特許第6049289号(P6049289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049289
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】概日リズム調整剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/222 20060101AFI20161212BHJP
   A61K 36/63 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20161212BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20161212BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20161212BHJP
【FI】
   A61K31/222
   A61K36/63
   A61P25/00
   A61P25/20
   A23L33/10
   A23L33/105
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-89855(P2012-89855)
(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公開番号】特開2013-216628(P2013-216628A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】櫓木 智裕
(72)【発明者】
【氏名】岡田 亜砂子
(72)【発明者】
【氏名】小南 優
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/122041(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/133908(WO,A1)
【文献】 http://www.luminescents.co.uk/catalog/product_info.php?cPath=44&products_id=1022,2007年11月 9日
【文献】 Current Biology,2011年,Vol.21, No.16,p.1347-1355
【文献】 Food and Chemical Toxicology,2000年,Vol.38,p.647-659
【文献】 Food Chemistry,2012年 2月,Vol.130, No.4,p.797-813
【文献】 Phytomedicine,1996年,Vol.2, No.4,p.319-325
【文献】 臨床薬理,2011年,Vol.42, No.2,p.107-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 − 33/44
A23L 33/00 − 33/29
A61K 36/00 − 36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレアセインを有効成分として含む概日リズム調整剤。
【請求項2】
Per1遺伝子およびBmal1遺伝子の発現量を逆位相に調節し、それにより、Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現リズムを正常な位相に同調させる、請求項1に記載の概日リズム調整剤。
【請求項3】
オレアセインがオリーブ抽出物として含まれる、請求項1または2に記載の概日リズム調整剤。
【請求項4】
オリーブ抽出物が、30重量%以上のオリーブ由来ポリフェノールを含有する、請求項3に記載の概日リズム調整剤。
【請求項5】
オリーブ抽出物が、オリーブ果実を水、エタノール、またはこれらの混合物によって抽出したものである、請求項3または4記載の概日リズム調整剤。
【請求項6】
オリーブ抽出物が、オリーブ果実の脱脂残滓を70℃〜100℃の熱水で抽出したものの40%〜50%エタノール抽出画分である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の概日リズム調整剤。
【請求項7】
請求項1または2に記載の概日リズム調整剤を添加した概日リズム調整用飲食品。
【請求項8】
オレアセインを含む、概日リズムの乱れが引き起こす睡眠障害または時差ぼけの予防、緩和、または治療のための医薬組成物。
