特許第6049286号(P6049286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6049286スイングのシミュレーションシステム、シミュレーション装置、およびシミュレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049286
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】スイングのシミュレーションシステム、シミュレーション装置、およびシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
   A63B69/36 541W
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-87694(P2012-87694)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-215349(P2013-215349A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】先納 義和
(72)【発明者】
【氏名】高尾 浩二
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 隆司
(72)【発明者】
【氏名】松永 英夫
(72)【発明者】
【氏名】岩出 浩正
【審査官】 中澤 真吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−331060(JP,A)
【文献】 特開2005−218783(JP,A)
【文献】 特開2011−183090(JP,A)
【文献】 特開2010−131442(JP,A)
【文献】 特開2010−094265(JP,A)
【文献】 特開2008−012222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 69/36
A63B 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルファによるゴルフクラブを用いたスイングのシミュレーションシステムであって、
前記スイング時に前記ゴルフクラブのグリップに追従する閉じた仮想平面を特定可能な、前記ゴルフクラブに取り付けられた少なくとも3つの識別特徴を撮像する、少なくとも2台の撮像装置と、
前記少なくとも3つの識別特徴により前記閉じた仮想平面を定義し、前記仮想平面の経時的な位置情報に基づいて、前記スイングをシミュレーションするシミュレーション装置と、
を備え
前記シミュレーション装置は前記仮想平面の経時的な位置情報により、ゴルフクラブモデルを拘束して、前記スイングをシミュレーションする、シミュレーション部を有することを特徴とする、スイングのシミュレーションシステム。
【請求項2】
前記シミュレーション装置は、
前記撮像装置から前記スイング時の前記識別特徴の画像を取得する画像取得部と、
取得された前記画像から前記識別特徴を認識し、認識された前記識別特徴の位置情報から前記仮想平面の位置情報を取得する、位置情報取得部と、を有する
ことを特徴とする、請求項1に記載のスイングのシミュレーションシステム。
【請求項3】
前記シミュレーション部は、グリップ部およびシャフト部を有するゴルフクラブモデル上で、前記グリップ部を剛体として、前記シャフト部を弾性体として設定し、前記仮想平面の位置情報により前記モデルを拘束して、前記スイングをシミュレーションする、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のスイングのシミュレーションシステム。
【請求項4】
ゴルファによるゴルフクラブを用いたスイングのシミュレーション装置であって、
前記スイング時に前記ゴルフクラブのグリップに追従する閉じた仮想平面を特定可能な、前記ゴルフクラブに取り付けられた少なくとも3つの識別特徴を撮像した画像から、前記少なくとも3つの識別特徴により前記閉じた仮想平面を定義し、前記仮想平面の経時的な位置情報により、ゴルフクラブモデルを拘束して、前記スイングをシミュレーションすることを特徴とする、スイングのシミュレーション装置。
【請求項5】
ゴルファによるゴルフクラブを用いたスイングのシミュレーション方法であって、
少なくとも2台の撮像装置により、前記スイング時に前記ゴルフクラブのグリップに追従する閉じた仮想平面を特定可能な、前記ゴルフクラブに取り付けられた少なくとも3つの識別特徴を撮像するステップと、
前記少なくとも3つの識別特徴により前記閉じた仮想平面を定義し、前記仮想平面の経時的な位置情報により、ゴルフクラブモデルを拘束して、前記スイングをシミュレーションするステップと、
