(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記貴金属担持光触媒は、貴金属の担持量が、光触媒100質量%に対して0.001質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒注入方法。
前記原子炉一次系冷却材の水質は、水素を注入してない通常水質、または水素を注入した水素注入水質であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光触媒注入方法。
前記光触媒添加部は、内部に供給された光触媒に、採取された前記原子炉一次系冷却材が供給されて、前記光触媒が攪拌されることにより、前記光触媒と採取された原子炉一次系冷却材とを混合する手段であることを特徴とする請求項10に記載の光触媒注入システム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[光触媒注入システム]
以下、図面を参照して本発明の光触媒注入システムについて説明する。
図1は、本発明の光触媒注入システムの概略図である。この光触媒注入システム1は、原子炉一次系5から貴金属または貴金属イオンを含む原子炉一次系冷却材70を採取する原子炉一次系冷却材採取部10と、採取された原子炉一次系冷却材70に光触媒を添加する光触媒添加部20と、この光触媒添加部20で得られた冷却材(第1の混合液)71に紫外線81を照射することにより、水中で光触媒の表面に貴金属が担持された貴金属担持光触媒を生成させる紫外線照射部30と、貴金属担持光触媒を含む冷却材(第2の混合液)72を原子炉一次系5に注入する貴金属担持光触媒注入部40とを備える。
【0020】
ここで、原子炉一次系5とは、沸騰水型原子力発電プラント(BWR)を構成する系統のうち、放射性物質を含む冷却材が流通する系統を意味する。原子炉一次系5としては、たとえば、主蒸気系、給水系、原子炉再循環系、残留熱除去系(RHR系)、および原子炉冷却材浄化系等が挙げられる。
【0021】
原子炉一次系5を構成する金属部材としては、たとえば、主蒸気系の主蒸気系配管、給水系の給水系配管、原子炉再循環系の再循環系配管、原子炉冷却材浄化系の冷却材浄化系配管、残留熱除去系の残留熱除去系配管、およびボトムドレン配管等が挙げられる。原子炉一次系5を構成する金属部材の材質としては、たとえば、ステンレス鋼、ニッケル基金属等が挙げられる。
【0022】
図1に示されるように、原子炉一次系5内には、原子炉一次系冷却材70が流通している。原子炉一次系冷却材70は、通常、原子炉一次系5内で存在する場所が異なると、温度も異なる。
【0023】
また、光触媒注入システム1は、採取された原子炉一次系冷却材70、第1の混合液71、および第2の混合液72等の冷却材を貯留する槽として、紫外線照射槽13を備える。
【0024】
ここで、第1の混合液71とは、採取された原子炉一次系冷却材70と光触媒とを混合して調製された、光触媒と貴金属または貴金属イオンとを含む液体の冷却材を意味する。第1の混合液71は、紫外線を照射することにより貴金属担持光触媒を含む第2の混合液72を生成する。すなわち、第1の混合液71は、第2の混合液72の原料である。
【0025】
また、第2の混合液72とは、第1の混合液71に紫外線を照射することにより生成された貴金属担持光触媒を含む、液体の冷却材を意味する。
第1の混合液71および第2の混合液72については後述する。
【0026】
紫外線照射槽13は、紫外線照射槽13外に設けられた紫外線照射部30から照射された紫外線81を、紫外線照射槽13内に貯留された第1の混合液71等の冷却材に照射することができるようになっている。
紫外線照射槽13内には、紫外線照射槽13内に存在する、採取された原子炉一次系冷却材70と光触媒とを含む第1の混合液71等の冷却材を攪拌する攪拌器14が設けられる。
【0027】
光触媒注入システム1は、原子炉一次系5から採取された原子炉一次系冷却材70を用いて調製された、金属部材の腐食抑制作用を有する貴金属担持光触媒を含む第2の混合液72を、原子炉一次系5に注入する、すなわち原子炉一次系5に戻すことにより、原子炉一次系5を構成する金属部材の腐食を抑制するシステムである。
【0028】
<原子炉一次系冷却材>
原子炉一次系5に存在する原子炉一次系冷却材70は、貴金属または貴金属イオン62を含む。
【0029】
原子炉一次系冷却材70に含まれる貴金属または貴金属イオン62としては、たとえば、Pt、Pd、Rh、Ru、OsおよびIrから選ばれる1種以上の金属またはそのイオンが挙げられる。
【0030】
原子炉一次系5に存在する原子炉一次系冷却材70に含まれる貴金属または貴金属イオン62は、通常、原子炉一次系5を構成する金属部材の防食のために過去に原子炉一次系冷却材70に注入されて金属部材の表面の酸化皮膜に取り込まれた貴金属が剥離したもの、原子炉一次系5を構成する金属部材の防食のために過去に原子炉一次系冷却材70に注入された貴金属担持光触媒の貴金属が剥離したもの等からなる。ここで、貴金属担持光触媒とは、光触媒粒子の表面に貴金属が担持されてなる粒子状の複合体である。
【0031】
原子炉一次系5に存在する原子炉一次系冷却材70の水質は、原子炉一次系冷却材70に水素を注入してない通常水質、または原子炉一次系冷却材70に水素を注入した水素注入水質のいずれであってもよい。
【0032】
原子炉一次系冷却材70への水素の注入としては、たとえば、図示しない給水系を流通する原子炉一次系冷却材70に水素を直接注入する方法、原子炉一次系冷却材70にメタノール等のアルコールを注入する方法が挙げられる。
【0033】
原子炉一次系冷却材70を水素注入水質とする場合、たとえば、原子炉一次系冷却材70に、水素を質量基準で、通常0.01〜0.5ppm、好ましくは0.2〜0.4ppm含まれるように注入する。
原子炉一次系冷却材70に、水素が質量基準で、通常0.01〜0.5ppm含まれると、原子炉一次系5を構成する金属部材の表面に貴金属担持光触媒65を付着させた場合に、金属部材の腐食電位が大きく低下し、金属部材の防食効果が高いため好ましい。
【0034】
(原子炉一次系冷却材採取部)
図2は、本発明の光触媒注入システムの構成および作用を説明する概略図である。
図2は、
図1に示される光触媒注入システム1において、紫外線照射槽13中に貯留される冷却材が、原子炉一次系5から採取された原子炉一次系冷却材70である場合を示す図である。
【0035】
図2に示されるように、原子炉一次系冷却材採取部10は、原子炉一次系5から貴金属または貴金属イオン62を含む原子炉一次系冷却材70を採取する部分である。
【0036】