【請求項9】
オレアセインを配合する工程を含むことを特徴とする、概日リズム調整用の、飲食品または医薬組成物の製造方法。
【請求項10】
概日リズム調整用の、飲食品または医薬組成物の製造における、オレアセインの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類の時計遺伝子の発現量を調節することによる概日リズム調整剤に関する。より詳細には、時計遺伝子PerおよびBmalの発現量を調節することによる概日リズム調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生物活動の多くが生物リズムとよばれる自律的な周期的変動を示すが、その中でもほぼ24時間の周期を示すリズムを概日リズム(サーカディアンリズム)とよぶ。
個体の行動や活動性のほかに、体温、ホルモン分泌、代謝等のさまざまな生理現象が概日リズムを示す。現代生活においては、交代勤務等の不規則な生活パターンが引き起こす睡眠障害や、飛行機移動による時差ぼけ(ジェットラグ)等、概日リズムの乱れが引き起こす問題が多い。また、高齢者においては、概日リズムを形成するための内因性因子(例えばメラトニン)の合成低下が認められ、概日リズムの維持力の低下によるQOLの低下も懸念されている(非特許文献1、非特許文献2)。したがって、概日リズムを正常に調整することは重要な課題となっている。
【0003】
概日リズムを調整する方法としては、これまでに、内因性ホルモンであるメラトニンやメラトニン誘導体の投与等が試みられている。しかし、ホルモンの投与は概日リズム以外のさまざまな生理現象にも影響を及ぼすため、副作用の問題も指摘されている(非特許文献3、非特許文献4)。
【0004】
近年、時計遺伝子とよばれる一群の遺伝子によって、概日リズムが調整されていることが明らかになってきた。具体的な時計遺伝子としては、Per遺伝子(Per1、Per2、Per3)、Clock遺伝子、Bmal遺伝子(Bmal1、Bmal2、Bmal3)、Cry遺伝子(Cry1、Cry2)などが報告されている。なかでも、Per遺伝子とBmal遺伝子が重要な時計遺伝子であることがわかってきた。哺乳類では、Per遺伝子とBmal遺伝子はほぼ12時間ずれた位相でそれぞれ概日リズムを刻んで発現されており、Bmalの発現は夜中増加し、一方Per遺伝子の発現は昼間増加する(特許文献1)。Per遺伝子とBmal遺伝子の発現リズムの位相がずれることは、概日リズムの乱れにつながる。したがって、Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現量を調節することによって、これらの遺伝子の発現リズムを正常な位相に同調させることができれば、概日リズムの周期を効果的に調整することができると考えられる。Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現リズムの位相を正常な状態に効果的に同調させることができ、安全性が高く、日常的に摂取可能な概日リズム調整剤が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2011/122041
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Vitiello MV. , Clin Corne rstone 2000;2(5):16-27
【非特許文献2】Mishima K. et al. ,Chronobiol Int 2000 May;17(3):419-32
【非特許文献3】Monti JM, Cardinali DP. , Biol Signals Recept 2000,9:328-39
【非特許文献4】Reiter RJ., Ann Med 1998, 30:103-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、時計遺伝子、特にPer遺伝子およびBmal遺伝子の発現を調節することによって、安全性が高く、日常的に摂取可能であって、しかも効果の高い概日リズム調整剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、食経験が豊富で安全性が高い天然物素材の中から有効な成分の探索を行った結果、オリーブから抽出されたポリフェノール類であるオレアセインに、時計遺伝子であるPerおよびBmalの発現量調節作用があることを見出した。オレアセインは、PerおよびBmalの2つの遺伝子の発現量を逆位相に調節することによって、Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現リズムを正常な位相に同調させることができ、概日リズムを正常に調整することができる。
