(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049162
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】皮膚の重金属汚染防止のための皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/26 20060101AFI20161212BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
A61K8/26
A61Q19/10
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-251870(P2011-251870)
(22)【出願日】2011年11月17日
(65)【公開番号】特開2013-107830(P2013-107830A)
(43)【公開日】2013年6月6日
【審査請求日】2014年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】509127147
【氏名又は名称】株式会社キコーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(74)【代理人】
【識別番号】100062409
【弁理士】
【氏名又は名称】安村 高明
(72)【発明者】
【氏名】関口 徹
(72)【発明者】
【氏名】西之園 潤一
【審査官】
松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−190413(JP,A)
【文献】
特開2004−231591(JP,A)
【文献】
特開昭60−218305(JP,A)
【文献】
特開2000−143442(JP,A)
【文献】
特開平10−001424(JP,A)
【文献】
特開2003−062458(JP,A)
【文献】
特開2015−166702(JP,A)
【文献】
特開2006−160632(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3170857(JP,U)
【文献】
新化粧品ハンドブック,2006年10月30日,p.46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
G21F 9/00−9/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の重金属汚染防止のための、ゼオライトを含む皮膚外用剤であって、ここで、該皮膚外用剤はクリームに処方されており、ここで、該ゼオライトの平均粒径が10μm以下であり、そして、該ゼオライトの粒子形状が球状もしくは粒状、あるいは、これらの混合物である、皮膚外用剤。
【請求項2】
前記ゼオライトの平均粒径が0.1μm〜10μmである、請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
前記ゼオライトの平均粒径が0.1μm〜5μmである、請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
前記重金属がセシウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
前記ゼオライトの濃度が0.5〜10質量%であり、さらに、5〜20質量%のアルコール、0.1〜20質量%の非イオン界面活性剤を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
前記アルコールがエタノールである、請求項5に記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
さらに、0.1〜15質量%の保湿剤を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
【請求項8】
化粧料である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤の分野に関する。より具体的には、本発明は、皮膚の重金属汚染防止のための皮膚外用剤、特に化粧料の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
カドミウムや水銀のような重金属は、生物にとって必要とされないばかりでなく、生物にとって有毒であることは周知である。また、重金属の中には、セシウム137などのような放射性同位体もあり、万一、生物体内に取り込まれた場合、約30年間にわたりベータ線およびガンマ線を体内から出し続けることになることから、問題視されている。
【0003】
有害な重金属は、大気、土壌、水道水などに存在する可能性があり、そのため、皮膚への接触を介して体内に取り込まれる可能性もある。それゆえ、皮膚の重金属汚染防止のため、および/または、重金属汚染された皮膚を洗浄するための皮膚外用剤が求められている。
【0004】
特許文献1は、カオリンなどの無機粉末と陰イオン界面活性剤からなるペースト状の皮膚洗浄料を開示する。この皮膚洗浄料は、皮膚の角質と一緒に汚れを除去するが使用後は皮膚の潤いがなくなり荒れた肌となる。特許文献1には、重金属汚染防止および/または重金属汚染の洗浄が教示も示唆もされていない。
【0005】
特許文献2は、炭の粉末を石鹸に配合した洗浄料を開示する。特許文献2には、炭を配合することによって石鹸の洗浄力が増加することが記載されているが重金属の汚れについては記載がない。
【0006】
特許文献3には固体粒子として植物種子粉砕物や結晶セルロースなどをグリセリンなどに配合して皮膚に塗擦して汚れを落とす製剤が紹介されている。汚れは落ちるが重金属の汚れについては何ら教示していない。
【0007】