を含むことを特徴とする、スイングのシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイングのシミュレーションシステム、シミュレーション装置、およびシミュレーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルファによるスイング中には、ゴルフクラブのシャフトにしなりやねじれなどの変形が生じ、また、ヘッドが回転する。また、ヘッド速度も変化する。このような、シャフトの変形、ヘッドの回転、およびヘッド速度の変化などを含むゴルフクラブの挙動は、主に、ゴルファなどのスイングの動作主体となる対象からの入力に起因する。理想的なゴルフクラブの挙動を実現することができるゴルフクラブを選択することが、ゴルファにとって非常に重要であると考えられている。
【0003】
したがって、ゴルファが既存のゴルフクラブの中から最適なゴルフクラブを選択する上で、スイング時のゴルフクラブの挙動を解析することは非常に有益である。また、そのような分析により得られる情報は、新たなゴルフクラブを開発する上でも非常に有効である。
【0004】
ゴルファによるスイング時にゴルフクラブの挙動を解析する方法としては、従来、ゴルフクラブのグリップの三次元座標のスイング時の経時変化からシミュレーションのための入力パラメータ情報を算出して、スイングをシミュレーションする方法が提案されてきた(例えば、特許文献1参照)。このような方法では、シミュレーションに当たって、三次元計測したグリップ座標の経時変化から、グリップの全体座標に対する並進運動、全体座標に対する回転運動およびグリップの幾何学的中心軸周りの回転運動(捻転)の3つの動きによりスイングのシミュレーションを行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−331060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のシミュレーション方法では、スイング時のグリップの三次元座標を画像計測して、計測した三次元座標に基づいて、グリップの座標の時刻歴データ、グリップの傾斜角の時刻歴データ、シャフト軸周りにおけるグリップの回転角の時刻歴データをそれぞれ算出して、さらに、これらをパラメータとして入力していた。そして、これらのパラメータに基づいて、グリップの重心位置のx、y、zの並進加速度、グリップの重心位置のx、y、z軸周りの回転角加速度(rad/sec)、および局所座標軸周りの回転角加速度(rad/sec)を算出してスイングをシミュレーションしていた。
【0007】
このような方法では、計測したスイング時のグリップの三次元座標の計測値に対して2段階の演算を行わなくてはならず、演算が煩雑であるとともに、2段階の演算により、スイング時のグリップの三次元座標の計測値に含まれる誤差が増幅されて、シミュレーション結果の精度に悪影響を与えるおそれがあった。ここで、2段階の演算とは、上述した並進加速度や回転角加速度のようなシミュレーションの入力パラメータを算出するための計算に加えて、かかる入力パラメータに基づいてシミュレーションのための計算を行うことをいう。
【0008】
したがって、かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、スイング時のグリップの三次元座標の計測値に含まれる誤差が増幅されることを回避しつつ、スイングをシミュレーションすることができる、スイングのシミュレーションシステム、シミュレーション装置、およびシミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明に係るスイングのシミュレーションシステムは、ゴルファによるゴルフクラブを用いたスイングのシミュレーションシステムであって、
前記スイング時に前記ゴルフクラブのグリップに追従する閉じた仮想平面を特定可能な、前記ゴルフクラブに取り付けられた少なくとも3つの識別特徴を撮像する、少なくとも2台の撮像装置と、
前記少なくとも3つの識別特徴により前記閉じた仮想平面を定義し、前記仮想平面の経時的な位置情報に基づいて、前記スイングをシミュレーションするシミュレーション装置と、
を備え
前記シミュレーション装置は前記仮想平面の経時的な位置情報により、ゴルフクラブモデルを拘束して、前記スイングをシミュレーションする、シミュレーション部を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明によるスイングのシミュレーションシステムによれば、スイング時のグリップの三次元座標の計測値に含まれる誤差を増幅することなく、スイングをシミュレーションすることができる。
【0011】
また、本発明に係るスイングのシミュレーションシステムにおいて、前記シミュレーション装置は、
前記撮像装置から前記スイング時の前記識別特徴の画像を取得する画像取得部と、
取得された前記画像から前記識別特徴を認識し、認識された前記識別特徴の位置情報から前記仮想平面の位置情報を取得する、位置情報取得部と、を有することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、シミュレーション装置に含まれる各機能部によって、スイング時のグリップの三次元座標の計測値に含まれる誤差を増幅することなく、スイングを簡便にシミュレーションすることができる。