【0009】
すなわち、本発明は、これらに限定されるわけではないが以下を包含する。
[1] オレアセインを含む概日リズム調整剤。
[2] Per1遺伝子およびBmal1遺伝子の発現量を逆位相に調節し、それにより、Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現リズムを正常な位相に同調させる、[1]に記載の概日リズム調整剤。
[3] オリーブ抽出物を含む、概日リズム調整剤。
[4] オリーブ抽出物が、30重量%以上のオリーブ由来ポリフェノールを含有する、[3]に記載の概日リズム調整剤。
[5] オリーブ由来ポリフェノールがオレアセインを含有する、[4]に記載の概日リズム調整剤。
[6] オリーブ抽出物が、オリーブ果実を水、エタノール、またはこれらの混合物によって抽出したものである、[3]〜[5]のいずれかに記載の概日リズム調整剤。
[7] オリーブ抽出物が、オリーブ果実の脱脂残滓を70℃〜100℃の熱水で抽出したものの40%〜50%エタノール抽出画分である、[3]〜[5]のいずれかに記載の概日リズム調整剤。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の概日リズム調整剤を添加した飲食品。
[9] オレアセインを含む、概日リズムの乱れが引き起こす体調の不調もしくは疾患の予防、緩和、または治療のための医薬組成物。
[10] オレアセインを配合する工程を含むことを特徴とする、概日リズム調整作用を有する飲食品または医薬組成物の製造方法。
[11] 概日リズム調整作用を有する飲食品または医薬組成物の製造における、オレアセインの使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明の概日リズム調整剤は、オレアセインを含むことによって、PerおよびBmalの2つの遺伝子の発現量を逆位相に調節することができ、それによってPer遺伝子およびBmal遺伝子の発現リズムを正常な位相に同調させ、概日リズムを効果的に調整することができる。また、本発明の概日リズム調整剤は、オリーブに含まれるオレアセインを有効成分とするため、食経験が豊富で副作用が少なく、安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、オレアセイン等のオリーブ由来各種ポリフェノールを添加したHepG2細胞における、時計遺伝子Bmal1の遺伝子発現量を示す。
図2図2は、オレアセイン等のオリーブ由来各種ポリフェノールを添加したHepG2細胞における、時計遺伝子Per1の遺伝子発現量を示す。
図3図3は、オレアセイン高含量オリーブ抽出物を投与したWistarラットの肝臓における、時計遺伝子Bmal1の遺伝子発現量を示す。
図4図4は、オレアセイン高含量オリーブ抽出物を投与したWistarラットの肝臓における、時計遺伝子Per1の遺伝子発現量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<概日リズム調整剤>
本発明の概日リズム調整剤は、有効成分としてオレアセインを含むことにより、時計遺伝子であるPer遺伝子およびBmal遺伝子の発現量を逆位相に調節することができ、それにより、Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現リズムを正常な位相に同調させ、概日リズムを正常に調整することができる。したがって、本発明の概日リズム調整剤は、睡眠障害、時差ぼけ(ジェットラグ)等の、概日リズムの乱れが引き起こす体調の不調や疾患の予防、緩和、治療等に効果的に利用することができる。
<Per遺伝子およびBmal遺伝子>
本発明の概日リズム調整剤は、有効成分としてオレアセインを含むことにより、時計遺伝子の発現を調節することができ、特にPer遺伝子およびBmal遺伝子の発現量を逆位相に調節することができる。
【0013】