特許文献4には火山噴出物発泡体と高分子化合物に配合して皮膚の角質とともに皮膚の汚れを落とす方法が記載されている。しかしこの方法は皮膚の汚れを落とすと同時に皮膚の潤いを奪うという問題を生じる。また、特許文献4には、重金属の汚れについては、教示も示唆もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−67622号公報
【特許文献2】特開2002−167325号公報
【特許文献3】特開2003−81881号公報
【特許文献4】特開2008−1671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、皮膚の重金属汚染防止のため、および/または、重金属汚染された皮膚を洗浄するための皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、無機粉末、例えば、粉砕したゼオライトを含む皮膚外用剤が、予想外にも、重金属を捕捉する能力を保持し、かつ、皮膚外用剤として利用可能な程度に良好に分散し、かつ、皮膚の潤いを保つことができることを見出すことにより、解決された。
【0011】
したがって、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
無機粉末を含む皮膚外用剤であって、ここで、該無機粉末の平均粒径が10μm以下であり、そして、該無機粉末の粒子形状が球状もしくは粒状、あるいは、これらの混合物である、皮膚外用剤。
(項目2)
前記無機粉末の平均粒径が0.1μm〜10μmである、項目1に記載の皮膚外用剤。
(項目3)
前記無機粉末の平均粒径が0.1μm〜5μmである、項目1に記載の皮膚外用剤。
(項目4)
前記無機粉末がゼオライトである、項目1〜3のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
(項目5)
前記無機粉末の濃度が0.5〜10%であり、さらに、5〜20%のアルコール、0.1〜20%の非イオン界面活性剤を含む、項目1〜4のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
(項目6)
前記アルコールがエタノールである、項目5に記載の皮膚外用剤。
(項目7)
ペースト状または液状である、項目1〜6のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
(項目8)
さらに、0.1〜15%の保湿剤を含む、項目1〜7のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
(項目9)
化粧料である、項目1〜8のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
(項目10)
洗浄剤である、項目1〜8のいずれか一項に記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、皮膚の重金属汚染防止のため、および/または、重金属汚染された皮膚を洗浄するための皮膚外用剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0014】
(用語の定義)
本明細書において使用される場合、用語「皮膚外用剤」とは、皮膚に適用する組成物をいう。皮膚外用剤は、化粧料、洗浄剤、医薬部外品、および、医薬品を包含する。皮膚外用剤としては、例えば、化粧水、クリーム、ゲル、軟膏、乳液、美容液、パック、洗顔料、クレンジング剤、ヘアケア剤、石鹸、浴用剤、シャンプー、リンス、リップスティック、口紅、ファンデーションが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の皮膚外用剤は、代表的には、ペースト状または液状であるが、これらに限定されない。本発明の皮膚外用剤には、油脂類、ロウ類、炭化水素類、シリコーン類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、増粘剤、粉末等の化粧料の基材の他、医薬部外品及び医薬品の有効成分、pH調整剤、防腐剤、色素、香料、酸化防止剤、天然物由来エキス等も必要に応じて配合することが出来る。
【0015】
本明細書において使用される場合、用語「無機粉末」とは、イオン交換能力を有する、無機物を主成分とする粉末をいう。本発明の無機粉末としては、ゼオライト、リン酸ジルコニウム、粘土鉱物、含水酸化ビスマス、および、ハイドロタルサイト、ならびに、これらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
本明細書において使用される場合、用語「ゼオライト」とは、二酸化ケイ素からなる骨格を基本とし、一部のケイ素がアルミニウムに置き換わった物質をいう。代表的には、ゼオライトは、一般式:
M
2/nO・Al
2O
3・xSiO
2・yH
2O
(ここで、Mは、Na、K、Ca、および、Baからなる群から選択され、nは価数であり、x=2〜10であり、y=2〜7である)
で示されるが、この一般式に限定されることはない。
【0017】
本明細書において使用される場合、用語「粘土鉱物」とは、粘土を構成する鉱物をいう。代表的には、層状珪酸塩鉱物(フィロ珪酸塩鉱物)、方解石(カルサイト)、苦灰石(ドロマイト)、長石類、石英、および、ゼオライト、ならびに、これらの混合物からなる群から選択される物質を含有する。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「ハイドロタルサイト」とは、「ヒドロサルタイト」と互換可能に使用される。ハイドロタルサイトは、代表的には、一般式:
M
18−xM
2x(OH)
16CO
2・nH
2O
(ここで、M
1は、Mg
2+、Fe
2+、Zn
2+、Ca
2+、Li
2+、Ni
2+、Co
2+、および、Cu
2+からなる群から選択され、M
2は、Al
3+、Fe
3+、および、Mn
3+からなる群から選択される。)
で示されるが、この一般式に限定されることはない。
【0019】
(皮膚外用剤)