原子炉一次系冷却材採取部10は、具体的には、原子炉一次系5から採取された原子炉一次系冷却材70を紫外線照射槽13に送液する原子炉一次系冷却材採取配管11(11a、11b)と、原子炉一次系冷却材採取配管11中を流通する原子炉一次系冷却材70の流量を制御するバルブ12と、原子炉一次系冷却材採取配管11から送液された、採取された原子炉一次系冷却材70を貯留する紫外線照射槽13と、紫外線照射槽13内に存在する、採取された原子炉一次系冷却材70等の冷却材を攪拌する攪拌器14とを備える。
【0037】
(光触媒添加部)
原子炉一次系冷却材採取配管11の途中には、採取された原子炉一次系冷却材70に光触媒を添加する光触媒添加部20が設けられる。具体的には、原子炉一次系冷却材採取配管11は、上流側の配管11aと下流側の配管11bとに分割されており、配管11aと配管11bとの間に光触媒添加部20が設けられる。
光触媒添加部20は、光触媒供給部25から供給された光触媒に、採取された原子炉一次系冷却材70が供給されて、光触媒添加部20内で光触媒が攪拌されることにより、光触媒と採取された原子炉一次系冷却材70とを混合可能な構造を有する手段である。
このため、光触媒添加部20内に光触媒が供給されるときは、配管11bから紫外線照射槽13に、光触媒を含む採取された原子炉一次系冷却材70(第1の混合液71)が供給され、一方、光触媒添加部20内に光触媒が供給されないときは、配管11bから紫外線照射槽13に、光触媒を含まない採取された原子炉一次系冷却材70がそのまま供給されるようになっている。
【0038】
光触媒添加部20から配管11bを介して排出された、光触媒を含む採取された原子炉一次系冷却材70(第1の混合液71)は、紫外線照射槽13に送液される。
第1の混合液71における、採取された原子炉一次系冷却材70と、光触媒との混合の割合は、紫外線照射槽13内で調整される。
【0039】
紫外線照射槽13は、紫外線照射槽13外に設けられた紫外線照射部30から照射された紫外線81を、紫外線照射槽13内に貯留された、第1の混合液71等の冷却材に照射することができるようになっている。
紫外線照射槽13外に設けられた紫外線照射部30から紫外線が照射されるため、紫外線照射槽13は、少なくとも一部が、紫外線81を透過する材質で形成されている。紫外線81を透過する材質としては、たとえば、紫外線透過ガラス、ポリカーボネート等が挙げられる。
攪拌器14としては、公知のものを用いることができる。
【0040】
<第1の混合液>
図3は、本発明の光触媒注入システムの構成および作用を説明する概略図である。
図3は、
図1に示される光触媒注入システム1において、紫外線照射槽13中に貯留される冷却材が、光触媒61を含む第1の混合液71である場合を示す図である。
ここで、第1の混合液71とは、採取された原子炉一次系冷却材70と光触媒61とを混合して調製された、光触媒61と、貴金属または貴金属イオン62とを含む液体の冷却材を意味する。
第1の混合液71に含まれる貴金属または貴金属イオン62は、原子炉一次系冷却材70および採取された原子炉一次系冷却材70に含まれる貴金属または貴金属イオン62と同じであるため、説明を省略する。
【0041】
図3に示されるように、光触媒添加部20は、原子炉一次系冷却材採取配管11から送液された、採取された原子炉一次系冷却材70と、光触媒供給配管26を介して光触媒供給部25から光触媒添加部20内に供給された光触媒61とを混合して、採取された原子炉一次系冷却材70に光触媒を添加する部分である。
【0042】
光触媒添加部20内に供給された光触媒61は、採取された原子炉一次系冷却材70の流れの勢いで攪拌されることにより、光触媒添加部20内で、混合される。採取された原子炉一次系冷却材70と、光触媒61との混合液は、配管11bを介して光触媒添加部20内から紫外線照射槽13に供給される。供給された混合液の混合の割合は、紫外線照射槽13内で調整される。これにより、紫外線照射槽13内で、光触媒61と貴金属または貴金属イオン62とを含む第1の混合液71が調製される。
【0043】
なお、
図1には、光触媒添加部20に加え、光触媒添加部20に光触媒を供給する設備である光触媒供給配管26および光触媒供給部25を備える例を示したが、本発明では、光触媒供給配管26および光触媒供給部25を備えない構成としてもよい。この場合は、人力等で光触媒添加部20内に光触媒61を供給する。
【0044】
また、光触媒添加部20は、
図1に示されるような、採取された原子炉一次系冷却材70と光触媒61とを光触媒添加部20内で混合させる手段とせずに、単に光触媒61を光触媒添加配管27を介して紫外線照射槽13に投下する手段としてもよい。
この場合、光触媒添加部20は、たとえば、
図5に示されるような構成(光触媒注入システム1A)となる。
図5は、本発明の光触媒注入システムの変形例の概略図である。
【0045】
光触媒添加部20がこのような構成である場合、紫外線照射槽13内の冷却材に投下された光触媒61は、紫外線照射槽13内に供えられた攪拌器14で攪拌93されることにより、紫外線照射槽13内で、光触媒61と貴金属または貴金属イオン62とを含む第1の混合液71が調製される。
【0046】
[光触媒]
第1の混合液71の調製に用いられる光触媒61とは、紫外線の照射により光励起反応を行うn型半導体である。また、紫外線とは、波長が10〜400nmの範囲内にある電磁波である。紫外線は、紫外線照射部30から照射される。
【0047】
光触媒61であるn型半導体としては、たとえば、酸化チタンTiO
2、酸化鉄Fe
2 O
3、酸化亜鉛ZnO、ZrO
2 、PbO、BaTiO
3 、Bi
2 O
3 、WO
3 、SrTiO
3、FeTiO
3、KTaO
3 、MnTiO
3 及びSnO
2 から選ばれた1種以上の化合物が挙げられる。
このうち、光触媒61であるn型半導体が、酸化チタンTiO
2、酸化鉄Fe
2 O
3および酸化亜鉛ZnOから選ばれる1種以上であると、光触媒反応の効率が高いことから、貴金属担持光触媒65を効率よく生成しやすいため好ましい。
【0048】
光触媒61は、通常、平均粒径が20nm以下の粉体である。
【0049】
第1の混合液71は、光触媒61を、通常10〜200mg/l、好ましくは50〜150mg/l、さらに好ましくは80〜120mg/l含む。
ここで、光触媒61の濃度とは、光触媒61が複数種類の光触媒からなる場合、すべての種類の光触媒61の濃度の合計値を意味する。
【0050】
(紫外線照射部)
図4は、本発明の光触媒注入システムの構成および作用を説明する概略図である。
図4は、
図1に示される光触媒注入システム1において、紫外線照射槽13中に貯留される冷却材が、貴金属担持光触媒65を含む第2の混合液72である場合を示す図である。