時計遺伝子は、概日リズムの調整に働く一群の遺伝子をいい、これらの遺伝子に変異がある場合、行動のリズムに影響を与える遺伝子として定義される(石田、2009年、生化学、第81巻、第2号、第75−83頁)。特に主要な因子として、Period(Per)遺伝子およびBmal遺伝子がある。
【0014】
哺乳類においては、Period遺伝子ファミリーであるperiod1 (per1)、period2 (per2)、period3 (per3)について、時計遺伝子としての機能が知られている。また、Bmal遺伝子ファミリーであるBmal1について、時計遺伝子としての機能が知られている。Bmal1遺伝子産物であるBMAL1はCLOCKとヘテロ二量体を形成してPeriod遺伝子の転写を促進し、一方で、Period遺伝子産物であるPERIODはCRYPTOCHROMEとヘテロ二量体を形成してBMAL1およびCLOCKの活性を抑制する。
【0015】
哺乳類では、Per遺伝子とBmal遺伝子はほぼ12時間ずれた位相でそれぞれ概日リズムを刻んで発現されており、Bmalの発現は夜中増加し、一方Per遺伝子の発現は昼間増加する。これが、Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現リズムの正常な位相である。Per遺伝子とBmal遺伝子の発現リズムの位相がずれることは、概日リズムの乱れにつながる。本発明の概日リズム調整剤は、Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現量を逆位相に調節することによって、Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現リズムを正常な位相に同調させることができる。
<Per遺伝子およびBmal遺伝子の発現量解析>
本発明の概日リズム調整剤によって調節されたPer遺伝子およびBmal遺伝子の発現量は、当業者に知られた任意の方法を用いて解析することができる。たとえば、PerまたはBmal遺伝子配列中の任意の配列をプローブとして用いたノーザンブロッティング解析、リアルタイムRT-PCR解析、DNAマイクロアレイを用いた発現量解析などの方法を好適に用いることができる。遺伝子発現解析に供するための試料としては、細胞が含まれていればいかなるものをも用いることができるが、たとえば毛包細胞を含む毛髪、皮膚等のバイオプシー、血液、唾液等を用いることができる。
<オレアセイン>
オレアセイン(CAS番号:149183-75-5)は、オリーブ中に豊富に含まれるポリフェノール成分のひとつであり、以下の構造式を有する。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明においては、オレアセインに限らず、修飾されたオレアセインの誘導体や任意の塩の形態のものを用いることもできる。オレアセインの誘導体とは、オレアセインの水酸基等に化学的修飾を施すことによって得られる化合物群を含み、オレアセインのエステル、配糖体などが挙げられる。
【0018】
本発明の概日リズム調整剤では、有効成分としてオレアセインを豊富に含むオリーブ等の植物原料をそのまま用いてもよいし、オリーブ等の植物原料から抽出したオレアセイン高含有物を用いることもできる。
【0019】
オレアセインを豊富に含む植物原料をそのまま本発明の概日リズム調整剤として用いる場合は、たとえばオリーブの果実、種子、葉、茎等を生のまま、あるいは凍結乾燥等によって乾燥したものなどを用いることができる。オリーブの葉を用いる場合は、他の植物種の葉、たとえば茶葉などと混合したものを用いてもよい。また、オリーブ果実から搾油したオリーブオイルも、オレアセインを豊富に含む植物原料として用いることができる。オリーブオイルは、市販のものを用いてもよいし、オリーブより公知の方法で調製してもよい。また、後述する方法によって、オリーブ等の植物原料から、オレアセイン高含量オリーブ抽出物を調製することもできる。
【0020】
本発明の概日リズム調整剤の有効成分であるオレアセインの含量は、効果面を考慮して任意に決定することができるが、概日リズム調整剤中に0.01〜40重量%含まれることが好ましく、0.1〜30重量%含まれることがより好ましく、1〜20重量%含まれることがさらに好ましい。
<オリーブ>
本発明の概日リズム調整剤としては、オレアセインを豊富に含む植物原料としてのオリーブの果実、葉、種子、葉、茎等をそのまま用いてもよく、オレアセイン高含量オリーブ抽出物を用いてもよい。いかなる品種のオリーブをも用いることができるが、たとえばマンザニロ、ルッカ、ネバディロ・ブランコ、ミッション、ピクアル、アルベキナ、オヒブランカ、コルニカブラ、ゴルダル、モロイオロ、フラントイオ、コラティーナ、レッチーノ等の品種を好適に使用することができる。
