(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機に代表される携帯端末には、GPS(Global Positioning System)のような測位機能が、一般的に搭載されてきている。そのため、ユーザは、携帯端末を用いて、現在位置を測位できると共に、その位置をネットワークを介してサーバへ送信することによって、位置に応じた様々なサービス情報を受信することができる。
【0003】
従来、携帯端末のGPS機能によって取得された位置情報をサーバへ送信し、当該サーバが、そのユーザの行動履歴から行動範囲を算出し、その行動範囲を反映した情報を提供する技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、携帯端末によって計測された多数の位置情報同士の距離に基づいてクラスタリングし、ユーザ毎の行動範囲を算出する。
【0004】
これに対し、携帯端末のGPS機能によって取得された位置情報に基づく行動履歴から、ユーザにとって有意な位置(以下、「有意位置」と称する)を学習する技術がある。第1の実施例として、k-means法の改良方法によってユーザ毎の位置情報をクラスタリングし、総滞在時間に基づいて滞在状態を判定する技術がある(例えば非特許文献1参照)。また、二次元平面上における無限混合ガウスモデルを用いたクラスタリングを用いてユーザの位置情報をクラスタリングする技術もある(例えば非特許文献2参照)。
【0005】
前述したいずれの技術も、携帯端末のGPS機能によって、その位置情報を取得する必要がある。しかしながら、携帯端末について、GPS機能及びそのアプリケーションを常に又は定期的に起動させることは、携帯端末の電池の消耗を早めるだけでなく、携帯端末からのパケットの送出量を増加させてしまうという問題がある。
【0006】
これに対し、通信事業者側としては、携帯端末によって取得された位置情報ではなく、その携帯端末が配下となる基地局の位置情報の履歴を用いて、携帯端末を所持したユーザ行動としての滞在地及び時間区間を推定できることが好ましい。この場合、携帯端末が常に又は定期的にGPS機能を起動させる必要もない。しかしながら、このような基地局位置情報は、空間的粒度が粗くかつ時間間隔が一定でないという問題がある。定常的な測位位置が得られない場合、前述した従来技術を適用することも難しい。また、ユーザの携帯端末が、「滞在」しているのか「移動」しているのかを明確に区分することもできない。
【0007】
また、通信事業者側として、携帯端末が配下となる基地局の位置情報の履歴に対して、Leader Algorithmと称される凝集型クラスタリング方法を用いて、有意位置を抽出する技術がある(例えば非特許文献3参照)。
【0008】
更に、通信事業者側として、基地局の切り替わり回数に関して上限値(例えば3回)を設け、上限値を超えない一連の時間帯を「滞在時間」として抽出する技術もある(例えば非特許文献4参照)。
【0009】
更に、通信事業者側として、携帯端末の測位機能を起動させることなく、通信事業者設備によって取得可能な、空間的粒度が粗く且つ時間間隔が一定でない基地局位置情報を用いて、有意位置を推定する技術もある(例えば特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1に記載の技術によれば、一定時間内での移動距離(速度)に基づいて滞在状態を判定するために、携帯端末における測位時間間隔が一定である必要がある。測位時間間隔が一定でなく且つ長くなるほど、実際の速度との誤差が大きくなり、滞在位置の判定精度が低下する。そのために、定期的な測位が実行できない状況下では、このアルゴリズムを適用することが難しく、滞在地か又は移動中かを判別することができない。
【0013】
非特許文献2に記載の技術によれば、空間的に疎な位置情報の履歴(位置情報同士の地理的距離が比較的長い)を用いた場合、混合ガウス分布のパラメータ推定の性質によっては、離れた位置情報同士を、同一のクラスタに含めてしまうという傾向がある。これによっても、滞在位置の判定精度が低下する。
【0014】
非特許文献3及び特許文献2に記載の技術によれば、2つの滞在地の間における移動中に発生する通信の影響を受けて、滞在地の位置や時間がずれてしまうという精度の問題もある。特に、特許文献2に記載の技術によれば、基地局によって計測された多数の位置情報をクラスタリングした後に、滞留状態を判定しているために、滞在地の精度が低いという問題もある。
【0015】
