(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049314
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】放射線撮像装置及び画像処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20060101AFI20161212BHJP
G01T 1/17 20060101ALI20161212BHJP
G01T 1/24 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
A61B6/00 350M
A61B6/00 300S
A61B6/00 320M
G01T1/17 C
G01T1/24
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-132366(P2012-132366)
(22)【出願日】2012年6月11日
(65)【公開番号】特開2013-255606(P2013-255606A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】廣池 太郎
【審査官】
原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/032801(WO,A1)
【文献】
特開2006−305228(JP,A)
【文献】
特開2010−233963(JP,A)
【文献】
特開2010−131223(JP,A)
【文献】
特開2005−028114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00−6/14
G01T 1/17
G01T 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を透過した放射線に応じて信号を発生させる複数の検出素子を有する放射線検出手段と、前記放射線検出手段によって検出された信号に基づく放射線画像を処理する画像処理手段と、を備える放射線撮像装置であって、
前記画像処理手段は、
放射線の非照射期間において前記放射線検出手段によって連続して取得される複数の無曝射画像に基づいて、前記複数の無曝射画像を取得した後に取得される放射線画像に対する補正用画像を生成する補正用画像生成手段と、
前記補正用画像を用いて前記放射線画像を補正する補正手段と、を有し、
前記補正用画像生成手段は、
前記複数の無曝射画像における信号強度の時間変化を非線形近似することにより得られる決定係数が、閾値以上である場合には近似式を用いて前記補正用画像を生成し、前記閾値より小さい場合には前記放射線画像を取得する直前の無曝射画像を用いて前記補正用画像を生成することを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項2】
前記補正用画像の生成に用いる無曝射画像は、少なくとも3枚以上であることを特徴とする請求項1に記載の放射線撮像装置。
【請求項3】
前記補正用画像生成手段は、前記複数の無曝射画像の取得時の蓄積時間と前記放射線画像の取得時の蓄積時間とが異なり、かつ前記近似式の決定係数が閾値以上である場合、前記放射線画像の蓄積時間に応じて前記近似式を積分することにより、前記補正用画像を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線撮像装置。
【請求項4】
前記補正用画像生成手段は、前記複数の無曝射画像の取得時の蓄積時間と前記放射線画像の取得時の蓄積時間とが異なり、かつ前記近似式の決定係数が閾値より小さい場合、前記放射線画像を取得する直前の無曝射画像に対して、蓄積時間の比を掛けることにより、前記補正用画像を生成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の放射線撮像装置。
【請求項5】
前記決定係数の閾値は0.6以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放射線撮像装置。
【請求項6】
前記非線形近似は対数関数近似であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の放射線撮像装置。
【請求項7】