【0021】
オレアセイン高含量オリーブ抽出物の調製には、オリーブの果実、種子、葉、茎等のいずれの部位を用いてもよいが、果実を用いるのが好ましい。オリーブ果実は生のままで用いてもよいし、凍結乾燥等によって乾燥したものを用いてもよい。また、オリーブ果実から油を搾った後の残滓も、そのまま、あるいは乾燥した状態で用いることができる。
<オレアセイン高含量オリーブ抽出物>
オレアセイン高含量オリーブ抽出物の調製には、オリーブ由来ポリフェノールを豊富に含有する抽出物が得られる方法であれば、いかなる方法を用いてもよい。ここでいうオリーブ由来ポリフェノールは、オリーブに含まれるポリフェノールであって、ヒドロキシチロソール骨格を構造の一部に含むもの、チロソール骨格を構造の一部に含むもの、カフェ酸骨格を構造の一部に含むもの、p−クマル酸骨格を構造の一部に含むもの、またはこれらの混合物をいう。ヒドロキシチロソール骨格を構造の一部に含むオリーブ由来ポリフェノールの例には、ヒドロキシチロソールならびにその前駆体および代謝物等がある。チロソール骨格を構造の一部に含むオリーブ由来ポリフェノールの例には、チロソールならびにその前駆体および代謝物等がある。カフェ酸骨格を構造の一部に含むオリーブ由来ポリフェノールの例には、カフェ酸ならびにその前駆体および代謝物等がある。p−クマル酸骨格を構造の一部に含むオリーブ由来ポリフェノールの例には、p−クマル酸ならびにその前駆体および代謝物等がある。オリーブ由来ポリフェノールには、オレアセインが、好ましくは0.01〜40重量%、より好ましくは0.1〜30重量%、更に好ましくは1〜20重量%含まれる。
【0022】
本発明のオレアセイン高含量オリーブ抽出物は、オリーブ由来ポリフェノールを豊富に、好ましくは30重量%以上含有する抽出物が得られる方法で調製することができる。具体的には、たとえば以下の方法で、オレアセイン高含量オリーブ抽出物を調製することができる。
(1)オリーブからオリーブオイルを搾油した後の残滓を有機溶媒を用いて脱脂し、次いで熱水を用いて抽出する。脱脂に用いる有機溶媒はいかなるものを用いてもよいが、たとえばヘキサンを用いることができる。抽出に用いる熱水の温度は、70℃〜100℃が好ましく、70℃〜80℃がもっとも好ましい。
(2)(1)の工程で得た抽出液を、吸着樹脂を充填したカラムに負荷し、水、エタノール、またはこれらの混合物を用いて溶出することにより、オリーブ由来ポリフェノールを豊富に含有する抽出画分を得る。オリーブ由来ポリフェノールを豊富に含有する抽出画分には、オレアセインも豊富に含まれるため、この抽出画分を、オレアセイン高含量オリーブ抽出物として本発明の概日リズム調整剤に用いることができる。吸着樹脂は、ポリフェノールを吸着するものであればいかなるものを用いてもよいが、たとえばアンバーライト(商標)XAD-HP(オレガノ社)を好適に用いることができる。また、水、エタノール、又はこれらの混合物を用いた溶出については、使用するオリーブの品種、形態等に応じて、当業者は適宜その条件を設定することができる。オリーブオイルを搾油した後の残滓を抽出に用いる場合は、たとえば水、15%エタノール/水、30%エタノール/水、45%エタノール/水、のステップワイズ溶出を行い、得られた45%エタノール画分を、オレアセイン高含量オリーブ抽出物として本発明に用いることができる。
【0023】
また、オレアセイン高含量オリーブ抽出物としては、インデナ社からオレアセレクト(商標)として販売されている製品も好適に用いることができる。
オレアセイン高含量オリーブ抽出物に含まれるオレアセインの濃度は、0.01〜40重量%であることが好ましく、0.1〜30重量%であることがより好ましく、1〜20重量%含まれることがさらに好ましい。
<概日リズム調整剤を添加した飲食品>
本発明の概日リズム調整剤は飲食品に添加することができる。すなわち、本発明は、概日リズム調整剤を添加した飲食品を提供する。たとえばオレアセインを有効成分とするサプリメント、ならびに一般の飲食品にオレアセインを配合して、その飲食品に概日リズム調整効果を付与した機能性食品(健康補助食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品等の健康食品、動物用サプリメントを含む)、動物用飼料等、経口摂取される形態として使用できる。本発明の概日リズム調整剤を添加した飲食品は、包装、容器または説明書に有効成分の種類、用途、概日リズム調整に関する効能効果、および/または摂取方法を表示することができる。
