【文献】
Zhiping Zheng, et al.,An effective method for thallium bromide purification and research on crystal properties,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A,2012年 2月 5日,Volume 676,Pages 26-31
【文献】
CYRIC ニュース,東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター,2010年11月30日,No. 48,P. 1-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、γ線等の放射線を計測する放射線検出器を用いた核医学診断装置が広く普及してきている。代表的な核医学診断装置としては、ガンマカメラ装置、単光子放射断層撮像装置(SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)撮像装置)、陽電子放出型断層撮像装置(PET(Positron Emission Tomography)撮像装置)などがある。また、放射線検出器を用いた放射能爆弾テロ対策用線量計等で、ホームランドセキュリティにおける放射線検出器のニーズが増大しつつある。
【0003】
これらの放射線検出器は、従来、シンチレータと光電子増倍管とを組み合わせたものであったが、近年、テルル化カドミウム、カドミウム・亜鉛・テルル、ガリウム砒素、臭化タリウム等の半導体結晶によって構成された半導体放射線検出器を用いた技術が注目されている。
【0004】
半導体放射線検出器は、放射線と半導体結晶との相互作用で生じた電荷を電気信号に変換する構成であるため、シンチレータを使用したものより電気信号への変換効率が良く、かつ小型化が可能である等、種々の特徴がある。
【0005】
半導体放射線検出器は、半導体結晶と、この半導体結晶の一面に形成されたカソード電極と、半導体結晶を挟んでこのカソード電極と対向するアノード電極とを備えている。これらのカソード電極とアノード電極との間に直流高圧電圧を印加することにより、X線、γ線等の放射線が半導体結晶内に入射したときに生成される電荷を、カソード電極あるいはアノード電極から信号として取出すようにしている。
【0006】
ここで、半導体結晶のうち、特に、臭化タリウムは、テルル化カドミウム、カドミウム・亜鉛・テルル、ガリウム砒素等他の半導体結晶に比べて光電効果による線減衰係数が大きく、薄い結晶で他の半導体結晶と同等のγ線感度を得ることができるため、臭化タリウムによって構成された半導体放射線検出器およびそれを用いた核医学診断装置は、他の半導体放射線検出器およびそれを用いた核医学診断装置に比べて、より小型化が可能である。
【0007】
また、臭化タリウムは、テルル化カドミウム、カドミウム・亜鉛・テルル、ガリウム砒素等他の半導体結晶に比べて安価であるため、臭化タリウムによって構成された半導体放射線検出器およびそれを用いた核医学診断装置は、他の半導体放射線検出器およびそれを用いた核医学診断装置に比べて、安価にすることが可能である。
【0008】
半導体結晶として臭化タリウムを用いてなる半導体放射線検出器において、
55Feを線源とする5.9keVのγ線エネルギースペクトル、および
241Amを線源とする59.6keVのγ線エネルギースペクトルは観測されていた(例えば、非特許文献1参照)。但し、非特許文献1では、
57Coを線源とするγ線および
137Csを線源とするγ線のエネルギースペクトルは観測されていなかった。
【0009】
また、非特許文献1のFig.1には、放射線検出器に用いる臭化タリウム結晶に含まれる不純物としての鉛の濃度として、10
2ng/g(すなわち0.1ppm)であることが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1〜
図8を用いて、本発明の一実施形態による半導体放射線検出器およびそれを用いた核医学診断装置の構成及び動作について説明する。
最初に、
図1を用いて、本実施形態による半導体放射線検出器の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による半導体放射線検出器の構成図である。