【0013】
また、本発明に係るスイングのシミュレーションシステムにおいて、前記シミュレーション部は、グリップ部およびシャフト部を有するゴルフクラブモデル上で、前記グリップ部を剛体として、前記シャフト部を弾性体として設定し、前記仮想平面の位置情報により前記モデルを拘束して、前記スイングをシミュレーションする、ことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、スイング時のグリップの三次元座標の計測値に含まれる誤差がシミュレーション精度に及ぼす影響を低減することができる。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明によるスイングのシミュレーション装置は、
ゴルファによるゴルフクラブを用いたスイングのシミュレーション装置であって、
前記スイング時に前記ゴルフクラブのグリップに追従する閉じた仮想平面を特定可能な、前記ゴルフクラブに取り付けられた少なくとも3つの識別特徴を撮像した画像から、前記少なくとも3つの識別特徴により前記閉じた仮想平面を定義し、前記仮想平面の経時的な位置情報により、ゴルフクラブモデルを拘束して、前記スイングをシミュレーションすることを特徴とするものである。
【0016】
本発明によるスイングのシミュレーション装置によれば、スイング時のグリップの三次元座標の計測値に含まれる誤差を増幅することなく、スイングをシミュレーションすることができる。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明によるスイングのシミュレーション方法は、
少なくとも2台の撮像装置により、前記スイング時に前記ゴルフクラブのグリップに追従する閉じた仮想平面を特定可能な、前記ゴルフクラブに取り付けられた少なくとも3つの識別特徴を撮像するステップと、
前記少なくとも3つの識別特徴により前記閉じた仮想平面を定義し、前記仮想平面の経時的な位置情報により、ゴルフクラブモデルを拘束して、前記スイングをシミュレーションするステップと、
を含むことを特徴とするものである。
【0018】
本発明によるスイングのシミュレーション方法によれば、スイング時のグリップの三次元座標の計測値に含まれる誤差を増幅することなく、スイングをシミュレーションすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スイング時のグリップの三次元座標の計測値に含まれる誤差を増幅することなく、スイングをシミュレーションすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーションシステムの概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーション装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係るシミュレーションシステムで使用するゴルフクラブの一例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係るシミュレーションシステムで使用するゴルフクラブモデルの一例を示す図である。
図6A】本発明の一実施形態に係るシミュレーションシステムによるシミュレーション結果の一例を示す図である。
図6B】本発明の一実施形態に係るシミュレーションシステムによるシミュレーション結果の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーションシステム、シミュレーション装置、およびシミュレーション方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーションシステムの概略図である。図1に示すスイングのシミュレーションシステム1は、ゴルファ4によるゴルフクラブ5を用いたスイングをシミュレーションするシミュレーションシステムである。シミュレーションシステム1は、少なくとも2台の撮像装置である第1カメラ2A及び第2カメラ2Bと、撮像されたゴルフクラブ5の画像に基づいて、スイングをシミュレーションするシミュレーション装置3とを備える。
【0023】
第1カメラ2A及び第2カメラ2Bは、スイング時にゴルフクラブ5のグリップに追従する閉じた仮想平面を特定可能な識別特徴であるマーカー(図示しない)を撮像する。ここで、グリップに「追従する」とは、グリップが移動することに伴って移動することを意味する。すなわち、グリップに追従する閉じた仮想平面を特定可能な複数のマーカーの挙動は、グリップの移動を反映する。マーカーについては、図4を参照して後述するが、例えば、マーカーは、球状であり、撮像されたゴルフクラブの画像上で周囲と区別可能な色および素材で構成される。第1カメラ2A及び第2カメラ2Bは、例えば、モーションキャプチャシステムを構築する高速度ビデオカメラであり、動きの多い対象を高感度で撮影することが可能である。第1カメラ2A及び第2カメラ2Bのスイング撮像時のフレームレートは、例えば、160Hzである。