【0024】
本発明の概日リズム調整剤を添加した飲食品は、いかなる形態であってもよく、例えば、ジュース、牛乳、コーヒー飲料、茶飲料等の飲料、スープ等の液状食品、ヨーグルト等のペースト状食品、ゼリー、グミ等の半固形状食品、クッキー、ガム等の固形状食品、ドレッシング、マヨネーズ等の油脂含有食品等のどのような形態でもよい。また、茶葉等にオリーブの葉を配合したものにオレアセインを添加して、概日リズム効果を強化した飲食品とすることもできる。
【0025】
本発明の概日リズム調整剤を添加した飲食品には、オレアセインの効果を損なわない、すなわち、オレアセインとの配合により好ましくない相互作用を生じない限り、必要に応じて、ミネラル;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA等のビタミン類;栄養成分;香料;色素などの他の添加物を混合することができる。これらの添加物はいずれも飲食品に一般的に用いられるものが使用できる。また、本発明の概日リズム調整剤を添加した飲食品には、オレアセインの効果を損なわない限り、他の生理活性成分を混合することもできる。
【0026】
本発明の概日リズム調整剤を添加した飲食品は、オレアセインを、好ましくは0.001〜10重量%、より好ましくは0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%で含有する。
<オレアセインを含む、概日リズムの乱れが引き起こす体調の不調もしくは疾患の予防、緩和、または治療のための医薬組成物>
本発明の医薬組成物は、オレアセインを有効成分として含むことにより、不規則な生活パターンが引き起こす睡眠障害や、飛行機移動による時差ぼけ(ジェットラグ)等の、概日リズムの乱れが引き起こす体調の不調もしくは疾患を予防、緩和、または治療するために使用することができる。
【0027】
本発明の医薬組成物は、薬理学的に許容される担体、希釈剤もしくは賦形剤等と共に、一般的な方法により目的に応じて製剤化することができる。希釈剤、担体の例としては、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等の液体希釈剤、グルコース、シュークロース、デキストリン、シクロデキストリン、アラビアガム等固体希釈剤又は賦形剤を挙げることができる。また、製剤化において一般的に使用される乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤等を適宜配合することもできる。
【0028】
本発明の医薬組成物には、オレアセインの効果を損なわない、すなわち、オレアセインとの配合により好ましくない相互作用を生じない限り、必要に応じて、ミネラル;ビタミンE、ビタミンC、ビタミンA等のビタミン類;栄養成分;香料;色素などの他の添加物を混合することができる。これらの添加物はいずれも医薬品に一般的に用いられるものが使用できる。また、本発明の医薬組成物には、オレアセインの効果を損なわない限り、他の生理活性成分を混合することもできる。
【0029】
本発明の医薬組成物は、その形態は特に制限されるものではなく、例えば、粉末状、顆粒状、錠剤状などの固体状;溶液状、乳液状、分散液状等の液状;またはペースト状等の半固体状等の、任意の形態に調製することができる。具体的な剤形としては、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、丸剤、トローチ剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤を含む)、チュアブル剤、溶液剤などが例示できる。
【0030】
本発明の医薬組成物は、オレアセインを、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは1〜10重量%で含有する。
本発明の医薬組成物の投与量や投与形態は、対象、病態やその進行状況、その他の条件によって適宜選択すればよい。例えば、ヒト(成人)を対象に概日リズム調整効果を得ることを目的として経口投与する場合には、一般に、オレアセインを1日当たり0.01〜40 mg、好ましくは0.1〜30 mg、さらに好ましくは1〜20mg程度となるように、1日に1〜3回程度連続投与するとよい。