非特許文献4に記載の技術によれば、位置情報を考慮しないため、移動中に通信をほとんど発生させない携帯端末の場合、移動前と移動後の滞在地を同一の滞在地にしてしまうという問題があった。また、狭い範囲に基地局が密に配置されている場合、滞在時間を細かく分割してしまうという問題もあった。
【0016】
特許文献2に記載の技術によれば、通信事業者側として、通信事業者設備によって取得可能な、空間的粒度が粗く且つ時間間隔が一定でない基地局位置情報の履歴に対して時間窓分割(時間区間の分割)及びクラスタリングを適用して有意位置を推定し、有意位置の「滞留」の度合いを評価しているが、各時間区間について「滞在」か「移動」かを明確に区分することはできなかった。
【0017】
そこで、本発明では、携帯端末の測位機能を起動させることなく、通信事業者設備によって取得可能な、空間的粒度が粗く且つ時間間隔が一定でない基地局位置情報を用いて、ユーザにとって有意な滞在地を高い精度で推定することができる装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、携帯端末を所持したユーザの滞在地を推定する装置であって、
携帯端末毎に、
基地局と通信した日時刻及びその基地局位置情報を対応付けた複数の通信履歴を蓄積した通信履歴蓄積手段と、
複数の通信履歴を、所定の時間窓(時間区間)に分割する時間窓分割手段と、
時間窓毎に、
各基地局を中心とした所定範囲内の基地局の位置の重心を代表点として算出し、該代表点の数が1つとなる場合には「滞在」と判定し、そうでない場合には「移動」と判定する滞在移動判定手段と
「滞在」と判定された時間
窓を収集する滞在時間窓収集手段と、
滞在時間窓収集手段によって収集された複数の時間窓における複数の代表点の重心を「滞在地」とする位置クラスタリング手段と
を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
「移動」と判定された時間
窓を収集する移動時間窓収集手段と、
滞在移動判定手段によって判定された時間窓毎の「滞在」「移動」を、時間経過に沿って並べたユーザ行動履歴として導出するユーザ行動履歴推定手段と
を有することも好ましい。
【0020】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
滞在移動判定手段は、所定数以上の通信履歴が記録されていない時間窓については、「未判定」と判定し、
「滞在」と判定され且つ同一の滞在地に属する少なくとも2つの時間窓の間に
、「未判定」とされた時間窓のみが挟まれている場合、当該未判定
の時間窓も、同一の滞在地に位置するものと判定する時間クラスタリング手段を更に有する
ことも好ましい。
【0021】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
滞在移動判定手段は、時間窓毎に、
(S1)任意の点(
基地局位置情報)を、最初の中心点とし、
(S2)中心点から、第1の閾値の半径の円に含まれる点を用いて、重心を算出し、
(S3)重心と現在の中心点との差が、第2の閾値以下であるか否かを判定し、
(S4)S3によって
重心と現在の中心点との差が第2の閾値以下でないと判定された場合、その重心を次の中心点として、再びS2へ戻って、
重心と現在の中心点との差が第2の閾値以下に収まるまで繰り返し、
(S5)S3によって
重心と現在の中心点との差が第2の閾値以下であると判定された場合、その重心を代表
点とし、
最後に、当該時間窓について、
異なる代表
点が、1個の場合には「滞在」と判定し、複数個の場合には「移動」と判定する
ことも好ましい。
【0023】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
滞在移動判定手段は、時間窓毎に、複数の基地局位置情報に対してカーネル密度推定を用いて
代表点の数が1つとなるか否かを判定することも好ましい。
【0024】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
位置クラスタリング手段
は、
(S1)任意の点(
代表点)を、最初の中心点とし、
(S2)中心点から、第1の閾値の半径の円に含まれる点を用いて、重心を算出し、
(S3)重心と現在の中心点との差が、第2の閾値以下であるか否かを判定し、
(S4)S3によって
重心と現在の中心点との差が第2の閾値以下でないと判定された場合、その重心を次の中心点として、再びS2へ戻って、
重心と現在の中心点との差が第2の閾値以下に収まるまで繰り返し、
(S5)S3によって