【0024】
シミュレーション装置3は、第1カメラ2A及び第2カメラ2Bにより撮像された、ゴルファ4によるスイング時のマーカーの画像から仮想平面の位置情報を取得し、スイングをシミュレーションする。シミュレーション装置3は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)を備えるコンピュータで構成される。
【0025】
図2は、シミュレーション装置3の概略構成を示す機能ブロック図である。シミュレーション装置3は、第1カメラ2A及び第2カメラ2Bから、スイング時のマーカーの画像を取得する画像取得部を構成するインタフェース(I/F)6A及び6Bと、取得された画像からマーカーを認識し、認識されたマーカーの位置情報から上述した仮想平面の位置情報を取得する位置情報取得部11と、仮想平面の位置情報をゴルフクラブモデルに対応付けて、スイングをシミュレーションする、シミュレーション部12と、を有する。位置情報取得部11およびシミュレーション部12は、CPUやDSPにより構成される演算部7に備えられている。さらに、シミュレーション装置3は、シミュレーション装置3の全体の動作を制御する制御部8や、シミュレーション結果を表示する表示部9や、位置情報取得部11による計測結果やシミュレーション部12によるシミュレーション結果を保存するデータベース10を備えることができる。
【0026】
図3は、本発明の一実施形態に係るスイングのシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。ここでは、ゴルファ4がゴルフクラブ5を用いてスイングを行う。先ず、少なくとも2台の撮像装置である第1カメラ2Aおよび2Bによりスイング時にゴルフクラブ5のグリップに追従する閉じた仮想平面を特定可能なマーカーを撮像する(ステップS01)。その後、シミュレーション装置3は、画像取得部を構成するI/F6Aおよび6Bにより、第1カメラ2Aおよび2Bからスイング時のマーカーの画像データを取得する(ステップS02)。このマーカーの画像データは、第1カメラ2Aおよび2Bにより撮像された任意の形式の動画データであり得る。
【0027】
シミュレーション装置3は、位置情報取得部11により、第1カメラ2Aおよび2Bにより撮像されステップS02で取得した画像データから任意の画像データを抽出し、抽出した画像データについて、マーカーを認識し、認識したマーカーの位置情報から上述の仮想平面の位置情報を取得する(ステップS03)。
【0028】
位置情報取得部11は、例えば、第1カメラ2A及び第2カメラ2Bから取得された動画データから抽出した任意の数のフレームについて、例えば、サークルフィッティング法によりゴルフクラブ5に付されたマーカーを認識する。サークルフィッティング法とは、円形(3次元空間では球形)マーカーの輪郭を抽出して、抽出した輪郭に近似した円を設定して、マーカーの仮想中心点を算出する方法である。さらに、位置情報取得部11はマーカーの位置情報として、三角測量法などの一般的な方法で三次元画像計測を実施して、マーカーの三次元座標を取得する。また、位置情報取得部11は、取得した三次元座標の情報と、スイングを行ったゴルファとを紐付けしてデータベース10に格納することができる。
【0029】
そして、シミュレーション装置3は、シミュレーション部12を用いて、ステップS03にて取得した仮想平面の位置情報に基づいてスイングをシミュレーションする(ステップS04)。そして、シミュレーション装置3は、シミュレーション結果の画像を表示部9に表示することができる。表示部9でのシミュレーション結果の表示は、例えば、スイング時のゴルフクラブの変形やヘッド速度の時系列変化である。ゴルフクラブ5を用いて計測した仮想平面の位置情報の時系列変化に基づいて、ゴルフクラブ5とはスペックの異なる別のゴルフクラブを用いた場合の、ゴルファ4のスイングをシミュレーションし、表示部9に表示することができる。
【0030】
シミュレーション部12は、位置情報取得部11により取得された仮想平面の位置情報をゴルフクラブモデルに対応付ける。この仮想平面の位置情報は、位置情報取得部11にて設定された所定の時間間隔のマーカーの三次元座標の時系列データに対応する。シミュレーション方法は、例えばマルチボディダイナミクス理論に従うものである。シミュレーション部12は、位置情報部11が三次元画像計測により取得したマーカーの三次元座標情報に更なる計算処理を施すことなく、シミュレーションの入力パラメータとしてゴルフクラブモデルに対応付ける。
【0031】