前記非線形近似は前記複数の検出素子すべてに対して行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の放射線撮像装置。
【請求項8】
直前の無曝射画像の取得から、一定時間以内に放射線画像の撮影が行われない場合には、再び無曝射画像を取得し、前記非線形近似をやり直して、前記近似式および前記決定係数を更新することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の放射線撮像装置。
【請求項9】
前記決定係数に応じて、前記無曝射画像の取得間隔を変化させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の放射線撮像装置。
【請求項10】
被写体を透過した放射線に応じて信号を発生させる複数の検出素子を有する放射線検出手段と、前記放射線検出手段によって検出された信号に基づく放射線画像を処理する画像処理手段と、を備える放射線撮像装置における画像処理方法であって、
放射線の非照射期間において前記放射線検出手段によって連続して取得される複数の無曝射画像に基づいて、前記複数の無曝射画像を取得した後に取得される放射線画像に対する補正用画像を生成する補正用画像生成工程と、
前記補正用画像を用いて前記放射線画像を補正する補正工程と、を有し、
前記補正用画像生成工程は、
前記複数の無曝射画像における信号強度の時間変化を非線形近似することにより得られる決定係数が、閾値以上である場合には近似式を用いて前記補正用画像を生成し、前記閾値より小さい場合には前記放射線画像を取得する直前の無曝射画像を用いて前記補正用画像を生成することを特徴とする画像処理方法。
【請求項11】
被写体を透過した放射線に応じて信号を発生させる複数の検出素子を有する放射線検出手段と、前記放射線検出手段によって検出された信号に基づく放射線画像を処理する画像処理手段と、を備える放射線撮像装置であって、
前記画像処理手段は、
放射線の非照射期間において前記放射線検出手段によって連続して取得される複数の無曝射画像に基づいて、前記複数の無曝射画像を取得した後に取得される放射線画像に対する補正用画像を生成する補正用画像生成手段と、
前記補正用画像を用いて前記放射線画像を補正する補正手段と、を有し、
前記補正用画像生成手段は、
前記複数の無曝射画像における画素毎の輝度値の時間変化を非線形近似することにより得られる決定係数が、閾値以上である場合には近似式を用いて前記補正用画像を生成し、前記閾値より小さい場合には前記放射線画像を取得する直前の無曝射画像を用いて前記補正用画像を生成することを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項12】
被写体を透過した放射線に応じて信号を発生させる複数の検出素子を有する放射線検出手段と、前記放射線検出手段によって検出された信号に基づく放射線画像を処理する画像処理手段と、を備える放射線撮像装置における画像処理方法であって、
放射線の非照射期間において前記放射線検出手段によって連続して取得される複数の無曝射画像に基づいて、前記複数の無曝射画像を取得した後に取得される放射線画像に対する補正用画像を生成する補正用画像生成工程と、
前記補正用画像を用いて前記放射線画像を補正する補正工程と、を有し、
前記補正用画像生成工程は、
前記複数の無曝射画像における画素毎の輝度値の時間変化を非線形近似することにより得られる決定係数が、閾値以上である場合には近似式を用いて前記補正用画像を生成し、前記閾値より小さい場合には前記放射線画像を取得する直前の無曝射画像を用いて前記補正用画像を生成することを特徴とする画像処理方法。
【請求項13】
第一の放射線撮影で前記放射線検出手段から読出される放射線画像信号と、該放射線画像信号の読出しに引き続き前記放射線検出手段から繰り返し読出される電気信号を取得する取得手段と、
前記取得される電気信号の時間変化に基づいて、前記電気信号の取得に引き続いて行われる第二の放射線撮影で前記放射線検出手段から読出される放射線画像信号の補正を行うか否かを判定する判定手段と、を更に有し、
前記補正手段は、前記判定手段の判定結果と前記時間変化とに基づいて、前記第二の放射線撮影により読出された放射線画像信号を補正することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の放射線撮像装置。
【請求項14】