図1(a)は斜視図であり、
図1(b)は断面図である。
【0020】
本実施形態の半導体放射線検出器(以下では単に、「検出器」と称する)101は、平板状に形成された1枚の半導体結晶111と、半導体結晶111の一方の面(下面)に配置された第1電極112と、他方の面(上面)に配置された第2電極113とを備えている。
【0021】
半導体結晶111は、放射線(γ線等)と相互作用をして電荷を生成する領域をなしており、臭化タリウムの単結晶から切り出して形成されている。臭化タリウム単結晶は、市販の純度99.99%臭化タリウム原料を純化処理した後、単結晶育成装置によって育成する。なお、市販の純度99.99%臭化タリウム原料には、不純物として鉛(Pb)が含まれる。純化処理方法としては、帯域精製法や真空蒸留法等があるが、本実施例では、結晶中の不純物としての鉛濃度低減を目指して純化のプロセスを行った。単結晶育成方法としては、垂直ブリッジマン法を用いる。結晶の直径は約3インチである。本実施例ではプロセスの再現性を調べるために、同じ方法で2回の結晶育成を行った結果、No.1とNo.2の2個の3インチ単結晶インゴットを得た。該単結晶インゴットを内周スライサで切断した後、研磨して厚さ0.5mmの3インチ臭化タリウム単結晶ウエハを得ることができる。
【0022】
ここで、
図2を用いて、本実施形態による半導体放射線検出器に用いる半導体結晶の不純物としての鉛濃度について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による半導体放射線検出器に用いる半導体結晶の不純物としての鉛濃度の説明図である。
【0023】
図2は、前述のNo.1とNo.2の2種類の3インチ単結晶インゴットから得た単結晶ウエハNo.1およびNo.2に含まれる不純物としての鉛の濃度を調べるため、グロー放電質量分析(GDMS:Glow Discharge Mass Spectrometry)を行った結果を示している。GDMSによる鉛濃度の検出限界は0.1ppmであるが、ウエハNo.1およびNo.2共に鉛は検出されず、鉛の濃度は共に0.1ppm未満である。
【0024】
該単結晶ウエハを、例えば、寸法5.1mm×5.0mmにダイシングすることにより、
図1に示した平板状体の半導体結晶111を得る。ウエハNo.1から作製した半導体結晶111およびウエハNo.2から作製した半導体結晶111共に鉛の濃度は0.1ppm未満であるので、非特許文献1に記載の放射線検出器に用いられた従来の臭化タリウム結晶に比べて鉛の濃度が低減されている。したがって、鉛原子が一部のタリウム原子を置換した置換型固溶体を作ることが少なく、結晶中の欠陥密度も小さくなっている。そのため電荷キャリアが欠陥に捕獲されることも少なく長い捕獲長を得ることができる。
【0025】
第1電極112および第2電極113は、金または白金またはパラジウムのいずれかを用いて形成されており、その厚さは、例えば、50nmとしている。また、第1電極112および第2電極113の寸法は、例えば、5.1mm×5.0mmとしている。
【0026】
なお、前記した半導体結晶111、第1電極112、および第2電極113の寸法は、一例を示すものであり、前記各寸法に限定されるものでない。
【0027】
次に、第1電極112および第2電極113の作製工程について説明する。
【0028】
はじめに、平板状体の臭化タリウムからなる半導体結晶111の一方の面(下面、寸法5.1mm×5.0mm)に電子ビーム蒸着法によって金または白金またはパラジウムを50nm被着し、第1電極112を形成する。
【0029】
次に、半導体結晶111の第1電極を形成した面と反対側の面(上面、寸法5.1mm×5.0mm)に、電子ビーム蒸着法によって金または白金またはパラジウムを50nm被着し、第2電極113を形成する。
【0030】
このような工程を経ることによって、検出器101が得られる。
【0031】
次に、
図3を用いて、本実施形態による半導体放射線検出器に用いて放射線計測を行う場合の回路構成について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による半導体放射線検出器に用いて放射線計測を行う場合の回路構成を示す回路図である。