【0051】
図3および
図4に示されるように、紫外線照射部30は、光触媒61を含む第1の混合液71に紫外線81を照射することにより、水中で
図6に示すように光触媒61の表面に貴金属63が担持された貴金属担持光触媒65を生成し、貴金属担持光触媒65を含む第2の混合液72を調製する部分である。
【0052】
紫外線照射部30は、紫外線照射槽13外に設けられ、紫外線照射槽13内の混合液に向けて紫外線を照射する。紫外線照射部30としては、公知のものを用いることができる。
【0053】
なお、
図1に示される光触媒注入システム1では、紫外線照射部30が紫外線照射槽13の外部に設けられている態様を示した。しかし、本発明の光触媒注入システム1は、紫外線照射部30が紫外線照射槽13の内部に設けられていてもよい。紫外線照射部30が紫外線照射槽13の内部に設けられている場合は、紫外線照射槽13を紫外線81を透過しない材質で作製することができる。紫外線81を透過しない材質としては、たとえば、原子炉一次系5を構成する金属部材の材質と同様の、ステンレス鋼、ニッケル基金属等が挙げられる。
【0054】
<第2の混合液>
第2の混合液72とは、光触媒61と、貴金属または貴金属イオン62とを含む第1の混合液71に紫外線81を照射することにより生成された貴金属担持光触媒65を含む、液体の冷却材を意味する。
ここで貴金属担持光触媒65とは、第1の混合液71に紫外線81を照射した結果、第1の混合液71に含まれる貴金属または貴金属イオン62が貴金属63になり、光触媒61の表面に担持されることにより形成されたものである。
【0055】
貴金属63は、貴金属または貴金属イオン62と同じ元素からなる金属である。
貴金属63としては、たとえば、Pt、Pd、Rh、Ru、OsおよびIrから選ばれる1種以上の金属が挙げられる。
【0056】
図6は、光触媒および貴金属担持光触媒の粒子の模式的な断面図である。
具体的には、
図6(A)は光触媒61の粒子の模式的な断面図であり、
図6(B)は貴金属担持光触媒65の粒子の模式的な断面図である。
【0057】
図3に示された、光触媒61と貴金属イオン62とを含む第1の混合液71に、紫外線81が照射されると、
図3および
図6(A)に示される光触媒61の粒子の表面で
図3に示される貴金属イオン(M
2+)62が還元される。以下、貴金属イオン62が2価の陽イオン(M
2+)である場合を例にとり説明する。
【0058】
貴金属イオン(M
2+)62が還元されると、
図6(B)に示されるように光触媒61の粒子の表面に貴金属(M)63が担持されることにより、冷却材中で
図6(B)に示される断面構造の貴金属担持光触媒65が生成される。また、第1の混合液71がイオンでない金属の貴金属62を含む場合には、この貴金属62も光触媒61の粒子の表面に坦持されて貴金属(M)63となる。
【0059】
貴金属担持光触媒65の貴金属63の担持量は、光触媒61の100質量%に対して、通常0.001質量%〜10質量%、好ましくは0.01質量%〜1質量%、さらに好ましくは0.1質量%〜1質量%である。
【0060】
紫外線照射槽13内に貯留された状態の第2の混合液72の温度は特に限定されない。
【0061】
(貴金属担持光触媒注入部)
貴金属担持光触媒注入部40は、第2の混合液72を原子炉一次系5に注入する部分である。
【0062】
貴金属担持光触媒注入部40は、紫外線照射槽13内の第2の混合液72を原子炉一次系5に送液する貴金属担持光触媒注入配管41と、貴金属担持光触媒注入配管41内を流通する第2の混合液72の流量を制御するバルブ42と、貴金属担持光触媒注入配管41中の第2の混合液72を原子炉一次系5に注入する注入ポンプ43とを備える。
【0063】
第2の混合液72が貴金属担持光触媒注入部40から、原子炉一次系5を構成する金属部材に接液する原子炉一次系冷却材70に注入されると、第2の混合液72中の貴金属担持光触媒65が原子炉一次系冷却材70に注入される。原子炉一次系冷却材70に注入された貴金属担持光触媒65は、原子炉一次系5を構成する金属部材の表面に付着する。そして、金属部材の表面に付着した貴金属担持光触媒65に、チェレンコフ光等が照射されると、チェレンコフ光等に含まれる紫外線領域の光によって貴金属担持光触媒65の光触媒が光励起反応を生じ、金属部材の腐食電位が低下して、金属部材の耐食性が高くなる。
【0064】
光触媒注入システム1の作用の説明は、以下に示す本発明の光触媒注入方法の説明と同じである。以下に本発明の光触媒注入方法を説明するため、光触媒注入システム1の作用の説明を省略する。
【0065】
[光触媒注入方法]
本発明の光触媒注入方法は、原子炉一次系冷却材採取工程と、光触媒添加工程と、紫外線照射工程と、貴金属担持光触媒注入工程と、を有する。
本発明の光触媒注入方法は、たとえば、
図1に示した光触媒注入システム1を用いて実施される。
【0066】
(原子炉一次系冷却材採取工程)
原子炉一次系冷却材採取工程は、原子炉一次系5から、冷却材サンプリング配管6等により貴金属または貴金属イオン62を含む原子炉一次系冷却材70を採取する工程である。
【0067】
原子炉一次系冷却材採取工程は、原子炉の通常運転時、停止時、起動時等に行われる。なお、後述の光触媒添加工程、紫外線照射工程、および貴金属担持光触媒注入工程も、原子炉一次系冷却材採取工程と同様に、原子炉の通常運転時、停止時、起動時等に行われる。
【0068】
原子炉一次系冷却材採取工程について、
図2を参照して説明する。
原子炉一次系冷却材採取工程では、
図2に示されるように、原子炉一次系5から貴金属または貴金属イオン62を含む原子炉一次系冷却材70を採取する。採取された原子炉一次系冷却材70は、原子炉一次系冷却材採取配管11を流通し、紫外線照射槽13に送液される。
【0069】
原子炉一次系冷却材70の採取は、通常、断続的に行われる。
【0070】
原子炉一次系冷却材採取工程後の紫外線照射槽13中には、貴金属または貴金属イオン62を含む原子炉一次系冷却材70が貯留される。
【0071】
(光触媒添加工程)
光触媒添加工程は、採取された原子炉一次系冷却材70と光触媒61とを混合させる工程である。光触媒添加工程では、光触媒61と、貴金属または貴金属イオン62とを含む第1の混合液71が調製される。
光触媒添加工程について、
図3を参照して説明する。
【0072】
図3に示されるように、光触媒添加工程では、原子炉一次系冷却材採取配管11から送液され、採取された原子炉一次系冷却材70と、光触媒供給部25から光触媒供給配管26を介して矢印91の向きに供給された光触媒61とが、光触媒添加部20内で混合される。原子炉一次系冷却材70と光触媒61との混合液(第1の混合液71)は、光触媒添加部20から配管11bを介して矢印92の向きに紫外線照射槽13に送液される。紫外線照射槽13内の第1の混合液71は、原子炉一次系冷却材70と光触媒61との配合比率が所定の比率になるように調製される。