重心と現在の中心点との差が第2の閾値以下であると判定された場合、その重心を
「滞在地」とする
ことも好ましい。
【0025】
本発明によれば、前述した
装置は、基地局と広域無線通信網
を介して接続した通信設備装置
であり、
通信履歴蓄積手段に通信履歴を蓄積するために、
基地局識別子及び基地局位置情報を対応付けて記憶する基地局位置情報管理手段と、
携帯端末を配下に接続させる基地局から、
広域無線通信網を介して、携帯端末毎における通信された日時刻及びその基地局識別子の通信履歴を収集する通信履歴収集手段と、
基地局位置情報管理手段を用いて、通信履歴毎に、基地局識別子に対応する基地局位置情報を更に対応付ける位置情報履歴生成手段と
を更に有することを特徴とす
る。
【0026】
本発明によれば、装置に搭載されたコンピュータを、携帯端末を所持したユーザの滞在地を推定するように機能させるプログラムであって、
携帯端末毎に、
基地局と通信した日時刻及びその基地局位置情報を対応付けた複数の通信履歴を蓄積した通信履歴蓄積手段と、
複数の通信履歴を、所定の時間窓(時間区間)に分割する時間窓分割手段と、
時間窓毎に、
各基地局を中心とした所定範囲内の基地局の位置の重心を代表点として算出し、該代表点の数が1つとなる場合には「滞在」と判定し、そうでない場合には「移動」と判定する滞在移動判定手段と
「滞在」と判定された時間
窓を収集する滞在時間窓収集手段と、
滞在時間窓収集手段によって収集された複数の時間窓における複数の代表点の重心を「滞在地」とする位置クラスタリング手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0027】
本発明によれば、携帯端末を所持したユーザの滞在地を推定する
通信設備装置のユーザ滞在地推定方法であって、
通信設備装置は、携帯端末毎に、
基地局と通信した日時刻及びその基地局位置情報を対応付けた複数の通信履歴を蓄積した通信履歴蓄積部を有し、
通信設備装置は、
複数の通信履歴を、所定の時間窓(時間区間)に分割する第1のステップと、
時間窓毎に、
各基地局を中心とした所定範囲内の基地局の位置の重心を代表点として算出し、該代表点の数が1つとなる場合には「滞在」と判定し、そうでない場合には「移動」と判定する第2のステップと、
「滞在」と判定された時間
窓を収集する第3のステップと、
第3のステップによって収集された複数の時間窓における複数の代表点の重心を「滞在地」とする第4のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明の装置、プログラム及び方法によれば、携帯端末の測位機能を起動させることなく、通信事業者設備によって取得可能な、空間的粒度が粗く且つ時間間隔が一定でない基地局位置情報を用いて、ユーザにとって有意な滞在地を高い精度で推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0031】
図1は、携帯端末の移動を表す空間的な外観図である。
【0032】
ユーザに所持された携帯端末(例えば携帯電話機やスマートフォン)は、いずれの位置にあっても、常に、基地局の配下にあってその基地局と通信し続けている。
図1によれば、ユーザは、自宅の住所及び職場の居所と、訪問先となるD駅周辺とが、「滞在地」となる。また、そのユーザは、自宅、職場及びD駅周辺以外の場所では、「移動」中となる。
【0033】
多数の基地局を統合する通信事業者設備では、携帯端末毎に、空間的粒度が粗く、且つ、時間間隔が一定でない基地局位置情報を常に収集することができる。「空間的粒度が粗く」とは、位置情報同士の地理的な距離が比較的長いことを意味する。また、「時間間隔が一定でない」とは、位置情報の取得時間間隔が比較的ばらついていることを意味する。
【0034】
広域無線通信網(携帯電話網)に接続された基地局3は、その配下に位置する携帯端末2と通信することによって、その日時刻を通信履歴として取得する。通信履歴は、携帯端末に対するユーザ操作を要する通話やメールの送受信やWebページの閲覧の時に限られない。携帯端末にインストールされたアプリケーションが自動的に実行するデータの送受信の時にも、基地局3によって携帯端末2からの通信履歴として取得される。
【0035】
図2は、本発明におけるユーザの滞在地を推定する装置の機能構成図である。
【0036】
本発明における装置1は、携帯端末を所持したユーザの滞在地を推定するものであって、通信履歴を予め蓄積したものである。また、装置1は、通信履歴を予め蓄積することなく、広域無線通信網(携帯電話網)に設置することによって基地局3から通信履歴を収集する通信設備装置であってもよい。