【0032】
図3においては、検出器101に電圧を印加する平滑コンデンサ320と、平滑コンデンサ320の一方の電極に正電荷を供給する第1直流電源311と、平滑コンデンサ320の前記一方の電極に負電荷を供給する第2直流電源312とが、検出器101に接続されている。
【0033】
さらに、第1直流電源311から平滑コンデンサ320の前記一方の電極への電流を通流するように定電流特性の極性を合わせた第1定電流ダイオード318と、平滑コンデンサ320の前記一方の電極から第2直流電源312への電流を通流するように定電流特性の極性を合わせた第2定電流ダイオード319が、第1直流電源311および第2直流電源312と検出器101との間に接続されている。
【0034】
さらに、第1直流電源311と平滑コンデンサ320の前記一方の電極との間には、第1フォトモスリレー315が接続され、また、第2直流電源312と平滑コンデンサ320の前記一方の電極との間には第2フォトモスリレー316が接続されている。
【0035】
さらに、第1直流電源311と第1フォトモスリレー315との間には、保護抵抗器313が接続され、また、第2直流電源312と第2フォトモスリレー316との間には保護抵抗器314が、接続されている。保護抵抗器313,314は、過電流防止用の抵抗である。
【0036】
第1フォトモスリレー315と第2フォトモスリレー316の開閉は、スイッチ制御装置317によって制御される。
【0037】
また、検出器101の出力にはブリーダ抵抗器321と結合コンデンサ322の一方の電極が接続され、結合コンデンサ322の他方の電極には検出器101の信号を増幅する増幅器323が接続されている。さらに、スイッチ制御装置317と増幅器323には、フォトモスリレー315,316の開閉および増幅器323の極性反転のタイミングを制御する極性統合制御装置324が接続されている。
【0038】
第1直流電源311の負極、第2直流電源312の正極、平滑コンデンサ320の前記一方の電極以外の他方の極、およびブリーダ抵抗器321の一方の極はそれぞれ接地線に接続される。
【0039】
なお、第1定電流ダイオード318と第2定電流ダイオード319は、互いに定電流特性の極性を逆にして直列に接続されて定電流装置361を構成している。この構成において、第1定電流ダイオード318と第2定電流ダイオード319に用いられている現状の一般的な定電流ダイオードは、電界効果型トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)のソース電極とゲート電極を短絡した構造で定電流特性が作り出されているので、逆電圧を加えた場合は電界効果型トランジスタの中で形成されているp−n接合が順方向にバイアスされ、大きな電流が流れる。つまり定電流ダイオードの電流特性は極性を持っている。したがって、第1定電流ダイオード318と第2定電流ダイオード319とは、互いに定電流特性の極性を逆にして直列に接続されることによって、極性の差がない定電流特性が得られる。
【0040】
γ線等の放射線を計測する場合には、検出器101の第1電極112と第2電極113の間に、第1直流電源311あるいは第2直流電源312と平滑コンデンサ320によって、電荷収集用のバイアス電圧が印加される(例えば、+500Vあるいは−500V)。
【0041】
ここで、検出器101の部材である半導体結晶111は臭化タリウムで構成されているので、検出器101に対して第1直流電源311を用いて例えば+500Vのバイアス電圧を連続して印加すると、半導体結晶111にポーラリゼーション(polarization),すなわち電荷の偏りによる放射線計測性能の劣化が発生し、γ線のエネルギー分解能が劣化する。
【0042】
ポーラリゼーションを防止するには、検出器101に印加するバイアス電圧の極性を周期的に反転する必要がある。すなわち、例えば+500Vから−500V、−500Vから+500Vに極性反転する必要がある。反転の周期は、例えば5分である。
【0043】
最初、検出器101に+500Vのバイアス電圧を印加する場合について説明する。第1直流電源311から検出器101に対して+500Vの電圧を直接印加するとノイズが発生するため、平滑コンデンサ320を用いて検出器101に電圧を印加する。
【0044】