【0073】
(紫外線照射工程)
紫外線照射工程は、光触媒添加工程で得られた冷却材(第1の混合液71)に紫外線を照射することにより、冷却材中で光触媒61の表面に貴金属63が担持された貴金属担持光触媒65を生成させる工程である。紫外線照射工程では、
図4に示されるように、貴金属担持光触媒65を含む第2の混合液72が調製される。
【0074】
紫外線照射工程について、
図3および
図4を参照して説明する。
【0075】
紫外線照射工程では、
図3に示されるように、紫外線照射槽13中に貯留された第1の混合液71に紫外線照射部30から紫外線81を照射する。
【0076】
紫外線81の照射は、紫外線照射強度と照射時間とを制御して行うことが好ましい。
紫外線81の照射強度としては、通常0.01mW/cm
2以上20mW/cm
2以下、好ましくは0.01mW/cm
2以上1mW/cm
2以下、さらに好ましくは0.01mW/cm
2以上0.1mW/cm
2以下とする。紫外線81の照射は、一定の線量で照射し続けることが好ましい。
【0077】
紫外線81の照射の照射強度が20mW/cm
2を超えると、光触媒61への貴金属63の析出速度が20mW/cm
2の場合に比べて特に向上しなくなるため、経済的でない。
【0078】
紫外線81の照射時間は、紫外線照射強度により変わる。すなわち、紫外線81の照射強度が大きい場合は照射時間を短くし、紫外線81の照射強度が小さい場合は照射時間を長くする。
【0079】
紫外線81の照射の最中は、第1の混合液71を攪拌93し続けることが好ましい。紫外線81の照射の最中に第1の混合液71を攪拌し続けると、均一な組成の貴金属担持光触媒65を生成しやすい。
【0080】
紫外線照射工程は、紫外線照射槽13に貯留された一定量の第1の混合液71に対して第1の混合液71等の冷却材を添加せずに紫外線81を照射する、バッチ式の紫外線照射を行うことが好ましい。バッチ式の紫外線照射であると、紫外線照射槽13中で貴金属担持光触媒65を確実に生成することができる。
【0081】
紫外線照射工程を行うと、第1の混合液71から、貴金属担持光触媒65を含む第2の混合液72が調製される。
【0082】
紫外線照射工程で、光触媒61と、貴金属または貴金属イオン62とを含む第1の混合液71に紫外線81を照射することにより、貴金属担持光触媒65を含む第2の混合液72が形成されることについて、図面を参照して説明する。
【0083】
図7は、冷却材(水)中の光触媒および貴金属イオンの作用を説明する図である。
図7中、符号82は光触媒61の価電子帯、符号83は光触媒61の伝導帯をそれぞれ模式的に示したものである。
図7は、第1の混合液71中の光触媒61および貴金属イオン62の作用を説明するものである。
【0084】
図7において、価電子帯82および伝導帯83の
図7中の上下方向の高さは、電子のエネルギーの高さを示す。すなわち、
図7において、価電子帯82よりも上側の位置に示された伝導帯83は、電子のエネルギーが価電子帯82よりも高いことを示す。
【0085】
紫外線照射槽13に貯留された第1の混合液71中の光触媒61は、紫外線81が照射されない状態では、電子のエネルギーが低く、電子が価電子帯82に存在する。
これに対し、紫外線照射槽13内の光触媒61に紫外線81が照射されると、光触媒61で反応が生じる。具体的には、
図7に示されるように、光触媒61の価電子帯82において正孔h
+が生成し、正孔の移動が符号84の方向に生じるとともに、電子の励起86が生じ、価電子帯82の電子が伝導帯83に移動し、電子の移動が符号85の方向に生じる。この光触媒61での光励起反応は、光触媒61の近傍に貴金属イオン(M
2+)62が存在することによって効率よく進行する。
【0086】
一方、第1の混合液71を構成する冷却材中では、光触媒61の価電子帯82で生成された正孔h
+により下記式(1)の反応が生じ、H
+が生成される。
[化1]
H
2O+2h
+→2H
++1/2O
2 (1)
【0087】
また、第1の混合液71中に含まれる貴金属イオン(M
2+)62は、光触媒61の伝導帯83にある電子e
−により下記式(2)の反応が生じて還元され、貴金属(M)が生成される。
[化2]
2e
−+M
2+→M (2)
【0088】
式(2)の反応は、通常、第1の混合液71中の光触媒61の粒子の表面で生じる。このため、光触媒61の粒子の表面に貴金属(M)63が付着することにより、紫外線照射槽13の冷却材中で
図6(B)に示されるような貴金属担持光触媒65が生成される。
【0089】
すなわち、紫外線照射槽13内の第1の混合液71に紫外線81が照射されると、
図3および
図6(A)に示される光触媒61の粒子の表面で
図3に示される貴金属イオン(M
2+)62が還元される。このとき、
図6(B)に示されるように光触媒61の粒子の表面に貴金属(M)63が担持され、冷却材中で
図6(B)に示される断面構造の貴金属担持光触媒65が生成される。紫外線照射工程後の紫外線照射槽13内の冷却材は、貴金属担持光触媒65を含む第2の混合液72となる。
【0090】
貴金属担持光触媒65を含む第2の混合液72の調製後は、攪拌器14での攪拌93を適宜、停止する。なお、攪拌器14での攪拌は継続して行ってもよい。
【0091】
上記説明は貴金属イオン(M
2+)62の作用についての説明であるが、この貴金属イオン(M
2+)62が貴金属(M)63である場合は、紫外線照射工程の際に、第1の混合液71中の貴金属(M)63が光触媒61の表面に付着して貴金属(M)63となる。
【0092】
(貴金属担持光触媒注入工程)
貴金属担持光触媒注入工程は、紫外線照射工程で得られた冷却材(第2の混合液72)を原子炉一次系5に注入する工程である。
【0093】
貴金属担持光触媒注入工程について、
図4を参照して説明する。
図4に示されるように、紫外線照射工程後の紫外線照射槽13中には、貴金属担持光触媒65を含む第2の混合液72が貯留されている。
【0094】
貴金属担持光触媒注入工程では、紫外線照射槽13中に貯留されている第2の混合液72を、原子炉一次系5に注入する。
貴金属担持光触媒注入配管41内の第2の混合液72は、注入ポンプ43を用いて原子炉一次系5に注入される。
【0095】
上記のように紫外線照射槽13内に貯留された状態の第2の混合液72の温度は特に限定されない。
【0096】
しかし、第2の混合液72が貴金属担持光触媒注入部40を介して原子炉一次系5に注入されるときは、原子炉一次系5に注入する際の第2の混合液72の温度と、注入される原子炉一次系5に存在する原子炉一次系冷却材70の温度との差が小さいことが好ましい。