前記判定手段により前記時間変化に基づいて補正を行うと判定された場合には、前記補正手段は、前記時間変化に基づいて前記第二の放射線撮影により読出された放射線画像信号を補正し、
前記判定手段により前記時間変化に基づいて補正を行わないと判定された場合には、前記補正手段は、前記第二の放射線撮影前に得られた無曝射画像に基づいて前記第二の放射線撮影により読出された放射線画像信号を補正することを特徴とする請求項13に記載の放射線撮像装置。
【請求項15】
第一の放射線撮影で前記放射線検出手段から読出される放射線画像信号と、該放射線画像信号の読出しに引き続き前記放射線検出手段から繰り返し読出される電気信号を取得する取得工程と、
前記取得される電気信号の時間変化に基づいて、前記電気信号の取得に引き続いて行われる第二の放射線撮影で前記放射線検出手段から読出される放射線画像信号の補正を行うか否かを判定する判定工程と、を更に有し、
前記補正工程は、前記判定工程の判定結果と前記時間変化とに基づいて、前記第二の放射線撮影により読出された放射線画像信号を補正することを特徴とする請求項10に記載の画像処理方法。
【請求項16】
コンピュータを、請求項1乃至9、11、13、および14のいずれか1項に記載の放射線撮像装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルX線像などの放射線画像を撮影する放射線撮像装置及び画像処理方法に関し、特に放射線撮像装置におけるオフセット補正技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被写体を透過したX線像などの放射線画像を撮影するための放射線撮像装置として、近年では放射線像を直接、かつリアルタイムにデジタル信号に変換する放射線撮像装置が普及している。特に、人体など比較的大きな被写体の内部を観察するために、大面積フラットパネル式のディテクタ(以下FPDと称する)が提案されている。こうしたFPDとしては、例えば、アモルファス半導体を透明導電膜と導電膜とで挟んだ固体光検出器と、放射線を可視光に変換するシンチレータとを積層した微小な放射線検出器とを、石英ガラス基板上にマトリクス状に配列したものなどが知られている。
【0003】
また、固体光検出器としてCCDやCMOS検出器を用いたものや、シンチレータを用いず、固体光検出器で放射線を直接検出する放射線検出器も知られている。
【0004】
こうしたFPDは、任意の蓄積時間の間に照射された放射線量を電荷量として検出する。そのため、放射線画像の撮影時に、検出器中に放射線の照射とは無関係な電荷が存在した場合、それらがノイズとして放射線画像に重畳され、放射線画像の画質を低下させる原因となる。検出器中に生じる放射線の照射と無関係な電荷としては、例えば先行して撮影された放射線画像の撮影後に、シンチレータや固体光検出器の特性に基づいて残留する残留電荷がある。また、固体光検出器には主に温度の影響により生成される電荷による暗電流もある。このほか固体光検出器固有の欠陥に起因する固定ノイズがある。放射線画像の撮影時には、電荷を蓄積するための蓄積時間に比例して残留電荷や暗電流成分の電荷も増加し、画質が低下する。そのため放射線画像の撮影にあたっては、撮影中に蓄積された残留電荷や暗電流電荷および固定ノイズによるオフセット成分を除去するためのオフセット補正処理が実行される。
【0005】
一般にオフセット補正処理は、放射線を照射しない状態で取得した画像(以下では無曝射画像と呼ぶ)をオフセット補正用画像とし、これを放射線画像から差し引くことで行われる。ここで無曝射画像は、上述の通り放射線を照射しない状態で取得するものであり、一般に放射線画像の撮影の直前もしくは直後に取得される。また、例えば動画撮影などのように高速で連続して放射線画像を取得する必要がある場合には、放射線画像の撮影の間に無曝射画像を取得することが困難であるため、あらかじめ用意したオフセット補正用画像を用いることもある。
【0006】
しかしながら、一般的なFPDの場合、検出器の駆動開始直後や放射線照射直後は暗電流電荷が不安定な場合が多い。また放射線照射後に生じる残留電荷は、放射線照射の終了直後ほど急激に変化することが知られている。そのため、安定したオフセット補正処理を実行するためには、検出器の駆動開始から放射線画像の撮影までの間、あるいは先行する放射線画像の撮影から次の放射線画像の撮影までの間に一定の時間を確保する必要がある。