スイッチ制御装置317は、検出器101に正のバイアス電圧を印加する時に第1フォトモスリレー315を閉じていると共に第2フォトモスリレー316を開いている。
【0045】
平滑コンデンサ320は、定電流装置361を介して充電され、平滑コンデンサ320の電圧は+500Vとなる。それに伴って、検出器101に印加されるバイアス電圧も+500Vとなる。逆に、検出器101に−500Vのバイアス電圧を印加する場合、負の直流バイアス電圧は、第2直流電源312によって供給される。
【0046】
スイッチ制御装置317は、検出器101に負のバイアス電圧を印加する時に第1フォトモスリレー315を開くと共に、第2フォトモスリレー316を閉じている。平滑コンデンサ320は、定電流装置361を介して充電され、平滑コンデンサ320の電圧は−500Vとなる。平滑コンデンサ320の一方の電極に正電荷あるいは負電荷を蓄積することで、検出器101へ印加するバイアス電圧を正負反転させる。
【0047】
極性統合制御装置324は、5分毎の極性反転の時間情報に基づいてスイッチ制御装置317と増幅器323に「正バイアス」、「負バイアス」、「正から負へのバイアス反転」、「負から正へのバイアス反転」の指令信号を送信する。スイッチ制御装置317はこの指令信号に基づいてフォトモスリレー315、316を開閉する。
【0048】
ここで、
図4を用いて、本実施形態による半導体放射線検出器に印加されるバイアス電圧の時間変化について説明する。
図4は、本発明の一実施形態による半導体放射線検出器に印加されるバイアス電圧の時間変化の説明図である。
【0049】
本実施形態において、検出器101に印加されるバイアス電圧は、最初電圧V1(+500V)であるが、バイアス電圧の周期的反転により、電圧V3(−500V)に変化し、5分後に再び電圧V5(+500V)に復帰する。
【0050】
バイアス電圧が反転する時、その途中の電圧V2,V4の時間変化は、直線的な勾配となる。これは、定電流装置361の効果である。また、バイアス電圧を反転させる間はバイアス電圧の絶対値が電荷収集用として不十分となりγ線検出信号を十分に取出せなくなるが、計測の途切れ時間(電圧V2,V4が印加される時間t1,t2)はそれぞれ0.3秒である。5分の計測中に0.3秒の途切れ時間が発生するが、半導体放射線検出器を核医学診断装置やホームランドセキュリティに応用する場合には、十分に短い時間であって、問題とはならない。
【0051】
バイアス電圧が印加された検出器101にγ線が入射すると、検出器101を構成する半導体結晶111と入射したγ線との間で相互作用が起こり、電子および正孔といった電荷が生成される。
【0052】
生成された電荷は、検出器101からγ線検出信号として出力される。このγ線検出信号は、結合コンデンサ322を介して、増幅器323に入力される。ブリーダ抵抗器321は、結合コンデンサ322に電荷が蓄積し続けることを防止し、検出器101の出力電圧が上がり過ぎないようにする働きをする。増幅器323は、微小な電荷であるγ線検出信号を電圧に変換し増幅する働きをする。
【0053】
増幅器323によって増幅されたγ線検出信号は、後段のアナログ・デジタル変換器(図示せず)でデジタル信号に変換され、γ線のエネルギー毎にデータ処理装置(図示せず)によってカウントされる。
【0054】
次に、
図5及び
図6を用いて、本実施形態による半導体放射線検出器を用いて計測したγ線エネルギースペクトルについて説明する。
図5及び
図6は、本発明の一実施形態による半導体放射線検出器を用いて計測したγ線エネルギースペクトルの説明図である。
【0055】
最初に、
図5を用いて、本実施形態の半導体放射線検出器101を用いて計測した
57Co線源のγ線エネルギースペクトルについて説明する。
図5(a)は、前述のウエハNo.1から切り出した半導体結晶111を用いて検出器101を作製した場合の計測結果を示している。
図5(b)は、ウエハNo.2から切り出した半導体結晶111を用いて検出器101を作製した場合の計測結果を示している。
【0056】
図5(a)、(b)において、横軸はエネルギーチャンネルのチャンネル番号を示している。各番号のエネルギーチャンネルには、様々なエネルギーのγ線がエネルギー別に各チャンネルに対応づけて割り当てられている。例えば、