【0037】
図2によれば、滞在地推定用の装置1は、通信履歴蓄積部121と、時間窓分割部122と、滞在移動判定部123と、滞在時間窓収集部124と、位置クラスタリング部125と、ユーザ行動履歴推定部126と、移動時間窓収集部127と、時間クラスタリング部128と、アプリケーション処理部13とを有する。アプリケーション処理部13は、本発明によって推定されたユーザ毎の滞在地に基づいて、様々なサービスを実行する。通信インタフェース部を除くこれら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、
図2によれは、各機能構成部を用いた処理の流れは、滞在地を推定する方法としても理解できる。
【0038】
また、装置1は、広域無線通信網(携帯電話網)に設置された通信設備装置である場合、通信履歴蓄積部121へ通信履歴を蓄積するために、オプション機能として、広域通信網に接続する通信インタフェース部10と、基地局位置情報管理部111と、通信履歴収集部112と、位置情報履歴生成部113とを更に有する。以下では、装置1は、通信設備装置であるものとして説明する。
【0039】
[基地局位置情報管理部111]
基地局位置情報管理部111は、基地局識別子と基地局位置情報とを対応付けて記憶する。
【0040】
図3は、基地局位置情報の表である。基地局識別子毎に、緯度・経度の基地局位置情報が対応付けられている。
図3によれば、基地局1は、緯度35.825及び経度139.510の位置に設置されていることが理解できる。また、基地局3は、緯度35.825及び経度139.520の位置に設置されていることが理解できる。尚、このような基地局位置情報は、基地局位置情報管理部111内に予め蓄積したものであってもよいし、通信インタフェース部10を介して各基地局3から取得するものであってもよい。
【0041】
[通信履歴収集部112]
通信履歴収集部112は、携帯端末2を配下に接続させる基地局3から、携帯端末2毎における日時刻及び基地局識別子の通信履歴を収集する。
【0042】
図4は、通信履歴の表である。通信履歴は、基地局3が携帯端末2からの通信を受け付けた記録である。通信履歴は、携帯端末2の「端末識別子」(アドレス、電話番号、識別番号等)毎に、「日時刻」及び「基地局識別子」が対応付けられている。
通信履歴(端末識別子、日時刻、基地局識別子)
図4における最初のログによれば、携帯端末0001は、2010年6月15日17:54:50に、基地局3と通信したことが記録されている。また、携帯端末0001は、2010年6月15日17:57:00には、基地局1と通信したことが記録されている。
【0043】
[位置情報履歴生成部113]
位置情報履歴生成部113は、基地局位置情報管理部111を用いて、通信履歴毎に、基地局識別子に対応する基地局位置情報を更に対応付ける。その通信履歴は、通信履歴蓄積部121へ出力される。
【0044】
図5は、通信履歴に基地局位置情報を対応付けた表である。
図5の表は、
図4の表の基地局識別子の部分に、
図3の基地局の緯度・経度が対応付けられたものである。
図5における最初のログによれば、携帯端末0001は、2010年6月15日17:54:50に、緯度35.825及び経度139.52の基地局と通信したことが理解できる。また、携帯端末0001は、2010年6月15日17:57:00に、緯度35.825及び経度139.51の基地局と通信したことが理解できる。
【0045】
[通信履歴蓄積部121]
通信履歴蓄積部121は、位置情報履歴生成部113から出力された通信履歴を蓄積する。
【0046】
[時間窓分割部122]
時間窓分割部122は、通信履歴蓄積部121から出力された複数の通信履歴を、所定の時間窓(時間区間)に分割する。時間窓は、時間幅T及びシフト幅Sによって決定される。シフト幅Sとは、開始時刻をSだけ遅らせたものである。即ち、T>Sの場合、時間窓は、T−Sだけ重畳することとなる。
【0047】
時間幅Tは、「どの時間幅で滞在を判定するか」を決めるパラメータである。時間窓内に所定数以上の位置情報がない場合には滞在/移動の判定が難しい。そのために、時間幅Tは、全体の通信履歴数から判断して、時間窓内にできる限り所定数以上の位置情報が入るように決める必要がある。
【0048】
また、シフト幅Sは、その幅を短くすると、滞在時間区間の時間解像度が増す。一方で、その幅を長くすると、時間窓の数が多くなるため、計算量が増大する。従って、シフト幅Sは、アプリケーションが求める時間解像度及び処理時間に応じて決める必要がある。