ここで、マルチボディダイナミクスとは、相互作用のある複数の剛体や弾性体からなる系が全体としてどのような運動をし、さらにその過程で発生する力を導き出す理論である。マルチボディダイナミクス理論に従うシミュレーションを実施する際の入力パラメータとしては、例えば、系の構成要素である剛体や弾性体のそれぞれについての質量、重心位置、および慣性テンソル、拘束条件(ジョイント、強制変位)、力の条件(バネ、減衰力、摩擦力、接触力、重力、外力)、初期条件(初期位置、初期速度、初期姿勢、初期角速度)、数値解析条件(ソルバーの選択、ステップサイズ、許容誤差、解析時間)等がある。これらの種々のパラメータから、系の運動を定義するために最低限必要なパラメータを与えてシミュレーションすることが一般的である。シミュレーション部12は、シミュレーションに先立って、対象とするゴルフクラブの仕様や、所定の計測機器による事前測定によって取得されたデータからシミュレーションを実施する際の入力パラメータを保持している。必須の入力パラメータは、例えば、ヘッドについては、重心、重心位置、および慣性モーメントの情報を、シャフトについては、長さ、密度、断面形状、曲げ剛性、ねじり剛性、振動特性、および減衰特性の情報を、グリップについては、重量、重心位置、慣性モーメントの情報を保持している。なお、慣性モーメントについては、例えば慣性モーメント測定器のような専用の計測機器で測定することができる。そして、シミュレーション部12は、これらに加えて、位置情報部11により取得した位置情報を用いて、シミュレーションを実施する。このようなマルチボディダイナミクス理論を用いた解析用のソフトウェアとしては、例えば、MADYMO(登録商標)等を利用することができる。
【0032】
図4は、本発明の一実施形態に係るシミュレーションシステムで使用するゴルフクラブの一例を示す図である。ゴルフクラブ5は、グリップ14、シャフト15、およびヘッド16を有する。さらに、ゴルフクラブ5は、グリップ14に追従する仮想平面を特定可能な少なくとも3つの識別特徴であるマーカーM1〜M3を備える。マーカーM1およびM3は、シャフト軸上、すなわちシャフト15及びグリップ14の中心軸上に、マーカーの中心が一致するように配置され、マーカーM2はシャフト15から突出して設けられた取り付け部材17上に配置される。
【0033】
なお、識別特徴の構成態様は、図示のようなマーカーM1〜M3に限られず、スイング時にグリップ14の移動に追従する仮想平面を特定することができるいかなる態様であってもよい。例えば、図4では、マーカーM1およびM3は、シャフト軸上に、マーカーの中心が一致するように配置したが、マーカーM3についても、マーカーM2と同様にシャフト15から突出して設けられた取り付け部材上に配置することも可能である。また、マーカーM1についても、シャフト軸線上以外の位置に配置することももちろん可能である。さらに、識別特徴をマーカー以外の要素で構成することももちろん可能である。
【0034】
マーカーM1〜M3は、例えば、反射テープで表面を覆われている。反射テープ以外であっても、第1カメラ2A及び第2カメラ2Bによって撮影された画像上で周囲の画素とのコントラストが所定値以上となるような素材によって、マーカーM1〜M3を被覆することもできる。
【0035】
また、取り付け部材17の先端に取り付けられたマーカーM2の中心からシャフト軸までの長さは、例えば、50mm未満であるが、この限りではない。ただし、取り付け部材17の長さが長すぎると、スイング中に取り付け部材17自体にしなりが生じてしまい、計測精度に悪影響を及ぼす場合もある。このため、取り付け部材17をしなりが生じない長さにする必要がある。また、取り付け部材17は例えばスチール製の治具などの剛性が十分に高い素材で構成される。
【0036】
上述のようなスイングのシミュレーションシステムによれば、三次元画像計測により求めたマーカーの位置情報にシミュレーションの入力パラメータ(例えば、グリップの重心の並進加速度および回転角加速度)を算出するための計算処理を施すことなく、スイングのシミュレーションを実施することができる。したがって、かかるシミュレーションシステムは、スイング時のグリップの三次元座標の計測値に含まれる誤差を増幅することなく、スイングをシミュレーションすることができる。さらに、上述のようなシミュレーションシステムにより、スイングの正確なシミュレーションが実施可能となったことで、ゴルフクラブの開発に際して、実際に試作するゴルフクラブの本数を飛躍的に低減することが可能となる。さらに、ゴルファが既存のゴルフクラブの中から、理想のスイングを実現することができるゴルフクラブを選定する際に有益な情報を提供することができる。
【0037】
さらに、シミュレーション部12は、グリップ部、シャフト部、およびヘッド部を有するゴルフクラブのモデル上で、グリップ部およびヘッド部を剛体として、シャフト部を弾性体として設定し、位置情報取得部11により計測した仮想平面の位置情報をゴルフクラブモデルに対応付けて、スイングをシミュレーションすることが好ましい。この点については、図5を参照して以下にさらに詳細に説明する。
【0038】