図5(a)において、略420チャンネル近辺のエネルギーチャンネルに対して、略122keVのγ線エネルギーが割り当てられている。縦軸は各エネルギーチャンネルのγ線の計数率(counts per min、1分当たりのカウント数)を示している。
【0057】
図5(a)において、略122keVに対応したエネルギーチャンネルの計数率にピークが見られる。このようなピークにおけるエネルギー分解能は、次のように表わせる。
【0058】
エネルギー分解能=(ピークの半値幅のチャンネル数)/(ピーク直下のチャンネル数)
図5(a)においては、122keVのエネルギー分解能は略8%であり、
図5(b)においては122keVのエネルギー分解能は略5%である。
【0059】
以上、
図1に示した本実施形態の検出器101を、ウエハNo.1から切出した半導体結晶111を用いて構成した場合と、ウエハNo.2から切出した半導体結晶111を用いて構成した場合でエネルギー分解能に多少の差はあるが、再現性良く、両方の場合共に122keVのエネルギースペクトルが得られる。
【0060】
次に、
図6を用いて、本実施形態の半導体放射線検出器101を用いて計測した
137Cs線源のγ線エネルギースペクトルについて説明する。
図6(a)は、ウエハNo.1から切り出した半導体結晶111を用いて検出器101を作製した場合の計測結果を示している。
図6(b)は、ウエハNo.2から切り出した半導体結晶111を用いて検出器101を作製した場合の計測結果を示している。
図6(a)、(b)において、横軸はエネルギーチャンネルのチャンネル番号を示している。縦軸は各エネルギーチャンネルのγ線の計数率(counts per min、1分当たりのカウント数)である。
【0061】
図6(a)においては、662keVのエネルギー分解能は略5%であり、
図6(b)においては662keVのエネルギー分解能は略4%である。
【0062】
以上、
図1に示した本実施形態の検出器101を、ウエハNo.1から切出した半導体結晶111を用いて構成した場合とウエハNo.2から切出した半導体結晶111を用いて構成した場合でエネルギー分解能に多少の差はあるが、再現性良く、両方の場合共に662keVのエネルギースペクトルが得られる。
【0063】
したがって、本実施形態の検出器101は、122keVおよび662keVの放射線計測性能の点で、非特許文献1に記載の従来の臭化タリウム結晶を半導体結晶に用いて検出器を構成した場合に比べて、大きく改善されている。これは、本実施形態の検出器101において、半導体結晶111を、鉛の濃度が0.1ppm未満である臭化タリウムの単結晶で構成したことによる。
【0064】
半導体結晶として、鉛の濃度が0.1ppm未満である臭化タリウムの単結晶を用いることで、臭化タリウム単結晶中の鉛原子の濃度が小さいので、タリウム原子に対して鉛原子が置換してできる結晶中の欠陥の密度が小さくなり、電荷キャリアの捕獲長を長くできるので、放射線検出器として、高いエネルギー分解能で122keVおよび662keVのγ線エネルギースペクトルを計測することができる。
【0065】
ここで、半導体結晶として、鉛の濃度が0.1ppm未満である臭化タリウムの単結晶を用いるということは、鉛の濃度がグロー放電質量分析(GDMS:Glow Discharge Mass Spectrometry)における鉛の検出限界以下である臭化タリウムの単結晶を用いるということもできるものである。このような半導体結晶を用いることで、放射線検出器として、高いエネルギー分解能で122keVおよび662keVのγ線エネルギースペクトルを計測することができる。
【0066】
また、半導体結晶として、鉛の濃度が0.1ppm未満である臭化タリウムの単結晶を用いるということは、半導体結晶として、鉛の濃度が0.0ppmである臭化タリウムの単結晶を用いるということもできる。ここで、鉛の濃度が0.0ppmであるということは、有効数字2桁以下の桁の数字は何でもよく、例えば、0.099ppm,0.09ppm,0.04ppm,や0.01ppm以下の鉛濃度を含むものである。このような半導体結晶を用いることで、放射線検出器として、高いエネルギー分解能で122keVおよび662keVのγ線エネルギースペクトルを計測することができる。
【0067】