【0097】
原子炉一次系5に注入する際の第2の混合液72の温度と、注入される原子炉一次系5に存在する原子炉一次系冷却材70の温度との差が小さいと、原子炉一次系5に注入する際の第2の混合液72の注入速度の制御が容易になるため好ましい。
この理由は、以下のとおりである。
【0098】
第2の混合液72に含まれる貴金属担持光触媒65が原子炉一次系5の金属部材に付着する速度は、貴金属担持光触媒65を含む冷却材の温度の上昇に伴って、指数関数的に増加する。以下、貴金属担持光触媒65が原子炉一次系5の金属部材に付着する速度を、「貴金属担持光触媒65の付着速度」という。
【0099】
このため、原子炉一次系5に注入する際の第2の混合液72の温度、および原子炉一次系5に存在する原子炉一次系冷却材70の温度のいずれか一方の温度が高く、両者の温度の差が大きいときは、この温度変化により第2の混合液72の注入前後で貴金属担持光触媒65の付着速度に大きな変化が生じる。このため、原子炉一次系5の金属部材への貴金属担持光触媒65の付着分布にバラツキが生じやすい。
【0100】
たとえば、原子炉一次系5への第2の混合液72の注入部の近傍では金属部材への貴金属担持光触媒65の付着量が多くなり、一方で、原子炉一次系5への第2の混合液72の注入部から遠い部分では金属部材への貴金属担持光触媒65の付着量が少なくなりやすい。
【0101】
このため、原子炉一次系5に注入する際の第2の混合液72の温度、および原子炉一次系5に存在する原子炉一次系冷却材70の温度のいずれか一方の温度が高く、両者の温度の差が大きいときは、原子炉一次系5の金属部材への貴金属担持光触媒65の付着分布にバラツキが生じることを回避するために、通常、第2の混合液72の原子炉一次系5への注入速度を小さくする制御を行う。
【0102】
しかし、原子炉一次系5に注入する際の第2の混合液72の温度、および原子炉一次系5に存在する原子炉一次系冷却材70の温度のいずれか一方の温度が高く、両者の温度の差が大きいときは、高温の冷却材中で貴金属担持光触媒65の付着速度が非常に大きいことから、注入速度の変化幅に対する貴金属担持光触媒65の付着速度の変化幅も非常に大きい。このため、第2の混合液72の原子炉一次系5への注入速度を所望の注入速度に調整するには、微妙な調整が要求される。
【0103】
そこで、本発明では、原子炉一次系5に注入する際の第2の混合液72の温度と、原子炉一次系5に存在する原子炉一次系冷却材70の温度との差を小さくすることにより、第2の混合液72の原子炉一次系5への注入速度の調整を容易にしつつ、原子炉一次系5の金属部材への貴金属担持光触媒65の付着分布にバラツキが生じることを抑制している。
【0104】
また、本発明では、第2の混合液72(第1の混合液71への紫外線照射で得られた冷却材)を原子炉一次系5に注入する際の温度が、10℃以上288℃以下に制御される。
第2の混合液72を原子炉一次系5に注入する際の温度が、10℃以上288℃以下であると、第2の混合液72の原子炉一次系5への注入速度の調整を容易にしつつ、原子炉一次系5の金属部材への貴金属担持光触媒65の付着分布にバラツキが生じることを抑制しやすい。
【0105】
原子炉一次系5に注入された第2の混合液72は、原子炉一次系5に既に存在する原子炉一次系冷却材70と混合される。この原子炉一次系冷却材70と第2の混合液72との混合水(以下、混合冷却材という。)に含まれる貴金属担持光触媒65は、原子炉一次系5を構成する金属部材に接液し、金属部材の表面に付着する。
【0106】
そして、金属部材の表面に付着した貴金属担持光触媒65の光触媒は、紫外線が照射されると光励起反応を行い、金属部材の腐食電位を低下させ、金属部材の高い防食効果を発現する。
【0107】
ここで、金属部材の表面に付着した貴金属担持光触媒65に照射される紫外線としては、たとえば、炉心で発生するチェレンコフ光、原子炉一次系5内に設置した紫外線照射装置から照射される紫外線等が挙げられる。炉心で発生するチェレンコフ光は、通常、390nm程度の紫外線領域の波長を有する光を含む。このため、チェレンコフ光に含まれる紫外線の照射により、貴金属担持光触媒65が光励起反応を行い、金属部材の腐食電位を低下させ、金属部材の高い防食効果を発現させることができる。
【0108】
(光触媒注入システムおよび光触媒注入方法の効果)
本発明の光触媒注入システム1、およびこの光触媒注入システム1を主に用いて実施される光触媒注入方法によれば、原子炉一次系5から採取された原子炉一次系冷却材70を用いて、金属部材の腐食電位を大きく低下させる貴金属担持光触媒65を効率よく生成することができる。
【0109】
また、本発明の光触媒注入システム1、およびこの光触媒注入システム1を主に用いて実施される光触媒注入方法によれば、金属部材の腐食電位を大きく低下させる貴金属担持光触媒65を含む第2の混合液72を原子炉一次系5に注入することにより、原子炉一次系5を構成する金属部材の腐食電位が大きく低下するため、金属部材の高い防食効果を得ることができる。
【0110】
さらに、本発明の光触媒注入システム1、およびこの光触媒注入システム1を主に用いて実施される光触媒注入方法では、貴金属担持光触媒65を構成する貴金属63の原料として、原子炉一次系5の原子炉一次系冷却材70中に含まれる貴金属または貴金属イオン62を用いる。このため、本発明の光触媒注入システム1、およびこの光触媒注入システム1を主に用いて実施される光触媒注入方法によれば、貴金属担持光触媒65を構成する貴金属63の原料として、貴金属を原子力発電プラントの冷却材に新たに供給する必要がなく、原子力発電プラントの運転コストが小さくなる。
【0111】
このように本発明の光触媒注入方法および光触媒注入システムによれば、光励起反応の効率が高いことから金属部材の腐食電位が大きく低下するため防食効果が高く、運転コストが小さい。
【0112】
なお、上記実施形態の説明では、沸騰水型原子力発電プラント(BWR)について説明したが、本発明は、加圧水型原子力発電プラント(PWR)の原子炉一次系について適用することができる。加圧水型原子力発電プラントの原子炉一次系とは、加圧水型原子力発電プラントを構成する系統のうち、放射性物質を含む冷却材が流通する系統を意味する。
【実施例】
【0113】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【0114】
[実施例1]
(貴金属担持光触媒の生成)
図1に示す光触媒注入システム1と同じ構造の試験装置を用意し、原子炉一次系冷却材を模した水として、原子炉通常水質運転条件を満たしPtイオンを10ppm含む280℃の通常水質の水を用意した。以下、この高温の水を、原子炉一次系冷却材模擬水という。