【0049】
図6は、各時間窓の表である。
図6によれば、T=20分及びS=10分とした場合における、各時間窓の開始時刻及び終了時刻を表す。
図6によれば、時間窓1は、17:50:00〜18:09:59であり、T=00:20:00となっている。また、時間窓2は、18:00:00〜18:19:59であり、時間窓1に対してS=00:10:00となっている。
【0050】
図7は、
図5の表を、
図6の時間窓で分割した表である。
図7によれば、時間窓1には、5個の通信履歴が記録されており、時間窓3には、8個の通信履歴が記録されている。
【0051】
[滞在移動判定部123]
滞在移動判定部123は、時間窓毎に、複数の基地局位置情報に基づく位置の確率分布が、単峰性である場合には「滞在」と判定し、そうでない場合には「移動」と判定する。「単峰性」とは、位置の確率分布が1つの山の形状をしていることを意味する。即ち、1つの時間窓(例えば20分)について、単峰性であるということは、その位置について「滞在」と判定することができる。逆に、位置の確率分布が複数の山の形状をしている場合、多峰性を意味する。1つの時間窓について、多峰性であるということは、その位置について「移動」中と判定することができる。
【0052】
尚、滞在移動判定部123は、後述する時間クラスタリング部128のために、所定数以上の通信履歴が記録されていない時間窓については、「未判定」とすることも好ましい。例えば所定数2個以上の通信履歴が記録されていない時間窓については、「未判定」とする。
【0053】
図8は、単峰性か否かを判定するためのフローチャートである。
【0054】
図8によれば、滞在移動判定部123は、位置情報の確率分布が単峰性か否かを判定するため、代表点計算処理を実行する。その結果、代表点の種類数が1個であれば単峰性であって「滞在」と判定され、代表点の種類数が複数個であれば多峰性であって「移動」中と判定される。
【0055】
代表点計算処理は、各時間窓に含まれる複数の位置情報について、以下のステップによって実行される。
(S1)任意の点(位置情報)を、最初の中心点とする。
(S2)中心点から、第1の閾値(例えば2km)の半径の円に含まれる点(位置情報)を用いて、重心を算出する。
(S3)次に、重心と現在の中心点との差(変化量)が、第2の閾値(例えば100m)以下であるか否かを判定する。
(S4)S3によって偽と判定された場合、その重心を次の中心点とする。そして、再びS2へ戻り、変化量が第2の閾値以下に収まるまで繰り返す。
(S5)S3によって真と判定された場合、その重心(収束した点)を代表点とする。
そして、最後に、各時間窓について、収束した代表点の種類数が、1個の場合には「滞在」と判定し、複数個の場合には「移動」と判定する。尚、ここで、当該時間窓について、全ての代表点が第1の閾値又は第2の閾値の半径の円周領域内に収まる場合、収束した代表点の種類数が1個であるとみなすことも好ましい。
【0056】
以下では、
図7の時間窓1及び時間窓3について、具体的に滞在/移動を、代表点抽出処理を用いて判定する。
【0057】
(時間窓1における滞在移動判定)
(1)時間窓1の点(35.825、139.52)に関する1回目の重心を計算する。時間窓1の点(35.825、139.52)と時間窓1に含まれるその他の点の距離はすべて2km以内であるので、その他の点すべての平均をとると(35.824、139.514)となる。
(2)時間窓1の点(35.825、139.52)に関する2回目の重心を計算する。2回目の重心計算では、中心点を(35.824、139.514)とする。中心点と時間窓1に含まれるその他の点の距離はすべて2km以内であるので、その他の点すべての平均をとると(35.824、139.514)となる。
(3)1回目と2回目の重心計算の結果は同じで
あるので、時間窓1の点(35.825、139.52)の代表点は(35.824、139.514)となる。
(4)時間窓1の点(35.825、139.51)に関する1回目の重心を計算する。時間窓1の点(35.825、139.510)と時間窓1に含まれるその他の点の距離はすべて2km以内であるので、その他の点すべての平均をとると(35.824、139.514)となる。
(5)時間窓1の点(35.825、139.51)に関する2回目の重心を計算する。2回目の重心計算では、中心点を(35.824、139.514)とする。中心点と時間窓1に含まれるその他の点の距離はすべて2km以内であるので、その他の点すべての平均をとると(35.824、139.514)となる。