さらに、半導体結晶として、鉛の濃度が0.1ppm未満である臭化タリウムの単結晶を用いるということは、半導体結晶として、鉛の置換型固溶体を含まない臭化タリウムの単結晶を用いるということもできる。これは、鉛の濃度が0.1ppm未満と低い場合、不純物の鉛によってタリウム原子の一部が置換されて置換型固溶体が形成されることがなく、欠陥が生じないため、電荷キャリアが捕獲されにくく捕獲長が長くなる。そのため、このような半導体結晶を用いることで、放射線検出器として、高いエネルギー分解能で122keVおよび662keVのγ線エネルギースペクトルを計測することができる。
【0068】
さらに、半導体結晶として、鉛の濃度が0.1ppm未満である臭化タリウムの単結晶を用いるということは、半導体結晶として、電荷キャリアが捕獲される欠陥がない臭化タリウムの単結晶を用いるということもできる。これは、鉛の濃度が0.1ppm未満と低い場合、不純物の鉛によってタリウム原子の一部が置換されて置換型固溶体が形成されることがなく、電荷キャリアを捕獲する欠陥が生じないため、電荷キャリアが捕獲されにくく捕獲長が長くなる。そのため、このような半導体結晶を用いることで、放射線検出器として、高いエネルギー分解能で122keVおよび662keVのγ線エネルギースペクトルを計測することができる。
【0069】
次に、
図7及び
図8を用いて、本実施形態による半導体放射線検出器を用いた核医学診断装置の構成について説明する。
図7及び
図8は、本発明の一実施形態による半導体放射線検出器を用いた核医学診断装置の構成図である。
【0070】
最初に、
図7を用いて、核医学診断装置として、単光子放射断層撮像装置(SPECT撮像装置)600に本実施形態の検出器101を適用した場合について説明する。
【0071】
図7において、SPECT撮像装置600は、中央部分に円柱状の計測領域602を取り囲むようにして、2台の上下に位置した放射線検出ブロック601A,601Bと、回転支持台606と、ベッド31と、画像情報作成装置603を備えている。
【0072】
ここで、上側に位置する放射線検出ブロック601Aは、複数の放射線計測ユニット611と、ユニット支持部材615と、遮光・電磁シールド613とを備えている。放射線計測ユニット611は、複数の半導体放射線検出器101と、基板612と、コリメータ614とを備えている。また、下部に位置する放射線検出ブロック601Bも同様の構成である。また、画像情報作成装置603は、データ処理装置32と、表示装置33とから構成されている。
【0073】
放射線検出ブロック601A,601Bは、回転支持台606において周方向に180度ずれた位置に配置されている。具体的には、それぞれの放射線検出ブロック601A,601Bの各ユニット支持部材615(一方のみ図示)が、周方向に180度隔てた位置で回転支持台606に取り付けられる。そして、ユニット支持部材615に、基板612を含む複数の放射線計測ユニット611が着脱可能に取り付けられている。
【0074】
複数の検出器101は、コリメータ614で仕切られる領域Kに、基板612に取り付けられた状態で多段にそれぞれ配置される。コリメータ614は、放射線遮蔽材(例えば、鉛、タングステン等)から形成され、放射線(例えば、γ線)が通過する多数の放射線通路を形成している。
【0075】
全ての基板612およびコリメータ614は、回転支持台606に設置された遮光・電磁シールド613内に配置される。この遮光・電磁シールド613は、γ線以外の電磁波の検出器101等への影響を遮断している。
【0076】
このようなSPECT撮像装置600では、放射性薬剤を投与された被検体Hが載置されるベッド31が移動され、被検体Hは、一対の放射線検出ブロック601A,601Bの間に移動される。そして、回転支持台606が回転されることによって、各放射線検出ブロック601A,601Bが被検体Hの周囲を旋回して検出が開始される。
【0077】
そして、放射性薬剤が集積した被検体H内の集積部(例えば、患部)Dからγ線が放出されると、放出されたγ線がコリメータ614の放射線通路を通って対応する検出器101に入射する。そして、検出器101は、γ線検出信号を出力する。このγ線検出信号は、γ線のエネルギー毎にデータ処理装置32によってカウントされ、その情報等が表示装置33に表示される。
【0078】
なお、