図5は、本発明の一実施形態に係るシミュレーションシステムで使用するゴルフクラブモデルの一例を示す図である。ゴルフクラブモデル5Sは、図4に示すゴルフクラブ5と同様に、グリップ部14S、シャフト部15S、およびヘッド部16Sを有する。さらに、ゴルフクラブモデル5Sは、図4に示したマーカーM1〜M3に対応するマーカー部M1S〜M3Sを有する。マーカー部M1S〜M3Sにより、仮想平面18Sが定義される。仮想平面18Sは、マーカー部M1S〜M3Sにより画定される、閉じた平面である。スイング時に生じる力の影響で変形するため、従来、シミュレーション上でゴルフクラブ全体を一つの弾性体要素として設定しがちであった。しかし、本実施形態で使用するゴルフクラブモデル5Sでは、グリップ部14Sを剛体として設定している。
【0039】
図5において、位置情報取得部11により計測したマーカーM1〜M3の位置情報について、時刻tnにおけるマーカー部M1S〜M3Sの位置をそれぞれドットM1tn〜M3tnで表す。いま、時刻t1におけるマーカー部M1S〜M3Sの位置は、ドットM1t1〜M3t1であり、時刻t2におけるマーカー部M1S〜M3Sの位置はそれぞれ、ドットM1t2〜M3t2である。仮に、位置情報取得部11による三次元画像計測で誤差が全く生じなければ、ドットM1t1〜M3t1の相対的な位置関係と、ドットM1t2〜M3t2の相対的な位置関係は同一となる。しかしながら、三次元画像計測による位置情報に全く誤差が含まれないことは非常に少なく、多くの場合、数ミリ単位程度であれ多少の誤差が含まれている。
【0040】
シミュレーション部12が、仮想平面18Sの位置情報をゴルフクラブモデル5Sに対応付ける際には、マーカー部M1S〜M3Sの位置情報である、ドットM1tn〜M3tnの位置情報を与える。そして、ゴルフクラブモデル5S上で剛体として設定したグリップ部14Sに追従する仮想平面を識別可能に取り付けられているマーカー部M1S〜M3Sの位置が、位置情報取得部11により取得された位置情報に追従するように、スイングをシミュレーションする。ここで、「位置情報に追従する」とは、シミュレーション上で、位置情報取得部11により取得された位置情報によりドットM1tn〜M3tnと、ゴルフクラブモデル5Sが有しているマーカー部M1S〜M3Sとを拘束することに該当する。このような計算は、上述したMADYMO(登録商標)のような、マルチボディダイナミクス理論を用いた市販の解析用のソフトウェアで実現することができる。具体的には、ゴルフクラブモデル5Sのマーカー部M1S〜M3Sの位置を、時刻t1では、ドットM1t1〜M3t1に対して拘束し、時刻t2では、ドットM1t2〜M3t2に対して拘束する。
【0041】
このようにしてゴルフクラブモデル5Sに対してスイング時の経時的な位置情報を与えることで、仮想平面18Sを構成する3つのマーカー部M1S〜M3Sに、合計6自由度を与える。これにより、剛体であるグリップ部14Sの運動が定義できる。このようにして剛体であるグリップ部14Sの運動を与えることで、マーカー部M1S〜M3Sの位置情報から、シミュレーションのための入力パラメータを改めて算出するというステップを実施することなく、スイングをシミュレーションすることが可能になる。その結果、スイング時のグリップの三次元座標の計測値の精度が損なわれることを回避して、位置情報取得部11による三次元計測誤差の影響がシミュレーション結果において増幅されないようにすることができる。
【0042】
一方、ゴルフクラブモデル全体が弾性体であった場合には、ドットM1tn〜M3tnの相対的な位置関係が計測誤差等に起因して変動すると、シミュレーション結果がその計測誤差の影響を大きく受けてしまう。このとき、弾性体上に配置したM1S〜M2S〜M3S間にシミュレーション上で無理な力が発生し、計算が発散してしまうおそれがある。その結果、誤差が大きい計測データが1つでもあった場合に、その値に起因して弾性体で構成されるゴルフクラブモデル全体に歪みが生じ、シミュレーション結果全体が大きく影響を受けてしまう。
【0043】
そこで、本実施形態によるシミュレーションシステムで使用するゴルフクラブモデル5Sは、グリップ部14Sを剛体として、シャフト部15Sを弾性体として構成することで、上述のような問題を回避している。さらに、グリップ部14Sをゴルフクラブモデル5S上で剛体として設定することで、計測データのばらつきに対してロバストなシミュレーションを実現することができる。さらに、グリップ部14Sを剛体として設定した上で、上述のように仮想平面18Sの経時的な位置情報として入力パラメータを与えることで、位置情報に含まれる誤差がゴルフクラブモデル5Sの変形としてシミュレーション結果に反映されることを回避するとともに、位置情報に含まれるスイングの情報を100%そのままシミュレーション結果に反映することができる。
【0044】
以下、本実施形態によるシミュレーションシステムによるシミュレーション結果の一例を、図6Aおよび図6Bを参照して説明する。
【0045】