(6)1回目と2回目の重心計算の結果は同じで
あるので、時間窓1の点(35.825、139.51)の代表点は(35.824、139.514)となる。
(7)時間窓1の点(35.820、139.51)に関する1回目の重心を計算する。時間窓1の点(35.820、139.510)と時間窓1に含まれるその他の点の距離はすべて2km以内であるので、その他の点すべての平均をとると(35.824、139.514)となる。
(8)時間窓1の点(35.820、139.51)に関する2回目の重心を計算する。2回目の重心計算では、中心点を(35.824、139.514)とする。中心点と時間窓1に含まれるその他の点の距離はすべて2km以内であるので、その他の点すべての平均をとると(35.824、139.514)となる。
(9)1回目と2回目の重心計算の結果は同じで
あるので、時間窓1の点(35.820、139.51)の代表点は(35.824、139.514)となる。
以上より、計算された代表点はいずれの点についても(35.824、139.514)であり、代表点の種類数は1であるので、時間窓1は「滞在」と判定される。
【0058】
(時間窓3における滞在移動判定)
(1)時間窓3の点(35.825、139.51)に関する1回目の重心を計算する。時間窓3の点(35.825、139.510)と時間窓3に含まれるその他の点の距離を計算すると、(35.825、139.51)、(35.820、139.51)、(35.820、139.51)、(35.825、139.52)、(35.820、139.51)は2km以内であるがそれ以外は2kmを超えるので、上述の点の平均をとると(35.822、139.512)となる。
(2)時間窓3の点(35.825、139.51)に関する2回目の重心を計算する。2回目の重心計算では、中心点を(35.822、139.512)とする。中心点と時間窓3に含まれるその他の点の時間窓3に含まれるその他の点の距離を計算すると、(35.825、139.51)、(35.820、139.51)、(35.820、139.51)、(35.825、139.52)、(35.820、139.51)、は2km以内であるがそれ以外は2kmを超えるので、上述の点の平均をとると(35.822、139.512)となる。
(3)1回目と2回目の重心計算の結果は同じで
あるので、時間窓3の点(35.825、139.51)の代表点は(35.822、139.512)となる。
(4)時間窓3の点(35.850、139.53)に関する1回目の重心を計算する。時間窓3の点(35.850、139.530)と時間窓3に含まれるその他の点の距離を計算すると、(35.850、139.53)、(35.850、139.53)は2km以内であるがそれ以外は2kmを超えるので、上述の点の平均をとると(35.850、139.53)となる。
(5)時間窓3の点(35.850、139.53)に関する2回目の重心を計算する。2回目の重心計算では、中心点を(35.850、139.53)とする。中心点と時間窓3に含まれるその他の点の時間窓3に含まれるその他の点の距離を計算すると、(35.850、139.53)、(35.850、139.53)は2km以内であるがそれ以外は2kmを超えるので、上述の点の平均をとると(35.850、139.53)となる。
(6)1回目と2回目の重心計算の結果は同じで
あるので、時間窓3の点(35.850、139.53)の代表点は(35.850、139.53)となる。
(7)時間窓3のその他の点の代表点の計算は省略する。
以上より、計算された代表点は(35.822、139.512)、(35.850、139.53)(以下省略)と2以上であるため、時間窓3は「移動」と判定される。
【0059】
尚、滞在移動判定部123は、時間窓毎に、複数の基地局位置情報に対してカーネル密度推定(Kernel density estimation)を用いて単峰性か否かを判定することも好ましい。カーネル密度推定とは、確率変数の確率密度関数を推定するべく、ある母集団の標本のデータを外挿する方法である(例えば非特許文献5参照)。この方法によれば、カーネル関数を用いて、峰となるコブを導出することができる。
【0060】
[滞在時間窓収集部124]
滞在時間窓収集部124は、「滞在」と判定された時間窓の位置情報を収集する。滞在と判定された時間窓の代表点の数は1である。
【0061】
図9は、滞在と判定された時間窓及び代表点位置情報を表す表である。