次に、この原子炉一次系冷却材模擬水を20℃まで冷却して、原子炉一次系冷却材を模した水を得た。以下、この水を、原子炉一次系冷却材模擬水という。
さらに、この20℃の原子炉一次系冷却材模擬水に、酸化チタンTiO
2粒子を添加して、Ptイオン10ppmおよび酸化チタン粒子100mg/lを含む20℃の第1の混合液を調製した。さらに、紫外線照射工程として、第1の混合液に紫外線を照射して酸化チタンTiO
2粒子の表面にPtが担持されたPt担持酸化チタン粒子を含む第2の混合液を調製した。
【0115】
なお、紫外線照射工程では、Ptイオンおよび酸化チタン粒子を含む20℃の第1の混合液を攪拌しながら紫外線を照射した。紫外線の照射は、照射強度を1mW/cm
2、照射時間を1時間とした。
得られたPt担持酸化チタン粒子は、酸化チタン粒子100質量%に対してPtが0.1質量%担持されたものであった。
【0116】
(金属部材への貴金属担持光触媒の付着)
金属部材としてステンレス鋼SUS304からなるステンレス鋼試験片を用意し、このステンレス鋼試験片の表面に、得られたPt担持酸化チタン粒子を付着させて、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片を作製した。ステンレス鋼試験片へのPt担持酸化チタン粒子の付着量は、10μg/cm
2であった。
【0117】
(腐食電位の測定)
上記の280℃の原子炉一次系冷却材模擬水中に、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片を浸漬し、このPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片に紫外線を0.1mW/cm
2の強さで照射した状態で、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位を測定した。
また、腐食電位を測定したまま、原子炉一次系冷却材模擬水に徐々に水素を注入していき、水素注入水質の原子炉一次系冷却材模擬水中でのPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位を測定した。
【0118】
(腐食電位の測定結果)
図8に、Pt担持酸化チタン粒子の生成の際の原子炉一次系冷却材模擬水への水素注入量と、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位との関係を示す。
図8より、実施例1では、原子炉一次系冷却材模擬水への水素注入量が増加すると、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位が低下し、ステンレス鋼の耐食性が高くなることが分かった。
【0119】
[比較例1]
(貴金属担持光触媒の生成)
Pt担持酸化チタン粒子に代えて、実施例1のPt担持酸化チタン粒子の原料である酸化チタン粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片を作製し、腐食電位を測定した。
【0120】
(腐食電位の測定結果)
図8に、原子炉一次系冷却材模擬水への水素注入量と、酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位との関係を示す。
【0121】
(評価)
図8より、比較例1では、原子炉一次系冷却材模擬水への水素注入量が増加すると、酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位が低下し、ステンレス鋼の耐食性が高くなることが分かった。
【0122】
また、
図8より、実施例1の腐食電位の値は、比較例1の腐食電位よりも低いため、比較例1より実施例1のほうがステンレス鋼の耐食性が高いことが分かった。
【0123】
[実施例2〜6]
(貴金属担持光触媒の生成)
紫外線照射工程における紫外線の照射強度を0.01mW/cm
2(実施例2)、0.1mW/cm
2(実施例3)、1mW/cm
2(実施例4)、10mW/cm
2(実施例5)、および100mW/cm
2(実施例6)に変え、紫外線の照射時間を1時間とした以外は、実施例1と同様にして、Pt担持酸化チタン粒子(実施例2〜6)を生成した。なお、実施例3は、実施例1と同様の条件でPt担持酸化チタン粒子を生成したものである。
【0124】
(貴金属担持光触媒における光触媒の表面への貴金属の付着量の測定)
得られたPt担持酸化チタン粒子について、酸化チタン粒子(光触媒)に対するPt(貴金属)の担持量を調べた。Ptの担持量は、酸化チタン粒子100質量%に対するPtの担持量(質量%)として算出した。
図9に、Pt担持酸化チタン粒子の生成の際の紫外線照射の光強度と、Pt担持酸化チタン粒子における酸化チタンの表面へのPtの付着量との関係を示す。
【0125】
(金属部材への貴金属担持光触媒の付着)
得られたPt担持酸化チタン粒子を用いる以外は、実施例1と同様にして、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例2〜6)を作製した。
【0126】
(腐食電位の測定)
得られたPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片について、通常水質の280℃の原子炉一次系冷却材模擬水に水素を注入しない以外は、実施例1と同様にして、腐食電位を測定した。
図9に、Pt担持酸化チタン粒子の生成の際の紫外線照射の光強度と、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位との関係を示す。なお、
図9には、比較例1で得られた酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位も示す。
【0127】
(評価)
図9より、Pt担持酸化チタン粒子の生成の際の紫外線照射の光強度が増加するにつれて、Pt担持酸化チタン粒子における酸化チタンの表面へのPtの付着量が増加することが分かった。
また、
図9より、Pt担持酸化チタン粒子の生成の際の紫外線照射の光強度が増加するにつれて、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位が低下し、ステンレス鋼の耐食性が高くなることが分かった。
さらに、
図9より、実施例2〜6のPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片は、比較例1の酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片に比較して、腐食電位が低下し、ステンレス鋼の耐食性が高くなることが分かった。
