびより高い温度勾配に耐えることが認められた。
【実施例】
【0065】
本明細書に記載する実施形態は以下に示す実施例によってさらに明瞭になるであろう。
【0066】
本明細書に記載する本発明の実施例および比較例の作製に使用した原料を、Microtracにより測定したこれらの粒度分布のD10、D50およびD90の値と一緒に表1に列挙する。本明細書において用いられるD50の量とは、粒度分布における粒子の粒度のメジアン径を指す。本明細書において用いられるD10の量とは、直径がD10の値よりも小さい粒子が粒度分布の10%を構成する粒径である。同様に、本明細書において用いられるD90の量とは、直径がD90の値よりも小さい粒子が粒度分布の90%を構成する粒径である。原料の化学組成を表2に示す。表3の原料混合物は本発明の実施例を示すものであり、一方、表4は比較例の原料混合物を含むものとする。表3および4には、それぞれの原料混合物から作製した、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体の、表2の原料の組成から計算により求めた組成の推定値も示す。本発明の実施例に従い作製された多孔質セラミック構造体は、ドメイン長パラメータが≧40マイクロメートルとなると予想された。
【表1-1】
【表1-2】
【表2】
【表3-1】
【表3-2】
【表4-1】
【表4-2】
【0067】
本発明の実施例および比較例の多孔質セラミックハニカム構造体を形成するために、無機コージエライト形成性原料を、酸化イットリウム、酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、ベントナイト、アタパルジャイト、アルカリ長石等のガラス形成性添加剤と、造孔剤、バインダー、滑剤および水と一緒に混合することによって、可塑化したバッチ混合物を生成した。次いで、バッチ混合物を押出成形して未焼成ハニカム成形体とした。次いで、未焼成ハニカム成形体を乾燥させ、1415〜1426℃で焼成して室温に冷却した。その条件は、無機コージエライト形成性原料からコージエライト主相を(本発明の実施例においては粒界ガラス相も)形成するのに十分なものとした。各実施例の焼成サイクルの特定区間の昇温速度、最高焼成温度および最高温度の保持時間を表5〜8に示す。表5〜8はまた、焼成のみを行った多孔質セラミックハニカム構造体の物理的性質と、ほとんどの実施例に関しては、ウォッシュコーティングおよびか焼後のハニカム構造体の物理的性質と、ウォッシュコーティング後に熱処理に付した後のハニカム構造体の物理的性質とを含む。実施例7および比較例C7の2つの例においては、ハニカム本体にウォッシュコートを施さなかった。これらの例に関しては、焼成のみを行ったハニカム本体と、コーティングを施さずに850℃で82時間または1100℃で2時間熱処理した後のハニカム本体の特性データを提供する。
【0068】
ウォッシュコーティングの調査を行うために、まず最初にハニカム試験片の通路のいずれかの端部を交互に目封止することによってウォールフロー型パーティキュレートフィルタを作製した。ハニカム試験片を水酸化酸化アルミニウムコロイド(Nyacol Nano Technologies,Inc.からのNyacol AL20SD)の懸濁液に浸漬することによって試験片のウォッシュコーティングを実施した。水性懸濁液のpHは硝酸で2.0に調整した。コーティングを実施した後、過剰のスラリーを多孔質隔壁および通路から吹き飛ばし、試験片を乾燥させ、次いで空気中で550℃で4時間か焼した。典型的なウォッシュコートの吸尽量は約15重量パーセントであった。次いで、ウォッシュコーティングした試験片を、表9に示す温度サイクルに従いHOを約10%としてガス窯で熱処理した。様々な温度を超えた累積時間を表10に列挙する。
【0069】
上述したように特性を測定した。第2結晶相のI比および量を標準的な技法を用いてXRDで求めた。
【0070】
を1%またはLaを1%含み、場合によってはベントナイトおよび/または長石を含む本発明の実施例1〜6は、図4および5に示すように、ウォッシュコーティングおよびか焼後のMOR/CFA値およびMOR/CFA値が高く、図6に示すように、マイクロクラック発生の程度が低かった。ウォッシュコーティング後も高いMOR/CFA値および低いNb値を維持していることは、これらの実施例のSおよびSパラメータの値が高いことと一致している(図9〜12)。具体的には、図9〜12を参照すると、S≧12000かつコート後MOR/CFA≧10000psi(68947kPa)の境界線で分けた領域によって本発明の多孔質セラミックハニカム構造体の範囲が定められる。同様に、図10においては、S≧8000かつMOR/CFA≧10000psi(68947kPa)の境界線で分けた領域によって本発明の実施例の多孔質セラミックハニカム構造体の範囲が定められる。図11においては、Nb≦0.09かつS≧12000psi(82737kPa)の境界線で分けた領域によって本発明の実施例の多孔質セラミックハニカム構造体の範囲が定められる。同様に、図12においては、Nb≦0.09かつS≧8000psi(51158kPa)の境界線で分けた領域によって本発明の実施例の多孔質セラミックハニカム構造体の多孔質セラミックハニカム構造体の範囲が定められる。
【0071】