<概日リズム調整作用を有する飲食品または医薬組成物の製造>
本発明の概日リズム調整剤は、有効成分として、オレアセインを含むことにより、時計遺伝子であるPer遺伝子およびBmal遺伝子の発現量を逆位相に調節することができる。そして、飲食品または医薬組成物として提供することができる。
すなわち、本発明は別の観点からは、オレアセインを配合する工程を含む概日リズム調整作用を有する飲食品または医薬組成物の製造方法である。さらに、別の観点からは、概日リズム調整作用を有する飲食品または医薬組成物の製造におけるオレアセインの使用である。
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
試験例1 オリーブ由来成分の概日リズム調節効果
オリーブ由来成分の概日リズム調整効果を、時計遺伝子の発現を指標とした下記の方法により評価した。
<被験物質>
ルテオリン(フナコシ社)、アピゲニン(フナコシ社)、カフェ酸(ナカライテスク社)は市販されているものを用いた。オレアセイン、アクテオシドは、次のように調製したものを用いた。
<調製法>
オリーブ果肉の抽出エキス末(インデナ社製のオレアセレクト(商標)(Batch No.10219))100 gをメチルエチルケトン1200 mlと蒸留水600 mlに溶かし、3 L容の分液漏斗でよく振って、有機層を回収した。水層にメチルエチルケトン1200 mlを加えよく振って、有機層を回収し、更に同様の操作を繰返した。計3回分の有機層を合併し、濃縮、凍結乾燥を行い、52.5 gの乾燥物を得た。
【0033】
この乾燥物全量を200 mlの70%エタノール水溶液に溶解させ、更に水で10倍に希釈した後、水で平衡化した1 LのMCI GEL CHP-20P(三菱化学株式会社製、75-150 μm)に負荷した。10 Lの10%エタノール水溶液を流した後、12.5%、15%、17.5%、20%、22.5%、25%、27.5%、30%、35%のエタノール水溶液で各1 Lずつ、さらに、2 Lの40%エタノール水溶液で順次溶出を行った(エタノール濃度はすべてV/V%)。12.5%から27.5%までの溶出液は250 mlずつ4フラクションに分画回収し、このうち20%溶出液の第4フラクションから25%溶出液の第3フラクションまでを合わせて濃縮して5.98 gの精製アクテオシドを得た。
【0034】
25%溶出液の第4フラクションから30%溶出液の第2フラクションまでを合わせて濃縮して5.56 gのオレアセインを含む画分を得た。この画分を以下の条件の分取HPLCで精製した。
<条件>
カラム: Develosil ODS-HG-5(5cmφx50cm、野村化学株式会社)
移動相:A:0.05%TFA/H2O、B:90%CH3CN,0.05%TFA/H2O、30ml/min
グラジエントプログラム:B20%→B45%(90min)、B45%アイソクラティック(150min)
検出:A280nm
このHPLC条件において、60分から70分に溶出したオレアセインを集めて、減圧濃縮後、凍結乾燥を行い、3.8gのオレアセインを得た。
<評価方法>
培養細胞(ヒト肝臓癌由来細胞株HepG2)を2.5x103cells/cm2でT-75フラスコ(BD Falcon(商標))に播種し、3日毎に培地交換(RPMI1640, 10% FBS)を行った。80%コンフルエントになった細胞を4.2x104cell/mlの濃度で6well plate(BD Falcon(商標))に継代し、各細胞の概日リズムの位相を同調させるために、3日後に培地を低血清培地(RPMI1640, 2% FBS)に交換した。低血清培地交換3日後に細胞を実験に供した。被験物質のDMSO溶解液(50μg/μl )を調製し、この溶解液を被験物質の終濃度で50μg/mlになるよう6well plateに添加した。コントロールにはDMSOを添加した(終濃度0.1%)。
【0035】
被験物質添加8時間後に細胞を回収し、定法に従いmRNAを抽出した。抽出したmRNAを用いて、時計遺伝子であるBmal1およびPer1の発現量をqPCR法(Applied Biosystems 7900HT Fast リアルタイムPCRシステム)にて解析した。
<結果>