【0007】
また、暗電流電荷は、検出器の温度や撮影条件あるいはセンサの経時劣化等の影響で変化するため、あらかじめ用意したオフセット補正用画像では十分な補正精度を得られない場合も多い。
【0008】
一方で、放射線撮像装置においては、その操作性を向上させるために、駆動開始直後や放射線画像の撮影直後は、できるだけ短い時間で次の放射線画像の撮影ができることが望まれる。
【0009】
こうした課題を解決するために、特許文献1には、残留電荷の減衰特性について、撮影条件や経過時間に応じた補正用テーブルを用意し、これに基づいて撮影条件や経過時間に応じてオフセット補正用画像を修正して用いる技術が開示されている。また特許文献2には、放射線照射開始ボタンの押下後の一定期間内に複数の無曝射画像を撮影し、その画素値の時間変化を近似式でフィッティングすることによりオフセット補正用画像を生成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−310466号公報
【特許文献2】特開2010−233963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、あらかじめ用意した減衰特性を元にオフセット補正処理を実行する場合、撮影時の温度等の状況を監視しておく必要があり、そのために新たな構成を設けなくてはならない。さらに温度や蓄積時間等の撮影条件が事前の減衰特性取得時とは異なっていた場合、補間によってオフセット補正用画像を生成する必要があり、補正精度の低下は避けられない。さらに検出器の減衰特性の経時変化が生じた場合には補正精度は著しく低下する。
【0012】
このようなことから、放射線画像の高画質化のためには、検出器の駆動開始直後からの経過時間や直前の放射線照射からの経過時間に依らず、また、残留電荷や暗電流電荷の多寡に依らずに高精度なオフセット補正用画像を生成することが望まれている。
【0013】
また、特許文献2に開示されているように、複数の無曝射画像を用いて減衰特性を求める方法においては、一定の近似式が成立する範囲では補正精度が保たれる。しかしながら、減衰特性が複雑な場合、高精度な近似式を得るためには多くの無曝射画像が必要となり、結果として次の撮影を行うまでに必要な時間が長くなることから、放射線撮像装置の操作性が低下する。また、残留電荷の時間変化は、放射線量そのものの影響を受けるため、例えば、直前の撮影において放射線量が大きな画素と小さな画素とに同じ近似式を当てはめることは困難である。さらに特許文献2には、複数の近似式をあてはめ、当てはまりの良い式を用いる方法も開示されているが、この場合、さらに多くの演算が必要になることから、様々な時間の遅延により、放射線撮像装置の操作性がさらに低下することは避けられない。
【0014】
このようなことから、近似式を用いてオフセット補正用画像を生成するにあたっては、撮影間隔を短縮することで、放射線撮像装置の操作性を向上させることが望まれている。
【0015】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、放射線画像の高画質化と放射線撮像装置の操作性の向上を両立させるための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明に係る放射線撮像装置は、例えば、以下のような構成を備える。即ち、
被写体を透過した放射線
に応じて
信号を発生させる複数の
検出素子を有する
放射線検出手段と、前記
放射線検出手段によって検出された
信号に基づく放射線画像を処理する画像処理手段と、を備える放射線撮像装置であって、
前記画像処理手段は、
放射線の非照射期間において前記
放射線検出手段によって連続して取得される複数の無曝射画像に基づいて、前記複数の無曝射画像を取得した後
に取得される放射線画像に対する補正用画像を生成する補正用画像生成手段と、
前記補正用画像を用いて前記放射線画像を補正する補正手段と、を有し、
前記補正用画像生成手段は、
前記複数の無曝射画像における信号強度の時間変化を非線形近似することにより得られる決定係数が、閾値以上である場合には近似式を用いて前記補正用画像を生成し、前記閾値より小さい場合には前記放射線画像を取得する直前の無曝射画像を用いて前記補正用画像を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、放射線画像の高画質化と放射線撮像装置の操作性の向上を両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る放射線撮像装置を備える放射線撮像システムの一例を示す図である。