ウォッシュコートを施した本発明の実施例はまた、図7に示すように、E500℃/E25°比が1.05未満である。800〜1100℃で32.5時間熱処理した後の本発明の実施例は、図8に示すように、第1処理後平均CTE(25〜800℃)が≦12×10−7−1となり、図6に示すように、マイクロクラック指数が≧0.20となり、これらから、極めて優れた耐熱衝撃性が得られると予想することができる。
【0072】
本発明の実施例7についてはウォッシュコーティングを行わなかったが、850℃で82時間に加えて1100℃で2時間の熱処理も行った。どちらの条件で加熱した後も、試験片のマイクロクラック指数はかなり上昇し、第1処理後平均CTE(25〜800℃)の値は、各熱処理条件について、10.5×10−7−1および12×10−7−1に低下した。本発明の実施例7ではウォッシュコーティング実験は行わなかったが、この材料は、pH=3で1時間処理を行った後、550℃で1時間か焼ステップを行った。この処理後のNb値を測定したところ、わずか0.04であった。これは、焼成のみを行った部分と比較するとごくわずかな上昇であり、したがって、この部分は依然としてほとんどマイクロクラックが発生していないことを示している。
【0073】
比較例C1〜C4は長石を0.5%またはベントナイト1.0%しか含んでおらず、ウォッシュコーティングの前も後もマイクロクラックの発生を所望の程度まで抑制するためのガラスを十分に生成しない。したがって、比較例C1およびC4のSおよびSは本発明の実施例の範囲を逸脱している。その結果として、図4および5に示すように、ウォッシュコーティング後のコート後MOR/CFA値およびコート後MOR/CFAは本発明の範囲から外れており、コーティング後のマイクロクラック発生の程度は図6に示すように増大しており、これは、図9〜12に示すSおよびSパラメータの値が低いことと一致する。ウォッシュコート粒子がマイクロクラックに侵入したことは図7に示すように比較例のE500℃/E25℃の値が高いことから明らかである。
【0074】
比較例C5およびC6は、焼成のみを行った製品およびウォッシュコートを施した製品のマイクロクラック発生を抑制し、高強度を付与するのに十分な量のガラス形成性添加剤を含むものとした(2%長石+1%ベントナイト、高S値および高S値)。ところが、コージエライトを形成するための原料混合物中にスピネルおよびカオリンを併用すると、図8の第1処理後平均CTE(25〜800℃)の値が>12×10−7−1であることが示すように、焼成のみを行った構造体のドメインサイズが小さくなり、これは、800〜1100℃で32.5時間熱処理した後にマイクロクラックを所望の程度まで伝搬させるには不十分である。
【0075】
比較例C7は、ガラス形成性添加剤として炭酸ストロンチウムおよびベントナイトを含むものとした。比較例C7はウォッシュコートを施していないが、この試験片はマイクロクラック指数が非常に低く、0.20を大幅に下回り、かつ第1処理後平均CTEが12×10−7−1を大幅に上回ることから示されるように、熱処理後も所望のマイクロクラック増大には至らなかったことが分かった。マイクロクラックが顕著に成長しない原因はストロンチウムをガラス形成性添加剤として使用したことにあり、これは、コージエライト結晶の造核および成長を変化させることによってセラミックのドメインサイズを小さくする作用がある。したがって、ガラス形成剤としてストロンチウムを使用することは望ましくない。
【0076】
熱曝露後にマイクロクラック発生が増大することが耐熱衝撃性に与える利点を実証するために次の実験を実施した。直径10.5インチ、長さ12インチの形状を有する実施例7およびC7のハニカム試験片を目封止することによってディーゼルパーティキュレートフィルタを形成し、キャニングし、コーティングを施さない状態で試験を行った。この試験は、最高温度(約850℃)を中程度の温度とした高応力熱サイクル試験から構成されるものとした。この高応力は、放射方向に高い熱勾配を生じさせるように設定したエンジンの状態を用いることによって達成した。この部品を高温から低温までのサイクルに繰り返しかけた後、定期的にクラックを検査した。実使用時の高応力作用下における寿命を模擬するために2500回のサイクルを用いた。本発明の実施例7は破損することなく2510回のサイクルを完了し、一方、比較例C7は150回未満で破損したことが分かった。この実験から、熱処理の最中にマイクロクラックの密集度が増大する組成を用いることにより、耐久性試験において十分な性能を発揮することができたことと、クラックの発生がフィルタ性能に悪影響を与えなかったこととが分かる。
【0077】
本明細書に記載した実施形態に関し、特許請求した主題の趣旨および範囲を逸脱することなく様々な修正および変形が可能であることは当業者に明らかであろう。したがって、本明細書は、本明細書に記載した様々な実施形態の修正および変形が添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲を逸脱しない限り、このような修正および変形を包含することを意図するものである。
【表5-1】
【表5-2】
【表6-1】
【表6-2】
【表7-1】
【表7-2】
【表8-1】
【表8-2】
【表9】
【表10】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13