図7において、放射線検出ブロック601A,601Bは、回転支持台606に支えられながら、太い矢印で示したように回転し、被検体Hとの角度を変えながら、撮像、および計測を行う。また、放射線検出ブロック601A,601Bは、細い矢印で示したように上下に移動可能であり、被検体Hとの距離を変えることができる。
【0079】
このようなSPECT撮像装置600に用いられた検出器101は、半導体結晶として臭化タリウムを用いつつ、高いエネルギー分解能で122keVのγ線エネルギースペクトルを計測可能である。したがって、小型で安価、かつ核医学検査用の放射性医薬品に用いられる代表的な放射性核種の一つであり141keVのγ線を放出する99mTcを高いエネルギー分解能で撮像可能なSPECT撮像装置を提供することが可能になる。
【0080】
次に、
図8を用いて、核医学診断装置として、PET撮像装置700に本実施形態の検出器101を適用した場合について説明する。
【0081】
本実施形態の検出器101は、SPECT撮像装置600に限られることではなく、核医学診断装置としての、ガンマカメラ装置、PET撮像装置等に対しても用いることができる。
【0082】
図8において、陽電子放出型断層撮像装置(PET撮像装置)700は、中央部分に円柱状の計測領域702を有する撮像装置701と、被検体Hを支持して長手方向に移動可能なベッド31と、画像情報作成装置703を備えて構成される。なお、画像情報作成装置703は、データ処理装置32および表示装置33を備えて構成されている。
【0083】
撮像装置701には、計測領域702を取り囲むようにして、前記検出器101を多数搭載した基板Pが配置されている。
【0084】
このようなPET撮像装置700では、データ処理機能を有するデジタルASIC(デジタル回路用のApplication Specific Integrated Circuit、デジタル回路用の特定用途向け集積回路、図示せず)等を備え、γ線のエネルギー値、時刻、検出器101の検出チャンネルID(Identification)を有するパケットが作成され、この作成されたパケットがデータ処理装置32に入力されるようになっている。
【0085】
検査時には、被検体Hの体内から放射性薬剤に起因して放射されたγ線が、検出器101によって検出される。すなわち、PET撮像用の放射性薬剤から放出された陽電子の消滅時に、一対のγ線が約180度の反対方向に放出され、多数の検出器101のうち別々の検出チャンネルで検出される。検出されたγ線検出信号は、該当する前記デジタルASICに入力されて、前記したように信号処理が行われ、γ線を検出した検出チャンネルの位置情報およびγ線の検出時刻情報が、データ処理装置32に入力される。
【0086】
そして、データ処理装置32によって、1つの陽電子の消滅により発生した一対のγ線を1個として計数(同時計数)し、その一対のγ線を検出した2つの検出チャンネルの位置を、それらの位置情報を基に特定する。また、データ処理装置32は、同時計数で得た計数値および検出チャンネルの位置情報を用いて、放射性薬剤の集積位置、すなわち腫瘍位置での被検体Hの断層像情報(画像情報)を作成する。この断層像情報は表示装置33に表示される。
【0087】
このようなPET撮像装置700に用いられた検出器101は、半導体結晶として臭化タリウムを用いつつ、高いエネルギー分解能で662keVのγ線エネルギースペクトルを計測可能である。したがって、小型で安価、かつPET検査用の放射性医薬品から発生した陽電子より放出される511keVのγ線を高いエネルギー分解能で検出可能なPET撮像装置を提供することが可能になる。
【0088】
以上説明したように、本実施形態によれば、放射線検出器を構成する半導体結晶として臭化タリウムを用いつつ、該放射線検出器によって高いエネルギー分解能で122keVおよび662keVのγ線エネルギースペクトルを計測可能である。したがって、小型で安価、かつエネルギー分解能が高い半導体放射線検出器、およびこの半導体放射線検出器を搭載した核医学診断装置を提供できる。
【0089】
なお、本発明の半導体放射線検出器、およびそれを搭載した核医学診断装置は、高いエネルギー分解能で放射性薬剤を撮像可能であり、かつ小型化および価格低減を図ることができるため、これら装置の普及に貢献して、この分野で広く利用、採用される。