Bmal1遺伝子の発現量を図1に、Per1遺伝子の発現量を図2に示す。先述した通り、正常な概日リズムにおいてはBmal1とPer1の発現量が逆位相になる事が分かっている。今回、オレアセインを添加した場合において、Bmal1とPer1の発現量が逆位相になる事が確認された。具体的には、オレアセインはBmal1の発現量を増加させる一方でPer1の発現量を減少させた。即ち、オレアセインは、時計遺伝子の発現を正常なパターンに調節することで、ずれた位相の同調を促進し、概日リズムを正常に戻す効果があることが分かった。
【実施例2】
【0036】
試験例2 オレアセイン高含量オリーブ抽出物の概日リズム調整効果
オレアセイン高含量オリーブ抽出物の概日リズム調節効果を時計遺伝子の発現を指標とした下記の方法により評価した。
<被験サンプル>
オリーブ抽出物は、下記(1)、(2)に示す工程で抽出された抽出物を用いた。尚、抽出物にはインデナ社オレアセレクト(商標)を用いることも可能である。
【0037】
(1)オリーブ果実からオリーブオイルを搾油した残滓をヘキサンにて脱脂後、80℃の熱水で30分間抽出した。
(2)(1)で得た抽出液をアンバーライト XAD7-HPカラム(オルガノ社)に負荷し、水(6L)、15%エタノール/水(8.4L)、30%エタノール/水(4.8L)、45%エタノール/水(3.6L)、60%エタノール/水(4.8L)のステップワイズ溶出を行い、30%エタノール画分、45%エタノール画分を凍結乾燥させ、評価に用いた。
【0038】
45%エタノール画分はオリーブポリフェノールを30重量%以上含有しており、オレアセインを3.2重量%含有していた。また、30%エタノール画分のオレアセイン含量は0.44重量%であった。なお、オレアセインは以下の方法で定量した。HPLC:Shimadzu LC2010C)Develosil XG-C30-5カラム(野村化学、4.6×150 mm)を用い、移動相は、A液として0.1%ギ酸水溶液を、B液として0.1%ギ酸を含む90%アセトニトリル溶液を用いた。20分間にわたる直線濃度勾配(B液10%→B液45%)を用いて溶出し、その後、B液45%を用いて3分間溶出した(流速:常時1.0ml/分)。
【0039】
この条件下で、オレアセインに該当するピークは14.1分に溶出する(検出波長:280nm)。
<評価方法>
8週齢雄性Wistarラットを1週間馴化させた後、対照食群、試験食群(30%エタノール画分投与群、45%エタノール画分投与群)に群分けした(各群5匹)。次に、30%エタノール画分、45%エタノール画分を、10%Tween80、5%EtOHを含む生理食塩水に溶かし、これを対象群として250mg/5ml/kgで1日1回3日間強制経口投与した。尚、対照食群には10%Tween80を250mg/5ml/kgで1日1回3日間強制経口投与した。最終投与から4時間後に腹大動脈からの採血と肝臓の採取を行った。
【0040】
採取した肝臓から、定法により総RNAを抽出し、それを用いてDNAマイクロアレイ法(Affymetrix(登録商標) 社GeneChip(登録商標) Rat Genome 230 2.0 Array)にて時計遺伝子であるBmal1、Per1の発現量を解析した。
<結果>
Bmal1遺伝子の発現量を図3に、Per1遺伝子の発現量を図4に示す。対照群と比較し、45%エタノール画分投与群でBmal1の発現量が有意に増加し、Per1の発現量が有意に減少した。先述した通り、正常な概日リズムにおいてはBmal1とPer1の発現量が逆位相になる事が分かっている。今回、45%エタノール画分投与群において、Bmal1とPer1発現変動の逆位相が確認された。具体的には、45%エタノール画分はBmal1の発現量を増加させる一方でPer1の発現量を減少させた。即ち、オリーブ抽出物は、時計遺伝子の発現を正常なパターンに調節することで、ずれた位相の同調を促進し、概日リズムを正常に戻す効果、概日リズム調整作用があることが分かった。
【0041】
オレアセインはオリーブ抽出物中のポリフェノールの約10%を占めることから、オリーブ抽出物の概日リズム調節効果の有効成分だと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の概日リズム調整剤は、有効成分として、オレアセインを含むことにより、概日リズムを効果的に調整することができる。したがって、本発明の概日リズム調整剤は、睡眠障害、時差ぼけ(ジェットラグ)等の、概日リズムの乱れが引き起こす体調の不調や疾患の予防、緩和、治療等に有効に利用することができる。
図1
図2
図3
図4