【
図2】放射線撮像装置における画像処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】画像検出部の構成の一例を示す模式図である。
【
図4】放射線画像撮影後の電荷量の時間変化を示す模式図である。
【
図5】オフセット補正処理の方法を説明するための図である。
【
図6】無曝射画像と放射線画像の蓄積時間が異なる場合のオフセット補正処理の方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る好適な実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態では、放射線としてX線を適用した場合について説明を行うが、本発明はこれに限定されず、X線以外の放射線であるα線やβ線、γ線や、その他の電磁波であってもよい。
【0020】
[第1の実施形態]
<1.放射線撮像システムの構成>
図1は本発明の一実施形態に係る放射線撮像装置110を含む、放射線撮像システム100の構成の一例を示す図である。ここで放射線撮像装置110は、画像検出部111と、画像保存部112と、画像処理部113と、画像出力部116とを有している。
【0021】
画像検出部(FPD等)111は、放射線生成部140により照射され、被写体150を透過した放射線を検出するものであり、照射された放射線の線量に応じて電荷を発生させる複数の放射線検出素子が配列して形成されている。画像保存部112は、画像検出部111で検出された画像(放射線画像、無曝射画像)を保存するためのものであり、複数の画像を記憶することができる。なお、画像保存部112は放射線撮像装置110の内部に配されていてもよいし、外部に接続されたコンピュータ内のメモリやハードディスク等の記憶部に配されていてもよい。
【0022】
画像処理部113は、補正用画像生成部114と補正部115とを備える。補正用画像生成部114は、画像保存部112に保存された無曝射画像からオフセット補正用画像を生成する。補正部115は、生成されたオフセット補正用画像を用いて、放射線画像に対して所定のオフセット補正処理を実行するとともにその他の画像処理を施す。なお、画像処理部113は、ハードウェアによって構成しても良いし、本発明に係る画像処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラムによって構成してもよい。なお、画像処理方法の詳細については後述する。
【0023】
画像出力部116は、画像処理部113において処理された放射線画像を出力する機能を有する。なお、放射線画像の出力先としては、各種ディスプレイに代表される画像表示部130のほか、放射線画像のプリントイメージを出力するプリンタ(不図示)や、放射線画像を保存するためのハードディスクなどの記憶装置(不図示)等が含まれる。
【0024】
制御部120はシステム全体の動作を制御するものであり、例えば1台ないし複数台のコンピュータを含み、放射線生成部140や放射線撮像装置110の制御を行う。コンピュータにはキーボードやマウス、ディスプレイ等の入出力部が具備されていても良い。また、ディスプレイは画像表示部130を兼ねることもできる。
【0025】
以上が本実施形態に係る放射線撮像装置110を含む放射線撮像システム100の一構成例についての説明であるが、装置あるいはシステム内に用いられる構成は必ずしも上述の通りである必要はない。例えば、制御部120を放射線撮像装置110の内部に含めて単一の装置として実現することも可能である。また、逆に放射線撮像装置110内の各部を、外部の複数の装置にそれぞれ配する構成としてもよい。
【0026】
<2.画像処理の流れ>
次に、
図2を用いて、本発明の特徴部分であるオフセット補正処理を含む画像処理の流れについて説明する。
図2は、
図1に示す放射線撮像装置の画像処理の一例を示すフローチャートである。
【0027】
画像処理が開始されると3枚の無曝射画像が連続して撮影される(ステップS201〜S203)。なお、無曝射画像の取得間隔は一定でも良いし、不定でも良い。また、無曝射画像の取得枚数は3枚に限られず、3枚以上であってもよい。