【0128】
[実施例7〜10、比較例2]
(貴金属担持光触媒の生成)
紫外線照射工程における紫外線の照射強度を1mW/cm
2とし、かつ、紫外線の照射時間を5分(実施例7)、10分(実施例8)、15分(実施例9)、および20分(実施例10)に変えた以外は、実施例1と同様にして、Pt担持酸化チタン粒子(実施例7〜10)を生成した。
また、実施例7〜10に対する比較例して、紫外線照射工程における紫外線の照射時間を0分とした貴金属担持光触媒に相当する、比較例1の酸化チタン粒子を用意した。この酸化チタン粒子を、便宜上、比較例2の酸化チタン粒子とする。
【0129】
(貴金属担持光触媒における光触媒の表面への貴金属の付着量の測定)
得られたPt担持酸化チタン粒子(実施例7〜10)および酸化チタン粒子(比較例2)について、実施例2と同様にして、酸化チタン粒子(光触媒)に対するPt(貴金属)の担持量を調べた。
図10に、Pt担持酸化チタン粒子の生成の際の紫外線照射の照射時間と、Pt担持酸化チタン粒子における酸化チタンの表面へのPtの付着量との関係を示す。なお、比較例2で得られた酸化チタン粒子のPtの付着量は実際は0であるが、
図10に示す便宜上、比較例2のPtの付着量を
図10の最低値である0.001として記載した。
【0130】
(金属部材への貴金属担持光触媒の付着)
得られたPt担持酸化チタン粒子(実施例7〜10)、および酸化チタン粒子(比較例2)を用いる以外は、実施例1と同様にして、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例7〜10)および酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(比較例2)を作製した。
【0131】
(腐食電位の測定)
得られたPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例7〜10)、および、酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(比較例2)について、実施例2と同様にして、腐食電位を測定した。
図10に、Pt担持酸化チタン粒子の生成の際の紫外線照射の照射時間と、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位との関係を示す。
【0132】
(評価)
図10より、Pt担持酸化チタン粒子の生成の際の紫外線照射時間が増加するにつれて、Pt担持酸化チタン粒子における酸化チタンの表面へのPtの付着量が増加することが分かった。
また、
図10より、Pt担持酸化チタン粒子の生成の際の紫外線照射時間が増加するにつれて、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位が低下し、ステンレス鋼の耐食性が高くなることが分かった。
さらに、
図10より、実施例7〜10のPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片は、比較例2の酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片に比較して、腐食電位が低下し、ステンレス鋼の耐食性が高くなることが分かった。
【0133】
[実施例11]
(貴金属担持光触媒の生成)
実施例5と同様にして、Pt担持酸化チタン粒子を生成した。得られたPt担持酸化チタン粒子(実施例11−1)について、実施例2と同様にして、酸化チタン粒子(光触媒)に対するPt(貴金属)の担持量を調べた。
【0134】
(金属部材への貴金属担持光触媒の付着)
実施例5と同様にして、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片を作製した。
【0135】
(貴金属担持酸化チタンの貴金属担持の耐久性)
得られたPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片を、280℃の原子炉一次系冷却材模擬冷却材中に浸漬し、このPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片に紫外線を0.1mW/cm
2の強さで1時間照射し続けた以外は、実施例5と同様にして、腐食電位を測定する試験を行った。なお、本試験は、Pt担持酸化チタン粒子の貴金属担持の耐久性を調べるための試験であるため、腐食電位は測定しなかった。
【0136】
腐食電位を測定する試験の終了後のPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片から、Pt担持酸化チタン粒子の一部を採取した。採取したPt担持酸化チタン粒子を実施例11−2とする。実施例11−2のPt担持酸化チタン粒子について、実施例2と同様にして、酸化チタン粒子(光触媒)に対するPt(貴金属)の担持量を調べた。
図11に、腐食電位を測定する試験の前後のPt担持酸化チタン粒子(実施例11−1、実施例11−2)における酸化チタンの表面へのPtの付着量を示す。
【0137】
(評価)
図11より、ステンレス鋼試験片に付着したPt担持酸化チタン粒子は、280℃の原子炉一次系冷却材模擬水中に1時間晒されても、酸化チタンの表面からPtがほとんど剥離しないことが分かった。
【0138】
[実施例12〜14]
(貴金属担持光触媒の生成)
原子炉一次系冷却材模擬水として、原子炉通常水質運転条件を模した、Rhイオンを10ppm含む20℃の通常水質の原子炉一次系冷却材模擬水を用いた以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン粒子の表面にRhが担持されたRh担持酸化チタン粒子を生成した(実施例12)。
原子炉一次系冷却材模擬水として、原子炉通常水質運転条件を模した、Ruイオンを10ppm含む20℃の通常水質の原子炉一次系冷却材模擬水を用いた以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン粒子の表面にRuが担持されたRu担持酸化チタン粒子を生成した(実施例13)。
原子炉一次系冷却材模擬水として、原子炉通常水質運転条件を模した、Pdイオンを10ppm含む20℃の通常水質の原子炉一次系冷却材模擬水を用いた以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン粒子の表面にPdが担持されたPd担持酸化チタン粒子を生成した(実施例14)。
【0139】
(金属部材への貴金属担持光触媒の付着)