図9によれば、時間窓1、2、6及び8が、滞在と判定されている。
【0062】
[位置クラスタリング部125]
位置クラスタリング部125は、「滞在」と判定された各時間窓の複数の位置情報の重心を「滞在地」とする。
【0063】
位置クラスタリング部125も、前述した
図8と同様に、代表点計算処理を実行する。距離が近い代表点の集合を同じ滞在地とするため、各時間窓の代表点位置情報について、所与の中心点から第1の閾値の範囲で重心を算出し、中心点と重心との差(変化量)が第2の閾値に収まるまで繰り返し、最終的に得られた各位置の収束値(
図9の代表点における代表点)を、時間窓毎の「滞在地」とする。
【0064】
前述した
図9によれば、時間窓1及び2では、緯度35.823〜35.824及び経度139.513〜139.514の代表点位置であることが理解できる。また、時間窓6及び8では、緯度35.908〜35.911及び経度139.570〜139.573の代表点位置であることが理解できる。
【0065】
図10は、時間窓毎の複数の代表点位置情報に基づく滞在地の代表点位置情報を表す表である。
図10によれば、時間窓1及び2では、緯度35.824及び経度139.514が「滞在地」であると理解できる。また、時間窓6及び8では、緯度35.910及び経度139.572が「滞在地」であることが理解できる。
【0066】
前述した実施形態によれば、滞在地のみを導出することができる。これに対し、以下の実施形態では、滞在時間を更に導出する。これによって、携帯端末毎に、時間経過に応じた滞在/移動の行動履歴を導出することができる。
【0067】
[移動時間窓収集部127]
移動時間窓収集部127は、「移動」と判定された時間窓の通信履歴を収集する。
【0068】
図11は、移動と判定された時間窓に対する位置情報の代表点を表す表である。
図11によれば、時間窓3〜5が、移動と判定されている。
【0069】
[時間クラスタリング部128]
時間クラスタリング部128は、「未判定」とされた時間窓が、「滞在」と判定され且つ同一の滞在地に属する少なくとも2つの時間窓の間に挟まれている場合、当該未判定時間窓も、同一の滞在地に位置するものと判定する。
【0070】
前述した
図7によれば、時間窓7は、通信履歴が記録されておらず、「未判定」とされている。ここで、
図10によれば、時間窓6及び8は、「滞在」と判定されており、同一の滞在地となっている。このような時間窓6及び8の間に挟まれている「未判定」の時間窓7は、同一の滞在地に位置するものと判定する。
【0071】
[ユーザ行動履歴推定部126]
ユーザ行動履歴推定部126は、位置クラスタリング部125から出力された時間窓と、移動時間窓収集部127から出力された時間窓とを、時間経過に沿ったユーザ行動履歴として導出する。
【0072】
図12は、時間経過に沿ったユーザ行動履歴の表である。
図13は、
図12のユーザ行動履歴から滞在時間のみを抽出した表である。
【0073】
図12によれば、時間窓に沿って「滞在」/「移動」の行動履歴と、「滞在」における位置情報(緯度・経度)とが明確となっている。また、
図13によれば、携帯端末0001は、17:50:00〜18:19:59までは緯度35.824及び経度139.514付近に「滞在」しており、その後、「移動」し、18:40:00〜19:19:59までは緯度35.910及び経度139.572付近に「滞在」していたと理解できる。
【0074】
以上、詳細に説明したように、本発明の通信設備装置、プログラム及び方法によれば、携帯端末の測位機能を起動させることなく、通信事業者設備によって取得可能な、空間的粒度が粗く且つ時間間隔が一定でない基地局位置情報を用いて、ユーザにとって有意な滞在地を高い精度で推定することができる。特に、本発明によれば、携帯端末にとって測位のための処理負荷が全く無く、ユーザの滞在地を推定するための全ての情報は、通信事業者側のみで取得できる。尚、ユーザの滞在地を推定することによって提供できるサービスとしては、例えば、ユーザ毎に生活場所に応じたクーポン情報等を配信するパーソナライズド情報提供サービスなどがある。また、複数以上のユーザについて推定した滞在地の情報を集約し、地域毎に地域内で滞在しているユーザグループに対して一括してクーポン情報等を配信するサービスや、地域毎の滞在ユーザ数を周辺情報として各地域の住民や店舗に通知する周辺情報提供サービスなどもある。
【0075】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。