【0028】
連続した3枚の無曝射画像が取得されると、画像検出部111を構成する各放射線検出素子における電荷量の時間変化を非線形関数でフィッティングして近似式(非線形近似式)F(t)および近似式の決定係数R
2を求める(ステップS204)。ここで、近似式F(t)およびR
2はすべての放射線検出素子に対して求める。また近似に用いる非線形関数としては残留電荷の時間変化を表すモデルであれば制限はなく、特に指数関数や対数関数などを好適に用いることが可能である。本実施形態では対数関数近似モデルF(t)=Alog(t)+BからAおよびBを推定している。ここでtは駆動開始あるいは直前の放射線画像の撮影時点を起点とした時間である。
【0029】
ここで放射線画像の撮影要求(ステップS205)があった場合はただちに放射線を照射して放射線画像の撮影を行う(ステップS207)。一方、撮影要求が無かった場合には、再び無曝射画像の取得を行い(ステップS206)、最新の3枚の無曝射画像に基づいて近似式F(t)および決定係数R
2を更新する(ステップS204)。
【0030】
放射線画像を撮影した場合(ステップS207)、引き続きオフセット補正用画像の生成を行う。ただし、オフセット補正用画像の生成に際しては、最新の非線形近似における決定係数R
2と閾値との比較を行う(ステップS208)。そして、決定係数R
2が閾値以上である場合には、近似式F(t)に基づいて放射線画像の撮影時点における各画素の画素値を予測して求めることで、放射線画像の撮影時点におけるオフセット補正用画像を生成する(ステップS209)。一方、決定係数R
2が閾値を下回る場合には、最後に取得した無曝射画像をオフセット補正用画像として使用する(ステップS210)。
【0031】
ステップS209またはS210において求めたオフセット補正用画像は、放射線画像のオフセット補正処理に用いられる(ステップS211)。なお、オフセット補正用画像の生成処理及びオフセット補正処理の詳細は後述する。
【0032】
オフセット補正処理が実行された放射線画像に対しては、更に、各種の画像処理が実行される。ここで実行する画像処理は、例えば強調処理、ダイナミックレンジ圧縮処理、ノイズ低減処理、階調処理などであり、必要に応じて各種の画像処理を実行する(ステップS212)。画像処理された放射線画像は、画像出力部116から外部に出力される(ステップS213)。例えば、画像表示部130に出力された場合には、画像表示部130において放射線画像が表示される。
【0033】
その後、撮影終了となった場合(ステップS214でYES)には画像処理を終了し、撮影終了ではないが、一定時間以内に撮影が行われない場合(ステップS214でNO)には、ステップS201に戻って無曝射画像の取得を開始する。なお、撮影終了の指示は、必ずしも操作者による操作に基づく必要はなく、例えば、予め定められた撮影時間を経過した時点で自動的に撮影終了が指示されてもよい。
【0034】
<3.オフセット補正用画像の生成処理の詳細>
次に、本発明の特徴部分であるオフセット補正用画像の生成処理について詳細に説明する。
図3は、画像検出部111における放射線検出素子160の配置の一例を示した図である。
図3に示すように、画像検出部111は、x方向にm個、y方向にn個の放射線検出素子160がm×nのマトリクス状に配列されてなる。画像検出部111に放射線が任意の時間照射されると、各放射線検出素子160では、照射された放射線の線量に応じた電荷が生成・蓄積される。蓄積された電荷は不図示の読み出し回路を経て外部に読み出され、放射線検出素子毎の電荷量Cを画素毎の輝度値に換算することで放射線画像が生成される。なお、以下では座標(x
i,y
j)の放射線検出素子に蓄積された電荷量をC
ijと表記する。
【0035】
図4は時間t0で放射線が照射された放射線検出素子の電荷量(信号強度)の時間変化を示したグラフである。白いマーカは時間t0で撮影された放射線画像における電荷量であり、黒く塗りつぶしたマーカは放射線を照射しない状態で(非照射期間に)電荷を蓄積させて取得した無曝射画像における電荷量である。この無曝射画像における電荷量は、時間t0で照射された放射線による残留電荷と暗電流電荷の電荷量の和であり、次に撮影される放射線画像におけるオフセット量に相当する。
【0036】