得られたRh担持酸化チタン粒子(実施例12)を用いる以外は、実施例1と同様にして、Rh担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例12)を作製した。ステンレス鋼試験片へのRh担持酸化チタン粒子の付着量は、10μg/cm
2であった。
得られたRu担持酸化チタン粒子(実施例13)を用いる以外は、実施例1と同様にして、Ru担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例13)を作製した。ステンレス鋼試験片へのRu担持酸化チタン粒子の付着量は、15μg/cm
2であった。
得られたPd担持酸化チタン粒子(実施例14)を用いる以外は、実施例1と同様にして、Pd担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例14)を作製した。ステンレス鋼試験片へのPd担持酸化チタン粒子の付着量は、10μg/cm
2であった。
【0140】
(腐食電位の測定)
得られたRh担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例12)について、原子炉通常水質運転条件を模した、Rhイオンを含む280℃の通常水質の原子炉一次系冷却材模擬水中で腐食電位を測定した以外は、実施例2と同様にして、腐食電位を測定した。
得られたRu担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例13)について、原子炉通常水質運転条件を模した、Ruイオンを含む280℃の通常水質の原子炉一次系冷却材模擬水中で腐食電位を測定した以外は、実施例2と同様にして、腐食電位を測定した。
得られたPd担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例14)について、原子炉通常水質運転条件を模した、Pdイオンを含む280℃の通常水質の原子炉一次系冷却材模擬水中で腐食電位を測定した以外は、実施例2と同様にして、腐食電位を測定した。
図12に、貴金属担持光触媒(実施例12〜14)を構成する貴金属の種類と、貴金属担持光触媒付着ステンレス鋼試験片の腐食電位との関係を示す。なお、
図12には、比較例2で得られた酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位も示す。
【0141】
(評価)
図12より、Rh担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例12)、Ru担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例13)、およびPd担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例14)についても、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片と同様にステンレス鋼の腐食電位が低下し、ステンレス鋼の耐食性が高くなることが分かった。
【0142】
また、Rh担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例12)、Ru担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例13)、およびPd担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例14)について、実施例2〜6と同様に紫外線照射工程における紫外線の照射強度を変えたり、実施例7〜10と同様に紫外線照射工程における紫外線の照射時間を変えたりする試験を行った。
この結果、Rh担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例12)、Ru担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例13)、およびPd担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例14)は、実施例2〜10のPt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片と同様の挙動を示した。
したがって、Rh担持酸化チタン粒子、Ru担持酸化チタン粒子、およびPd担持酸化チタン粒子は、Pt担持酸化チタン粒子と同様に、ステンレス鋼の防食に用いることができることが分かった。
【0143】
[実施例15および16]
(貴金属担持光触媒の生成)
光触媒として、酸化チタンTiO
2に代えて、酸化鉄Fe
2O
3(実施例15)または酸化亜鉛ZnO(実施例16)を用いた以外は、実施例1と同様にして、Pt担持酸化鉄粒子(実施例15)、およびPt担持酸化亜鉛粒子(実施例16)を生成した。
【0144】
(金属部材への貴金属担持光触媒の付着)
得られたPt担持酸化鉄粒子(実施例15)、またはPt担持酸化亜鉛粒子(実施例16)を用いる以外は、実施例1と同様にして、Pt担持酸化鉄粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例15)、およびPt担持酸化亜鉛粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例16)を作製した。
【0145】
(腐食電位の測定)
得られたPt担持酸化鉄粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例15)、およびPt担持酸化亜鉛粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例16)について、実施例2と同様にして、腐食電位を測定した。
図13に、貴金属担持光触媒を構成する光触媒の種類と、貴金属担持光触媒付着ステンレス鋼試験片の腐食電位との関係を示す。なお、
図13には、比較例2で得られた酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片の腐食電位も示す。
【0146】
(評価)
図13より、Pt担持酸化鉄粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例15)およびPt担持酸化亜鉛粒子付着ステンレス鋼試験片(実施例16)についても、Pt担持酸化チタン粒子付着ステンレス鋼試験片と同様にステンレス鋼の腐食電位が低下し、ステンレス鋼の耐食性が高くなることが分かった。
【0147】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。