本発明の皮膚外用剤は、無機粉末を含む。さらに、本発明の皮膚外用剤は、必要に応じて、界面活性剤(例えば、非イオン界面活性剤)、アルコール、および、保湿剤からなる群から選択される物質を含んでもよい。本発明の皮膚外用剤は、美容のための化粧料であっても、洗浄剤であってもよい。なお、本発明の皮膚外用剤は、分散剤としてキサンタンガムを配合してもよいが、一部にキサンタンガムに対してアレルギーを有する人がいるため、その配合量は最小にする必要がある。配合しない場合は分散が悪くなり、製造に時間がかかることと、ゼオライトの沈殿が生じることもあるため、0.2%以下の配合が望ましい。
【0020】
(無機粉末)
本発明において用いられる無機粉末は、平均粒径が、10μm以下、好ましくは0.1μm〜10μm、より好ましくは、0.1μm〜5μmである。本発明の無機粉末の形状は、好ましくは、球状または粒状、あるいは、これらの混合物である。本発明の無機粉末は、ゼオライト、リン酸ジルコニウム、粘土鉱物、含水酸化ビスマス、および、ハイドロタルサイト、ならびにこれらの混合物からなる群から調製される。好ましくは、本発明の無機粉末は、ゼオライトの粉末である。
【0021】
(界面活性剤)
本発明において用いられる界面活性剤は、代表的には、非イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤としては、脂肪酸系としてしょ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドの中から選ばれる非イオン性界面活性剤、高級アルコール系としてポリオキシエチレンアルキルエーテルの中から選ばれる非イオン性界面活性剤、アルキルフェノール系としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルから選ばれる非イオン性界面活性剤が挙げられるがこれらに限定されない。これらの非イオン性界面活性剤の中から一種又は二種以上を任意に選択して使用することができる。
【0022】
(アルコール)
本発明において用いられるアルコールとしては、手指の消毒に用いられるエチルアルコールまたはイソプロピルアルコールが挙げられるがこれらに限定されない。
【0023】
(保湿剤)
本発明において用いられる保湿剤としては、例えば、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンメチルグリコシド、ヒアルロン酸、セラミド、アミノ酸、コラーゲンが挙げられるがこれらに限定されない。これらの保湿剤の中から一種又は二種以上を任意に選択して使用することができる。
【0024】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
以下の実施例では、無機粉末としてゼオライトを用いた。皮膚外用剤、特に化粧料は、(1)クリームに仕上げ、皮膚に塗布してもざらつきがなく、(2)長期間の保存でも沈殿や凝集を起こさず、(3)重金属のキレート力が保持されている必要がある。そこで、これらの要求を満たす条件を決定した。
【0026】
(実施例1:クリームに仕上げ、皮膚に塗布してもざらつきがない皮膚外用剤の調製)
ゼオライトを粉砕して種々の平均粒径を有するゼオライトを作製し、これに市販の乳液をあわせ皮膚に塗布し、ざらつきを検討した。その結果は、以下の表1のとおりである。
【0027】
【表1】
【0028】
以上の結果から、ゼオライトの平均粒径は、10μm以下、より好ましくは5μm以下であることが明らかとなった。
【0029】
(実施例2:長期間の保存でも凝集や沈殿を起こさない処方)
クリームとしては水洗いで簡単に落とせ、保湿効果の高いものが望まれる。そこで、油分をほとんど含有しないクリームの処方として以下の表2に記載の処方にて調製した。
【0030】
【表2】
【0031】
この処方に対し、ゼオライトの配合量を2〜10%まで2%ずつ段階的に増量させて、室温ならびに冷蔵庫で3ヶ月間保管し、凝集、沈殿の有無について観察した。ゼオライトの配合が10%になると凝集し沈殿物が見られたが、8%までは変化なかった。したがってゼオライトの最大配合割合を8%とすべきことが判明した。
【0032】
(実施例3:ゼオライトのキレート力)
ゼオライトはその結晶構造の中心に金属などをキレートさせて吸着する。それゆえ、他の一般のキレート剤と比較して、皮膚外用剤に配合した場合にもキレート力が維持されると考えられる。しかしながら、結晶構造が維持されていても、化粧品に含まれる成分によってキレート力が損なわれる可能性があるため、クリームに処方しセシウムの吸着力を測定した。
【0033】
使用したクリームは、上記の処方でゼオライトを8%配合したものである。標準液は0.05%塩化セシウム(5ppm)の水溶液を用い、ブランクは精製水、クリーム中のゼオライトのキレート力については、セシウム標準液1に対しクリーム1を加え、1時間放置後遠心分離し、透明な上澄みについて分析した。ゼオライト本来のキレート力については平均粒径5μに粉砕したものを水に8%になるようにゼオライトを分散させ、セシウム標準液と1:1になるように混合し、時々転倒混和しながら1時間放置したものを同様に遠心分離し、上澄みについて測定した。測定には、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)を用いた。結果を以下の表3に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
以上の結果からクリームに処方されたゼオライトは、本来の吸着力よりも半分に減衰するが、十分に重金属吸着力を保持したことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明にしたがって、皮膚の重金属汚染防止のため、および/または、重金属汚染された皮膚を洗浄するための皮膚外用剤が提供される。また、本発明の皮膚外用剤を洗浄剤として用いる場合、皮膚に付着した重金属を洗い落とす効果に加え、皮膚の余分な脂質や汚れを落としながら潤いを保つことができる。