引き続き放射線画像を撮影する場合、取得した放射線画像からこのオフセット量を差し引くことで、放射線照射によって生成された正味の電荷量を求めることができる。このように放射線画像からオフセット補正用画像を差し引く処理をオフセット補正処理と呼ぶ。
【0037】
図4に示すとおり、放射線画像の撮影直後には各放射線検出素子内に残留電荷が存在しているためオフセット量は大きな値となる。しかし残留電荷は時間の経過とともに単調に減少するため、ある程度の時間が経過するとオフセット量はC0を中心とした一定の範囲に収束する。ここでC0は無曝射画像の取得時間内に蓄積された暗電流電荷に起因する電荷量であり、放射線検出素子の特性ばらつきや温度などの外的要因によって一定の範囲でランダムな値をとる。
【0038】
放射線画像のオフセット補正処理の補正精度を高めるためには、放射線画像と同じタイミングでのオフセット補正用画像、すなわち無曝射画像を取得すればよい。しかし、放射線画像と無曝射画像とを同時に取得することはできないため、一般的には放射線画像の撮影の直前または直後の無曝射画像がオフセット補正用画像として用いられる。しかしながら、特に放射線照射直後の残留電荷が多く存在する状態では、電荷量の時間変化が大きいため、オフセット補正処理の補正精度が悪化する。そのため、一般には、残留電荷がほぼ一定値に落ち着くまでの間は、次の放射線画像の撮影を行うことができない。
【0039】
これに対して、本実施形態では、放射線画像の撮影前に取得した3枚の無曝射画像からオフセット量を予測してオフセット補正処理を実行する。
図5は本実施形態におけるオフセット補正用画像の生成方法を説明するための模式図であり、時刻t0で放射線画像を撮影した後に、時刻t4で再び放射線画像を撮影するまでの、座標(x
i,y
j)の画素における電荷量C
ijの時間変化を示している。
【0040】
時刻t0で放射線画像を撮影した後、引き続いて、時刻t1、t2、t3で無曝射画像を取得する。このとき無曝射画像取得時の蓄積時間はいずれもΔtである。なお、Δtは直前の放射線画像の撮影条件と合わせても良いし、別の条件であってもかまわない。得られた3枚の無曝射画像の電荷量(501〜503)から、オフセット量の時間変化を対数関数近似モデルで近似し、近似式F
ij(t)および近似の決定係数R
2を求める。
【0041】
ここでt4で次の放射線画像を撮影した場合、放射線画像の蓄積時間が無曝射画像と同様にΔtであれば、F
ij(t)をt4まで外挿し時刻t4におけるオフセット量504を予測することが可能である。このため、撮影された放射線画像における電荷量505から、予測したオフセット量504を差し引くことで、正味の放射線画像の電荷量506を高精度に求めることができる。
【0042】
なお、3枚の無曝射画像の取得間隔は任意であり、また一定間隔である必要もないが、できるだけ短い間隔で取得することにより、駆動開始後あるいは直前の放射線画像の撮影から短時間で次の放射線画像を撮影することが可能となる。
【0043】
また、近似式を外挿することによる予測精度は、外挿区間が長くなるほど、すなわち
図5でt3からt4までの時間が長くなるに従って悪化する。したがって最後の無曝射画像の取得から一定の時間内に放射線画像の撮影が行われない場合には、新たに無曝射画像を1枚取得し(t5)、最新の無曝射画像を含む3枚の無曝射画像に基づいて近似式を更新する。
【0044】
ところで、無曝射画像の取得時の蓄積時間と、放射線画像の撮影時の蓄積時間とが異なっている場合、単純にF
ij(t)をt4まで外挿しただけでは、オフセット補正用画像を精度良く求めることはできない。オフセット補正処理は、放射線画像とオフセット補正用画像とが同一の蓄積時間で取得されることが前提であり、異なった撮影条件で取得されたオフセット補正用画像に基づいてオフセット補正処理を実行した場合、補正精度は著しく低下してしまう。
【0045】
一般に放射線画像の撮影時における蓄積時間は、撮影手技や撮影部位、撮影体位のほか、放射線の照射条件や撮影対象のサイズ等によって様々な値をとる。このため、事前に取得しオフセット補正用画像の生成に用いた無曝射画像の取得条件とは異なる蓄積時間で撮影される場合も多い。
【0046】
このため、本実施形態では、オフセット補正用画像と異なる蓄積時間で放射線画像を取得する場合は、近似式F(t)を放射線画像の取得時間に渡って積分することにより、高精度なオフセット補正用画像を生成する。
【0047】