図6Aおよび図6Bは、それぞれ、本発明の一実施形態に係るシミュレーションシステムによるシミュレーション結果の一例を示す図である。図中、測定値は、ゴルファによる、ヘッドにマーカーを有するゴルフクラブ(以下、ゴルフクラブA)を用いたスイングを、モーションキャプチャシステムにより撮像して、マーカーの時系列位置情報に基づいて算出したヘッド速度である。一方、シミュレーション値は、上述のシミュレーションシステム1により得たヘッド速度である。シミュレーション装置3のシミュレーション部12により、上述のゴルフクラブ5のような計測用のゴルフクラブを用いたゴルファによるスイングについて事前に取得してデータベース10に格納してあるマーカーの位置情報(仮想平面の位置情報)を読み出し、さらにゴルフクラブAのシミュレーション上必須のパラメータ(例えば、ヘッドについては、重心、重心位置、および慣性モーメントの情報を、シャフトについては、長さ、密度、断面形状、曲げ剛性、ねじり剛性、振動特性、および減衰特性の情報を、グリップについては、重量、重心位置、慣性モーメント)も使用してシミュレーションを実行した。なお、ゴルフクラブ5はゴルフクラブAとは異なるものである。また、シミュレーション装置3は、ゴルフクラブAの仕様に基づく入力を受け付けることにより、あらかじめゴルフクラブAのパラメータを保持している。
【0046】
図6Aおよび図6Bはそれぞれ、別の被験者によるスイングについての測定値とシミュレーション値との比較結果である。これらの結果から明らかなように、シミュレーション値と測定値とは、良好に一致している。このように、本実施形態によるシミュレーションシステムによれば、スイングを精度良くシミュレーションすることができる。よって、ゴルフクラブの設計開発に有効な情報を提供することができる。さらに、ゴルフクラブの設計開発における試作本数を低減することで、開発期間を大幅に短縮することができる。
【0047】
また、ゴルファによるゴルフクラブの選定に活用した場合においては、一のゴルファによるスイングデータを一回でも計測すれば、次回からはそのデータに基づいて、そのゴルファの別のゴルフクラブを用いたスイングをシミュレーションすることができるため、実際にゴルファが店頭に足を運んでゴルフクラブの試し打ちを繰り返すことが不要になる。このようにして、ゴルファが最適なゴルフクラブを選定するために必要とされる時間と手間を削減することができる。
【0048】
上述のような本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。従って、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0049】
例えば、ゴルフクラブモデルにおいてグリップを剛体、その他の部分を弾性体として設定するのではなく、全体を弾性体として設定して、識別特徴(マーカー)と、三次元画像測定により得たマーカーの位置情報とをバネとダンパで連結されているものとして、マーカー位置情報の計測誤差を吸収するように、シミュレーションシステムを構成することももちろん可能である。かかる構成によれば、画像計測で生じる計測誤差に起因する、ゴルフクラブモデルの変形を低減することができる。
【0050】
また、例えば、全体が弾性体からなるゴルフクラブモデルにおいて、マーカー部M1S〜M3Sの時系列データであるドットM1tn〜M3tnで定義される仮想平面が静止状態におけるマーカー部M1S〜M3Sで定義される仮想平面と常に一様になるように、マーカーの時系列位置情報をスムージングするように、シミュレーションシステムを構成することももちろん可能である。スムージングにあたって、シミュレーションシステムは、スイングの特徴が失われないようにスムージングを実行する。このような構成によってもまた、画像計測で生じる計測誤差に起因する、ゴルフクラブモデルの変形を低減することができる。
【0051】
また、例えば、全体が弾性体からなるゴルフクラブモデルにおいて、少なくとも3点のマーカーで定義される仮想平面を、当該少なくとも3点のマーカーの時系列位置情報に対してPID(proportional-integral-derivative)制御によって追従させるように、シミュレーションシステムを構成することももちろん可能である。このような構成によってもまた、画像計測で生じる計測誤差に起因する、ゴルフクラブモデルの変形を低減することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 シミュレーションシステム
2A,2B 撮像装置
3 シミュレーション装置
5 ゴルフクラブ
5S ゴルフクラブモデル
6A,6B 画像取得部
11 位置情報取得部
12 シミュレーション部
14 グリップ
14S グリップ部
15 シャフト
15S シャフト部
16 ヘッド
16S ヘッド部
18S 仮想平面
M1,M2,M3 マーカー
M1S,M2S,M3S マーカー部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B