図6は無曝射画像と放射線画像の蓄積時間が異なる場合における補正用画像生成部114における処理を説明するための模式図であり、3枚の無曝射画像の取得に引き続き、蓄積時間Δt'で放射線画像を取得する際の電荷量C
ijの時間変化を示している。
【0048】
図6の例では、3枚の無曝射画像(601〜603)を蓄積時間Δtで取得した後に、放射線画像605を蓄積時間Δt'で撮影しており、Δt<Δt'となっている。このような場合、放射線画像におけるオフセット量604を求めるために、3枚の無曝射画像から求めた近似式F
ij(t)を放射線画像の蓄積時間に渡って積分する。なお、これはΔt>Δt'である場合についても同様である。
【0049】
ところで、上述したとおり、オフセット量は時間の経過とともに残留電荷が減衰し暗電流電荷に起因する一定の範囲に収束する。オフセット量が一定の範囲に収束した後は、オフセット量はランダムなゆらぎを示すようになるため、減衰中と同一の近似モデルでは近似の精度が悪化し、結果としてオフセット補正処理の補正精度が低下する。そこで、本実施形態においては、近似の精度を評価することで残留電荷の有無を判定し、その結果に応じてオフセット補正用画像の生成方法を切り替える構成としている。
【0050】
近似の精度は、近似式の当てはまりの良さの尺度として利用される決定係数R
2をチェックすることよって評価することができる。非線形近似における決定係数が所定の閾値よりも大きい場合、言い換えると近似の精度が高い場合は残留電荷が支配的であることを示しており、得られた近似式を用いて外挿によりオフセット量を予測することができる。一方、決定係数が所定の閾値よりも小さい場合には、残留電荷が十分に減少し、ランダムな暗電流電荷が支配的になっていることを示しており、近似式を用いただけでは補正精度が悪くなる。その場合は放射線画像の撮影直前の、すなわち最後に取得した無曝射画像をオフセット補正処理に用いればよい。あるいは、最新の3枚の無曝射画像の平均値をオフセット補正処理に用いても良い。なお、放射線画像の蓄積時間が無曝射画像の取得時と異なる場合は、蓄積時間の比Δt'/Δtを係数として無曝射画像の画素値に掛けることで、オフセット量を求めることができる。
【0051】
ここでオフセット補正処理の方法を切り替える判断基準となる決定係数R
2の閾値は0.6以上に設定することが好ましく、更には、0.6から0.8の範囲で設定することが好ましく、更には0.75〜0.8の範囲で設定されることが好ましい。
【0052】
なお、残留電荷は直前に照射された放射線の線量に依存しており、また、その減衰も放射線検出素子の特性に依存する。暗電流も同様に放射線検出素子の特性に依存することに加え、温度や素子の劣化等によって様々な値をとる。そのため、高精度なオフセット補正用画像を生成するためには、すべての画素に対して近似を行うことが望ましい。ただし決定係数による近似精度のチェックは全画素の平均値、あるいは任意の範囲に区切った領域内の画素の平均値を用いるようにしても良い。
【0053】
また、近似式を更新するための無曝射画像の取得間隔についても、決定係数に依存して制御しても良い。すなわち、決定係数が閾値以上の場合は、電荷量の減少が続いていることから、短い周期で無曝射画像の取得を行うことが好ましい。一方、決定係数が閾値を下回った場合には、すでにほぼ一定の範囲に電荷量が収束していることを示しており、無曝射画像の取得間隔を長くすることが好ましい。こうすることで消費電力や放射線検出素子の劣化を防ぐことが可能となる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、画像検出部の駆動開始後や放射線画像の撮影後に取得した3枚以上の無曝射画像に基づく近似式を用いることで、放射線画像の高画質化を実現することができる。さらに各画素の近似式の決定係数を評価することで、残留電荷の有無を判定し、各画素毎に最適なオフセット補正用画像を生成することにより、放射線撮像装置の操作性を向上させることができる。
【0055】
以上が本発明の代表的な実施形態の一例であるが、本発明は、上記及び図面に示す実施形態に限定することなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。
【0056】
[他の実施形態]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。